関連審決 |
審判1977-11101 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成10行ケ42審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成20行ケ10251審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成11行ケ275審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成19行ケ10390審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成17行ケ10227審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 物品 / 形状 / 模様 / 新規性 / 頒布された刊行物 / 記載された意匠 / 類似する意匠 / 類似の意匠 / 意匠の類似 / 意匠の類否 / ありふれた部分 / 動的意匠 / 本意匠 / 登録意匠 / 類似範囲 / 類似性(類否判断) / 無効審判 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
事件 |
昭和
55年
(行ケ)
218号
|
---|---|
裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1985/04/17 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
一 原告は、「特許庁が昭和五五年六月一四日に同庁昭和五二年審判第一一一〇一号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。 二 被告は、主文同旨の判決を求めた。 |
|
原告主張の請求の原因
一 原告の意匠権と特許庁における手続の経緯 原告は、意匠にかかる物品を「手提袋」とし、昭和四三年七月二日登録出願、昭和四五年一一月三〇日設定登録にかかる登録第三二四六〇七号意匠(以下この登録にかかる意匠を「本件意匠」という。)の意匠権者であるが、被告が、昭和五二年八月一二日、特許庁に対し、本件意匠の登録無効の審判を請求したところ、特許庁は、これを同庁同年審判第一一一〇一号事件として審理した上、昭和五五年六月一四日、本件意匠の登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は、同年七月九日原告に送達された。 二 本件意匠の構成本件意匠の構成は、別紙図面(一)及びその説明に記載されたとおりのものである。 三 審決の理由の要点1 本件意匠の形象は、上辺を除いて周辺を縫着した方形状袋体の上方に紐状の提げ手を附してなる手提袋の中央部に、フアスナーを横幅一杯に水平に設け、該フアスナーより上半部を下半部へ収納して、下半部の上端がフアスナーによつて開閉自在となる横長の抱え鞄としても使用可能となしてなる基本的構成を持つもので、これの具体的態様を詳しくみると、手提袋の状態では、袋体はやや縦長の長方形状で、右側面上端が僅かに欠如され、中央やや高めの部位周側にフアスナーを開放して務歯が外方に向いた状態で、正、背面から見ると左右両側寄りが弧状を呈する態様に取り付けられてなり、提げ手は環状で、袋体上端添い内方に、正、背対向してほぼ等間隔水平に設けられた六個の紐通し環を通つて余裕を持つて取り付けられてなるものであり、抱え鞄の状態では、手提袋の袋体中央部に取り付けられたフアスナーが最上端となり、上面中央で掛合されてなるものである。 2 これに対し、昭和三七年一〇月六日発行の実用新案公報に記載された実用新案出願公告昭三七ー二七〇六九号のハンドバツクの意匠(以下「引用意匠」という。)の形象は、上辺を除いて周辺を縫着した方形状袋体の上方に紐状の提げ手を附してなる手提袋の中央部に、フアスナーを横幅一杯に水平に設け、該フアスナーより上半部を下半部に収納して、下半部の上端がフアスナーによつて開閉自在となる横長の抱え鞄としても使用可能となしてなる基本的構成を持つもので、これの具体的態様を詳しくみると、手提袋の状態では、袋体はやや下方が広がつた正方形に近い台型状で、下辺両側が弧状を呈し、正面中央にフアスナーを掛合した状態で、 背面中央にはフアスナーを開放した状態のストリンガーが務歯を上向きでそれぞれ取り付けられてなり、提げ手は、逆U字状でその先端は袋体上端内方の両側寄りに、正、背対向して二本取り付けられてなり、抱え鞄の状態では、手提袋の正面中央部に取り付けられた下側のストリンガーと背面のストリンガーが最上端となり、 上面中央で掛合されてなるものである。(別紙図面(二)参照)3 そこで両意匠を比較検討するに、両者は物品が同一であり、その形象の基本構成も同一である。ただ詳しくみた場合、袋本体の態様及びフアスナーの取り付け態様に差異があり、提げ手の態様にも差異があるものの、抱え鞄とした状態では上端両側寄りの態様を除いて共通するものである。しかしながら同一であるとした基本構成は、この種物品においては顕著な特徴であつて、創作の主体もこの構成にあり、かつ、最も需要者の注意を喚起して形象を識別する主要素をなすものである。 これに反し、フアスナーの取り付け態様における差異は、手提袋の状態時に正面においてフアスナーが掛合することが可能の状態か否かの差異であるが、両意匠とも近似した位置に、水平に取り付けられていることもあり、単に袋体の中央部にフアスナーが取り付けられているという印象が強く、フアスナーの務歯によつて形成されるコの字状凹凸模様が共通することもあつて、その差異が全体に与える影響は微弱であるという他なく、提げ手の態様における差異も、袋物の提げ手には従来より多くの異なる態様がみられ、両意匠に用いられた二つの態様は、共に極めて普遍化した態様のそれであり、特徴として看者に印象づけられるものではなく、さらに、 両者が共に紐という可変性のある材料で形成されているため、引用意匠のそれは袋体の内方へ押し入れが可能であり、逆に本件意匠のそれは中央部へ突出させることも可能であるという使用態様を考慮するとき、その差異は極めて微弱であるという他はなく、この点が全体の類否判断にさして影響を与えないものであることは、本件意匠の類似意匠として登録された類似意匠群からも明らかである。その他にみられる差異にしても、いずれも限られた部位における部分的な差異であつて、全体の類否判断に与えるところは極めて微弱であつて、結局これら両者の差異点の相乗効果を考慮しても、前記した形象識別の主要素の同一及び他にもみられる共通点からくる類似の印象を破る程のものではなく、総合的に考察する場合両意匠は類似するものであることを免れない。 したがつて、本件意匠は、その登録出願前に頒布された刊行物に記載された意匠に類似する意匠であつて、意匠法3条1項3号の規定に違反して登録されたものである。 四 審決を取り消すべき事由 審決は、後記のとおり、本件意匠及び引用意匠の構成についての認定を誤り、かつ、本件意匠と引用意匠との対比判断を誤つたため、本件意匠が引用意匠に類似するとして、その登録を無効とすべきであると誤断したものであるから、違法としてこれを取り消さなければならない。 1 本件意匠及び引用意匠の構成について(一) 本件意匠は、上辺を除いて周辺を縫着した正、背面やや縦長の長方形袋体の上部内側部に水平状に紐体を装着してなる手提袋の中央部に、フアスナーを分離した一片の状態で、横方向袋体全周に亘つて設けかつ該フアスナーの一片はほぼ水平外側方に鍔状に拡開して形成した概略形態からなり、該フアスナーより上半部を下半部へ収納して、下半部の上端がフアスナーによつて開閉自在となる横長の抱え鞄としても使用可能となしてなる使用態様を持つもので、この各部の形態をみると、手提袋の状態では、袋体の右側面上端が僅かに欠如され、中央やや高めの部位周側に分離したフアスナーの一片を開放して務歯が外方に向いた拡開状態で、正、 背面から見ると、中央部が水平で左右両側寄りが弧状を呈し、左右両側面から見ると、ほぼV字状に集束一体となつた態様に取り付けられてなり、前記務歯は非常に細かくフアスナーの一片の拡開態様の方が目立つており、提げ手は環状で、袋体上端添い内方に、正、背対向して右端部、中央やや右寄り部及び左方部とほぼ等間隔水平に設けられた六個の紐通し環を通つて余裕を持つて取り付けられ、その提げ手の右端部は右側方に延出してなるものであり、抱え鞄の状態では手提袋の袋体中央部に取り付けられたフアスナーが最上端となり、上面中央で掛合され、この抱え鞄は、正、背面から見ると、横長の長方形の上面中央部が水平で、左右両側端部が弧状を呈した形状で、この形状の外側に沿い上面から左右両側面に垂れ下がるようにフアスナーが配設されてなるものである。 (二) 引用意匠は、上辺を除いて周辺を縫着した正、背面台形状袋体の上方に紐状の提げ手を逆U字状に附してなる手提袋の正面中央部に掛合した状態のフアスナーを正面の横幅ほぼ一杯近くまで水平に設け、背面中央部にフアスナーの分離した一片を、背面の横幅ほぼ一杯の感じに設けた概略形態からなり、該フアスナーより上半部を下半部へ収納して、下半部の上端がフアスナーによつて開閉自在となる使用態様を持つもので、この各部の形態をみると、手提袋の状態では、袋体はやや下方が広がつた正方形に近い台型状の下辺両側が弧状を呈し、正面中央には掛合した状態のフアスナーが袋体の面と同一平面を形成するように取り付けられ、このフアスナーの上下にはそれぞれ2条の破線模様が形成され、背面中央にはフアスナーの分離した一片が袋体の面と同一平面を形成する感じに取り付けられ、この掛合フアスナーは物入れ口となつており、このフアスナーの一片の少なくとも下側には2条の破線模様が形成され、該フアスナーの一片の上方は表わされておらず不明となつており、前記フアスナーの務歯はすべて非常に荒いコの字状凹凸模様となつており、提げ手は、逆U字状でその先端は袋体上端内方の両側寄りに、正、背対向して二本取り付けられてなり、抱え鞄の状態では、手提袋の正面中央部に取り付けられた下側のフアスナーの分離した一片と背面のフアスナーの分離した一片が最上端となり、上面中央で掛合され、この抱え鞄は横長の台型の下辺両側が弧状となつた形状で、この台型の水平な上辺の内側に完全に納つた態様にフアスナーが配設されてなるものである。 (右(一)及び(二)の傍線部分は、前記審決理由の要点1及び2の傍線部分を訂正したもの、または、右1及び2の記載に付加したものである。)(三) 以上により、本件意匠と引用意匠の構成に関する前記審決の認定の誤りは明白である。 2 本件意匠と引用意匠との対比判断の誤りについて審決における本件意匠と引用意匠との類否判断には、後記のとおり、重大な誤りがある。 (一) まず、両意匠の基本構成の捉え方に誤りがある。 意匠の把握は、基本的には視覚による形態の把握によつてなされなければならないものであるところ、両意匠の袋体の形態、提げ手の形態及びフアスナーの形態には、全体としてみたとしても、右1の(一)及び(二)において概略形態として述べたところから明らかなように明確な視覚認識上の差異があるにもかかわらず、審決は、敢えて袋体の形態を「方形状」として、提げ手の形態を「袋体の上方に紐状の提げ手を付し」とし、フアスナーの形態を「手提袋の中央部にフアスナーを横幅一杯に水平に設け」として抽象化してしまつている。このように抽象化してしまつては、概念的構成を推定することはできても、視覚的形態やその骨格を特定して想起することができなくなつてしまい、意匠の構成を正確かつ客観的に認定したとは到底いうことができないのである。 このような抽象化された概念的構成を、意匠としてこの種物品における顕著な特徴であり、創作の主体であり、最も需要者に注意を喚起して形象を識別する主要素をなすものであると決めつけるのは、意匠の捉え方として誤りがあり、失当である。 (二) つぎに、フアスナーに対する判断に誤りがある。 審決は、本件意匠のフアスナーについては、「袋体の中央やや高めの部位周側にフアスナーを開放して務歯が外方に向いた状態で正、背面から見ると左右両側寄りが弧状を呈する態様に取り付けられてなり」と認定し、また、引用意匠については、「袋体の正面中央にフアスナーを掛合した状態で、背面中央にはフアスナーを開放した状態のストリンガーが務歯を上向きでそれぞれ取り付けられてなり」と認定しておきながら、いざ両者の差異の全体に対する影響を検討する段になると、 「フアスナーの取り付け態様における差異は、手提袋の使用時に正面においてフアスナーが掛合することが可能の状態か否かの差異であるが」として、両者の差異を飛躍的に限定してしまい、この限定した差異を根拠として、この差異では「両意匠とも近似した位置に、水平に取り付けられていることもあり、単に袋体の中央部にフアスナーが取り付けられているという印象が強く」と決めつけ、しかも、認定もしていない「フアスナーの務歯によつて形成されるコの字状凹凸模様が共通すること」を付け加えて、フアスナーの取り付け模様の差異が「全体に与える影響は微弱であるという他なく」、結論として両意匠の形象の基本構成の同一からくる類似の印象を破る程のものではない、としている。これでは、本件意匠と引用意匠の当初の認定における差異が、一方的独断的な前記限定によつて全く没却されてしまつた結果となつており、したがつて、審決が自ら取り上げ認定したフアスナーの取り付け態様における差異についての判断を審決自ら放棄ないし変更することによつて結論を導き出したものというほかなく、このような審決の判断の誤りは明白である。 (三) 第三に、提げ手に対する判断に誤りがある。 両意匠の提げ手の態様について、審決は、「袋物の提げ手には従来より多くの異なる態様がみられ、両意匠に用いられた二つの態様は、共に極めて普遍化した態様のそれであり、特徴として看者に印象づけられるものではない」としている。このように説示しながら、両意匠の提げ手の態様を「上方に紐状の提げ手を附し」と共通化して、基本構成の一とし、この共通性を「顕著な特徴」であつて、「創作の主体」であり、「需要者が注視して形象を識別する主要素」である、とした判断には矛盾があり、誤りである。 (四) さらに、提げ手に対する使用態様の捉え方に誤りがある。 審決は、両意匠の提げ手を、「共に紐という可変性のある材料で形成されているため、引用意匠のそれは袋体の内方へ押し入れが可能であり、逆に本件意匠のそれは中央部へ突出させることも可能であるという使用態様を考慮するとき、その差異は極めて微弱である」としているが、引用意匠の提げ手は、本来、吊り下げ用の提げ手として、袋体上端から上方に向つて逆U字状に装着された形態のものであるから、意匠としてはこの常態を捉えるべきであつて、可変性があつて内方へ押し入れが可能だから、逆U字状の形態は考慮する程のものではないというような本来の形態を無視した捉え方をすべきではない。また、本件意匠の提げ手は、袋体上部内側の右端部、中央部(やや右寄り)、左方部に配設された六個の紐通し環を通つて右側方に延出していて、本来、提げ手として右側方に絞るように引いて使用するように形成された形態のものであるから、意匠としてはこの常態を捉えるべきであつて、隣接紐通し環の間から無理に上方へ引つ張り出したことによつて、片寄つた位置に現れた紐の状態を不自然なかたちに想定し、このようなことが可能だから本来の形態は考慮する程のものではないというような捉え方をするのは、意匠の見方として妥当でない。 右のように、審決が、表示され、具備された本来の形態と故意的な変形とを一括することによつて両意匠を共通化させて基本形態の一とし、これを顕著な特徴、創作の主体、需要者が注視して形象を識別する主要素、と結論づけているのは、誤りである。 そして、本件意匠と引用意匠の主たる相違を挙げれば、次のとおりである。 (一′) 本件意匠は、袋体がやや縦長の長方形であつて、全体にシヤープな簡潔感を与えるものであるのに対し、引用意匠は、袋体がやや下方広がりの台型で、下辺両隅部を明瞭な丸形とした形態であつて、手提袋という比較的単純な形態の物品においては、両者の形態は一見して明確に相違し、引用意匠からは、本件意匠の外観から看取される前記のような視覚印象は生じない。 (二′) 本件意匠は、袋体の上部内側に紐通し環を配してここに水平状に紐体を装着し、紐体は側方に引き出して提げ手となるもので、例えば、重量物を収容したときは、信玄袋のように上部をすぼめた形となり、紐を引き出さない状態では、右端部を除く紐全体を露出せず、長方形の袋形をすつきりと表わすものとなつているのに対し、引用意匠は、袋体の上方に延びた逆U字状の吊下げ式提げ手全体を露出して配したものであつて、両者の形態は一見して明確に相違し、本件意匠から看取される視覚印象と引用意匠から看取されるものとは相違する。 (三′) 本件意匠は、袋体の中央部に、フアスナーを分離した一片の状態で、袋体の全周に亘つて設け、両側端部は、正、背面からみて円弧状に、かつ、側面からみてほぼV字状集束形に形成し、特に、正、背面のフアスナーを分離した一片は、 いずれもほぼ水平外側方に鍔状に拡開した形態として配設され、その態様は、左右側面図にも顕著に示されていて、シヤープで簡潔な袋体の中央部に強く訴える異なつた視覚印象のものとなつている。 これに対し、引用意匠は、袋体の正面内中央に掛合した状態のフアスナーを、袋体の面とつら(面)一となるように形成し、このフアスナー部は物入れの口部としての外観を呈しており、背面中央には、フアスナーの分離した一片を袋体の面に沿うように単一な平坦状に取り付け、これらフアスナーは、本件意匠のように全周を周回してはいない形態で、これらの相違は、袋体の中央にあつて一見して顕著に看取されるものであり、かつ、明確なものであり、本件意匠の特徴とする視覚印象を引用意匠から看取することはできない。 (四′) フアスナーは、また、本件意匠が務歯の非常に細かいもの(コイルフアスナーと称するもので、コイル状のエレメントで形成されていて、目立たないフアスナーとして特に開発されているもの)として表わしてあるのに対し、引用意匠は、非常に荒いコの字状凹凸模様の務歯が顕著に表われたものとして示されており、しかも、引用意匠は、正面フアスナーの上下にそれぞれ2条の、背面フアスナーの下に2条の破線模様を形成したものであり、これらの相違は、前記(三)の相違を一層強調するものとなつている。 (五′) 本件意匠は、抱え鞄を、横長の長方形で、その左右両上端部が弧状となる形態とし、上端に配設したフアスナーが、この左右両上端部の弧状に沿つて垂下するような態様に表わされたのに対し、引用意匠は、横長の台型で、その下辺両側が弧状となり、フアスナーは水平な上端に完全に納まつた抱え鞄の形態としてあるもので、両者の形態は、一見して明確に相違し、その視覚印象も相違している。 (六′) 本件意匠と引用意匠とは、手提袋を、中央部のフアスナーにより上半部を下半部に収納し、下半部の上端がフアスナーによつて開閉自在となる横長の抱え鞄ともなしうる形態において共通性を有するけれども、このような形態は、何も両意匠にのみ共通する独自のものではないのであるから、これのみが他の形態を圧倒する視覚上の要部と断定することはできないのみならず、かえって、手提袋及び抱え鞄ともに前記(一′)ないし(五′)のように相違している形態こそが、看者の視覚に強く訴及するものとなつている。 以上を総合し、両意匠を全体として対比するとき、本件意匠とは本来非類似であるにもかかわらず、本件意匠が引用意匠と類似であるとしてその登録を無効とした審決の誤りは明白である。 3 本意匠の登録無効と類似意匠との関係について 類似意匠は本意匠の類似範囲を画する際の資料であつても、本意匠の登録無効を争う本件においては、あくまで本意匠と対比公知意匠との比較によつて無効か否かが決せられるべきものであり、類似意匠の存在をその判断基準とし、無効判断の拠り所とすべきものではない。なぜならば、若し、仮に類似意匠の登録の設定がある場合に、この類似意匠を根拠として本意匠の類似範囲を確定し、その上で本意匠の有効無効を判断すべきものとするならば、本来、本意匠Aには類似しないと判断されるべきであつた非類似の意匠Bが、本意匠Aの類似意匠として過誤登録されたことにより、存在しなかつた筈の無効原因(公知意匠との類似)が事後的に生じてしまう結果となり、このことは、後の出願にかかる意匠Bが類似意匠となるか、非類似の意匠として判断されるかの行政処分の一事によつて、先の登録意匠Aの運命が左右されてしまうことを意味することになり、法の安定衡平上到底許容しえないところである。 また、登録類似意匠とその本意匠である本件意匠とは無効審判事件としても別個の事件として争われるべきものであつて、本件意匠と引用意匠との類否の問題と本件意匠と登録類似意匠との類否の問題とは、法律上全く別の問題であり、また、意匠法10条1項違反の登録に対する訂正登録手段のない現意匠法においては、本件意匠と引用意匠との類否判断の論拠を対比意匠ではない登録類似意匠群の関連のみに求めるべきではなく、該判断は登録類似意匠群に拘束されるべきではないのである。 |
|
請求の原因に対する被告の認否及び主張
一 原告主張の請求の原因一ないし三の事実は認める。 二 審決を取り消すべきものとする同四の主張は争う。原告主張の審決取消事由は、後記のとおり、いずれも理由がなく、審決にはこれを取り消すべき違法の点はない。 1 本件意匠の権利の内容の主要点について 本件意匠には、これを本意匠としてその類似一号から類似二八号に至る二八個の類似意匠が登録されている。ところで、意匠法10条1項には、「意匠権者は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠について類似意匠の意匠登録を受けることができる」と規定されているのであるから、本意匠と類似意匠との間には相違点もあるが、それを圧して大きく評価されるべき共通点があるとみられた結果、類似意匠はその登録をされるものである。したがつて、本件意匠と類似意匠を比較検討すると、これら各意匠のどこが共通性を有するか、また、相違点を圧して大きく評価されたところはどこであるのかが判る筈である。そして、この大きく評価された共通点こそは本件意匠の特徴点でもあり、それを共通に有することが各類似意匠を類似意匠として登録させた重要な理由でもあるのであるから、本件意匠において大きく評価された共通点を共通に備えており、かつ、小さく評価された相違点程度の相違個所をも備えている他の意匠があれば、その意匠は本件意匠に類似するものであるということができる筈である。 そこで、本件意匠とその二八個の登録類似意匠とを比較してその共通点と相違点とを検討すると、次のことが明らかになる。 (一) 本件意匠とその各登録類似意匠の共通点とされる個所のうち、 a 最大の主要点は、袋体の正、背面の中央やや上に各一本のストリンガー(務歯とそれが植えつけられている芯紐及びテープを含めたもの。乙第四一、四二号証参照)が少なくともその中央部が水平な状態で設けられ、上半分を下半分に収納して抱え鞄とすることができる動的意匠の手提袋であることであり、 b 袋本体が正方形に近い長方形であること及び提げ手があることも(第二義的な)共通点であつて、これらを共通に備えている限り、次に掲げるような大きく評価されない相違があつても、類似意匠として登録されている。 (二) 相違点ではあるが、次のものは、類否判断の上で大きくは評価されていない。 @ ストリンガーの左右両側寄りの湾曲が上向きであるか下向きであるか、又は、 湾曲がなくて一直線状であるか。 A 袋体の正面に蓋つきポケツトがあるかどうか、又は、フアスナーつきのポケツトが縦若しくは横向きについているかどうか(フアスナーつきの横ポケツトがあるということは、主たるストリンガーの他にもう一つの掛合したフアスナーが並んでいることになる。)。 B 引手がスライダーの表側と裏側についていて、袋体の上半分を下半分に収納できるだけでなく、下半分を上半分に収納できるタイプの動的意匠であるかどうか。 C ストリンガーの設けられている位置が袋体の中央やや上でなく、底部から約三・六分の一という低いところにあるかどうか。 D フアスナーの取り付け方が凸状になつていたり、袋体の面と同一の平面となつていたり、凹状になつていたりするかどうか。 (三) しかして、本件意匠と引用意匠とを対比すれば、両意匠は、前記(一)のa及びbの点で共通であり、両意匠の相違する点は、前記(二)の@ないしDに記載されたところと同様のものであつて、類否判断の上で大きく評価されるべきものではないことが明らかであるから、本件意匠と引用意匠とを類似とした審決の判断に誤りはない。 2 原告主張の各相違点について(一) 正、背面の外形の相違の主張(請求の原因四の2の(一))に対して 本件意匠はやや縦長の長方形であるがほぼ完全な四角の印象を与えるものであり、引用意匠は台型状であるが正方形に近いものであるので、感覚的には非常に近い形である。つぎに、手提袋という物品については、正方形のものとか、やや縦長長方形のものとか、正方形に近い台型のものとかという形は、ともに在来から多く用いられていて、意匠の類似判断の上でいわゆる「ありふれた部分」であり、意匠の類否判断において、「ありふれた部分」は大きなウエイトを置いて判断されるべきところではないのであつて、本件意匠が「完全な四角の印象を与えるやや縦長の長方形」であるのに対して、引用意匠が「正方形に近い台型状」であつても、看者にそれ程別異の美感を与えるものではなく、現に、原告は、過去において台型状のものを本件意匠の侵害であると主張しているのであるから、原告の右主張は失当である。 (二) フアスナーの態様の相違に関する主張(請求の原因四の2の(三))に対して(1) 原告は、フアスナーの形状ないし配設態様に関し、本件意匠と引用意匠の相違は顕著かつ明確である旨主張する。 しかし、本件意匠には「分離しないフアスナー」が用いられ、引用意匠には「分離できるフアスナー」が用いられているのであつて、それから生ずる差異すなわち本件意匠では両側面でフアスナーの一片が集束していてフアスナーの一片が袋体をぐるり一周したように見えるのに対して、引用意匠では箱が設けられている一側においてフアスナーが切れているように見えるが、引用意匠においても上半分を下半分に収納して抱え鞄とした場合には分離できるフアスナーも掛合されてしまうので、抱え鞄の上辺をぐるりと一周した状態になり、その場合には差がなくなるのである。しかも、本件意匠に現れているようなフアスナーの使用は、本件意匠の登録出願前から使用され広告にも出され登録出願前に頒布された刊行物に記載されている(乙第三四ないし第三六号証及び乙第三七号証の一、二参照)のであり、新規性はなかつたのである。したがつて、原告が相違点として主張する両側面でストリンガーが連続しているか否かの点も、前記(二)の@ないしD記載の点と同様、類否を左右するような大きな評価が与えられる点ではないのである。また、本件意匠では袋体の正、背面にストリンガーの一片のみが配されているのに対して、引用意匠では正面側に掛合したフアスナーが設けられ背面には一本のストリンガーのみが配されているという点も、本件意匠の類似三号において中央の主たるストリンガーの下に少し離れてそれと平行にポケツト用のフアスナーが設けられていても類否を左右するほどの大きな評価を与えていないことからみれば、引用意匠と本件意匠との右の点における差異も類否に影響する程の評価は与えられるべきではないのである。 以上のとおりであるから、審決が、「フアスナーの取付態様における差異は、手提袋の状態時に正面においてフアスナーが掛合することが可能の状態か否かの差異である」とした点に、原告主張(請求の原因四の2の(二))のような誤りはない。 (2) 原告は、物入れの有無について、引用意匠の正面中央に掛合した状態のフアスナーが物入れの口部としての外観を呈している点が本件意匠との顕著な差異である旨主張しているが、この主張の失当であることは、本件意匠とその類似二号、 類似三号又は類似五号とを比較すれば明らかである。すなわち、右類似二号にはその中央部に横幅一杯の大きな蓋つき物入れが設けられており、引用意匠の物入れが外観上は全く目立たないのに比べて、類似二号の物入れは蓋までついているので大変に目立つものであるにもかかわらず、この程度のものがついていても類似二号として登録されているのである。次に、右類似三号には、その正面の中央やや下にフアスナーによつて開閉する横長物入れが水平に横幅一杯近くもある大きさで設けられている。さらに、右類似五号には、下半分の正面図の左方にフアスナーによつて開閉される物入れが、縦に設けられている。本件意匠の主たるフアスナーが横に設けられているのに、それと直角にこの物入れのフアスナーは縦に設けられているのであつて、意匠的には相当に目立つ物入れであるといわなければならない。しかも、右類似三号と類似五号の物入れは、その平面図、底面図、左側面図及び右側面図に見られるとおりふくれ上がつているのである。 以上のとおり、顕著に目立つ物入れがあつてもなお類似意匠として登録されているのである。これに比べれば、引用意匠の物入れは、構造上はともかくとして、意匠上ではあまり目立つものとはいえないのであつて、この物入れの有無は、類否判断を左右するほどのウエイトを持つものではない。 (3) 原告は、フアスナーの務歯により明瞭な凹凸模様が形成されるかどうかの点等に関しても、両意匠の相違が強調される旨主張するが、この主張もまた採用できないものである。すなわち、本件意匠の登録出願の願書原本の添付図面を見れば、本件意匠は、決して「非常に細かいもの」と特に主張する程のものではなく、 引用意匠の務歯とそれ程の相違がある訳ではない。また、本件意匠の類似二号、類似三号、類似四号及び類似五号では、務歯は引用意匠のそれよりも大きく描かれており、同類似二二号、類似二三号、類似二四号、類似二五号、類似二六号及び類似二七号では、さらに粗大かつ連続ロ字状に描かれているのにもかかわらず、類似意匠として登録されているところをみると、務歯の描き方の大小すなわち務歯の表現形態が類否の判断に影響を与える程の大きな要素となつているものでないことが明らかである。破線模様については、これは縫い目であつて、引用意匠には務歯の上下にこれがあり、本件意匠の務歯の上下にはこれがないが、フアスナーが縫いつけられている限り実際には必ず存在するものでもあり、本件意匠の類似七号、類似一二号、類似一三号、類似一四号、類似一五号、類似一六号、類似一七号及び類似一八号には、1条だけであるが、それぞれの務歯の上又は下に描かれているのに類似意匠として登録されているのであるから、この破線模様の有無も意匠の類否に影響を与える程の大きな要素ではないのである。 |
|
証拠関係(省略)
理 由一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(原告の意匠権と特許庁における手続の経緯、本件意匠の構成及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。 二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。 1 本件意匠及び引用意匠の各構成(一) 本件意匠の構成を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙図面(一)及びその説明によれば、本件意匠は、上辺を除いて周辺を縫着した方形状袋体の上方に紐状の提げ手を附してなる手提袋の中央部に、フアスナーを分離した一片の状態で、横方向袋体全周に亘つて設け、該フアスナーより上半部を下半部へ収納して、下半部の上端がフアスナーによつて開閉自在となる横長の抱え鞄としても使用可能となしてなる概略の構成を持つもので、その各部の具体的構成を詳しくみると、手提袋の状態では、袋体はやや縦長の長方形で、右側面上端が僅かに欠如され、中央やや高めの部位周側に分離したフアスナーの一片を、開放して務歯がほぼ水平外側方に鍔状に拡開した状態で、正、背面から見ると、中央部が水平で左右両側寄りが弧状を呈し、左右両側面から見ると、ほぼV字状に集束一体となつた態様に取り付けられてなり、提げ手は環状で、袋体上端添い内方に、正、背対向して右端部、中央やや右寄り部及び左方部とほぼ等間隔水平に設けられた六個の紐通し環を通つて余裕を持つて取り付けられ、その提げ手の右端部は右側方に延出してなるものであり、抱え鞄の状態では、手提袋の袋体中央部に取り付けられたフアスナーが最上端となり、上面中央で掛合され、この抱え鞄は、正、背面から見ると、 横長の長方形の上面中央部が水平で、左右両側端部が弧状を呈した形状で、この形状の外側に沿い上面から左右両側面に垂れ下がるようにフアスナーが配設されてなるものということができる。 (二) これに対し、成立に争いのない甲第四号証と対比して引用意匠の構成を示すものと認められる別紙図面(二)によれば、引用意匠は、上辺を除いて周辺を縫着したほぼ方形袋体の上方に紐状の提げ手を逆U字状に附してなる手提袋の正面中央部に掛合した状態のフアスナーを正面の横幅ほぼ一杯近くまで水平に設け、背面中央部にフアスナーの分離した一片を、背面の横幅ほぼ一杯近くまで水平に設け、 該フアスナーより上半部を下半部へ収納して、下半部の上端がフアスナーによつて開閉自在となる横長の抱え鞄としても使用可能となしてなる概略の構成を持つもので、この各部の具体的構成を詳しくみると、手提袋の状態では、袋体はやや下方が広がつた正方形に近い台型状で下辺両側が弧状を呈し、正面中央には掛合した状態のフアスナーが袋体の面と同一平面を形成するように取り付けられ、このフアスナーの上下にはそれぞれ2条の破線模様が形成され、背面中央にはフアスナーの分離した一片が袋体の面と同一平面を形成する感じに取り付けられ、この掛合フアスナーは物入れ口となつており、このフアスナーの一片の少なくとも下側には2条の破線模様が形成され、提げ手は、逆U字状でその先端は袋体上端内方の両側寄りに、 正、背対向して二本取り付けられてなり、抱え鞄の状態では、手提袋の正面中央部に取り付けられた下側のフアスナーの分離した一片と背面のフアスナーの分離した一片が最上端となり、上面中央で掛合され、この抱え鞄は横長の台型の下辺両側が弧状となつた形状で、この台型の水平な上辺の内側に完全に納つた態様にフアスナーが配設されてなるものということができる。 2 本件意匠と引用意匠との対比(一) 共通点 右1の(一)と(二)とを対比すれば、本件意匠と引用意匠とは、 A 上辺を除いて周辺を縫着した袋体の正、背面の中央付近にフアスナーの開放された各一片(成立に争いのない乙第四一、四二号証によれば、これらは、審決認定の「ストリンガー」にあたることが明らかである。)が、少なくともその中央部が横幅一杯近くまで水平な状態で設けられ、右フアスナーの一片より上半部を下半部に収納して下半部の上端がフアスナーによつて開閉自在となる横長の抱え鞄としても使用することができる動的意匠の手提袋であること、 B 袋本体が正方形に近い形状であること及び上方に紐状の提げ手があること、 の二点で共通するものということができる。 (二) 相違点また、同様対比することにより、両意匠は次の点で相違するものということができる。 A′ 本件意匠は、袋体がやや縦長の長方形であるのに対し、引用意匠は、袋体がやや下方広がりの台型で、下辺両隅部を弧状とした形態であること、 B′ 本件意匠は、袋体の上部内側に紐通し環を配してここに水平状に紐体を装着し、紐体は側方に引き出して提げ手となるもので、例えば、重量物を収容したときは、信玄袋のように上部をすぼめた形となり、紐を引き出さない状態では、右端部を除く紐全体は露出しないものであるのに対し、引用意匠は、袋体の上方に延びた逆U字状の吊下げ式提げ手全体を露出して配したものであること、 C′ 本件意匠は、袋体の中央部に、フアスナーを分離した一片の状態で、袋体の全周に亘つて設け、両側端部は、正、背面からみて円弧状に、かつ、側面からみてほぼV字状集束形に形成し、正、背面のフアスナーを分離した一片は、いずれもほぼ水平外側方に鍔状に拡開した形態として配設されているのに対し、引用意匠は、 袋体の正面内中央に掛合した状態のフアスナーを、袋体の面と同一平面となるように形成し、このフアスナー部は物入れの口部として外観を呈しており、背面中央には、フアスナーの分離した一片を袋体の面に沿うように単一な平担状に取り付け、 これらフアスナー及びその分離した一片は、本件意匠のように全周を周回してはいない形態であること、 D′ 本件意匠のフアスナーは務歯の細かいものとして表わしてあるのに対し、引用意匠のフアスナーは、荒いコの字状凹凸模様の務歯が明瞭に表われたものとして示されており、また、引用意匠は、正面フアスナーの上下にそれぞれ2条の、背面フアスナーの下に2条の本件意匠にない破線模様を形成したものであること、 E′ 本件意匠は、抱え鞄を、横長の長方形で、その左右両上端部が弧状となる形態とし、上端に配設したフアスナーが、この左右両上端部の弧状に沿つて垂下するような態様に表わされているのに対し、引用意匠は、横長の台型で、その下辺両側が弧状となり、フアスナーは水平な上端に完全に納まつた抱え鞄の形態としてあること、 (三) 本件意匠の登録類似意匠 いずれもその成立に争いのない乙第三ないし第二八号証及び第二九号証の一、二によれば、本件意匠には、その類似一号ないし二八号の類似意匠が登録されていることが認められる。そして、右各類似意匠を通観すると、本件意匠と右各類似意匠すべてに共通するものは、前記本件意匠と引用意匠についての2の(一)のA、Bに認定した点のみ(ただし、Aについては、下半部を上半部に収納するものもある。)であることが明らかである。そして、本件意匠と引用意匠との前記2の(二)の相違点のうち、B′の提げ手の状態の相違については、右類似一号、七ないし九号、一一ないし一三号、一五号、二〇ないし二六号及び二八号に引用意匠と同様の逆U字状の提げ手が示されていることにより、両意匠が類似とすることの妨げとならないということができる。同C′のフアスナーの両端の形状の相違については、右類似八号、一二号、一四ないし一六号、一九号、二二ないし二八号に両端が上向きの弧状となつたフアスナーが、同二〇、二一号に両端まで水平一直線となつたフアスナーが、それぞれ示されていることにより、同様両意匠の類否の判断に影響を及ぼさないことが判る。同C′のフアスナーの分離した一片が、水平外側方に鍔状に拡開した状態であるか、袋体表面に沿うような平担状のものであるかの相違については、右類似二ないし五号以外の各類似意匠は、いずれも本件意匠のように拡開したものとはなつていないことにより、同様両意匠の類否の判断に無関係であるといえる。同C′の正面のフアスナーが掛合して物入れの口部としての外観を呈しているか否かの相違については、被告主張のとおり、前記類似三号において中央の主たるフアスナーの分離した一片の下に離れて平行してポケツト用のフアスナーが設けられているものが示されていることにより、両意匠の類否に影響を及ぼさないということができる。同D′の務歯が細かいか荒いか及び破線模様の有無の相違については、右類似二四号及び二七号等の務歯が引用意匠のものよりもむしろ荒く表わされており、同七号ないし二一号には、一本ではあるが破線模様が示されていることにより、同様両意匠の類否判断に影響ないものということができる。同A′及びD′の袋体の形状及び抱え鞄としての上辺及び下辺の形態の相違についても、右類似一九ないし二一号に下辺両端が弧状で上辺が水平になつているものが示されており、右一九号の使用状態斜視図に示された形状が引用意匠の形状に通ずるものがあることをみれば、両意匠が類似するとみることの妨げとはならないと認められる。 ところで、自己の登録意匠にのみ類似する(意匠法10条1項)類似意匠の登録を受けている場合に、引用意匠との類否を判断される本意匠の登録無効審判事件と、本意匠との類否が判断される類似意匠の登録無効審判とが、それぞれ独立に判断されるべきものであることは原告主張のとおりであるが、そうであるからといつて、類似意匠が存在する場合に、本意匠の類似範囲を定めるために、本意匠を構成する基本的要素、すなわちそれが共通している意匠は類似ということのできる要素を認定するについて、右の類似意匠を資料とすることは、類似意匠が、元来、本意匠の類似範囲を明確にする目的で本意匠の意匠権者の出願により本意匠に合体するものとして登録された(意匠法22条)ものである以上、当然許されるべきものといわなければならない。原告は、類似意匠の設定登録という後の行政処分によつて、先の本意匠登録が左右されることは許されない旨主張するが、類似意匠登録制度の目的が前記のとおりである以上、類似意匠の登録が無効とされないかぎり、その存在が本意匠の解釈ひいてはその有効無効に影響を与えるべきことは当然のことであるから、原告の右主張(請求の原因の四の3)は採用できない。 (四) 本件意匠と引用意匠との類似性 以上によれば、本件意匠は、前記登録類似意匠との対比により、前記2の(一)のA及びBを基本的要素とするものであり、右2の(三)に示したところ、並びに、前記2の(二)のC′のフアスナーが全周を周回しているか否かの相違についても、別紙図面(二)によれば、引用意匠でも手提袋の状態で正、背面の両端でフアスナーの途切れている部分はごく僅かであり、抱え鞄とした状態では上辺を一周した態様となつていることをみれば、前記2の(二)のA′ないしE′は、本件意匠と引用意匠の類否判断を左右するに足りず、結局、右A及びBの基本的要素を具備する引用意匠は、本件意匠に類似するものとしなければならない。 原告は、審決が、本件意匠及び引用意匠の袋体、提げ手及びフアスナーの形態を抽象化しているとして、その認定を正確かつ客観的でないと主張する(請求の原因四の2の(一))が、意匠の類否を判断するにあたり、各意匠の要素からその基本となるべきものを抽出して対比することは必要かつ当然のことであるから、原告の右主張は採用できない。 また、原告は、審決がフアスナー及びその取付態様の相違について、認定していない事実に基づいて判断しあるいは判断を遺脱した旨主張する(同(二))が、仮に、審決に、原告主張のような判断の誤りがあるとしても、審決は、右相違が全体に与える影響は微弱であるとして、前記と同じ結論に到達しているものであるから、右の誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものではなく、原告の右主張も失当である。 さらに、原告は、提げ手に対する判断に矛盾がある旨をも主張する(同(三))が、普遍化された態様であつても、それが意匠のうちに組み込まれてその基本的構成となりうることはいうまでもないことであるから、右主張も採用の限りでない。 なお、提げ手の使用態様の捉え方に誤りがあるとする原告の主張(同(四))については、原告主張のとおり、審決の捉え方は必ずしも相当とはいえないが、提げ手における相違が類否判断に影響を及ぼすものでないことは前示のとおりであるから、この点も、審決を取り消すべき違法ということはできず、原告の右主張は理由がないものといわなければならない。 以上検討したところによれば、本件意匠が引用意匠と類似するものとしてその登録を無効とした審決には、これを取り消すべき違法の点のないことが明らかである。 三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、 訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 瀧川叡一 |
---|---|
裁判官 | 楠賢二 |
裁判官 | 牧野利秋 |