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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成1行ケ149 判例 意匠
昭和46ワ9319 判例 意匠
平成3オ1007 判例 意匠
昭和59行ケ7 判例 意匠
関連ワード 意匠の実施 /  実施権の設定 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  類似する意匠 /  完成品 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  専用実施権 /  通常実施権 /  類似性(類否判断) /  損害額 /  債務不履行 /  独占的通常実施権 / 
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事件 昭和 57年 (ワ) 7035号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1984/12/20
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告に対し、金一〇五万二三八〇円及びこれに対する昭和五九年一〇月一一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二〇分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、別紙第一及び第二目録記載の物件を製造し、販売、展示してはならない。
2 被告は、その占有する前項記載の各物件(仕掛品及び完成品)及びその製造用金型を廃棄しなければならない。
3 被告は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年九月一七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 1ないし3項につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因(不正競争防止法関係)1 原告は、理容器具等の卸販売を業とする会社であり、被告は理容等に使用するブラシの製造販売を業とする会社である。
2 原告は別紙第三目録記載の物件(以下「原告商品」という)を製造販売している。
3 原告商品の形態は昭和五六年一〇月ころには原告の製造販売する商品であることを示す表示として広く認識されるに至つた。すなわち、
(一) 訴外【A】(以下「【A】」という)は、昭和五五年初めころからパンチパーマ用のセツトブラシの開発にかかり、同年一〇月ころパンチパーマ用のセツトブラシを創作し意匠等の登録出願をなし、昭和五八年三月三一日後記意匠登録がなされた。
(二) 右創作に基づくセツトブラシは、従来品に比較して次のような効用ないし、今までにない独自の形態を有している。
まず、右セツトブラシは形態の上で、(a)ブラシの歯の部分が固形の円錐状になつている、(b)ブラシの両端に割り込みが設けられている、(c)樹脂材を用いて一体成形されている点で独自性を有する。
また、パンチパーマとは、短い頭髪に熱アイロンでかけたパーマのことをいうのであるが、これを従来のブラシ類でセツトすると、ブラシの歯が毛髪を引張つてカールを元にもどす作用が生じるため使用できず、手指でかいてセツトしていたものであるが、前記のようにブラシの歯を固形の円錐状にしたことで、毛髪を引張ることなくアイロンでカールされた状態のままの整髪が可能になつた。その整髪は、何ら特殊な技術を用することなく誰が使用しても均一にセツトできるのである。更に(b)のようにブラシの両端に割り込みを作つたことにより、耳上部等の非常に短い部分のセツトや全体の仕上りのシルエツトの調整が容易になつた。
(三) 原告は右【A】の承諾をえて、昭和五六年六月末から右【A】の創作に基づく原告商品を「パンチブラシ2」の商品名で全国の小売店に向けて販売を開始し非常な好評をえ、昭和五六年一〇月までに約六万本を売りつくした。
原告は、原告商品が「パンチブラシ2」という商品名であり、優れた効用を有する点につき原告商品の図面を表示して各業界紙又は雑誌(たとえば「理容と文化」、「ニユーヘアー」、「理容と経営」、右三誌で約一八万部の発行部数がある)に宣伝を続け、また原告商品を全国の理容界の若手指導者(約五〇〇名)に対し説明書付で配布し好評をえた。
原告の販売方法は、まず全国の小売店に向け原告商品を販売する。小売店は、その他の各理容店に原告商品を販売する。そして、原告商品は、理容店において専門家に使用されると共に、理容店の店頭販売によりパンチパーマをした顧客によつて買われてゆくことになる。原告商品は一本ずつ包装箱に入れられているが、理容店で販売する場合は、掛けひものついた台紙に六箱ずつぶら下げて販売する方法をとつている。
(四)右のとおり原告商品が爆発的に売れ全国的に行き渡つたため、遅くとも昭和五六年一〇月には極めて斬新な形態をもつ原告商品の形態そのものが原告の製造販売する商品であるという出所表示の機能をもつに至つた。
4 被告は、昭和五六年一一月ころより別紙第一目録記載の物件(以下「イ号物件」という)を、昭和五七年三月ころからイ号物件より約一〇分の七の大きさの別紙第二目録記載の物件(以下「ロ号物件」といい、イ号、ロ号物件を総称して「被告商品」という)を製造販売している。
5 被告商品の形態は原告商品の形態に類似している。
すなわち、イ号物件と原告商品の各形態を対比すると、イ号物件は柄に最も近い部分に円錐状の歯が原告商品より一本多いほか、形態は同一であり、両者は類似するものといわざるをえない。
また、ロ号物件は円錐状の歯が二五本と原告商品より少なく、台座部分の両端の割り込みの数も七個と少なく、大きさも一〇分の七と小さいものの、前記3(二)(a)ないし(c)の特徴を有し、原告商品の形態と類似するものである。
6 そして、被告商品は原告商品と形態において前記のとおり類似しているばかりか、商品名も「パンチブラシ」と同一であり、包装箱の形状、包装箱を台紙に六本ぶら下げてする展示方法、需要者に販売するルートも原告商品と同一であり、しかも被告は意識的に被告商品の包装箱に製造元あるいは販売元を表示せず、よつて、
被告は被告商品と原告商品との識別を困難ならしめ、もつて商品の混同を生ぜしめている。
7 原告は、被告の前記不正競争行為により営業上の利益を害され、また将来にわたつて害されるおそれがある。
8(一) 被告は、被告商品の製造販売が不正競争行為になることを知り又は過失により知らないで被告商品を製造販売し、次のとおり原告に損害を与えた。
(二) 原告は昭和五六年七月から一〇月の四か月で原告商品約六万本(月平均一万五〇〇〇本)の売上があつたが、被告の不正競争行為があつた昭和五六年一一月以降は、月平均して一五〇〇本程度の売上しかなく毎月一万三五〇〇本の売上減少が発生している。したがつて昭和五六年一一月から同五九年一〇月一一日(口頭弁論終結時)まで三九万一五〇〇本を下らない売上減少があつたことになる。
原告は原告商品一本の販売により一〇〇円を下らない利益をえていたので(実際には三〇〇円の利益があつた)、右売上減少により少なくとも三九一五万円の損害を受けた。
原告が実際に被告の不正競争行為により右の損害を蒙つていることは、第三三期決算報告書(昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日、甲第四五号証)と第三四期決算報告書(昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日、甲第四六号証)を比較すると、第三四期においては、第三三期に比較して約四〇〇〇万円の売上が低下し、それにともなつて売上総利益も約四〇〇〇万円の低下をきたしていることからも明らかである。右四〇〇〇万円の売上利益の減少は、被告の不正競争行為に基づく以外の何物でもない。具体的な数字を見ても、第三三期の決算に於ては、昭和五六年七月から同年一〇月までの間の原告商品六万本の売上利益が計上されているが、これだけでも売上利益が実際一本につき三〇〇円を下らないことから、約二〇〇〇万円の利益があつたところ、第三四期に於ては右金額がカツトされているのである。また、四〇〇〇万円の売上利益の減少は、原告が原告商品の売上減少によつて一年間に蒙る損害として主張する金額にほぼ相当するもので、原告の主張が正しいことを裏付けている。
(三) また、被告は、原告商品をそのまま型どりした侵害品(イ号物件)を製造販売し、その当初から原告の再三再四にわたる警告を無視して製造販売を続け、本訴に至つても現在に至るまで侵害を続行するのみか、更に小型の侵害品(ロ号物件)を製造販売し、原告に過大な損害を与え続けている。原告は前項で指摘した売り上げの損害の外に、被告の不正競争行為により大々的に宣伝して売り出した新製品について、全く同一の商品を非常な安価で業界に流されたこと等により、原告が所属する業界において、それまでの老舗としての信用を大きく失墜しており、その回復は不可能である。その損害だけでも金額に表示できない程大きなものであるが、その算定をあえてなしても一〇〇〇万円を下らない。
(意匠権関係)1(一) 訴外【A】(【A】)は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という)を有している。
出願 昭和五五年一〇月一五日(意願昭五五ー四三二一三)登録 昭和五八年三月三一日(第六〇三六二五号)意匠に係る物品 ヘアーブラシ登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり(二) 原告は本件意匠権につき専用実施権もしくは独占的通常実施権を有している。なお、本件専用実施権には登録がなされていないものの、被告は本件意匠権についての侵害者たる不法行為者であり、登録の欠缺を主張しえる立場にあるものではない。
2 被告は別紙第一目録記載のイ号物件及び同第二目録記載のロ号物件を業として製造販売している。
3(一) 本件意匠とイ号、ロ号物件の意匠(以下「イ号、ロ号意匠」という)とは共にヘアーブラシに係るものである。
(二) 本件意匠の構成は次のとおりである。
(イ) ブラシの台座部分の両端に左右対称に割り込みが設けられている(割り込みの谷の数は左右共九個)。
(ロ) ブラシの歯は円錐状になつている。
(ハ) ブラシの歯は縦に三列であつて、左右の二列の歯は、台座部分の割り込みの嶺に設けられている。真中の一列の歯は、対応する左右の列の歯に比して少し上部にずれる位置にある。
(ニ) ブラシを側面から見ると、柄からブラシ台座にかけてゆるやかに湾曲している。
(三) イ号意匠は、真中の列の歯が一本多いほかは、本件意匠の構成の(イ)ないし(ニ)と同一であり、両意匠は類似する。
また、ロ号意匠は割り込みの数が七個で、それに対応して歯が少ないほかは本件意匠の構成の(イ)ないし(ニ)と同一であり、両意匠は類似するものである。
4 被告は被告商品の製造販売が本件専用実施権もしくは独占的通常実施権を侵害することを知り又は過失により知らないで被告商品を製造販売したものであり、原告は昭和五八年三月三一日以降一か月当たり一万三五〇〇本の本件意匠の実施品(原告商品)の売上げが減少し、昭和五九年一〇月一一日までに少なくとも一六二〇万円の損害を蒙つた。更に、信用失墜により一〇〇〇万円の損害を蒙つた(不正競争防止法関係の請求原因8参照)。
(結論) よつて、原告は、被告に対し、不正競争防止法1条1項1号、本件意匠権の専用実施権もしくは独占的通常実施権(予備的に【A】の本件意匠権による差止損害賠償請求権の債権者代位)に基づき被告商品の製造販売等の差止、被告商品の廃棄を求めると共に、損害金の内金として五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年九月一七日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否(不正競争防止法関係)1 請求原因1の事実のうち、原告が理容器具等の卸販売を業とする会社であることは認め、その余は争う。被告は主に粧装品の製造販売を業とする会社である。
2 同2は争う。
3 同3冒頭の事実は否認する。
同3(一)事実のうち、【A】がセツトブラシの意匠を出願し、右意匠は登録されたことは認め、その余は争う。
同3(二)の事実のうち、【A】の創作したセツトブラシが歯の部分が固形の円錐状になつている、両端に割り込みが設けられている、樹脂材を用いて一体成形されるパンチパーマ用のセツトブラシ商品であること、パンチパーマとは短い頭髪に熱アイロンでかけたパーマであること、右ブラシでもアイロンでカールされた状態のまま整髪ができ、耳上部等髪の短い部分のセツトや全体の仕上りのシルエツトの調整ができること(右ブラシだけができるというのではない)は認め、その余は争う。なお、ブラシの歯が固形の円錐状であること、ブラシの両端(両側)に割り込みがあることが、右ブラシだけに独自のものではなく、また、樹脂材を用いて一体成形されているブラシは他にいくらでもある。
同3(三)の事実のうち原告の営業状況に関する部分は争う。原告主張の原告商品の販売ルートに関する部分は不知(むしろ問屋への卸売と聞知している)。
同3(四)の事実は否認する。
4 同4の事実のうち、被告がイ号物件を製造販売していること及びロ号物件を昭和五七年六月ころ製造販売したことは認め、その余は争う。
5 同5は争う。
6 同6の事実のうち、被告が自己の商品に一時「パンチブラシ」という商品名を使つたこと及び六本併せてぶら下げて展示したことは認め、その余は否認する。
7 同7は争う。
8 同8(一)ないし(三)は争う。なお、被告は、イ号物件を三万二一八六本、
ロ号物件を四一一六本製造販売し、一本当たりイ号物件につき三〇円、ロ号物件につき二〇円の各利益を得ている。
(意匠権関係)1 請求原因1(一)の事実は認める。
同1(二)の事実のうち、専用実施権の登録のない点は認め、その余は争う。
2 同2の事実のうち、被告がイ号物件を業として製造販売していること及びロ号物件を昭和五七年六月ころ製造販売したことは認め、その余は争う。
3 同3(一)ないし(三)は争う。
4 同4は争う。なお、被告は昭和五八年三月三一日以降一七四六本のイ号物件を製造販売し一本当たり三〇円の利益を得ているが、ロ号物件は昭和五八年三月三一日以降は製造販売していない。
三 被告の主張1 原告商品の形態が昭和五六年一〇月ころ原告の商品であるとの出所表示機能を有し、周知であつたとは認められない。すなわち、
原告主張の販売数量のうち昭和五六年六、七月分合計九四八〇本及び八月分のうち五二〇本、合計一万本(第一回の金型による製品、甲第一三号証参照)は原告商品により中央の列の歯が一本多いパンチブラシUであり、原告商品の販売数量を示すものではない。
そして、原告商品の販売は同年八月からであるが、同年一〇月までの総販売数は四万三九五一本にすぎない。その主たる販売先は次のとおり九か所合計三万二三七六本であり(甲第一六ないし第一八号参照)、いずれも同業の卸売業者であり、原告主張のように原告が全国の小売店に自ら売り尽したものではない。右卸売業者に売り渡した原告商品全てが小売店から更に同年一〇月まで理美容店に行き渡つたかは疑問である。
株式会社大江寅治商会 一八六〇本オクノ 一四四〇本田堂商会 一一一六本浜家 六〇〇本パール 八四〇本株式会社白鶴 四八〇〇本株式会社ヤザワ 三一二〇本大西 六〇〇本米正株式会社 一万八〇〇〇本 原告は米正株式会社には昭和五六年八月に六〇〇〇本、九月に一万二〇〇〇本と極めて大量に売り渡したところ、原告が右訴外会社に販売したのはパンチブラシUのブラシ本体だけであり、訴外会社はこれを自社の包装箱に入れ自社の商品として全国の小売店等に販売したものであり、原告が訴外会社に売り渡した右一万八〇〇〇本には原告の商品であるとの表示及び出所表示機能は全くない(原告商品については箱に原告の表示があるにすぎず、ブラシ自体には原告を表示するものはない。)。
そうすると、右訴外会社の製品が流れた先の小売店及びこれに連なる全国の理美容店ではパンチブラシUは訴外会社の製品であると認識されていたというべきであり(この一万八〇〇〇本は類似どころか原告商品そのものである)、原告自ら原告商品及び形態を自己の商品と表示することを放棄しているというべきである。
このように原告商品が原告の商品として実際に卸売同業者、小売店に販売されたのは八月から一〇月までの間にわずかに二万六〇〇〇本程度にすぎない。しかも当時原告商品と全く同一の米正製品が訴外会社の手から全国に一万八〇〇〇本流れて競合状態にあつたのである。また、原告商品は全国二〇〇〇軒もの小売業者のうちわずかに一割の二〇〇軒程度に流れる可能性があつたにすぎず、原告の各取引先はこれを下回つている。
右二万六〇〇〇本程度で原告主張のように爆発的に売れ全国的に行き渡つていたとは到底いえない。
周知である旨の証明書(甲第八号証)を仔細に検討すると、昭和五六年一〇月には取引のなかつた取引先(たとえば同号証の二四、三二、七四等)、古い形のパンチブラシUしか取引のないところ(同号証の四、一二、四四等)があるなどその内容は信用できず、証明力はない。
原告が原告商品の宣伝活動を始めたのは昭和五六年九月ころからであり、その宣伝が一年後の昭和五七年一〇月ころにおいてもなお周知徹底していなかつたことは、甲第七号証の二、同号証の一一のとおりである。
以上のとおり、原告商品の販売数、販売ルート、宣伝の各実態から、原告商品の形態が昭和五六年一〇月には未だ原告の商品であるとの出所表示機能を有していたとはいえないことは明らかである。
2 被告商品は原告商品と誤認混同されることはない。
被告の営業は、粧装品の製造販売であつて、主にスーパー店で広く大衆向けに販売される商品を取扱つており、とくに理容店への販売はなく、本来原告とは競業分野を一にしない。
イ号物件は、パンチパーマの整髪用に使われることを目的としたブラシであるから、普通名称として「パンチブラシ」と称しnew activeと副称して他と区別し、昭和五六年一一月中旬から製造販売したのであるが、昭和五七年一月になつて念のため調査したところ、「パンチ」なる商標は他の三、四社が登録ずみとなつていたので、急拠「Perm Brush」(new active)と改めたものである。本来「パンチパーマ」は、全くの普通名称であつて、その目的のためのブラシというのにすぎないから、「パンチブラシ」そのものが特に他と識別に値する自己の商品の表示とはいえないと思われるが、右「パーマブラシ」となつてからは、原告商品とも全く区別されており、商品名による混同の余地はない。
また形態の点においても、被告商品は原告商品に比し歯が一本多く(イ号物件)又は少なく(ロ号物件)、円錐状の歯も少し細く、台座部分の両端の切り込みも水平であり、色合も赤、バイオレツト、ブラウンの三色二対揃えとなつており、大きさも大型(イ号物件)、小型(ロ号物件)二種類に分かれている。包装も商品の色合、大きさと相俟つて相違する感じを抱かせ、混同の余地はない。
なお、被告商品の包装箱に製造元である被告の表示がないのは、得意先をはずして問屋等の顧客が直接被告に買いに来ることがないようにとの被告の得意先に対するメーカーとしての配慮に基づくものであり、包装箱には法定品質表示もきちんと付しており、粗悪品ではない。
3 被告は被告商品を理容器具の卸売り業界へ数多く販売した事実はなく、仮に被告商品と類似のものが理容業界へ数多く流れたとしても、それは被告商品及び類似製品がごくありふれた一般的なものであつたから他の何人かによつて販売されたものである。
また、原告商品の売上が極度に低下したとしても、それは被告商品の販売とは関係がない。むしろ、需要の限界があつたもので、被告商品もほんのはしりには需要もあつたが、すぐ下火になり、特に、原告が自己の取引先への警告をしたのが契機となつて、被告の取引先にも警戒心が生じ、そのため被告商品についても殆んど取扱つてくれなくなり、不良在庫をかかえるに至つている。
原告は売上高、売上総利益がいずれも四〇〇〇万円低下し、その低下がすべて原告商品の売上減少によるものと主張するが、右主張は他の製品の売上高、売上利益をそのままと設定し、単純にその低下分を原告商品の売上減少とするものであり、
その主張の前提自体全く根拠がない。
三四期は営業利益の段階で七五三万九四二〇円の損失を計上しているが、その主たる原因は売上高、売上総利益の低下よりも、むしろ販売費及び一般管理費が一億五五一二万六四四〇円から一億八四二〇万三六九〇円と二九〇七万七二五〇円も増加したことにあることは、甲第四五、四六号証のみからでも容易に認められるところであり、この一事よりしても計数の単純な比較はできないことは明らかであり、
原告主張の取引高の低下と被告の行為との間には何ら因果関係がない。
そもそも、社会経済的諸要因が複雑微妙に関連する企業の決算において、その前後の年度及び決算内容を詳細に比較対照せずに単に二年分の数字を云々することが、失当であることはいうまでもない。
4 原告は本件意匠権について専用実施権の登録を現在までしていない。
意匠法27条によつて準用される特許法98条1項2号のとおり、専用実施権の設定は「登録しなければその効力を生じない」いわゆる効力発生要件であり、原告主張のように対抗要件ではなく、原告の主張は失当である。
また、原告主張の当事者間の「いわゆる独占的な実施権」に何ら意匠法上の効力発生の根拠がないことは、前掲各法条の趣旨からも明らかである。
債権者代位の主張については、その法条から明らかなとおり原告が代位行使できるのは【A】の有する本件意匠権であるが、イ号、ロ号物件は本件意匠権を侵害していない。
そして、【A】の有する本件意匠権の侵害による損害賠償請求権が代位者である原告が本訴で主張している原告の損害と同一でないことはいうまでもない。
5 本件意匠はブラシ本来の形状からはずれ中央の歯が一本少ない形をわざわざ登録したものであるから、本来の形態を有するものは本件意匠と類似性はなく、本件意匠を侵害しないというべきである。したがつて本来の形態を有するイ号、ロ号物件ともそもそも本件意匠権を侵害しておらず、原告の請求は理由がない。
四 原告の反論1 原告は原告商品を昭和五六年六月の発売以来主要全国業界紙に大きく広告をし宣伝をなしてきた。右業界紙は全国の理容、美容店に購入され、店内に置かれて来客の閲覧にも供されるのである。そして原告商品は小売業者から理容、美容店、更には末端消費者に怒濤のように販売された。その結果昭和五六年一〇月には、卸売店、小売店は勿論のこと、一般消費者にも原告商品は広く認識されるに至つた。それがためにこそ、発売して原告商品の名が高まるや、同業者からまとめて注文を受けることになつたのである。被告が侵害品の製造を始めたのも、原告が原告商品の供給を政策上しなかつた業者の大きな需要があり、被告はそれに応じたのである。
原告はその後もあらゆる面から原告商品が広く浸透するように努めており、その宣伝活動は現在に至つても続いている。
なお、被告は原告商品について歯の一本の多少を問題とするが、原告は原告商品発売の当初から別紙第三目録記載の形状ブラシ、すなわち歯を一本減らした製品を製造販売してきている(検甲第四号証参照)。
また、原告が原告商品を米正株式会社に販売したのは、同社からの強い依頼があり、一方美容業界に強いことから美容業界にも広く原告商品を販売しようとする政策的配慮からである。しかし、右訴外会社に渡す製品には、すべて「パンチブラシU」の刻印が押されており、原告商品の名称が維持されている。
2 被告は、被告の営業が原告と競業分野を一にしないと主張するが、これは誤りである。現に被告商品は理容器具の卸売り業界に数多く流れており、そのことを契機として原告の原告商品の売上げは極度の低下を示したのである。また、仮に被告の主張のように両者の競業分野が異なるとしても、原告商品につき、一番混同を生じるのは末端の消費者であるが、右消費者は両者で同一であり、そのことを考えると末端消費者に流れるルートの違いが議論の対象にならないことは明らかである。
3 被告は、イ号物件を普通名称「パンチブラシ」と称し、new activeと副称して昭和五六年一一月中旬から製造販売した後、昭和五七年一月になつて急拠「Perm Brush」(new active)と改めたという。ところで、被告が名称を微妙に改称したと主張すること自体、被告がイ号物件を、原告商品を模倣しそれと混同させる意図をもつて製造販売にかかつたところ、原告の差止要求にあい、多少でも言い逃れの材料として名称を微妙に変えた旨の主張をしようとすることを如実に示している。被告はイ号物件の副称をnew activeというが、これまた、原告が原告商品を「アクテイブなニユータイプ」という宣伝文句で表示して販売している言葉をそのまま引用しているものである(検甲第一号証の台紙参照)。
4 被告は新しく金型を作つてまで被告商品を製造販売しており、金型一回の最低ロツトは一万本であることを考えると、被告は多量の被告商品を製造販売したものと認められる。
イ号物件を取扱つた卸業者は、判明しているだけで一〇軒にものぼり、またその製造販売期間は昭和五六年一一月から現在にまで及んでいる。イ号物件の製造販売数量は、原告の実績から推測して二〇万本を超えるものと考えられる。
証拠(省略)
理 由
不正競争防止法関係
一 原告が理容器具等の卸販売を業とする会社であることは当事者間に争いがなく、原告商品であることにつき争いのない検甲第一号証及び原告代表者本人尋問の結果(第一回)によれば、原告は別紙第三目録記載の物件(原告商品)を製造販売していることが認められる。
二 原告は、被告がイ号物件の製造・販売を開始した直前である昭和五六年一〇月ころには、原告商品の形態そのものが原告の製造販売する商品であることを示す表示として広く認識されるようになつたと主張するので、以下この点について検討する。
1 訴外【A】がセツトブラシの意匠を出願し、右意匠は登録されたこと、右【A】が創作したセツトブラシは、(a)歯の部分が固形の円錐状になつている、
(b)両端に割り込みが設けられている、(c)樹脂材を用いて一体成形されるパンチパーマ用のセツトブラシであること、パンチパーマとは短い頭髪に熱いアイロンでかけたパーマであること、右ブラシでもアイロンでカールされた状態のまま整髪ができ、耳上部等髪の短い部分のセツトや全体の仕上りのシルエツトの調整ができることは当事者間に争いがない。
2 原告代表者本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められる甲第一、二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一、同第五号証、同第六号証の一、二、同第七号証の一ないし一五、同第八号証の一ないし七八、同第一〇号証、
同第一三号証、同第一四号証の一ないし四、同第一五号証の一ないし一〇五、同第一六号証の一ないし七〇、同一七号証の一ないし五八、同第一八号証の一ないし三五(ただし、第六号証の一、二、第七号証の一ないし一二につき官署作成部分の成立は争いがない)、成立に争いのない甲第九号証、同第一一、一二号証、同第四八ないし第五〇号証、原告代表者本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したと認められる甲第四七号証、前記検甲第一号証、パンチブラシ(旧ブラシ)であることに争いのない検甲第三号証、原告代表本人尋問の結果(第一、二回)に前記1の事実を総合すれば、以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 【A】は昭和五五年一〇月ころパンチパーマ用のセツトブラシの創作をなし、意匠等の出願をなし、右意匠は昭和五八年三月三一日登録されたが、右ブラシは歯の部分が固形の円錐状をなし、台座部分の両端に割り込みがあり、樹脂材を用いて一体成形するものであり、新規なブラシであつた。
(二) 原告は右【A】と意匠権につき専用実施権設定契約をなし、昭和五六年六月末から原告商品(ただし当初原告商品の歯が一本多かつたか否かにつき争いがあるがこの点はしばらくおく)を「パンチブラシU」の商品名で独占的に製造販売を始めた。なお、商品名を「パンチブラシU」としたのは、原告が過去に「パンチブラシ」の商品名のブラシを製造販売したことがあるためである。
原告商品は柄の部分に「punch BruSH.U」の刻印がされ、台座部分及び柄の一部が見えるように一部透明とし、製造発売元として原告を表示した包装箱に入れられて販売され、理容店、美容店(主として理容店)で理容師、美容師に使用されると共に、各理容、美容店において一般消費者に対しても店頭販売されている。
(三) 原告の昭和五六年六月から一〇月までの原告商品の販売数量は次のとおりであり、その半数以上が卸売業者九名に販売されている。
昭和五六年六月 四八〇本七月 九〇〇〇本八月 一万六六五三本九月 一万九八六八本一〇月 七九五〇本 合計 五万三九五一本(四) 原告の昭和五六年一〇月までの原告商品の業界紙への宣伝広告状況は次のとおりである(なお、各誌は表示月の少なくとも一か月前に発売されている)。
(1) 月刊「理容と経営」昭和五六年八月号から毎月、約五万六〇〇〇部発行。
(2) 月刊「ニューヘア」 昭和五六年一一月号から毎月、約六万部発行。
(3) 週刊「全国理美容新聞」 昭和五六年七月一五日号、約五万四〇〇〇部発行。
(4) 月刊「理容文化」 昭和五六年六月号から毎月、約四万八〇〇〇部発行。
(五) 原告は昭和五六年九月ころ、指導者クラスの理容師、美容師約五〇〇人に対し、新製品発売の案内状(甲第五号証)をつけて見本として原告商品を送つた。
(六) 原告は昭和五七年七、八月ころ雑誌で原告商品の感想を募集したところ、
一五名から原告商品についての感想が寄せられたが、そこにはいずれも原告商品は好評である旨記載されている。
(七) 原告と取引のある小売店七八店舗が原告商品の周知性につき証明している。
3 しかし、他方、
(一) 原告商品が売り出された昭和五六年六月末から、原告が周知性を獲得したと主張している同年一〇月までは、五か月と期間が比較的短かいうえ、右期間中に販売された原告商品五万三九五一本の半数以上が卸売業者九名に販売されたのであるから、同年一〇月末までに右原告商品全てが小売店から理美容店に行き渡つたかは疑問であること。
(二) 全国の理容店、美容店は合計で約三〇万軒(うち理容店は約一五万軒)でそれにつながる小売店は約二〇〇〇軒あるのに対し、原告の取引する小売店は約二〇〇軒にすぎないこと(原告代表者本人尋問の結果(第一回)及び弁論の全趣旨)。
(三) 原告が昭和五七年七、八月ころ募集した前記感想の中に、「他の理容店主に聞くとこのブラシのことを知らない人が非常に多いので残念です。」と記載したものがあること(甲第七号証の一一)。
(四) 原告は昭和五六年八、九月に米正株式会社に原告商品合計一万八〇〇〇本を販売し、右訴外会社は右商品を発売元米正株式会社の表示のある(原告の表示はない)包装箱に入れ「メツシユブラシ」と称して販売しており、原告の販売と併行したかかる訴外会社の販売は、右商品に「Punch BrusH.U」の刻印はあるものの、原告商品の形態が原告の製造販売する商品であることを示す出所表示機能を減殺し、その自他識別力を稀釈化する可能性があること(前記甲第一六号証の五六、甲第一七号証の一五、四四、五〇、五四、メツシユブラシ一二本入であることにつき争いのない検甲第五号証)。
(五) 原告商品の形態が周知である旨の証明書(甲第八号証の一ないし七八)はいずれも作成年月日及び証明者欄を空白とし、証明事項が予め印刷してある「証明書」に証明者が証明者欄に記名押印して作成されており(年月日はほとんど空白のままである)、その周知性に関する部分は「大洋商会の『パンチブラシU』は、私共の地区の各理髪店にも評判が良く、既に高い知名度があり、一般の消費者の方も店頭で次々買い上げられて行く状況です。」というような周知の時期も不明確で抽象的なものであり、また、前記甲第一四ないし第一八号証(技番を含む)に照らすと、証明者の中には昭和五六年六月から一〇月までの間に原告と取引のない者(たとえば甲第八号証の二四、三二、七四)も含まれ、その証明力はかなり低いものと考えざるをえないこと の事情があり、以上の事情を考えあわせると、前記2の認定事実から、直ちに昭和五六年一〇月ころ原告商品の形態が原告の製造販売する商品たることを示す表示として周知性を獲得していたと評価することはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
三 よつて、原告の右時点において周知性を獲得していたことを前提とする不正競争防止法に基づく請求は、その余の点につに判断するまでもなく理由がない。
意匠権関係
一 【A】が本件意匠権を有していること(請求原因1(一)の事実)は当事者間に争いがなく、前記甲第四七号証及び原告代表者本人尋問の結果(第二回)によれば、原告は【A】と昭和五六年九月三〇日本件意匠権の範囲全部につき、【A】が原告に専用実施権を許諾すること、【A】は自ら本件意匠を実施せず、また原告以外の第三者に許諾することができないこと、原告は実施料として一個につき二〇円を支払うこと、【A】は原告の実施権の登録手続に協力することを内容とする契約(甲第四七号証)をなしたこと、しかし、侵害品が出回つた際【A】が侵害排除義務を負うとの約定は右契約書にはなく、原告は被告のイ号物件につき【A】に相談したところ、原告の方で裁判をするよう促がされ本訴提起に至つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
二1 右専用実施権の設定につき登録を経ていないことは当事者に争いないところ、原告は未登録の専用実施権であつてもこれに基づき、差止損害賠償請求権を行使し得る旨主張するが、意匠法27条3項、特許法98条1項2号によれば、専用実施権の設定は、これを登録しなければその効力を生じないものとされ、それはいわゆる対抗要件ではなく効力発生要件と解すべきであるから、前記のとおり登録のない本件専用実施権は未だその効力を発生せず、また、右登録の効果を対抗要件と同一視して、不法行為者である被告には右登録の欠缺を主張し得る正当な利益を有しない旨の原告の主張も理由がない。よつて原告の専用実施権に基づく請求は理由がない。
2 そこで次に原告の独占的通常実施権の主張につき判断するに、通常、権利者と実施権者間で専用実施権の設定が約されたが、その登録に至らない間にもその実施が許諾されている場合には、実施権者は右実施につきいわゆる独占的通常実施権を付与されたものと同一視することができ、またそうみることが当事者の意思に合致するものと考えられ、本件においてもこのような設定を妨げる事情は見当らない。
よつて原告は独占的通常実施権を付与されたものと認められるところ、前認定の事実によれば、それは権利者が自己実施及び第三者に実施許諾しない旨の特約のある講学上いわゆる完全独占的通常実施権であると認められる。
3 そこで完全独占的通常実施権(予備的に債権者代位権)に基づく差止損害賠償請求の可否について判断する。
(一) まず、完全独占的通常実施権の性質について検討するに、意匠法28条2項には、「通常実施権者は、この法律の規定により又は設定行為で定めた範囲内において、業としてその登録意匠又はこれに類似する意匠の実施をする権利を有する。」と規定しており、右の規定よりすれば、通常実施権の許諾者(権利者)は、
通常実施権者に対し、当該意匠を業として実施することを容認する義務、すなわち実施権者に対し右実施による差止損害賠償請求権を行使しないという不作為義務を負うに止まり、それ以上に許諾者は当然には実施権者に対し、他の無承諾実施権者の行為を排除し通常実施権者の損害を避止する義務までも負うものではない。これを実施権者側からみれば、通常実施権者は権利者に対し、当該意匠の実施を容認すべきことを請求する権利を有するにすぎないということができる。そして、完全独占的通常実施権といえども本来通常実施権であり、これに権利者が自己実施及び第三者に対し実施許諾をしない旨の不作為義務を負うという特約が付随するにすぎず、そのほか右通常実施権の性質が変わるものではない。
(二) そこで差止請求権について判断するに、通常実施権ひいては完全独占的通常実施権の性質は前記のとおりであるから、無権限の第三者が当該意匠を実施した場合若しくは権利者が実施権者との契約上の義務に違反して第三者に実施を許諾した場合にも、実施権者の実施それ自体は何ら妨げられるものではなく、一方そのように権利者が第三者にも実施許諾をすることは、実施権者に対する債務不履行とはなるにしても、実施許諾権そのものは権利者に留保されて在り、完全独占的通常実施権の場合にも右実施許諾権が実施権者に移付されるものではないのであるから、
実施権者の有する権利が排他性を有するということはできず、また条文の上からも意匠法37条には差止請求権を行使できる者として、意匠権者又は専用実施権者についてのみ規定していること(しかも、本件において原告は専用実施権の登録をなすことにより容易に差止請求権を有することができること)を考慮すると、通常実施権者である限りは、それが前記完全独占的通常実施権者であつてもこれに差止請求権を認めることは困難であり、許されないものといわざるをえない。
また、原告は債権者代位権に基づき権利者の差止請求権を主張する。しかし、右債権者代位制度は元来債務者の一般財産保全のものであり、特定債権保全のために判例上登記請求権及び賃借権の保全の場合に例外的に債務者の無資力を要することなく右制度を転用することが許されているが、右はいずれも重畳的な権利の行使が許されず、権利救済のための現実的な必要性のある場合であるところ、完全独占的通常実施権は第三者の利用によつて独占性は妨げられるものの、実施それ自体には何らの支障も生ずることなく当該意匠権を第三者と同時に重畳的に利用できるのであり、重畳的な利用の不可能な前記二つの例外的な場合とは性質を異にし、代位制度を転用する現実的必要性は乏しく(しかも本件において原告は登録により容易に差止請求権を有することができる)、債権者代位による保全は許されないというべきである。
更に、完全独占的通常実施権の権利者に対する請求権は、無承諾実施権者の行為の排除等を権利者に求める請求権ではなく、当該意匠の実施を容認すべきことを請求する権利にすぎず(本件においても前記認定のとおり権利者の【A】に第三者の侵害行為を差止めるべき行為義務は認められない)、通常実施権者が権利者の有する侵害者に対する妨害排除請求権を代位行使することによつて権利者の実施権者に対する債務の履行が確保される関係にはないのであり、また、本件全証拠によるも【A】が無資力であるとは認められないから、結局債権者代位による保全の必要性も欠くといわざるをえない。
したがつて、原告の主張する差止請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。
(三) 次に損害賠償請求権につき検討するに、条文上意匠法は39条(損害の額の推定等)、40条(過失の推定)の規定を設け、意匠権者と専用実施権者について規定しているものの、右規定は損害額及び過失の推定についての特別規定であり、完全独占的通常実施権者に損害賠償請求権を否定する趣旨とは認められず(このことは意匠法37条差止請求権につき意匠権者又は専用実施権者と規定しているのに対し、損害賠償請求権についてはかかる規定が存しないことによつてもうかがわれる)、結局完全独占的通常実施権者の損害賠償請求権については民法の一般原則にゆだねているものと解される。
通常実施権の性質は前記判示のとおりであるが、完全独占的通常実施権においては、権利者は実施権者に対し、実施権者以外の第三者に実施権を許諾しない義務を負うばかりか、権利者自身も実施しない義務を負つており、その結果実施権者は権利の実施品の製造販売にかかる市場及び利益を独占できる地位、期待をえているのであり、そのためにそれに見合う実施料を権利者に支払つているのであるから、無権限の第三者が当該意匠を実施することは実施権者の右地位を害し、その期待利益を奪うものであり、これによつて損害が生じた場合には、完全独占的通常実施権者は固有の権利として(債権者代位によらず)直接侵害者に対して損害賠償請求をなし得るものと解するのが相当である。
三 被告がイ号物件を業として製造販売していること及びロ号物件を昭和五七年六月ころ製造販売したことは当事者間に争いがない。
しかし、本件全証拠によるも、被告が本件意匠権登録以後の昭和五八年三月三一日以降ロ号物件を製造販売したことを認めるに足りない。
したがつてロ号物件につき損害賠償を求める部分はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。
四 イ号物件が本件意匠に係る物品と機能及び用途を同じくする「ヘアーブラシ」であることについては、別紙第一目録記載の説明、イ号物件であることに争いのない検甲第二号証、同検乙第一号証により認められるので、以下イ号意匠が本件意匠に類似するか否かにつき検討する。
1 前記甲第一二号証によれば本件意匠の構成は次のとおりであると認められる。
(イ) ブラシは台座部分と柄からなり、
(ロ) 台座部分の両端には左右対称に九個の割り込みを設け(ハ) 台座部分には円錐状の歯を三〇個設け、歯は縦に三列(一列一〇個)で左右の二列の歯は台座部分の割り込みの嶺に設けられ、真中の一列の歯は対応する左右の残りの列の歯に比して少し上部にずれる位置にある。
(ニ) ブラシ側面からみると、柄から台座にかけてゆるやかに湾曲している。
2 前記検甲第二号証、検乙第一号証によればイ号意匠の構成は次のとおりである。
(イ)′ ブラシは台座部分と柄からなり、
(ロ)′ 台座部分の両端には左右対称に九個の割り込みを設け(ハ)′ 台座部分には円錐状の歯を三一個設け、歯は縦に三列(真中の列が一一個、左右が一〇個)で左右の二列の歯は台座部分の割り込みの嶺に設けられ、真中の一列の歯は、柄に最も近い一本を除き、対応する左右の残りの列の歯に比して上部にずれる位置にある。
(ニ)′ ブラシ側面からみると、柄から台座にかけてゆるやかに湾曲している。
3 そこで、イ号意匠の構成と本件意匠の構成を対比すると、イ号意匠は本件意匠より歯が一本多いほか同一であり、歯が一本多いことは意匠全体からみるとささいな点であり、両者の美感を異ならしめるものではない。よつて、イ号意匠は本件意匠と類似するものといわざるをえない。
なお、被告は本件意匠権は歯の一本少ないものをわざわざ登録したものであり、
一本多い形態を有するものは本件意匠と類似しない旨主張するが、本件意匠公報(甲第一二証)中には権利者がかかる限定をしたことをうかがわせる記載はみあたらず、本件意匠出願日の昭和五五年一〇月一五日前に一本多い形態のヘアーブラシが公知であつたことを認めるに足りる証拠もなく、本件意匠とイ号意匠は全体としての美感が同一である以上、これを類似するものといつてさしつかえない。
五 成立に争いのない甲第三七、三八号証の各一、二、原告代表者本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められる甲第三九号証、原告代表者(第一回)、被告代表者各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
1 被告は昭和五六年一〇月ころトリコインダストリー社の【B】から原告商品を見せられ、それと同じような物を作るよう依頼され、イ号物件を製造販売するようになり、イ号意匠は前記のとおり本件意匠とほぼ同一であること。
2 原告代表者は昭和五六年一一月末ころ、被告代表者に口頭でイ号物件の製造販売を中止するよう警告したこと。
3 原告及び【A】は昭和五六年一二月一二日付内容証明郵便でイ号物件の製造販売を中止するよう警告し、同書面中には「…理髪用ブラシは、通知人【A】が考案し、意匠等の出願をなすと共に、右に基き通知人大洋商会において従来から販売してきている「パンチブラシU」とあらゆる点で同一ないし類似する商品です」と記載されている。
更に【A】及び原告は共同名義で昭和五七年一月二一日付内容証明郵便でイ号物件の製造販売を中止するよう警告し、その中で「通知人らは本件ブラシに関する意匠登録の出願も昭和五五年一〇月一五日付で出願済であることを付記しておきます。(意願昭五五ー〇四三二一三)」と記載している。
4 原告は本訴提起にあたり昭和五七年九月一一日付訴状の中で、【A】がパンチパーマ用のセツトブラシの開発をし、本件意匠の登録出願をすませていること、また、原告が原告商品の製造販売を一手になすことに話し合いが成立した旨記載されている。
5 前記のとおり本件意匠は昭和五八年三月三一日登録され、被告はその後もイ号物件を製造販売し続けている。
そして、右の事実を総合すると、被告は、本件意匠が登録された昭和五八年三月三一日以降も、イ号物件を製造販売することが原告の完全独占的通常実施権者としての地位を侵害することを認識しながら、あえてイ号物件の製造販売を継続したものと認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
したがつて、被告は原告の蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。
六1 被告は、昭和五八年三月三一日以降イ号物件を一七四六本製造販売し、一本につき三〇円の利益のあつたことを自陳している。
2 原告は、被告のイ号物件の販売のため一か月あたり本件意匠の実施品である原告商品一万三五〇〇本の売上が減少し、イ号物件の販売数量は二〇万本を超えると主張し、原告代表者本人尋問の結果(第一回)中に二〇万本という数字が供述され、被告はイ号物件の金型を所有している(被告代表者本人尋問の結果)が、このことから直ちにイ号物件の販売数量を二〇万本と推認することはできず、また、原告の売上減少の証拠として提出された前記甲第一三号証(昭和五六年六月から同五八年五月までの(ただし、同五七年一〇月を除く)原告の原告商品の販売数量を集計したもの)、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第四五号証(昭和五六年六月一日から同五七年五月三一日までの第三三期決算報告書)、同第四六号証(昭和五七年六月一日から同五八年五月三一日までの第三四期決算報告書)からは後記理由により被告のイ号物件の販売数量を推認できず、結局、被告がイ号物件を昭和五八年三月三一日以降も製造・販売したことにより、原告の同日以降の売上が毎月一万三五〇〇本ずつ減少したことが認められないのは勿論のこと、イ号物件の同日以降現在までの販売数量についても、被告の自陳する一七四六本を超える数量についてはこれを認めるに足りる証拠はないことに帰する。
3 すなわち、
(一) 被告はイ号物件を昭和五六年一一月から製造販売しており(被告代表者本人尋問の結果)、甲第一三号証では、原告の原告商品の販売数量は昭和五六年六月四八〇本、七月九〇〇〇本、八月一万六六五三本、九月一万九八六八本、一〇月七九五〇本、一一月三五九三本、一二月二五三四本の後は毎月数百本であること(ただし同五七年七月は三五八二本)が認められるものの、原告は前記のとおり昭和五六年八、九月に合計一万八〇〇〇本を米正株式会社に販売し、このことが原告商品の同年一〇月までの売上げを大きくしており、原告代表者本人尋問の結果(第一回)により真正に成立したと認められる甲第一八ないし第三六号証(各枝番を含む)をみると、原告は昭和五六年一〇月以降右訴外会社に販売していないが、被告がイ号物件を右訴外会社に販売したことを認めるに足りる証拠はない。
(二) 甲第四五、四六号証では、原告の売上総利益、売上高は第三三期では二億一五八三万二一三三円、一二億三〇四一万三四七六円であるのに対し、第三四期では一億七六六六万四二七〇円、一一億九六二一万七六〇六円であることが認められるものの、原告の扱つている商品は原告商品以外にもあり(前記甲一八ないし第三六号証(枝番を含む)参照)、甲第四五、四六号証で認められる売上減が原告商品のものと速断できない。
(三) 被告代表者本人尋問の結果によれば、昭和五七年一月ころから原告商品と同様の形状の香港製品が国内に出回つたことが認められ、原告商品の売上減が被告のためだけとは断定しがたい。
(四) また、被告がイ号物件を製造販売しだした昭和五六年一一月から本件意匠が登録になつた昭和五八年三月三一日までかなりの期間があり、右同日以降の原告商品の需要は発売当初よりかなり減少していると推測される。
4 そして、前記(三)、(四)の事情の下では、被告のイ号物件一七四六本の販売がなければ原告は原告商品を同数販売しえたと認めることは困難である。
5 しかし、前記のとおり原告は本件意匠権の完全独占的通常実施権者であり、本件意匠にかかる利益を独占しえる地位を有し、
イ号物件は本件意匠権を侵害するものであるから、特段の事情のないかぎり、被告がイ号物件の販売によりあげた利益額をもつて、被告の行為と相当因果関係にある損害額と推認するのが相当である。
したがつて、被告のイ号物件の販売行為により原告が蒙つた損害は、1746×30の計算式により五万二三八〇円を下らないものと認められる。
6 また、原告は昭和二九年に創業し、大阪の業界で四、五位の規模の会社であり(原告代表者本人尋問の結果(第一回))、前記のとおり、権利者の【A】から本件意匠権の完全独占的通常実施権をえて原告商品を製造販売し、広告宣伝してきたこと、それに対し、被告は原告からの再三にわたるイ号物件の製造販売中止の申入れにもかかわらずこれに応ぜず、イ号物件を原告商品より安く販売し(被告代表者本人尋問の結果)、故意に原告の完全独占的通常実施権者としての地位を侵害し続け、原告をして本件訴訟の維持、訴訟費用、弁護士費用等の出費を余儀なくせしめていることを総合すると、被告の侵害行為により原告の信用が失墜したとはいえないまでも、原告は被告の侵害行為により、前記販売利益による損害とは別にその補填では償いきれない無形損害を蒙つていると認めるのが相当であり、これを金銭的に評価すると一〇〇万円を下らないというべきである。
結論
以上のとおり、原告の本訴請求は、損害金一〇五万二三八〇円及びこれに対する不法行為の日以後であることが明らかな昭和五九年一〇月一一日(口頭弁論終結日)から支払済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条91条を、仮執行宣言につき同法196条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 潮久郎
裁判官 紙浦健二
裁判官 徳永幸蔵
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