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関連審決 審判1977-12780
関連ワード 物品 /  物品の形状 /  形状 /  意匠に係る物品 /  類似する意匠 /  類似の意匠 /  意匠の類否 /  全体観察 /  ありふれた部分 /  類似性(類否判断) / 
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事件 昭和 55年 (行ケ) 349号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1981/06/17
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
原告は、「特許庁が昭和五二年審判第一二七八〇号事件について昭和五五年九月二六日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者の主張
(原告) 請求原因一 特許庁における手続の経緯 原告は、登録第二九〇九九五号類似第二号意匠(登録出願昭和四五年三月三〇日、設定登録昭和四八年一月二五日、意匠に係る物品「椅子」、以下「本件意匠」という。)の意匠権者であるところ、被告は、昭和五二年九月二六日、本件意匠の登録を無効にすることについて審判を請求し、この請求は昭和五二年審判第一二七八〇号事件として審理されたが、昭和五五年九月二六日、本件意匠の登録を無効にする旨の審決があり、その謄本は同年一〇月一八日原告に送達された。
二 審決の理由の要点 本件意匠は、別紙第一図面に示すとおりの形状から成るものであり、座、背もたれを枠体で固着した座席部と、この両側下方略中央に設けられた脚部から成る肘無しのものであつて、座席部は、座が略角丸正方形板状、背もたれが略角丸横長方形板状で、枠体は、側面からみて角部を弧状としたL字状で、座、背もたれの外縁に沿つて一体に形成されており、この垂直部前面上方に背もたれ、水平部上面略全面に座を固着したものであり、脚部は、縦長逆二等辺三角形板状の座席支持部内側に、逆T字状の脚の垂直柱を挿入して上下調節可能としたもので、垂直柱下方には、水平な補強材を設けたという基本的な構成態様をなすもので、各部の態様を子細にみると、脚部は、座席支持部下端(頂部)は水平で、中央長手方向に同孔を等間隔に穿ち、その円孔には円状の係止具が二個設けられ、逆T字状脚の水平棒両端には保護具が嵌合されているもので、座奥行を1とすると、背もたれ部の高さは略3分の1、座席支持部の高さは略2分の1、脚水平棒の長さは略1、表われている垂直柱の高さは略3分の1である。
これに対し、登録第二六四四五二号類似第五号意匠(登録出願昭和四三年三月二二日、設定登録昭和四七年八月五日、意匠に係る物品「いす」、以下「引用意匠」という。)は、別紙第二図面に示すとおりの形状から成るものであり、座、背もたれを枠体で固着した座席部と、この両側下方略中央に設けられた脚部から成る肘無しのものであつて、座席部は、座が略角丸正方形板状、背もたれが略角丸横長長方形板状で、枠体は、側面からみて角部を弧状としたL字状で、座、背もたれの外縁に沿つて一体に形成されており、この垂直部前面上方に背もたれ、水平部上面略全面に座を固着したものであり、脚部は、縦長逆二等辺三角形板状の座席支持部内側に、逆T字状の脚の垂直柱を挿入して上下調節可能としたもので、垂直柱下方には、水平な補強材を設けたという基本的な構成態様をなすもので、各部の態様を子細にみると、座後辺は弧状で角部は角張り、背もたれ下方角部は角張つており、枠体は背もたれ部がやや後方に傾斜し、脚部は、座席支持部下端(頂部)は水平で、
上方は外側に向つて僅かに弧状に広がり、中央長手方向に円孔を等間隔に穿ち、その円孔には円状の係止具が二個設けられ、逆T字状脚の水平棒両端には保護具が嵌合されているもので、座奥行の長さを1とすると、背もたれ部の高さ、座席支持部の高さ、脚水平棒の長さは略1で、表われている垂直柱の高さは略20分の1である。
そこで、両意匠を対比すると、両者は、物品が同一であり、形態についても、基本的な構成態様が共通し、各部の態様においても、脚部の座席支持部下端(頂部)が水平で、中央長手方向に円孔を等間隔に穿ち、その円孔には円状の係止具が二個設けられ、逆T字状の水平棒両端には保護具が棒合されている点においては共通しているものである。ただ、各部の態様において、座、背もたれの態様、枠体の傾斜角、座席支持部上方の態様、各部の構成比及び逆T字状脚垂直柱の表わされた高さ等において差異があるものである。これらの共通点、差異点を全体として比較検討すると、共通点中、基本的な構成態様は看者の注意をひくところであるが、とりわけ、脚部の座席支持部を縦長逆二等辺三角板状とした態様は、特徴があり、視覚的に最も強く看者に印象づけられるところであつて、両形態の支配的態様といえるものであり、類否を左右する主要素と認められる。これに対し、座、背もたれの態様(座後方、背もたれ下方)、枠体の傾斜角等、座席部の態様における差異は、この種の構成からなる座席部に種々の態様がみられるものであるうえに、両者の態様に特徴があるものでなく、座席支持部上方の態様における差異にしても、限られた部位における僅かなものであり、各部の構成比における差異にしても、僅かで基本的な構成に変化を与える程でないものであつて、これら両者の差異は、いずれも軽微な差異であるから、これらの差異が相俟つた効果を勘案しても、その差異は、前記した支配的態様を包含した共通点からみれば微弱であつて、全体に影響を及ぼすものとはいえない。また、逆T字状脚垂直柱の表わされた高さにおける差異は、この種物品が、脚部において、その高さを上下調節可能とすることは極めて普通に行われているものであり、両意匠についても、その旨の記載はないが、座席支持部には、中央長手方向に円孔(表わされた円形は、その物品の性質から係止のための貫通孔と認められる。)を等間隔に穿ち、係止具が二個設けられている点からみて、
上下調節可能とした構造と認定するのが必然であり、この事からみれば、その差異は、単に係止位置の相違であつて、これを意匠上の差異とは到底認めることができない。なお、図示された状態で検討しても、垂直柱の高さの差異は、限られた部位の単なる高低の差異であつて、全体からみれば、部分的な差異というほかはない。
以上のとおりであるから、類否を左右する主要素において共通し、その他の点においても共通したところのある両意匠は、前記のような差異があつても、全体として観察した場合には、類似するものといわざるをえない。
そうして、本件意匠の登録出願は引用意匠の登録出願の後願にかかるものであるから、意匠法第9条第1項の規定に違反して登録されたものであり、その登録を無効とすべきものである。
三 審決の取消事由 審決は、本件意匠と引用意匠との対比において、意匠の構成態様の認定を誤り、
その結果、両意匠が類似の意匠であるとの誤つた判断をしたものであるから、違法である。以下に詳述する。
1 審決は、両意匠を対比して、類否を判断する支配的態様をなす主要素は、脚部の座席支持部を縦長逆二等辺三角形板状とした態様であるとし、該部における両意匠の対比をより具体的に説明せずに、単に、「類否を左右する主要素において共通し、」とだけ座席支持部を抽出して認定しているが、両意匠の対比は、逆T字状脚垂直柱と座席支持部とが一体となつた構成態様をもつて、類否の判断をするのが妥当であつて、部分的に抽出、すなわち、脚部の座席支持部と逆T字状脚垂直柱とを区分して、両意匠の類否を判断しているのは失当である。
2 審決は、枠体の傾斜角度の態様における差異は、軽微な差異であり、全体的に影響を及ぼすものとはいえないとしているが、本件意匠は、水平状の座席部に対して直角状に折曲した態様となつているのに対し、引用意匠は、約一五度傾斜し、看者に対し視覚的に強く印象づける態様であつて、これを無視している審決の判断は妥当でない。
3 審決は、両意匠の座席部の態様を、座席支持部上方の態様における差異にしても限られた部位における僅かなものであつて、軽微な差異であるから全体に影響を及ぼすものではないとしているが、本件意匠は、側面からみて水平状になつた構成態様になつているのに対し、引用意匠は、彎曲状の構成態様であつて、看者は比較的強い印象を与えるものであるから、これを軽視している審決の判断は妥当でない。
4 審決は、逆T字状脚垂直柱の表された高さの差異は、この種物品が、脚部において、その高さを上下調節可能とすることは普通に行われており、両意匠の差異は、単に係止位置の相違だけで、意匠上の差異とは認められないとしているが、この認定は誤りである。
すなわち、引用意匠の椅子は、係止具を介して組立てられた意匠図面に表示限定された構造のものであつて、上下調節が自由自在にできないものである。何故ならば、上下調節をして、仮に逆T字状脚垂直柱の上方へ座席支持部を上昇せしめて組立て状態を変更しようものなら、係止具によつて固着されても、前記垂直柱と座席支持部との間が密着せずに傾斜して間隙を生じ、不安定な状態を作り出し、そのような状態で腰掛ければ、左右両側方向に揺動する可能性を有しているからである。
したがつて、引用意匠の構造は、図面のとおり限定された構造でなくてはならないものである。現に、引用意匠の登録出願に当つても、上下調節可能の旨は図面に何ら記載されていない。
そして、本件意匠もまた、椅子の高さを調節可能にしたものではない。何故ならば、本件意匠の椅子は、登録出願の願書に脚部分が螺子調節により上下に伸縮して動く旨の説明記載がされていないし、本件意匠の椅子は、主として学校教室における学童用の椅子として使用されるものであつて、仮に体力のさほどない学童らの手によつて簡単に係止具が操作しうるものとすれば、椅子の移動が頻繁に繰返されているうちに緩くなつてガタ付き始め、椅子の使用に支障を来す結果となるし、本件意匠の係止具は、二本の手指でやつとつまめる程度の小さな形状であつて、手指では到底緊締等ができるものではなく、特定の締め付け具を利用しなければ緊締できないものであるから、これを大人の使用する椅子における頭部の大きい係止具と同一部類のものとして、椅子の高さを調節可能にした構造ということはできないからである。
本件意匠の左側図面にみられる二重円形によつて表示されている係止具は、慣用手段として使用されている頭部が小さいボルト、ナツトを介して外れないように強固に固着したものであり、その他の円形は、単なる装飾用円形を表示しただけのものである。
(被告)請求原因の認否と主張一 請求原因一及び同二の事実は認める。
二 同三の主張は争う。
1 その1の主張について 通常一般に、意匠の類否判断は、個々の要素にとらわれることなく、全体観察により総合して判断すべきものである。審決においても、脚部の座席支持部を縦長逆二等辺三角形板状とした態様が本件意匠の大きなウエイトをもつ部分であり、
逆T字状脚垂直柱の部分はありふれた部分であると評価されたにすぎず、原告が主張するように、座席支持部と脚垂直柱とを区分して、部分的に抽出して類否を判断しているものではない。
2 その2の主張について 本件における枠体の傾斜角の差異点は、この種の椅子の態様からみれば、取り立てて変つた態様とは認められず、本件意匠の特徴とはいえない。したがつて、全体観察からすれば、枠体の傾斜角の差異は軽微な差異というべきものである。
3 その3の主張について 本件における座席部の態様の差異は、この種の椅子の態様からみれば、座席支持部上方が、水平状か、僅かに彎曲状かという軽微な差異にすぎず、全体観察からすれば、両意匠の対比に当つて重要な要素とはならないものである。
4 その4の主張について 原告は、引用意匠における脚部の座席支持部と逆T字状脚垂直柱とは、高さを上下調節可能とすることができない構造のものであると主張するが、
@ この種の椅子においては、その高さを上下調節可能とすることは、その当時極めて普通に行われているものであつたこと、
A 座席支持部には、中央長手方向に係止用貫通孔を等間隔に穿ち、係止具が二個設けられていること、
の二点を考えれば、むしろ、上下調節が不可能という方が不自然である。
また、原告は、本件意匠の左側面図の脚部の円状の係止具は、「慣用手段として使用されている、頭部が小さいボルト、ナツトを介して外れないように強固に固着したものである。」と主張するが、本件意匠の係止具が原告主張のようにボルト、
ナツトで構成されているとすれば、当然、この二個の係止具は固着されていたのではなく、取り外し可能の螺着であり、このボルト、ナツトをスパナ又はレンチ等、
ボルト頭又はナツトをまわす工具を使用して上下調節可能とした構造であることが明白である。
また、本件意匠の座席支持部の中央長手方向の円孔も等間隔に設けられているのであり、かつ、物品の性質上からも、これらの円孔は係止のための貫通孔と解するのが自然であつて、これを原告主張のように単なる装飾用円形を表示したものとするのは当らない。
また、原告は、本件意匠の椅子は、願書に脚部分が螺子調節により上下に伸縮して動く旨の記載がないから、これを上下調節可能の構造と認定するのは誤りであると主張するが、この種の物品が脚部においてその高さを上下調節可能とすることは極めて普通に行われていたこと、座席支持部には中央長手方向に円孔(前述のとおり、係止のための貫通孔と認められる。)を等間隔に穿ち、係止具が二個設けられていることの二点からみて、上下調節可能とした構造のものと解する方が自然であり、願書にその旨の記載がないから上下調節不可能のものとすることは、むしろ不自然である。
意匠法施行規則第2条は、「願書に添付すべき図面は、様式第五により三通作成しなければならない。」と規定し、その「様式第五」の「備考17」には、「動くもの、開くもの等の意匠であつて、その動き、開き等の意匠の変化の前後の状態の図面を描かなければ、その意匠を十分表現することができないものについては、その動き、開き等の意匠の変化の前後の状態がわかるような図面を作成する。」と定められているにとどまり、よくわかるものまで記載せよとはしていない。
本件両意匠の願書においては、すでに脚部分を上下調節するものが極めて普通に行なわれていたので、わざわざ記載する必要がなかつたのである。また、この種の椅子において、脚部の上下伸縮する旨の記載をした意匠公報は全く見当らず、脚部の上下調節可能なことは図面上明白であつたので、願書にその旨の記載がなくても、添付図面からそのように理解でき、作図する必要はなかつたのである。
したがつて、願書に原告主張のような記載がないからといつて、そのことから直ちに上下調節を可能とする構造のものではないとするのは当らない。
更に、原告は、本件意匠の椅子は学童用のもので、係止具を特定の締め付け具で頑丈に締め付けてあり、一方、大人の使用する椅子は高さが自由に調節できるように係止具の頭部が大きく形成されているとし、これらを同一部類のものとして前者も高さ調節可能の構造と認定するのは妥当でないと主張するが、これは何を主張しようとするのか不明である。
なお、原告は、引用意匠について、逆T字状脚垂直柱と脚部が係止されても、垂直柱と座席支持部との間が密着せず傾斜して間隙が生じると主張するが、何故右の逆T字状脚垂直柱が傾斜しているのか不明である。
証拠関係(省略)
理 由一 請求原因一及び同二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 その1の主張について 原告は、審決が、本件意匠と引用意匠との対比に当り、座席支持部と逆T字状脚垂直柱について、単に座席支持部のみを部分的に抽出して判断しており、両者を一体となつた構成態様として判断していないのは不当である旨主張する。
しかしながら、前記当事者間に争いのない請求原因二の事実によれば、審決は、
「これらの共通点、差異点を全体として比較検討すると、……とりわけ、脚部の座席支持部を縦長逆二等辺三角形板状とした態様は、特徴があり、視覚的に最も強く看者に印象づけられるところであつて、両形態の支配的態様といえるものであり、
類否を左右する主要素と認められる。これに対し、……逆T字状脚垂直柱の表わされた高さにおける差異は、……意匠上の差異とは到底認めることができない。なお、図示された状態で検討しても、……全体からみれば、部分的な差異というほかはない。」としているのであつて、原告主張のように、座席支持部と脚垂直柱とを区分して、部分的に抽出し、両意匠の類否を判断している訳のものではないことが明らかであるから、原告の右主張は理由がない。
2 その2の主張について 原告は、審決が、枠体の傾斜角度の態様における差異は軽微な差異で全体的に影響を及ぼすものとはいえないとしたのは不当であると主張する。
成立に争いのない甲第二号証と第三号証によれば、確かに、本件意匠においては、水平状の座席部に対して枠体は直角状に折曲した態様となつているのに対し、
引用意匠においては、略水平状の座席部に対し枠体は約一五度後方に傾斜して折曲した態様となつていることが認められる。
しかしながら、右傾斜角の差異は、この種の椅子の態様からみれば取り立てて変つた態様とは認められず、両意匠をそれぞれ全体的に観察すれば、看者に対し格別強い印象を与える程のものではない軽微な差異というべきものであつて、審決の認定に誤りはなく、原告の右主張は理由がない。
3 その3の主張について 原告は、審決が、座席支持部上方の態様における差異は軽微な差異で全体に影響を及ぼすものではないとしたのは不当であると主張する。
前掲甲第二号証及び第三号証によれば、確かに、本件意匠においては、座席支持部上方が、水平状となつた態様であるのに対し、引用意匠においては、略水平状とはいえ僅かな彎曲状を帯びた態様であることが認められる。
しかしながら、右態様の差異は、この種の椅子の態様からみれば取り立てて変つた態様とは認められず、両意匠をそれぞれ全体的に観察すれば、看者に対し格別強い印象を与える程のものではない軽微な差異というべきものであり、審決の認定に誤りはなく、原告の右主張は理由がない。
4 その4の主張について 原告は、審決が、両意匠における逆T字状脚垂直柱の表わされた高さの差異につき、その高さを上下調節可能とする態様のものであるとしたのは誤りであると主張する。
よつて検討するに、本件意匠の登録出願当時(昭和四五年三月三〇日当時)及び引用意匠の登録出願当時(昭和四三年三月二二日当時)において、両意匠に係る椅子については、その高さを上下調節可能とすることが極めて普通に行なわれていたことは当裁判所に顕著な事実である(なお、成立に争いのない甲第一八号証ないし第二二号証参照)。
そして、前掲甲第二号証、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、両意匠は、それぞれ、逆T字状脚垂直柱とともに、座席支持部には中央長手方向に直線上に並んだ二つの二重円形及び複数の円形が略等間隔に表わされていることが認められ、二重円形と円形とが表わされている右形状と逆T字状脚垂直柱が相関的に表わされていること並に前記顕著な事実を併せ考えれば、両意匠における二重円形及び円形は、
願書に添付した図面そのものから明らかに係止具及び座席支持部の係止用貫通孔を表示したものと認めることができる(右二重円形が係止具を表わしたものであることについては当事者間に争いがない。)。
そうすれば、本件意匠及び引用意匠の椅子は、ともに、逆T字状脚垂直柱と右係止具及び座席支持部の係止用貫通孔によつて、その高さを上下調節可能とする態様のものであると認めるのが相当であつて、審決の認定に誤りはない。
原告は、両意匠の椅子は、いずれも、願書に脚部分が上下に伸縮して動く旨の記載がされていないから、これを上下調節可能とした態様のものと認定するのは誤りであると主張する。
ところで、意匠法第6条第5項は、「意匠に係る物品形状……がその物品の有する機能に基いて変化する場合において、その変化の前後にわたるその物品の形状……について意匠登録を受けようとするときは、その旨及びその物品の当該機能の説明を願書に記載しなければならない。」と規定しているが、この規定は、意匠に係る物品形状等がその物品の有する機能に基いて変化する場合において、その変化の前後にわたるその物品の形状等について意匠登録を受けようとするときは、それがいかなる程度、内容の変化であろうとも逐一、ことごとく、その旨及びその物品の当該機能の説明を願書に記載しなければならないとまで定めているものではなく、その必要がない場合、たとえば、願書に添付された図面それ自体から当該機能及びその変化の前後にわたるその物品の形状等が明らかに認識できる程度、内容のものである場合には、これを省略することを排斥しない趣旨の規定であると解するのが相当である。(かく解すべきことは、意匠法第24条の規定、ことに、願書に添付した図面が、もともと意匠登録を受けようとする意匠を特定して表示するためのものであることからする当然の帰結である。そして、その点について、意匠登録を受けようとするものでないときは、かえつて、その旨が明らかにされるべきである。)意匠法施行規則第2条に規定する様式第五(その備考17)は、この趣旨をうけて、「動くもの、開くもの等の意匠であつて、その動き、開き等の意匠の変化の前後の状態の図面を描かなければその意匠を十分表現することができないものについては、その動き、開き等の意匠の変化の前後の状態がわかるような図面を作成する。」と規定していると解するのが合理的である。
そして、本件における両意匠は、前記認定のとおり、願書に添付した図面それ自体から明らかに、逆T字状脚垂直柱と係止具及び座席支持部の係止用貫通孔によつて、その高さを上下調節可能とする態様のものと認めることができるのであるから、原告の右主張は理由がない。
原告は、引用意匠の椅子は、座席支持部を上昇せしめれば、逆T字状脚垂直柱と座席支持部との間が密着せずに傾斜して間隙を生じ、不安定な状態を生じ、そのような状態で腰掛ければ左右両側方向に揺動する可能性があるから、上下調節可能とする態様のものとするのは誤りであると主張するけれども、引用意匠の図面からそのような事実は認められないし、他にその事実を認めるに足りる証拠はないので、
原告の右主張は理由がない。
さらに、原告は、本件意匠の椅子は、学童用のもので、係止具を特定の締め付け具で頑丈に締め付けてあつて、大人の使用する椅子における係止具と同一部類に属するものとして、高さを調節可能とした態様のものとするのは誤りであると主張するけれども、その主張の内容はいずれも本件意匠の椅子がその高さを上下調節可能とする態様のものであると認定するに妨げとなるべきものではないから、原告の右主張も理由がない。
5 両意匠の類否について そして、本件意匠と引用意匠とを対比すると、前掲甲第二号証及び第三号証によれば、両意匠は、それぞれ、審決認定のとおりの形状、態様のものであることが認められ、審決認定の理由と同一の理由によつて、両意匠は、全体として類似する意匠と認めるのが相当であるから、審決の判断に誤りはなく、両意匠が非類似の意匠であるとする原告の主張は理由がない。
三 以上のとおりであり、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 藤井俊彦
裁判官 清野寛甫
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