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事件 昭和 53年 (ネ) 509号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1981/03/04
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原判決を左のとおり変更する。
1 控訴人株式会社洋釣漁具は、被控訴人【A】に対し、別紙イ号図面及びその説明記載の擬餌を製造し、譲渡し、又は譲渡のため展示してはならない。
2 控訴人株式会社洋釣漁具は、被控訴人【A】に対し、その所有する別紙イ号図面及びその説明記載の擬餌の完成品を廃棄せよ。
3 控訴人【B】は、被控訴人【A】に対し、金一五〇万円及びこれに対する昭和四七年一月二一日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 控訴人株式会社洋釣漁具は、被控訴人【A】に対し、金九〇万円及びこれに対する昭和四七年一月二一日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを三分し、その一を被控訴人らの負担とし、その余を控訴人らの負担とする。
三 この判決は、第一項の3及び4について仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者が求めた裁判
控訴人らは、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、
被控訴人らは、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 被控訴人【A】(以下、「被控訴人【A】」という。)は、意匠に係る物品を「擬餌」とする別紙本意匠図面記載の登録第二五九四四七号意匠(昭和三九年四月二八日出願、昭和四一年五月一〇日登録。以下「本件A意匠」といい、その意匠権を「本件A意匠権」という。)の意匠権者である。
被控訴人株式会社ヤマシタ(以下、「被控訴人会社」という。)は、昭和四一年五月一〇日ころ、被控訴人【A】から本件A意匠権について通常実施権を許諾された。
二 本件A意匠権の要部は、
(1) 頭部と胴部によつて構成され、その長さの比率は約一対四である。
(2) 頭部は弾頭状であり、その胴部寄り約四分の一付近がやや括り状の頭部をなしながら胴部に連接する。
(3) 胴部は末端まで縦方向に直線状に均等幅の約二〇本の細条片に分断され、
それらが総体として円筒状をなす。
(4) 頭部に一対の目玉ようの模様が左右対称に付されている。
(5) 素材全体に粉粒が混入されている。
の諸点である。
三 控訴人【B】(以下、「控訴人【B】」という。)は昭和四二年一月ころから、控訴人株式会社洋釣漁具(旧商号有限会社洋釣漁具製作所。以下、「控訴人会社」という。)は昭和四五年七月一日から、それぞれ別紙イ号図面及びその説明記載の擬餌(以下、「イ号物件」という。)を製造販売している。
四 イ号物件の意匠は、本件A意匠と基本構成を同じくするものである。すなわち、イ号物件は、頭部と胴部とによつて構成され、その長さの比率は約一対四であり、頭部の胴部寄り約四分の一付近がやや括り状の頭部をなしながら、胴部に連接するとともに、胴部は末端まで縦方向に直線状に均等幅の約二〇本の細条片に分断され、それらが総体として円筒状をなし、頭部に一対の目玉ようの模様が左右対称に付され、素材全体に粉粒が混入している。なお、頭部の小突起は、頭部の形状に対して格別の印象を与えるものではないから、基本的構成ではない。
五 控訴人【B】は、昭和四二年一月ころから昭和四五年六月三〇日までの間にイ号物件(擬餌)を製造販売して金六、一五八万円の売上げを得、控訴人会社は、昭和四五年七月一日から昭和四六年一二月までの間に同様にして金八、一六〇万円の売上げを得ている。被控訴人会社は、釣具の製造販売を業とするものであるが、控訴人【B】の右製造販売により金五、〇〇〇万円を下らない擬餌の売上げを妨げられ、控訴人会社の右製造販売により金三、〇〇〇万円を下らない擬餌の売上げを妨げられた。
控訴人【B】は、かつて被控訴人会社の従業員として擬餌の製造等に従事し、被控訴人【A】の本件A意匠権及び被控訴人会社の通常実施権の存在を知つていたものであり、控訴人会社は、控訴人【B】をその代表者とするものである。
被控訴人【A】は、本件A意匠権について被控訴人会社に通常実施権を許諾し、
被控訴人会社の売上げの三%を実施料として取得する約定であつたから、控訴人らの右製造販売行為により、被控訴人会社の右売上げ減少額に見合う実施料を得ることができなくなり、その実施料相当額の損害をこうむつた。その金額は、控訴人【B】について金五、〇〇〇万円の三%である金一五〇万円、控訴人会社について金三、〇〇〇万円の三%である金九〇万円である。
被控訴人会社は、前記のとおり、被控訴人【A】より本件A意匠権について通常実施権を許諾され、本件A意匠を実施しているものであるが、他方、被控訴人【A】は自ら権利を実施することなく、また、被控訴人会社以外には実施権を与えていないので、被控訴人会社は独占的に本件A意匠を実施し、あたかも専用実施権者に類した関係にあつた。右のような場合には、意匠法第39条第1項の類推適用があるものというべきである。けだし、専用実施権通常実施権との差異は、主として、差止請求権の有無にあるのであつて、損害の範囲について別段の差異を認めることは適当でないし、また、現実的にも、顧客の限られた「擬餌」のような独特な商品の市場において、控訴人らの侵害行為がなければ、その顧客は商品を被控訴人会社から購入せざるをえないこととなつて、そのシエアーは被控訴人会社に属すべきものであるから、控訴人らのあげた売上及びその利益は、被控訴人会社の得べかりしものであつたと考えられ損害の実質は、右規定の類推によるものと同額に帰するものである。被控訴人会社においては、売上げの少なくとも三〇%が利益となるのが通常であるから、被控訴人会社の得べかりし利益は、控訴人【B】について金五、〇〇〇万円の三〇%である金一、五〇〇万円、控訴人会社について金三、〇〇〇万円の三〇%である金九〇〇万円であるところ、損害額は、右金額から前記実施料相当額をそれぞれ控除した金額となり、被控訴人会社は、控訴人【B】によつて金一、三五〇万円、控訴人会社によつて金八一〇万円の損害をこうむつたものである。
六 よつて、被控訴人【A】は、本件A意匠権に基づき、控訴人会社に対し、別紙イ号図面及びその説明記載の擬餌の製造、譲渡、譲渡のための展示の禁止、控訴人両名に対し、その所持する別紙イ号図面及びその説明記載の擬餌の完成品の廃棄を求め、損害賠償として、控訴人【B】に対し実施料相当額金一五〇万円、控訴人会社に対し実施料相当額金九〇万円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年一月二一日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求め、被控訴人会社は、本件A意匠権についての通常実施権に基づき、損害賠償として、控訴人【B】に対し金一、三五〇万円、控訴人会社に対し金八一〇万円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四七年一月二一日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
控訴人らの陳述
一 請求の原因一の事実中、被控訴人【A】が本件A意匠の意匠権者であること、
本件A意匠の意匠登録出願日、登録日、意匠に係る物品が被控訴人ら主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は不知。
二 請求の原因二の主張は争う。
本件A意匠の意匠公報によれば、本件A意匠は次のように構成されている。
(あ) 全体がタコ状であること。
(い) 頭部と胴部とによつて構成されていること。
(う) 頭部は全長の約五分の一の長さを有すること。
(え) 頭部はほぼ弾頭状をなしていること。
(お) 頭部先端は球形をなしていること。
(か) 頭部後端は括り状をなし、胴部に連設していること。
(き) 胴部の眼玉様の模様の直ぐ下の二重線を起点として末端まで、縦方向に直線状に均等幅の切れ目を入れ、約二〇本の脚状縞模様を作つていること。
(く) 胴部末端寄りで、左右対称の位置に、脚二本が相似形をもつて外側に突出、彎曲しており、その他の脚は整然と揃つて伸びていること。
(け) 頭部と胴部とに跨がり、括り状部分の両側に二重楕円形の眼玉様の模様一対を有すること。
(こ) 頭部先端寄り部位及び胴部中の脚の起点部に各二重線を、頭部、胴部全面に粉点を描出していること。
(さ) 胴部は総体として中太り筒形をなしていること、したがつて、一本一本の脚も中太り先細りの形状をなしていること。
ところで、本件A意匠の出願前に、公知公用されていた乙第六号証(カタログ)中のNo・1の擬餌は、次の形状を具えている。
(ア) 全体がタコ状であること。
(イ) 頭部と胴部とによつて構成されていること。
(ウ) 頭部は全長の約五分の一の長さを有すること。
(エ) 頭部はほぼ弾頭状をなしていること。
(オ) 頭部先端はほぼ円くなつて行くが、その最先端には小突起を有すること。
(カ) 頭部後端は括り状となり、胴部に連設していること。
(キ) 胴部の眼玉様の模様の下の近くから末端まで、縦方向へ少なくとも約一六本の細条片に分断されていること。
意匠権にかかる意匠の要部は、少なくとも侵害訴訟においては、出願時における公知公用の範ちゆうに属するものを除いて、創作部分を探求し、当該創作部分にこれを求めるべきものである。かかる観点からすれば、被控訴人らが本件A意匠の要部として列挙する(1)ないし(5)の諸点は、いずれも意匠登録出願時において公知公用に属するものであり、創作とはいいがたいものであるから、これらをもつて本件A意匠の要部とすることはできない。
そうすると、本件A意匠は、頭部先端を丸く球状にし、胴部を中太り筒形に整然と揃えてタコの形態に近づけるとともに、頭部に鉢巻きをさせ、二本の脚を踊るがごとくに、対称的位置において相似形で跳ね上げた形をとつた点をもつて要部とすべきものである。
三 請求の原因三の事実は認める。ただし、別紙イ号図面の説明中、「弾頭状をなし」とあるのは、「小突起を有する弾頭状をなし」とあるべきであり、図面は別紙控訴人図面によるべきである。
四 請求の原因四の主張は争う。
イ号物件は、頭部先端に小突起があり、丸く球状をなしておらず、脚部は細条片がいずれも切れ目の起点より末端まで均等幅であるため、中太りの形ではなく、また、素材が軟質ビニール製であるため、常に不規則に乱れ、慣性的にはもち論、一時でも本件A意匠におけるような脚の整然と揃つた筒型や、対称的位置において相似形で二本の脚が彎曲突出するという形になることはない。しかも、鉢巻きもない。したがつて、イ号物件の意匠は、本件A意匠の要部を備えるものではなく、本件A意匠に類似しない。
五 請求の原因五の主張は争う。もつとも、被控訴人会社が釣具の製造販売を業とするものであることは、認める。
控訴人らには、不法行為の要件である故意又は過失がなかつた。控訴人らは、イ号物件の意匠が本件A意匠権に牴触しないとの確信を抱いていたものであるが、右確信は、乙第一号証(【C】作成の鑑定書)及び原審鑑定人【D】の鑑定の結果に照らしても、平均的常識的であつたということができる。
通常実施権者は、元来、第三者の無権限の実施に対し、その収益をもつて自己の損害とし、損害賠償請求をすることができない。
被控訴人会社は、控訴人らの営業収益全部をもつて直ちに自己の営業上の損失としているが、被控訴人会社は、通常実施権者にすぎず、被控訴人【A】との事実上の関係を取りあげて、専用実施権者と同等の取扱いを求めるのは理由がない。しかして、意匠法第39条第1項の規定が侵害者の収益をもつて権利者の損害と推定したのは、侵害者の侵害行為がなければ、権利者は右収益を挙げえたであろうと推定されるとの理由に基づく。したがつて、侵害者が多数あり、全国的に拡散している場合には、右推定は成り立たない。本件においては、イ号物件と同様の製品を製作するメーカーが国の内外を問わず多数存し、同製品は多量に生産販売されている。
また、物品の製造販売による収益は、その企業者の営業力、資金力、技術力等種々の条件に依存するものである。
純収益率を売上額の三〇%とみるのは失当である。売上額に対して純収益率三〇%を得る企業は、超優良企業であり、このような数字は常識外である。製造企業の純利益の売上高に対する利益率は、平均的に百分の四程度とみられている。
証拠関係(省略)
理 由一 被控訴人【A】が本件A意匠の意匠権者であること、本件A意匠の意匠登録出願日、登録日、意匠に係る物品が被控訴人ら主張のとおりであることは、当事者間に争いがなく、原審証人【E】(第一回)の証言及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人【A】は、被控訴人会社の代表取締役であるところ、本件A意匠の意匠登録がされた昭和四一年五月一〇日ころ、被控訴人会社に対し本件A意匠権について通常実施権を許諾したものであることが認められる。
二 控訴人【B】が昭和四二年一月ころから、控訴人会社が昭和四五年七月一日から、それぞれイ号物件(ただし、その形態については、擬餌の頭部が弾頭状か小突起を有する弾頭状かの点及び図面上どのように表示されるべきかの点についてのみ争いがあるので、これに関し、次に認定する。)を製造、販売していることは、当事者間に争いがない。
しかして、原審における昭和四八年二月二八日検証の結果(検甲第一号証ないし第三号証の各二)及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件の形態は、別紙イ号図面及びその説明のとおりであり、かつ、これと別紙控訴人図面に図示されたものとは実質的な差異がなく、「塩化ビニールを素材とし、外力によつて変形しうる肉質のもとに中空本体を頭部と胴部とによつて構成しており、その頭部は全長の五分の一程度で先方が小突起を有する弾頭状をなし、胴部はその後方全長の五分の四程度の円筒状部分を縦方向に細断して「腰みの状」をしており、かつ、その全体を一色又は二色あるいは色分けすると共に全体には光輝性の有色粉末を散在させ、かつ、頭部には一対の目玉を設けてなる擬餌であり、背面、両側面の形状はほぼ同一であり、
また、使用態様によつて胴部の「腰みの状部分」の動きは多様化するものである。」ことが認められる(別紙イ号図面及びその説明によれば、そこに示されるイ号物件も、その頭部が小突起を有する弾頭状をなしていることが明らかである。)。
三 そこで、本件A意匠とイ号物件の意匠とを対比すると、次の相違点が認められる。
(1) 本件A意匠が頭部弾頭状の先端を丸く球状にしているのに対し、イ号物件の頭部先端は、小突起を有する弾頭状をなしていること。
(2) 本件A意匠が胴部を中太り筒形状に整然とした形状としているのに対し、
イ号物件の胴部の円筒状部分は、縦方向に細断して腰みの状をなし、腰みの状部分は使用態様によつて多様化すること。
(3) 本件A意匠が二本の脚を対称的位置において相似形で跳ね上げた形に表わされているのに対し、イ号物件は、右のように跳ね上げた二本の脚が表わされていないこと。
(4) 本件A意匠が頭部に鉢巻きを表わしているのに対し、イ号物件の頭部には鉢巻きがないこと。
(5) 本件A意匠が頭部括り状部分の両側に眼玉様の模様を有するのに対し、イ号物件は、括り状部分の上部で、頭部のほぼ中央部分の両側に眼玉様の模様を有すること。
ところで、成立に争いのない甲第一三号証ないし第一八号証によれば、別紙類似意匠図面記載のBないしGの意匠が、本件A意匠に類似する意匠として、類似意匠の意匠登録を受けていることが認められる。
右相違点について検討するに、
相違点(1)については、本件A意匠が頭部弾頭状の先端を丸く球状にしているのに対し、イ号物件の頭部先端は小突起を有する弾頭状をなしているが、両者を全体的に観察するときは、小突起の有無によつて全体から受ける印象が変るほどのものではなく、小突起の有無の点は、微差にすぎない。
相違点(2)については、本件A意匠の意匠に係る物品の材質が硬質か軟質かについて特に記載されていないこと(意匠法第6条第4項参照)及び右物品が「擬餌」であること並びに弁論の全趣旨にかんがみると、軟質の材料が使用されうることは、当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者が理解しうるところというに十分であつて、本件A意匠の胴部は末端まで縦方向に直線状にほぼ均等幅の約二〇本の細条片に細断されたものであり(このように細条片に細断されていることは、成立に争いのない甲第一二号証及び前掲甲第一三号証ないし第一八号証によれば、本件A意匠及びその類似意匠の各右側面図において、擬餌の胴部ないし脚部の末端が約二〇本に切り離されていることが明らかに示されており、これにより推認するに難くない。)、それらが、正面図及び平面図においては、総体として中太りの筒形状に図示されてはいるが、軟質の材料を使用することにより、擬餌の脚の部分が自然に乱れて腰みの状に多様化した動きを示すものであることは当然であり、したがつて、脚部が常に整然と筒形状をなしているものが本件A意匠であると解することはできない。そうであれば、軟質の塩化ビニール樹脂を素材とするイ号物件が、その胴部の円筒状部分が縦方向に細断されて腰みの状をなし、腰みの状部分が使用態様によつて多様化するものであることをもつて、イ号物件の意匠と本件A意匠とが非類似の意匠であるとすることができないことは明らかである。
相違点(3)については、本件A意匠では、二本の脚を対称的位置において相似形に跳ね上げた形が図示されてはいるが、前認定の類似意匠Bのものは右のように跳ね上げた二本の脚を有しないものであること及び相違点(2)について説示したところに徴しても、右のように跳ね上げた二本の脚の図示の有無をもつて、本件A意匠との対比に当り特段の相違点としえないことが明らかであり、したがつて、この点をもつて、イ号物件の意匠と本件A意匠とを非類似の意匠とすることはできない。
相違点(4)については、本件A意匠は頭部に鉢巻きを表わしているが、前認定の類似意匠B及びGがいずれも頭部に鉢巻きを表わしていないものであることに徴しても明らかなとおり、頭部にこのような鉢巻きを表わしていないものと本件A意匠との間に特段の意匠上の差異を肯認することはできず、したがつて、右の鉢巻きを表わしているか否かの点をもつてイ号物件の意匠と本件A意匠とを非類似の意匠とはしえない。
相違点(5)については、本件A意匠は頭部括り状部分の両側に眼玉様の模様を有するが、前認定の類似意匠B及びGがいずれも頭部のほぼ中央部付近の両側に眼玉様の模様を有するものであることに徴しても明らかなとおり、眼玉様の模様が頭部のほぼ中央部付近の両側にある意匠と本件A意匠との間に特段の意匠上の差異を肯認することはできず、したがつて、眼玉様の模様の位置の若干の差異をもつて、
イ号物件の意匠と本件A意匠とを非類似の意匠とはしえない。
右のとおりである以上、本件A意匠とイ号物件の意匠とを非類似の意匠ということはできず、本件A意匠とイ号物件の意匠とを全体的に対比観察するときは、両者は類似する意匠というべきものである。これに反する成立に争いのない乙第一号証(【C】作成の鑑定書)及び原審における鑑定人【D】の鑑定の結果の結論は、いずれも採用することができない。
控訴人らは、被控訴人らが本件A意匠の要部として列挙する(1)ないし(5)の諸点は、意匠登録出願時においてすでに公知公用に属するものであるとし、本件A意匠は、頭部先端を丸く球状にし、胴部を中太り筒形状に整然と揃えてタコの形態に近づけるとともに、頭部に鉢巻きを表わし、二本の脚を踊るがごとくに対称的位置において相似形に跳ね上げた形とした点をもつて要部とすべきものであるところ、イ号物件は、本件A意匠の右要部を備えるものではないから、本件A意匠に類似しないと主張するが、上述のとおり、頭部先端の形状の相違については相違点(1)として、胴部ないし脚部の形状の相違については相違点(2)として、対称的位置において相似形に跳ね上げた二本の脚の有無の相違については相違点(3)として、鉢巻きの有無の相違については相違点(4)として、それぞれ考察したところであつて、本件A意匠について現に設定の登録が存し、かつ、両者の間の相違をもつて、本件A意匠とイ号物件の意匠とを非類似の意匠とするに足りない以上、
控訴人らの右主張は、採用することができない。
四 そうすると、控訴人会社がイ号物件を製造販売していることは、前記のとおり当事者間に争いのないところであるから、被控訴人【A】が本件A意匠権に基づいて控訴人会社に対し、イ号物件の製造、譲渡及び譲渡のための展示の禁止並びにその所有するイ号物件(完成品)の廃棄を求める請求は理由がある。
しかし、被控訴人【A】が本件A意匠権に基づいて控訴人【B】に対し、イ号物件(完成品)の廃棄を求める請求は、前掲証人【E】(第一回)の証言及びこれにより成立を認めうる甲第九号証の一ないし九によれば、控訴人【B】は、当初、個人で擬餌の製造販売をしていたが、昭和四五年七月以降は控訴人会社の代表取締役になり、以来、控訴人会社が控訴人【B】の業務を承継して専ら擬餌の製造販売に当つていることが認められ、控訴人【B】がイ号物件(完成品)を所有していることを認めるに足りる証拠はないから、理由がない。
五 被控訴人ら主張の損害賠償請求について検討する。
まず、控訴人らのイ号物件(擬餌)の売上額について考察する。前掲証人【E】(第一回)の証言により成立を認めうる甲第八号証、前掲甲第九号証の一ないし九及び弁論の全趣旨によれば、控訴人【B】については、昭和四二年の年間総売上額は金九、六〇〇、〇〇〇円(月商八〇万円)、そのうち擬餌の売上額は金八、一六〇、〇〇〇円(総売上額の八五%)、昭和四三年の年間総売上額は金一九、二〇〇、〇〇〇円(月商一六〇万円)、そのうち擬餌の売上額は金一六、三二〇、〇〇〇円(総売上額の八五%)、昭和四四年の年間売上額は金二四、〇〇〇、〇〇〇円(月商二〇〇万円)、そのうち擬餌の売上額は金二〇、四〇〇、〇〇〇円(総売上額の八五%)、昭和四五年(一月から六月まで)の総売上額は金一五、〇〇〇、〇〇〇円(月商二五〇万円)、そのうち擬餌の売上額は金一二、七五〇、〇〇〇円(総売上額の八五%)、以上擬餌の売上額合計は金五七、六三〇、〇〇〇円であり、控訴人会社については、昭和四五年(七月から一二月まで)の総売上額は金三〇、〇〇〇、〇〇〇円(月商五〇〇万円)、そのうち擬餌の売上額は金一五、〇〇〇、〇〇〇円(総売上額の五〇%)、昭和四六年の年間総売上額は金六六、〇〇〇、〇〇〇円(月商五五〇万円)、そのうち擬餌の売上額は金三三、〇〇〇、〇〇〇円(総売上額の五〇%)、以上擬餌の売上額合計は金四八、〇〇〇、〇〇〇円であることが推認でき、右によれば、控訴人【B】によるイ号物件の売上額(昭和四二年一月から昭和四五年六月まで)は被控訴人らの主張する金五、〇〇〇万円を下らないこと、控訴人会社によるイ号物件の売上額(昭和四五年七月から昭和四六年一二月まで)は被控訴人らの主張する金三、〇〇〇万円を下らないことをそれぞれ認定することができる。
ところで、控訴人らについては、意匠法第40条の規定により、本件A意匠権の侵害の行為について過失があつたものと推定される。
そこで、本件A意匠の意匠権者である被控訴人【A】は、前記擬餌の製造販売を行つて本件A意匠権を侵害した控訴人らに対し、その登録意匠又はこれに類似する意匠の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができるところ、前掲甲第八号証及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人会社は被控訴人【A】に対し本件A意匠権についての実施料として、擬餌の売上金額の三パーセントを支払う約定であることが認められるので、右損害の額は、控訴人【B】について前記認定の売上額五、〇〇〇万円の三パーセントである金一五〇万円、被控訴人会社について前記認定の売上額三、〇〇〇万円の三パーセントである金九〇万円となる。
したがつて、被控訴人【A】の(一)控訴人【B】に対し右損害金一五〇万円、
(二)控訴人会社に対し右損害金九〇万円を、(三)これらに対するそれぞれ訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四七年一月二一日以降支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を付加して、支払うことを求める請求は、いずれも理由がある。
次に、被控訴人会社の控訴人らに対する損害賠償請求について検討するに、右損害賠償請求は、控訴人らの前記擬餌の製造販売行為により、被控訴人会社が本件A意匠権について許諾された通常実施権に基づく営業上の利益を侵害されたことを理由とするものと解されるところ、控訴人らによる侵害の行為によつて被控訴人会社に生じた損害の具体的な内容、程度ないし範囲を確定するに足りる証拠資料はない。したがつて、被控訴人会社の控訴人らに対する損害金の支払を求める請求は、
損害額についての立証がないことに帰し、理由がないものといわなければならない。
被控訴人会社は、被控訴人会社が独占的に本件A意匠権を実施し、被控訴人【A】との間で、あたかも専用実施権を設定したに類する関係にあるので、意匠法第39条第1項の規定が類推適用されるべきであると主張するが、被控訴人会社は、通常実施権を許諾されたにすぎないものであつて、意匠権者又は専用実施権者について規定した同条項の規定の適用ないし類推適用の余地はない。また、「擬餌」にかかる商品市場が独特なものであるとも主張するが、被控訴人会社が右市場を独占的に支配している状況ないし控訴人らの擬餌の売上げが、控訴人らの製造販売行為がなければ、すべて被控訴人会社の擬餌の売上げになるべきものであつたことを認めるに足りる証拠もない。
六 右のとおりである以上、被控訴人【A】の控訴人会社に対するイ号物件の製造、譲渡及び譲渡のための展示の禁止並びにイ号物件(完成品)の廃棄を求める請求は認容すべく、被控訴人【A】の控訴人【B】に対するイ号物件(完成品)の廃棄を求める請求は棄却すべく、被控訴人【A】の控訴人らに対する各損害額の賠償請求及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求は認容すべきものであるが、
被控訴人会社の控訴人らに対する損害額の賠償請求及びこれに対する遅延損害金の支払を求める請求は、いずれも棄却すべきものであるから、原判決を主文一の項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、同法第96条第92条、仮執行の宣言につき、同法第196条の各規定を適用し、主文のとおり判決する。
追加
別紙イ号図面<12218-001>イ号図面の説明塩化ビニールを素材とし、外力によつて変形しうる肉質のもとに中空本体を頭部と胴部とによつて構成しており、その頭部は全長の五分の一程度で先方に弾頭状をなし、胴部はその後方全長の五分の四程度の円筒状部分を縦方向に細断して「腰みの状」をしており、かつ、その全体を一色又は二色あるいは色分けすると共に全体には光輝性の有色粉末を散在させ、かつ、頭部には一対の目玉を設けてなる擬餌。
なお、背面、両側面の形状はほぼ同一であり、また、使用形態によつて胴部の「腰みの状部分」の動きは多様化するものである。
別紙控訴人図面<12218-002>別紙本意匠図面<12218-003>別紙類似意匠図面(BないしG)<12218-004><12218-005><12218-006><12218-007><12218-008><12218-009>
裁判官 荒木秀一
裁判官 藤井俊彦
裁判官 杉山伸顕