関連審決 |
審判1975-480 |
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関連ワード | 物品 / 視覚性 / 形状 / 意匠に係る物品 / 意匠の類否 / 意匠の要旨 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
昭和
52年
(行ケ)
72号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1979/04/23 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が昭和五二年二月三日同庁昭和五〇年審判第四八〇号事件についてした審決を取消す。 訴訟費用は、被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の申立
原告は主文と同旨の判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、 原告の負担とする。」との判決を求めた。 |
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請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四七年九月一八日、意匠に係る物品を「ハンドグラインダー」とする別紙第一表示の意匠について意匠登録出願をしたところ、昭和四九年六月三〇日拒絶査定を受けたので、昭和五〇年一月四日審判を請求し、特許庁同年審判第四八〇号事件として審理されたが、昭和五二年二月三日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年三月二日原告に送達された。 二 審決理由の要点 本願意匠の要旨は次のとおりである。 基本形状は、細長舌状の操作レバーを取りつけた円筒状のグリツプ上部に、六角形ナツトを介して直角に円筒状のギヤーボツクスと回転軸を設けた構成である。そして、細部については、(一)グリツプは、直径一、長さ約二・五の円筒状で、下部の約三分の一強の部分は、左右側面に楕円状の抉れ部を設け、背面と底面には内部に螺旋をきざんだ小円孔が穿たれ、底面をやや球面状とし、残りの約三分の二弱の部分は、暗調子のストレートな円筒状となり、さらに、ほぼグリツプと同じ長さで上方へ向つてわずかにテーパーがつき、先端を円弧状にした細長舌状の操作レバーがグリツプ正面下端に上向きに鋲着され、(二)グリツプ上端には、鍔状の薄板を介して、グリツプとほぼ同じ直径の六角形ナツトが嵌合され、その上に、グリツプのストレートな円筒部の約五分の四の直径で、それよりやや短い暗調子の円筒状のギヤーボツクスが、ごくわずかな基部の上に、グリツプに対して直角に設けられ、さらに、その先端にはギヤーボツクスの約二分の一の直径でそれよりやや短く、途中にやや太めの短円筒部を嵌入した二重円筒状の回転軸を設けた態様である。 これに対し、登録第二五二四九八号の意匠(意匠に係る物品「研磨機」。昭和四〇年一一月五日発行の意匠公報所載。別紙第二参照。以下「引用意匠」という。)の要旨は次のとおりである。 基本形状は、細長舌状の操作レバーを取りつけた円筒状のグリツプ上部に、ナツトを介して直角に円筒状のギヤーボツクスと回転軸を設けた構成である。そして、 細部については、(一)グリツプは、直径一、長さ約二・五の円筒状で、下部の約三分の一の部分は、正背面に楕円状の抉れ部を設け、平面にはマイナスねじを嵌入し、左側面には小円孔を穿ち、下端をやや球面状とし、残りの約三分の二の部分の周面には多数の浅い縦溝を設け、さらに、グリツプの約四分の三の長さで上方へ向つてわずかにテーパーがつき、先端を円弧状にした細長舌状の操作レバーがグリツプ底面下端に上向きに鋲着され、(二)グリツプ上端には、鍔状の薄板を介して、 グリツプとほぼ同じ直径の六角形ナツトが嵌合され、その上に、グリツプの縦溝部直径よりやや細い直径でそれよりやや短い円筒状のギヤーボツクスが、ごくわずかな基部の上に、グリツプに対して直角に設けられ、さらに、その先端にはギヤーボツクスの約二分の一の直径でそれよりやや短い二重円筒の回転軸と、ラツパ状に広がつた研磨用円盤が取りつけられた態様である。 両意匠は、細長舌状の操作レバーを下端に取りつけた円筒状のグリツプの態様、 また、その上部に、鍔状の薄板を介して六角形ナツトを嵌合し、その先にごくわずかな基部を持つ円筒形のギヤーボツクスをグリツプに対して直角に設けた点、さらにギヤーボツクス先端に細円筒状の回転軸を設けた点で共通しているが、グリツプの上部三分の二の部分の周面に設けられた多数の浅い縦溝及び研磨用円盤の有無の点で相違している。 以上の点から両意匠を全体的に観察すると、共通点が、グリツプ下端部や操作レバーの形状、六角形ナツトやグリツプに対して直角に設けられたギヤーボツクスの形状等きわめて看者の注意を強く惹く本願意匠の要部に関するものであるのに反し、相違点は、縦溝の有無というような、全体的な形状中に吸収されてしまう部分的なものであり、かつ、研磨用円盤の有無も、本願意匠のものにも当然装着される周知のアタツチメントの一種であるから、両意匠の類否判断を左右する決定的要因ではなく、上記共通点が相違点を凌駕して看者に類似感を与えるものといわざるをえない。 よつて、両意匠は互に類似するから、本願意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により、登録を受けることができない。 三 審決の取消事由 審決は、以下のとおり、認定ないし判断を誤つた結果、本願意匠をもつて引用意匠に類似するとして、その登録を拒絶したものであつて、違法であるから、取消されるべきである。 1 認定の誤り(一)審決は、本願意匠について、基本形状なるものを認定する。それによれば、 本願意匠におけるギヤーボツクスの直径を二分の一にし、グリツプの直径を二倍にしても、またそれらを逆にしても、基本形状の概念中に包含されるものであるが、 正逆によつて視覚的美感の相違することは多言を要しないから、審決のいう基本形状なるものは、本願意匠の具体的な物品概念、すなわち図面についての視覚性美感を表現したものではなく、単にその抽象概念、いわゆる上位概念なるものを示したにすぎない。そして、審決は、この基本形状をもつて引用意匠と類似であるとし、 これを論旨の主要部としているから、事実の認定を誤つたものである。 (二)審決は、引用意匠についても、基本形状なるものを認定するが、それには、 グリツプの約三分の二の部分の周面に多数の縦溝を設けた構成を全く無視した誤りがある。 (三)審決は、引用意匠の態様について、「(ギヤーボツクスの)先端には……回転軸とラツパ状に広がつた研磨用円盤が取りつけられた」と認定するが、その研磨用円盤にはラツパ状に広がつた部分は存在しないから、誤りである。 2 対比判断の誤り(一)審決は、本願意匠と引用意匠との共通点なるものを認定し、これを本願意匠の要部に関するとしているが、右共通点は、両意匠について無内容な抽象概念を比較したに過ぎず、その視覚性美感を比較したものにはなつていない。 (二)審決は、引用意匠における把持部に凹条と凸条とを交互に縦設した構成をもつて、「全体的な形状の中に吸収されてしまう部分的なもの」とするが、右構成は、引用意匠において一見して明確に看取できる程度に表現され、むしろ引用意匠の主要部を構成しているものであるから、それが全体的な形状中に吸収されるごときことはありうべからざることである。 ところで、本願意匠も引用意匠も空気工具であるから、使用中その把持部は外気の絶えざる流動によつて冷却され、把持に耐えない状態になるものである。そこで、本願意匠において、把持部の断面が円形をしているのは、そこにゴム管が嵌着されて冷温が手掌に伝導するのを遮止するものであり、引用意匠においては、凹条と凸条とを交互に縦設することにより可及的に手掌との接触面積を少なくし、冷温の手掌に伝導することを減少させることを実用的な主目的とし、かつ、これに加えて手掌による把持に抵抗力の大なるものを得る目的を併存させて微妙な工作に適応性を有さしめているが、それらの実用的効果にはそれと併存してそれぞれの実用美が構成されているものである。そして、本願意匠も引用意匠もこの道の工作者が自動車その他高価な機械、器具の組立に際して使用するものであることに徴すると、 右実用美が工具選択上大なる意匠的価値を有するものであり、この実用美は右実用的効果に随伴するものともいうことができるから、それらの根底的な相違が、また、両者の実用美の根底的な相違に帰している。すなわち、本願意匠は、頑丈美、 整形美において引用意匠と根底的に相違するのみならず、この実用美においても引用意匠とは根底的な相違が存するものである。 (三)審決は、「研磨用円盤の有無も、本願にも当然装着される周知のアタツチメントの一種であるから、両意匠の類非判断を左右する決定的要因ではない」とするが、右アタツチメントと称せられるものは、引用意匠の構成には必須のものであるから、アタツチメントではなく、また、本願意匠は、必ずしも右引用意匠のものでなく、土筆頭部状その他引用意匠のアタツチメントとは別意匠の研磨具をアタツチメントとして使用しうるものであるから、引用意匠から右アタツチメントと称せられるものを除いて判断をしたことは誤りである。 |
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被告の答弁
一 請求原因一、二の事実は認める。 二 同三のうち、1(三)は認めるが、その余は争う。原告の主張に対する反論は次のとおりである。 1 原告の主張1(一)について 審決において意匠の要旨を認定する場合、最初に基本形状について述べるのは、 まずその意匠の全体的な形状を簡潔に要約し、読者をしてその意匠がほぼどのような形状をしているかを概略把握せしめるためである。文章であれ絵であれ、まず全体の大まかな形状を簡潔に要約して描写し、その後、順次細部の描写に入つて行くというのは物を表現する場合の最も初歩的な技術である。特に意匠の審決の場合は、抽象的な観念ではなくある物の具体的な形状を文章に置きかえて表現するのであるから、基本形状を最初に述べるというこの方法は極めて妥当なものといえる。 また、審決は、基本形状が類似するから両意匠が類似するなどとはいつていない。基本形状が類似するとしても、各部分における細部形状に相違点があまりにも多い場合は、その二つの意匠は互に類似しないとする場合の方が多いのである。本願意匠と引用意匠の場合は、審決中の結論においても述べているとおり、各部分における共通点と相違点とをとり出して検討した場合、共通点の方が相違点よりはるかに多く、全体として看者に類似感を与えるから両者は類似するという結論を導き出しているのである。 2 同2(二)について 引用意匠のグリツプの上部三分の二の周面に設けられた滑り止め用の多数の浅い縦溝は、研磨機のような物品のグリツプ部、あるいは、ハンドドライバーのグリツプ部等工具の把持部には極めて普通に用いられているところであつて、ほとんど顕著性がなく、意匠としての創作性もない。また、本願意匠のグリツプは、単なる表面の平滑なストレートの円筒状であつて、顕著性がなく、意匠としての創作性に乏しい。 したがつて、グリツプ部は、両意匠とも意匠としての創作性の低い部分であるから、この部分に若干の相違があるとしても、 それが他の多くの共通点を凌駕して両意匠を非類似とする決定的要因になるとはいえない。 3 同2(三)について 原告が自ら認めているとおり、本願意匠のものは土筆頭部状その他別意匠の研磨具等をアタツチメントとして使用しうるものであり、この部分が用途に応じて数種類のアタツチメントを交換しうるようになつているのは常識である。したがつて、 意匠としては極めて特定し難い部分であるから、この部分をもつて両意匠の類否判断を左右する決定的要因とすることはできない。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 請求原因事実中、本願意匠について、登録出願から審決の成立にいたるまでの手続の経緯及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。 二 そこで、原告主張の取消事由の有無について判断する。 本願意匠が別紙第一のとおりの形状であることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証(引用意匠の意匠公報)によると、引用意匠は別紙第二のとおりの形状であることが認められ、これらによると、両意匠は、ともに、基本的形態としては、細長舌状の操作レバーを取りつけた円筒状のグリツプ上部に、ナツトを介して直角に円筒状のギヤーボツクスと回転軸を設けた構成であつて、その点において共通しているということができる。 ところで、本願意匠の意匠に係る物品が「ハンドグラインダー」であることは当事者間に争いがなく、この事実と別紙第一からすると、本願意匠においては、明らかに、正面図、背面図及び側面図にあらわれた形状をもつて最も目につき易く顕著なものであるというべきところ、右各形状を通じて過半(長さにおいて約三分の二)を占める部分は把持部(グリツプ)であるから、本願意匠を見る者が最も注意をひかれる部分は、右各形状にあらわれた把持部にあるといつて差支えない。 そこで、成立に争いのない甲第二号証(本願意匠の意匠登録願)及び前掲第四号証によつて、本願意匠及び引用意匠の各把持部についてみるに、本願意匠においては、グリツプは、直径一、長さ約二、五の円筒状であるが、下部の約三分の一の部分は、 左右側面に楕円形の抉れ部(その側面の過半を占める。)を設け、背面には直径がその面の約半分の小円孔が穿たれ、残りの約三分の二の部分は、暗調子のストレートな円筒状となり、さらに、グリツプ正面下端には、ほぼグリツプと同長で、最大幅がグリツプ直径の約七分四、上方に向つてわずかにテーパーがつき、先端を円弧状にした細長舌状の操作レバーがグリツプの基部に上向きに鋲着された構成であるのに対し、引用意匠においては、グリツプは、直径一、長さ約二、五の円筒状であるが、下部の約三分の一の部分は、正背面に楕円状の抉れ部(その面の下半部を占める。)を設け、平面にはマイナスねじを嵌入し、それを囲んだ小円孔を穿ち、下端をやや球面状とし、残りの約三分の二の部分の周面には合計八本の明瞭な縦溝が刻まれ、さらに、グリツプ底面下端には、グリツプの約四分の三の長さで、最大幅がグリツプ直径の二分の一弱、上方に向つてわずかにテーパーがつき、先端を円弧状にした細長舌状の操作レバーがグリツプの基部に上向きに鋲着された構成である。 両者を対比すると、ともに、グリツプが直径一、長さ約二、五の円筒状であつて、約三分の二と三分の一の割合で上下部に区分され、下端にほぼ同形状の操作レバーが鋲着されているけれども、操作レバーがグリツプの正面(引用意匠にあつては底面)におおいかぶさる面積の比率において格段の差異があるばかりでなく、特に、本願意匠においては、グリツプ上部をストレートな暗調子一本でまとめているのに対し、引用意匠においては、同部分に整然たる縦溝八本を配して周面を明確に区切つた表現をしていることは、各意匠を特徴づけるところの差異であるというべきである。 そうだとすると、本願意匠と引用意匠とは、先に認定した基本的形態における共通点にもかかわらず、各把持部における特徴的差異のゆえに、全体として一般の需要者に与える印象は別異であつて、両者間に混同誤認のおそれはないといわざるをえない。 したがつて、右共通点をもつて相違点を凌駕して看者に類似感を与えるとし、本願意匠と引用意匠とを類似するとした審決の判断は誤りであつて、取消を免れない。 三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 荒木秀一 |
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裁判官 | 石井敬二郎 |
裁判官 | 橋本攻 |