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関連審決 審判1975-479
関連ワード 物品 /  視覚性 /  形状 /  意匠に係る物品 /  意匠公報に掲載 /  先願 /  公然知られた(3条1項1号) /  意匠の類否 /  登録意匠 /  意匠の要旨 /  類似性(類否判断) / 
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事件 昭和 52年 (行ケ) 71号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1979/04/23
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五二年二月三日同庁昭和五〇年審判第四七九号事件についてした審決を取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の申立
原告は、主文と同旨の判決を求め、被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四七年九月一三日特許庁に対し、意匠に係る物品を「サンドペーパーエアグラインダー」とする別紙第一図面表示の意匠について意匠登録出願をしたところ、昭和四九年九月三〇日拒絶査定を受けたので、昭和五〇年一月四日審判を請求し、特許庁同年審判第四七九号事件として審理されたが、昭和五二年二月三日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年三月二日原告に送達された。
二 審決理由の要点 本願意匠の要旨は次のとおりである。
基本形状は、ほぼ角柱を主調とした棒状のモーター部及び操作グリツプの先端に、断面台形状のギヤーボツクスを設け、さらに、それに回転軸と研磨用円盤及びハンドグリツプを取りつけた構成である。そして、細部については、(一)モーター部は、横幅一、奥行一、長さ約二の比率のわずかに外側に膨んだ四角柱状で、正面に横幅の約三分の一の直径の小円孔が縦に二個穿たれ、下端はやや絞られて横幅の約二分の一になり、最下端の操作グリツプへと続いているが、その部分の正面に高さがモーター部とほぼ等しい細長舌状の操作レバーが下向きに取りつけられ、
(二)操作グリツプは、暗調子の円柱状で、長さはモーター部とほぼ等しく、下端が逆テーパー状にやや広がり、底面には小短円柱状のナツトが一個取りつけられ、
(三)モーター部の上部は、一本の水平な区画線を介して、正面、左右側面が上方へ向かつてテーパーのついた細長い四角錐台状となり、長さはモーター部とほぼ等しく、区画線上の四隅に三角形の壁龕状の抉れ部を設けて、ナツトでモーター部と連結され、また、上端はやや広がつて側面が台形状で横幅がモーター部の約一、五倍の短柱状となり、正面方向へ向かつて直角に設けられた回転軸の先に研磨用円盤が取りつけられ、さらに右側面には、中央がやや膨らみ長さが操作グリツプとほぼ等しく、長手方向に数本の溝を穿つた細円柱状のハンドグリツプが直角に設けられている。
これに対し、登録第三五五三六四号の意匠(意匠に係る物品「エアーグラインダー」、昭和四七年八月三一日登録。以下「引用意匠」という。別紙第二図面参照)の要旨は次のとおりである。
基本形状は、ほぼ角柱を主調とした棒状のモーター部及び操作グリツプの先端に、小直方体状のギヤーボツクスを設け、さらに、それに研磨用円盤及びハンドグリツプを取りつけた構成である。そして、細部については、(一)モーター部は、
横幅一、奥行一、長さ約二の比率のわずかに外側に膨らんだ四角柱状で、下端はやや絞られて横幅の約二分の一になり、そのまま操作グリツプへと続いているが、その部分に高さがモーター部とほぼ等しい細長舌状の操作レバーが下向きに取りつけられ、(二)操作グリツプは、円柱状で、長さはモーター部とほぼ等しく、下端が逆テーパー状にやや広がり、底面には六角ナツトが一個取りつけられ、(三)モーター部の上部は、正背面、左右側面が上方へ向かつてテーパーのついた角丸四角錐台状となり、長さはモーター部とほぼ等しく、モーター部直上の四隅に三角形の壁龕状の抉れ部を設けてナツトでかしめられ、また、上端はやや広がつて横幅がモーター部よりやや広めの小直方体状となり、正面方向へ向かつて直角に研磨用円盤が取りつけられ、さらに左側面には、中央がやや膨らみ長さが操作グリツプとほぼ等しく、長手方向に数本の溝を穿つた細円柱状のハンドグリツプが直角に設けられている。
両意匠は、ほぼ四角柱状のモーター部とその下の円柱状の操作グリツプの形状
細長舌状の操作レバーの形状、モーター部上部のほぼ四角錐台状部と四隅の三角形の壁龕状の抉れ部の形状、モーター部等に対して直角に設けられた研磨用円盤や細円柱状のハンドグリツプの態様の点で共通しているが、ギヤーボツクスの形状、モーター部正面の小円孔の有無及び研磨用円盤の大きさ等で相違している。
以上の点から両意匠を全体的に観察すると、共通点がモーター部の形状、操作グリツプや操作レバー、モーター部上部、ハンドグリツプの形状等看者の注意を強く惹く本願意匠の要部に関するものであるのに対し、相違点は、小円孔の有無などより強い類似感を与える全体的形状の中に吸収されてしまうような部分的なものであり、かつ、研磨用円盤の大きさの相違も、交換しうる各種アタツチメントの相違であるから、両意匠の類否判断を左右する決定的要因とすることはできず、上記共通点が相違点を凌駕して看者に類似感を与えるものである。
よつて、両意匠は互に類似するから、本願意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により登録を受けることができない。
三 審決の取消事由 審決は、後記の点において違法であるから、取消されるべきである。
1 引用意匠の公知性 引用意匠は、審決認定の日に意匠登録されたものであるが、その意匠公報が発行されたのは、本願意匠の登録出願後の昭和四七年一一月二八日であるから、右出願当時公然知られた意匠ではなかつた。したがつて、引用意匠との対比において本願意匠の登録要件を否定した審決の判断は誤りである。その理由を詳述すると次のとおりである。
(一)意匠法第3条第1項第1号の規定にいう「公然知られた意匠」とその意匠の意匠登録とは、法律上根本的に秩序を異別にしている。意匠登録は、特許庁における単なる内部的な事実であり、これによつてその意匠を右条項に規定する日本国内又は外国において公然知られた状態にするものではない。意匠登録をすることは、
意匠登録令第6条の規定により特許庁長官が職権でした法律事実であるが、そのほかに、特許庁長官がこの事実を積極的に日本国内へ平等に知らしめるべきことは、
意匠法第20条の規定の精神及び条理に徴し明らかなことであつて、そうでなければ、日本国内においてこれが公然と知られるに由ない。すなわち、意匠登録は、単に独任制行政庁たる特許庁長官のした職務遂行行為たるに止まり、いまだこれを外部に向かつて発表したものということはできない。発表したとしても、それは意匠原簿の範囲内であつて、意匠登録願の内容を理解しうる程度に発表したことにはならない。そこに意匠登録願の内容を外部に発表する独任制行政庁の行政行為としてその発表の法律効果はいまだ発生していないことは明らかである。なぜなら、意匠法第20条の規定は右行政庁に対する覊束処分として定められているものにほかならず、そして、右行政庁は国民主権の下、行政の一部について外部に向かつて発表する権限を与えられているものであるから、国民に平等に一様に知りうる手段をもつて外部へ発表すべきものであつて、右独任制行政庁及びその補助機関が意匠公報へ掲載して発表する前に特定人に意匠登録願の内容を知らせることは、国家公務員法第96条ないし第98条に規定する服務規律に違背するものであるからである。
したがつて、意匠登録後であつても、その意匠公報が発行される前には、登録出願の内容は、当該意匠登録出願人が自ら公表したような場合は別として、合法的には公知の状態になりえないものである。
(二)意匠法第63条第1号の規定は、意匠登録がされていない意匠登録願の秘密保持に関する規定たるに過ぎず、この法条を根拠として意匠登録原簿への登録があつた場合、直ちに独任制行政庁による意匠登録願内容に係る外部発表の法律効果が成立したということにはならない。事実、意匠登録原簿に登録されても、それによつて一般国民はその意匠登録願の内容を知るに由なく、したがつて、その意匠登録願の内容閲覧を請求することは不可能である。
(三)意匠法第3条第1項の規定にいう「公然」とは、単に消極的に秘密義務が免ぜられるのみならず、積極的に秘密ないし事実を発表しうる立場を有する者に秘密を知らせた場合であつて、夫婦、親子兄弟、あるいは、実物見本製作者、意匠登録願書類の印書業者等に秘密を知らせたような場合には、条理に徴し、右公然の規定に該当するものというべきではない。特許庁においても、先願、後願の関係がある場合、後願に対し審査官が先願を引用した場合、後願者は、当然意匠登録されていない先願を閲覧しうるものであるが、後願者は、条理上その閲覧の結果を外部へ発表しうる立場を取得したといえないことはいうまでもなく、したがつて、意匠公報発行について右独任制行政庁及びその補助機関を担当する者も、それらが秘密保守義務ありと断じえない場合でも、積極的に秘密ないし事実を発表しうる立場を有する者には当たらないから、意匠登録原簿登録後、意匠法上の「公然」の状態に該当するに至るものではない。
(四)実際にも、新しく意匠登録原簿に登録されるものは多数存在し、その意匠登録原簿記載内容よりしては当該意匠登録願の実体的内容(例えば図面)は皆目不明であつて、その書類閲覧をするに由なく、また、書類閲覧を申請しても、特許庁は、即時に書類を閲覧に供するものではないことは勿論、長きは十数日を費して始めて閲覧可能の状態になるものである(特許庁自身が使用していることを理由にして月余にわたり閲覧不可能なこともある)。そして、法律論としても、特許庁は、
書類閲覧申請に対して、必ずしも、即時、即日に閲覧可能な状況を提供すべき理由はなく、また、特許庁内部の使用を犠牲にしても一般国民に閲覧の優先を承認するいわれが乏しく、また、行政上の実際としても、常に、一度に多数の閲覧申請に直ちに対応することは不可能である。これすなわち、意匠登録原簿上の登録と書類閲覧申請とが、意匠法第63条の規定が存しても、右独任制行政庁の意匠登録を外部に発表する法令上の秩序に非ざることを雄弁に物語つており、意匠登録原簿に登録されたものはその書類閲覧をしえないとはいえないとの論理が成立しないことを如実に示しているものである。これに反し、意匠公報が発行された際、これを閲覧することは、時に即日は困難であるとしても、まず閲覧可能ということを妨げず、現実にも、同時に意匠公報に掲載されたもの悉くに目を通すことも可能であるから、
社会生活の実際に徴し、意匠法第20条第3項の規定による意匠公報の発行をもつて右独任制行政庁による意匠登録願に係る外部発表行為とすることが同法の精神であることを首肯しうるものである。
2 類否判断 仮に、引用意匠が本願意匠の登録出願前公知であつたとしても、両意匠の類否に関する審決の認定ないし判断には次のような誤りがある。
(一)審決は、本願意匠について「基本形状は、ほぼ角柱を主調とした棒状モーター部及び操作グリツプの先端に、断面台形状のギヤボツクスを設け、さらに、それに回転軸と研磨用円盤及びハンドグリツプを取りつけた構成である。」とする。しかし、意匠法上視覚性美感なるものは、意匠登録願書に添付した図面ないし代用写真、ひな形又は見本をもつて示すものであり、また、一般文化観念としても、眼球感覚的受容と能動とによる意思決定を内容とする行為であつて、精神的産出事実ではあるが、具体的物品についての視覚的感覚たることを不可缺の内容とするものであるところ、審決のいう基本形状なるものは、意匠法上の視覚性美感の秩序における物品概念ではなく、単に本願意匠の抽象概念、いわゆる上位概念を求めたものにほかならず、しかも、論理的に一つの秩序を見出して(例えば、視覚性美感とか、
物品の構造とか。)そこに抽象概念を求めたものではなく、単純に初等数学的論法をもつて抽象概念を求めたものに過ぎないから、右抽象概念は視覚性美感と関係がなく、少なくとも本願意匠の視覚性美感とは全く無関係のものである。
(二)また、本願意匠においては、回転軸の先端部にサンドペーパーを取付けるサンドペーパー取付部は存在するが、サンドペーパー自体は全然表現されていないから、本願意匠について「研磨用円盤」を取りつけた構成とする審決の認定は誤つている。
(三)次に、審決は、本願意匠と引用意匠との共通点の一つとして「四隅の三角形の壁龕状の抉れ部」を挙げているが、右両者の部分的視覚性美感を表現するのに「壁龕状」の概念をもつてすることは著しく不適当であり、右壁龕状なる個所に相応するものは、両者とも、単に螺釘取付け個所の切込(ボルト セツテイング ポーシヨン)にほかならず、壁龕と称する視覚性美感は到底存在していないから、これに関する審決の認定は誤つている。
(四)審決は、両意匠を対比して「共通点が……看者の注意を強く惹く本願意匠の要部に関するものであるのに対し、相違点は……より強い類似感を与える全体的形状の中に吸収されてしまうような部分的なもの」であるとする。しかし、視覚性美感、すなわち精神作用として共通点の中に相違点が吸収されてしまうということは、人間の能力ないし認識を標準としてありうるはずがない。人間の能力なるものは、事理を吟味し、評価し、記憶し、心情を構成するものであつて、殊に認識は、
事理に対し人間の理性と知識とを駆使して理解をするものであるから、相違点なる構成は、あくまで、この構成として把握され、この構成と引用意匠における他の意匠構成との全体的関係を認識しながら、部分たる構成をも認識するのが人間の精神作用の特徴に属するからである。勿論、精神作用には統一ということがあるが、統一とは、部分の中に全体が包含されるとか、部分の中に全体を見るとか、部分を全体との関係性において認識することであつて、前記の意匠構成全体に対する認識と同一のことを意味している。そして、精神作用における全体の認識とは、理化学における化合、混合の理論とは根源的に相違し、意欲、意識、認識等精神作用の論理によつて律すべきものであつて、これによれば、視覚性美感は、全体として統一されるとともに、部分は部分として存在することが判然と認識されるものであるから、審決の前記判断の論旨には根本的な誤謬が存する。
(五)また、審決は「研磨用円盤の大きさの相違も、交換しうる各種アタツチメントの相違であるから、両意匠の類否判断を左右する決定的要因とすることはできず……」とするが、そのアタツチメントと称するものは、引用意匠にあつては必須の要件であるのに対し、本願意匠にあつては、円形状その他の任意形状のサツドペーパーを用いるものであるから、審決の右判断には誤りがある。
(六)結局、本願意匠の構成は、把持部、胴部及び頭部を順次細長く上方へ延長し、側面の観照表現として、胴部背面は垂直状に、同前面は上半部を内向き斜傾に、下半部を垂直状にそれぞれ形成し、頭部は背面向きに細く、かつ、上下均等的に傾斜し、工作部を回転させる回転軸を明確に表現させて頭部から工作部を十分に離間させ、側面全体として蟷螂状観照感覚を表現しているのに対し、引用意匠の構成は、把持部、胴部及び頭部を順次細長く上方へ延長し、側面の観照表現として、
胴部下半部は前、背両面とも垂直状に、同上半部は前、背両面とも上方へ内向き傾斜にそれぞれ形成し、頭部は四角形にしてこれに直接といえる状態(離間性のない状態)で工作部を配置連結し、全体としての観照感覚は、単純な構造美、整形美、
頑丈美を表現しているに過ぎないものであつて、両意匠の視覚性美感は明らかに異なる。したがつて、両意匠について「共通点が相違点を凌駕して看者に類似感を与える」とした審決の判断は誤つている。
被告の答弁
一 請求原因一、二の事実は認める。
二 同三の取消事由は争う。審決の認定、判断は正当であつて、原告主張のような違法はない。
1 原告主張の1について 引用意匠の意匠公報発行の日が原告主張のとおりであることは認める。しかし、
次の理由により、引用意匠は、公然知られた意匠というべきものである。すなわち、
意匠法第3条第1項第1号に規定する「公然知られた意匠」とは、その意匠が、
不特定多数の者に知られうる状態におかれる場合をいうことは勿論、きわめて少数の者が知つている場合であつても、これらの者が秘密を保つ義務を有しない者である場合をも含むものと解される。ところで、意匠権は、意匠登録原簿への設定登録によつて発生し、また、意匠登録を受けた意匠を記載した図面(図面に代る写真、
ひな形又は見本を含む。)は、意匠登録原簿の一部とみなされている。そして、意匠権の設定の登録があつたときは、何人も、特許庁長官に対し、意匠登録に関し、
証明、書類の謄本もしくは抄本の交付、書類、ひな形もしくは見本の閲覧もしくは謄写又は意匠登録原簿のうち磁気テープをもつて調整した部分に記録されている事項を記載した書類の交付を請求することができることになつている。他方、意匠権の設定の登録があつた後は、特許庁の職員は、意匠登録出願中の意匠に関する秘密を守る義務から解かれるから、前記の「不特定多数の者」に含まれることになる。
したがつて、意匠権の設定の登録があつたときは、何人も、いつでも、その意匠について、意匠登録原簿、出願書類等を閲覧すること、ないし、その意匠についての情報を得ることが可能であり、これにより、その登録意匠は、何人にも知られるものとなることが明らかである。
要するに、かかる状態におかれた意匠は、公然知られた意匠といつて差支えないであろう。
2 同2(一)について 審決において意匠の要旨を認定する場合、最初に基本形状について述べるのは、
まずその意匠の全体的な形状を簡潔に要約し、読者をしてその意匠がほぼどのような形状をしているかを概略把握せしめるためである。そして、最初にその意匠の大体の形状を把握しておくと、以後詳細に述べる細部の形状が全体の中でどのような位置関係にあるかがより理解し易くなる。特に意匠の審決の場合は、抽象的な観念ではなく、ある物の具体的な形状を文章に置きかえて表現するのであるから、基本形状を最初に述べるというこの方法は極めて妥当なものといえる。
3 同2(三)について 審決において、モーター部と四角錐台状部との水平な区画線上の四隅に設けられた螺釘取付用の切込部を「壁龕状の抉れ部」と表現したのは、その切込部の具体的な形状をより的確に述べるためである。すなわち、壁龕とは、壁面の一部をくぼめて龕状にし、そこに彫像などを置く一種の抉れ部のことで、キリスト教教会の内壁などにしばしば設けられているが、本願意匠及び引用意匠の各切込部があたかも壁龕を連想させるような形状をしているために、文章表現上のレトリツクとしてそのように表現したのであり、「壁龕」というものに対する認識があれば即座に理解しうる表現である。
証拠関係(省略)
理 由一 請求原因事実中、本願意匠について、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の取消事由のうち、まず引用意匠の公知性について判断する。
前掲審決理由の要点によれば、審決は、本願意匠について、引用意匠との対比上互に類似するとして、意匠法第3条第1項第3号の規定によりその登録要件を否定したものであることが明らかであり、また、引用意匠が昭和四七年八月三一日登録された意匠であつて、その意匠公報が本願意匠の登録出願された同年九月一三日の後である同年一一月二八日に発行されたことは、当事者間に争いのないところである。
ところで、意匠法第3条第1項第1号にいう「公然知られた意匠」とは、同項第二号において第一号とは別に頒布刊行物を規定している趣旨に鑑みると、その意匠が、一般第三者たる不特定人又は多数者にとつて、単に知りうる状態にあるだけでは足りず、字義どおり現実に知られている状態にあることを要するものと解される。そして、また、不特定人という以上、その意匠と特殊な関係にある者やごく偶然的な事情を利用した者だけが知つているだけでは、いまだ「公然知られた」状態にあるとはいえないものと解するのが相当である。
被告は、意匠権の設定登録があつたときは、何人もその意匠について意匠登録原簿、出願書類等を閲覧できることを根拠として、かかる状態におかれた意匠は「公然知られた意匠」といつて差支えない旨主張する。
確かに、意匠法第63条によると、何人も、特許庁長官に対し、意匠登録に関し、証明、書類の謄本もしくは抄本の交付、書類、ひな形もしくは見本の閲覧もしくは謄写又は意匠原簿のうち磁気テープをもつて調整した部分に記録されている事項を記載した書類の交付を請求することができるものとされている。しかし、成立に争いのない甲第一〇号証、証人A及び同Bの各証言を総合すると、意匠権の設定登録があつた後、意匠原簿、出願書類等の閲覧をするためには、登録番号を特定して申請しなければならないこと、特許庁においては、意匠公報発行前には、意匠権の内容、特に出願書類添付図面と登録番号とを関連づけた資料を一般第三者に了知させる手段は何ら講じていないこと、一般第三者としては、登録出願人(なお、出願人といえども、設定登録と同時に登録番号を知りうるものではなく、設定登録後特許庁長官から意匠登録証の交付を受けてはじめてこれを知るものである。
)を通じて登録番号を知るというような特段の事情がない限りは、登録番号を知るすべがなく、したがつて、その意匠原簿、出願書類等を閲覧する方法は事実上閉ざされていることが認められる。もつとも、右各証人の証言によると、いわゆるバインダー式の意匠原簿が使用されていた昭和五三年四月一日前においては、一個の意匠原簿に一〇〇個の意匠権が記載されていた関係上、それに記載されている登録意匠に関し閲覧を申請した者がたまたま他の登録意匠の登録番号を知りうる可能性があることは認められるけれども、意匠登録令第3条、意匠登録令施行規則第3条
第4条によると、意匠登録を受けた意匠を記載した図面は、規定上意匠登録原簿の一部とみなされるものの、同原簿に記載されるものは登録番号、登録出願日、登録出願番号、物品の区分、意匠権者の氏名等であつて、右図面は添付されていないから、登録原簿によつて特定の登録意匠の登録番号を知つたからといつて、直ちにその意匠の図面を了知しうるものではなく、そのためには、さらに、その新たに知つた登録番号によつて出願書類の閲覧を申請しなければならないものである。一般第三者が何らかの方法によつて登録意匠の登録番号を知り、それをたどつてその出願書類の添付図面を了知することがありうるとしても、そのような偶然的例外的場合をもつて、その意匠が不特定人に公然知られた状態にあるものとは到底いうことができない。
以上のとおりであるから、意匠権の設定登録があつても、それによつて、直ちにその意匠が現実に一般第三者に知られるものでないことは明らかである。
なお、被告は、意匠権の設定登録後は特許庁職員についてその意匠に関する守秘義務が解かれることを理由に、同職員も不特定多数者に含まれると主張する。しかし、そもそも、同職員は、意匠法その他の法規に定められた職務の遂行として、登録出願された意匠に関与するものであるから、その意匠が設定登録されると否とを問わず、意匠の公知性を検知すべき基準たる一般第三者の範ちゆうには含まれないものと解すべきであるから、右主張も失当たるを免れない。
そこで、本件についてみるに、成立に争いのない甲第九号証によると、引用意匠の登録に関しては、登録後その意匠公報の発行される昭和四七年一一月二八日までの間、何人も特許庁長官に対して書類の閲覧を申請した事実のないことが認められるし、他に、本願意匠の登録出願された同年九月一八日前において、引用意匠が一般第三者たる不特定人又は多数者によつて現実に知られていた状態にあつたことについては、これを認めるに足りる証拠が全くない。
したがつて、引用意匠は、本願意匠の登録出願前に公然知られたものとすることはできないから、これとの対比上本願意匠の登録要件を否定した審決の判断は、原告のその余の取消事由について検討するまでもなく誤りであつて、違法といわねばならない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 石井敬二郎
裁判官 橋本攻
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