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事件 昭和 46年 (ワ) 235号
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裁判所 横浜地方裁判所 横須賀支部
判決言渡日 1978/02/22
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告有限会社洋釣漁具製作所は、原告【A】に対し、業として、別紙目録(一)(二)(三)記載の各擬餌を製造し、使用し、譲渡し、又は譲渡のため展示してはならない。
二 被告有限会社洋釣漁具製作所は、原告【A】に対し、その所持する別紙目録(一)(二)(三)記載の各擬餌の完成品を廃棄せよ。
三 被告【B】は、原告株式会社ヤマシタに対し金一五〇〇万円、原告【A】に対し金一五〇万円および各金員に対する昭和四七年一月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告有限会社洋釣漁具製作所は、原告株式会社ヤマシタに対し金九〇〇万円、
原告【A】に対し金九〇万円および各金員に対する昭和四七年一月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告両名の被告両名に対するその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は全部被告両名の連帯負担とする。
七 この判決は、第三項、第四項について仮に執行することができる。
事実及び理由
請求原因
一 原告会社(旧商号株式会社山下釣具)は釣具の製造販売を業とするものである。原告会社の代表取締役である原告【A】は、昭和三〇年頃軟質合成樹脂を材料とする水棲動物形状の擬餌を考案し、昭和三九年四月二八日この擬餌を指定商品とする意匠(別紙図面A)を出願し、同四一年五月一〇日登録番号第二五九四四七号を以つて登録されて意匠権を取得し、更に右登録意匠類似する意匠(別紙図面BCDEFG)について類似意匠の登録を出願し、昭和四一年五月一〇日、第二五九四四七の類似二ないし七として類似意匠の登録を受けた。原告会社は原告【A】から、同人が右考案を完成した昭和四一年五月一〇日頃から右考案にかかる意匠の擬餌について、通常実施権を許諾され、これを製造販売している。
二 本件登録意匠は、本意匠および類似意匠によれば、全体がタコ形状で、次のような基本的形状を有するものである。
1 頭部が弾頭状(前端は球状、後端は括り状)である。
2 頭部と胴足部との長さの比率が、約一対四である。
3 頭部と胴足部の境目がくびれており、その部分に一対の目玉が付着している。
4 胴足部は中太り筒形をなし、その全体にわたつて縦方向に切れ目を入れ、約二〇本の細幅の脚部を形成する。
5 素材全体に粉粒が混入している。
右のほか、脚片のわん曲状態や、頭部の鉢巻模様、目玉の数など色彩模様についてはいくらかの変化があるけれども、本件意匠が登録されたのは、これらの脚片、
色彩、模様等に若干の変化があつても、右1ないし5の基本的な形状を有するものであることに着眼され、これが登録意匠の範囲とされたものである。
三 被告【B】は昭和四二年一月頃から、被告会社は昭和四五年七月一日から、それぞれ別紙目録(一)(二)(三)記載のような擬餌を製造販売している。
これらの擬餌は、先端に全長の五分の一程度の頭部があり、この頭部は前端が球状、後端が括り状の中空の弾頭形であり、その後方に全長の五分の四程度の長さの、中太り筒形状部が連設され、この部分に全体にわたつて縦方向に約二〇本程度の細幅の脚片を構成している。その色彩、模様において、目録(一)は一色に着色し、全体に光輝性の粉末を付着させ、一対の目玉模様を付けたもの、目録(二)は二色に色分けし、全体に有色粉末を付着させて、一対の目玉模様を付けたもの、目録(三)は一色に着色し、全体に有色粉末を付着させて、一対の目玉模様を付けたものである。
四 被告らが製造販売等している別紙目録(一)(二)(三)の擬餌の意匠は、本件登録意匠の基本的形状において全く同一であり、唯その色彩模様において若干の差異があるに過ぎない。すなわち、目録(一)は色彩によつて目玉の輪郭模様と全体に粉状体を平均に表わした模様が付され、目録(二)は目玉と、粉状体による輪郭模様のほか、全体の縦半分を色分けした模様が付され、目録(三)は目玉の輪郭模様と、脚片の両側に輪郭模様が付されているにとどまり、いずれも本件登録意匠の範囲を出ない模様の相違があるにすぎないもので、一般需要者がこれを本件登録にかかる擬餌と混同するものである。従つて、別紙目録(一)(二)(三)の擬餌の各意匠は本件登録意匠に類似し、その権利範囲に属する。
五 被告会社は別紙目録記載の擬餌を生産し、使用し、譲渡し、又は譲渡のため展示しているが、これら擬餌は本件意匠の権利の範囲に属し、被告会社の右行為は原告【A】の意匠権の侵害であるから、原告【A】は意匠権に基いて被告会社の右行為の差止めを求め、且つ、右侵害行為を組成する物件で被告らが所有する完成品
半製品(縦方向に切れ目のないものがこれに該当する)の廃棄を求める。
六 被告【B】は昭和四二年一月頃から四五年六月三〇日までの間に売上金額にして金五〇〇〇万円、被告会社は同年七月一日以降売上金額にして金三〇〇〇万円を下らない数量の擬餌を製造し、これを神奈川県三浦三崎方面その他で販売して来たが、被告【B】はかつて原告会社の従業員としてこれら擬餌の製造等に従事し、原告【A】の意匠権および原告会社の通常実施権の存在を知り、これら擬餌を製造販売することによつて、原告らの権利を侵害することを知悉していた。原告【A】は本件意匠の実施権を原告会社が行使することを許諾し、原告会社の売上の三%を実施料として取得する約定であつたから、原告【A】は被告らの製造販売がなかつたならば、被告らが製造販売した数量に等しい擬餌を原告会社に製造販売させ、これによつて右約定の実施料を得ることができたところ、被告らの行為によりこれを喪つた。その数額は被告【B】について売上金五〇〇〇万円の三%である金一五〇万円、被告会社について売上金三〇〇〇万円の三%である金九〇万円である。
又、原告会社は被告らの製造販売によつて、被告【B】によつて金五〇〇〇万円、被告会社によつて金三〇〇〇万円を下らない売上げを妨げられたが、原告会社においては売上の少なくとも三〇%が利益となるのが通常であるから、被告【B】によつて金一五〇〇万円、被告会社によつて金九〇〇万円の利益の取得を妨げられる損害を蒙つた。
よつて、原告らは被告らに対し、右各損害金とこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
請求原因に対する答弁
一 請求原因第一項の事実中、原告会社は釣具の製造販売を業とすること、原告【A】が別紙図面Aの意匠について、擬餌を意匠にかかる物品として、その主張の日に意匠出願し、登録され、別紙図面BCDFGについて、その主張の日に類似意匠の登録を受けたこと、は認め、その余の事実は不知。
二 請求原因第二項の事実は否認。
本意匠(別紙図面Aの意匠)の構成は、頭部を弾頭状とし、胴部を頭部の約四倍の中太りの筒状とし、頭部と胴部との境のくびれ目の表裏に二重楕円形の眼を描出し、眼の下部にさらに二重線を設け、この二重線部分を起点として胴体末端部に伸びる十数本の切目を入れて縞条を表わし、胴部末端寄りの左右対称のところで縞線間の部分を外方に折曲げて湾曲して突出させ、かつ、眼以外の部分にくまなく粉点を表わしたもの、といえる。そして、類似意匠などを総合すると、本件登録意匠の要部は、或程度硬質のプラスチツク等を素材として、擬餌の足にあたる部分が常に乱れることなく整然と揃つて、足部の中空の筒型を保持し、これと眼玉、鉢巻模様或いは足部切れ目の一部を折曲げて外方に湾曲させた形態を保持する形態デザインの各組合せとを特徴とするものである。
三 請求原因第三項の事実は否認。被告らが製造販売している製品は、タコに象つた極めて柔軟なビニール製のもので、頭部を弾頭状でその後部が括り状となり、その頚部のくびれ目の表裏に眼を表わし、その下部を切り込んで二十数本の細条片として、頭部の長さの約四倍の吹流し状の足部を形成し、全体を淡緑色、眼を更に淡く、かつ中心に黒点を有する緑色とし、銀色の粉点をくまなく配したものであり、
そのほか、全体の縦半分を淡青色とするほかは右と殆ど同じ構成のもの、或いは、
頭部を透明にし、吹流し状の足部の縦半部各朱色を透明とするほかは右と殆ど同じ構成のものである。
四 請求原因第四項の事実は否認。
本件擬餌の登録意匠は硬質プラスチツク等を素材とし、その足部が円筒形を保持し、足部細片が整然と揃つた形を保持するものであるところ、被告製品の特徴は、
それが極めて軟質のビニールを素材としているために、擬餌の足にあたる部分の細条片が吹流し状を呈し、置き方、持ち方によつて極めて様々な形態を示し、固定的な円筒形状を保持し得ないところにあり、本件登録意匠とはその意匠の構成を全く異にしている。このような擬餌は本件登録意匠出願前から内国および外国の海洋漁業に広く使用されて来た一般公知のもので、原告らがいうような本件意匠の基本的形状の擬餌は広く製造販売使用され一般公知のものであつたのであるから、このような部分は意匠の権利範囲の要部とみなされない。
又、本件意匠登録の類似第一号の登録意匠の構成は、先端部を弾頭状とする中空筒体で、弾頭状の部分と筒体部との境目に一本の線が表わしてあるもので原告らが本件意匠の基本的形状として主張しているようなタコ形状を有してはいない。仮に、もし本件意匠が軟質ビニールを素材とし、足部細条片が乱れる在来の製品と同様の擬餌意匠であり、たゞその足部の一部を特殊加工等によつてはね上げてあること等部分的デザインに新規性ありとして意匠登録許可されたものとすれば、この部分的新規デザイン以外の主体部意匠は在来一般公知のビニール製擬餌と同一であるに帰するから、その主体的部分には意匠権の権利範囲はおよばず、権利濫用の法理からしても、そのような意匠に基く侵害主張は許されない。
五 請求原因第五項の事実は否認、第六項の事実は争う。
(証拠関係)(省略) 理 由一 原告【A】が昭和三九年四月二八日、
意匠にかかる物品を擬餌として意匠別紙図面Aを出願し、同四一年五月一〇日登録番号第二五九四四七号をもつて意匠登録されたこと、この登録意匠類似する意匠として、別紙図面BCDEFGについて類似意匠の登録を出願し、昭和四一年五月一〇日第二五九四四七号の類似二ないし七として類似意匠の登録を受けたこと、右の事実は当事者間に争いがない。
二 原告【A】が登録番号第二五九四四七号の意匠登録によつて取得した意匠権の範囲を検討する。
まず被告らは、本件登録意匠の要部は、或程度硬質のプラスチツク等を素材として、擬餌の脚にあたる部分が常に乱れることなく整然と揃つて脚部の中空の筒型を保持し、脚部切れ目の一部を外方に湾曲させた形態を保持するところにあると主張しているので、この点の当否を考える。
意匠権の範囲は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載され、又は願書に添付した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定められるものである。そして本件意匠については、同号の類似意匠の登録がなされており、この類似意匠の意匠権は本意匠の意匠権と合体するのであるから、本件意匠権の範囲は、
これら本意匠および類似意匠の願書の記載等に基いて定められる。
鑑定人【C】作成の鑑定書添付資料によれば、本意匠および類似意匠の願書には、別紙図面A(本意匠)、BCDEFG(類似意匠)の図面および説明文言のほか、意匠に係る物品を擬餌とする記載があるのみであることが認められる。
しかして、別紙図面AないしGおよび右記載文言は、本件登録意匠擬餌が硬質のものであるか軟質のものであるかを何ら示すところがない。被告らは登録にかかる擬餌が慣性的には全体に整然とした円筒形を保ち、相対する二本の脚片が外方に向つて弧状を呈する形を保持する程度の硬度をもつ材質のものであることは、登録公報の記載上明らかであるという。しかし、意匠法第6条第4項は、その意匠に係る物品の材質を理解することができないためその意匠を認識することができないときは、その意匠に係る物品の材質を願書に記載すべきものとしており、前記願書には擬餌の材質について記載がないのであるから、材質について何ら表示されていない前記図面の物品について、そこに表示されたものが特に硬質であるものと限定して認識されるためには、積極的な理由がなければならないが、前記図面からはそのような理由を見出せないのであつて、前記図面から被告らの判断を導くことは独断的にすぎる。これは、被告らの昭和四七年四月一七日付準備書面添付の図面のような図示があつても、そこに表示された物品が、そのような不整序な形態に固定された硬質の材質の物品であるという見方を排除できる合理的根拠がないのと同断である。
又、意匠権の範囲を判断するについては、当該意匠の属する分野における通常の知識を有する者の認識によるべきものであるところ、擬餌のなかでもタコ形状擬餌に限定していえば、それが塩化ビニールなど柔軟な素材で作られること、およびタコ形状擬餌はそれが水中で使用される際に、あたかかもタコが遊泳しているかのような柔軟な動きをすることによつて擬餌としての効果を有することは、漁業用擬餌の製造販売をする者およびこれを使用する漁業者にとつて、本件意匠登録当時から広く知られている(真正な成立に争いない乙第二号証の一ないし一〇、第六号証、
第八号証の一、二、第一〇号証、証人【D】の証言により認められる)のであるから、その意味から云つても、材質が硬質であることを特に示していない前記図面が、軟質の材質を示していないとみるべきではない。
すなわち、本件登録意匠は擬餌の材質が硬質たると軟質たるとを問わず、前記図面によつて表示されるような意匠をその権利範囲とするものである。
三 そして、本意匠および類似意匠の前記各図面によつて認識される本件意匠の要部は、次のようなものであると判断される。
1 全長の約五分の一の頭部と、約五分の四の脚部とから構成される。
2 頭部はほほ楕円球体状で、その脚部側約四分の一付近が、やや括り状の頸部をなしながら脚部に連接する。
3 脚部は、頭部の脚部寄り、又は頚部、あるいは脚部の頚部寄りから脚部末端まで、長手方向に直線状に、均等幅の約二〇本の細条片に分断され、それらが総体として、頭部寄りを頭部径幅よりやや大きい最大径とし、脚部末端を頭部と同径幅とする紡錘型円筒状をなす。
4 括り状頚部に一対の、又は頚部の脚部寄りと脚部の頚部寄りに各一対の、二重楕円又は二重円形による目玉ようの模様が左右対称に付されている。
本件意匠の要部を右のように判断するについて、二、三説明を加える。
本意匠にはその類似意匠として、第二五九四四七号の類似一が登録されていることが前出鑑定書添付資料により認められる。ところがこの類似一によつて印象される意匠は、その総体の形状本意匠および他の類似意匠と著るしく異つているために、これが本意匠の類似意匠として登録されていることに当惑せざるを得ないのであり、この類似一は乙第一号証添付資料と対照すると、意匠登録第二五九四四六号の類似意匠であるものが、誤つて本件意匠の類似として登録されたもののようにも観取されるので、恣意にすぎることは免れないながらも、本件事案の争点によりよく迫るためには、この類似一を除外視するほかないものと考える。
被告らは、擬餌脚部の細条片のうち左右対称の二本が外方に向つて弧状をなしている点が、本件意匠の要部をなしていると主張している。しかし、類似意匠が登録されているときには、類似意匠の意匠権は本意匠の意匠権と合体する性質のものであるから、本意匠と類似意匠とを対照して本意匠の図面に表示されているが類似意匠の図面に表示されていないような相違部分は、意匠の要部とはいえないものであり、本件意匠においても、類似二の図面(別紙図面B)には外方に向つて弧状をなした脚部は表示されていないから、脚部の一対の細条片が外方へ弧状をなす部分は本件意匠の要部ということはできない。
右と同様の理由で、梨地模様状の粉粒の有無、頭部頚部の鉢巻模様の数およびその有無、脚部全体、又は脚部長手方向半分、或いは長手方向一部の着色の有無、脚部細条片の一部のストライブ又は吸着盤ようの模様の有無は、いずれも本件意匠の要部であるものとは認められない。
被告らは、本件意匠が前記のような点を意匠の要部とするもので、かつ、軟質ビニールなど柔軟な材質の擬餌をいうのであるとすれば、そのような意匠の擬餌は在来一般公知の擬餌と同一であるというのであるが、証人【E】、同【D】、同【F】の各証言によれば、本件意匠登録当時、軟質ビニール製のタコ状擬餌は漁業用に広く製造販売使用されていたけれども、それらは、頭部と脚部との構成比が一対三程度で、又脚部の細条片が八本前後であつて、これらの点で本件意匠の前記要部とは重要な相違があつたことが認められ、この認定を覆えすに足る証拠はない。
したがつて、前記1ないし4を意匠の要部とする本件意匠が本件意匠登録当時すでに公知であつたとする被告らの主張は採らない。
四 次に原告らの主張によつて、本件登録意匠の範囲内の物品であるとされる被告ら製品について検討する。
原告らは、当該被告ら製品を別紙目録(一)(二)(三)の各擬餌とし、それぞれについての図面の説明として(イ)(ロ)(ハ)を添付している。そして、被告らはそのような製品を製造などしていないと主張しているが、その被告らの主張の趣旨は、被告らが製造している擬餌は、原告らが図示するような図面では表示できないという趣旨であつて、昭和四八年二月二八日検証の結果および弁論の趣旨によれば、原告らが本件登録意匠の範囲内の擬餌であると主張している被告ら製品は検甲第一、第二、第三の各二の擬餌であることが明らかである。
そこで、検甲第一、二、三の各二についてみると、これらはいずれも、その頭部先端に小突起があつて、このために頭部が椎の実形といつた方がよい形状であるほかは、前項1ないし4の本件登録意匠の要部とされる形状を具備している。そして、別紙図面AないしGに示された擬餌の形状のうち、その頭頂部に小突起があるか否かは擬餌としての形状の印象を異にするものとはいえない、微小な相違であるにすぎないから、検甲第一、二、三の各二の擬餌はいずれも本件登録意匠の範囲に属する。
この判決においては、本件訴訟の対象である検甲第一、二、三の各二の擬餌を図面などによつて表示する必要がある。そして、
検甲第一、二、三の各二のような極めて柔軟な物品を表示するには、その図面としては、右各擬餌が可及的に外力による変形を受けずに、その物性によつて慣性的に形成されるであろう形状をその物自体の形状と考えてこれを図示し、図面によつては表示の不充分な点を説明文によつて補う方法によることが適切であると考える。
右の観点からすると、検甲第一の二は別紙図面(ロ)のように図示して(ろ)の説明文を付し、検甲第二の二は別紙図面(ハ)のように図示して(は)の説明文を付し、検甲第三の二は別紙図面(イ)のように図示して(い)の説明文を付して表示することが適切である。
五 被告【B】が昭和四二年一月頃から検甲第一、二、三の各二の擬餌を製造販売し、被告会社が昭和四五年七月一日頃から検甲第一、二、三の各二の擬餌を製造販売している事実は、被告らにおいて明らかに争わないから自白したものとみなす。
六 本件登録意匠に対する原告会社の通常実施権についてみるに、証人【E】、同【D】、同【G】の各証言および検証の詰果によれば、本件登録意匠権者である原告【A】は、原告会社の代表取締役であり、本件意匠登録がなされた当時から原告会社は本件登録意匠に類似する擬餌を製造販売していることが認められるので、原告【A】は原告会社が本件登録意匠の擬餌を製造販売することを許諾したものと認められ、この認定に反する証拠はない。してみれば、原告会社は本件登録意匠通常実施権を、本件意匠登録頃から有するものである。
七 原告らの差止請求などについて検討する。
原告らの請求趣旨中、被告会社に対する擬餌の生産、使用、譲渡等請求、および被告らに対する擬餌の完成品、半製品の廃棄請求は、原告会社もこれを請求しているようであるが、これらの行為の差止請求権を有するのは、意匠権者および専用実施権者であり、通常実施権者にはこの請求権は認められないから、通常実施権を有するにすぎない原告会社の被告会社に対する右差止請求は理由がない。
被告会社が検甲第一、二、三の各二の擬餌を、業として製造販売していることは、被告会社の明らかに争わないところであるから、本件意匠権者である原告【A】の被告会社に対するこれら擬餌の生産(製造というべきである)、使用、譲渡、又は譲渡のための展示を差止める請求は理由がある。
原告【A】の被告【B】に対する擬餌の完成品、半製品廃棄請求については、被告【B】は当初検甲第一、二、三の各二の擬餌を製造販売したが、昭和四五年七月以降は被告会社の代表取締役となり、以来被告会社がこの製造販売にあたつているものであつて、被告【B】が現在、これら擬餌の完成品、半製品を所有していることを認めるに足る証拠はないから、原告【A】の被告【B】に対する右請求は理由がない。
原告【A】の被告会社に対する擬餌の完成品、半製品の廃棄請求についてみるに、原告【A】が廃棄を求める半製品は、擬餌の縦方向に切れ目が切れ目が入ってないものを指称するというのであるけれども、本件登録意匠の要部の一つは、約二〇本という多数の細条片に分断されているところにあり、例えばこれが八本に分断されたものは意匠権を侵害するものとはいえないのであるから、この切れ目がまだ入っておらず、どのように脚部が形成されるかわからない未完製品を直ちに本件意匠権を侵害するものとして、その廃棄を求める原告【A】の請求は理由がない。
本件意匠権者である原告【A】の被告会社に対する検甲第一、二、三の各二の擬餌の完成品の廃棄を求める請求は理由がある。但し、原告【A】の請求は被告会社の所有する擬餌の廃棄を求めるものであるが、当該擬餌が被告会社の所有であるか否かの判断を執行の場面に委ねるのは適切でないから、廃棄を求め得るのは被告会社の所持にかかる擬餌の範囲に止めるべきである。
八 原告らの被告らに対する損害賠償請求について検討する。
証人【D】の証言により真正な成立の認められる甲第九号証の一ないし八および同証言によれば次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
「原告会社は本件登録意匠類似の塩化ビニール製擬餌を、昭和四一年頃以来製造販売し、全国に二五店の販売特約店を有し、当初は一〇〇パーセント近い市場占有率であり、昭和四三年頃に八〇パーセント程度現在でも五〇パーセントのシエアを有し、その擬餌売上金額に対する純利益は当初約三〇パーセント程度であつたが最近では漸次低下している。原告会社は本件意匠権者である原告【A】に対し意匠の実施料として、擬餌の売上金額の三パーセントを支払う約定である。
被告【B】は昭和四〇年一○月頃から擬餌など漁具の製造を始め、昭和四二年、
三年頃から九州方面を中心として全国的に擬餌を製造販売し、昭和四二年一月から一二月までの売上総額は金一〇〇〇万円、その約八〇パーセントが擬餌の売上によるものであつた。同様に、昭和四三年一月から一二月までの間の売上月額は約金八〇万円、年間総額は金九六〇万円で、その約八〇パーントが擬餌によるもの、昭和四四年一月から一二月までの間は月額金二〇〇万円、年間売上総額は約金二四〇〇万円で、その約八五パーセントが擬餌によるもの、昭和四五年一月から六月までの間の売上月額は約金五〇〇万円、売上総額は約金三〇〇〇万円で、その約八五パーセントが擬餌によるものであつた。被告会社は昭和四五年七月一日、被告【B】が代表取締役となつて設立され、被告【B】の業務を承継して擬餌等漁具の製造販売にあたり、昭和四五年七月から一二月までの間の売上総額は同年前半期同様約金三〇〇〇万円、昭和四六年一月から一二月(原告らの訴提起は同年一二月二七日)までの間の売上総額は約金六六〇〇万円で、いずれも擬餌による売上はその約八五パーセントであつた。」 右事実によれば、被告らが本件登録意匠の範囲に属する擬餌を製造販売しなかつたならば、原告会社が製造した擬餌の販売ができたであろうと考えられるので、被告らの製造販売によつて、原告会社は右売上を妨げられ、この売上総額の約三〇パーセント或いは三〇パーセント弱の利益を得ることができず、その損害を蒙つたものというべきである。
そして、被告【B】の昭和四二年一月から昭和四五年六月までの擬餌売上総額は金六一五八万円であるところ、原告らはこれを控え目に金五〇〇〇万円として、利益額を金一五〇〇万円であるものと主張しているので、これを損害であるものとする原告会社の主張は控え目な損害主張として肯認することができる。又、被告会社の昭和四五年七月から訴提起時である昭和四六年一二月までの擬餌売上総額は金八一六〇万円であるところ、原告らはこれを控え目に金三〇〇〇万円として、利益額を金九〇〇万円と算定し、これを損害であるものとする原告会社の主張は控え目な主張として肯認できる。
次に、前認定事実によつて被告【A】が蒙つた意匠実施料相当損害額についてみると、原告【A】と原告会社間の約定では擬餌売上額の三%が原告【A】に支払われるのであるから、原告【A】は被告らの擬餌製造販売によつて得べかりし実施料を喪う損害を蒙つたものであり、被告【B】に対して金五〇〇〇万円の三パーセントである金一五〇万円、被告会社に対して金三〇〇〇万円の三パーセントである金九〇万円をその損害とする賠償請求は前記同様に控え目な損害主張として肯認できる。
よつて、原告らの被告らに対する右各損害額の賠償請求およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四七年一月二一日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払請求は理由がある。
以上のとおり、第七項、第八項において理由があるものとされた差止請求および損害賠償請求を認容し、原告らの被告らに対するその余の差止請求を理由がないものとして棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第92条但書、第93条第1項但書、仮執行の宣言について同法第196条を適用する。
目録(一) 別紙図面(イ)、説明文(い)の擬餌 但し、原告らの請求原因においては説明文は(イ)(二) 別紙図面(ロ)、説明文(ろ)の擬餌 但し、原告らの請求原因においては説明文は(ロ)(三) 別紙図面(ハ)、説明文(は)の擬餌 但し、原告らの請求原因においては説明文(ハ) 以上<12054-001> 説明文(い) 柔軟な塩化ビニールを素材とし、脚部は吹流し状を呈する図示の形状で、目玉よう模様部分を除いて一色に着色するとともに、全体の表面に光輝性の細片を平均に付着させた擬餌。
説明文(イ) 先端に全長の五分の一程度の頭部を有し、この頭部は前端を球状となし、後端を括り状となした中空の弾頭形状に構成し、
その後方に全長の五分の四程度の長さを有する中太り筒形状部を一体に連設すると共にこの部に全体に亘つて縦方向に約二〇本程の細幅の脚片を構成せる基本形状を一色に着色すると共に其の全体の表面に光輝性の粉末を平均に附着し且つ頭部尾端の括れ部に一対の目玉を附けた擬餌。
<12054-002> 説明文(ろ) 柔軟な塩化ビニールを素材とし、脚部は吹流し状を呈する図示の形状で、目玉よう模様部分を除いて、全体を長手方向に二分する色分けをするとともに、全体の表面に光輝性の細片を付着させた擬餌。
説明文(ロ) 先端に全長の五分の一程度の頭部を有し、この頭部は前端を球状となし、後端を括り状となした中空の弾頭形状に構成し、その後方に全長の五分の四程度の長さを有する中太り筒形状部を一体に連設すると共にこの部に全体に亘つて縦方向に約二〇本程の細幅の脚片を構成せる基本形状に縦方向の二色の色別けを施すと共に全体の表面に光輝性の有色粉末を平均に附着し、且つ頭部尾端の括り部に一対の目玉を附けた擬餌。
<12054-003> 説明文(は) 柔軟な塩化ビニールを素材とし、脚部は吹流し状を呈する図示の形状で、目玉よう模様部分を除いて、全体を長手方向に図示の濃色部分と淡色部分に二分する色分けをするとともに、全体の表面に光輝性の細片を付着させた擬餌。
説明文(ハ) 先端に全長の五分の一程度の頭部を有し、頭部は前端を球状となし、後端を括り状とした中空の弾頭形状に構成し、その後方に全長の五分の四程度の長さを有する中太り筒形状部を一体に連設すると共にこの部に全体に亘つて縦方向に約二〇本程の細幅の脚片を構成せる基本形状に於て全体を一色に着色し且つ脚片の一部に他部との色別けを施すと共に全体の表面に光輝性の有色粉末を平均に附着し、頭部尾端の括れ部に一対の目玉を附けた擬餌。
<12054-004><12054-005><12054-006><12054-007><12054-008><12054-009><12054-010>
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