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事件 |
昭和
43年
(ワ)
11385号
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1973/05/25 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
被告は、原告に対し、金七億六一〇〇万円およびこれに対する昭和四三年一〇月一〇日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用は、被告の負担とする。 この判決は、原告勝訴部分に限り、原告において、金二億円の担保を供するときは、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告の申立1 主文第一、第三項同旨2 被告は、別紙謝罪広告目録表示の謝罪広告を、同目録表示の日刊新聞紙(全国版)に、各三回掲載せよ。 との判決ならびに仮執行の宣言を求める。 二 被告の申立1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は、原告の負担とする。 との判決を求める。 |
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請求原因
一 原告の権利 原告は、訴外株式会社本田技術研究所が、昭和三七年一一月二八日、訴外【A】から譲渡を受け、その旨昭和三八年一月一〇日移転登録を経由した次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件登録意匠」という。)につき、昭和三七年一一月二九日、右株式会社本田技術研究所から専用実施権(以下「本件専用実施権」という。)の設定を受け、その旨昭和三八年一月一〇日設定登録を経由した。 1 出願 昭和三三年五月七日(意願昭和三三-九二一七号)2 登録 昭和三四年一月二二日3 登録番号 第一四六一一三号4 意匠にかかる物品 第二〇類自動二輪車5 考案者 【A】6 登録請求の範囲 別紙意匠公報写しの、図面代用写真に示すとおりの自動二輪車の形状および模様の結合 なお、本件意匠権には、類似第一号ないし第五号の意匠が付帯する。 二 本件登録意匠の構成本件登録意匠の構成は、次のとおりである。 1 ハンドル(1)(番号は、すべて、本件登録意匠については、別紙意匠公報写しの図面代用写真に表示するところ、被告意匠については、別紙物件目録(一)ないし(三)添付の写真に表示するところによる。)は、上方から見て、その中央部正面向き前縁を直線状とし、右直線の両端から、左右後方に向い、鈍角に屈折して飛雁形とし、その両翼に相当する各腕の先端に、丸棒形状のグリツプ(1a)があり、各腕は、中心に至るにしたがい漸次太くなり、中心部の後側が、弧状に膨出している。その膨出部分の中央にはほぼ台形のスピードメーター(1b)が設けられ、両腕の前面左右には、上方から見て、ハンドル(1)に接する線を底辺とする低いほぼ台形をなし、正面から見て、ハンドル(1)と同じ高さに横長の長方形をなすフロントウインカーランプがある。正面から見れば、グリツプ(1a)と両腕は、水平にほぼ一直線をなし、中央で僅かに下方へ屈折している。 2 フロントフオーク(2)は、正面から見て、ハンドル(1)の中心部から、下方に至るにしたがつて、漸次横巾が広くなり、その中心部から下端までは、前車輪(2a)の両腕をはさんで、その軸心部に至る又状をなし、その上方に、横桟一本、縦桟五本を組み合わせた横長むくみ四辺形の桟窓を有する、同形のクラクシヨンカバーを有し、側面から見て、ハンドル(1)から前車輪(2a)の軸心部まで、斜めになつた、比較的巾広く平たい形状をなし、その下端が後方に屈曲して、 この下端屈曲部分の前端から後端部にかけ、横長の卵形隆起部(2b)となつている。 3 ヘツドライト(3)は、正面から見て、ハンドル(1)の中心部の下側に接して円形をなし、側面から見れば、フロントフオーク(2)の上端部から、また、上面から見れば、ハンドル(1)の中心部から、ともに前方に突出して椀形をなす。 4 フロントフエンダ(4)は、両側面では、前車輪(2a)の前方上部から後側を覆つて、前車輪(2a)の輪郭にそうほぼ三日月形で、後端部が、やや後方に反つた形状をなし、正面では、前端部が、フロントフオーク(2)の又の間から現われている。 5 フロントカバー(5)は、両側面から見れば、全体が、人の甲高な足を、足先を上方に立てた形状をなし、その前縁は、上部から下部にかけて、フロントフオーク(2)とやや平行に斜め前方に延び、漸次フロントフオーク(2)から離れるような弓形状に現われ、その前縁は、折曲つて、両側方に突出し、覆板が曲成され、 下部から上方約三分の一位の位置において、フロントカバー(5)の前端から後端に達するほぼ水平状の線で区画され、その下方が隆起して段部(5a)が形成され、後部は、車体の中央部まで延び、後下部は、前記隆起段部(5a)が作る水平直線の下方において、クランクケース(9)の中央付近から前方に向け、右直線にそう線とこの線から垂直方向下方に延びる線とによつて、ほぼ鍵形に、クランクケース(9)の外郭にそつて切り欠かれており、隆起段部(5a)の上方で、ほぼ中央部に卵形の切欠穴(5b)がある。背部ないし背梁部は、その上端付近に、膨出部(エアークリーナーカバー)を設け、その下部から、緩やかな弧をもつて後下方に傾斜している。正面から見れば、縦に中央部が凹んで、両側の覆板(16)が、 フロントフオーク(2)の両側に現われ、それらの覆板(16)は、ほぼ平らで、 縦長に上部より下部に延び、下方に僅かに広く並んでいる。 6 フロントカバー(5)の後端部には、それに連なり、漸次弧状に高い車体後半部(6)が現われ、その右側面のほぼ中央に、後述のタンク(8)(燃料入れ)の直下、かつ、クランクケース(9)の斜め後方に、不等辺四角形の箱(6a)(工具入れ)が突出され、左側面にも、右側と対称に、同形の箱(6b)(電池入れ)が突出されている。車体後半部(6)の上部には、前側が凹弧状をなし、上部前端を前に突き出した、ほぼ三角形のタンク(8)(燃料入れ)が突設され、そのタンク(8)の両側面には、ほぼ長方形で、明色のネームプレートを付した長楕円形の膨出部(8a)があり、その上面には、上面から見て、いちぢく状で、側面から見ると、後半下部を区画する線を有する平らなシート(7)(運転者の乗座)が取り付けられている。 7 車体中央部に取り付けられたクランクケース(9)は、右側面では、チエーンケース(10)の前端の魚尾形部(9a)とともに、魚形をなし、左側面では、前方膨出部(9b)を有する台形をなしている。 8 チエーンケース(10)は、クランクケース(9)の後端に接続して、後方へ後車輪(12a)の軸部まで延び、前後に細長く、後端は、半円弧状をなしている。 9 リヤフオーク(11)は、左右両側面ともに、クランクケース(9)の後端部から、水平に後方へ後車輪軸まで延び、その後端には上方に屈曲した屈曲部(11a)を形成し、その上端から、丸棒状のリヤクツシヨン(14)が、斜め上方に立ち上がつている。なお、右側面では、リヤフオーク(11)は、チエーンケース(10)の水平方向の中心線外側に位置している。 10 リヤフエンダ(12)は、両側面で、車体後半部(6)と一体に形成され、 後車輪(12a)を覆うように、その輪郭にそう弧状をなし、その後端(12b)は、後方に反つている。リヤフエンダ(12)の後部上側には、鳥のくちばし状のテールライト(12c)が突設されており、背面および上面から見て、その左右両側には、牛角状のリヤウインカーランプ(12d)が突出している。 11 キヤリヤ(13)は、両側面から見て、リヤフエンダ(12)上に、水平に設けられ、上面から見て、長手方向の三本の格子状平行桟(13b)と隅丸のほぼ短形の周枠(13a)とで形成され、前記リヤクツシヨン(14)の上端は、キヤリヤ(13)の前方寄り下面に達している。 12 マフラー(15)は、左側面で、クランクケース(9)の下部から、後車輪(12a)の車軸を越えた側方まで水平に延び、前後端付近において、径を絞つて先端を極細としたかつお木状をなしている。 13 車体の中央部やや下方からは、棒状のステツプが両側に突出している。 14 両側面から見れば、人の甲高な足を、足先を上方に立てた形状のフロントカバー(5)が、その前端の狭い部分において、フロントフオーク(2)の上端後側に連なり、その後方部分は、斜め後方に傾斜するとともに、下方に広がり、その弓形状に前方に彎曲する前縁から、覆板(16)が、側方に曲成されている。フロントカバー(5)の後端部には、車体後半部(6)が連結して見られ、その車体後半部(6)は、フロントカバー(5)の後端より漸次高く弧状をなし、車体後半部(6)の後端に一体的に連なるリヤフェンダ(12)は、後方に巾狭く構成されている。そして、これらフロントカバー(5)、車体後半部(6)およびリヤフエンダ(12)は、一連の横S形の車体部としての外観を呈し、その横S形は、前端が尖り、それに続く前半が下方に巾広くなり、後半が著しく先細になつている。横S形の下縁は、フロントカバー(5)の下端から、左側面においては、マフラー(15)の下縁に続き、右側面においては、クランクケース(9)の下縁、チエーンケース(16)の下縁にそつて、直線部分となつて現われている。 また、上記横S形の中央部下方にあるクランクケース(9)の後端には、棒状のリヤフォーク(11)が水平に連なり、その後端から斜め上方に立ち上がる棒状のリヤクッション(14)の上端が、水平のキャリア(13)の前方寄りに連なつてそれらがZ形を形成し、右側面においては、そのZ形のリヤフォーク(11)に、 更にチェーンケース(10)とクランクケース(9)からなる巾広い横一文字が重なつている。 更に、前車輪(2a)および後車輪(12a)は、フエンダ(4)、(12)によつて遮断されることが殆んどなく、それらの大部分は側方に輪形に現われている。 三 被告製品 被告は、昭和四一年九月より昭和四四年一月二二日(本件意匠権存続期間満了日)までの間に、別紙物件目録(一)ないし(三)に表示する自動二輪車(以下「本件物件」という。)を製造し、これを販売した。 四 被告意匠の構成本件物件の意匠(以下「被告意匠という。)の構成は、次のとおりである。 1 ハンドル(1)は、上方から見て、その中央部正面向き前縁を、緩やかな弧状曲線とし、右曲線の両端から、左右後方に向い、屈折して飛雁形とし、その両翼に相当する各腕の先端は、丸棒形状のグリップ(1a)があり、各腕は、中心に至るにしたがい漸次太くなり、中心部の後側が弧状に膨出している。その膨出部分の中央には、ほぼ台形のスピードメーター(1b)が設けられ、両腕の前面左右には、 上方から見て、ハンドル(1)の前方に突出し、後部が椀形を、前部が円筒形をなし、正面から見て、ハンドル(1)から上面に突出した、円形をなすクロントウインカーランプがある。 正面から見れば、グリップ(1a)と両腕は、水平にほぼ一直線をなし、中央で僅かに下方へ屈折している。 2 フロントフォーク(2)は、正面から見てて、ハンドル(1)の中心部から下方に至るにしたがつて、漸次横巾が広くなり、その中央部から下端までは、前車輪(2a)の両側をはさんで、その軸心部に至る又状をなし、その上方に、中央にほぼ長円形の穴をうがち、縦桟六本を施した桟窓を設けた、縦長で、下方の巾を細くした、ほぼ長方形のクラクションカバーを有し、側面から見て、ハンドル(1)から前車輪(2a)の軸心部まで、斜めになった比較的巾広く平たい形状をなし、その下端が、後方に屈曲して、この下端屈曲部分の中央付近から後端部にかけ、むすび状の凹部(2b)となつている。 3 ヘッドライト(3)は、正面から見て、ハンドル(1)の中心部の下端に接して馬蹄形をなし、側面から見れば、フロントフォーク(2)の上端部から、また、 上面から見れば、ハンドル(1)の中心部から、ともに前方へ突出して椀形をなす。 4 フロントフェンダ(4)は、両側面では、前車輪(2a)の前方上部から後側を覆つて、前車輪(2a)の輪郭にそうほぼ三日月形で、後端部が後方に十分に反つた形状をなし、正面では、前端部が、フロントフォーク(2)の又の間から現われている。 5 フロントカバー(5)は、明色で、両側面から見れば、全体が、人の足を、足先を上方に立てた形状をなし、その前縁は、上部から下部にかけて、フロントフォーク(2)とやや平行に、斜め前方に延びるとともに、漸次フロントフォーク(2)から離れる円弧状をなし、下端が、前方に彎曲気味に垂下する弓形状に現われ、その前縁は、折曲つて両側方に突出し、覆板が曲成され、上部約四分の一位の位置から斜め後下方に走り、後端の中央よりやや上部付近に達する、緩やかな円弧状の線で区画され、この線の下方が隆起して段部(5a)が形成され、後部上端は、車体の中央部まで延び、そこから前方に向け、工具入れ(6a)工具入れと同形の箱(6b)の上縁および前縁にそつて、弧状曲線によつて、丸く切り欠かれ、 その下方は、緩やかな弧状曲線によつて、クランクケース(9)の前縁にそつて、 切り欠かれている。背部ないし背梁部は、上端から下端に至る弧をもつて後下方に傾斜彎入している。正面からみれば、縦に中央部が凹んで、両側の覆板(16)が、フロントフォーク(2)の両側に現われ、それら覆板(16)は、ほぼ平らで、縦長に、上部より下部に並列して延びている。 6 フロントカバー(5)の後端部には、それに連なり、漸次弧状に高い車体後半部(6)があり、その両側面上方には、側方に膨出し、表面中央に、ネームを横長の平行四辺形に表示した卵形の、クロームメッキしたネームプレートを取り付けた、大きな卵形タンク(8)があり、その前方やや低い位置に、中央に三本の水平の筋を有する、両端の丸い、横長の箱(工具入れ)(6a)およびこれと同形の箱(6b)が現われ、卵形タンク(8)の上面には、上面から見て、いちじく状で、 側面から見ると、後半下部に、白い部分を有する平らなシート(7)が取り付けられている。 7 車体中央部に取り付けられたクランクケース(9)は、その前方に、円形部(蓋)を有し、右側面では、チェーンケース(10)の前端の魚尾部(9a)とともに魚形をなし、左側面では、ほぼ楕円形をなして、その前方に円形部(9b)を有する。 8 チエーンケース(10)は、クランクケース(9)の後端に接続して、後方へ後車輪(12a)の軸部まで延び、前方に細長く、後端は、半円弧状をなしている。 9 リヤフォーク(11)は、左右両側面ともに、クランクケース(9)の後端部から、水平に後車輪軸まで延び、その後端には、上方に屈曲した屈曲部(11a)を形成し、その上端から、丸棒状のリヤクツション(14)が、斜め後方へ上方に立ち上がつている。なお、右側面では、リヤフォーク(11)は、チェーンケース(10)の水平方向の中心線外側に位置している。 10 リヤフェンダ(12)は、両側面で、車体後半部(6)と一体に形成され、 後車輪(12a)を覆うように、その輪郭にそう弧状をなし、その後端(12b)は、後方に反つている。リヤフエンダ(12)の後部上側には、 ほぼ円筒形のテールライト(12c)が突設されており、背面および上面から見て、その左右両側には、平たい円筒状のリヤウィンカーランプ(12d)が突出している。 11 キャリヤ(13)は、両側面から見て、リヤフェンダ(12)上に、水平に設けられ、上面から見て、長手方向の二本の格子状平行桟(13b)と隅丸のほぼ矩形の周枠(13a)とで形成され、前記リヤクッション(14)の上部は、キャリヤ(13)の前端寄り下面に接している。 12 マフラー(15)は、左側面で、クランクケース(9)の下部から、後車輪(12a)の側方後端付近まで水平に延びた、前後端付近において、径を絞つたかつお木状をなしている。 13 車体の中央部やや下方からは、棒状ステップが両側に突出しており、フロントカバー(5)、クランクケース(9)、シート(7)の後側面および卵形タンク(8)の中央部は、他の部分より明色にされている。 14 両側面から見れば、人の足を、足先を上方に立てた形状のフロントカバー(5)が、その前端の狭い部分において、フロントフォーク(2)の上端後側に連なり、その後方部分が、斜め後方に傾斜するとともに、下方に広がり、その弓形状に前方に彎曲する前縁から、覆板(16)が、側方に曲成され、フロントカバー(5)の後端部に、車体後半部(6)とリヤフェンダ(12)が続き、それらが、 前半が斜め後方に広がり、後半が著しく先細の一連の横S形の車体部として現われている。横S形の下縁は、フロントカバー(5)の下端から、左側面においては、 マフラー(15)の下縁に続き、右側面においては、クランクケース(9)の下縁、チェーンケース(10)の下縁にそつて、直線部分となつて現われている。 また、棒状リヤフォーク(11)、棒状リヤクッション(14)および水平キャリヤ(12)をZ形に形成し、更に、右側面においては、そのリヤフォーク(11)に、チエーンケース(14)とクランクケース(9)からなる横一文字を重ね、それらZ形および横一文字形を、前記横S形に結合し、また、大部を輪形に現わした前後車輪(2a)、(12a)をそれに配している。 五 本件登録意匠と被告意匠との対比1 本件登録意匠と被告意匠とは、その構成において、次の点は、一致している。 (一) 本件登録意匠、被告意匠ともに、両側面から見ると、人の足(本件登録意匠では、甲高な足)を、足先を上方に立てた形上のフロントカバー(5)が、その前端の狭い部分において、フロントフオーク(2)の上端後側に連なり、その後方部分は、斜め後方に傾斜するとともに、下方に広がり、その弓形状に前方に彎曲する前縁から覆板(16)が前方に形成されていること。 (二) 本件登録意匠では、フロントカバー(5)の後端部には、車体後半部(6)が連結して見られ、その連体後半部(6)はフロントカバー(5)の後端より漸次高く弧状をなし、車体後半部(6)の後端に一体的に連なるリヤフェンダ(12)は、後方に巾狭く構成され、そして、これらフロントカバー(5)、車体後半部(6)およびリヤフェンダ(12)は、一連の横S形の車体部としての外観を呈し、その横S形は、前端が尖り、それに続く前半が、下方に巾広くなり、後半が、著しく先細になつているのに対し、被告意匠においても、フロントカバー(5)の後端部に、車体後半部(6)とリヤフエンダ(12)が続き、それらが、 前半が斜め後方に広がり、後半が著しく先細の一連の横S形の車体部として現われていて、ともに、前端が狭く、その後半部分が斜め後方に傾斜するとともに、下方に広がり、後半が著しく先細の一連の横S形の車体部としての外観を呈していること。しかも、その横S形の各寸法割合がほぼ同一であること。 (三) 本件登録意匠、被告意匠ともに、横S形の下縁は、フロントカバー(5)の下端から、左側面においては、マフラー(15)の下縁に続き、右側面においては、クランクケース(9)の下縁、チエーンケース(10)の下縁にそつて、直線部分となつて現われていることと、この直線構成が、横S形の曲線構成に、アクセントを与えていること。 (四) 本件登録意匠では、横S形の中央部下方にあるクランクケース(9)の後端には、棒状のリヤフォーク(11)が水平に連なり、その後端から斜め上方に立ち上がる棒状のリヤクッション(14)の上端が、水平のキャリヤ(13)の前方寄りに連なつて、それらが、ほぼZ形を形成している点について、被告意匠においても、棒状リヤフオーク(11)、棒状リヤクツシヨン(14)および水平キヤリヤ(13)をZ形に形成していることと、両者とも、この直線からなる構成要素が、横S形にアクセントを与えていること。 (五) 本件登録意匠では、右側面においては、そのZ形中のリヤフオーク(11)に、更に、チエーンケース(10)とクランクケース(9)からなる、巾広い横一文字形が重なつており、また、前車輪(2a)および後車輪(12a)は、フエンダ(4)、(12)によつて遮断されることが殆んどなく、それらの大部分は、側方に輪形に現われている点について、被告意匠においても、右側面においては、そのリヤフオーク(11)に、チエーンケース(10)とクランクケース(9)からなる横一文字形を重ね、それらZ形および横一文字形を、前記横S形に結合し、また、大部分を輪形に現わした前後車輪(2a)、(12a)をそれに配したものとなつていることと、横一文字形が、横S形の下縁直線に下縁を連続させる状態に配せられて、それに調子を与えていること。 2 本件登録意匠と被告意匠とは、その構成において、次の点は、一応相違する。 (一) 本件登録意匠では、車体後半部(6)の右側面のほぼ中央に、後述のタンク(8)(燃料入れ)の直下、かつ、クランクケース(9)の斜め後上方に、不等辺四角形の箱(6a)(工具入れ)が突出し、左側面にも、右側と対称に、同形の箱(6b)(電池入れ)が突出しており、車体後半部(6)の上部には、側面において、前側が凹弧状をなし、上部前端を前に突出した、ほぼ三角形のタンク(8)(燃料入れ)が突設され、そのタンク(8)の両側面には、ほぼ長方形で、明色のネームプレートを付した長楕円形の膨出部(8a)があり、その上面には、上面から見て、いちぢく状で、側面から見ると、後半下部を区画する線を有する平らなシート(7)が取り付けられているのに対し、被告意匠では、車体後半部(6)の両側面上方には、後方に膨出し、表面中央に、ネームを横長の平行四辺形に表示した卵形の、クロームメツキしたネームプレートを取り付けた、大きな卵形タンク(8)があり、その前方やや低い位置に、中央に三本の筋を有する、両端の丸い、 横長の箱(工具入れ)(6a)およびこれと同形の箱(6b)が現われ、卵形タンク(8)の上面には、上面から見て、いちぢく状で、側面から見ると、後半下部に、白い部分を有する平らなシート(7)が取り付けられていること。 (二) 本件登録意匠では、クランクケース(9)は、右側面では、チエーンケース(10)の前端の魚尾形部(9a)とともに、魚形をなし、左側面では、前方膨出部(9b)を有する台形をなしているのに対し、被告意匠では、クランクケース(9)は、その前方に、円形凸部(蓋)を有し、右側面では、チエーンケース(10)の前端の魚尾形部(9a)とともに魚形をなし、左側面では、ほぼ楕円形をなして、その前方に円形部(9b)を有すること。 (三) 本件登録意匠では、横桟一本、縦桟五本を組み合わせた横長むくみ四辺形の桟窓を有する、同形のクラクシヨンカバーであるのに対し、被告意匠では、中央にほぼ長円形の穴をうがち、縦桟六本を施した桟窓を設けた、縦長で、下方の巾を細くした、ほぼ長方形のクラクシヨンカバーであること。 (四) 本件登録意匠では、上方から見て、ハンドル(1)に接する線を底辺とする低いほぼ台形をなし、正面から見て、ハンドル(1)と同じ高さに横長の長方形をなすフロントウインカーランプがあるのに対し、被告意匠では、正面から見て、 ハンドル(1)から上面を突出した、円形をなすフロントウインカーランプがあること。 (五) 本件登録意匠では、フロントカバー(5)が、明色でないのに対し、被告意匠では、フロントカバー(5)が明色であること。 3 本件登録意匠および被告意匠の支配的要素は、両意匠を全体の統一体として見た場合、前記1の両意匠の一致点の中に存するものというべきであり、そして、前記2の相違点は、両意匠の細部の徴差でしかなく、 両意匠の支配的要素でない部分に関するものであつて、その相違は、全体の外観に影響を与える程の特徴あるものではない。すなわち、 本件登録意匠において、看者に美感を与えるゆえんのものは、本件登録意匠にかかる自動二輪車全体の構成中に秩序があるためであり、そして、その秩序といえるものは、その構造上、左右両面に見られる、前端が狭く、その後方部分が斜め後方で傾斜するとともに、下方に広がり、後半が著しく先細に形成された横S形車体部に、大部分が輪形に現われた前後車輪を配して、軽快な感じを与え、それらに横一文字形を配し、更に、直線構成からなるZ形を配して独特の趣味感を与えた全体的形状にあり、これが、本件登録意匠における支配的要素である。 これに対し、被告意匠において、看者に美感を与えるところは、車体の主要部を横S形に現わし、これにクランクケース(9)およびチエーンケース(10)とによる両端を円孤状とした横一文字形を配し、更に、リヤフオーク(11)、リヤクツシヨン(14)およびキヤリア(13)とによつてZ形というべき直線によつてなる要素を配して、横S形にアクセントを与え、フロントフエンダ(4)およびリヤフエンダ(12)の側面を比較的巾狭くして、前車輪(2a)および後車輪(12a)を側方に広く殆んど輪形に現われるようにして、外観上、軽快な感じを与えた全体的形状にあり、これが、被告意匠の支配的要素であつて、本件登録意匠の支配的要素と一致する。 また、被告意匠は、正面形状、上面形状および背面形状において、本件登録意匠と酷似し、その各部分の寸法割合においても、酷似している。 以上のとおりであるから、被告意匠は、本件登録意匠に類似するものというべきである。 4 なお、本件登録意匠にかかるこの種の自動二輪車を歴史的に見ても、本件登録意匠の意匠登録出願以前には、セミスクーターのクラスに属するこのようなタイプの自動二輪車は、全く存在しなかつたのであり、昭和三三年八月ころ、原告会社より、本件登録意匠にかかるスーパーカブと称する自動二輪車が、始めて発売されてから、このタイプのものが、他社においても、逐次取り上げられてきたのである。 したがつて、この種の自動二輪車は、広く、カブタイプと称され、親しまれてきた。ところで被告会社は、昭和三三年当時、スズモペツトと称する自動二輪車の製造販売を開始しているが、このタイプは、カブタイプのものとは、全く異なるものであつた。被告は、原告のカブタイプに対抗すべく、これに類似したタイプのスズキU七〇を、昭和四一年八月ころ、製造販売し始めたのであつて、被告意匠は、本件登録意匠を模倣したものである。被告は、昭和三三年四月発売のスズモペツト五八年SM一型、昭和三五年一月発売のセルペツト六〇MAおよび昭和三七年発売のセルペツト五〇MEに、それぞれ、意匠登録第一四五六五六号、第一六七三二一号および第二二〇五三四号を得ており、そのほかにも、この種自動二輪車に関し、多数の意匠登録を得ているのに、被告にとつて極めて重要と思われ、意匠登録を求めてしかるべきスズキU七〇につき、被告が、意匠登録を有しないことも、前記模倣を裏付けるものである。 六 損害賠償請求1 被告の不法行為 被告は、昭和四一年九月より昭和四四年一月までの間に、原告の本件専用実施権を侵害するものであることを知り、または、知りえたにもかかわらず、過失により知らないで、本件登録意匠に類似する被告意匠を備えた本件物件を、別紙A表記載のとおり、合計二六万六六六三台製造販売して、原告の本件専用実施権を侵害した。 したがつて、被告は、原告に対し、右侵害行為によつて原告に加えた損害を賠償すべき義務がある。 2 原告の損害 原告は、被告の前記侵害行為により、別紙B表記載の利益額合計金二一億六一八八万円と同額の損害を被つた。すなわち、原告は、損害の額と推定される。被告が侵害行為によつて受けた利益の額を、原告の損害額として主張するものであるが、 被告の受けた利益の額は、別紙C表記載のとおり、被告の製造販売した本件物件の小売価格に、所定の仕切比率を乗じて仕切価格を求め、別紙D表記載のとおり、右仕切価格に、所定の荒利益率を乗じて一台当りの荒利益を算出し、これから一台当りの運送賃および保管料を差し引いた残額を一台当りの利益として算定し、別紙B表記載のとおり、右一台当りの利益に製造販売台数を乗じて全体の利益額を算出したものである。 3 請求 よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償として、右損害金二一億六一八八万円のうち、金七億六一〇〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年一〇月一〇日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 七 謝罪広告請求 原告は、被告の前記六、1の不法行為により、営業上の信用を害されたから、これを回復するために必要な措置として、被告に対し、別紙謝罪広告目録に表示する謝罪広告を、同目録表示の日刊新聞紙(全国版)に、各三回掲載することを求める。 |
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請求原因に対する被告の答弁
一 請求原因第一項ないし第四項の事実は、いずれも認める。 二 同第五項の事実のうち、1、2の事実は認めるが、その余の事実は、いずれも否認する。すなわち、 1 原告は、本件登録意匠および被告意匠を抽象的、大雑把に観察して、両意匠の一致点および相違点を抽出し、その一致点が、両意匠の支配的要素であるから、両意匠は類似する旨主張する。しかし、原告は、公知意匠との関係等から、部分的な僅かな相違により、意匠としては、非類似と扱われる場合があることを無視して、 前記のような観察による一致点をもつて両意匠の支配的要素として両意匠は類似するとするものである。特に、自動二輪車は、その機能を果すため、必要な機構を持たなければならないし、その反面、機構的に不必要なものを、単なる装飾目的で取り付けることは、この種物品の性質上殆んどありえない。そこで、自動二輪車の部分部分の位置や形状は、その実用的機能の上から、必然的に決定されてしまうものが多い。しかも、その形状にしても、各種自動二輪車に、広く採用されているありふれた公知の形状というものが存する。そのようなわけで、自動二輪車は、意匠の混んだ分野に属するから、比較的僅かの相違で、非類似として扱われているのである。ところで、原告のいう本件登録意匠と被告意匠との一致点は、後記のとおり、 ありふれた公知の形状に関するものであるから、右一致点をもつて、両意匠の支配的要素ということはできない。 2 本件登録意匠および被告意匠は、いずれも、フレームが低い位置にあるアンダーボーン型の自動二輪車にかかるものであつて、両側面から見た形状が、おおまかにいつて、上端の巾が狭く、前縁と背部の線の後下方への傾斜度の差により、下方に向つて広がるフロントカバー(5)と、フロントカバー(5)の後端から後方に立ち上がる車体後半部(6)およびこれに連なる先細のリヤフエンダ(12)からなる広い意味での横S形に、棒状のリヤフオーク(11)、リヤクツシヨン(14)およびキヤリヤ(13)の線からなるZ形を配しており、更に、右側面においては、チエーンケース(10)とクランクケース(9)との巾広い横一文字形を配している点において、一致している。しかし、この種自動二輪車においては、女性でも乗り易いように、フレームが低い位置にあるから、車体後半部は、低い所から斜め後方に立ち上がるのが当然であつて、これに周知の先細のリヤフエンダをつないだ線を、前端が狭く、斜め後方に巾広く、前縁が彎曲した周知のフロントカバーの線とを合わせて、全体として見れば、原告のいうような横S形とならざるをえない。公知のフロントカバーを付けたアンダーボーン型自動二輪車には、このような横S形が、多く見られるのである。 また、原告の主張する横一文字形は、自動二輪車に普通のチエーンケースを付けたときに見られるありきたりの平凡な形状である。 更に、Z形は、簡単なむき出しのリヤクツシヨンに、リヤフオークを配し、キヤリヤを付けた自動二輪車の構成から、当然もたらされる形状であり、Z形に横一文字形を配した形状は、一般の実用車の大部分のタイプに採用できる普遍的形状であつて、その例は多い。 車輪の大部分が輪形に現われるという点も、一般によく見られる形状で、格別目新しくもなく、特別の注意を引くほどでもない。 このように、本件登録意匠と被告意匠とで一致する横S形、横一文字形、Z形等は、自動二輪車において、公知のありふれた形状であつて、これらをもつて、本件登録意匠および被告意匠の支配的要素ということはできない。 本件登録意匠の出願当時、右意匠について、意匠的創作というにたりる程度の考案工夫を要したのは、足形フロントカバーの具体的形状模様、燃料タンクの位置形状模様、道具入れの位置形状模様その他の細部を、どのように構成して組み合わせるかの点にあつたのであり、換言すると、木目の細かい意匠的配慮により、具体的にどのような印象を与えるかの点に、創作上の重点があつたのである。これを具体的にいうと、本件登録意匠では、フロントカバー(5)は、その前縁が、ほぼ直線に近い線を小径の弧線で連結してなり、背部も、上方の短かい直線、エアークリーナカバーの膨出した直線、その下部の斜め後方への直線に近い線の連結からなり、 上部とエンジン収納部とを区画する隆起段部(5a)も、水平直線からなり、後部も垂下する直線からなり、それに続く後下端部も直線の連結からなり、隆起段部(5a)の上には、両側中央に著大な卵形の穴を設けてあり、全体として、原告のいう甲高な足(より適切には、男性用の頑丈な編上げ靴とでもいうべきであろう。)の形状をしており、車体後半部の(6)背部は、フロントカバー(5)の背部の後端から、キヤリヤ(13)の前端付近まで、緩やかな傾斜をもつて立ち上がる直線からなり、燃料タンク(8)は一個で、それが車体後半部(6)の背部の直線の上に、大きく突出しており、右直線とタンク(8)前縁の下部から上部に向け前方に傾き彎曲する線およびシート(7)に接する直線的上縁線によつて、ほぼ三角形をなし、タンク(8)下半部は、比較的扁平で、上半部が、大体両側方向に膨出しており、タンク(8)の直下には、両側の車体胴部に、直線的四辺と丸みのある角部を有する不等辺四角形の大きな道具入れ(6a)と電池入れ(6b)とを配し、全体の暗色の中に、タンク(8)上部の膨出部における横一文字形の明色模様およびフロントカバー(5)背部の斜め一文字形(斜め後方から見ると、直線で囲まれた四角形)の明色模様とクランクケース(9)の明色模様があり、全体として、フロントカバー(5)、車体後半部(6)および屹立するタンク(8)からなる横F形をなし、直線的構成が目立つている。この直線的処理の傾向は、前後部のウインカーランプ(後部のそれは、(12d)テールライト(12c)、バツクミラー、フロントフオーク(2)の前部の桟窓の形状にまで行きとどいている。右直線的構成に、フロントカバー(5)の側面面積がかなり大であること、隆起段部(5a)の下方が膨出していること、全体の配色等が影響し合つて、胴体前半部が、がつちりとして、堅牢な重量感を与え、胴体中央部を引き締つた印象のものとし、その上方に、大きく突出したタンク(8)とシート(7)とがあつて、これらが合いまち、頑丈堅牢な感じ、たくましさ、精悍さ、力動感、スピード感などを与えており、これら趣味感をもたらす全体としての形状模様こそ、本件登録意匠の支配的要素であるというべきである。 更に、本件登録意匠の支配的要素を明らかにするために、本件登録意匠の類似意匠等をみることとする。本件意匠権者およびその前主は、本件登録意匠と支配的要素を共通にすると解される意匠について、類似第一号ないし第五号の意匠登録を受けている。ところで、類似第二号の意匠は、原告が、本件登録意匠の支配的要素の一構成要素であると主張するフロントカバー(5)を欠いており、しかも、右類似第二号の意匠に、レツグシールドを付けただけの意匠が、登録第二二二五一六号として、別個に出願登録されているから、右類似第二号の意匠登録が、過誤によることは、明らかである。次に、類似第三、第四号の意匠に似ているように見える意匠が、登録第二二四六〇二号およびその類似第一号として、本件登録意匠とは別個に登録されているところ、本件登録意匠とその類似第三、第四号との間にあつては、 キヤリア、シートハンドルの形状等に差があるが、原告にとつて、これらの差は、 意匠類否の判断を左右する要素ではないとされているのであるから、本件登録意匠の類似第三、第四号の意匠と登録第二二四六〇二号の意匠との間の最も大きな相違点としては、燃料タンクの位置形状を挙げるほかはない筈である。また、原告は、 本件登録意匠の類似第二号の意匠に比較的似ている意匠について、別個に、登録第二二九七六二号の意匠を取得しているところ、原告が、両意匠を別出願にしたのは、両者を対比してみると、結局、燃料タンクの位置形状の差に求めるほかはない、前記第二二二五一六号意匠と第二二九七六二号意匠とが、全く別個の意匠として登録されているのは、原告が、車体中央部の部品の配置や形状に差がある以上、 その意匠は、相互に非類似であると考えていたことを物語つている。このことは、 また、特許庁が、登録意匠の要部を、かなり細かい具体的な形状等に限定して把握していることを意味し、こうした判断基準に、原被告を含む当業者が、特に異議を唱えなかつた以上、当業者は、これを前提として諸計画を立て、取引を積み重ねるものであるから、余程の事情がなければ、法的安定の理念からいつて、右判断基準を変えることはできないものというべきである。このような点からみても、原告主張のような抽象的過ぎる基本的構想程度のものを、本件登録意匠の支配的要素とすることはできない。本件登録意匠の支配的要素が、前記被告の主張する点に存することは、明らかというべきである。 3 被告意匠の特徴は、次のとおりである。被告意匠は、被告会社の技術部デザイン課の担当者の創作にかかるものであるところ、被告会社が、アンダーボーン型自動二輪車を創作するに際しては、特に奇をてらわない一般普及型の実用車であつて、フロントカバーを付け、二サイクルエンジンを採用し、ガソリンタンクとオイルタンクとを別個に設けたものにし、特に、女性好みのスタイルを持つようにすることが、基本的な設計ないし構想として定められていた。これだけからでも、既に、車体側面が横S形となるのは当然であつて、それを具体的にどうまとめるかが、重要な点であつた。前記担当者は、種種考慮の末、水に浮かぶ白鳥のシルエツトにヒントを得、これがアンダーボーン型の形状に関する条件と一致するので、この優美な線を生かすなら、スタイル上の失敗はないと考え、このイメージを生かすべく、フロントカバーを白色とし、その前縁および背部をできるだけ優美な曲線にし、この二つの曲線に白鳥の首の部分のイメージを持たせ、背部の線を車体中央で最も低くし、そこからこんもりと盛り上げて、白鳥の胴部の膨みを持たせることを基調とした。そこで、前記担当者は、大きい明色部分を持つガソリンタンク(8)とオイルタンク(8)とを両側に対称的に置いて、ふつくらと丸みを付け、白鳥が羽を納めたイメージを持たせ、更に、エアークリーナーカバーと道具入れ(6a)も、その位置が低く感じられるように、横に細長く柿の種子状にして横縞を入れ、 フロントカバー(5)の段部(5a)も曲線状とし、その延長が、道具入れ(6a)の下縁からタンク(8)の下縁につながつて、停滞のない曲線が流れるようにし、また、フロントカバー(5)の、クランクケース(9)の前下端部に面した部分を、S字形の逆曲線として、いわゆる動きを出した。シート(7)の後半を、白色としたのも、右全体の構想からシート(7)を切り離して、意図したイメージをはつきりさせるためである。無理に、曲線と曲線とを用いることによつて、常識から著しく逸脱し、奇異感を与えるところは別として、その他の点では、できるだけ曲線と曲線とを採用して、女性向きにしようと考え、その考えは、ヘツドライト(3)、テールライト(12c)、フロントウインカーランプ、リヤウインカーランプ(12d)、バツクミラーフロントフオークの桟窓、ハンドル(1)その他の各部に至るまで、一貫して採られ、隅隅まで及んでいる。このような配慮は、本件物件において、十分成功していると思われる。すなわち、前縁、背部および後端部を柔かい孤線で囲み、背部の孤線にそつて、孤線によつて処理された隆起段部(5a)を持つフロントカバー(5)は、その明白と相まつて、比較的細つそりとした優美、優雅で、かろやかな感じを与えるとともに、フロントカバー(5)の背部から斜め後方に向けてこんもりと盛り上がる胴体は、卵形の明色の模様を施したタンク(8)の顕著な側方への膨出によつて、背丈が低く、横に広がるずんぐりとした円みのある重量感を与え、全体として、線の流れが流麗であるため、力動感には乏しいが、その反面、流麗で柔かい安定した趣味感を与えるものである。 4 以上の対比から明らかなように、本件登録意匠と被告意匠との一致点は、ありふれた公知の形状に関するものであつて、両意匠の相違点に、その支配的要求が存するものであるから、両意匠は、美感において、著しい相違がある。 したがつて、本件登録意匠と被告意匠とは、類似しないというべきである。 三 同第六項の1は、製造販売台数の点を除き、否認する。 同第六項の2のうち、別紙B表記載の製造販売台数、別紙C表記載の事実の全部、 別紙D表イ、ロ、ハ、ニ各欄記載の事実は認めるが、その余の事実は否認する。 四 同第七項は争う。 |
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被告の前記第三、二の項の主張に対する原告の反論
一 被告は、一般的に、自動二輪車における各部分の位置や形状は、その実用的機能の上から、必然的に決定されるものが多いし、広く採用されているありふれたものが存するとして、原告のいう横S形、Z形、横一文字形、輪形に現われた前後車輪の形状は、すべてありきたりの平凡な形状である旨主張するが、アンダーボーン型の自動二輪車にも、いろいろのものがあつて、単に公知部分を寄せ集めて作るものではなく、全体的にデザインを考えるものであつて、結果的にある部分が公知であつても、意匠が、全体として新規であることとは、別である。また、原告のいう横S形、横一文字形、Z形等は、抽象的なそれを指すのではなく、本件登録意匠における具体的な形状をいつているのである。被告主張のように、各部分を抽象的に把え、部分的に公知であるといつてみても、本件登録意匠に見る、特色ある具体的な横S形、横一文字形、Z形等に、本件登録意匠の支配的要求があるとする原告の主張を、否定することはできない。 二 本件登録意匠の類似第二号の意匠登録が、過誤による意匠登録であることは、 被告の主張するとおりである。したがつて、登録第二二二五一六号、第二二九七六二号が、別意匠として登録されていても、本件意匠とは、関係のないことである。 また、被告は、本件登録意匠の類似第三、第四号の意匠と別個に登録された第二二四六〇二号およびその類似第一号の意匠とを比較して、燃料タンクの位置形状を両者における相違点として挙げているが、両者は、その輪郭、形状において、全体として相違しており、別意匠として登録されても、至極当然のことである。仮に、後者が、前記本件登録意匠の類似意匠に類似しているとしても、本件登録意匠と比較した場合、この両者は、全く相違していて、類似意匠にのみ類似するものであつて、後者が、別意匠として登録されていても、不思議ではない。 三、被告が、本件登録意匠と被告意匠との相違点として挙げているフロントカバーから車体後半部にかけての具体的形状模様についての主張は、概して、部分的考察に基づくものであつて、被告は、全体的に観察すべき意匠の観察方法によらないものであるばかりか、これらの差異は、意匠の全体的観察からは、いずれも微差でしかない。 |
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証拠関係(省略)
理 由 |
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本件登録意匠および被告意匠
原告が、本件専用実施権の権利者であり、本件意匠権の登録請求の範囲が、別紙意匠公報写しの、図面代用写真に示すとおりの自動二輪車の形状および模様の結合(本件登録意匠)であること、被告が、本件物件を製造販売したものであり、その意匠が、別紙物件目録(一)ないし(三)添付の写真に示す自動二輪車の形状および模様の結合(被告意匠)であることは、当事者間に争いがない。 |
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本件登録意匠および被告意匠の構成
本件登録意匠の構成が、請求原因第二項のとおりであり、被告意匠の構成が、同第四項のとおりであることは、当事者間に争いがない。 |
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本件登録意匠および被告意匠における特に看者の注意を引く部分について
一 両意匠ともに、前記第一のとおり、自動二輪車にかかるものであつて、右第二のとおりの各構成を有するものであるから、主として、左右両側面における外観に、特に看者の注意を引く部分が現われるものということができる。 二 そして、前記第二の両意匠の各構成、右一の点および自動二輪車について看者が通常想起する構成、使用態様等を併せ考えると、次の点に、主として、両意匠の特に看者の注意を引く部分があると認めることができる。 1 両側面から見た、ハンドル(1)、フロントフオーク(2)、ヘツドライト(3)、フロントフエンダ(4)および前車輪(2a)からなる形状および模様(以下「構成の(一)」という。)2 両側面から見た、フロントカバー(5)、車体後半部(6)、シート(7)、 タンク(8)およびリヤフエンダ(12)からなる形状および模様(以下「構成の(二)」という。)3 両側面から見た、リヤフオーク(11)、リヤクツシヨン(14)およびキヤリヤ(13)からなる形状および模様(以下「構成の(三)」という。)4 右側面から見た、クランクケース(9)、チエーンケース(10)およびリヤフオーク(11)からなる形状および模様(以下「構成の(四)」という。)5 両側面から見た、リヤフエンダ(12)と後車輪(12a)からなる形状および模様(以下「構成の(五)という。)三 原告は、請求原因五の項の主張のとおりの横S形、横一文字形、Z形ならびに大部分が輪形に現われた前後車輪の構成が、両意匠の支配的要素であると主張し、 被告は、請求原因に対する被告の答弁二の項の主張のとおり、フロントカバー(5)、タンク(8)ならびに箱(6a)、(6b)の形状模様等に、両意匠の創作上の重点ないし支配的要素がある旨主張するので、この点について判断する。 1 成立に争いがない乙第一、第二、第四、第五号証によると、次の事実が認められる。 (一) 自動二輪車は、その用途によつて、レース用車、スポーツ用車、実用車の三種類に分類され、そのうち実用車は、更に、フレームの型式により、バツクボーンタイプ、ミドルボーンタイプ、アンダーボーンタイプならびにスクータータイプに細分類されるところ、本件登録意匠および被告意匠にかかる自動二輪車は、いずれも、右細分類のうちアンダーボーンタイプに属する。 (二) アンダーボーンタイプの自動二輪車の設計に当つては、女性でも乗れるようにするのが、その狙いであるから、各部品の選択および組み合わせについても、 一定の基本的な考えが採られる。例えば、エンジンは小型のものが選ばれ、全体としても小型軽量で、小さい力で操作ができるように設計されるし、タイヤも小径のものを用いてシートの高さを低くし、フレームも低く、また、足が位置するところの前方を覆うレツグシールドが取り付けられる等である。 (三) 本件登録意匠は、その意匠登録出願前公知の自動二輪車と、両側面から見て、次に概括的に摘記する限度の形状において、かつ、部分的に、一応一致する(前記乙第五号証に、先行の公知例として添付する写真の自動二輪車の形状との一致点)。 (1) ハンドルから前車輪の軸心部まで、斜めになつた、比較的巾広く平たい形状をなし、その下端が後方に屈曲して、この下端屈曲部分の前端から後端部にかけ、横長の卵形隆起部をなすフロントフオークの形状(2) ハンドルの中心部から、前方に突出して椀形をなすヘツドライトの形状(3) 前車輪の前方上部から後側を覆つて、前車輪の輪郭にそうほぼ三日月形で、後端部が、やや後方に反つた形状をなすフロントフエンダの形状(4) 全体として大きい立ち上り状部の上部を上に向つて細くし、その前縁は、 上部から下部にかけて、フロントフオークとやや平行に斜め前方に延び、漸次フロントフオークから、離れるようにほぼ弓形状に現われ、その前縁は、折曲つて両側方に突出し、覆板が曲成され、背部が緩やかな弧をもつて後下方に傾斜しているフロントカバーの形状(5) フロントカバーの後半部には、それに連なり、漸次弧状に高い車体後半部が現われ、その上部前側が凹弧状をなし、上部が前端を前に突出した形状(6) チエーンケースの前端の魚尾形部とともに、魚形をなすクランクケース(ただし、右側面)の形状(7) クランクケースの後端に接続して、後方へ後車輪の軸部まで延び、前後に細長く、後端は、半円弧状をなしているチエーンケースの形状(8) クランクケースの後端部から、水平に後方へ後車輪軸まで延びその後端には、上方に屈曲した屈曲部を形成し、その上端から、丸棒状のリヤクツシヨンが斜め上方に立ち上がつている形状(9) 車体後半部と一体に形成され、後車輪を覆うように、その輪郭にそう弧状をなし、その後端は、後方に反つているリヤフエンダの形状(10) リヤフエンダ上に、水平に設けられ、リヤクツシヨンの上端が、その前方寄りに達しているキヤリヤの形状 右認定の事実によると、本件登録意匠にかかる自動二輪車は、アンダーボーンタイプの自動二輪車で、その基本的形状においては、同種のアンダーボーンタイプのものと一致し、前記(三)認定の限度においては、公知の形状の結合によつて構成されているものといわなければならない。 2 しかしながら、本件登録意匠を表示する別紙意匠公報写しの図面と右認定に供した乙第五号証に先行の公知例の資料として添付してある各自動二輪車の写真とを対比すると、その間に、次の相違が認められる。 (一) フロントフオークについては、車輪の太さおよび車輪間隔に対比し、その長さおよび巾の広狭比、外面両側両端の形状、外側方への膨み方、ヘツドライトとの位置、結合の態様等具体的形状において、十分区別しうる相違がある。 (二) フロントカバーについては、いわば人の足を上方に大きく伸びやかに立てた形状、両側方に広がり配された前縁の形状、フロントフオークとの間の配置関係、背部の形状等において、具体的には、明確に区別しうる相違があり、極めて包括的にいうとすれば、横S形の前半部をなすともいえる点で、一致するに過ぎない。 (三) 車体後半部については、滞りなく大らかに後方へ伸びたその具体的形状、 特に、曲線の流れ、リヤフエンダへの推移ないし結び付きの点において、明確に区別しうる相違がある。 (四) クランクケース、ヘツドライト、フロントフエンダ、チエーンケース、リヤクツシヨン、リヤフエンダ、キヤリヤは、個個的には、具体的形状において類似するものもあるが、本件登録意匠においては、それらの配置結合により明快な全体の形状を構成し、全体としては、新しい異なつた印象を与える。 右認定の事実に照すと、前記1認定の本件登録意匠と公知の自動二輪車の部分的形状との個々の一致点も極めて抽象的概括的な意味において、一致するといいうるものに過ぎない。したがつて、右一致点についても、両者は、視覚を通じての美感において異なるものというべきであるから、これらの一致点に対応する本件登録意匠の構成部分をもつて、独創性がないものとし、あるいは、特に看者の注意を引くことがないものということができないことは明らかであり、他にこの認定を覆えすに足りる証拠はない。 3 なお、成立に争いがない甲第四号証の一、二、第五、第六号証の各一ないし三、第七号証の一ないし四、第八号証ないし第一三号証の各一ないし三によると、 本件登録意匠にかかる自動二輪車は、業界誌等において、いわゆるカブタイプといわれるモペツトの基本的な形をなすもので、その意匠は、パイオニア的なものである旨紹介されたものであることが認められる。 4 右1ないし3の事実を総合すると、抽象的概括的な意味での横S形、横一文字形、Z形、大部分が輪形に現われた前後車輪をもつて、本件登録意匠の要部とすることができないことは明らかであるが、原告の主張するところは、具体的な本件登録意匠の形状であつて、単に、それを右のような言葉で表現しようとしたに過ぎないと解されるから、本件登録意匠につき、原告主張の支配的要素を、公知であるとして抗争する被告の主張は、その前提を欠き、採用することができない。 したがつて、また、被告の右主張は、本件登録意匠の特に看者の注意を引く部分を、前記第三、二の項のとおりに認定するについて考慮するまでもないことであり、採用の余地はない。 また、被告主張の支配的要素は、原告主張の支配的要素が、公知であり、したがつて、創作といえないものであるか、特に看者の注意を引く部分であるとはいえないとの主張を前提とするものであるところ、右前提が採りえないことは、前説示のとおりであるから、被告主張の支配的要素のみをもつて、本件登録意匠の特に看者の注意を引く部分とする被告の主張も、また、採用することができない。 |
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本件登録意匠と被告意匠との類否
一 両意匠の一致点両意匠の各構成によると、両意匠は、その構成において、次の点は、一致する。 1 ハンドル(1)は、上方から見て、中央部から、左右後方に向い、屈曲して飛雁状とし、その両翼に相当する各腕の先端に、丸棒形状のグリツプ(1a)があり、各腕は、中央に至るにしたがい漸次太くなり、中央部の後側が、孤状に膨出していること、その膨出部分の中央には、ほぼ台形のスピードメーター(1b)が設けられていること、正面から見て、グリツプ(1a)と両腕が、水平にほぼ一直線をなし、中央で、僅かに下方へ屈折していること。 2 フロントフオーク(2)は、正面から見て、ハンドル(1)の中心から、下方に至るにしたがつて、漸次横巾が広くなり、中央部から下端までは、前車輪(2a)の両側をはさんでその軸心部に至る又状をなしていること、側面から見て、ハンドル(1)から、前車輪(2a)の軸心部まで、下端を上端より前方にし斜めになつた比較的巾広く平たい形状をなしその下端が後屈していること。 3 ヘツドライト(3)は、側面から見れば、フロントフオーク(2)の上端部から、また、上面から見れば、ハンドル(1)の中心部から、ともに前方に突出して椀形をなすこと。 4 フロントフエンダ(4)は、前車輪(2a)の前方上部から後側を覆つて、前車輪(2a)の輪郭にそう三日月形で、正面では前端が、フロントフオーク(2)の又の間から現われていること。 5 フロントカバー(5)は、両側面から見れば、全体が、人の足(本件登録意匠では、甲高な足)を、足先を上方に大きく伸びやかに立てた形状をなし、その前縁は、上部から下部にかけて、フロントフオーク(2)とやや平行に斜め前方に延び、漸次フロントフオーク(2)から離れ、その前縁は、折れ曲つて両側方に突出し、覆板(16)が曲成され、後部上端は、車体の中央部まで延び、正面から見れば、縦に中央部が凹んで、両側の覆板(16)が、フロントフォーク(2)の両側に現われ、それら覆板(16)は、ほぼ平らで、縦長矩形状に、上部より下部に延びていること。 6 フロントカバー(5)の後端部には、それに連なり、滞りなく大らかに後方へ伸びた漸次孤状高い車体後半部(6)があること。 7 車体中央下部に取り付けられたクランクケース(9)は、右側面では、チエーンケース(10)の前端の魚尾形部(9a)とともに、魚形をなしていること。 8 チエーンケース(10)は、クランクケース(9)の後端に接続して、後方へ後車輪(12a)の軸部まで延び、前後に細長く、後端は、半円孤状をなしていること。 9 リヤフオーク(11)は、左右両側面が、クランクケース(9)の後端部から、水平に後方へ後車輪軸まで延び、その後端には、上方に屈曲して屈曲部(11a)を形成し、その上端から、丸棒状のリヤクツシヨン(14)が、斜め前上方に立ち上がつており、右側面では、リヤフオーク(11)は、チエーンケース(10)の水平方向の中心線外側に位置していること。 10 リヤフエンダ(12)は、両側面では、車体後半部(6)と一体に形成され、後車輪(12a)を覆うように、その輪郭にそう孤状をなし、その後端(12b)は、後方に反つていること。 11 キヤリヤ(13)は、両側面から見て、リヤフエンダ(12)上に、水平に設けられ、上面から見て、隅丸のほぼ矩形の周枠(13a)で形成され、前記リヤクツシヨン(14)の上端は、キヤリア(13)の前端寄り下面に達していること。 12 マフラー(15)は、左側面で、クランクケース(9)の下部から、後方に向つて水平に延びていること。 13 車体の中央部やや下方からは、棒状のステツプが両側に突出していること。 14 両側面から見れば、人の足(本件登録意匠では、甲高な足)を、足先を上方に立てた形状のフロントカバー(5)が、その前端の狭い部分において、フロントフォーク(2)の上端後側に連なり、その後方部分が、斜め後方に傾斜するとともに、下方に広がり、その弓形状に前方に彎曲する前線から、覆板(16)が、側方に曲成され、フロントカバー(5)の後端部に、車体後半部(6)とリヤフエンダ(12)が続き、それらが、前半が斜め後方に広がり、後半が著しく先細の一連の横S形の車体部として現われ、横S形の下縁は、フロントカバー(5)の下端から、左側面においては、マフラー(15)の下縁に続き、右側面においては、クランクケース(9)の下縁、チエーンケース(10)の下縁にそつて、直線部分となつて現われ、また、棒状リヤフオーク(11)、棒状リヤクツシヨン(14)および水平キヤリヤ(13)をZ形に形成し、更に、右側面においては、リヤフオーク(11)に、チエーンケース(10)とクランクケース(9)からなる巾広い横一文字形を重ね、それらZ形および横一文字形を、前記横S形に結合し、また、大部分を輪形に現わした前後車輪(2a)、(12a)をそれに配したこと。 15 以上各部分の大きさ、長さ、太さ、巾、表われた線条における相互の比率およびその配置がほぼ同一であること。 二 両意匠の相違点 本件登録意匠と被告意匠の各構成によると、両意匠は、その構成において、次の点が一応相違する。 1 ハンドル(1)は、本件登録意匠では、上方から見て、その中央部正面向き前縁を、直線状とし、右直線の両端から、左右後方に向い、鈍角に屈折し、両腕の前面左右には、上方から見て、ハンドル(1)に接する線を底辺とする低いほぼ台形をなし、正面から見て、ハンドル(1)と同じ高さに横長の長方形をなすフロントウインカーランプがあるのに対し、被告意匠では、上方から見て、その中央部正面向き前縁を、緩やかな孤状曲線とし、右曲線の両端から、左右後方に向い、屈曲し、両腕の前面左右には、上方から見て、ハンドル(1)の前方に突出し、後部が椀形を、前部が円筒状をなし、正面から見て、ハンドル(1)から上面に突出した円形をなすフロントカーランプがあること。 2 フロントフオーク(2)に関しては、本件登録意匠では、フロントフオーク(2)の又部の上方に、横桟一本、縦桟五本を組み合わせた横長むくみ四辺形の桟窓を有する、同形のクラクシヨンカバーを有し、フロントフオーク(2)の下端が後方に屈曲して、この下端屈曲部分の前端から後端部にかけ、横長の卵形隆起部(2b)となつているのに対し、被告意匠では、又状の上方に、中央にほぼ長方形の穴をうがち、横桟一本、縦桟六本を施した桟窓を設けた縦長で、下方の巾を細くしたほぼ長方形のクラクシヨンカバーを有し、フロントフオーク(2)の下端が、 後方に屈曲して、この下端屈曲部分の中央付近から、後端部にかけ、むすび状の凹部(2b)となつていること。 3 ヘツドライト(3)は、本件登録意匠では、正面から見てハンドル(1)の中心部の下側に接して円形をなしているのに対し、被告意匠では、正面から見て、ハンドル(1)の中心部の下側に接して馬蹄形をなしていること。 4 フロントフエンダ(4)は、本件登録意匠では、後端部が、やや後方に反つた形状をなしているのに対し、被告意匠では、後端部が、後方に十分に反つた形状をなしていること。 5 フロントカバー(5)は、本件登録意匠では、明色でなく、フロントフオーク(2)から弓形状をなして離れ、その前縁の下部から上方約三分の一の位置において、フロントカバー(5)の前端から後端に達するほぼ水平状の線で区画され、この線の下方が隆起して段部(5a)が形成され、後下部は、前記隆起段部(5a)が作る水平直線の下方において、クランクケース(9)の中央付近から前方に向け、右直線にそう線とこの線から垂直方向下方に延びる線とによつて、ほぼ鍵形に、クランクケース(9)の外郭にそつて切り欠かれており、隆起段部(5a)の上方で、ほぼ中央部に卵形の切欠穴(5b)があり、背部ないし背梁部は、その上端付近に膨出部(エアークリーナーカバー)を設け、その下部から緩やかな孤をもつて後下方に傾斜しているのに対し、被告意匠では、フロントカバー(5)は、明色で、フロントフオーク(2)から円孤状をなして離れ、その前線は、下端が前方に彎曲気味に垂下する弓形状に現われ、その上部約四分の一の位置から、斜め後下方に走り、後端の中央よりやや上部に達する、緩やかな円孤線状の線で区画され、 この線の下方が隆起して段部(5a)が形成され、後部上端は、車体の中央部付近から前方に向け、工具入れ(6a)、同形の箱(6b)の上縁および前縁にそつて、弧状曲線によつて、丸く切り欠かれ、その下方は、緩やかな弧状曲線によつて、クランクケース(9)の前縁にそつて、切り欠かれており、背部ないし背梁部は、上端から下端に至る張をもつて、後下方に傾斜彎入していること。 6 車体後半部(6)には、本件登録意匠では、その右側面のほぼ中央に、タンク(8)(燃料入れ)の直下、かつ、クランクケース(9)の斜め後上方に、四周に丸味を付した不等辺四角形の箱(6a)(工具入れ)が突出され、左側面にも、右側と対称に、同形の箱(6b)(電池入れ)が突出されており、車体後半部(6)の上部には、前側が凹弧状をなし、上部前端を前に突出した、ほぼ三角形のタンク(8)(燃料入れ)が突設され、そのタンク(8)の両側面には、ほぼ長方形で、 明色のネームプレートを付した長楕円形の膨出部(8a)があり、その上面には、 上面から見て、いちぢく状で、側面から見ると、後半部および下部を区画する線を有する、平らなシート(7)(運転者の乗座)が取り付けられているのに対し、被告意匠では、車体後半部(6)の両側面上方には、側方に膨出し、表面中央に、ネームを横長の平行四辺形に表示した卵形の、クロームメツキしたネームプレートを取り付けた、大きな卵形タンク(8)があり、その前方やや低い位置に、中央に三本の水平の箱を有する、両端の丸い、横長の箱(工具入れ)(6a)およびこれと同様の形状の箱(6b)が現われ、卵形タンク(8)の上面には、上面から見ていちぢく状で、側面から見ると、後半下部に白い部分を有する、平らなシート(7)が取り付けられていること。 7 クランクケース(9)は、本件登録意匠では、左側面で、前方膨出部(9b)を有する台形をなしているのに対し被告意匠では、左側面で、ほぼ楕円形をなして、その前部に円形部(9b)を有すること。 8 リヤフエンダ(12)は、本件登録意匠では、その後部上側には、鳥のくちばし状のテールライト(12c)が突設されており、背部および上面から見て、その左右両側には、牛角状のリヤウインカーランプ(12d)が突出しているのに対し、被告意匠では、リヤフエンダ(12)の後部上側にはほぼ円筒形のテールライト(12c)が突設されており、背面および上面から見て、その左右両側には、平たい円筒状のリヤウインカーランプ(12a)が突出していること。 9 キヤリヤ(13)は、本件登録意匠では、上面から見て、周枠(13a)と長手方向の三本の格子状平行機(13b)とで形成されているのに対し、被告意匠では、上面から見て、周枠(13a)と長手方向の二本の格子状平行機(13b)とで形成されていること。 10 マフラー(15)は、本件登録意匠では、後車輪(12a)の車軸を越えた外側方まで延び、前後端付近において、径を絞つて先端を極細としたかつお木状をなしているのに対し、被告意匠では、後車輪(12a)の側方後端付近まで延び、 前後端付近において、径を絞つたかつお木状をなしていること。 11 フロントカバー(5)、クランクケース(9)、シート(7)の後側面ならびにタンク(8)の中央部分が、本件登録意匠では明色でないのに対し、被告意匠では、明色であること。 三 両意匠の類否 当事者間に本件登録意匠および被告意匠を表わしたものであることについて争いのない別紙意匠公報写し(写真を含む。)および物件目録(一)ないし(三)ならびに以上判断の結果にもとづき、右一、二の両意匠の異同を前提として、両意匠の類否について、以下判断する。 1 構成の(一)に関して(一) ハンドル(1)は、上方から見た中央部正面向き前縁の屈曲線および両腕前面左右にあるフロントウインカーランプの上面、正面形状に相違があるほかは、 ほぼ一致している。 (二) フロントフオーク(2)は、前面から見た又部の上方にあるクラクシヨンカバーの形状が異なること、両側面から見た下端屈曲部分において、本件登録意匠では、卵形隆起部(2b)があるのに対し、被告意匠では、むすび状の凹部(2b)があるのが相違するほか、すべて同一形状である。 (三) ヘツドライト(3)は、正面形状において、円形と馬蹄形との相違があるが、両側面形状は、同じ椀形である。 (四) フロントフエンダ(4)と前車輪(2a)との形状は、フエンダ(4)後部の反り工合いが幾分相違するほかは、同一である。 (五) したがつて、構成の(一)については、両意匠における相違は、二輪自動車においては微小な部分についてのものであり、かつ、顕著に現われていないので、特に看者の注意を引くに足りないものということができ、全体的に見て、視覚的印象に差異を生じないものというのが相当である。 2 構成の(二)に関して(一) フロントカバー(5)は、 (1) 本件登録意匠では、明色でないのに、被告意匠では、明色であること、 (2) 本件登録意匠では、フロントフオーク(2)から、弓形状をなして離れるのに対し、被告意匠では、ほぼ円弧状をなして離れること、 (3) 本件登録意匠では、その前縁の下部から上方約三分の一の位置において、 フロントカバー(5)の前端から後端に達するほぼ水平状の線で区画され、この線の下方が隆起して段部(5a)が形成されているのに対し、被告意匠では、その前縁は、下端が前方に彎曲気味に垂下する弓形状に現われ、その上部約四分の一の位置から、斜め後下方に走り、後端の中央よりやや上部に達する、緩やかな円弧状の線で区画され、この線の下方が隆起して段部(5a)が形成されていること、 (4) 本件登録意匠では、後下部は、隆起段部(5a)が作る水平直線の下方において、クランクケース(9)の中央付近から前方に向け、右直線にそう線とこの線から垂直方向下方に延びる線とによつて、ほぼ鍵形に、クランクケース(9)の外郭にそつて切り欠かれているのに対し、被告意匠では、後部上端は、車体の中央部付近から前方に向け、工具入れ(6a)同形の箱(6b)の上縁および前縁にそつて、弧状曲線によつて、丸く切り欠かれ、その下方は緩やかな弧状曲線によつて、クランクケース(9)の前縁にそつて、切り欠かれていること、 (5) 本件登録意匠では、隆起段部(5a)の上方でほぼ中央部に、卵形の切欠穴(5b)があるのに対し、被告意匠では、これがないこと、 (6) 本件登録意匠では、背部ないし背梁部に膨出部を設け、その下部から、緩やかな匠をもつて、 後下方に傾斜しているのに対し、被告意匠では、背部ないし背梁部は、上端から下端に至る弧をもつて、後下方に傾斜彎入していること、 において相違している。 右相違点についてみるに、 (1)の明色か否かの点については、本件の場合、両意匠を別異なものとするに足りるほどの差異とは認められない。このことは、成立に争いがない甲第一号証の二、第一号証の四ないし六によれば、本件登録意匠には、これを本意匠とする類似第一号、第三号ないし第五号の登録類似意匠が存し、右各類似意匠においては、フロントカバー(5)が明色であることが認められるところ、右各類似意匠が本意匠と類似するものとして登録され、したがつて、フロントカバー(5)が明色であるか否かは類似の範囲を出てないとされているものと解されることによつても明らかである。 (2)の点については、別紙意匠公報写しの本件登録意匠についての図面代用写真と別紙物件目録(一)ないし(三)添付の被告意匠についての写真とを対比するに、弓形状、円孤状といつても、僅かな程度の差であつて、両者から、異なつた印象が与えられる程度の相違とは認められない。 (8)ないし(5)の点については、個々に各部分を観察すれば、両意匠間に、差異が存するといえよう。 (6)の点については僅から相違であつて、全体的には、視覚を通じての美感を同一にする。 フロントカバーを二輪自動車全体の主に置き、右諸点を総合してみるに、相違点は、フロントカバーの輪郭、ことに前縁および背部の曲線の流れの顕著さと二輪自動車全体の明快な構成との中に吸収されて、看者に両者が極めて類似ないし同一に近いとの感を懐かせ、フロントカバーの一部に、段部(5a)、クランクケース(9)にそつて切り欠かれた線などの差異があるにもかかわらず、全体的印象において、それほど違った印象を与えない結果を生ぜしめており、本件登録意匠にある切欠穴(5b)も、特に、そのために異なつた実感を生ぜず、諸相違点は、結局、 看者に両二輪自動車の意匠を、特に互に別異のものとして印象づけるほど明らかなものとはなつていないことが認められる。 (二) 車体後半部(6)については、本件登録意匠では、車体後半部(6)の両側面に、前認定の四周に丸味を付した不等辺四角形の箱(6a)、(6b)があり、車体後半部(6)の上方には前認定のとおりの膨出部(8a)を有するタンク(8)およびその上部のシート(7)が存するのに対し、被告意匠では、車体後半部(1)には、前認定のとおりの卵形タンク(8)、横長の箱(6a)、(6b)、シート(7)があり、タンク(8)も、箱(6a)、(6b)も、両意匠間では個別には、具体的位置形状を異にし、したがつて、それ自体としては異なつた印象を与える。 (三) リヤフエンダ(12)は、それに突設されたテールライト(12c)、リヤウインカーランプ(12d)の形状を異にするが、車体後半部(6)と一体に形成され、後車輪(12a)を覆うように、その輪郭にそう孤状をなす形状が一致するため、全体的には、両意匠は、殆んど同一の印象を与える。 (四) 構成の(二)を全体的に観察すると、フロントカバー(5)の一部、箱(6a)(6b)タンク(8)などに相違があるにもかかわらず、フロントカバー(5)の前認定の輪郭と車体後半部(6)からリヤフエンダー(12)に及び大らかに伸びるS形曲線の推移は、両意匠において、ともに、看者に極めて強い印象を与えるものであり、なるほど、被告意匠においては、その中に大きな卵形のタンク(8)があり、それが、被告の主張するように、前認定の諸相違点と曲線の併用と合して、全体として水に浮かぶ白鳥のイメージをつくり出し、看者に与える印象に若干の差異をもたらしているとはいえ、それは、説明と子細な考察とをまつてようやくそのようにも取れるかというほどのものであり、前段説明の印象を改めしめるに足りず、結局、看者に、両二輪自動車の意匠を特に互に別異のものとして印象づけるほどのものとは認められない。両意匠は、看者に与える美感を同一にするものというのが相当である。 3 構成の(三)について両側面における形状は、両意匠において、ほぼ一致し、美感を同じくする。 4 構成の(四)について右3と同様である。 5 構成の(五)について(一) リヤフエンダ(12)については、前記2、(三)のとおりである。 (二) 後車輪(12a)の形状、リヤフエンダ(12)との関係は、両意匠間に、殆んど相違はない。 (三) したがつて、構成の(五)については、両意匠は、美感を同一にする。 以上の認定に反する乙第四、第五号証の記載内容は、採用しない。以上の判断によると、本件登録意匠と被告意匠とは、細部には相違があるが、それは特に看者の注意を引く部分に関しないものであり、特に看者の注意を引く部分においては殆んど一致し、そして、両意匠を全体的に観察した場合、両意匠は視覚を通じての美感を同じくするものと認めるのが相当であるから、類似するものというべきである。 四 被告の類否に関する主張について1 被告は、本件登録意匠と被告意匠とを対比して、本件登録意匠には直線部分が多い旨主張するところ、両側面以外の面を含め、かつ、細部に亘つて観察すると、 右主張を認めえないわけではないが、それも目立つほどのものではなく、両意匠の美的印象を別異にするものとは認められない。 2 被告は、両意匠の相違点から、本件登録意匠は、頑丈、堅牢な感じ、たくましさ、精悍さ、力動感、スピード感などを与えるのに対し、被告意匠では、優美、優雅、かろやかさ、流麗さ等の趣味感を与え、その点で両意匠は相違し、かつ、この相違する趣味感を与える両意匠それぞれの形状模様が、その支配的要素である旨主張し、右主張に添う前記乙第四、第五号証の各記載内容が存するところである。しかし、右主張および記載内容は、いずれも、被告の主張する公知例から、本件登録意匠の支配的要素を、被告主張の支配的要素とすることによつてするものであるが、右公知例が、本件登録意匠権の権利範囲の解釈にそのまま用いえないことは、 前説示のとおりであつて、右前提を採用できないから、被告主張を採用することはできないし、被告主張の支配的要素における両意匠の相違も、両意匠を対比するとき、被告が主張するような明確な趣味感の差異をもたらすほどのものとは認めえない。 したがつて、被告の右主張は、両意匠が全体的印象において、美感を同一にするとの前記判断を左右するものではない。 3 次に、本件登録意匠の類似意匠に関する被告の主張を考えるに、類似第二号が過誤による登録にかかるものであることは、当事者間に争いがない。そこで、類似第三、第四号と登録第二二四六〇二号およびその類似第一号との関係をみるに、本件登録意匠と成立に争いがない乙第六号証の八、九により認められる本件登録意匠の類似第三、第四号意匠とを対比すると、両者の間には、キヤリヤ等個個の部分に僅かな相違があるのみで、前記認定の本件登録意匠の特に看者の注意を引く部分においては、類似することが明らかであり、そして、本件登録意匠およびその類似第三号、第四号の意匠と成立に争いのない乙第六号証の一〇により認められる登録第二二四六〇二号の意匠とを対比すると、被告主張の燃料タンクの位置形状のほか、 フロントカバーの形状、フロントカバーから車体後半部、リヤフエンダーにいたる曲線的形状その他に相違があり、それが、全体として看者に与える美的印象を異ならせていることが認められ、両意匠は、明らかに異なる意匠ということができる。 また、本件登録意匠およびその類似第三号、第四号の意匠と成立に争いがない乙第六号証の六、七から認められる登録第二二二五一六号および同第二二九六七二号の意匠とを対比すると、両者は、タンク(8)の位置形状のみではなく、フロントカバーの形状その他において相違し、全体として異なる意匠と認められる。その間、 登録意匠を全体的に考察することをせず、これを個々の構成部分に分解し、部分として、他の周辺のいくつかの意匠の構成部分と個々に対比し、共通する各個の部分を前者から取り除き、残つた部分のみが、当該登録意匠において登録の対象とされたものとする見解は、たやすく採用することができない。したがつて、以上のとおり別意匠として登録されているからといつて、被告の主張を支えるものとはしえない。被告の主張は、理由がない。 4 なお、被告意匠の創作意図が被告主張のとおりであつたとしても、被告意匠が本件登録意匠と類似するものとする妨げとならないことは、先に判断したところから明らかであるから、この点についての被告の主張も採用できない。 |
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損害賠償請求について
一 被告が、原告主張の期間に、本件物件を製造販売したことは、当事者間に争いがないところ、被告意匠が、本件登録意匠の類似の範囲に属することは、前記第四の判断のとおりであるから、被告の本件物件の製造販売行為は、本件専用実施権を侵害するものであり、かつ、被告は、その侵害行為について少なくとも過失があつたものと推定される(意匠法第40条)。 したがつて、被告は、不法行為者として、原告に対し、右侵害行為によつて被つた原告の損害を賠償すべき義務がある。 二 原告は、損害の額として、被告が侵害行為によつて受けた利益の額を、原告の損害額として請求するものであるところ、被告の受けた右利益の額は、原告の受けた損害の額と推定される(同法第39条第1項)。 しかして、原告主張の利益額の計算方法は、その内容からみて、相当であるところ、原告主張の別紙B表記載の本件物件の販売台数、同C表記載の仕切比率、小売価格、仕切価格、同D表記載の荒利益、運賃・保管料は、当事者間に争いがないから、右争いのない事実に、前記利益額の計算方法を適用すると、一台当りの利益額は、別紙D表ホ欄のとおりとなり、期毎の販売台数に関する利益額は、別紙B表の二販売利益計算表記載のとおりとなり、結局、被告の受けた総利益額は、金二一億六一九四万円余となる。 三 叙上のとおりであるから、原告の被告に対する損害金内金七億六一〇〇万円およびこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記載上明らかな昭和四三年一〇月一〇日以降支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める本訴損害請求は理由がある。 |
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謝罪広告請求
原告は、被告の侵害行為により、営業上の信用が害された旨主張するが、単に、 意匠権侵害があつたというだけでは、信用が侵害されたとはいえないところ、原告の信用が具体的にいかに毀損されたかについては、その主張立証がない。 したがつて、原告の謝罪広告請求は、理由がないので、棄却すべきである。 |
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結論
以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、そのうち、損害賠償の請求を認容し、謝罪広告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第89条、第92条但書、仮執行の宣言につき同法第196条第1項を各適用し、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)謝罪広告目録(一)広告文謝罪広告弊社の生産にかかる原動機付自転車(自動二輪車、商品名、スズキU五〇、同U五〇Dおよび同U七〇)は、株式会社本田技術研究所の有する登録第一四六一一三号意匠権を不法に侵害するものであり、右意匠権につき専用実施権を有する貴社に対し、多大の損害をかけたのみならず、貴社業務上の信用を害し一般需要者各位に迷惑を及ぼしたこと真に遺憾にたえません。茲に陳謝するとともに、将来に亘り苟しくも貴意匠に抵触するごとき商品を世に出さないことを誓います。 昭和年月日静岡県浜名郡<以下略>鈴木自動車工業株式会社代表取締役【B】東京都中央区<以下略>本田技研工業株式会社代表取締役【C】殿(二)掲載紙日刊日本経済新聞同日刊工業新聞同朝日新聞同毎日新聞同読売新聞<11777-001><11777-002><11777-003><11777-004><11777-005><11777-006><11777-007><11777-008><11777-009><11777-010><11777-011><11777-012><11777-013><11777-014><11777-015> |
裁判官 | 荒木秀一 |
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裁判官 | 高林克己 |
裁判官 | 清永利亮 |