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関連ワード 物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  類似の意匠 /  部品 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  外観類似 /  全体観察 /  先使用(29条) /  登録意匠 /  通常実施権 /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 昭和 42年 (ネ) 996号
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裁判所 名古屋高等裁判所
判決言渡日 1971/02/12
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
控訴代理人は、「原判決を取り消す。原判決添付別紙第一目録表示の意匠は第二一六六七一号登録意匠の権利範囲に属しないことを確認する。予備的請求として、
控訴人が原判決添付別紙第一目録表示の意匠の製造販売について被控訴人の有する意匠登録第二一六六七一号の意匠権に対する先使用による通常実施権を有することを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張並びに証拠関係は、次に付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから、ここに右記載を引用する(控訴代理人の陳述)一、意匠の考案は、形状模様色彩およびこれらの組合せから成るものより構成された審美的なもの、すなわち看者に特殊の趣味感を起させるものであるが、意匠的趣味感はこれら各要素より感得されるものではなく、全体として観察して感得されるものであるから、同一性の判断には意匠全体を通覧してなされなければならない。
時には、意匠の構成において容易に考案し得る特別顕著性なき部分の有無又は当該意匠にかかる物品について一般に慣用される部分の有無は、その物品全体としての観察においても特別の意匠的趣味感を起させる要素とならない場合が多いから、原則としてこれら特別顕著性なき部分の有無および慣用される部分の有無はこれを参酌すべきでない(大判昭和八年二月二七日)とされ、また意匠の類否判断に関係のあるのは意匠として美観に寄与する点のみであつて、それ以外の作用効果に関する機構は多く顧慮する必要がないとせられている(東高昭和三七年六月二六日判決。)意匠を施すべき部分が物品によつて一定の場所に限定されるような物品に関する類否判断は、緻密な感情によるべきである(特許庁昭和三二年一一月二八日審判)ので、類否判断に当つては、物品全体の対比的観察を原則とするとしても、物品によつては要部観察すなわち看者の最も注意を惹く部分の対比をもつて判定されなければならない。
二、本件において、被控訴人の有する意匠権の物品と控訴人の製作する物品は、舞輪と称される産業機械であつて、その使用されるのは専ら工場内の織物機の部品として装着せられるものである。物品の胴部中央を貫徹するシヤフトを織機の軸受に乗せ、綛になつた糸を回転しながら一定の速度で巻きとらせるために使用される。
従つてその形状は極めて制限された形態をとる。すなわち、スポーク部分は中心である軸から同一の長さをもつて放射線上に張らねばならないし、各スポークの間隔は同一とせられ、スポークには綛糸を受ける部分が設けられねばならない。軸と軸止めの存在を必要とし、胴には舞輪の安定と舞輪の急速なる停止の必要性のため、
分胴をつるす溝を中央に設けねばならない。スポークの数はそれが竹であれば六本、針金であれば八本が最適とされ、針金の場合、加工の容易さから弾力を持たせるため中心に対しやや斜めに胴に付着せられることとなる。
あらゆる舞輪は、以上の形態を常套意匠として具有するものであり、それは昭和七年以来公知公用せられた慣行意匠であり(甲第一六号証の一第一四図B記載)、
同時にそれはこの物品の作用効果に関する必須の機構である。これらの形状の一を欠いても本物品は舞輪として成立しない。
三、本件意匠の類否判断に当つては、当該物品中のかかる常套的慣用的部分並びに公知公用部分を捨象して決定した意匠的支配要素の対比によらなければならない。
本件意匠においては、先行意匠との兼ね合いによつて意匠権の範囲は極めて限定せられたものとなつているので、本件意匠と類似意匠をみても、スポーク末端の糸かけ部分に波型の存しない事実、軸外板に何らの装飾のない事実が意匠範囲の狭さを物語つており、かかる意匠的環境の吟味が肝要である。
四、この見地から本件両意匠を対比するとき、意匠を施しうる場所はスポーク部分と胴部の外板部分となる。控訴人の意匠はスポークの綛糸受け部分に波型を設け、
スポークの中央部にU字型の凹を設け、胴部外板に装飾を施したものである(検甲第一号証)。本部品において最も看者の注意を惹く部分は、スポークの形状特に綛糸受け波型部分であり、控訴人の意匠は中央部の凹部とともにダイナミツクな印象を与えるものである。他の特別顕著でない部分に類似点が存しても、それは捨象して考えねばならない。胴体のカシメ方式は、控訴人が昭和三五年末頃創作し当初から採用していたもので、当時の被控訴人方製品はすべてハンダで接着せられていたものである(比較せらるべきは検乙第一号証でなく検乙第三号証である)。
五、被控訴人は「考案の歩み」なるものを主張しているが、本件物品の構造は、簡易なる玩具にもその精巧度において劣るもので、また各部の作用効果も簡単に推し測れる度合のものである。もし考案の歩みなるものが必要であつたとすれば、それは基本設計の甘さにある。
(被控訴代理人の陳述)一、控訴人は、本件意匠が公知公用の意匠である旨主張するが、かかる主張は特許庁における無効審判の対象たるべき問題である。本件はすでに登録されている被控訴人の意匠権の権利範囲に控訴人の意匠が属するか否かの問題であつて、公知公用の点は全く争点外のことである。
控訴人の舞輪の意匠が被控訴人の登録第二一六六七一号意匠権の権利範囲に属するか否かにつき、控訴人はすでに昭和三九年一〇月二八日特許庁に対して被控訴人を相手方としてその権利範囲に属しないことの判定を求めたが、これに対して特許庁は、昭和四一年一〇月三一日右判定の請求は成立たない旨の判定をした(乙第一四号証の一、二)。右判定書の理由で指摘するごとく次の四点の箇所の相違は、両舞輪の全体としての類似からみれば、目立たない点の差異又は微差に過ぎない。すなわち、
(1) 枠金の折れ曲つている部分が円孤状をしているか環状をしているかの差異(2) 枠金の正面部と背面部をつないだ側面部分が直杆であるのと波型であるとの差異(3) 直杆部に近い部分に長形板状を配してあるか否かの差異(4) 締金具部分の差異 以上の差異等は全体としてみれば目立たない点の差異と認められるから、両者は全体として類似を免れない。
二、次に控訴人は、予備的に被控訴人が登録出願した意匠を知らないで控訴会社代表取締役【A】が本件意匠を創作し、控訴人は【A】よりその創作を知得したから先使用による通常実施権を有する旨主張する。
いうまでもなく、一つの考案は、それが創作であつて他の模倣に因るものでない限り、必ず何らかの形の考案の経路、段階がなければならない。本件の舞輪においても、その多くの部分においてそれぞれの考案がなされ、それぞれの経路によつて成立したものである。従つて、本件の舞輪が現在の形をとるに至るまでは幾度かの工夫研究試作の跡なくして一時に出来上ることは絶対にあり得ない。かかる「考案の歩み」なくして一時に出来上つたというならば、それは同じ物による模倣と解するよりほかないものである。しかるに、【A】がその舞輪を製造したというについては、かかる考案の歩みは何ら存在せず、単に検甲第一号証の舞輪そのものを考案したというに過ぎない。
三、しかも、控訴人の舞輪(検甲第一号証)と被控訴人の舞輪(検乙第一号証)とを比較すると、両者は殆んど全く同一寸法である。本件舞輪においては、内輪と筒部のカシメ式結合が考案の重要な点となつているほか、スポークの型状、太さ、筒部、蝶ねじ等各部につき考案を重ねて製作され、その各部分の総合によつて成立しているのが本件舞輪の意匠である。ところが控訴人の舞輪は、右の筒部と内輪のカシメ部分の寸法に至るまで全く同一寸法であり、被控訴人の舞輪をそのまま模倣したとしか考えられない。
四、工業所有権についての先使用による通常実施権は、登録権利者にとりその権利に対する重要な制限となつている権利であつて、控訴人主張のごとき材料の注文とか、製造の事実のみを以て通常実施権を主張し得るとすれば、考案者の権利の保護は全く果されぬことになる。少くとも、「自ら考案した」とか「登録権利者との権利と無関係な第三者の考案によつた」というためには、登録権利者の考案と同じか又それ以上の「考案の歩み」なくしては認められない。もしそうでないとすれば、
既に存在する登録権利者の考案は、出来上つた製品が極めて簡単であつて、その模倣は容易であり、かつ、その考案を自ら考えたとか、又は第三者の考案によつてヒントを得たというごとき抽象的主張を何時でもこれを作為し得るがためである。
五、以上要するに、控訴人には意匠法29条所定の要件である、登録意匠である被控訴人の舞輪を知らずして【A】が自らその意匠を創作したとか、又はこれを知らないで創作した者から知得したという要件を欠くから、先使用による通常実施権は認められない。
(証拠関係)(省略) 理 由一、被控訴人が昭和三六年七月二八日特許庁に対し原判決別紙第二目録表示の意匠登録出願をなし昭和三七年八月一一日登録番号第二一六六七一号の意匠権を有すること、控訴人が同第一目録表示の意匠の綛繰用舞輪を製造販売していることは当事者間に争いがない。
二、そこで控訴人の意匠が、被控訴人の登録意匠と類似するか否か、すなわち被控訴人の有する意匠権の権利範囲に属するか否かについて判断する。
(一) 被控訴人の有する登録意匠にかかる物品は、綛繰用舞輪であつて、その形状および模様は次のとおりである。
(a) 軸管の両端に円板型の軸承板(丸鍔と被蓋とからなる)を取りつけ、
(b) 針金で基部に接近して小さい輪形部(ループ)を形成し、この輪形部より先方(胸部)を片側へ斜めに屈折し、両突端を下方に折り曲げて直状の水平部を有する八本の枠杆(スポーク)を設け、これを前記軸承板の円周上に等間隔で傾斜して固定し、各枠杆の水平部上には紐を張架し、
(c) 軸管の外面中心には若干凹状の筋模様を、また、軸承板の外側には軸孔を中心とする数条の円輪を模様状に施し、
(d) 中央の軸棒には両端に突起のある止めねじを取りつけてなるものである。
(二) これに対し、控訴人の意匠にかかる物品もまた綛繰用舞輪であつて、その形状および模様は、
(a) 軸管の両端に円板型の軸承板(丸鍔と被蓋からなる)を取りつけ、
(b) 針金で基部に接近して小さい半円孤形部を屈曲形成し、この半円孤形部より先方(胸部)を片側へ斜めに屈折し、その先端を下方に折り曲げ中間の水平部を波型に屈曲した八本の枠杆を設け、これを軸承板の円周上に等間隔で若干右方へ傾斜して固定し、各枠杆の水平部上には紐を張架し、
(c) 軸管の中心には凹状の筋模様を、また、軸承板の外側には軸孔を中心とする数条の円輪を模様状に施し、かつ、軸承板の外側に小さい数個の膨出部を点々と設け、
(d) 中央の輪棒には両端に突起のある止めねじを取りつけてなるものである。
以上の各事実は当事者間に争いがない。
(三) そこで右両意匠の差異について考えるに、(イ)登録意匠が枠杆の基部に接近して小さな輪形部(ループ)を形成しているのに比し、控訴人の意匠は枠杆の基部に接近して半円孤形の屈折部を形成していること、(ロ)控訴人の意匠には軸承板の外面に小さい数個の膨出部を点々と模様状に施してあるが登録意匠にはこれがないことは当事者に争いがなく、成立に争いのない乙第一号証、第一四号証の一、二、検甲第一号証、検乙第一、第一二号証と原審における検証の結果、鑑定人【B】、同【C】の各鑑定結果並びに当審証人【C】の証言を総合すると、次の事実が認められる。右両意匠は、その構成要素のうち、意匠にかかる指定物品(綛繰用舞輪)、外観的形状はいずれも同じであり、各部の寸法の比率も多少の差はあるが殆んど同じであつて、またその模様は、両者とも軸管の中心に凹状の筋模様を有し、軸承板の外側に軸孔を中心とする数条の円輪が模様状に施してあり、色彩の限定はなく、右両意匠の差異は、結局前記争いのない(イ)(ロ)点のほか(ハ)控訴人の方が枠杆先端の屈折部を左右両方に「く」の字型に彎曲していること、
(二)登録意匠の枠杆が直状の水平部を有するに比し、枠杆の水平部に波型の屈折部を形成していることの四点に尽きる。
ところで、意匠とは物品の形状模様もしくは色彩またはこれらの結合であつて、視覚を通じて人に美観を起こさせるものであり、意匠法は物品の外観を保護するものであるから、意匠の類似判断は、外観類似に重きをおき、視覚による全体的観察により総合判断されるべきであり、対比される意匠にかかる物品の一部が公知公用に属する場合でもこれを全体として観察し、特別に美観を起こさせる部分、すなわち普通一般人の目に触れ、看る者の注意をひき易い部分(これを要部という)以外の部分的差異、または意匠の要部等から容易に着想実施しうる程度の特別に顕著でない差異は、これを参酌する要はないと解するを相当とする。
これを本件についてみるに、前掲各証拠によると、被控訴人の有する登録意匠は、円板型の軸承板の外側に数条の円輪模様を施し、基部に接近して小さい輪形部を形成した枠杆(スポーク)の先方を斜め右側へ傾斜させ、両突端を下方にU字型に折り曲げた形状となし、この枠杆を軸承板の円周上に傾斜して固定してなる形状模様の結合により構成された点に大きな特徴があり、とりわけ、枠杆の数、軸承板から出た枠杆の傾斜度、基部に輪形部をもつ八本の枠杆の相互関係、および被蓋を中心とした枠杆の角度関係から生ずる機構的な線配置の平衡的安定感に綛繰用舞輪としての外観上きわだつた審美的要素をもちこれを意匠の要部としていること、
したがつて、前記のような(イ)ないし(ニ)の四点の相違、すなわち、枠杆の屈折部に輪形部をもつか半円孤形部をもつかの差異とか、軸承板の外面に小さい数個の膨出部をもつか否かの差異、また枠杆の水平部が直杆であるか波形であるかの差異、枠杆の先端屈折部を「く」の字状に彎曲してあるか否かの差異のごときは、いずれも看る者の注意をひくことの少ない部分に存する軽微な違いか、前記登録意匠の要部または先行刊行物の記載(当審鑑定人【D】の鑑定書添付の参考資料参照)から、特別の考案を要せずして容易に着想実施できる程度の微差であつて、本件各意匠の全体を通じて比較観察したとき両者はほとんど同一であり、その意匠要部は頗る酷似していることが認められる。前記認定の意匠要部と異つた要部を前提とする当審鑑定人【D】の鑑定結果および同鑑定証人の証言は前掲各証拠に対比してにわかに措信できない。なお、弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第一七号証、成立に争いのない甲第一八号証の一ないし七によると、本件意匠にかかる物品の通常の使用状態は、高速綛繰機に舞輪の軸を同一線上に平列させ各物品を密着装置させたうえ集合的に使用するものであつて、一般にその看易い部分は正面および側面(原判決添付図面の平面)であることが認められるが、仮りにこの場合、側面を構成している意匠が全体観察においてウエイトをもつとしても、控訴人の方の枠杆の水平部(糸掛部分)に波型が形成され、その左右先端において「く」の字型を彎曲しているがごとき点は、特にこれを看る者が登録意匠と比較対照して注意してみなければ判らない程度の軽微な違いであつて、登録意匠と異なる特別に顕著な差異とは認められない。
してみると、本件各意匠の外観を全体的に観察した場合、普通一般人をして控訴人の意匠が被控訴人の登録意匠と異なつた美観を起させるほど相違する点をもつものとはいえないから、両意匠は類似するものといわざるを得ない。したがつて、控訴人の意匠は被控訴人の意匠権の権利範囲に属することになるから、これが権利範囲に属しないことの確認を求める控訴人の主位的請求は、失当として棄却を免れない。
三、次に控訴人の予備的請求に対する判断は、当裁判所の審理によるも、次に付加するほか、原判決理由三項に説示するところと同一であるから、ここに右記載を引用する。
弁論の全趣旨により成立を認める甲第二四ないし第二六号証の記載および当審証人【E】、同【F】の各証言は、未だもつて控訴会社代表取締役【A】が被控訴人の登録出願にかかる意匠を知らないで本件意匠を創作したものとは認めがたいし、
他にこれを認めるに足る的確な証拠はない。むしろ、成立に争いのない乙第一一号証、原審証人【G】、同【H】の各証言および原審における被控訴本人の供述よりすると、被控訴人は本件意匠の登録出願前昭和三六年四月六日、右意匠にかかる綛繰用自在舞輪の実用新案の出願をしたが、それ以前である昭和三四年夏頃より右舞輪の心棒のねじ切り加工を小伊豆製作所こと【H】に注文していたこと、その後【H】は右加工品を納品した際、被控訴人方より右舞輪を見本として持ち帰つたので、【H】の兄である控訴会社代表者【A】は、その意匠を模倣して控訴会社をして前記類似の意匠にかかる舞輪の製造販売に着手したものと推認できる。
したがつて、控訴人が本件意匠権につき先使用による通常実施権を有する旨の予備的請求もまた失当であつて、排斥を免れない。
四、以上の次第で、当裁判所の判断と同趣旨に出た原判決は相当であるから、本件控訴はこれを棄却すべきものとし、民訴法384条95条89条に従い、主文のとおり判決する。
裁判官 伊藤淳吉
裁判官 宮本聖司
裁判官 土田勇