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関連審決 審判1986-719
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成3オ1007 判例 意匠
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昭和57ワ7035 判例 意匠
昭和59行ケ7 判例 意匠
関連ワード 物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  公然知られた(3条1項1号) /  類似する意匠 /  意匠の類否 /  登録意匠 /  無効審判 / 
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事件 平成 1年 (行ケ) 149号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1990/03/15
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者が求めた裁判
一 原告 「特許庁が昭和六一年審判第七一九号事件について平成元年五月二二日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決二 被告主文同旨の判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 被告は、意匠に係る物品を「くつ下仕上用型板」とする別紙第一に表示されている態様の意匠登録第三九〇六一六号意匠(昭和四七年六月二〇日意匠登録出願、昭和四九年一〇月一九日意匠権設定登録。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
原告は、昭和六一年一月七日、本件登録意匠の意匠登録を無効にすることについて審判を請求し、昭和六一年審判第七一九号事件として審理された結果、平成元年五月二二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年六月二八日原告に送達された。
二 審決の理由の要点1 本件登録意匠に係る物品及びその態様、意匠登録出願(以下「本件出願」という。)の日付並びに意匠権設定登録の日付けは、前項記載のとおりである。
2 請求人(以下「原告」という。)は、本件登録意匠の登録無効事由を左記のとおり主張した。
本件登録意匠の特徴は、パンティストッキング仕上げ用型板の先端が人の足の形状でなく単に丸みを帯びた一対の直線状脚部を形成し、その下方が一体に結合してパンティ部を形成している点である。
しかしながら、本件登録意匠類似する意匠の型板は、本件出願前に公然と使用されていた事実がある。
すなわち、靴下製造業界の最大手企業の一つである厚木ナイロン工業株式会社は、本件出願日より一〇か月以上も前の昭和四六年八月九日、本件登録意匠類似する意匠を有する型板について実用新案登録出願を行い、遅くとも同年一二月ころには、右実用新案登録出願の願書(甲第三号証)に添付した図面(別紙第二)に表示されているものと全く同一形状の型板(以下「甲第三号証表示の型板」という。)を、公然と使用していたのである。したがって、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠に類似する意匠であって、意匠法第3条第1項第1号の規定に該当する。よって、原告は、同法第48条第1項第1号の規定に基づいて、本件登録意匠の登録を無効にすることについて審判を請求する。
3 被請求人(以下「被告」という。)は、左記のとおり主張した。
仮に、甲第三号証表示の型板が本件出願前に公然使用され公然知られていたとしても、本件登録意匠は甲第三号証表示の型板の意匠とは明らかに類似しないものである。
すなわち、本件登録意匠に係る物品は、甲第三号証表示の型板と同様、パンティストッキングあるいはタイツなど靴下の仕上げに用いるものであるが、これらの靴下は脚部と腰部が一体に形成されている。したがって、その仕上げ用型板は、脚部を装着する二股部とこれに連結する基部とから構成されるのが必然であるから、意匠の類否の判断も右構成を前提としてなすべきである。そして、本件登録意匠と甲第三号証表示の型板の意匠とを総合的に観察すると、二股部の長さが明らかに相違していることはもとより、基部の長さ、大きさ及び切り込み部の形状が相違しているから、靴下仕上げ機の製造業者あるいは靴下仕上げ業者などの需要者が両意匠を彼此混同するおそれはあり得ず、本件登録意匠の登録を無効とする事由は存しない。
4 そこで検討するに、甲第三号証の実用新案登録請求の範囲には「パンティストッキング、又はタイツ類の型板」と記載されており、その考案に係る物品は本件登録意匠に係る物品と同一である。また、本件登録意匠と甲第三号証表示の型板の意匠は、脚部と胴部とから成り、脚部は踵がない直線状で足先を半円弧状とし、股下は平行又はほぼ平行の細長いU字状に切り欠いた形状とし、足先から胴部までの全体をおおむね同幅に形成した縦長の薄板状の態様である点において共通する。
しかしながら、両意匠は、左記の四点において差異を有する。
a 本件登録意匠が、横幅一に対し縦の長さがほぼ三であるのに対して、甲第三号証表示の型板の意匠は、横幅一に対し縦の長さが五以上である点b 本件登録意匠は、U字状に切り欠いた股下が足先方向へやや広がっているのに対して、甲第三号証表示の型板の意匠は、U字状に切り欠いた股下がほぼ同じ幅である点c 本件登録意匠が、胴部の上端(すなわち、型板の取付部)をほぼ左右対称の斜状に切り欠き、その一端にU字状の切欠き部を設け、それに並んで左右に一対の小円孔を穿っているのに対して、甲第三号証表示の型板の意匠は、型板の取付部の一端を凹弧状に、他端を駒形に切り欠き、残された部分を凹状及び弓状弧状にそれぞれ切り欠いた上、弓状弧状の切欠きの上方に一対の小円孔を穿っている点d 本件登録意匠が、横幅一に対し股の上端から胴部の上端までの長さ(すなわち、股上)がほぼ〇・五であるのに対して、甲第三号証表示の型板の意匠は、横幅一に対し股上がほぼ二・五である点5 右共通点及び差異点を総合してみると、共通点である脚部の態様は、本件出願前に公知(靴下仕上げ用型板において、踵がない態様は周知)であるから、看者も注目することがなく、この種の物品の意匠の要部ではない。
しかしながら、差異点c及びdは、機器への取付け方法の相違に基づく機能的なものとはいえ、この種の物品の意匠においては見逃し得ない要部である。のみならず、甲第三号証表示の型板の意匠の股上は、本件登録意匠の約五倍の長さを有しており、この点は作業性などを配慮した必然のものであるにせよ、看者に与える印象は相当に異なるものであり、かつ、別紙第二の第二図には甲第三号証表示の型板によって仕上がる製品の股上が破線で示されているところ、本件登録意匠に係る型板によって仕上がる製品の股上はその二分の一程度にすぎないと推定されるから、前記の股上の態様は、部分的な差異点ではあるが、注目されるところである。そして、その他の差異点をも集約して本件登録意匠と甲第三号証表示の型板の意匠とを比較検討すると、その共通点は差異点に勝るものでないから、両意匠は全体的観察においては類似するといえない。
6 以上のとおり、甲第三号証表示の型板が本件出願前に公然と使用されていたか否かを検討するまでもなく、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号の規定に該当するものではないから、原告の主張及び立証によっては、本件登録意匠の意匠登録を無効にすることはできない。
三 審決の取消事由 審決には審理不尽及び判断遺脱の違法があり、仮にそうでなくとも、本件審判手続には審理義務違反あるいは釈明義務違反の違法があるから、審決は違法なものとして取り消されるべきである。
1 審理不尽及び判断遺脱 原告は、昭和六一年一月七日付け審判請求書において、本件登録意匠の登録無効事由として「本件登録意匠類似する意匠の型板は、本件出願前に公然と使用されていた事実がある。すなわち、厚木ナイロン工業株式会社は、遅くとも昭和四六年一二月ころには、本件登録意匠類似する意匠の型板を公然と使用していた。」ことを主張した。右主張は、意匠法第3条第1項第3号(第一号)に基づく単一の登録無効事由にほかならない。
右登録無効事由を立証する証拠としては、本件出願前に公然と使用されていた型板の実物あるいはその写真を示すのが最良であるがそれらを発見し得なかったので、原告は、審判請求当初は甲第三号証、すなわち、厚木ナイロン工業株式会社が公然と使用していた型板がその考案に基づいて製造されたと考えられていた、同社の昭和四六年八月九日付け実用新案登録願書(昭和四六年実用新案登録願第七一四〇三号)を提出した。要するに、原告は、この時点においては、本件出願前に公然と使用されていた型板は甲第三号証表示の型板であるとの事実を立証したのである(念のため付言するに、右実用新案登録出願が出願公開されたのは本件出願後の昭和四八年四月一〇日であるから、その登録願書ないし公開公報は本件登録意匠との関係において公知文献となり得るものではない。したがって、甲第三号証は、「本件登録意匠類似する意匠の型板が、本件出願前に、厚木ナイロン工業株式会社によって公然と使用されていた」との登録無効事由を推認させる、間接証拠にすぎない。) その後、厚木ナイロン工業株式会社の関係工場において、同社が右実用新案登録出願に係る考案に基づき製造業者に製造させて昭和四六年六月に納入を受け、以降、同社及びその関係工場において公然使用していた型板の実物の一枚が発見された。そこで、原告は、昭和六一年一一月七日付け「物件(検証物)提出書」によって、右型板の実物(以下「検甲第一号証の型板」という。)の検証を申請し、本件出願前に公然と使用されていた型板は検甲第一号証の型板であるとの事実を立証した(いうまでもなく、検甲第一号証は、「本件登録意匠類似する意匠の型板が、
本件出願前に、厚木ナイロン工業株式会社によって公然と使用されていた」との登録無効事由を立証すべき直接証拠であって、証拠価値において甲第三号証とは顕著な差がある。)。
しかるに、審決は、本件登録意匠と原告の主張の間接証拠にすぎない甲第三号証表示の型板の態様を対比し、本件登録意匠と甲第三号証表示の型板の意匠は類似しないと判断しているのみであって、本件登録意匠と原告の主張の直接証拠である検甲第一号証の型板の態様の対比判断は、全く説示していない。
したがって、審決は、審判手続における最重要証拠である直接証拠の審理を尽くさず、それに対する判断を何ら示さなかったものであって、その判断には結論に影響を及ぼすべき重大な遺脱があることが明らかである。
2 審理義務違反あるいは釈明義務違反 仮に、原告が審判手続において主張した登録無効事由は「本件出願前に甲第三号証表示の型板が公然と使用されていた」との公知事実であり、「本件出願前に検甲第一号証の型板が公然と使用されていた」との公知事実は右とは別個の登録無効事由であるとするならば、審判手続には左記のような違法が存するというべきである。すなわち、
審判手続は、単に当事者の利害のみならず公共の利害にもかかわるものであるから、職権主義を原則とするのであって、現に、意匠法第52条の規定によって準用されている特許法第150条第1項及び第153条第1項は、職権による証拠調べ及び審理を規定している。これらの規定は審判合議体に対して職権探知を義務付けたものではないが、審判手続に提出された証拠から、
審決の結論に影響を及ぼす可能性がある登録無効事由を容易にうかがい得る場合には、審判官合議体は右登録無効事由について審理し判断を示す義務があるというべきである。
しかるに、本件審判手続において検甲第一号証が適法に提出されたこと、及び、
検甲第一号証が証拠価値において甲第三号証とは顕著な差があることは前記のとおりである。のみならず、被告は、審判手続における昭和六二年九月一四日付け「第三答弁書」において、検甲第一号証の型板の意匠が本件登録意匠と「実質的に同一」であることは認め、専ら、検甲第一号証の型板が本件出願前に公然と使用されていたとの事実を争っていたのであるから、検甲第一号証から容易にうかがい得る「本件出願前に検甲第一号証の型板が公然と使用されていた」との公知事実について全く審理判断しなかった本件審判手続には、審理義務の違反が存する。
また、右の点が審理義務違反といえないとしても、検甲第一号証から「本件出願前に検甲第一号証の型板が公然と使用されていた」との公知事実が容易にうかがわれる以上、審判手続が原則とする職権主義に照らせば、審判合議体には、原告に対して、これを登録無効事由として主張するか否かの釈明を求める義務があるというべきである。したがって、これを怠った本件審判手続には、釈明義務の違反が存することは明らかである。
請求の原因の認否及び被告の主張
一 請求の原因一及び二の事実は認める。
二 同三は争う。審決の認定及び判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない。
1 審理不尽及び判断遺脱の主張について 原告は、その主張する本件登録意匠の登録無効事由が「厚木ナイロン工業株式会社は、遅くとも昭和四六年一二月ころには、本件登録意匠類似する意匠の型板を公然と使用していた。」との事実であることを前提として、審決には審理不尽及び判断遺脱の違法があると主張している。
しかしながら、意匠法第48条第1項第1号第3条第1項に基づく意匠登録の無効事由は、対比されるべき意匠を具体的に特定して主張しなければならないのであって、このことは同法第52条の規定によって準用されている特許法第167条の規定の趣旨からも明らかである。しかるに、審判手続において原告が本件登録意匠と対比されるべき意匠として具体的に特定して主張したのは、審判請求書に記載されている甲第三号証表示の型板の意匠のみであり、右主張が変更されることなく審理が終結されたのであるから、本件登録意匠の登録無効事由は「本件登録意匠の意匠登録出願前に、本件登録意匠に類似する甲第三号証表示の型板の意匠が公然知られていた。」との事実に尽きる。
したがって、本件登録意匠の登録無効事由が「厚木ナイロン工業株式会社が、本件登録意匠の意匠登録出願前に、本件登録意匠類似する意匠の型板を公然と使用していた。」との抽象的な事実であり、検甲第一号証の型板は右事実を立証する証拠であることを前提として、審決には最重要証拠である検甲第一号証の審理を尽くさずそれに対する判断を遺脱した違法があるとする原告の主張は、失当である。
2 審理義務違反あるいは釈明義務違反の主張について 原告は、自らが主張しなかった登録無効事由について審判合議体に審理義務違反あるいは釈明義務違反があると主張している。
しかしながら、当事者が主張しなかった登録無効事由についての審判合議体の審理義務あるいは釈明義務は、審判手続に既に顕出されている証拠から審判請求人が看過している別個の登録無効事由が存することを容易に認定することができ、当該登録無効事由を審理の対象としなければ著しく正義に反する特別の場合にのみ、例外的に肯定されるべきである。
しかるに、本件の甲第三号証表示の型板の意匠と検甲第一号証の型板の意匠が異なる意匠であることは、容易に認定し得るとはいえない。のみならず、原告は、昭和六一年一一月一七日付け「物件(検証物)提出書」に「提出物件は、厚木ナイロン工業株式会社が公然と使用していた型板の一枚である。」と記載し、かつ、同日付け弁駁書において、検甲第一号証の型板は甲第三号証表示の型板と「同型の足型」であると主張していたのであるから、審判合議体において、原告さえも看過している別個の登録無効事由が存することを認定するのは容易ではなかったというほかない。したがって、本件審判手続には審理義務違反あるいは釈明義務違反があるとする原告の主張も、失当である。
証拠関係(省略)
理 由一 請求に原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。
1 審理不尽及び判断遺脱の主張について 原告は、本件登録意匠の登録無効事由は「本件登録意匠類似する意匠の型板は、本件出願前に公然と使用されていた事実がある。すなわち、厚木ナイロン工業株式会社は、遅くとも昭和四六年一二月ころには、本件登録意匠類似する意匠の型板を公然と使用していた。」との一つの公知事実であることを前提として、審決には、右公知事実を立証する最重要証拠である検甲第一号証の審理を尽くさずこれに対する判断を示さなかった違法が存すると主張する。
しかしながら、意匠法第48条第1項第1号第3条第1項に基づく意匠登録の無効事由の当否の判断は、登録意匠及び対比されるべき意匠のそれぞれについて、
意匠の構成態様とその要部を認定し、それらを総合的に観察してなされるものであって、そのような認定及び判断は、対比されるべき意匠(すなわち、対比されるべき物品の形状模様若しくは色彩又はそれらの結合)が具体的に特定して主張されることにより初めて可能となるものである。したがって、原告の前記主張のように、対比されるべき意匠を具体的に特定せず、単に意匠が公然知られたとされる日時や場所のみを特定するにとどまる抽象的な主張は、意匠法第48条第1項第1号第3条第1項に基づく意匠登録の無効事由としては不十分である。
ところで、成立に争いのない甲第三号証及び乙第一号証によれば、本件の無効審判請求書には、本件登録意匠の登録無効事由として、「そこで、以下において、本件登録意匠が意匠法第3条第1項第3号に該当するものであることの理由を述べる。」とした上、「日本国内においても、本件登録意匠類似する意匠の足型は、
その登録出願前に公然と使用されていた事実があるのである。即ち、靴下製造業界における最大手企業の一つである厚木ナイロン工業株式会社が、本件登録意匠に類似する足型について、本件意匠登録出願日たる昭和四七年六月二〇日よりも約一〇カ月以上も早い昭和四六年八月九日付けをもって実用新案登録出願を行い、更に、
遅くとも昭和四六年一二月頃には、上記実用新案登録出願に係る明細書の図面(註、本件の甲第三号証)に示されているものと全く同一形状の足型を、公然と使用していたという事実のあることがそれである。」と記載されていて、対比されるべき意匠の態様が具体的に特定して主張されていたことが認められている。この主張のほかには、本件の審判手続において、他の登録無効事由が主張されていた形跡はない。
そうすると、審判手続における本件登録意匠の登録無効事由は、対比されるべき意匠が審判請求書において具体的に特定されている「厚木ナイロン工業株式会社は、遅くとも昭和四六年一二月頃には、本件登録意匠類似する意匠を有する甲第三号証表示の型板を公然と使用していた」との事実のみといわざるを得ないから、
検甲第一号証の型板の意匠が公知であったとの事実も本件登録意匠の登録無効事由として主張されていたことを前提とする原告の審理不尽及び判断遺脱の主張は失当であって、採用することができない。
2 審理義務違反あるいは釈明義務違反の主張について 原告は、「本件出願前に検甲第一号証の型板が公然と使用されていた」との公知事実が「本件出願前に甲第三号証表示の型板が公然と使用されていた」との公知事実とは別個の登録無効事由であるとするならば、審判手続には審理義務違反あるいは釈明義務違反の違法が存すると主張する。
しかしながら、意匠法第52条によつて準用される特許法第153条第1項の規定は、審判においては当事者が申し立てない理由についても審理することができる旨を定めているが、この規定が当事者の申し立てない理由についても積極的に審理すべき義務があるとまで定めたものでないことは明らかであるし、もともと意匠登録無効請求の審判手続においては当事者対立の構造が採用されていることから考えると、審判請求人が主張していない無効事由については、それが取り調べ済みの証拠から容易に窺い知りうるものであったとしても、これについて審理しなかったことが審理義務違反の違法になるとは解せられない。
つぎに、釈明義務違反の点について検討するに、本件審判手続においては、前記認定の通り、審判請求人(原告)は「本件登録意匠の登録出願前に甲第三号証表示の型板が公然と使用されていた」との事実のみを無効事由として主張しており、成立に争いのない甲第四号証によれば、検甲第一号証は「物件(検証物)提出書」とあるように単なる証拠方法の一つとして提出されたにすぎないことが認められるから、審判請求人が主張しようとする無効事由はすでに一応明確になっていたというべきである。
もっとも、検甲第一号証が提出されたことにより、審判合議体は「本件登録意匠の登録出願前に検甲第一号証の型板が公然と使用されていた」といういま一つの公知事実の存在を知り得たであろうし、成立に争いのない甲第六号証によれば、審判被請求人は本件登録意匠と検甲第一号証に表示の意匠とが「実質的に同一と認められる」との第三答弁書を提出していたことが認められるのであるから、審判合議体としては、審判請求人に対して、この公知事実に基づく無効事由を交換的に或は追加的に主張するのか否かについて釈明を求めることが適切な措置であったかもしれないが、このことは当然審判請求人においても容易になし得たはずのものであること、及び、たとえ本件審判が確定したとしても審判請求人(原告)としては改めて検甲第一号証に基づいて本件登録意匠の登録無効請求をすることが可能であることを考えると、この釈明を求めなかったことが審決を取り消すべき手続の違法事由に該当するとまで解するのは相当でない。
したがって、原告の審理義務違反ないし釈明義務違反の主張も失当であって、採用することができない。
3 以上のとおりであるから、本件登録意匠は意匠法第3条第1項第3号に該当しないとした審決の認定及び判断は正当であって、審決に原告主張の違法はない。
三 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 藤井俊彦
裁判官 春日民雄
裁判官 岩田嘉彦
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