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関連審決 不服2004-20035
関連ワード 物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10772号 審決取消請求事件
原告 株式会社天木
同訴訟代理人弁理士 竹中一宣
同 大矢広文
被告 特許庁長官中嶋 誠
同指定代理人 西本幸男
同 上島靖範
同 大場義則
同 岩井芳紀
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/04/11
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-20035号事件について平成17年9月26日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,意匠に係る物品を「軒巴瓦」とする意匠(以下「本願意匠」という。)につき,平成16年4月21日,意匠登録出願(意願2004-12144号)をした。この出願について,同年8月6日付けの拒絶理由通知があり,原告は,同月24日付けの意見書を提出したが,同月25日付けの拒絶査定を受けたため,同年9月28日,これに対する不服審判請求をした。
特許庁は,この審判請求を不服2004-20035号事件として審理し,その結果,平成17年9月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年10月11日,審決の謄本が原告に送達された。
2 審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願意匠(審決書別紙第1)は,意匠登録第750980号の意匠公報(甲第5号証。以下「引用刊行物」という。)に掲載された意匠(審決書別紙第2。以下「引用意匠」という。)と類似するから,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができない,とするものである。
審決は,意匠に係る物品について,両意匠共に,軒先に用いる瓦に係るものであるから一致すると判断した上で,本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点を次のとおり認定した。
(1) 共通点両意匠の形態は,全体が,胴部を略半円筒形状とし,頭部に円板状の垂れを垂直状に形成し,尻部に玉縁を形成した基本的構成態様のものである点各部の具体的態様において,(あ) 胴部の左右側面下端中央部には,段差を形成している点(い) 胴部の背の部分につき,側面視凹弧状に形成している点(う) 玉縁につき,凸弧状の板体からなり,平面視において,後方に向かってすぼまり状に形成したものである点(2) 差異点各部の具体的態様において,(ア) 胴部両側面の平面視につき,本願意匠は,直線状であるのに対して,引用意匠は,凹弧状としている点(イ) 胴部の背の部分につき,本願意匠は,水切り半円形状模様と2つの小円孔を有しているのに対して,引用意匠は,無模様,無孔である点(ウ) 頭上端部と尻上端部につき,本願意匠は,正面視において重なるように表れているのに対して,引用意匠は,尻上端部の方がわずか上方にずれて表れている点(エ) 玉縁部につき,本願意匠は,引用意匠と比較して幅が狭いものである点
原告主張の取消事由の要点
審決は,本願意匠の要部の認定を誤り,差異点についての判断を誤ったため,本願意匠と引用意匠との類似性の判断を誤ったものであるから,取り消されるべきである。
1 要部認定の誤り(1) 審決は,本願意匠の要部を具体的態様の(あ)ないし(う)の点に限定しているが,この認定は誤りである。
(2) 胴部の背の部分から頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエット,即ち胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とが同じ高さであることは,本願意匠の要部の一つであるにもかかわらず,審決はこの点を認定していない。
引用意匠において,胴部の頭端の頂点の高さよりも尻端の頂点の高さが高くなっているのに対して,本願意匠においては,胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とは同じ高さである。そのため,本願意匠の胴部の頭端及び尻端の各頂点を線で結び,線を水平にした上で,軒巴瓦を正面視すると,一般に万十と呼ばれる垂れの部分を真っ直ぐに視認することができる。これにより,万十に描かれた家紋等の柄を真っ直ぐに視認することができ,本願意匠の中心をなす美感が発揮され,看者の注意を惹く。
また,このシルエットは格別評価に値するものであり,類否判断に与える影響は大きい。本願意匠と引用意匠の背の部分とを比較すると,頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエットは大きな相違があり,看者は,本願意匠と引用意匠とを誤認混同することは考えられない。
2 差異点(ア)に関する判断の誤り(1) 審決は,差異点(ア)として,胴部両側面の平面視の形状の差異について認定しているのに対して,その評価においては,側面視した背の部分について判断している。
本願意匠の胴部両側面を平面視すると,尻側から頭側にかけて直線状で,頭側端部付近において末広がりの構成である。これに対し,引用意匠では,胴部両側面が凹弧状(センター絞りの形状)である。本願意匠の末広がり部分は,特殊な形態で,美的特徴を有するものであり,意匠上格別に評価に値するもので,類否判断に与える影響は非常に大きい。
(2) 審決は,背の部分のみを凹弧状とした態様のものが普通に見受けられ,この点を格別評価することはできず,類否判断に与える影響は微弱であると判断したが,仮に一般的な形状であっても,当然に,これを除外ないし捨象して意匠の類否を判断すべきことになるのではなく,その部分を含めた全体が意匠としてまとまりを形成している場合には,当該部分を含めた全体としての両意匠の構成態様を対比し,類否の判断を行うべきであるから,審決が一般的形態を除外して類否を判断したことは妥当でない。本願意匠の胴部の背の部分が凹弧状であり,胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とが同じ高さであることは,本願意匠の形態全体の基本的構成であって,全体の骨格あるいは基調をなすもので,他の部分と相俟って一つのまとまりある意匠を構成しているため,これを除外して類否を判断すべきでない。
3 差異点(イ)に関する判断の誤り(1) 審決は,本願意匠の二つの小円孔が単なる取り付け用の孔を表しており,背のほぼ中央部分に取り付け用の穴を2個形成したものは,ごく普通に見受けられ,意匠上格別評価すべきほどでもないことから,部分的な差異に止まると判断する。
しかし,本願意匠の胴部の背の部分のほぼ中央にある二つの小円孔は,半円形の水切りその他の部分と相俟って全体として一つのまとまりのある意匠を構成しており,二つの小円孔を施したものが普通に見受けられるとしても,一般的形態を除外して類否を判断するのは妥当でない。
(2) 水切り部分について,審決は,意匠全体として観察した場合に,本願意匠に表された模様自体がさほど目立つものとはいえないから,両意匠の類否判断に与える影響は微弱であると判断する。
しかし,本願意匠の水切り部分は,胴部の背の部分のほぼ中央にあり,看者の目を惹く上,形状も一般的な直線状ではなく,半円形状であって,新規かつ斬新なデザインであり,本願意匠の軒巴瓦に大きなアクセントを与えている。そのため,本願意匠の水切り部分は,看者が本願意匠と他の意匠とを区別する際の判断材料となり,胴部の背の部分に模様が全くない引用意匠との差異は顕著である。
4 差異点(ウ)に関する判断の誤り頭上端部と尻上端部につき,引用意匠は,尻上端部の方がわずか上方にずれて半月状に表れているのに対し,本願意匠では,正面視において重なるように表れているが,この点は,前記1(2)のとおり,万十及びそこに描かれた家紋等を真っ直ぐに視認することを可能にし,荘厳な雰囲気という美感を発揮させるものであるから,意匠上格別に評価され,類否判断に与える影響は大きく,看者は本願意匠と引用意匠とを誤認混同することは考えられない。
審決は,差異点(ウ)に係る両意匠の態様(頭上端部と尻上端部とが正面視において重なるように表れている形態と尻上端部の方がわずか上方にずれて表れている形態)が,いずれも普通に見受けられる態様であると判断するが,仮に普通に見受けられる個所があっても,対比判断する意匠全体を総合考慮して類否の判断をすべきである。本願意匠において,頭上端部と尻上端部とが正面視において重なるように表れている点は,前記1(2)のとおり,他の部分と相俟って,万十及びそこに描かれた家紋等を真っ直ぐに視認することを可能にし,美感を発揮させるための一つのまとまりのある意匠を構成しており,これを個別に判断したり,一般的形態を除外して判断したりすることは,妥当でない。
5 差異点(エ)に関する判断の誤り(1) 審決は,本願意匠と引用意匠とでは,平面視のとき,玉縁部の幅と尻部の幅の差異の大きさにおいてさほど差がないと認定している。
しかし,本願意匠においては尻部の幅に対して玉縁部の幅が3分の2程度であるが,引用意匠においては尻部の幅に対して玉縁部の幅が5分の4程度である。そのため,本願意匠では,意匠に係る物品である「軒巴瓦」全体がスマートなイメージとなり,スマートな美感を醸し出すのに対し,引用意匠では,意匠に係る物品である「かわら」全体が重厚なイメージとなり,重厚な美感を醸し出す。また,本願意匠は,玉縁の外縁が万十の円の中にぴったりと当接しておらず,玉縁の外縁と万十の円との間に空白部が存在する。一方,引用意匠は,玉縁の外縁が万十の円にぴったりと当接しており,玉縁の外縁と万十の円との間に空白部は存在しない。さらに,本願意匠の右側面図の玉縁部と引用意匠の正面図の玉縁部とを対比すると,玉縁部の形状,玉縁部の瓦本体に占める割合等について重要な差異がある。
このように,異なる美感を生じさせ,全体のイメージも相違することから,玉縁部の幅と尻部の幅の差異の大きさは,両意匠の類否を判断する上で大きな差異であり,看者が本願意匠と引用意匠とを誤認混同することは考えられない。
(2) 審決は,使用態様(瓦を葺き上げた後)においても,玉縁部が他の瓦の下に隠れて見えなくなるから,類否判断に与える影響は微弱であると判断している。
しかし,両意匠の対比判断に当たっては,看者が実際に物品を購入する場合を前提にすべきである。看者は,カタログや店頭で他の瓦と対比判断するのであり,この場合には,使用態様において見えなくなる部分も含めて,瓦全体を認識することのできる状態で判断している。したがって,使用態様において見えなくなるから類否判断に与える影響が微弱であると判断することは,現実の取引を無視して,使用態様において見えなくなる部分を除外して判断するものであり,誤りである。
被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 要部認定の誤りについて(1) 審決は,共通の基本的構成態様と具体的態様の(あ)ないし(う)の点が相俟って類否判断を左右する要部をなすと認定したものであって,具体的態様の(あ)ないし(う)のみを要部として認定したものではない。
(2) 審決は,「背の部分から頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエット」のうち,背の部分の形状については共通点(い)として認定し,頭上端部と尻上端部の高さの差の有無については差異点(ウ)として認定し,頭部の円板状の垂れについては共通する基本的構成態様において認定している。そして,上記の共通する基本的構成態様及び共通点(い)は他の共通点とともに相俟った態様について評価し,差異点(ウ)は他の差異点と総合して評価し,さらに,共通点と差異点の全体について総合的に判断したものであるから,原告の主張する「背の部分から頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエット」についても,結果として認定し,かつ,評価しているものである。
本願意匠と引用意匠の頭上端部と尻上端部の高さの差の有無が類否判断に及ぼす影響をみると,側面図に水平及び垂直の基準線を引いて子細に観察すれば,差異がわかる程度のものであって,「軒巴瓦」又は「かわら」の使用目的,使用態様を考慮すると,両意匠について,正面形態だけが強く着目されるとは考えられない。立体的に観察した場合にも,引用意匠の頭上端部と尻上端部の高さの差はわずかである上,凹弧状とした背の形状がその差を更に希釈化しているから,一見して本願意匠との差異を看取することができず,この点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
2 差異点(ア)に関する判断の誤りについて(1) 審決は,差異点(ア)について,「同部両側面の平面視につき,本願意匠は,直線状であるのに対して,引用意匠は,凹弧状としている」としたものであるから,「背の部分のみを凹弧状とした」との点は,その前提に,胴部の両側面の平面視形状が直線状であることを意味するものであって,側面視形状について判断したものでない。
本願意匠の胴部の左右両側面の平面視を直線状とし,背部の側面視を凹弧状とした態様は,乙第1号証及び第2号証に普通に見受けられるものであり,垂れの径が胴部の頭側の径よりわずかに大きく末広がり状となることは,引用意匠,乙第2ないし4号証にも普通に見受けられる形状である。したがって,本願意匠のみの特徴として格別評価することはできず,類否判断に与える影響は微弱である。
(2) 原告は,本願意匠の胴部の背の部分が凹弧状であることについて,審決が一般的形態を除外して類否を判断したことは妥当でないと主張する。しかし,この点は,差異点(イ)及び(ウ)にも共通することであるが,審決は,まず,公知事実,視覚的効果等を勘案して各構成要素を評価した上で,類否判断に与える影響の大きさを判断したものであって,一般的形態を除外したものでない。
3 差異点(イ)に関する判断の誤りについて(1) 本願意匠の胴部ほぼ中央にある二つの小円孔は,瓦を屋根に固定するための取り付け用の孔であり,乙第2号証等にも普通に見受けられるものである。
また,孔自体も極小さくて目立たないものであり,部分的なものであるから,意匠上格別評価すべきほどの点でもなく,類否判断に与える影響は微弱なものである。
審決が一般的形態を除外して類否を判断したとの主張については,上記2(2)において述べたとおりである。
(2) 本願の願書では,左右側面図に水切り部分の形状が表われておらず,断面図もないから,水切りの一般的態様(乙第5号証)をもとに判断すると,原告のいう水切りは,瓦の表面の極浅い凹状の溝であると認められる。これによると,水切りとしての溝は瓦全体の材質と同じもので,明確に二重の半円形状模様として識別することはできず,さほど目立つものとはいえない。
4 差異点(ウ)に関する判断の誤りについて原告は,垂れ(万十)を真っ直ぐ視認できるようにするために,背の頭端と尻端の頂点を同じ高さとしたと主張するが,本願意匠,引用意匠のいずれでも頭上端部と尻上端部の高さの差の有無にかかわらず,垂れの外側の面が垂直状に形成されているから,頭上端部と尻上端部の高さを同じにすることと垂れを真っ直ぐ視認することができることとは無関係であり,原告の主張は失当である。
また,審決が一般的形態を除外して類否を判断したとの主張については,上記2(2)において述べたとおりである。
さらに,頭上端部と尻上端部の高さの差の有無が類否の判断に及ぼす影響は微弱なものであるから,他の構成要素の共通点を凌駕するほどのものではない。
5 差異点(エ)に関する判断の誤りについて(1) 胴縁部の幅に対する玉縁部の幅の比率が,本願意匠と引用意匠を比較して,倍以上の差があるのならともかく,3割にも満たない程度の差異であれば,常套的に行われる変更の範囲に止まるものであって,意匠全体の印象を覆すほどのものではない。
また,玉縁と垂れ(万十)の部分は,立体的に見れば,垂れの部分と玉縁の部分が離れており,図面に表したように,同一面に一体状に表れるものではないから,そこに空白部があるか否かという見方をすること自体,意匠のとらえ方として妥当でない。
(2) 使用態様において玉縁部が他の瓦の下方に隠れて見えなくなることについて,原告は,審決が類否判断の対象とせず,除外して判断したと主張するが,審決は,本願意匠と引用意匠との幅の差を評価するに当たり,意匠を全体として観察した場合に,玉縁部がどの程度類否判断に影響を与えるかを示したものであるから,原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 要部認定の誤りについて(1) 原告は,審決が要部を具体的態様の(あ)ないし(う)の点に限定しており,この認定が誤りであると主張する。
しかし,審決は,「以上の共通点と差異点を総合して両意匠を全体として観察すると,両意匠において共通しているとした基本的構成態様は,両意匠の形態についての骨格的態様であって形態全体を支配する要素に係るものであるから両意匠の類否判断に影響を与えるものと認められ,また,共通するとした各部の具体的態様の(あ)ないし(う)の点は,両意匠の形態を特徴づける要素に係るものであり,そうして,これら共通しているとした態様が相俟って意匠的まとまりを形成し,意匠の大部分を占め,看者の注意を最も強く惹くところであるから,両意匠の類否判断を左右する要部と認められる。」と判断したものであって,本願意匠の要部を具体的態様の(あ)ないし(う)に限定して判断したものでないことは明らかであるから,原告の主張は失当である。
(2) 原告は,胴部の背の部分から頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエット,即ち胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とが同じ高さであることは,本願意匠の要部の一つであるにもかかわらず,審決はこの点を認定していないと主張する。
審決の認定した共通点及び差異点は,前記第2の2(1),(2)のとおりであるところ,審決は,「背の部分から頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエット」のうち,背の部分の形状については共通点(い)として認定し,頭上端部と尻上端部の高さの差の有無については差異点(ウ)として認定し,頭部の円板状の垂直状の垂れについては共通する基本的構成態様において認定している。そして,審決において,共通する基本的構成態様及び共通点(い)は,他の共通点に係る態様と相俟って評価され,差異点(ウ)は他の差異点に係る態様と総合して評価され,さらに共通点と差異点の全体について総合的に判断されていることは,その説示に照らして明らかであるから,結局,原告の主張する「背の部分から頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエット」についても,審決において認定され,かつ,評価されているものである。したがって,審決に上記の点を認定しなかった誤りはない。
また,「背の部分から頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエット」が本願意匠と引用意匠との類否の判断に与える影響について,原告は,本願意匠においては,胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とが同じ高さであることにより,各頂点を線で結び,線を水平にした上で,軒巴瓦を正面視すると,一般に万十と呼ばれる垂れの部分を真っ直ぐに視認することができることになり,万十に描かれた家紋等の柄を真っ直ぐに視認することができ,本願意匠の中心をなす美感が発揮され,看者の注意を惹くと主張する。
しかし,胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とが同じ高さである点は,甲第3号証のように,両意匠の側面図に水平の基準線を引いて子細に観察すれば,差異がわかる程度のものであって,基準線なしに一見して明らかではないし,引用意匠の頭上端部と尻上端部の高さの差もわずかである上,凹弧状とした背の形状がその差を更に希釈化しているから,両意匠を,全体的に,離隔的に観察した場合,頭上端部と尻上端部の高さが同じであるかどうかという差異は,特に目立つものではなく,意匠的な美感を異ならせるものとはいえない。
しかも,「軒巴瓦」又は「かわら」の使用目的,使用態様を考慮すると,両意匠について,正面形態だけが強く着目されるとは考えられない。また,使用態様において胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とが同じ高さになるには,原告の主張にあるように,胴部の頭端及び尻端の各頂点を線で結び,その線が水平になるように施工されなければならないから,原告の主張する美感は本願意匠のみから生ずるものではなく,屋根当接部の形状や傾斜を含む施工状態にも依存している。甲第6号証によれば,本願意匠と引用意匠の使用態様を比較しても,その差異はごく小さいもので,施工状態如何によっては,引用意匠に係る物品の「かわら」でも同様の美感を発揮し得るものと認められる。さらに,使用態様においては,看者が万十を仰角で視認するのが一般であり,万十の表面に対して斜めの視線となるから,万十に描かれた家紋等の柄を真っ直ぐに視認することができることは,必ずしも意匠の特徴を示す要素となり得るものではなく,看者の注意を惹くほどのものとは考えられない。
したがって,原告の「背の部分から頭部の円板状の垂直状の垂れにかけてのシルエット」が,本願意匠と引用意匠とで大きく相違しており,類否判断に与える影響が大きいとの主張は,採用することができない。
2 差異点(ア)に関する判断の誤りについて(1) 原告は,審決が,差異点(ア)として,胴部両側面の平面視の形状の差異について認定していながら,その評価においては,側面視した背の部分について判断していると主張する。
しかし,審決は,差異点(ア)について,「胴部両側面の平面視につき,本願意匠は,直線状であるのに対して,引用意匠は,凹弧状としている」としているものであるから,その判断において,「本願意匠のように背の部分のみを凹弧状とした態様のもの」とあるのは,胴部の両側面の平面視形状が直線状であることを前提とした上で,「背の部分のみを凹弧状」と表現したものであって,側面視形状について判断したものでないことが明らかである。
原告の上記主張は,審決を正解しないものであって,失当である。
また,原告は,本願意匠の胴部両側面を平面視すると,尻側から頭側にかけて直線状で,頭側端部付近において末広がりとなっている部分は,特殊な形態で,美的特徴を有し,意匠上格別に評価に値するもので,類否判断に与える影響は非常に大きいと主張する。
しかし,乙第1及び第2号証によれば,本願意匠のように,胴部の左右両側面の平面視を直線状とし,背部の側面視を凹弧状とした態様は,普通に見受けられるものであり,垂れの径が胴部の頭側の径よりわずかに大きく末広がり状となることは,引用刊行物(甲第5号証),乙第2ないし4号証にも普通に見受けられる形状であることが認められる。したがって,この点は本願意匠のみの特徴として格別評価することはできず,類否判断に与える影響は微弱である。
(2) 原告は,審決が背の部分のみを凹弧状とした態様のものが普通に見受けられ,この点を格別評価することはできず,類否判断に与える影響は微弱であると判断した点について,一般的形態を除外して類否を判断したものであり,妥当でないと主張する。
意匠の類否判断においては,意匠を全体として観察して看者に異なる美感を与えるか否かによって判断すべきであり,構成中の一部が一般に見受けられる形状のものであっても,他の構成部分との組合せや関連において全体として異なる美感を形成することもあり得るから,一般的な形状であるからといって,そのことから当然に,その形状を除外ないし捨象して類否の判断をすべきであるということになるものでないことは,原告主張のとおりであるが,このことは,意匠の各構成態様に着目して類否の判断に与える影響の大小を考察することを排斥するものでないことはいうまでもない。審決は,背の部分を凹弧状とした態様が類否判断に与える影響は微弱であると判断したものであって,背の部分を凹弧状とした態様を除外ないし捨象して,それ以外の部分のみに着目して類否の判断をしたものでないことは明らかであり,原告の主張は失当である。
なお,原告は,本願意匠の胴部の背の部分が凹弧状であり,胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とが同じ高さであることは,他の部分と相俟って一つのまとまりある意匠を構成しており,これを除外して類否を判断すべきでないと主張するが,胴部の背の部分が側面視凹弧状である点は,本願意匠と引用意匠に共通する形状であり(共通点(い)),胴部の頭端の頂点と尻端の頂点とが同じ高さであるかどうかは,両意匠の対比において特に目立つ差異でないことは,前述のとおりであるから,仮にそれらを一つのまとまりある意匠としてとらえたとしても,本願意匠と引用意匠との類否の判断に特段の影響を与えるものではない。
3 差異点(イ)に関する判断の誤りについて(1) 原告は,本願意匠の胴部の背の部分のほぼ中央にある二つの小円孔は,半円形の水切りその他の部分と相俟って全体として一つのまとまりのある意匠を構成しており,二つの小円孔を施したものが普通に見受けられるとしても,一般的形態を除外して類否を判断するのは妥当でないと主張する。
乙第1及び第2号証には,胴部の背の部分に二つの小円孔を穿ったものが多数掲載されており,これらによれば,小円孔の機能は,瓦を屋根に固定するための取り付け用の銅線等を通すための孔であると推認され,これに反する証拠はない。そうすると,本願意匠のように,胴部の背の部分に取り付け用の小円孔を形成したものは,ごく普通に見受けられるものであり,その孔自体もごく小さくて目立たない部分的なものに止まる上,実際の使用態様においては,小円孔が二つ並びの孔として認識されることは考えられないことからすると,この点は,意匠上格別評価すべきほどのものではなく,両意匠の全体的な共通点から受ける意匠的な美感を異ならせるものということはできない。
審決は,小円孔の存在が本願意匠と引用意匠の類否判断に与える影響が微弱であると判断したものであり,小円孔が一般的形態であることを理由に,これを除外して類否を判断したものでないことは,明らかである。したがって,原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は,本願意匠の水切り部分は,胴部の背の部分のほぼ中央にあり,看者の目を惹く上,形状も一般的な直線状ではなく,半円形状であって,新規かつ斬新なデザインであって,本願意匠の軒巴瓦に大きなアクセントを与えており,胴部の背の部分に模様が全くない引用意匠との差異は顕著であると主張する。
本願の願書(甲第2号証)では,左右側面図に水切り部分の形状が表われておらず,乙第5号証によれば,水切りの一般的態様として,屋根材や瓦の表面に極浅い凹状の溝を形成することがあることが認められることからすれば,原告のいう水切りも,同様のものであると認められる。そうすると,水切りとしての溝は瓦全体の材質と同じもので,明確に二重の半円形状模様として識別することは困難であって,さほど目立つものとはいえず,意匠の全体としての美感に与える影響はわずかなものである。したがって,胴部の背の部分に模様が全くない引用意匠と比較しても,差異が顕著であるとまではいえないのであって,「両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものといわざるを得ない」とした審決の判断に誤りはない。
4 差異点(ウ)に関する判断の誤りについて原告は,本願意匠において,頭上端部と尻上端部が正面視において重なるように表れている点は,万十及びそこに描かれた家紋等を真っ直ぐに視認することを可能にし,荘厳な雰囲気という美感を発揮させるものであると主張する。
しかし,本願意匠において,頭上端部と尻上端部が正面視において重なるように表れているのに対して,引用意匠では,尻上端部の方がわずか上方にずれて半月(又は三日月)状に表れているのは,正投影図法を用いて立体を平面上に作図したことによって起きたことにすぎず,正面視において重なるように表れていることと万十及びそこに描かれた家紋等を真っ直ぐに視認し得ることとの間に関係はない。しかも,看者の視点の位置が正投影図法における視点の位置と一致しない限り,同じ視覚は得られない。
また,原告のいう看者が垂れ(万十)を真っ直ぐ視認することは,看者が垂れ(万十)の面に正対して見ることであると解されるところ,このような効果は,頭上端部と尻上端部の高さの差の有無によってもたらされるものではなく,尻上端部の方がわずか上方にずれている引用意匠においても,垂れ(万十)の面を看者に正対して向けたときには得られる効果である。
したがって,本願意匠において,頭上端部と尻上端部が正面視において重なるように表れている点は,意匠上格別に評価されるほどの美感をもたらすものではなく,本願意匠と引用意匠の類否を判断する上において,ほとんど影響を与えない事柄であるというべきであって,「類否判断に与える影響は微弱にすぎない」とした審決の判断に誤りはない。
原告は,審決が,相違点(ウ)に係る両意匠の態様(頭上端部と尻上端部とが正面視において重なるように表れている形態と尻上端部の方がわずか上方にずれて表れている形態)が,いずれも普通に見受けられる態様であると判断した点について,一般的形態を除外して類否を判断することは妥当でないなどと非難する。
しかし,審決は,上記両意匠の態様が,「格別意匠上評価できるものではなく,部分的な差異に止まるものであるから,類否の判断に与える影響は微弱にすぎない」と判断したものであって,この点を一般的形態として除外して判断したものでないことは明らかであるから,原告の主張は失当である。
5 差異点(エ)に関する判断の誤りについて(1) 原告は,本願意匠においては尻部の幅に対して玉縁部の幅が3分の2程度であるが,引用意匠においては尻部の幅に対して玉縁部の幅が5分の4程度であるから,本願意匠では,意匠に係る物品である「軒巴瓦」全体がスマートなイメージとなり,スマートな美感を醸し出すのに対し,引用意匠では,意匠に係る物品である「かわら」全体が重厚なイメージとなり,重厚な美感を醸し出し,大きな差異があると主張する。
しかし,本願意匠と引用意匠を視覚的に対照したとき,胴縁部の幅に対する玉縁部の幅の比率において,引用意匠の方が本願意匠よりもわずかに高いということが感得されるだけで,3分の2程度(本願意匠)と5分の4程度(引用意匠)という数値的な違いまで感得することは困難であるし,その差異も意匠全体からみれば微細なものにすぎず,まして,その差異から,看者にスマートな美感と重厚な美感という違いを感得させるものとまで認めることはできない。看者の視覚において原告の主張するほどの差異が感得されない以上,原告主張の点は,両意匠の意匠的な美感を異ならせるものということはできない。
原告は,本願意匠の背面図(引用意匠の右側面図)において,両意匠ともに万十の円の中に玉縁が存在するが,本願意匠は,玉縁の外縁が万十の円の中にぴったりと当接しておらず,玉縁の外縁と万十の円との間に空白部が存在するのに対し,引用意匠は,玉縁の外縁が万十の円にぴったりと当接しており,玉縁の外縁と万十の円との間に空白部は存在しないと主張する。
しかし,玉縁と垂れ(万十)の部分は,立体的に見れば,垂れの部分と玉縁の部分が離れており,立体的に見ても「玉縁の外縁が万十の円にぴったりと当接」することはあり得ない。本願意匠及び引用意匠における「物品の形状」は立体的形状であるから,図面上の表われ方のみをもとにして,「玉縁の外縁が万十の円にぴったりと当接」するか否かを論ずる原告の立論自体が失当である。
さらに,原告は,本願意匠の右側面図の玉縁部と引用意匠の正面図の玉縁部とを対比すると,玉縁部の形状,玉縁部の瓦本体に占める割合等について重要な差異があるとも主張するが,意匠全体からみると,いずれも微細な差異に止まり,両意匠の全体としての美感に与える影響は微弱なものにすぎない。
(2) 原告は,審決が使用態様(瓦を葺き上げた後)において玉縁部が他の瓦の下に隠れて見えなくなることを考慮した点について,両意匠の対比判断に当たっては,看者が実際に物品を購入する場合を前提にすべきであり,審決の判断は,現実の取引を無視して,使用態様において見えなくなる部分を除外したもので,誤りである旨主張する。
意匠の類否は,意匠に係る物品の需要者にとっての美感の類否によって判断すべきであるところ,これを判断する場合には,需要者の注意を強く惹く部分を意匠の要部として把握し,両意匠が意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを基準として,両意匠を全体的に観察してその類否を判断することが必要である。そして,意匠の要部を把握するに当たっては,意匠に係る物品の性質,用途のほか,需要者がカタログや店頭で同種物品と対比判断する取引の場面のみならず,その物品の通常の使用態様なども参酌すべきである。審決は,尻部の幅と玉縁部の幅の差異について,両意匠の差はさほど大きいものではないとした上で,使用態様をも勘案すると,類否判断に与える影響は微弱にすぎないと判断しているものであって,現実の取引を無視するものでも,また,使用態様において見えなくなる部分を除外しているものでもなく,審決の上記判断に誤りはない。原告の主張は失当である。
6 以上のとおり,審決の要部の認定及び差異点についての判断に誤りはなく,本願意匠と引用意匠を全体的に観察した場合,差異点(ア)ないし(エ)を総合しても,審決が基本的構成態様及び共通点(あ)ないし(う)として認定した両意匠の全体的な共通点を凌駕するほどのものとはいえない。
7結論以上に検討したところによれば,本願意匠と引用意匠とは,意匠に係る物品が共通し,形態において前記差異点があるにもかかわらず,類否判断を左右する要部において共通しているから,全体として類似するとの審決の判断に誤りはない。原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二
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