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関連審決 不服2003-14882
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  物品の機能 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10827号 審決取消請求事件
原告 帝國製薬株式会社
原告 ワイス株式会社
両名訴訟代理人弁理士 福田賢三
同福田伸一
同加藤恭介
同本田昭雄
同草間攻
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 日比野香
同岩井芳紀
同小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-14882号事件について平成17年10月13日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,原告らが後記本願意匠につき共同で意匠登録出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたため,これを不服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯原告らは,平成14年10月31日,共同で後記本願意匠につき意匠登録出願(以下「本願」という。)をしたが,特許庁から平成15年5月15日に拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2003-14882号事件として審理した上,平成17年10月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成17年11月1日原告らに送達された。
(2) 本願意匠本願意匠は,意匠に係る物品を「貼り薬」とし,その意匠を別添審決写し別紙第1記載のとおりとするものである。
(3) 審決の内容ア 審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。その要点は,本願意匠は,特開2000-219622号公報(甲1。公開日平成12年8月8日。以下「甲1公報」という。)の【図1】に示す意匠(以下「引用意匠」という。審決写し別紙第2)に類似するものであり,意匠法3条1項3号に該当し,同項柱書きの規定により意匠登録を受けることができないとしたものである。
イ なお,審決は,本願意匠と引用意匠(ただし,「左右を反転させた状態」(審決1頁最終段落)のもの)との対比に当たって,両意匠は意匠に係る物品が共通であるとしたほか,その共通点及び差異点を以下のとおりと認定した。
【共通点】(1)全体形状を,基布の一面に膏薬を塗布(粘着層)し,その全面に左右2枚から成る剥離紙を被着した略長方形状のシート状に表した点,(2)左右2枚の剥離シートのうち,正面視右側剥離シートの中央側端部の上に左側剥離シートの中央側端部を細幅に積層させた点。
【差異点】(ア)全体形状を,本願意匠は,四隅を隅丸形状としたのに対して,引用意匠は,四隅を隅丸形状としていない点,(イ)剥離シート中央の積層細幅部分を,本願意匠は,右側剥離シート左端部の上に左側剥離シート右端部細幅部分を積層させたのに対して,引用意匠は,右側剥離シート左端部の極細幅部分を右側に折り返し,左側剥離シート右端部細幅部分(右側折り返し部分の幅よりやや幅広)をその上に積層させた点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点の認定判断を誤り,その結果,類否判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである(取消事由)。
ア 共通点についての評価の誤り審決は,本願意匠と引用意匠との上記共通点は,「(1)については,形態全体に係り,その基本的な構成態様を表すところであって,(2)と相俟って,両意匠の共通感を際立たせており,その類否判断に及ぼす影響は大きい」(審決2頁第5段落)と判断した。
しかし,そもそもこの種の物品のほとんどは,全体形状が略長方形状のシート状である。
また,この種の物品において,基布の一面に膏薬を塗布すること,更にこの部分を剥離紙で被着することは,その機能を発揮するために必要不可欠なものであり,上記共通点はこの種の物品において必然の形態である。
この種の物品に係る意匠の創作は,前記必然の形態を踏まえつつ,更に各所に装飾的,機能的な独自の形態を施すことによって成立するものである。また,その需要者は,前記必然の形態を前提としつつ,視覚上,個々の製品において独自に創作された形態を速やかに認識し,数多くある同種製品と峻別するものである。
したがって,本願意匠と引用意匠の共通点は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。
イ 差異点についての評価の誤り(ア) 本願意匠は,右側剥離シート左端部の上に左側剥離シート右端部細幅部分を直接積層させたものである。つまり,本願意匠は,右側剥離シートの左端部は膏薬部に接着し,左側剥離シートの右端部は,右側剥離シートの表面に接着している。そして,使用に際し,本願意匠は,まず左右の剥離シートの積層部において,上層に位置する左側剥離シート右端部細幅部分を右側剥離シート左端部からはがして膏薬部をわずかに露出させ,この露出した膏薬部を身体の患部に位置決めし,その後残りの2枚の剥離シートをはがしながら,あるいは片方ずつをはがしながら,徐々に膏薬部全体を身体に貼り付けるようにするものである。
これに対して,引用意匠は,左右を反転させた状態で観察すると,右側剥離シート(3a)左端部の極細幅部分を右側に折り返し,左側剥離シート(3b)右端部細幅部分(右側剥離シートにおける左側折り返し部分の幅よりやや幅広)を,その上に積層させたものである。つまり,引用意匠は,右側剥離シート左端部の折り返し部分の表面側と,左側剥離シート右端部細幅部分とが接着しており,膏薬部表面と左右剥離シート端部は接着していない。そして,使用に際し,引用意匠は,まず接着状態にある左右の剥離シートの端部を指先でつまみ,両者をはがしつつ左右均等に膏薬部を露出させて患部に位置決めし,その後徐々に膏薬部全体を身体に貼り付けるようにするものである。
また,本願意匠では,右側剥離シートの左端部を含めた全面が膏薬部に接着し,左側剥離シートの右端部が右側剥離シートの左端部の表面に重合してそれ以外の部分が膏薬部に接着しているが,引用意匠では,右側剥離シートの左端部及び左側剥離シートの右端部が重合するように接着していて,膏薬部に接着していない。
このように,本願意匠と引用意匠における当該差異点は,この種の物品に係る意匠の機能(用法)等に多大なる影響を与えるものである。また,この種の物品に係る意匠の需要者は,両意匠の形態を一見して上記差異点を認識するものである。
被告は,引用意匠に関し,甲1公報の「請求項2のパップ剤の構造では,上側に位置する剥離紙の端部が折り返し部を越えて他方の剥離紙を被覆している関係で,その端部が掴み易くなる」(段落【0005】)との記載を引用するが,「請求項2」は図2に示す第2実施例に対応するものであり,引用意匠ではないから,上記記載を引用するのは誤りである。
(イ) 加えて,この種の物品は,そもそも極めて薄手である。そのような基本的形態において,剥離シートが2層の積層部であるか,3層の積層部であるかは,視覚上,明確に認識することが可能である。引用意匠は,一方の剥離シートの端部を折り返しているものであるが,そのような形態を採用した場合,当該折り返し部分の厚さは剥離シート2枚分の厚さ以上になる。結局のところ,引用意匠にあっては,その積層部において剥離シート3枚分以上の厚さを有する。これに対して,本願意匠は左右の剥離シートの端部が積層されているだけであるから,剥離シート2枚分の厚さを有するにとどまり,両者の相違は,本件のような薄手の物品において,視覚上,顕著である。
さらに,意匠法上,「意匠」とは物品の形状,模様等であって,視覚を通じて美感を起こさせるものであるが,この種の物品は,単に外観を眺めているだけでは何の機能も発揮しない。物品に触れ,実際に剥離シートをはがして膏薬部を患部に貼り付けることで所望の機能を発揮するものである。その使用に際して,需要者は否応なしに上記積層部に触れ,その厚さを実感し,ここで2層の積層部と3層の積層部との相違を明確に感じ取るものである。この種の物品の需要者(使用者)は,上記差異点に原因する触感の相違を,視覚を通じて認識し,本願意匠と引用意匠とを区別するものである。
被告が提出した特開平6-199659号公報(乙1。以下「乙1公報」という。)及び特開平6-22999号公報(乙6。以下「乙6公報」という。)記載の剥離紙(剥離ライナー)の厚みは,各々50μm,25μmである。上記厚みである場合,それが2枚重なったものと,3枚重なったものとは明らかに質感が相違し,このことは視覚上も明らかであり,特に,当該剥離紙(剥離ライナー)として透明なフィルム材を用いた場合に顕著である。当該物品が,そもそも薄手であることからすれば,上記差異は極めて明りょうに看取されるものである。
ウ 以上のとおり,差異点(イ)における本願意匠と引用意匠との差異は明白であり,両者は上記差異点により看者に明確に区別される非類似意匠である。したがって,審決は,本願意匠と引用意匠との共通点,差異点の評価を誤り,類否判断を誤ったものである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告ら主張の取消事由は理由がない。
(1) 共通点についての評価の誤りに対し原告らは,この種の物品のほとんどは,全体形状が略長方形状のシート状であると主張するが,本願出願前からの状況をみると,全体形状のほとんどが略長方形状というわけではなく,全体形状が円形状のもの,楕円形状のもの,更には変形形状のもの等,種々の全体形状のものが既に広く知られている。したがって,原告らの上記主張は失当である。
また,原告らは,基布の一面に膏薬を塗布し,その部分に剥離紙を被着することは,この種物品の機能を発揮するために必要不可欠なものであると主張するが,本願出願前から必ずしも基布一面に塗布しているものばかりでなく,基布外形状の一回り内側に塗布したり,基布面に間隔をおいて筋状,網目状,斑点状に塗布するなど,種々の塗布態様が広く知られている。さらに,その膏薬塗布部分に剥離紙を被着することについても,本願出願前に基布面,膏薬等塗布面及び剥離紙面それぞれの大きさが異なる態様のものも広く知られていることから,基布の一面に膏薬を塗布し,その部分に剥離紙を被着することは,この種物品の機能を発揮するために不可欠なものであるとの主張も失当である。
さらに,原告らは,前記共通点はこの種の物品において必然の形態であると主張するが,全体形状及び膏薬等の塗布態様については,上記のとおり種々の態様が知られているところであり,本願出願前より膏薬塗布面全面,あるいは貼付剤全面等を1枚の剥離紙で被着するものも広く知られていることから,膏薬塗布面全面に左右2枚から成る剥離紙を被着することが必然の形態とはいえない。
そうすると,基布全体形状,膏薬塗布面形状,剥離紙枚数及びその被着形状にそれぞれ多種多様の態様が知られていることから,それらの組合せも多種多様のものが考えられ,前記共通点は必然の形態であるとはいい得ず,原告らの主張は失当である。
(2) 差異点についての評価の誤りに対しア 剥離シート積層部について,この種物品の分野においては一般的に創作の要点の一つに,需要者が粘着性のある基布材等から剥離シートをいかにはがし易くするかという観点が挙げられ,そのため,本願出願前より種々の創作がなされている。つまり,剥離シート2枚の場合には,本願意匠のように貼り薬等の中央部に2枚の剥離シート端部を単に積層したり,引用意匠のように片側端部を折り返し,その上に他方端部を積層させたり等することが既に広く知られており,このような状況の下で両意匠の剥離シート積層部を見ると,引用意匠の両端積層部のその接着部分については,甲1公報には「請求項2のパップ剤の構造では,上側に位置する剥離紙の端部が折り返し部を超えて他方の剥離紙を被覆している関係で,その端部が掴み易くなる」(段落【0005】)と記載され,その部分が接着されているとの記載がないことから,接着しているのではなく積層されているものと認められる。そうすると,両意匠の差異は,下層の端部を折り返したか否かであって,既に上述したように本願意匠の中央部積層態様は,本願出願前には広く知られていたことからすれば,格別特徴を有するものとはいえず,原告らが主張する程の差異とすることはできない。
また,使用に際しては,本願意匠の身体への貼り付け方が原告ら主張のとおりであるとしても,原告ら主張の引用意匠の貼り付け方は,前提とする両端部積層部の態様が誤りであるから,その貼り付け方も誤っていることとなる。そうすると,両意匠における当該差異点は,この種の物品に係る意匠の機能(用法)等に多大なる影響を与えるものであるとは到底いえず,原告らの主張は失当である。
イ この種の物品は,原告らがいうように極めて薄いシート状のものであるから,剥離シートは,更に薄いものである(例えば,乙1公報記載の剥離紙(剥離ライナー)の厚みは50μm,乙6公報記載の剥離紙の厚みは25μmとした記載がある。)。そうすると,そのような極めて薄い剥離シートを中央部の積層部において,2層にした場合と3層にした場合との積層部の厚さの差は,極めて小さいものとなり,その差異を見いだしにくいものである。
したがって,「請求人が主張するほど2層と3層の厚さの差が盛り上がり部分ほどの差異になるものとは思われず,上記したように正面視外観形状からは共通点(2)が視認されることからすれば,上述したようにその差異は微弱な細部の差異にすぎず,請求人の主張は採用することができない」(審決2頁下3行目〜3頁1行目)とした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願意匠)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由(本願意匠と引用意匠との類否判断の誤り)について(1) 共通点についての評価の誤りにつきア 原告らは,本願意匠に係る物品「貼り薬」のほとんどは,全体形状が略長方形状のシート状であり,また,この種の物品において,基布の一面に膏薬を塗布すること,更にこの部分を剥離紙で被着することは,その機能を発揮するために必要不可欠なもので,この種の物品において必然の形態であるから,本願意匠と引用意匠の前記共通点は,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではなく,本願意匠と引用意匠との前記共通点について,「(1)については,形態全体に係り,その基本的な構成態様を表すところであって,(2)と相俟って,両意匠の共通感を際立たせており,その類否判断に及ぼす影響は大きい」(審決2頁第5段落)とした審決の判断は誤りであると主張する。
イ しかし,証拠(乙1〜7)によれば,本願出願前,物品「貼り薬」において,@基布全体の形状は,本願意匠と引用意匠との共通点(1)に係る「略長方形状」のほかに,全体形状が円形状のもの(乙1公報の図2)や,楕円形状のもの(乙2公報の図1,図2),変形形状のもの(乙3公報の図1,図2。乙4公報の図1)等,種々の全体形状のものが公知であったこと,A膏薬塗布面の形状は,同共通点(1)に係る「基布の一面に膏薬を塗布」した塗布態様のほかに,基布外形状の一回り内側に塗布したもの(乙5公報の図1,図2),基布面に間隔をおいて筋状に塗布したもの(乙4公報の図1),網目状,斑点状に塗布したもの(乙6公報の図1,段落【0021】),膏薬等塗布面及び剥離紙面それぞれの大きさが異なる態様のもの(例えば,矩形状の剥離紙の中央内側に,略楕円形状の基布に基布形状より一回り小さい略楕円形状面に膏薬等を塗布した貼付剤を配したもの(乙7公報の図1,図2),略楕円形状以外の形状のものの組合せの態様(乙7公報2頁右欄下第2段落〜3頁左欄第2段落〔実施例〕の記載))等,種々の塗布態様が公知であったこと,B剥離紙枚数とその被着形状は,同共通点(1)に係る「全面に左右2枚から成る剥離紙を被着した」形態のほか,全面を1枚の剥離紙で被着したもの(乙1公報の図1,図5,乙6公報の図1,乙7公報の第1図,第2図,乙8公報の図1,図2,乙9公報の図3)も公知であったこと,が認められる。
そうすると,基布全体の形状,膏薬塗布面の形状及び剥離紙枚数とその被着形状には,多様の組合せがあるのであるから,本願意匠と引用意匠の前記共通点がこの種の物品において必然の形態であるとはいえない。
もっとも,本願意匠と引用意匠(「左右を反転させた状態」のもの。以下同じ。)との共通点(1)「全体形状を,基布の一面に膏薬を塗布(粘着層)し,その全面に左右2枚から成る剥離紙を被着した略長方形状のシート状に表した点」及び共通点(2)「左右2枚の剥離シートのうち,正面視右側剥離シートの中央側端部の上に左側剥離シートの中央側端部を細幅に積層させた点」に係る構成態様は,いずれも物品「貼り薬」においてありふれた態様というべきであるが,本願意匠と引用意匠を全体的に観察した場合,上記共通点に係る構成は,意匠全体の支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成するものと認められる。そして,本願意匠の各部の態様は,差異点の構成態様につき後述するように格別のものと評価することはできないから,本願意匠と引用意匠との前記共通点について,「(1)については,形態全体に係り,その基本的な構成態様を表すところであって,(2)と相俟って,両意匠の共通感を際立たせており,その類否判断に及ぼす影響は大きい」(審決2頁第5段落)とした審決の判断に誤りはない。
(2) 差異点についての評価の誤りにつきア 原告らは,本願意匠は,右側剥離シートの左端部は膏薬部に接着し,左側剥離シートの右端部は,右側剥離シートの表面に接着しているものであり,使用に際し,本願意匠は,まず左右の剥離シートの積層部において,上層に位置する左側剥離シート右端部細幅部分を右側剥離シート左端部からはがして膏薬部をわずかに露出させ,この露出した膏薬部を身体の患部に位置決めし,その後残りの2枚の剥離シートをはがしながら,あるいは片方ずつをはがしながら,徐々に膏薬部全体を身体に貼り付けるようにするものであるのに対して,引用意匠は,右側剥離シート左端部の折り返し部分の表面側と,左側剥離シート右端部細幅部分とが接着しており,膏薬部表面と左右剥離シート端部は接着していないものであり,使用に際し,引用意匠は,まず接着状態にある左右の剥離シートの端部を指先でつまみ,両者をはがしつつ左右均等に膏薬部を露出させて患部に位置決めし,その後徐々に膏薬部全体を身体に貼り付けるようにするものであるなどとした上,当該差異点は,この種の物品に係る意匠の機能(用法)等に多大なる影響を与えるものであり,需要者は,両意匠の形態を一見して上記差異点を認識するものであると主張する。
しかし,本願は,視覚を通じて美感を起こさせる物品の形状等が問題となる意匠権に関する出願であって,物品の機能や用法は直接の審査対象でないものであるところ,証拠(乙5公報の図1,図2,乙2公報の図1,図2)によれば,「全面に左右2枚から成る剥離紙を被着した」貼り薬の場合,本願意匠のように貼り薬等の中央部に2枚の剥離シート端部を単に積層したり,引用意匠のように片側端部を折り返し,その上に他方端部を積層させたり等することは本願出願前から公知であることが認められる。
そして,両意匠の剥離シート積層部の差異は,下層の端部を折り返したか否かにすぎず,この点は,上述したように本願意匠の中央部積層態様が本願出願前に公知であったことからすれば,格別の特徴を有するものということはできない。原告らは,引用意匠の貼り薬の貼り方の違いについて上記のように主張するが,審決が引用意匠としたのは,甲1公報の【図1】に示す「意匠」であり,その貼り方を問題としたものではない。本願意匠の貼り薬と引用意匠の貼り薬の貼り方に若干の違いがあるとしても,本願意匠の中央部積層態様が格別の特徴を有するものということはできないとの判断を左右するとは認められない。
原告らは,本願意匠では,右側剥離シートの左端部を含めた全面が膏薬部に接着し,左側剥離シートの右端部が右側剥離シートの左端部の表面に重合してそれ以外の部分が膏薬部に接着しているが,引用意匠では,右側剥離シートの左端部及び左側剥離シートの右端部が重合するように接着していて,膏薬部に接着していないとも主張するが,同主張は,上記差異点を単に言い換えたにすぎないものであり,これが格別の特徴を有するものでないことは,上述したとおりである。
イ 原告らは,この種の物品は,そもそも極めて薄手であり,剥離シートの積層部が2層であるか3層であるかは,視覚上明確に認識することが可能である,使用に際して需要者は積層部に触れ,その触感の相違を視覚を通じて認識する,乙1公報及び乙6公報記載の剥離紙(剥離ライナー)の厚みは各々50μm,25μmであり,上記差異は極めて明りょうに看取される,などと主張する。
確かに,この種の物品は薄いシート状のものであるが,剥離シートは更に薄いものであり,剥離シートの厚みが乙1公報及び乙6公報記載のとおり25μmないし50μmの場合,積層部が2層であるか3層であるかによる厚みの差は25μm(0.025ミリメートル)ないし50μm(0.05ミリメートル)にすぎない。そうすると,需要者は,使用に際して積層部に触れその触覚の相違を認識できるとしても,その厚みの差を視覚上明らかに認識できるものとまでは認めることはできず,その差異は微弱な細部の差異にすぎないものというべきである。
(3) 以上検討したところによれば,「両意匠の差異点が相俟った効果を考慮しても,両意匠の共通点を凌駕して類否判断を決定付けるには至らず,両意匠は全体として類似するものと言わざるをえない」(審決3頁第2段落)とした審決の判断に誤りはない。
3結論以上のとおり,原告ら主張の取消事由は理由がない。
よって,原告らの請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉