関連審決 |
不服2005-6285 |
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関連ワード | 意匠の創作 / 物品 / 形状 / 模様 / 意匠に係る物品 / 3条1項3号 / 意匠の属する分野 / 意匠の類否 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10058号
審決取消請求事件
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原告 X 訴訟代理人弁理士 室田力雄 被告 特許庁長官中嶋 誠 指定代理人 樋田敏惠 同 岩井芳紀 同小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/06/28 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2005-6285号事件について平成17年12月20日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,原告が,後記意匠登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,それを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。 なお,以下においては,審決にいう「相違点」を「差異点」と言い換えた。 |
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当事者の主張
1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成15年11月11日,意匠に係る物品を「包装用袋」とし,その形態を別添審決写しの別紙第1のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という )につき意匠登録出願(意願2003-37060号)をしたが, 。 平成17年3月2日,特許庁から拒絶査定を受けたので,平成17年4月8日,これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は,同請求を不服2005-6285号事件として審理した上,平成17年12月20日 「本件審判の請求は,成り立たない 」との審決を ,。 し,その審決謄本は平成18年1月16日原告に送達された。 (2) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は,本願意匠は,その出願前に頒布された公開特許公報(特開2003-104394号。甲1,乙1 )の図1に記載された意 。 匠(その形態は別添審決写しの別紙第2のとおり。以下「引用意匠」という )と,意匠に係る物品が一致し,形態においても類似するから,意匠 。 法3条1項3号に該当する,としたものである。 イ なお,審決は,本願意匠と引用意匠とを対比し,その共通点と差異点を下記のとおり認定した。 記〈共通点〉意匠に係る物品が共に包装用袋であるほか,両意匠は,上方にチャック付の開口部を設け,四方をシールし,上端シール部とチャック部と(の)間に,それらと略平行状に引き裂き線を形成した,全体が略長方形の包装用袋であって,引き裂き線は,略中央部に上方への小さな突起部を形成し,起点部に切り欠き状の切れ込みを設けた構成態様とした点において,共通する。 〈差異点〉(ア) 全体の略長方形について,本願意匠は縦長としたのに対し,引用意匠は横長としている点。 (イ) 引き裂き線として,本願意匠はミシン目を配したのに対して,引用意匠は切り溝を配している点。 (ウ) 引き裂き線の略中央の突起部形状について,本願意匠は直線構成による頂部の尖った三角形状としたのに対して,引用意匠は曲線構成によるなだらかな山形形状としている点。 (エ) その突起部の形成位置について,本願意匠は表裏とも中央の同じ位置に形成したのに対し,引用意匠は略中央とするものの,表裏で形成位置を相互にずらして形成している点。 (3) 審決の取消事由両意匠の意匠に係る物品が共に包装用袋であること,及び前記差異点(ア)ないし(エ)が存在することは認める。 しかしながら,審決は,本願意匠と引用意匠との共通点の認定・評価を誤り,差異点を看過した(取消事由1)上,両意匠の類否判断を誤った(取消事由2)結果,本願意匠は引用意匠に類似するとしたものであるから,違法として取消しを免れない。 ア 取消事由1(共通点・差異点の認定の誤り,差異点の看過)(ア) 共通点の認定の誤り審決は,引き裂き線の構成態様について,本願意匠と引用意匠との共通点として 「引き裂き線は,略中央部に上方への小さな突起部を形成 ,し」ている点を認定した。しかし,引用意匠における突起部の横幅全体に占める割合は,1/5程度と大きく,中心からずれていることは容易に視認でき,明らかに中央部からずれた位置にある以上 「略中央部」,とは認定できない。また,引用意匠において,引き裂き線全体に占める突起部の大きさ,割合(1/5程度)は,決して「小さな」とは認定できず,引用意匠の突起部は,本願意匠の突起部と比較して寸法差,寸法バランスの差があることが明らかである。 (イ) 差異点認定の誤り,差異点の看過@ 引用意匠の有する基本的構成態様は,以下のA〜Cのとおりであり,具体的構成態様は,以下のD,Eのとおりである。 A 外形が横長の長方形状をなす袋である。 B 四方が一定の幅でシールされ,袋の上下方向中央部よりもやや上の位置に密封用チャック5が袋を横断するように配置されている。 C 切断誘導切り溝3,4が袋を横断するように配置されて構成されている。 D 切断誘導切り溝3,4に,その切り溝の左右幅の1/5程度を占める比較的幅寸法及び高さ寸法が大きく,且つだらだらした丸みのある山形の膨出部3a,4aが構成されている。 E 切断誘導切り溝3,4の膨出部3a,4aは,それぞれ包装用袋の左右の略中央にあるのではなく,視覚上の左右バランスからして明らかに,略中央から偏心してズレたアンバランスな位置に構成されている。 A 他方,本願意匠の有する基本的構成態様は,以下のa〜cのとおりであり,具体的構成態様は,以下のd,eのとおりである。 a 袋の外形が縦長の長方形状である。 b 四方が一定の幅でシールされ,袋の上下方向中央部よりもかなり上部の位置に密封用チャックが袋を横断するように配置されている。 c ミシン目30,40が袋の最上部のシールより少し下の位置にあって袋を横断するように配置されている。 d ミシン目30,40に,その切り溝の左右幅の1/11程度を占める比較的幅寸法及び高さ寸法が小さく,且つシャープなピラミッド形状からなる三角突起部30a,40aが構成されている。 e ミシン目30,40の三角突起部30a,40aはミシン目の左右の中央位置(袋の左右中央位置)に配置され,左右対称のミシン目模様を成している。 B 審決は,両意匠の差異点として,前記(2)イの(ア)ないし(エ)のとおり認定するところ,差異点(エ)の「引用意匠は略中央とするものの 」の部分は,引用意匠の突起部は略中央から左右に明白にずれた ,位置に偏心して形成されているから,誤りである。また,密封用チャックの位置,ミシン目(切断誘導切り溝)の位置も,包装用袋の縦方向寸法とそれらの配置位置との配置バランスが,引用意匠と本願意匠とでは明らかに異なる。 そもそも,本願意匠と引用意匠の差異点は,以下(A)ないし(C)の差異点T〜Vのように認定すべきである。 (@) 引用意匠の基本的構成態様である前記A,B,Cも,引用意匠の基本的構成態様である前記a,b,cも,いずれも包装用袋としてごくありふれた形態であるから,看者は,本願意匠と引用意匠を対比して観察した際,引用意匠の切断誘導切り溝3,4の線模様と本願意匠のミシン目30,40の線模様とに目をひかれることが明らかである。 すなわち,包装用袋の形態として,そのほとんどがありふれた形態で構成されている引用意匠と本願意匠とにあって,包装用袋の形態として唯一,ありふれた形態とは言えない部分が,引用意匠における切断誘導切り溝3,4と本願意匠におけるミシン目30,40であり,看者は,両意匠を対比して観察した際,これらについて,意匠としての印象を持つことが明らかである。 したがって,看者は引用意匠の切断誘導切り溝3,4の線模様と本願意匠のミシン目30,40の線模様とに目をひかれ,結果として次の差異点T,U,Vを明白に観察することになる。 (A) 差異点T引用意匠の膨出部3a,4aと本願意匠の三角突起部30a,40aとは,寸法差,寸法バランスの点の差が明白に視認される。 詳しく言えば,引用意匠の切断誘導切り溝3,4の線模様に表現された膨出部3a,4aは,本願意匠のミシン目30,40の線模様に表現された三角突起部30a,40aに比べ,その占める寸法がかなり大きく,両者における寸法差,寸法バランスの差が,模様の差として明白に現れている。すなわち,引用意匠の膨出部3a,4aの横幅は,具体的には,包装用袋の横幅の1/4.5〜1/5であるのに対し,本願意匠の三角突起部30a,40aの横幅は,包装用袋の1/10〜1/11程度であり,両者は袋の横幅に対する寸法バランスが大きく異なっている。また引用意匠の膨出部3a,4aの高さ(嵩)は,具体的には袋の縦幅の1/13〜1/16程度であるのに対し,本願意匠の三角突起部30a,30bの高さ(嵩)は,袋の縦幅の1/33〜1/35程度であり,両者は袋に縦幅に対する寸法バランスも大きく異なっている。よってこのような大きな寸法差,寸法バランスの差を有する引用意匠の膨出部3a,4aと本願意匠の三角突起部30,40とは,視覚を介して明らかな美感の差となって認識されるものである。 被告は,突起部の寸法差と寸法バランスの差は,ささいな数値上の差であって,類否判断を左右するものではないと主張する。 しかし,袋の上部に引き裂き線,チャックを有するような保存用袋は,購入や開封をしたときや,収納物の出し入れのたびごとに手にとって見ることから,袋と目の距離は決して遠くなく,しかも視線はチャック部周辺に集まるから,常時繰り返し手にしてその形状に接する種類の物品ということができる。したがって,この種の保存用袋の需要者は,袋の開封前後等において,袋上部に形成される引き裂き線及びチャックに最も注意をひかれるということができ,このような保存用袋としての使用態様を考慮すると,引用意匠における重要な着視部分は引き裂き線及びチャックであるということができる。以上のように,保存用袋の使用態様を考慮するときは,その要部である引き裂き線に存する突起部の寸法差と寸法バランスがささいな数値上の差異であるということはできない。 (B) 差異点U引用意匠の膨出部3a,4aと本願意匠の三角突起部30a,40aとは,その形状の差が明白に視認される。 詳しく言えば,引用意匠の切断誘導切り溝3,4の線模様に表現された膨出部3a,4aは,だらだらとした曲線形状であるのに対し,本願意匠のミシン目30,40の線模様に表現された三角突起部30a,40aは,三角突起の先端に鮮明な頂角が表現されて成るすっきりとした直線形状である。よってデザイン上においても,直線模様と曲線模様の差として明白に区別されるものである。 (C) 差異点V引用意匠の膨出部3a,4aと本願意匠の三角突起部30a,40aとは,そのデザインとしての対称性の差が明白に視認される。 詳しく言えば,引用意匠の切断誘導切り溝3,4の線模様に表現された膨出部3a,4aは,切断誘導切り溝3,4の左右の中央に位置しておらず,デザイン上,シンメトリーを構成していないのに対し,本願意匠のミシン目30,40の線模様に表現された三角突起部30a,40aは,ミシン目30,40の左右の中央に位置しており,デザイン上のシンメトリーを構成している。線模様がデザイン上のシンメトリーを構成しているか否かは視覚を通じた看者への美的印象を大きく異ならしめるものである。 イ 取消事由2(類否判断の誤り)(ア) 共通点の評価の誤り審決は,本願意匠と引用意匠との共通点について 「上方にチャック,付の開口部を設け,四方をシールし,上端シール部とチャック部との間に,それらと略平行状に引き裂き線を形成し,全体を略長方形とした態様は,この意匠の属する分野にあっては1つの基本形といえるものであって,…形態全体にわたる共通点であるから,看者に両意匠が共通するとの印象を与え,類否判断上重視すべきもの (審決3頁11行〜16 」行)と評価した。 しかし,これらはいずれも包装用袋としてごくありふれた形態であるから,看者をして視覚上格別な印象を与えることがなく,希薄な美感あるいは印象しか与えず,意匠としての要部たりえない。したがって,これらの形態は,意匠としての創作性も乏しく,需要喚起に結びつく美感も乏しいものであり,その共通点は,そもそも意匠類否の判断上において大きな意味を持たない。 (イ) 差異点の評価の誤り@ 差異点(ア)(全体の略長方形)差異点(ア)については,その美感が決して共通するとは言えず,相違することが明らかである。なお,密封用チャックの位置,ミシン目(切断誘導切り溝)の位置も,包装用袋の縦方向寸法とそれらの配置位置との配置バランスが,引用意匠と本願意匠とでは明らかに異なり,美感が共通するとは決して言えない。 A 差異点(イ)(引き裂き線)差異点(イ)については,ミシン目か線かという点において,視覚上,ハッキリとした大きな差が認められ,美感が明らかに異なる。 審決は 「引用意匠として示された図1に表されているのは切り溝 ,であるが,引用意匠が掲載されている公報の【発明の実施例】に関する文中に 「3,4の切り溝はミシン目であっても同等の効果が得ら ,れる」とあり,…その意図するところは切り溝だけとは限らず本願意匠と同様のミシン目も想定されており (審決2頁27行〜33 ,」行)とするが,かかる公報中の記載は,発明としての技術事項の互換性を言葉で述べたものに過ぎない。 被告は,切り溝とミシン目の美感が相違するとの原告の主張は誤りであり,視覚効果上の差異は微弱であると主張する。しかし,本願意匠,引用意匠における物品は保存用袋であり,引き裂き線が重要な着視部分であることは,前述したとおりである。また,チャック付き保存用袋を購入しようとする需要者は,袋を手にとって見て,商品の用途に密接に関係する引き裂き線をはっきりと視認するはずであり,ミシン目と線は視覚上の明らかな差となって認識される。しかも引用意匠における引き裂き線は全体で三重の線から成るような線であることを考えれば,本願意匠のミシン目の引き裂き線と引用意匠の切り溝の引き裂き線との視覚効果上の差異が微弱にとどまるものでないことは明らかである。 また,被告は,乙2,7〜10(公開特許公報又は公開実用新案公報)を提出するが,これらに示されたミシン目はすべて単純な一直線のミシン目であるところ,本願意匠のミシン目はその中央部に突起部を有するものであるから,本願意匠のミシン目の形態と大きく相違することは明らかである。 B 差異点(ウ)(引き裂き線の突起部形状)差異点(ウ)については,引用意匠の突起部は,なだらかな山形形状であって,その形状のどこにも尖鋭性が全く見られないデザインであり,この点において,本願意匠の三角突起部とは,デザイン上において雲泥の差がある。 被告は,乙11,12(公開特許公報,公開実用新案公報)を提出する。しかし,乙11に示す引き裂き線の屈曲部は,袋の横幅全体に対する比率からみると決して小さいとは言えず,その形状も半円状であり,また,乙12に示された尖った頂角状の模様も,その形,全体に占める大きさ,比率,頂角の角度,数等,どれもが本願意匠に示される三角突起部とは著しく異なる。 C 差異点(エ)(突起部の形成位置)差異点(エ)については,引用意匠の突起部は,左右に明確にずれた位置に偏心して形成され,バランス的にも明らかに中央位置からずれており,シンメトリーを形成していないから,視覚を通じた看者への美的印象は大きく異なるものとなる。 被告は,乙13〜16(公開実用新案公報又は公開特許公報)を提出する。しかし,乙13〜16に示される図形に表される突起部は,いずれも袋上縁そのものの形状であって,袋上縁から離れた位置にある引き裂き線の線模様を示すものではないから,本願意匠の突起部とは明らかに大きな相違を有する。 (ウ) 以上のとおり,上記(ア)の共通点はごくありふれた態様であって,看者の注意をひくものではなく,他方,上記(イ)の,審決が看過した差異点T〜Vを含む本願意匠と引用意匠との差異点(ウ),(エ)は,切り裂き線及びチャックに係るものであるところ,需要者が常時繰り返し手にしてその形状に接する種類の物品であるという保存用袋の使用態様等を考慮すると,切り裂き線及びチャックこそが保存用袋の要部ということができる。そうすると,これらの部分に係る差異点T〜V,差異点(ウ),(エ)が存在し,大きく相違している以上,具体的構成態様の差異が,基本的構成態様の共通点を凌駕しているといえる。 したがって,両意匠が類似しているとした審決の判断は誤りである。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(審決の内容)の各事実は )認めるが,同(3)(審決の取消事由)は争う。 3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1に対しア 本願意匠と引用意匠の共通点は,審決が認定したとおりである。 原告は,審決が,引き裂き線の構成態様について,本願意匠と引用意匠との共通点として 「引き裂き線は,略中央部に上方への小さな突起部を ,形成し」ている点を認定したのは誤りである旨主張する。 しかし,引用意匠の突起部は,表裏で形成位置を相互にずらしているとしても,中心からの変位はそれぞれ等しく,間隔も僅かであり,しかも,該突起部が表裏一体で摘みとして機能する(乙13〜16参照)ものであることを考慮すれば,該突起部(すなわち一対の摘み)の位置を略中央とした審決の認定に誤りはない。また,引用意匠の突起部は,指で摘むため(乙1)の大きさであり,原告算定の寸法からみても,突起部を小さいとみなすのに十分であるから,この点の審決の認定に誤りはない。 イ 審決は,原告が主張する,突起部の寸法差と寸法バランスの差(差異点T)を差異点として認定していないが,この差異点は,ささいな数値上の差異に過ぎない。 ウ 本願意匠と引用意匠の差異点は,審決が,差異点(ア)〜(エ)として認定したとおりである。 (2) 取消事由2に対しア 共通点の評価の誤りにつき原告は,包装用袋としてごくありふれた形態は,意匠の要部たりえず,意匠類否の判断上において大きな意味を持たないと主張する。 しかし,意匠法にいう意匠とは,意匠の創作として秩序立てられた1つの全体形態としてのまとまりをいうものであるから,たとえ,当該物品に一般的な形状であっても,その部分を含めた全体が意匠としてのまとまりを形成している場合には,当該部分を含めた全体としての両意匠の構成態様を対比し,類否の判断を行うべきである。なぜなら,当該意匠の一般的でありふれた態様部分は,形態全体にかかわるものであり,看者が意匠を捉えようとすると否応なく目に入ってくるものであるから,これを除外しては意匠全体を視覚的に捉えられなくなるからである。 イ 差異点の評価の誤りにつき(ア) 差異点(ア)原告は,差異点(ア)について,その美感が決して共通するとは言えず,相違することが明らかと主張するが,失当である。 なぜなら,縦長か横長かという寸法比率のみに限定した美感を指すのであれば共通するとはいえないとしても,縦長か横長かの全体形状が,包装用袋として格別な印象を与えるものではないからである。すなわち,長方形状の袋には,様々な寸法比率のものがあり,必要に応じて適宜選択されるものである。また,乙2〜6に明らかなように,本願意匠と同程度の寸法比率からなるこの種の袋に限っても,従来からごく普通に見られるところであるから,本願意匠の縦長の程度にも目新しさはなく,看者の注意を格別喚起するものではない。 したがって,縦長か横長という点に限定して生ずる希薄な美感の相違の方が,審決が認定する,袋全体の基本形,シールの態様,チャックの配置,引き裂き線と突起部の態様等を含む総合的な意匠の構成要素に基づく美感の共通性に勝るということはなく,意匠の類否に影響を及ぼすものではない。 なお,原告が主張する,引き裂き線の袋における配置位置の差異は,袋の縦長横長に付随した差異であるから,差異点(ア)を認定,判断することで,実質的に足りる。 (イ) 差異点(イ)原告は,差異点(イ)について,ミシン目か線かという点において,視覚上,ハッキリとした大きな差が認められ,美感が明らかに異なると主張するが,失当である。 なぜなら,本願意匠のミシン目は,短い線状の切れ目(スリット)を,僅かな間隔をおいて連続形成したものであるところ,引用意匠の切り溝も,三重の線の中心線を最薄肉部とし,これを連続形成したものであり,両意匠の該当部分は,全体としては,共に袋素材を凹状に切り込んだ筋状に表れるため,視覚効果上の相違は,微弱なものであるからである。 すなわち,目をこらして切れ目の一目一目に着目すれば美感は違っても,引き裂き線としては線状をなすことは明らかである。 また,袋を開封するための切断誘導線としては,乙2に示すように,ミシン目も薄肉状の態様も,従来から用いられていることが明らかであるが,特にミシン目については,ここで,他の引き裂き手段と比較して,安価且つ安定した製品が得やすいと推奨されているくらいであるから,ミシン目が新態様の引き裂き線として注目されることは,あり得ない。 実際,乙7〜10に示すように,この種の袋上部にミシン目を施すことは,従来よりごく普通に行われているものである。 (ウ) 差異点(ウ)原告は,差異点(ウ)について,引用意匠の突起部は,なだらかな山形形状であって,その形状のどこにも尖鋭性が全く見られないデザインであり,この点において,本願意匠の三角突起部とは,デザイン上において雲泥の差があると主張するが,失当である。 なぜなら,突起部の形状について,引用意匠は,曲線構成によるなだらかな山形形状ではあるが,中央が隆起して項部をなし,斜辺部も左右略対称形で,二等辺三角形状の山形状を呈しており,これは,乙1に示す引用意匠の引き裂き線から上部を開封した実施例をみればより明瞭であって,両意匠は突起部の基本形において共通するといえるからである。 (エ) 差異点(エ)原告は,差異点(エ)について,引用意匠の突起部は,左右に明確にずれた位置に偏心して形成され,バランス的にも明らかに中央位置からずれており,シンメトリーを形成していないから,視覚を通じた看者への美的印象は大きく異なるものとなると主張するが,失当である。 なぜなら,突起部につき,その表裏で形成位置を相互にずらしているとしても,中心からの変位はそれぞれ等しく,間隔も僅かであるからである。しかも,該突起部は,表裏一体で摘みとして機能するものであるところ,乙13〜15に明らかなように,中央に摘みないしはタブを設けた袋は,従来より普通に見られる態様である。また,乙13や乙15は,摘みの位置を中央としつつも表裏で大きさを僅かに違え,易開封性を高めることを目指しており,引用意匠と同様に,表裏で摘みの位置をずらし,裏表面を同時に摘むことが1回の動作ででき,両面摘んでいるので確実に開けられる,という効果を狙った乙16も,知られている。 このように,略中央に摘みを形成しつつも,様々な工夫が試みられているが,これらの摘みはすべて,略中央位置に形成される一対の摘みとなるものであり,このような配慮で僅かにずらされているのであるから,デザインとしての対称性の差が看者に明確に視認されるものとはいえない。 ウ 原告が主張する差異点T〜Vにつき差異点Tは,ささいな数値上の差異であって,意匠の類否判断を左右するものではないし,差異点U,Vに対する反論は,上記イ(ウ),(エ)にそれぞれ記載したとおりである。 エ 以上によれば,両意匠に共通する一般的形態を,類否判断上,除外することはできず,他方,両意匠の差異点はいずれも微弱なものであり類否を左右するほどではない。したがって,両意匠が類似するとした審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,同(2)(審決の内容)の各事実 )は,当事者間に争いがない。 2 取消事由1(共通点・差異点の認定の誤り,差異点の看過)について(1) 原告は,審決が,本願意匠と引用意匠の共通点として 「引き裂き線は,,略中央部に上方への小さな突起部を形成し」ていると認定したのは誤りである旨主張し,その理由として,引用意匠における突起部の横幅全体に占める割合は,1/5程度と大きく,中心からずれていることは容易に視認でき,明らかに中央部からずれた位置にある以上 「略中央部」とは認定できず, ,また,引用意匠において,引き裂き線全体に占める突起部の大きさ,割合(1/5程度)は,決して「小さな」とは認定できない,と主張する。 しかし,引用意匠の形態をみても,その突起部は,袋の横幅全体に占める割合が1/5程度であり,表裏で形成位置を相互にずらして形成されているとはいえるものの,その形成位置が袋の右端側,左端側に大きく偏心しているということはなく,表裏の突起部の一部は引き裂き線のほぼ中心で重なっているものであって,引き裂き線全体と対照してみても,表裏の突起部は,いずれも,その略中央部に形成されているといって妨げない位置にあるというべきである。さらに,引用意匠において,引き裂き線全体に占める突起部の大きさ・割合が1/5程度であることをもって 「小さな」と認定するこ ,とについても,引用意匠の突起部を本願意匠のそれと比較すれば,大きさ・割合として若干大きいとしても,1/5という割合それ自体をみれば,同様の「小さな」という範疇に入ると認定することも一概に誤りであるとまでいうことはできない。 (2) また,原告は,密封用チャックの位置,ミシン目(切断誘導切り溝)の位置も,包装用袋の縦方向寸法とそれらの配置位置との配置バランスが,引用意匠と本願意匠とで明らかに異なると主張する。しかし,袋を横断するように配置されている密封用チャックの位置やミシン目(切断誘導切り溝)の位置が,袋の上下方向中央部よりもかなり上部の位置にあるのか,やや上の位置にあるのかといった事項は,全体の略長方形について,本願意匠は縦長としたのに対し,引用意匠は横長としている点に必然的に包含される事項であると解することができ,審決は,かかる点を差異点(ア)として正しく認定しているものであるから,この点をもって審決が差異点を看過したとすることはできない。 (3) さらに原告は,看者は包装用袋としてごくありふれた形態ではなく,ありふれた形態とはいえない部分である切断誘導切り溝,ミシン目に目をひかれ,結果として差異点T〜Vを明白に観察することになると主張する。 しかし,後記のとおり,たとえごくありふれた形態であったとしても,審決が認定した本願意匠と引用意匠の共通点は,包装用袋において,面積的に大きな部分を占めており,看者の注意をひく部分であると認められるのであるから,看者が包装用袋としてありふれた形態には目をひかれないという前提それ自体にまず無理がある。 また,差異点Tについて,原告は,引用意匠の膨出部3a,4aの横幅は,袋の横幅の1/4.5〜1/5であるのに対し,本願意匠の三角突起部30a,40aの横幅は,袋の横幅の1/10〜1/11程度であり,また引用意匠の膨出部3a,4aの高さ(嵩)は,袋の縦幅の1/13〜1/16程度であるのに対し,本願意匠の三角突起部30a,30bの高さ(嵩)は,袋の縦幅の1/33〜1/35程度である,と主張する。しかし,引用意匠の突起部と本願意匠の突起部の横幅,高さについてこうした差があることを前提としても,これらは,後記のとおり,微差というべきであるし,そもそも,それぞれの割合の数値それ自体をみれば,両者ともに同じ「小さな」という範疇に入ると認定することも一概に誤りとまでいうことはできない。 さらに原告は,両意匠の引き裂き線の構成態様につき,差異点U,Vを認定すべきであると主張する。そこで,本願意匠と引用意匠におけるそれぞれの引き裂き線の構成態様について見るに,両者は,その線種,上方への突起部の大きさや形,上方への突起部を形成した位置に関し,前記差異点(イ)ないし(エ)のとおり 「(イ) 引き裂き線として,本願意匠はミシン目を配し ,たのに対して,引用意匠は切り溝を配している点,(ウ) 引き裂き線の略中央の突起部形状について,本願意匠は直線構成による頂部の尖った三角形状としたのに対して,引用意匠は曲線構成によるなだらかな山形形状としている点,(エ)その突起部の形成位置について,本願意匠は表裏とも中央の同じ位置に形成したのに対し,引用意匠は略中央とするものの,表裏で形成位置を相互にずらして形成している点」において差異があると認められる(当事者間に争いがない 。しかし,原告主張の差異点U,Vは,実質的に見れ 。)ば,審決が認定した前記差異点(ウ),(エ)と変わるところはない(差異点(エ)につき,引用意匠の突起部の位置が略中央と認められることは,前記で説示したとおりである )というべきである。 。 以上によれば,審決に差異点認定の誤り・差異点の看過がある,ということはできない。 (4) 以上によれば,原告主張の取消事由1(共通点・差異点の認定の誤り,差異点の看過)は理由がない。 3 取消事由2(類否判断の誤り)について(1) 共通点の評価の誤りにつき原告は,審決が共通点として認定するような 「上方にチャック付の開口 ,部を設け,四方をシールし,上端シール部とチャック部との間に,それらと略平行状に引き裂き線を形成」し,全体を略長方形とした態様は,いずれも包装用袋としてごくありふれた形態であるから,看者をして視覚上格別な印象を与えることがなく,希薄な美感あるいは印象しか与えず,意匠としての要部たりえず,意匠類否の判断上において大きな意味を持たないと主張する。 しかし,意匠の類否の判断とは,対象とする意匠,すなわち物品の外観の全体にわたって,その形態を肉眼によって観察する全体的,視覚的な類否の判断であるから,当該物品の外観を形成し,肉眼によって視覚的に観察される形態である限り,類否判断の要素となり得るものと解すべきであって,このことは,その形態が,当該物品と同種の物品が一般的普遍的に備えている周知の形態であるとしても,何ら異なるところはないというべきである。 しかるに,審決が上記第3の1(2)のイ〈共通点〉欄記載のとおり正当に認定した共通点は,包装用袋において,面積的に大きな部分を占めており,看者の注意をひく部分であるから,それらの形態が共通していることは,本願意匠と引用意匠が類似するかどうかの判断に当たって重視すべきものである。もっとも,その他の部分の具体的態様において,特徴的な差異点がある場合などは,類似しないとの判断に至る場合もあるが,本件において,本願意匠と引用意匠の具体的態様における差異点は,次の(2)(差異点の評価の誤りにつき)で判示するとおり,いずれも微弱なものであって,本願意匠と引用意匠が類似するとの審決の判断を左右するものではない。 (2) 差異点の評価の誤りにつきア 差異点(ア)(全体の略長方形)審決は,本願意匠と引用意匠の差異点(ア)に関し 「全体の略長方形に,ついての相違点(判決注,差異点のこと)(ア)は,縦長のものも横長のものも,共に極めて普通であり,また,…従来より様々な深さの袋が存在しており,収納部の深さに特徴があるとはいえず,いずれの態様も看者に格別特異な印象を与えるものではなく,共通する美感を変更するほどではない (2頁21行〜26行)としているところ,原告は,差異点(ア)に 。」ついては,その美感は決して共通するとは言えず,相違することが明らかであると主張する。 しかし,本願意匠と引用意匠を対比すれば,全体の略長方形についての差異点(ア)は,両意匠に係る物品である包装用袋の容量等の変更に合わせて普通に変更される範囲のものであって,直ちに意匠法上の評価につながるものではないと解される上,包装用袋において,縦長で,寸法比率が本願意匠と同程度のものは,本願意匠の出願前に知られていて(公開特許公報で昭和57年6月16日に公開された昭57-96952号第1図の包装用袋体の意匠〔乙2 ,公開実用新案公報で平成元年6月12日に公開 〕された平1-88842号第3図の易開封性包装袋の意匠〔乙3 ,公開〕実用新案公報で平成元年11月28日に公開された平1-168446号第1図のレトルト食品用再閉自在包装袋の意匠〔乙4 ,公開実用新案公〕報で平成4年8月5日に公開された実開平4-89760号図16の包装袋の意匠〔乙5 ,公開特許公報で平成11年6月15日に公開された特 〕開平11-157553号図1,図3のチャック付き袋の意匠〔乙6 ,〕)特徴的な態様ということもできないから,全体の略長方形についての差異点(ア)は,意匠全体を見た場合,微弱なものというほかない(なお,密封用チャックの位置,ミシン目(切断誘導切り溝)の位置についても,上記のとおり,これらは差異点(ア)に必然的に包含される事項であると解される以上,その評価についても,差異点(ア)の評価について説示した上記判断が同様に当てはまる 。。)イ 差異点(イ)(引き裂き線)審決は,本願意匠と引用意匠の差異点(イ)に関し 「引用意匠として示,された図1に表されているのは切り溝であるが,…その意図するところは切り溝だけとは限らず本願意匠と同様のミシン目も想定されており,さらに,ミシン目による引き裂き線も切り溝によるものも,視覚的には細い線のように見えるものであるから,視覚効果上さほどの相違はなく,かつ,いずれの態様もありふれたもので,格別特徴とすることもできず,共通する美感を変更するものではない (2頁27行〜37行)としていると 。」ころ,原告は,本願意匠のミシン目と引用意匠の切断誘導切り溝とは,ミシン目か線(三重のもの)かという点において,視覚上,ハッキリとした大きな差が認められ,美感が明らかに異なる,と主張する。 しかし,引き裂き線の線種が,ミシン目であったにせよ三重の線であったにせよ,視覚上においては細い線のように見えることに変わりはなく,また,包装用袋につき,本願意匠のように,引き裂き線がミシン目であるものは,本願意匠の出願前に知られていた(公開特許公報で昭和57年6月16日に公開された昭57-96952号第1図の包装用袋体の意匠〔乙2 ,公開特許公報で昭和56年9月28日に公開された昭56-1 〕23256号第3図の袋状容器の意匠〔乙7 ,公開実用新案公報で昭和 〕63年10月14日に公開された昭63-156950号第1図の易開封性ファスナー付袋の意匠〔乙8 ,公開実用新案公報で昭和63年7月1 〕8日に公開された昭63-111439号第3図の咬合具付の袋体の意匠〔乙9 ,公開特許公報で平成7年8月22日に公開された特開平7-2 〕23653号図1の包装用袋体の意匠〔乙10〕参照)ものであるから,本願意匠の上記態様は,特徴的な態様とはいえない(原告は,乙2,7〜10のミシン目はすべて単純な一直線のミシン目であるところ,本願意匠のミシン目はその中央部に突起部を有するものであることを指摘するが,乙2,7〜10のミシン目に小さな突起部がないからといって,引き裂き線がミシン目であるものが特徴的な態様とはいえないとする上記判断を左右するものではない 。さらに,ミシン目か線かといった引き裂き線の 。)線種は,包装用袋全体からみると,包装用袋の骨格をなす部分ではなく,意匠の細部にわたる態様というべきものである。 以上に照らせば,意匠の細部にわたる態様に関する差異点(イ)は,意匠全体を見た場合,微弱なものというほかない。 ウ 差異点(ウ)(引き裂き線の突起部形状)審決は,本願意匠と引用意匠の差異点(ウ)に関し 「その部位だけを抽,出して着目すればともかく,袋全体で対比すれば,引き裂き線の一部を占めるに過ぎない突起部にあって,直線的構成か曲線的構成かという線質に係るわずかな相違に過ぎず,共通する美感を変更するものではない 」。 (2頁後1行〜3頁3行)としているところ,原告は,引用意匠の突起部は,なだらかな山形形状であって,その形状のどこにも尖鋭性が全く見られないデザインであり,この点において,本願意匠の三角突起部とは,デザイン上において雲泥の差がある,と主張する。 確かに,引用意匠の突起部形状は,曲線構成によるなだらかな山形形状である点で,直線構成による頂部の尖った三角形状である本願意匠の突起部と差異がある。しかし,両者ともに,視覚上においては二等辺三角形状の山形状を呈していると見えるものであり,また,包装用袋につき,本願意匠のように,引き裂き線の略中央部に突起部を設けたものは,本願意匠の出願前に知られていた(公開特許公報で平成12年8月22日に公開された特開2000-229649号図6,図7のファスナー付き包装体の意匠〔乙11〕参照)ものであり,引き裂き線における頂角状の模様も,本願意匠の出願前に知られていた(公開実用新案公報で平成元年11月1日に公開された平1-158443号第7図の包装用袋の意匠〔乙12〕参照)ものであるから,本願意匠のように,引き裂き線の略中央部に,直線構成による頂部の尖った三角形状の突起部を設けることも,特徴的な態様とはいえない(この点,原告は,乙11に示す引き裂き線の屈曲部は,袋の横幅全体に対する比率からみると決して小さいとは言えず,その形状も半円状であり,また,乙12に示された尖った頂角状の模様も,その形,全体に占める大きさ,比率,頂角の角度,数等,どれもが本願意匠に示される三角突起部とは著しく異なる,と指摘する。しかし,原告が指摘するような点を考慮したとしても,なお,乙11,12は,上記に参照した意味で,本願意匠と関連性を有するというべきであり,引き裂き線の略中央部に,直線構成による頂角の尖った三角形状の突起部を設けることが,特徴的な態様とはいえないという上記判断を左右するものではない 。さ。)らに,本願意匠の突起部は,包装用袋の上方の略中央部に位置することを勘案しても,包装用袋全体からみると,引き裂き線の一部を占めるに過ぎない部分的なものであり,包装用袋の骨格をなす部分ではなく,意匠の細部にわたる態様というべきであることも,説示したとおりである。 以上に照らせば,このような意匠の細部にわたる態様につき上記のような程度の若干の差異があったとしても,意匠全体をみた場合,差異点(ウ)の意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であるというほかない。 エ 差異点(エ)(突起部の形成位置)審決は,本願意匠と引用意匠の差異点(エ)について 「両意匠の形成位,置とも略中央部であり,また,通常,看者は袋の表裏を同時には視認できないもので,引用意匠にも本願意匠にも透明袋との記述がないから,両意匠のような未開封の状態で,突起部が表裏でずらされた位置に形成されたものであるのか,あるいは,表裏とも同位置に形成されたものであるのかは,普通に見ただけでは分からないから,この程度の位置の相違は,共通する美感を変更するものではない (3頁4行〜10行)としていると 。」ころ,原告は,差異点(エ)については,引用意匠の突起部は,左右に明確にずれた位置に偏心して形成され,バランス的にも明らかに中央位置からずれており,シンメトリーを形成していないから,視覚を通じた看者への美的印象は大きく異なるものとなる,と主張する。 そこで検討すると,本願意匠と引用意匠を,その突起部の形成位置の点について対比すると,本願意匠は表裏とも中央の同じ位置に形成されているのに対し,引用意匠は,表裏で形成位置を相互にずらして形成されている点において差異がある。しかし,前記2(1)に説示したとおり,引用意匠の突起部は,その形成位置が袋の右端側,左端側に大きく偏心しているということはなく,表裏の突起部の一部は引き裂き線のほぼ中心で重なっているものであって,引き裂き線全体と対照してみても,表裏の突起部は,その中心から等しく左右に変位しているが,その変位の程度は僅かであり,いずれも引き裂き線の略中央部に形成されているといって妨げない位置にある。したがって,看者が包装用袋の表裏を同時に視認できるものではないことも併せ考慮すると,両者の突起部の形成位置についての差異を大きいものと評価することはできない。 さらに,本願意匠のように,突起部が表裏とも中央の同じ位置に形成された態様のものは,本願意匠の出願前に知られており(公開特許公報で平成5年8月24日に公開された特開平5-213348号第1図〜第5図), のタブ付きパッケージの意匠〔乙14〕参照 ,また,引用意匠のように突起部が表裏で形成位置を相互にずらして形成された態様のものも,本願意匠の出願前に知られていた(公開実用新案公報で平成元年11月16日に公開された平1-164144号第2図,第3図の包装用袋の意匠〔乙13 ,公開特許公報で平成14年6月26日に公開された特開2002 〕-179092号図1〜図6の咬合具付袋体の意匠〔乙15 ,公開実用〕新案公報で平成5年2月2日に公開された実開平5-7643号図3,図4の簡易開放型袋の意匠〔乙16 )のであるから,このような差異は, 〕特徴的な態様の差異とはいえない。この点,原告は,乙13〜16に示される図形に表される突起部は,いずれも袋上縁そのものの形状であって,袋上縁から離れた位置にある引き裂き線の線模様を示すものではないと指摘する。しかし,原告が指摘するような点を考慮したとしても,なお,乙13〜16は,上記説示のとおり,本願意匠,引用意匠と関連性を有するというべきであり,包装用袋の意匠において,突起部が表裏とも中央の同じ位置に形成された態様のものと,突起部が表裏で形成位置を相互にずらして形成された態様のものとの差異が,特徴的な態様の差異とはいえないという上記判断を左右するものではない。さらに,本願意匠の突起部は,包装用袋の上方の略中央部に位置することを勘案しても,包装用袋全体からみると,引き裂き線の一部を占めるに過ぎない部分的なものであって,包装用袋の骨格をなす部分ではなく,意匠の細部にわたる態様というべきであることも,上記説示のとおりである。 これらを総合すれば,上記のような程度の若干の差異(差異点(エ))があったとしても,意匠全体を見れば,差異点(エ)が意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱であるというほかない。 , オ なお,原告が主張する差異点Tについては,前記2(3)に述べたとおり両意匠の突起部の横幅,高さにつき,両者ともに同じ「小さな」という範疇に入ると認定することも一概に誤りとまでいえないものであるが,これを差異点として捉えて評価を加えたとしても,下記のとおり,これらは微差に過ぎないというべきであり,意匠の類否に与える影響は極めて微弱なものである。 すなわち,確かに,本願意匠の突起部は,その横幅と袋の横幅との割合,及び,その高さと袋の縦幅との割合が,引用意匠の膨出部のそれと比較して,若干小さいという差異はある。しかし,包装用袋につき,本願意匠のように,引き裂き線の略中央部に突起部を設けたものは,本願意匠の出願前に知られていた(公開特許公報で平成12年8月22日に公開された特開2000-229649号図6,図7のファスナー付き包装体の意匠〔乙11〕参照)ものであり,本願意匠のみの特徴といえるものではないし,さらに,本願意匠の突起部は,包装用袋の上方の略中央部に位置することを勘案しても,包装用袋全体からみると,引き裂き線の一部を占めるに過ぎない部分的なものであり,包装用袋の骨格をなす部分ではなく,意匠の細部にわたる態様というべきものである。これらに照らせば,上記のような程度の若干の差異があったとしても,意匠の類否判断に及ぼす影響は極めて微弱であり,本願意匠と引用意匠が類似するとの審決の判断を左右するものではない。 (3) 原告は,需要者が常時繰り返し手にしてその形状に接する種類の物品であるという保存用袋の使用態様等を考慮すると,切り裂き線及びチャックこそが保存用袋の要部ということができ,要部に係る具体的構成態様の差異は,基本的構成態様の共通点を凌駕している,と主張する。 しかし,包装用袋の取引者,需要者が,袋の基本的構成態様ではなく,切り裂き線及びチャック部の方により注目すると認めるに足りる証拠はないし,単に保存用袋を購入,使用する際に手にとったりチャックを開閉したりするからといって,看者が袋の基本的構成態様を視認することが行われないことにはならない以上,原告主張のように切り裂き線及びチャック部が要部となるというのは困難というべきである。 (4) 小括以上のとおり,原告が主張する本願意匠と引用意匠の差異点は,いずれも微弱なものであって,本願意匠と引用意匠が類似するとの審決の判断を左右するものではない。また,他に,本願意匠と引用意匠の差異点で,本願意匠と引用意匠の基本的構成態様及び具体的態様における上記認定の共通点をしのぐようなものはなく,本願意匠と引用意匠が類似するとの審決の判断が左右されることはない。 以上によれば,原告主張の取消事由2(類否判断の誤り)は理由がない。 4結語よって,原告主張の取消事由1及び2は理由がなく,審決には違法はないから,原告の本訴請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 田中孝一 |