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関連審決 不服2004-23889
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  3条1項3号 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  願書の記載 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10008号 審決取消請求事件
原告 田中金属株式会社
訴訟代理人弁理士 新関和郎
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 岩井芳紀
同藤正明
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/07/06
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-23889号事件について平成17年11月16日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成15年11月26日,別紙審決書写し添付の別紙1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠に係る物品を「金属製ブラインドのルーバー」として意匠登録出願(意願2003-35195号。以下「本件出願」という。)し,特許庁が平成16年10月14日拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2004-23889号事件として審理した結果,平成17年11月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月7日,原告に送達された。
2 審決の内容別紙審決書写し記載のとおりである。要するに,本願意匠は,別紙審決書写し添付の別紙2記載の意匠登録第1154659号の意匠(以下「引用意匠」という。)と類似し,意匠法3条1項3号に該当するので,意匠登録を受けることができないというものである。
審決がその判断の前提として認定した本願意匠と引用意匠との共通点及び相違点は,次のとおりである。
(共通点)(1) 一定の断面形状で長手方向に連続する中空材であって,背面側(引用意匠においては底面側,以下同様)に嵌合部を設け,嵌合部を除く外周壁の大部分を角パイプ状に形成し,嵌合部については,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた全体の基本構成。
(2) 中空部の対向位置にタッピングホールを1個ずつ設けている点。
(相違点)(1) 係止片の形態について,本願意匠においては,係止片を単なる平板状としているのに対し,引用意匠においては,各係止片の裏面中央に小幅な突出片を設けている点。
(2) タッピングホールの配置について,本願意匠においては,嵌合部内奥の隔壁両隅にもタッピングホールを1個ずつ設けているのに対し,引用意匠においては,当該部位にタッピングホールを設けていない点。
(3) 厚みに対する全幅(突き当て面からの張り出し幅)の比率について,本願意匠においては,略1:3.5程度としているのに対し,引用意匠においては,略1:2程度としている点。
当事者の主張
1 原告主張の審決の取消事由審決は,本願意匠と引用意匠との共通点の認定を誤り,相違点を看過した結果,本願意匠が引用意匠と類似するとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
(1) 共通点(1)の認定の誤りア 本願意匠の嵌合部は,隔壁,一対のリップ状係止片,上壁及び下壁,開口とによって構成される部分であり,引用意匠の嵌合部は,隔壁,一対のリップ状係止片,上壁及び下壁,開口,リップ状係止片の裏面側に設けた突出片とによって構成される部分である。
審決は,共通点(1)において,両意匠の嵌合部の形態について,隔壁とリップ状係止片との間に「背面側に開口するチャネル状空間」を形成する形状と認定し,嵌合部を構成している構成部材のうち,上壁及び下壁並びに突出片を除外し,輪郭の定めのない抽象的な形状のものとして,視覚によっては感知することができず,観念としてしか認識し得ない観念上の形状としてとらえている。しかし,空間の形は,外郭の形状によって認識できるものであるから,外郭形状の特定を除いた「背面側に開口するチャネル状空間」なる空間の形状は,視覚を通じて美感を惹起させる形状,模様を対象とする意匠において,視覚を通じて認識し得る嵌合部の構成を特定したことになっていないものであり,審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))についての認定は,まず,この点において誤りである。
イ(ア) 本願意匠の嵌合部は,隔壁,上壁及び下壁,上下に一対の係止片とで構成される断面視で略正方形の角筒状で,内部に形成される空間が,外郭が略正方形をなして背面側に開口するチャネル状の形状である形態である。
一方,引用意匠の嵌合部は,隔壁,上壁及び下壁,上下に一対の係止片,内腔に仕切壁状の突出片,開口とで構成される断面視で縦長の角筒状で,内部に形成される空間が,チャネル状(水路状)から離れた背面側に開口する櫛歯状をなす形状である形態である。
このように,両意匠の嵌合部は,それぞれ形態を異にし,内部に形成される空間の形状も,本願意匠がチャネル状で,引用意匠が櫛歯状の形状とそれぞれ異にしているから,審決が,共通点(1)として,「嵌合部については,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた」構成を有する点で,両意匠が全体の基本構成を共通にすると認定したのは誤りである。
(イ) これに対し被告は,両意匠の嵌合部の形態及びその内部に形成される空間の形状の相違は,係止片の形状の相違として相違点(1)で認定しているから審決に誤りはない旨主張するが,係止片の形状をどのように記載しても本願意匠の嵌合部の形態(「リップ溝形鋼状」の形態)を構成できるものではないから,被告の上記主張は失当である。
(2) 相違点の看過ア 前述のとおり,本願意匠の嵌合部は,断面視において略正方形の角筒状で,内部に形成される空間が略正方形のチャネル状をなす形態であり,引用意匠の嵌合部は,断面視において内腔に仕切壁状の突出片を有する縦長の角筒状で,内部に形成される空間が背面側に開口する櫛歯状をなす異様な形態であり,この両者の嵌合部の形態は著しく相違する。
しかも,嵌合部は,物品の取付構造部を構成する部位で,需要者である設計者・建築工事者が注視し,有意の差異として認識する部分であるにもかかわらず,この嵌合部の形態の相違を審決は看過している。
イ(ア) 25ミリメートル(以下,「ミリメートル」を「ミリ」という。)という寸法は,建築業界においては,建具の枠等の見付け寸法がほとんど25ミリであるように,狭くも広くもない最も整った寸法として用いられている。
本願意匠は,平成16年12月20日付け手続補正書(甲4)に添付の資料1の図1記載のとおり,黄金律ともいうべきこの寸法25ミリを物品ルーバーの見付け寸法(正面から見た寸法)に取り込んだ上,ルーバー材となる物品が組付け施工されたときの強度を国土交通省告示(平成12年建告第1454号)に示されている台風圧強度が得られるように,物品の見込み寸法(物品の奥行き寸法)を十分な強度が得られるまでに延ばして,平板状にデザインし,これにより風圧の荷重試験(甲2)に耐え得るものとしている意匠である。
(イ) 本願意匠は,見付け寸法を25ミリとしている形態のため整った優美な印象を与えるのに対し,引用意匠は,寸法25ミリから外れた形態であることで,ずんぐりした印象を与える点で,両意匠は顕著に相違する。審決は,25ミリを見付け寸法としている本願意匠の特異な形態を看過し,これを両意匠の相違点として認定しなかった誤りがある。
(3) 類否判断の誤りア 前記のとおり,審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))の認定には,視覚では認識できない観念上の形態を構成要素とし,かつ,顕著に相違する両意匠の嵌合部の形態を同一視した誤りがあるから,この誤った全体の基本構成の対比に基づいてした両意匠の美感・類似性についての審決の判断は誤りである。
イ また,意匠の類否の判断基準は,取引者において物品の誤認混同を示すおそれがあるほど似ているか否かを基準とすべきであり,取引者は,特に目につき易い部分ないし注意を強く惹く部分を観察し,異同を認識し取引するものであるところ,需要者が設計者・建築工事者である物品ルーバー材においては,ルーバー材の取付構造を構成する嵌合部は,必然的に注視される部位であり,この部位の形状の差異は,意匠の類否判断を左右するものである。
前記のとおり,嵌合部の形態について,本願意匠では,内面側に突起部のないきれいなチャネル状の形状としているのに対し,引用意匠では,内面側に下駄の歯のような2本の突起部を設けた櫛歯状の異様な形状としているという差異があり,この嵌合部の形状の差異は,著しい特徴の差異となっており,両意匠を誤認混同させることなく区別し得る明瞭な差異である。
しかも,前記のとおり,本願意匠は,見付け寸法を黄金律ともいうべき25ミリとすることで,落ち着いた特有の美感を惹起させるようにしているから,引用意匠とは全く別異の独特な意匠である。
したがって,本願意匠は引用意匠と類似していないから,これが類似するとした審決の判断は誤りである。
2 被告の反論(1) 共通点(1)の認定の誤りに対しア 審決認定の共通点(1)は,願書記載の意匠の説明及び願書添付の図面に基づいて両意匠を全体的に対比し,観察した結果として,両意匠の主要な構成要素である外観形態に焦点を置き,視覚を通じて形成された形態的印象を事実に即して摘記し,それが意匠全体の基本構成を成しているとしたものである。
一般に,視覚を通じて感知した形象に基づいて,観察者が対象物のイメージ又は形態の観念を形成することは当然のことであり,審決が,共通点(1)において,嵌合部の形態の概要を端的に表現するため,「チャネル状空間」の語を用いて認定したことに誤りはない。
そして,@嵌合部の内部に形成される空間自体の形状物品の使用時には内奥に隠れてしまう部位に係るものであり,両意匠の構成要素としては枝葉に属するものであること,A両意匠の取付部材に対する固着手法又は接続構造に関与する主な部位は,背面側に設けられた一対のリップ状係止片であって,上記空間自体の形状ではないこと,B上記空間自体の形状は,外周壁,隔壁及びリップ状係止片の形状に基づいて,従属的かつ一義的に決定されるものであることから,外周壁,隔壁及びリップ状係止片の形態における共通点及び相違点を認定した上で,嵌合部について意匠の構成要素としての軽重を評価すれば十分であるため,審決は,両意匠の類否判断に際し,原告主張の上記空間自体の形状を敢えて取り上げるべきではないと判断したものであり,審決の共通点(1)に示す全体の基本構成の認定手法及び認定内容に誤りはない。
イ 原告は,共通点(1)に示す全体の基本構成が,嵌合部の形態及びその内部に形成される空間の形状の相違を看過してなされた誤ったものである旨主張するところ,上記主張は,要するに,審決が,両意匠における係止片の具体的形状を全体の基本構成として認定していないことの誤りをいうものと解されるが,審決は,全体の基本構成を共通点(1)のとおり認定した上で,係止片の形状の相違を相違点(1)として具体的に認定しているから,審決に誤りはない。
(2) 相違点の看過に対しア 審決は,前記(1)ア@ないしBに挙げたのと同様の理由により,原告の主張する「嵌合部そのものの形態」については,両意匠の類否判断に際して敢えて取り上げるべきものはないと判断し,また,嵌合部を構成する係止片の形状の相違については,相違点(1)として認定していることは前記(1)イのとおりであるから,審決に誤りはない。
なお,本願意匠の「嵌合部そのものの形態」は,単なるリップ溝形鋼状のありふれたものである(乙1,2)。
イ 原告主張の本願意匠における見付け寸法が25ミリであるとの点は,本件出願当初の願書及びその後提出された補正書においても,一切開示されておらず,本願意匠の構成要素とは成し得ないものであるから,見付け寸法を25ミリとしているか否かが両意匠の相違点であるとする原告の主張は失当である。原告提出の平成16年12月20日付け手続補正書(甲4)は,本件の審判請求書の補正に関するものであって,本件出願当初の願書の記載事項又は願書添付の意匠を記載した図面を補正するものではない。
なお,審決は,相違点(3)において,厚み(見付け寸法)に対する全幅(突き当て面からの張り出し幅)の比率として,両意匠の全体的な寸法比率の差異を認定した上で,意匠の構成要素としての軽重を判断しているから,この点においても,審決に原告主張の上記相違点の実質的な看過はない。
(3) 類否判断の誤りに対し前述のとおり,審決に共通点(1)の認定の誤り及び相違点の看過はなく,本願意匠が引用意匠に類似するとした審決の類否判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 共通点(1)の認定について(1) 本願意匠(甲3)と引用意匠(甲5)を対比すると,両意匠が,「一定の断面形状で長手方向に連続する中空材であって,背面側に嵌合部を設け,嵌合部を除く外周壁の大部分を角パイプ状に形成し,嵌合部については,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた全体の基本構成」を有する点(共通点(1))で共通しているとした審決の認定は,是認することができる。
(2)ア 原告は,審決が,両意匠の嵌合部の形態について,外郭形状の特定を除いた「背面側に開口するチャネル状空間」なる空間の形状を認定しているのは,視覚によっては感知することのできない観念上の形状としてとらえているものであり,視覚を通じて認識し得る嵌合部の構成を特定したことになっていない旨主張する。
しかし,審決認定の共通点(1)の記載によれば,両意匠は,「長手方向に連続する中空材」であり,「嵌合部を除く外周壁の大部分を角パイプ状に形成」し,嵌合部は,「平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口」し,その「開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設け」ているものであるから,@両意匠の嵌合部は,開口部を有し,その開口端の両縁部に一対のリップ状係止片が設けられていること,A嵌合部の開口部の内奥部に平板上の隔壁が設けられていること,B長手方向に連続する中空材である以上,嵌合部は外周壁で囲まれていることを理解することができる。
そうすると,共通点(1)にいう嵌合部は,開口部,隔壁,一対のリップ状係止片,外周壁とで構成された,輪郭のある具体的な形状を有するものであって,視覚を通じて感知することができるものであることは明らかである。そして,共通点(1)にいう「背面側に開口するチャネル状空間」は,上記認定の形状を有する嵌合部の内部に形成される空間を意味するのであるところ,本願意匠の【背面図】,【右側面図】及び【斜視図】(甲3)と引用意匠の【底面図】,【正面図】及び【A-A断面図】(甲5)を見れば,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間がチャネル状(溝状ないし水路状)である点で共通することを視覚を通じて感知することができるものであり,この形状は,原告がいうような単なる観念上の形状であるとはいえない。
したがって,審決が,嵌合部の形態について,視覚によっては感知することのできない観念上の形状としてとらえているとの原告の上記主張は,採用することができず,審決の共通点(1)の認定が嵌合部の構成の特定を欠いているということもできない。
イ 原告は,本願意匠の嵌合部は,隔壁,上壁及び下壁,上下に一対の係止片とで構成される断面視で略正方形の角筒状で,内部に形成される空間が,外郭が略正方形をなし,背面側に開口するチャネル状をなす形状である形態であるのに対し,引用意匠の嵌合部は,隔壁,上壁及び下壁,上下に一対の係止片,内腔に仕切壁状の突出片,開口とで構成される断面視で縦長の角筒状で,内部に形成される空間が,チャネル状(水路状)から離れた背面側に開口する櫛歯状をなす形状である形態であり,このように両意匠の嵌合部は,形態を異にし,内部に形成される空間の形状も異にしているから,審決が,共通点(1)として,「嵌合部については,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた」構成を有する点で,両意匠が全体の基本構成を共通にすると認定したのは誤りである旨主張する。
(ア) 前記ア認定のとおり,共通点(1)にいう嵌合部は,開口部,隔壁,一対のリップ状係止片,外周壁とで構成されており,また,上記外周壁は,原告主張の「上壁及び下壁」に相当するものであるから,原告が主張する両意匠の嵌合部の構成上の相違点は,引用意匠が「内腔に仕切壁状の突出片」を有するのに対し,本願意匠はこれを有していない点であるということができる。
しかるに,審決は,相違点(1)として,両意匠は,「係止片の形態について,本願意匠においては,係止片を単なる平板状としているのに対し,引用意匠においては,各係止片の裏面中央に小幅な突出片を設けている点」で相違すると認定し,これにより,引用意匠には「各係止片の裏面中央に小幅な突出片」があるが,本願意匠にはこのような形状の突出片がないことを認定している。
そして,審決にいう「各係止片の裏面中央に小幅な突出片」は,原告主張の「内腔に仕切壁状の突出片」に相当するものであるから,審決は,原告が主張する両意匠の嵌合部の構成上の相違点を実質的に認定している。
(イ) 原告は,本願意匠の嵌合部は断面視で略正方形の角筒状であるのに対し,引用意匠の嵌合部は断面視で縦長の角筒状である点で,両意匠は相違する旨主張する。
たしかに,本願意匠の【右側面図】及び【斜視図】(甲3)と引用意匠の【正面図】及び【A-A断面図】(甲5)によれば,原告が主張するような嵌合部の断面視における差異がみられるものの,上記差異は,略正方形の角筒状か,縦長の角筒状というもので,微弱な差異にとどまるものであって,看者の注意を惹くような差異ではない。
したがって,上記差異は,審決の共通点(1)の認定を左右するものでないことはもとより,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものでもない。
(ウ) 原告は,本願意匠の嵌合部の内部に形成される空間は,外郭が略正方形をなし,背面側に開口するチャネル状をなす形状であるのに対し,引用意匠の嵌合部の内部に形成される空間は,チャネル状(水路状)から離れた背面側に開口する櫛歯状をなす形状である点で,両意匠が相違する旨主張する。
しかし,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間がチャネル状(溝状ないし水路状)である点で共通していることは前記アのとおりであり,このことは両意匠の空間が断面視で略正方形か縦長であるかによって左右されるものではないし,引用意匠において係止片の裏面中央に突出片があることも,その形状,大きさ等に照らせば,引用発明の嵌合部の内部に形成される空間がチャネル状のものであると認識することの妨げとなるものではないというべきである。したがって,引用意匠の嵌合部の内部に形成される空間が,原告がいうように「チャネル状から離れた」形状であるということはできず,両意匠の嵌合部が「平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成」している点で共通しているとした審決の認定に誤りはない。
なお,原告がいう引用意匠の上記空間が「櫛歯状」をなす形状であるとの点は,引用意匠の係止片の裏面中央にある突出片を「櫛歯」に例えて上記空間を表現したものであると理解することができる。しかし,引用意匠の上記突出片の位置,形状,大きさ等に照らすと,上記空間を全体的に観察した場合に,その空間を原告のいうように「櫛歯状」のものと表現することは妥当とはいえず,引用意匠の上記空間をチャネル状のものとした審決の認定は相当である(なお,仮に「櫛歯状」のものととらえ得るとしても,前記(ア)のとおり,審決は,相違点(1)において,引用意匠には係止片の裏面中央に突出片があるが,本願意匠には突出片がないことを認定しており,突出片の有無による差異については,相違点(1)の評価において実質的に判断しているものである。)。
(エ) 以上によれば,審決が,共通点(1)として,「嵌合部については,平板状の隔壁を内奥部に設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の両縁部に突き当て面を同一平面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた」構成を有する点で,両意匠が全体の基本構成を共通にすると認定したことの誤りをいう原告の上記主張は,採用することができない。
2 相違点の看過について(1) 原告は,嵌合部が,物品の取付構造部を構成する部位で,需要者である設計者・建築工事者が注視し,有意の差異として認識する部分であるにもかかわらず,審決は,両意匠の嵌合部の形態が著しく相違するのに,これを看過した旨主張する。
しかし,原告がいう両意匠の嵌合部の形態の相違は,前記1(2)イ(ア)ないし(ウ)記載の原告の主張と同旨のものであって,先に説示したとおり,微弱な差異であって両意匠の類否判断に影響を及ぼさないものか,あるいは両意匠の差異に当たるといえないものか,又は審決が相違点(1)において実質的に相違点として認定しているものであるから,相違点の看過をいう原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は,本願意匠は,見付け寸法(正面から見た寸法)を25ミリとしている形態のため整った優美な印象を与えるのに対し,引用意匠は,寸法25ミリから外れた形態であることで,ずんぐりした印象を与える点で,両意匠は顕著に相違するのに,審決は,上記相違点を看過した誤りがある旨主張する。
しかしながら,原告がいう本願意匠の見付け寸法が25ミリであるとの点は,原告作成の平成16年12月20日付け手続補正書(甲4)に添付の資料1の図1の記載を根拠とするものであるが,甲4に,「【審判番号】 不服2004-23889」(1頁5行),「【補正対象書類名】審判請求書」(同17行),「【補正対象項目】 請求の理由」(同18行)との記載があることから明らかなとおり,甲4は,本件の審判請求書を補正する手続補正書であって,本件出願に係る願書の記載事項及び願書添付の意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を補正する書面ではなく,他に本願意匠の見付け寸法が25ミリであることが本件出願に係る願書及び上記図面に記載されていることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本願意匠の見付け寸法が25ミリであるものとは認められないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして採用することができない。
3 類否判断について審決は,@「共通点(1)に示す形態は,両意匠の骨格を成すものであるとともに,両意匠の支配的基調を形成するものであり,これによって,観察者に共通の美感を起こさせるとともに,両意匠間に強い類似性をもたらしているものと認められる。」とした上で,A「相違点(1)の係止片の形態における差異については,本願意匠の嵌合部の形態が単なるリップ溝形鋼状のありふれたものであって,本願意匠を特徴付けるものとは成し得ないものであることから,全体的に見れば,その差異は局所的微差に止まり,前記共通点に基づく類似性を凌ぐものではない。」,B「相違点(2)のタッピングホールの配置における差異については(判決注・審決の「差異ついては」は誤記と認められる。),本願意匠のタッピングホールの配置態様が常套的手法に基づく月並みなものであって,本願意匠を特徴付ける要素とは成し得ないものであることから,その差異は局所的微差に止まり,両意匠の類否を左右するものではない。」,C「相違点(3)の厚みに対する張り出し幅(全幅)の比率における差異については,その差異は僅かであって,両意匠の基調を異にする程のものではない。」,D「これらの相違点に係る態様が相俟って表出する効果を勘案しても,前記共通点から惹起される両意匠の圧倒的な類似性を凌ぐ視覚効果を認めることはできない。」として,本願意匠は引用意匠に類似すると判断している(審決書2頁18行〜38行)。
(1) 原告は,審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))の認定には,視覚では認識できない観念上の形態を構成要素とし,かつ,顕著に相違する両意匠の嵌合部の形態を同一視した誤りがあるから,この誤った全体の基本構成の対比に基づいてした両意匠の美感・類似性についての審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら,前記1で説示したとおり,審決の共通点(1)の認定に,原告主張の誤りはない。
そして,本願意匠と引用意匠を比較すると,審決が上記@で指摘するように,共通点(1)の全体の構成は,両意匠の支配的基調を形成するもので,これによって,看者に共通の美感を起こさせるものであり,視覚的な印象として両意匠間に強い類似性をもたらしているものということができる。
(2) また,原告は,両意匠の嵌合部の形態について,本願意匠では,内面側に突起部のないきれいなチャネル状の形状としているのに対し,引用意匠では,内面側に下駄の歯のような2本の突起部を設けた櫛歯状の異様な形状としているという差異があり,この嵌合部の形状の差異は,著しい特徴の差異となっており,両意匠を誤認混同させることなく区別し得る明瞭な差異であるから,本願意匠は引用意匠と類似していない旨主張する。
しかし,本願意匠と引用意匠を比較すると,係止片の裏面中央に小幅な突出片を設けているか否かの差異は,突出片の形状,位置,大きさ等に照らし,審決が上記Aで指摘するように,局所的で微弱なものであって,共通点(1)によって醸し出される両意匠の類似性を凌駕するものであるということはできない。また,乙1,2及び弁論の全趣旨によれば,本願意匠の係止片の形状は,従来からあるありふれた形状であって,本願意匠に独特の美感を生じさせるものではない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 原告は,本願意匠は,見付け寸法を黄金律ともいうべき25ミリとすることで,落ち着いた特有の美感を惹起させるようにしているから,本願意匠は引用意匠と類似していない旨主張するが,前記2(2)で説示したとおり,本願意匠の見付け寸法が25ミリであるものとは認められないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして採用することができない。
(4) 前記(1)のとおり,共通点(1)の全体の構成は,両意匠の支配的基調を形成するもので,これによって,看者に共通の美感を起こさせるものであり,視覚的な印象として両意匠間に強い類似性をもたらしているものであるところ,審決が上記Dで指摘するとおり,相違点(1)ないし(3)に係る態様が相俟って表出する効果を勘案しても,上記共通点から醸し出される両意匠の圧倒的な類似性を凌ぐ視覚効果を認めることはできないから,本願意匠は引用意匠に類似するとした審決の判断に誤りはないというべきである。
4結論以上のとおり,原告主張の取消事由には理由がなく,他に審決を取り消すべき誤りは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀