関連審決 |
不服2004-23895 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11行ケ351審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成18行ケ10462審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成14行ケ422審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成18行ケ10460審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成18行ケ10156審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 物品 / 形状 / 機能美 / 意匠に係る物品 / 意匠の説明 / 3条1項3号 / 類似の意匠 / 意匠の類否 / 類似性(類否判断) / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10010号
審決取消請求事件
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原告 田中金属株式会社 訴訟代理人弁理士 新関和郎 被告 特許庁長官中嶋 誠 指定代理人 岩井芳紀 同藤正明 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/07/06 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2004-23895号事件について平成17年11月16日にした審決を取り消す。 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成15年11月26日,別紙審決書写し添付の別紙1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠に係る物品を「金属製ブラインドのルーバー」として意匠登録出願(意願2003-35205号)し,特許庁が平成16年10月14日拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として審判請求をした。 特許庁は,同請求を不服2004-23895号事件として審理した結果,平成17年11月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月7日,原告に送達された。 2 審決の内容別紙審決書写し記載のとおりである。要するに,本願意匠は,別紙審決書写し添付の別紙2記載の意匠登録第941858号の類似1号の意匠(以下「引用意匠」という。)と類似し,意匠法3条1項3号に該当するので,意匠登録を受けることができないというものである。 審決がその判断の前提として認定した本願意匠と引用意匠との共通点及び相違点は,次のとおりである。 (共通点)(1) 一定の断面形状で長手方向に連続するルーバー材であって,背面側(引用意匠においては右側面側,以下同様)に嵌合部を設け,嵌合部とその近傍を除く大部分を正面側(引用意匠においては左側面側)下方に傾斜する片流れの中空平板状に形成するとともに先端部を断面視円弧状に丸め,嵌合部については,内奥部に隔壁を設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた全体の基本構成。 (2) 外周壁の上面傾斜壁上端部を鈍角に曲げて小幅な水平面を形成するとともに嵌合部の上方側壁を構成し,下面傾斜壁の上部を鈍角に曲げてやや幅広の緩斜面を形成するとともに嵌合部の下方側壁を構成している点。 (相違点)(1) 嵌合部の形態について,本願意匠においては,隔壁を垂直な平板状とし,該隔壁の上端を嵌合部の上方側壁基部裏側に,下端を下面傾斜壁の上部緩斜面中間部裏側にそれぞれ連接し,係止片を単なる平板状としているのに対し,引用意匠においては,隔壁の大部分を垂直な平板状とし,その上下端部にそれぞれ反対方向に鈍角に屈折する小幅なエッジを設けて上端を上面傾斜壁裏側に,下端を下面傾斜壁の上部緩斜面中間部裏側にそれぞれ連接し,係止片の先端部を鉤状に小さく曲げている点。 (2) タッピングホールの有無について,本願意匠においては,嵌合部内奥の上下両隅部及び中空部の正面側に各1箇所ずつ,合計3箇所にタッピングホールを設けているのに対し,引用意匠においては,タッピングホールを設けていない点。 (3) 外周壁の上面傾斜壁上端水平部の張り出し幅(本願意匠においては平面図上下方向,引用意匠においては平面図左右方向)が全体の張り出し幅に占める割合について,本願意匠においては,略1:3強程度であるのに対し,引用意匠においては,略1:7強程度である点。 |
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当事者の主張
1 原告主張の審決の取消事由審決は,本願意匠と引用意匠との共通点の認定を誤り,相違点を看過した結果,本願意匠が引用意匠と類似するとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。 (1) 共通点(1)の認定の誤りア 審決は,共通点(1)において,両意匠の嵌合部の形態について,隔壁と一対のリップ状係止片との間に「背面側に開口するチャネル状空間」を形成する形状と認定し,嵌合部の外郭を構成する上方側壁及び下方側壁を除外し,輪郭形状を除外した抽象的な形状のものとして,視覚によっては感知することができず,観念としてしか認識し得ない観念上の形状としてとらえ,嵌合部の形態がどのような形状態様のものであるかを不分明にしているから,審決が,これを全体の基本構成(共通点(1))として認定しているのは誤りである。 イ また,溝・水路を表意する「チャネル(channel)」なる語は,機械分野を中心とする技術用語としては,「@みぞ」,「Aみぞ形鋼の意」,「B電波の周波数帯」,「C水路」として用いられ(甲1の95頁),当業界に使用される場合は,「みぞ形鋼」を指すものとして用いられている。この「みぞ形鋼」は,「断面コの字形の形状の形鋼」をいい(甲2の3-61頁),一方で,「みぞ形鋼」の「コの字形の上下の両端にリップ状の突出片が付いた形状の形鋼」は,「リップみぞ形鋼」と別の用語が用いられたり(甲3の3-77頁),「Cチャンネル」,「C形鋼」とも表記され(甲4の3-81頁,甲5の15頁),「みぞ形鋼」とは別称されている。水路形の形状のものでも,U字形の形状の形鋼(ステンレス)は,「ステンレスチャンネル」の語が用いられ(甲6の3-82頁),それぞれの形状に対応した形状表現の語が使用されている。 さらに,「みぞ」についても,断面において,内奥に向け次第に拡幅するくさび形のものは,「ありみぞ」といい(甲7の165頁,166頁),「みぞ」とは別の用語が用いられている。 以上のことからすると,嵌合部の内部に形成される空間の形状は,本願意匠は「ありみぞ形」で,引用意匠は「縦長五角形」であるのに,審決が,両意匠の上記空間の形状を「チャネル状空間」として共通する形状であると認定したことは,形状表現の語として適切でないというべきである。 (2) 共通点(2)の認定の誤り引用意匠は,上面傾斜壁の上端側が隔壁を越して上方に延びて,上面傾斜壁上端部(嵌合部の上方側壁)となり,そこから鈍角に曲げられて,嵌合部の小幅な水平面を形成する構成であるのに対し,本願意匠は,上面傾斜壁の上端側が隔壁の上端部の正面側に突き当たったところで終わり,上端部に形成される上方側壁は存在せず,隔壁の上端部から幅広で少し傾斜する平面を形成する嵌合部の水平面が背面側に延びる構成である。 したがって,引用意匠は審決認定の共通点(2)の「嵌合部の上方側壁」の構成を有しているが,本願意匠は上記構成を有していないから,上記構成が両意匠に共通するとした審決の共通点(2)の認定は誤りである。 (3) 相違点の看過本願意匠と引用意匠との間に,以下のとおり,嵌合部それ自体の形態についての相違点,嵌合部の内部空間の形状についての相違点,嵌合部の背面側の開口の両縁部位に形成される取付構造部の形状についての相違点,嵌合部の片流れの中空平板状の部分に対する連結形態の相違点があるのに,審決には,これらの相違点を看過した誤りがある。 ア 本願意匠の嵌合部は,前面側に位置する隔壁,上面側に位置する少し下向きに傾斜した幅広の水平面,下面側に位置する上向き傾斜の幅広の下方側壁,背面側に位置する同一垂直面上に揃えた一対のリップ状係止片,それらリップ状係止片の間隔内に形成される開口とで構成され,断面視において,背面側に向け上下の幅が狭くなる横向きの台形状で,背面側に開口を有する形状である。 一方,引用意匠の嵌合部は,前面側に位置する隔壁,上面側に位置する上向きに傾斜する上方側壁とその上端部から鈍角に屈曲する小幅の水平面,下面側に位置する上向きに傾斜するやや幅広の下方側壁,背面側に位置する同一垂直面上に揃えた一対のリップ状係止片,それらリップ状係止片の各先端部から内側に曲げられた鉤状片,それらリップ状係止片の対向する間隔により形成される開口とで構成され,断面視において,前後の幅方向に,斜めに押し潰された形状の縦長の略五角形で,背面側に開口を有する形状である。また,天井面となる上方側壁が,上面傾斜壁の隔壁を越して延長した上面傾斜壁上端部により形成されていることで,片流れの中空平板状の部分を延長して形成した形態のものである。 このように本願意匠の嵌合部は,背面側に開口を有する,断面視で横向きの台形状の形状で,上面側を,僅かに下向きに傾斜する水平面だけで平板状に形成しているのに対し,引用意匠の嵌合部は,背面側に開口を有する,断面視で縦長の五角形状をなす形状で,上面側を,上向きに傾斜する上方側壁と小幅の水平面とで,切妻の屋根状に形成しており,両意匠は嵌合部の形態が顕著に相違するのに,審決には,この相違を看過した誤りがある。 被告は,嵌合部それ自体の形態の相違は,審決が,相違点(1)として実質的に認定している旨主張するが,相違点(1)における認定は,隔壁の形状と,その隔壁の上下の両端部の連接位置の認定であり,嵌合部の形態についてのものではないから,上記主張は失当である。 イ 嵌合部の内部に形成される空間は,引用意匠では,外周の輪郭が,嵌合部の内周面の輪郭に倣う,背面側に開口する縦長の五角形の変形溝形の形状であるのに対し,本願意匠では,外周の輪郭が,嵌合部の内周面の輪郭に倣う,背面側に開口する横向きの「ありみぞ」の形状であり,両意匠は上記空間の形状が顕著に相違するのに,審決には,この相違を看過した誤りがある。 ウ 物品ルーバー材をネジにより取付枠に組み付けるときの取付構造部について,本願意匠においては,リップ状係止片の前面側(内面側)の前面に,ネジで締め付けるフラットな座板が接合し,リップ状係止片の背面側(外面側)を前面に,取付部材が接合して,ネジ及びナットの締め付けにより,このリップ状係止片を座板と取付部材とに挟み付ける構造であり,嵌合部の取付構造の形状は,リップ状に対向する一対のリップ状係止片の形状である。 一方,引用意匠においては,嵌合部の背面側の開口の両縁部位の各内側位置に,リップ状係止片とそれの先端部を内側に小さく曲げた鉤状片とで,座板のフランジの上下両端に形設された突条が嵌り込む小さいU字状の嵌合溝を形成しておいて,ネジの座板に対するネジ込みにより,開口の両縁部位の内側に形成した小さいU字状の嵌合溝と座板のフランジ端部の突条とを嵌合させて,開口の両縁部位を座板に係止させることで,ルーバー材を取付部材に組み付ける構造であり,嵌合部の取付構造の形状は,リップ状係止片,それの先端部の鉤状片,それらの内側に形成される嵌合溝とで構成される形状である。 嵌合部の取付構造の形状・形態は,需要者である建築を専門とする設計者・施工者が必然的に注視するところであり,機能・構造に係わる部材であるが,機能美といわれるように独特の美感を惹起するものであるところ,上記のとおり,本願意匠の取付構造の形状はリップ状係止片だけからなるのに対し,引用意匠の取付構造の形状はリップ状係止片,鉤状片,嵌合溝とからなり,両意匠は取付構造の形状・形態が顕著に相違するのに,審決には,上記相違を看過した誤りがある。 エ 本願意匠における嵌合部の片流れの中空平板状の部分に対する連結形態は,片流れの中空平板状の部分の上面傾斜壁の上端部が隔壁の上端部で止まり,その隔壁の上端部から嵌合部の水平面を後方に突出させていることで,片流れの中空平板状の部分の背面側の端部が隔壁により蓋をされ,嵌合部が,この片流れの中空平板状の部分の端部に突き当てて一体に接合した形態である。 一方,引用意匠における嵌合部の片流れの中空平板状の部分に対する連結形態は,片流れの中空平板状の部分の内部の上端側に寄る部位に設けた隔壁により,嵌合部を,片流れの中空平板状の部分の隔壁よりも背面側の部位に形設して,その片流れの中空平板状の部分を延長させて形成している形態である。 このような嵌合部と片流れの中空平板状の部分との接続(連結)形態の相違は,両意匠のそれぞれの特徴をあらわし,それぞれ異なる特有の美感を惹起させる視覚効果をもたらす大きな相違であるのに,審決には,上記相違を看過した誤りがある。 (4) 類否判断の誤りア 審決は,「共通点(1)に示す形態は,両意匠の骨格を成すものであり,これに共通点(2)に示す形態を併合することによって,意匠全体の支配的基調が形成され,観察者に共通の美感を起こさせるとともに,両意匠間に強い類似性をもたらしているものと認められる。」(審決書2頁27行〜31行)と判断している。 しかし,共通点(1)の全体の基本構成は,視覚によっては判別し得ず,文言構成から観念上でだけ判別し得る,形状を特定しない抽象的な形状表現を含むものであり,共通点(2)は両意匠の内容を誤認したものであるから,共通点(1),(2)を併せたものの形態から視覚による美感が惹き起こされるわけがない。 また,前記のとおり,両意匠の全体の基本構成は,嵌合部の形状及び嵌合部の内部に形成される空間の形状において顕著に相違し,共通するものではないから,観察者に共通の美感を起こさせることや,両意匠間に強い類似性をもたらすことなどあり得ない。 したがって,審決の上記判断は誤りである。 イ 審決は,「相違点(1)の嵌合部の形態における差異については,本願意匠の嵌合部の形態が略リップ溝形鋼状のありふれたものであって,本願意匠を特徴付けるものとは成し得ないものであり,隔壁及び係止片先端部に見られる差異も,当該物品の使用時には内奥に隠れてしまう部位に係るものであることから,全体的に見れば,その差異は局所的微差に止まり,前記共通点に基づく類似性を凌ぐものではない。」(審決書2頁32行〜37行)と判断している。 (ア) しかし,審決が,本願意匠の嵌合部の形態について,共通点(1)として認定した全体の基本構成における形状表現によれば「背面側に開口するチャネル状空間を形成する形状」であるのに,類否判断の際に「略リップ状溝形鋼状」であることを前提に判断しているのは,矛盾した論理である。しかも,嵌合部の形態の差異に基づく類似性の判断を,嵌合部の形態が「背面側に開口するチャネル状空間を形成する形状」であるとしている全体の基本構成に基づく類似性との対比において行っているのだから,不合理であり誤ったものである。 (イ) さらに,係止片先端部(鉤状片)は,物品の取付構造部を構成する部材で,需要者である設計者,建築工事者が注目するところであるから,局所的であっても,その形態の差異は,有意の差異として認識されるものであり,使用時に隠れてしまうからとして有意の差異であることを認めない審決の判断は誤りである。 ウ 前記のとおり,審決には両意匠の相違点の看過があり,それぞれの相違点は,両意匠をそれぞれ特徴づけている形状・形態についての差異であり,両意匠を判然と区別し得る視覚効果をもたらすものである。 そして,本願意匠と引用意匠を対比すると,全体の基本構成において相違しているのみならず,上記看過された相違点に係る態様から,両意匠は混同を生ずることなく判然と区別されるから,本願意匠は,引用意匠と非類似の意匠である。 したがって,本願意匠は,引用意匠に類似するとした審決の判断は誤りである。 2 被告の反論(1) 共通点(1)の認定の誤りに対しア 審決認定の共通点(1)は,願書記載の意匠の説明及び願書添付の図面に基づいて両意匠を全体的に対比し,観察した結果として,両意匠の主要な構成要素である外観形態に焦点を置き,視覚を通じて認識し得る基本的な構成態様を摘記したものであって,それが意匠全体の基本構成を成しているとしたものである。 一般に,視覚を通じて感知した形象に基づいて,観察者が対象物のイメージ又は形態の観念を形成することは当然のことであり,審決が,共通点(1)において,嵌合部の形態の概要を端的に表現するため,「チャネル状空間」の語を用いて認定したことに誤りはない。 イ 審決は,嵌合部の形態について,共通点(1)にその基本的な構成態様を,共通点(2)に外周壁の一部が嵌合部の上方側壁及び下方側壁を構成している具体的態様を,相違点(1)に隔壁の具体的な形状及び配置態様を,相違点(3)に上方側壁における水平部の張り出し幅の寸法比率をそれぞれ示しており,原告の主張する嵌合部の輪郭形状を,実質的に漏れなく認定し,評価していることは明らかである。 なお,原告は,審決に用いた「チャネル状空間」の「チャネル」の語による形状表現が,当業界で用いられる「チャネル」に関連した用語による形状表現の内容と整合せず,適切でない旨主張するが,審決は,「チャネル状」の語を「溝状」若しくは「樋状」の意で用いたものであって,線状に凹部が連なる様子を表す用語として,これが一般的なものであることは,乙1,2に示すとおりである。 したがって,審決の共通点(1)の認定に誤りはない。 (2) 共通点(2)の認定の誤りに対し審決認定の共通点(2)は,外周壁における嵌合部の上方側壁及び下方側壁と上面傾斜壁及び下面傾斜壁との形態的関係を示したものであり,本願意匠において,外周壁の上面傾斜壁上端部を鈍角に曲げて形成された小幅な水平面が嵌合部の上方側壁を構成していることは,本願意匠の図面から明らかである。また,引用意匠における隔壁上端部の接合位置が本願意匠と異なる点については,相違点(1)に示すとおりである。 したがって,審決の共通点(2)の認定に誤りはない。 (3) 相違点の看過に対しア 原告主張の嵌合部それ自体の形態の相違は,嵌合部の輪郭形状の相違に相当するものであるが,審決は,それを相違点(1)として実質的に認定しているから,原告がいう相違を看過していない。 審決は,@輪郭形状が物品の使用時には内奥に隠れてしまう部位に係るものであることから,両意匠の構成要素としては枝葉に属するものであること,A両意匠の取付部材に対する固着手法若しくは接続構造に関与する主な部位が背面側に設けられた一対のリップ状係止片であって,輪郭形状若しくはその内部空間の形状自体ではないこと,B輪郭形状が外周壁(嵌合部の上方側壁及び下方側壁を含む。),隔壁及びリップ状係止片の形状に基づいて,従属的かつ一義的に決定されるものであるため,両意匠の類否判断に際し,外周壁,隔壁及びリップ状係止片の形態における共通点及び相違点を認定し,嵌合部について意匠の構成要素としての軽重を評価すれば十分であることから,原告の主張する輪郭形状については,両意匠の類否判断に際し敢えて取り上げるべきものではないと判断したものである。 また,原告が「横向きの台形状」と主張する本願意匠の嵌合部それ自体の断面形状は,審決においては,それが断面視矩形状に屈曲する典型的なリップ溝形鋼の一方の側壁を傾斜させた形態に相当するものであることから,「略リップ溝形鋼状」と評価したものであり,その形態は,従来からありふれたものである(乙3,4)。 イ 原告主張の嵌合部の内部空間は,審決が「チャネル状空間」と認定した部位に相当するものであり,審決は上記空間の形状を認定している。 審決は,上記ア@ないしBに挙げたのと同様の理由により,原告が主張する内部空間の形状については,両意匠の類否判断に際して敢えて取り上げるべきものではないと判断したものである。また,原告が「ありみぞ」と主張する本願意匠の内部空間の断面形状は,従来からありふれたものである(乙3,4)。 ウ 原告は,嵌合部の背面側の開口の両縁部位に形成される取付構造部の形状について,引用意匠の係止片先端部の鉤状に曲げた部分をリップ状係止片から独立させて「鉤状片」と呼び,引用意匠の取付構造部が「リップ状係止片」と「鉤状片」とで構成されている点で,本願意匠と相違する旨主張するが,上記主張は,審決が相違点(1)に示した引用意匠の係止片の形状「係止片の先端部を鉤状に小さく曲げている」を微視的かつ断片的に表現しただけのものであって,審決が原告主張の取付構造部の形状を看過していないことは明らかである。 また,本願意匠の係止片の形状は単なる平板状であって,対を成す係止片の態様もリップ溝形鋼等に見られるありふれたものである(乙3,4)。 エ 原告の主張する「嵌合部の片流れの中空平板状の部分に対する連結形態」とは,隔壁の配置態様に帰着するものであり,審決は,相違点(1)に隔壁の配置態様を具体的に示しているから,原告主張の相違点の看過はない。 (4) 類否判断の誤りに対しア 前述のとおり,審決に共通点(1),(2)の認定の誤り及び相違点の看過はなく,本願意匠が引用意匠に類似するとした審決の類否判断に誤りはない。 イ(ア) 原告は,審決が,嵌合部の形態について,共通点(1)の全体の基本構成においては「背面側に開口するチャネル状空間を形成する形状」と認定しているにもかかわらず,類否判断に際し,これを「略リップ溝形鋼状」としており,矛盾した論理である旨主張するが,審決が共通点(1)において基本構成の認定に用いた「チャネル状」の語は,前述のとおり「溝状」若しくは「樋状」の意で用いたものであって,独立した物品である「リップ溝形鋼」の形態から想起されるイメージとも矛盾するものではない。また,審決が本願意匠の嵌合部の形態を「略リップ溝形鋼」と評価した理由は,それが典型的なリップ溝形鋼の一方の側壁を傾斜させた形態に相当することによるものであり,その形態が従来からありふれたものであることは,前述のとおりである。 (イ) 原告は,両意匠における係止片先端部の相違を有意な差異として認めない審決の判断は誤りである旨主張するが,本願意匠の係止片が単なる平板状のありふれたものであり,引用意匠との差異も意匠に係る物品の使用時には内奥に隠れてしまう部位に係る微細なものである以上,類否判断における有意な差異であるとは到底認められないものであるから,上記主張は失当である。 |
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当裁判所の判断
1 共通点の認定について(1) 本願意匠(甲9)と引用意匠(甲10)を対比すると,両意匠が,「一定の断面形状で長手方向に連続するルーバー材であって,背面側に嵌合部を設け,嵌合部とその近傍を除く大部分を正面側下方に傾斜する片流れの中空平板状に形成するとともに先端部を断面視円弧状に丸め,嵌合部については,内奥部に隔壁を設けて背面側に開口するチャネル状空間を形成し,開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面上に揃えた一対のリップ状係止片を設けた全体の基本構成」を有する点(共通点(1)),「外周壁の上面傾斜壁上端部を鈍角に曲げて小幅な水平面を形成するとともに嵌合部の上方側壁を構成し,下面傾斜壁の上部を鈍角に曲げてやや幅広の緩斜面を形成するとともに嵌合部の下方側壁を構成している点」(共通点(2))で共通しているとの審決の認定は,是認することができる。 (2) 原告は,審決は,両意匠の嵌合部の形態について,隔壁と一対のリップ状係止片との間に「背面側に開口するチャネル状空間」を形成する形状と認定し,嵌合部の外郭を構成する上方側壁及び下方側壁を除外し,輪郭形状を除外した抽象的な形状のものとして,視覚によっては感知することができず,観念としてしか認識し得ない観念上の形状としてとらえ,嵌合部の形態がどのような形状態様のものであるかを不分明にしているから,審決が,これを全体の基本構成(共通点(1))として認定しているのは誤りであると主張する。 ア しかし,審決認定の共通点(1)の記載によれば,両意匠は,「一定の断面形状で長手方向に連続するルーバー材」であり,「嵌合部とその近傍を除く大部分を正面側下方に傾斜する片流れの中空平板状に形成」するとともに,「先端部を断面視円弧状に丸め」ており,嵌合部は,「内奥部に隔壁を設けて背面側に開口」し,その「開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面上に揃えた一対のリップ状係止片を設け」ているものであるから,@両意匠の嵌合部は,開口部を有し,その開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面上に揃えた一対のリップ状係止片が設けられていること,A嵌合部の開口部の内奥部に隔壁が設けられていること,B長手方向に連続するルーバー材である以上,嵌合部は外周壁で囲まれていること(なお,共通点(2)にも外周壁の一部が「嵌合部の上方側壁」,「嵌合部の下方側壁」を構成していることが表現されている。)を理解することができる。 そうすると,共通点(1)にいう嵌合部は,開口部,隔壁,一対のリップ状係止片,外周壁とで構成された,輪郭のある具体的な形状を有するものであって,視覚を通じて感知することができるものであることは明らかである。 イ そして,共通点(1)にいう「背面側に開口するチャネル状空間」は,上記アで認定した形状を有する嵌合部の内部に形成される空間を意味することは明らかである。 ところで,甲1(英和・和英 機械用語図解辞典第2版(日刊工業新聞社発行))には,「channel チャネル」とは,「@ みぞ.A みぞ形鋼の意.B 電波を割り当てる周波数帯.・・・C 水路.」の意味である旨の記載がある。 上記記載によれば,「チャネル状」とは,「みぞ状」,「水路状」などを意味するものとして理解することができる。 そして,本願意匠の【右側面図】及び【斜視図】(甲9)と引用意匠の「正面図」及び「A-A線断面図」(甲10)を見れば,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間が「溝状」(「みぞ状」)である点で共通することを視覚を通じて感知することができるものである。この溝状の空間の形状から,審決が,上記空間を「チャネル状」と表現したことは是認できるものである。 そうすると,審決にいう「背面側に開口するチャネル状空間」なる空間の形状は,視覚を通じて感知することができるものであり,原告のいうような単なる観念上の形状であるとはいえない。 ウ 原告は,「みぞ」についても,断面において,内奥に向け次第に拡幅するくさび形のものは,「ありみぞ」といい,「みぞ」とは別の用語が用いられていることなどからすると,嵌合部の内部に形成される空間の形状は,本願意匠は「ありみぞ形」で,引用意匠は「縦長五角形」であるのに,審決が,両意匠の上記空間の形状を「チャネル状空間」として共通する形状であると認定したことは,形状表現の語として適切でない旨主張する。 しかし,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間が「溝状」のものであることは,両意匠に基本的な構成として共通する形状であり,これを「チャネル状」と表現することは何ら不適切であるということはできず,審決が,両意匠の上記空間が「溝状」すなわち「チャネル状」のものである限度で共通しているとして共通点(1)を認定したことに誤りがあるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。 エ 以上によれば,審決が,嵌合部の形態について,視覚によっては感知することができず,観念としてしか認識し得ない観念上の形状としてとらえており,また,「チャネル状空間」という表現が形状表現の語として適切でないとして,共通点(1)の認定の誤りをいう原告の上記主張は,採用することができない。 (3) 原告は,引用意匠は,上面傾斜壁の上端側が隔壁を越して上方に延びて,上面傾斜壁上端部(嵌合部の上方側壁)となり,そこから鈍角に曲げられて,嵌合部の小幅な水平面を形成する構成であるのに対し,本願意匠は,上面傾斜壁の上端側が隔壁の上端部の正面側に突き当たったところで終わり,上端部に形成される上方側壁は存在せず,隔壁の上端部から幅広で少し傾斜する平面を形成する嵌合部の水平面が背面側に延びる構成であり,引用意匠は審決認定の共通点(2)の「嵌合部の上方側壁」の構成を有しているが,本願意匠は上記構成を有していないから,上記構成が両意匠に共通するとした審決の共通点(2)の認定は誤りであると主張する。 原告の主張は,要するに,本願意匠の外周壁の上面傾斜壁上端部を鈍角に曲げて形成する水平面が「嵌合部の上方側壁」を構成しないというものと解されるところ,本願意匠の【右側面図】(甲9)と引用意匠の「正面図」及び「A-A線断面図」(甲10)に照らすと,審決は,共通点(2)において,外周壁の上面傾斜壁と隔壁の上端部との連接部から水平面の右端までを「嵌合部の上方側壁」と,外周壁の下面傾斜壁と隔壁の下端部との連接部から緩斜面の右端までを「嵌合部の下方側壁」とそれぞれ表現していることは明らかである。そして,上記連接部から水平面・緩斜面の右端までの各部位は,隔壁を基準に見れば側面に位置するから,審決が,これを「上方側壁」又は「下方側壁」と表現したことが誤りであるということはできず,原告の上記主張は採用することができない。 2 相違点の看過について(1)ア 原告は,本願意匠の嵌合部は,背面側に開口を有する,断面視で横向きの台形状の形状で,上面側を,僅かに下向きに傾斜する水平面だけで平板状に形成しているのに対し,引用意匠の嵌合部は,背面側に開口を有する,断面視で縦長の五角形状をなす形状で,上面側を,上向きに傾斜する上方側壁と小幅の水平面とで,切妻の屋根状に形成しており,両意匠は嵌合部の形態が顕著に相違するのに,審決は,上記相違を看過した旨主張する。 たしかに,本願意匠の【右側面図】(甲9)と引用意匠の「正面図」及び「A-A線断面図」(甲10)に照らすと,両意匠には原告が主張するような嵌合部の断面視における形状に差異(ただし,引用意匠の嵌合部は「略五角形状」である。)があるということができる。 しかるに,嵌合部の断面視における輪郭形状は,隔壁,上方側壁,下方側壁,係止片,開口部によって構成されるものであるところ,上記断面視における差異は,主に隔壁の形状,隔壁と上方側壁及び下方側壁との連接位置の差異に起因するものというべきである。そして,審決は,嵌合部の形態について,共通点(1)でその基本的な構成態様を,共通点(2)で外周壁の一部が嵌合部の上方側壁及び下方側壁を構成している態様を認定した上で,相違点(1)において,「本願意匠においては,隔壁を垂直な平板状とし,該隔壁の上端を嵌合部の上方側壁基部裏側に,下端を下面傾斜壁の上部緩斜面中間部裏側にそれぞれ連接し,係止片を単なる平板状としているのに対し,引用意匠においては,隔壁の大部分を垂直な平板状とし,その上下端部にそれぞれ反対方向に鈍角に屈折する小幅なエッジを設けて上端を上面傾斜壁裏側に,下端を下面傾斜壁の上部緩斜面中間部裏側にそれぞれ連接し,係止片の先端部を鉤状に小さく曲げている点」で両意匠は相違すると認定しているから,審決は,原告主張の嵌合部の断面視における差異を実質的に認定しているというべきである。したがって,審決に,原告のいう上記相違点の看過はない。 イ 原告は,審決の相違点(1)における認定は,隔壁の形状と,その隔壁の上下の両端部の連接位置の認定であり,嵌合部の形態についてのものではない旨主張するが,相違点(1)には,隔壁の形状及び連接位置のみならず,その連接される外周壁が引用意匠では「上面傾斜壁裏側」であることなども記載されており,嵌合部の上面側における形状の差異も実質的に認定されているものといえるから,原告の上記主張は失当である。 (2) 原告は,嵌合部の内部に形成される空間は,引用意匠では,外周の輪郭が,嵌合部の内周面の輪郭に倣う,背面側に開口する縦長の五角形の変形溝形の形状であるのに対し,本願意匠では,外周の輪郭が,嵌合部の内周面の輪郭に倣う,背面側に開口する横向きの「ありみぞ」の形状であり,両意匠は上記空間の形状が顕著に相違するのに,審決には,この相違を看過した誤りがある旨主張する。 しかし,両意匠の嵌合部の内部に形成される空間が溝状である点で共通し,審決が,上記空間を「チャネル状」と表現したことが是認できることは,前記1(2)イ,ウ認定のとおりである。 そして,原告がいう上記空間の形状の差異は,主に隔壁の形状,隔壁と上方側壁及び下方側壁との連接位置の差異に起因するものというべきであるところ,先に説示したとおり,審決は,相違点(1)において上記差異を認定しており,相違点(1)の評価に際し,上記空間の形状によって醸し出される視覚的効果について実質的に判断される関係にあるということができるから,審決は,原告がいう上記空間の差異についても実質的に相違点として認定しているというべきである。 (3) 原告は,嵌合部の取付構造の形状・形態は,需要者である建築を専門とする設計者・施工者が必然的に注視するところであり,機能・構造に係わる部材であるが,機能美といわれるように独特の美感を惹起するものであるところ,本願意匠の取付構造の形状はリップ状係止片だけからなるのに対し,引用意匠の取付構造の形状はリップ状係止片,鉤状片,嵌合溝とからなり,両意匠は取付構造の形状・形態が顕著に相違するのに,審決には,上記相違を看過した誤りがある旨主張する。 しかし,甲10によれば,原告がいう引用意匠の取付構造における「鉤状片」,「嵌合溝」は,引用意匠の嵌合部を構成する「リップ状係止片」の先端部の形状を意味することは明らかであり,結局,原告がいう取付構造の形状・形態の差異は,係止片の形状の差異をいうものである。 そして,審決は,相違点(1)において,本願意匠では,「係止片を単なる平板状としている」のに対し,引用意匠では,「係止片の先端部を鉤状に小さく曲げている」点で相違するとして係止片の形状の差異を認定しているから,原告の上記主張は採用することができない。 (4) 原告は,本願意匠における嵌合部の片流れの中空平板状の部分に対する連結形態は,片流れの中空平板状の部分の上面傾斜壁の上端部が隔壁の上端部で止まり,その隔壁の上端部から嵌合部の水平面を後方に突出させていることで,片流れの中空平板状の部分の背面側の端部が隔壁により蓋をされ,嵌合部が,この片流れの中空平板状の部分の端部に突き当てて一体に接合した形態であるのに対し,引用意匠における嵌合部の片流れの中空平板状の部分に対する連結形態は,片流れの中空平板状の部分の内部の上端側に寄る部位に設けた隔壁により,嵌合部を,片流れの中空平板状の部分の隔壁よりも背面側の部位に形設して,その片流れの中空平板状の部分を延長させて形成している形態であり,上記接続形態の相違は,両意匠のそれぞれの特徴をあらわし,それぞれ異なる特有の美感を惹起させる視覚効果をもたらす大きな相違であるのに,審決には,上記相違を看過した誤りがあると主張する。 しかし,原告がいう嵌合部の片流れの中空平板状の部分に対する連結形態の差異は,両意匠の嵌合部を構成する隔壁の形状,隔壁と上方側壁及び下方側壁との連接位置の差異に起因するものであり,上記差異については,審決が相違点(1)として認定しているから,審決は,原告がいう相違点を実質的に認定しているというべきである。 3 類否判断について審決は,@「共通点(1)に示す形態は,両意匠の骨格を成すものであり,これに共通点(2)に示す形態を併合することによって,意匠全体の支配的基調が形成され,観察者に共通の美感を起こさせるとともに,両意匠間に強い類似性をもたらしているものと認められる。」とした上で,A「相違点(1)の嵌合部の形態における差異については,本願意匠の嵌合部の形態が略リップ溝形鋼状のありふれたものであって,本願意匠を特徴付けるものとは成し得ないものであり,隔壁及び係止片先端部に見られる差異も,当該物品の使用時には内奥に隠れてしまう部位に係るものであることから,全体的に見れば,その差異は局所的微差に止まり,前記共通点に基づく類似性を凌ぐものではない。」,B「相違点(2)のタッピングホールの有無における差異については,本願意匠のタッピングホールの形状及び配置態様が常套的手法に基づく月並みなものであって,本願意匠を特徴付ける要素とは成し得ないものであることから,その差異は局所的微差に止まり,両意匠の類否を左右するものではない。」,C「相違点(3)の外周壁の上面傾斜壁上端水平部の張り出し幅が全体の張り出し幅に占める割合における差異については,その差異は目視上僅かであって,両意匠の基調を異にするほどのものではない。」,D「これらの相違点に係る態様が相俟って表出する効果を勘案しても,前記共通点から惹起される両意匠の圧倒的な類似性を凌ぐ視覚効果を認めることはできない。」として,本願意匠は引用意匠に類似すると判断している(審決書2頁27行〜3頁10行)。 (1)ア 原告は,審決における両意匠の全体の基本構成(共通点(1))の認定は,視覚によっては判別し得ず,文言構成から観念上でだけ判別し得る,形状を特定しない抽象的な形状表現を含むものであり,共通点(2)は両意匠の内容を誤認したものであるから,共通点(1),(2)を併せたものの形態から視覚による美感が惹き起こされるわけがないと主張する。 しかしながら,前記1で説示したとおり,審決の共通点(1),(2)の認定に原告主張の誤りはない。 そして,本願意匠と引用意匠を比較すると,審決が上記@で指摘するように,共通点(1)の全体の構成は,両意匠の骨格を成すものであり,これに共通点(2)に示す嵌合部の上方側壁及び下方側壁の構成形態における共通性が加味されることによって,両意匠の支配的基調が形成され,看者に共通の美感を起こさせるものであり,視覚的な印象として両意匠間に強い類似性をもたらしているものということができる。 イ また,原告は,両意匠の全体の基本構成は,嵌合部の形状及び嵌合部の内部に形成される空間の形状において顕著に相違し,共通するものではないから,観察者に共通の美感を起こさせることや,両意匠間に強い類似性をもたらすことなどあり得ない旨主張する。 しかし,両意匠の基調をなす全体の基本構成は共通点(1)のとおりであるところ,原告が主張するような嵌合部及びその内部空間の形状の差異は,ルーバー材としての物品の性質あるいは実際の使用態様を考慮すれば,ルーバー材全体からみると微細な差異であり,意匠的にわずかな差異をもたらすにすぎないというべきであって,両意匠の共通点(1),(2)から醸し出される意匠的な美感を異ならせるものとまでいうことはできない。 (2)ア 原告は,審決が,本願意匠の嵌合部の形態について,共通点(1)として「背面側に開口するチャネル状空間を形成する形状」であると認定しているのに,類否判断の際には「略リップ状溝形鋼状」であることを前提に判断しているのは,矛盾した論理であり不合理である旨主張する。 しかし,審決は,共通点(1)においては,嵌合部の内部に形成される空間を「チャネル状」(「溝状」)と上位概念で認定し,類否判断においては,本願意匠における上記空間の視覚効果を評価する際に,より具体的に(下位概念で)「略リップ状溝形鋼状」と認定したものであり,審決の認定判断に,論理的な矛盾や不合理な点はない。 イ また,原告は,係止片先端部(鉤状片)は,物品の取付構造部を構成する部材で,需要者である設計者,建築工事者が注目するところであるから,局所的であっても,その形態の差異は,有意の差異として認識されるものであり,使用時に隠れてしまうからとして有意の差異であることを認めない審決の相違点(1)に係る判断は誤りであると主張する。 しかしながら,係止片先端部(鉤状片)が,当該物品の使用時に隠れる位置にあることは,審決が指摘するとおりであり,両意匠を全体的かつ離隔的に観察すれば,係止片の形状の差異は,局所的かつ微細な差異で目立つものではなく,両意匠の類否を判断する上においてほとんど影響を与えないものというべきであって,両意匠の共通点(1),(2)から受ける意匠的な美感を異ならせるものとはいえないから,審決に原告がいう判断の誤りはない。 ウ なお,原告は,嵌合部の片流れの中空平板状の部分に対する連結形態について,本願意匠では,片流れの中空平板状の部分の上面傾斜壁の上端部が隔壁の上端部で止まり,片流れの中空平板状の部分の背面側の端部が隔壁により蓋をされ,嵌合部が片流れの中空平板状の部分の端部に突き当てて一体に接合したものであるのに対し,引用意匠では,片流れの中空平板状の部分の内部の上端側に寄る部位に設けた隔壁により,嵌合部を片流れの中空平板状の部分を延長させて形成しているものであり,この接続形態の相違は,それぞれ異なる特有の美感を惹起させる視覚効果をもたらす大きな相違である旨主張する。 しかし,原告の主張する上記差異は,主に嵌合部の形態のうち上面側の差異に起因するものであるところ,両意匠の嵌合部は,いずれも外周壁の一部が嵌合部の上方側壁及び下方側壁を構成して溝状の形状を形成している点で共通しているものであり,その上方側壁が隔壁の上端部から水平面を形成しているか,傾斜面を経由して水平面を形成しているかといった差異は,ルーバー材全体からみると,共通点(1),(2)に見られる両意匠の基本構成及び特徴的な形状の共通性に吸収される程度の差異にすぎないというべきであり,両意匠の共通点(1),(2)から醸し出される意匠的な美感を異ならせるものとまでいうことはできない。 (3) 前記(1)のとおり,共通点(1)の全体の構成は,両意匠の骨格を成すものであり,これに共通点(2)に示す嵌合部の上方側壁及び下方側壁の構成形態における共通性が加味されることによって,両意匠の支配的基調が形成され,看者に共通の美感を起こさせるものであり,視覚的な印象として両意匠間に強い類似性をもたらしているものであるところ,審決が上記Dで指摘するとおり,相違点(1)ないし(3)に係る態様が相俟って表出する効果を勘案しても,共通点(1),(2)から醸し出される両意匠の圧倒的な類似性を凌ぐ視覚効果を認めることはできないから,本願意匠は引用意匠に類似するとした審決の判断に誤りはないというべきである。 4結論以上のとおり,原告主張の取消事由には理由がなく,他に審決を取り消すべき誤りは認められない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 大鷹一郎 |
裁判官 | 嶋末和秀 |