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関連審決 不服2004-23892
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10367審決取消請求事件 判例 意匠
平成14行ケ422審決取消請求事件 判例 意匠
平成19行ケ10209審決取消請求事件 平成19行ケ10210審決取消請求事件 判例 意匠
平成11行ケ351審決取消請求事件 判例 意匠
平成18行ケ10010審決取消請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  物品の形状 /  形状 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  法上の意匠 /  創作容易(容易の創作) /  公然知られた(3条1項1号) /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10156号 審決取消請求事件
原告 田中金属株式会社
訴訟代理人弁理士 新関和郎
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 岩井芳紀
同 小林裕和
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/08/31
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告(1) 特許庁が不服2004-23892号事件について平成18年2月21日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2被告主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成15年11月26日,別紙審決書写し添付の別紙1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠に係る物品を「金属製ブラインドのルーバー」として意匠登録出願(意願2003-35201号)したが,平成16年10月22日付けの拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をした。特許庁は,上記請求を不服2004-23892号事件として審理した結果,平成18年2月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年3月13日,原告に送達された。
2 審決の理由(1) 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願意匠は,その全体の基本構成(下記(2)ア)に係る「外殻部を断面視扁平楕円管状に湾曲させて背面を開放し,開口部内に一対の係止片から成る嵌合部を形成した形態」が,別紙審決書写し添付の別紙2記載の意匠登録第747166号の意匠(以下「引用意匠」という。甲2)に示されるように,本願意匠の出願前(以下「本願出願前」という。)に公然と知られていたものであり,その余の構成(下記(2)イないしエ)には,意匠の構成要素として特筆すべきものがなく,又は,特有の視覚効果が認められないから,本願意匠は,本願出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた形状に基づいて容易に創作できたものと認められ,意匠法3条2項ににより,意匠登録を受けることができないというものである。
(2) 審決は,上記(1)の判断をするに当たり,本願意匠の形態が概ね次のとおりであると認定した。
ア 全体の基本構成一定の断面形状で長手方向に連続するルーバー材であって,断面形状については,外殻部を扁平楕円管状(別紙審決書写し添付の別紙3参照。)に湾曲させて背面側を開放し,開口部内に一対の係止片から成る嵌合部を形成。
イ 嵌合部の形態について,突き当て面を開口端と面一に揃えた断面視リップ溝形鋼状に形成。
ウ 上下の湾曲部内奥にタッピングホールを1箇所ずつ形成。
エ 全体的な寸法比率について,全高:全幅を略4.3:1程度に設定。
原告主張の取消事由の要点
審決は,本願意匠の全体の基本構成の認定を誤り(取消事由1),本願意匠の全体の基本構成と引用意匠との対比を誤り(取消事由2),本願意匠の全体の態様についての判断を遺脱し(取消事由3),意匠法3条2項該当性の判断を誤ったものである(取消事由4)から,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願意匠の全体の基本構成の認定の誤り)審決は,本願意匠の全体の基本構成を前記第2,2(2)アのとおり認定したが,誤りである。
(1) 本願意匠の構成態様は,本願意匠の願書(甲1)添付の「右側面図」に符号を付した下記「図1」を参照しつつ説明すれば,次のとおりまとめることができる。
ア 一定の断面形状で長手方向に連続するルーバー材であって,断面形状については,外殻部aを,上下が長径となり前後が短径となる前後に扁平で縦長の扁平楕円管状で,背面側に開口部1が開放する形状に形成し,開口部1内に,外殻部aの内壁面から水平に突出して上下に並列する一対の棚板2・2と,それらの各突出端からそれぞれ対向する方向に直角に屈曲して突出する一対の係止片3・3とからなる嵌合部bを形成している。
イ 嵌合部bの一対に対向する係止片3・3の突き当て面を,外殻部aの1の端縁と面一に揃えて,嵌合部bの形態を断面視リップ溝形鋼状に形成している。
ウ 外殻部aの上下の湾曲部4・4の内奥にタッピングホール5を1箇所ずつ形成している。
エ 全体的な寸法比率について全高:全幅を,4.3:1程度に設定している。
本願意匠の全体の基本構成は,上記ア〜エの構成態様から,付随的な構成,すなわち,上記イの嵌合部bの一対の係止片3・3の突き当て面についての構成,上記ウのタッピングホール5についての構成,及び上記エの全体的な寸法比率の構成を除いた,骨格となる主要な構成である上記アであるというべきである。
(2) 審決は,本願意匠の外殻部が,前後に扁平で上下が長い縦長の扁平楕円管状になっていることを看過した。すなわち,審決は,本願意匠の全体の基本構成として,外殻部の扁平の方向を特定していないから,外殻部が扁平楕円管状に湾曲させてあれば,上下に扁平な横長の扁平楕円管状でもよいことになるが,これは事実に反する。
(3) 審決は,本願意匠の嵌合部が,一対の係止片3・3のみでなく,これと,外殻部の内壁面から水平に突出して上下に並列する一対の棚板2・2とからなることを看過した。すなわち,審決は,本願意匠の全体の基本構成として,嵌合部が一対の係止片からなることを認定し,棚板2・2を除いているが,棚板2・2なしに嵌合部を構成することはできないから,本願意匠には一対の係止片からなる嵌合部は存在しない。
2 取消事由2(本願意匠の全体の基本構成と引用意匠の対比の誤り)審決は,本願意匠の全体の基本構成について,「外殻部を断面視扁平楕円管状に湾曲させて背面を開放し,開口部内に一対の係止片から成る嵌合部を形成した形態」(審決書2頁23行〜24行)が,本願出願前に公然知られていたものであることは,引用意匠(甲2)から明らかである旨認定したが,誤りである。
(1) 前記1のとおり,審決は,本願意匠の全体の基本構成を認定するに当たり,本願意匠の内容を看過したものであり,実際の本願意匠の全体の基本構成は,断面形状については,外殻部が前後に扁平で上下に長い縦長の扁平楕円管状で,背面側に開口部を開放した形状をなし,その開口部の内側に,外殻部の内壁面から水平に突出して上下に並列する一対の棚板と,それら棚板の各突出端から対向する側に直角に屈曲して突出する一対の係止片とからなる嵌合部が形成してある形態である。
なお,本願意匠の全体の基本構成における嵌合部は,ボルト締着式のものであり,嵌め合いは行われない(本願意匠の実施品の切断見本(検甲1))。
(2) 引用意匠(甲2)の断面形状は,その「正面図中央横断面図」に符号を付した下図を参照しつつ説明すれば,次のとおりまとめることができる。
断面形状については,外殻部aが扁平楕円管状であるが,上下に扁平な横長の扁平楕円管状であり,背面側は湾曲部4として閉ざされ,開口部1は底面側に開放している形状態様であって,開口部の内側に,外殻部の内壁面から下方に向けて突出して左右に並列する一対の係止片3・3からなる嵌合部bが形成してある形態である。
なお,引用意匠における嵌合部は,嵌め込み式であり,ボルトによる締着は行われない。
(3) 上記(1)及び(2)によれば,引用意匠は,本願意匠の全体の基本構成の形態と,外殻部を形成する扁平楕円管状の形態,外殻部に設ける開口部の開放位置,外殻部の開口部内に形成する嵌合部の形態及び組付方式において,顕著に相違するものであり,両者は別異の意匠というべきである。したがって,本願意匠の全体の基本構成の形態が,引用意匠によって,本願出願前に公然知られた形状となったものということはできない。
3 取消事由3(本願意匠の全体の態様に関する判断の遺脱)本願意匠は,全体の基本構成について創作したものではなく,また,嵌合部の形態,タッピングホールの形状配置位置,全体的な寸法比率の部分について創作したものでもなく,これらの全てにより構成されている全体の態様についての創作である。
しかるに,審決は,本願意匠を構成している全体の構成態様と,本願出願前に公然知られていた形状との対比を示しておらず,また,本願意匠を構成している全体の構成態様と,本願出願前に公然知られていた形状との間における創作性についての因果関係の判断も示していない。
したがって,審決は,本願意匠の全体の態様が,本願出願前に公然知られている形状に基づいて,容易に意匠の創作をすることができたものであるか否かについての判断を遺脱したものというべきである。
4 取消事由4(意匠法3条2項該当性の判断の誤り)審決は,次のとおり,意匠法3条2項該当性の判断を誤ったものである。
(1) 審決は,本願意匠の創作容易性についての判断を,全体の基本構成の態様が本願出願前に公然知られていた形状であるとの認定,嵌合部の形態の意匠の構成要素としての評価,タッピングホールの形状・配置の意匠の構成要素としての評価,及び全体的な寸法比率による視覚効果のみに基づいて行い,全体の構成態様である本願意匠そのものの創作性を看過ないし無視した。本願意匠は,各部の構成要素をまとめて本願意匠を構成するという点に,創意・創造があるものであり,その全体を組み立てて構成するための創造性は,各部の構成態様の公知性・創作性とは別に存在しているものである。
(2) 審決が本願出願前に公然知られていたとする形状,すなわち引用意匠(甲2)の形状は,前記2のとおり,外殻部の形態,嵌合部の形態及び組付方式において,本願意匠の形態と顕著に相違し,さらに,タッピングホールの有無や,全体的な寸法比率において,異なるものである。
本願意匠は,引用意匠の形状から自動的に導き出されるものではなく,審決が認定する(審決書2頁28行〜3頁1行)ように,嵌合部についての,常套的に施される技術的改変手段の適用と,タッピングホールについての,普遍的な形状の選択及び配置位置の選択・認定する技術手段の適用と,全体的な寸法比率を,視覚効果にとらわれない自由な比率を採用する手段の適用によって,構成されているものであり,これら技術手段の適用なくして構成できるものではない。
本願意匠を構成するには,引用意匠の形状に対し,外殻部,嵌合部,全体的な寸法比率について改変を加え,さらにタッピングホールを追加・付設することが必要であり,それぞれ創意工夫を要するものであるから,引用意匠の形状に基づいて,本願意匠が容易に創作できたということはできない。
(3) 意匠法3条2項は,「その意匠が属する分野における通常の知識を有する者」を基準とすることを規定しているが,引用意匠(甲2)の形状は,本願意匠に係る物品「金属製ブラインドのルーバー」とは,意匠の属する分野が異なる「衝立用笠木材」の形状であるから,審決は,本願意匠の属する分野における通常の知識を有する者を基準とする判断をしていないものというべきである。
被告の反論の要点
審決の認定・判断に誤りはなく,取り消されるべき違法はない1 取消事由1(本願意匠の全体の基本構成の認定の誤り)について(1) 本願意匠の全体の基本構成として,原告が主張する構成(前記第3,1(1)ア)は,審決が認定した構成(前記第2,2(2)ア)に加え,外殻部及び嵌合部の具体的な態様として,下記@及びAの点を追記したものである(なお,本願意匠のその余の構成態様として,原告が主張する構成(前記第3,1(1)イ〜エ)は,審決が認定した構成(前記第2,2(2)イ〜エ)と実質的に等しいものである。)。
@ 扁平楕円管状の外殻部が,上下が長径で前後が短径の縦長である点(以下「追加点@」という)。
A 外殻部aの内壁面から水平に突出して上下に並列する一対の棚板2・2と,それらの各突出端からそれぞれ対向する方向に直角に屈曲して突出する一対の係止片3・3とからなる点(以下「追加点A」という)。
(2) 審決は,本願意匠の「全体的な寸法比率について,全高:全幅を略4.3:1程度に設定」(前記第2,2(2)エ)と認定しており,本願意匠が,全高(上下の最大幅)が長径で,全幅(前後の最大幅)が短径であって,縦長のものであることについても実質的に認定しているところであるから,原告主張の追加点@を看過したものではない。
そして,インターネットアーカイブズに収録された「株式会社日幸産業」のホームページ(http://web.archive.org/web/20010408173932/http://www.nikko-ind.co.jp/index.html)(乙4),実開平5-54731号公報(乙5),特開平8-4364号公報(乙6)に示されるように,この種の扁平なルーバー材においては,施工時の要求仕様に応じて外殻部の長軸の方向を,垂直,水平又は適宜角度を付けて施工することが通常であるから,本願意匠の外殻部の長軸方向が垂直であることを示す追加点@は,本願意匠自体の構成要素としては枝葉に属するものである。
なお,審決が認定した本願意匠の全体的な寸法比率(前記第2,2(2)エ)は,原告が主張する前記第3,1(1)エの構成態様に相当するものであるが,原告もこの構成が「付随的な構成」であることを自認している。
(3) 審決は,本願意匠の全体の基本構成として,「一対の係止片から成る嵌合部を形成」しているという,基本的な態様を摘記するにとどめ,嵌合部の形態については,外殻部の壁面と一対の係止片が表出する形態が典型的な「リップ溝形鋼」の形態であることから,これを包括的に捉え,「突き当て面を開口端と面一に揃えた断面視リップ溝形鋼状に形成」(前記第2,2(2)イ)と認定したものである。
追加点Aは,専ら当該物品の施工時における固着若しくは接続構造に関与する部位であって,その形態が,当該部位においては普遍的な形態であるところの,リップ溝形鋼状であるから,意匠の構成要素としては枝葉に属するものである。
原告は,審決が「係止片」とした部分を,「棚板2」と「係止片3」に細分化した上で,全体の基本構成の中で嵌合部の具体的形態を「外殻部aの内壁面から水平方向に突出して上下に並列する一対の棚板2・2と,それらの各突出端からそれぞれ対向する方向に直角に屈曲して突出する一対の係止片3・3とから成る嵌合部bを形成」と認定すべきものと主張するが,本願意匠の嵌合部の形態を包括的に見れば,審決が認定したとおり,「リップ溝形鋼」状であることは図面上明らかである。
また,原告は,審決が,嵌合部の形態について,一対の係止片からなることを認定し,棚板2・2を除いている旨主張するが,原告が「棚板」と称する部位を除けば,嵌合部を構成できないことは自明であり,審決は,嵌合部の形態について,そのような非常識な認定をしたものではない。
(4) 以上のとおり,審決における本願意匠の全体の基本構成の認定に誤りはない。
2 取消事由2(本願意匠の全体の基本構成と引用意匠の対比の誤り)について(1) 本願意匠の全体の基本構成についての審決の認定に誤りがないことは,前記1のとおりである。
(2) 原告は,引用意匠(甲2)の形態について,扁平楕円管状の外殻部が上下に扁平で,開口部が底面側に開口し,一対の係止片が下方に向けて突出して嵌合部を形成しており,本願意匠の全体の基本構成の形態とは顕著に相違する旨主張するが,前記1のとおり,外殻部の長軸方向が垂直であることは,本願意匠自体の構成要素としては枝葉に属するものである。本願意匠の外殻部の長軸が水平となるように図面を回転させ,開口部を該引用意匠の使用状態と同じく下向きに位置づけてみれば,審決が本願意匠の全体の基本構成に示したところの,外殻部と嵌合部の構成する形態が,原告が指摘する引用意匠のそれと一致することは,一目瞭然である。
なお,審決は,本願意匠の全体の基本構成に示す形態が,引用意匠のそれと一致し,その形態が本願出願前に公然知られていたものであると認定したものであって,細部の形状も含めた本願意匠全体と引用意匠全体の類否を判断したものではない。
(3) 以上のとおり,本願意匠の全体の基本構成と引用意匠との対比についての審決の認定・判断に誤りはない。
3 取消事由3(本願意匠の全体の態様に関する判断の遺脱)について原告は,審決が,本願意匠の全体の態様が本願出願前に公然知られている形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるか否かについて判断を遺脱したと主張する。
しかし,審決は,本願意匠の全体の基本構成として認定したところの,「外殻部を断面視扁平楕円管状に湾曲させて背面を開放し,開口部内に一対の嵌合部を形成した形態」が,本願出願前に公然知られていたことの例として,引用意匠(甲2)を提示しており,両者の形態を対比している。
もともと,意匠法上の意匠の創作内容は,視覚を通じて感知し得る形態として表現されたものであることから,その内容を忠実に言葉に置き換えることが困難である場合が多い。そのため,意匠法は,図面,写真,見本等の,意匠の内容が一目で理解できる手段によって,意匠登録を受けようとする意匠を開示することを義務づけているものである。意匠のこのような特性を参酌すれば,審決が引用意匠の形態を言葉に置き換えて逐一摘記しなかった点に誤りはない。
そして,審決は,当該物品の施工時における固着若しくは接続構造に関与する部位であるところの,嵌合部及びタッピングホールの形態についても,当該物品分野の通常の知識レベルを考慮した上で,その創作内容をもれなく認定し,評価し,容易に創作できたものであるか否かを判断したものである。
したがって,審決における判断に遺脱があるとする原告の主張は失当である。
4 取消事由4(意匠法3条2項該当性の判断の誤り)について(1) 原告は,審決が,全体の構成態様である本願意匠そのものの創作性を看過ないし無視して,意匠法3条2項該当性の判断をした旨主張する。
しかし,審決は,本願意匠の全体の基本構成を,嵌合部の形態などの他の構成要素をまとめ上げて本願意匠全体を形成する骨格的な構成要素として把握し,認定したものであり,これ以外に本願意匠全体を組み立てて構成する構成要素は見当たらないから,原告の上記主張は失当である。
(2) 原告は,引用意匠(甲2)の形状が,本願意匠の形態とは顕著に相違する旨主張するが,前記2のとおり,外殻部の長軸の方向を引用意匠のそれに揃えれば,両者は一致するものである。
(3) 原告は,引用意匠(甲2)の形状が本願意匠の属する分野とは異なる分野の物品の形状であり,審決は,意匠法3条2項の「容易に意匠の創作をすることができた」か否かの判断が,「その意匠の属する分野における通常の知識を有する者」によってなされるべき判断であることを考慮していない旨主張する。
しかし,同項の規定は,創作者について,「その意匠の属する分野における通常の知識を有する者」と規定するものであって,公然知られた形状については,「日本国内又は外国において公然知られた」と規定しているだけであり,公然知られた形状を,本願意匠の属する分野物品の形状の範囲に制限するものではない。
そして,本願意匠に係る物品「金属製ブラインドのルーバー」は,日除け,目隠し等の部材であって,建築用外装材の分野に属する物品であるが,引用意匠に係る物品である「衝立用笠木材」における「笠木」も,衝立,フェンス,目隠し等の頂部に使用される部材であることから,同じ分野に属する物品であると思料される。
また,引用意匠は,本願出願前に公然知られていたものであるとともに,本願意匠の属する分野である建築用外装材に属するものであり,嵌合部の形態及びタッピングホールの形態は,周知形態であって,本願意匠の属する分野における通常の知識を有する者であれば,当然知っているはずの普遍的な形態であり,審決もその旨記載しているから,審決が意匠法3条2項の規定に基づいて本願意匠の創作内容を判断していることは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願意匠の全体の基本構成の認定の誤り)について(1) 原告は,審決における本願意匠の全体の基本構成の認定(前記第2,2(2)ア)が誤りであるとし,具体的には,下記構成@及びAを看過した旨主張する。
@ 本願意匠の外殻部が,前後に扁平で上下が長い縦長の扁平楕円管状になっていること(以下「構成@」という。)。
A 本願意匠の嵌合部が,一対の係止片のみでなく,これと,外殻部の内壁面から水平に突出して上下に並列する一対の棚板とからなること(以下「構成A」という。)。
しかし,そもそも審決は,意匠法上の意匠の創作内容は,視覚を通じて感知し得る形態として表現されたものであることから,その内容を忠実に言葉に置き換えることが困難であることに鑑み,本願意匠の形態を願書(甲1)に添付された図面及び願書における意匠の説明欄記載のとおり認定し,上記図面を審決書に別紙1として添付した上で,その形態が概ね前記第2,2(2)ア〜エのとおりであると表現したものである。
したがって,審決は本願意匠の形態をもれなく認定しているというべきであるから,原告の上記主張は,審決が本願意匠の形態を言葉で表すために用いた表現を批判するとともに,上記構成@及びAを本願意匠の全体の基本構造に含めなかったことを論難するものと解される。
そこで,原告が主張する構成@及びAについて,検討する。
(2) 原告が主張する構成@は,要するに,本願意匠の外殻部が縦長であることを指摘するものであるが,乙4〜乙6及び弁論の全趣旨によれば,本願意匠に係る物品である「金属製ブラインドのルーバー」などの扁平なルーバー材は,外殻部の長軸の方向が必ず垂直になるよう取り付けなければならないというものではなく,水平に取り付けたり,適宜角度を付けて取り付けたりすることも,通常行われていることであることが認められる。そうすると,外殻部の長軸の方向,すなわち縦長であるか,横長であるか,斜めであるかは,意匠の構成要素としては,格別の意義を有しないものというべきである。
なお,審決は,本願意匠の「全体的な寸法比率について,全高:全幅を略4.3:1程度に設定」(前記第2,2(2)エ)と認定しているところ,これによれば,本願意匠が,全高が長径で,全幅が短径という,縦長のものであることは明らかであり,本願意匠の外殻部が前後に扁平で,上下が長い縦長の扁平楕円管状になっていることについても,実質的に認定しているということができる。そして,審決が認定した本願意匠の全体的な寸法比率(前記第2,2(2)エ)は,原告が主張する前記第3,1(1)エの構成態様に相当するものであるが,原告もこの構成が「付随的な構成」であることを自認しているところである。
(3) 原告が主張する構成Aは,要するに,審決が「係止片」と表現した部分について,「棚板」と「係止片」に細分化して表現すべきことを指摘するものであるが,表現としていずれが適当かはともかく,当該部位は,本願意匠に係る物品の施工時における固着ないし接続構造に関与する部位(施工後は,隠れてしまう部位)であって,しかも,その形態は,後記4(2)で検討するとおり,ごくありふれた一般的なリップ溝形鋼状であるから,意匠の構成要素としては,枝葉に属するものというべきである。
そうすると,審決が構成Aを本願意匠の全体の基本構成に含めなかったことについて,原告主張の誤りはないというべきである。
(4) 以上のとおりであるから,本願意匠の全体の基本構成についての審決の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願意匠の全体の基本構成と引用意匠の対比の誤り)について原告は,引用意匠は,本願意匠の全体の基本構成の形態と,外殻部を形成する扁平楕円管状の形態,外殻部に設ける開口部の開放位置,外殻部の開口部内に形成する嵌合部の形態及び組付方式において,顕著に相違するから,審決が,本願意匠の全体の基本構成について,「外殻部を断面視扁平楕円管状に湾曲させて背面を開放し,開口部内に一対の係止片から成る嵌合部を形成した形態」(審決書2頁23行〜24行)が,本願出願前に公然知られていたものであることは,引用意匠(甲2)から明らかであると認定したことは,誤りである旨主張する。
(1) 原告の上記主張は,本願意匠の全体の基本構成についての審決の認定が誤りであることを前提とするものであるところ,本願意匠の全体の基本構成についての審決の認定に誤りがないことは,前記1のとおりである。
(2) 引用意匠が有する形態は,甲2及び弁論の全趣旨によれば,本願出願前に公然知られた形態であると認められるところ,引用意匠が,本願意匠の全体の基本構成に係る形態である,「外殻部を断面視扁平楕円管状に湾曲させて背面を開放し,開口部内に一対の係止片から成る嵌合部を形成した形態」を備えていることは,引用意匠に係る図面から明らかである。
なお,原告は,引用意匠の背面側は閉ざされている旨主張するが,公然知られた形状としての,引用意匠に係る形態を把握するに当たり,開口部を「背面」と呼ぶか,「底面」あるいは「前面」と呼ぶかは,単なる用語の問題にすぎないから,原告の上記主張は採用の限りでない。
また,原告は,引用意匠が,本願意匠とは,嵌合部の組付方式を異にする旨の主張もするが,この点は,本願意匠あるいは引用意匠に係る物品の施工時における固着ないし接着構造に関与する部位(施工後は,隠れてしまう部位)の機能に関するものであるところ,当該部位は,前記1(3)のとおり,意匠の構成要素としては枝葉に属するものであるから,上記認定を左右するものではない。
(3) 以上のとおりであるから,本願意匠の全体の基本構成と引用意匠との対比についての審決の認定・判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本願意匠の全体の態様に関する判断の遺脱)について原告は,審決が,本願意匠の全体の態様が本願出願前に公然知られている形状に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものであるか否かについて判断を遺脱した旨主張する。
しかし,審決が,本願意匠の全体の基本構成(前記第2,2(2)ア)に係る形態と引用意匠の形態を対比し,さらに,嵌合部,タッピングホールの各形態(前記第2,2(2)イ,ウ)及び全体的な寸法比率(前記第2,2(2)エ)を検討した上で,本願意匠が容易に創作できたものであるか否かを判断したことは,その説示に照らし,明らかである。
審決は,本願意匠の構成要素をもれなく検討し,その判断に遺脱があるとはいえないから,原告主張の取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(意匠法3条2項該当性の判断の誤り)について(1) 原告は,審決が,全体の構成態様である本願意匠そのものの創作性を看過し,これを無視して意匠法3条2項該当性の判断をした旨主張する。
しかし,前記3のとおり,審決は,本願意匠の全体の基本構成(前記第2,2(2)ア)に係る形態と引用意匠の形態を対比した上,嵌合部,タッピングホールの各形態(前記第2,2(2)イ,ウ)及び全体的な寸法比率(前記第2,2(2)エ)を検討して,本願意匠が容易に創作できたものであるか否かを判断したものであり,本願意匠の構成要素をもれなく検討したものであるから,原告の上記主張は採用の限りでない。
(2) 原告は,引用意匠の形状は本願意匠の形態と顕著に相違しており,本願意匠を構成するには,引用意匠の形状に対し,外殻部,嵌合部,全体的な寸法比率について改変を加え,さらにタッピングホールを追加・付設することが必要であり,それぞれ創意工夫を要するものである旨主張する。
まず,本願意匠の全体の基本構成に係る形態である,「外殻部を断面視扁平楕円管状に湾曲させて背面を開放し,開口部内に一対の係止片から成る嵌合部を形成した形態」について検討するに,前記2のとおり,引用意匠が上記形態を備えていることは,明らかである。
次に,本願意匠の嵌合部の形態である,一対の係止片からなるリップ溝形鋼状の形態について検討するに,意匠登録第1076339号公報(乙1),意匠登録第783103号の類似1号公報(乙2)及び弁論の全趣旨によれば,上記形態はごくありふれた一般的な形態にすぎないものと認められ,本願意匠の属する分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」ということがある。)であれば,そのように構成することに格別の創意を要するものとは認められない。
また,本願意匠におけるタッピングホールの形状及び配置態様について検討するに,弁論の全趣旨によれば,上記形状はごくありふれた一般的な形状にすぎず,配置態様も目立たない部位に単に設けただけである(原告も,タッピングホールに関し,「普遍的な形状の選択及び配置位置の選択・認定する技術手段」(前記第3,4(2))と述べているとおり,上記の点を争うものではない。)から,当業者であれば,そのように構成することに格別の創意を要するものとは認められない。
さらに,本願意匠の全体的な寸法比率について検討するに,当該構成に特有の視覚的効果は認められないとした審決の認定は是認することができ,当業者であれば,そのように構成することに格別の創意を要するものとは認められない。
そうすると,本願意匠は,当業者であれば,上記検討した引用意匠の形状及び周知の形状に基づいて,容易に創作できたものというべきである。
(3) 原告は,引用意匠の形状が本願意匠の属する分野とは異なる分野の物品の形状であり,審決は,意匠法3条2項該当性について,本願意匠の属する分野における通常の知識を有する者を基準とする判断をしていない旨主張する。
しかし,本願意匠に係る物品「金属製ブラインドのルーバー」と,引用意匠に係る物品である「衝立用笠木材」とは,建築用外装材という観点において共通するものということができ,全く別の分野の物品とは認められない。
したがって,原告の上記主張は採用の限りでない。
(4) 以上のとおりであるから,意匠法3条2項該当性についての審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由4は理由がない。
5結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀
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