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関連審決 不服2005-11103
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  広く知られた /  意匠の類否 /  全体観察 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10237号 審決取消請求事件
原告スルガ株式会社
訴訟代理人弁護士加藤静富,野末寿一,山下善弘,宮田逸江,弁理士 入江一郎
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人日比野香,岩井芳紀,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/25
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2005-11103号事件について平成18年3月30日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要本件は,拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告は,平成16年9月30日,意匠に係る物品を「電車おもちゃ」とする意匠(形態は別紙第1記載のとおりである。以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願(意願2004-29562号)をした。
(2)原告は,平成17年4月27日付けの拒絶査定を受けたので,同年6月15日,拒絶査定に対する審判を請求した(不服2005-11103号事件として係属)。
(3)特許庁は,平成18年3月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月22日,その謄本を原告に送達した。
2審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願意匠は,特許庁発行の意匠公報記載の意匠登録第957154号の意匠に係る物品を「電車おもちゃ」とする意匠(形態は別紙第2記載のとおりである。甲4,以下「引用意匠」という。)に類似するものと認められ,本願意匠は意匠法3条1項3号に該当し,同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができない,というものである。
本願意匠と引用意匠を比較すると,両意匠は,意匠に係る物品がともに「電車おもちゃ」で共通し,また,形態については,主として以下の共通点と差異点がある。
すなわち,両意匠の共通点として,(1)新幹線300系のぞみ号の運転席車両をモデルとした電車おもちゃの形態である点,(2)車両全体は平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部と直方体箱状の客席部から成るもので,その車両にライン模様,乗降ドア,客席窓,スカート部,運転席窓,ライト部等の各部を設け,車輪を取り付けたものである点,(3)両側面において,運転席部と客席部の境辺りに2つ並んだ乗降ドアの矩形窓,客席部後端の乗降ドアの矩形窓,その間の矩形客席窓が上下中央部よりやや上側の横方向に並んで現れ,その窓列下側に沿って運転席部の運転席窓下から客席部後端にかけて僅か間隔を置いて併走させた暗調子の細幅ライン(上側)と太幅ライン(下側)が現れ,運転席窓下のライン模様前端は前方斜め下に鈎状に折れている点,(4)下端部スカート部は運転席部の運転席窓下のライン模様前端が斜め下に鈎状に折れている辺りから客席部にかけて暗調子に現れ,暗調子スカート部前端も前方斜め下に鈎状に傾斜している点,(5)平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部前面において,上下中央部よりやや下側の上記ライン模様と同じ高さ位置に中央の縦矩形状鼻筋部位を挟んで2つの両目状の小台形状ライト部とその上の屋根寄りに前面側から左右両側面側にかけて平面視U字状に開けた運転窓が現れる点が認められ,また,(6)平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部前面,運転席窓,ライト部,ライン模様,乗降ドアと窓,客席窓,スカート部等の具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する点が認められる。
一方,請求人も主張するところであるが,両意匠の差異点として,(イ)本願意匠は,片側に2個ずつ(2対)取り付けた車輪の径が大きく,その下半分がスカート部から露出し,そのため,全体が底上げされた感があり,重心が高い位置にあるように見えるのに対し,引用意匠は,片側に4個ずつ(4対)取り付けた車輪の径は小さく,スカート部に隠れてあまり露出せず,低重心である点,(ロ)平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部の先端を平面視したときの形状(本願意匠の方が引用意匠のものよりも先が尖っている。),運転席窓の客席窓に対する高さ位置と前面視したときの縦幅の広狭と両端の傾斜面の態様,運転席窓の3本の縦桟の有無(本願意匠),暗調子スカート部の凹凸感,係止部の有無(本願意匠),ヒンジの有無(引用意匠),屋根面の半割のラインの有無(引用意匠)等の各部の具体的態様に差異が認められる。
そこで,両意匠の共通点及び差異点について意匠全体として総合的に検討する。
まず,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響について審案するに,差異点(イ)については,片側に2個ずつ(2対)取り付けた車輪の径が大きく,その下半分がスカート部から露出し,そのため,全体が底上げされた感があり,重心が高い位置にあるように見えるものは,出願前に普通に見られる手法(例えば,意匠公報所載の登録第1095075号(本訴甲17)の形態変化玩具の意匠,タイプは異なるが日経BP社が2000年2月24日に発行した「日経デザイン」153号59頁(本訴甲18)所載の電車おもちゃの意匠(特許庁意匠課公知資料番号12016441号),HAタイプは異なるが特許庁が1981年6月16日に受け入れたトミー発行の製品カタログ「」 TOMY27頁(本訴甲19)のライト付き東北上越新幹線の電車おもちゃの意匠(特許庁意匠課公知資料番号56055726号,昭和56年度内国カタログ44)等参照)であって,本願意匠のみJC No.の特徴といえるものではないから,片側に4個ずつ(4対)取り付けた車輪の径は小さく,スカート部に隠れてあまり露出せず,低重心である引用意匠との間に差異があるにしても,この点が両意匠の類否判断を左右するとはいえない。
差異点(ロ)の各部の具体的態様につき,平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部の先端を平面視したときの形状の差異については,本願意匠のように尖ったものも出願前に普通に見られ(例えば,上記の登録第1095075号の意匠参照),本願意匠のみの特徴といえるものではなく,運転席窓の客席窓に対する高さ位置の差異については,全体からみれば微妙な程度でしかなく,運転席窓を前面視したときの縦幅の広狭と両端の傾斜面の態様の差異については,平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部前面,運転席窓,ライト部の具体的態様が織りなす印象の共通性を損なわしめるほどのものではなく,運転席窓の3本の縦桟の有無については,本願意匠のように運転席窓に3本の縦桟があるものも出願前に普通に見られ(例えば,特許庁が2002年5月19日に受け入れた株式会社アガツマ発行の製品カタログ「 」49頁(本訴甲20)の電車おもちゃの2002 CATALOGUE PINOCCHIO意匠(特許庁意匠課公知資料番号14006008号,平成14年度内国カタログ18)参 HC No.照),本願意匠のみの特徴といえるものではなく,暗調子スカート部の凹凸感の差異については,暗調子スカート部の共通点(4)の中に吸収されてしまう程度であり,係止部の有無については,本願意匠のように係止部が有るものも出願前に普通に見られ(上記参照),本願意匠のみの特徴といえるものではなく,ヒンジの有無や屋根面の半割のラインの有無については,本願意匠のようにヒンジ部が無いものの方が普通であり,引用意匠のヒンジや屋根面の半割のラインは車両本体を展開して遊ぶこともできる電車おもちゃであることに付随したものにすぎないから,これらの差異点が両意匠の全体の類否判断に及ぼす影響は小さいというほかない。
また,請求人は,上記した差異点の他に,本願意匠は,運転席窓は暗色で客席窓は開口しており,引用意匠のような客席部後端の乗降ドアの後方にトイレ,洗面等の部分がないのに対し,引用意匠は,窓全てが暗色であり,客席部後端の乗降ドアの後方にトイレ,洗面等の部分がある点,その他本願意匠の運転席窓にはワイパーが図示されている点等の差異点を追加して主張するので,その点についても審案するに,客席窓が開口しているか暗色であるかの差異があるとしても,それは両意匠の全体の類否判断に影響するほどではなく,後方にトイレ,洗面等の部分があるかないかの差異については,本願意匠のようにそれがないものは普通である(上記参照)から,その差異が両意匠の全体の類否判断に及ぼす影響も小さいというほかない。
次に,一方の共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響において差異点に優るかどうかを審案するに,両意匠の共通点(1)ないし(6)については,形態全体に亘るものではあるが,いずれも出願前に普通に見られ(上記参照),従来意匠の創作の範囲内にあるものであって格別の特徴を備えたという程のものでもないから,各共通点が単独で両意匠の類否判断に及ぼす影響も小さいというほかない。
しかしながら,電車おもちゃの属する意匠分野にあっては,従来意匠の要素や部分を僅かずつ改変させながら,看者に調和あるまとまりを惹起させるデザインを創作する実態がある点を考慮したとしても,前方斜め上方から俯瞰(電車おもちゃのカタログ等の写真に多用される撮影角度である。)して普通に全体観察したときには,両意匠の共通点(1)ないし(6)が相乗する効果は,一つのまとまり感を醸成し,両意匠の形態全体の基調を成し,両意匠の特徴をよく表出し,看者に印象の共通感を強く想起させるところであるのに対し,ワイパーが図示されているかどうかの点も含めた細部に亘る各差異点が相俟った効果をもってしても,それは共通点の奏する相乗効果を凌駕して別異のまとまり感を強く想起させるほどではないから,共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。
なお,正面図及び側面図(側面図も電車おもちゃのカタログ等写真に多用される撮影角度である。)も重視されるべきであるとの請求人の主張するところについては,上記差異点の評価の中で述べたとおりである。
以上のとおりであって,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,その形態について,各差異点が相俟った効果をもってしても,それは共通点の奏する相乗効果を凌駕して別異のまとまり感を強く想起させるほどではないから,共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当であり,しかるに,本願意匠は引用意匠に類似するものと認められ,本願意匠は意匠法3条1項3号に該当し,同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができない。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(共通点及び差異点の認定の誤り)ア審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(2),(5),(6)において,運転席部の形状が「平面湾曲V字状」であると認定したが,誤りである。
本願意匠の運転席部は平面湾曲V字状であるが,引用意匠の運転席部は,先端が鋭角ではなく湾曲しているから,「平面U字状」である。しかも,審決は,差異点(ロ)において,「運転席部の先端を平面視したときの形状(本願意匠の方が引用意匠のものよりも先が尖っている。)」と認定していて,同じ点を共通点,差異点双方で認定している。
したがって,本願意匠と引用意匠では,運転席部を平面視したときの形状が共通していないから,これを共通点として認定した審決には誤りがある。
イ審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(2)において,「車輪を取り付けた」ものであると認定したが,誤りである。
審決も差異点(イ)において認定しているように,引用意匠は,車高が低く,かつ,車輪の径が小さいため,車輪がスカートに隠れて露出していないのに対し,本願意匠は,車高が高く,かつ,車輪の径が大きいため,車輪の約2分の1が露出している。しかも,意匠に係る物品が電車おもちゃである以上,車輪の形状,車体と車輪の関係,すなわち車体の重心は,意匠の骨格をなす部分である。
したがって,本願意匠と引用意匠では,意匠の骨格をなす部分,すなわち基本的構成態様が異なっていることになるから,「車輪を取り付けた」という極めて概括的な態様をもって,共通点として認定した審決は,粗雑であって,誤りである。
ウ審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(6)において,「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定したが,誤りである。
共通点(6)は,新幹線300系のぞみ号運転席車両をモデルとした場合に当然に採用される構成態様において共通しているというだけであり,共通点(1)を言い換えたにすぎない。しかも,本願意匠と引用意匠とは,実在の新幹線300系のぞみ号の特徴を生かしつつ,「電車おもちゃ」として創意工夫を加えデフォルメしていて,各部分の具体的態様が異なり,当然,具体的態様が織りなす印象も異なる。
したがって,「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定した審決には誤りがある。
エ審決は,本願意匠と引用意匠との差異点(ロ)において,「各部の具体的態様に差異が認められる」としたが,以下の差異点を看過した。
客席部窓の態様(本願意匠は客席部窓が開口しているのに対し,引用意匠は暗色である。),運転席窓の縦桟の有無(本願意匠は運転席窓に縦桟がないが,引用意匠は3本の縦桟がある。),ワイパーの有無(本願意匠は運転席にワイパーがあるのに対し,引用意匠は運転席窓にワイパーがない。)は,本願意匠と引用意匠との重大な差異点であるところ,審決は,これらの差異点を看過ないし過小評価しているから,誤りである。
(2)取消事由2(類否判断の誤り)審決は,「前方斜め上方から俯瞰(電車おもちゃのカタログ等の写真に多用される撮影角度である。)して普通に全体観察したときには,両意匠の共通点(1)ないし(6)が相乗する効果は,一つのまとまり感を醸成し,両意匠の形態全体の基調を成し,両意匠の特徴をよく表出し,看者に印象の共通感を強く想起させるところである」として,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定し,本願意匠が引用意匠に類似すると判断したが,誤りである。
ア観察する状態,方向の作為的な限定意匠の類否判断は,意匠の全体の観察を大原則とする。つまり,意匠を表す各周側面の形態から全体の形態を把握するものである。これに対し,審決は,本願意匠と引用意匠の類否判断において,「前方斜め上方から俯瞰して普通に全体観察した」として,全体観察といいながら,観察する状態,観察する側面を限定している。
本願意匠の電車おもちゃは,単なる観賞,展示用のおもちゃではなく,車輪が回転して,幼児が手にとっていじったり,レール上又は床等で走らせて遊ぶことができるものである。このような物品の用途や使用態様等に照らすと,単に前方斜め上方から俯瞰した(特に,左右側面,平面からの比較観察を怠っている。)という態様だけではなく,手に取った距離から,左右側面,平面,前面,背面,底面の各面の各構成態様を観察して,その類否判断をすべきである。
したがって,「前方斜め上方から俯瞰」すれば足りるとした審決は,誤りである。
イ要部認定の誤り(ア)本願意匠が実在のモデルに基づく意匠である点における要部認定の誤りa本願意匠及び引用意匠は,いずれも実在の新幹線300系のぞみ号というモデルに基づく意匠である。実在のモデルに基づく意匠において,最も看者の注意を引く部分は,モデルに由来する構成態様ではなく,実在のモデルに由来しない構成態様,すなわちモデルに加えられたデフォルメないし改変の態様,改変の度合いである。そうすると,これらの実在のモデルにはない,あるいは,実在のモデルに由来しない改変態様にこそ,当該意匠の美感ないし特徴があると考えるべきであって,本願意匠と引用意匠の要部は,新幹線300系のぞみ号をモデルにしつつ,おもちゃであるが故に独自の創意工夫を加え,改変あるいはデフォルメがされた部分の態様であるというべきである。
bモデルとなった新幹線300系のぞみ号は,高速で走行するために安定性が求められるので,車高が低く,低重心であり,かつ,前後2対ずつ4対の車輪が付されているが,車輪の径が小さく,スカート部に隠れて見ることができない。
引用意匠は,上記の構成態様を忠実に再現するものの,「車両本体を展開して本体内上部に鉄道模型おもちゃを収納することができる。また,車両の側壁・天井の内部は,鉄道模型おもちゃのレールとなっているので,他のレールと連結させて遊ぶことができる」(意匠登録第957154号公報,甲4)というもので,新幹線300系のぞみ号にない,左右側面のヒンジ,平面視した場合の屋根面の半割のラインを備えている。さらに,車両正面を展開するために,車両先端部をU字状に改変し,かつ,展開するための内部構造が見えないように,窓を暗色に塗りつぶしている。
これに対し,本願意匠は,2対4個の車輪しか備えていない上,車輪の径が大きく,車両から2分の1近く露出しているのであって,そのために,車体が高く,高重心である。さらに,引用意匠のように,車両本体を展開するものではないので,各面に展開のための具体的態様は備えず,かつ,窓は開口している。
このように,両意匠の改変ないしデフォルメの内容,指向する方向は全く異なっていて,両意匠を実物と比較すると,引用意匠は,展開のための具体的態様を備えているものの,より実物に近いリアルかつ写実的な印象を与えるのに対し,本願意匠は,転がして遊ぶという電車おもちゃの機能を優先して車輪部に大幅な改変を加えたために,一見しただけで,いかにも玩具であるという「ちゃち」な印象を与える。
cしたがって,実在のモデルに基づく意匠においては,改変ないしデフォルメされた部分,すなわち,車輪部や客席部天井面の模様形状,客席部窓の態様が要部であるところ,本願意匠と引用意匠とは,この点において全く異なっているから,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断した審決には,誤りがある。
(イ)物品の使用態様,用途等を考慮しないでした要部認定の誤りa意匠の要部とは,物品の性質,目的,用途,技術的機能,使用態様などから,一般の取引者ないし需要者の注意を最も引く部分であるから,物品の用途や使用態様に基づき認定されるべきものである。
本願意匠は,意匠に係る物品が「電車おもちゃ」であるから,このようなおもちゃを購入する一般消費者あるいは当該おもちゃを使用する,つまり,おもちゃで遊ぶ一般消費者を基準として判断すべきである。
b本願意匠の電車おもちゃは,幼児が手にとっていじったり,レール上又は床等で走らせて遊ぶものであるから,車輪の数,車輪の径,車輪と車体の関係が最も目立つ部分である。また,幼児がレール上又は床等で走らせて遊ぶ場合には,視線が上方から注がれるから,車両を平面視したときの模様形状,すなわち,運転席部の先端の形状,運転席窓部の形状,窓枠や縦桟,ワイパーの有無,客席部天井面の模様形状が,最も目に入るものである。
cしたがって,本願意匠の電車おもちゃの用途や使用態様に基づくならば,車輪の数,車輪の形状,車輪と車体の関係や車両を平面視した場合の模様形状が要部であるということができるところ,これは,審決が差異点として認定したものであるから,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断した審決には,誤りがある。
2被告の反論(取消事由2(類否判断の誤り)に対して)(1)観察する状態,方向の作為的な限定本願意匠と引用意匠とは,いずれも新幹線300系のぞみ号をモデルにして創作された電車おもちゃであって,この種の物品は通常左右対称形状であり,前方斜め上方から全体観察した方が特徴を把握しやすいから,「前方斜め上方から俯瞰して普通に全体観察した」ものであって,観察する状態,観察する側面を限定したわけではない。しかも,審決は,平面,側面等から具体的態様を観察して,本願意匠と引用意匠との共通点,差異点を認定し,比較検討している。
したがって,審決は,「前方斜め上方から俯瞰」すれば足りるとしたわけではないのであって,審決に誤りはない。
(2)要部認定の誤りア本願意匠が実在のモデルに基づく意匠である点における要部認定の誤り(ア)電車おもちゃの分野では,実物を構成している各部分を任意に抽出し,組み合わせ,再構成し,全体構成比等を含めデフォルメあるいは誇張等をすることにより,種々の特徴を有した形態のものが実物を想起させるように創作されている。
本願意匠と引用意匠とは,新幹線300系のぞみ号から抽出した各構成部分及びその組合せ,再構成がほぼ共通していて,その相互に共通する各構成態様を共通点(1)ないし(6)としたのであるが,種々多様な創作電車おもちゃにおいて,両意匠の共通点の奏する相乗効果には実物を想起させるものがあることから,これら共通点が要部になりうるのである。
原告が主張する実物に基づかない部分とは,おもちゃ特有の部分,つまり,審決が認定した差異点のうちの引用意匠の展開するためのヒンジ部,屋根面の半割ライン部,本願意匠の係止部の各細部のみであるところ,引用意匠の上記部分は電車おもちゃにおいて通常見られる態様であり,また,本願意匠の上記部分も客車おもちゃを牽引する係止部として通常見られる態様であるから,格別特徴とすることができない程度のものであり,要部とすることはできない。
(イ)両意匠の類否判断に当たっては,実物との対比ではなく,本願意匠と引用意匠とを直接対比し,検討した上で,全体的に観察して判断すべきである。
なお,本願意匠における車輪部と車体が高く高重心であるとの点は,全体の車体を高くしたことにより,電車おもちゃとしての全体の構成,つまり,車体と車輪のバランスをとるために車輪の径も大きくして表したことから,全体として重心が高い位置にあるように見えるのであって,そのような車高の高い態様にして表した電車おもちゃの態様は,本願出願前に既に広く知られていて,本願意匠のみの特徴とはいえない。
(ウ)したがって,審決は,実在のモデルの有する意匠的特徴のみを要部としたものではなく,あくまでも両意匠の共通点及び差異点を対比して検討し,全体を観察した結果,共通点を要部としたまでであるから,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断した審決に誤りはない。
物品の使用態様,用途等を考慮しないでした要部認定の誤り原告が要部であると主張する,車輪の数,車輪の形状,車輪と車体の関係や車両を平面視した場合の模様形状は,本願意匠の意匠登録出願前に既に広く知られた態様であって,本願意匠のみの特徴とはいえないから,要部とはなり得ないものである。
したがって,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断した審決に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(共通点及び差異点の認定の誤り)について(1)運転席部の形状が「平面湾曲V字状」であると認定した点についてア審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(2),(5),(6)において,「平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部」と認定した上,差異点(ロ)において,「平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部の先端を平面視したときの形状(本願意匠の方が引用意匠のものよりも先が尖っている。)」と認定した。
イ運転席部の形状について,本願意匠と引用意匠とを対比すると,両意匠とも「平面湾曲V字状」であるが,本願意匠が引用意匠よりも先端が鋭角になっていることが認められる。
ウそうであれば,運転席部の形状に関する審決の共通点及び差異点の認定は,上記イの認定に沿うのであるから,審決が運転席部の形状が「平面湾曲V字状」であると認定したことに,誤りはない(原告は,引用意匠の運転席部は,先端が鋭角ではなく湾曲しているから「平面U字状」であると主張するが,審決は,双方とも「平面湾曲V字状」であるとして共通しているとはするものの,本願意匠の方が引用意匠のものよりも先が尖っているとしてその差異点をも指摘しているから,引用意匠の運転席部の形状が「平面湾曲V字状」であるとした審決の認定に誤りはない。)。
(2)「車輪を取り付けた」ものであると認定した点についてア審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(2)において,「車輪を取り付けた」ものであると認定した上,差異点(イ)において,「本願意匠は,片側に2個ずつ(2対)取り付けた車輪の径が大きく,その下半分がスカート部から露出し,そのため,全体が底上げされた感があり,重心が高い位置にあるように見えるのに対し,引用意匠は,片側に4個ずつ(4対)取り付けた車輪の径は小さく,スカート部に隠れてあまり露出せず,低重心である点」と認定した。
イ本願意匠と引用意匠とは,共に車輪を取り付けたものであって(このことは,原告も争わない。),審決は,共通点として,このことを認定した上,さらに,車輪部について,上記差異点(イ)のとおりの差異があると認定し,これが類否判断に及ぼす影響を検討しているのであるから,審決が「車輪を取り付けた」ことを共通点であると認定したことに,誤りはない。
(3)「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定した点についてア審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(6)において,「平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部前面,運転席窓,ライト部,ライン模様,乗降ドアと窓,客席窓,スカート部等の具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定した。
イ本願意匠と引用意匠とは,共に新幹線300系のぞみ号の運転席車両をモデルとした電車おもちゃであって(このことは,原告も争わない。),審決は,共通点(1)において,このことを認定し,さらに,上記共通点(6)のとおりの共通点があると認定したものであるところ,原告が主張するように,本願意匠と引用意匠とは,それぞれ実在の新幹線300系のぞみ号の特徴を生かしつつ,「電車おもちゃ」として創意工夫を加えデフォルメしているものであるということができるものの,本願意匠と引用意匠とを対比すると,新幹線300系のぞみ号の構成の中で,上記共通点(6)掲記の各部の具体的態様が織りなす印象は共通しているといわざるを得ない。そうであれば,審決が「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定したことに,誤りはない。
(4)差異点を看過したことについて確かに,審決は,差異点として(イ),(ロ)を認定したところ,運転席窓の縦桟については,差異点(ロ)に掲げているものの,窓やワイパーについては,差異点の中に掲げていない。
しかし,審決は,窓やワイパーについて,請求人(原告)が差異点を追加して主張するとした上,その差異が両意匠の全体の類否判断に及ぼす影響は小さいと判断しているのであるから,審決が窓やワイパーについて差異点の中に掲げていないだけのことであり,相違点を看過したということにはならない。
(5)以上のとおりであって,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(類否判断の誤り)について(1)本願意匠と引用意匠とを対比すると,審決が認定した共通点及び差異点があるということができる(上記1のとおり,原告が主張する審決の認定の誤りはなく,その余の審決の認定は,原告も争わない。)。
そして,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察すると,共通点(1)ないし(6)は,本願意匠及び引用意匠のそれぞれの全体の特徴を表した構成形態であって,全体として一つのまとまりを形成し,視覚を通じて一つのまとまりをもった美観を看者に与えるものであるということができる。
(2)もっとも,本願意匠と引用意匠には,差異点(イ),(ロ)のほか,原告が主張するような,客席部窓の態様(本願意匠は開口しているのに対し,引用意匠は暗色である。),ワイパーの有無(本願意匠は運転席にワイパーがあるのに対し,引用意匠は運転席窓にワイパーがない。)等の差異がある。
しかしながら,差異点(イ)の「本願意匠は,片側に2個ずつ(2対)取り付けた車輪の径が大きく,その下半分がスカート部から露出し,そのため,全体が底上げされた感があり,重心が高い位置にあるように見える」との点は,意匠登録第1095075号公報の意匠に係る物品を「形態変化玩具」とする意匠(甲17),日経BP社が発行した「日経デザイン」2000年(平成12年)3月号59頁の「2スピード700系新幹線」の意匠(甲18,乙12),トミーが発行した「'81後記総合カタログ」27頁の「ライト付東北上越新幹線」の意匠(甲19,乙14),セガが平成9年3月以前に発行した「ドゥータウン」(カタログ)の「新幹線のぞみ」の意匠(乙13)があることに照らすと,本願意匠の意匠登録出願前に普通に用いられている手法であって,本願意匠に格別のものではなく,「片側に4個ずつ(4対)取り付けた車輪の径は小さく,スカート部に隠れてあまり露出せず,低重心である」引用意匠と異なるものであるとしても,看者に格別の美観を与えるということはできない。
また,差異点(ロ)のうち,@平面湾曲V字状で側面鷲鼻状の運転席部の先端を平面視したときの形状において,本願意匠の方が引用意匠のものよりも先が尖っているとの点は,それほど目立つものではなく微弱な差異であり,A運転席窓の客席窓に対する高さ位置と前面視したときの縦幅の広狭と両端の傾斜面の態様は,全体から見れば部分的でかつ微弱な差異であり,B運転席窓の3本の縦桟について,本願意匠のように縦桟があるものは,株式会社アガツマが発行した「2002CATALOGUE」49頁の「東海道・山陽新幹線のぞみ」の意匠(甲20)があるから,本願意匠の意匠登録出願前公知のものであって,本願意匠に格別のものではなく,C暗調子スカート部の凹凸感は,それほど目立つものではなく微弱な差異であり,D係止部について,本願意匠のように係止部があるものは,意匠登録第1095075号公報の意匠に係る物品を「形態変化玩具」とする意匠(甲17)があるから,本願意匠の意匠登録出願前公知のものであって,本願意匠に格別のものではなく,Eヒンジ,屋根面の半割のラインについて,引用意匠にヒンジ,屋根面の半割のラインがあるのは,「車両本体を展開し本体内上部に鉄道模型おもちゃを収納することができる。」(引用意匠に係る意匠公報(甲4)の説明の項)ようにしたことによるのであって,本願意匠のようにヒンジ,屋根面の半割のラインがないものがむしろ通常である。そうであれば,これらの具体的態様における差異点は,微弱な差異であるか,又は本願意匠に格別のものではないから,看者に格別の美観を与えるものとはいえない。
さらに,客席部窓の態様(本願意匠は客席部窓が開口しているのに対し,引用意匠は暗色である。),ワイパーの有無(本願意匠は運転席にワイパーがあるのに対し,引用意匠は運転席窓にワイパーがない。)は,それほど目立つものではなく微弱な差異であって,これもまた,看者に格別の美観を与えるものではない。
(3)そうすると,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察したときには,共通点(1)ないし(6)が,強く看者の注意を引くのであって,本願意匠と引用意匠との差異点は,上記(2)のとおり,看者に格別の美観を与えるものではなく,看者の注意を引くということはできない。
したがって,本願意匠と引用意匠とは,看者に対し異なる美観を与えるということはできないから,全体として類似するものである。
(4)原告は,審決は,本願意匠と引用意匠の類否判断において,「前方斜め上方から俯瞰して普通に全体観察した」として,全体観察といいながら,観察する状態,観察する側面を限定して,「前方斜め上方から俯瞰」すれば足りるとしていると主張する。しかしながら,審決の説示によれば,審決は,本願意匠及び引用意匠との差異点及び共通点が類否判断に及ぼす影響を検討し,その検討結果に基づき,「前方斜め上方から俯瞰(電車おもちゃのカタログ等の写真に多用される撮影角度である。)して普通に全体観察した」ときは,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定したのであって,差異点及び共通点が類否判断に及ぼす影響を検討するに当たり,「前方斜め上方から俯瞰」した態様だけで検討しているわけではないから,原告の上記主張は,審決を正解しないものである。
また,原告は,本願意匠及び引用意匠は,いずれも実在の新幹線300系のぞみ号というモデルに基づく意匠であり,実在のモデルに基づく意匠において,最も看者の注意を引く部分は,モデルに由来する構成態様ではなく,実在のモデルに由来しない構成態様,すなわちモデルに加えられたデフォルメないし改変の態様,改変の度合いであると主張する。しかしながら,実在のモデルに由来しない構成態様,すなわちモデルに加えられたデフォルメないし改変の態様,改変の度合いが,実在のモデルとの対比において,それぞれの意匠の構成態様の特徴であるということができるとしても,本願意匠及び引用意匠とを対比した場合において,実在のモデルとの対比における構成態様の特徴的部分が当然に看者の注意を引くということはできない。そして,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察した場合に,原告が主張する改変あるいはデフォルメがされた部分の態様は,上記(2)のとおり,看者に格別の美観を与えるものとはいえないから,これをもって,要部であるということはできない。
さらに,原告は,本願意匠の電車おもちゃの用途や使用態様に基づくならば,車輪の数,車輪の形状,車輪と車体の関係や車両を平面視した場合の模様形状が要部であると主張する。しかしながら,車輪の数,車輪の形状,車輪と車体の関係や車両を平面視した場合の模様形状は,上記(2)のとおり,本願意匠に格別のものではなく,また,特に目立つものでもないから,幼児が手にとっていじったり,レール上又は床等で走らせて遊んだりすることを考慮しても,看者に格別の美観を与えるものということはできないのであって,これをもって,要部であるということはできない。
(5)以上のとおりであって,原告主張の取消事由2は,理由がない。
第5結論よって,原告の主張する審決取消事由は,いずれも理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文
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