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関連審決 不服2005-11104
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  広く知られた /  意匠の類否 /  全体観察 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10238号 審決取消請求事件
原告スルガ株式会社
訴訟代理人弁護士加藤静富,野末寿一,山下善弘,宮田逸江,弁理士 入江一郎
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人日比野香,岩井芳紀,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/25
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2005-11104号事件について平成18年3月30日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要本件は,拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告は,平成16年9月30日,意匠に係る物品を「電車おもちゃ」とする意匠(形態は別紙第1記載のとおりである。以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願(意願2004-29564号)をした。
(2)原告は,平成17年4月27日付けの拒絶査定を受けたので,同年6月15日,拒絶査定に対する審判を請求した(不服2005-11104号事件として係属)。
(3)特許庁は,平成18年3月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月22日,その謄本を原告に送達した。
2審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願意匠は,特許庁意匠課が2002年5月9日に受け入れたカタログ「2002 CATALOGUE PINOCCHIO」の50頁所載の電車おもちゃの意匠(形態は別紙第2記載のとおりである。特許庁意匠課公知資料番号第HC14006023号,以下「引用意匠」という。)に類似するものと認められ,本願意匠は意匠法3条1項3号に該当し,同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができない,というものである。
本願意匠と引用意匠を比較すると,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,また,形態については,主として以下の共通点と差異点がある。
すなわち,両意匠の共通点として,(1)新幹線700系のぞみ号の運転席車両をモデルとした電車おもちゃの形態である点,(2)車両全体は平面U字状で側面前下がり三角状のアヒルの平たい嘴状運転席部と直方体箱状の客席部から成るもので,その車両にライン模様,乗降ドア,客席窓,スカート部,運転席窓,ライト部等の各部を設け,車輪を取り付けたものである点,(3)両側面において,客席部寄り運転席部から客席部後端にかけての略上下中央部を横方向に僅か間隔を置いて併走させた太幅のライン(上側)と細幅ライン(下側)が現れ,その太幅のラインの上の横方向に運転席部の乗降ドアの矩形窓,客席部前端と後端の乗降ドアの矩形窓,その間の矩形客席窓が並んで現れる点,(4)暗調子のカバー帯体で運転席部と客席部の下端部をぐるりと囲むようにスカート部が現れる点,(5)アヒルの平たい嘴状運転席部前面において,2つの両目状の小矩形ライト部とその上に左右両端が切れ上がったようなU字状の変形矩形の運転窓が現れる点が認められ,また,(6)アヒルの平たい嘴状の運転席部前面,運転席窓,ライト部,ライン模様,乗降ドアと窓,客席窓,スカート部等の具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する点が認められる。
一方,請求人も主張するところであるが,両意匠の差異点として,(イ)本願意匠は,片側に2個ずつ(2対)取り付けた車輪の径が大きく,その下半分がスカート部から露出し,そのため,全体が底上げされた感があり,重心が高い位置にあるように見えるのに対し,引用意匠は,片側に4個ずつ(4対)取り付けた車輪の径は小さく,スカート部に隠れてあまり露出せず,低重心である点,(ロ)本願意匠は,運転席部の車両全長に対する比率を引用意匠よりも大きくし,また,車両横幅が広幅である点において差異が認められ,また,(ハ)客席窓に対する運転席窓の高さ位置,客席窓の高さ寸法に対する太幅ラインの幅寸法比率,運転席窓形状,屋根面の模様形状の具体的態様,(ニ)車両全体がずんぐりしているか細身であるかの印象において差異が認められる。
そこで,両意匠の共通点及び差異点について意匠全体として総合的に検討する。
まず,差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響について審案するに,差異点(イ)については,片側に2個ずつ(2対)取り付けた車輪の径が大きく,その下半分がスカート部から露出し,そのため,全体が底上げされた感があり,重心が高い位置にあるように見えるものは,出願前に普通に見られる手法(例えば,日経社が2000年2月24日に発行した「日経デザイン」153号59頁BP(本訴甲15)所載の電車おもちゃの意匠(特許庁意匠課公知資料番号12016441号), HAタイプは異なるが意匠公報所載の登録第1095075号(本訴乙8)の形態変化玩具の意匠,タイプは異なるが特許庁が1981年6月16日に受け入れたトミー発行の製品カタログ「」2TOMY7頁(本訴甲16)のライト付き東北上越新幹線の電車おもちゃの意匠(特許庁意匠課公知資料番号56055726号,昭和56年度内国カタログ44)等参照)であって,本願意匠のみのJC No.特徴といえるものではないから,片側に4個ずつ(4対)取り付けた車輪の径は小さく,スカート部に隠れてあまり露出せず,低重心である引用意匠との間に差異があるにしても,この点が両意匠の類否判断を左右するとはいえないし,差異点(ロ)については,本願意匠のように運転席部の車両全長に対する比率を引用意匠よりも大きくし,また,車両横幅が広幅であるものも出願前に普通に見られ(上記参照),本願意匠のみの特徴といえるものではないから,運転席部の車両全長に対する比率等に引用意匠との間に差異があるにしても,この点も両意匠の類否判断を左右するとはいえない。
差異点(ハ)の客席窓に対する運転席窓の高さ位置の差異については,全体からみれば微妙な程度でしかなく,客席窓の高さ寸法に対する太幅ラインの幅寸法比率の差異については,顕著というほどではなく,運転席窓形状の差異についても,全体からみれば微妙な程度でしかなく,屋根面の模様形状の差異については,上方から俯瞰したときには目に付きやすいが,重要度においてはそれより下の車両部位に比べれば低く,注意を集める部分とはいえないから,これらの点が両意匠の全体の類否判断に及ぼす影響も小さいというほかなく,差異点(ニ)の車両全体がずんぐりしているか細身であるかの印象の差異については,差異点(イ)と差異点(ロ)が相俟ったものを印象として言い表したまでであり,上記した差異点(イ)と差異点(ロ)の評価に吸収されるものでしかない。
また,請求人は,上記した差異点の他に,引用意匠には客席部後端の乗降ドアの後方にトイレ,洗面等の部分があるが,本願意匠にはこれがない点等の差異点も追加して主張するので,その点についても審案するに,本願意匠のように後端の乗降ドアの後方にトイレ,洗面等の部分がないものも普通であり(上記参照),この点もまた上記した差異点(ロ)の評価に吸収されるものでしかない。
次に,一方の共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響において差異点に優るかどうかを審案するに,両意匠の共通点(1)ないし(6)については,形態全体に亘るものではあるが,いずれも出願前に普通に見られ(上記参照),従来意匠の創作の範囲内にあるものであって格別の特徴を備えたという程のものもではないから,各共通点が単独で両意匠の類否判断に及ぼす影響も小さいというほかない。
しかしながら,電車おもちゃの属する意匠分野にあっては,従来意匠の要素や部分を僅かずつ改変させながら,看者に調和あるまとまりを惹起させるデザインを創作する実態がある点を考慮したとしても,前方斜め上方から俯瞰(電車おもちゃのカタログ等の写真に多用される撮影角度である。)して普通に全体観察したときには,両意匠の共通点(1)ないし(6)が相乗する効果は,一つのまとまり感を醸成し,両意匠の形態全体の基調を成し,両意匠の特徴をよく表出し,看者に印象の共通感を強く想起させるところであるのに対し,細部に亘る各差異点が相俟った効果をもってしても,それは共通点の奏する相乗効果を凌駕して別異のまとまり感を強く想起させるほどではないから,共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。
なお,請求人は正面図及び側面図(側面図も電車おもちゃのカタログ等の写真に多用される撮影角度である。)も重視されるべきであると主張するところについては,上記差異点の評価の中で述べたとおりである。
以上のとおりであって,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,その形態について,各差異点が相俟った効果をもってしても,それは共通点の奏する相乗効果を凌駕して別異のまとまり感を強く想起させるほどではないから,共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当であり,しかるに,本願意匠は引用意匠に類似するものと認められ,本願意匠は意匠法3条1項3号に該当し,同条同項柱書の規定により意匠登録を受けることができない。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(共通点及び差異点の認定の誤り)ア審決は,共通点(2)において,「平面U字状で・・・三角状のアヒルの平たい嘴状の運転席部」と上方から観察した形状や左側面の形状を認定し,共通点(3)において,「両側面に」と左側面の形状を特定し,共通点(4)において,「暗調子のカバー帯体が下端部をぐるりと囲むようにスカート部が現われる」と左側面下端部の形状を特定し,共通点(5)において,「左右両端が切れ上がったようなU字状の変形矩形の運転窓」と車両運転席部の左側面の運転席窓の形状を特定し,これらを前提に共通点(6)を認定したが,誤りである。
引用意匠は,カタログ「2002 CATALOGUE PINOCCHIO」の50頁所載の斜視図に表された電車おもちゃの意匠であり,背面,平面,底面,左側面の形状は明らかでないのであるから,引用意匠については,上記各部分の形状を特定することができない。
審決は,特定することができない部分をも参酌し,あるいは,斜視図からは明らかでない部分を根拠なく補った上で,本願意匠と対比し,共通点(2)ないし(5)を認定し,これらを前提に共通点(6)を認定したのであるから,共通点(1)を除き,共通点の認定には誤りがある。
イ審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(2)において,いずれも「車輪を取り付けた」ものであると認定したが,誤りである。
審決も差異点(イ)において認定しているように,引用意匠は,車高が低く,かつ,車輪の径が小さいため,車輪がスカートに隠れて露出していないのに対し,本願意匠は,車高が高く,かつ,車輪の径が大きいため,車輪の約2分の1が露出している。しかも,意匠に係る物品が電車おもちゃである以上,車輪の形状,車体と車輪の関係,すなわち車体の重心は,意匠の骨格をなす部分である。
したがって,本願意匠と引用意匠では,意匠の骨格をなす部分,すなわち基本的構成態様が異なっていることになるから,「車輪を取り付けた」という極めて概括的な態様をもって,共通点として認定した審決は,粗雑であって,誤りである。
ウ審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(6)において,「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定したが,誤りである。
共通点(6)は,新幹線700系のぞみ号運転席車両をモデルとした場合に当然に採用される構成態様において共通しているというだけであり,共通点(1)を言い換えたにすぎない。しかも,本願意匠と引用意匠とは,実在の新幹線700系のぞみ号の特徴を生かしつつ,「電車おもちゃ」として創意工夫を加えデフォルメしていて,各部分の具体的態様が異なり,当然,具体的態様が織りなす印象も異なる。
したがって,「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定した審決には誤りがある。
(2)取消事由2(類否判断の誤り)審決は,「前方斜め上方から俯瞰(電車おもちゃのカタログ等の写真に多用される撮影角度である。)して普通に全体観察したときには,両意匠の共通点(1)ないし(6)が相乗する効果は,一つのまとまり感を醸成し,両意匠の形態全体の基調を成し,両意匠の特徴をよく表出し,看者に印象の共通感を強く想起させるところである」として,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断したが,誤りである。
ア観察する状態,方向の作為的な限定意匠の類否判断は,意匠の全体の観察を大原則とする。つまり,意匠を表す各周側面の形態から全体の形態を把握するものである。これに対し,審決は,本願意匠と引用意匠の類否判断において,「前方斜め上方から俯瞰して普通に全体観察した」として,全体観察といいながら,観察する状態,観察する側面を限定している。
本願意匠の電車おもちゃは,単なる観賞,展示用のおもちゃではなく,車輪が回転して,幼児が手にとっていじったり,レール上又は床等で走らせて遊ぶことができるものである。このような物品の用途や使用態様等に照らすと,単に前方斜め上方から俯瞰した(特に,左右側面,平面からの比較観察を怠っている。)という態様だけではなく,手に取った距離から,左右側面,平面,前面,背面,底面の各面の各構成態様を観察して,その類否判断をすべきである。しかも,本願意匠のような略長方体の物体を,斜め前方,すなわち長手方向から観察すると,視覚の錯覚により,奥行きについて,実態とは著しく異なった印象を受けるのである。
したがって,「前方斜め上方から俯瞰」すれば足りるとした審決は,誤りである。なお,引用意匠は,前方斜め側方から撮影された斜視図であって,車両屋根面の模様形状が明らかでないから,審決が,引用意匠を「前方斜め上方から俯瞰」したということもできない。
イ要部認定の誤り(ア)本願意匠が実在のモデルに基づく意匠である点における要部認定の誤りa本願意匠及び引用意匠は,いずれも実在の新幹線700系のぞみ号というモデルに基づく意匠である。実在のモデルに基づく意匠において,最も看者の注意を引く部分は,モデルに由来する構成態様ではなく,実在のモデルに由来しない構成態様,すなわちモデルに加えられたデフォルメないし改変の態様,改変の度合いである。そうすると,これらの実在のモデルにはない,あるいは,実在のモデルに由来しない改変態様にこそ,当該意匠の美感ないし特徴があると考えるべきであって,本願意匠と引用意匠の要部は,新幹線700系のぞみ号をモデルにしつつ,おもちゃであるが故に独自の創意工夫を加え,改変あるいはデフォルメがされた部分の態様であるというべきである。
bモデルとなった新幹線700系のぞみ号は,高速で走行するために安定性が求められるので,車高が低く,低重心であり,かつ,前後2対ずつ4対の車輪が付されているが,車輪の径が小さく,スカート部に隠れて見ることができない。
引用意匠は,上記の構成態様を忠実に再現する。これに対し,本願意匠は,2対4個の車輪しか備えていない上,車輪の径が大きく,車両から2分の1近く露出しているのであって,そのために,車体が高く,高重心である。さらに,車両横幅を広幅にし,車両がずんぐりとしている。
このように,両意匠の改変ないしデフォルメの内容,指向する方向は全く異なっているのであって,両意匠を実物と比較すると,引用意匠は,リアルかつ写実的な印象を与えるのに対し,本願意匠は一見しただけで,いかにも玩具であるという「ちゃち」な印象を与える。
cしたがって,実在のモデルに基づく意匠においては,改変ないしデフォルメされた部分,すなわち,差異点(イ)ないし(ニ)が要部であるところ,本願意匠と引用意匠は,この点において全く異なっているから,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断した審決には,誤りがある。
(イ)物品の使用態様,用途等を考慮しないでした要部認定の誤りa意匠の要部とは,物品の性質,目的,用途,技術的機能,使用態様などから,一般の取引者ないし需要者の注意を最も引く部分であるから,物品の用途や使用態様に基づき認定されるべきものである。
本願意匠は,意匠に係る物品が「電車おもちゃ」であるから,このようなおもちゃを購入する一般消費者あるいは当該おもちゃを使用する,つまり,おもちゃで遊ぶ一般消費者を基準として判断すべきである。
b本願意匠の電車おもちゃは,幼児が手にとっていじったり,レール上又は床等で走らせて遊ぶものであるから,車輪の数,車輪の径,車輪と車体の関係が最も目立つ部分である。また,幼児がレール上又は床等で走らせて遊ぶ場合には,視線が上方から注がれるから,車両を平面視したときの模様形状,すなわち,車両屋根面の模様形状が,最も目に入るものである。
cしたがって,本願意匠の電車おもちゃの用途や使用態様に基づくならば,車輪の数,車輪の形状,車輪と車体の関係や車両屋根面の模様形状が要部であるということができるところ,これは,審決が差異点として認定したものであるから,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断した審決には,誤りがある。
2被告の反論(1)取消事由1(共通点及び差異点の認定の誤り)に対してア確かに,引用意匠は,斜視図に表された電車おもちゃの意匠であり,背面,平面,底面,左側面の形状は明らかでないが,本願意匠と引用意匠とは,いずれも新幹線700系のぞみ号をモデルにして創作された電車おもちゃであって,この種の物品は通常左右対称形状であるから,引用意匠においても,特別な場合を除いて左右対称形状とみなすことは妥当である。
したがって,このような引用意匠を本願意匠と対比して,共通点(2)ないし(5)を認定し,これらを前提に共通点(6)を認定した審決に誤りはない。
イ電車等のおもちゃにおいては,車輪を取り付けたものばかりではなく,車輪のないものや動かない車輪形状を表したものなども,本願意匠の意匠登録出願前から知られていることからすれば,本願意匠と引用意匠とは,複数の車輪を取り付けた点においては共通している。そして,本願意匠は,全体の車体を高くしたことにより,電車おもちゃとしての全体の構成,つまり,車体と車輪のバランスをとるために車輪の径も大きくして表したことから,全体として重心が高い位置にあるように見えるのであって,そのような車高の高い態様にして表した電車おもちゃの態様は,本願出願前に既に広く知られているから,本願意匠のみの特徴とはいえないものである。
したがって,本願意匠と引用意匠との共通点(2)において,いずれも「車輪を取り付けた」ものであるとした審決の認定に誤りはない。
ウ実在の電車をモデルとする場合において,この種の物品のほとんどが必ずしも実在の電車の各構成態様である具体的態様を同様に構成しているものではなく,実物の構成態様のうちのどの部分をおもちゃに反映して構成し,どの部分をデフォルメするかはそれぞれに異なっている。本願意匠と引用意匠とは,新幹線700系のぞみ号の各部構成態様の中で,具体的態様を構成した点が共通するのであるから,「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」とした審決の認定に誤りはない。
(2)取消事由2(類否判断の誤り)に対してア観察する状態,方向の作為的な限定本願意匠と引用意匠とは,いずれも新幹線700系のぞみ号をモデルにして創作された電車おもちゃであって,この種の物品は通常左右対称形状であり,前方斜め上方から全体観察した方が特徴を把握しやすいから,「前方斜め上方から俯瞰して普通に全体観察した」ものであって,観察する状態,観察する側面を限定した訳ではない。しかも,審決は,平面,側面等から具体的態様を観察して,本願意匠と引用意匠との共通点,差異点を認定し,比較検討している。
したがって,審決は,「前方斜め上方から俯瞰」すれば足りるとしたわけではないのであって,審決に誤りはない。
イ要部認定の誤り(ア)本願意匠が実在のモデルに基づく意匠である点における要部認定の誤り実在の電車をモデルとする場合において,この種の物品のほとんどが一定の制約の範囲内でデフォルメされているというものではないし,また,仮にオリジナリティのある部分が差異点を指すというとしても,本願意匠のように車高が高く,車輪の大きい等の形態にデフォルメされた態様のものは,既に知られており,原告の主張する細部の部分等は特徴であるともいいきれず,デフォルメないし改変の程度において著しく異なっているとはいえない。
審決は,実在のモデルの有する意匠的特徴のみを要部としたものではなく,あくまでも両意匠の共通点及び差異点を対比して検討し,全体を観察した結果,共通点を要部としたまでであるから,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断した審決に誤りはない。
(イ)物品の使用態様,用途等を考慮しないでした要部認定の誤り原告が要部であると主張する,車輪の数,車輪の形状,車輪と車体の関係や車両屋根面の模様形状は,車両屋根面の模様形状を除き,本願意匠の意匠登録出願前に既に広く知られた態様であって,本願意匠のみの特徴とはいえないから,要部とはなり得ないものである。また,車輌屋根の模様形状については,本願意匠に太線模様が表された点について差異があるものの,その模様も屋根の表面中央細長部分に長方形状等を簡略に表したものであって,その差異が両意匠の類否判断に与える影響はわずかであるから,要部ということはできない。
したがって,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定して,本願意匠が引用意匠に類似すると判断した審決に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(共通点及び差異点の認定の誤り)について(1)共通点(2)ないし(6)の認定についてア引用意匠は,別紙第2のとおり,「700系新幹線のぞみ」の斜視図に表された電車おもちゃの意匠であって,背面,平面,底面,左側面の形状,態様は上記斜視図からは明らかでない。
しかしながら,引用意匠は,700系新幹線のぞみ号の運転席車両をモデルにした電車おもちゃの意匠であるところ,特段の事情がなければ,左右対称であると考えるのが相当であるから,上記斜視図に表された外観に実在の700系新幹線のぞみ号の運転席車両の外観を併せ考慮すれば,少なくとも,平面及び左側面の形状,態様は確定することができる。そして,このようにして,引用意匠の平面及び左側面の形状,態様を確定した上で,本願意匠と引用意匠を対比すれば,共通点(1)ないし(6),差異点(イ)ないし(ニ)があると認定することができるものである。
イそうであれば,審決が共通点の認定において上方から観察した形状や左側面の形状を確定したことが誤りであるということはできない。
(2)「車輪を取り付けた」ものであると認定した点についてア審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(2)において,「車輪を取り付けた」ものであると認定した上,差異点(イ)において,「本願意匠は,片側に2個ずつ(2対)取り付けた車輪の径が大きく,その下半分がスカート部から露出し,そのため,全体が底上げされた感があり,重心が高い位置にあるように見えるのに対し,引用意匠は,片側に4個ずつ(4対)取り付けた車輪の径は小さく,スカート部に隠れてあまり露出せず,低重心である点」と認定した。
イ本願意匠と引用意匠とは,共に車輪を取り付けたものであって(このことは,原告も争わない。),審決は,共通点として,このことを認定した上,さらに,車輪部について,上記差異点(イ)のとおりの差異があると認定し,これが類否判断に及ぼす影響を検討しているのであるから,審決が「車輪を取り付けた」ことを共通点であると認定したことに,誤りはない。
(3)「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定した点についてア審決は,本願意匠と引用意匠との共通点(6)において,「アヒルの平たい嘴状の運転席部前面,運転席窓,ライト部,ライン模様,乗降ドアと窓,客席窓,スカート部等の具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定した。
イ本願意匠と引用意匠とは,共に新幹線700系のぞみ号の運転席車両をモデルとした電車おもちゃであって(このことは,原告も争わない。),審決は,共通点(1)において,このことを認定し,さらに,上記共通点(6)のとおりの共通点があると認定したものであるところ,原告が主張するように,本願意匠と引用意匠とは,それぞれ実在の新幹線700系のぞみ号の特徴を生かしつつ,「電車おもちゃ」として創意工夫を加えデフォルメしているものであるということができるものの,本願意匠と引用意匠とを対比すると,新幹線700系のぞみ号の構成の中で,上記共通点(6)掲記の各部の具体的態様が織りなす印象は共通しているといわざるを得ない。そうであれば,審決が「具体的態様が織りなす印象においてもほぼ共通する」と認定したことに,誤りはない。
(4)以上のとおりであって,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(類否判断の誤り)について(1)本願意匠と引用意匠とを対比すると,審決が認定した共通点及び差異点があるということができる(上記1のとおり,審決の認定に原告が主張する誤りはなく,その余の審決の認定は,原告も争わない。)。
そして,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察すると,共通点(1)ないし(6)は,本願意匠及び引用意匠のそれぞれの全体の特徴を表した構成形態であって,全体として一つのまとまりを形成し,視覚を通じて一つのまとまりをもった美観を看者に与えるものであるということができる。
(2)もっとも,本願意匠と引用意匠には,差異点(イ)ないし(ニ)がある。
しかしながら,差異点(イ)の「本願意匠は,片側に2個ずつ(2対)取り付けた車輪の径が大きく,その下半分がスカート部から露出し,そのため,全体が底上げされた感があり,重心が高い位置にあるように見える」との点は,日経BP社が発行した「日経デザイン」2000年(平成12年)3月号59頁の「2スピード700系新幹線」の意匠(甲15,乙6),トミーが発行した「'81後記総合カタログ」27頁の「ライト付東北上越新幹線」の意匠(甲16,乙7),意匠登録第1095075号公報の意匠に係る物品を「形態変化玩具」とする意匠(乙8)があることに照らすと,本願意匠の意匠登録出願前に普通に用いられている手法であって,本願意匠に格別のものではなく,「片側に4個ずつ(4対)取り付けた車輪の径は小さく,スカート部に隠れてあまり露出せず,低重心である」引用意匠と異なるものであるとしても,看者に格別の美観を与えるということはできない。
また,差異点(ロ)の「本願意匠は,運転席部の車両全長に対する比率を引用意匠よりも大きくし,また,車両横幅が広幅である」との点は,上記の各意匠があることに照らすと,本願意匠の意匠登録出願前に普通に用いられているものであって,本願意匠に格別のものではないし,両意匠とも実在の車両をモデルにした電車おもちゃであって,実在の車両を正確に縮小したものであるとは通常考えないから,上記の差異点に特に注意を払うことはないと考えられる。
さらに,差異点(ハ)のうち,客席窓に対する運転席窓の高さ位置,客席窓の高さ寸法に対する太幅ラインの幅寸法比率及び運転席窓形状については,全体から見れば部分的であってかつ微弱な差異であり,屋根面の模様形状の具体的態様については,本願意匠が運転席車両の電車おもちゃであることにかんがみると,通常,運転席部や客席部に関心を持ち,屋根面には格別の関心を持つことはないと考えられるから,本願意匠と引用意匠との類否判断に及ぼす影響は小さいといわなければならない。
さらにまた,差異点(ニ)の車両全体がずんぐりしているか細身であるかの印象は,両意匠とも実在の車両をモデルにした電車おもちゃであって,実在の車両を正確に縮小したものであるとは通常考えないから,その差異が特に極端なものでない限り,異なる印象を持つものではないと考えられる。
(3)そうすると,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察したときには,共通点(1)ないし(6)が,強く看者の注意を引くのであって,本願意匠と引用意匠との差異点は,上記(2)のとおり,看者に格別の美観を与えるものではなく,看者の注意を引くということはできない。
したがって,本願意匠と引用意匠とは,看者に対し異なる美観を与えるということはできないから,全体として類似するものである。
(4)原告は,審決は,本願意匠と引用意匠の類否判断において,「前方斜め上方から俯瞰して普通に全体観察した」として,全体観察といいながら,観察する状態,観察する側面を限定して,「前方斜め上方から俯瞰」すれば足りるとしていると主張する。しかしながら,審決の説示によれば,審決は,本願意匠及び引用意匠との差異点及び共通点が類否判断に及ぼす影響を検討し,その検討結果に基づき,「前方斜め上方から俯瞰(電車おもちゃのカタログ等の写真に多用される撮影角度である。)して普通に全体観察した」ときは,「共通点が両意匠の類否判断を左右する要部であるとするのが相当である。」と認定したのであって,差異点及び共通点が類否判断に及ぼす影響を検討するに当たり,「前方斜め上方から俯瞰」した態様だけで検討しているわけではないから,原告の上記主張は,審決を正解しないものである。
また,原告は,本願意匠及び引用意匠は,いずれも実在の新幹線700系のぞみ号というモデルに基づく意匠であり,実在のモデルに基づく意匠において,最も看者の注意を引く部分は,モデルに由来する構成態様ではなく,実在のモデルに由来しない構成態様,すなわちモデルに加えられたデフォルメないし改変の態様,改変の度合いであると主張する。しかしながら,実在のモデルに由来しない構成態様,すなわちモデルに加えられたデフォルメないし改変の態様,改変の度合いが,実在のモデルとの対比において,それぞれの意匠の構成態様の特徴であるということができるとしても,本願意匠及び引用意匠とを対比した場合において,実在のモデルとの対比における構成態様の特徴的部分が当然に看者の注意を引くということはできない。そして,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察した場合に,原告が主張する改変あるいはデフォルメがされた部分の態様は,上記(2)のとおり,看者に格別の美観を与えるものとはいえないから,これをもって,要部であるということはできない。
さらに,原告は,本願意匠の電車おもちゃの用途や使用態様に基づくならば,車輪の数,車輪の形状,車輪と車体の関係や車両を平面視した場合の模様形状が要部であると主張する。しかしながら,車輪の数,車輪の形状,車輪と車体の関係や車両を平面視した場合の模様形状は,上記(2)のとおり,本願意匠に格別のものではなく,また,特に目立つものでもないから,幼児が手にとっていじったり,レール上又は床等で走らせて遊んだりすることを考慮しても,看者に格別の美観を与えるものということはできないのであって,これをもって,要部であるということはできない。
(5)以上のとおりであって,原告主張の取消事由2は,理由がない。
第5結論よって,原告の主張する審決取消事由は,いずれも理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文
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