関連審決 |
不服2005-7310 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10451審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成18行ケ10462審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成17行ケ10227審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成18行ケ10318審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成19行ケ10390審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 意匠の創作 / 物品 / 形状 / 模様 / 部分意匠 / 意匠に係る物品 / 意匠の説明 / 創作容易(容易の創作) / 一意匠一出願(7条) / 3条1項3号 / 意匠の類否 / 全体観察 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10317号
審決取消請求事件
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原告株 式会社カネミツ 訴訟代理人弁理士鈴江正二 同 木村俊之 被告特 許庁長 官中嶋誠 指定代理人鍋田和宣 同 岩井芳紀 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/01/31 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が不服2005−7310号事件について平成18年5月24日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求主文同旨第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成16年3月15日,別添審決謄本写しの別掲第1表示の意匠について,意匠に係る物品を「プーリー」とする意匠登録出願(意願2004-7546号,以下「本件出願」といい,その部分意匠を「本願意匠」という。)をしたが,平成17年3月8日付けで拒絶査定を受けたので,同年4月25日,拒絶査定に対する不服の審判を請求した。 特許庁は,これを不服2005-7310号事件として審理し,平成18年5月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月14日,原告に送達された。 2審決の理由( )審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願意匠は,本件出願前に発行1された別紙意匠公報(甲2,以下「甲2公報」という。)に所載の意匠登録第908556号の類似第1号の意匠(なお,別添審決謄本写しの別掲第2には,錯誤により,誤った意匠公報に所載の意匠を引用意匠として掲載したため,本件訴訟において,これを上記のとおり更正した。)の本願意匠に相当する部分の意匠(以下「引用意匠」という。)と,意匠に係る物品が共通し,また,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通し,その形態においても,共通点は,差異点を凌駕して類否判断を左右するというべきであるから,両意匠は類似するものであって,本願意匠は,意匠法3条1項3号に該当し,意匠登録を受けることができないとした。 ( )審決が認定した,本願意匠と引用意匠の共通点及び差異点は,それぞれ次2のとおりである。 ア共通点(審決謄本2頁第2段落)全体が,円環状のディスク部の下面において,その外周縁部の等間隔の四箇所に,略弧状の切り欠き部を形成したものである点イ差異点 (同第3段落)全体の外径に対する内径について,本願意匠は,引用意匠に比べて僅かに小さくしている点第3原告主張の審決取消事由審決は,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分(以下「本願実線部分」ともいう。)と引用意匠における本願実線部分に相当する部分(以下「本件相当部分」ともいう。)の「位置,大きさ,範囲」が共通すると誤認し(取消事由1),本願意匠と引用意匠の類否判断を誤り(取消事由2),その結果,本願意匠と引用意匠が類似すると誤って判断したものであり,違法であるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」が共通するとした認定判断の誤り)( )審決は,「本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能,位1置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通(する)」(審決謄本2頁第7段落)と認定したが,誤りである。 (2)本願実線部分は,円環状のディスク部の下面(以下,上下等については,審決と同様,引用意匠に係る甲2公報の図の向きに倣うこととし,また,ディスク部の下面を単に「ディスク部」ともいう。)の略中央部分に形成された凹陥部の底面のうちのボス部を除いた部分に位置し,外周縁部の四つの切り欠き部も,凹陥部の底面に位置する。この凹陥部が存在する結果,少なくとも,凹陥部の底面とディスク部外周部の環状平面は,視覚上,区別されて視認される。 これに対し,本件相当部分は,全面的に平坦な円環状のディスク部の略中央部分からボス部を除いた,ディスク部の平坦面上に位置する。当該平坦面には,凹陥部は存在せず,外周縁部の四つの切り欠き部も上記平坦面上に位置し,平坦面上には本件相当部分とそれ以外の部分とを視覚上,区別する手掛かりとなり得るものは存在しないから,両部分は,平坦面上において渾然一体となっている。 そうすると,本願実線部分と本件相当部分は,ボス部を除いた円環状のディスク部の略中央部分に位置する点では共通するものの,本願実線部分は,凹陥部の底面に位置するのに対し,本件相当部分は,ディスク部全体に広がる平坦面に位置する点で差異がある。この差異点は,共通点を凌駕して類否判断に重大な影響を及ぼすものであるにもかかわらず,審決は,上記差異点を看過した。 ( )被告は,本願実線部分と本件相当部分は,プーリーの略中央部分に位置し 3ている点で共通し,本願実線部分が,凹陥部の底面を構成する平坦部であり,本件相当部分が,平坦部の一部を構成する平坦部であることは,本願意匠と引用意匠の類否判断においては,格別影響を及ぼすものでない旨主張し,その理由として,当該物品の属する分野において,ディスク部に凹陥部を設けることは,既に知られているものであって,使用の目的に応じて適宜選択される程度にすぎないものであり,本願実線部分が位置する凹陥部もそれらに比して格別特異なものとはいえないものであることを挙げる。 しかし,原告は,本願実線部分と本件相当部分の位置についての差異点の看過を問題としているのに対し,被告の主張は,差異点の看過の問題を差異点の評価の問題にすり替えているものであり,差異点の看過を認めるものである。 また,被告は,ディスク部に凹陥部を設けることは既に知られているものであるとして,いずれも本件出願前に発行された意匠公報所載の,意匠登録第785578号の類似第11号(乙1),意匠登録第785580号の類似第13号(乙2)及び意匠登録第908587号の類似第4号(乙3,以下,乙1ないし乙3に示された意匠を併せて「乙1意匠等」ともいう。)を挙げる。 しかし,改変によりもたらされる形態等が既に知られているものであるとの主張は,改変が,引用意匠の細部に係るものであるなど,改変の前後における差異が微差であり,改変を引用意匠に施してもその視覚的印象が変わらない場合に限り許されるものであり,改変の結果,引用意匠の視覚的印象が実質的に変わってしまう場合においては,改変によりもたらされる形態等が既に知られているものであるとの主張は許されない。なぜなら,改変の結果,引用意匠の視覚的印象が実質的に変わってしまう場合において,上記の主張を許すことは,意匠の類否判断(意匠法3条1項3号)をするとしながら,実質的に創作容易性(同条2項)を判断することになるからである。本件は,引用意匠に対して,乙1意匠等に示された形態に係る改変を施すと,乙1意匠等に示された凹陥部が最も看者の目をひくディスク部の略中央部分に位置し,大きさの点でも,また,凹陥部が存在するために生じる陰影ないし立体感の点においても,微差とはいえない顕著な視覚的効果を生じるものであるため,改変の前後において引用意匠における本件相当部分の意匠的意義は大きく相違し,引用意匠の視覚的印象が実質的に変わってしまう場合であるから,被告の上記主張は許されない。 2取消事由2(本願意匠と引用意匠の類否判断の誤り)( )審決は,「共通点は,両意匠(注,本願意匠及び引用意匠)の形態全体に1著しい共通感を奏するものであり,差異点を凌駕して類否判断を左右するというべきであるから,意匠全体として観察すると,両意匠は類似するものというほかない。」(審決謄本2頁第7段落)と判断したが,誤りである。 ( )本願実線部分が位置する凹陥部は,ディスク部の略中央部分という最も看2者の注意を惹く部分に位置し,その大きさも,十分に看者の注意をひく大きさであって,その存否を看者が見誤ることはないし,凹陥部が存在するために陰影ないし立体感がディスク部に生じる結果,凹陥部の底面に位置する本願実線部分とそれ以外のディスク部の部分(例えば,ディスク部の外周部の環状平面部)とは,視覚上明りょうに区別されて認識される。これに対し,凹陥部が存在しない引用意匠においては,看者は,平坦なディスク部が全面にわたって存在することだけが印象付けられる。 そして,本願意匠では,本願実線部分の外周縁部に存在する四つの切り欠き部が凹陥部の底面に位置する結果,ディスク部に存在する四つのおむすび状の透孔がディスク部の外周部の環状平面から凹陥部の傾斜面を経て凹陥部の底面にまで進出して延在するという意匠的意義がある。それに対し,引用意匠の切り欠き部は,おむすび状の透孔の他の部分と同一平面上に位置するから,このような意匠的意義はない。 また,本件相当部分は,意匠の対比のために物品全体の形態の中から意図的に切り取られたものであるが,凹陥部が存在しない引用意匠において,本件相当部分は,ディスク部全体に広がる平坦面と渾然一体となり当該平坦面に埋没しているものであって,本件相当部分は恣意的に切り取った感をぬぐえず,看者である需要者にとって,その部分のみが個別化されて視認されるものではないから,意匠の類否判断に当たっては,本件相当部分の評価は低くすべきである。 そうすると,本件においては,凹陥部の有無の視覚的効果の相違は大きく,実線部分の形態自体が共通する場合であっても,その形態が凹陥部の底面に位置している本願意匠と,ディスク部全体が平坦な場合の当該平坦面上に位置している引用意匠とでは,看者に与える印象は全く異なるのであり,両意匠の対比において,本願実線部分と本件相当部分の位置についての差異点は大きく評価されるべきである。本願実線部分が,最も看者の注意をひくディスク部中央に存在し,その存否により全く別異の印象を与える凹陥部の底面に位置していることから,本願意匠と引用意匠を全体観察した場合,本願実線部分と本件相当部分の位置の差異により,本願意匠と引用意匠の形態自体の共通点を含むその他の共通点を凌駕して,本願意匠は,引用意匠とは全く異なる美感を醸成している。 したがって,本願意匠と引用意匠とが全体として類似するとした審決の類否判断は誤りというほかない。 (3)被告は,部分意匠についての類否判断は,基本的には,通常意匠の類否判断と異なるところはなく,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比,及び,本願意匠と引用意匠の類否の判断に与える影響の評価についても同様であるが,本願実線部分以外の部分と本件相当部分以外の部分については,その用途及び機能と,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分とのそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲が,対比できる程度であれば足りるものである旨主張する。 しかし,部分意匠の類否判断においては,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比のほかに,本願実線部分の物品全体の形態の中での相対的関係と,本件相当部分の物品全体の形態の中での相対的関係の対比が不可欠である。部分意匠における「位置,大きさ,範囲」は,正にこのような相対的関係を意味するものであり,本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」が相違することによって実線部分の視覚的印象ないし美感が異なることは大いにあるから,これらを意匠評価上,軽々に扱うことはできない。 部分意匠であっても,実線部分と破線部分とを切り離して実線部分の形態のみを評価することは許されず,物品全体の形態の中でその実線部分の形態を評価すべきであることは,部分意匠制度が,あくまで物品全体の中に占める特定の具体的形態を保護するものであり,破線部分との関係から切り離された実線部分の形態のみを保護するものではないこと,現在の特許庁の実務においても,願書の「意匠に係る物品」欄には,流通過程に置かれ,独立して取引の対象とされる物品自体を記載することとされ,また,実線部分が直接現れない図面であっても六面図中から省略することは許されないことから明らかである。 (4)被告は,本願実線部分が凹陥部の一部であるとしても,その凹陥部は格別特異なものとはいえないから,本願実線部分を大きく評価すべき旨の原告の主張は失当である旨主張する。 しかし,引用意匠が凹陥部を有していないのは明らかであり,また,前記のとおり,引用意匠に対し,乙1意匠等を考慮して類否判断を行うことは,本件においては許されないから,被告の主張は失当である。 (5)被告は,原告が,本件相当部分を,審判請求時の平成17年6月27日付け手続補正書(甲3)添付の比較対照図(以下「本件比較対照図」という。)により特定していることを挙げて,本件相当部分は,恣意的に切り取ったとの感をぬぐえないとの原告の主張が失当である旨主張するが,そもそも,引用意匠における上記特定は,被告による拒絶理由通知書(甲4)及びそれに基づいて本願意匠を拒絶した拒絶査定(甲5)の特定によるものであり,被告の主張は,自らの引用意匠の認定判断の手法を棚上げしたもので,許されるものではない。 (6)被告は,本願実線部分は,他の意匠と対比する際に対比の対象となり得る意匠の創作の単位が表されているものであり,本件相当部分もそれに対応するものであって,個別化されて視認されるかどうかは,部分意匠についての類否判断として,格別重要視されるところではないから,本件相当部分の評価を低くすべきであるとの原告の主張は失当である旨主張する。 本願実線部分は,他の意匠と対比する際に対比の対象となり得る意匠の創作の単位が表されているといえるが,そのことは,直ちに,本件相当部分に意匠の創作の単位が表されていることになるものではないし,本願実線部分ないし本願意匠の認定と,本件相当部分ないし引用意匠の認定とは別個の問題であり,本願実線部分において意匠の創作の単位が表されているからといって,本件相当部分がそうであるとは限らない。 本件相当部分が看者である需要者に個別化されて視認されるか否かは,部分意匠の類否判断の前提である部分意匠の認定にもかかわる問題であり,決して軽視することはできないものである。意匠の創作の単位として把握できず,需要者に個別化されて視認できない結果,そもそも本件相当部分ないし引用意匠を認定できないと結論するか,あるいは,とりあえず引用意匠を認定し,その後の類否判断において小さく評価するかは判断手法の違いであるが,いずれの場合であっても,部分意匠についての類否判断に極めて重大な影響を及ぼすものである。 第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1取消事由1(本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」が共通するとした認定判断の誤り)について( )原告は,本願実線部分と本件相当部分の位置について,これを共通すると1した審決の認定判断を争い,本願実線部分と本件相当部分の位置には,美感に大きく影響する差異が存在している旨主張するが,本願実線部分と本件相当部分は,プーリーの略中央部分に位置している点で,共通していることは明らかである。 ( )原告は,本願実線部分は,凹陥部の底面に位置するのに対し,本件相当部2分は,ディスク部全体に広がる平坦面に位置する点で差異がある旨主張する。 しかし,原告のいう上記差異は,当該部分を含んだプーリー全体の意匠の類否を判断する場合はともかく,本願意匠と引用意匠の類否判断においては,格別影響を及ぼすものでない。すなわち,当該物品の属する分野において,ディスク部に凹陥部を設けることは,乙1意匠等に示されているとおり,既に知られているものであり,使用の目的に応じて適宜選択される程度にすぎないものであって,本願実線部分が位置する凹陥部もそれらに比して格別特異なものであるとはいえない。 したがって,審決に原告主張の瑕疵はない。 2取消事由2(本願意匠と引用意匠の類否判断の誤り)について( )原告は,本願意匠と引用意匠が類似しているとした審決の判断を争い,意1匠評価上,本願実線部分と本件相当部分の位置についての差異点は大きく評価されるべきであり,本願実線部分が,最も看者の注意をひくディスク部中央に存在し,その存否により全く別異の印象を与える凹陥部の底面に位置していることにより,本願意匠と引用意匠を全体観察した場合,その位置の差異により,本願意匠と引用意匠の形態自体の共通点を含むその他の共通点を凌駕して,本願意匠は,引用意匠とは全く異なる美感を醸成している旨主張する。 しかし,部分意匠についての類否判断は,基本的には,通常意匠の類否判断と異なるところはなく,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比,及び,本願意匠と引用意匠の類否の判断に与える影響の評価についても同様であるが,本願実線部分以外の部分と本件相当部分以外の部分については,その用途及び機能と,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分とのそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲が,対比できる程度であれば足りるものである。 そうすると,本願実線部分が凹陥部の一部であるとしても,その凹陥部は格別特異なものとはいえないから,本願実線部分を大きく評価すべきである旨の原告の主張は失当である。 ( )また,原告は,本件相当部分は,ディスク部全体に広がる平坦面と渾然一2体となり当該平坦面に埋没しているものであって,本件相当部分は恣意的に切り取った感をぬぐえず,看者である需要者にとって,その部分のみが個別化されて視認されるものではなく,意匠の類否判断に当たっては,本件相当部分の評価は低くすべきである旨主張する。 しかし,原告は,本件相当部分を,本件比較対照図により特定しているばかりでなく,本願実線部分は,他の意匠と対比する際に対比の対象となり得る意匠の創作の単位が表されているものであり,本件相当部分もそれに対応するものであって,個別化されて視認されるかどうかは,部分意匠についての類否判断として,格別重要視されるところではないから,本件相当部分の評価を低くすべきであるとの原告の主張は失当である。 第5当裁判所の判断1取消事由1(本願実線部分と本件相当部分の「位置,大きさ,範囲」が共通するとした認定判断の誤り)について( )原告は,審決の「本願意匠の意匠登録を受けようとする部分の用途及び機1能,位置,大きさ,範囲と,引用意匠の本願意匠に該当する部分が共通(する)」(審決謄本2頁第7段落)との認定判断を争い,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分(本願実線部分)と引用意匠における本願実線部分に相当する部分(本件相当部分)は,ボス部を除いた円環状のディスク部の略中央部分に位置する点では共通するものの,本願実線部分は,凹陥部の底面に位置するのに対し,本件相当部分は,ディスク部全体に広がる平坦面に位置する点で差異がある旨主張する。 (2)「物品の部分」の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」ということがある。)であって,視覚を通じて美感を起こさせるものも,「意匠」(意匠法2条1項)であり,部分意匠として,意匠登録を受けることができる。 部分意匠においては,物品全体の形状等に係る意匠と同様,意匠登録出願の願書には,原則として,意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付する必要があり(意匠法6条1項柱書),願書に添付すべき図面は,意匠法施行規則の様式第6により作成しなければならない(同規則3条)。そして,上記様式第6において,物品の部分について意匠登録を受けようとする場合は,一組の図面において,意匠に係る物品のうち,「意匠登録を受けようとする部分」を実線で描き,「その他の部分」を破線で描く等により意匠登録を受けようとする部分を特定し,かつ,その特定する方法を願書の「意匠の説明」欄に記載するものとし(備考11),実線及び破線の太さ(備考5)などが定められている。。 そして,意匠登録を受けることができる物品については,意匠法施行規則7条において,別表第1の物品の区分が定められているものの,物品において,意匠登録を受けることができる「部分」についての規定はなく,出願人は,一定のまとまりがあり,視覚を通じて美感を起こさせる形状等からなる部分については,願書の「意匠の説明」欄の記載及び添付図面を用いて(同規則3条所定の様式第6の備考11参照),自ら,意匠登録を受けようとする部分を定めることができると解される。 ここで,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものなのであるから,破線で示された部分の形状等が,部分意匠の認定において,意匠を構成するものとして,直接問題とされるものではない。 しかし,物品全体の意匠は,「物品」の形状等の外観に関するものであり(意匠法2条1項),一定の機能及び用途を有する「物品」を離れての意匠はあり得ないところ,「物品の部分」の形状等の外観に関する部分意匠においても同様であると解されるから,部分意匠においては,部分意匠に係る物品とともに,物品の有する機能及び用途との関係において,意匠登録を受けようとする部分がどのような機能及び用途を有するものであるかが確定されなければならない。そして,そのように意匠登録を受けようとする部分の機能及び用途を確定するに当たっては,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。また,意匠登録を受けようとする部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,物品全体に対しどのような割合を示す大きさであるか(以下,これらの位置,大きさ,範囲を単に「位置等」ともいう。)は,後記2( )のとおり,意匠2登録を受けようとする部分の形状等と並んで部分意匠の類否判断に対して影響を及ぼすものであるといえるころ,そのような位置等は,破線によって具体的に示された形状等を参酌して定めるほかはない。部分意匠は,物品の部分であって,意匠登録を受けようとする部分だけで完結するものではなく,破線によって示された形状等は,それ自体は意匠を構成するものではないが,意匠登録を受けようとする部分がどのような用途及び機能を有するといえるものであるかを定めるとともに,その位置等を事実上画する機能を有するものである。 そして,部分意匠の性質上,破線によって具体的に示される形状等は,意匠登録を受けようとする部分を表すため,当該物品におけるありふれた形状等を示す以上の意味がない場合もあれば,当該物品における特定の形状等を示して,その特定の形状等の下における意匠について,意匠登録を受けようとしている場合もあり,部分意匠において,意匠登録を受けようとする部分の位置等については,願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする部分の性質等を総合的に考慮して決すべきである。 (3)そこで,本願実線部分の形状等及び位置について検討する。 ア本願意匠は,別添審決謄本写しの別掲第1表示のとおりの意匠であり,意匠に係る物品はプーリーである。 本件出願の願書(甲1)の「意匠の説明」欄には,添付した図面について,実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分であり,一点鎖線は,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみを示す線であるとの説明がある。上記添付図面は,斜視図,正面図,背面図,左側面図,平面図及びA-A線切断部端面図からなり,これらの図面においては,中心孔近辺のボス部,外側周面のリム部及び円環状のディスク部を有するプーリー全体の意匠が示されるとともに,同ディスク部が,等間隔で位置する四個のおむすび状の透孔を有すること,ディスク部の下面は,リム部から続く平坦部,凹陥部底面へと続く斜面部,凹陥部底面の平坦部からなることが示されている。また,同図面によれば,ディスク部の略中央部分の,凹陥部底面の平坦部が開始する位置と,中心孔近辺のボス部とディスク部との境界において,それぞれ,一点鎖線により,意匠登録を受けようとする部分と他の部分との円形(ただし,後記四箇所の切り欠き部を有する。)をなす境界が示され,また,A-A線切断部端面図において,ディスク部の略中央部分の,ボス部を除いた凹陥部底面の平坦部が実線で示され,当該平坦部が意匠登録を受けようとする部分であることが示され,かつ,四個の透孔により形成される切り欠き部のうち,上記意匠登録を受けようとする部分の外周縁部に等間隔で位置する四箇所の略弧状の切り欠き部が実線で示されている。他方,プーリーのリム部及びボス部は破線で示されるとともに,ディスク部上面の透孔の形状及びディスク部下面の実線部分以外の透孔の形状は破線で示され,また,A-A線切断部端面図において,ディスク部の,リム部から続く平坦部及び凹陥部底面へと続く斜面部は,いずれも破線で示されている。 さらに,原告の提出した平成17年6月27日付け手続補正書(甲3,以下「本件手続補正書」という。)には,本願意匠の意匠登録を受けようとする部分は,願書及び添付図面から明らかなように,ボス部からやや離れた周辺で,四等分された略二等辺三角形を角丸にした切り欠きを含む部分であって,正面視,全体直径対意匠登録を受けようとする部分の外側直径が約3対1の比率となる旨記載されているとともに,引用意匠と本願意匠をコンピュータグラフィックで立体斜視図化し,対比させた比較参考斜視図( )及び( )が添付され,同( )は,部分意匠として意匠登録を受けよ122うとする部分以外の部分を紫色で着色した図(注,本訴に証拠として提出されたのは白黒で表された写しであるが,その濃度により,着色部分が認識可能である。)であるが,同図において,本願意匠について,凹陥部底面の平坦部の,ボス部を除いたディスク部であり,透孔の先端部分の四箇所の略弧状の切り欠き部を有するドーナツ状の部分が,意匠登録を受けようとする部分であることが示されている。 以上によれば,本件出願における意匠登録を受けようとする本願実線部分の形状等は,外周縁部に等間隔で位置する四箇所の略弧状の切り欠き部を有する平坦なドーナツ状の部分(以下「本件ドーナツ状平坦部分」という。)の形状等であると認められる。 イ次に,本願実線部分の位置について検討すると,本件出願の願書添付の図面においては,破線等を用い,本件ドーナツ状平坦部分は,プーリーのディスク部の略中央部分であること,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,ディスク部の凹陥部の底面に位置することが示されている。 本件出願において,本願実線部分自体は,飽くまで平坦部として示されているのに対し,ディスク部のリブ部から続く平坦部及び凹陥部底面へと続く斜面部は,いずれも破線で示され,かつ,本件ドーナツ状平坦部の外側に位置している。ディスク部が凹陥部を有するという形態は,ディスク部のリブ部から続く平坦部及び凹陥部底面へと続く斜面部を必須の要素とするものであり,これらは,本件ドーナツ状平坦部の外側に位置しているものであるから,本件出願は,プーリーのディスク部が凹陥部を有するという形態そのものについて,意匠登録を受けようとするものでないことは明らかである。 しかしながら,本件出願において,本願実線部分自体は,平坦部ではあるが,上記アのとおり,本件出願の願書添付の図面における,意匠登録を受けようとする部分と他の部分との境界を示す一点鎖線の一方は,凹陥部底面の底面の平坦部が開始する位置に示され,A-A線切断部端面図において,ディスク部の略中央部分の,ボス部を除いた凹陥部底面の平坦部がすべて実線で示されている等の記載に照らせば,原告は,プーリーのディスク部の形状にかかわらず,プーリーのディスク部の平坦面に係る形状等について意匠登録を受けようとするものではなく,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおける,ディスク部の凹陥部の底面の平坦部の形状等について意匠登録を受けようとしているものと合理的に解釈できる。また,このように解釈することにより,本件ドーナツ状平坦部分は,凹陥部の底面に位置する部分として,一定のまとまりがあり,視覚を通じて美感を起こさせるものととらえることができ,また,実線で表されている四箇所の略弧状の切り欠き部も,視覚的に想定し得る凹陥部底面の外周円の切り欠き部として,その形状を認識することができるものである。そして,意匠登録を受けようとする部分の位置をこのように解釈することは,本件手続補正書における前記アの記載とも合致する。 そうすると,本件出願は,上記のように,プーリーのディスク部が凹陥部を有するという形態そのものについて,意匠登録を受けようとするものではないが,願書及びその添付図面等の記載並びに意匠登録を受けようとする本願実線部分の性質等を合理的に解釈すれば,本願実線部分である本件ドーナツ状平坦部分は,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,ディスク部の凹陥部の底面に位置すると解釈するのが相当であり,本願実線部分は,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおける,ディスク部の凹陥部の底面の部分であって,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーのディスク部の意匠とは,異なったところに位置するものであり,また,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーのディスク部に位置することが予定されていないと認めるのが相当である。 本件において,本願実線部分について,ディスク部の略中央部分に位置しさえすれば,凹陥部を有しないディスク部に位置するものも含み,また,そのようなものも予定されていると解することは,上記のような,図面等の記載から導かれる合理的な解釈や,本件ドーナツ状平坦部分の性質からして,失当であるし,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,凹陥部の底面の平坦部の形状等について部分意匠として意匠登録を受けようとするためには,凹陥部に係る形態,すなわち,ディスク部のリム部から続く平坦部及び凹陥部底面へと続く斜面部に係る形態等についても,必ず意匠登録を受けようとする部分に含めてそれらの形状等を特定しなければならないとすることは,物品の部分であっても,一定のまとまりがあり,視覚を通じて美感を起こさせる形状等,本件についていえば,凹陥部の底面に位置する,本件ドーナツ状平坦部分の形状等を部分意匠として保護しようとする法の趣旨を没却することになりかねない。 したがって,本願実線部分である本件ドーナツ状平坦部分は,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,ディスク部の凹陥部の底面に位置するものと認められる。 ( )一方,本件相当部分についてみると,甲2公報に所載のプーリーは,中心4孔近辺のボス部,外側周面のリム部及び円環状のディスク部を有するとともに,同ディスク部が等間隔で位置する四個のおむすび状の透孔を有するが,ディスク部に凹陥部を有さず,ディスク部全面が平坦である。 したがって,引用意匠においては,本件ドーナツ状平坦部分に相当するとされる部分は,ディスク部の略中央部分であって,四箇所の透孔のボス部側の四箇所の略弧状の切り欠き部を有するドーナツ状平坦部分であり,そのドーナツ状平坦部分は,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーにおいて,全面が平坦なディスク部の略中央部分に位置するものである。 以上のとおり,本願実線部分は,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,ディスク部の凹陥部の底面に位置するものであるのに対し,本件相当部分は,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーにおいて,全面が平坦なディスク部の略中央部分に位置するものであるから,本願実線部分と本件相当部分の位置には,差異があるというべきであり,本願実線部分と本件相当部分の位置が共通するとした審決の認定判断は誤りであるというほかはなく,この誤りは,後記2のとおり,審決の結論に影響を及ぼすものである。 ( )被告は,本願実線部分と本件相当部分は,プーリーの略中央部分に位置し5ている点で,共通していることは明らかである旨主張する。 確かに,本件ドーナツ状平坦部分と本件相当部分の位置については,被告主張の共通点があり,また,本願意匠は,プーリーの凹陥部に係る形態について意匠登録を求めようとするものではないが,前記のとおり,本件ドーナツ状平坦部分についていうと,その位置は,単に,プーリーの略中央部分というものではなく,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,ディスク部の凹陥部の底面に位置するものというべきであるから,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーにおいて,全面が平坦なディスク部の略中央部分に位置する本件相当部分の位置とは差異があるというべきである。 また,被告は,当該物品の属する分野において,ディスク部に凹陥部を設けることは,乙1公報等に示されているとおり,既に知られているものであり,使用の目的に応じて適宜選択される程度にすぎないものであって,本願意匠の凹陥部もそれらに比して格別特異なものとはいえないものである旨主張する。 確かに,プーリーのディスク部に等間隔に四つの透孔を設け,その中心部側の切り欠きが略弧状であることは甲2公報に示され,また,乙1公報等によれば,ディスク部に凹陥部を設けることは既に知られていることから,本願意匠について,これらの事実に基づき,当業者の立場からみた意匠の着想の新しさないし独創性の点から,創作が容易であるとされる余地のあることは否定することができない。 しかし,本件は,本願意匠について,意匠法3条1項3号該当性を肯定した審決の認定判断に違法事由が存在するかが問われているのであって,審決では取り上げられていない同法3条2項所定の創作容易性の問題は別論であるというほかはない。そして,前記のとおり,本願実線部分は,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,ディスク部の凹陥部の底面に位置するものであり,本件相当部分とは位置に差異があるのであるから,プーリーにおいて,ディスク部に凹陥部を設けることは,既に知られているものであり,使用の目的に応じて適宜選択される程度にすぎないものであるとしても,本願実線部分と本件相当部分とは位置に差異があるとした上記判断を左右するものではない。 ( )したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。 62取消事由2(本願意匠と引用意匠の類否判断の誤り)について(1)原告は,「共通点は,両意匠(注,本願意匠及び引用意匠)の形態全体に著しい共通感を奏するものであり,差異点を凌駕して類否判断を左右するというべきであるから,意匠全体として観察すると,両意匠は類似するものというほかない。」(審決謄本2頁第7段落)とした審決の判断を争い,本件においては,凹陥部の有無の視覚的効果の相違は大きく,実線部分の形態自体が共通する場合であっても,その形態が凹陥部の底面に位置している本願意匠と,ディスク部全体が平坦な場合の当該平坦面上に位置している引用意匠とでは,看者に与える印象は全く異なるのであり,両意匠の対比において,本願実線部分と本件相当部分の位置についての差異点は大きく評価されるべきであって,本願実線部分が,最も看者の注意をひくディスク部中央に存在し,その存否により全く別異の印象を与える凹陥部の底面に位置していることから,本願意匠と引用意匠を全体観察した場合,本願実線部分と本件相当部分の位置の差異により,本願意匠と引用意匠の形態自体の共通点を含むその他の共通点を凌駕して,本願意匠は,引用意匠とは全く異なる美感を醸成しているとして,審決が本願意匠と引用意匠の類否判断を誤った旨主張する。 ( )部分意匠の類否の判断に当たっては,意匠登録を受けようとする部分の形2状等と,同部分と位置等が大きく異なる部分についての形状等は,仮に,それらの形状等自体が共通又は類似していたとしても,美感上,看者に与える印象が異なる場合もあるから,意匠登録を受けようとする部分とそれに相当する部分が,物品全体の形態との関係において,どこに位置し,どのような大きさを有し,全体に対しどのような割合を占める大きさであるか(「位置等」)についての差異の有無を検討する必要がある。 もっとも,部分意匠制度は,破線で示された物品全体の形態について,同一又は類似の物品の意匠と異なるところがあっても,部分意匠に係る部分の意匠と同一又は類似の場合に,登録を受けた部分意匠を保護しようとするものであることに照らせば,類否判断において,意匠登録に係る部分とそれに相当する部分の位置等の差異を考慮するに当たっては,上記部分意匠制度の趣旨を没却することがないようにしなければならない。破線部の形状等や部分意匠の内容等に照らし,通常考え得る範囲での位置等の変更など,予定されていると解釈し得る位置等の差異は,類否判断に影響を及ぼすものではない。 ( )本願実線部分は,外周縁部に等間隔で位置する四箇所の略弧状の切り欠き3部を有する平坦なドーナツ状の部分であり,本願実線部分と本件相当部分とは,全体が,円環状のディスク部の下面において,その外周縁部の等間隔の四箇所に,略弧状の切り欠き部を形成したものである点において共通する。 他方,本願実線部分は,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,ディスク部の凹陥部の底面に位置するものであるのに対し,本件相当部分は,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーにおいて,全面が平坦なディスク部の略中央部分に位置するものである。 そして,本願実線部分は,上記のとおり,ディスク部に凹陥部を有するプーリーにおいて,ディスク部の凹陥部の底面に位置するものとして,一定のまとまりがあり,美感を生じさせる形状等からなる部分ととらえることができ,本願実線部分は,その内容に照らし,それと相いれない,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーに位置するものを予定していないと解するのが相当である。また,本願実線部分の外周縁部に等間隔で位置する四箇所の略弧状の切り欠き部も,視覚的に想定し得る凹陥部底面の円周の切り欠き部として,その形状を認識することができるのに対し,本件相当部分は,ディスク部全面の平坦部における略中央部分というものであり,本件相当部分と他の部分とを直ちに視覚的に区別するものがなく,四個の透孔による切り欠き部についても,どの範囲の切り欠きであるかを直ちに視覚上認識することはできない。そうすると,本願実線部分と本件相当部分との間に存在する位置の差異によって,本願意匠と引用意匠は,看者に対して,全く異なった美感を与えるものというほかないのであり,上記の位置の差異は,本願意匠と引用意匠の形状自体の共通点を凌駕し,両意匠に異なった美感をもたらすというべきである。 したがって,本願意匠と引用意匠が類似するとした審決の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。 ( )被告は,部分意匠についての類否判断は,基本的には,通常意匠の類否判4断と異なるところはなく,本願実線部分と本件相当部分との形態の対比,及び,本願意匠と引用意匠の類否の判断に与える影響の評価についても同様であるが,本願実線部分以外の部分と本件相当部分以外の部分については,その用途及び機能と,当該物品全体の形態に対する,本願実線部分と本件相当部分とのそれぞれの相対的な位置,大きさ,範囲が,対比できる程度であれば足りるものである旨主張する。 確かに,部分意匠の類否判断において,意匠登録を受けようとする部分の位置の差異を必要以上に考慮することは,実質的に,破線部分の形状等を部分意匠の内容に取り込んで類否判断等をすることにもなりかねず,部分意匠制度の趣旨を没却することになるものであるが,本件においては,前記( )3のとおり,本願実線部分は,その内容に照らし,それと相いれない,ディスク部に凹陥部を有しないプーリーに位置するものを予定していないと解するのが相当であって,本願実線部部と本件相当部分の位置の差異は,本願意匠と引用意匠に異なった美感をもたらし,その類否判断に影響を及ぼすものであるから,被告の主張は採用できない。 (5)したがって,原告主張の取消事由2は理由がある。 3よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 柴田義明 |