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関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  新規性 /  記載された意匠 /  類似する意匠 /  物品の機能 /  完成品 /  部品 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  願書の記載 /  類似物品 /  全体観察 /  登録意匠 /  類似範囲 /  差止請求(差止) /  抵触 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 18年 (ワ) 19650号 意匠権侵害差止請求権不存在確認請求事件
東京都台東区<以下略>
原告サ ンコー株式会社
同訴訟代理人弁護士高橋雄一郎
同訴訟代理人弁理士望月尚子
同 補佐人弁理 士小野曜東京都品川区<以下略>
被告ソニー株式会社
同訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同 富岡英次
同 相良由里子
同 補佐人弁理 士井野砂里
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2007/04/18
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求被告が,原告に対し,意匠登録第1276011号の意匠権に基づき,別紙原告製品目録記載の製品について,その製造,使用,譲渡,貸渡し若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止めを求める権利を有しないことを確認する。
2第2事案の概要本件は,別紙原告製品目録記載の増幅器(アンプ,以下「原告製品」という。)を販売する原告が,被告から,原告製品の意匠(以下「原告製品意匠」という。)が被告の有する意匠登録第1276011号の意匠権(以下「本件意匠権」という。)に係る登録意匠(以下「本件登録意匠」という。)に類似するとして,原告製品の販売の差止めを求められているところ,原告製品意匠は,本件登録意匠に類似しないとして,被告の原告に対する,意匠法(以下「法」という。)37条1項に基づく,本件意匠権による原告製品の販売等の差止請求権が存在しないことの確認を求めている事案である。
1前提となる事実等(いずれも争いがない。)□当事者原告は,電子・電気機械器具の輸入,販売等を業とする会社である。
被告は,電子・電気機器器具の製造,販売等を業とする会社である。
□本件意匠権被告は,以下のとおり,本件意匠権を有している。
登録番号第1276011号意匠に係る物品増幅器付スピーカー出 願 年 月 日平成17年8月30日(以下「本件出願日」という。)登 録 年 月 日平成18年5月26日登録意匠別紙本件登録意匠図面記載のとおり□原告製品の販売原告は,原告製品を販売している。
□被告から原告に対する,原告製品の販売の停止請求被告は,平成18年8月22日,原告に対し,原告製品意匠が本件登録意匠に類似することを理由としてその販売の停止を請求する旨の通知書を送付3し,その後も,原告製品の販売の停止を求めている。
2争点本件登録意匠と原告製品意匠の類否3争点についての当事者の主張(被告の主張)□物品類似性ア本件意匠権の意匠に係る物品の機能(ア)多機能物品であること本件意匠権の意匠に係る物品(以下「本件物品」という。)は,「増幅器付スピーカー」である。
一般的に,オーディオ機器は,音源からの音を再生するのに,スピーカーを増幅器に接続し,それに音源を接続するものであり,増幅器(アンプ)とスピーカーとはそれぞれ別々の機能を持ち,別個独立の製品として作られ,互いにケーブルで接続する場合も多い。
これに対し,本件物品は,増幅器の機能とスピーカーの機能とを一体の製品としたものであって,再生装置(音源)からの音声の信号を増幅する増幅器としての機能と,音を出すというスピーカーとしての機能とを1つの物品に併せ持つものである。
(イ)多機能物品の場合の「意匠に係る物品」欄の記載2つの機能を持つ物品に係る意匠を出願する場合,その物品名は,複数の物品名を1つにまとめたものとされ,「○○付き××」のように,主となる形状又は機能を後にして表すものとされ,2つの機能が主従関係にない場合にも,「○○・××」,「○○兼××」とすることは許されない(特許庁発行の「意匠登録出願の願書及び図面の記載に関するガイドライン」,以下「ガイドライン」という。)ので,いずれかを後ろにもっていくこととして,「○○付き××」とせざるを得ない。
4本件物品の2つの機能についての主従関係をみると,音源の音を出すためには増幅器もスピーカーも必要であり,どちらの機能がなくても音を出すことはできないから,2つの機能に主従関係はない。
そのため,本件物品は「増幅器付スピーカー」であるが,「スピーカー」が主要部分であることにはならない。
イ原告製品の機能との対比主従関係にない2つの機能を併せ持つ物品と,どちらか1つの機能のみを持つ物品とは,機能に同一又は類似する部分が含まれていれば,類似物品と解される。
本件物品の「増幅器付スピーカー」は,「スピーカー」に対して類似物品であるとともに,原告製品の「増幅器」に対しても類似物品であるといえる。
なお,本件物品と原告製品の物品の機能について,さらに,詳細に対比すると,いずれも,音声情報が格納された電子機器の本体自体を直接,正面前方の突出した端子部分に装着して接続することができるようになっているという同様の機能を有している。
ウ原告主張に対する反論(ア)原告の反論□イ(多機能物品ではないこと)について原告は,本件物品は,増幅器(アンプ)単体の機能を使うことが予定されていない旨主張するが,登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定めなければならず,意匠に係る物品の機能については「意匠に係る物品の説明」欄を参照すべきところ,本件登録意匠については,同欄に,「本願意匠に係る物品は,増幅器としての機能を備えたスピーカーである。」と記載されているにすぎず,増幅器(アンプ)単体の機能を使用することができないことは記載も示唆もないから,原告の主張は根拠がない。
5また,スピーカー部分と増幅器部分とは,一方が完成品,他方が部品という関係にないことは明白である。
(イ)原告の反論□ウ(多機能物品であるとしても類似しないこと)についてa「(ア)物品の区分」及び「(イ)本件物品の用途・機能」について被告は,本件物品が多機能物品であることから,ガイドラインに従って,意匠に係る物品を「増幅器付スピーカー」として出願したものであり,1つの出願に2物品を含める意図は全くないし,両物品を抽象的に上位にとらえているわけではない。
そして,意匠権の効力は,類似する意匠にまで及ぶところ,「増幅器付スピーカー」は「増幅器」にも類似するのであるから,「増幅器付スピーカー」のほかに,「増幅器」についても更に出願する必要性は低い。
b「(ウ)機能の主従関係」について原告は,本件登録意匠は,多数の小孔を配置したスピーカーの音声取出し用のメッシュが全面を覆っているから,本件物品の形状はスピーカーの部分の割合が大半を占めている,すなわち,主要部分はスピーカーであると主張する。
しかし,創作者は,その形状等を自由に創作することができ,増幅器の前面をメッシュ状の意匠とすることも自由であり,創作した意匠を図面等に記載して出願するのであるから,原告の主張は失当である。
c「(エ)更なる機能」について原告は,被告が,本件物品も原告製品も,音声情報が格納された電子機器の本体自体を直接,ドック部に接続する点で共通していると指摘したことについて,一部のわずかな機能が共通することをもって,両者が類似物品であると主張するものであるとする。
6しかしながら,被告は,上記のア及びイで述べた共通点に加えて,上記ドック部との接続の点を追加的に挙げたにすぎず,このことのみを根拠に両物品が類似すると主張しているわけではない。
□意匠の形態面における類似性ア本件登録意匠の構成本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,以下のとおりである。
なお,各構成に付された符号は,別紙本件登録意匠図面に記載されているものである。
(基本的構成態様)(ア)平坦な正三角形の左右側面1,2と,正三角形の各辺を短辺とし,また,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面3,底面4及び背面5とで形成される正三角柱の形態をなす本体部6を有する。
(イ)本体部6の正面3の中央下部から前方に突出し,正面3と円弧状の境界7をなして連設された半円形のドック部8を有する。
(具体的構成態様)(ウ)ドック部8は,不透明である。
(エ)ドック部8の上面中央部分に,電子機器本体を直接装着する横長の端子9が設けられている。
(オ)三角柱の長方形の面3,4,5は,それぞれ,短辺と長辺の比が1対4の長方形である。
(カ)本体部6は,全体が不透明である。
(キ)本体部6の正面3は,ドック部8を除き,多数の小孔13が全体的に形成されている。
(ク)本体部6の正面3と背面5との境界線である上縁14の右側に複数のボタン15が設けられている。
7イ原告製品意匠の構成原告製品意匠の構成を,上記本件登録意匠の構成に対応させると,以下のとおりとなる。
なお,各構成に付された符号は,別紙原告製品意匠写真に記載されているものである。
(基本的構成態様)(ア )平坦な正三角形の左右側面101,102と,正三角形の各辺を短'辺とし,また,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面103,底面104及び背面105とで形成される正三角柱の形態をなす本体部106を有する。
(イ )本体部106の正面103の中央下部から前方に突出し,正面10'3と円弧状の境界107をなして連設された半円形のドック部108を有する。
(具体的構成態様)(ウ )ドック部108は,不透明である。
'(エ )ドック部108の上面中央部分に,電子機器本体を直接装着する横'長の端子109が設けられている。
(オ )三角柱の長方形の面103,104,105は,それぞれ,短辺と'長辺の比が1対4の長方形である。
(カ )本体部106は,長手方向全体の58パーセントに相当する中央部'分110が不透明であり,左右の21パーセントに相当する部分111のそれぞれが透明であり,左右の透明部分111の内部に各1つずつ真空管112が現れている。
(キ )本体部106の正面103は,全体的に無孔である。
'(ク )本体部106の正面103と背面105との境界線である上縁11'4には,ボタンは設けられていない。
8ウ本件登録意匠の要部本件登録意匠の要部を認定する際,本件登録意匠の出願時の公知意匠を参酌し,公知意匠が登録意匠の類似範囲に含まれないように認定する必要がある。また,意匠権の権利範囲,特に,類似範囲を客観的に認定するためには,その出願前の公知意匠を参酌し,本件登録意匠において,公知意匠にはない創作的寄与がどこにあるのかを評価して,本件登録意匠の本質的特徴ないしは要部を把握する必要がある。当該物品の取引者・需要者は,意匠の新規で特徴的な部位や構成に注意を惹かれるものである。
そこで,本件意匠の特徴を把握するために,本件意匠の出願前の公知意匠をみると,増幅器に関して,本件出願日前に公知であった「三角柱形状の筐体」をもつ意匠はない。スピーカーに関して,三角柱形状であるかのような筐体を有する意匠は存するものの,それらは,全体的に丸みを帯びるなど,本件登録意匠の基本的構成態様のように,平らな面で構成された正三角柱状の本体部を有する意匠ではなく,また,側面の大きさに対して全体の長さ(正面視したときの横方向の寸法)が短く,どちらかといえば,全体的に「箱状」であり,本件登録意匠のように全体的に「柱状」のものではない。
さらに,手前側にクレードル(受け台)を有する意匠(甲7,以下「甲7意匠」という。)については,当該クレードルが本体部の前面中央から前方に突出して,本体の正面と横方向に延びる直線で境界をなして連設されており,本体部の正面と円弧状の境界をなして連設されていない点で,本件登録意匠とは大きく異なる。
そして,基本的構成態様(ア,ア )及び(イ,イ )の組合せについてみる''と,両意匠は,正三角柱の形態をなす本体部6,106の正面3,103と,その正面3,103の中央下部から前方に突出した半円形のドック部8,108とが,円弧状の境界7,107をなして連設され,正三角柱状9の本体部斜面とドック部とが,デザイン上,有機的に結合し,全体として一体性のあるデザインとされている。この特徴は,別紙本件登録意匠図面及び別紙原告製品意匠写真の各正面図において,ドック部が半楕円形で表れており,また,同各平面図において,境界7,107が本体部の内方へと凸状に湾曲して表れており,同各斜視図においても,ドック部が,本体部6,106の正面3,103と円弧状の境界7,107をなして連設されて表れていることからわかる。これらの形態は,本件出願日前には全く見られない構成であるから,本件登録意匠の創作的寄与のある部分の1つであるということができる。
なお,原告は,簡易タイプのスピーカーに係る意匠の意匠公報(甲5,6)及び上記甲7意匠からすれば,原告主張に係る本件登録意匠の構成(ア),(イ)及び(オ)は,いずれも公知ないし周知であり,また,これらの組合せも極めて容易であるから,本件登録意匠の要部とはならない旨主張をするが,意匠は,部分的な構成が他の構成部分と有機的に結合して,全体的に美感を生み出すものであるから,たとえ切離した一部分がありふれた形状であっても,他の構成部分との組合せや関連において,全体として新規な美感を形成する場合もあり得るのであり(東京高判昭和53年11月28日参照),したがって,公知意匠に同様の構成部分を含んだものがあれば,直ちにその部分の構成は意匠の要部にはならないということはできない(大阪地判平成元年6月19日参照)。
したがって,本件登録意匠の要部は,基本的構成態様(ア)及び(イ)並びに具体的構成態様(オ)であり,これらの点に創作的寄与があるとして登録されたものである。
エ類似の幅斬新な意匠ほど類似の幅が広く,同種類のものが多数あれば類似の幅は狭くなるものであるところ,本件登録意匠の,基本的構成態様(ア)及び(イ)10並びに具体的構成態様(オ)については,スピーカー又は増幅器のいずれの分野においても,新規で斬新であり,本件登録意匠の類似の幅は比較的広いといえる。
オ本件登録意匠と原告製品意匠との類否の考察(ア)共通点両意匠は,以下のとおり,基本的構成態様(ア,ア )及び(イ,イ )に''おいて共通する。
a(ア,ア )に関し,平坦な正三角形の左右側面1,2,101,1'02と,正三角形の各辺を短辺とし,また,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面3,103,底面4,104及び背面5,105とで形成される正三角柱の形態をなす本体部6,106を有している。
b(イ,イ )に関し,本体部6,106の正面3,103の中央下部'から前方に突出し,正面3,103と円弧状の境界7,107をなして連設された半円形のドック部8,108を有している。
また,両意匠は,以下のとおり,具体的構成態様(ウ,ウ )ないし(オ,'オ )において共通する。'c(ウ,ウ )に関し,ドック部8,108は,不透明である。'd(エ,エ )に関し,ドック部8,108の上面中央部分に,電子機'器本体を直接装着する横長の端子9,109が設けられている。
e(オ,オ )に関し,三角柱の長方形の面3,4,5,103,10'4,105は,それぞれ,短辺,長辺の比が1対4の長方形である。
(イ)差異点他方,両意匠は,以下のとおり,具体的構成態様(カ,カ )ないし(ク,'ク )において差異がある。'具体的構成態様(カ,カ )に関し,本件登録意匠においては,本体部'116は全体が不透明であるのに対して,原告製品意匠においては,本体部106は長手方向全体の58パーセントに相当する中央部分110が不透明であり,左右の21パーセントに相当する部分111のそれぞれが透明であり,左右の透明部分111の内部に各1つずつ真空管112が現れているという差異点がある。
しかし,増幅器において,ハウジングの一部を透明として内部の真空管が見えるようにした意匠は,本件出願日前に発行された公知文献である雑誌(乙4,5)に表れているように,本件出願日当時,周知といえる。したがって,この差異点が,意匠の類否判断に与える影響は小さい。
また,原告製品意匠において,本体部106の透明なハウジング部分111の内部に現れている真空管112は,本件出願日前に発行された公知文献である雑誌(乙7)に,多数,同形状のものが表れており,また,当時,これらの真空管が多数のメーカーによって市場で販売されていたことから,原告製品意匠の真空管112の形状は,本件出願日当時,周知であった。したがって,この差異点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
具体的構成態様(キ,キ )に関し,本件登録意匠においては,本体部'6の正面3は,ドック部8を除き,多数の小孔13が全体的に形成されているのに対して,原告製品意匠においては,本体部106の正面103が全体的に無孔であるという差異点がある。
この点に関しては,社団法人日本デザイン保護協会が行った調査の調査報告書(乙8)によれば,本件出願日前に発行された多くの登録意匠公報において,多数の小孔が形成された増幅器付きスピーカー等が挙げられており,このことから,この種の物品の意匠において,正面全体に多数の小孔が形成されている態様は周知であるといえる。したがって,上記差異点が,両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
12具体的構成態様(ク,ク )に関し,本件登録意匠においては,本体部'6の正面3と背面5との境界線である上縁14の右側に複数の操作ボタン15が設けられているのに対して,原告製品意匠においては,本体部106の正面103と背面105との境界線である上縁114には操作ボタンが設けられていないという差異点がある。
しかしながら,この操作ボタン15は,全体に対して小さい部分を占め,しかも,操作ボタン自体の形状は,周知の特徴のないものであるから,操作ボタンの有無は,両意匠の類否判断に影響を与えるほどの差異ではない。
全体観察以上を前提として両意匠を全体的に観察すると,両意匠は,特に,両意匠の形態の骨格的要素となり,意匠全体の基調を決定付ける基本的構成態様(ア,ア )及び(イ,イ )が共通しており,また,具体的構成態様(ウ,ウ'')ないし(オ,オ )も,基本的構成態様とあいまって両意匠を特徴付ける''ものであるが,これらの点も共通しているのに対して,両意匠の具体的構成態様(カ,カ )ないし(ク,ク )に関する差異点は微差にとどまり,上記''の共通する部分以上に看者に印象付ける大きな特徴をなしているものと認めることはできず,共通点が差異点を大きく凌駕しているということができる。そのため,意匠全体から感得される美感も,本件意匠と原告製品意匠とで共通しているといえる。
□まとめしたがって,原告製品意匠は,本件登録意匠及びこれに類似する意匠の範囲に属するといえる。
(原告の反論)□物品の非類似ア総論13本件物品は増幅器付スピーカーであるのに対し,原告製品は単なる増幅器である。
増幅器付スピーカーは,その主要部分がスピーカーであり,消費者は,音を出すというスピーカー本来の機能を期待して購入するものである。
他方,増幅器には,音を出すというスピーカー本来の機能は全く存在せず,再生装置からの音声の信号を増幅するのみである。このように,音を出すという重要な機能が,増幅器付スピーカーには存在し,増幅器には存在しないことから,両者は物品において類似しないことが明らかである。
イ多機能物品ではないこと多機能物品とは,複数の機能を有する物品であり,それぞれが単体としてその機能を発揮する必要がある。多機能物品の例としては,「ラジオ受信機付テープレコーダー」,「シャープペンシル及びマーキングペン付ボールペン」などがあり,これらは,各機能を単体として発揮し得るものである。他方,「原動機付自転車」,「太陽電池付時計」などは,前者(原動機,太陽電池)が後者(自転車,時計)の部品となっているだけであり,多機能物品とは評価されない。
本件物品においても,増幅器(アンプ)単体の機能(入力された電気信号を増幅した信号を出力端子に出力する。)を使うことは予定されていない。増幅器は,単にスピーカーに手渡される信号を内部的に増幅するだけの部品である。より具体的には,本件登録意匠には,入力端子と思われる各端子がドックの部分に存在するが,増幅器には一般に備わっているところの端子(外部スピーカーに接続する信号出力端子)が存在しLINE OUTない。これはすなわち,増幅器としての機能を有しないことを意味する。
ウ多機能物品であるとしても類似しないこと本件物品が多機能物品であるとしても,「増幅器付スピーカー」と「増幅器」とは,類似しない。
14(ア)物品の区分意匠は,物品と一体不可分であって,意匠に係る物品は,意匠登録を受けようとする意匠を表した図面などとともに登録意匠の権利範囲を確定する要素である。その物品の名称を,出願人の自由に任せていたのでは,1出願で広範な意匠出願を認めることと同じ結果となるおそれがあるところ,第三者に対する不測の不利益,出願費用面での出願人間の不公平などを避けるため,経済産業省令で,願書に意匠に係る物品名として記載すべき物品としての階層を統一させているのである。多機能物品において,形状や機能のいずれが主であるかを判断して「○○付き××」として表すように規定しているのは,1出願で広範な意匠出願を認めないためである。
仮に,多機能物品が持つ形状や機能からいずれを主とすべきか判断できない場合は,「○○付き××」と「××付き○○」とで,それぞれ別に出願することが,法7条物品の区分が規定されている趣旨に沿うのであって,「増幅器付スピーカー」とされている場合には,主たる機能は「スピーカー」であり,「増幅器」ではない。
(イ)本件物品の用途・機能被告は,音源の音を出すためには増幅器もスピーカーも必要であり,どちらの機能がなくても音を出すことができない旨主張するが,これは,本件物品の用途・機能について,音源の音を出すために必要という極めて抽象的で広いものとして認定するものである。
しかしながら,物品の区分という概念を用いて意匠に係る物品の名称の階層を統一している趣旨からすれば,物品類否判断に用いられる用途・機能も,物品の区分と同程度の階層の概念でとらえるべきであり,被告主張に係る上記のとらえ方では広すぎることになる。増幅器の用途・機能は,再生装置からの音声信号を増幅し,これを端子かLINE OUT15ら出力することであって,一方,スピーカーの用途・機能は,音を出すということである。
そうすると,「増幅器付スピーカー」である本件物品が「増幅器」に対して類似物品であるという主張は誤りである。
(ウ)機能の主従関係被告は,抽象的に,一般論として,「増幅器」と「スピーカー」について,音源から音を出すためにはいずれも不可欠であるとして,機能に主従関係はないと主張する。
しかしながら,本件登録意匠は,その正面において,ドック部の突出した部分の周辺を除き,多数の小孔を行列状に配置したスピーカーの音声取出し用のメッシュが全面を覆っている。このように,スピーカーの機能として,正面の全面から音が出るようにするために,正面の全面は,音声取出し用のメッシュで覆われているのである。他方,増幅器に存在する端子は存在しない。増幅器にあっては,スピーカーと異LINE OUTなり,音声を取り出すためのメッシュは不要であるが,外部スピーカーに接続するための端子が必要である。
LINE OUTそうすると,このような本件登録意匠の具体的な形状にかんがみれば,本件物品の形状は,スピーカーの部分の割合が大半を占めていることが明らかである。
(エ)更なる機能被告は,本件物品及び原告製品は,正面前方の突出した端子部分に,音声情報が格納された電子機器の本体自体を直接装着して接続することができるようになっており,この共通性をもって,類似物品であることが決定的となる旨主張するが,一部の機能が共通することで物品が類似するというもので,誤りである。
□本件登録意匠と原告製品意匠との類否16ア本件登録意匠の構成本件登録意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は,以下のとおりである。
なお,各構成に付された符号は,別紙本件登録意匠図面に記載されているものである。
(基本的構成態様)(ア)平坦な正三角形の左右側面1,2と,正三角形の各辺を短辺とし,また,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面3,底面4及び背面5とで形成される正三角柱の形態をなす,全体が不透明である本体部6を有する。
(イ)本体部6の正面3の中央下部から前方に突出し,正面3の絶壁状にえぐられて構成された曲面部分と正面から見て一直線状の境界をなして連設された,上面が平坦である半円形のドック部8を有する。
(具体的構成態様)(ウ)ドック部8は,不透明である。
(エ)ドック部8の上面中央部分に,電子機器本体を直接装着する横長の端子9及び2本の角状の電極突起が設けられている。
(オ)三角柱の長方形の面3,4,5は,それぞれ,短辺と長辺の比が1対4の長方形である。
(カ)ドック部8の突出は,ドック部8の円の中心が半径の約4分の1だけ底面4の縁から本体部6に入り込むように連設されている。
(キ)本体部6の正面3は,ドック部8を除き,多数の小孔13が全体的に形成されている。
(ク)本体部6の正面3と背面5との境界線である上縁14の右側に複数のボタン15が設けられている。
イ原告製品意匠の構成17原告製品意匠の構成を,上記本件登録意匠の構成に対応させると,以下のとおりとなる。
なお,各構成に付された符号は,別紙原告製品意匠写真に記載されているものである。
(基本的構成態様)(ア )平坦な正三角形の左右側面101,102と,正三角形の各辺を短'辺とし,また,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面103,底面104及び背面105とで形成される正三角柱の形態をなす,58パーセントの中央の不透明部分110と42パーセントの左右の透明部分111からなり,左右の透明部分111の内部に各1つずつ長手方向外向きに配置された真空管112が現れている本体部106を有する。
(イ )本体部106の正面103の中央下部から前方に突出し,正面10'3と円弧状の境界107をなして連設された,上面が丸みを帯びている半円形のドック部108を有する。
(具体的構成態様)(ウ )ドック部108は,不透明である。
'(エ )ドック部108の上面中央部分に,電子機器本体を直接装着する横'長の端子109のみが設けられている。
(オ )三角柱の長方形の面103,104,105は,それぞれ,短辺と'長辺の比が1対4の長方形である。
(カ )ドック部108の突出は,ドック部108の円の中心が底面104'の縁に一致するように連設されている。
(キ )本体部106の正面103は,全体的に無孔である。
'(ク )本体部106の正面103と背面105との境界線である上縁11'4には,ボタンは設けられていない。
ウ本件登録意匠の要部18本件出願日前に発行された,組み立てて使用する簡易タイプのスピーカーに係る意匠の意匠公報(甲5,6)からすれば,本件登録意匠の具体的構成態様(オ)は,基本的構成態様(ア)とあいまって,本件登録意匠の特徴的部分の1つであるという被告の主張は誤りである。
また,平成16年10月15日以降に,各地で販売された,手前側にクレードルを有する増幅器付スピーカーに係る甲7意匠からすれば,本件登録意匠の基本的構成態様(イ)の点が本件登録意匠の特徴的部分(要部)であるとする被告の主張は誤りである。
このように,基本的構成態様(ア)及び(イ)並びに具体的構成態様(オ)は,スピーカーの分野においては,いずれも公知ないし周知であることから,これらの組合せも極めて容易であり,何ら創作的寄与はない。
本件登録意匠について,意匠に係る物品の性質,用途を検討すると,音を出すというスピーカーの性質・用途からすれば,部屋の隅に設置されるので,背面や底面ではなく正面から見た外観が注意を惹くことになる。そうであれば,断面が正三角形か否かよりも,正面から見て,@本体部の全体が不透明である点,A多数の小孔が全体的に形成されている点が,看者の最も注意を惹きやすい部分である。さらに,本件物品の使用態様をみれば,これは携帯用電子機器をドック部に装着させて用いるのであるから,ドック部の上面の形状,とりわけ,Bドック部上面が平坦であることが看者の最も注意を惹きやすい部分の1つである。加えて,公知の甲7意匠と対比させると,正面から見れば,ドック部の突出程度,電極形状及びボタンの有無が異なるだけなのであるから,Cドック部8の円の中心が半径の約4分の1だけ底面4の縁から本体部6に入り込むように連設されている点,D2本の角状の電極突起の存在及びE本体部の正面と背面との境界線である上縁にボタンが設けられている点が,看者の最も注意を惹きやすい部分である。
19以上から,本件登録意匠の要部は,以下の6点である。
@本体部の全体が不透明である点A多数の小孔が全体的に形成されている点Bドック部上面が平坦である点Cドック部8の円の中心が半径の約4分の1だけ底面4の縁から本体部6に入り込むように連設されている点D2本の角状の電極突起が設けられている点E本体部の正面と背面との境界線である上縁にボタンが設けられている点エ類似の幅上記ウのとおり,甲5,6には,本件登録意匠の基本的構成態様(ア)及び具体的構成態様(オ)が明確に開示されており,甲7には,手前側にクレードルを有する増幅器付スピーカーの意匠が明確に開示されている。そうすると,基本的構成態様(ア)及び(イ)や具体的構成態様(オ)に斬新性は全く存在しない。したがって,本件登録意匠においては,類似の幅は極めて狭い。
オ本件登録意匠と原告製品意匠との類否の考察(ア)基本的構成態様(ア,ア )に関し,本件登録意匠においては,本体部は全体が不透明'であるのに対し,原告製品意匠においては,本体部は58パーセントの中央の不透明部分110と42パーセントの左右の透明部分111からなり,左右の透明部分111の内部に各1つずつ長手方向外向きに配置された真空管112が現れている点が異なる。そして,上記ウのとおり,本体部の全体が不透明である点は,本件登録意匠の要部である。したがって,このような要部を異にする以上,本件登録意匠と原告製品意匠は類似しない。
20加えて,原告製品意匠においては,本体部の左右に透明部分111が存在し,その内部に真空管112が現れているが,これは,新たな美感を作り出しているため,看者に異なった印象を与える。被告は,増幅器において,ハウジングの一部を透明として内部の真空管が見えるようにした意匠は周知であったことや,真空管自体が周知であったことから,この差異が意匠の類否判断に与える影響は小さいと主張するが,いかなる公知例にも,左右の透明部分の内部に各1つずつ長手方向外向きに配置された真空管が現れている点は開示されていない。そして,これらの部分が新たな美感を作り出し,看者に異なった印象を与えているのであるから,被告の主張は誤りである。
(イ,イ )に関し,本件登録意匠においては,本体部の正面の絶壁状'にえぐられて構成された曲面部分と正面から見て一直線上の境界をなして連設されたドック部の上面が平坦であるのに対して,原告製品意匠においては,正面から見て円弧状の境界をなして連設されたドック部の上面が丸みを帯びている点が異なる。そして,上記ウのとおり,ドック部の上面が平坦である点は,本件登録意匠の要部である。したがって,このような要部を異にする以上,本件登録意匠と原告製品意匠とは類似しない。
(イ)具体的構成態様(エ,エ )に関し,本件登録意匠においては,ドック部の上面中央部'分に2本の角状の電極突起が設けられているのに対して,原告製品意匠においては,このような2本の角状の電極突起は存在しない点が異なる。
そして,上記ウのとおり,ドック部の上面中央部分に2本の角状の電極突起が設けられている点は,本件登録意匠の要部である。したがって,このような要部を異にする以上,本件登録意匠と原告製品意匠とは類似しない。
21(カ,カ )に関し,本件登録意匠においては,ドック部8の円の中心'が半径の約4分の1だけ底面4の縁から本体部6に入り込むように連設されているのに対して,原告製品意匠においては,ドック部108の円の中心が底面104の縁に一致するように(より突出して)連設されている点が異なる。そして,上記ウのとおり,このようなドック部の突出程度は,本件登録意匠の要部であり,このような要部を異にする以上,本件登録意匠と原告製品意匠は類似しない。
(キ,キ )に関し,本件登録意匠においては,多数の小孔が全体的に'形成されているのに対して,原告製品意匠においては,全体的に無孔である点が異なる。そして,上記ウのとおり,多数の小孔が全体的に構成されている点が,本件登録意匠の要部である。したがって,このような要部を異にする両意匠は類似しない。
(ク,ク )に関し,本件登録意匠においては,本体部の正面と背面と'の境界線である上縁にボタンが設けられているのに対して,原告製品意匠においては,ボタンが存在しない点が異なる。そして,上記ウのとおり,ボタンの存在は,本件登録意匠の要部であるから,このような要部を異にする両意匠は類似しない。
この点について,被告は,操作ボタンは全体に対して小さい部分を占め,しかも,ボタン自体の形状は周知の特徴のないものであるから,この違いは類否判断に影響を与えるほどの差異ではない旨主張するが,電子機器におけるボタンは,ユーザーとのインターフェースの部分であり,ユーザーがとりわけ注目するところであることから,ボタンの位置,形状は,意匠の類否判断に多大なる影響を与える。
カ全体的考察以上のとおり,本件登録意匠と原告製品意匠とは,その要部において,すべて異なり,とりわけ,原告製品意匠においては,@透明部分111が22存在し,A左右に真空管が配置され,Bいずれの真空管も長手方向外向きに配置されていること等から,意匠全体から感得される美感も本件意匠と際立って異なる。
□まとめ以上から,本件登録意匠と原告製品意匠とは,差異点が共通点を大きく凌駕しているということができ,原告製品意匠は,本件登録意匠の類似範囲に属しない。
第3争点(本件登録意匠と原告製品意匠の類否)に対する当裁判所の判断1事実認定本件登録意匠及び原告製品意匠の構成態様は,証拠(甲2,3)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりであると認められる。
□本件登録意匠の構成態様以下の各構成に付された符号は,別紙本件登録意匠図面に記載されているものである。
ア基本的構成態様@平坦な正三角形の左右側面1,2と,正三角形の各辺を短辺とし,長手方向全長を長辺とする,平坦な長方形の正面3,底面4及び背面5とで形成される,正三角柱の形態をなす本体部6を有する。
A本体部6の正面3に連設され,正面3の中央下部から前方に,上方から見て半円形に突出し,正面3との境界7は,正面から見て円弧状をなし,上方から見て中央部分で本体部6方向にやや湾曲した弓状をなす,ドック部8を有する。
イ具体的構成態様Bドック部8は,本体部6の正面3との円弧状の境界7から下方にほぼ垂直の曲面をなす部分と,前方に突出する部分とからなり,突出部分の上面は平坦である。
23Cドック部8は,不透明である。
Dドック部8の上面中央部分に,電子機器本体を直接装着する横長の端子9が設けられており,端子の両端に2本の角状の突起が設けられている。
E本体部6の三角柱の長方形の面3,4,5は,それぞれ,短辺と長辺の比が1対4の長方形である。
F本体部6は,全体が不透明である。
G本体部6の正面3には,ドック部8を除き,多数の小孔13が全体的に形成されている。
H本体部6の正面3と背面5との境界線である上縁14の,正面から見て右端付近には,3個のボタン15が設けられている。
□原告製品意匠の構成態様以下の各構成に付された符号は,別紙原告製品意匠写真に記載されているものである。
ア基本的構成態様@’平坦な正三角形の左右側面101,102と,正三角形の各辺を短辺とし,長手方向全長を長辺とする,平坦な長方形の正面103,底面104及び背面105とで形成される,正三角柱の形態をなす本体部106を有する。
A’本体部106の正面103に連設され,正面103の中央下部から前方に,上方から見て半円形に突出し,正面103との境界107は,正面から見て円弧状をなし,上方から見て中央部分で本体部106方向にやや湾曲した弓状をなす,ドック部108を有する。
イ具体的構成態様B’ドック部108は,上面が,一部切り取られたようなドーム状であり,切り取られた面は平坦で,その中央部分に,底面が平坦な窪み部分24が設けられている。
C’ドック部108は,不透明である。
D’ドック部108の平坦な上面中央部分に,電子機器本体を直接装着する横長の端子109が設けられている。
E’本体部106の三角柱の長方形の面103,104,105は,それぞれ,短辺と長辺の比が1対4の長方形である。
F’本体部106は,長手方向全体の58パーセントに相当する中央部分110が不透明であり,左右の各21パーセントに相当する部分111のそれぞれが透明であり,左右の透明部分111の内部に各1つずつ真空管112が設けられている。
G’本体部106の正面103は,中央部分110及び左右の透明部分111のいずれも無孔である。
H’本体部106の正面103と背面105との境界線である上縁114には,ボタンが設けられていない。
2類否の検討意匠権の効力は,登録意匠及びこれに類似する意匠に及ぶ(法23条)ところ,意匠は,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせる創作であり(法1条,2条1項),その類否は,登録意匠と対象意匠とが美感を共通にするかどうかによって判断されるが,その際には,登録意匠の創作性の程度,対象意匠に係る物品登録意匠意匠に係る物品との同一又は類似性などが考慮されることになる。
そこで,1で認定した,本件登録意匠及び原告製品意匠の構成態様をもとに,両者の類否を検討する。
物品類似性ア検討本件物品は増幅器付スピーカー,原告製品は増幅器であり,両物品は同25一ではないから,両物品の用途・機能等から,それらの類似性を検討すると,本件物品は,増幅器及びスピーカーという,2つの機能を有する,いわゆる多機能物品であるところ,増幅器の機能において,原告製品と機能を共通にするものであり,両物品は類似すると解される。
イ原告の主張について(ア)原告は,多機能物品というためには,複数の機能のそれぞれが単体として発揮され得るものでなければならないところ,本件物品は,内部的に増幅機能を有しているだけで,出力端子がないから,増幅器単体の機能を使うことは予定されておらず,原動機付自転車,太陽電池付時計などと同様,多機能物品ではない旨主張する。
しかしながら,まず,原動機付自転車及び太陽電池付時計においては,原動機が自転車という完成された主たる製品の一部品となり,太陽電池が同じく時計という完成された主たる製品の一部品となっていると理解されるものであるところ,本件物品の場合,増幅器もスピーカーも,それぞれ音源からの音を再生するために独立して不可欠の機能を有するものであって,前者が後者の一部品となるものではない。そして,登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載された意匠に基づいて定められる(法24条)のであり,本件登録意匠の願書,図面等(甲2)に,増幅器単体での機能が発揮されないことを示す記載は認められないから,本件物品は,増幅器の機能をも有する多機能物品であると解すべきである。
なお,同図面等には,出力端子と解されるような記載は認められないところ,図面上の,外部への出力端子の有無により,増幅器としての機能に消長を来すものでないことは明らかであり,増幅器単体の機能を使うことを予定されていないとする原告の主張には,理由がない。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
26(イ)原告は,また,本件物品が多機能物品であるとしても,増幅器付スピーカーとして出願した以上,1意匠1出願の原則(法7条)をとる意匠法のもとでは,スピーカーとしてとらえるべきであるし,本件物品は,本体の正面がスピーカーの音声取出し用のメッシュで覆われ,出力端子もないのであって,スピーカーの機能が主たるものであるから,増幅器である原告製品とは類似しない旨主張する。
しかしながら,特許庁発行のガイドライン(乙1)によれば,多機能物品に係る意匠登録出願については,「○○付き××」という物品名として当該出願をすることが求められており,そのような多機能物品が有する複数の機能の1つに着目して,対象となる製品との間で物品の類否を検討することは,1意匠1出願の原則と抵触するものではない(原告は,多機能物品が持つ形状や機能からいずれを主とすべきか判断できない場合は,「○○付き××」と「××付き○○」とで,それぞれ別に出願することが,法7条物品の区分が規定されている趣旨に沿うと主張するが,そのように解すべき合理的根拠はない。)。
そして,上記(ア)で検討したとおり,本件物品は,増幅器の機能をも有すると認められるのであって,図面上出力端子の記載が認められないことや,本体部の正面がメッシュ状であることから,直ちに,当該物品の主たる機能がスピーカーであるということもできないから,原告の主張を採用することはできない。
□意匠の形態面における類似性意匠の類否の判断は,当該意匠に係る物品の取引者・需要者において,視覚を通じて最も注意を惹かれる部分をその意匠の中から抽出し,当該部分の共通点及び差異点を検討した上,その他の部分の共通点及び差異点についても検討し,これらを勘案した結果,全体として,美感を共通にするか否かを基本として行うべきであるといわなければならない。
27ア本件登録意匠の要部登録意匠について,当該意匠に係る物品の取引者・需要者が,視覚を通じて最も注意を惹かれる部分,すなわち,意匠の要部を把握するに際しては,当該意匠の出願時点における公知又は周知の意匠等を参酌するとともに,当該意匠において新規な美感をもたらすべき創作性の程度の評価等を踏まえて,これを検討すべきものである。
(ア)そこで,本件出願日時点において公知であった意匠についてみると,まず,増幅器について,三角柱形状の筐体や,クレードル(受け台)状のドック部を有する意匠が公知であったことを示す証拠はない。
スピーカーに関して,三角柱形状の筐体を有する意匠については,@意匠登録第829399号の意匠(車載用スピーカボックス),A意匠登録第884560号の意匠(車載用スピーカー),B意匠登録第872588号の意匠(車載用スピーカボックス),C意匠登録第873047号の意匠(スピーカーボックス),D意匠登録第873173号の意匠(車載用スピーカーボックス),E意匠登録第933640号の意匠(マイクロホン付スピーカボックス),F意匠登録第1094441号の意匠(スピーカー),G意匠登録第1048787号の意匠(スピーカー),H意匠登録第1048788号の意匠(スピーカー)が,本件出願日時点で公知であったことが認められる(甲5,6,乙3)。
これらのうち,@からFの意匠については,三角柱を構成する各面の全部又は一部が丸みを帯びており,Fの意匠は,下部に台座部分がある上,背面の角部が切り取られており,側面から見た形状が三角形ではない(乙3)。これらの意匠の三角柱の長方形の短辺と長辺の比は,おおむね1対2から1対3であり,Eの意匠では,1つの面の当該比が約1対4であるものの,他の2面は約3対4である(乙3)。G及びHの意匠は,組み立て式のスピーカーに係る意匠であり,組み立てた状態にお28いて三角柱形状の筐体を有する意匠になるところ,その三角柱の長方形の短辺と長辺の比は,約1対3である(甲5,6)。
また,スピーカーに関して,クレードル状のドック部を有する意匠については,平成16年10月1日に,インターネット上のニュースにおいて示され,同月15日からボーズ株式会社により販売された,「」という名称のスピーカーに係る甲7意匠が,本件出願日Sound Dock時点で公知であったと認められるところ,そのドック部は,半円状で上面が平坦なものであり,本体部と直線上の境界をなして連設されている。
なお,甲7意匠の本体部は,正面が中央部分に向かって凸状の曲面であり,全体的には,装着される電子機器より背が高い大型のパネル状の正面の背後に,段差のある四角い筐体が付されているような形状である(甲7)。
(イ)本件物品は,増幅器付スピーカーであり,ドック部に音声情報が格納された電子機器を装着して利用することが予定されており,室内の,当該電子機器の装着,取外しに支障がなく,音声情報の再生に適した任意の場所に設置されることが想定されるものと認められる。そうすると,通常の使用時において,正面若しくは左右から,又は,正面若しくは左右の斜め上から俯瞰して観察される外観が当該物品の利用者の注意を惹くものであると考えられる。
(ウ)以上を踏まえて検討すると,本件登録意匠の要部は,上記1□において認定した本件登録意匠の構成態様のうち,基本的構成態様@及びA並びに具体的構成態様Eとを組み合わせた形状,すなわち,平坦な正三角形の左右側面1,2と,正三角形の各辺を短辺とし,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面3,底面4及び背面5とで形成される正三角柱の形態をなす本体部6を有し(基本的構成態様@),本体部6の正面3に連設され,正面3の中央下部から前方に,上方から見て半円形29に突出し,正面3と境界7は,正面から見て円弧状をなし,上方から見て中央部分で本体部6方向にやや湾曲した弓状をなす,ドック部8を有し(基本的構成態様A),さらに,本体部6の三角柱の長方形の面3,4,5が,それぞれ,短辺と長辺の比は1対4の長方形である(具体的構成態様E)形状であると認められる。
この点,原告は,上記いずれの部分も公知ないし周知の意匠であることから,これらを要部ということはできない旨主張する。しかしながら,各部分について公知ないし周知の意匠があることから,直ちに,これらを組み合わせた部分が要部と認められなくなるものではなく,意匠を全体的に観察した場合に,当該部分が意匠全体の支配的位置を占め,意匠的まとまりを形成し,看者の注意を最も惹くときは,要部と認められるところ,本件全証拠によるも,面が平らな三角柱形状の筐体とドック部とを組み合わせた意匠は他に見当たらないのであるから,これらを組み合わせた部分は,新規なものであり,看者である取引者・需要者の注意を惹く要部であるというべきである。したがって,原告の上記主張は理由がない。
なお,原告は,本件物品は,音を出すという性質,用途から,正面から観察される外観が注意を惹くものであり,その場合,本件登録意匠と上記甲7意匠との差異は,ドック部の突出程度,電極形状,ボタンの有無だけであって,上記の要部として認定した形状は本件登録意匠の要部足り得ない旨主張するが,上記(イ)のとおり,本件物品は,正面からだけではなく,左右又は正面若しくは左右の斜め上から俯瞰して観察される外観も,利用者の注意を惹くものと認められるから,原告の主張を採用することはできない。
イ本件登録意匠及び原告製品意匠との共通点及び差異点そこで,次に,本件登録意匠及び原告製品意匠との共通点及び差異点に30ついてみると,以下のとおりであると認められる(甲2,3)。
(ア)共通点a基本的構成態様@及び@’に関して,いずれも,平坦な正三角形の左右側面1,2,101,102と,正三角形の各辺を短辺とし,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面3,103,底面4,104及び背面5,105とで形成される正三角柱の形態をなす本体部6,106を有している。
b基本的構成態様A及びA’に関して,いずれも,本体部6,106の正面3,103に連設され,正面3,103の中央下部から前方に,上方から見て半円形に突出し,正面3,103との境界7,107は,正面から見て円弧状をなし,上方から見て中央部分で本体部6,106方向にやや湾曲した弓状をなす,ドック部8,108を有している。
c具体的構成態様C及びC’に関し,ドック部8,108は,不透明である。
d具体的構成態様D,D’に関し,ドック部8,108の上面中央部分に,電子機器本体を直接装着する横長の端子9,109が設けられている。
e具体的構成態様E,E’に関し,本体部6,106の三角柱の長方形の面3,4,5,103,104,105は,それぞれ,短辺,長辺の比が1対4の長方形である。
(イ)差異点a具体的構成態様B,B’に関し,本件登録意匠においては,ドック部8は,本体部6の正面3との円弧状の境界7から下方にほぼ垂直の曲面をなす部分と,前方に突出する部分とからなり,突出部分の上面は平坦であるのに対し,原告製品意匠においては,ドック部108は,上面が,一部切り取られたようなドーム状であり,その底面に平坦な31部分が設けられている。
b具体的構成態様D,D’に関し,本件登録意匠においては,ドック部8の上面中央部分に設けられている端子の両端に2本の角状の突起が設けられているのに対し,原告製品意匠においては,そのような突起はない。
c具体的構成態様F,F’に関し,本件登録意匠においては,本体部6の全体が不透明であるのに対し,原告製品意匠においては,本体部106は,長手方向全体の58パーセントに相当する中央部分110が不透明であり,左右の各21パーセントに相当する部分111のそれぞれが透明であり,左右の透明部分111の内部に各1つずつ真空管112が設けられている。
d具体的構成態様G,G’に関し,本件登録意匠においては,本体部6の正面3には,ドック部8を除き,多数の小孔13が全体的に形成されているのに対し,原告製品意匠においては,本体部106の正面103は,中央部分110及び左右の透明部分111のいずれも無孔である。
e具体的構成態様H,H’に関し,本件登録意匠においては,本体部6の正面3と背面5との境界線である上縁14の,正面から見て右端付近に3個のボタン15が設けられているのに対し,原告製品意匠においては,本体部106の正面103と背面105との境界線である上縁114にはボタンが設けられていない。
ウ本件登録意匠及び原告製品意匠の類比(ア)上記イ(ア)のとおり,本件登録意匠及び原告製品意匠とは,基本的構成態様@及び@’並びにA及びA’並びに具体的構成態様C及びC’,D及びD’(ただし,端子の両端の突起の有無については相違する。)並びにE及びE’の点で共通する。
32(イ)そうすると,上記ア(ウ)のとおり,本件登録意匠の要部は,平坦な正三角形の左右側面1,2と,正三角形の各辺を短辺とし,長手方向全長を長辺とする平坦な長方形の正面3,底面4及び背面5とで形成される正三角柱の形態をなす本体部6を有し(基本的構成態様@),本体部6の正面3に連設され,正面3の中央下部から前方に,上方から見て半円形に突出し,正面3との境界7は,正面から見て円弧状ををなし,上方から見て中央部分で本体部6方向にやや湾曲した弓状をなすドック部8を有し(基本的構成態様A),さらに,本体部6の三角柱の長方形の面3,4,5は,それぞれ,短辺と長辺の比が1対4の長方形である(具体的構成態様E)形状であるところ,原告製品意匠も,本件登録意匠の要部と共通の構成態様を有することになる。
本件登録意匠の要部は,同様の組合せを有する意匠が他にはなく,新規な,創作性の高い意匠であると認められるのであり,このような要部の構成態様を共通して有することは,本件登録意匠及び原告製品意匠の類否判断に,大きな影響を与えるものといわなければならない。
(ウ)他方,差異点について検討すると,まず,ドック部に設けられた端子の両端の突起の有無(具体的構成態様D,D’)については,一般に,他の電子機器を装着するための端子とその周辺部分に関して,装着する機器に合わせて適宜取替えができることもあると考えられ(原告製品についても,ドック部のコネクタ部分として,取替部品が付されている。
甲3),その形状の違いが美感にもたらす影響は大きくないこと,また,本件登録意匠に設けられた突起は特異な形状であるとも認められないことから,この点の差異は,本件登録意匠及び原告製品意匠の類否において,大きな意味を有するものであるとは認められない。
(エ)本体部の正面の小孔の有無(具体的構成態様G,G’)についても,オーディオ関連機器において,正面の再生された音声が拡散される表面33に小孔が設けられていることは,極めてありふれた形状であり(乙8),また,小孔の大きさはほぼ均一で,正面全面に規則正しく形成されて,何らかの模様を感得させるような形状ではないことからすれば,この点の差異は,本件登録意匠及び原告製品意匠の類否において,大きく影響するものではない。
(オ)本体部の正面及び背面との境界線の上縁の,正面から見て右端付近のボタンの有無(具体的構成態様H,H’)については,当該ボタンの大きさが意匠全体に占める割合はごく小さく,また,境界線からの突出の程度もわずかであって,正面視した場合には,看者がボタンの存在に容易に気づかない程度であることからすれば,この差異は微差にとどまるというべきである。
原告は,電子機器におけるボタンが,ユーザーとのインターフェイスの部分であり,ユーザーがとりわけ注目すると主張するが,上記説示のとおり,当該ボタンの意匠全体に占める割合及びその突出の程度を考慮すれば,ユーザーがとりわけ注目する部分とは認められず,上記主張は採用できない。
(カ)ドック部の形状の差異(具体的構成態様B,B’)については,全体的には,本件登録意匠において平坦であるのに対し,原告製品意匠においては上面が一部が切り取られたドーム状になっているが,原告製品意匠でも,その切り取られた部分はほぼ平坦な形状となっており,正面から観察する場合の印象に大きな差異をもたらさないことからすれば,この差異についても,両意匠の類否に与える影響は大きくない。
(キ)本体部に透明な部分があるか否か,その内部に真空管が設けられているか否かの差異(具体的構成態様F,F’)については,オーディオ関連機器において,透明なハウジングの内部に真空管が設けられている形状が多数認められる(乙4〜6)ものの,機器の左右両端の,長手方34向外向きに真空管が装着されている形状は見当たらないことからすれば,相応に,看者の受ける印象に影響を与えるものといえる。しかしながら,上記(イ)で検討したとおり,本件登録意匠の要部の持つ新規性,創作性の程度と,それを原告製品意匠と共通にすることが,意匠の類否判断に大きく影響を及ぼすものである以上,上記差異は,両意匠における前記共通性,類似性を凌駕するものではないと評価するのが相当である。
(ク)小括以上からすると,本件登録意匠と原告製品意匠との差異点は,微差にとどまるものであるか,相応の特徴をもたらすとしても,共通点との対比において,その影響は限定されるものであるから,両意匠は,全体として,看者に対して同一の美感を与えるものであると認められる。
3まとめしたがって,原告製品意匠は,本件登録意匠に類似する。
第4結論以上の次第で,被告は,原告に対し,法37条1項に基づく,原告製品意匠に係る原告製品の製造,使用,譲渡,貸渡し若しくは輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止請求権を有することになり,同差止請求権が存在しないことの確認を求める原告の請求は理由がないことになるから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節