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事件 |
平成
16年
(ワ)
6266号
損害賠償請求事件
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原告 宮浦金属工業株式会社 訴訟代理人弁護士 村松昭夫 同 坂本団 被告A 訴訟代理人弁護士 小西敏雄 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/01/27 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は、原告に対し、金450万円及びこれに対する平成16年6月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は、原告に対し、金630万円及びこれに対する平成16年6月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、@原被告間のコーヒードリッパーの金型を製造する契約についての契約締結上の過失に基づく損害賠償金530万円、及び、A原告が被告に見本として渡したコーヒードリッパーの意匠を使用して意匠登録出願を行い意匠登録を得たことを不法行為であるとしてこれに基づく損害賠償請求100万円、並びにこれらの遅延損害金の支払いを求める訴訟である。 1 基礎となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。それ以外は争いのない事実である。) (1) 原告は、主に金属加工業が中心で金型製造も行っている会社、被告は、喫茶店の経営を業とするものである。 (2) 被告は、平成13年9月ころ、ベトナム製コーヒードリッパーや他社が試作した一部接着剤で固めたコーヒードリッパー、寸法の入っていないデッサン図、 プラスチック製コーヒードリッパーなどを持参し、原告に対して、ベトナムコーヒードリッパーの日本版を作りたいとして、その金型と製品の見積を依頼した。 被告は、同年11月初めころ、原告に対し、本製作、つまり金型を作成することの見積がほしい旨を依頼した。被告は、その際、金型の製作とともに商品の製作も原告に依頼したい旨も述べていた。 原告は、平成13年11月19日、被告に対し、金型製造代金230万円、製品単価1050円とする見積書をファクス送信した。 (3) 原告は、平成14年5月ころ、金型(以下「本件金型」という。)を完成し、これで作成した試作品(見本)を被告に渡した。これによるテストはうまくいったが、原告と被告の間で、本件金型の代金額を巡って争いが生じた。 (4) 被告は、平成14年9月20日、金型製造契約の代金として、原告を被供託者として200万円を供託し(大阪法務局東大阪支局平成14年度金第2284号)、同月21日に到達した内容証明郵便により、原告に対し、本件金型の引渡しを請求したが、原告はこれを拒否した。(甲11) (5) 原告は、遅くとも平成14年11月までに、本件金型を利用して、コーヒードリッパーの製造、販売を開始した(以下、本件金型を利用して製作されたコーヒードリッパーを「原告コーヒードリッパー」という。)。原告は、原告コーヒードリッパーにつき、平成14年8月ころ、特許出願をした。 (6) 平成14年9月6日、被告は、本件金型により製作されたコーヒードリッパーの意匠を意匠登録出願し、平成15年7月18日に意匠登録を受けた(意匠登録第1183888号)。 (7) 被告は、原告に対し、原告が被告から依頼されて製作した本件金型を引き渡さず、これを利用してコーヒードリッパーを製造、販売したと主張して、主位的には金型製造契約が締結されたことを前提として、予備的には原告の契約締結上の過失に基づいて、不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した(以下「前訴」という。)。前訴では、@原告と被告との間で、コーヒードリッパーの金型製造契約が成立したとは認められない、A原告には、被告に対し本件金型が200万円ないし230万円で製造できると誤信させた過失及び原告が契約成立に向けての努力を怠った過失があるとはいえず、また、虚偽の供述をするなどして真実発見に協力しない過失があるともいえない、B原告は、金型製造契約成立に向けて当事者間で具体的な交渉が進行していたから、信義則上、遅くとも平成14年5月ころまでに、 被告に対し、被告から取得したコーヒードリッパーの仕組みや製造方法に関する情報を利用して、原告の名前と計算をもってコーヒードリッパーを製造、販売してはならない保護義務を負担したのに、この保護義務に違反して原告コーヒードリッパーを製造、販売したから不法行為が成立する、として、その損害について、被告は、原告が上記「保護義務に違反して原告コーヒードリッパーを製造、販売し、しかも原告自らを発明者として特許出願をしたことにより、精神的苦痛を受けた」として、慰謝料50万円及び弁護士費用10万円とこれに対する遅延損害金の支払いを原告に命じた判決が確定した。(甲11、乙5) 2 争点 (1) 本訴が二重起訴に該当し、又は訴訟上の信義則に反するものか。 (被告の主張) 本訴は、前訴と争いの社会的事実関係は同一である。ただ、前訴は被告から原告への契約締結上の過失に基づく損害賠償であり、本訴は、原告から被告に対する損害賠償請求であり、いずれに過失があるかについて審理判断されている。また、前訴でも意匠権の存在は立証されていた。したがって、本訴は二重起訴に該当する。 原告は、少なくとも、前訴において反訴を提起することができたのに、これをせずに本訴を提起したから、本訴は訴訟上の信義則に反する。 よって、本案前の申立てとして、「本件訴えを却下する」との判決を求める。 (2) 被告の契約締結上の過失の有無 ア 原告の主張 (ア) コーヒードリッパーの金型の製造契約は成立していない。 (イ) 原告と被告は、コーヒードリッパーの金型の製造とそれを使用した製品の製造に関する契約の交渉を行っていたから、契約締結に向けて誠実に交渉を行う義務があった。 被告は、金型製作代金とその金型を使用した製品の代金の交渉中に、 原告に対し、早期に金型の製造を行うように指示した。また、金型製作中も、原告から何回もの設計変更を行えば金型製作費用が高くなることを言われていたにもかかわらず、平成14年1月から4月にかけて、度重なる設計変更を申し出て、原告に何回も試行錯誤をさせて多大な費用と時間を使わせた。ところが、被告は、上記の事情を知りながら、金型が完成した後は、当初の見積に固執して、契約締結に向けて誠実な対応を行わず、そのために契約は成立しなかった。 よって、被告には、契約締結上の過失がある。 イ 被告の主張 (ア) 平成13年11月19日、原被告間で、金型製作は200万円、製品は単価800円という契約が成立した。 (イ) 被告からは、設計変更をしていない。被告は、見本と概略図を渡して見積依頼をしたものであるから、もともとの設計図面が明確なものでなく、これを変更することは考えられない。また、230万円の見積書を200万円にしてもらって、原告が製作にかかり、金型が完成するまで、金額についての話は一切なかった。 よって、被告には、契約締結上の過失はない。 (3) 被告による意匠出願の不法行為の成否 ア 原告の主張 原告は、平成14年1月から4月にかけて、被告からの度重なる設計変更の申出や、もともと被告から図面が提供されなかったことなどから、何回も試行錯誤を繰り返して金型製造を行った。本件金型は、原告が、多大な費用と時間をかけて製作したもので、被告に渡したコーヒードリッパーは、契約締結に向けて被告に見本として渡したものである。被告が、これを使用して意匠登録出願や意匠登録を行うことは、原告は認めておらず、被告の不法行為となる。 イ 被告の主張 原告が被告に渡したコーヒードリッパーの見本は、被告の提供した情報に基づいて製作されたものである。被告は、この見本に関する情報と、被告がもととも有していた情報(つまみについて、緩めたり締めたりして落し蓋を上下させやすくてしかも美感を起こさせる形状)に基づいて意匠登録出願したものであるから、その出願は、すべて被告が有していた情報に基づくものであって、原告の情報を勝手に使用したことはない。よって、被告の出願が不法行為となることはない。 (4) 被告の契約締結上の過失があった場合の原告の損害 (原告の主張) 原告は、本件金型の製作契約不成立のために、試作代金21万円(消費税込)、当初の見積代金241万5000円(消費税込)及び設計変更による追加費用270万円の合計532万5000円の損害を受けた。原告は、この内金530万円を請求する。 追加費用の内訳は、次のとおりである。 ア 本体 60万円 イ 皿の部分 25万円 ウ 本体の刻印形状 40万円 エ 取っ手の部分 70万円 オ 中蓋 25万円 カ 上蓋 15万円 キ フィルターの固定版と金網フィルター 35万円 (5) 被告による意匠出願の不法行為があった場合の原告の損害 (原告の主張) 原告は、被告の意匠登録出願及び意匠権取得により多大な精神的苦痛を受けた。その慰謝料は、100万円を下らない。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)について 前記基礎となる事実のとおり、前訴は、原告が被告から依頼されて製作した本件金型を引き渡さず、これを利用してコーヒードリッパーを製造、販売したことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟であるから、被告の契約締結上の過失に基づく損害賠償請求訴訟である本訴とは訴訟物が異なる。また、前訴判決においては、原告の契約締結上の過失による被告の損害賠償請求権は審理判断されているが、その際に被告の契約締結上の過失が判断されなければならない必要性も認められないし、甲11号証を始めとする本件全証拠によっても、これが判断されたとは認められないから、本訴を、前訴の争点を実質的に蒸し返すものとすることもできない。 したがって、本訴を、前訴と二重起訴の関係にあるものとも、前訴の既判力に触れるものとも、訴訟上の信義則に反するものとも、することができない。 また、原告は、前訴において反訴を提起せず、本訴を提起したものであるが、反訴を提起せずに別訴を提起したからといって、その別訴が不適法となる筋合いのものではない。 よって、被告の本案前の主張は、採用することができない。 2 事実認定 基礎となる事実に証拠(甲5ないし7、11、18)を加えて総合すれば、 次の事実が認められる。 (1) 被告は、ベトナムコーヒーのドリッパーにヒントを得て、湯量や粉の粗さを調節できる新型のコーヒードリッパー(以下「本件コーヒードリッパー」という。)を発明し、平成13年4月10日、特許出願をした(特願2001-111529。以下「本件特許出願」という。)。そして、製品化のために金型を製造しようと考え、金型業者を回ったが引き受けてもらえなかった。そこで、インターネットで知った原告に対し、金型の製造を依頼することとした。 (2) 被告は、平成13年9月ころ、ベトナム製コーヒードリッパーや他社が試作した一部接着剤で固めたコーヒードリッパー、デッサン図、プラスチック製コーヒードリッパーなどを持参し、原告に対して、ベトナムコーヒードリッパーの日本版を作りたいとして、その金型と製品の見積を依頼した。 ただし、上記デッサン図にはサイズの記載はなく、また、製品の材質・板厚・表面処理等については、被告は、何ら具体的な指定をしたり希望を述べることもなく、ただ、材質については錆びないように、表面処理については奇麗にしてもらうという程度の抽象的な注文をしたにとどまった。 (3) 原告は、同月18日、被告に対し、試作代金20万円(消費税別)の見積書をファクス送信した。その後、被告は、同年11月初めころ、原告に対し、本製造(金型製造)の見積が欲しい旨の依頼をした。 (4) 原告は、同年11月19日、被告に対し、金型製造代金230万円及び製品単価1050円(消費税別)とする見積書をファクス送信した。この段階では、 前記のとおり、製品のサイズ、材質、板厚、表面処理等は決定されておらず、原告としても、ベトナムコーヒーのコーヒードリッパーの製造は初めてのことであり、 実際に金型製造がどのようになるかはその時点では正確には確定できない状況であったため、原告は、概算の見積として金額を算出し、その旨を原告に伝えた。 (5) 被告は、原告に対し、口頭で、金型製造を早くしてほしい旨依頼をした。 そこで、原告は、最終的な金型製造代金や製品単価等に関しては後日被告と話し合うことにして、とりあえず同年12月から金型製造に着手した。 (6) 原告は、平成14年1月から4月にかけて、幾つかの金型の試作品を製造したが、被告からも以下のとおり設計変更の要望がされ、原告はこれに応じて金型の設計変更をした。 ア 本体 被告は、原告に対し、絞りの深さが10mmではコーヒー豆が入らないので深くしてほしい旨を依頼し、原告は絞りの深さを13mmに変更した。 イ 皿の部分 前記アのとおり本体の寸法が変わったために、従前製造した金型では、 コーヒー豆が抽出したコーヒー液に浸かってしまうおそれが生じ、原告は、本体部と皿の位置関係を修復するために皿の穴部の変更を行った。 ウ 本体の刻印形状 被告は、当初は、マーキング程度のものでよいということであったが、 その後、9文字の刻印を打つように依頼内容を変更した。 エ 取っ手の部分 被告は、当初は金型を製造しないで加工するとの依頼をしていたが、途中で金型の製造を要望し、原告は、これに応じて外形抜きと曲げ型の二つの金型を製造した。 オ 中蓋 被告は、当初の空気抜き用の穴は4個であったが、6個にする旨の設計変更の要望があり、原告はこれに応じた。 カ 上蓋 小さな穴の追加があった。 キ フィルターの固定版と金網フィルター 当初被告から提示されたデッサン図と商品サンプルは、形状的に接着剤等で固定されたものであったが、そのとおりの製造は困難であったため、フィルター押さえ版と網との固定は、カシメで固定する方法に変更した。 (7) 原告は、平成14年5月ころ、本件金型を完成し、これで作成した試作品(見本)を被告に渡した。これによるテストはうまくいった。原告は、同月23日ころ、被告に対し、金型製造代金530万円(消費税別)の請求書を送付し、その後、被告と原告との間で代金交渉が行われた。被告は、金型製造代金200万円、 製品単価800円を主張したのに対し、原告は、金型製造代金を200万円にするのであれば、製品単価を1250円とし、内50円を金型代に充当するという案と、製品を共同販売とするという案という2つの妥協案を提案したが、被告がこれを拒否し、合意には至らなかった。 このため、金型製造契約は、不成立に終わった。 (8) 被告は、金型製造契約が不成立となった後、他の業者に本件金型の製造の見積を依頼し、代金400万円との見積を得た。原告は、大阪市鶴見区所在の山口鉄工株式会社に本件金型の製造の見積を依頼し、代金525万円との見積を得た。 これらは、その見積の時期や見積書の内容(甲5ないし7)からして、設計変更の費用を含まないものである。 3 争点(2)(被告の契約締結上の過失)について (1) 上記2認定の事実によれば、被告は、実際に金型製造がどのようになるかはその時点では正確には確定できない状況であって概算の見積(金型製造代金230万円及び製品単価1050円)としての金額である旨を伝えられた段階で、金型代金や製品単価の最終合意をしないまま、金型製造を早くしてほしい旨を原告に依頼し、原告において、代金額は後に被告と話し合うことにして、とりあえず本件金型の製造を開始した後に、繰り返し設計変更の要望をし、原告がこれに応じて一度製作した金型の変更を繰り返して本件金型を完成させた後に、代金額につき金型製造代金200万円、製品単価800円を主張して、原告からの妥協案を拒否したために、金型製造契約が不成立となったものということができる。 しかし、一度製作した金型の変更をすれば、金型の製作費用はその分だけ高くなることは当然であるから、被告としては、代金額の合意をしないまま金型製造に取りかからせた以上、予算額に限度があるのであれば、予算の限度を明示して既に金型製造に取りかかって相当額の出捐をしてしまっている原告が変更の要望に応えられるかどうか検討させる余地を与えるべきであるし、これをしないで金型を変更させたのであれば、その変更によって発生した費用については契約金額に算入して契約を成立させるよう努力する義務があるものというべきである。 そして、原告が、代金額の交渉に当たって当初請求した代金額(530万円)や、前記2(7)認定の原告の妥協案は、前記2(8)認定の他の業者の見積金額(これは設計変更する費用を含んでいない。)や当初の見積金額(230万円)に、後記4認定に係る設計変更に要した労力を考慮した場合には、不当なものともいい難いところである。 ところが、被告は、上記義務を怠り、予算額を明示しないまま原告に金型の変更をさせた上で、金型製造代金200万円、製品単価800円という変更をさせたことを全く考慮しない代金額を主張して契約不成立の結果を招いたのであるから、被告には契約締結上の過失があり、これによって原告が被った損害を賠償する義務がある。 (2) 被告は、原告と被告は、契約成立前に、とりあえず金型の製造を開始して代金は後日話し合って決めることを合意したのであるから、代金額について合意に至らず契約が成立しなかった場合のリスクは各当事者において負担すべきであると主張する。 確かに、各当事者において、契約が成立しなかった場合に、その間に費用を支出して損害を受けたとしても、当然には相手方に請求できるものではないし、 それによって、前訴の審理の対象となっていた信義則違反の行為や保護義務違反の行為が許容されるようになるものでもない。しかし、その費用を支出して損害を受けたことが、相手方のした義務違反、すなわち、契約締結上の過失によるものである場合には、その責任は相手方にあるのであるから、その損害の賠償を請求できることもまた、当然の理であって、それは契約が成立しなかった場合のリスクの負担の問題ではない。被告の主張は理由がない。 4 争点(4)(契約締結上の過失に基づく原告の損害) (1) 原告は、試作代金21万円の損害を主張するけれども、原告が金型製造とは別に試作をしたと認めるに足りる証拠はない。 (2) 前記2(8)認定の他の業者の見積金額に照らせば、原告が当初に見積もっていた、金型製造代230万円(消費税別)は、変更がなかった場合の契約代金としては不合理なものではなかったと認められる。 なお、甲18号証には、西端金属及び佐藤金属は、200万円で金型を製造すると言った旨の記載があるが、客観的裏付けもなく、また、同号証によっても、西端金属は部品が入手できないとして被告の依頼を断ったというものであって、これを直ちに採用することはできない。 (3) 証拠(甲3、8の1ないし4、9の1・2、14、19、乙2)によれば、本件における設計変更に伴う材料や労力として、次のものが必要となったことが認められ、この事実によれば、原告は、設計変更に伴い、新たな金型を製造することに加えて相当な労力や試行錯誤を必要としたものというべきである。 ア 本体 被告の依頼は、絞りの深さが10mmではコーヒー豆が入らないので深くしてほしいという内容であり、具体的に何mmの深さにするのかという指示をしなかった。このため、原告は、具体的に適切な深さを出すための設計が必要となった。 また、絞りの深さの変更は、単純な穴あけとは異なり絞りの条件の変更となるため、金型2面を作り替えた。 イ 皿の部分 本体の変更に伴う変更であるため、単に図面を提供されてする変更とは異なり、皿部分の適正な形状を求めるため、試作をして製品開発を行うような行為が必要となった。また、変更に伴う金型の作り替えも必要となった。 ウ 本体の刻印形状 コーヒードリッパーは、絞り加工により製作するため、本体に刻印をしようとすると、絞り加工をした状態を予想して材料の伸びにあわせた文字間ピッチ、文字形状の刻印を製作する必要があり、実際の絞り加工後の状態は試作してみなければ分らないため、試作調整も必要となった。 エ 取っ手の部分 外形抜きと曲げ型の二つの金型を、追加で製造することになったから、 その分の費用が増加した。 オ 中蓋 被告の要望は、空気抜き用の穴の数を増やすという要望であったが、寸法を図面上で決定して指示したのではないために、原告は、試行錯誤が必要であった。 カ 上蓋 被告の要望は、小さな穴の追加であったが、穴の位置や穴径などは原告が試作して決定した。 キ フィルターの固定板と金網フィルター フィルター押さえ板と網との固定について、被告が原告方に持参したものは接着剤で固定したもので、製品として固定するには別の固定方法を考える必要があったが、被告からは方法の指定がなかったため、原告は、カシメで固定する方法にしたが、具体的方法については試行錯誤が必要であった。また、金網は、コーヒーの抽出時間2〜3分という指定があったが、金網の種類の指定はなかったため、原告は試行錯誤が必要であった。 (4) もっとも、契約締結上の過失に基づく損害賠償は、あくまでも、原告が被った損害(支出した経費及び労力等)を限度とするものであって、契約が締結された場合には得られたであろう原告の利益(履行利益。本件においては原告の純利益も含む。)まで請求できるものではない。この観点から、原告が、本件金型の代金として当初530万円を請求していたことを踏まえて、原告の損害を判断するに、 原告の損害は、450万円を下るものではないことは認められるものの、これを超えるとまでは認定することができない。 (5) なお、金型製造契約不成立により、原告は、製造した本件金型を所有することになる。しかし、証拠(甲11、乙5)によれば、原告が、本件金型を利用して原告コーヒードリッパーを製造、販売した場合には不法行為が成立することが認められるから、本件金型は、原告にとっては無価値なものというべきである。したがって、原告が本件金型を所有することは、原告の損害額についての前記認定を左右するものではない。 (6) また、証拠(甲11、乙5)によれば、原告には、被告に対し本件金型が200万円ないし230万円で製造できると誤信させた過失及び契約成立に向けての努力を怠った過失があるとはいえず、また、虚偽の供述をするなどして真実発見に協力しない過失があるともいえないことが認められる。よって、上記損害額を減額すべき事情も認められない。 5 争点(5)(意匠出願による損害)について 原告の主張するところは、原告が創作した意匠について、被告が無断で意匠登録出願をし、意匠登録を受けたというものである。そして、仮にそうだとしても、意匠登録出願や意匠権の取得は、工業所有権という財産権ないし財産的価値の問題であって、それによって原告が財産的損害を受けたというならばともかく(その場合にはその損害賠償を請求すべきである。)、特段の事情のない本件においては、これによって原告が慰謝料の支払いをもって慰謝されるべき精神的苦痛を受けたとは認められない。 6 結論 以上の事実によれば、原告の請求は、主文第1項の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 中平健 |
裁判官 | 守山修生 |