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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ14144意匠権侵害差止等請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  先使用(29条) /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  特許権 /  実用新案権 /  権利濫用(権利の濫用) /  類似性(類否判断) /  損害額 /  逸失利益 / 
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事件 平成 19年 ( ) 2366号 意匠権侵害差止等請求事件
福岡市〈以下略〉
原告株式会社ラインセンス&プロパティコントロール 代表者代表取締役X
訴訟代理人弁護士村林 一井上裕史 大阪府東大阪市〈以下略〉
被告北 勢工業株式会社代表者代表取締役Y
訴訟代理人弁護士林功 土井博 川口清高 山中理司
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2008/01/22
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙「ハ号製品目録−1「ハ号製品目録−2」及び「ニ号製品目 」,録」記載の各製品の製造,販売又は販売の申出をしてはならない。
2被告は,前項記載の各製品及びその半製品並びに同各製品の製造に用いる型を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1076万8600円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求を棄却する。
5訴訟費用は被告の負担とする。
6この判決の第1項及び第3項は,仮に執行することができる。
- 2 -
事実及び理由
全容
第1請求1主文第1項及び第2項と同旨2被告は,原告に対し,1078万8600円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,後記意匠権,実用新案権及び特許権を有する原告が, 被告の製造販売するマンホール蓋受枠(後記イ号製品?@及び?A,ロ号製品?@及び?A)の意匠は上記意匠権に係る意匠に類似する, 同受枠(後記イ号製品?@及び?A,ロ号製品?@及び?A,ハ号製品?@及び?A)は上記実用新案権に係る考案の技術的範囲に属する,同受枠(後記ハ号製品?@及び?A,ニ号製品)は上記特許権に係る発明の技術的範囲に属するとして,その製造販売等は上記各権利を侵害すると主張し,被告に対し, 上記実用新案権又は特許権に基づき,後記ハ号製品?@及び?Aの製造販売等の差止め並びにそれらの半製品及び製造用の型の廃棄を, 上記特許権に基づき,後記ニ号製品の製造販売等の差止め並びにその半製品及び製造用の型の廃棄を, 上記各権利侵害の不法行為に基づき,平成17年4月20日から平成18年3月31日までの間の原告の逸失利益978万8600円及び弁護士費用相当額100万円,以上合計1078万8600円並びにこれに対する平成18年4月1日(上記損害算定期間の終期の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 前提事実(証拠の記載がないものは当事者間に争いがない )。
 原告の各権利原告は,次の各権利(以下総称して「本件各権利」という )について,その 。
権利者であった日之出水道機器株式会社(以下「日之出」という )から信託に 。
よる権利移転を受け,平成17年4月20日,その旨の移転登録手続をした。
ア意匠権1(以下「本件意匠権1」といい,その登録意匠を「本件登録意匠1」という(甲1,2)。)出願日平成3年6月24日出願番号意願平3-18931号登録日平成5年2月26日登録番号第868946号意匠に係る物品マンホール蓋受枠類似意匠1意願平3-18932号(甲3)類似意匠3意願平3-18934号(甲4)類似意匠4意願平3-18935号(甲5)イ意匠権2(以下「本件意匠権2」といい,その登録意匠を「本件登録意匠2」という(甲6,7)。)出願日平成6年2月4日出願番号意願平6-2499号登録日平成8年10月2日登録番号第971233号意匠に係る物品マンホール蓋受枠類似意匠1意願平7-38714号(甲8)ウ実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その考案を「本件考案」という。また,本件考案の実用新案登録出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という(甲9,10)。)出願日平成3年6月24日出願番号実願平3-47694号登録日平成8年11月7日登録番号第2525650号考案の名称地下構造物用蓋受枠実用新案登録請求の範囲地下構造物内へ昇降するのに使用する種々の器具を取り付けるための取付座を内周に沿って複数の位置に備える丸形蓋用の地下構造物用蓋受枠であって,前記取付座は,受枠の嵌合面を切削加工するのにチャッキング可能な最小限度の突き出し長さの弓形状で且つ前記受枠の中心側に臨む弦を前記受枠の中心線と直交する直線状とした平坦な棚部と,前記弦の略中央部分で前記棚部の上部に形成され且つ前記器具を係合することのできる突起状の係止部とからなることを特徴とする地下構造物用蓋受枠。
特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件発明」という (甲。)11,12)出願日平成6年11月1日出願番号特願平6-268825号登録日平成9年10月31日登録番号第2714360号発明の名称地下構造物用蓋の受枠構造特許請求の範囲(請求項1)蓋本体を支持する筒状部を有する地下構造物用蓋の受枠において,同筒状部の外側面に先細り形状の突起を放射状に形成し,同突起の上面を基端から先端に向って下降した傾斜面とし,同突起の底面を前記筒状部の下端より上方に位置させたことを特徴とする地下構造物用蓋の受枠構造。
 被告の行為被告は,別紙「イ号製品目録-1「イ号製品目録-2「ロ号製品目録- 」,」,1「ロ号製品目録-2 「ハ号製品目録-1 「ハ号製品目録-2」及び「ニ 」,」,」,号製品目録」記載の各製品(以下,これらの製品を順に「イ号製品?@ 「イ号製 」,品?A「ロ号製品?@「ロ号製品?A「ハ号製品?@「ハ号製品?A「ニ号製 」,」,」,」,」,品」といい,総称して「被告製品」という )を製造販売している(ただし,被 。
告がニ号製品を製造していることについては争いがある 。。) 被告製品の構成等アイ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@は,本件考案の「最小限度の突き出し長さの弓形状」以外の構成要件を充足する。
イイ号製品?A,ロ号製品?A及びハ号製品?Aは,本件考案の技術的範囲に属する。
ウハ号製品?@及び?A並びにニ号製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
 被告製品の販売数等被告は,平成17年4月20日から平成18年3月31日までの間に,被告製品を,原告の実施許諾を受けずに合計1165個製造販売し(ただし,被告がニ号製品を製造していることについては争いがある ,合計978万8600円を 。)下らない利益を得た。
2 争点 本件各権利侵害の成否アイ号製品?@及び?Aの意匠は本件登録意匠1に類似するか (争点1) 。
イロ号製品?@及び?Aの意匠は本件登録意匠2に類似するか (争点2) 。
ウイ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@は本件考案の「最小限度の突き出し長さの弓形状」の構成要件を充足するか (争点3)。
 権利濫用の抗弁の成否原告の本件請求は権利の濫用か (争点4)。
 損害額等(争点5)第3 争点に関する当事者の主張1 争点1(イ号製品?@及び?Aの意匠は本件登録意匠1に類似するか )について 。
【原告の主張】 イ号製品?@及び?Aの意匠は本件登録意匠1に類似する。
 被告は,受座の細部の形状が相違すると主張するが,受座が存在しない意匠も本件登録意匠1の類似意匠3及び4(甲4,5)として登録されているから,受座の存否やその形状の相違は類否判断に影響を及ぼさない。また,被告は,受枠本体の開口内周部で受座に対面する部分の相違も主張するが,それは極めて軽微な相違であって,看者に異なる美感を与えるものではない。
【被告の主張】イ号製品?@及び?Aの意匠は,正面図及び背面図と左右側面図において本件登録意匠と同一であるが,次の点で異なり,両意匠は類似しない。
 平面図ア受座の接合部(別紙「意匠比較1」の1の部分) イ号製品?@及び?Aの意匠には,受座の接合部に小さい正方形が左右2個ずつあるが,本件登録意匠1では左右1個ずつしかない。
 イ号製品?@及び?Aの意匠には,上記正方形のすぐ先端側に三日月型の図形が左右1個ずつあるが,本件登録意匠1ではこのような三日月型の図形は存在しない。
イ受座の先端部(別紙「意匠比較1」の2の部分)本件登録意匠1には,受座の先端部に正方形状の図形が左右2個ずつあるが,イ号製品?@及び?Aの意匠ではこのような正方形状の図形は存在しない。
ウ受枠本体の開口内周部で受座に対面する部分(別紙「意匠比較1」の3の部分)イ号製品?@及び?Aの意匠には,受枠本体の開口内周部で受座に対面する部分に小さい正方形状の図形が左右1個ずつあるが,本件登録意匠1ではこのような正方形状の図形は存在しない。
 底面図(別紙「意匠比較1」の4の部分)本件登録意匠1には,受座の内側に線が1本あるだけだが,イ号製品?@及び?Aの意匠では受座の内側に複雑な図形がある。
2 争点2(ロ号製品?@及び?Aの意匠は本件登録意匠2に類似するか )について 。
【原告の主張】 ロ号製品?@の意匠についてアロ号製品?@の意匠は,本件登録意匠2の類似意匠1には存在しない受座が存在する点を除き,本件登録意匠2の類似意匠1と同一である。本件登録意匠2には,ロ号製品?@の受座と同一の受座が存在する。よって,当該受座が存在しない意匠は,それが存在する意匠の類似の範囲内である。
したがって,ロ号製品?@の意匠は本件登録意匠2に類似する。
イ被告は,別紙「意匠比較2」の1の部分も相違すると主張するが,それは極めて軽微な相違にすぎず,看者に異なる美感を与えるものではない。
 ロ号製品?Aの意匠についてアロ号製品?Aの意匠は, 本件登録意匠2の類似意匠1には存在しない受座が存在する点, 本件登録意匠2の類似意匠1に存在する前記受座の両隣に位置する略コ字状で受枠内周側に突設している手握部が存在しない点を除き,本件登録意匠2の類似意匠1と同一である。
相違点 については,前記  アで述べたとおり,当該受座が存在しない意匠は,それが存在する意匠の類似の範囲内である。
相違点 については,本件登録意匠1には類似意匠1が登録されているところ,本件登録意匠1には本件登録意匠2の類似意匠1の手握部と同一の手握部が存在するが,本件登録意匠1の類似意匠1には当該手握部が存在しない。
よって,当該手握部が存在しない意匠は,それが存在する意匠の類似の範囲内である。
したがって,ロ号製品?Aの意匠は本件登録意匠2に類似する。
イ被告は,別紙「意匠比較2」の1の部分も相違すると主張するが,それは極めて軽微な相違にすぎず,看者に異なる美感を与えるものではない。
【被告の主張】 ロ号製品?@及び?Aの意匠と本件登録意匠2とは,原告が主張する点に加えて,次の点でも異なり,両意匠は類似しない。すなわち,ロ号製品?@及び?Aの意匠では,別紙「意匠比較2」の1の部分において,2個の長方形状の図形の上側の図形の上辺が曲線であるのに対し,本件登録意匠2の類似意匠1の同じ部分は直線である。
 受座の有無は大きな相違であり,本件登録意匠2の類似意匠1の存在をもって,受座の有無が意匠の類否に影響しないとはいえない。
3 争点3(イ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@は本件考案の「最小限度の突き出し長さの弓形状」の構成要件を充足するか )について 。
【原告の主張】 イ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@の構成は各物件目録記載のとおりであり,いずれも「最小限度の突き出しの長さの弓形状」の構成要件を充足する。
 被告は,イ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@に「手握部」が存在することを理由に,これら製品は「弓形状」の要件を充足しないと主張する。
しかし,イ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@は,本件考案の技術的範囲に属することについて争いのないイ号製品?A,ロ号製品?A及びハ号製品?Aにそれぞれ「手握部」が付加されたものであるから,これら製品が本件考案の構成要件を充足することについても争いがないというべきである。
そして,本件考案は,切削加工時にチャック等で掴む部位と器具を取り付ける部位とに着目し,従来技術においてそれらが抱える問題点を解決したものであるから,切削加工時にチャック等で掴む部位と器具を取り付ける部位とが本件考案の「取付部」としての構成を具備する限り,本件考案がその対象とした課題は解決され,それによる作用効果を奏していることは明らかである。他に別の用途での突出部が開口部内周面に存在するとしても,本件考案の構成要件を充足することに消長を来すものではない。
【被告の主張】本件考案の「弓形状」については,本件明細書(甲10)では,段落【0011】において「このため,取付座の弦の中央からずれていくに従って受枠の中心から取付座の弦までの距離は長くなり,これによって複数の取付座を受枠の内周に設けていても,取付座の中央部分だけが受枠の開口面積を最小に絞る形状となるだけであり,作業者が地下構造物内で昇降する際に邪魔になることがなくなる 」とさ 。
れ,また,段落【0015】において「この取付座7の大きさ及び個数としては本実施例に限定されるものではないが,出入りの際の開口部面積を余り減じない程度が好ましい 」とされている。 。
ところが,イ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@には,いずれも手握部が2個ずつ存在し,この手握部は,取付座(本件考案でいう「弓形 )から更に円の内側 」に向かって取り付けられており,開口部面積を大幅に狭くしている。
したがって,このような手握部を有するイ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@は,本件明細書記載の上記作用効果を奏さず 「最小限度の突き出し長さの弓形 ,状」の構成要件を充足しない。
4 争点4(原告の本件請求は権利の濫用か )について 。
【被告の主張】次に述べるとおり,日之出の行為は独占禁止法に違反するものであり,日之出から権利を承継した原告の本件請求は権利の濫用に当たる。
 日之出は,各地方公共団体に対し,同社指定の仕様(以下「日之出仕様」という )によるマンホールの鉄蓋及び受枠(以下単に「マンホール」という )を標 。 。
準仕様として指定するよう働きかけ,多くの地方公共団体は日之出仕様のマンホールを指定して発注してきた。日之出は,地方公共団体からの受注数量を予め予測しておき,その25%を自らのシェアとし,残り75%を同業他社に割り当ててライセンス契約を締結し,これら業者が割当数量を超えて製造販売する場合には,当該業者からそのブランドのマンホールの製造委託を受けることとしてきた。
このように,日之出は地方公共団体に日之出仕様のマンホールを指定,発注させ,価格及び数量の両面において同業他社をコントロールしていた。現に,日之出仕様のマンホールの単価は,平成17年12月13日に公正取引委員会が日之出に立入調査をするまでは,5万円ないし7万円であって,日之出仕様でないマンホールの単価が1万円ないし3万円であったのと比べ,異常に高額であった。
日之出仕様の指定を取り止めた地方公共団体において,マンホールの単価が60%も低下した例もある。
加えて,本件においては,次のような事情もあった。すなわち,日之出と被告とは,平成16年までは被告がマンホールを生産する都市ごとに毎年8月にライセンス契約を締結していた。前年8月の契約でカバーされず,当該年8月のライセンス契約締結までに被告が生産した数量については,すべてその8月のライセンス契約でカバーできるとの前提であり,平成16年まで権利侵害の問題は生じなかった。そこで,被告は平成17年も同様の前提で生産を継続した。ところが,日之出から権利を譲り受けた原告が同年度に限り製造販売数量について厳格な制限を課したため,原被告間での折衝にもかかわらず,同年8月にはライセンス契約の締結に至らず,同年11月になって突然原告から交渉決裂の通知が被告に到達した。その間,日之出の営業担当社員が各地方公共団体に赴き,被告との交渉が決裂したと報告し,被告製品を受け取らないよう圧力をかけた。
 ところで,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止。 , 法」という )21条は,特許法等による権利の行使と認められる行為について独占禁止法の適用除外を定めている。これは,特許法等による「権利の行使」と認められるような行為であっても,それが発明を奨励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,当該行為は「権利の行使と認められる行為」とは評価されず,独占禁止法が適用されることをも確認したものである。したがって,外形的又は形式的には特許法等による権利の行使とみられるような行為であっても,?@当該行為が不当な取引制限や私的独占の一環をなす行為として又はこれらの手段として利用されるなど,権利の行使に藉口していると認められる場合や,?A行為の目的,態様や当該行為の市場における競争秩序に与える影響の大きさも勘案した上で,個別具体的に判断した結果,当該行為が発明を奨励すること等を目的とする技術保護制度の趣旨を逸脱し,又は同制度の目的に反すると認められる場合には,当該行為は「権利の行使と認められる行為」とは評価できず,独占禁止法が適用される。
 上記  の観点から日之出の上記  の行為についてみると,日之出は,マンホールの販売価格及び製造販売数量について業界をコントロールすることにより,製品市場における競争を実質的に制限したのであるから,日之出の行為は不当な取引制限として独占禁止法3条に違反する。
また,日之出は,ライセンサーがライセンシーに対しライセンス上の制限を課して,他の事業者の事業活動を支配し又は排除し,一定の製品市場又は技術市場における競争を実質的に制限したのであるから,日之出の行為は私的独占として独占禁止法3条に違反する。
さらに,日之出の売上高が業界主要5社中約70%を占めるのに対し,被告のそれが6%台であることにも照らすと,日之出の行為は,優越的地位を濫用するものであり,また,公正競争を阻害するものであって,不公正な取引方法に当たる。
【原告の主張】争う。
原告及び日之出において権利濫用行為は存在しないから,独占禁止法の適用はない。
被告は 「日之出は,各地方公共団体に対し,日之出仕様によるマンホールを標 ,準仕様として指定するよう働きかけ,多くの地方公共団体は日之出仕様のマンホールを標準仕様として指定して発注してきた」旨主張するが,意匠権者等が,自ら創作した意匠の優れた作用効果を地方公共団体にアピールし,地方公共団体が当該意匠を製品仕様に採用したとしても,何ら権利の濫用には当たらない。
, , 被告は 「日之出仕様のマンホールの単価は異常に高額であった」旨主張するがそのような事実はない。
被告は 「当該年8月のライセンス契約締結までに被告が生産した数量について ,は,すべてその8月のライセンス契約でカバーできるとの前提であり,平成16年まで権利侵害の問題は生じなかった」旨主張するが,そもそもライセンス契約を締結していない時に製造販売した物は権利侵害品であって,被告が本件各権利を侵害していた事実に変わりはない。なるほど,平成16年までは,被告が無許諾で製造販売した製品についても後のライセンス契約の合意内容によって遡ってライセンスの対象とされていたが,そのことが,結局ライセンス契約が成立しなかった場合にまで,権利侵害品に対する権利行使を妨げる根拠にはならない。
5 争点5(損害額等)について【原告の主張】 被告は,平成17年4月20日から平成18年3月31日までの間に,被告製品を,原告の実施許諾を受けずに合計1165個販売し,合計978万8600円を下回らない利益を得た(当事者間に争いがない 。その利益の額は,意匠法 。)39条2項,実用新案法29条2項,特許法102条2項により,被告の本件各権利侵害行為により原告の受けた損害の額と推定される。また,本件での弁護士費用相当額は100万円である。したがって,原告が被告に請求し得る損害額は,合計1078万8600円である。
 被告は 「本件で問題とされているマンホールは,平成17年8月に原被告間 ,でライセンス契約が成立するとの前提で一旦適法に市場に流通したものであり,原告の権利は消尽している」旨主張するが,原被告間でライセンス契約が成立しなかった以上,被告製品は権利侵害品であって,その製造販売について消尽が成立する余地はない。原告は,ライセンス契約が成立するとの前提で権利行使を留保していたにすぎない。
【被告の主張】争う。
本件で問題とされているマンホールは,平成17年8月に原被告間でライセンス契約が成立するとの前提で一旦適法に市場に流通したものであり,原告の権利は消尽している。したがって,平成17年8月末までに被告が納入したマンホールについては,差止請求権も損害賠償請求権も発生しない。また,本件においては,信義則上,損害額について相当額の減額が認められるべきである。
第4 当裁判所の判断1 争点1(イ号製品?@及び?Aの意匠は本件登録意匠1に類似するか )について 。
証拠(甲2 ,別紙「イ号製品目録-1」及び「イ号製品目録-2」並びに弁論 )の全趣旨によれば,イ号製品?@及び?Aの意匠と本件登録意匠1とは,接合部,先端部及び底面並びに受枠本体の開口内周部で受座に対面する部分に被告主張の相違があるほかは,同一であることが認められる(被告は,他に相違点があることを何ら主張しない 。。)そして,上記相違は,いずれも微少な部分におけるわずかな相違にすぎず,それによって意匠全体の美感を異にするに至るものとは認められない。
したがって,イ号製品?@及び?Aの意匠は本件登録意匠1に類似するというべきである。
2 争点2(ロ号製品?@及び?Aの意匠は本件登録意匠2に類似するか )について 。
 ロ号製品?@の意匠と本件登録意匠2との類否証拠(甲7,8 ,別紙「ロ号製品-1」及び弁論の全趣旨によれば,ロ号製 )品?@の意匠と本件登録意匠2の類似意匠1とは, ロ号製品?@の意匠には受座が存在するが,本件登録意匠2の類似意匠1には受座が存在しないこと, 別紙「意匠比較2」の1の部分に被告主張の相違があることのほかは,同一であることが認められる(被告は,他に相違点があることを何ら主張しない 。。)ところで,上記相違 は,微少な部分におけるわずかな相違にすぎず,それによって意匠全体の美感を異にするに至るものとは認められない。したがって,ロ号製品?@の意匠は,本件登録意匠2の類似意匠1に受座を付したものと実質的に同一ということができる。そして,ロ号製品?@の意匠は,受座を有する点において,受座を有しない本件登録意匠2の類似意匠1と比べ,より本件登録意匠2に類似するものということができる。
したがって,ロ号製品?@の意匠は本件登録意匠2に類似するというべきである。
なお,被告は,本件登録意匠2の類似意匠1の存在をもって受座の有無が意匠の類否に影響しないとはいえない旨主張するところ,同主張は,類似意匠1の登録が誤りであるとの趣旨とも解される。しかし,本件登録意匠1について後記のような相違点を有する類似意匠1,3及び4が登録されているところ,このことと,本件登録意匠2について前記のような相違点を有する類似意匠1が登録されたこととは,整合性を有するものであり,本件登録意匠2の類似意匠1の登録が誤りであるとは認められない。
 ロ号製品?Aの意匠と本件登録意匠2との類否証拠(甲7,8 ,別紙「ロ号製品-2」及び弁論の全趣旨によれば,ロ号製 )品?Aの意匠と本件登録意匠2の類似意匠1とは, ロ号製品?Aの意匠には受座が存在するが,本件登録意匠2の類似意匠1には受座が存在しないこと, ロ号製品?Aの意匠には手握部(本件登録意匠2の受座の左右に位置する略コ字状で受枠内周側に突設している部分)が存在しないが,本件登録意匠2の類似意匠1には手握部が存在すること, 別紙「意匠比較2」の1の部分に被告主張の相違があることのほかは,同一であることが認められる(被告は,他に相違点があることを何ら主張しない。。)そして,上記相違 は,前記のとおり,微少な部分におけるわずかな相違にすぎず,それによって意匠全体の美感を異にするに至るものとは認められないから,ロ号製品?Aの意匠は,本件登録意匠2の類似意匠1に受座を付し,手握部を除いたものと実質的に同一ということができる。
また,証拠(甲2ないし5)によれば,本件登録意匠1では受枠の内周に受座とその左右に手握部が設けられているところ,その類似意匠1では手握部のないものが,類似意匠3では受座のないものが,類似意匠4では受座と手握部の双方がないものが,いずれも類似意匠として登録されていることが認められる。
上記認定事実によれば,マンホール蓋受枠の意匠においては,受座及び手握部の有無は,少なくともそれらが通常の形状のものである限り,意匠全体の類否判断に影響しないものと認められる。そして,本件登録意匠2に関する類否判断において,これと異なる判断をすべき事情が存在するものとは認められない。
したがって,ロ号製品?Aの意匠は本件登録意匠2に類似するというべきである。
3 争点3(イ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@は本件考案の「最小限度の突き出し長さの弓形状」の構成要件を充足するか )について 。
 証拠(甲10)によれば,本件明細書には次の記載があることが認められる。
ア従来の技術の項(段落【0002】から【0005】まで)地下構造物には…蓋本体が設けられ…この蓋本体を開口部と蓋本体の受面とを有する蓋受枠によって支持する構造となっている。
この受枠には,設置後も,切削加工時にチャック等で掴むために設けた突出部が受枠の内周面に3,4か所等間隔にかつ局部的に突出されたままとなっている。
近来,この受枠においては,蓋本体を支持するという受枠本来の機能に加え,維持管理のために地下構造物内に出入りする際に,種々の機能を有する器具を取付けることが行われるようになった。
例えば,蓋受枠に転落防止或いは昇降用としての梯子を取付けるのがその一例であり,蓋本体を受け支える受枠の開口部内周面に左右一対の取付部及び載置片を突出し,この取付部に取付け脚を有する転落防止用梯子を立設したり,載置片上に倒伏させるようにしている。
イ考案が解決しようとする課題の項(段落【0006】から【0008】まで)…上述した受枠は,受枠の開口部内周面に切削加工時にチャック等で掴む突出部の他に,左右一対の取付部及び載置片を突出した状態で設けている。このため,地下構造物内で昇降すると,この局部的に突出した取付部や載置片に作業者の着衣を引っ掛けたり,あるいは頭部や背中等を打ち当てるなど,昇降の際の邪魔になり安全な作業の阻害要因となっている。
また,左右一対の取付部及び載置片であるために,取付方向を変更することができなかった。
本考案は,地下構造物用蓋受枠におけるこのような問題点を解消するものであり,地下構造物内での作業者の安全な昇降を確保しながら,しかも受枠の切削加工時にチャック等で掴む取付座に転落防止や昇降用の梯子を取付けることが可能な地下構造物用蓋受枠を得ることを目的とする。
ウ作用の項(段落【0010】及び【0011 )】本考案の地下構造物用蓋受枠にあっては,受枠の内周面に設けた切削加工時の取付座をそのまま利用して受枠設置後に種々の器具を取付けることができる。
また,取付座の棚部は,受枠の嵌合面を切削加工する際にチャッキングすることができる最小限度の突き出し長さの弓形状で且つ受枠の中心側に臨む弦を受枠の中心線と直交する直線状としている。このため,取付座の弦の中央からずれていくに従って受枠の中心から取付座の弦までの距離は長くなり,これによって複数の取付座を受枠の内周に設けていても,取付座の中央部分だけが受枠の開口面積を最小に絞る形状となるだけであり,作業者が地下構造物内で昇降する際に邪魔になることがなくなる。そして,取付座の係止部は,弦の略中央部分で棚部の上部に突起状に形成しているので,器具を容易に係合させることができ,また侵入水や土砂等が棚部に堆積した場合も容易に取り除くことができるので,地下構造物内で昇降する際に使用する種々の器具を迅速且つ確実に取付けることができる。
エ実施例を示す図1には,弓形状の取付座7のほかに,受枠本体の開口円の内側に向かって蝶番機構3が突出しているものが記載されている。
 上記記載からすると,本件考案は,従来の受枠では,切削加工時にチャック等で掴む突出部と,梯子等の器具を取り付ける取付部及び載置片が,それぞれ受枠本体の開口部内周面に突出した状態で設けられていたことから作業者が昇降する際に邪魔になっていたという問題点を解決することを課題の一つとし,その解決のために,切削加工時にチャック等で掴む部分に器具を取り付ける機能を併せ持たせ,かつ,その形状を開口部内周面に沿った弓形状とすることとしたものであると認められる。したがって,切削加工時にチャック等で掴む部分と器具を取り付ける部分とが本件考案の「取付座」としての構成を具備する限り,それによる作用効果を奏しているのであり,他に別の用途での突出部(例えば前記図1における蝶番構造3)が開口部内周面に存するとしても,本件考案の「最小限度の突き出し長さの弓形状」の構成要件を充足することに変わりはない。
そこで,イ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@の構成をみると,別紙「イ号製品目録-1「ロ号製品目録-1」及び「ハ号製品目録-1」によれば,これ 」,ら各製品は,平坦な棚部(108)が「受枠の嵌合面を切削加工するのにチャッキング可能な最小限度の突き出し長さの弓形状」の構成を具備しているものと認められる。
したがって,イ号製品?@,ロ号製品?@及びハ号製品?@は,手握部を有するとしても,本件考案の上記作用効果を奏することに変わりはないから,本件考案の技術的範囲に属するものというべきである(上記各製品が本件考案の他の構成を具備していることは争いがない 。。)4 争点4(原告の本件請求は権利の濫用か )について 。
 被告は,日之出の行為は独占禁止法に違反するものであり,日之出から権利を承継した原告の本件請求は権利の濫用に当たる旨主張する。
独占禁止法21条は,特許権等の権利行使と認められる場合には,独占禁止法を適用しないことを確認的に規定したものであって,発明,考案,意匠の創作を奨励し,産業の発展に寄与することを目的とする特許制度等の趣旨を逸脱し,又は上記目的に反するような不当な権利行使については,独占禁止法の適用が除外されるものではない。
この点に関して,被告は,日之出は多くの地方公共団体に日之出仕様のマンホールを標準仕様として指定,発注させる一方で,地方公共団体からの受注数量を予め予測してその25%を自らのシェアとし,残り75%を同業他社に割り当ててライセンス契約を締結し,これら業者が割当数量を超えて製造販売する場合には日之出に製造を委託させることによって,価格と数量の両面から同業他社をコントロールしてきた旨主張する。
しかし,許諾数量を制限して実施許諾すること自体は,何ら不合理なものとはいえない。また,受注数量を予測してその一定割合を同業他社に割り当ててライセンス契約を締結し,ライセンシーが割当数量を超えて製造販売する場合にライセンサーが自らに製造を委託をさせることについても,それ自体が特段不合理なものとはいえない。
 もっとも,日之出が,本件各権利の実施許諾によって得た支配的地位を利用して許諾数量の制限を行うことにより,市場における実質的な需給調整を行う場合には,その具体的事情いかんによっては,不当な権利行使として独占禁止法上の問題が生じる可能性がある。
この点に関して,被告は,日之出仕様を標準仕様として指定している地方公共団体におけるマンホールの単価が,そうでない地方公共団体におけるマンホールの単価よりも異常に高くなっており,日之出仕様の指定を取り止めた地方公共団体においてマンホールの単価が低下した例がある旨主張する。
しかし,上記主張事実については証拠が全くない上,日之出仕様を標準仕様としている地方公共団体においては,同業他社は実施料を負担しなければならないのであるから,日之出仕様を標準仕様としないことから実施料の負担が不要である地方公共団体と比べてマンホールの単価が高額になることは当然である。被告の主張する価格差が,このような実施料の負担の有無によって説明できない程度のものであることについても証拠は全くなく,その他,本件において,結果として市場における需給調整効果が実際に実現されているとか,業者間の公正な競争が実際に阻害されているといった事情を認めるに足りる証拠もない。
 被告は,日之出と被告は平成16年までは毎年8月にライセンス契約を締結していたのに,平成17年に原告と被告がライセンス契約を締結しようとしたところ原告が許諾数量を厳しく制限したため契約を締結することができなかった旨主張する。しかし,許諾数量の多寡と価格調整ないし需給調整との関係は明らかでなく,そうである以上,このような事情をもって日之出ないし原告の権利行使が濫用的であるということはできない。
また,被告は,平成17年も,同年8月のライセンス契約締結までに被告が生産した数量については,すべてその8月のライセンス契約でカバーできるとの前提で生産を継続した旨主張する。しかし,ライセンス契約の締結よりも前に生産した物は権利侵害品にほかならず,このような権利侵害品について平成16年までは後に締結されたライセンス契約の合意内容によって遡ってライセンスの対象とされたという事情があったとしても,そのことをもって,結局ライセンス契約が締結されなかった平成17年における権利侵害品に対する権利行使を妨げ得る根拠とすることはできない。
 以上によれば,日之出において独占禁止法違反の行為があったとは認められず,その他,日之出又は原告において権利の濫用に当たる行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告の権利濫用の抗弁は理由がない。
5 争点5(損害額等)について 逸失利益以上によれば,被告製品の製造販売等は,本件意匠権1及び2,本件実用新案権及び本件特許権を侵害するものであるところ,被告が平成17年4月20日から平成18年3月31日までの間に被告製品を原告の実施許諾を受けずに合計1165個販売し,合計978万8600円を下回らない利益を得たことは,当事者間に争いがない。したがって,意匠法39条2項,実用新案法29条2項,特許法102条2項により,上記利益の額が被告の本件各権利侵害行為により原告が受けた損害の額と推定される。
 弁護士費用本件に顕れた一切の事情を考慮すると,本件での弁護士費用相当額は98万円とするのが相当である。
 被告は,被告製品は平成17年8月に原被告間でライセンス契約が成立するとの前提で一旦適法に市場に流通したものであり,原告の権利は消尽している旨主張する。しかし,平成17年については,前記のとおり,原被告間でライセンス契約は成立しなかったのであるから,被告製品は適法に市場に流通したものではない。したがって,被告の上記主張は理由がない。
 したがって,本件において原告が被告に対して請求し得る損害額は,上記  と の合計1076万8600円となる。
6 結論以上によれば,原告の本件請求は,被告に対し,本件実用新案権又は本件特許権に基づきハ号製品?@及び?Aの,本件特許権に基づきニ号製品の各製造販売等の差止め及び半製品等の廃棄を求め,本件各権利侵害の不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求として1076万8600円及びこれに対する不法行為の後の日である平成18年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用について民訴法64条ただし書,61条を適用し,仮執行宣言については,同法259条1項を適用して主文第1項及び第3項についてのみこれを付し,その余は相当でないからこれを付さないこととする。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 ?熄シ宏之
裁判官 西理香