関連審決 |
不服2006-1563 |
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関連ワード | 物品 / 物品の形状 / 形状 / 意匠に係る物品 / 一意匠一出願(7条) / 公然知られた(3条1項1号) / 3条1項3号 / 類似する意匠 / 意匠の類否 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10247号
審決取消請求事件
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原告関 西化研工業株式会社 同訴訟代理人弁護士荒井鐘司 同訴訟代理人弁理士河野尚孝 同 嶋崎英一郎 同 石井あき子 被告特 許庁長 官肥塚雅博 同 指定代理 人市村節子 同 岩井芳紀 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/01/31 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2006-1563号事件について平成19年5月24日にした審決を取り消す。 第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告は,意匠に係る物品を「包装用容器」とする意匠につき,平成15年10月20日,意匠登録出願をしたが,平成16年7月21日付けの拒絶理由通知を受け(甲3),平成17年12月19日付けの拒絶査定を受けた。これに対して,原告は,平成18年1月25日,審判請求(不服2006-1563号事件)をし,特許庁は,同年11月27日付けの拒絶理由を通知(甲2。以下これを「本件拒絶理由通知」という。)した後,平成19年5月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 2本願意匠の態様本願意匠は,別紙第1(審決書写し中の別紙第1と同じ。)のとおりであり,主としてエアコンオイル等の液体添加剤を収納するための包装用容器に関する意匠であり,容器本体と蓋体とからなり,容器本体は縦長円筒状の胴部と,その上端を丸面状の肩先とした後,斜状に小幅縮径して,上端に環状の巻締め部を形成してなり,蓋体は,その凹陥状底面の中央に円柱形状の突部を有し,その側面にはネジ部が形成されてなる形状を有する構成である(甲1)。 3審決の内容(1)別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願意匠は,日本サン石油株式会社より「SUNOCOACEFFECTERR134a専用」として発売された自動車エアコン用添加剤の容器の形状(以下,本判決において「引用意匠」という。)に類似するから,意匠法3条1項3号の意匠に該当する,とするものである。 (2)審決は,本願意匠と引用意匠とを対比し,その共通点と相違点を下記のとおり認定した。 ア共通点意匠に係る物品が共に包装用容器であるほか,両意匠は,胴部を縦長円筒状とし,その上端を丸面状の肩先とした後,斜状に小幅縮径して,上端に環状の巻締め部を形成したもので,上面が凹陥状に塞がれて,その中央に円柱状の突部が形成されたものと認められる点において共通する。 イ相違点(ア)胴部の径について,本願意匠は容器の高さのおおよそ2/5で,上端の巻締め部に対して肩部がごく僅かに張り出す程度であるのに対して,引用意匠は容器の高さのおおよそ1/2で本願意匠よりやや太く,上端の巻締め部に対して肩部の張り出し幅がやや大きい。 (イ)容器上面の突部の高さについて,本願意匠は巻締め部の上面より僅かに低いのに対して,引用意匠は巻締め部の上面より僅かに高い。 第3原告主張の取消事由審決は,?@本願意匠と引用意匠との類否の認定判断の誤り(取消事由1),?A「審決における引用意匠」と「本件拒絶理由通知における引用意匠」との齟齬(取消事由2),?B本件拒絶理由通知の不備(取消事由3),?C引用意匠の公知性の立証の欠如(取消事由4)があり,取り消されるべきである。 1取消事由1(本願意匠と引用意匠との類否の認定判断の誤り)(1)本願意匠と引用意匠との相違点本願意匠と引用意匠とは,?@容器本体の肩部の高さと容器本体の高さの比が,前者では約1:20.5と肩部が極く僅かしか占めていないのに対し,後者では約1:12.6と肩部がかなり多くを占めていること,?A本体の横と縦の長さの比が,前者では約1:2.32であるのに対し,後者では約1:1.92である点,?B蓋体の上部(正面図で見える部分)が,前者では単純な平たい形状を有しているのに対して,後者では上面と下面が中央部に比較して細く形成されている点,?C蓋体の上部の横の長さ(最大長さ)と本体の横の長さとの比が,前者では約1:1.06であるのに対し,後者では約1:1.23である点,?D蓋体の突部が,前者が正面から見えないのに対して,後者は見える点で相違する。 (2)本願意匠と引用意匠との対比ア基本的構成態様の対比相違点?@ないし?Cにより,本願意匠は,細身でスマートで,すっきりした印象を与え,この印象は肩部の存在によって損なわれることがないのに対し,引用意匠は,肩部の存在と上記の相違が相まって,太く,どっしりした印象を与え,本願意匠と対比するとすっきりとした印象に欠ける。 イ具体的構成態様の対比本願意匠に係る物品は,通常,立てた状態で陳列・販売されるものであるから,看者は本願意匠に係る物品を主に正面方向又は斜め上方向から見ることになる。すなわち,一般需要者等は,本願意匠に係る物品を選択,購入するに当たり,その正面視及び斜視の具体的形態を第一印象として観察し,それらの具体的形態に強く注意が惹かれることになる。そうすると,本願意匠と引用意匠との類否は,正面視のみならず斜視の具体的形態を明らかにした上で判断されるべきであるが,引用意匠については斜視の具体的態様が不明である。よって,看者の注意を惹く部分の形態が明確に把握できず,後記3記載のとおりの不明の部分が多数存在する引用意匠と本願意匠は,類否の判断のための対比ができないから,両者は類似するとはいえない。 2取消事由2(審決における引用意匠と拒絶理由通知における引用意匠の齟齬)審決書では,「理由」中の「2.当審の拒絶理由」には,次のように記載されている。すなわち,「当審では,本願意匠はその出願前に,日本サン石油(株)より「SUNOCOACEFFECTERR134a専用」として発売され公然知られた,自動車エアコン用添加剤の容器の形状(以下『引用意匠』とする。 別紙第2参照)に類似し,意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当する,と判断し,以下を記載した拒絶の理由を通知した。」(判決注下線は原告が施した。)と記載され,「本願意匠は,その出願前に,日本サン石油?梶iTel.03-3238-0236,URL;http://www.sunoco.co.jp/)より『SUNOCOACEFFECTERR134a専用』として発売された,自動車エアコン用添加剤の容器の形状に類似するものと認めます。即ち,上記の形状は,側面視の形状が,2003年7月1日発行の雑誌『CARGRAPHIC』第6号の第223頁に『08』として示されたとおりであり(原審の拒絶理由通知書に添付の写真参照),上面は凹陥状で,その中央に円柱状の突部があり,突部の側面にネジ山が形成されているものと認めます。そしてこの形状に対し,本願意匠は胴部の径がやや細いと認められますが,包装用容器の分野では,容量に応じて径や横幅を変更することは,極普通に行なわれるところであり,類否判断において大きく評価できず,・・・中略・・・他に両意匠には特に顕著な差異を認めることができず,意匠全体として両意匠は類似するものと認めます。従って本願意匠は意匠法第3条第1項第3号の意匠に該当し,意匠登録を受けることができません。」と本件拒絶理由通知の内容がそのまま転記されている。 上記の審決書の理由中の記載・体裁に照らすならば,審決は,本願意匠との対比に関して,本来「審決における引用意匠」を基礎とすべきであるにもかかわらず,「本件拒絶理由通知における引用意匠」を基礎として判断したことが明らかである。 そして,「審決における引用意匠」と「本件拒絶理由通知における引用意匠」とは,それぞれの認定において異なることは明らかであるから,審決には,本来対比すべき引用意匠を基礎とせずに類否を判断した誤りがあり,その誤りは審決の結論に影響を及ぼす。 3取消事由3(本件拒絶理由通知の不備)本件拒絶理由通知においては,?@引用意匠が公知意匠であることの立証がされていないこと,?A引用意匠における本体胴部の断面形状,本体底部の形状,正面図の横の長さ(ひいては,容器全体の大きさ),蓋体の上部(正面図で見える部分)の平面視の形状,蓋体の凹部の形状や深さ,蓋体の突部の長さ,蓋体の突部のネジ部が突部のどこに形成されているか(突部全部に刻まれているのか,一部に刻まれているのか等),蓋体が閉塞構造か否かが不明であり,引用意匠を具体的かつ十分に記載していないこと等の不備があるので,そのような拒絶理由を基礎とした審決は違法である。 4取消事由4(引用意匠の公知性の立証の欠如)引用意匠が公知の意匠であることの立証は,本件拒絶理由通知においても,審決においてもされていない。したがって,引用意匠が公知の意匠であることを前提とした審決は,その前提において誤りがある。 第4被告の反論審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1取消事由1(本願意匠と引用意匠との類否判断の誤り)に対し(1)原告は,両意匠に,肩部の長短又は全体の高さに対する肩部の上下幅の比率に差があると主張する。しかし,包装用容器の分野では,容量に応じ胴部の太さを適宜変更することはごく普通に行なわれることであり(乙11),その結果として,当然に肩部に長短又は全体の高さに占める肩部の上下幅の割合に差が生ずることとなる。このような幅差又は比率差は,類否判断において重視されるべきではない。また,本願意匠のような肩部が短い形状も,包装用容器,包装用缶においてはごく普通であるから(乙12,13),この差も類否判断において重視されるべきではない。原告の主張する,容器本体の全体形状及び正面視形状における差異は,両意匠の共通点が形成する全体の統一性を左右する相違とはいえない。また原告の主張する,印象差も,この種の圧力容器に限っても従来から多様な形状がみられる中にあっては(乙4ないし6,14),顕著なものとはいえない。 (2)原告は,引用意匠は不明な部分が多岐にわたり,本願意匠と顕著に相違することがあり得るし,引用意匠は斜視方向からみた具体的形態が不明である,とも主張する。しかし,引用意匠の形態について,審決認定の「胴部を縦長円筒状とし,その上端を丸面状の肩先とした後,斜状に小幅縮径して,上端に環状の巻締め部を形成したもので,上面が凹陥状に塞がれて,その中央に円柱状の突部が形成されたもの」(審決2頁「4.当審の検討」の項の3〜5行)とする基本的構成態様は,本願意匠と共通している。そしてこの共通する基本的構成態様は,両意匠において,全体のまとまりを形成し,両意匠の全体に極めて強い共通感をもたらす形態と認められるから,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。 (3)引用意匠については,凹部の深さや凹部の細部の態様,ネジ山の密度等上面部分について,別紙第2(審決書写し中の別紙第2と同じ。)の写真からは厳密には特定できない部分もあるが,上記共通点が,形態全体の基本的構成態様を形成するものであることに比べれば,仮に差異があるとしても,いずれも局所的な部分での差異と判断せざるを得ず,しかも本願意匠の上面の態様は,従前のこの種の圧力容器の上面の態様をそのまま表したものであり,この部分に本願意匠の特徴があるとはいえず,意匠の類否に影響を及ぼすものとはいえない。 2取消事由2(「審決における引用意匠」と「本件拒絶理由通知における引用意匠」との齟齬)に対し原告は,審決では,本来対比すべき引用意匠を基礎とせずに,本件拒絶理由通知における引用意匠を基礎として類否を判断した誤りがあると主張する。 しかし,審決は,以下のとおり,本件拒絶理由通知における認定と実質的に同一の認定をしているから,この点の原告の主張は理由がない。 すなわち,審決は,引用意匠に関して,?@「胴部を縦長円筒状とし,その上端を丸面状の肩先とした後,斜状に小幅縮径して,上端に環状の巻締め部を形成したもの」(審決2頁下から10〜9行)と認定したが,これは本件拒絶理由通知の「側面視が,2003年7月1日発行の雑誌『CARGRAPHIC』第6号の第223頁に『08』として示されたとおりであり,」を,そのまま物品の形状として認定したものであり,また,?A「上面が凹陥状に塞がれて,その中央に円柱状の突部が形成されたものと認められる」(審決2頁下から9〜8行目)と認定したが,これも本件拒絶理由通知の「上面は凹陥状で,その中央に円柱状の突部があり,突部の側面にネジ山が形成されているもの」との記載と実質的に同一の認定をしたものである。上面が塞がれていることは,使用前の圧力容器であるから差異をもたらさない。なお,ネジ山については,審決では共通点として認定していないが,これは,両意匠の局所的な共通点で,意匠の類否に影響を及ぼすような基本的構成態様における共通点ではないので,認定しなかったにすぎない。 本件審決の引用意匠の認定は,本件拒絶理由通知に示した引用意匠の認定と何ら異なるものではなく,その認定内容は,実質上,本件拒絶理由通知で通知したものと同一であるから,審決が本来対比すべき引用意匠とは別の意匠で対比したと解する余地はない。 以上のとおり,審決は正当な引用意匠に基づいて認定対比したのであり,この点に関する原告主張は,理由がない。 3取消事由3(本件拒絶理由通知の不備)に対し(1)引用意匠は,本願出願前に,日本サン石油(株)より「SUNOCOACEFFECTERR134a専用」として発売され公然知られた,自動車エアコン用添加剤の容器の形状であり,この引用意匠を,本件拒絶理由通知において,発売者,製品名を特定して,明確に示している。しかも,その写真が,本願出願前である,平成15年7月1日発行の雑誌「CARGRAPHIC」第6号の第223頁に「08」として示されていることも記載している。さらに上面についても,上記写真を常識的にみることにより,全体が凹陥状で,中央に突部があることは,容易に認識できる。 (2)引用意匠は,製品自体が現在も広く販売され,容易に製品を購入できるし,インターネット等で製品情報も容易に入手できる(乙8ないし10)。 よって,引用意匠に係る容器の形状の形状の確認は容易であり,上記雑誌に掲載された写真それ自体からも物品常識を前提にみれば,その形状を容易に認識できる。 (3)引用意匠の基本形状が,「胴部を縦長円筒状とし・・・その中央に円柱状の突部が形成されたものと認められる。」(審決2頁下から10行〜7行)ことは,この雑誌に掲載の写真から十分に把握できる。すなわち,上端の巻締め部が円環状で,その下方の肩部が全周で同幅同形に張り出し,胴部の横断面が円(真円)形の缶体であることは看取され得る。また上面の突部の径が,写真上端の段部の横幅に相当し,この突部は注出具に螺合して使われるものと考えられるから,当然に,周面がほぼ鉛直の全体が円柱状のもので,頂面が平らで,側面のほぼ全体にネジ山が施されていることも認めることができる。また凹部の深さ,突部の高さも,既往の注出具が使われると考えられるから,極端に深い又は浅いものとは考えられない。そして底板の外周部分が立ち上がって,容器本体と共に円環状に巻締められていることも推認できる。 そして審決では,これを,本件拒絶理由通知の中で推認部分について記載し,「胴部を縦長円筒状とし・・・その中央に円柱状の突部が形成されたものと認められる。」(審決2頁下から10行〜7行)と基本構成を捉え,この態様が,両意匠において,共に基本的構成態様を形成しており,この点において,両意匠は共通する,と判断したものである。 凹陥状の深さや隅処理,ネジ山の詳細等,前記雑誌掲載の写真からは引用意匠の詳細について厳密には特定できない部分もあるが,いずれも局所的な態様に係るもので,仮に差異があるとしても,両意匠の基本的構成態様を変更し,差異として類否に影響を及ぼすようなものではない。 したがって,このような細部の態様は,本件拒絶理由通知で詳細に認定する必要はなく,これらを,本件拒絶理由通知に記載していなくても,審決の結論を左右するようなものとはいえない。 4取消事由4(引用意匠の公知性の立証の欠如)に対し引用意匠は,その実際の製品写真が,本願出願日(平成15年10月20日)前の,平成15年7月1日発行の雑誌「CARGRAPHIC」第6号に掲載されている。同雑誌は,平成16年7月21日付けの拒絶理由通知書(甲3)に記載のとおり,その1か月前の平成15年6月2日には,独立行政法人工業所有権総合情報館が受け入れており,実際の発行は,雑誌に記載の発行日の1か月前にされている(乙1の表紙頁)。その3〜4か月以上後の本願出願時には,これに掲載された製品の発売は開始され,その製品の全体形状が公然知られるに至っていたことは明らかである。なお,上記雑誌の引用意匠に付された「08」の記事にも,「・・・が登場した。価格はオープンプライス。」との記載があり,この記載からも,本願出願時には,「SUNOCOACEFFECTERR134a専用」製品の発売がされ,公然知られるに至っていたといえる。 第5当裁判所の判断当裁判所も,審決の認定判断に誤りはなく,原告の請求は棄却すべきものと判断する。以下理由を述べる。 1取消事由1(本願意匠と引用意匠との類否判断の誤り)について(1)本願意匠と引用意匠の態様本願意匠の態様は,前記第2,2記載のとおりである。 これに対し,引用意匠の態様は,自動車エアコン用添加剤を収納するための包装用容器に関する意匠であり,容器本体と蓋体とからなり,容器本体は,縦長円筒状の胴部とその上端を丸面状の肩先とした後,斜状に小幅縮径し,上端に環状の巻締め部を形成してなり,蓋体は,その凹陥状底面の中央に円柱形状の突部を有し,その側面にはネジ部が形成されてなる形状を有する構成である(甲3,乙1,8ないし10)。 (2)本願意匠と引用意匠との共通点及び相違点ア本願意匠と引用意匠との共通点は,前記第2,3(2)記載の審決の認定のとおりであると認められる。 イ本願意匠と引用意匠との相違点は,下記のとおりであると認められる。 (ア)本体の胴部の径と本体の高さの比が,前者では約1:2.37であるのに対し,後者では約1:2.17である。 (イ)本体の肩部につき,本願意匠は,上端の巻締め部に対して肩部がごく僅かに張り出す程度であるのに対して,引用意匠は,上端の巻締め部に対して肩部の張り出し幅がやや大きい。 (ウ)容器上面の突部の高さについて,本願意匠は巻締め部の上面よりわずかに低いのに対して,引用意匠は巻締め部の上面よりわずかに高い。 ウ原告は,?@蓋体の上部(正面図で見える部分)が,本願意匠では単純な平たい形状を有しているのに対して,引用意匠では上面と下面が中央部に比較して細く形成されている点,?A蓋体の上部の横の長さ(最大長さ)と本体の横の長さとの比が,本願意匠では約1:1.06であるのに対し,引用意匠では約1:1.23である点も相違点とすべきと主張する。しかし,これらの差異はごくわずかであるか,又はその差異が格別看者の美感に影響を及ぼすものとはいえないから,相違点として認定すべきものとはいえない。 (3)本願意匠と引用意匠との対比以上を前提として,本願意匠と引用意匠の類否を判断する。両意匠は,胴部を縦長円筒状とし,その上端を丸面状の肩先とした後,斜状に小幅縮径して,上端に環状の巻締め部を形成した肩部を設けたもので,上面が凹陥状に塞がれて,その中央に円柱状の突部が形成された点で共通し,その基本的構成態様において共通する。他方,相違点を対比すると,本体の胴部の径と高さの比の相違及び肩部の張り出し幅の程度については,包装用容器の分野では,容量に応じ胴部の径を適宜変更することは普通に行われることであり(乙11),それに伴い上記肩部の張り出し幅の大きさも変更されるから,これらをもって本願意匠の特徴ということはできない。そして,容器上面の突部の高さについては,引用意匠がわずかに高く,正面水平視において突部先端を見ることができるが,上部形状の相違は微差であって,美感に影響を及ぼすものとはいえない。そうすると,両意匠は,前記相違点を考慮してもなお,看者に対し,全体として,それぞれの基本的構成態様を共通にするとの印象を強く与えるものであるから,互いに類似する意匠であるというべきである。したがって,これと同趣旨の審決の認定判断に誤りはない。 (4)原告は,本体全体の印象として,本願意匠と引用意匠の相違点により,本願意匠は,細身でスマートで,すっきりした印象を与えるのに対し,引用意匠は,太く,どっしりした印象を与えると主張する。しかし,本体の胴部の径と高さの比や肩部の張り出し幅の大きさについては,包装用容器においてこれらの比率は適宜変更可能なものであり,これらの相違をもってなお基本的構成態様を共通にするとの印象を強く与えるものであることは前記のとおりであるから,原告の上記主張は採用の限りではない。 また,原告は,引用意匠の場合は斜視の具体的な態様をはじめとして不明な点が多数あるため,本願意匠とその具体的構成態様について対比ができず,両者は類似しているとはいえないと主張する。しかし,看者に対し,全体として,それぞれの基本的構成態様を共通にするとの印象を強く与えるものであることは前記(3)で判断したとおりであり,原告主張の引用意匠の不明な具体的な態様も細部の態様であり,引用意匠を特徴づけるものであるとまではいえないから,原告の上記主張は採用できない。 (5)以上のとおり,本願意匠と引用意匠との類否判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。 2取消事由2(「審決における引用意匠」と「本件拒絶理由通知における引用意匠」との齟齬)について原告は,「審決における引用意匠」と「本件拒絶理由通知における引用意匠」とは異なるところ,審決は,本来対比すべき引用意匠を基礎とせずに類否を判断した誤りがあると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。 すなわち,審決は,「理由」中の「2.当審の拒絶理由」欄において,引用意匠を特定しているが,これによれば,審決が対比の対象とした引用意匠は「日本サン石油?鰍ゥら『SUNOCOACEFFECTERR134a専用』として発売された自動車エアコン用添加剤の容器の形状」であると理解できる。なお,本件拒絶理由通知において示された引用意匠も同一と理解される(審決書及び甲2,3によると,審決が引用意匠の参考のために添付した「別紙第2」の写真と本件拒絶理由通知が引用意匠の参考として挙げた甲3添付の写真は,同一の写真の写しであると認められる。)。 ところで,審決は,引用意匠に関して,?@本体胴部の形状は縦長円筒状である,?A蓋部の上端の形状は環状の巻締め部である,?B蓋体の閉塞構造について上面が凹状に塞がれていると認定しているが,確かに別紙審決書写し中の別紙第2の写真のみからこのように認定することは困難である。しかし,上記のとおり,審決が類否の判断の基礎とした引用意匠は,別紙審決書写し中の別紙第2の写真で写された物品形状ではなく,審決が定義し,特定した前記の「日本サン石油?鰍ゥら『SUNOCOACEFFECTERR134a専用』として発売された自動車エアコン用添加剤の容器の形状」であるところ,証拠(乙8ないし10)によると,引用意匠と同一の自動車エアコン添加剤の容器の実際の形状も審決の上記?@,?B各認定のとおりと認められるし,上記?Aについても容器本体に蓋体が装着されていることから容易に推認することができる(乙8ないし10は本願出願後に刊行された刊行物であるが,当該製品について形状を変更したことを裏付ける証拠はなく,本願出願時の形状も同様であると認める。)。 以上のとおりであるから,審決には,本来対比すべき引用意匠を基礎とせずに類否を判断した誤りがあるとの原告の主張は,理由がないというべきである。 3取消事由3(本件拒絶理由通知の不備)について原告は,本件拒絶理由通知における引用意匠が公知意匠であることの立証がないと主張する。しかし,本件拒絶理由通知において,引用意匠が日本サン石油株式会社が販売した自動車エアコン用添加剤の容器の形状に関するものであること,及びその意匠の一部が本願出願日(平成15年10月20日)前の平成15年7月1日発行の雑誌「CARGRAPHIC」第6号の第223頁に掲載されていることが示されていること(甲2)に照らすならば,他に特段の事情が窺えない以上,当該引用意匠が公知であることが示されていると解するのが自然である。原告の主張は理由がない。 また,原告は,本件拒絶理由通知において,引用意匠の認定に不備があると主張する。しかし,前記2で判断したとおり,引用意匠は,自動車エアコン用添加剤の容器そのものの形状であり,かつ,本件拒絶理由通知において平成16年7月21日付け拒絶理由通知書添付の写真を引用し,「上面は凹陥状で,その中央に円柱状の突部があり,突部の側面にネジ山が形成されているものと認めます。」と記載し,その形状の基本的な態様を認定しているのであるから,原告に対して反論の機会を与えていると解すべきであって,引用意匠の認定に不備があるということはできない。原告の主張は理由がない。 4取消事由4(引用意匠の公知性の立証の欠如)について前記3で認定したとおり,引用意匠の正面視の写真が,本願出願日前の平成15年7月1日発行の雑誌「CARGRAPHIC」に掲載され,証拠(乙1)によると,この雑誌には「日本サン石油?梶iTel.03-3238-0236,URL;http://www.sunoco.co.jp/)より,自動車エアコン用添加剤「ACEFFECTER」が登場した。自動車用エアコンのコンプレッサーのフリクションを低減して作動音や振動を抑え,冷房効率や耐久性を高めるというもの。またエアコン使用時の燃費も向上するという。価格はオープンプライス。」との記載が認められる。そして,証拠(甲3,乙1,15)によると,同雑誌は,上記発行日より約1か月前の平成15年6月2日には,独立行政法人工業所有権総合情報館に受け入れられていることが認められるから,引用意匠に係る製品はそれ以前に発売されているものと認められる。以上を総合すると,本件出願時には引用意匠は公然知られるに至っていたものと認めるのが相当であり,この認定を左右する証拠はない。よって,原告の主張は理由がない。 5付言本件において,原告は,「第3原告の取消事由」の2に記載したとおりの理由によって,審決には違法があることを強く主張している。 確かに,本件審決書を見ると,「理由」中の「2.当審の拒絶理由」欄では,審判体における拒絶理由(すなわち審判体における論理過程)は何ら記載されず,審判の過程で発した本件拒絶理由通知の全文のみが記載されているので,この点は妥当を欠くか,少なくとも誤解を招く記載であるといえる。 そもそも,意匠登録出願に係る拒絶査定に対する不服審判の審理の対象は,意匠法17条所定の意匠登録を拒絶すべき事由が存在するか否かであって,審査又は審判の過程で発せられた「拒絶理由の通知」の当否ではない。 そして,審決は,文書をもって,審決の結論及び理由を記載することを要するから(意匠法52条,特許法157条),仮に,審理の結果,審判体において,拒絶査定不服審判の請求が成り立たないとの結論に至った場合には,審決書の「理由」として,意匠法17条所定の条項のいずれか(本件では意匠法3条1項)に該当すると判断した論理過程,すなわち根拠となる要件及び同要件を充足すると判断した論理過程を,記載することが求められる。他方,どのような内容の拒絶理由通知を発したかは,特段の事情のない限り,結論に至る論理に影響を与えることはなく,審決の論理とは関係のない事項であるから,審決書の理由として記載すべきではない。 本件において,取消事由2のような事由により原告から争われた原因は,審決書において,本件拒絶理由通知の内容が,審判体が結論を導いた論理であるとの誤解を与えるような体裁で,「2.当審の拒絶理由」欄に記載されたことにあるといえる(もっとも,本件では,「理由」の「4.当審の検討」欄において,審判体における論理過程が述べられているので,審決に理由不備の瑕疵はないというべきである。)。以上の点は,一般の審決書における理由記載においても留意を要すべき事柄といえよう〔知的財産高等裁判所平成19年12月26日判決・平成19年(行ケ)第10209号,10210号審決取消請求事件参照〕。 6結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 三村量一 |
裁判官 | 上田洋幸 |