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関連審決 無効2006-80207
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10333審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10279審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10054審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術常識 /  実質的に同一 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10202号 審決取消請求事件
原告王子ネピア株式会社
同訴訟代理人弁護士富岡英次
同 辻居幸一
同 竹内麻子
同 高石秀樹
同 外村玲子
同 奥村直樹
同訴訟代理人弁理士平山孝二
被告大王製紙株式会社
同訴訟代理人弁理士永井義久
同 湯浅正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/04/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2006-80207号事件について平成19年5月2日にした審決を取り消す。
第2事案の概要1特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「使い捨て紙おむつ」とする特許第1970113号(以下「本件特許」といい,本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許権者である。本件特許は,昭和62年1月16日に出願され,平成7年9月18日に設定登録された。
原告は,平成18年10月17日,特許庁に対し,本件特許について無効審判請求(無効2006-80207号事件)をしたところ,特許庁は,平成19年5月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
2特許請求の範囲本件特許に係る明細書(甲33。以下「本件明細書」という。)によると,本件発明の請求項1は,下記のとおりである。
【請求項1】「体液吸収体と,透水性トップシートと,非透水性バックシートとを有し,前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており,前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて,前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり,かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され,前記体液吸収体の長手方向縁と離間しており,前記トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成し,さらに前記離間位置において前記ホットメルト薄膜が前記非透水性バックシートに前記腰回り方向に沿って接合され,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成したことを特徴とする使い捨て紙おむつ。」3審決の内容別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明は,?@特開昭61-207606号公報(甲1。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「引用発明1」という。)並びに特開昭61-100246号公報(甲2。以下「刊行物2」という。)記載の発明(以下「引用発明2」という。)及び周知技術(甲4,5,10ないし26)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとすることはできない,?A実願昭60-197496号(実開昭62-106904号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(甲8。以下「先願」という。)記載の考案(以下「先願考案」という。)と実質的に同一であるとはいえないから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとすることはできない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明1又は先願考案の内容並びに本件発明と引用発明1又は先願考案との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)引用発明1についてア引用発明1の内容吸収芯と,身体側ライナーと,外側カバーとを有し,前記身体側ライナーと外側カバーとの間に前記吸収芯が介在されており,前記吸収芯の長手方向縁より外方に延びて前記身体側ライナーと外側カバーの内側周辺部とによって画成されたウエスト開口において腰回り方向に弾性要素を有する使い捨て紙おむつにおいて,弾性要素が前記身体側ライナーと前記外側カバーとの間に介在され,前記吸収芯の長手方向縁と離間している使い捨てパンツ。
イ一致点体液吸収体と,透水性トップシートと,非透水性バックシートとを有し,前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており,前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて,弾性帯が前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され,前記体液吸収体の長手方向縁と離間している使い捨て紙おむつである点。
ウ相違点(ア)相違点1本件発明では,弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであるのに対し,引用発明1では,弾性帯が発泡シートであることが明示されていない点。
(イ)相違点2本件発明では,トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成しているのに対し,引用発明1では,トップシートのバックシートがわ面と体液吸収体が接着され,トップシートのバックシートがわ面と弾性帯が接着されているが,それ以上の具体的な構成については明記されていない点。
(ウ)相違点3本件発明では,弾性帯と体液吸収体の長手方向縁との間の離間位置において,ホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成しているのに対し,引用発明1では,弾性帯と体液吸収体の長手方向縁との間は離間しているが,それ以外の構成については明記されていない点。
(2)先願考案についてア先願考案の内容液透過性の表面シートと液不透過性の裏面シートの間に吸収材を有する使い捨ておむつにおいて,該おむつの腰回り方向の両側縁部に沿って,且つ前記両シートの間に,該おむつの腰囲り方向に発泡プラスチックシートを介在させ,吸収材は裏面シートと表面シートとの間にホットメルト接着によって固定され,発泡プラスティックシートもホットメルト接着により固定し一体化されている使いすておむつ。
イ一致点体液吸収体と,透水性トップシートと,非透水性バックシートとを有し,前記透水性トップシートと非透水性バックシートとの間に前記体液吸収体が介在されており,前記体液吸収体の長手方向縁より外方に延びて前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとで構成されるフラップにおいて腰回り方向に弾性帯を有する使い捨て紙おむつにおいて,前記弾性帯は弾性伸縮性の発泡シートであり,かつこの発泡シートが前記透水性トップシートと前記非透水性バックシートとの間に介在され,前記体液吸収体の長手方向縁と離間している使い捨て紙おむつである点。
ウ相違点(ア)相違点1トップシートのバックシートがわ面において,体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨がってその両者に固着されるホットメルト薄膜を形成している点。
(イ)相違点2発泡シートと体液吸収体の離間位置においてホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合され,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成した点。
第3原告主張の取消事由審決は,?@引用発明1の認定を誤った結果,相違点2,3に対する容易想到性の判断を誤り(取消事由1),?A引用発明2の認定を誤った結果,相違点2,3に対する容易想到性の判断を誤り(取消事由2),?B先願考案の認定を誤った(取消事由3)ものであるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく相違点2,3の容易想到性の判断の誤り)(1) 引用発明1の認定の誤りア 引用発明1の「接着剤の薄層」は,「身体側ライナー」(トップシート)の「外側カバー」(バックシート)がわ面において,「吸収芯」(体液吸収体)端部上と「弾性要素」(発泡シート)上とに跨がってその両者に固着されている。すなわち,刊行物1によれば,引用発明1は,弾性要素70のうち吸収体に最も近いものと吸収芯とが離間しており,該離間位置において身体側ライナー72と外側カバー71とが,接着層により上下方向で接着されている。また,使い捨て紙おむつの製造方法によれば,トップシート及びバックシートを長手方向に走行し,1か所に固定されたホットメルト接着剤塗布装置によりホットメルト接着剤を塗布されるため,接着剤が吸収芯63上から弾性要素70上に跨って塗布されることになる(甲2,14,19,32)。したがって,引用発明1には,「身体側ライナー72」の「外側カバー71」がわ面において,「接着剤の薄層」が塗布されており,この「接着剤の薄層」が「吸収芯63」上と「弾性要素70」上とに跨ってその両者に固着される構成が記載されているといえる。
審決は,この点を看過した誤りがある。
イこの点について,被告は,引用発明1は「パンツ型おむつ」であり,乙1に示すように横流れ方式で製造するものであるのに対し,甲14のものは「テープ式紙おむつ」であって,縦流れ方式で製造されており,両者は異なると主張する。
引用発明1は,使い捨て衣類において一般的に適用される閉止(クロージャ)構造を提供した発明であるから,「パンツ型おむつ」に限定される理由はない。
また,「パンツ型おむつ」であっても,甲14と同様の「縦流れ方式」で製造することは,本件特許出願当時に周知である(甲38)。
したがって,審決には,引用発明1の認定上の誤りがある。
(2)容易想到性の判断の誤りア本件特許出願当時,使い捨て紙おむつ吸収体の端縁から長手方向端縁に体液が漏出すること(体液の前後漏れ)を防止する目的で,吸収体の端縁部分においてトップシートのバックシート側面にホットメルトを薄膜状に塗布し,トップシートとバックシートとが接合される領域(シール領域)により体液の前後漏れを防止することは周知・慣用技術であった(甲2,11ないし14,19)。そうすると,刊行物1においては「接着剤の薄層」が「(ホットメルト)薄膜」である場合を排除する直接的な記載は存しないものの,体液の前後漏れを防止することが使い捨て紙おむつに普遍的な目的であることに鑑みれば,引用発明1の「接着剤の薄層」と本件発明の「ホットメルト薄膜」とは,実質的な相違点とはいえない。
そして,引用発明1において「身体側ライナー」(トップシート)の「外側カバー」(バックシート)がわ面において,「吸収芯」(体液吸収体)端部上と「弾性要素」(発泡シート)上とに跨がってその両者に固着されている「接着剤の薄層」は,弾性帯と体液吸収体の長手方向縁との間の離間位置において,非透水性バックシートに腰回り方向に沿って接合されているところ,この「接着剤の薄層」が「(ホットメルト)薄膜」であれば,「離間位置」における「接合」部において「体液の前後漏れ防止用シール領域」が形成されることになる。
以上のとおり,審決には,引用発明1の認定を誤り,その結果,本件発明が引用発明1及び周知慣用技術に基づいて容易に想到し得ないと判断した誤りがある。
イ被告は,引用発明1と引用発明2とを組み合わせるには阻害事由があると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。すなわち,ホットメルトを塗布した部分の柔軟性,弾力性を損なわないようにホットメルトの種類や塗布方法を選択することが可能であることは,本件特許出願時において技術常識であった(甲29ないし31)。この技術常識を前提とすれば,ホットメルト接着剤を体液吸収体端部上にミクロなうね又はたわみを生じさせることにより,「裁縫仕立ての外観を与える」という引用発明の目的は十分に達成可能であり,阻害事由はない。
2取消事由2(引用発明2の認定の誤りに基づく相違点2,3の容易想到性の判断の誤り)審決は,「甲第2号証(判決注:刊行物2)・・・は使い捨ておむつ等の端部を接着することを開示するのみであって,体液の吸収体端部上と弾性帯上とに跨って両者を接着することまでも開示あるいは示唆するものではない。」(審決9頁22〜25行)と認定したが,誤りである。
刊行物2には,紙おむつは長い帯状のトップシート及びバックシートを長手方向(上掲の甲2の第6図で言えば,左右方向)に走行させ,一箇所に固定されたホットメルト接着剤塗布装置17からホットメルト接着剤を出すことにより,吸収体4上から紙おむつ端部上に亘ってホットメルト接着剤を塗布し,隣り合った紙おむつの間を裁断して製造する製造工程が記載されている。刊行物2には,体液の吸収体端部上と弾性帯上とに跨って両者を接着することが開示されている。
以上のとおり,審決には,引用発明2の認定を誤り,その結果,本件発明が引用発明1及び周知慣用技術に基づいて容易に想到し得ないと判断した誤りがある。
3取消事由3(先願考案の認定の誤り)先願考案の「ホットメルト接着剤」は,「表面シート」(トップシート)の「裏面シート」(バックシート)がわ面において,「吸収材」(体液吸収体)端部上と「発泡性プラスチックシート」(発泡シート)上とに跨がってその両者に固着されていると解すべきである。
すなわち,先願(甲8)の「吸収材3は…裏面シート2と…表面シート1との間にホットメルト接着によって固定されている。また・・・発泡性プラスチックシート6a,6bもホットメルト接着により固定し一体化されている」との記載(5頁18行〜6頁5行)及び第2図を参照すると,先願考案は,「吸収材3」が「表面シート1」との間にホットメルト接着によって固定され,「クッション性シート6a/b」も「表面シート1」との間にホットメルト接着により固定し一体化しており,吸収材3とクッション性シート6a/bとが離間位置において,表面シート1と裏面シート2とが接着層により上下方向で接着されているものと認めるのが相当である。そして,使い捨て紙おむつの製造工程では,トップシート及びバックシートを長手方向に走行させ,一箇所に固定されたホットメルト接着剤塗布装置からホットメルト接着剤を出すことにより,“吸収材3上”から“クッション性シート6a/b上”にわたって,ホットメルト接着剤を塗布するものであるから,一方の紙おむつの「“吸収材3”〜“クッション性シート6a”」と他方の紙おむつの「“クッション性シート6b”〜“吸収材3”」にわたって,ホットメルト接着剤が塗布される(甲32,図5〜8参照)。このような製造工程を前提とすれば,先願(甲8)には,ホットメルト接着剤が“吸収材3上”から“クッション性シート6a/b上”に跨って塗布されていることが開示されていると解される。
先願(甲8)には,「表面シート1」の「裏面シート2」がわ面において「ホットメルト接着剤」が塗布されており,この「ホットメルト接着剤」が「吸収材3」上と「クッション性シート6a/b」上とに跨ってその両者に固着されている構成が記載されている。以上のとおり,本件特許出願当時の周知慣用技術を考慮すれば本件発明と先願考案とは実質的に同一である。
審決は,先願(甲8)に,上記の点で開示がないとして,本件発明と先願考案とは実質的に同一ではないとした点に誤りがある。
第4被告の反論審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく相違点2,3の容易想到性の判断の誤り)に対し(1)引用発明1の認定の誤りに対しア引用発明1において,身体側ライナー20と外側カバー21に対する吸収芯22の結合の場合は,「線状または点状」の接着形態によって,あるいは吸収芯22は接合することなくライナーとカバーの周囲を固定して包まれているだけとするのに対し,弾性要素の結合の場合は,「伸張方向及びそれを横切る方向に沿って相互に離間」した接着形態によって結合するものであり,その結合形態が相違する。したがって,引用発明1は,「吸収芯」端部上と「弾性要素」上とに跨ってその両者に固着されているものではなく,審決の認定に誤りはない。
イ引用発明1は,いわゆる「パンツ型紙おむつ」であり,「横流れ」方式で製造するものであるのに対し,甲14,19記載のものは「テープ式紙おむつ」であり,「縦流れ」方式でホットメルト接着剤を連続塗布する方法によって製造するものであるから,引用発明1に後者の製造方法を適用することはできない。
ウ原告は,引用発明2の製造方法を根拠に一方の紙おむつの端部と他方の紙おむつの端部に跨ぐ領域にホットメルト接着剤が塗布されると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。
刊行物2の第5図をみても,重合ロールC1,C2の両側に位置する吸収体4の間隔が約7mmであり,ガイドローラG7の手前のホットメルト6の長さは約2mmであり,ホットメルト6は,一方の紙おむつの端部(背部)と,これと隣接する他方の紙おむつの端部(腹部)に跨る領域に亘って塗布されていない。また,第6図をみても,重合ロールC1,C2の両側に位置する吸収体4の間隔が約5mmであり,ガイドローラG7の手前のホットメルト6の長さは約4mmであり,ホットメルト6は,一方の紙おむつの端部(背部)と,これと隣接する他方の紙おむつの端部(腹部)に跨る領域にわたって塗布されておらず,原告の主張は誤りである。
(2)容易想到性の判断の誤りに対しア原告は,引用発明1においては接着剤の薄層は跨り,体液の前後漏れ防止用シール領域が形成されるように接合されていると認定されるべきことを前提として,審決には,相違点2,3に係る容易想到性の判断に誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,失当である。
身体側ライナーの外側カバーがわ面のホットメルト薄層が,吸収性の芯22と弾性要素70に跨っていたとしても,吸収体の芯22と弾性要素70の厚みは異なることから,刊行物1で,吸収体の芯22と弾性要素70との離間位置において,身体側ライナーの外側カバーがわ面のホットメルト薄層を外側カバーに接合させることの技術的意義が格別記載されていない以上,そのように開示されていると解すべき理由はない。また,刊行物1には,相違点3の「体液の前後漏れ防止用シール領域を形成する」ことの示唆もない。さらに,刊行物1のものは,「横流れ」方式で製造する「パンツ型紙おむつ」であるのに対し,刊行物2や甲14などの「縦流れ」方式で製造する「テープ式紙おむつ」であるから,後者の製造方式を前者の製造方式に適用することには困難がある。
引用発明1の接着剤を引用発明2のホットメルト接着剤に置き換えた場合には,引用発明1のうね又はたわみを形成することができなくなるので,阻害事由が存在する。
イ 原告は,本件特許出願当時,使い捨て紙おむつ吸収体の端縁から長手方向端縁に体液が漏出すること(体液の前後漏れ)を防止する目的で,吸収体の端縁部分においてトップシートのバックシート側面にホットメルトを薄膜状に塗布し,トップシートとバックシートとが接合される領域(シール領域)により体液の前後漏れを防止することは周知・慣用技術であると主張する。
しかし,原告の主張に係る周知・慣用技術(甲29ないし31)は,「縦流れ」方式で製造する「テープ式紙おむつ」において採用可能な「紙おむつの端部」の接着方法についての開示があるにすぎない。
2取消事由2(引用発明2の認定の誤りに基づく相違点2,3の容易想到性の判断の誤り)に対し引用発明2は,腰回り部分に弾性要素を有しないから,審決の引用発明2の認定に誤りはない。
引用発明2には,吸収体上と弾性帯上とに跨って両者を接着するホットメルト薄膜は明記されておらず,接合部分と吸収体間の離間位置の表面シートとバックシートは接着されていない。そして,引用発明2に使用されるホットメルト被膜は,約40μ厚のパラフィンシートと同等の洩れ防止効果を持つ10〜25μ程度のホットメルトの被膜であり,これをホットメルト不透水性被膜として適用した場合には,刊行物1の弾性要素と身体側ライナー72及び吸収性の芯22とが,不透水性被膜といえる程度に接着され,うね又はたわみを形成することができなくなる。したがって,引用発明1と引用発明2を組み合わせることには阻害事由が存在する。
3取消事由3(先願考案の認定の誤り)に対し先願には,「吸収材3は,・・・裏面シート2と,・・・表面シート1との間にホットメルト接着によって固定されている。また,弾性材4及び本考案による発泡プラスチックシート6a,6bもホットメルト接着により固定し一体化されている」(5頁18行〜6頁5行)の記載があるのみで,吸収材3と発泡プラスチックシート6a,6bの間の離間位置の固定についての記載は一切なく,ホットメルト接着剤についても具体的な記載もない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(引用発明1の認定の誤りに基づく相違点2,3の容易想到性の判断の誤り)について(1)引用発明1の認定の誤りについて原告は,引用発明1の「接着剤の薄層」は,「身体側ライナー」(トップシート)の「外側カバー」(バックシート)がわ面において,「吸収芯」(体液吸収体)端部上と「弾性要素」(発泡シート)上とに跨がってその両者に固着されていると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
ア刊行物1には,「パンツの前面パネル14と後面パネル15は同一構造で,それぞれ・・・身体側ライナー20と外側カバー21を有する。吸収性の芯22がライナー20とカバー21の間に位置し,線状または点状の接着剤,感圧テープ,超音波シール,熱シール等当該分野で周知な任意の適切な手段にライナーかカバーのいずれかまたはその両方に固定されるか,あるいはライナーかまたはカバーによって取り囲まれるがそれに固定されない。」(6頁右下欄15行〜7頁左上欄4行),「弾性要素60は使い捨て衣類の外側カバー61と身体側ライナー62の間に結合され,使い捨て衣類はこれら両層間に吸収芯63を有する。弾性要素の外表面64が接着剤の薄層65に沿って外側カバーに結合され,弾性要素の内表面66が接着剤の薄層67に沿って身体側ライナーに結合されている。接着剤層65,67は,液体接着剤,熱溶融接着剤,感圧接着剤等,弾性要素の材料を衣類の材料へ接合するのに適した任意の接着剤で形成できる。伸縮化開口を形成するその他の構造的特徴は前述した通りで,上記の取り付け用に選ばれる接着剤は,本発明の目的のため弾性要素が収縮されたとき,2つの層の接合点にのみ結合されねばならない。」(16頁右上欄15行〜左下欄8行)との記載がある。
上記によれば,刊行物1においては,吸収芯を身体ライナーに接着する方法と,弾性要素を身体ライナーに接着する方法とが区別されている。
イ刊行物1の第23図を参照すると,弾性要素60を外側カバー61又は身体側ライナー62に接着する接着剤の薄層64,65は,弾性要素60の部分にのみ記載されている。他方,第24図には,弾性要素が吸収芯と離間しており,弾性要素70の周囲において,身体側ライナーと外側カバーとが接着剤層によって接着されている構成が示されている。しかし,引用発明1においては,弾性要素と吸収芯がそれぞれ接着剤層によって接着されていても,上記間隙を接着剤層で接着する必要があるとはいえないし,また,刊行物1にはそれらの間の間隙を接着剤層により接着することを示唆する記載もない。
以上のとおり,引用発明1においては,弾性要素と吸収芯との離間部分にホットメルト接着剤が塗布されているか否かは明らかでなく,かえってそれぞれの身体ライナーとの接着方法が異なることを併せ考慮すれば,ホットメルト接着剤が吸収芯の端部上から弾性要素上に跨ってその両者を固着するものであるということはできないものというべきである。
ウこの点,原告は,甲2,14,19,32の紙おむつの製造工程を考慮すれば,刊行物1の第24図に記載されているような弾性要素70を身体ライナー72に結合するための接着剤は,吸収芯63から弾性要素70に跨って塗布されていると主張する。
しかし,引用発明1の吸収芯を身体ライナーに接着する方法と,弾性要素を身体ライナーに接着する方法とがあえて区別されているのであるから,刊行物1の記載に接した当業者が,弾性要素70を身体ライナー72に結合するための接着剤が,吸収芯63から弾性要素70に跨って塗布されると考えるのが通常であるとはいえない。原告の主張は理由がない。
(2)容易想到性の判断の誤りについてア前記(1)で認定したとおり,刊行物1の第23図や第24図に記載の実施態様の「弾性要素」は,接着剤層を用いて外側カバーと身体ライナーに結合される。そして,刊行物1において,「弾性要素は,第1〜10図に示すごとく直接結合される代りに,接着剤によって単一または複数の衣類層に結合できる。この代替例を第23図に示す。弾性要素60は使い捨て衣類の外側カバー61と身体側ライナー62の間に結合され,使い捨て衣類はこれら両層間に吸収芯63を有する。弾性要素の外表面64が接着剤の薄層65に沿って外側カバーに結合され,弾性要素の内表面66が接着剤の薄層67に沿って身体側ライナーに結合されている。接着剤層65,67は,液体接着剤,熱溶融接着剤,感圧接着剤等,弾性要素の材料を衣類の材料へ接合するのに適した任意の接着剤で形成できる。伸縮化開口を形成するその他の構造的特徴は前述した通りで,上記の取り付け用に選ばれる接着剤は,本発明の目的のため弾性要素が収縮されたとき,2つの層の接合点にのみ結合されねばならない。」(16頁右上欄12行〜左下欄8行)と記載されているように,引用発明1が目的とする伸縮化開口を備えるためには,この接着剤による弾性要素の外側カバーと身体ライナーとの結合は,弾性要素が収縮されたとき,接合点にのみ結合されるものでなければならないものと認められる。
これに対し,刊行物2に記載されているような,体液の洩れを防止することを目的とするホットメルト被膜は,非透水性となるように隙間なく形成されるものであって,引用発明1における身体ライナーと弾性要素との接合に用いた場合には,身体ライナーと弾性体とがもはや接合点のみで結合されることとはならないから,引用発明1の伸縮化開口を形成することはできない。したがって,引用発明1に,引用発明2を適用することが容易とはいえない。
イまた,刊行物2に「本実施例によれば,おむつ1の長手方向両端部すなわち着用時腰まわり部に位置する,透水性表面シート3の吸収体側表面に,長さl に亘ってホットメルト被膜6が形成されている。・・・ホットメ1ルト被膜6は・・・従来の接合のためのホットメルト塗布のように線状に塗布されるのではなく,面状に塗布される。このホットメルト被膜6は,透水性シート3に不透水性を賦与するためのもの・・・」(2頁右下欄18行ないし3頁左上欄15行)と記載されているように,引用発明2は,「吸収性芯の端部から,透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」にわたって「ホットメルト被膜6」を「透水性表面シートの吸収体側表面に」形成して,その領域の「透水性シート」を不透水性とするとともに,「透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」を接着することにより,端部漏れを防止するものであることからすれば,引用発明2の「ホットメルト被膜6」が,「透水性表面シートと不透水性裏面シートとの接合部分」から「吸収体端部」の直前までのすべての領域において,ホットメルト薄膜が不透水性裏面シートに接合されている必要はない(第2図においては,吸収体端部と接合部分との間が接合されていないものが示されている。)。また,引用発明2は,「体液の前後漏れを防止する目的で,ホットメルト接着剤が紙おむつの端部と吸収体上に跨って塗布される」ものであるとしても,その端部には,「弾性要素」が存在しない構造のものが開示されているにすぎないから,「体液吸収体端部上から弾性要素に跨ってその両者に固着されるホットメルト薄膜」を備えるものではない。
ところで,引用発明1の吸収芯と離隔して配置した弾性要素を有する紙おむつ端部に引用発明2を適用する場合を想定すると,「長手方向端部からの体液の漏れ」を防止させるためには,「弾性要素と吸収性芯との離間位置」において,「身体側ライナー」と「外側カバー」とが「ホットメルト被膜」により接合される必要はなく,「弾性要素」の外方縁部において両者が接合されていれば足りるし,また,当該「離間位置」において,「身体側ライナー」と「外側カバー」とが接合されていれば足りる。
したがって,引用発明1の長手方向端部において,体液の前後漏れを防止する目的で,引用発明2の「ホットメルト被膜」を,「吸収性芯」と「弾性要素」との「離間位置」に,「身体側ライナー」を「外側カバー」に接合するようにした場合に,「ホットメルト被膜」を「弾性体」に跨って形成することが必要不可欠とはいえない。
以上のとおりであるから,引用発明1に引用発明2を適用したとしても,引用発明1において,「ホットメルト被膜6」を身体側ライナーの外側カバーがわ面において「体液吸収体端部上から弾性要素に跨ってその両者に固着され」るように形成するとともに,「吸収芯端部と弾性要素の離間位置において,ホットメルト被膜6を外側カバーに接合するよう」にすることが,当然になされるとはいえない。
ウ原告は,吸収体の端縁部分においてトップシートのバックシートがわ面にホットメルト薄膜を塗布してトップシートとバックシートとが接合される領域により体液の前後漏れを防止するようにすることが周知慣用技術であると主張する。
しかし,原告が周知技術の根拠として挙げる刊行物等には,それぞれ,おむつ等の端部にホットメルト接着剤を塗布してバリアコーティング層を形成すること(甲13,14,17ないし20,25,26),最終製品に柔軟感を持たせる紙おむつ用のホットメルト接着剤により接合する技術(甲12,16,21ないし24)が記載されているものの,「ホットメルト薄膜」を弾性体と体液吸収体の端部上に跨ってその両者に固着するように形成することは記載されておらず,また,それらの文献には,弾性体と体液吸収体が離間して配置されること,その離間位置において,ホットメルト薄膜が外側カバーと接合することについては何ら記載されていないから,これらの周知技術によって,相違点2及び3が容易に想到し得るものではない。
エ原告は,ホットメルトを塗布した部分の柔軟性,弾力性を損なわないようにホットメルトの種類や塗布方法を選択することが可能であることが本件特許出願時に技術常識であったから(甲29ないし31),ホットメルト接着剤を体液吸収体端部上にミクロなうね又はたわみを生じさせることにより,「裁縫仕立ての外観を与える」という引用発明の目的は十分に達成可能であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)甲29(「衛材用ホットメルト接着剤の現況」)には,「接着剤」について,「紙オムツの製造に用いられるホットメルトは,通常のホットメルトよりも低粘度で,しかも,風合いの点から,柔らかくなければならない」との記載がある。しかし,この記載は,紙おむつに用いるホットメルト一般の性質をいうものにすぎず,体液の漏れ防止用ホットメルト薄膜についていうものではない。
(イ)甲30(特願昭61-32106号公報)には,「物品の吸収性芯部かまたは不織部分のいずれかに撥液性組成物の使用を教示している。
この手法は,塗布された表面を有効に飽和させる液体溶液の形の撥液剤の使用を必要とする。・・・もし不織トップシートに適用されると,それはこのシートに完全に侵入しそれによって不織シートの軟らかさまたは手触りを低下させ,そのことは使用者に不快感を起させる。」(2頁右下欄13行〜3頁左上欄3行),「物品の柔軟性または手触りの劣化をもたらさないように,皮膚に接触しない不織布の内面にのみ適用される」(3頁右下欄16〜18行)との記載がある。そうすると,上記の「不織トップシートの柔軟性または手触りの劣化をもたらさない」との記載は,ホットメルト接着剤が使用者の皮膚と接触する不織シートの表面状態に影響を与えないことによる結果をいうにすぎないと解されるから,不織シートに弾性体を貼着した場合に,その伸縮方向についての柔軟性についていうものとはいうことはできない。
(ウ)甲31(「ホットメルト接着の実際」)には,熱転写プリントにおいて伸縮性のホットメルトが使用されていることが記載されている。しかし,同文献には,伸縮性の生地の伸縮性を損なわないホットメルト転写が可能であることが開示されているにすぎず,紙おむつについてのものではないし,体液の漏れ防止のためのホットメルト薄膜についていうものでもない。
2取消事由2(引用発明2の認定の誤りに基づく相違点2,3の容易想到性の判断の誤り)について引用発明2は,「弾性帯」を有しない発明であり,刊行物2に体液吸収体端部上と弾性帯上に跨って両者を接着することの開示,示唆はない。
したがって,審決が「ホットメルト薄膜自体が使い捨ておむつ等の端部の接着剤として用いることができることは,甲第2号証,甲第5号証及び甲第10〜26号証の文献によって公知であると認められるが,それらは使い捨ておむつ等の端部を接着することを開示するのみであって,体液吸収体端部上と弾性帯上とに跨って両者を接着することまでも開示あるいは示唆するものではない。」とした認定に誤りはない。
また,審決に,相違点2,3の容易想到性の判断に誤りがないことは上記1のとおりである。
以上のとおり,原告の取消事由2に係る主張は理由がない。
3取消事由3(先願考案の認定の誤り)について(1)刊行物についてア先願(甲8)の記載(ア)「液透過性の表面シートと液不透過性の裏面シートの間に吸収材を有する使い捨ておむつにおいて,該おむつの腰囲り方向の両側縁部に沿って,且つ前記両シートの間に,該おむつの腰囲り方向の両側縁部の長さに等しいかあるいは若干短い長さを有し,且つ,0.5〜5cmの巾および0.5〜3.0mmの厚さを有するクッション性シートを介在させたことを特徴とする使いすておむつ」(実用新案登録請求の範囲第1項)(イ)「クッション性シートが発泡性プラスチックシートである実用新案登録請求の範囲第1項記載の使いすておむつ」(実用新案登録請求の範囲第2項)(ウ)「本考案は使いすておむつに関する。更に詳しくは尿の漏れおよび装着性を改良した使いすておむつに関する。」(2頁5〜7行)(エ)「腹部,背部からの尿の漏れ防止手段として腰まわり部に薄いフィルムを取付ける方法も提案されているが・・・この方法によるときは,装脱着時にフィルム特有の音を発し,また尿も吸収材を覆つているフィルムの上を通つて漏れてしまうなどの問題があつた。」(3頁1〜8行)(オ)「本考案は液透過性の表面シートと液不透過性の裏面シートとの間に吸収材を有する使いすておむつにおいて,該おむつの腰囲り方向の両側縁部に沿つて,且つ前記両シートの間に,該おむつの腰囲り方向の両側縁部の長さに等しいかあるいは若干短い長さを有し,且つ,0.5〜5.0cmの巾および0.5〜3.0mmの厚さを有するクツション性シートを介在させたことを特徴とする使いすておむつである。本考案におけるクツション性シートは,使いすておむつの腹部,背部からの尿の漏れを防止し,また,おむつの縁部の剛性を上げるために用いられるものであつて,好適なクツション性シートとしては発泡性プラスチツクシート・・・などを使用出来る。発泡性プラスチツクシートとしては発泡性ポリエチレン,ポリスチレン,ポリウレタンのいずれも利用可能であるが,柔軟性,折りまげ時の強度などの点からは発泡性ポリエチレンシートが望ましい。」(3頁下から2行〜4頁18行)(カ)「第1図及び第2図において,符号1は表面シート,2は裏面シート,3は吸収材,4は弾性部材,5はテープフアスナー,6a及び6bは発泡性プラスチツクシートを示す。吸収材3は,綿状パルプ,吸水紙,高吸水性ポリマーとから成り,ポリエチレンなどから成る裏面シート2と,ポリエチレン,あるいはポリプロピレン等の不織布などから成る表面シート1との間にホツトメルト接着によって固定されている。また弾性材4及び本考案による発泡性プラスチツクシート6a,6bもホツトメルト接着により固定し一体化されている。発泡性プラスチックシートについては,背部6aと腹部6bとを1枚のシートとして固定した後切断することにより効率的に固定することが可能である。」(5頁14行〜6頁9行)イ先願考案の内容上記記載によれば,先願には,液透過性の表面シート1と液不透過性の裏面シート2との間に吸収材3を有する使いすておむつにおいて,腰回り方向の腹部,背部の両側縁部に沿って両シートの間に,クッション性の発泡シートとを介在させ,発泡シートがホットメルト接着により表面シートと裏面シートの間に固定し一体化されており,吸収材3もホットメルト接着により表面シートと裏面シートとの間に固定されているものが記載されているといえる。しかし,上記「ホットメルト接着」について,その際の当該ホットメルト接着剤の塗布態様が,本件発明のようなホットメルト薄膜を形成するものであるか否かについては記載がない。また,発泡シートと吸収材3の離間部において,体液の前後漏れを防止することを目的とするものではないから,仮に,離間部がホットメルト接着されているといえるとしても,当該ホットメルト接着により体液の前後漏れ防止用シール領域を形成するものということはできない。
(2)原告の主張に対する判断ア原告は,先願においては,吸収体とクッション性シートの両方が表面シートと裏面シートとの間でホットメルト接着されており,使いすて紙おむつを製造する場合においては,ホットメルト接着剤を塗布ローラ等により塗布するのであるから,わずかな部分のみホットメルト接着剤の塗布を止めることは効率的でないことからすれば,先願の使いすておむつは,吸収体とクッション性シートの間の離間部においてもホットメルト接着剤が塗布されているものといえると主張する。
しかし,上記のとおり,先願には,ホットメルト接着剤をどのように塗布するかについて記載がなく,また,先願の接着剤の塗布態様がホットメルト薄膜を形成するものとは認められないから,原告の主張は,失当である。
イ原告は,本件特許出願当時,使い捨て紙おむつ吸収体の端縁から長手方向端縁に体液が漏出すること(体液の前後漏れ)を防止する目的で,吸収体の端縁部分においてトップシートとバックシート側面にホットメルトを薄膜状に塗布し,トップシートとバックシートとが接合される領域により体液の前後漏れを防止することは周知慣用技術であること,先願には「ホットメルト接着」に用いるホットメルト接着剤の塗布態様として「薄膜」状を排除する特段の記載がないこと,体液の前後漏れ防止は使いすて紙おむつの普遍的な目的であること等を総合すれば,先願考案の「ホットメルト接着剤」が薄膜状に塗布される場合も含むと理解されるべきであると主張する。
しかし,上記のとおり,先願考案は,体液が端部から漏れることを防止するために,「クッション性シート」を設けるというものであることに照らすならば,先願の「ホットメルト接着剤」の塗布形態は,体液の漏れを防止する機能を奏するものとして用いられているものとはいえないから,原告の主張は,採用できない。
(3)小括以上のとおり,先願考案は,本件発明の「トップシートのバックシート側面において,体液吸収体端部上と発泡シート上とに跨ってその両者に固着されるホットメルト薄膜」及び「離間位置において,当該ホットメルト薄膜が非透水性バックシートに腰回り方向に接合され,体液の前後漏れ防止用シール領域を形成する点」が記載されているものとは認められないから,審決が本件発明と先願考案とが相違点1及び2において相違すると認定したことには誤りはない。
4結論以上のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 上田洋幸
裁判官 三村量一