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関連審決 不服2001-3328
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成15行ケ565審決取消請求事件 判例 意匠
平成15行ケ566審決取消請求事件 判例 意匠
平成18行ケ10367審決取消請求事件 判例 意匠
平成14行ケ229審決取消請求事件 判例 意匠
昭和59行ケ192 判例 意匠
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  物品の形状 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  創作容易(容易の創作) /  先願 /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項3号 /  広く知られた /  頒布された刊行物 /  記載された意匠 /  意匠の属する分野 /  通常の知識を有する者 /  置換 /  寄せ集め /  意匠の類否 /  秘密意匠(14条) /  登録意匠 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 138号 審決取消請求事件
原告 マサル工業株式会社
訴訟代理人弁護士 卜部忠史,中島雪枝,弁理士 中畑孝
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 岩井芳紀,藤正明,大橋信彦,井出英一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/15
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2001-3328号事件について平成16年2月24日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,原告が,後記本願意匠の登録出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。なお,本件訴訟は,2度目の審決の取消しを求めたものである。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願意匠 出願人:マサル工業株式会社(原告) 意匠に係る物品:「配線用保護カバー」 意匠の形態:別紙審決書の写しの別紙1の図面に記載のとおり。
登録出願日:平成11年12月24日(意願平11-35813号) (2) 査定 拒絶査定日:平成13年1月25日(2月5日送達) (3) 第1次審判 審判請求日:平成13年3月6日(不服2001-3328号) 審決日:平成14年11月6日(審決書は甲1) 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成14年11月19日(原告に対し) (4) 第1次審決取消訴訟 訴え提起日:平成14年12月17日(東京高裁平成14年(行ケ)第626号) 口頭弁論終結日:平成15年4月28日 判決日:平成15年6月30日(判決書は甲36) 判決の結論:「特許庁が不服2001-3328号事件について平成14年11月6日にした審決を取り消す。」(上記審決(甲1)は,意匠法3条1項3号を理由に登録を拒絶すべきものと判断したものであるところ,同判決(甲36)は,その判断に誤りがあるというものである。) (5) 本件審判手続(不服2001-3328号) 拒絶理由通知:平成15年7月29日 審決日:平成16年2月24日(審決書は甲41) 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成16年3月9日(原告に対し) 2 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりである。要するに,本願意匠は,日本国内又は外国において公然知られた形状及び模様に基づいて当業者が容易に創作できたものであり,意匠法3条2項の規定により意匠登録を受けることができない,というものである。
審決の判断部分を要約すると次のとおりである。以下,審決を引用する場合を含め,審決書の別紙2の(1)の写真に示された意匠を「引用意匠(1)」(「Sweet's General Building & Renovation 1994」A-303頁,特許庁意匠課公知資料番号HB08015429号),別紙2の(2)の図面に示された意匠を「引用意匠(2)」(実用新案出願公開平2-17912号の第3図),別紙3の(3)の図面に示された意匠を「引用意匠(3)」(実開平5-67128号の図10),別紙3の(4)の図面に示された意匠を「引用意匠(4)」(意匠登録第274344号の類似2号意匠),別紙6の図面に示された2つの意匠を「引用意匠(5)」(登録意匠番号917576号の図)及び「引用意匠(6)」(登録意匠番号926956号の図)という。
(要約)本願意匠の全体の基本構成に示す形態に,ダクト外周面の形態が加わって,本願意匠の支配的な基調が形成されている。前者については,嵌合部を除き,引用意匠(1)に,後者については,引用意匠(2)又は引用意匠(5)(6)などから明らかなように,本願意匠の出願前に公然知られていたものと認められる。
また,ダクト外周面の形態のうち,上面両側に形成された線模様については,引用意匠(4)から,ベースの底部両隅における小幅な傾斜面については,ありふれた面取りである切面状であるとともに,引用意匠(5)から明らかなように,本願意匠の出願前に公然知られていたものと認められる。
次に,嵌合部の形態については,カバー側板及びベース係合片の傾斜角が異なる点を除き,引用意匠(3)から明らかなように,本願意匠の出願前に公然知られていたものであり,カバー側板の傾斜角の違いに伴う嵌合部の形態の違いについては,単にカバー側板の傾斜角度に合わせて細部の寸法比率や角度等をわずかに変更しただけの常套的な技術的改変の域を出ないものであって,カバー側板裏面の鏃状突出部とベース係合片が密接に噛み合う(若しくは,密着して相嵌めする)構造である点で,引用意匠(3)と変わりはなく,特筆すべき創意工夫又は格別の視覚効果を見いだすことはできない。
全体的な寸法比率については,この種の物品における普遍的な寸法比率の域を出ないものであって,格別の視覚効果をもたらすものではない。
さらに,本願意匠を全体的に観察した場合においても,本願意匠に特筆すべき創意工夫を見いだすことはできない。
したがって,本願意匠は,当業者が日本国内又は外国において公然知られた形状及び模様に基づいて容易に創作できたものと認められる。
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 取消事由1(創作性についての判断の誤り) (1) 審決は,本願意匠及び引用意匠(3)の嵌合構造の把握を誤り,本願意匠の創作容易性の判断を誤った。
すなわち,審決は,嵌合構造の点につき次のとおり判断したが,誤りである。
「嵌合部の形態については,カバー側板及びベース係合片の傾斜角が異なる点を除き,引用意匠(3)から明らかなように,本願意匠の出願前に公然知られていたものであり,カバー側板の傾斜角の違いに伴う嵌合部の形態の違いについては,単にカバー側板の傾斜角度に合わせて細部の寸法比率や角度等をわずかに変更しただけの常套的な技術的改変の域を出ないものであって,カバー側板裏面の鏃状突出部とベース係合片が密接に噛み合う(若しくは,密着して相嵌めする)構造である点で,引用意匠(3)と変わりはなく,特筆すべき創意工夫又は格別の視覚効果を見いだすことはできない。」 (2) 配線用保護カバーにおいて,その外周面形状を上梯下方形(上部を台形,下部を方形)とした形状は公知である。しかし,本願意匠において,カバーの左右傾斜板とベースの左右傾斜板とを重合構造にし,該重合により上梯下方形の配線用保護カバーにおける左右傾斜板のみを他の部位に比べて極度に増厚し異形形状にした点は,公知ではない。
【本願意匠】 【本願意匠の原告説明図】 次に,鏃相互を係合させる継手構造自体は,公知といえる。しかし,本願意匠において,カバーの左右傾斜板とベースの左右傾斜板の重合部に継手を配置した点,該重合部に鏃相互が係合する継手を形成した点は,公知ではない。また,本願意匠のように,カバーの左右傾斜板とベースの左右傾斜板間に形成される継手の軸線と,カバーに加わる引張力の軸線とが斜めに交差する継手構造となっており,引張力に対して外れやすい構造となり,技術常識に背反する設計となっている。
そして,カバー頂板の左右側端にファスナー溝を画成するほぼ等高の一対の垂直板を設けることは,溝画成手段とする限りにおいて公知である。しかし,本願意匠において,鏃と鏃の係合につき,逆台形(上記説明図中では梯形と表記)の低背リブを頂板から突設し,ベース傾斜板に設けた鏃の係合を抑止する形状(判決注:次段落の記載に照らし,「係合解除を抑止する形状」の誤記であると認める。)にした端面形状は,公知ではない。
前記のように,本願意匠における継手は,引張力に対して外れやすい構造であり,これを阻止するために,上記低背リブ(ストッパー)を設けたものであり,これを逆台形にしたのは,カバー傾斜板の鏃が係合しやすくするためと,同鏃の後頭部が逆台形の斜面に点接触して係合解除を抑止するためである。
(3) 上記(2)の点に関して,本願意匠と引用意匠(3)とを対比すると,次のとおりである。
(3-1) 本願意匠は,傾斜板と傾斜板のパッチン嵌め方式であり,該パッチン嵌め方式に適合する嵌合構造であるのに対し,引用意匠(3)は,係合溝内へしまり嵌めするファスナー嵌め方式である。
(a) 引用意匠(3)は,甲43の図4,図5,図9に示すように,フラット板状(テープ状)に展開可能で,図6に示すように,巻取り可能な柔軟性(弾性)を有する材質のものである(段落【0020】,【0021】)。また,長さが15メートルであり,曲げ可能な薄肉板と説明されている(【0015】)。このように,引用意匠(3)の嵌合構造は,垂直低背板の柔軟性を利用して,一端から他端へ向け順次しまり嵌めするファスナー嵌め方式であることは明らかである。
引用意匠(3)は,甲43の図10に示すように,水平な蓋板から第1,第2垂直低背板を互いに平行に,かつ,同等の高さをもって垂設し,両垂直低背板間の係合溝内に方形箱形の配線ダクトの外向き鏃とその立ち上がり基部をしまり嵌めするファスナー嵌め方式である。引用意匠(3)は,上記ファスナー嵌め方式の構造上の要求から,第1,第2垂直低背板を互いに平行で,かつ,同等の高さをもって垂設しているのである。また,ファスナー嵌めの目的から,図10に示すように,蓋板の垂直低背板を柔軟にし,その間に形成された係合溝の内周面と,方形箱形の配線ダクトの外向き鏃とその立ち上げ基部の外周面を全周面において密着させ,ファスナー嵌めする設計思想を採っている。
【引用意匠(3)の甲43図10】【引用意匠(3)の原告説明図】 (b) 一方,本願意匠は,ベース傾斜板の外向き鏃の頭部とカバー傾斜板の内向き鏃の頭部とが摺り合いながら,両傾斜板を逃げ方向へ弾性変位させつつ両鏃を係合し,さらにベース傾斜板の外向き鏃の頭部エッジを上記逆台形(梯形)の低背リブの斜面でバックアップして該外向き鏃の係合解除方向への弾性変位を阻止し,そして,低背リブは,ベース傾斜板の外向き鏃と干渉せずに傾斜板と傾斜板のパッチン嵌めを許容する嵌合構造である。
(c) 引用意匠(3)の上記嵌合構造と,本願意匠の上記嵌合構造とは,意匠的嵌合形状と技術的嵌合機構における差異が顕著であり,抜本的な改変なくして,寸法比率や角度のわずかな改変のみで,一方から他方に到達し得るとするのは予測可能の範囲を超えている。
引用意匠(3)は,その方形箱形配線ダクトと蓋板を,本願意匠のようにパッチン嵌めを可能とする硬質の樹脂で形成した場合,スライド嵌めによらなければ方形箱形の配線ダクトから蓋板を脱嵌できない設計思想である。このように,引用意匠(3)は,本願意匠におけるパッチン嵌め方式とは明白な技術的乖離,かつ,形状的乖離を有し,当業者が角度等の常套的技術改変を与えるのみで,一方から他方へ容易に変更可能であるとするのは,当業者の認識から離れた机上の推論である。
(3-2) 審決は,引用意匠(3)の蓋板が側板を有することを前提としているが,引用意匠(3)の配線ダクトは,本願意匠のカバーの傾斜側板に相当する側板を有していない。
すなわち,引用意匠(3)の蓋板の側端から垂設した第1垂直低背板と第2垂直低背板とは,互いに平行,かつ,同等の高さをもって突設されており,第1,第2垂直低背板は,配線ダクトの側板のほぼ5分の1以下の高さしか有していない。
これに対し,本願意匠におけるカバー傾斜板は,ベース側板よりわずかに小幅の高さを有し,かつ,カバー傾斜板とベース傾斜板とは,ほぼ同等の幅を有している。
さらに,本願意匠におけるカバー傾斜板は,カバー天板の2分の1程度の幅を有するのに対し,引用意匠(3)における第1,第2垂直低背板は,蓋板の7分の1程度の短幅の高さしか有していない。
このように,引用意匠(3)の第1垂直低背板は,本願意匠の傾斜板に相当する意匠要素とはいい難い。
審決は,この事実を看過し,側板を有しているとの前提に立って該側板と本願意匠のカバー傾斜側板とを対比し,単なる角度や比率のわずかな変更であるとした点で事実認定を誤り,創作性の判断を誤った。
また,引用意匠(3)における上記のような第1と第2垂直低背板とで形成する相対形状(蓋板嵌合構造)と,本願意匠におけるカバー傾斜板と低背の梯形リブとで形成する相対形状(カバー嵌合構造)とは,前記の嵌合構造として全くかけ離れた形状であり,前者を後者にわずかな変更を加えるのみで改変可能であるとする論拠はない。なお,引用意匠(3)における第2垂直低背板は,第1垂直低背板と協働してファスナー溝を形成し,しまり嵌め機能を有するものであって,本願意匠の低背リブに相当しない。
このように,全体形状の中で引用意匠(3)の垂直低背板を本願意匠の傾斜側板に変更するのは,意匠の抜本的変更に当たり,垂直低背板にわずかな改変を加えるのみで本願意匠の傾斜側板を容易に想到し得るとするのは,当業者における意匠的設計常識,技術的設計常識から遊離した判断である。
さらに,引用意匠(3)は,第1垂直低背板と第2垂直低背板によって二股形状を形成しているのに対し,本願意匠においてはそのような形状を有していない差異がある。
(4) 本願意匠において,ベースの垂直側板の上端に段部(段差面)を形成するとともに,同段部(段差面)からベース傾斜板を延出した端面形状と,該段部(段差面)にカバーの左右傾斜板の先端を突き当てて上記嵌合を完成する継手構造にした端面形状は,公知ではない。上記段部(段差面)はベースの嵌合前の状態において配線業者の視覚に訴え,注意を喚起するものである。
(5) 上記(4)の点に関して,本願意匠と引用意匠(3)とを対比すると,次のとおりである。
本願意匠は,上記のとおり,カバー傾斜板下端の鏃の先端面をベース側板上端の段差面に突き合わせ,該段差面でカバーを荷受けする下当て方式であり,下当て方式に適合する嵌合構造を有する。一方,引用意匠(3)は,方形箱形の配線ダクトの腰折り板上端の鏃の上端面に蓋板の両側端(係合溝内底面)を突き当て,配線ダクトの腰折り板上端の鏃で蓋板を荷受けする上当て方式であり,上当て方式に適合する嵌合構造を有する。審決は,この相違点を看過した。
すなわち,本願意匠は,カバー傾斜板下端に設けた内向き鏃の先端をベース側板上端の段差面に突き合わせ,ベース傾斜板上端の外向き鏃とカバー傾斜板下端の内向き鏃との係合を得る構造と形状を有している。これに対し,引用意匠(3)の甲43の図10に示す配線用保護カバーは,本願意匠におけるベース側板上端の段差面を有しておらず,この段差面にカバー傾斜板下端の内向き鏃の先端を突き当てる嵌合構造ないし形状を欠如している。
上記のとおり,本願意匠のベースは,嵌合前の形状として,ベース両側面から張り出し長手にわたって延在する段差面を有する。これに対し,引用意匠(3)の方形箱形配線ダクトは,側板上端に連設した腰折り板の傾斜板部の傾斜面と,第1垂直低背板の垂直面とが直接的に連続しており,連設部には角線を形成しているだけで,連設部に本願意匠のような段差面を有していない。
この種製品を熟知する配線業者及び製造業者は,ベースの両側面に上記段差面による張り出しを有するか否かを直ちに判別する。
引用意匠(3)を引用意匠(1)又は(2)に採用しても,単なる角度と比率のわずかな変更のみでは,段差面による意匠的差異を凌駕することは困難である。
(6) 本願意匠は,前記のとおり,カバーの左右傾斜板の先端面を上記段部に突き当てて鏃相互を係合せしめる構造(下当て方式)であるので,配線用保護カバーの外側面に長手方向にわたる目地溝(横縞模様)を発生させない。したがって,ごみが目地溝に詰まり,外観を損なうことがない。
一方,引用意匠(3)は,外向き鏃の上端面が蓋板の係合溝の内底面に突き当てて係合(嵌合)を完成し,外向き鏃で蓋板を荷受けする上当て方式である。上当て方式を可能とするために,蓋板の第1垂直低背板下端の内向き鏃は,配線ダクトの側板上端に連設した腰折り板の傾斜面を自由に滑ることができ,上記上当て位置によって滑り位置が設定される。したがって,上当て位置によっては,蓋板の第1垂直低背板の内向き鏃先端が配線ダクトの腰折り板の傾斜面から外方へ突出して配線用保護カバーの側面に張り出しを形成する事態,あるいは,上当て位置によっては,同内向き鏃の先端が配線ダクトの側板の外面まで到達せず,側面に細溝(横縞模様)を形成する事態を回避できない嵌合構造である。
(7) 過去に登録された意匠に示されるように,意匠登録の実務上蓄積された審査基準に照らせば,本願意匠については,創作が容易でないことは明らかである(なお,平成10年改正法は,創作容易性の判断の基礎となる意匠や形状の範囲を拡大したものであり,当業者にとって創作容易であったかの程度については,何らの改正がされていないものと解され,改正前の上記事例も先例としての価値を有するというべきである。)。
また,審決の創作容易であるとの判断は,特許庁が公開している創作容易性の判断に関する意匠の運用基準(乙2,甲50)に示された「置換」や「寄せ集め」等の具体的基準のいずれにも該当するものではなく,本願意匠の創作容易性が認められるべきものではない。
(8) 配線用保護カバーの需要者は,配線を業務とし,この種配線用保護カバーを熟知している配線業者であり,配線業者は,現場に使用する配線用保護カバーの選択に当たり,技術的判断とともにその形状を判別し,購入し,施工するものである。意匠の類否の判断に当たって技術的な機能と形状とを明確に分離して判断するとするのは,需要者である配線業者の認識から乖離した判断である。配線業者は,機能面から端面形状を認識するのであり,両者一体となって意匠の判別がなされるものである。
2 取消事由2(審査の違法,違憲) 本願意匠及び本願意匠と酷似する後願意匠(意匠登録第1114910号)とは,同一審査官の下で同時に審査されていた。しかし,後願意匠について登録が認められ,先願である本願意匠について登録が認められなかった。本願意匠についての審査を維持した審決には,意匠法の先願主義(意匠法9条1項)に反し,憲法14条に違反する瑕疵がある。
3 取消事由3(引用意匠(1)の公知性の欠如) (1) 審決の引用する引用意匠(1)は,単に,日本国内又は外国において頒布された刊行物記載された意匠にすぎず,公知であるものではない。被告は,引用意匠(1)の公知性(不特定多数の者に現実に知られたこと)を立証しておらず,意匠法3条2項の創作性の判断の基礎とできない。この点で審決には誤りがある。
(2) 引用意匠(1)は,独立行政法人工業所有権総合情報館受入れのカタログであるが,同情報館で現実に引用意匠(1)を閲覧するためには,所定の「引用文献申込書」(甲45)に記載し,その引用文献のみを,申請者が閲覧できることになっている。そして,拒絶理由に引用された文献を閲覧するに際しては,引用文献等が記載された通知のコピーを添付すること,出願番号,発送日,担当審査官名,該当文献が確認できる記載部分が必要であることとされており,現実には引用文献が記載されている通知のコピーや引用文献番号がわからないと閲覧できないことになっている。よって,一般公衆が引用意匠(1)のカタログを閲覧することは不可能であり,引用意匠(1)が記載されたカタログが同情報館に存在することは,公知であることを意味しない。
次に,引用意匠(1)が記載されたカタログは,日本国内において,上記情報館以外では,入手不可能である(甲46の1〜4)。原告は,上記Carlon社のカタログ1994年版を丸善株式会社から入手しようとしたが,取り扱っていないとのことであった(甲52,53)。
(3) 被告は,引用意匠(1)が掲載されたカタログ集「Sweet's General Building & Renovation」1994年版の発行事実をもって,引用意匠(1)が「外国において公然知られた形状」のものであると主張する。しかし,1994年版という単年度のみの発行の事実の証明では,その公然知られたことを合理的に推認し得る根拠になり得ない。
原告は,Sweet's Groupに対し1994年版と1995年版の「Sweet's General Building & Renovation」と1994年版の「Index」の購入を申し込んだが(甲54の1・2),回答がない。米国のパテントアトーニーの事務所を通じて,1994年版と1995年版の「Sweet's General Building & Renovation」が入手できるかどうか,1995年以降に発行されていたかどうかのほか,発行部数等につき,Sweet's Groupへの電話による問い合わせを依頼した(甲56)が,何らの情報も得られない旨の回答であった(甲57)。
(4) 「公然知られた形状」について,次の判例がある。
@ 「ある意匠が周知であるというためには当該意匠が一般に知られうる状態に置かれただけでは足りず,当業者の多くが当該意匠を現実に認識していることを要すると解すべきであるが,公開実用新案公報は出願内容を一般大衆に知らせることを目的とするもので,さらに公開後6年,11年経過のものにあっては,掲載の考案の内容は当該物品に関する当業者の目に触れることの多い文書というべきである。」(東京高裁平成11年(行ケ)第222号平成12年6月14日判決) A 「意匠公報の発行後そこに掲載された意匠が直ちに日本国内において広く知られたものとなるわけではなく,当業者らがこれを閲覧してこれを知り,その人数が多数となって,日本国内において広く知られるようになるためには,ある程度の期間が必要であるところ,発行から6か月あまりしか経っていない意匠出願に係る内容が,この期間内に広く知られるようになっていたものと認めることはできない」(東京高裁平成10年(行ケ)第153号平成11年4月22日判決) B 「本願意匠の登録出願日は平成13年2月9日であるところ,甲6は平成4年8月12日に,甲7は平成7年3月28日に,甲8は平成9年6月3日に,甲9は平成6年11月15日にそれぞれ公開されたものであって,さらに平成11年3月からは,特許庁ホームページ上の特許電子図書館サービスとして,誰でもコンピューターからアクセスが可能な状態とされており,平成12年1月からは,独立行政法人工業所有権総合情報館とその地方閲覧室及び都道府県に設けられた知的所有権センターなどの公衆閲覧施設の専用端末から特許電子図書館サービスにアクセスが可能となっていること,甲6ないし9は,特許又は実用新案に関するものであるが,本願意匠の属する分野である研磨盤又は研磨バフなどに係るものであることが認められる。以上の事情に照らせば,審決が認定した上記の各部分の態様は,本願意匠の登録出願前において,本願意匠の属する分野における通常の知識を有する者の間において,周知となっていたものと認めることができるのであり,各部分の態様が周知である以上,いずれも本願意匠の属する分野におけるものであるから,それらを組み合わせることに支障がないことも明らかであり」(東京高裁平成15年(行ケ)第97号平成15年8月26日判決) 上記@の判例は,公開実用新案公報が6年間公開状態(閲覧可能な状態)にあった事実を「公然知られた」の合理的推認期間と判示し,Aの判例は,引用意匠公報が発行後6か月余りしか経っていない事案において,6か月余りでは公然知られたものとは認め難いと判示している。
周知性・公知性の程度の差はあるとしても,意匠法3条2項に規定する「公然知られた」の要件認定に当たっては,判断の資料となる形状等が少なくとも複数年の公開状態が継続する必要があることは明らかである。上記Carlon社のカタログ1994年版は,少なくとも複数年度の公開状態の継続が必要であるとする上記判例の判断基準を満たすものではなく,「公然知られた形状」とすることはできない。
なお,上記Carlon社カタログを掲載したSweet'sカタログ集は,1994年1月に発行され,長く見ても1年間,あるいはカタログの短命の性質からいって,数か月間程度でカタログ販売を中止すると推認される。また,冊本に製本されているわけではなく,バラバラの状態で集積されているものであるから,いつでも抜去し,廃棄や交換が行えるようになっている。
被告の主張の要点
1 取消事由1(創作性についての判断の誤り)に対して (1) 創作性についての審決の判断に誤りはない。
(2) カバーの左右傾斜板とベースの左右傾斜板とが重なり合う重合構造は,ありふれたものであり(引用意匠(1),(3),(4),甲31,43,乙3,4),カバーにおける左右斜板の重合部を他よりも肉厚とした事例もありふれたものであって(引用意匠(3),(4),甲31,43,乙3,4),いずれも公知の形態で,本願意匠独自のものではない。また,本願意匠の上記肉厚は,多少肥厚させた程度のもので,他の部位に比べて極度に増厚し異形形状にしたものではない。
カバーの左右傾斜板とベースの左右傾斜板の重合部に継手を配置した点,及び該重合部に鏃相互が係合する継手を形成した点は,公知である(引用意匠(3),(6),甲31,48の4,乙3,4)。
鏃の係合解除を抑止するために頂板から低背リブを突設した形態は,公知である(引用意匠(3))。
(3) 本願意匠の嵌合部は,意匠全体から見れば局所的部位であるとともに,その形態に特筆すべき創意工夫若しくは格別の視覚効果を見いだすことができないものである。
嵌合方式の技術的思想又は固着技術的作用効果についてはさておき,本願意匠の嵌合構造及びその構成要素の形態については,引用意匠(3)だけでなく他の従来例(乙3,4)との間にも共通性がある。この嵌合構造を乙3に示すありふれたカバーの基本形態等を参照して公知である全体の基本構成の枠内に収めて本願意匠を具現化することは,当業者であれば容易に想到し得る。その際に,嵌合構造の構成要素であるカバーの鏃状突出部,ベースの係合片とその先端に形成された鉤爪,及びカバーのリブ状突起の寸法比率や角度等を要求される固着技術的作用効果を満たす範囲内で改変することは,常套的な技術的改変である。審決における創作性の判断に誤りはない。
引用意匠(3)において,原告のいう第1垂直低背板と呼ぶ部位は,カバーの上面水平部両側から下方に向かって屈折する一定幅の板状片であって,裏面に鏃状突出部を設けていることから,カバーの上面水平部に対する屈折角度の違いを除いて,本願意匠のカバーにおける傾斜側板と同等の構成要素である側板を成していることは図面上明らかである。審決の事実認定に遺漏はなく,判断に誤りはない。また,本願意匠のカバーの基本形及び側板の屈折角度は,ありふれたものであって,特筆すべき創意は認められない。
本願意匠は,全体の基本構成に公知の形態を採用し,カバーの基本形にもありふた形態(乙3)を採用したものである。また,嵌合部については,引用意匠(3)の嵌合構造及びその構成要素をありふれたカバーの基本形態等を参照して全体の基本構成の枠内に収めた程度のものであって,当業者であれば容易に想到し得るものであり,その際に,嵌合構造の構成要素であるカバーの鏃状突出部,ベースの係合片とその先端に形成された鉤爪,及びカバーのリブ状突起の寸法比率や角度等を要求される固着技術的作用効果を満たす範囲内で改変することは,常套的な技術的改変である。また,原告が第2垂直低背板と呼ぶ引用意匠(3)の部位は,本願意匠のリブ状小突起(低背の梯形リブ)と同様にベースの鉤爪を支持していることは図面上明らかであって,両者は,嵌合構造における役割にも共通性がある。
(4) カバーの端部をベース側板の上端に形成された段部(小幅な水平面)に突き当てて隙間を目立たなくした本願意匠における当該部位の仕様は,周知の突き付け目地そのものであって,極めてありふれた手法である(乙1,3)。ベース側板の上端に傾斜板を延出した形態も公知である(乙3の(3),4の(1),甲48の4)。本願意匠における当該部位の形状は,ベース側板の上端に傾斜板を延出した公知の形態を基本的に利用し,その一部を改変して小幅な水平面(段部)を形成するとともにカバーの端部も水平面とすることによって,当該部位の仕様を突き付け目地とした程度にすぎないものであって,公知の形態に基づく常套的改変の域を出るものではない。なお,「段部に突き当てて嵌合を完成する継手構造」なるものが,本願意匠におけるカバーの荷受け方式に関連するものであるとするならば,該荷受け方式自体は技術的思想そのものであって,意匠の構成要素とはなし得ない。
(5) 引用意匠(3)と本願意匠のカバー(蓋板)の荷受け方式に違いがあるとしても,荷受け方式自体は,技術的思想そのものであって,意匠の構成要素とはなし得ない。しかも,本願意匠におけるベースの鉤爪上端部は,端部両隅がそれぞれカバーの傾斜側板裏面とリブ状小突起で形成される台形係合溝の内側面に水平位置で密着していることからすれば,カバーの天板を垂直方向に支持していることは明らかであって,荷受け方式においても,原告が上当て方式と呼ぶ引用意匠(3)の荷受け方式と共通点を有するものである。
(6) 本願意匠の嵌合構造は,引用意匠(3)の嵌合構造と形態的共通性を有し,格別の創意工夫若しくは特筆すべき意匠的特徴を見いだすことができないものである。カバーとベースの目地部における突き付け面(段差面)に荷受け作用があったとしても,本願意匠の目地部は,周知の突き付け目地である(乙1,3)。したがって,審決の事実認定に遺漏はなく,判断に誤りはない。
(7) 審査基準は,創作性判断の基礎とすることができる資料及び容易に創作することができる意匠と認められる事例を例示したものであって,意匠法3条2項に関する創作性欠如理由を規定したものではなく,ましてや創作性判断の基礎を例示した事例だけに限定するものでもない。
2 取消事由2(審査の違法,違憲)に対して 後願意匠は,全体の基本構成及び基調が本願意匠とは明らかに異なり,原告が主張するように「極めて類似している」ということはできない。審査官は,二重の異なる基準で判断したものではない。
後願意匠が本願意匠よりも先に意匠登録を受けたことは,何ら先願主義の原則に反するものではない。
本願意匠は,意匠法3条2項に規定する創作性に関する登録要件を満たしていないものであるため,意匠登録を受けることができないことは当然であり,審決は,憲法14条に反するものではない。
3 取消事由3(引用意匠(1)の公知性の欠如)に対して 引用意匠(1)を掲載したCarlon社(Lamson & Session社の事業単位)のカタログ「EGALINE NONMETALLIC SURFACE RACEWAY SYSTEMS」を収納したカタログ集「Sweet's General Building & Renovation」1994年版は,米国McGraw-Hill社が1994年(平成6年)1月に米国において出版した刊行物であって,それを特許庁が購入し,同年9月14日に旧特許庁資料館が受け入れたものである(乙5の(1),(2),(3))。同カタログ集は,取扱分野が多岐にわたり,様々な製品カタログを16の部門に分け,4種類のインデックス「会社名,製品名,商品名,キーワード(製品のアルファベット順)」によって求める製品カタログを検索することができるように構成されている(乙5の(4))のであって,同カタログ集が不特定多数の利用者を前提に作成されたことは明らかである。また,「Sweet's Catalog Service」の歴史は古く,サービス形態を多様化して現在もなお継続していることからすれば(乙5の(5),(6)),米国における当該文献の認知度は高く,利用経験者及び潜在的需要者は多数存在するものと推量される。
同カタログ集1994年版は,「The New York Public Library」をはじめ,米国各地の公立図書館又は大学の図書館等において,不特定の者が任意に閲覧可能な状態で長期間保管されていたものである(乙7〜11)。
また,「Georgia College of Tech Architecture」において,「Sweet's General Building & Renovation Catalog File」がRecommended Books(推薦図書)として掲げられている(乙11)など,同カタログ集は,米国において著名な文献である。
したがって,同カタログ集の1994年版に掲載された引用意匠(1)が本願意匠の出願前に公然知られたものであることは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(創作性についての判断の誤り)について (a) 原告は,前記第3,1(2)のとおり,本願意匠の公知でない点をいくつか指摘するが,これが審決を取り消すべき事由,すなわち審決の認定判断の誤りと具体的にどのように結びつくのか明確にされていない(裁判所の釈明権の行使により審決取消事由の骨子として整理した原告の準備書面(9)でも,同様の主張が繰り返されるのみである。)。
いずれにしても,上記の箇所で原告が公知でないと主張する点は,原告のいう低背リブの点を除き,いずれも,証拠(甲31,43〔図14のもの〕,48の4,乙3,4)及び引用意匠(1)に照らせば,本件出願前から公知の形状であることが認められ,原告の主張は失当である。
ここで,原告のいう低背リブの点についてみる。以下,前掲の【原告説明図】における用語に従って説示するならば,本願意匠において,カバー傾斜板の内向き鏃とベース傾斜板の外向き鏃とが係合するのと同様に,引用意匠(3)においても,第1垂直低背板の内向き鏃と腰折り板の外向き鏃とが係合するといえる。この場合において,本願意匠における「低背リブ」も,引用意匠(3)における「第2垂直低背板」も,上記のように係合した本願意匠及び引用意匠(3)の各「外向き鏃」が,「内向き鏃」と逆方向に動いて係合が解除されるのを阻止するような位置関係及び形状となっている点で共通していることは明らかである。そうすると,引用意匠(3)の原告のいう「第2垂直低背板」と本願意匠の「低背リブ」とは,厳密には形状が異なるものの,その違いは,当業者が適宜改変し得る程度のものであるというべきである。
(b) 原告は,前記第3,1(3)の主張をするところ,この主張は,上記前記第3,1(2)で主張した点を引用意匠(3)との対比を通じて具体的に主張するものと理解し得る。
(b-1) 前記第3,1(3)の(3-1)の主張から検討する。
原告は,本願意匠に係る配線用保護カバーが「硬質の樹脂」で形成されて,パッチン嵌めの方式を採っているのに対し,引用意匠(3)に係る配線ダクトが「柔軟性・弾性を有する材質」で形成されて,ファスナー嵌めの方式を採っているものであることを主張する。そして,両者の嵌合構造は,差異が顕著であり,抜本的な改変なくして,すなわち寸法比率や角度のわずかな改変のみでは,一方から他方に到達し得るとすることはできない,と主張する。
しかしながら,本願意匠についての願書(甲2)を精査しても,材質が「硬質の樹脂」であるとの記載はもとより,それを示唆する記載も存在しない。ましてや,その嵌合方式が原告のいう「パッチン嵌め方式」であるとの記載やそれを示唆する記載は存在しない。よって,本願意匠に関する原告の上記主張事実自体を認めることができない。
なお,原告は,本願意匠の製品(配線用保護カバー)として,検甲1〜5を提出するが,仮に,実際の製品が「硬質の樹脂」で「パッチン嵌め方式」であるとしても,そのことによって,願書に記載された出願意匠の性質等が補充ないし変更され得るものではない。また,当業者が本願意匠の形状を見ることにより,「硬質の樹脂」で「パッチン嵌め方式」であると一義的・確定的に認識するものであることを認めるに足りる証拠もない。
そうすると,原告の主張は,本願意匠に関する前提事実が証拠上認められないから,採用し得ないものというほかない。のみならず,引用意匠(3)に関する原告の主張についても,その公開実用新案公報(甲43)には,「弾性を有する」との記載はあるものの,これは実用新案の考案としての説明であって,審決が引用したのは,その図10に示された形状であって,材質を含むものではないのであり,また,当業者が引用意匠(3)の形状を見ることにより,「弾性を有する材質」で「ファスナー嵌め方式」であると一義的・確定的に認識するものであることを認めるに足りる証拠もないのであるから(原告の主張によれば,「硬質の樹脂」で「スライド嵌め方式」ということもあり得る。),採用し得ないというほかない。
(b-2) 次に,前記第3,1(3)の(3-2)の主張を検討する。
原告は,本願意匠における「カバー傾斜板」及び「低背リブ」と引用意匠(3)における「第1垂直低背板」及び「第2垂直低背板」とを対比し,「第1垂直低背板」は,「カバー傾斜板」に相当するとはいえないこと,引用意匠(3)の「第2垂直低背板」は,第1垂直低背板とファスナー溝を構成するもので,本願意匠の「低背リブ」には相当しないこと,カバー傾斜板と低背リブで形成する本願意匠の嵌合構造と,第1と第2の垂直低背板で形成する引用意匠(3)の嵌合構造とは,全くかけ離れた形状であることから,引用意匠(3)の垂直低背板にわずかな改変を加えるのみで本願意匠の傾斜板を容易に想到し得るとする審決は誤りである,などと主張する。
しかし,原告が本願意匠における公知でない点として主張するものは,低背リブの点を除き,いずれも,本件出願前から公知の形状であることが認められることは,前記(a)に判示したとおりである。そして,引用意匠(3)の「第2垂直低背板」と本願意匠の「低背リブ」とは,厳密には形状が異なるものの,その違いは,当業者が適宜改変し得る程度のものであるというべきであることも,前判示のとおりである。また,引用意匠(3)がファスナー嵌めの方式を採っていることを理由とする主張が採用し得ないことも,前判示のとおりである。
そうすると,原告が主張する本願意匠と引用意匠(3)との形状の違いを考慮したとしても,「嵌合部の形態については,カバー側板及びベース係合片の傾斜角が異なる点を除き,引用意匠(3)から明らかなように,本願意匠の出願前に公然知られていたものであり,カバー側板の傾斜角の違いに伴う嵌合部の形態の違いについては,単にカバー側板の傾斜角度に合わせて細部の寸法比率や角度等をわずかに変更しただけの常套的な技術的改変の域を出ないものであって,カバー側板裏面の鏃状突出部とベース係合片が密接に噛み合う(若しくは,密着して相嵌めする)構造である点で,引用意匠(3)と変わりはなく,特筆すべき創意工夫又は格別の視覚効果を見いだすことはできない。」とした審決の認定判断は,是認し得るものであり,原告の主張は,採用することができない。
(c) 原告は,前記第3,1(4)のように,本願意匠につき,ベースの垂直側板の上端に段部(段差面)を形成し,同段部(段差面)からベース傾斜板を延出し,その段部(段差面)にカバーの左右傾斜板の先端を突き当てて嵌合を完成する継手構造にした点を公知ではない,と主張する。そして,同第3,1(5)において,上記の点を引用意匠(3)との対比を通じて具体的に主張し,本願意匠の上記荷受け方式が「下当て方式」であるが,引用意匠(3)は,配線ダクトの腰折り板上端の鏃で蓋板を荷受けする「上当て方式」であり,嵌合構造が違うのであって,わずかな変更のみでは凌駕できない上記段差面による意匠的差異がある,などと主張する。
検討するに,原告は,原告準備書面(6)において,〔図4〕を示しつつ,本願意匠が「段差面にカバーの左右傾斜板の先端を突き当てて嵌合を完成する」ものであることを説明する。〔図4〕によれば,嵌合完成状態では,段差面にカバーの左右傾斜板の先端を突き当てた状態になっており,他方,ベース傾斜板の外向き鏃の頭部は,カバー天板にも低背リブにも接しておらず(拡大図の〔図5〕によればより明らかである。),これによれば,確かに,段差面にカバーの左右傾斜板の先端を突き当てることで嵌合が完成されているものと理解し得る(形状自体からも下当て方式であると理解し得る。)。しかし,この説明及び〔図4〕〔図5〕は,本願意匠の願書(甲2)をみると,本願意匠に関するものではないことが明らかである。本件出願に係る意匠は,前掲【本願意匠】として掲げた本件願書の「拡大正面図」による形状のものであり,これによれば,段差面にカバーの左右傾斜板の先端が突き当っているだけでなく,ベース傾斜板の外向き鏃の頭部エッジもまた低背リブの斜面に突き当たっていることが認められる。確かに,上記外向き鏃とカバー天板との間に空隙は存在する。しかし,低背リブの斜面とカバー傾斜板の内側の傾斜面に囲まれた空間は,上に行くほど間隔が狭くなっているところ,ベースの外向き鏃は,低背リブの斜面とカバー傾斜板の内側の傾斜面に挟まれており,鏃の頭部の左右幅と,低背リブの斜面とカバー傾斜板の内側の傾斜面の左右幅とが等しくなった部分で,低背リブ及びカバー傾斜板に当たって嵌合状態となっていることが認められる。そうすると,本願意匠は,「下」つまり「段差面にカバーの左右傾斜板の先端が突き当っている」ことによって嵌合しているものと断じ得ないというほかない。なお,引用意匠(3)は,前掲【引用意匠(3)の甲43図10】のとおりであって,原告の説明用語に従って表現するならば,「上」において,ベースの上向き鏃の上端面とカバーの係合溝内底面とが当接しているだけでなく,「下」において,カバーの内向き鏃の斜面とベースの腰折り板の外側斜面とが当接し,それぞれの部分で支持して嵌合しているものと認められ,引用意匠(3)の意匠から,原告のいうように「上当て方式」と断定して理解し得るのかは疑問である。
原告が主張する荷受け方式自体は,技術的思想であって,それ自体が意匠制度における保護の対象となるものではないことはいうまでもないが,その点をおくとしても,原告の主張は,上記のとおり,採用することができない。
原告の主張する点を,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものという「意匠」として見た場合,ベース側板に形成された段差部(水平面)を設け,これにカバーの端部を突き当てる形状とした点にあるとみられるが,これは,「突付け目地」とも呼ばれる周知の方式とみられ(乙1),配線用保護カバーの分野でもありふれた手法であると認められる(乙3(1),甲47の2)。したがって,公知の形態に基づく常套的な技術的改変の域を出ないとした審決の認定判断は,是認し得るものである。
原告の主張は,採用することができない。
(d) 原告は,前記第3,1(6)のように,配線用保護カバー外側面の目地溝(横縞模様)の有無について主張する。
検討するに,この点は,前記(c)の段差面及び荷受け方式に関する主張を前提とするものである。したがって,前記(c)に判示したところに照らせば,上記の点は,創作容易性の判断を妨げ得るものではなく,原告の主張は,採用し得ない。
(e) 原告は,前記第3,1(7)において,過去の意匠登録事例や審査基準に照らし,本願意匠の創作容易性は認められるべきでないと主張する。
原告の主張にかんがみ本件証拠から認められる登録例をみても,本願意匠についての審決の創作容易性の認定判断を誤りであるとすべき事由を見いだすことはできない。また,審査基準では,事例が掲げられているが,それは例示にすぎないと解されるのであって,仮に,掲げられた事例に該当しないとしても,そのことから直ちに,創作容易性を認めるべきでないと断ずべきことにはならない。
原告の主張は,採用の限りではない。
(f) 原告は,前記第3,1(8)のようにも主張するが,前判示のとおり,技術的思想それ自体が意匠制度における保護の対象となるものではないことはいうまでもない。そして,仮に,当業者の視点から機能的な面も考慮するとしても,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものという「意匠」という観点を通じてなされるべきものであって,本願意匠及び引用意匠における材質の点などを含め,前判示の諸点に照らせば,審決の本願意匠の創作容易性についての認定判断に誤りがあるとはいえない。
2 取消事由2(審査の違法,違憲)について 原告は,同一審査官により後願意匠の登録が認められたことを引き合いに出して,先願主義違反,憲法14条に違反を主張する。
しかし,意匠の審査は個別事案ごとにされるものであり,本願意匠と後願意匠とは,両者が別個の意匠であることは明らかであるから,両者について,異なる審査の結論が出たからといって,直ちに,先願主義(意匠法9条1項)に反することになるわけではなく,いわんや憲法14条の問題になるというわけでもない。なお,後願意匠(原告準備書面(4)の別紙1)を本願意匠と対比して検討しても,本願意匠について拒絶の査定をしたことの違法性の判断につながるような点を見いだすことはできない。
原告の主張は,採用することができない。
3 取消事由3(引用意匠(1)の公知性の欠如)について (1) 引用意匠(1)は,前記のとおり,カタログ集である「Sweet's General Building & Renovation」1994年版に収納されたものである。
証拠(乙5の(1),(2),(3))及び弁論の全趣旨によれば,上記カタログ集1994年版は,米国McGraw-Hill社が1994年1月に米国において出版し,平成6年9月14日に特許庁の旧特許庁資料館に受け入れられたものであることが認められる。
一方,証拠(乙7〜11)及び弁論の全趣旨によれば,「Sweet's General Building & Renovation」の「Catalog File」が,米国の「Georgia College of Tech Architecture」や「University of Florida」などの大学において,Recommended Books(推薦図書)やReference Books and Periodicals(参考文献,定期刊行物)として掲げられていること,「The New York Public Library」やSan Franciscoなどの米国各地の公立図書館等においても,不特定の者が任意に閲覧可能な状態で長期間保管されていること,上記カタログ集は,毎年刊行されているもので,上記大学及び公立図書館等に収蔵されている上記カタログ集には,1994年版も含まれることが認められる。
以上によれば,上記カタログ集の1994年版に掲載された引用意匠(1)は,本願意匠の出願前に,少なくとも外国において公然知られたものとなっていたことは明らかである。
(2) 原告は,「公然知られた形状」に関する裁判例として,@東京高裁平成11年(行ケ)第222号平成12年6月14日判決,A東京高裁平成10年(行ケ)第153号平成11年4月22日判決を挙げて,主張する。しかし,両判決は,平成10年改正前の意匠法3条にいう「広く知られた」との要件,つまり周知性に関する判断を示した裁判例であることが明らかである。原告は,これを上記改正後の「公然知られた」との要件,つまり公知性に関する判断を示したものと主張するものであり,両者の概念が異なることはいうまでもないところであるから,原告の主張は失当である。
また,原告は,B東京高裁平成15年(行ケ)第97号平成15年8月26日判決も援用するが,同判決は,審決が審査段階における拒絶理由通知書に記載のない証拠をも理由に記載したことが許されるか否かについて判断し,これらの証拠は,周知事実ないし創作水準の認定に関しての例示的な参照として使用されたものであるとして,手続上の違法があるとまではいえないと判示したものであって,原告引用部分は,周知事実に関するものであって,「公然知られた」という点に関するものではない。よって,同判決も本件に適切でなく,原告の主張は失当である。
その他,引用意匠(1)の公知性に関して原告の主張するところは,いずれも採用することができない。
4 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文
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