関連審決 |
不服2004-23887 |
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関連ワード | 意匠の創作 / 物品 / 物品の形状 / 形状 / 意匠に係る物品 / 意匠の説明 / 創作容易(容易の創作) / 公然知られた(3条1項1号) / 意匠の属する分野 / 通常の知識を有する者 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10385号
審決取消請求事件
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原告田 中金属株式会社 訴訟代理人弁理 士新関和郎 被告特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人岩井芳紀 同 木本直美 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/04/24 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2004-23887号事件について平成19年9月25日にした審決を取り消す。 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯(1)原告は,平成15年11月26日,別紙審決書写し添付の別紙1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について,意匠に係る物品を「金属製ブラインドのルーバー」として意匠登録出願(意願2003-35193号。以下「本件出願」という。)をし,特許庁が平成16年10月14日拒絶査定をしたので,原告は,これを不服として審判請求(不服2004-23887号事件)をした。 特許庁は,平成18年1月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。)をした。 (2)原告は,第1次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10088号)を提起し,同裁判所は,同年9月20日,本願意匠は意匠法3条2項に該当し,意匠登録を受けることができないとした審決の判断は誤りであると判断し,第1次審決を取り消す旨の判決をした。 そして,特許庁は,同判決の確定により事件の審理を開始した後,平成19年9月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年10月17日原告に送達された。 2 審決の内容(1)別紙審決書写し記載のとおりである。要するに,本願意匠は,外周壁の形状を出願前に公然知られた建築用目隠し材の外周壁の形状とし,開口端の上下両縁部に,同じく出願前に公然知られた外装目隠し材におけるリップ状係止片と同様の係止片を単に形成し,この種物品におけるありふれた技術的仕様であるタッピングホールを内奥部の上下両隅に配置したにすぎないものであることから,当業者(その意匠の属する分野における通常の知識を有する者)であれば,格別の創意工夫を要することなく,公然知られた形状に基づいて容易に創作できたものと認められるので,意匠法3条2項の規定により,意匠登録を受けることができないというものである。 (2)審決は,本願意匠の構成態様は,本件出願の願書添付の図面及び意匠の説明の欄に記載されたとおりであるとした上で,本願意匠の構成態様を同図面に基づいて摘記すれば,概ね次のとおりであると認定した。 「(1) 全体の基本的構成態様一定の断面形状で長手方向に連続する薄板状のルーバー材であって,外周壁を正面側に向かって膨出する断面視略半円形状として背面側を開口させ,開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面に揃えた一対のリップ状係止片を形成。 (2) 内奥部の上下両隅に微細な溝状のタッピングホールを配置。 (3)外周壁における曲面部の終端位置から背面側端部にかけて,接線方向に連なる小幅な平坦部を形成。 (4)リップ状係止片の突出幅を正面視上下幅の略1/3程度に設定。」(3)審決が「公然知られた形状」の認定の基礎とした刊行物は,次の「引用1」及び「引用2」のとおりである。 「引用1」意匠登録第1046202号意匠公報(甲1。審決書添付の別紙2の「1」参照)「引用2」特開2002-54283号特許公報の図4の(H)(甲2。審決書添付の別紙2の「2」参照) |
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当事者の主張
1 原告主張の審決の取消事由審決は,本願意匠の構成態様の認定及び評価を誤り,公然知られた形状についての認定を誤った結果,本願意匠が公然知られた形状に基づいて容易に創作できたものであるとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。 (1) 本願意匠の構成態様の認定の誤り本件出願の願書添付の図面(甲7。審決書添付の別紙1は,同図面を縮小して編集したもの。以下同じ。)の右側面図及び斜視図によれば,本願意匠の構成態様は,次の(イ)ないし(ホ)の構成要素(以下「構成要素(イ)」などという。)からなると認定されるべきである。審決には,以下のとおり,本願意匠の構成態様のうち,構成要素(イ),(ハ),(ニ)を看過した誤りがある。 「(イ)「正面側に向け膨出する半円形状の外周壁とこれの背面側に近接して並行する相似の半円形状の内周壁とで形成される背面側に開口する肉薄で薄身の半円筒形状の目隠し部の形状」(ロ)「半円筒形状の目隠し部の背面側の開口端の上下両縁部に,突き当て面を同一垂直面に揃えて形成した上下に一対のリップ状係止片の形状」(ハ)「上下に一対のリップ状係止片の各内面側の基端部位に配置して形成したタッピングホールの配置構成」(ニ)「外周壁の曲面部の終端位置から目隠し部の背面側の開口端の端縁にかけて形成した小幅な平坦部の形状」(ホ)「リップ状係止片の突出幅を正面視上下幅の略1/3程度に設定」」ア 構成要素(イ)の看過(全体の基本的構成態様の認定の誤り)意匠の全体の基本的構成態様は,部分的な構成態様を除いた,骨格となる構成態様である。 本願のルーバー材についていえば,「目隠しとして機能する目隠し部」と「取付部」とを合わせた構成態様がこれに該当する。本願意匠において,ルーバー材の目隠し部は,正面側に向け膨出する横向き半円形状の「外周壁」とこれの背面側に近接して並行する相似の半円形状の「内周壁」とで形成される背面側に開口する肉薄で薄身の半円筒形の形状を示している。これに対し,審決は,「全体の基本的構成態様」について,単に「一定の断面形状で長手方向に連続する薄板状のルーバー材であって,外周壁を正面側に向かって膨出する断面視略半円形状として背面側を開口させ,開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面に揃えた一対のリップ状係止片を形成。」と認定するのみで,本願意匠における半円筒形とした目隠し部の本体部の形状,及びこの半円筒形の目隠し部の本体部の形状を外周壁と並行して構成している内周壁の形状についての認定(構成要素(イ))を看過している。 この点について,被告は,審決は,「一定の断面形状で長手方向に連続する・・・断面視略半円形状」が,「目隠し部」に相当すると主張する。しかし,「断面視略半円形状」は,外周壁の形状であり,しかも「半円形状」であって,肉厚のある半円筒形の形状ではないから,「目隠し部」に相当する形状とはいえない。また,被告は,本願意匠は,内側に中空部を設けずに,周壁全体を一様の厚みの薄板状に形成し,外周壁のみで構成されているもので,「内周壁」と呼ぶべき部位は存在しないと主張する。しかし,周壁は,厚さを問わず肉厚のあるものであれば,内部の中空部の有無にかかわらず,一方の面を外周壁とすれば,他方の面は内周壁となるから,本願意匠に内周壁は存在する。 イ 構成要素(ハ)の看過(タッピングホールの配置構成の認定の誤り)本願意匠は,「上下に一対のリップ状係止片の各内面側の基端部位に配置して形成したタッピングホールの配置構成」(構成要素(ハ))を有する。これに対し,審決は,タッピングホールについて「(2)内奥部の上下両隅に微細な溝状のタッピングホールを配置」と認定するのみであり,構成要素(ハ)の認定を看過している。 ウ 構成要素(ニ)の看過(平坦部の形状の認定の欠如)審決は,本願意匠における「外周壁の曲面部の終端側に形成した小幅な平坦部の形状」(構成要素(ニ))の認定を看過している。 (2) 本願意匠の構成態様の評価の誤りア審決は,「本願意匠に係る物品は・・・使用状態において人目に触れやすく,且つ観察者の美感に訴求する視覚効果が最も大きい部位は,外観に表れる外周壁の形態であるといえる。また,使用時においては外観に表れない構成要素として,本願意匠には,係止片及びタッピングホールが存在するが,これらは固着強度や施工作業の便宜等,専ら技術的効果に関与する形態的要素であるといえる。よって,本願意匠の主たる構成態様は・・・外周壁の形態を内在させた上記(1)に示す全体の基本的構成態様であると認められる。」(審決書4頁2行〜13行)と判断する。 しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。 ルーバー材・目隠し材は,取引,流通の過程においては,取付金具により取付材に取り付けて面格子状に組み立てられた態様ではなく,ルーバー材・目隠し材の単体の製品として取引され,意匠・形態についての需要者の選択は,この単体の形態において行われる。この種の物品は,意匠・形態の特徴の視認を側面視における形状を重視して行う傾向にあることから,製品のカタログ(甲5)においては,側端の「こぐち」から,内部の形状及び取付部の形状がよく視認できる態様として紹介されている。「係止片」及び「タッピングホール」は,使用時において外観に表れ,人目につきやすい構成要素であり,ルーバー材・目隠し材としての機能・性能に係る特異な形状・形態であるから,需要者の注目を集める,視覚効果の大きい部位であるといえる。 したがって,審決が,係止片及びタッピングホールが,使用時に外観に表れない構成要素であることを理由に,本願意匠の主たる構成態様は,外周壁の形態を内在させた全体の基本的構成態様であると判断した点には,誤りがある。 イ審決は,「また,上記(2)に示すタッピングホールの形状及び配置については,内奥部に形成されたタッピングホールの形状及び配置構成が,引用[2]の図面等にも見受けられるように,この種の物品におけるありふれた技術的仕様であるとともに,外観上目立たない部位に配置されたものであることから,意匠の構成要素としては枝葉に属するものと認められる。」(審決書4頁28行〜32行)と判断した。 しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。 本願意匠において,タッピングホールは,右側面図及び斜視図に明らかなように,外観上よく見える位置に,目立つ態様として装設してあり,外観上目立たない部位に配置されたものではない。 また,引用[2](甲2)の図4の(H)にあるタッピングホールは,中空のパネル材の内部に,その内部の空間を前後に区画するように設けた隔壁の,上下の隅部に装設する技術的仕様の手法であるのに対し,本願意匠におけるタッピングホールは,中空のパイプ材の,背面側の開口端部に設けた上下に一対のリップ状係止片の,内面側の各基端の隅部に装設する技術的仕様としており,引用[2]により知られているありふれた技術的仕様の手法ではない。 したがって,審決が,本願意匠におけるタッピングホールは,この種の物品におけるありふれた技術的仕様であること,外観上目立たない部位に配置されたものであること理由として,意匠の構成要素としては,枝葉に属すると判断した点には,誤りがある。 (3) 公然知られた形状の認定の誤りア審決は,引用[1]の形状について,建築用目隠し材の外周面を部分として取り出して,意匠法3条2項所定の公然知られた形状であると認定した。 しかし,審決の上記認定は,以下のとおり誤りである。 意匠法3条2項に規定されている公然知られた「形状」は,独立して存在している形状でなければならない。物品の表面形状のように,物品の形状・形態と合わせてしか視認することができず,物品自体の形状・形態を捨象して表面だけの形状を視認することが困難な表面形状は,独立して存在している形状に当たらない。 しかるに,引用[1](甲1)の外周壁の形状は,建築用目隠し材の外周面の形状であり,「外表面の形状」にすぎない。この「外表面の形状」は,一方の側となる外周側からのみ視認することができ,他方の側からは見ることができず,建築用目隠し材の形状・形態から想像するしかない形状であって,独立して存在している形状ではない。このような「外表面の形状」は,意匠の創作容易性の判断の基礎となる形状とすべきではない。 したがって,引用[1]の外周壁の形状は,意匠法3条2項に規定する「形状」に当たらないと解すべきである。 イ審決は,「なお,引用[1]は,上記(3)に示すところの,外周壁の一部に小幅な平坦部を形成した本願意匠の子細な態様についても具備しているものと認められる。」(審決書4頁25行〜27行)と認定した。 しかし,審決の上記認定は,以下のとおり誤りである。 引用[1](甲1)に記載の建築用目隠し材は,その平面視の形状が,平面図に表される形状で,底面視の形状が平面図と同一に表される形状のものであり,同平面図は,外周壁が曲面のまま右側端縁(開口側の端縁)まで連続している形状のものとして表されている。 ところで,外周壁における曲面部の終端位置から背面側端部にかけて,小幅な平坦部が形成されているのであれば,この曲面部から平坦部に移行する位置に,本願意匠の意匠図面の平面図及び斜視図にあるように,曲面部と平坦部との境界位置に平坦部の辺縁の線が表記されていなければならないが,引用[1]の平面図には,平坦部の辺縁を示す線がなく,曲面部が開口端側の端縁にまで連続する態様のものとして記載されている。 したがって,審決が,引用[1]が,外周壁の一部に小幅な平坦部を形成した本願意匠の子細な態様についても具備していると認定した点には,誤りがある。 (4) 創作容易性の判断の誤り以上の(1)ないし(3)のとおり,審決は,本願意匠の構成態様の認定及び評価を誤り,公然知られた形状についての認定を誤り,これらの誤った認定判断を前提として,本願意匠は,公然知られた形状に基づいて容易に創作できたものであるとの誤った判断をした違法がある。 2 被告の反論(1) 本願意匠の構成態様の認定の誤りに対し原告が全体の基本的構成態様であるとする構成態様は,「目隠し部」と表現する部位が,本願意匠に係る物品の大部分を占める部位に相当し,「半円筒形状」と表現する形状が,審決における「一定の断面形状で長手方向に連続する・・・断面視略半円形状」と表現した形状に相当する。原告が「正面側に向け膨出する横向き半円形状の外周壁とこれの背面側に近接して並行する相似の半円形状の内周壁とで背面側に開口する肉薄で薄身の半円筒形状の目隠し部の形状」と表現する構成態様(構成要素(イ))は,「これ(外周壁)の背面側に近接して並行する相似形の半円形状の内周壁」と表現する「内周壁」の形状をあえて含めた点を除けば,審決が認定した本願意匠の全体の基本的構成態様と実質的に同じである。 なお,本件出願の願書添付の図面によれば,本願意匠は,内側に中空部を設けずに周壁全体を一様な厚みの薄板状に形成したものであることから,外周壁のみで構成されているので,「内周壁」と呼ぶべき部位は存在しない。審決では,「外側(正面側)に向かって膨出する周壁」を指す語として「外周壁」が使用されている。 (2) 本願意匠の構成態様の評価の誤りに対し原告は,係止片及びタッピングホールは,使用時において外観に表れ,かつ,人目につきやすい構成要素であり,しかも,ルーバー材・目隠し材としての機能・性能に係る特異な形状・形態となることから,需要者の注目を集める,視覚効果の大きい部位であるにもかかわらず,審決がその点を考慮しなかった判断に誤りがあると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 すなわち,この種の物品を掲載した製品カタログは,主たる目的が当該製品を部材として使用する各種構造物の設計又は施工等に役立つ技術情報を設計者又は施工者等に提供することにある。そこに掲載される断面図又は端面図は,技術的仕様を子細かつ正確に記載しているが,当該物品を部材として使用する構造物の外観形態に寄与する当該物品の構成態様,即ち,当該物品の意匠の究極目的である使用状態における美的構成態様については,必ずしも十分に表現されていない。そして,意匠の構成態様の認定・判断に際しては,製品カタログ掲載の意匠と同様に,技術的仕様にかかわらず,使用状態を示す参考図等を参酌して,主たる構成態様(即ち,美的構成態様)を的確に把握することが重要である。したがって,本願意匠の主たる構成態様は,外周壁の形態を内在させた「(1)全体の基本的構成態様」であるといえる。 また,本願意匠のタッピングホールは,引用[2]の図4(H)のタッピングホールと同形で,同様に内奥部の上下の隅部に設けられており,本願意匠のタッピングホールの位置は引用[2]に示唆されているといえる。 本願意匠のタッピングホールは,使用時において外観に表れない構成要素であり,専ら技術的効果に関与する形態的要素である。 したがって,本願意匠のタッピングホールの形状及び配置構成が意匠の構成要素としては枝葉に属するとした審決の判断に誤りはない。 (3) 公然知られた形状の認定の誤りに対しア原告は,引用[1]の形状は,意匠法3条2項に規定する「形状」に該当しない旨主張する。しかし,原告の主張は判然としないが,引用[1]の形状が特定しない旨の主張であるとすれば,それが図面上特定できることは明らかである。また,引用[1]の形状が意匠の創作容易性の判断の基礎となる形状とすべきでなく,意匠法3条2項に規定する「形状」には含まれない旨の主張であるとすれば,原告の主張は,独自の解釈に基づく恣意的なものであり,失当である。 イ原告は,引用[1]が,小幅な平坦部を具備しているものであるとする審決の認定は誤りである旨主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり誤りである。 すなわち,乙4に示すように,外周壁の端面を記載した本願意匠の正面図と,引用[1]の右側面図に基づいて外周壁の寸法比率を子細に検討すると,本願意匠と引用[1]は,円弧状部分の半径をそれぞれr,r’とすれば,中心が開口端よりも多少内側(本願意匠はΔ□,引用[1]はΔ□’だけ内側寄り)に位置し,全高(上下幅)が半径の2倍(本願意匠は2r,引用[1]は2r’)で,全幅(左右幅)が本願意匠は2r+Δ□,引用[1]は2r+Δ□’であり,Δ□,Δ□’のそれぞれの半径に対する寸法比率Δ□/r,Δ□’/r’は両者とも略同程度であり,両者のΔ□及びΔ□’に相当する部分が目視上略平行で,かつ,外周壁における曲面部分の終端位置から折線方向になめらかに連接している態様が見受けられる。したがって,両者のΔ□,Δ□’に対応する部分の外周壁は,略平坦であるというべきである。 したがって,引用[1]が,小幅な平坦部を具備しているとした審決の認定に誤りはない。 (4) 創作容易性の判断の誤りに対し以上のとおり,審決には,原告主張の本願意匠の構成態様の認定及び評価の誤り,公然知られた形状についての認定の誤りは存在しないから,審決における本願意匠の創作容易性の判断の誤りをいう原告の主張は,その前提を欠き,失当である。 |
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当裁判所の判断
1 本願意匠の構成態様について(1)原告は,審決には,本願意匠の構成態様のうち,「正面側に向け膨出する半円形状の外周壁とこれの背面側に近接して並行する相似の半円形状の内周壁とで形成される背面側に開口する肉薄で薄身の半円筒形状の目隠し部の形状」(構成要素(イ)),「上下に一対のリップ状係止片の各内面側の基端部位に配置して形成したタッピングホールの配置構成」(構成要素(ハ)),「外周壁の曲面部の終端位置から目隠し部の背面側の開口端の端縁にかけて形成した小幅な平坦部の形状」(構成要素(ニ))を看過した誤りがある旨主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。 ア 構成要素(イ)について原告は,本願意匠の構成態様について,「正面側に向け膨出する半円形状の外周壁とこれの背面側に近接して並行する相似の半円形状の内周壁とで形成される背面側に開口する肉薄で薄身の半円筒形状の目隠し部の形状」(構成要素(イ))を看過した誤りがあると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。 (ア)審決は,前記第2の2(2)のとおり,本願意匠が「(1)全体の基本的構成態様」として「一定の断面形状で長手方向に連続する薄板状のルーバー材であって,外周壁を正面側に向かって膨出する断面視略半円形状」の構成態様を有すると認定している。上記認定中の「一定の断面形状で長手方向に連続する薄板状」との文言に照らすならば,「外周壁」は,外周面と内周面からなる,一定の厚み(「薄板状」)を持つ周壁であり,その厚みも一様(「一定の断面形状で長手方向に連続」)であると理解することができる。そして,原告が主張する「内周壁」は,審決認定の「外周壁」の内周面を指すものと認められるから,審決が本願意匠について「全体の基本的構成態様の認定に際し,外周面の形態に加えて,敢えて内周面の形態を摘記する必要は認められない。」(審決書5頁12行〜14行)と判断したことに誤りはない。 また,原告が主張する「半円筒形の形状」は,半円形状の「外表面」(原告主張の「外周壁」)及びこれと相似の半円形状の「内表面」(原告主張の「内周壁」)とで形成されるというのであるから,審決認定の「外周壁」の形状を「断面視略半円形状」と表現することと実質的な違いはない。 (イ)以上によれば,原告主張の構成態様(イ)は,審決の「(1)全体の基本的構成態様」において実質的に認定されているといえるから,構成態様(イ)の欠落を理由に,本願意匠の全体の基本的構成態様の認定の誤りをいう原告の主張は,採用することができない。 イ 構成要素(ハ)について原告は,審決には,本願意匠の構成態様について,「上下に一対のリップ状係止片の各内面側の基端部位に配置して形成したタッピングホールの配置構成」(構成要素(ハ))を看過した誤りがあると主張する。 しかし,本願意匠の右側面図及び斜視図によれば,審決が認定するように,本願意匠のタッピングホールが,ルーバー材本体を基準にして「内奥部の上下両隅に」配置されていることが認められる。原告の上記主張は,ルーバー材本体の「開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面に揃え」て形成された「一対のリップ状係止片」を基準にして,タッピングホールの配置が,「上下に一対のリップ状係止片の,各内面側の基端部位に」配置されていることを述べたものであり,審決認定の配置と,観察する基準点を異にするだけで実質的な違いはない。 したがって,構成態様(ハ)の看過を理由に,本願意匠の構成態様の認定の誤りをいう原告の主張は,採用することができない。 ウ 構成要素(ニ)について原告は,審決には,本願意匠における「外周壁の曲面部の終端側に形成した小幅な平坦部の形状」(構成要素(ニ))を看過した誤りがあると主張する。 しかし,審決は,前記第2の2(2)のとおり,「(3)外周壁における曲面部の終端位置から背面側端部にかけて,接線方向に連なる小幅な平坦部を形成。」を本願意匠の構成態様として認定しているから,構成要素(ニ)の看過を理由に,本願意匠の構成態様の認定の誤りをいう原告の上記主張は失当である。 エ以上のとおり,審決における本願意匠の構成態様の認定の誤りをいう原告の主張は理由がない。 (2)そして,本件出願の願書添付の図面(甲7)によれば,審決が認定(前記第2の2(2))するように,本願意匠は,「(1)全体の基本的構成態様」を「一定の断面形状で長手方向に連続する薄板状のルーバー材であって,外周壁を正面側に向かって膨出する断面視略半円形状として背面側を開口させ,開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面に揃えた一対のリップ状係止片を形成」し,「(2)内奥部の上下両隅に微細な溝状のタッピングホールを配置」,「(3)外周壁における曲面部の終端位置から背面側端部にかけて,接線方向に連なる小幅な平坦部を形成」,「(4)リップ状係止片の突出幅を正面視上下幅の略1/3程度に設定」した構成態様の意匠であることが認められる。 2 本願意匠の創作容易性について(1)前記1(2)の認定事実及び本件出願の願書添付の図面(甲7)によれば,本願意匠は,「一定の断面形状で長手方向に連続する薄板状のルーバー材」であって,ルーバー材本体の「外周壁」は,「正面側に向かって膨出する断面視略半円形状として背面側を開口させ,開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面に揃えた一対のリップ状係止片を形成」し,「リップ状係止片の突出幅を正面視上下幅の略1/3程度に設定」し,ルーバー材本体の「内奥部の上下両隅に微細な溝状のタッピングホール」を1個ずつ配置する構成態様のものであることが認められる。 (2)そして,引用[1](甲2),乙1(審決書添付の別紙3(1)記載の素形材のカタログ),乙2(審決書添付の別紙3(2)記載の素形材のカタログ)によれば,本願意匠における「正面側に向かって膨出する断面視略半円形状」の外周壁の形状は,引用[1]の建築用目隠し材の意匠の外周壁の形状とほぼ同一であり,素形材の形状としては一般的なものであることが認められる。また,この種物品の外周壁の開口端に「一対のリップ状係止片」を形成することは,普通に行われており,その形状もありふれた一般的なものであること(引用[2](甲2),乙2),本願意匠のタッピングホールも,ありふれた一般的な形状のものであって(弁論の全趣旨),その配置態様も「内奥部の上下両隅」の目立たない部位に単に設けただけであることに照らすならば,当業者であれば,本願意匠は,公然知られた形状(引用[1],[2])に基づいて,容易に創作をすることができたものと認められる。 したがって,審決が,引用[1]の形状を外周壁の形状に採用し,引用[2]の形状を係止片の形状に採用して,本願意匠の全体の基本的構成態様を構成することに格別の創意工夫を要するものでないとした判断(審決書4頁2行〜24行)は,是認することができる。 3 原告の主張に対する判断(1)原告は,?@本願意匠における係止片及びタッピングホールは,製品のカタログ(甲5)において,側端の「こぐち」から,内部の形状及び取付部の形状がよく視認できる態様として紹介されているように,使用時において外観に表れ,かつ,人目につきやすい構成要素であり,しかも,ルーバー材・目隠し材としての機能・性能に係る特異な形状・形態となることから,需要者の注目を集める,視覚効果の大きい部位である,?A本願意匠において,タッピングホールは,右側面図及び斜視図に明らかなように,外観上よく見える位置に,目立つ態様として装設してあり,外観上目立たない部位に配置されたものではなく,また,引用[2]により知られているありふれた技術的仕様の手法ではないにもかかわらず,審決が,係止片及びタッピングホールが,使用時に外観に表れない構成要素であること等を理由に,本願意匠の主たる構成態様に該当せず,意匠の構成要素としては,枝葉に属すると認定判断したことは誤りであると主張する。 しかし,?@前記2(2)認定のとおり,本願意匠のタッピングホールは,その形状自体がありふれた一般的な形状であり,「内奥部の上下両隅」の目立たない部位に単に設けられ,使用時において外観に表れない位置に配置されていること,?A本願意匠のリップ状係止片は,ルーバー材を取付枠に固定するためのものであり,外観に表れない位置に配置されていることに照らすならば,原告の上記主張は採用することができない。 (2)原告は,引用[1](甲1)の外周壁の形状は,建築用目隠し材の「外周面の形状」であって,外周側からのみ視認することができ,他方の側からは見ることができないから,独立して存在している形状ではなく,意匠法3条2項に規定する「形状」に当たらないなどと主張する。 しかし,引用[1]の建築用目隠し材を構成する「外周壁」の形状について,意匠法3条2項に規定する「形状」に当たらないとする理由はなく,原告の主張は,独自の見解であって採用の限りでない。 (3)原告は,引用[1](甲1)に記載の建築用目隠し材は,その平面視の形状が,平面図に表される形状で,底面視の形状が平面図と同一に表される形状のものであり,同平面図は,外周壁が曲面のまま右側端縁(開口側の端縁)まで連続している形状のものとして表されており,引用[1]の外周壁には,小幅な平坦部の形状(構成要素(ニ))が存在しないから,審決が,引用[1]は「外周壁の一部に小幅な平坦部を形成した本願意匠の子細な態様についても具備している」と認定したのは誤りであると主張する。 しかし,外周壁の端面を記載した本願意匠の正面図と,引用[1]の右側面図に基づいて外周壁の寸法比率を対比した図面である乙4によれば,引用[1]の外周壁に略平坦部分が存在することが認められる。もっとも,引用[1]には,曲面部と平坦部の境界位置に辺縁を示す線が記載されていないが,このことから直ちに曲面部が開口端側の端縁にまで連続し,外周壁の一部に小幅な平坦部が形成されていないと断ずることはできない。 したがって,引用[1]が,小幅な平坦部を具備しているとした審決の認定に誤りはなく,原告の主張は採用することができない。 (4)以上に説示したところによれば,審決には,原告主張の本願意匠の構成態様の認定及び評価の誤り,公然知られた形状についての認定の誤りは存在しないから,審決における本願意匠の創作容易性の判断の誤りをいう原告の主張は,その前提を欠くものであり,失当である。 4 結論以上のとおり,原告主張の取消事由には理由がなく,他に審決を取り消すべき誤りは認められない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 大鷹一郎 |