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関連審決 不服2005-4854
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10031審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10261審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10065審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10068審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  寄せ集め /  技術分野の関連性 /  課題の共通性 /  機能の共通性 /  上位概念 /  技術的範囲 /  分割出願 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  対価 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 /  異議申立 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10328号 審決取消請求事件
原告七生総業株式会社
訴訟代理人弁護士石川幸吉
訴訟復代理人弁護士酢谷裕子
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理 人北村英隆,山崎豊,森川元嗣,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/05/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2005-4854号事件について平成19年8月27日にした審決を取り消す 」との判決。。
第2事案の概要本件は,原告が,名称を「料理飲食物の給仕方法とその装置」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯( )本件出願(甲第3号証)1出願人:七生総業株式会社(原告)発明の名称: 料理飲食物の給仕方法とその装置」 「出願番号:特願2000-349717号出願日:平成12年11月16日( )本件手続2拒絶査定日:平成17年3月10日審判請求日:平成17年3月22日(不服2005-4854号)手続補正日:平成17年3月22日(甲第4号証)審決日:平成19年8月27日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「 。
審決謄本送達日:平成19年9月6日2本願発明の要旨審決が対象とした発明(平成17年3月22日付け手続補正後の請求項2に記載された発明であり,以下「本願発明」という。なお,請求項の数は5個である )。
の要旨は,以下のとおりである(下線部は補正箇所である。。)「中央部に,展示品を載置して所定の作動をする展示品移動基台を並列して巡回する展示品巡回展示搬送路を設け,その周囲に,所定箇所に調理室において操作可能なストッパー機構が設定され,搬送トレイを浮上させて流送可能に構成した回流水路を配置したことを特徴とする料理飲食物の搬送給仕装置」3審決の理由の要点審決の理由は,要するに,本願発明は,下記引用例1〜4にそれぞれ記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができないというものである。
引用例1:実願昭54-178353号(実開昭56-094577号)のマイクロフィルム(甲第5号証の1)引用例2:実願昭48-062529号(実開昭50-011491号)のマイクロフィルム(甲第5号証の2)引用例3:特開昭57-170210号公報(甲第5号証の3)引用例4:特開昭48-16382号公報(甲第5号証の4)審決の理由中,各引用例の記載事項の認定,本願発明と引用発明1記載の発明との対比,相違点に対する判断の部分は,以下のとおりである(誤記を訂正した部分がある。。)( )各引用例の記載事項の認定1ア引用例1「a 『・・・ 略 ・・・鑑賞魚水槽が併設された流水を利用した食品搬送装置(実用新案 .() 。』登録請求の範囲 。)b 『本考案は,環状の流水槽の外周に食卓を,内側には鑑賞魚水槽が併設され,流水槽の流 .水には水に浮揚性のお盆が連続的に回遊され,該御盆上には各種の食品が載置され,顧客は,所望の食品を食卓に取り上げてこれを食し得るようにされ,且つ,面前においては,水槽に回遊する鑑賞魚を鑑賞し,食事時に,一時の風趣を添えんとするものである(明細書第1ペー 。』ジ19行〜第2ページ6行 。)c 『且つ,水は,常時強制送水が行われているので,前記送水パイプ10・送水パイプ11 .の送水方向に流出され,各々の槽体内で所定方向に環流するものである。流水槽1の環流にお盆を浮かべ,皿等に盛った適宜の食品を御盆に載置して顧客の面前に運び,顧客は,好みに応じてこれを取り上げて食卓上にうつし食する事が出来る。且つ,面前における水槽に回遊する鑑賞魚をながめつゝ一時の風趣を覚えながら,飲食を楽しむ事が出来るものである(明細書。』第4ページ第2行〜第11行 。)d.第1,2図には,鑑賞魚水槽8の周囲に流水槽1が配置されている点が図示されている。
これら記載事項及び図示内容を総合し,本願発明の記載ぶりに則って整理すると,引用例1には,次の発明(以下 「引用発明」という )が記載されている (判決注・審決は,引用例 ,。。
1記載の発明につき「引用発明」との略称の指定をしているところ,原告の取消事由4の主張にかんがみ,本判決におけるこの略称の使用は,審決の説示を引用する部分の範囲に止めることにする )。
『内側に,環流する鑑賞魚水槽を設け,その周囲に,浮揚性のお盆が回遊される環状の流水槽を配置した食品搬送装置」。』イ引用例2「e 『本考案は叙上の如く,駆動体(17)により走行せしめられる走行体(1)には陳列 .物を載置すべき適宜数の載置小体(2 (2・・・・・を,該走行体(1)の走行方向Aに ))’対し略直角方向B-B’に回動自在なるよう枢着し,該小体(2 (2・・・・・には案内 ))’軌条(3)を連係せしめて走行自在とし,該案内軌条(3)は上下方向に曲成せしめて,載置小体(2 (2・・・・・の走行時に該小体を前記の直角方向B-B’に揺動せしめるよう ))’にしたので,同小体(2 (2・・・・・は単に移動するだけでなくその走行方向に対して ))’首振り状態となり,従ってそれに載置された貴金属等の陳列物の反射光線の角度が変化するため注意を引いて陳列による広告目的に貢献出来ると共に陳列物を多角方向よりみることが出来る(明細書第5頁第6ないし第20行目 。 。』 ),, 。」 と記載されており 陳列物を 揺動する載置小体に載置し走行させる装置が開示されているウ引用例3,4「引用例3・・・には,f 『本発明は料理等の自動運搬装置,殊に循環する水路上に浮かんだ荷船を使用する装置に .関するものである(第1頁右欄第15行ないし第17行) 。』g 『調理場6においては制御器9によりその客室前にあるストッパー7を実線の閉の状態に .作動して荷船8を停止させると,その客室4における客が料理を取り込む(第2ページ右上 。』欄第3行ないし第6行 。)と,記載されており ・・・引用例4・・・には, ,h 『即ち調理場(10)において客よりの注文の飲食物を小舟(12)に載置して第1水路 .又は第3水路に遊浮させた後該客の客室の前面に配置した上記停止装置を作動せしめれば小舟(12)は・・・ 略 ・・・停止板(24)によって進路を阻まれ該客室前面において停止す ()る(第2ページ右上欄第16行ないし第20行 。 。』 )と記載されている 」。
( )本願発明と引用発明との対比 2「 , ,『』 , 本願発明と引用発明とを対比すると その構造または機能からみて 引用発明の 内側 は『』,,『』 『』 ,『』 本願発明の 中央部 に相当し 以下同様に浮揚性のお盆 は 搬送トレイ に流水槽は『回流水路』に 『食品搬送装置』は『料理飲食物の搬送給仕装置』にそれぞれ相当する。 ,そして,引用発明の鑑賞魚と本願発明の展示品とは,いずれも観賞の対象となる展示物である点で共通し,引用発明の『環流する鑑賞魚水槽』と,本願発明の『展示品を載置して所定の作動をする展示品移動基台を並列して巡回する展示品巡回展示搬送路』とは『展示物循環路』である点で共通している。
そこで,本願発明の用語を用いて表現すると,『中央部(内側)に,展示物循環路を設け,その周囲(外周)に,搬送トレイ(浮揚性のお盆)を浮上させて流送可能に構成した回流水路(流水槽)を配置したことを特徴とする料理飲食物の搬送給仕装置(食品搬送装置 』である点で一致しており,次の点で相違する(対応す )る引用例記載の用語を()内に示す 。)(相違点1)『展示物循環路』について,本願発明は『展示品を載置して所定の作動をする展示品移動基台を並列して巡回する展示品巡回展示搬送路』であるのに対し,引用発明は『環流する鑑賞魚水槽』である点。
(相違点2)本願発明は『所定箇所に調理室において操作可能なストッパー機構が設定』されているのに対し,引用発明はそのような構成になっていない点 」。
( )相違点についての判断3「上記相違点について検討する。
(相違点1について)引用発明は 『鑑賞魚をながめつゝ一時の風趣を覚えながら,飲食を楽しむことができる』 ,よう,中央部に鑑賞魚水槽を設けたものである。そして,美術品等を含む展示品も観賞する対象物として周知のものであることから,飲食をしながらながめる展示物として『鑑賞魚』に代えて『展示品』とすることは当業者であれば適宜なし得る。
そして 『陳列物を,揺動する載置小体に載置し走行させる装置』が引用例2に記載されて ,いることから,展示品を陳列する目的で該装置を引用発明に適用し,本願発明の発明特定事項のようにすることは容易に想到し得えたことである。
(相違点2について)引用例3には,水路上に浮かんだ荷船を用いて料理等を運搬する自動運搬装置において,調理場6から制御器9によりストッパー7を操作させる構成が記載されている。
また,引用例4には,調理場10において,客よりの注文の飲食物を小舟12に載置して第1水路又は第3水路に遊浮させた後該客の客室の前面に配置した上記停止装置を作動せしめる構成が記載されている。
したがって,引用発明の料理飲食物の搬送給仕装置においても,引用例3,4に記載されているように調理室において操作可能なストッパー機構を適用し,本願発明の発明特定事項のようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。
そして,本願発明による効果も,引用発明及び引用例2ないし4に記載されたものから当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえない 」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点審決は,相違点についての判断を誤り(取消事由1,2 ,また,拒絶理由通知 )欠缺の違法(取消事由3)及び判断遺脱・理由不備の違法(取消事由4)があるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点1,2についての判断に共通の誤り)( )審決は,引用例1記載の発明をいわゆる主引用例とし,本願発明と引用例11記載の発明との相違点1については,引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とを組み合わせ,また,同相違点2については,引用例1記載の発明と引用例3,4記載の発明とを組み合わせて,それぞれ,当業者が各相違点に係る本願発明の発明特定事項のようにすることは容易に想到し得たことであると判断した。
しかしながら,引用例1記載の発明と,副引用例とされた引用例2〜4記載の各発明とでは,組合せの動機付けとなるべき技術的な関連性が希薄であり,引用例2〜4記載の各発明を引用例1記載の発明と組み合わせる動機付けは乏しいというべきである。
すなわち,引用例1記載の発明は,観賞魚水槽が流水槽の水位より高い位置にあるため,送水・排水管を分岐し,一方は流水槽に,他方は観賞魚水槽に連通させることにより,各々の水位を保つための構成が主眼となっており,副次的に飲食に風(,「」,「」 雅を添えるものである なお 引用例1は 鑑賞魚 との用語を用いるが鑑賞は芸術作品をよく理解してその良さを味わうこと 「観賞」は動植物の美しさを見 ,て味わい楽しむことを意味するから,引用例1記載の発明においては 「観賞魚」 ,の文字を当てることが正しい。。)これに対し,引用例2記載の発明は,ショーウインドウ等の陳列装置であり,引用例1記載の発明と引用例2記載の発明との間には,これらを組み合わせる動機付けとなるべき「技術分野の関連性「課題の共通性「作用機能の共通性」が存 」,」,在しないといわざるを得ない。
また,引用例3記載の発明は 「料理等の自動運搬装置」であり,引用例1記載 ,の発明が,顧客が回流してくる食品を勝手に取り上げるセルフサービスを前提としているに対し,引用例3記載の発明は,特定の顧客の許に特定の食品を搬送するコ,,, ントロールを主眼とするものであって 引用例1記載の発明と 技術目的が異なり技術的関連性を見出す余地はない。
引用例4記載の発明は 「水路により料理等を客室に運搬する装置」であり,引 ,,, 用例3記載の発明と技術目的を同じくするものであって 引用例1記載の発明とは技術的関連性,共通性を見出し得ない。
( )被告は,引用例1記載の発明の鑑賞のための装置と引用例2記載の装置は, 2いずれも顧客に対し展示物を見せるための装置である点において,同一の技術分野に属すると主張するが,技術分野を画する基準を目的に転換し,さらに,その目的を最大限の上位概念に抽象化して技術分野の同一性を主張するものであって,誤りである。例えば,ショーウインドウも,映画のスクリーンも,演劇の舞台も,顧客に対して展示物を見せるための装置であることに相違はないが,技術環境としても技術内容としても全く異なるのであって,同一の技術分野に属するということはできない。顧客に対して展示物を見せるための装置であることは,技術分野を画する基準とはなり得ないのである。
また,被告は,引用例3,4記載の各発明は,顧客の許に食品を搬送する装置である点で同一の技術分野に属していると主張するが,この主張も,技術環境の相違を無視するものであって,誤りといわざるを得ない。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)( )審決は,本願発明と引用例1記載の発明との相違点1について,まず 「美1 ,術品等を含む展示品も観賞する対象物として周知のものであることから,飲食をしながらながめる展示物として『鑑賞魚』に代えて『展示品』とすることは当業者であれば適宜なし得る 」と判断した。 。
確かに,観賞魚と展示品とは,観賞の対象となるものという点では一致する。しかし,本願発明のように飲食店の店内で展示品を巡回展示させる場合には,様々な展示物の中から何を選び出して顧客に観賞させるかによって,店の雰囲気,イメージが決定付けられるのであって,それが顧客吸引力に直結し,この点に各飲食店の創造力が求められるのである。
そして,美術品等を含む展示品は,観賞する対象物としては周知のものであるとしても,観賞の場や雰囲気が観賞魚とは全く異なるものである。飲食しながらながめる展示物として,観賞魚は,古くから金魚鉢や活魚料理店の店内水槽等で見られるものであるのに対し,本願発明における「美術工芸品等の展示品」は,本来床の間等に単品で飾られ,あるいは専門の美術館でなければ観賞できないものであるから,両者の間には質的な相違があり,どちらを展示するかによって演出効果が異なることは明らかである。
なお,この点につき,被告は,本願発明の「展示品」との規定を美術工芸品等に限定した誤りがあると主張するが,特許請求の範囲に記載された用語の意義は明細(), 書の記載及び図面を考慮して解釈されるべきものであるから 特許法70条2項特許請求の範囲に 「展示品」と記載されているとの理由により,本願発明におけ ,る展示品は無限定であり,何を展示するかは本願発明を特徴付けるものではないとの被告の主張は失当である。
さらに,観賞魚は,水槽に入れて観賞するものであるが,本願発明の展示品は,。 , コンベアー環状経路を用いて展示するものである 水槽とコンベアー環状経路とは外形的にも,技術構成においても,全く異なるものである。展示品を巡回展示しようとする場合には,その観賞設備を案出する必要があるのであって,この点を考慮せず,単に展示物の種類のみを代えれば足りるというものではない。このように,本願発明と引用例1記載の発明とでは,技術分野が異なるのである。
したがって,審決の上記判断は誤りである。
( )次に,審決は,上記相違点1につき 「 陳列物を,揺動する載置小体に載置2 ,『し走行させる装置』が引用例2に記載されていることから,展示品を陳列する目的で該装置を引用発明に適用し,本願発明の発明特定事項のようにすることは容易に想到し得えたことである 」と判断した。 。
しかしながら,引用例2記載の発明は,ショーウインドウの陳列装置で,しかも消費者の購買意欲を高めるため商品を回動させるものであるのに対し,本願発明は飲食店内で,店内の雰囲気を盛り上げ,飲食客の観賞の用に供するために展示品を巡回させるものである。本願発明と引用例2記載の発明とは,目的や課題・機能が全く異なるものであって,引用例2記載の発明を引用例1記載の発明に適用し,本願発明の発明特定事項のようにすることは,当業者であっても容易に想到し得るものではない。
したがって,審決の上記判断も誤りである。
( )また,審決は 「本願発明による効果も,引用発明及び引用例2ないし4に3 ,記載されたものから当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえない 」と判断した。。
しかしながら,本願発明は,回流水路に浮かべた搬送トレイによる料理飲食物の提供と,巡回搬送路上での展示品の観賞を結びつけた点にその特徴があり,この組合せにより,飲食環境に独創的で優雅な高級感が生ずるものである。引用例1〜4には,本願発明のように美術品等の展示と料理の賞味とを組み合わせたものは開示されていない。上記( )のとおり,展示物の選択はまさに創造の対象とされるべき1, , ものであり 何を選択するかによって店内の雰囲気が大幅に変わる点も考慮すれば本願発明の効果は,格別顕著なものということができる。したがって,審決にはこの点を看過した違法がある。
3取消事由3(拒絶理由通知の欠缺)本件特許出願に対する拒絶査定(甲第6号証)は,本件特許出願を「平成16年6月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶すべきである」としたものであるところ,同拒絶理由通知書(甲第7号証)に記載された拒絶理由は,引用例1〜4のほか,実願昭52-051500号(実開昭53-148002号)のマイクロフィルム(引用例5 ,実公昭33-018152号公報(引用例6) )及び特開平11-313747号公報(引用例7)を引用し,請求項1〜5に係る発明は引用例1〜7記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたから特許法29条2項により特許を受けることができず,また,請求項3に係る発明は特許法36条6項2号の要件を満たしていないというものであり,他に,拒絶理由の通知はなかった。
これに対し,審決は 「本願発明は引用発明及び引用例2〜4に記載された発明 ,」,「」 に基づいて当業者が容易に発明できた と判断したものであるが 当該 引用発明は,引用例1〜4記載の各発明から,本願発明に関係する部分を抜き出して寄せ集めたものであり,本願発明の背景技術や従来技術から審判官が新たに形成した心証, , であるから これとの対比を本願発明の進歩性欠如の理由とした審決の判断経緯は拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に該当するというべきである。したがって,審判体は,特許法159条2項,50条に従って,新たな拒絶理由通知をなすべきであったのに,それを行わず審決をしたものであるから,拒絶理由通知の欠缺の違法がある。
4取消事由4(判断の遺脱)( )本件審判請求は,本件特許出願に係る請求項1〜5にそれぞれ記載された発1明全部について行われたにもかかわらず,審決は,請求項2に記載された発明(本願発明)についてのみ判断し,請求項1,3〜5に記載された各発明については全く判断しないで,審判請求が成り立たないとの審決をしたものであるから,請求項1,3〜5記載の各発明に対する判断を遺脱したものであり,特許法157条2項4号に違背する理由不備の違法がある。
なお,この点につき,同法49条は,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが同法29条等の規定に基づき,特許をすることができないものであるときは,そのとき出願全体を拒絶すべきことを規定したものであると解する裁判例(東京高裁平成14年1月31日判決・判時1804号108頁)があるが,そのような解釈は誤りである。
すなわち,上記裁判例は,上記のような解釈の根拠として,平成15年法律第47号による廃止前の特許法113条本文,特許法123条1項本文には,異議申立てあるいは無効審判請求を請求項ごとにすることができることが規定されているのに,同法49条にはその旨の規定が存在しない上,同条及び同法51条には,上記廃止前の特許法113条本文,特許法123条1項本文と対照的に,特許査定あるいは拒絶査定をするということが明記されていることを挙げる。しかしながら,同法51条,49条における,特許査定あるいは拒絶査定をする理由は,拒絶理由を発見できないとき,あるいは法定の拒絶理由が存在するときとされており,特許査定あるいは拒絶査定をするのが当然と思われる事項しか記載されていない。特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが特許できないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきであるとするような規定は存在しない。特許法49条には,その制度的理由として,大量の特許出願について迅速な処理をすべき要請があるなどということも,全く規定されていない。
特許法が一つの出願によって複数の発明を出願することを認め,拒絶査定に対して再度の審査を受ける機会を与えている以上,特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが特許できないものであることは,同一出願による他の発明について再度の審査を受ける機会を剥奪する根拠とはなり得ないものである。さらに,同一特許出願による他の発明についての瑕疵により,本来特許されるべき発明が,審決で判断を受けることなく拒絶されるとすれば,審決で判断を受けていないために,審決取消訴訟における判断を受けることもできない。これは,法律によって保障された裁判を受ける権利を一方的に剥奪するもので,憲法32条に違反するものである。
また,上記裁判例は,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明の一つが特許できないものである場合に,その他の請求項に係る発明について,特許付与を受ける機会が奪われる出願人の不利益につき,拒絶理由通知の制度及び同通知の前後所定期間内に補正又は分割出願による対応が可能であるので,上記不利益に対する制度的担保は十分であるとしている。しかしながら,本来的に瑕疵のある発明が補正又は分割出願によって受ける救済と,審判の段階で,本来特許されるべき発明が,他の請求項に係る発明の瑕疵によって,判断を受けることなく拒絶される不利益とは,本質が異なるものといわざるを得ない。加えて,審判段階における拒絶理由通知は,査定の理由と異なる拒絶理由を発見した場合に限定してなされるものであるから(特許法159条2項,50条 ,審判段階においては,実質的に補正, )分割による救済はないというべきである。
さらに,審判請求に要する手数料は,請求項の数に応じて増額されることとされ(,)。,, ている 特許法195条2項 同法別表11の項上記裁判例は この点につき特許がされる場合にすべての請求項について審理・判断がされることに対応するものであるとするが,一つの発明に瑕疵を発見した場合には,他の発明について審理・判断せずに手数料だけを取るのであれば,審判請求人に対し一方的に賦役を課しているものといわざるを得ない。審判請求人は,複数の請求項全部について特許されるべきであるとして,請求項の数だけ手数料を支払っているのであるから,その対価性を否定して手数料を没収することは法律の根拠がなければできないはずである。
( )被告は,複数の請求項に係る出願は,その中の1つの請求項について拒絶す2べき事由があれば,他の請求項が特許すべきものであっても,全体を拒絶すべきものと主張する。
しかしながら,特許法49条各号に規定する拒絶事由は発明に関するものであるから,出願されている発明のうち1つでも拒絶の理由を発見できないときは,その発明についての出願について拒絶の理由を発見できないときに当たり,その出願については特許されるものと解すべきである。
また,被告は,特許無効の審判についての「二以上の請求項に係るものについて, 。」(), は 請求項ごとに請求することができる特許法123条1項本文 との規定と同法49条,51条の「特許出願について」との規定を対比すれば,同法が,拒絶査定か特許査定は,一つの特許出願についてなすべきことを規定していることは明白であると主張するが,無効審判について 「二以上の請求項に係るものについて ,は,請求項ごとに請求することができる」旨規定されている以上,不服審判についても同様に解すべきである。
第4被告の反論の要点1取消事由1(相違点1,2についての判断に共通の誤り)に対し原告は,引用例1記載の発明と引用例2〜4記載の各発明とでは,組合せの動機付けとなるべき技術的な関連性が希薄であり,引用例2〜4記載の各発明を引用例1記載の発明と組み合わせる動機付けは乏しいと主張するが,以下のとおり失当である。
すなわち,引用例1記載の発明は,内側に環流する鑑賞魚水槽を設けた食品搬送装置であり,顧客は面前における水槽に回遊する鑑賞魚をながめつつ,一時の風趣を覚えながら,飲食を楽しむことができるものであるから,食品搬送装置に,鑑賞のための装置を組み合わせたものということができる。
また,引用例2には,陳列物を揺動する載置小体に載置し走行させる装置が記載されている。
そして,引用例1記載の発明の鑑賞のための装置と引用例2記載の装置は,いずれも顧客に対し展示物を見せるための装置である点において,同一の技術分野に属する装置であることは明らかである。
他方,和食店が書画,骨董を展示したり,中華料理店,西洋料理店が関連する絵画,工芸品等を展示するなど,飲食店が,店内の雰囲気作りのために,絵画,陶磁器等の「展示品」を展示することは,従来より普通に行われてきたことであり,したがって,飲食店において飲食をしながらながめることができる展示物としては,引用例1記載の発明に係る「鑑賞魚」に限らず,絵画,陶磁器等の「展示品」が従来より周知であったということができる。
そうすると,引用例1記載の発明において,展示物として,鑑賞魚に代えて,上記のような「展示品」を採用することは当業者であれば適宜なし得ることであり,その際 「展示品」を見せるための装置として 「展示品」の特性にあわせて引用例 , ,2に記載された装置を適用することは容易に想到し得ることである。
次に,引用例1記載の発明及び引用例3,4記載の各発明は,顧客の許に食品を搬送する装置である点で同一の技術分野に属している。そして,引用例1記載の発明においても,顧客が食品を食卓に取り上げるに際して,食品が顧客の許で止まっている方が便利であることは当業者にとって自明であるので,引用例1記載の発明に,引用例3,4に記載されているようなストッパー機構を適用する動機付けがあることは明らかである。
したがって,引用例1記載の発明に,引用例3,4に記載の,調理室において操作可能なストッパー機構を適用することは当業者が容易に想到し得たことにすぎない。
以上のとおり,原告の上記主張は失当である。
2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対し( )原告は,相違点1につき 「美術品等を含む展示品も観賞する対象物として1 ,周知のものであることから,飲食をしながらながめる展示物として『鑑賞魚』に代えて『展示品』とすることは当業者であれば適宜なし得る「 陳列物を,揺動 。」,『する載置小体に載置し走行させる装置』が引用例2に記載されていることから,展示品を陳列する目的で該装置を引用発明に適用し,本願発明の発明特定事項のようにすることは容易に想到し得えたことである 」とした審決の判断が誤りであると 。
主張するが,原告の主張は,本願発明の「展示品」との規定を美術工芸品等に限定し,さらに,上記1のとおり,飲食店において,絵画,陶磁器等の「展示品」を展示することが従来より普通に行われてきたにもかかわらず 「美術工芸品等の展示 ,品」は,本来床の間等に単品で飾られ,あるいは専門の美術館でなければ観賞できず 「観賞魚」との間に質的な相違があるとして,これらの点を前提とするところ ,に誤りがある。
引用例1記載の発明において 展示物として 鑑賞魚に代えて 上記のような 展 ,,,「示品」を採用することは当業者であれば適宜なし得ることであり,その際 「展示 ,品」を見せるための装置として 「展示品」の特性にあわせて引用例2に記載され ,た装置を適用することは容易に想到し得ることは,上記1のとおりである。
( )また,原告は 「本願発明による効果も,引用発明及び引用例2ないし4に2 ,記載されたものから当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえない 」とした審決の判断が誤りであると主張するが,展示物として「鑑賞魚 , 。 」あるいは「展示品」のいずれを選ぶかは店主等が適宜選択し得ることであり,その効果の違いは展示物として何を選ぶかによって予測できる範囲のものといえるので,展示物を「展示品」とした点に顕著な作用効果があるとはいえない。
3取消事由3(拒絶理由通知の欠缺)に対し原告は,審決の「本願発明は引用発明及び引用例2〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できた」との判断に係る「引用発明」は,引用例1〜4記載の各発明から,本願発明に関係する部分を抜き出して寄せ集めたものであり,本願発明の背景技術や従来技術から審判官が新たに形成した心証であるから,これとの対比を本願発明の進歩性欠如の理由とした審決の判断経緯は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に該当し,新たな拒絶理由通知をなすべきであったのに,それを行わず審決をしたものであるから,拒絶理由通知の欠缺の違法があると主張する。
しかしながら,審決が認定した引用発明は「引用例1〜4記載の各発明から,本願発明に関係する部分を抜き出して寄せ集めたもの」ではなく,引用例1に記載された発明であるから,原告の主張は前提において誤っている。
4取消事由4(判断の遺脱)に対し原告は,請求項2に記載された発明(本願発明)についてのみ判断し,審判請求が成り立たないとした審決は,請求項1,3〜5記載の各発明に対する判断を遺脱, 。 したもので 特許法157条2項4号に違背する理由不備の違法があると主張する,,,,, しかしながら 特許法49条 51条により 同法は 一つの特許出願について拒絶査定か特許査定のいずれかの行政処分をなすべきことを規定しているということができる。そして,この点は,昭和62年法律第27号により,一つの特許出願において複数の発明を複数の請求項に記載することができるとの改正がなされたときにも,何ら変更されておらず,また,同法185条が「請求項ごとに特許がなされ,又は特許権があるものとみなす」べき場合として掲げているものの中に,同法49条,51条が含まれていないことのほか,特許法その他の法令中に,特許査定又は拒絶査定が請求項ごとになされるべきであると解する根拠となる規定は見出せない。むしろ,特許法が,特許無効の審判について 「二以上の請求項に係るもの ,については,請求項ごとに請求することができる(123条1項本文)と規定し 。」,,「」, ていることと 同法49条 51条の 特許出願について との規定を対比すれば同法が,拒絶査定か特許査定は,一つの特許出願についてなすべきことを規定していることは明白である。
本件においては,本願発明(請求項2記載の発明)が,特許法29条2項により特許を受けることができない発明であるから 本件出願は同法49条2号にいう そ , 「の特許出願に係る発明が・・・第二十9条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき」に該当するというべきであり,したがって,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願を全体として拒絶すべき旨の査定をしなければならない。
したがって,審決に原告主張の違法はない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点1,2についての判断に共通の誤り)について( )原告は,引用例1記載の発明と引用例2〜4記載の各発明とでは,組合せの1動機付けとなるべき技術的な関連性が希薄であり,引用例2〜4記載の各発明を引用例1記載の発明と組み合わせる動機付けは乏しいと主張するので,以下,順次検討する。
( )引用例1には,下記記載がある。
2ア「本考案は,環状の流水槽の外周に食卓を,内側には鑑賞魚水槽が併設され,流水槽の流水には水に浮揚性のお盆が連続的に回遊され,該御盆上には各種の食品が載置され,顧客は,所望の食品を食卓に取り上げてこれを食し得るようにされ,且つ,面前においては,水槽に回遊する鑑賞魚を鑑賞し,食事時に,一時の風趣を添えんとするものである(1頁19行〜2 。」頁6行)イ「本考案による具体例を図面により説明すれば,1は,基台2に水平に設置された環状の流水槽で,該流水槽1の外周には環状の食卓3が前記流水槽1を囲撓するように配置され,流水槽1の水面には,水に浮揚性の御盆4が複数個回遊される。流水槽1の内周壁5の外側に接し,流水槽1の水位6よりやゝ高い水位7が形成出来るようにした鑑賞魚水槽8が環状に併設され,鑑賞魚が放魚される。送水パイプ9が分岐された下位送水パイプ10は流水槽1に,上位送水パイプ11は鑑賞魚水槽8に連通される。貯水槽(図示省略)に連らなる排水パイプ12は分岐された下位排水パイプ13は流水槽1の所望水位6付近に,上位排水パイプ14は鑑賞魚水槽8の所望水位7付近に連通される。下位送水パイプ10および,上位送水パイプ11のパイプ口の方向が決められ,所望の環流方向が決定する。即ち,流水の右環流・左環流が決められる(2頁15行〜3頁12行) 。」上記各記載及び第1,第2図によれば,審決の認定したとおり,引用例1には,「内側に,環流する鑑賞魚水槽を設け,その周囲に,浮揚性のお盆が回遊される環状の流水槽を配置した食品搬送装置 」の発明が記載されており,この発明は,顧 。
客が飲食しながら水槽内を回遊する鑑賞魚を鑑賞できるようにし,食事に一時の風趣を添えようとしたものであると認められる(原告は,引用例1記載の発明については「観賞魚」の文字を当てることが正しいと主張するが,以下では,引用例1の用語に従い 「鑑賞魚」という。,。)( )他方,引用例2には,下記記載がある。
3ア「駆動体により走行せしめられる走行体には陳列物を載置すべき適宜数の載置小体を,該走行体の走行方向に対し略直角方向に回動自在なるよう枢着すると共に,該小体には案内軌条を連係せしめて走行自在とし,該案内軌条は上下方向に曲成せしめて,載置小体の走行時に該小体を前記の直角方向に傾動せしめるようにしたシヨーウインドー等の陳列装置(実用新案。」登録請求の範囲)イ「本考案は陳列した時計,宝石,その他の貴金属等の陳列物に動的変化をもたせることにより看者の注意を喚起せしめると共に装飾効果をも高めるようにしたシヨーウインドー等の陳列装置に関する。これを図示の実施例に基づき詳記すれば,チエン等の走行体( )を介して1環状に連設したコ字状の載置小体( )( )′・・・・・を,該走行体( )の走行によりシヨーウ 22 1インドーWの内側を矢印A方向に回動するようになし,このとき当該小体( )( )′・・・・・ 22が案内軌条( )に沿つて走行することにより矢印B-B′方向に首振り状態に揺動するように3したものである(1頁14行〜2頁7行) 。」ウ「本考案は叙上の如く,駆動体()により走行せしめられる走行体( )には陳列物を載置17 1すべき適宜数の載置小体( )( )′・・・・・を,該走行体( )の走行方向Aに対し略直角方向 22 1B-B′に回動自在なるよう枢着し,該小体( )( )′・・・・・には案内軌条( )を連係せし 22 3めて走行自在とし,該案内軌条( )は上下方向に曲成せしめて,載置小体( )( )′・・・・・ 3 22の走行時に該小体を前記の直角方向B-B’に揺動せしめるようにしたので,同小体( )( )′ 22・・・・・は単に移動するだけでなくその走行方向に対して首振り状態となり,従ってそれに載置された貴金属等の陳列物の反射光線の角度が変化するため注意を引いて陳列による広告目的に貢献出来ると共に陳列物を多角方向よりみることが出来る。又載置小体( )( )′・・・・22・を図示の如く環状に回動せしめれば一定位置で陳列物の前面だけでなく全外面を見ることもできる(5頁6行〜6頁2行) 。」上記各記載及び第1図によれば,引用例2には,陳列物を載置する載置小体を環状に走行させる技術が開示されているものと認められる。
( )ところで,飲食店の店内に絵画,写真,書,陶磁器,人形等の美術工芸品そ4の他の展示品を展示し,店内の雰囲気作りに役立たしめるとともに,顧客が飲食しながらこれらの展示品の鑑賞をできるようにし,その食事に一時の風趣を添えようとすることは,本件特許出願時(平成12年11月16日)以前から,各種の飲食店において極めて広く行われてきたところであるから,このような,顧客が飲食しながら鑑賞をすることのできる展示物を展示するという手段自体はもとより,その,, , 場合に 展示物として 上記のような美術工芸品その他の展示品を展示することも本件特許出願時において,飲食店の店主のみならず,飲食物の搬送給仕装置の技術分野に係る当業者にとっても,周知であったということができる。
しかるところ,引用例1記載の発明が,顧客が飲食しながら水槽内を回遊する鑑, , 賞魚を鑑賞できるようにし 食事に一時の風趣を添えようとしたものであることは上記( )のとおりであり,この場合の鑑賞魚も,顧客の鑑賞に供する展示物という2ことができる(引用例1記載の発明については「観賞魚」の文字を当てるべきであるとする原告の主張に従っても,対象物を見て,その美しさ等を楽しみ味わう点においては,展示品の鑑賞と変わるところはない。そうすると,引用例1記載の発 。)明において,顧客が飲食しながら鑑賞することのできる展示物として,鑑賞魚に限らず,上記のとおり,そのような展示物として周知の美術工芸品その他の展示品を選択し,これを周回させることも,当業者が適宜なし得るところである。そして,その際に 「回遊する鑑賞魚」と「周回する展示品」という各展示物の特性の相違 ,に対応して,展示物を展示するための装置につき,引用例2に開示された,陳列物を載置する載置小体を環状に走行させる技術を適用し,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当業者にとって容易であるといわざるを得ない。
原告は,引用例1記載の発明の鑑賞のための装置と引用例2記載の装置とは技術分野が異なり,これらを組み合わせる動機付けがないと主張する。確かに,引用例1記載の発明である「食品搬送装置」と,引用例2に記載された「シヨーウインドー等の陳列装置」とでは,それ自体としては同一技術分野に属するとまでいうことはできないが,上記のとおり,引用例2から適用するのは 「陳列物を載置する載 ,置小体を環状に走行させる技術」であるところ,このような載置物を載置して環状に走行させるような技術は 「シヨーウインドー等の陳列装置」に限らず,様々な ,技術分野において用いられるいわば汎用的な技術であるから,引用例1記載の発明,「」 , に係る当業者が周回する展示品 を展示するための装置を設計するに当たって載置物を載置して環状に走行させる各種の技術を参照することは,十分な動機付けがあるというべきである。
したがって,相違点1につき 「引用発明は 『鑑賞魚をながめつゝ一時の風趣を ,,覚えながら,飲食を楽しむことができる』よう,中央部に鑑賞魚水槽を設けたものである。そして,美術品等を含む展示品も観賞する対象物として周知のものであることから,飲食をしながらながめる展示物として『鑑賞魚』に代えて『展示品』とすることは当業者であれば適宜なし得る。そして 『陳列物を,揺動する載置小 ,体に載置し走行させる装置』が引用例2に記載されていることから,展示品を陳列する目的で該装置を引用発明に適用し,本願発明の発明特定事項のようにすることは容易に想到し得えたことである 」とした審決の判断に誤りはなく,原告の上記 。
主張を採用することはできない。
( )また,引用例3には 「本発明は料理等の自動運搬装置,殊に循環する水路5 ,。」(), 上に浮んだ荷船を使用する装置に関するものである1頁右欄下から6〜4行「調理場6においては制御器9によりその客室前にあるストツパー7を実線の閉の, 。」 状態に作動して荷船8を停止させると その客室4における客が料理を取り込む(2頁右上欄3〜6行)との各記載があり,引用例4には 「本発明は割烹料理そ ,の他の飲食店において客室又は客席の前に水路を設けその水上に料理等を載せた小舟を回遊させて注文された料理を提供する装置に係・・・るものである(1頁右。」欄4〜9行「即ち調理場()において客よりの注文の飲食物を小舟()に載置し ),10 12て第1水路又は第3水路に遊浮させた後該客の客室の前面に配置した上記停止装置を作動せしめれば小舟()は扇揚された停止板()によって進路を阻まれ該客室前1224面において停止する(2頁右上欄16〜20行)との各記載がある。 。」これらの記載によれば,引用例3,4には,いずれも水路上に浮かべた船に飲食,, , 物を載置し 移動させて 顧客の許に飲食物を運搬する装置に関する発明において調理場で操作するストッパー機構により,水路上を移動する上記船を客室の前面等で停止させる技術が記載されているものと認められる。そして,引用例1記載の発明における「浮揚性のお盆」も,飲食物を載置して水路上を移動するものであり,引用例3,4記載の上記技術は,水路上に浮遊するものに飲食物を載置して水路上を移動させる点において引用発明と一致するものであるから,上記の停止技術を引用発明に適用することには,十分な動機付けがあるものというべきであり,したがって,当業者が,引用例1記載の発明に引用例3,4記載の上記技術を適用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者にとって容易であるといわざるを得ない。
原告は,引用例1記載の発明が,顧客が回流してくる食品を勝手に取り上げるセルフサービスを前提としているに対し,引用例3,4記載の発明は,特定の顧客の許に特定の食品を搬送するコントロールを主眼とするものであって,引用例1記載の発明と,技術目的が異なり,技術的関連性を見出す余地はないと主張するが,上記のとおりであるから,当該主張を採用することはできない。
( )したがって,上記( )の原告の主張は失当である。
612取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について( )審決が,相違点1について 「美術品等を含む展示品も観賞する対象物とし1 ,て周知のものであることから,飲食をしながらながめる展示物として『鑑賞魚』に代えて『展示品』とすることは当業者であれば適宜なし得る 」とした判断に誤り 。
がないことは,上記1の( )のとおりである。
4原告は,飲食しながらながめる展示物として,観賞魚は,古くから金魚鉢や活魚料理店の店内水槽等で見られるものであるのに対し,本願発明における「美術工芸品等の展示品」は,本来床の間等に単品で飾られ,あるいは専門の美術館でなければ観賞できないものであるから,両者の間には質的な相違があり,どちらを展示するかによって演出効果が異なると主張するが,飲食店の店内に絵画,写真,書,陶磁器,人形等の美術工芸品その他の展示品を展示し,顧客が飲食しながらこれらの展示品を鑑賞できるようにすることが,本件特許出願時以前から,各種の飲食店において極めて広く行われてきたことも上記1の( )のとおりであるから,上記主張4は失当である。なお,原告の主張が,本願発明の「展示品」を「本来床の間等に単品で飾られ,あるいは専門の美術館でなければ観賞できないもの」に限定する趣旨であれば,本願発明の要旨に基づかない主張といわざるを得ない。原告は,特許法70条2項を引用して,特許請求の範囲に記載された用語の意義は明細書の記載及び図面を考慮して解釈されるべきものであるとも主張するが,同項は,特許発明の技術的範囲の解釈に関する規定であるから,同項により,本願発明の要旨の「展示品」の技術的意義を限定し得るものでないことは明らかである。
また,原告は,展示品を巡回展示しようとする場合には,その観賞設備を案出する必要があるのであって,この点を考慮せず,単に展示物の種類のみを代えれば足りるというものではないと主張するところ,そのこと自体はそのとおりであるが,引用例1記載の発明に,引用例2に開示された,陳列物を載置する載置小体を環状に走行させる技術を適用し,相違点1に係る本願発明の構成(展示品を載置して所定の作動をする展示品移動基台を並列して巡回する展示品巡回展示搬送路の構成)とすることが,当業者にとって容易であることも上記1の( )のとおりである。な4お,原告は,本願発明と引用例1記載の発明とでは技術分野が異なるとも主張する,, 「() , が 審決の認定のとおり 本願発明と引用例1記載の発明とは 中央部 内側 に展示物循環路を設け,その周囲(外周)に,搬送トレイ(浮揚性のお盆)を浮上させて流送可能に構成した回流水路(流水槽)を配置したことを特徴とする料理飲食物の搬送給仕装置(食品搬送装置 」である点で一致するものであり,技術分野が )異なるとはいえない。
( )原告は,審決が,相違点1につき 「 陳列物を,揺動する載置小体に載置し2 ,『走行させる装置』が引用例2に記載されていることから,展示品を陳列する目的で該装置を引用発明に適用し,本願発明の発明特定事項のようにすることは容易に想到し得えたことである 」とした判断が誤りであると主張するが,審決の上記判断 。
に誤りがないことは,上記1の( )のとおりである。
4( )原告は,本願発明は,回流水路に浮かべた搬送トレイによる料理飲食物の提 3供と,巡回搬送路上での展示品の観賞を結びつけたことにより,飲食環境に独創的で優雅な高級感が生ずるという効果を生ずるもので,何を選択するかによって店内の雰囲気が大幅に変わる点も考慮すれば,本願発明の効果は格別顕著なものであるから,審決が「本願発明による効果も,引用発明及び引用例2ないし4に記載されたものから当業者が予測し得た程度のものであって,格別のものとはいえない 」。
とした判断は誤りであると主張する。
しかしながら,上記1の( )のとおり,顧客が飲食しながら鑑賞をすることので4きる展示物を展示するという手段自体や,その場合に,展示物として,美術工芸品その他の展示品を展示することが,本件特許出願時において,飲食物の搬送給仕装置の技術分野に係る当業者にとっても,周知であったのであるから,引用例1記載の発明における顧客が飲食しながら鑑賞をすることのできる展示物を展示品に置き換え,巡回搬送路によって周回させることによって奏する効果は,当業者が予測し得た程度のものであるといわざるを得ず,審決の上記判断に誤りはない。なお,原告の主張が本願発明の「展示品」につき「飲食環境に独創的で優雅な高級感が生ず」 , , る ものに限定する趣旨であれば 本願発明の要旨に基づかないものであることは上記( )と同様である。
1( )したがって,取消事由2の主張は理由がない。 43取消事由3(拒絶理由通知の欠缺)について原告は,審決の「本願発明は引用発明及び引用例2〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できた」との判断に係る「引用発明」は,引用例1〜4記載の各発明から,本願発明に関係する部分を抜き出して寄せ集めたものであり,本願発明の背景技術や従来技術から審判官が新たに形成した心証であるから,これとの対比を本願発明の進歩性欠如の理由とした審決の判断経緯は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に該当し,新たな拒絶理由通知をなすべきであったのに,それを行わずにした審決には,拒絶理由通知の欠缺の違法があると主張する。
しかしながら,審決の認定した引用発明は 「内側に,環流する鑑賞魚水槽を設 ,,, 。」 け その周囲に 浮揚性のお盆が回遊される環状の流水槽を配置した食品搬送装置というものであるが,上記1の( )のとおり,当該発明は,上記1の( )ア,イで摘2 2記した引用例1の記載及び第1,第2図によって認定することができるのであるから,審決が,引用例1記載の発明として「引用発明」を認定したことに何ら誤りはなく,当該「引用発明」が,引用例1〜4記載の各発明から,本願発明に関係する部分を抜き出して寄せ集めたものであり,本願発明の背景技術や従来技術から審判官が新たに形成した心証であることを前提とした原告の上記主張は,その前提自体が誤りである。
そして,本件特許出願手続において,審査官がした拒絶理由通知(甲第7号証)は,請求項2記載の発明(ただし,平成17年3月22日付け手続補正前のものであって,請求項2は,第2の2の本願発明の要旨の下線部を「巡回搬送路」とするものであった。甲第3号証)につき,引用例1〜4に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものであるから,審決に拒絶理由通知の欠缺の違法がないことは明らかである。
4取消事由4(判断の遺脱)について( )原告は,請求項2に記載された発明(本願発明)についてのみ判断し,審判1請求が成り立たないとした審決は,請求項1,3〜5記載の各発明に対する判断を遺脱したもので,特許法157条2項4号に違背する理由不備の違法があると主張する。
( )しかしながら,拒絶査定に関する特許法49条柱書きが「審査官は,特許出 2願が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない 」と規定し,特許査定に関する同法51条が「審査 。
官は,特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならないと規定していることにかんがみれば 特許法は 1個の 特 。」 ,,「許出願」中に複数の請求項が含まれる場合であっても,請求項ではなく特許出願を, 。 対象として 拒絶査定又は特許査定をなすべきものとしていることは明らかである同法が,請求項ごとに拒絶査定又は特許査定がなされることを全く予定していないことは,例えば,同法185条が「請求項ごとに特許がなされ,又は特許権があるもの」とみなして適用すべき規定を列挙して掲げており,特許無効審判に関する同法123条柱書きが「特許が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合おいて,二以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる 」と規 。
定しており,特許異議の申立てに関する,平成15年法律第47号による廃止前の特許法113条柱書きも「何人も,特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り,特許庁長官に,特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合おいて,二以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる 」と規定していたのに対 。
し,同法185条が掲げる規定中に同法49条,51条は含まれておらず,同法49条又は同法51条につき,同法123条柱書き後段又は廃止前の同法113条柱書き後段に相当する規定が存在しないこと,その他,1個の特許出願中の複数の請求項ごとに拒絶査定又は特許査定がなされるべきことを窺わせる法令の規定は見当たらないことに照らしても明らかなところである。
そして,上記のとおり,柱書きが「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない 」と規定されている同法49条において,2号が「その特許出願に係る発明が 。
。」 ・・・第二十9条・・・の規定により特許をすることができないものであるときと規定していることによれば,複数の請求項が含まれる特許出願中に,同法29条によって特許をすることができない発明に係る請求項が1個でも存在するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならないものと解さざるを得ない。
なお,拒絶査定不服審判における審理の対象は,拒絶査定がされた当該特許出願を特許すべきか否かという点にあり,拒絶査定不服審判においても審査においてした手続が効力を有すること(特許法158条)にかんがみると,以上の説示は,拒絶査定不服審判についても妥当するものである。
そうすると,本件においては,上記1〜3のとおり,本願発明(請求項2記載の発明)は同法29条2項によって特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願に対し拒絶すべき旨の査定をしなければならないことになるので,審決が,他の請求項に係る発明ついて判断することなく,審判請求は成り立たないとしたことに判断遺脱の違法はない。
( )原告は,同一特許出願による他の発明についての瑕疵により,本来特許され3るべき発明が,審決で判断を受けることなく拒絶されるとすれば,審決取消訴訟における判断を受けることもできないから,法律によって保障された裁判を受ける権利を一方的に剥奪するもので,憲法32条に違反するものであると主張するが,上記のとおり,特許法の規定は,特許出願中に同法29条によって特許をすることができない発明に係る請求項があれば,特許出願に対し拒絶査定をすべきもの(又は当該拒絶査定を維持する審決をすべきもの)と解されるのであるから,当該特許出「」, 願中の他の請求項に係る発明は 本来特許されるべき発明 に当たるものではなく上記主張は前提において誤りである。
また,原告は,審判請求に要する手数料は,請求項の数に応じて増額されることとされているところ,一つの発明に瑕疵を発見した場合には,他の発明について審理・判断せずに手数料だけを取るのであれば,審判請求人に対し一方的に賦役を課。,, しているものといわざるを得ないと主張する しかるところ 特許法195条2項同法別表11の項は,審判を請求する者が納付すべき手数料の額は定額部分と請求項の数に比例して増額される部分とから成ることを規定しているのであり,後者の部分の定め方は,審判請求人が,当該審判で主張する利益(審判請求が全部認められることにより,審判請求人に与えられる利益)を手数料の額に反映させたものと認められるが,算定を容易にするために,審判で主張する利益を,請求項の数に換算して規定したものと解することができる。そうであれば,特許出願に対し特許査,, 定がなされるべきことを主張する拒絶査定不服の審判において 手数料額の一部が当該特許出願に含まれる請求項の数に応じた額とされるのは,審判請求人が当該審判で主張する利益(当該特許出願に対し特許査定がされることにより,審判請求人に与えられる利益)が特許出願の全体に及び,計算の便宜上,その利益を当該特許出願に含まれる請求項の数に換算したことによるものであって,審判において全部の請求項について審理・判断をすることの対価として,請求項の数に応じた額とされているものではないというべきであり,原告の上記主張も失当である。
原告は,上記( )の主張に関し,他にも縷々主張するところであるが,畢竟,独1自の見解であって採用することはできない。
5結論以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記