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関連審決 不服2007-34793
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10051審決取消請求事件 判例 意匠
平成21行ケ10083審決取消請求事件 判例 意匠
平成20行ケ10402審決取消請求事件 判例 意匠
平成20ワ5712損害賠償請求事件 判例 意匠
平成18ワ8794不正競争行為差止等請求事件 判例 意匠
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  意匠の類否 /  ありふれた部分 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10401号 審決取消請求事件
原告SMC株式会社
同訴訟代理人弁護士宮寺利幸
同訴訟代理人弁理士千葉剛宏 鹿島直樹 田久保泰夫 大内秀治
被告特許庁長官
同 指定代理 人関口剛樋田敏惠 安達輝幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/05/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2007−34793号事件について平成20年9月17日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文1項と同旨第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの本件意匠登録出願に対する拒絶査定不服審判の請求について特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲1)及び拒絶査定意匠に係る物品:「流体圧シリンダ」意匠の形態:別紙審決書(写し)の「別紙第1」のとおり(以下「本願意匠」という。)出願番号:意願2007-431号出願日:平成19年1月12日拒絶査定:平成19年11月21日付け(2)審判請求手続審判請求日:平成19年12月26日(不服2007-34793号)本件審決日:平成20年9月17日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成20年9月30日2本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本願意匠と引用意匠(その形態は別紙審決書(写し)の「別紙第2」のとおり)と,その両意匠の下記の共通点及び相違点を検討して,本願意匠は,引用意匠と類似するから,意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当し,意匠登録を受けることができない,としたものである。
【共通点】(1)全体が,略四角柱状のシリンダーチューブから構成され,中央にピストンロッドが突出して設けられ,その周囲の凹部にロッドカバーが設けられ,四隅にボルト取付用孔部が形成された基本的な構成態様のものである点,また,その具体的な態様において,(2)シリンダチューブの上面について,断面略矩形状膨出部が突出して形成され,上面には流体圧出入ポートとして孔が二ヶ所形成されている点,(3)シリンダチューブ正面(正面視)について,正面の凹部には下部が開放された形状の細幅の止め輪が嵌め込まれ,止め輪の両端部は略半円状部が内方に向かって形成されている点,(4)ボルト取付用孔部の根本について,四隅のボルト取付用孔部の両脇に略U字状細溝(センサ取付用溝部)が形成されている点(以下,(1)ないし(4)の順に,それぞれ「共通点1」ないし「共通点4」という。)【相違点】(イ)各部の占める割合について,本願の意匠は,上面の断面略矩形状膨出部や四隅のボルト取付用孔部の全体に占める割合が小さいのに対し,引用の意匠は,大きい点,(ロ)左右側面および下面について,本願の意匠は,断面略台形状膨出部が形成されているのに対して,引用の意匠は,対向する一対の略L字状のリブが形成されている点,(ハ)ボルト取付用孔部について,本願の意匠は,ボルト取付用孔部端部が丸みを帯びているのに対して,引用の意匠は,角ばっている点,(ニ)背面部について,本願の意匠は円形状エンドブロックが形成されているのに対して,引用の意匠は不明である点(以下,(イ)ないし(ニ)の順に,それぞれ「相違点イ」ないし「相違点ニ」という。)3取消事由(1)取消事由1(引用意匠の認定の誤り)(2)取消事由2(類否判断の誤り)第3当事者の主張1取消事由1(引用意匠の認定の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件審決は,引用意匠の認定に当たり,前記のとおり,その形態を斜視図のみにより特定しているが,本願意匠の要部はその正面図に顕著に現れているのであるから,斜視図のみによっては,本願意匠と引用意匠とを十分に対比することはできないのであって,引用意匠についての本件審決の認定それ自体が誤りである。
(2)また,斜視図は,必ずしも,意匠の特徴を端的かつ視覚的に表現する目的で作成されたものではなく,意匠を三次元的に表現したものにすぎないから,その形態を斜視図のみにより特定した引用意匠によって対比が可能であるとした本件審決の判断の手法も誤りである。
(3)そもそも,被告は,本願意匠のシリンダチューブ外周面部には曲線を看取することができないなどと主張しているが,この主張自体,斜視図のみにより特定した引用意匠では十分な対比ができないことを自認するものというべきである。
〔被告の主張〕引用意匠が記載された斜視図は引用意匠の特徴を十分に表現しているものであり,これに基づいて両意匠の対比を行うことが可能であって,仮に,斜視図によって十分に表現されない部分があるとしても,それは,物品の立体形状を肉眼で観察する際,美感に訴える視覚的効果が弱い部分であり,意匠全体に大きな影響を与えるものではないから,本件において,引用意匠の形態を斜視図により特定した上,本願意匠と対比をして,その類否を判断した本件審決の認定及びその判断の手法に誤りはない。
2取消事由2(類否判断の誤り)について〔原告の主張〕本件審決は,以下のとおり,両意匠の相違点を一部看過した上,両意匠の共通点及び相違点に係る誤った評価に基づき,両意匠が類似するとの誤った判断をしたものである。
(1)相違点の看過本件審決は,両意匠の相違点として,前記相違点イないしニを認定しているが,両意匠は,下記アないしウの各点(以下,順次,「相違点ホ」ないし「相違点ト」という。)においても相違する(甲4参照)のであり,本件審決は,これらの相違点を看過している。なお,被告は,相違点ホ及びトは,相違点イに内包されるもの,あるいは,相違点イを別の観点からみたものであると主張するが,相違点イが断面略矩形状膨出部やボルト取付用孔部と全体との関係のみに関するものであるのに対し,相違点ホはシリンダチューブの内径に関するもの,相違点トはシリンダチューブの厚みに関するものであるから,相違点ホ及びトは,相違点イと明らかに異なるものである。
ア本願意匠のシリンダチューブの内径が引用意匠のそれより約6mm大きい点イ本願意匠の上面の断面略矩形状膨出部の両側に傾斜部が形成されているのに対し,引用意匠にはそのような傾斜部が形成されていない点ウ本願意匠のシリンダチューブの厚み(4つの隅部を除く。以下同じ。)が比較的薄く,かつ,均一であるのに対し,引用意匠のそれは比較的厚く,かつ,不均一である点(2)共通点及び相違点の評価本件審決は,前記相違点イないしニのほか,両意匠の共通点として,共通点1ないし4を認定しているが,その評価を誤っている。
ア本件における評価の基準について(ア)流体圧シリンダは,それぞれその限定された製品が需要者の選択の対象となる物品であるから,流体圧シリンダに係る意匠において,当該需要者(以下,単に「需要者」というときは,流体圧シリンダに係る需要者をいう。)の注意をひく部分は,流体圧シリンダ一般に共通するありふれた形態の部分ではなく,それぞれの製品のその細部にまで統一のとれた美感を生ずるように整えられて創作された形態の部分である。
本願意匠においては,その要部は,曲線を数多く含んだシリンダチューブに係る形態の部分にあるのであって,これは,同意匠の正面図に顕著に現れている。そして,本願意匠は,シリンダチューブの内径が大きく,その外周面が内径に沿った曲線的なものであり,その厚みが比較的薄く,かつ,均一であり,その各隅部の先端及び断面略矩形状膨出部により曲線を生じさせた形態であるため,全体として,柔らかく,無駄のない洗練された印象を与えるものとなっている。
また,需要者についてみても,流体圧シリンダの細部にまで注意を払うものであるし,日ごろから,小型化・軽量化の点を流体圧シリンダの購入の際の判断基準としているため,シリンダチューブの形態は,需要者の注意をひくものであるから,相違点イないしトの意匠全体に占める割合それ自体は小さいとしても,需要者の注意をひく部分は,異なる美感を与えるものとして,両意匠の類否判断に当たり,大きな影響があると評価されるべきである。
(イ)この点に関し,被告は,共通点1ないし4こそが,流体圧シリンダーとしてありふれた形態であるが,本願意匠の要部にほかならないなどと主張するが,上記(ア)のとおり,本願意匠においては,ありふれた形態以外の部分が需要者の注意を最もひく部分であるから,被告の主張は失当である。
(ウ)被告は,さらに,カタログの写真(甲18及び20)を挙げ,流体圧シリンダの製造・販売業者は,需要者に対して物品の特徴やデザインを知らせる方法として,正面,側面及び上面の形状が併せて示され立体感を看取することのできる斜視状態の写真が有効であると考えているなどとして,流体圧シリンダの細部,すなわち,シリンダチューブの形態が本願意匠の要部であるという原告の主張に理由がないと主張する。
しかしながら,流体圧シリンダには,その用途や要求仕様に応じて形状の異なるものが複数存在する(甲18〜20参照)ところ,その全体像を把握するためには,斜視図又は斜視状態の写真が便利であるということができ,また,意匠の特徴として,同一の又は近似した仕様の物品を比較する場面,例えば,競合他社の製品と比較する場面においても,斜視図又は斜視状態の写真が需要喚起能力を発揮するということもできるので,自社製品のカタログに斜視状態の写真が用いられるのが通常であるから,その写真だけが物品のデザインを需要者に知らせるものと結論付けることはできないし,当該写真こそが意匠の要部を示すということもできない。
(エ)この点に関し,被告は,本願意匠のシリンダチューブ外周面部につき,略角柱状であるとの印象を大きく変更するものではないと主張するが,本願意匠は,角形の流体圧シリンダを前提として創作されたものであるから,「略角柱状」であるのは当然のことであって,本願意匠においては,そのような角形を基調としつつも,柔らかい印象を与えるようなデザインとなっているところに,その特徴が存在するのであって,その特徴は,正面図(甲4の参考図3及び4参照)によっても,本願意匠のシリンダチューブの外形が引用意匠のそれより丸みを帯びていることからも明らかである。
イ共通点の評価について本件審決は,共通点1ないし4につき,「これらの共通点は,両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである」と評価しているが,以下のとおり,その評価は誤りである。
(ア)共通点1及び2共通点1及び2は,甲5ないし14に記載された多くの意匠がいずれも有する構成態様であって,ありふれた形態にすぎず,かつ,本願意匠においては,その「ありふれた形態以外の部分」が需要者の注意を最もひく部分であるから,共通点1及び2が両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
また,共通点1につき,本件審決は,本願意匠に係る需要者が製造ラインや製造設備の設計者であることを考慮することなく,同共通点が両意匠の要部であるかのように,これを過大評価するものである。
(イ)共通点3共通点3も,甲5ないし13に記載された多くの意匠がいずれも有する構成態様であって,ありふれたものにすぎないから,前同様,これが両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
(ウ)共通点4共通点4は,甲5及び8ないし14に記載された多くの意匠がいずれも有する構成態様であって,ありふれたものにすぎないから,前同様であるし,センサ取付用溝部の形状,位置及び大きさも,シリンダチューブに占める割合がそれほど大きくないから,この点においても,同共通点が両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
ウ相違点の評価についてまた,本件審決は,相違点イないしニが両意匠の類否判断に及ぼす影響は軽微であるなどと評価したが,以下のとおり,その評価は誤りであるし,また,本件審決が看過した相違点ホないしトが両意匠の類否判断に及ぼす影響も大きいものがある。
(ア)相違点イ本願意匠は,上面の断面略矩形状膨出部や四隅のボルト取付用孔部を小さくすることにより,シリンダチューブの内径を際立たせた結果,意匠の全体において曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせているところ,相違点イは,本願意匠のそのような特徴をよく現すものであって,これが両意匠の類否判断に与える影響は軽微でない。
この点に関し,被告は,ボルト取付用孔の内径とシリンダチューブの最大横幅との比率を問題にしているが,原告が主張しているのは,上面の断面略矩形状膨出部自体や四隅のボルト取付用孔部自体の大きさとシリンダチューブの内径とについてのものであって,ボルト取付用孔部の内径とシリンダチューブの最大横幅とについてのものではない。
そして,上面の断面略矩形状膨出部自体や四隅のボルト取付用孔部自体の大きさとシリンダチューブの内径との比は,どの部位を計測するかによって変わり得るものであるところ,例えば,上面の断面略矩形状膨出部の高さ(外周側の最下部から最上部まで)とシリンダチューブの内径との比は,本願意匠のそれが約6:54(=1:9)であるのに対し,引用意匠のそれは約7:49(=1:7)であり,また,上面の断面略矩形状膨出部の最上部の幅とシリンダチューブの内径との比は,本願意匠のそれが約10:54(=1:5.4)であるのに対し,引用意匠のそれは約14:49(=1:3.5)であるから,この程度の差があれば,顕著な相違があるということができ,本願意匠が引用意匠と異なる美感を生じさせることは明らかである。
(イ)相違点ロ本願意匠は,断面略台形状膨出部を設けることにより,シリンダチューブの厚みを均一化することができた結果,シリンダチューブの全体において曲線を強調することができるのに対し,引用意匠は,断面略台形状膨出部を設けておらず,かつ,略L字状膨出部を形成しているため,相対的に角張った印象又は固い印象を与えるものである上,引用意匠の略L字状のリブは,センサを取り付ける箇所であるから,需要者が相当の注意を払う部位であるから,相違点ロが両意匠の類否判断に与える影響は微弱でない。
この点に関し,被告は,断面略台形状膨出部の厚さとシリンダチューブの最大横幅との比率を問題にしているが,原告が主張しているのは,その内径全体と外周全体の厚みであって,断面略台形状膨出部の厚みを問題とするものではない。
そして,シリンダチューブの内径全体と外周全体の厚みとの比は,どの部位を計測するかによって変わり得るものであるところ,例えば,上面の断面略矩形状膨出部の厚みとシリンダチューブの内径との比は,本願意匠のそれが約8:54(=1:6.75)であるのに対し,引用意匠のそれは約11:49(?垂P:4.5)であるから,この程度の差があれば,顕著な相違があるということができるので,本願意匠が引用意匠と異なる美感を生じさせることは明らかである。
(ウ)相違点ハボルト取付用孔部を形成する各隅部が丸みを帯びることは,それ自体,局部的な相違ではあっても,シリンダチューブの全体において曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせることに一役買うものであるから,相違点ハが両意匠の類否判断に与える影響は少なからず存在する。
(エ)相違点ニ需要者は,流体圧シリンダを製造ラインや製造設備に組み込むことを前提として観察するところ,本願意匠のエンドブロックは,通常ではあり得ないほどに露出している(甲1の背面図参照)ことから,需要者は,本願意匠のエンドブロックが通常のものよりも大きいとの印象を持つのであって,相違点ニが両意匠の類否判断に与える影響は少なからず存在する。
(オ)相違点ホ本願意匠は,シリンダチューブの内径を大きくすることにより,意匠の全体における曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせるものであり,特に,シリンダチューブの内径は,正面視する場合に,シリンダチューブの中央に位置し,かつ,シリンダチューブの全体に占める割合が大きいのであるから,相違点ホは,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
この点に関し,被告は,シリンダチューブの内径とシリンダチューブの最大横幅との比率を問題にしているが,シリンダチューブの内径がシリンダチューブの全体に占める割合は,どの部位を計測するかによって変わり得るものであるところ,例えば,シリンダチューブの内径と上面の断面略矩形状膨出部から下面の断面略矩形状膨出部までの高さとの比は,本願意匠のそれが約54:64(?垂P:1.18)であるのに対し,引用意匠(下面の断面略U字状膨出部を含む。)のそれは約49:64(?垂P:1.31)であるから,この程度の差があれば,顕著な相違があるといえ,本願意匠が引用意匠と異なる美感を生じさせることは明らかである。
なお,甲4の参考図3及び4によれば,両意匠の上記相違がより明らかとなるが,同相違は,離隔観察によっても判別可能なものである。
(カ)相違点へ本願意匠においては,曲線的な傾斜部が意匠の全体における柔らかい印象の創出に一役買っているのに対し,引用意匠においては,このような曲線的な傾斜部が形成されていないため,固い印象が生じてしまう。被告は,相違点ヘは,意匠全体からみると,わずかな部分における相違であると主張するが,全体的観察からすると,同相違点に係る本願意匠の形態は,需要者の注意を最も強くひく部分である。したがって,相違点ヘが両意匠の類否判断に与える影響は少なくない。
(キ)相違点ト本願意匠においては,シリンダチューブの厚みを薄く均一にすることにより,比較的大きな割合を占めるシリンダチューブの外周面が曲線的に形成され,意匠の全体における柔らかい印象や無駄のない洗練された印象が創出されているのに対し,引用意匠においては,シリンダチューブの厚みが厚く不均一であるため,固い印象やそれほど洗練されていないとの印象が生じている。したがって,相違点トは,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。
(3)以上からすると,両意匠が類似しているということはできない。
〔被告の主張〕(1)相違点の看過原告は,本件審決が相違点ホないしトを看過したと主張するが,両意匠の主たる相違点は,相違点イないしニであり,これらの相違点について評価をすれば,両意匠の類否判断として十分であるところ,仮に原告主張の相違点ホないしトが看過し得ない相違点であったとしても,相違点ホも,相違点トも,相違点イに内包されるもの,あるいは,相違点イを別の観点からみたものであり,相違点イの評価により,実質的に評価されているものであるから,本件審決が相違点を看過したというのは当たらない。
(2)共通点及び相違点の評価ア本件における評価の基準について(ア)一般に,ありふれた形態を主体とする意匠は,ありふれた美感(よくあるものであるとの印象(美感))を有するものであり,当該意匠中の他の部分に,ありふれた部分が与える当該印象(美感)を超える美感を生じさせるだけの力がない場合には,結局,ありふれた部分が最も強く需要者の注意をひく部分(当該意匠の要部)となる。
これを本願意匠についてみるに,共通点1は,意匠全体に占める割合が大きく,意匠の骨格を構成する形態であり,同共通点が意匠全体としてありふれた美感をもたらすことは明らかである。これに,各部の具体的形態であるありふれた共通点2ないし4が相まって表出される視覚的効果を加味すると,意匠のほとんど全体がありふれた美感を有するものとして看取される。
以上からすると,共通点1ないし4に係るありふれた形態は,最も強く需要者の注意をひく部分であるから,本願意匠の要部であるといえる。
(イ)この点に関し,原告は,本願意匠の要部がシリンダチューブの形態であって,これは同意匠の正面図に顕著に現れていると主張するほか,本願意匠のシリンダチューブの内径の大きさが重視されるべきであると主張する。
しかしながら,流体圧シリンダの製造・販売業者は,需要者に対して物品の特徴やデザインを知らせる方法として,正面,側面及び上面の形状が併せて示され立体感を看取することのできる斜視状態の写真が有効であると考えており(甲18,20参照),また,シリンダチューブの内径には様々なサイズが存在する(甲6,7,9参照)のであるから,原告の主張は理由がない。
(ウ)また,原告は,本願意匠が角形を基調としつつも,柔らかい印象を与えるようなデザインとなっているところにその特徴があるなどと主張するが,本願意匠と斜視図により現された引用意匠とを対比しても,本願意匠のシリンダチューブ外周面部(ボルト取付用孔部端部の隅部を除く。)には,引用意匠と同様,曲線を看取することができない上,同外周面部を子細に見れば,上面の断面略矩形状膨出部両側のごくわずかに傾斜させた部位,側面の断面略台形状膨出部両側の小さな段部等を認めることができるとはいえ,それらは,平坦面を組み合わせて直線的に形成されたものにすぎないため,需要者に対しては角張った印象を与えるものであるほか,小さな部位におけるものであるため,略角柱状であるとの印象を大きく変更するものではなく,本願意匠に係る需要者には,共通点1の骨格的な形態の方が印象に残るというべきである。
イ共通点の評価の誤りについて(ア)共通点1ないし4に係る形態がいずれも流体圧シリンダにおいてありふれたものであることは原告も自認するところであるが,前記ア(ア)のとおり,その形態が最も強く需要者の注意をひく部分(本願意匠の要部)であるから,これらの共通点が両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものであるとした本件審決の評価に誤りはない。
(イ)原告は,共通点1の評価につき,本件審決は本件意匠に係る需要者が流体圧シリンダを組み込む製造ラインや製造設備の設計者であることを考慮していないと主張するが,美感に訴える視覚的効果を第一義とする意匠において,需要者を,流体圧シリンダの技術的仕様・性能を第一義として観察する特定の専門家(製造ラインや製造設備の設計者),すなわち,どんなわずかな形状の違いも見逃さない者に限定することは不合理である。
なお,本件審決は,流体圧シリンダに携わる者が現場で実際に使用する者,販売する者等,様々であることにかんがみ,需要者を流体圧シリンダに係る一定の知識を有する者とした上,共通点1の評価を行ったものであり,本件審決の当該評価に誤りはない。
ウ相違点の評価の誤りについて(ア)相違点イ原告は,本願意匠について,上面の断面略矩形状膨出部や四隅のボルト取付用孔部を小さくすることにより,シリンダチューブの内径を際立たせた結果,意匠の全体において曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせていると主張する。
しかしながら,ボルト取付用孔の内径とシリンダチューブの最大横幅との比を甲4の参考図1及び2に基づき計測すると,本願意匠のそれが約7:60であるのに対し,引用意匠のそれは約7:58であるから,この程度の相違は,極めてわずかなものといわざるを得ず,原告が主張するように「シリンダチューブの内径を際立たせた」といえるほど顕著なものではない。
また,本願意匠において,曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせているのは,相違点イに係る形態ではなく,主として,相違点ハに係る形態(四隅のボルト取付用孔部端部の丸み)であって,原告主張によるものではない。ただし,この点に格別の特徴がないことは,後記(ウ)のとおりである。
(イ)相違点ロ原告は,本願意匠について,断面略台形状膨出部を設けることにより,シリンダチューブの厚みを均一化することができた結果,シリンダチューブの全体において曲線を強調することができると主張するが,断面略台形状膨出部の厚さとシリンダチューブの最大横幅との比を甲4の参考図1及び2に基づき計測すると,本願意匠のそれが約2:60であるのに対し,引用意匠のそれは約2:58であるから,この程度の相違は,極めてわずかなものといわざるを得ず,原告が主張するように「シリンダチューブの全体において曲線を強調することができる」といえるほど顕著なものではない。
この点に関し,原告は,引用意匠は,断面略台形状膨出部を設けていないと主張するが,本願意匠の断面略台形状膨出部は,全体として幅広のもの(ボルト取付用孔部の根元にあるセンサ取付用溝部付近まであるもの)であり,ボルト取付用孔部の根元にあるセンサ取付用溝部まで平坦である引用意匠との相違は,さほど大きいものでない。
また,原告は,引用意匠の略L字状のリブは,センサを取り付ける箇所であるから,需要者が相当の注意を払う部位であると主張するが,当該リブは小さなものであるから,意匠全体として観察した場合,それほど注目されるものではない。
(ウ)相違点ハ原告は,ボルト取付用孔部が形成された各隅部が丸みを帯びることは,シリンダチューブの全体において曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせることに一役買うものであると主張する。
しかしながら,引用意匠のボルト取付用孔部の先端部の形態も,矩形ではなく,孔部に沿って略台形状に傾斜部が形成されているものであるから,相違点ハに係る本願意匠の形態(略台形状の角部に丸みを帯びさせたもの)とそれほど大きく異なるものではなく,略台形状の角部のみにおける局部的な相違というべきである。
また,角部に丸みを帯びさせる形態は,流体圧シリンダの分野に限らず,様々な分野で普通に行われている常套的手段によるものであるから,本願意匠のみにみられる格別の特徴であるということはできない。
(エ)相違点ニ流体圧シリンダの分野において,正面部のピストンロッドに相当する部分を厚く円形状に膨出させたエンドブロック(シリンダチューブの内径と同径のもの)を背面部に形成することは,一般的に行われているところである(甲3及び乙4の各背面図及びA-A断面図参照)から,引用意匠についても,上記一般的なエンドブロックが形成されているものと推定される。また,本願意匠のエンドブロックの形状についても,両意匠の正面部の対比に照らせば,本願意匠のみが有する格別の特徴があるとはいえない。
そして,流体圧シリンダの分野において,背面部のデザインは,製品の特徴として重要視されていないこと(甲11参照)をも併せ考慮すると,相違点ニに係る本願意匠の形態が両意匠の類否判断に与える影響は極めて小さいというべきである。
原告は,需要者は,本願意匠のエンドブロックが通常のものよりも大きいとの印象を持つと主張するが,エンドブロックの外径は,前面側のシリンダチューブの内径と同様であるのが一般的である。
(オ)相違点ホ原告は,本願意匠について,シリンダチューブの内径を大きくすることにより,意匠の全体における曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせると主張するが,シリンダチューブの内径とシリンダチューブの最大横幅との比を甲4の参考図1及び2に基づき計測すると,本願意匠のそれが約54:60であるのに対し,引用意匠のそれは約49:58であり,甲4の参考図3及び4のように本願意匠と引用意匠とを重ね合わせなければ視覚的に明確とならない程度の相違であるから,この程度の相違は,それほど極端なものではないというべきである。加えて,シリンダチューブの内径が単純な円形であり,円形をわずかに拡大することが新規の創作といえるほどのものではないことも併せ考慮すると,内径比率の相違(相違点ホ)は,両意匠の類否判断に大きな影響を与えるものではない。
この点に関し,原告は,シリンダチューブの内径は,正面視する場合に,シリンダチューブの中央に位置し,かつ,シリンダチューブの全体に占める割合が大きいと主張するが,各部の占める割合が両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものでないことは,前記(ア)(相違点イ)のとおりである。
なお,前記(1)のとおり,相違点ホが両意匠の類否判断に与える影響は,主たる相違点である相違点イないしニと比較して必然的に小さいものである。
(カ)相違点ヘ両意匠のシリンダチューブ上面の断面略矩形状膨出部の両側面は,やや下方に向かって開いているのであるから,同膨出部とシリンダチューブ本体部との間のやや傾斜した面は,極めて細幅で,わずかに傾斜したものであると看取され,したがって,相違点ヘは,意匠全体からみると,わずかな部分における相違であって,これが両意匠の類否判断に与える影響は限定的なものである。
なお,前記(オ)と同様,相違点ヘが両意匠の類否判断に与える影響は,相違点イないしニと比較して必然的に小さいものである。
(キ)相違点ト原告は,両意匠におけるシリンダチューブの厚み及びその均一性の相違を強調するが,シリンダチューブの断面略台形状膨出部の厚みの相違が大きなものでないことは,前記(イ)(相違点ロ)のとおりであるから,本願意匠のシリンダチューブの厚みが薄く均一であるとしても,意匠全体としてみれば,それが格別の特徴であるということはできない。
なお,前記(オ)と同様,相違点トが両意匠の類否判断に与える影響は,相違点イないしニに比較して必然的に小さいものである。
(3)以上からすると,両意匠は類似しているというべきである。
第4当裁判所の判断本件審決が,引用意匠につき,その形態を斜視図のみによって特定した上,斜視図のほか,六面図によってその形態が特定されている本願意匠と対比して,その類否判断を行っていることは,本件審決に添付されている本願意匠に係る別紙第1及び引用意匠に係る別紙第2(以下,単に「別紙第1」,「別紙第2」という。)に照らして明らかであるところ,原告は,そのような本件審決の引用意匠の認定及び両意匠の類否判断の手法の誤りをいうが,形態が別紙第2によって特定される引用意匠と,形態が別紙第1によって特定される本願意匠とを対比して,両意匠の類否判断が可能であるのであれば,本件審決の当否は,結局のところ,両意匠を類似するとした結論の当否に帰することになる。
そこで,以上説示した見地から,別紙第2で特定された引用意匠と,別紙第1で特定された本願意匠とを対比して,本件審決の類否判断の当否について検討することとする。
1類否判断の前提となる事実(1)意匠に係る物品の共通性原告は,本願意匠に係る物品が「流体圧シリンダ」であり,引用意匠に係る物品が「油圧シリンダー」であるとの本件審決の認定を争うものではなく,両意匠は,それぞれその意匠に係る物品を共通にしているということができる。
(2)両意匠の共通点及び相違点まず,両意匠の形態が共通点1ないし4の各点において共通していることは,当事者間に争いがない。
次に,両意匠の形態が少なくとも相違点イないしニの各点において相違していることは,当事者間に争いがない。
2両意匠の類否(1)共通点の評価共通点1ないし4がいずれも流体圧(ないし油圧)シリンダの有する形態としてありふれたものであることは,当事者間に争いがない。すなわち,両意匠は,それぞれ略四角柱状のチューブを用いたシリンダであって,その中央部にピストンロッドが設けられ,チューブの四隅にボルト取付用孔部が設けられるなど,シリンダとしての基本的な構造を共通にするものである。
被告は,両意匠の形態が以上のとおりいずれもシリンダとして「ありふれた形態」であることから,共通点1ないし4が最も強く需要者の注意をひく部分,すなわち,要部であると主張する。
しかしながら,ありふれた形態が最も強く需要者の注意をひくのは,当該ありふれた形態以外の形態が生じさせる美感が,当該ありふれた形態が生じさせる美感を超えるに足りない場合であると解されるから,被告主張のように共通点1ないし4から生じる美観から直ちに両意匠が類似していると判断し得るものではなく,その類否判断のためには,ありふれた形態以外の部分から生じる美観を併せて判断することが必要であって,本件においては,相違点イないしニから生じる美感を考慮して判断するほかなく,原告が本件審決において看過したという相違点ホないしトについても,必要があれば,その相違点を相違点として確定した上,その相違点から生じる美感を検討しなければならないというべきである。
(2)相違点の評価そこで,以上の趣旨で,進んで,両意匠の形態の相違点について検討することとする。
ア相違点イについて相違点イは,断面略矩形状膨出部及びボルト取付用孔部の全体に占める割合の相違であるがいずれも略四角柱状のチューブから構成されるシリンダにおいて,断面略矩形状膨出部及びボルト取付用孔部を小さく形成することは,その各両側に空間(略四角柱状の外枠から凹んだ形状となっている部分)をより大きく設けることとなり,その結果,本願意匠についてみれば,円形状のピストン部分がより強く印象づけられ,また,ボルト取付用孔部がシリンダから突出した感じを抱かせるものとなっていて,原告の主張するとおり,その全体において曲線を強調し,柔らかい印象を生じさせているということができる。
この点に関し,被告は,本願意匠におけるボルト取付用孔部の内径とシリンダチューブの最大横幅との比率において,両意匠の差が極めてわずかであるなどと主張するが,被告の主張を考慮しても,別紙第1の斜視図と,別紙第2とを対比すれば,引用意匠が略四角柱状のシリンダとしてのありふれた形態を残しているということができるのに対し,本願意匠が,それに比較して,曲線が強調される結果,円柱状のシリンダに近づいた美観を生じていることは否定し得ないところである。
以上,両意匠を対比すると,本願意匠では,引用意匠に比較して,断面略矩形状膨出部及びボルト取付用孔部が小さく形成されているために円柱状のシリンダに近づき,全体としてその本来の略四角柱状であったとの印象を打ち消す効果を有するものと認められるから,相違点イに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果について,その類否判断に及ぼす影響が軽微なものとした本件審決の評価は誤りというべきであって,当該効果を軽視することはできない。
イ相違点ロについて相違点ロは,シリンダチューブの左右両側面及び下面の断面略台形状膨出部の相違であるが両意匠を対比すると,シリンダチューブの左右両側面及び下面に断面略台形状膨出部を設けることは,これらの各両側に同膨出部の端面(台形の上辺部分)より奥まった部分を創出することとなり,シリンダチューブの内径が円形であるのに対しその外周が略正方形であることから必然的に大きくなる四隅付近の厚みが比較的小さいとの印象を与えるものであるほか,同膨出部の台形の各斜辺の存在により,シリンダチューブの左右側面及び下面が直線的でないとの印象を与え,もって,相違点イと同様に,本願意匠のシリンダチューブが全体として略四角柱状であるとの印象を打ち消す効果を有するものと認められる。なお,引用意匠には,本願意匠にはない「略L字状のリブ」が左右両側面に対向して一対形成されているところ,別誌第2によれば,引用意匠は,当該リブがあるために,本願意匠とは反対に,直線的な印象を強めているといえなくもなく,少なくとも当該リブが本件審決にいうように「それほど注目されるものではない」というには無理があるというべきであって,相違点ロに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果について,その類否判断に及ぼす影響が微弱なものとした本件審決の評価は誤りであり,当該効果を軽視することはできないというべきである。
この点に関し,被告は,断面略台形状膨出部の厚さとシリンダチューブの最大横幅との比率において,両意匠の差が極めてわずかであると主張するが,上記説示したところに照らせば,当該比の差が数値として小さいことをもって,相違点ロに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果についての上記評価を左右するものではない。
また,被告は,本願意匠の断面略台形状膨出部が全体として幅広のものであり,左右両側面及び下面がおおむね平坦な引用意匠との相違はさほど大きなものではないと主張するが,両意匠を対比すると,同膨出部の各両側に奥まった部分が創出されることによる美感の相違を軽視することができないことは明らかであるから,被告の主張を採用することはできない。
ウ相違点ハについて相違点ハは,ボルト取付用孔部端部の形状の相違であるが,両意匠を対比すると,別紙第1によれば,本願意匠のそれが丸みを帯びているため,シリンダチューブの角部(ボルト取付用孔部)の角張った印象を打ち消す効果を有することが明らかであるのに対し,別紙第2によれば,引用意匠は,略四角柱状の外枠に一体となって取り込まれている印象を与えているのであって,相違点ハに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果についても,その類否判断に及ぼす影響がほとんどないとした本件審決の評価は誤りであり,当該効果を軽視することはできない。
この点に関し,被告は,引用意匠のボルト取付用孔部端部も略台形状に傾斜部が形成されており,本願意匠のボルト取付用孔部端部の形態とそれほど大きく異なるものではなく,局部的な相違にすぎないと主張するが,両意匠を対比すると,本願意匠のボルト取付用孔部端部が有する曲線的な印象と,引用意匠の同端部が有する角張った印象とは,明らかに異なる美感を与えるものといえるから,被告の主張は失当である。
また,被告は,角部に丸みを帯びさせる形態が様々な物品の分野で行われている常套的手段によるものであるとも主張するが,そのことから直ちに,相違点ハに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果についての上記評価を左右するものということはできない。
エ相違点ヘについて原告は,本件審決が看過している相違点として,相違点ヘがあると主張するが,同相違点は,本願意匠の上面の断面略矩形状膨出部の両側に傾斜部があるのに対し,引用意匠には,その傾斜部がないというのである。
その相違を踏まえて両意匠を対比すると,断面略矩形状膨出部の両側に傾斜部を設けることは,シリンダチューブの上面が直線的であるとの印象を打ち消し,もって,本願意匠のシリンダチューブが全体として略四角柱状であるとの印象を打ち消す効果を有するものと認められるから,相違点ヘに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果についても,これを軽視することはできず,本件審決が両意匠の類否判断に当たりこの点を考慮しなかったことは誤りであるといわざるを得ない。
この点に関し,被告は,本願意匠の上記傾斜部が極めて細幅でわずかに傾斜したものであり,上記傾斜部の有無は意匠全体からみればわずかな部分における相違であるから,相違点ヘに係る本願意匠の形態が類否判断に与える影響は限定的なものであると主張する。
しかしながら,両意匠を対比すれば,引用意匠においては,上記傾斜部が存在しないことにより,シリンダチューブ上面の断面略矩形状膨出部の両側部分が極めて直線的で平坦な印象を与えるのに対し,本願意匠においては,上記傾斜部の存在により,引用意匠の当該直線で平坦な印象が打ち消されているものと認められるから,被告の主張を採用することはできない。
オまとめ以上説示したところによれば,本件審決が判断の対象とした相違点のうち,相違点イないしハについてみても,また,本件審決が看過したが,両意匠の類否判断に際して考慮に入れるべきであった相違点ヘについてみても,本願意匠の各形態がそれぞれ生じる意匠的効果は,上記アないしエのとおりであるところ,そのうち,相違点イ,ロ及びヘに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果は,本願意匠も,引用意匠も,いずれも略四角柱状のシリンダチューブから構成されるものではあるが,本願意匠は,引用意匠と比較して,ボルト取付用孔部を含めた全体が略四角柱状であるとの印象が相当程度打ち消され,シリンダチューブ中,ボルト取付用孔部を除く部分に全体として丸みを持たせた上,その四隅からやや突出させるようにボルト取付用孔部を取り付けたような印象を与えるものと認められ,これに加えて,相違点ハに係る本願意匠の形態が生じる意匠的効果,すなわち,ボルト取付用孔部端部の丸みを併せ考慮すると,相違点イないしハ及びヘに係る本願意匠の各形態は,相互に相まって,別紙第2の引用意匠とは相当程度異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものと認めるのが相当である。
そして,相違点イないしハ及びヘに係る本願意匠の各形態が相まって生じる上記意匠的効果の内容及び程度並びに共通点1ないし4に係る各形態がありふれたものであることに照らすと,以上の相違点に係る本願意匠の各形態が相まって生じる意匠的効果は,両意匠の共通点に係る各形態が生じるありふれた美感を超えるに足りるものというべきものである。
そうすると,「上記の相違点が相俟った効果を考慮してもなお,本願の意匠は意匠全体としては引用の意匠にない格別の特徴を発揮するまでには至らないものというほかない」とした本件審決の評価は誤りであるといわざるを得ない。
なお,被告は,本願意匠のシリンダチューブの外周面部の形態によっても略角柱状であるとの印象を大きく変更するものではないと主張するが,その主張を採用し得ないことは,以上説示したところから明らかである。
(3)本件審決の類否判断の当否以上のとおり,本願意匠は,引用意匠とその意匠に係る物品を共通にし,さらに,共通点1ないし4において,その形態を共通にすることを考慮してもなお,相違点イないしハ及びヘにおいて,両意匠が類似するものと認めることはできないから,両意匠が類似するとした本件審決の判断は誤りであるというほかはない。
3結論以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 浅井憲
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