関連審決 |
不服2008-13196 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21ワ2726意匠権侵害差止等請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成20行ケ10401審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成20行ケ10402審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成21行ケ10051審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成20ワ5712損害賠償請求事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 物品 / 形状 / 意匠に係る物品 / 3条1項3号 / 類似する意匠 / 意匠の類似 / 意匠の類否 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
21年
(行ケ)
10083号
審決取消請求事件
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原告ホ ーチキ株式会社 同訴訟代理人弁理士広川浩司 同 村田幹雄 被告特許庁長官 同 指定代理 人関口剛 同 樋田敏惠 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/10/28 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2008-13196号事件について平成21年2月10日にした審決を取り消す。 第2事案の概要1特許庁における手続の経緯原告は,意匠に係る物品を「住宅用警報器」とする意匠につき,平成19年10月5日,意匠登録出願をしたが,平成20年3月21日付けの拒絶理由通知を受け(甲2),同年5月12日付けの拒絶査定を受けた(甲4)。これに対して,原告は,平成20年5月23日,審判請求(不服2008-13196号事件)をしたところ,特許庁は,平成21年2月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月23日,原告に送達された。 2本願意匠の態様本願意匠は,別紙1のとおりであり,その態様は,下記のとおりである(当事者間に争いがない。)。 (1)全体の態様本願意匠は,筐体を正面視隅丸方形状を呈する扁平な「合わせ最中(もなか)」状に構成すると共に,筐体正面側の中央に円錐台形に突出するドーム状感知部を設け,該感知部の正面視直下にスイッチボタンを,左下隅に放音孔をそれぞれ配置し,筐体背面側に取付部を設けて骨格的態様を構成し,感知部については,周側面に同形の台形孔を等間隔に8箇所配置し,取付部については,筐体背面側に高台(こうだい)状に突出して周回する環状側壁を形成すると共に,該側壁の背面視上方部分に横長の長方形状突出部を設け,さらに該突出部の中央から上方に向けて係止片を突出させ,該側壁の背面側に開口部全域を覆う取付板を嵌着して全容を形成している。 (2)各部の特徴ア筐体周側面を隅丸方形状に周回する柱面状として,各辺に対応する部位を外側に向けて緩やかに,且つ均等に膨出させ,正面の周縁部から感知部の立ち上がり部に至る部分を一様な傾きで正面側に膨らむ緩やかな斜面とし,感知部の天面を略平坦面とし,取付部を除く背面を平坦面とし,周側面と正面,周側面と背面及び感知部周側面と感知部天面の連接部分を丸面に,感知部の立ち上がり部を匙面にそれぞれ形成している。 イスイッチボタン半透明で,正面視横長の隅丸長方形状に形成している。なお,内部にLEDを配置したものである。 ウ放音孔径がわずかに異なる大中小3種類の円形孔を大径孔を中心として,中径孔を大径孔の上下左右の4箇所に,小径孔を四隅にそれぞれ配置して,3×3の格子点状に形成している。 エ係止片先端を丸めた薄板状に形成して,両側に微細なリブを設け,中央にだるま孔を設けている。 オ取付板取付部の環状側壁に嵌着する桟蓋状に構成して,外周を環状側壁の外周形状に揃えると共に,だるま孔を矩形状突出部に1個,中央部の左右に方向を変えて各1個ずつ,合計3個設けている。 カ各部の寸法比率筐体の「縦幅(正面視における上下幅):横幅(正面視における左右幅):奥行き幅(平面視における上下幅)」をそれぞれ略「1:1:0.4」程度に,奥行き方向における「取付部幅:筐体本体部幅:感知部突出幅」をそれぞれ略「3:7:5」程度に,平面視における「筐体横幅:感知部基部径:感知部天板径」をそれぞれ略「1:0.6:0.5」程度にそれぞれ設定している。 3審決の内容(1)別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願意匠は,別紙2記載の意匠登録第1227092号(意匠に係る物品:火災検出器)に係る意匠(以下「引用意匠」という。)に類似するから,意匠法3条1項3号の意匠に該当する,とするものである。 審決が認定した本願意匠と引用意匠の共通点及び相違点並びに本願意匠と引用意匠のスイッチボタンの形態の差異に関する審決の判断は,以下のとおりである。 (2)本願意匠と引用意匠の共通点?@前記全体の態様中,取付板を除く大部分の構成態様,?A前記筐体の主要な面構成,?B前記放音孔の形態,?C前記係止孔の形態,?D前記各部の寸法比率のうち,筐体の「縦幅(正面視における上下幅):横幅(正面視における左右幅):奥行き幅(平面視における上下幅)」をそれぞれ略「1:1:0.4」程度としている点。 (3)本願意匠と引用意匠の相違点アスイッチボタンの形態本願意匠は,半透明で横長の隅丸長方形状に形成しているのに対し,引用意匠は,筐体の一部に正面視U字形のスリットを設けて可動片を構成し,さらにその先端に円柱状の小突起を設けてスイッチボタンを形成している点。 イドーム状感知部の形態本願意匠は,側壁を引用意匠よりも多少急傾斜に立ち上げているのに対し,引用意匠は,側壁を本願意匠よりも多少緩やかに立ち上げている点。 ウ筐体の正面右下隅における点灯表示部の有無本願意匠は,該点灯表示部を設けていないのに対し,引用意匠は,当該部位に小径の半球状点灯表示部を設けている点。 エ取付部における取付板の有無本願意匠は,該部に取付板を嵌着しているのに対し,引用意匠は,該部に取付板を設けていない点。 オ各部の寸法比率本願意匠は,筐体の奥行き方向における「取付部幅:筐体本体部幅:感知部突出幅」をそれぞれ略「6:14:10」程度に,平面視における「筐体横幅:感知部基部径:感知部天板径」をそれぞれ略「1:0.6:0.5」程度にそれぞれ設定しているのに対し,引用意匠は,筐体の奥行き方向における「取付部幅:筐体本体部幅:感知部突出幅」をそれぞれ略「4:15:11」程度に,平面視における「筐体横幅:感知部基部径:感知部天板径」をそれぞれ略「1:0.7:0.5」程度にそれぞれ設定している点。 (4)スイッチボタンの形態の差異に関する審決の判断「本願意匠のスイッチボタンの形態の差異については,本願意匠のスイッチボタンの当該物品全体に占める面積的割合が顕著に小さく,しかも共通点?@に示すように,その配置構成が引用意匠と共通し,加えて,この種物品の当該部位に横長の長方形状スイッチボタンを配置した事例が本願の出願前に見受けられること(判決注:甲5参照),半透明素材で形成した点灯表示機能を持つスイッチボタンが従来よりありふれたものであること等から,本願意匠のスイッチボタンの形態は,本願意匠全体を特徴付ける構成要素とは成り得ないものであり,その差異は上記支配的基調の共通性を凌ぐものではない。」第3原告主張の取消事由審決は,?@本願意匠と引用意匠の相違点のうち,スイッチボタンの形態の差異の認定を誤り(取消事由1),?A本願意匠と引用意匠のうち上記スイッチボタンの形態の差異に基づく類否判断を誤ったものであるから(取消事由2),取り消されるべきである。 1取消事由1(スイッチボタンの形態に係る相違点の認定の誤り)審決の前記スイッチボタンの形態についての相違点の認定は,下記の相違点を看過している点で誤りである。 (1)スイッチボタンの筐体や感知部に対する寸法比率をみると,本願意匠については,「感知部天板径:スイッチボタン横幅:スイッチボタン縦幅」の比率は,略「1:0.5:0.3」であり,「筐体横幅:感知部基部径:感知部天板径:スイッチボタン横幅:スイッチボタン縦幅」は,略「1:0.6:0.5:0.25:0.15」である。このように,本願意匠においてスイッチボタンの横幅寸法は,筐体横幅の4分の1程度あり,感知部の突出高さをも上回っている。 他方,引用意匠については,「感知部天板径:スイッチボタン横幅:スイッチボタン縦幅」の比率は,略「1:0.15:0.25」程度であり,「筐体横幅:感知部基部径:感知部天板径:スイッチボタン横幅:スイッチボタン縦幅」は略「1:0.7:0.5:0.08:0.13」である。このように,スイッチボタンの寸法比率については,本願意匠と引用意匠とでは顕著な差異がある。 (2)本願意匠のスイッチボタンは,上下辺について筐体の下辺外周形状と感知部の外周形状のカーブにそれぞれ沿うように筐体下辺側に向かって凸状となる緩やかなカーブを設けているのに対し,引用意匠のスイッチボタンは,そのような形状を有しない。 (3)本願意匠のスイッチボタンは,半透明状に形成され,内部に表示用LEDが配置されているが,引用意匠のスイッチボタンは,そのような形状を有しない。 2取消事由2(スイッチボタンの形態の差異に基づく類否判断の誤り)(1)一般消費者である需要者は,火災報知器等の操作に不慣れであり,住宅用警報器に関する操作の容易性を求めるため,住宅用警報器の意匠において操作部となるスイッチボタンに特に注目し,その態様が意匠全体の美感に大きく影響する要部を構成する。 本願意匠のスイッチボタンは,引用意匠のそれと比べて格段に大きく,筐体本体の形態に合うような平面状の形状を有していることで,本願意匠全体に対してすっきりとした印象を与えている。本願意匠と引用意匠は,スイッチボタンの形態の外に,感知部側壁の傾斜角の点に相違があり,本願意匠の感知部側壁は,引用意匠に比べてより直立に近くなっているため,全体としてよりシャープな印象を与えており,これとスイッチボタンの形態とが相まって引用意匠とはその印象が大きく異なる。 (2)本願出願前の公知意匠(甲5)は,その筐体に横長の長方形状に近いスイッチボタンを有しているが,その上辺は感知部の外周形状とは逆に筐体上辺側に向かって凸状のカーブをなしており,その下辺は筐体の下辺外周形状と同じ方向に向かう凸状となっているものの,筐体の下辺外周より緩やかなカーブを有するように形成されている。このように,甲5は,スイッチボタンの形状が筐体や感知部の形状に沿うようにはされておらず,これをもって本願意匠のスイッチボタンの形態がありふれたものであるとはいえない。 第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,審決を取り消すべき違法はない。 1取消事由1(スイッチボタンの形態に係る相違点の認定の誤り)に対し(1)審決は,スイッチボタンの形態の差異に関し,これを具体的寸法比率によらずに,もっぱら視覚的効果を中心に「本願意匠のスイッチボタンの当該物品全体に占める面積的割合が顕著に小さく」と評価したものである。このように,審決は,本願意匠と引用意匠のスイッチボタンの形態に差異があることを認定した上で類否判断を行っているのであるから,審決の認定判断に誤りはない。 (2)本願意匠のスイッチボタンは,隅丸長方形状の上下辺が緩やかなカーブを描いているとしても,下辺は,上辺よりもさらに緩やかなカーブであり,ほとんどカーブであることを感じさせないものである。よって,隅丸長方形状であるとの審決の認定により,引用意匠の円柱状の小突起スイッチボタンとの差異は明確になっている。 そうすると,本願意匠のスイッチボタンにおける隅丸長方形状の上下辺の緩やかなカーブは格別の特徴はなく,他方,引用意匠のスイッチボタンも丸みを基調としたものであるから,両者の類否判断を左右するほど顕著なものではないので,上記の点を考慮したとしても,審決の結論に影響を与えるものではない。 (3)審決は,本願意匠の内容として「スイッチボタンは半透明で内部にLEDを配置したものである。」と認定している。すなわち,LEDを配置したものであるから,一定の条件で点灯することは明らかであり,スイッチボタンが半透明であるから,点灯状況が視認できるものであることもまた明らかである。したがって,審決は,原告の主張する相違点を看過したものではない。 2取消事由2(スイッチボタンの形態の差異に基づく類否判断の誤り)に対し(1)本願意匠のスイッチボタンは,筐体や感知部に対して大きく形成され,指の腹を使って押圧操作される印象を呈している点,筐体本体の四隅に合わせた隅丸形状とし,スイッチボタンの上下辺も筐体と感知部のカーブにそれぞれ沿うように,凸状の緩やかなカーブを設けて筐体全体との統一感を持たせている点については,両意匠の大部分を占める共通性に比べて,意匠全体に占める割合が小さいものであるから,意匠全体を観察した場合には,本願意匠のみが有する特徴とはなっていない。 また,スイッチボタン内の表示用LEDが点灯している場合には,スイッチボタンが半透明の材質から形成されていることから,明るくなることは考えられるが,点灯していない場合においては,本願意匠は,スイッチボタンが筐体に対してコントラストを有する意匠として出願されていないし,筐体からもわずかに突出しているだけであり,しかも,異常時以外は点灯することはないことを考慮すると,本願意匠のスイッチボタンは格別看者の注意を惹くものではない。 さらに,この種の物品分野において,感知部とこれに連続する本体部が略扁平円錐台形状を基調とする場合,その傾斜面に,略矩形状のスイッチや表示部を形成する際には,略矩形の2辺を外形線に沿った形状とすることは,乙16ないし22にみられるように普通に行われていることであることを考慮すると,本願意匠のスイッチボタンは略隅丸長方形状であり,隅丸であることにより上下辺がより緩やかなカーブとなり,そのことがまた一層略隅丸長方形状と認識させる相乗効果をもたらしているから,本願意匠のスイッチボタンは,ありふれた略隅丸長方形状と看取することができ,本願意匠全体を特徴付けるほどの構成要素とはなっていない。 したがって,審決の認定判断に誤りはない。 (2)原告は,火災警報器について,操作に不慣れな一般消費者である需要者が操作の容易さを求めているから,スイッチボタンのみに注目すると主張する。しかし,下記のとおり,需要者は,本願意匠のスイッチボタンのみに注目するということはできず,原告の主張は失当である。 ア需要者が火災警報器の購入を検討する場合,まず,火災警報器全体のデザイン,すなわち,正面,背面,左右側面,平面,底面の各構成面の態様を観察した上で,大きさ,厚さ,さらには使い勝手,性能,価格等を検討する。したがって,需要者は,火災警報器に対して操作の容易さのみを求めているわけではなく,スイッチボタンのみに注目することはない。 イ引用意匠を同様の略角型タイプの先行意匠である乙6ないし14と対比すると,引用意匠のうち,?@筐体の正面視略隅丸正方形の各辺が外方に緩やかな弧状に膨出した点,?A中央に円錐台状に突出する感知部が形成され,その周側面に略台形孔が等間隔に8個形成されている点,?B筐体の感知部から周縁までを滑らかな傾斜面とし,感知部と略同程度の厚みを有する本体部を形成した点は,上記先行意匠にはないため,これらの点は需要者の注意を惹く部分といえる。他方,スイッチボタンに関しては,乙7ないし9にみられるように,引用意匠と同様の箇所にスイッチボタン様の小さな部材や横長長楕円部材が設けられていることから,引用意匠のスイッチボタンについては,その上部に連なる小さなU字形のスリット状の水平面部分を考慮したとしても,特段筐体以上に大きく評価されるものではない。 以上に照らすと,引用意匠の特徴は,本願意匠と引用意匠に共通する基本的な構成態様において存在し,両意匠全体の大部分を占めるものであるから,両意匠間に共通の美感が生じる。さらに,本願意匠と引用意匠は,正面視においては,8本の切れ目状の感知孔が円形をなす感知部の下に,スイッチボタンを配し,その左側やや上部に大中小の3種の円形孔を格子状かつ矩形状に配列した放音孔を形成している共通性と相まって,これらが両意匠間の支配的基調を形成するものとなっているということができる。 加えて,ほぼ同一形状の突出した係止片や,背面部の態様がほぼ同一であることも,両意匠の共通性をより一層強調する副次的効果を有している。 さらに,本願意匠と引用意匠のスイッチボタンは,いずれも丸みを帯びていることを基調としており,格別顕著なスイッチボタンでもなく,かつ,意匠全体に比べて小さなものでもあるので,特段看者の注意を惹くものではなく,両意匠に共通する支配的基調に埋没してしまうものである。 したがって,一般消費者の購入実態からも,また,需要者の観点に立った意匠の類否判断においても,本願意匠のスイッチボタンが影響を及ぼすことはない。 第5当裁判所の判断当裁判所は,審決には,原告が取消事由1(スイッチボタンの形態に係る相違点の認定の誤り)において主張する相違点を具体的に挙げていない点はあるものの,その点は審決の結論に影響を及ぼすものではなく,結局,原告の主張に係る取消事由はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1取消事由1(スイッチボタンの形態に係る相違点の認定の誤り)について(1)スイッチボタンの形態につき,本願意匠と引用意匠とを対比すると,本願意匠は,半透明で横長の隅丸長方形状に形成し,その上辺がやや筐体下辺側に湾曲しているのに対し,引用意匠は,筐体の一部に正面視U字形のスリットを設けて可動片を構成し,さらにその先端に円柱状の小突起を設けている点で相違する(当事者間に争いはない)。 (2)原告は,?@本願意匠と引用意匠とは,「スイッチボタンの筐体及び感知部に対する寸法比率」において差異がある,?A本願意匠のスイッチボタンは,上下辺について筐体の下辺外周形状と感知部の外周形状の曲面にそれぞれ沿うように筐体下辺側に向かって凸状となる緩やかな曲線を形成しているのに対し,引用意匠のスイッチボタンはそのような形状を有しない,?B本願意匠のスイッチボタンは,半透明状に形成され,内部に表示用LEDが配置されているのに対し,引用意匠のスイッチボタンはそのような形状を有しない,という相違点があるにもかかわらず,審決はその点を看過した誤りがあると主張する。 確かに,審決は,上記?@,?Aについて,具体的な相違点として挙げていない。しかし,以下のとおり,原告の指摘する相違点は,本願意匠と引用意匠の意匠の類否の判断に影響を及ぼすものとはいえず,結局,上記主張は失当である。 本願意匠と引用意匠とは,「前記全体の構成態様(取付板を除く)」,「前記筐体の主要な面構成」,「前記放音孔の形態」,「前記係止孔の形態」,「筐体の縦幅(正面視における上下幅):横幅(正面視における左右幅):奥行き幅(平面視における上下幅)」において,特徴的な構成のほとんどが共通していることに照らすならば,?@「スイッチボタンの筐体及び感知部に対する寸法比率」に関する相違は,両意匠の美感に影響を及ぼす程の相違とはいうことはできず,?A本願意匠のスイッチボタンの上下辺について,筐体の下辺外周形状と感知部の外周形状のカーブにそれぞれ沿うように筐体下辺側に向かって凸状となる緩やかなカーブを設けている点に係る相違も,看者の注意を惹くほどの相違ということはできない。したがって,審決が,上記?@,?Aの具体的な相違点を挙げた上で判断しなかったとしても,本願意匠と引用意匠の類否判断に影響を及ぼすものとはいえない。さらに,?B本願意匠のスイッチボタンの半透明状であること,内部に表示用LEDが配置されている点については,審決は,両意匠の類否を判断する前提として指摘しているから,相違点を看過した誤りはない。以上のとおりであり,原告の主張に理由がない。 2取消事由2(スイッチボタンの形態の差異に基づく類否判断の誤り)について(1)まず,本願意匠の態様,本願意匠と引用意匠の共通点及び相違点(スイッチボタンに係る相違点を除く。)は,前記第2,3記載の審決の認定のとおりである(争いはない。)。そして,本願意匠と引用意匠とは,筐体を正面視隅丸方形状を呈する扁平な「合わせ最中(もなか)」状に構成すると共に,筐体正面側の中央に円錐台形に突出するドーム状感知部を設け,該感知部の正面視直下にスイッチボタンを,左下隅に放音孔を,それぞれ配置し,筐体背面側に取付部を設け,感知部については,周側面に同形の台形孔を等間隔に8箇所配置し,取付部については,筐体背面側に高台(こうだい)状に突出して周回する環状側壁を形成すると共に,該側壁の背面視上方部分に横長の長方形状突出部を設け,さらに該突出部の中央から上方に向けて係止片を突出させている点で共通し,これらの基本的な形状における共通点によって,看者に対して,美感において,両意匠が類似するとの印象を与えている。 以上によれば,相違点((2)で述べるスイッチボタンに係る相違点を除く。)は,両意匠が,看者に対する共通の美感を与える,互いに類似する意匠であるとの判断を左右するものとはいえない。 (2)次に,スイッチボタンの形態の相違についても,以下のとおり,両意匠の類否に影響を及ぼすほどのものではないと判断する。 本願意匠のスイッチボタンの形状,配置位置,大きさ(筺体に対する割合)について順に検討する。?@正面視横長の隅丸長方形状については,甲5記載の意匠にもみられるとおり,スイッチボタンの形状としての格別な特徴はなく,正面視上下辺の緩やかな曲線を採用した点については,上辺についてはわずかであり,下辺については明確に認識し得るものではなく,筐体下辺外周形状及び感知部の外周形状の曲線に沿っている点は,ありふれた形状ということができる(乙17,21,22参照)。また,?A配置位置については,筐体の正面視中央下部であり引用意匠と同一である,さらに,?B大きさ(筐体に対する割合)については,約36分の1と小さく,格別看者の注意を惹くものとはいえない。以上の点を総合すると,本願意匠と引用意匠におけるスイッチボタンの形態の差異は,両意匠の類似性を否定するほどのものではない。したがって,原告の主張は理由がない。 原告は,一般消費者である需要者は,住宅用警報器に関して,操作の容易性を求めているから,住宅用警報器の意匠において操作部となるスイッチボタンに特に注目し,その態様が意匠全体の美感に大きく影響すると主張する。 しかし,前記のとおり,本件におけるスイッチボタンの形態は,特徴的な形状を有するものではなく,意匠全体の美感に影響を及ぼすものとはいえないから,この点における原告の主張は理由がない。 なお,原告は,本願意匠の感知部側壁は,引用意匠のそれに比べてより直立に近く形成され,全体としてよりシャープな印象を与えており,スイッチボタンの形態とを併せると,異なる印象を与えると主張する。しかし,感知部側壁の傾斜角を対比しても,本願意匠が約115度であるのに対して,引用意匠が約130度であり,本願意匠が,わずかに直立に近いとはいえるが,スイッチボタンの形態とを併せて両意匠を対比しても,本願意匠が美感において相違するものと判断することはできないから,この点の原告の主張は,理由がない。 3結論以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 中平健 |
裁判官 | 上田洋幸 |