審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18ワ8794不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成21行ケ10051審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成21行ケ10083審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成20ワ5712損害賠償請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成20ワ8761意匠権侵害差止等請求事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 物品 / 形状 / 意匠に係る物品 / 意匠の説明 / 3条1項3号 / 意匠の類似 / 意匠の類否 / 関連意匠(10条) / 本意匠 / 登録意匠 / 差止請求(差止) / 損害賠償 / 類似性(類否判断) / 損害額 / 無効審判 / |
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事件 |
平成
21年
(ワ)
2726号
意匠権侵害差止等請求事件
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大阪府東大阪市〔以下略〕 原告大阪ケミカル工業株式会社 訴訟代理人弁護士村林隆一 井上裕史 原仁志 大阪市〔以下略〕 被告株式会社クリエイティブ・エナジー 大阪市〔以下略〕 被告株 式会社サルース 被告ら訴訟代理人弁護士小切間俊司 同訴訟代理人弁理士東尾正博 中谷弥一郎 田川孝由 北川政徳 鎌田直也 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2009/11/05 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告株式会社クリエイティブ・エナジーは,別紙物件目録記載の長靴を輸入し,販売し,販売のために展示してはならない。 2被告株式会社サルースは,前項の長靴を販売し,販売のために展示してはならない。 3被告らは,原告に対し,連帯して3200万円及びこれに対する平成21年3月6日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,意匠に係る物品を「長靴」とする後記意匠権を有する原告が,別紙物件目録記載の長靴(以下「被告製品」という )を販売等する被告らの行為 。 が同意匠権を侵害するとして,被告らに対し,意匠権に基づき,被告製品の販売等の差止めを求めるとともに,意匠権侵害の不法行為に基づき,損害賠償金3200万円及びこれに対する不法行為の日の後(訴状送達の日の翌日)である平成21年3月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1争いのない事実( )原告の意匠権1原告は,次の意匠権(以下 「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本 ,件意匠」という。また,本件意匠権にかかる意匠登録を「本件意匠登録」という )を有している。 。 出願日平成19年9月4日登録日平成20年8月1日登録番号第1339016号意匠に係る物品長靴登録意匠別紙意匠公報のとおり( )被告らの行為2被告株式会社クリエイティブ・エナジー(以下「被告クリエイティブ・エナジー」という )は,平成20年8月ころから,被告製品を輸入し,販売 。 し,販売のために展示している。被告株式会社サルース(以下「被告サルース」という )は,同月ころから,被告クリエイティブ・エナジーから購入 。 した被告製品を販売し,販売のために展示している(ただし,被告製品の販売等の時期及び現時点でも販売等を継続しているか否かについては争いがある。。)( )被告製品の意匠3被告製品の意匠(以下「被告意匠」という )は,別紙被告意匠説明書の 。 とおりである。 ( )本件意匠の構成態様4本件意匠の構成態様は次のとおりである(以下,本件意匠の下記各構成態様を「構成態様A」などという。なお,本件意匠に係る願書(甲3)の 。)【意匠の説明】の欄には 「本意匠に係る物品は,左右一対で構成され,図 ,面は左足用の靴の各図を示している。右足用の各図は,各図と線対称に顕れる 」との記載があるが,各図面(写真)には左足用ではなく右足用の靴が 。 表示されており,上記【意匠の説明】の欄の記載との間で齟齬があることが認められる。意匠法施行規則様式第2備考41は「意匠法第6条第3項,第4項及び第7項に規定する場合は 「 意匠の説明 」の欄にそれぞれの規定 ,【】により記載すべき事項をそれぞれ記載する 」と規定するところ,上記規定 。 によれば 【意匠の説明】の欄の記載は,願書に記載の「意匠に係る物品」 ,及び添付する図面等から意匠が特定できない場合(意匠法6条3項)に,文章により本件意匠を補足的に説明することを目的とするものである。しかるところ,本件意匠に係る図面(写真)の靴は,その形状から右足用の靴であることが明らかであり,これにより,本件意匠の内容は特定されているものと認められる。そうすると,上記【意匠の説明】の欄の記載は誤記であるから,本件意匠の図面に表示されている靴は右足用のものであるとして,以下の検討をすすめることとする。 ア基本的構成態様Aくるぶしからひざ下までの高さを有する筒部と,くるぶしから下の足を収容する靴本体部と,靴本体部の底面に配置した靴底部とからなる長靴である。 B筒部に上下方向に間隔をおいて複数の絞りが設けられている。 C靴底部がつま先からかかとに向かって次第に厚くなるいわゆるウエッジソール形状である。 イ具体的構成態様D筒部の絞りの数が5つである。 E絞りと絞りの間に上下に長い大小のこぶ状の膨らみが多数形成されている。 F長靴全体にビニル風の光沢がある。 ( )被告意匠の構成態様5被告意匠の構成態様は次のとおりである(以下,被告意匠の構成態様を「構成態様a」などという。。)ア基本的構成態様aくるぶしからひざ下までの高さを有する筒部と,くるぶしから下の足を収容する靴本体部と,靴本体部の底面に配置した靴底部とからなる長靴である。 b筒部に上下方向に間隔をおいて複数の絞りが設けられている。 c靴底部がつま先からかかとに向かって次第に厚くなるいわゆるウエッジソール形状である。 イ具体的構成態様d筒部の絞りの数が3つである。 e絞りと絞りの間に絞りにともなう自然な縦じわがある(原告は,被告意匠にもこぶ状の膨らみが多数形成されていると主張し,この点については争いがある 。)f筒部と靴本体部の表面に織物素材の風合いがあり,靴底部はゴムである。 ( )本件意匠登録の出願経過等6ア本件意匠は,その出願経過において,特許庁意匠課公知資料番号第HB。, 16005609号の意匠(乙2;以下「乙2意匠」という )と類似し意匠法3条1項3号に該当するとの理由で,平成20年2月13日付けの拒絶理由通知を受けた。 イこの拒絶理由通知に対し,原告は,同年3月21日付けで意見書を提出し,その中で本件意匠が乙2意匠とは類似しない旨を主張し,その結果,本件意匠登録に至った。 ウ原告は,本件意匠の出願日と同日である平成19年9月4日に,本件意匠とは別件の長靴の意匠(乙6;以下「乙6意匠」という )について意 。 匠登録出願をし(意願2007-24095 ,意匠登録を受けた(登録 )番号第1339017号 。)エ原告は,本件意匠の出願を,乙6意匠を本意匠とする関連意匠(意匠法10条)の意匠登録出願とはせずに,乙6意匠と類似しないことを前提とした通常の意匠登録出願をした。 オまた,特許庁審査官も,本件意匠が乙6意匠と類似しないと判断し,意匠法9条2項を理由とする拒絶理由通知をせず,その結果,本件意匠は,意匠法10条1項の関連意匠としてではなく,通常の意匠として意匠登録を受けた。 2争点( )被告意匠は本件意匠に類似するか(争点1)1( )本件意匠登録は意匠登録無効審判により無効にされるべきものか-本件意 2匠登録が意匠法3条1項3号又は9条2項に違反してされたものか-(争点2)( )原告の損害額(争点3)3第3争点に関する当事者の主張1争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について【原告の主張】( )被告意匠と本件意匠との共通点と相違点1被告意匠と本件意匠とは,長靴の特徴たる筒部に布状の素材を用いて複数のふくらみによる段を設けている点,筒部の段差部分にひも状の素材を水平に一周させる形状で締め付けることで,布状の素材にふくらみを設けている点,ブーツのかかと部分にいわゆるヒールを設けず,底面全体に靴底を施してかかと位置を高くするいわゆるウエッジソール形状になっており,底面部分はおよそ同一の形状をしている点において共通している。 他方,被告意匠と本件意匠とは,筒部のふくらみによる段の数が被告意匠では3段であるのに対し,本件意匠では5段となっている点,被告意匠(被告クリエイティブ・エナジー販売に係るもの)には,1足について円形のワッペン1つ及び長方形のワッペン1つが貼付されているが,本件意匠には貼付物は存在しない点において相違する。 ( )被告意匠と本件意匠との類似性2被告意匠と本件意匠とは,いずれも女性用ブーツに係るものであり,筒部に柔軟な布状素材を用いてふくらみを創出し,段差を複数設けるという基本的構成態様において共通している。この点は,その特徴たるふくらみによって柔らかさや暖かさを印象づけるものであって,需要者の注意を強く惹き,その視覚に独特の美感を生じさせる部分であるから,被告意匠と本件意匠とは需要者の視覚を通じて同一の美感を生じさせる。 他方,被告意匠と本件意匠とは,筒部のふくらみによる段の数に相違があるが,段数の相違は,両意匠のシルエットを著しく相違させるものではなく,上記共通点により印象づけられる美感を凌駕し,異なる美感を需要者に生じさせる程のものではない。また,被告意匠にはワッペンが設けられているが,当該ワッペンは,物品自体の意匠としてではなく,物品に装飾的に付属させたものにすぎず,その有無によってブーツ全体のシルエットは変わらず,基本的な外観に差異が生じるものではないから,被告意匠と本件意匠とが需要者にもたらす上記類似の美感に影響を与えるものではない。 このように,被告意匠と本件意匠の相違点はいずれも些末なものであり,両意匠の共通点が需要者に想起させる同一の美感を凌駕するものではないから,両意匠が類似することは明らかである。 ( )被告らの主張に対する反論3ア被告らは,被告意匠には絞りと絞りの間に上下に長いこぶ状の膨らみが存在しないと主張するが,被告意匠にはこぶ状の膨らみが多数形成されている。 イまた,被告らは,出願経過における原告の主張に言及して本件訴訟における原告の主張が包袋禁反言の法理に照らして許されないとか,出願前の公知意匠を参酌して本件意匠の要部を把握して被告意匠と本件意匠とが類似しないという主張をするが,この主張は誤解に基づくものである。平成18年法律第55条によって意匠法24条2項が追加されたことにより,侵害事件における意匠の類否の判断についての従来からの上記争いは解決された。被告らが主張する出願経過における原告の主張,乙6意匠との関係,公知意匠との関係は,既に解決済みの古い考え方に基づくものであり,本件については不要の主張である。 さらに,被告らの上記アの主張は,上記こぶ状の膨らみが本件意匠の要部であると主張するものと思われるが,意匠法24条2項制定後は,物品の特定の部分をもって意匠の要部であるとする考え方は採用されない。すなわち,本件意匠は,意匠法24条2項によって,需要者の立場からこれを把握すべきである。そうすると,本件意匠は女性用ブーツであって,筒部は柔軟な布状,素材を用いて膨らみを創出し,段差を複数個設けていることは,この意匠の全体的特徴であって,膨らみが大きいとか小さいとかは古い時代の公知論を前提とする議論である。 【被告らの主張】( )被告意匠と本件意匠の共通点と相違点1前記の本件意匠と被告意匠の構成態様のとおり,被告意匠は,構成態様aないしcがそれぞれ本件意匠の構成態様AないしCと共通し(以下,順に「共通点1」ないし「共通点3」という,構成態様dないしfがそれぞ 。)れ本件意匠の構成態様DないしFと相違する(以下,順に「相違点1」ないし「相違点3」という。。)( )共通点1について2くるぶしからひざ下までの高さを有する筒部と,くるぶしから下の足を収容する靴本体部と,靴本体部の底面に配置した靴底部とからなる長靴は,いわゆるロングブーツとしてありふれた構成であり,共通点1は特段需要者の注意を惹くものではない。 ( )共通点2について3ア包袋禁反言原告は,拒絶理由通知に対する意見書において,拒絶理由通知で引用された乙2意匠(筒部に上下方向に間隔をおいて複数の絞りが設けられた乙2号証に記載の長靴に係る意匠)と本件意匠とが類似しない理由として,「胴部の絞りの段数は,両意匠を手にとった時にもっとも注目する部分のひとつである「本願意匠の絞り(C)の段数は5段であるところ,引 」,用意匠(乙2意匠)の胴部の絞りの段数(c)は3段である」と主張し,これが受け入れられて本件意匠登録がなされたものである。 このような出願経過に照らせば,原告が,本件訴訟において,被告意匠と本件意匠とに共通する,筒部に上下方向に間隔をおいて複数の絞りが設けられている部分が需要者の注意を強く惹く部分であるとして,両意匠が類似すると主張することは,包袋禁反言の法理に照らして許されない。 イ公知意匠との関係本件意匠登録出願前に頒布された雑誌「セブンシーズ(2007年7月号(乙7,以下「乙7雑誌」という,同「マリ・クレール(200 )」 。)7年9月号 」の別冊付録(乙8 「以下「乙8雑誌」という,同「T ), 。)eenVOGUE(2006年8月号(乙9,以下「乙9雑誌」と )」いう,同「アンアン(2006年11月1日号(乙10,以下「乙 。) )」10雑誌」という,同「ノンノ(2005年12月20日号(乙1 。) )」1,以下「乙11雑誌」という )及び同「ノンノ(2006年9月20 。 日号(乙12,以下「乙12雑誌」という )には,筒部に上下方向に )」 。 間隔をおいて複数の絞りが設けられた長靴に係る意匠が記載されていることからすれば,かかる構成態様は本件意匠登録の出願前からありふれたものといえるから,本件意匠の構成態様Bが特段需要者の注意を惹くものでないことは明らかである。 ウ乙6意匠との関係また,原告は,本件意匠登録出願と同日,筒部に上下方向に間隔をおいて複数の絞りが設けられた長靴に係る意匠(乙6意匠)について意匠登録出願をし,その登録を受けているが,本件意匠について,乙6意匠の関連意匠の登録出願ではなく,両意匠が類似しないことを前提として通常の意匠登録出願をしているのは,筒部に上下方向に間隔をおいて複数の絞りが設けられた長靴に係る意匠がありふれたものであるからである。 したがって,共通点2をもって被告意匠と本件意匠とが類似するということはできない。 ( )共通点3について4靴底部がつま先からかかとに向かって次第に厚くなるいわゆるウエッジソール形状である構成は,本件意匠登録出願前に頒布された雑誌「セダ(2006年9月号(乙13,以下「乙13雑誌」という )に記載された長靴 )」 。 が具備するものである。また,本件意匠登録出願前に頒布された国語辞典「大辞泉 (乙14,以下「乙14辞典」という )には 「ウエッジソー 」 。,ル」の語義解説として「かかと部がくさび形をした靴底。多く女性用。ウエッジヒール 」と記載されていることからしても,ウエッジソール形状の靴 。 底部が本件意匠登録出願前からありふれたものであることは明らかである。 ( )相違点1について5ア包袋禁反言上記( )アのとおり,本件における出願経過に照らせば,原告が,本件3訴訟において,被告意匠と本件意匠の段数の相違が両意匠の美感に及ぼす影響が小さい旨を主張することは包袋禁反言の法理に照らして許されない。 イ公知意匠との関係上記( )イのとおり,乙7雑誌ないし乙12雑誌には,上下方向に間隔3をおいて絞りが設けられた長靴に係る意匠が記載されているところ,その絞りの数は2つないし3つであることからすれば、本件意匠の筒部の絞りの数が5つである構成態様(構成態様D)は,従来の長靴に係る意匠には見られない新規な構成である上,筒部の全体形状に係るものであって,意匠全体に占める筒部の大きさとも相まって,一見して目につくものであるから,需要者の注意を惹く部分,すなわち要部である。 他方,被告意匠の筒部の絞りの数が3つである構成態様(構成態様d)は,従来からあるありふれたものであるから,被告意匠と本件意匠の絞りの数の相違は,両意匠の類否を判断する上で看過し得ないものである。 ( )相違点2及び相違点3について6本件意匠の絞りと絞りの間に上下に長い大小のこぶ状の膨らみが多数形成されている構成態様(構成態様E)は,乙2意匠や乙7雑誌ないし乙12雑誌に記載されている従来の長靴の意匠には見られない新規な構成であり,本件意匠に特有のものである。そして,本件意匠は,同構成態様によって従来にないでこぼことした複雑な立体感をもたらすものとなっており,この複雑な立体感は,長靴全体にビニル風の光沢があること(構成態様F)によって一層強調され,看者の印象に強く残るものとなっている。したがって,本件意匠の構成態様E,Fは,需要者の注意を惹く部分,すなわち要部である。 他方,被告意匠は,絞りと絞りの間に上下に長いこぶ状の膨らみが存在せず,絞りにともなう自然な縦じわがあるだけであり(構成態様e ,筒部の )表面に織物素材の風合いがあることから(構成態様f ,柔らかくソフトな )印象を生じるものとなっている。 ( )まとめ7以上のとおり,被告意匠は,本件意匠と共通点を有するが,その共通点はありふれた構成で需要者の注意を惹かないのに対し,本件意匠の要部に関しては顕著な相違点が存在するから,全体として相違点が共通点を凌駕し,本件意匠とは美感を異にする。 したがって,イ号意匠は本件意匠と類似しない。 2争点2(本件意匠登録は意匠登録無効審判により無効にされるべきものか-本件意匠登録が意匠法3条1項3号又は9条2項に違反してされたものか-)について【被告らの主張】仮に,原告が主張するように,本件意匠の筒部に柔軟な布状素材を用いてふくらみを創出して段差を複数設けるという点が需要者の注意を惹く部分であるとすれば,このような構成は,乙2意匠,乙6意匠,乙7雑誌ないし乙12雑誌に記載の各意匠も具備するものであるから,これらの意匠と本件意匠とが要部において共通することになる。しかも,原告が主張するように,被告意匠と本件意匠との相違点である段数の相違が両意匠の美感に及ぼす影響が小さいとすれば,本件意匠と上記各意匠とは全体として共通の美感を生じ互いに類似することになる。 そうすると,原告の主張を前提とすれば,本件意匠登録は,意匠法3条1項3号及び9条2項に違反してなされたことになり,無効審判により無効とされるべきものであるから,意匠法41条で準用する特許法104条の3第1項により,原告は,被告らに対し,本件意匠権に基づく権利を行使することができない。 【原告の主張】被告らは,意匠法24条2項に基づく被告意匠と本件意匠との類否に関する原告の主張を援用して,本件意匠登録に意匠法3条1項3号及び9条2項所定の無効理由が存在すると主張するが,無効の理由の有無において問題となる意匠の類似とは当業者の立場に立って客観的に判断されるものであり,意匠法24条2項のように需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて判断するものではなく,意匠図面によって把握した意匠そのものと具体的な引例に係る個々の公知資料と同一かどうかを個別的に審理し,判断するものである。しかるに,被告らの無効主張は,本願(本件)意匠を特定せず,引用意匠との同一性を具体的に主張しないものであるから,主張自体失当である。 3争点3(原告の損害)【原告の主張】被告クリエイティブ・エナジーは,平成20年8月ころから,被告製品を合計8万足輸入し,販売し,販売のために展示し,被告サルースは,被告クリエイティブ・エナジーから被告製品を購入して販売している。 原告において,同数の原告製品を製造販売していれば,3000万円以上の利益を得ることができた。 また,被告らによる本件意匠権侵害行為と相当因果関係にある原告の弁護士費用は200万円が相当である。 【被告らの主張】争う。 第4当裁判所の判断1争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について( )被告意匠と本件意匠の構成態様1本件意匠と被告意匠の構成態様は,上記第2・1( ),( )のとおりである。 45原告は,被告意匠の構成態様eに関し,筒部の絞りと絞りの間にこぶ状の膨らみが多数形成されていると主張するが,被告意匠には絞りにともなう自然な縦じわがあることは認められるものの,当該縦じわの深さは比較的浅いものであり,しわとしわの間に本件意匠のようなこぶ状の膨らみを看取することはできない。原告の上記主張は失当である。 ( )被告意匠と本件意匠の対比2上記( )を前提に,被告意匠と本件意匠を対比すると,両意匠には次の共1通点と相違点があることが認められる。 ア共通点(ア)くるぶしからひざ下までの高さを有する筒部と,くるぶしから下の足を収容する靴本体部と,靴本体部の底面に配置した靴底部とからなる長靴である点(共通点1)(イ)筒部に上下方向に間隔をおいて複数の絞りが設けられている点(共通点2)(ウ)靴底部がつま先からかかとに向かって次第に厚くなるいわゆるウエッジソール形状である点(共通点3)イ相違点(ア)本件意匠は筒部の絞りの数が5つであるのに対し,被告意匠は3つである点(相違点1)(イ)本件意匠は筒部の絞りと絞りの間に上下に長い大小のこぶ状の膨らみが多数形成されているのに対し,被告意匠はこぶ状の膨らみはなく,絞りにともなう自然な縦じわがあるにすぎない点(相違点2)(ウ)本件意匠は長靴全体にビニル風の光沢があるのに対し,被告意匠は筒部と靴本体部の表面に織物素材の風合いがある点(相違点3)( )本件意匠の要部3ア意匠の類否を判断するにあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,意匠に係る物品について需要者の注意を惹きつける部分を意匠の要部として把握し,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきものである。 原告は,意匠法24条2項制定後は物品の特定の部分をもって意匠の要部であるとする考え方は採用されないなどと主張する。意匠法24条2項は,意匠の類否判断が「需要者の視覚を通じて起こさせる美感」の類否に基づいて行われる旨を定めているところ,この観点でされる美感の類否判断の手法として,需要者の視覚を通じて起こさせる美感の観点から上記事項を参酌して本件意匠の要部を把握し,被告意匠がその要部における構成態様と共通するか否かを判断することは,むしろ同条項の趣旨に沿うものであり,かかる判断手法が同条項により排斥されたものとする根拠はない。 原告の上記主張は採用できない。 イ物品の性質,用途,使用態様等本件意匠に係る物品は,長靴であるが,その形状からすれば,いわゆる女性用のロングブーツであり,女性が足に着用して使用するものである。 ウ公知意匠証拠(乙7ないし13)によれば,次の事実が認められる(なお,本件意匠の出願前公知意匠として下記の各意匠が存在したことは,当事者間に争いがない。。)(ア)乙7雑誌,乙8雑誌乙7雑誌(2007年7月発行)及び乙8雑誌(2007年9月発行)には,次の構成を有するモンクレール社製の女性用ロングブーツが記載されている。 a筒部に上下方向に間隔をおいて3つの絞りがある。 b絞りと絞りの間が全体的に膨らんでいて張りがある。 c全体的にビニル風の光沢がある。 (イ)乙9雑誌,乙10雑誌乙9雑誌(2006年8月発行)及び乙10雑誌(2006年11月発行)には,次の構成を有するラコステ社製の女性用ロングブーツが記載されている。 a筒部に上下方向に間隔をおいて2つの絞りがある。 b絞りと絞りの間が全体的に膨らんでいて張りがあり,絞りに伴う自然なしわがある。 c筒部は表面がなめらかな布で形成されている。 d靴本体部分は光沢のあるエナメル様の材質で形成されている。 e靴底部分はつま先からかかとに向かって次第に厚くなるいわゆるウエッジソール形状である。 (ウ)乙11雑誌乙11雑誌(2005年12月発行)には,次の構成を有する女性用ブーツが記載されている。 a筒部に上下方向に間隔をおいて3つの絞りがある。 b筒部は革様の薄手の生地で形成されており,絞りと絞りの間には膨らみはほとんどなく,絞りにともなうしわが形成されている。 cかかとがヒール形状である。 (エ)乙12雑誌乙12雑誌(2006年9月発行)には,次の構成を有する女性用ブーツが記載されている。 a筒部に上下方向に間隔をおいて3つの絞りがある。 b筒部は布様の薄手の生地で形成されており,絞りと絞りの間に膨らみはほとんどなく,絞りにともなうしわが多数形成されている。 cかかとがヒール形状である。 (オ)乙13雑誌乙13雑誌(2006年9月発行)には,靴底部分がつま先からかかとに向かって次第に厚くなるいわゆるウエッジソール形状の女性用ロングブーツが複数記載されている。 エ本件意匠の要部本件意匠に係る物品は女性用ロングブーツであり,需要者である女性としては,服装との組合せなどを考慮し,当該ブーツを着用した際に周囲からどのように見えるかなどを意識しながら,当該ブーツの外観全体の形状や質感を重視して商品を選定するものと考えられる。そして,くるぶしからひざ下までの部分である筒部はロングブーツの大部分を占めるものであり,足に着用した際にも周囲の目に付く部分であるから,筒部の形状等については需要者である女性が特に関心をもって観察するものと考えられる。 これに対し,靴本体部は,機能上,女性の足の一般的な形状に合わせる必要があり,女性用ブーツであればいずれも似たり寄ったりの形状にならざるを得ないものであるところ,本件意匠の靴本体部も他の公知意匠と比べて特徴的な形状を有するものではなく,需要者の注意を惹くものとはいえない。また,靴底部も,本件意匠はいわゆるウエッジソールと呼ばれる種類の一般的な靴底形状のものにすぎず(1995年12月発行の大辞泉〔乙14〕にも「かかと部がくさび形をした靴底。多く女性用。ウエッジヒール 」との語義で掲載されている,乙13雑誌にも複数掲載されて 。 。)いるありふれた意匠であり,本件意匠の特徴的部分として需要者の注意を惹くものではないというべきである。 そこで,需要者である女性が特に関心をもって観察すると考えられる本件意匠の筒部の形状を見ると,上下方向に間隔をおいて複数の絞りが設けられているところ(構成態様B ,筒部に絞りを設けること自体は上記ウ )(ア)ないし(エ)の各公知意匠にも見られるありふれた形態であるから,そのような構成態様自体は必ずしも需要者の注意を惹くものということはできない。他方,これら公知意匠に見られる筒部の絞りの数は2つないし3つであるから,本件意匠の絞りの数が5つである点(構成態様D)は,公知意匠にはない新規な構成態様であり,本件意匠に特有のものということができる。そして,本件意匠は,従来の意匠に比して筒部に多数の絞りが設けられることにより,絞りと絞りの間隔が狭くなり,筒部が全体に引き締まって細身のある独特の美感がもたらされており,需要者の印象に強く残るものになっているといえる。 また,本件意匠の筒部の絞りと絞りの間に上下に長い大小のこぶ状の膨らみが多数形成されている点(構成態様E)についても,上記各公知意匠には,筒部の絞りと絞りの間が全体的に膨らんでいて張りがあるもの(上記ウ(ア),(イ))や,絞りにともなうしわが形成されているもの(上記エ(ア),(イ))があることが認められるものの,本件意匠のように絞りと絞りの間にこぶ状の膨らみが多数形成されているものは見当たらないから,この点も公知意匠にはない新規な構成態様であって,本件意匠に特有のものということができる。そして,本件意匠は,同構成態様によって筒部に独特の凹凸のある複雑な立体感がもたらされ,さらに,このような立体感は長靴全体にビニル風の光沢があること(構成態様F)により一層強調され,需要者の印象に強く残るものになっている。 したがって,本件意匠の構成態様D,E及びFは,あいまって,需要者の注意を強く惹きつける部分であり,かかる構成態様をもって本件意匠の要部と認めるのが相当である。 ( )被告意匠と本件意匠との類否4上記のとおり,被告意匠と本件意匠とは,共通点1ないし共通点3の点において共通することが認められる。しかしながら,くるぶしからひざ下までの高さを有する筒部と,くるぶしから下の足を収容する靴本体部と,靴本体部の底面に配置した靴底部とからなる長靴であるという共通点1は,いわゆるロングブーツ一般の基本的形態であり,ありふれた意匠である。共通点2も,上記(3)のとおり,筒部に複数の絞りが設けられていること自体は公知意匠にも見られるありふれた形態であるから,需要者の注意を惹く部分が共通するものとはいえない。また,共通点3も,前示のとおり,本件意匠登録出願前からあるありふれた形態といえるから,この点も需要者の注意を惹く部分の共通点であるとは認められない。 他方,被告意匠と本件意匠の相違点1ないし相違点3は,いずれも本件意匠の要部である構成態様Dないし構成態様Fの点に関する顕著な相違点である。被告意匠は,筒部の絞りが3つと本件意匠に比して少ないため(相違点1 ,絞りと絞りの間隔が本件意匠に比して広くなっており,また,その絞 )りと絞りの間には絞りに伴う自然な縦じわがあるだけで,本件意匠のようなこぶ状の膨らみはない上(相違点2 ,筒部の表面には織物素材の風合いが )あり,本件意匠のようなビニル風の光沢はないことから(相違点3 ,本件)意匠のように筒部が全体に引き締まって細身のある美感や筒部に独特の凹凸のある複雑な立体感のある美感が生じることはなく,本件意匠にはない筒部全体が柔らかくて膨らみのある独特の美感を需要者に起こさせている。 以上によれば,被告意匠は,本件意匠と共通点1ないし3の共通点を有するが,要部において上記のとおり顕著な相違点があり,その他の本件意匠との共通点を考慮しても,全体として相違点が共通点を凌駕し,本件意匠とは美感を異にするというべきである。 したがって,被告意匠は,本件意匠とは類似しない。 なお,前記のとおり,原告は,本件意匠の出願経過において,本件意匠が乙2意匠に類似し,意匠法3条1項3号に該当するとした拒絶理由通知に対し,本件意匠は乙2意匠に類似しないとする意見書を提出したものであるところ,原告は,同意見書の中で 「本願意匠(判決注・本件意匠)の胴部の ,絞り(C)の段数は5段であるところ,引用意匠(判決注・乙2意匠)の胴部の絞りの段数(c)は3段である。胴部の高さと関連して,胴部の絞りの段数は,両意匠を手にとった時にもっとも注目する部分のひとつである 」。 と,胴部の絞りの段数の相違を強調して乙2意匠とは類似しないと主張していたのに,本件訴訟において,胴部の絞りの段数が乙2意匠と同じ3段である被告意匠との類否判断に当たり,段数の相違は需要者に与える美感に影響を及ぼさず,被告意匠は本件意匠に類似するなどと主張することは,出願経過における上記主張と相反するものというほかない。侵害訴訟である本件訴訟において原告が上記主張をすることは,禁反言の法理ないし信義則(民法1条2項,民訴法2条)に違反し,許されないものというべきである。そして,このように解することは,意匠法24条2項とは無関係に導き出されるものであり,同条項が制定されたからといって,かかる主張が許容されるものでないことは明らかである。 2結語以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
別紙物件目録1品名長靴2色彩を問わない3形状別紙図面別紙意匠公報別紙被告意匠説明書1.意匠に係る物品長靴2.意匠の説明物件目録添付の図面のとおり。 左足用は、右足用と対称につき、図面を省略する。 3.色彩被告株式会社クリエイティブ・エナジーの被告意匠に係る長靴は、図面に示すオレンジ色のもののほか、黄色、紫色、灰色、黒色、カーキ色のものがある。 被告株式会社サルースの同意匠に係る長靴は、上記の各色に加えて白色のものがある。 靴底は、いずれも黄土色である。 4.ワッペン被告株式会社クリエイティブ・エナジーの同意匠は、長靴の筒部にワッペンが貼付されているが(左側面図および背面図を参照、被告株式会社サルースの同)意匠には、このワッペンが無い。 |
裁判長裁判官 | 田中俊次 |
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裁判官 | 北岡裕章 |
裁判官 | 山下隼人 |