関連審決 |
不服2008-31724 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10209審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成19行ケ10390審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成21行ケ10051審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成18行ケ10451審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
平成18行ケ10136審決取消請求事件 | 判例 | 意匠 |
関連ワード | 物品 / 物品の形状 / 形状 / 部分意匠 / 意匠に係る物品 / 条約 / 公然知られた(3条1項1号) / 3条1項3号 / 類似する意匠 / 類似の意匠 / 意匠の類否 / 願書の記載 / 登録意匠 / 類似性(類否判断) / パリ条約 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10079号
審決取消請求事件
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原告 スリーエムイノベイティブ プロパティズカンパニー 同訴訟代理人弁理士 伊藤晃大塚雅晴 被 告特許庁長官 同 指定代理人遠藤行久樋 田敏惠豊田純一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/07/07 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2008-31724号事件について平成21年10月23日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの本件意匠登録出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記2のとおり)には,下記3の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲1)及び拒絶査定意匠に係る物品:「呼吸マスク」意匠の形態:別紙審決書(写し)の「別紙第1」(以下「別紙第1」という。)のとおりの部分意匠(以下「本願意匠」という。)出願番号:意願2007-30400号出願日:平成19年(2007年)11月2日パリ条約による優先権主張日:平成19年(2007年)5月3日(アメリカ合衆国)拒絶査定:平成20年9月16日(2)審判請求手続審判請求日:平成20年12月15日(不服2008-31724号)本件審決日:平成21年10月23日本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成21年11月10日2本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願意匠は,下記引用例の第2図及び第3図に現されたマスク(その形態は別紙審決書(写し)の「別紙第2」(以下「別紙第2」という。)のとおり)の本願意匠に対応する部分の意匠(以下「引用意匠」という。)と類似するから,意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当し,意匠登録を受けることができない,としたものである。 引用例:昭和60年実用新案出願公開第116352号(考案の名称「簡易マスク」)の公開実用新案公報(昭和60年8月6日公開。甲2)(2)本件審決が前提とした,本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点は,以下のとおりである。 ア共通点:基本形状をマスクの上縁に沿って屈曲する細幅の帯状としたものであって,具体的な屈曲の態様は,正面視,中央部をなだらかな山状に突出させ,その山裾に相当する部位を一度浅く窪ませた後,その外方の頬骨から口元に当接される部位近辺を再度緩やかに湾曲突出させて,全体が中央を頂点として左右対称に波打つようにした点イ差異点:この左右対称に波打つ態様の延在方向について,本願意匠は,側面視,顔面に対して略平行となる鉛直方向に延在させたのに対し,引用意匠は,顔面に対して略45°となる斜め方向に延在させた点(以下「本件差異点」という。)3取消事由本願意匠と引用意匠との類否判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕(1)意匠の観察方法本願意匠に係るマスクのような,立体物でありかつ形態が不使用時状態,使用直前状態,装着状態(使用時の状態)により変化する物品については,外部から観察される限り,物品の状態や観察方向は限定されるべきではなく,各状態,特に,需要者にとって関心が最も高い装着状態の形態に重きをおいて,当該部分意匠を多方向から三次元的にかつ総合的に観察した上で,部分意匠の形態の特徴を把握するべきである。本願においては,基本六面図が開示されているから,マスク装着状態の再現性があり,装着状態の形態も開示されているのに等しい。 (2)共通点の認定について本件審決は,本願意匠と引用意匠との共通点を,マスクの使用直前状態に限ってかつ正面視のみに限って,大略的に形態を把握して認定しており,その認定は誤りである。両意匠は,マスク上縁の屈曲の態様は,「中央部が山状に上方に突出し,当該突出部から両側に向かって湾曲しながら斜め下方に延在している」という極めて抽象的形態で共通しているとしかいえないのであって,本願意匠の特徴である具体的な波打ち形状については共通していない。 (3)差異点の認定について本件差異点については認めるが,本件審決は,本願意匠と引用意匠との共通点の認定を,正面視の形態に重きをおいて認定し,かつ,認定した共通形態は余りにも大略的であって,具体的な形態について認定していないため,本件差異点以外の,両意匠間の顕著な差異点を看過するに至っている。本願意匠の上縁部は,中央部の山裾から左右の端部に向かって,湾曲の方向が各小山の山裾から頂部にかけて変曲する変曲点を有する波打ち形状を有するという,引用意匠には見られない特徴を有しており,この波打ち形状は,不使用時の状態における平面的形態,使用直前状態における側面形態,装着状態における正面形態,側面形態,前方斜視形態において,特に強く現れ,また,正面視においても,その装着状態では,引用意匠の形態とは異なる波打ち形状が顕著に現れる。 (4)類否判断についてア本件審決には,前記(2)(3)のとおり,共通点の認定の誤りと顕著な差異点の看過があるので,当然の帰結として,本件審決の類否判断は誤りである。 イ本件審決は,全体が中央を頂点として左右対称になだらかに波打つ態様を最も目につきやすい態様と認定し,側面視形態は微差であると判断したが,本件審決の上記判断は誤りである。外部から観察される限り,物品の状態や観察方向は限定されるべきではなく,各状態,特に,需要者にとって関心が最も高い装着状態の形態に重きをおいて,当該部分意匠を多方向から三次元的にかつ総合的に観察した上で,部分意匠の形態の特徴を把握するべきである。 本件審決は,両意匠を正面視のみに偏った観察をしているとともに,使用直前状態の形態のみを観察するものであって,他の状態,すなわち,不使用時状態や装着状態の形態については全く考慮しないという過ちを犯している。 ウ本願意匠の上縁部の波打ち形状は,本願意匠図面が示す使用直前状態においても,正面視,側面視,前方斜視のいずれの観察角度においても,明瞭に観察され,その形態と美感が引用意匠のそれらと相違し,また,使用直前状態の正面図等のみならず,不使用時の折り畳み状態,特に装着状態において引用意匠の対応部分と大きく相違している。 本願意匠の呼吸マスクという物品は,装着時には顔面の一部を構成することになるから,マスクの輪郭は,需要者がマスクを選択するに当たって極めて重要な考慮要素となる。本願意匠に係る部分意匠のマスク上縁部の装着時に現れる上縁ラインは,マスクの最上部,すなわち,マスクと顔面との境界を形成する部分であって,顔面の見栄えつまり人相に大きな影響を与えるので,この上縁ラインは,比較的小さな差異であっても,美感に与える影響が大きい。マスク装着状態において,正面視,本願意匠のマスク上縁ラインは,中央山部を頂点として,その左右に広がる二辺が波打ち形状をなしながら比較的鋭角的に斜め下方に延在するので,顔面に対するフィット感とシャープな視覚的印象を与えるが,これに対して,引用意匠のマスク上縁部は,中央の突出部(山部)の裾部から両側の二辺がその左右に横広がりに大きく広がりかつ円弧状であるので,丸みのある柔らかな視覚的印象を与える。 また,側面視形態が大きく相違している。 よって,両意匠は非類似というべきである。 〔被告の主張〕(1)意匠の観察方法について本願意匠のように形態が変化する物品においては,意匠上重視すべき形態は,その物品の本来的な使用目的を達成する上で必要とされる形態であって,かつ,その物品自体の形態として定常的に観察される自律的な形態とすべきである。すなわち,本願意匠の場合,呼吸マスクという物品の本来的な使用目的を達成するときに観察される自律的な形状である,使用直前状態(願書に添付された図面に現された状態)の形態を重視すべきである。 (2)共通点の認定について原告が引用意匠にはないと主張する左右一対の浅いくぼみは,引用意匠において,中央山部の山裾に明瞭に示されているところである。 したがって,本件審決が,全体が中央を頂点として左右対称に波打つようにした具体的な屈曲の態様を,両意匠の共通点と認定した点に誤りはない。 (3)差異点の認定について本件審決が,本願意匠と引用意匠との具体的形状の比較を,正面図のみに基づいて行っているわけではないことは明らかである。また,マスク上縁の波打ち形状に関し,両意匠は,いずれも中央山部の山裾にくぼみを形成した上で,その外方を再度緩やかに湾曲突出させているのであるから,変曲点を有する波打ち形状が,引用意匠においても形成されていることについては疑いようもない。 よって,波打ち形状について,本件審決に差異点の看過はない。 (4)類否判断についてア本件審決には共通点の誤認も差異点の看過もなく,その判断にも誤りはない。 イ延在方向に差異があるとしても,それがありふれた延在方向に係る差異であるなら,類否判断に影響を及ぼすものでない。 ウ原告は,本願意匠の「変曲点を有する波打ち形状」について,上縁ラインを特に評価すべきであると主張するが,このような上縁ラインは,引用意匠に見られ,また,引用例の第1図にも見られるものであるから,既にありふれた態様というほかない。引用意匠に係るマスクは,従来プレス加工で成形されてきた引用例の第1図に現されたようなマスクを,シート材で形成することを目的として考案されたものであって,マスク上縁に「変曲点を有する波打ち形状」を備えたシート材によって,全体が,略カップ型を模すように形成されることが,引用意匠に係るマスクの特徴をなすものであることは,引用意匠に係る明細書の記載からも明らかである。 そうすると,原告が主張する本願意匠の具体的形態の特徴は,まさしく引用意匠の具体的形態の特徴と重なるものであり,看者に共通の視覚的印象を与えるし,この共通の視覚的印象は看者に共通の美感を起こさせるものである。 したがって,この共通点の類否判断に与える影響が差異点のそれを凌駕するとし,両意匠を類似するとした本件審決の判断に誤りはない。 第4当裁判所の判断1本願意匠と引用意匠との類否について(1)意匠法3条1項3号について意匠法3条1項1号及び2号所定の公知意匠と類似の意匠であることを理由として,同項3号に該当することを理由に意匠登録出願について拒絶するためには,まずその意匠にかかる物品が同一又は類似であることを必要とし,さらに,意匠自体においても同一又は類似と認められるものでなければならない。意匠権の効力は,登録意匠及びこれに類似する意匠にも及び,意匠の類否の判断は需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされているから(意匠法23条,24条2項),同法3条1項3号においては,同一又は類似の物品の意匠間において,需要者の立場からみた美感の類否が問題となる(最高裁昭和45年(行ツ)第45号同49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁,最高裁昭和48年(行ツ)第82号同50年2月28日第二小法廷判決・裁判集民事114号287頁参照)。 (2)物品の類否本願意匠は,意匠に係る物品を「呼吸マスク」とする部分意匠である。引用意匠は,簡易マスクに関するものであり,本願意匠の部分に対応するマスクの上縁部である。 よって,本願意匠に係る物品と引用意匠に係る物品とは,少なくとも類似し,この点について当事者間に争いはない。 (3)意匠の観察方法についてア原告は,本願意匠に係るマスクのような,立体物でありかつ形態が不使用時状態,使用直前状態,装着状態により変化する物品については,外部から観察される限り,物品の状態や観察方向は限定されるべきではなく,各状態,特に,需要者にとって関心が最も高い装着状態の形態に重きをおいて,当該部分意匠を多方向から三次元的にかつ総合的に観察した上で,部分意匠の形態の特徴を把握するべきであると主張する。 イしかしながら,意匠登録を受けようとする者は,願書に意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付しなければならず(意匠法6条1項),通商産業省令で定める場合はこれに代えて意匠登録を受けようとする意匠を現した写真,ひな形又は見本を提出することができ(同条2項),意匠に係る物品の形状等がその物品の有する機能に基づいて変化する場合において,その変化の前後にわたるその物品の形状等について意匠登録を受けようとするときは,その旨及びその物品の当該機能の説明を願書に記載しなければならないとされている(同条4項)。そして,いわゆる基本六面図のほか,斜視図その他の必要な図面を加え,意匠の理解を助けるため必要があるときは,使用の状態を示した図その他の参考図を加え(意匠法施行規則3条,様式第6備考8,14),開くものの意匠であって開き等の意匠の変化の前後の状態の図面を描かなければその意匠を十分表現することができないものについては,意匠の変化の前後の状態が分かるような図面を作成すべきものとされている(同様式第6備考20)。 したがって,出願人たる原告において,不使用時状態,使用直前状態及び装着状態とで,意匠に係る物品の形状が変化するというのであれば,本来,適宜の必要な図面を加え又は意匠の変化の前後の状態が分かるような図面を作成すべきものであるところ,原告は,願書に,折り畳むとフラットな状態になることは記載しているものの,装着状態が別紙第1記載の図面とは異なるものであることを記載していないし,装着状態の説明もなく,別紙第1記載の図面以外の図面等を提出していない(甲1)。そして,登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真,ひな形若しくは見本により現された意匠に基づいて定めなければならないとされていること(意匠法24条1項)に照らしても,願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真,ひな形若しくは見本により現された事項及びここから認識できる事項以外の事項を考慮して本願意匠を認定し得るとすることは,相当でない。 また,意匠は物品の形状等であるところ(意匠法2条1項),呼吸マスクの装着状態は,これを装着する者の顔面の大きさや輪郭線,装着の仕方等によって変形し得るものであり,特に本願意匠のような,呼吸マスクの外縁部分の一部である帯状の部分のみを対象とする部分意匠においては,その図面によることなくその態様を認定することが困難である。そして,原告において,別紙第1の図面に記載された形態が,呼吸マスクの使用直前状態を現すものと主張するところ,その状態は,呼吸マスクという本願意匠に係る物品自体の形態として通常観察される状態であり,上記図面に記載され,又はこれにより現された意匠に基づいて,本願意匠を認定することに,誤りはない。 なお,検甲第1,2号証は,本願意匠及び引用意匠の近似実施品又は製作見本であるから,これを装着して撮影した写真(甲6の1)による比較は,正確なものとはいえない。 (4)類否判断の前提となる事実ア本願意匠の構成について本願意匠は,別紙第1の図面に記載のとおりのものであり,上方パネル,中央パネル及び下方パネルの3区画から成る呼吸マスクの上方パネルの外縁部についての意匠であり,マスクの上縁部に沿った細い帯状の部分である。 本願意匠の構成態様は,使用直前状態の正面視によれば,全体が略円弧状で,その中央部が山状に上方に突出し,当該突出部から左右対称に両側に向かって湾曲しながら斜め下方に伸びる曲線であり,背面視もほぼ同様である。平面視によれば,左右方向になだらかに波打つような曲線からなる。側面視によれば,上下方向になだらかに波打つような曲線からなる。具体的な湾曲の態様は,中央部が山状に突出し,左右対称にその両側に浅い凹状の湾曲があり,さらにその外側が緩やかに凸状に湾曲することにより,緩やかな波打ち状に形成されている。 イ引用意匠について引用意匠は,別紙第2の図面に記載された簡易マスクのうち,本願意匠の部分に対応するマスクの上縁部に沿った細い帯状の部分についてのものである。 引用意匠の構成態様は,正面視によれば,全体が略円弧状で,その中央部が山状に上方に突出し,当該突出部から左右対称に両側に向かって湾曲しながら斜め下方に伸びる曲線である。側面視によれば,斜め方向になだらかに波打つような曲線からなる。具体的な湾曲の態様は,中央部が山状に突出し,左右対称にその両側にやや丸みを帯びて凸状に湾曲している。 ウ本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点上記ア,イによれば,本願意匠と引用意匠とは,正面視,全体が略円弧状で,その中央部が山状に上方に突出し,当該突出部から左右対称に両側に向かって湾曲しながら斜め下方に伸びる曲線である点において共通する。もっとも,その湾曲の具体的態様は,本願意匠は,山状に突出した中央部の両側に浅い凹状の湾曲があり,外側の凸状の湾曲が,引用意匠の方がやや丸みを帯びている点において相違する。 また,側面視において本件差異点があることは,当事者間に争いがない。 (5)両意匠の類否ア本願意匠が呼吸マスクの上縁部に関する部分意匠であることにかんがみると,本願意匠と引用意匠とを全体として観察した場合,意匠全体の支配的な部分を占め,全体として一つの意匠的なまとまりを形成し,需要者に視覚を通じて一つの美感を与えて,需要者の注意を強く惹くのは,正面視における形状というべきである。そして,正面視,全体が略円弧状で,中央部が山状に上方に突出し,当該突出部から左右対称に両側に向かって湾曲する曲線であるという態様は,基本形状が細い帯状を呈する中にあって,類否判断に極めて大きな影響を及ぼすものであり,この点において本願意匠と引用意匠とは共通するから,需要者の視覚を通じて起こさせる美感は,類似する。 なお,両意匠を対比すると,正面視における具体的な湾曲の態様には,上記 ウのとおり相違する点もあるが,その相違はわずかである上,本願意匠における浅い凹状の湾曲を含む形状は,本件出願前から普通に見られる態様であって(乙3ないし6),このような部分的差異があっても,需要者の視覚を通じて起こさせる全体から生じる美感に与える影響は少ない。 また,両意匠の側面視における本件差異点,すなわち,本願意匠が上下方向(顔面に対して略平行となる鉛直方向)であるのに対し,引用意匠が斜め下方(顔面に対して略45°となる斜め方向)である点において相違するものの,本願意匠のようにこれが上下方向である態様は,本件出願前から普通に見られる態様であって(甲4,5,乙1),ありふれた形状といわざるを得ないから,このような部分的差異があっても,需要者の視覚を通じて起こさせる全体から生じる美感に与える影響は少ない。 よって,具体的な湾曲の態様における相違点及び側面視における本件差異点は,特段の看者の注意を惹くものではなく,類否判断に及ぼす影響は大きいとはいえず,引用意匠との上記相違点及び本件差異点が,正面視,全体が略円弧状で,中央部が山状に上方に突出し,当該突出部から両側に向かって湾曲する曲線であるという共通点を凌駕するものとはいえない。 イ以上説示したところによれば,本願意匠は,需要者に全体として引用意匠と共通の美感を生じさせる意匠的効果を有するものと認めるのが相当であり,差異点に係る本願意匠の形態から生じる意匠的効果は,ありふれたものであって,意匠全体としては,引用意匠と類似のものといわざるを得ない。 ウ原告は,両意匠の具体的な波打ち形状は共通しておらず,本願意匠の上縁部は,中央部の山裾から左右の端部に向かって,湾曲の方向が各小山の山裾から頂部にかけて変曲する変曲点を有する波打ち形状を有するという,引用意匠には見られない特徴を有していると主張する。 しかしながら,意匠の類否判断は,全体的観察を中心に,これに部分的観察を加えて,総合的な観察に基づいてされるべきところ,意匠全体の支配的な部分を占め,全体として一つの意匠的なまとまりを形成し,需要者に視覚を通じて一つの美感を与える構成態様を軽視し,細部の形状などの具体的態様のみを重視することはできない。そして,本願意匠と引用意匠との具体的な湾曲の態様が異なるとしても,その差異は,微細なものであり,全体の形状の共通点を凌駕するものとまではいえないことは,前記のとおりであって,部分意匠の類否判断の結論に影響を及ぼすものであるとはいえない。このように,本願意匠と引用意匠とは,全体として,基本的かつ特徴的な形状を共通としているものであり,このような中で見られる上記相違点は,両意匠の特徴的な形状ということはできず,両意匠の類否判断には影響を及ぼさないものというべきである。 エ原告は,本願意匠の上縁部の波打ち形状は,特に装着状態において引用意匠の対応部分と大きく相違すると主張する。 しかしながら,そもそも,本件出願において装着状態の意匠に係る図面は提出されておらず,願書に添付された図面に記載されている事項及びここから認識できる事項以外の事項を考慮すべきでないことは,前記のとおりである。また,原告が本願意匠に係るマスクの装着状態を示すものとして提出した写真(甲6の1の写真1-3)及び引用意匠に係るマスクの装着状態を示すものとして提出した写真(同2-3)による比較が正確でないことも,前記のとおりであるが,これらの写真によれば,装着状態においては,本願意匠においても,側面視,斜め下方に波打つ曲線を描いており,むしろ,この点においても,引用意匠の側面視と共通することになってしまうものであって,原告の上記主張は,失当である。 (6)本件審決の類否判断の当否以上のとおり,本願意匠は,引用意匠とその意匠に係る物品が類似し,さらに,両意匠が類似するものと認められるので,本件審決の判断は,結論において相当である。 2結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 高部眞規子 |
裁判官 | 井上泰人 |