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関連審決 不服2004-12949
関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  意匠公報に掲載 /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項3号 /  広く知られた /  類似の意匠 /  意匠の類否 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10643号 審決取消請求事件
原告 株式会社チューオー
訴訟代理人弁理士 山名正彦,井上知久,関陽一,弁護士 田路至弘,吉野彰, 圓道至剛,沖田美恵子,富岡孝幸,中山靖彦,八木宏,石川智史,服部真理,栗原 さやか,福谷賢典
被告 特許庁長官中嶋誠
指定代理人 西本幸男,藤正明,青木博文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/01/18
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2004-12949号事件について平成17年7月4日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,原告が,後記本願意匠の登録出願をしたが拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願意匠 登録出願人:株式会社チューオー(原告) 意匠に係る物品:「建築用壁板材」 意匠の形態:別紙第1「本願意匠」(本判決末尾添付)のとおり。
登録出願日:平成15年9月25日(意願2003-27957号) (2) 本件手続 審判請求日:平成16年6月24日(不服2004-12949号) 審決日:平成17年7月4日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成17年7月25日(原告に対し) 2 審決の理由の要点 (1) 審決は,引用意匠として,「特許庁発行の意匠公報に掲載された意匠登録第979915号の類似第1号の意匠であって,同公報の記載によれば,意匠に係る物品を『壁板材』とし,その形態は,同公報に記載のとおりのものである(別紙第2参照)。」と摘示した(判決注:別紙第2「引用意匠」を本判決末尾に添付した。)。
(2) 審決は,「当審の判断」として,次のとおり認定判断した。
「(1) 本願意匠と引用意匠は,意匠に係る物品が,ともに建築用の壁板材に係るものであって共通する。
(2) 両意匠の形態について,主として以下の共通点と差異点が認められる。(本願意匠の正面図を,左に90度回転させた態様で比較する。) まず,共通点として,全体が,正面図において左右に連続する薄板状の長尺材で,正面側の平坦な板面に,凹溝部を等間隔水平状に多数本設けて,いわゆる正面部を横縞凹凸形状に形成したもの(以下,正面側に凸状に表れる部分を凸状部という)で,上端部及び下端部に,それぞれ壁板を連接するための係合部を形成した基本的構成態様のものである点が認められ,各部の具体的態様において, (あ) 凹溝部の側面視につき,凸状部の縦幅より狭い縦幅で,背面側に向かってすぼまる倒台形状とし,板厚の略2分の1の厚さとしている点, (い) 上端部の係合部につき,背面に略面一致状に延設したやや長い薄板状の上端背面係合片と,正面側の凹溝部の底面側に配した短くやや厚板状の上端正面係合片からなる,いわゆる雄係合部を形成している点, (う) 下端部の係合部につき,凸状部を兼ねて設けたやや厚みのある下端正面係合片と,背面側をわずかに切り欠いた態様で突出状に設けた薄板状の下端背面係合片からなる,いわゆる雌係合部を形成している点, (え) 上下方向に壁板材を連接させた使用状態時の係合部の形状について,上方壁板材の下端正面係合片と下方壁板材の上端正面係合片とで形成される凹溝部の縦幅が他の凹溝部の縦幅と略同長である点,が認められる。
次に,差異点として, (ア) 上端部を除く凹溝部につき,本願意匠は,8本の凹溝部を設け,該凹溝部の縦幅を凸状部の縦幅の略0.6倍長としているのに対して,引用意匠は,5本の凹溝部を設け,該凹溝部の縦幅を凸状部の縦幅の略0.5倍長としている点, (イ) 上端部の上端正面係合片につき,本願意匠は,先端寄りを凹溝部の底面より1段段落ちして突設しているのに対して,引用意匠は,凹溝部の底面と面一致状に突設しており,その先端部をくさび状の傾斜面としている点, (ウ) 下端部の下端正面係合片の内側(背面側)につき,本願意匠は,わずかに段落ち状の切り欠き部を形成しているのに対して,引用意匠は,切り欠き部を有しない点,が認められる。
(3) そこで,上記共通点及び差異点が両意匠の類否判断に及ぼす影響について以下に検討する。
両意匠の共通する態様,すなわち,全体が,正面図において左右に連続する薄板状の長尺材で,正面側の平坦な板面に,凹溝部を等間隔水平状に多数本設けて,いわゆる正面部を横縞凹凸形状に形成したもので,上端部及び下端部に,それぞれ壁板を連接するための係合部を形成した基本的構成態様は,全体の大部分を占め,両意匠の全体の基調を形成し,共通する各部の具体的態様(あ)ないし(え)と相まって,類否の判断に大きな影響を及ぼすものと認められる。
一方,両意匠の差異点について, (ア)の点につき,まず,凹溝部の数の差は,この種物品において,その数を加減することが普通に行われている中での,わずかな差異に止まるものであり,両意匠は,ともに上下方向に壁板材を連接させた使用状態時の係合部の形状において,上方壁板材の下端正面係合片と下方壁板材の上端正面係合片とで形成される凹溝部の縦幅が他の凹溝部の縦幅と略同長であることから,壁面全体が1枚板状に見えることを勘案すると,この点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものといわざるを得ない。
次に,凹溝部と凸状部の縦幅の長さの差異は,子細に観察すればわかる程度の微細な差異に過ぎず,全体として観察すると,ほとんど目立たない差異であるから,類否判断に与える影響は微弱である。
(イ)及び(ウ)の点は,いずれも係合片の先端部分の形状に係る部分的な差異であって,使用状態時には係合部同士の内側に隠れてほとんど見えなくなる部位であることを勘案すると,この点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱にすぎない。
そうすると,これらの差異点は,いずれも微弱なものであるから,形態全体としてみた場合,両意匠の類否判断に与える影響は小さいものであって,これらの差異点を総合し相まった効果を考慮しても,前記共通点を凌駕して,類否判断を左右するほどのものとは認められない。
したがって,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても前述のとおり差異があっても,全体の基調を形成するところにおいて共通するから,全体として類似するというほかない。
(4) 以上のとおり,本願意匠は,意匠法3条1項3号の意匠に該当し,同法同条同項柱書きの規定により意匠登録を受けることができない。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 本願意匠と引用意匠とは,正面側の凹凸形状が異なる上に,専門業者,取引者,需要者,設計者,施工業者らに特に注意深く観察される実矧ぎ形状(上下両端の雌・雄係合部の形状)に一見して明白な差異点が認められ,その結果,上下方向に板材を連接させた使用状態時の形状に格別な差異点をもたらすことが明らかである。
しかし,審決は,そうした差異点を顧慮することなく,「両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態においても前述のとおり差異があっても,全体の基調を形成するところにおいて共通するから,全体として類似するというほかない」と結論付けたものである。
審決の認定判断は,この種の物品の意匠に関する既往の判決(東京高裁平成11年5月25日判決〔平成10年(行ケ)第377号事件〕,同平成11年6月8日判決〔平成10年(行ケ)第394号事件〕,同昭和49年6月26日判決〔昭和48年(行ケ)第93号事件〕その上告審である最高裁昭和52年6月7日判決〔昭和49年(行ツ)第93号事件〕)及び意匠登録の事実(甲5〜11,2及び4)に照らして,誤りであることは明らかであり,審決は,取消しを免れない。
2 本願意匠と引用意匠の対比検討(差異点) (1) 審決は,共通点(い)として,上端部の係合部につき,「背面に略面一致状に延設したやや長い薄板状の上端背面係合片」を挙げる。
(a) 本願意匠は,上端背面係合片が背面に略面一致状に延設されている。
一方,引用意匠の上端背面係合片は,背面の外装板の板厚1枚分だけ正面側へ偏倚した位置から延設されている。この上端背面係合片は,建物外壁の下地へ釘打ち固定するための板部分である。
したがって,本願意匠の場合,上端背面係合片は背面の建物外壁面にぴったり密着して接し,隙間を生じない。一方,引用意匠の場合は,前記のとおり上端背面係合片は外装板の板厚1枚分だけ正面側へ偏倚した位置から延設されているので,たとえ強く釘打ち固定しても建物外壁面との隙間を完全になくすることはできないし,無理に強く釘打ち固定すると,上端背面係合片自体に曲げを生じさせ歪な形状となる。よって,この点の差異は当業者に注目される。
(b) また,本願意匠の場合,上端背面係合片には高さ方向の中間よりも少し高い位置に,正面側へ小さく山形に屈曲された「水返し」が形成されており,釘を打つ位置は前記「水返し」よりも高い位置であることを施工業者に視覚的に明示して認識させるから,施工の均一性を確保できる。そして,この実矧ぎ接合部へ万が一にも浸入するかもしれない雨水を前記「水返し」により確実に防止する機能を認識させる。
しかし,引用意匠の上端背面係合片には前記「水返し」に相当する形状要素がなく,平坦形状であり,雨水の浸入防止手段を認識させないから,この点も当業者に一見して有意な差異点として感得される。
(c) なお,上記上端背面係合片が,本願意匠の場合は「背面に略面一致状に延設」し,引用意匠は背面に若干の隙間を形成する点について,審決も,一応,差異点(イ)に挙げているが,前記「水返し」の有無の点も含めて十分適切な認定判断がなされていない。
(2) 審決は,共通点(い)として,上端部のいわゆる「雄係合部」につき,「正面側の凹溝部の底面側に配した短くやや厚板状の上端正面係合片からなる,いわゆる雄係合部を形成している」と大雑把な共通性を展開する。
しかし,本願意匠及び引用意匠に上記のような共通点はないというべきである。
すなわち,本願意匠の場合は,正面側の凹溝部の底面の上端を背面側へ略直角に屈曲させて,同凹溝部の底面下に視認される板厚(図上約11o)に対して約3o程度の「段差」を形成した上で,上端正面係合片を立ち上がらせている。しかも該上端正面係合片は外装板を単純にUターンさせ略ぴったり折り重ねた,外装板の厚さ2枚分相当の「薄板状」で小さい「雄係合部」が形成されている。
一方,引用意匠の場合は,正面側の凹溝部の底面の上端近傍に,図上の長さにして約6.5o部分(因みに同底面の全長は図上約38o)を背面側へ角度にして約28°の鋭角状傾斜面に形成し,その先端を背面側において直角に折り返し,凹溝部の底面下の板厚が約18.5oであるところ,実質約9.5oと「厚板状」の上端正面係合片からなる「雄係合部」を形成している。
したがって,引用意匠には「段差」がなく,また,両意匠の「雄係合部」は「薄板状」と「厚板状」の対照的な差異を有することが一見して明白である。 なお,審決は,前記凹溝部の底面の上端を背面側へ直角に屈曲させた「段差」の存在については,一応,差異点(イ)に挙げているが,視点が当業者の認識とかけ離れ局所的に小さ過ぎ,十分適切な認定判断になっていない。
(3) 審決は,共通点(う)として,下端部の係合部につき,「凸状部を兼ねて設けたやや厚みのある下端正面係合片と,背面側をわずかに切り欠いた態様で突出状に設けた薄板状の下端背面係合片からなる,いわゆる雌係合部を形成している」と大雑把な共通性を展開する。
しかし,本願意匠の場合は,下端正面係合片の背面部先端に,上述した上端部の雄係合部の正面側の凹溝部底面の上端を背面側へ直角に屈曲させて形成した「段差」の上に重なり突き当たる略直角形状の「内隅部」が形成されている。その上で,外装板を上向きのUターン形状に折り返して下端背面係合片を形成している。
したがって,雌係合部は上記「薄板状」の雄係合部がほぼぴったり嵌る程度に「細口幅」に形成されている。
一方,引用意匠の場合は,下端正面係合片の背面部は単純に垂直面として形成され,本願意匠における略直角形状の「内隅部」に対応する形状を有しないので,その分だけ雌係合部は「広口幅」に形成されている。しかも,引用意匠の雌係合部は,外装板をほぼ矩形状に折り返して角張った矩形状となっているので,「広口幅」の形態の印象がより強いものになっている。
その結果,本願意匠と引用意匠は,雌係合部の形態だけを見比べても,「細口幅」と「広口幅」という形態の対照的差異が注目され,まるで異なる美感を起こさせる。
(4) 審決は,共通点(え)として,上下方向に板材を連接させた使用状態時の形状についても,「上方壁板材の下端正面係合片と下方壁板材の上端正面係合片とで形成される凹溝部の縦幅が他の凹溝部の縦幅と略同長である」と,上下の壁板材を連接する上下の係合部の連接形態(実矧ぎ形状)の差異点について全く顧慮しない認定判断で共通点を強弁しており,誤っている。
すなわち,本願意匠と引用意匠は,壁板材を連接した際の実矧ぎ形状はまるで相違しており,共通点といえる形状要素は見当たらない。
審決の誤りの要因は,上記(1)〜(3)に詳述したとおり,実矧ぎを形成する右側面図上下両端の「雌・雄係合部」の形状の差異点を看過,誤認しているからにほかならない。
特に連接形態(実矧ぎ形状)の差異点について主張すると,引用意匠の場合は,「厚板状」の上端係合片を「広口幅」の雌係合部へ単純に挿入して,同上端係合片の上端を「広口幅」の雌係合部の天井面へ突き当てた,いうなれば単純な嵌め合わせ構造の形態にすぎない。もっとも,上端係合片が「厚板状」をなすから,「雌係合部」を下から支持する形態に安定感を感得させる。
一方,本願意匠の場合は,下端係合部を形成する下端正面係合片の背面先端に形成した略直角形状の「内隅部」が,上端係合部を形成する正面側の凹溝部底面の上端を背面側へ直角に屈曲させた「段差」の上にまず乗って突き当たり,ここで嵌め合わせの奥行き深さが規制されている。その上で,「薄板状」をなす上端正面係合片が,「細口幅」の雌係合部へ挿入され,同雌係合部奥端のシール材を圧迫して水密性の高い連接構造を実現している。前記「内隅部」が「段差」の上に乗って突き当たり上側壁板材が支持されるので,上端正面係合片が「薄板状」であることが,見た目の脆弱さを感得させない。のみならず,「薄板状」の上端正面係合片がシール材を必要以上に圧迫しない構造を実現する形態であることが看者の注意を引き,構造的な納得感を与える意匠になっている。
上記のとおり,本願意匠と引用意匠は,上下方向に板材を連接させる上下両端の雌・雄嵌合部の形状の差異,及びその使用状態時の形状の差異点が,専門業者,取引者,需要者,設計者,施工業者らに特に注意深く観察される結果,意匠全体の美感に差異を感得させ明瞭に区別,識別されることは明らかである。
(5) 本願意匠は建築用壁板材であるところ,その需要者は,同壁板材により実際に建築を行う又は実際に同壁板材による設計態様を考察し,その各板材の性質に注意して選択購入する施工業者や設計業者にほかならず,同壁板材を一部とする建築物の購入者ではない。
そして,上下端係合片に係る形状は,建築用壁板材の需要者である施工業者・設計業者にとって強く目を引かれ,また,注意して購入を決定する部分であって,建築用壁板材にかかる意匠の類否判断に当たっては,この点を要部として全体的な観察を行い,異なる美感を与えるものであるか否かを判断すべきものである。
被告の主張の要点
1 審決の認定判断に誤りはなく,審決を取り消すべき理由はない。 一般に,意匠の類否は,当該対比に係る本願意匠及び引用意匠ごと個々に判断されるべきであり,原告主張に係る判決例及び意匠登録例があるからといって,本件の類似の判断を左右するものではない。また,意匠の類否は,両意匠の共通点及び差異点を総合して意匠全体として判断すべきものであって,他の共通点及び差異点を考慮することなしに,「雄・雌係合部」の差異点があれば,直ちに非類似の意匠であるといえるものではない。
2 本願意匠と引用意匠の対比検討(差異点)の主張に対して (1) 「上端背面係合片」の形状について 上端背面係合片の位置において,背面に略面一致状に延設されているか,背面の外装板(裏面材)の板厚1枚分だけ正面側に偏倚した位置から延設されている点についてみると,引用意匠の裏面材の厚みは,実際の厚さの縮尺比率より大きく(厚く)表すことが普通に行われているところであり,引用意匠についても,この種物品の一般的な板厚のもの(乙4)に照らせば,その厚さが極薄いものであって,表面材と裏面材が同厚のものであるとしても,壁面との間にできる隙間が,ほぼ無視できる程度に僅かなものであることは,当業者であれば容易に推認できるものであり,審決が,この点を差異点として取り上げていないとしても,両意匠の類否判断に影響を及ぼすほどのものではないから,審決に誤りはない。
次に,上端背面係合片において,本願意匠には,水返しが形成されているのに対して,引用意匠には水返しがない点について,本願意匠のように上端背面係合片の高さ方向の中間よりも少し高い位置に,正面側へ小さく山形に屈曲された水返しを形成したものが,この種物品において本願意匠の出願前に広く知られており,このこと自体本願意匠のみの特徴といえるものではないから,格別看者の注意を引くものでもなく,この水返しが,極細幅で突出の程度も僅かなものであって,意匠全体としてみた場合,格別目立つものでなく,両意匠の類否判断に影響を及ぼすものではないから,この点を差異点として取り上げていないとしても,審決に誤りはない。
(2) 「上端正面係合片」の形状について 原告の主張する,「段差部の有無,及び上端正面係合片の板厚の差異点」は,全体として観察した場合,部分的かつ微細な差異に止まり,本願意匠の段差部及び板厚の態様も出願前に公然知られているところであるから,類否判断に影響を及ぼすものとはいえず,これらの点について,原告が主張するような子細な点についてまで取り上げなかったとしても,審決に誤りはない。
(3) 「下端正面係合片」の形状について 下端正面係合片の内隅部の有無,及び,下端正面係合片と下端背面係合片の間の凹陥部が細口幅か広口幅かの差異は,いずれも,連接した際相対する上端正面係合片の形状と相似していることに伴うものであり,上述の上端正面係合片の判断と同様に,全体として観察した場合,部分的かつ微細な差異に止まり,本願意匠の態様も出願前に公然知られているところであって,類否判断に影響を及ぼすものとはいえないから,これらの点について,原告が主張するような子細な点まで取り上げなかったとしても,審決に誤りはない。
(4) 「使用状態時」の形状について 原告の主張は,審決が共通点(え)として挙げた使用状態時の形状について,あくまでも係合部の断面形状のみにこだわり,建物の外側に取り付けた時の仕上がり状態,すなわち,使用状態時の係合部の正面側の態様について何ら考慮していない。
すなわち,この種壁板材を用いた使用状態時において,壁板材同士の係合部分には,通常継ぎ目の形状が正面側に現れることが多い中,本願意匠及び引用意匠においては,この継ぎ目の形状が正面側に現れず,係合してできる凹溝部の縦幅が,凸状部の間の凹溝部と略同長であることにより,凸状部と凹溝部のパターンを水平状に繰り返し形成するものであって,使用態様時の壁面全体の正面が,あたかも凹凸形状を繰り返す1枚板状で形成されているかのような印象を与えるものであり,共通するとした具体的な凹溝部の形状,すなわち,凸状部の縦幅より狭い縦幅で,背面側に向かってすぼまる側面視倒台形状とした形状と相まって,全体として強い共通感を看取させるものである。
(5) 本願意匠と引用意匠との類否について 本願意匠が属する分野の事情を考慮し,この種壁板材という物品の性質に照らせば,いずれもその差異は類否判断を左右するほどのものとは認められない。
なぜなら,本願意匠は,建物の外側に多数枚連接して取り付けられるものであり,その取り付けた状態において,外から見えるのは正面側の板面であって,係合部はほとんど見えなくなることから,一般的に,購入者は,その正面側の態様,すなわち凹凸模様の有無,色彩等の如何によって選択するものであり,その後施工業者は,その正面側の態様を考慮して,風雨に耐えうるように設計されているか,あるいは,施工が容易にできるか等の技術的観点から係合部の形状等を見て選択するものである。そうすると,この種壁板の意匠の要部は,一義的には正面側の態様にあって,意匠の類否判断において係合部の態様は,正面側の態様に比べて相対的に小さいと言うべきものである。
すなわち,両意匠は,正面側の平坦な板面に,凹溝部を等間隔水平状に多数本設けて,いわゆる正面部を横縞凹凸形状に形成し,上端部及び下端部に,それぞれ壁板を連接するための係合部を形成した態様のもので,凹溝部が,凸状部の縦幅より狭い縦幅で,背面側に向かってすぼまる側面視倒台形状とし,使用状態時においては,上方壁板材の下端正面係合片と,下方壁板材の上端正面係合片とで形成される凹溝部の縦幅が他の凹溝部の縦幅と略同長であって,正面側に継ぎ目が表出しないことから,壁面全体の正面が,あたかも凹凸形状を繰り返す1枚板状で形成されているかのように見えるものであって,その全体の態様に強い共通感が認められる。
当裁判所の判断
1 原告は,本願意匠と引用意匠の対比検討(差異点)として,種々主張するので,まず,これらについて検討する。
(1) 前記第3,2(1)の原告の主張について (a) 甲2によれば,確かに,引用意匠の上端背面係合片は,背面の裏面材(外装板)の厚さ分だけ正面側へ偏倚した位置から延設されていることが認められる。
しかし,甲1によれば,本願意匠においても,上端背面係合片は,背面の裏面材の厚さ分だけ正面側へ偏倚した位置から延設されていることが認められる(甲1の【C-C部拡大図】によれば明らかである。また,甲1には,裏面材が「金属板等からなる」との説明部分もあり,当然に一定の厚さが予定されている。なお,審決の別紙第1(本判決の末尾にも同じものを添付)においても【C-C部拡大図】が記載されているが,甲1における【C-C部拡大図】を縮小して掲載したために,裏面材の厚さが認識されにくくなっている。)。原告は,本願意匠の上端背面係合片は,「背面に略面一致状」に延設されている(下線は裁判所が付した。)と主張し,完全な面一致状ではないことは認識しているようであるが,いずれにしても,証拠によれば,上記のとおり,本願意匠においても,上端背面係合片は,背面の裏面材の厚さ分だけ正面側へ偏倚した位置から延設されていることは明らかである。
したがって,引用意匠と本願意匠が上記の点において本質的に異なっているものとは認められない。
なお,上記の各図面を見る限り,引用意匠と本願意匠とでは,裏面材の厚さの程度が異なるかのようではあるが,図面の性質上,説明の便宜を考えて縮尺の厳密さはやや犠牲にされ,厚みの薄いものをやや厚めに記載することがままあることをも考慮すれば,両者の図面の記載からうかがえる裏面材の厚さ(すなわち上端背面係合片が裏面材から正面側へ偏倚した程度)が看者に強い印象を与えるものと認めることは困難である。
審決は,以上の説示と同じ趣旨において,「背面に略面一致状に延設した」(下線は裁判所が付した。)という点を共通点と認定したものと解されるのであって,この認定に誤りがあるとはいえない。
(b) 次に,甲1によれば,本願意匠には,原告主張の「水返し」が存在するが,甲2によれば,引用意匠には,そのような「水返し」が存在しないものと認められる。しかし,本願意匠における「水返し」の構成は,本願意匠の出願前から広く知られたものであって(乙4,5,甲4),格別に看者の注意を引くものとは認められないのであって,審決がこの点を差異点として指摘しなかったからといって,審決の結論に影響を与えるような違法があるとまではいえない。
(c) 以上によれば,前記第3,2(1)の原告の主張は,採用の限りではない(なお,原告の主張中には,差異点(イ)に言及する部分があるが,上記争点についての判断に直接に影響するものとは解されない。)。
(2) 前記第3,2(2)の原告の主張について 甲1,2によれば,本願意匠と引用意匠とを子細に対比すれば,「段差」の有無及び上端正面係合片からなる雄係合部の厚さといった原告主張の差異があることは認められる。
しかし,乙6にみられるように,本願意匠の出願前から,上端部分の表面材を背面側に略直角に屈曲させて段差を形成した上で立ち上がり部を突設し,立ち上がり部は薄板状のものとする構成は公然知られたものである(確かに,本願意匠と乙6の意匠とでは,凹溝部の底面より段落ちしているか否かなどの点において異なっているが,段差を形成して薄板状の立ち上がり部を突設した形状である点では変わりがない。)。これに加え,原告が指摘する点は,子細に観察してわかる程度の差異で,意匠全体においては微細な差異に止まるものであり,しかも,建築用壁板として使用する状態では,接合部に隠れて見えない部位であることをも考慮すれば,意匠の類否判断に与える影響は弱いものといわざるを得ない。そうすると,審決が共通点(い),差異点(イ)という程度の認定をし,前記のように類似性を肯定した判断をしたことに違法があるということはできない(審決の共通点及び差異点の認定にやや厳密さを欠く憾みがないわけではないとしても,その点が意匠全体の類否判断に及ぼす影響は軽微であると認められるのであるから,審決の結論に影響を与えるような違法があるとまではいえない。)。
よって,前記第3,2(2)の原告の主張は,採用することができない。
(3) 前記第3,2(3)の原告の主張について 甲1によれば,本願意匠の下端係合部には,原告が主張する「内隅部」が存在するが,甲2によれば,引用意匠の下端係合部には,これに相当するものが存在しないことが認められ,甲1と甲2を対比してみるならば,本願意匠の下端の雌係合部は,引用意匠の下端の雌係合部に比べて「細口幅」に形成されていることが認められる。
しかし,この下端係合部の構成は,前記(2)で検討した上端係合部における「段差の有無」及び雄係合部の厚さに対応して,上端と下端で係合するように構成されたものであることはいうまでもないところであり,意匠としてはいわば表裏の関係にある。よって,前記(2)で判示したところと同旨のことを指摘し得る。
すなわち,乙6にみられるように,本願意匠の出願前から,下端正面係合片の背面部先端に「内隅部」(雄係合部の段差に対応)を形成し,比較的「細口幅」の雌係合部(雄係合部の薄板状の部材に対応)を形成するものとする構成は公然知られたものである(本願意匠と乙6の意匠との違いはあるが,本文掲記の形状である点では変わりがないことは,前判示と同様である。)。これに加え,原告が指摘する点は,子細に観察してわかる程度の差異で,意匠全体においては微細な差異に止まるものであり,しかも,建築用壁板として使用する状態では,接合部に隠れて見えない部位であることをも考慮すれば,意匠の類否判断に与える影響は弱いものといわざるを得ない。そうすると,審決が共通点(う)という程度の認定をし,前記のように類似性を肯定した判断をしたことに違法があるということはできない(審決の認定にやや厳密さを欠く憾みがないわけではないとしても,その点が意匠全体の類否判断に及ぼす影響は軽微であると認められるのであるから,審決の結論に影響を与えるような違法があるとまではいえない。)。
よって,前記第3,2(3)の原告の主張は,採用することができない。
(4) 前記第3,2(4)の原告の主張について 原告は,上記(1)ないし(3)における原告の主張にあるような「雌・雄係合部」の形状の差異点を審決が看過,誤認しているから,審決は,使用状態時の形状に関する共通点(え)の認定において,上下の壁板材を連接する上下の係合部の連接形態(実矧ぎ形状)の差異点について全く顧慮しないで,誤った認定判断をした旨主張する。
しかし,上記(1)ないし(3)における原告の主張する点については,既に判示したとおりである。加えて,甲1,2によれば,本願意匠と引用意匠は,ともに,使用状態時においては,下端正面係合片が上端正面係合片に被さることによって,壁面全体があたかも1枚の板状のものであるかのように見えることに共通の特徴があるものであり,使用状態時には,「雌・雄係合部」の形状ないし実矧ぎ形状は,内側に隠れて見えないものであることが認められる。
これらの点に照らせば,上記(1)ないし(3)において検討した各部分が係合している使用状態時における連接形態(実矧ぎ形状)の観点から検討しても,審決が共通点(え)として説示した点が看者の注意を強く引くものであり,連接形態(実矧ぎ形状)の点は,本願意匠と引用意匠との類否判断に及ぼす影響は小さいものというべきであって,審決が前記のように類似性を肯定した判断をしたことに違法があるということはできない。
よって,前記第3,2(4)の原告の主張は,採用することができない。
(5) 原告は,本願意匠の類否判断における需要者とは,施工業者や設計業者であり,建築物の購入者ではないとした上で,需要者が強く目を引かれ,注意して購入を決定する部分は,上下端係合片に係る形状であって,建築用壁板材に係る意匠の類否判断に当たっては,この点を要部として判断すべきものであると主張する。
確かに,本願意匠に係る建築用壁板材の需要者は,一般的には施工業者や設計業者であろうことは容易に推測されるが,一方で,建築物の購入者ないし注文者が,建築物の外観に大きな影響を及ぼす壁板材の正面形状に大きな関心を有することも容易に推測されるところであって,購入者ないし注文者において建築用壁板材の選定をすることも想定し得るところである。現に,原告のインターネット上のホームページでも,建築用壁板材などの製品について,設計・建築等の専門業者向けのページのほかに一般向けのページも設けて,紹介していることが認められるように(乙8の1ないし3),本願意匠に係る建築用壁板材の需要者を施工業者や設計業者のみに限定し,建築物の購入者ないし注文者を全く無視することは相当でないというべきである。
また,施工業者や設計業者が,設計及び施工の観点から,上下端係合片に係る形状に関心を持つであろうことも推測されるが,意匠としての評価は,必ずしも意匠に係る物品についての設計・施工上の関心と一致するものではない。
そうすると,既に判示したところも総合してみるならば,審決が前記のように類似性を肯定した判断をしたことに違法があるということはできない。
2 原告は,以上の各具体的な主張をふまえて,前記第3,1のように主張する。
しかし,既に判示したところに照らせば,審決が,上下端係合片に係る形状の差異について,「形態全体としてみた場合,両意匠の類否判断に与える影響は小さいもの」であるとし,「差異点を総合し相まった効果を考慮しても,前記共通点を凌駕して,類否判断を左右するほどのものとは認められない。」とした上,「両意匠は,意匠に係る物品が共通し,形態において…差異があっても,全体の基調を形成するところにおいて共通するから,全体として類似するというはかない。」とした認定判断は,是認し得るものである(甲15,16の各陳述書に記載されたところを考慮しても,上記判断を覆すべきものとはいえない。また,審決の認定にやや厳密さを欠く憾みがないわけではない点については,前判示のとおりである。)。
なお,原告は,判決例や意匠登録例を挙げて主張するが,意匠の類否判断は個別事案に即してされるものであるところ,上記各事例を検討しても,本件とは事案を異にするものというべきであって,原告が挙げる判決例や意匠登録例があるからといって,直ちに,本件において審決の判断を誤りとはいえないとした当裁判所の判断に影響を及ぼすものではない。
3 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文
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