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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ8761意匠権侵害差止等請求事件 判例 意匠
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関連ワード 意匠の実施 /  物品 /  形状 /  部分意匠 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  一意匠一出願(7条) /  意匠の類否 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  通常実施権 /  実施料相当額 /  類似性(類否判断) /  損害額 /  逸失利益 /  独占的通常実施権 /  無効審判 / 
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事件 平成 22年 (ワ) 4770号 意匠権侵害差止等請求事件
原告P
原告ニシガキ工業株式会社
原告ら訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 井上裕史
同 栗本知子
被告株式会社小林鉄工所
同訴訟代理人弁護士 藤原唯人
同訴訟代理人弁理士 西谷俊男
同補佐人弁理士 市川友啓
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2010/12/16
権利種別 意匠権
主文 1被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造し,譲渡し,又は譲渡のために展示してはならない。
2被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,原告Pに対し,1万4360円及びこれに対する平成22年9月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
4被告は,原告ニシガキ工業株式会社に対し,57万8668円及びこれに対する平成22年9月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
5原告ニシガキ工業株式会社のその余の請求を棄却する。
26訴訟費用は,原告Pに生じた費用の全部,原告ニシガキ工業株式会社に生じた費用の3分の1及び被告に生じた費用の3分の2を被告の負担とし,その余を原告ニシガキ工業株式会社の負担とする。
7この判決は,第1,第3及び第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1原告ら(1)主文第1ないし第3項と同旨(2)被告は,原告ニシガキ工業株式会社に対し,147万8668円及びこれに対する平成22年9月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は被告の負担とする。
(4)仮執行宣言2被告(1)原告らの請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は原告らの負担とする。
第2事案の概要1前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)(1)本件意匠権原告Pは,次の意匠登録(以下「本件意匠登録」といい,その登録意匠を「本件登録意匠」という。)に係る意匠権(以下「本件意匠権」という。)を有している。
登録番号 第955981号登 録 日 平成8年3月26日出 願 日 平成6年5月12日3意匠に係る物品長柄鋏登録意匠 別紙意匠公報記載のとおり(2)被告の行為ア被告は,業として別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造し,譲渡し,譲渡のために展示している。
イ被告製品の意匠(以下「被告意匠」という。)は,別紙被告意匠の説明図面のとおりである。
(3)物品類似性 被告製品は長柄鋏であり,本件登録意匠に係る物品と同一である。
2原告らの請求 本件において,原告らは,被告に対して以下の請求をしている。
(1)原告Pの請求被告意匠が本件登録意匠に類似し,被告製品を製造販売する行為が本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法37条1項に基づく被告製品の製造・譲渡等の差止め及び同条2項に基づく同製品の廃棄並びに本件意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償として1万4360円及びこれに対する不法行為の後の日である平成22年9月1日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の各支払い。
(2)原告ニシガキ工業株式会社(以下「原告会社」という。)の請求被告による上記(1)の本件意匠権侵害により,原告会社が原告Pから許諾を受けた独占的通常実施権が侵害されたと主張して,当該独占的通常実施権侵害の不法行為に基づく損害賠償として147万8668円及びこれに対する不法行為の後の日である平成22年9月1日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の各支払い。
3争点(1)被告意匠が本件登録意匠と類似するか(争点1)4(2)本件意匠登録が意匠登録無効審判により無効とされるべきものか(争点2)(3)損害の額(争点3)第2争点に係る当事者の主張1争点1(被告意匠が本件登録意匠と類似するか)【原告らの主張】(1)本件登録意匠の構成態様ア刃部,固定連結部及び持ち手部(各部分の指す箇所は下図のとおり。)から構成されている(原告らは,準備書面(2)以降,持ち手部を柄部と称しているが,被告は,ジョイント部を除いた部分を柄部と称している。混同を避けるため,以下,柄部については被告の称し方に従うこととし,柄部にジョイント部を加えたものを持ち手部と称する。)。
イ刃部は,扇状の上刃が下刃と重なり,縦横比が約1:2のペリカンの嘴状である。
ウ持ち手部は,二本の棒状の構造(被告の主張する柄部に相当する。)とジョイント部からなり,棒状構造の後端に約1/3の長さのグリップが付いている。
エ刃部:固定連結部:持ち手部の比率は,およそ1:7:4に配設されている。
(2)被告意匠の構成態様ア刃部,固定連結部及び持ち手部(各部分の指す箇所は下図のとおり。)から構成されている。
イ刃部は,扇状の上刃が下刃と重なり,縦横比が約1:2のペリカンの嘴状である。
ウ持ち手部は,二本の棒状の構造とジョイント部からなり,棒状構造の後端に約1/3の長さのグリップが付いている。
エ刃部:固定連結部:持ち手部の比率は,およそ1:7:4に配設されて5いる。
(3)類否判断本件意匠に係る物品である長柄鋏は,これを使用する者が,左右の手で持ち上げて樹木の上部の枝を切るために用いるものである。したがって,これを購入する際にも,下部を土地上に立体的に置き,あるいは平面に置いて全体的に見て,その物品の審美性を見て,購入するかどうかを判断する。
よって,本件登録意匠における前記(2)エに掲げた刃部,固定連結部及び持ち手部の配設の妙味が需要者の視覚を通じて起させる美感であり,この点に刃部固定連結部持ち手部刃部固定連結部持ち手部(本件登録意匠)(被告意匠)6おいて本件登録意匠は被告意匠と共通するのであるから,両意匠は類似する。
【被告の主張】(1)本件登録意匠の構成態様本件登録意匠は,以下の構成態様を備える(別紙本件登録意匠の説明図面参照。なお,上下左右の方向は正面図のそれに従う。以下同じ。)。
ア基本的構成態様(ア) それぞれ円筒形の可動柄及び固定柄を有する柄部(イ) 下端部が固定柄に連設された固定フレームと,下端部が可動柄に連設され,上端部が固定フレームの中間部に枢支された可動フレームとを有するジョイント部(ウ) 下端部が固定フレームに連設されている円筒形の固定連結部(エ) 固定連結部の上端に連設された固定刃と,固定刃に取り付けられた可動刃とを有する刃部イ具体的構成態様(ア) 柄部の態様可動柄及び固定柄の下端部にグリップが嵌められ,このグリップの外周面は,平滑に形成されている。また,可動柄及び固定柄の外周面は,平滑に形成されている。
(イ) ジョイント部の態様a固定フレームの態様固定フレームは,支持枠と,支持枠の上端部に連設された円筒体とを備える。
支持枠は,正面視において,上端部から下端部に行くに従って幅が狭くなるように形成され,かつ細長い帯状に形成されている。すなわち,支持枠の左側端縁は,円筒体の上端から固定柄の上端にかけて延びており,支持枠の上端から下端に行くに従って,緩やかな円弧を描7くように支持枠の中心線に近づくように延びている。
支持枠の右側端縁は,円筒体の下端から固定柄の上端にかけて延びており,支持枠の上端から下端に行くに従って,緩やかな円弧を描くように支持枠の中心線に近づくように延びている。
支持枠の下端の幅は,固定柄の幅と同一に形成されている。また,支持枠の中間部に,可動フレームの上端部を枢支する第1枢支ピンが設けられている。
b可動フレームの態様可動フレームは,その中間部の右端縁部に被せて取り付けられた,第2枢支ピンを有する留め部を備える。第2枢支ピンは,固定フレームの右側端縁よりも外側に設けられている。
また,正面視において,可動フレームの下端部の幅は,可動柄の幅と同一に形成されている。
c固定連結部及び柄部の連結態様ジョイント部は,固定連結部の中心線が固定柄の中心線と交差し,かつ柄を閉じた状態における可動柄の中心線と平行になるよう,固定連結部,固定柄及び可動柄を連結している。
(ウ) 固定連結部の態様固定連結部の内部には棒状の可動連結部が挿通されており,可動連結部の下端部は,第2枢支ピンを介して可動フレームと連結されている。
(エ) 刃部の態様a固定刃の態様固定刃は,湾曲部と,湾曲部の下端に連設され湾曲部に対し外方に突出して形成された可動刃連結部とを有する。可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具に一体的に取り付けられている。
b可動刃の態様8可動刃は,扇状に形成された扇状刃と,扇状刃の基部から「く」の字状に延設された延長部とを備え,扇状刃の基部と固定刃の可動刃連結部とを係合する係合ピンにより,固定刃に取り付けられている。また,延長部の端部は,固定連結部の上方に位置し,可動連結部の上端と第3枢支ピンを介して連結されている。
(2)被告意匠の構成態様被告意匠は,以下の構成態様を備える(別紙被告意匠の説明図面参照)。
ア基本的構成態様(ア) それぞれ円筒形の可動柄及び固定柄を有する柄部(イ) 下端部が固定柄に連設された固定フレームと,下端部が可動柄に連設され,上端部が固定フレームの中間部に枢支された可動フレームとを有するジョイント部(ウ) 下端部が固定フレームに連設されている円筒形の固定連結部(エ) 固定連結部の上端に連設された固定刃と,固定刃に取り付けられた可動刃とを有する刃部イ具体的構成態様(ア) 柄部の態様可動柄及び固定柄の下端部にグリップが嵌められ,このグリップの外周面には,グリップの延在方向に直交する方向に延びる複数の凹溝が形成されている。また,可動柄及び固定柄の外周面全体に亘って可動柄及び固定柄の延在方向に延びる複数の凹溝が形成されている。
(イ) ジョイント部の態様a固定フレームの態様固定フレームは,支持枠と,支持枠の上端部に連設された円筒体と,固定フレームの左側面の上部及び下部に突設された2つのリブ部とを備える。
9支持枠は,正面視において,上端から中間部に行くに従って幅が広くなるように形成され,かつ中間部から下端に行くに従って幅が狭くなる形状に形成されている。すなわち,支持枠の左側端縁は,円筒体の下端から固定柄の上端にかけて延びており,左側端縁の中間部に外側方向に半円状に突出する膨出部を有し,この膨出部を除き,緩やかな円弧を描いて,支持枠の中心線と略等間隔を保ちながら延びている。
膨出部は,可動フレームの上端部を枢支する第1枢支ピンを有する。
支持枠の右側端縁は,円筒体の下端から固定柄の上端にかけて延びており,支持枠の中心線の右方に張り出した張出部が形成されている。
支持枠の右側端縁は,支持枠の上端から中間部に行くに従って支持枠の中心線から離れるように形成され,かつ支持枠の中間部から下端に行くに従って支持枠の中心線に近づくように延びている。また,支持枠の右側端縁の下端部には,右方に突出する突出部が形成されており,これによって,固定フレームの下端部の幅は,可動柄の幅よりも大きく形成されている。
張出部には,支持枠の右側端縁から第1枢支ピンの手前の位置にかけて面外方向に突出した略矩形の補助部が形成されている。また,補助部の上部から上方に向かって所定の範囲に亘って円弧状に延在する長孔が形成され,更に,補助部の下部から下方に向かって所定の範囲に亘って円弧状に延在する長孔が形成されている。これら2つの長孔は,第1枢支部を中心とする円弧上に形成されている。
また,上部のリブ部は円筒体の上端から支持枠の膨出部まで延びるように形成され,下部のリブ部は支持枠の膨出部から支持枠の下端部まで延びるように形成されている。上部のリブ部には,その中間部に貫通孔が形成されている。
b可動フレームの態様10可動フレームは,その中間部に正面側及び背面側に突出する第2枢支ピンを有している。この第2枢支ピンは,固定フレームの長孔内又は補助部の内側に位置している。
可動フレームの下端部には,その右方及び左方に突出した突出部がそれぞれ形成されており,可動フレームの下端部の幅は,可動柄の幅よりも大きく形成されている。
可動柄は,その右側上端が可動フレームの右方に突出した突出部の右側下端に位置するように可動フレームに連設されている。また,左方の突出部は柄を閉じた状態において,固定フレームの突出部を当接するように形成されている。
c固定連結部及び柄部の連結態様ジョイント部は,固定連結部の中心線が固定柄及び可動柄の中心線と交差するよう,固定連結部,固定柄及び可動柄を連結している。
(ウ) 固定連結部の態様固定連結部の内部には棒状の可動連結部が挿通されており,可動連結部の下端部は,第2枢支ピンを介して可動フレームと連結されている。
(エ) 刃部の態様a固定刃の態様固定刃は,湾曲部と,湾曲部の下端に連設され湾曲部に対し外方に突出して形成された可動刃連結部とを有する。可動刃連結部の外周縁部には角状の引掛部が形成されている。可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具にねじ止めして取り付けられている。
b可動刃の態様可動刃は,扇状に形成された刃と刃の基部から延設された延長部とを備え,この刃の基部と可動刃連結部とを係合する係合ピンにより,固定刃に取り付けられている。
11(3)本件登録意匠と被告意匠との類否ア原告ら主張に係る共通点の評価(ア) 原告らの主張(1)及び(2)の各アの共通点について全体構成として,刃部,固定連結部及び持ち手部を備える長柄鋏は,出願前において普通に見られる非常にありふれた構成態様である(乙1〜6)。また,本件意匠登録後も,かかる構成態様の長柄鋏が本件登録意匠とは非類似の独立した意匠として登録されている(乙7,8)。
さらに,現在,少なくとも,刃部,固定連結部及び持ち手部を備える製品(乙9〜11)が市場において販売されており,需要者は,被告意匠がかかる構成態様を備えていることによって,本件登録意匠と混同することもない。
よって,原告ら主張の上記共通点は,類否判断に影響を及ぼさない。
(イ) 原告らの主張(1)及び(2)の各イの共通点について原告らが主張する,先端に行くに従って幅が狭くなるように扇状に形成された可動刃が固定刃と重なるように配設され,同可動刃が固定刃よりも幅広に形成されているという構成態様は,この種物品一般にみられる周知の態様である(乙1〜3,6)。また,本件意匠登録後も,上記構成態様を備える長柄鋏(乙7,8)が,本件登録意匠とは非類似の独立した意匠として登録されている。
さらに,枝切りに用いられる多くの鋏は,扇状の可動刃と湾曲した固定刃とを備える。これは,扇状の可動刃が,枝を切断しようとする力を増加させるとともに,枝を刃の上端方向に逃がそうとする力を減少させる一方,湾曲した固定刃は,枝を刃の上端方向に逃がそうとする力を受け,枝が規定された位置よりも刃の上端方向に逃げないようにするという周知の技術的要請によるものである。
したがって,原告らが主張する上記共通点は,枝切りに用いられる鋏12としての機能を確保するために不可欠な形状である。
なお,現在,上記構成態様を備える製品(乙9〜11)が市場で販売されており,被告意匠がかかる構成態様を備えていることをもって,被告意匠と本件登録意匠とを混同することもない。
よって,原告ら主張の上記共通点は,類否判断に影響を及ぼさない。
(ウ) 原告らの主張(1)及び(2)の各ウの共通点について下端部にグリップが嵌められている2本の棒状の柄を備える長柄鋏は,本件意匠登録出願前に普通に見られるありふれた構成態様である(乙1,4,5)。また,本件意匠登録後も下端部にグリップが嵌められている2本の棒状の柄を備える長柄鋏が非類似の独立した意匠として登録されている(乙7)。
さらに,現在,下端部にグリップが嵌められている2本の棒状の柄を備える製品(乙10,11)が市場において販売されており,被告意匠が上記構成態様を備えていることによって,需要者が被告意匠と本件登録意匠とを混同することもない。
よって,原告ら主張の上記共通点は,類否判断に影響を及ぼさない。
(エ) 原告らの主張(1)及び(2)の各エの共通点について柄部の長さは,同部に加えられた力をどの程度倍増させて刃部に伝えるか,及び取り扱い易い長さはどの程度であるかを考慮し決定されるものであり,同部の長さは,剪定する木の枝等が位置する高さにより決定されるものである。したがって,原告らの主張する長さの比率は造形的な自由度がなく,当該形状でなければならない必然性が存する。
また,本件意匠登録の類似意匠として,別紙本件類似意匠公報の図面記載の意匠(以下「本件類似意匠」という。)が登録されており(登録番号:955981の類似1,登録日:平成10年6月26日,出願日:平成8年11月18日),本件類似意匠と本件登録意匠との相違点は,13固定連結部の長さ及び固定連結部を折り畳めるかどうかにある。そうすると,固定連結部の長さは,登録意匠の要部に関しない相違点となる。
(オ) よって,原告らの主張に係る本件登録意匠と被告意匠との共通点は,いずれも本件登録意匠の要部ということはできず,両意匠の類否判断を左右するものではない。
イ差異点の評価(ア) ジョイント部の態様a固定フレーム及び可動フレームそのものの態様本件登録意匠の固定フレーム及び可動フレームは,前記(1)イ(イ)a及びbの構成態様を有することにより,滑らかな女性的な印象を与える美感を表出している。
これに対し,被告意匠の固定フレーム及び可動フレームの下端部は,前記(2)イ(イ)a及びbの構成態様を有することにより,剛性・強度が高く頑丈で力強く,「ゴツゴツ」とした荒削りで男性的な印象を与える美感を表出している。加えて,被告意匠の第2枢支ピンは,固定フレームの長孔内又は補助部の内側に位置し,可動フレームの上端部付近が張出部に支持され,可動フレーム及び可動柄が固定フレームに対して捩れ難くなっており,更に剛性・強度が高く頑丈で力強く男性的な印象を与える美感を表出し,太い枝の剪定に適した印象を看者に与えている。
b固定連結部及び柄部の連結態様本件登録意匠のジョイント部は,固定連結部の中心線が固定柄の中心線と交差している一方,可動柄の中心線とは平行になるように,固定連結部,固定柄及び可動柄を連結しており(別紙本件登録意匠の説明図面【正面図】参照),固定柄のみが固定連結部に対して側方に飛び出した態様となっている。その結果,本件登録意匠は,片足立ちを想14起させる態様となっており,安定せず,繊細で華奢な女性的な印象を与える。また,使用者が本件登録意匠に係る物品を把持した際,固定連結部及び刃部が可動柄側に位置することになるので,可動柄の側により大きな重量がかかり,持ち難く,扱い難い印象を表出している。
他方,被告意匠のジョイント部は,固定連結部の中心線が,固定柄及び可動柄の各中心線と交差するように固定連結部,固定柄及び可動柄を連結しており(別紙被告意匠の説明図面【正面図】参照),固定柄及び可動柄がそれぞれ固定連結部に対して側方に飛び出した態様となっている。その結果,固定柄及び可動柄は左右対称に配設され,仁王立ちを想起させる態様となっており,どっしりと安定した男性的な美感を有している。また,使用者が被告製品を把持した際,固定連結部及び刃部が固定柄及び可動柄の中間に位置することになるので,使用者の手にかかる重量のバランスが良く,持ち易く,扱い易い印象を当てる。
c差異が要部に関するものであること固定連結部,固定柄及び可動柄を連結するジョイント部は,意匠全体の中心部に位置し,長柄鋏を使用する際にも,使用者の目の前に位置する部位であるから,看者の注意を特に惹く要部である。
(イ) 柄部の態様について 本件登録意匠の可動柄及び固定柄は外周面が平滑に形成され,また,当該可動柄及び固定柄に嵌められているグリップの外周面も平滑に形成され,繊細で滑らかな女性的な印象を与える美感を更に高めたものとなっている。
これに対して,被告意匠の可動柄及び固定柄は,外周面全体に亘って可動柄及び固定柄の延在方向に延びる複数の凹溝が形成され,また,当該可動柄及び固定柄に嵌められているグリップの外周面は,グリップの15延在方向に直交する方向に延びる複数の凹溝が形成されており,「ゴツゴツ」とした荒削りで男性的な印象を与える美感を表出し,また,手が滑り難く,持ち易い印象を有する美感を表出している。
(ウ) 固定刃の態様本件登録意匠の固定刃には引掛部が形成されていないのに対し,被告意匠の固定刃には引掛部が形成されている。この引掛部は,切断した枝が下方に位置する枝に引っ掛かり落下してこないときに,切断した枝に引っ掛けて落下させるものであり,被告意匠は扱い易い印象を有する。
(エ) 刃部の連結部への取付態様について 本件登録意匠の固定刃は,取付具に一体的に取り付けられており,その結果,固定刃及び固定連結部は,互いの造形が調和し,洗練されていて女性的な印象を与える美感を表出している。
これに対し,被告意匠の固定刃は,取付具にねじ止めして取り付けられており,その結果,「ゴツゴツ」とした荒削りで男性的な印象を与える美感を表出している。
ウ以上のとおり,上記差異点が意匠全体の美感に与える影響は,需要者に対して,本件登録意匠と異なる美感を与えているから,被告意匠は本件登録意匠に類似しない。
2争点2(本件意匠登録が意匠登録無効審判により無効とされるべきものか)【被告の主張】仮に,原告らが主張するとおり,本件登録意匠の要部が,ジョイント部の態様等になく,刃部:固定連結部:持ち手部の比率にあるならば,本件意匠登録は,意匠法3条2項に該当し,意匠登録無効審判により無効とされるべきものであるから,意匠法41条で準用される特許法104条の3の規定に基づき,原告らは被告に対し,本件意匠権を行使することができない。
【原告らの主張】16争う。
3争点3(損害の額)【原告らの主張】(1) 原告会社に生じた損害ア原告Pは,原告会社に対して,本件意匠権に係る独占的通常実施権を許諾した。
イ被告は,平成21年9月から同22年8月末日までの間に,別紙月別売上一覧表記載のとおり,被告製品を少なくとも706本製造販売し,その売上額合計は176万5431円である。
被告製品の1本当たりの利益は,678円である。
したがって,被告の得た利益である47万8668円が原告会社の損害と推定される(意匠法39条2項)。
ウ原告会社は,本件訴訟を提起するに当たり,弁護士に依頼をして,着手金及び報酬金を支払う旨約した。
本件において相当な弁護士費用は100万円である。
エよって,被告の本件意匠権侵害により原告会社が受けた損害の額は,147万8668円である。 (2) 原告Pに生じた損害原告Pには本件意匠権の実施料相当額である1万4360円の損害が生じた(意匠法39条3項)。
(3) 原告会社と原告Pの各損害賠償請求権の関係原告会社の47万8668円と原告Pの1万4360円は不真正連帯債権である。
【被告の主張】(1) 原告らの主張(1)アの事実は否認する。
同イの事実は認める。
17同ウ及びエの事実は否認ないし争う。
(2) 同(2)及び(3)の事実は否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断1争点1(被告意匠の形態が本件登録意匠の形態と類似するか)について(1) 本件登録意匠の構成態様証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,本件登録意匠は以下の構成態様を備えることが認められる(別紙本件登録意匠の説明図面参照)。
ア基本的構成態様 以下の各部からなる長柄鋏であり,刃部と固定連結部及び持ち手部(柄部とジョイント部を合わせた部分をいう。以下同じ。)の比率が,およそ1:7:4である。
(ア) それぞれ円筒形の可動柄及び固定柄を有する柄部(イ) 下端部が固定柄に連設された固定フレームと,下端部が可動柄に連設され,上端部が固定フレームの中間部に枢支された可動フレームとを有するジョイント部(ウ) 下端部が固定フレームに連設されている円筒形の固定連結部(エ) 固定連結部の上端に連設された固定刃と,固定刃に取り付けられた可動刃とを有する刃部イ 具体的構成態様(ア) 柄部の態様可動柄及び固定柄の下端部にグリップが嵌められ,このグリップの外周面は,平滑に形成されている。また,可動柄及び固定柄の外周面は,平滑に形成されている。
(イ) ジョイント部の態様a固定フレームの態様固定フレームは,支持枠と,支持枠の上端部に連設された円筒体と18を備える。
支持枠は,正面視において,上端部から下端部に行くに従って幅が狭くなるように形成され,かつ細長い帯状に形成されている。すなわち,支持枠の左側端縁は,円筒体の上端から固定柄の上端にかけて延びており,支持枠の上端から下端に行くに従って,緩やかな円弧を描くように支持枠の中心線に近づくように延びている。
支持枠の右側端縁は,円筒体の下端から固定柄の上端にかけて延びており,支持枠の上端から下端に行くに従って,緩やかな円弧を描くように支持枠の中心線に近づくように延びている。
支持枠の下端の幅は,固定柄の幅と同一に形成されている。また,支持枠の中間部に,可動フレームの上端部を枢支する第1枢支ピンが設けられている。
b可動フレームの態様可動フレームは,その中間部の右端縁部に被せて取り付けられた,第2枢支ピンを有する留め部を備える。第2枢支ピンは,固定フレームの右側端縁よりも外側に設けられている。
また,正面視において,可動フレームの下端部の幅は,可動柄の幅と同一に形成されている。
c固定連結部及び柄部の連結態様ジョイント部は,固定連結部の中心線が固定柄の中心線と交差し,かつ柄を閉じた状態における可動柄の中心線と平行になるよう,固定連結部と固定柄及び可動柄を連結している。
(ウ) 固定連結部の態様可動連結部の下端部は,第2枢支ピンを介して可動フレームと連結されている。
(エ) 刃部の態様19a固定刃の態様固定刃は,湾曲部と,湾曲部の下端に連設された可動刃連結部とを有する。正面図において,可動刃連結部の下部の右側端部は,固定連結部の上端に設けられた円筒状取付具に一体的に取り付けられている。
b可動刃の態様可動刃は,扇状に形成された扇状刃と,扇状刃の基部から「く」の字状に延設された延長部とを備え,扇状刃の基部と固定刃の可動刃連結部とを係合する係合ピンにより,固定刃に取り付けられている。また,延長部の端部は,固定連結部の上方に位置し,可動連結部の上端と第3枢支ピンを介して連結されている。
(2) 被告意匠の構成態様弁論の全趣旨によれば,被告意匠は以下の構成態様を備えるものと認められる(別紙被告意匠の説明図面参照)。
ア基本的構成態様 以下の各部からなる長柄鋏であり,刃部と固定連結部及び持ち手部を含む。)の比率が,およそ1:7:4である。
(ア) それぞれ円筒形の可動柄及び固定柄を有する柄部(イ) 下端部が固定柄に連設された固定フレームと,下端部が可動柄に連設され,上端部が固定フレームの中間部に枢支された可動フレームとを有するジョイント部(ウ) 下端部が固定フレームに連設されている円筒形の固定連結部(エ) 固定連結部の上端に連設された固定刃と,固定刃に取り付けられた可動刃とを有する刃部イ具体的構成態様(ア) 柄部の態様可動柄及び固定柄の下端部にグリップが嵌められ,このグリップの外20周面には,グリップの延在方向に直交する方向に延びる複数の凹溝が形成されている。また,可動柄及び固定柄の外周面全体に亘って可動柄及び固定柄の延在方向に沿って複数の凹溝が形成されている。
(イ) ジョイント部の態様a固定フレームの態様固定フレームは,支持枠と,支持枠の上端部に連設された円筒体と,固定フレームの右側面の上部及び下部に突設された2つのリブ部とを備える。上部のリブ部は円筒体の上端から支持枠の膨出部まで延びるように形成され,下部のリブ部は支持枠の膨出部から支持枠の下端部まで延びるように形成されている。上部のリブ部には,その中間部に貫通孔が形成されている。
支持枠は,正面視において,上端から中間部に行くに従って幅が広くなるように形成され,かつ中間部から下端に行くに従って幅が狭くなる形状に形成されている。すなわち,支持枠の左側端縁は,円筒体の下端から固定柄の上端にかけて延びており,左側端縁の中間部に外側方向に半円状に突出する膨出部を有し,この膨出部を除き,緩やかな円弧を描いて,支持枠の中心線と略等間隔を保ちながら延びている。
膨出部は,可動フレームの上端部を枢支する第1枢支ピンを有する。
また, 固定フレーム(支持枠)の左側面に前記2つのリブがあるため,ジョイント部正面から観察すると,支持枠の左側縁部のシルエットは,貫通孔と膨出部との間が緩やかに窪んでいるものの,全体としては,円筒体の上端から固定柄の上端にかけて,緩やかな円弧を描くような形状として見える。
支持枠の右側端縁は,円筒体の下端から固定柄の上端にかけて延びており,支持枠の中心線の右方に張り出した張出部が形成されている。
支持枠の右側端縁は,支持枠の上端から中間部に行くに従って支持枠21の中心線から離れるように形成され,かつ支持枠の中間部から下端に行くに従って支持枠の中心線に近づくように延びている。また,支持枠の下端部(固定フレームの下端部)の幅は,可動柄の幅よりもやや大きく形成されているため,支持枠の右側端縁方向に少しはみ出ている。
張出部には,支持枠の右側端縁から第1枢支ピンの手前の位置にかけて面外方向に突出した略矩形の補助部が形成されている。また,補助部の上部から上方に向かって所定の範囲に亘って円弧状に延在する長孔が形成され,更に,補助部の下部から下方に向かって所定の範囲に亘って円弧状に延在する長孔が形成されている。これら2つの長孔は,第1枢支部を中心とする円弧上に形成されている。
b可動フレームの態様可動フレームは,その中間部に正面側及び背面側に突出する第2枢支ピンを有している。この第2枢支ピンは,可動柄の開閉に応じて,固定フレームの長孔内又は補助部の内側に位置している。
可動フレームの下端部は,右方に大きく,左方に小さく張り出しているため,可動フレームの下端部の幅は,可動柄の幅よりも大きく形成されている。
可動柄は,その右側上端が可動フレームの右側下端に位置するように可動フレームに連設されている。また,可動フレームの左側下端は柄を閉じた状態において,固定フレームの右側下端部に当接するように形成されている。
c固定連結部及び柄部の連結態様ジョイント部は,固定連結部の中心線が固定柄及び可動柄の中心線と交差するよう,固定連結部,固定柄及び可動柄を連結している。
その結果,固定柄と可動柄は,両柄が閉じている状態において,固22定連結部の中心線からほぼ同じ角度で開いている。
(ウ)固定連結部の態様可動連結部の下端部は,第2枢支ピンを介して可動フレームと連結されている。
(エ)刃部の態様a固定刃の態様固定刃は,湾曲部と,湾曲部の下端に連設された可動刃連結部とを有する。可動刃連結部の外周縁部には角状の引掛部が形成されている。
正面図において,可動刃連結部の下部は,固定連結部の上端に設けられた円筒状取付具の左側タグ状部にねじ止めして取り付けられている。
b可動刃の態様可動刃は,扇状に形成された刃と刃の基部から延設された延長部とを備え,この刃の基部と可動刃連結部とを係合する係合ピンにより,固定刃に取り付けられている。また,延長部の端部は,固定連結部の上方に位置し,可動連結部の上端と第3枢支ピンを介して連結されている。
(3) 本件登録意匠の要部登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。したがって,その判断に当たっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意を惹き付ける部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。
そこで,まず,本件登録意匠の要部について検討する。
ア長柄鋏の性質,用途,使用態様等23本件登録意匠に係る物品である長柄鋏は,枝の剪定作業等を行うためのものであり,柄を長くしたことにより,脚立等を使用せずに,高所等手の届きにくい箇所の剪定作業等を可能にする実用品である。
そして,需要者は,長柄鋏を使用する際,すなわち剪定作業等をする際には,長柄鋏の刃を剪定しようとする枝の方向に近づけて剪定するのであるから,必然的に長柄鋏の刃の部分に注目することになる。また,需要者が長柄鋏を購入する際には,どの程度の太さの枝が剪定できるか,またどの程度の高さにある枝が剪定できるかを考慮するものと考えられるから,需要者は刃部の形状や長柄鋏全体の長さに注目すると考えられる。
また,柄部は,需要者が実際に枝を剪定する際に両手で握持して力を加える部分であり,その長さによって,持ち易さや剪定の際に必要となる力の強さが異なってくるものである。そうとすると,需要者が長柄鋏を購入する際には,柄部の形状や,同部が長柄鋏全体に占める長さの割合にも注目すると考えられる。
イ公知意匠本件意匠登録の出願日(平成6年5月12日)より前に存在した長柄鋏に係る公知意匠としては,平成元年10月26日に公開された公開実用新案公報(実開平1-155739号:乙1)の第1図の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠1),昭和62年9月22日に公開された公開実用新案公報(実開昭62-149943号:乙2)の第8図の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠2),昭和61年7月2日に公開された公開実用新案公報(実開昭61-104055号:乙3)の第7図の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠3),昭和55年6月2日に公開された公開実用新案公報(実開昭55-79861号:乙4)の第1図ないし第3図の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠4),昭和51年4月19日に公開された公開実用新案公報(実開昭51-51261号:乙5)の第1図の意匠(別紙先24行意匠の先行公知意匠5),昭和57年7月5日に発行された意匠公報(意匠登録579658号:乙6)の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠6),昭和58年6月23日に発行された意匠公報(意匠登録603159号:乙13)の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠7),昭和52年6月15日に発行された意匠公報(意匠登録450376号:乙14)の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠8),平成5年11月17日に発行された意匠公報(意匠登録884468号:乙15)の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠9),平成3年8月19日に発行された意匠公報(意匠登録816202号:乙17)の意匠(別紙先行意匠の先行公知意匠11)が認められる。
なお,被告は,公知意匠として乙第16号証の意匠公報(別紙先行意匠の先行公知意匠10)を提出し,さらに周知例として,乙第7号証ないし第12号証の意匠公報等を提出するが,これらはいずれも本件意匠登録出願日後に発行ないし公表されたものであるから,直ちにこれらを公知ないし周知である意匠として参酌することはできないというべきである。
ウ検討(ア) 前記アで検討したとおり,長柄鋏の需要者は,刃部の形状,長柄鋏の長さ,長柄鋏全体に占める固定連結部や柄部の長さの比率及び柄部の形状について注目すると考えられる(もっとも,長柄鋏の長さ自体は本件登録意匠の要素ではない。)。
また,前記イで指摘した公知意匠によると,刃部,固定連結部及び柄部を有する長柄鋏自体は本件意匠登録出願前に既に公知であったといえるが,刃部の具体的形状については様々なものがあり,少なくとも,本件登録意匠における刃部は固定刃の刃部が大きく湾曲し,これに扇状刃を有する可動刃が連結されているという特徴的な形状を有しているところ,上記形状が本件意匠登録出願前に公知であったと認めることは25できない。また,長柄鋏全体に占める固定連結部及び柄部の各長さの比率についても,本件登録意匠と同様のものは見当たらない。
したがって,本件登録意匠の刃部の形状及び長柄鋏全体に占める固定連結部及び柄部の各長さの比率については,需要者の注意を惹く部分であると認められる。なお,被告は,本件登録意匠と本件類似意匠とは固定連結部の長さが異なるから,各部の比率は本件登録意匠の要部とならない旨主張する。たしかに,類似意匠が登録されている場合において,登録意匠と類似意匠の共通点は要部を推認させる根拠となり得るが,類似意匠との共通点しか要部たり得ないというものではないというべきである。むしろ,本件の場合,本件類似意匠が登録されたことによって,本件登録意匠において,刃部の形状が最も重要な特徴点であるということができる。
(イ) 柄部の形状については,もともと固定柄と可動柄からなる2本の柄と固定連結部をジョイント部で締結するという本件登録意匠と同様の構成態様が上記先行公知意匠2,同3及び同6において採用されている上,本件登録意匠における柄部の形状はシンプルであり,本件登録意匠において,柄部の形状が需要者の注意を惹くとは認め難い。
(ウ) 上記に対し,被告は,本件登録意匠において,ジョイント部の形状が要部である旨主張する。しかし,ジョイント部は固定連結部と固定柄及び可動柄を締結する部分にすぎず,この部分に特段の創作があるのであればともかく,長柄鋏を使用する際や購入する際において,刃部や,全体の長さと柄部の長さとのバランスに比べると,需要者がジョイント部に注目する度合いが高いとは考えにくい。
したがって,ジョイント部の形状が需要者の注意を惹くとは認められない。
(エ) 以上より,本件登録意匠の要部は,刃部の形状及び長柄鋏全体に占め26る固定連結部や柄部の長さの比率であると認めるのが相当である。
(4) 本件登録意匠と被告意匠との類否判断前記(1)及び(2)で認定した本件登録意匠と被告意匠の構成態様に基づき,両意匠の基本的構成態様及び要部を中心とする具体的構成態様に係る共通点及び差異点を抽出した上,両意匠の類否判断を行うこととする。
ア基本的構成態様 前記(1),(2)のとおり,両意匠の基本的構成態様は同じである。
これによると,両意匠は,刃部と固定連結部及び持ち手部の比率が,およそ1:7:4である点で共通する。
イ具体的構成態様における共通点(刃部の形状)(ア) 固定刃の態様両意匠とも,固定刃は,湾曲部と湾曲部の下端に連設された可動刃連結部とを有する。
また,上記湾曲部は,大きく湾曲し,円弧の一部を構成しているが,その湾曲の度合い(円弧の大きさに相当する。)や,湾曲に沿った刃の幅はほぼ一致している(この形状をとることにより,太い枝を剪定するに当たり,湾曲部に枝をはめ込んだ上で切断することができると考えられる。)。
(イ) 可動刃の態様両意匠とも,可動刃は,扇状に形成された扇状刃と,扇状刃の基部から延設された延長部とを備え,扇状刃の基部と固定刃の可動刃連結部とを係合する係合ピンにより,固定刃に取り付けられている。また,延長部の端部は,固定連結部の上方に位置し,可動連結部の上端と第3枢支ピンを介して連結されている。
そして,扇状刃の形状は,刃の反り方や,刃の幅を含めた全体の形状において,ほぼ一致している。
27ウ具体的構成態様における差異点(刃部の形状)(ア) 固定刃の態様本件登録意匠では,可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具に一体的に取り付けられているのに対し,被告意匠では,可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具にねじ止めして取り付けられている。また,被告意匠には,可動刃連結部の外周縁部に角状の引掛部が形成されているが,本件登録意匠ではこのような引掛部は形成されていない。さらに,被告意匠は,本件登録意匠に比べ,固定刃の先端(各意匠の説明図面の上側)がやや伸びている。
(イ) 可動刃の態様本件登録意匠では,扇状刃の基部に延接する延長部の形状が「く」の字状に形成されており,同部分の底辺が直線状であるのに対し,被告意匠では緩やかに湾曲している。
エ検討(ア) 要部に係る共通点・差異点について上記アのとおり,本件登録意匠と被告意匠とは基本的構成態様が完全に共通する上,要部の1つといえる長柄鋏全体に占める固定連結部及び柄部の各長さの比率において共通している。
また,具体的構成態様のうち刃部の形状は,本件登録意匠における最も重要な特徴点であるといえるところ,上記イで認定したとおり,両意匠は,固定刃及び可動刃の形状において,ほぼ一致している。
これに対し,上記ウで認定したとおり,本件登録意匠では,可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具に一体的に取り付けられているのに対し,被告意匠では,可動刃連結部の下端は,固定連結部の上端に設けられた取付具にねじ止めして取り付けられている。しかし,需要者は,刃部の形状自体については,長柄鋏における最も重要28な機能を有する箇所であるため,注目するものの,そのなかでも,刃部の刃体の形状に関心が集まるのであり,その取付部に対する関心の度合いは高いとは考えられない。そして,両意匠とも,固定連結部の上端にある円筒状取付部の側面に垂直方向に取り付けている点で共通しており,被告意匠の方がタグ状の取付部があるため頑丈な印象を与える程度の違いにしか過ぎない。
また,上記ウで認定したとおり,両意匠の固定刃の形状について,被告意匠には角状の引掛部が形成されているのに対し,本件登録意匠にはこのような部分は形成されていない。しかし,上記引掛部は,固定刃に1つの機能を付加するために取り付けられたものであるが,上記引掛部の形状は,刃自体の有する機能とは別の機能を付加したに過ぎず,しかも,刃部全体の大きさに占める割合が小さいことからすると,上記引掛部が加わることによって,元の形状と一体化し,別の美感を生じさせるものではないというべきである。
そうすると,これらの差異点が看者に与える印象は大きくなく,上記共通点から受ける印象を凌駕するものとはいえない。
なお,上記ウで認定したその余の差異点については明らかに微差の類であり,需要者の美感に影響を及ぼすものではない。
(イ) ジョイント部の差異点についてa被告は,本件登録意匠のジョイント部が要部であり,被告意匠とは要部の構成態様において異なっているから,両意匠は類似しないと主張する。この点,前記(3)ウで説示したとおり,本件登録意匠において,ジョイント部を要部と認めることはできないが,仮に要部ではない部分に係る差異であっても,被告意匠において特徴的な形態を採用していることにより,全体としての美感を異ならしめるに至ったような場合には,全体として類似しない場合も考えられ得る。そこで,以下,29かかる観点からジョイント部の形態について検討する。
b前記(1)イ(イ)及び(2)イ(イ)によれば,本件登録意匠と被告意匠におけるジョイント部の形状は,以下の点において異なる(被告は,以下に掲げたもの以外にも,ジョイント部にかかる細かい差異点を網羅的に主張するが,以下に掲げたもの以外は,全体の美感に影響を与えない微差にすぎない。)。
すなわち,本件登録意匠の固定フレームの支持枠は,正面視において,上端部から下端部に行くに従って幅が狭くなるように形成され,かつ細長い帯状に形成されているのに対し,被告意匠の支持枠は,正面視において上端から中間部に行くに従って幅が広くなるように形成され,かつ中間部から下端に行くに従って幅が狭くなる形状に形成されている。また,被告意匠の支持枠の左側端縁中間部には,本件登録意匠とは異なり,外側方向に半円状に突出する膨出部が形成され,右側端縁には,支持枠の中心線の右方に張り出した張出部が形成され,同張出部には,支持枠の右側端縁から第1枢支ピンの手前の位置にかけて,面外方向に突出した略矩形の補助部が形成されている。また,補助部には,第1枢支部を中心として円弧状に延在する長孔が2つ形成されている。
しかし,前記(2)イ(イ)のとおり,2つのリブの存在により,上記膨出部による差異は目立たなくなっている。
また,もともとジョイント部は本件登録意匠における要部ではない上,ジョイント部に係る被告意匠は,本件登録意匠に比して,若干の補強を加えたという印象しか与えず,これ自体について部分意匠の登録がなされているとしても,被告意匠全体の美感に与える影響は大きいとはいえない。
cまた,被告は,本件登録意匠の固定柄及び可動柄は,左右非対称に30配設され,片足立ちを想起させる態様となっており,安定せず,繊細で華奢な女性的な印象を与える美感を有しているのに対し,被告意匠の固定柄及び可動柄は,左右対称に配設され,仁王立ちを想起させる態様となっており,どっしりと安定した男性的な美感を有していると主張し,その結果,被告意匠では,使用者のそれぞれの手にかかる重量のバランスが良く,持ち易く,扱い易い印象を有する美感を表出しているとも主張する。たしかに,別紙本件登録意匠の説明図面の【正面図】と別紙被告意匠の説明図面【正面図】のように,固定連結部に中心線を引いて両者を比較対照すれば,そのような差異も認められるのであるが,かかる差異は,このような中心線を引かなければ容易に気づかないものであり,需要者に扱い易いとか扱いにくいといった印象を与えるものとは認め難い。
dよって,被告が主張する要部以外の差異点が被告意匠全体の美感に大きな影響を与えるとは認められない。
オ以上のとおり,被告意匠においては,本件登録意匠との共通点から受ける印象が,差異点に係る具体的な形状の違いから受ける印象を凌駕しており,両意匠が視覚を通じて起こさせる全体としての美感を共通にしているということができる。
よって,被告意匠は,本件登録意匠と類似すると認められる。
2争点2(本件意匠登録が意匠登録無効審判により無効とされるべきものか)について被告は,本件登録意匠の要部がジョイント部の態様等になく,刃部:固定連結部:持ち手部の比率にあるならば,容易に本件登録意匠を創作することができたものであるから,本件意匠登録は意匠登録無効審判により無効にされるべきものであると主張する。
しかし,前記1(3)で認定したとおり,本件登録意匠の要部は上記比率のみに31あるわけではない上,ジョイント部の態様が要部でないということのみをもって,全体の意匠を容易に創作できたことにはならない。
よって,本件意匠登録が意匠登録無効審判により無効とされるべきものとは認められず,被告による被告製品の製造販売は,本件意匠権を侵害するものと認められる。
3争点3(損害の額)について(1) 原告会社に生じた損害の額ア原告会社の独占的通常実施権 証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,原告会社は,遅くとも平成21年9月1日以降,本件登録意匠の実施品である長柄鋏を製造販売していたことが認められる。また,証拠(甲6)によれば,原告会社の代表取締役であり,本件意匠権者である原告Pは,平成22年7月21日,原告会社に本件意匠権の独占的通常実施権を明示的に許諾したことが認められが,他方で,他に本件意匠権を実施している者がいるとは認められない。
そうすると,遅くとも被告が被告製品の製造販売を開始した平成21年9月以降は,原告会社は原告Pから本件意匠権にかかる独占的通常実施権を黙示に許諾されていたと推認するのが相当であり,これを覆すに足りる証拠はない。
よって,遅くとも平成21年9月以降,原告会社は,本件意匠権に係る独占的通常実施権を有していたと認められ,被告は本件意匠権を侵害することにより,原告会社の独占的通常実施権をも侵害したものと認められる。
イ原告会社の逸失利益 被告が平成21年9月から同22年8月末日までの間に,別紙月別売上一覧表記載のとおり被告製品を706本製造販売したこと,その売上額合計が176万5431円であること,及び被告製品1本当りの利益が678円であることには争いがない。
32したがって,意匠法39条2項により,被告の得た利益である47万8668円が原告会社の損害と推定される。
ウ弁護士費用本件事案の内容や認容額などを考慮すると,被告による本件意匠権侵害(原告会社の独占的通常実施権侵害)と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は10万円と認めるのが相当である。
エ以上より,原告会社に生じた損害は57万8668円と認められる。
(2) 原告Pに生じた損害の額ア被告による被告製品の製造販売は本件意匠権を侵害する行為であるところ,前提事実(1)のとおり,原告Pは本件意匠権を有する者であるから,意匠法39条3項により,原告Pにも相当額の損害が発生したものと認められる。
イそして,前記(1)イのとおり,被告は平成21年9月から同22年8月末日までの間,被告製品を製造販売したことにより売上合計176万5431円を得たのであるところ,本件意匠権の実施料率を1%としても,実施料相当損害金の額は,原告Pが請求する1万4360円を超えることが認められる(同原告は,原告会社の損害額の3%に相当する額の損害が生じたと主張している。)。そうすると,意匠法39条3項により,原告Pには,少なくとも,1万4360円の損害が生じたものと認めるのが相当である。
(3) 原告らの損害賠償請求権相互の関係原告らは,原告らそれぞれの損害賠償請求権の関係について,いわゆる不真正連帯債権の関係に立つ旨主張しており,原告らの損害賠償請求権は,重複する1万4360円の限度において,連帯債権として行使されるべきである。
第4結論以上のとおりであるから,原告らの請求は,主文記載の限度で理由があるので,33主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田陽三
裁判官 達野ゆき
裁判官 北岡裕章