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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  意匠の類否 /  本意匠 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10401号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/04/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成23年4月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成22年(行ケ)第10401号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成23年4月14日

判 決

原 告 ニューメディカ・テック株式会社

同訴訟代理人弁理士 宮 崎 伊 章

的 場 照 久

被 告 ニューメディカ・テック

販 売 株 式 会 社

同訴訟代理人弁理士 廣 幸 正 樹

主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2010−880008号事件について平成22年11月16日に

した審決を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,原告が,被告の下記1のとおりの本件意匠に係る意匠登録を無効にする

ことを求める原告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たな

いとした別紙審決書の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4

の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1 本件意匠(甲15)

出願日:平成21年5月21日

登録日:平成22年3月5日

登録番号:登録第1384352号




意匠に係る物品:浄水器

意匠の形態:別紙審決書(写し)の「別紙第1」のとおりの意匠(以下「本件意

匠」という。)

2 特許庁における手続の経緯

審判請求日:平成22年7月16日(無効2010−880008号)

審決日:平成22年11月16日

審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。

原告に対する審決謄本送達日:平成22年11月26日

3 本件審決の理由の要旨
A 本件審決の理由は,要するに,本件意匠は,下記引用例の意匠(その形態は

別紙審決書(写し)の別紙「甲第1号証」のとおり。以下「引用意匠」という。)

と類似するということはできないから,意匠法3条1項3号に該当するものではな

く,本件意匠に係る意匠登録を無効にすることができない,というものである。

引用例:意匠登録第1056046号公報(平成11年12月9日発行。甲1)
B 本件審決が前提とした本件意匠と引用意匠との共通点及び差異点は,以下の

とおりである。

ア 共通点(以下,共通点1ないし5を総称して,「本件共通点」という。)。
共通点1:全体が縦長の略直方体形状を呈している点
~ 共通点2:本体の両側面において,背面より奥行きの約1/4前方に縦分割

線が形成されている点
共通点3:本体の上縁部及び下縁部に周回する横分割線が形成されている点
。 共通点4:本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体

正面から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面

には縦長の逆台形状のレバーが形成されている点
。 共通点5:吐水口よりやや上方から本体の上端付近に亘って,凸状で縁取り

された窓部が形成され,凸状縁取り部前面角部(正面側突出面の角部)は傾斜状に




面取りされた点

イ 差異点(以下,差異点1ないし7を総称して,「本件差異点」という。)
差異点1:本体正面の両側縁部について,本件意匠は,本体正面の左右両側

縁部は,丸みを帯びた弧状面であり,前面部は平坦面がほとんどを占めるのに対し

て,引用意匠は,本体正面の略2分1の平面部を残し,その両側に略30度の角度

で後方に傾斜するテーパー面が形成されている点
~ 差異点2:吐水口上面に形成されたレバーの角度について,本件意匠は,レ

バーが水平方向に対して略60度程度の角度で手前側に傾斜して形成されているの

で,立設されているともいえるのに対して,引用意匠は,レバーが水平方向に対し

て略30度程度の角度で後方側に傾斜して形成されている点
差異点3:本体正面の窓部について,本件意匠は,略トラック形状であるの

に対して,引用意匠は,円形状である点
。 差異点4:窓部の目盛りについて,本件意匠の窓部には目盛りが付されてい

ないのに対して,引用意匠の窓部には,中央部に縦の直線状に目盛りが付されてい

る点
。 差異点5:本体の上下の縁部に形成された横分割線の端部からの幅について,

本件意匠は,上下の分割線の端部からの幅が略同一であるのに対して,引用意匠は,

上部の幅が下部の幅の略2倍である点
差異点6:下面部について,本件意匠は下面が平坦面であるのに対して,引

用意匠は,4隅に小さな脚部が形成されている点
「 差異点7:全体の比率について,本件意匠の縦:横:奥行きは約2.2:1.

3:1であるのに対して,引用意匠は,約1.6:1.1:1である点

4 取消事由

本件意匠と引用意匠との類否判断の誤り

第3 当事者の主張

〔原告の主張〕




A 本件共通点についての判断の誤りについて

ア 本件審決は,本件共通点について,本件意匠と引用意匠のいずれにも特有の

格別に顕著な特徴ということはできないとした。

しかしながら,需要者が注目する意匠の要部の中に公知意匠が含まれることはあ

り得ることであるから,登録意匠の要部を全体として見て,意匠の創作性が認めら

れるか否かの観点から判断すべきである。

イ 本件共通点は,それぞれ単独では公知の意匠に見られる形状等だとしても,

全体が縦長の略直方体形状を呈し(共通点1),本体正面の中央よりやや上方に吐

水口が形成され(共通点2),吐水口よりやや上方から本体の上端付近に亘って,

凸状で縁取りされた窓部が形成され,凸状縁取り部前面角部(正面側突出面の角

部)は傾斜状に面取りされた点(共通点5)を1つの意匠の創作と解すれば,公知

意匠とは異なる特徴を有するものということができる。

したがって,本件共通点が両意匠に特有の格別に顕著な特徴ということはできな

いとした本件審決の判断は誤りである。

ウ 本件審決は,共通点4について,吐水口として格別特徴のある形態でもなく,

共通点5も,浄水器の分野においては格別顕著な特徴とはいえないなどとする。

しかしながら,本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成されている点,吐水

口よりやや上方から本体の上端付近に亘って凸状で縁取りされた窓部が形成されて

いる点は,本件意匠及び引用意匠以外には見られない両意匠に特有の格別に顕著な

特徴である(甲9〜甲12。以下,特に断らない限り,枝番は省略する。)。

したがって,共通点4及び5が,浄水器の分野においては格別に顕著な特徴とは

いえないとした本件審決の判断は誤りである。
B 本件差異点についての判断の誤りについて

ア 差異点1について

本件意匠及び引用意匠において,本体正面の両側縁部が弧状面であるか傾斜面で

あるかにかかわらず,本体正面部の大きな部分を占めている点において共通する美




感を有しているというべきである。

また,本件審決は,引用意匠の広い傾斜面は「面取り部」とはいい難いとするが,

角を丸める「丸面取り」は,面取りの一種と認識されているから(甲14),本体

正面の両側縁部は共通する美感を有しているというべきである。

したがって,差異点1の本体正面の両側縁部が類否判断に与える影響は大きいと

した本件審決の判断は誤りである。

イ 差異点2について

種々の角度で立設されたレバーを備える吐水口の形状は公知である(甲6〜8,

10〜12)から,需要者は,どのような角度でレバーが立設されているかについ

て格別認識することなく,浄水器を使用するものというべきである。

したがって,差異点2の吐水口のレバーの角度が類否判断に一定程度の影響を与

えるとした本件審決の判断は誤りである。

ウ 差異点3について

本件意匠の縦長略トラック形状の窓と,引用意匠の円形の窓は,丸みを帯びてい

るという点において共通の美感を有するものである。

実際,円形の窓を備えた公知意匠(甲10の38)を本意匠として,縦長略トラ

ック形状の窓を備えた公知意匠(甲10の37)が類似意匠として登録されている。

したがって,差異点3の本体正面の窓部の評価が類否判断に与える影響は大きい

とした本件審決の判断は誤りである。

エ 差異点7について

本件意匠及び引用意匠に係る物品(浄水器)は,背面をほぼ隙間なく壁に近づけ

て使用されることが多く,本体正面が最も需要者に看取されるものであるから,両

意匠の全体の比率の評価においては,奥行きに対する縦の比率よりも,むしろ本体

正面直方体の縦と横の比率をより重視して評価すべきである。本件意匠の縦:横の

比率は約1.6:1であり,引用意匠は,約1.4:1であるから,類否判断に与

える影響は微弱である。




したがって,本件意匠が,引用意匠と比較してややスリムなプロポーションであ

ることからもたらされる美感の相違も,ある程度類否判断に影響するとした本件審

決の判断は誤りである。
C 小括

以上からすると,本件審決は,本件意匠及び引用意匠との共通点及び差異点の評

価を誤り,両意匠は非類似であると判断したものであるから,取消しを免れない。

〔被告の主張〕
A 本件共通点について

意匠の類否判断は,願書及び願書に添付された図面に基づいて,あくまで意

匠全体について行われるべきであるから,意匠の一部(共通点1,2,5)のみを

取り出して結合させた意匠を想定するという原告の判断手法は明らかに失当である。

イ 原告は,共通点4及び5の各形状を有するのは本件意匠及び引用意匠のみで

あるなどと主張するが,意匠の一部分の結合によって意匠の類否を判断する点で,

同様に誤りである。

ウ 本件審決は,本件共通点について,吐水口やのぞき窓等は,略直方体形状

浄水器であれば当然有してしかるべき部分であるから,需要者の美感を起こさせる

要部ではないし,仮に要部であったとしても全体に対する影響は少ないと判断した

ものであって,本件審決の共通点の評価に誤りはない。
B 本件差異点について

ア 差異点1について

原告は,本体正面の両側縁部について,本件意匠及び引用意匠は共通する美感を

有すると主張するが,その理由は不明である。

本件審決は,本件意匠と引用意匠との対比において,本体正面の前面に残された

平面部の大きさに基づき,両意匠の左右両側縁部の処理は異なるとした上で,浄水

器の使用者が必ず目にする浄水器の正面部において,大きな部分を占める相違であ

ることから,類否判断に与える影響は大きいとするものであって,その判断に誤り




はない。

また,本件審決は,引用意匠の両側縁部は処理の幅が広すぎるため,「面取り」

とはいえないとするのであるから,「丸面取り」が「面取り」の一種であるからと

いって,差異点1に係る本件審決の判断に誤りがあるということはできない。

イ 差異点2について

本件審決は,浄水器を使用する際,需要者はどの位置にレバーがあるかについて

確認して使用するものであるから,必ずレバーを見るものであることをもって,レ

バーは要部となり得ると認定し,要部に差異点がある以上,類否判断にも一定程度

の影響があるとするものである。したがって,本件審決の判断に誤りはない。

原告は,レバーの角度について様々な形状があることを主張するにすぎず,角度

が変わっても同じ美感を起こさせることを主張立証するものではない。

ウ 差異点3について

意匠の類否判断は,その他の部分を含む意匠全体について行うべきであるから,

対比する2つの意匠が,既存の本意匠と類似意匠との対比事例と同様の共通点,差

異点を有していたとしても,それらが物品特性等からみて,意匠全体の中で注意を

引く部分における共通点又は差異点なのか否か,注意を引く程度についての評価は,

常に既存の対比事例と同じわけではない。

本件審決は,吐水口のレバーと同様,需要者が浄水器を使用する際,内容物の残

量を確認するという使用態様を考慮した上で,窓部は本件意匠の要部であると認定

し,類否判断に及ぼす影響が大きいとするものであって,その判断の過程に誤りが

あるとは認められない。

エ 差異点7について

原告は,本件意匠と引用意匠の縦:横の比率について,類否判断に与える影響は

微弱であると主張するものであるから,原告も,当該比率の差によりもたらされる

美感の相違が,ある程度,類否判断に影響を及ぼすことを認めているものというべ

きである。




また,本件審決は,奥行きに対する縦の比率を格別取り上げて評価しているわけ

ではなく,全体を見て,「ややスリムなプロポーション」と認定しているのである。

意匠は,全体として観察されるべきものであり,特に略直方体形状という単純な

形状に近い場合,全体の比率は当然差異点として需要者に認識されるものである。

したがって,全体の比率について要部と判断し,その差異は類否判断にある程度

影響するとした本件審決の判断に誤りはない。
C 小括

以上からすると,本件審決の共通点及び差異点の判断に誤りはなく,本件意匠と

引用意匠とは非類似であるとした本件審決は相当であって,原告主張の取消事由は

理由がない。

第4 当裁判所の判断

1 本件意匠と引用意匠との類否について
A 類否判断の前提となる事実

ア 本件意匠の形態について

本件意匠の形態について,全体が縦長の略直方体形状を呈し,本体正面の左右両

側縁部は,丸みを帯びた弧状面とされ,本体の両側面において,背面より奥行きの

約1/4前方に縦分割線が形成され,本体の上縁部及び下縁部に周回する横分割線

が形成され,本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体正面

から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面には

縦長の逆台形状のレバーが形成され,そのレバーは水平方向に対して略60度程度

の角度で手前側(右側面視左方)に傾斜して形成され,吐水口よりやや上方から本

体の上端付近に亘って,凸状で縁取りされたトラック形状の窓部が形成され,凸状

縁取り部前面角部(正面側突出面の角部)は傾斜状に面取りされたものであること

は,当事者間に争いがない。

イ 引用意匠の形態について

引用意匠の形態について,全体が縦長の略直方体形状を呈し,本体正面の左右両




側縁部に,正面の略2分1の平面部を残し,その両側に略30度の角度で後方に傾

斜するテーパー面が形成され,本体の両側面において,背面より奥行きの約1/4

前方に縦分割線が形成され,本体の上縁部及び下縁部に周回する横分割線が形成さ

れ,本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体正面から水平

に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面には縦長の逆

形状のレバーが形成され,そのレバーは水平方向に対して略30度程度の角度で

後方側(右側面視右方)に傾斜して形成され,吐水口よりやや上方から本体の上端

付近に亘って,凸状で縁取りされた円形状の窓部が形成され,凸状縁取り部前面角

部(正面側突出面の角部)は傾斜状に面取りされたものであることは,当事者間に

争いがない。

ウ 本件意匠と引用意匠との共通点及び差異点

また,本件意匠と引用意匠との共通点及び差異点が前記第2の2 Bの本件共通点

及び本件差異点のとおりであることも,当事者間に争いがない。
B 両意匠の類否

ア 本件共通点について

浄水器において,本体部分が略直方体形状を呈し(甲10の1〜7等),本体部

分を構成する板材と板材との接合部分が合わせ面として線状に形成され(甲10の

45,46等),本体正面の中央よりやや上方に吐水口が形成され,吐水口は本体

正面から水平に突出する短い管と,これに接続された逆円錐台状口部と,その上面

には縦長の逆台形状のレバーが形成されているほか(甲10の3等),容器内の残

量確認用の窓部を形成し,当該窓部を凸状縁部によって囲うこと(甲10の37

等)は,本件出願日前から普通に見られる,ありふれた態様であって,本件共通点

については,いずれも本件意匠及び引用意匠における格別に顕著な特徴ということ

はできない。

この点について,原告は,本件共通点は,それぞれ単独では公知の意匠に見られ

形状等だとしても,共通点1,2,5を1つの意匠の創作と解すれば,公知意匠




とは異なる特徴を有するものということができる,共通点4及び5は,両意匠に特

有の格別に顕著な特徴であるなどと主張する。

しかしながら,意匠の類否判断は,当該登録意匠と引用意匠とを全体として観察

すべきであるから,両意匠の共通点の一部のみ(共通点1,2,5)を1つの意匠

と仮定して判断することは,明らかに失当である。また,共通点4及び5は,本件

出願前から普通に見られる態様であることも,先に指摘したとおりである。

原告の主張は採用できない。

イ 本件差異点について
本件意匠が浄水器に関する意匠であることに鑑みると,需要者は,浄水器を

使用する際,吐水口等が設置された浄水器正面部を必ず目にするものである。

そして,本体正面部の大きな部分を占めている両側縁部について,本件意匠のよ

うに,端部付近が丸みを帯びた弧状面であるか,引用意匠のように,略2分の1の

平面部を残し,その両側に略30度の角度で後方に傾斜する傾斜面であるかの差異

は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に与える影響が大きいというべきである。

したがって,差異点1は,需要者に引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的

効果を有するものということができる。

この点について,原告は,角を丸める「丸面取り」は,面取りの一種と認識され

ているから,本体正面の両側縁部は共通する美感を有しているといえるので,差異

点1が類否判断に与える影響は大きくないなどと主張する。

しかしながら,角を丸める「丸面取り」が面取りの一種であったとしても,大き

く形態が異なる本件意匠と引用意匠とにおける本体正面の両側縁部の美感が直ちに

共通するものということはできない。原告の主張は採用できない。
~ 吐水口についても,需要者が浄水器を使用する際,必ず目にするものである

以上,吐水口のレバーの形状や配置状態(レバーが手前側に立設されているか,後

方側に寝ているか)については,需要者の美感に与える影響は大きいというべきで

ある。




したがって,差異点2は,需要者に引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的

効果を有するものということができる。

この点について,原告は,種々の角度で立設されたレバーを備える吐水口の形状

は公知であるから,需要者は,どのような角度でレバーが立設されているかについ

て格別認識することなく,浄水器を使用するものであるといえるので,差異点2が

類否判断に一定程度の影響を与えることはないなどと主張する。

しかしながら,種々の角度で立設されたレバーを備える形状の吐水口が存在する

からといって,需要者が吐水口のレバーの形状を格別認識することなく,浄水器を

使用するものということはできない。原告の主張は採用できない。
容器内の残量確認用の窓部についても,需要者が浄水器を使用する際,これ

に着目し,内容量を確認してから給水を開始し,あるいは残量を継続的に確認しつ

つ給水を終了することが一般的であるから,浄水器の窓部の形状は,需要者の美感

に与える影響は大きいというべきである。

そして,本件意匠の窓部は,略直方体形状の本体部分と同様に縦長の略トラック

形状であるのに対し,引用意匠における円形状の窓部は,本体の形状が縦長の略直

方体形状を呈する中にあって,特徴的な形態を有しているものであるから,需要者

の視覚を通じて起こさせる美感に大きな影響を与えるものということができる。

したがって,差異点3は,需要者に引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的

効果を有するものということができる。

この点について,原告は,円形の窓を備えた公知意匠を本意匠として,縦長略ト

ラック形状の窓を備えた公知意匠が類似意匠として登録されているから,窓部の両

形状は共通の美感を有するものであるといえるので,差異点3が類否判断に与える

影響は大きくないなどと主張する。

しかしながら,特定の部位の形状について共通の差異点を有する意匠について,

本意匠及び類似意匠としての登録がされた対比事例があることをもって,その余の

共通点及び差異点等の構成上の特徴を無視し,本件意匠と引用意匠との前記差異点




3に係る類否判断においても同様に解することは,意匠の類否は全体的な観察に基

づいて行われる以上,相当ではない。原告の主張は採用できない。
。 需要者は,浄水器を使用する際,吐水口等が設置された浄水器正面部を必ず

目にするものである以上,本体の縦・横の比率は,美感に影響を与えるものという

ことができる。

そして,本件意匠は,引用意匠と比較して縦長の態様を呈しており,需要者にス

リムな印象を与えるものである。

したがって,差異点7は,需要者に引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的

効果を有するものということができる。

この点について,原告は,浄水器は,本体正面が最も需要者に看取されるもので

あるから,両意匠の全体の比率の評価においては,奥行きに対する縦の比率よりも,

むしろ本体正面直方体の縦と横の比率をより重視して評価すべきであるところ,本

件意匠と引用意匠における同比率の差異,すなわち,差異点7が類否判断に与える

影響は微弱であるなどと主張する。

しかしながら,差異点7については,原告主張のとおり,正面直方体の縦と横の

比率を重視して評価したとしても,なお類否判断に一定の影響を与えるものという

ことができる。原告の主張は採用できない。
。 以上からすると,その余の差異点については格別特徴的なものではないとし

ても,本件意匠と引用意匠との類否判断において,差異点 1 ないし3は顕著な特徴

ということができ,美感に大きな影響を与えるものということができるのみならず,

差異点7についても,美感に影響を与えるものということができるから,本件差異

点は,需要者に全体として引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有す

るものと認めるのが相当である。

ウ 小括

以上からすると,本件共通点は,浄水器において普通に見られるありふれた態様

であって,いずれも本件意匠及び引用意匠における格別に顕著な特徴ということは




できないのに対し,本件差異点は,美感に及ぼす影響が大きく,需要者に全体とし

て引用意匠とは異なる美感を生じさせる意匠的効果を有するものと認められるから,

本件意匠と引用意匠とを全的的に観察した場合,両意匠は類似するものということ

はできない。

2 結論

以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部



裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣




裁判官 井 上 泰 人




裁判官 荒 井 章 光