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関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  意匠の類否 /  全体観察 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 23年 (行ケ) 10159号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2011/11/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成23年11月30日判決言渡

平成23年(行ケ)第10159号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成23年10月17日

判 決



原 告 X

訴訟代理人弁護士 波 多 野 進

同 冨 宅 恵

同 吉 村 洋 文

同 久 保 陽 一

同 藤 原 誠

同 中 嶋 俊 明

同 西 村 啓

同 蔦 大 輔

同 野 田 倫 子

訴訟代理人弁理士 高 山 嘉 成



被 告 特 許 庁 長 官



指 定 代 理 人 瓜 本 忠 夫

同 遠 藤 行 久

同 芦 葉 松 美

主 文

1 特許庁が不服2010−17433号事件について,平成23年3月28日

にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。




事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨

第2 前提事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成21年7月8日,別紙第1記載の意匠(以下「本願意匠」という。)

について,意匠に係る物品を「コンタクトレンズ」として意匠登録出願(意願20

09−015557(甲55),以下「本願」という。)をしたが,平成22年4

月21日,拒絶査定を受け(甲56),これに対し,同年8月4日,不服の審判(不

服2010−17433号事件)を請求した。特許庁は,平成23年3月28日,

「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,

その謄本は,同年4月11日,原告代理人に送達された。

2 審決の内容

(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願意匠は,平成17年5月3

0日発行の大韓民国意匠商標公報(CD−ROM番号:2005−27)に記載さ

れたコンタクトレンズの意匠(別紙第2のとおり,以下「引用意匠」という。)と

類似するから,意匠法3条1項3号に掲げる意匠に該当し,意匠登録を受けること

ができない,と判断した。

(2) 共通点,差異点

審決が前提とした,本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点は,以下のとおり

である。

ア 共通点

基本的構成態様として,

(A)全体は,球面体の一部を平面によって切り取った透光性を有する曲面体に

ついて,その全体に均一で薄墨状の明調子をベースとして施し,その「中心点」を

囲む小円形である「中央円形部」と細幅帯状の「最外周縁部」を除いた,太幅帯状




の略「太輪」状部分に,暗調子及び中間調子の模様を付して,配置・構成したもの

である点,

具体的構成態様として,

(B)前記の太幅帯状の模様部は,大別して,次の3つの模様部を略同心円状に,

すなわち,三重円状に,配置・構成してなるものである点,

(B−1)外周側に,細幅な帯状に暗調子の斑点模様が「密」に施された「外周

暗調子斑点状密模様部」(以下「外周密模様部」という。),

(B−2)内周側に,やや細幅な帯状に暗調子の斑点模様が「粗」に施された「内

周暗調子斑点状粗模様部」(以下「内周粗模様部」という。),及び,

(B−3)それら2つの中間部の,やや幅の広い帯状部に,中間調子の模様が施

された「中間部中間調子模様部」(以下「中間部模様部」という。)。

(C)外周密模様部は,外周側は,はっきりとした円形状の輪郭を描くように暗

調子とされており,その暗調子は,一定の幅の帯状に全周にわたって形成されてい

るものであって,その内周側は,略「波」状部が全周にわたって,不規則に繰り返

し連続して配置・形成されているものである点,

(D)内周粗模様部は,不規則に配置された斑点模様が,全体として中心点から

略放射状に,すなわち,略「太陽のコロナ」状に形成されている点,

(E)中間部模様部は,模様の配列に規則性が感じられる,地模様的に形成され

ており,外周密模様部及び内周粗模様部が,この中間部模様部に不規則に被さって

いる態様のものである点。

イ 差異点

(ア)内周粗模様部について,本願意匠は,斑点が不規則に連結してやや長めの線

模様を形成している部分が見られるのに対して,引用意匠は,斑点同士が連結し

た部分は多く見られるものの,はっきりとした線状模様は見られない点,

(イ)外周密模様部について,本願意匠は,内周側の略「波」状部に,やや高さの

高い部分や暗調子にやや明るい部分が見られるのに対して,引用意匠は,そのよう




なものがない点,

(ウ)中間部模様部について,本願意匠は,コンタクトレンズ全体に施された明調

子をベースにして,その上に中間調子で目の細かい格子状模様を施したものである

のに対して,引用意匠は,同じく,コンタクトレンズ全体に施された明調子をベー

スにして,その上に中間調子の斑点模様を略格子状に施したものである点。

第3 当事者の主張

1 審決の取消事由に係る原告の主張

(1) 本願意匠と引用意匠の共通点,差異点に関する認定の誤り

審決は,本願意匠と引用意匠の差異点について,上記第2の2の(2)のとおり,認

定した。しかし,以下のとおりの差異点の看過がある。

ア 外周部の太さについて,本願意匠は,縁部を除いた外周部の直径をaとし,

外周部の黒色が濃い箇所の平均の太さをbとした場合,外周部の全体に占める割合

b/aは,約9.4%であるの対し,引用意匠は,縁部を除いた外周部の直径をm

とし,外周部の黒色が濃い箇所の平均の太さをnとした場合,外周部の全体に占め

る割合n/mは,約6.6%である。

イ 内周部の太さについて,本願意匠は,内周部の太さをdとした場合,内周部

の全体に占める割合d/aは,約16%であるのに対し,引用意匠は,内周部の太

さをkとした場合,内周部の全体に占める割合k/mは,約17%である。

ウ 内周部の模様について,以下の差異がある。すなわち,本願意匠は,全体に

薄墨色をベースにした格子柄模様を有し,所々に黒色模様を有する,当該黒色模様

は,略均一な間隔で外周部から延び出す16個の延出模様部によって構成されてい

る,各延出模様部は,複数の黒色斑点を結合又は隣接させて配置させることによっ

て,中心点に向かって外周部から延び出すように施されている,16個の延出模様

部は,その延出の長さが長短を交互に繰り返すように形成されており,さらに,そ

の横幅が幅広幅狭をほぼ交互に繰り返すように形成されている,平面図の最上端の





延出模様部は,延出の長さ(7ドット程度)が長くかつ横幅が広く(3ドット程度),

その左隣の延出模様部は,延出の長さが短く(3ドット程度)かつ横幅が狭く(1

ドット程度),さらに左隣の延出模様部は,延出の長さが中くらいで(6ドット程

度)かつ横幅が広く(3ドット程度)である,内周縁部は,中央部の外周を囲むよ

うに施されたイモムシ状の黒色模様を有し,当該黒色模様が外側に向けて放射状に

延びることによって,全体が略「太陽のコロナ」状の模様を有する,イモムシ状の

黒色模様の長さをcとした場合,イモムシ状の黒色模様の全体に占める割合c/a

は,約4〜9%である。これに対し,引用意匠の内周部は,全体に薄墨色をベース

にしており,黄緑色の点模様を規則的に有する,内周部は,外周部との境界部分に,

略均一な間隔で外周部から山状に延び出す18個の山状黒点模様部を有する,17

個の山状黒点模様の山の高さ及び横幅は,それぞれ,ほぼ均一である,平面視左斜

め上の山状黒点模様のみ,丘状になっている,各山状黒点模様部は,複数の黒色斑

点を結合又は隣接させて配置させることによって,山の頂上部分が中心点に向かう

ように施されている,内周縁部は,中心点から放射状に三角形状の約17個の山が

連続するように,複数のドット状の点を配置している。当該三角形状の山の高さを

pとした場合,三角形状の山の高さの全体に占める割合p/mは,約9%である。

エ 内周部の模様と内周縁部の模様との関係について,以下の差異がある。すな

わち,本願意匠の内周部の模様は中心点に向かうように施されており,かつ,内周

縁部のイモムシ状の模様は外側に向かって放射状に延びており,内周部の模様の一

部は,内周縁部のイモムシ状の模様の一部の延長線上に設けられているので,内周

部の模様と内周縁部の模様とは,一部がつながりそうになっており,内周部及び内

周縁部の模様によって,内周縁部から略「太陽のコロナ」状に延びる模様の一部が,

内周部の一部と連続性を有するような模様となっている。これに対し,引用意匠は,

平面視右斜め下部分及び右斜め上部分において,内周部の山状黒点模様の頂点部分





と内周縁部の模様の頂点部分とが対向している箇所があるものの,全体的には,内

周部の山状黒点模様と内周縁部の模様との間には,黒点模様が施されておらず,こ

れらは,つながるような模様ではなく,内周部及び内周縁部の三角形状の山によっ

て,両側から薄墨色のベース部分を挟み込むような模様である。
(2) 本願意匠と引用意匠の類否判断の誤り

審決は,前提事実記載のとおり本願意匠と引用意匠との共通点及び差異点を認定

し,共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響が支配的であるのに対し,差異点がい

ずれも微弱であるため,差異点が共通点の印象を覆すに至らないと判断する。

しかし,審決の上記判断は,以下のとおり,誤りである。

すなわち,本願意匠のような模様の付されたコンタクトレンズの需要者である1

0代中ごろから20代中ごろの女性は,コンタクトレンズを購入するに当たり,外

周部の太さ,延出模様部の態様,薄墨色の斑点の態様,内周縁部の濃さ等に着眼し

て,選択する。コンタクトレンズに関する意匠の類否判断においては,そのような

需要者の視点に立って,各コンタクトレンズにおける,外周部の太さ,延出模様

の態様,薄墨色の斑点の態様,内周縁部の態様について,それぞれの共通点,差異

点を評価して判断をすべきである。

また,本願意匠と引用意匠は,全体が球面体の一部を平面によって切り取った透

光性を有する曲面体であること,無模様の中心部が存在すること,曲面体の最外縁

を略一定幅の細幅帯状に縁取る縁部が存在すること,縁部の隣接内側において濃色

で帯状に模様が施された外周部が存在すること,内周部と外周部との境界部分では,

一部に薄墨色の斑点が不規則に施されていること,及び内周部を縁取るように施さ

れた黒色の模様を有する内周縁部とを有するとの共通点は,ファッション性を高め

る目的で使用されるコンタクトレンズにおいて,当然に採用される形態における共

通点であるから,重視されるべきではない。

したがって,本願意匠と引用意匠とが類似するとした審決の判断には,誤りがあ

る。




2 被告の反論

(1) 本願意匠と引用意匠の共通点,差異点に関する認定の誤りに対して

ア 原告は,審決が,本願意匠と引用意匠の認定及び対比に際して,本願意匠と

引用意匠との各部位の太さ,長さ,直径の割合を認定及び対比しなかった点におい

て,差異点を看過した誤りがあると主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,審決における両意

匠の認定及び対比,並びに共通点及び差異点の抽出は,両意匠の類否判断を行う前

提として,適切かつ必要十分に行われており,審決に誤りはない。意匠の認定及び

対比において,各部の構成態様に係る太さ,長さ又は直径などの割合を図面上の寸

法等から算出することは,必要不可欠なものではなく,割合の数値的な相違が直ち

に意匠の美感の相違になるものではない。また,原告の主張する,本願意匠及び引

用意匠において,「縁部を除いた外周部の直径をa(m)とし,外周部の黒色が濃

い箇所の平均の太さをb(n)とした場合,外周部の全体に占める割合b/a(n

/m)」,「内周部の太さをd(k)とした場合,内周部の全体に占める割合d/

a(k/m)」,及び,「内周縁部のイモムシ状の黒色模様の長さをcとした場合,

イモムシ状の黒色模様の全体に占める割合c/a(当該三角形状の山の高さをpと

した場合,三角形状の山の高さの全体に占める割合p/m)」の3点が,意匠の類

否の対比において重要であるとする根拠はない。

イ 原告は,審決には,本願意匠と引用意匠の具体的構成態様に係る共通点とし

た「内周部」の模様に関し,微細な色彩の差異,模様の差異,及び,外周部から延

び出す数の差異を看過した誤りがあると主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,内周部の模様の数

に関しては,本願意匠の延出模様部も,引用意匠の山状黒点模様部も,略均一な間

隔で延び出すとはいえ,基本的には,不規則な模様であって,数を把握することに,

類否判断上の意味はない。また,コンタクトレンズという物品の実際の大きさ,黒

目の上に装着する使用の態様等を考慮すれば,原告の主張する微細な差異を意匠の




差異点として採り上げること,及び延出模様部のドットの数について,差異点とし

て採り上げることに,意匠の類否判断上の意味はない。

したがって,審決が,これを共通点として,略「波」状部が外周部の内周側の全

周にわたって,不規則に連続して配置・形成されているとした認定に誤りはない。

ウ 原告は,本願意匠の「内周部の模様と内周縁部の模様との関係」について,

差異点を認定,対比していない旨主張する。

しかし,内周縁部の模様と延出模様部または山状黒点模様部が,抽象的で不規則

模様の円環状の集まりとして把握され,その関係は,意匠の類否の判断上,意味

を有しないから,差異点と認定しなかった審決に誤りはない。

(2) 本願意匠と引用意匠の類否判断の誤りに対して

ア 原告は,審決が,意匠の類否の判断に当たり,コンタクトレンズの需要者が

どのような観点から,当該意匠に係る物品を観察し,購入しているかを全く考慮し

ていない点に,類否判断における誤りがあると主張する。

しかし,原告の主張は,失当である。すなわち,意匠の類否判断は,既存の公知

意匠の参酌,意匠の要部の認定,意匠の全体観察等の複数の観点から,総合的に判

断すべきである。確かに,物品の特性に基づき観察されやすい部分か否かの評価に

際して,需要者(取引者を含む)が関心を持って観察する部位か否かを認定するこ

とにより抽出する必要性がある場合に,需要者(取引者を含む)を特定することは

必要であるといえる。しかし,審決は,本願意匠及び引用意匠のすべての形態上の

特徴について,認定・対比しており,すべての取引流通の段階を前提としていると

いえるから,審決において特定の需要者を明記しなかったからといって,それが直

ちに類否判断の誤りにつながることはない。

なお,甲1ないし甲7の刊行物の発行日は,本願意匠の意匠登録出願の日である

平成21年7月8日より後であり,これらのみをもって,審決の認定,判断が誤り

であることの根拠とするのは,妥当を欠く。

イ 原告は,本願意匠及び引用意匠のような模様が付されたコンタクトレンズの




需要者である,10代中ごろから20代中ごろの女性は,コンタクトレンズを購入

するに当たり,外周部の太さ,延出模様部の態様,薄墨色の斑点の態様,内周縁部

の態様(濃さ等)に着眼して購入すべきコンタクトレンズを選択するから,そのよ

うな需要者の視点に立って,類否判断をすべきであるにもかかわらず,審決は,そ

の観点からの類否判断をしていない点で,誤りがある旨主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。本願意匠及び引用意匠に係る

物品であるコンタクトレンズの需要者が原告の主張するとおりであるとしても,甲

1ないし甲7及び甲12によっても,需要者が外周部の太さ,延出模様部の態様,

薄墨色の斑点の態様,内周縁部の態様(濃さ等)に着眼するという観察方法を採用

するとはいえない。また,甲12のアンケートは,本願意匠の意匠登録出願の日か

ら約2年後の平成23年7月6日に実施されたものであり,これを根拠とすること

は妥当を欠く。

ウ 原告は,審決が,「コンタクトレンズ」のように,その性質上,意匠的工夫

に限界がある物品について,両意匠の具体的構成態様について,各部位の太さ,長

さ,直径の割合等を捨象して,類否を判断した点に違法があるなどと主張する。

しかし,いわゆる「三重円構成のコンタクトレンズ」であっても,数多くのバリ

エーションが存在するから,審決が共通点として挙げた基本的構成態様を,全く共

通性として評価すべきでないことにはならない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,本願意匠が,引用意匠に類似するとした審決の判断には誤りがある

と判断する。その理由は,以下のとおりである。

1 事実認定

甲1ないし甲12及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1) 本願意匠

本願意匠は,別紙第1のとおりである。

本願意匠は,模様及び彩色が施された「コンタクトレンズ」に係る意匠であって,




全体の形状は,球面体の一部を平面によって切り取った透光性を有する曲面体であ

る。同意匠の中心に位置する「小円形状部」と「最外周部」とを除外した部分は,

中央を中心とする3つの同心円状の部分に分けられる。

以下では,各部の名称とその指す部分について,外側から順に,

ア 最外周部の隣接内側に位置した濃黒色の部分(ただし,中心に向けて棒状に延

出した灰色部分を除く。)について「外周部」との名称を用い,

イ 外周部の内側に位置し,淡い灰色に着色された格子状の模様からなる部分等(た

だし,外周部から中心に向けて棒状に延出した灰色部分を含む。)について「内

周部」との名称を用い,

ウ 内周部の内側に位置し,内周部から中心に向かって濃黒色又は灰色に着色され

た棒状の模様の施された部分について「内周縁部」との名称を用いる。

「外周部」は,全体が,濃黒色に着色されているが,内周部と接する領域におい

て,白い斑点形状及び棒状形状模様が点在している。

「内周部」は,@下地として,淡い灰色に着色された直角に交差する,ある程度

の幅を有する直線が,規則正しく施されていることから,全体に格子状模様が描か

れ,また,A灰色に着色され外周部から中心部に向けて延出した「棒状形状」(各

形状は,太さ,長さが一様ではなく,また,やや曲がっているものもみられる。)

及び「斑点」が描かれている。

「内周縁部」は,@内周部と同様に,下地として,淡い灰色に着色された直角に

交差する直線が,規則正しく施されていることから,格子状の模様が描かれている

が,他方,A濃黒色又は灰色に着色され,内周部から中心に向かって棒状形状(各

形状は,太さ,長さが一様ではなく,また,やや曲がっているものもみられる。)

及び「斑点」が密集して,描かれている。棒状形状は,長短さまざまであり,いず

れも,中心点から,放射状に配置されている点で共通する。棒状形状のうち長いも

のは,内周部の棒状形状と連結して,あたかも一本の棒のように描かれている部分

がある。




(2) 引用意匠

引用意匠は,別紙第2のとおりである。

引用意匠は,模様及び彩色が施された「コンタクトレンズ」に係る意匠であって,

全体の形状は,球面体の一部を平面によって切り取った透光性を有する曲面体であ

る。同意匠中の中心に位置する小円形状部分と最外周部とを除外した部分は,中央

を中心とする3つの同心円状の部分に分けられる。

以下では,各部の名称とその指す部分について,外側から順に,

ア 最外周部の隣接内側に位置した濃黒色の部分(ただし,中心側に山状に延出し

た濃黒色部分を除く。)については,「外周部」との名称を用い,

イ 外周部の内側に位置し,薄墨色(判決注 色彩は,認定の対象から除外する。

以下同じ)に着色された小さめの小円が配置されている部分等(ただし,濃黒色

に着色された外周部から中心に向けて山状に延出した部分を含む。 については,


「内周部」との名称を用い,

ウ 内周部の内側に位置し,内周部から中心に向かって濃黒色に着色された,やや

大きめの小円が配置された部分については,「内周縁部」との名称を用いる。

「外周部」は,全体が濃黒色に着色されているが,内周部との境界部分では,濃

黒色に着色された小円が存在するように描かれている。

「内周部」は,@薄墨色に着色された小さめの小円が,縦横に等距離をおいて規

則正しく描かれ,また,A外周部との境界においては,濃黒色に着色された小さめ

の小円により構成され,山形形状ないし棒状形状(各形状は,その高さはほぼ一様

であるが,裾が広がり,小円により構成されていることが明瞭に確認できる態様で

描かれている。)が,外周部から中心に向けて延出するように配置されている。

「内周縁部」は,@濃黒色に着色された,やや大きめの小円が配置されているこ

と,A中心部との境界部分は,すべての列にわたって配置されていることから,「内

周縁部」と「中心部」との境界は,真円状に明確に区別されているように描かれて

いること,Bこれに対し,内周部側方向に至るほど,濃黒色小円が欠落して配置さ




れていることから,濃黒色小円の集合によって形成される全体は,三角形が連続す

る山様形状を呈していること,さらに,C中心点からの外側に向けて,「棒状」形

状からなる図形は,全く存在しないこと,D上記「濃黒色小円からなる上記山形形

状」と前記「内周部における濃黒色小円からなる山形形状」とは,かなり離隔して

配置されていること,などの特徴がある。

(3) 物品について

本願意匠及び引用意匠に係る物品は,模様及び彩色が施された「コンタクトレン

ズ」であるが,同物品は,視力の矯正などの医療上の目的ではなく,虹彩部ないし

瞳孔部の外観を変化させる美容上の目的で,使用されるものと解される。

2 類否についての判断

上記認定を基礎に,以下,本願意匠と引用意匠との類否について判断する。

(1) 「内周部」及び「内周縁部」について

本願意匠は,@「内周部」及び「内周縁部」の全体に,下地として,淡い灰色に

着色された直交する直線により,全体に格子状模様が施されているが,下地に施さ

れた模様は強い印象を与えないこと,A「内周部」には,灰色に着色され外周部か

ら中心部に向けて延出した「棒状形状」が存在し,「内周縁部」には,濃黒色又は

灰色に着色され,内周部から中心に向かって収束する方向に延伸する「棒状形状

(上記各棒形状は,太さ,長さが一様ではなく,また,やや曲がっているものもみ

られる。)が描かれていること,B「棒状形状」は,長短さまざまであるが,いず

れも,中心点から,放射状に配置されている点において共通していること,C「棒

形状」のうち長いものは,内周部の棒状形状と連結して,あたかも一本の棒のよ

うに描かれている部分があることに,特徴がある。

これに対して,引用意匠は,@「内周部」及び「内周縁部」に,色彩及び大きさ

において相違はあるものの,いずれも「小円」が配置されており,全体が「小円」

の集合によって形成された図形であるとの印象を強く与えること,A特に「内周部」

には,薄墨色に着色された小さめの小円が,縦横に等距離をおいて,正確に規則正




しく描かれていること,B「内周縁部」は,中心部との境界部分は,大きめの濃黒

色の「小円」が,ほぼ例外なく配置されており,「中心部」との境界は,真円を描

くように明確に区別されていること,C「内周縁部における濃黒色小円からなる上

記山形形状」と「内周部における濃黒色小円からなる山形形状」とは,距離を置い

て離隔して描かれていることに,特徴がある。

上記のとおり,本願意匠における「内周部」及び「内周縁部」は,全体的に淡い

灰色に配色された下地に,濃黒色及び灰色に着色され,内周部から中心に向かって

収束する方向に延伸する「棒状形状」(各棒形状は,太さ,長さが一様ではなく,

また,やや曲がっているものもみられる。)が描かれていること,及び「棒状形状

が連結するように描かれていることなどの点に照らすならば,本願意匠は,看者に

対して,ヒトの目との比較において,より自然で調和的,かつ穏やかな印象を与え

るような美感を有するものと評価できる。これに対して,引用意匠における「内周

部」及び「内周縁部」は,規則正しく配置された小円の集合により構成されている

こと,山形形状部等の全体の模様は,小円の大きさ,濃淡及び配置の相違のみによ

って表現されていること,山形形状部の高さ等が均一的,画一的であることなどの

点において,引用意匠は,看者に対して,ヒトの目との比較において,自然らしさ

を捨象し,人工的,メカニカルな印象を与えるような美感を有するものと評価でき

る。

(2) その他の部分について

本願意匠と引用意匠とは,@全体が球面体の一部を平面によって切り取った透光

性を有する曲面体であること,A曲面体の中心点を囲む「中央円形部」を有するこ

と,B外周部がほぼ黒色で配色されること等において,共通する。しかし,上記各

共通点は,ヒトの目に装着するカラーコンタクトレンズとして,全体が球面体の一

部を平面によって切り取った透光性を有する曲面体であり,中央円形部を有するこ

とは,必然的に選択される形状であること,コンタクトレンズを,虹彩部ないし瞳

孔部の外観を変え,大きく際だたせる目的で使用する場合に,外周部がほぼ黒色で




配色されることは,必然的に選択される形状であること等から,上記の共通の形状

は,意匠の対比に当たり,重要な特徴部分であるとはいえない。

以上のとおりであり,本願意匠は引用意匠と類似しないから,本願意匠は意匠法

3条1項3号所定の意匠に該当し意匠登録を受けることができないとした審決の判

断は誤りである。原告主張に係る取消事由は,理由がある。

3 結論

以上によれば,原告の主張には理由がある。その他被告は縷々主張するが,いず

れも理由がない。よって,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官

飯 村 敏 明




裁判官

池 下 朗




裁判官

武 宮 英 子





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