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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成23ワ10705意匠権侵害差止等請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  部分意匠 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  意匠の説明 /  新規性 /  記載された意匠 /  全体意匠 /  部品 /  全体観察 /  登録意匠 /  出願の分割(10条の2) /  出願変更(13条) /  差止請求(差止) /  専用実施権 /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 平成 23年 (ワ) 9476号 意匠権侵害差止請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2012/05/24
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年5月24日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成23年(ワ)第9476号 意匠権侵害差止請求事件

口頭弁論終結日 平成24年3月26日

判 決

原 告 向 陽 技 研 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 室 谷 和 彦

同 面 谷 和 範

同補佐人弁理士 中 谷 武 嗣

被 告 株 式 会 社 ヒ カ リ

同訴訟代理人弁護士 本 渡 諒 一

同 仲 元 昭

同訴訟復代理人弁護士 宮 原 秀 隆

同訴訟代理人弁理士 清 水 義 仁

主 文

1 被告は,別紙イ号製品目録,別紙ロ−1号製品目録及び別紙ロ−2号製品

目録記載の各製品を製造し,使用し,譲渡し,輸出し又は輸入してはならな

い。

2 被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。

3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

4 訴訟費用はこれを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担

とする。

5 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求めた裁判

1
1 原告

(1) 被告は,別紙イ号製品目録,別紙ロ−1号製品目録,別紙ロ−2号製品目

録及び別紙ロ−3号製品目録記載の各製品を製造し,使用し,譲渡し,輸出

し又は輸入してはならない。

(2) 被告は,前項記載の各製品を廃棄せよ。

(3) 訴訟費用は被告の負担とする。

(4) (1),(2)につき,仮執行宣言

2 被告

(1) 原告の請求をいずれも棄却する。

(2) 訴訟費用は原告の負担とする。

第2 事案の概要

1 前提事実(当事者間に争いがない。)

(1)当事者

原告は,鉄工業等を目的とする会社である。

被告は,各種金属プレス加工並びに販売等を目的とする会社である。

(2)本件意匠権1

原告は,以下の意匠登録(以下「本件意匠登録1」といい,その登録意匠

を「本件意匠1」といい,その実施品を「本件実施品1」という。)に係る意

匠権(以下「本件意匠権1」という。)について,専用実施権を有している。

登録番号 1379531号

出願日 平成17年2月25日

登録日 平成22年1月8日

意匠に係る物品 角度調整金具用浮動くさび

登録意匠 別紙本件意匠目録1記載のとおり

(3)本件意匠権2

原告は,以下の意匠登録(以下「本件意匠登録2」といい,その登録意匠

2
を「本件意匠2」といい,その実施品を「本件実施品2」という。)に係る意

匠権(以下「本件意匠権2」という。)について,専用実施権を有している。

登録番号 1399739号

出願日 平成17年2月25日

登録日 平成22年9月24日

意匠に係る物品 角度調整金具用揺動アーム

登録意匠 別紙本件意匠目録2記載のとおり

(4)被告の行為

被告は,別紙イ号製品目録記載の製品(以下,同製品に係る意匠を「イ号

意匠」という。,別紙ロ−1号製品目録記載の製品(以下,同製品に係る意


匠を「ロ−1号意匠」という。,別紙ロ−2号製品目録記載の製品(以下,


同製品に係る意匠を「ロ−2号意匠」という。)及び別紙ロ−3号製品目録記

載の製品(以下,同製品に係る意匠を「ロ−3号意匠」という。)を,それぞ

れ製造,使用,譲渡,輸出及び輸入した(以下,ロ−1号製品,ロ−2号製

品及びロ−3号製品を併せて「ロ号製品」という。。


イ号製品と本件意匠1,ロ号製品と本件意匠2とは,それぞれ意匠に係る

物品が同一である。

なお,イ号意匠の正面図,背面図の内側に囲まれた線は,台形形状の隆起

部の斜面を示しており,台形の上辺と下辺とを区別するのであれば,間隔の

極めて狭い,二重線で描かれることになる。

また,被告は,平成22年7月30日からロ−1号製品を,同年11月2

日からロ−2号製品を,製造,使用,譲渡,輸出及び輸入していない。また,

別紙イ号製品目録及び別紙ロ号製品各目録記載の各製品のうちC「ラチェッ

トギア多段シリーズ 14RS 巻き1.6」も,現在は製造していない。

2 原告の請求

原告は,被告に対し, イ号製品に係る被告の行為により本件意匠権1を侵
@

3
害されたとして,その専用実施権に基づき,イ号製品の製造,使用,譲渡,輸

出又は輸入の差止めを求めるとともに, ロ号製品に係る被告の行為により本
A

件意匠権2を侵害されたとして,その専用実施権に基づき,ロ号製品の製造,

使用,譲渡,輸出又は輸入の差止めを求めている。

3 争点

(1) イ号意匠は,本件意匠1に類似するか (争点1)

(2) ロ−1号意匠は,本件意匠2に類似するか (争点2)

(3) ロ−2号意匠は,本件意匠2に類似するか (争点3)

(4) ロ−3号意匠は,本件意匠2に類似するか (争点4)

(5) 本件意匠登録1及び2は,意匠登録無効審判により無効とされるべきもの

であるか

ア 本件意匠登録1及び2について,意匠登録出願への変更前の特許出願に

分割要件違反があるか (争点5)

イ 本件意匠登録1について,特許出願から意匠登録出願への変更は適法な

ものであるか (争点6)

ウ 本件意匠登録2について,特許出願から意匠登録出願への変更は適法な

ものであるか等 (争点7)

第3 争点に係る当事者の主張

1 争点1(イ号意匠は,本件意匠1に類似するか)について

【原告の主張】

以下のとおり,イ号意匠は,本件意匠1に類似する。

(1) 本件意匠1の構成

本件意匠1の構成は,以下のとおりである。




4
ア 基本的構成態様

(ア) 正面視において,縦長であり,上方にいくにしたがって左右幅がわず

かに減少する形状である。

(イ) 右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が凹状として形成され

ている。

(ウ) 左側面には,滑らかな凸弯曲の当接面が形成されている。

(エ) 左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。

(オ) 平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。

イ 具体的構成態様

(ア) 頂部から歯面の上端まで下方に傾斜する,平滑な上傾斜面が形成され

ている。

(イ) ギア歯の数は6個である。

(ウ) 正面視において,歯面の下端から幅方向の略半分まで左下方へ傾斜す

る,平滑な下傾斜面が形成されており,当該下傾斜面の下端は,下方に

凸の略半円形状に形成された膨出部に繋がる。

ウ 要部

(ア) 本件意匠1は,立体的形状であるから,一方向からの形状にとらわれ

ず,全体的形状を的確に把握する必要がある。

(イ) 本件意匠1のうち,看者がまず注目するのは,凸湾曲の滑らかな曲面

5
を有する左側面の形状(前記ア(ア))と,ぎざぎざのギア歯を有する右

側面の形状(同(イ))である。本件意匠1は,このような対照的な二面

性を有する特異かつ斬新な形状であり,この二面性から奏される美感が

従来の意匠にない特徴である。

また,本件意匠1の左側面と右側面は,平行に並ぶのではなく,上方

に向かって左右幅が減少する略「ハ」の字様に背中合わせとなっており

(同(ウ)),これも本件意匠1の特徴である。

なお,左右の各側面視における輪郭が,縦横比の差が小さな長方形で

ある点(同(エ))は,本件意匠1の骨格をなすものであり,本件意匠1

全体の美感に与える影響は小さくない。

(ウ) したがって,本件意匠1の要部は,前記ア (ア)ないし(エ)である。

(2) イ号意匠の構成

イ号意匠の構成は,以下のとおりである。




ア 基本的構成態様

(ア) 正面視において,縦長であり,上方にいくにしたがって左右幅がわず

かに減少する形状である。

(イ) 右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が凹状として形成され

ている。

6
(ウ) 左側面には,滑らかな凸弯曲の当接面が形成されている。なお,下方

から全高3分の1程度までは平面状である。

(エ) 左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。

(オ) 平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。

イ 具体的構成態様

(ア) 頂部から歯面の上端まで下方に傾斜する,平滑な上傾斜面が形成され

ている。

(イ) ギア歯の数は5個である。

(ウ) 正面視において,歯面の下端から当接面の下端まで左下方へ傾斜する,

平滑な下傾斜面が形成されている。

(エ) 正面及び背面の各面は,周縁に沿って微小高さの段押しがされている。

(3) 類否

以下のとおり,イ号意匠は本件意匠1と共通の美感を有しており,類似す

る。

ア 共通点

本件意匠1とイ号意匠は,基本的構成態様(ア),(イ),(エ)及び(オ)並

びに具体的構成態様(ア)において同一である。

イ 差違点

イ号意匠は,以下の点で,本件意匠1と相違する。

(ア) 左側面(当接面)の下方の形状が,本件意匠1は曲面であるのに対し,

イ号意匠は下方から全高3分の1程度までが平面状である(基本的構成

態様(ウ))。

(イ) ギア歯の数が,本件意匠1は6個であるのに対し,イ号意匠は5個で

ある(具体的構成態様(イ))。

(ウ) 正面視において,本件意匠1は,下方に凸の略半円形状に形成された

膨出部が形成されているのに対し,イ号意匠は,そのような膨出部が形

7
成されていない(具体的構成態様(ウ))。

(エ) イ号意匠は,正面及び背面において,周縁に沿って微小高さの段押し

がされているのに対し,本件意匠1には,段押しがされていない(具体

的構成態様(エ))。

ウ 対比

前記アのとおり,本件意匠1とイ号意匠は基本的構成態様(ウ)を除い

た要部が共通であり,具体的構成態様(ア)も共通であり,これらの共通

点が類否判断に与える影響は極めて大きい。

これに対し,前記イの差違点はいずれも微細な点であり,看者の注意を

惹くものではなく,類否判断に影響を及ぼさない。

(ア) 差違点(ア)

イ号意匠の左側面は,上方から全高3分の2程度の範囲までが曲面で

あり,平面状の部分は下方から3分の1程度の範囲にとどまる。また,

曲面部分と平面状部分は滑らかな曲面で連続しているから,一見しただ

けでは,平面状部分の存在すらほとんど気づかないし,深く観察してよ

うやく気付く程度の形状の相違にすぎない。

(イ) 差違点(イ)及び(ウ)

ギア歯の数の差違は,詳細に観察して初めて気が付く程度のものであ

るし,膨出部の有無も意匠全体からすればごく小さな差異であって,看

者の注意を惹くものではない。

後記被告の主張は,本件意匠1の正面図のみを捉えて平面的に見たこ

とによる誤解に基づくものである。

(ウ) 差違点(エ)

イ号意匠の段押しは,高さが0.1o程度のものであり,幅も極めて狭

小で,イ号製品(実施品)ではほとんど看取することができないもので

ある。また,段押しは,焼結機械部品で公知のありふれた形状にすぎな

8
いことからしても,看者の注意を惹く部分ではない。

【被告の主張】

以下のとおり,イ号意匠は,本件意匠1に類似するものではない。

(1) 本件意匠1の構成

本件意匠1の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) 正面視において,縦長であり,上方にいくにしたがって左右幅がわず

かに減少する形状である。

(イ) 頂部は略三角形状である。

(ウ) 底部は耳朶状円形である。

(エ) 右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が凹状として形成され

ている。

(オ) 左側面は,曲率一定の単一円弧面からなる。

(カ) 左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が極めて小さく,略正方

形である。

(キ) 平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。

(ク) 正面,背面は全域にわたって平坦である。

イ 具体的構成態様

(ア) ギア歯の数は6個である。

(イ) 正面視において,歯面の下端から幅方向の略半分まで左下方へ傾斜す

る平滑な下傾斜面が形成されており,当該下傾斜面の下端から下方に耳

朶状に膨隆した耳朶部が形成され,底部を構成する。

(ウ) 底面視における輪郭の長方形の中央に,下傾斜面より迫り出した耳朶

部の輪郭線が看取される。

(エ) 頂部のアールは底部及び耳朶部のアールよりも小さい(頂部の方がと

がっている。。


9
(オ) 下傾斜面の長さは,上傾斜面の長さよりも短い。

ウ 原告主張の構成について

原告が主張する基本的構成態様(ウ)「滑らかな凸湾曲の当接面が形成さ

れている。」のうち,当接面の湾曲形状は「滑らかな凸湾曲」ではなく,

単一円弧面からなる緩やかな湾曲面と特定すべきである。

エ 要部

(ア) 原告主張の要部について

本件実施品1は「浮動くさび」であるが,
「くさび」の先端が細く,他

端が太くなっていることは,公知の意匠である。

また,原告が主張する基本的構成態様(ア)ないし(オ)を備えた意匠も

公知である。

(イ) 本件実施品1は極小の物品であり,全体観察がなされるものであると

ころ,全体的な形状における特徴的部分は,前記ア(ウ)(「底部形状」の

底部が耳朶状円形となっていること)及び同(オ)の(「左側面形状」の左

側面が曲率一定の単一円弧面となっていること)である。そして,前記

ア(ウ)の形状が前記ア(イ)(頂部が略三角形状であること)と対極をな

していることが,際立って看者の目を引く部分であり,要部である。

したがって,本件意匠1の要部は,@ 頂部が略三角形状であり,底部

が耳朶状の半円形であること,A 右側面には複数のギア歯が凹状とし

て形成されていること,B 左側面には単一円弧面からなる緩やかな湾

曲面があることである。




(2) イ号意匠の構成

イ号意匠の構成は,以下のとおりである。



10
(正面図)

ア 基本的構成態様

(ア) 正面視において,縦長であり,上方にいくにしたがって,左右幅がわ

ずかに減少する形状である。

(イ) 頂部は略三角形状である。

(ウ) 底部は略三角形状である。

(エ) 右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が凹状として形成され

ている。

(オ) 左側面上部はなめらかな大きなRで形成され,左側面下部は直線で形

成され,左側面中央部はその両者を小さなRで結び,中間高さ位置で屈

曲した略「く」の字状に形成されている。

(カ) 左右の側面視における輪郭は,縦長の略長方形であるが,正面及び背

面には台形形状の隆起部が形成されている。

(キ) 平面視及び底面視における輪郭は,縦長の略長方形であるが,正面及

び背面には台形形状の隆起部が形成されている。

(ク) 正面,背面には,外周縁から若干内側に入り込んだ領域に,台形形状

に隆起した隆起部が形成されており,この隆起部の輪郭線は,頂部,左

側面,底部,下傾斜面に沿う一方,歯面に近接する領域では,ギア歯の

歯底より内側において,ギア歯のピッチ円に沿う滑らかな曲線をなし,

正面視及び背面視において周縁部に三重線が看取される。

イ 具体的構成態様

11
(ア) ギア歯の数は5個である。

(イ) 正面視において,歯面の下端から左下方へ傾斜する平滑な下傾斜面が

形成され,底部に至る。

(ウ) 耳朶部が無いので耳朶部の輪郭線は存在しない。

(エ) 頂部のアールは底部のアールより大きい(底部の方が尖っている。)

(オ) 下傾斜面の長さは,上傾斜面の長さよりも長い。

(3) 類否

以下のとおり,イ号意匠は,本件意匠1と美感が相違しており,類似する

ものではない。

ア 構成態様の差違

イ号意匠は,基本的構成態様(ウ),(オ)ないし(ク)及び具体的構成態様

において,本件意匠1と相違する。

そして,イ号意匠は,本件意匠1の要部のうち@頂部が略三角形状であ

り,底部が耳朶状の半円形であること及びB左側面には単一円弧面からな

る緩やかな湾曲面があることという構成をいずれも備えていないから,本

件意匠1と類似するものではない。

イ 印象の差違

本件意匠1は女性的で柔らかい印象を与えるのに対し,イ号意匠は男性

的で鋭利な印象を与えるものであり,美感から受ける印象においても相違

する。

2 争点2(ロ−1号意匠は,本件意匠2に類似するか)について

【原告の主張】

以下のとおり,ロ−1号意匠は,本件意匠2に類似する。



(1) 本件意匠2の構成

本件意匠2の構成は,以下のとおりである。

12
本件意匠2は,部分意匠であるから,
「基本的構成態様」及び「具体的構成

態様」の概念を使用して説明することは適切ではなく,
「要部形状」及び「細

形状」として説明するのが適切である。

ア 要部形状

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。

イ 細部形状

(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,ラジアル外方向にゆくに

したがってギア部から離れる方向へ傾斜する直線状の勾配線が形成され

ている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約104度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,22個である。




(2) ロ−1号意匠の構成

ロ−1号意匠の構成は,以下のとおりである。

13
ア 要部形状

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。

イ 細部形状

(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,ラジアル外方向にゆくに

したがってギア部から離れる方向へ傾斜する直線状の勾配線が形成され

ている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(3) 類否

以下のとおり,ロ−1号意匠は,本件意匠2と共通の美感を有しており,

類似する。

ア 共通点

前記(1)及び(2)のとおり,ロ−1号意匠と本件意匠2は,要部形状

び細部形状 (ア)において同一である。

イ 差違点

14
ロ−1号意匠は,以下の点で,本件意匠2と相違する。

(ア) ギア板部のギア歯の配設範囲が,本件意匠2は中心角度約104度で

あるのに対し,ロ−1意匠は中心角度約96度である(細部形状 (イ))。

(イ) 各ギア部に形成されたギア歯の数が,本件意匠2は22個であるのに

対し,ロ−1号意匠は17個である(細部形状(ウ))。

ウ 対比

本件意匠2は部分意匠であり,部分意匠の対比においては,意匠に係る

物品における位置,大きさ及び範囲の違いが,類否判断に影響を及ぼすと

ころ,本件意匠2とロ−1号意匠は,いずれも正面視において円管部の左

側に形成された各ギア板部の左上の位置にあり,その大きさ及びその占め

る範囲もほぼ同一である。

前記アのとおり,ロ−1意匠と本件意匠2は,要部形状において共通し

ているところ,要部形状は本件意匠2のほぼ全体の領域を占めており,本

件意匠2の印象を決定づける支配的形状であり,これらの共通点が類否判

断に与える影響は極めて大きい。

これに対し,上記差違点が類否判断に与える影響はほとんどない。

(ア) 差違点(ア)及び(イ)

いずれも,詳細に観察して初めて気が付く程度の微細な点であり,看

者の注意を惹くものではない。

(イ) 差違点(ウ)

直線状延長部は,本件意匠2の全体のうちごく狭い領域の微少な長さ

のものであり,両側面視,平面視及び底面視では,ほとんど目立たない

点である。また,直線状延長部は,被告が主張するとおり,公知の形状

にすぎないことからしても,看者の注意を惹くものではない。

(ウ) 被告が主張する後記差違点について

後記のとおり,被告は,差違点として,本件意匠2は上下勾配線の長

15
さが異なるのに対し,ロ−1号意匠は同一であること,本件意匠2が左

右非対称であるのに対し,ロ−1号意匠が左右対称であることを主張す

る。

しかしながら,これらの差違点は,いずれも本件意匠2において下勾

配線に直線状延長部が設けられていることによる差違にすぎない。そし

て,本件意匠2において下勾配線に直線状延長部が設けられていること

が看者の注意を惹くものでないことは,前記(イ)のとおりである。

また,被告は,ロ−1号意匠のギア板部の表面に円状膨隆部が形成さ

れており,この点においても本件意匠2と相違する旨主張する。しかし

ながら,ギア板部の表面は本件意匠2の部分意匠として指定された範囲

外の形状であるから,本件意匠2との差違とはなりえないものであり,

この点に関する被告の主張は失当なものである。

被告は,本件意匠2の上突隆部が下突隆部よりも大きいのに対し,ロ−

1号意匠の上下突隆部の大きさは同じであるとも主張する。しかしなが

ら,本件意匠2は部分意匠であり,下突隆部の外周部の一部がその範囲

に入っているが,下突隆部全体の大きさを何ら限定しているわけではな

く,この主張も失当なものである。

【被告の主張】

以下のとおり,ロ−1号意匠は,本件意匠2に類似するものではない。

(1) 本件意匠2の構成

本件意匠2の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) ギア板部の表面は平坦である。

(ウ) ギア歯の最下点部からは延長部が略直線状に伸延している。

(エ) 上端ギア歯からは,ギア歯と比してラジアル方向に突出する上突隆部

16
が形成されている。

延長部の下端からラジアル方向に突出した下突隆部が形成されている。

ギア板中心から上下突隆部の外周部までの長さはギア歯先円半径より

も大きい。

上突隆部のギア歯側の斜辺は上勾配線となっている。

下突隆部の延長部側の斜辺は下勾配線となっている。

上下勾配線の長さは上勾配線の方が長い。

上突隆部と下突隆部の大きさは上突隆部の方が大きい。

(オ) 上下突隆部及びその間のギア歯は,左右非対称である。

イ 具体的構成

(ア) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約104度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,22個である。

(エ) 歯のピッチ角度は約5度である。

(オ) ギア歯先円半径を15とした場合,延長部の長さは1.7である。

(カ) 勾配線間の中心角度は約127度である。

(キ) ギア歯先円半径を15とした場合,上勾配線の長さは2.8で,下勾配

線の長さは1.7である。

ウ 原告主張の構成について

前記【原告の主張】(1)は,延長部の構成を欠いており,不当である。

また,勾配線は,突隆部を構成する要素として捉えるべきである。

エ 要部

原告が主張する要部形状及び細部形状は,いずれも公知のものであり,

本件意匠2と公知意匠との差違は,ギア歯群の左端部から突隆部下端部間

のみに延長部を配設する形状の点のみであるから,これが本件意匠2の要

17
部である。

(2) ロ−1号意匠の構成

ロ−1号意匠の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) ギア板部の表面には,大きい円状膨隆部が形成されている。

(ウ) 延長部はない。

(エ) 上端ギア歯からは,ギア歯と比してラジアル方向に突出する上突隆部

が形成されている。

ギア歯の下端からラジアル方向に突出した下突隆部が形成されている。

ギア板中心から上下突隆部の外周部までの長さはギア歯先円半径より

も大きい。

上突隆部のギア歯側の斜辺は上勾配線となっている。

下突隆部のギア歯側の斜辺は下勾配線となっている。

上下勾配線の長さは同じである。

上突隆部と下突隆部の大きさは同じである。

(オ) 上下突隆部及びその間のギア歯は,左右対称である。

イ 具体的構成態様

(ア) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(エ) 歯のピッチ角度は6度である。

(オ) 延長部はない。

(カ) 勾配線間の中心角度は114度である。

(キ) ギア歯先円半径を15とした場合,上下勾配線の長さはいずれも3で

18
ある。

(3) 類否

以下のとおり,ロ−1号意匠は,本件意匠2と美感が相違しており,類似

するものではない。

ア 構成態様の差違

ロ−1号意匠は,基本的構成態様(イ)ないし(オ)及び具体的構成態様

(イ)ないし(キ)の点で,本件意匠2と相違する。

特に,ロ−1号意匠の構成態様のうち,基本的構成態様(イ)の円状膨隆

部が設けられている点は特徴的な構成であり,本件意匠2と明確に峻別す

ることができるものである。

イ 印象の差違

本件意匠2は,延長部を配設したことにより,非対称の美感を有するの

に対し,ロ−1号意匠は,延長部の構成を有しないことにより,左右対称

の美感を有している。また,ロ−1号意匠は,ギア板部に円状膨隆部を設

けたことにより,機械的な固い印象を和らげる特徴的な美感をもたらすと

ともに,高級感を付与している。

ウ ロ−1号意匠の登録

ロ−1号意匠が本件意匠2の登録後である平成23年2月4日に登録さ

れたことからしても,本件意匠2とは審美性の異なる別意匠であることが

明らかである。

3 争点3(ロ−2号意匠は,本件意匠2に類似するか)について

【原告の主張】

以下のとおり,ロ−2号意匠は,本件意匠2に類似する。

(1) 本件意匠2の構成

前記2【原告の主張】(1)と同じ。

(2) ロ−2号意匠の構成

19
ロ−2号意匠の構成は,以下のとおりである。




ア 要部形状

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。

イ 細部形状

(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,ラジアル外方向にゆくに

したがってギア部から離れる方向へ傾斜する直線状の勾配線が形成され

ている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(3) 類否

以下のとおり,ロ−2号意匠は本件意匠2と共通の美感を有しており,類

似する。

ア 共通点

前記(1)及び(2)のとおり,ロ−2号意匠と本件意匠2とは,要部形状

及び細部形状 (ア)において同一である。

20
イ 差違点

ロ−1号意匠は,以下の点で,本件意匠2と相違する。

(ア) ギア板部のギア歯の配設範囲が,本件意匠2は中心角度約104度で

あるのに対し,ロ−2号意匠は中心角度約96度である(細部形状 (イ))。

(イ) ギア歯の数が,本件意匠2は22個であるのに対し,ロ−2号意匠は

17個である(細部形状(ウ))。

ウ 対比

ロ−2号意匠は,ロ−1号意匠のうち以下の赤色部分を切除改変したも

のにすぎない。




したがって,上記改変部分が類否判断に影響を与えるかを検討すれば足

りる。まず,上記改変部分のうち下突隆部の下り勾配線を設けた部分は,

本件意匠2において部分意匠とされた範囲外の部分であるから,類否判断

とは関係がない。上突隆部の下り勾配線を設けた部分も,上端の限られた

領域における差違にすぎず,両側面視,平面視及び底面視ではほとんど目

立たない。また,ギア部の端に設けられた突隆部が正面視で略台形となる

形状は周知の形状にすぎず,看者の注意を惹くものではない。

なお,被告は,ロ−2号意匠のギア板部には八角形状膨隆部が設けられ

ており,本件意匠2と相違する旨主張する。しかしながら,ギア板部は,

本件意匠2において部分意匠とされた範囲外の部分であり,類否判断とは

関係がないから,被告の上記主張も失当である。

【被告の主張】

以下のとおり,ロ−2号意匠は,本件意匠2に類似するものではない。

21
(1) 本件意匠2の構成

前記2【被告の主張】(1)と同じ。

(2) ロ−2号意匠の構成

ロ−2号意匠の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) ギア板部の表面には,大きい八角形状膨隆部が形成されている。

(ウ) 延長部はない。

(エ) 上端ギア歯からは,ギア歯と比してラジアル方向に突出する上突起部

が形成されている。

下端ギア歯からは,ギア歯と比してラジアル方向に突出する下突起部

が形成されている。

ギア板中心から上下突隆部の外周部までの長さはギア歯先円半径より

も大きい。

上突起部は,ギア歯側の斜辺が上勾配線となっており,外周部のギア

歯反対側は下り勾配線となって形成されるとともに,下り勾配線端はギ

ア歯円周部につながって略直線を形成している。

下突起部は,ギア歯側の斜辺が下勾配線となっており,外周部のギア

歯反対側は下り勾配線となって形成されるとともに,下り勾配線端はギ

ア歯円周部につながって略円弧を形成している。

上下の突起部において,上勾配線,下勾配線及び下り勾配線の長さは

いずれも同じであり,上突起部の上勾配線及び下突起部の下勾配線の長

さは下り勾配線の長さより大きく,外周部の長さは同じである。

上下略台形状突起部は,同一の大きさである。

(オ) 上下突起部及びその間のギア歯は,左右対称である。

イ 具体的構成態様

22
(ア) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(エ) 歯のピッチ角度は6度である。

(オ) 延長部がない。

(カ) 勾配線間の中心角度は114度である。

(キ) ギア歯先円半径を15とした場合,上下勾配線の長さはいずれも3で

あり,下り勾配線は2であり,上下の外周部は3である。

(3) 類否

以下のとおり,ロ−2号意匠は,本件意匠2と美感が相違しており,類似

するものではない。

ア 構成態様の差違

ロ−2号意匠は,基本的構成態様(イ)ないし(オ)及び具体的構成態様

(イ)ないし(キ)の点で,本件意匠2と相違する。

特に,ロ−2号意匠の基本的構成態様(イ)(八角形状膨隆部)及び(エ)

(略台形状突起部)は,公知意匠にもみられない斬新な構成であり,本件

意匠2と明確に峻別することができるものである。なお,八角形状膨隆部

は,本件意匠2の部分意匠の範囲では,三角形状に4個看取されるもので

ある。

イ 印象の差違

前記2【被告の主張】(3)イのとおり,本件意匠2は,全体として非対

称性と機械的な印象を与えるものであり,ギア板部の平坦面からは単純な

印象を与えるものである。これに対し,ロ−2号意匠は,機能とは無縁な

装飾的部分である略台形状突起部及び八角形状膨隆部を有し,心を和ませ

る優美性をもつ左右対称の美感を有する。

23
ウ ロ−2号意匠の登録

ロ−2号意匠が本件意匠2の登録後である平成23年2月4日に登録さ

れたことからしても,本件意匠2とは審美性の異なる別意匠であることは

明らかである。

4 争点4(ロ−3号意匠は,本件意匠2に類似するか)について

【原告の主張】

以下のとおり,ロ−3号意匠は,本件意匠2に類似する。

(1) 本件意匠2の構成

前記2【原告の主張】(1)と同じ。

(2) ロ−3号意匠の構成

ロ−3号意匠の構成は,以下のとおりである。




ア 要部形状

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。

イ 細部形状

(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,略U字形の小さな窪部が

形成されている。

24
(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(3) 類否

以下のとおり,ロ−3号意匠は本件意匠2と共通の美感を有しており,類

似する。

ア 共通点

前記のとおり,ロ−3号意匠は,本件意匠2と,要部形状において共通

である。

イ 差違点

ロ−3号意匠は,本件意匠2と以下の点で相違する。

(ア) 正面視における突隆部のギア部側において,本件意匠2では,ラジア

ル外方向に行くにしたがってギア部から離れる方向に傾斜する直線状の

勾配線が形成されているのに対し,ロ−3号意匠では,略U字形の小さ

な窪部が形成されている(細部形状(ア))。

(イ) ギア歯の配設範囲が,本件意匠2は中心角度約104度であるのに対

し,ロ−3号意匠は中心角度約96度である(細部形状(イ))。

(ウ) ギア歯の数が,本件意匠2は22個であるのに対し,ロ−3号意匠は

17個である(細部形状(ウ))。

ウ 対比

ロ−3号意匠は,ロ−2号意匠のうち以下の赤色部分を切除改変したも

のにすぎないから,この改変部分が類否判断に影響を与えるかを検討すれ

ば足りる。




25
これは,ロ−2号意匠のうち,上下突隆部のギア部側のごく狭小な部分

を略U字形に切除しただけのものであり,何ら創作性のない改変を加えた

にすぎないものである。また,ごく限られた部分における微少な切欠きに

すぎず,正面視ではあまり目立たないし,左側面視でもほとんど目立たず,

右側面視,平面視及び底面視では看取すらできない。また,ギア部の端に

略U字型の切欠きを形成することは,周知の形状にすぎないことからして

も,看者の注意をほとんど惹かないものである。

【被告の主張】

以下のとおり,ロ−3号意匠は,本件意匠2と類似するものではない。

(1) 本件意匠2の構成

前記2【被告の主張】(1)と同じ。

(2) ロ−3号意匠の構成

ロ−3号意匠の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) ギア板部の表面には,大きい八角形状膨隆部が形成されている。

(ウ) 延長部はない。

ギア歯両端部に窪部が形成されている。

上窪部と下窪部の関係は略「ハ」の字に形成されている。

(エ) 上下窪部からは,上下窪部と同方向に庇状突起部が形成されている。

上庇状突起部は,上窪部から庇方向に向かう上勾配線が延び,外周部

に繋がり,外周部端は下り勾配線となって,形成されるとともに,下り

勾配線端は略直線状の外縁部に繋がる。

下庇状突起部は,下窪部から庇方向に向かう下勾配線が延び,外周部

に繋がり,外周部端は下り勾配線となって,形成されるとともに,下り

勾配線端は略円弧状の外縁部に繋がる。

26
窪部の中にある上下勾配線の長さは同じである。上下庇状突起部の上

下勾配線,外周部及び下り勾配線の長さは同じである。

(オ) 上下突起部及びその間のギア歯は,左右対称である。

イ 具体的構成態様

(ア) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(エ) 歯のピッチ角度は6度である。

(オ) 延長部がない。

(カ) 勾配線間の中心角度は114度である。

(キ) ギア歯先円半径を15とした場合,上下勾配線ともに,長さは1.5で

ある。

(3) 類否

以下のとおり,ロ−3号意匠は,本件意匠2と美感が相違しており,類似

するものではない。

ア 構成態様の差違

ロ−3号意匠は,基本的構成態様(イ)ないし(オ)及び具体的構成態様

(イ)ないし(キ)の点で,本件意匠2と相違する。

特に,ロ−3号意匠の基本的構成態様(イ)(八角形状膨隆部の配設とそ

形状),(ウ)(窪部の配設と形状)及び(エ)(庇状突起部の形状)は,物

品として機能を発揮させるには不要なものであり,審美性を付与するため

に純粋に意匠として配設したものであって,ロ−3号意匠の要部であり,

これらを備えていない本件意匠2とは別の意匠であることが明らかである。

なお,八角形状膨隆部は,本件意匠2の部分意匠の範囲では三角形状に4

個看取されるものである。

27
イ 印象の差違

前記2【被告の主張】(3)イのとおり,本件意匠2は,全体として突隆

部が非対称的で単純な印象を,延長部が非対称性と開放感を,ギア板部の

表面形状が平坦な印象を与える。

これに対し,ロ−3号意匠は,庇状突起部が非対称的で複雑な装飾的印

象を,窪部が対照的,閉鎖的及び装飾的な印象を,ギア板部の表面形状

膨らみ感を与えている。

このように両意匠から受ける印象は全く異なる。

ウ ロ−3号意匠の登録

ロ−3号意匠は本件意匠2の登録後である平成23年9月5日,ロ−3

号意匠の部分意匠は同月2日,それぞれ意匠登録された。これらのことか

らしても,ロ−3号意匠が本件意匠2とは審美性の異なる別意匠であるこ

とは明らかである。

5 争点5(本件意匠登録1及び2について,意匠登録出願への変更前の特許出

願に分割要件違反があるか)について

【被告の主張】

(1) 本件意匠権1及び2は,特許出願を分割した出願を意匠登録出願に変更し

たものであるところ,意匠登録出願への変更前の特許出願には分割要件違反

があるから,不適法なものである。

ア くさび形の空間部

当初の特許出願では,本件意匠権2の物品である第2アームの対部材で

ある第1アームに存する壁部17にくり抜かれた穴について, くさび形窓


部5」として特定されていた。

これに対し,当初の特許出願を分割した特願2009−182565号

(本件意匠登録1に係る出願。乙3。以下「乙3特許出願」という。)及び

特願2009−182399号(本件意匠登録2に係る出願。乙4。以下

28
「乙4特許出願」という。)の各明細書には,「上記ギヤ部(4)の外周歯面

との間にくさび形の空間部を形成するくさび面を設け」と記載され,ケー

ス部(3)にくり抜かれた穴ではなく,一方の面と他方の面とで囲まれた空

間部が新たに把握されている。

しかしながら,これは,当初の特許出願に係る特許請求の範囲,明細書

又は図面の記載から自明な事項ではなく,新規事項である。具体的には,

当初出願に係る明細書において,
「くさび面」は,くさび形窓部を構成する

一部位とされており,くさび形窓部を設けずに,くさび面と外周歯面との

間にくさび形の空間部を形成するという技術的思想は記載されていない。

したがって,分割直前の特許請求の範囲,明細書又は図面に記載されて

いない発明を分割出願に係る発明として出願したものであり,特許法44

条1項に違反するものである。

イ くさび面

また,乙3特許出願及び乙4特許出願の各明細書には,
「上記第1アーム

(1)側に,……くさび面を設け」と記載されており,第1アームのケース

部だけではなく,その他の部位にもくさび面が形成されることが包含され

ている。これに対し,当初の特許出願に係る特許請求の範囲,明細書又は

図面の記載によると,
「くさび面」について,第1アームのケース部に形成

されたものだけが記載されており,他の部位に形成することは全く記載さ

れておらず,示唆もない。

したがって,これも新規事項を追加したものである。

(2) 後記【原告の主張】(2)のとおり,原告は,乙4特許出願について適法に

補正がされており,補正後の明細書(甲9)では新規事項が追加されていな

い旨主張する。

しかしながら,乙4特許出願の明細書のうち段落【0012】において,

「第2アーム2は,相互に平行な2枚のギヤ板部45,45から成り上記ケー

29
ス部3の内部に収容状態とされるギア部4と,…有し」と記載されており,

「ケース部3」はギア部4を収容状態とするものである。これに対し,甲9

の【請求項1】では,ギア部4をケース部3の内部に収容状態とするという

限定がなく,ギヤ部4をその内部に収容状態としない「ケース部3」という

乙4特許出願の明細書に記載された出願時の範囲を超える内容が含まれてお

り,これは新規事項の追加に当たる。

よって,上記補正も不適法なものである。

【原告の主張】

(1) 本件意匠権1に係る意匠登録出願への変更前の特許出願について

被告は,上記原特許出願(乙1。以下「乙1特許出願」という。)と変更前

特許出願(乙3特許出願)とを対比して,分割要件違反に当たると主張して

いるところ,乙3特許出願は,本件意匠登録1に係る出願に変更されたため,

意匠法13条4項により取り下げたものとみなされる。

したがって,乙3特許出願の分割要件違反が問題となることは法律上あり

得ないから,この点に関する被告の主張は失当なものである。

(2) 本件意匠権2に係る分割要件違反

被告は,特願2009−182399号(乙4)と当初の明細書(乙1)

とを対比して,分割要件違反に当たると主張しているところ,乙4について

は,適法に補正がされており,補正後の明細書(甲9)では,被告が指摘す

る記載は削除されており,新規事項は追加されていないから,被告の主張す

る分割要件違反はない。

具体的には,補正後の明細書では,
「上記くさび形窓部(5)の外方側のくさ

び面(8)」とされており(甲9)「くさび形の空間部」の記載はない。また,


特許請求の範囲でも,くさび面がくさび形窓部の外方側に形成されることが

特定されており,明細書でも,くさび面8がくさび形窓部5に形成されるこ

とが明確に記載されている。

30
6 争点6(本件意匠登録1について,特許出願から意匠登録出願への変更は適

法なものであるか)について

【被告の主張】

以下のとおり,本件意匠権1に係る特許出願から意匠登録出願への変更は不

適法なものであるから,本件意匠権1の出願日が特許出願の日に遡及すること

はなく,意匠登録出願への変更がされた日となる。

したがって,新規性を欠くものとして,意匠登録無効審判により無効とされ

るべきものである(意匠法3条)。

(1) 本件意匠権1に係る特許出願から意匠登録出願への変更が不適法なもの

であること

本件意匠登録1に係る出願は,乙1特許出願(特願2005−50055)

を分割して出願したものを意匠登録出願に変更したものであり,本件意匠1

は,乙1特許出願において「浮動くさび部材」として特定される部材に係る

意匠である。

そして,乙1特許出願に係る明細書及び図面では,本件意匠1の右側面の

形状及び側面視形状における縦横比が明らかではなく,意匠登録出願への変

更は不適法なものであるから,本件意匠権1の出願日は,上記出願の変更が

された平成21年8月6日である。

ア 本件意匠1の右側面の形状

本件意匠1の歯面は,右側面の正面側端部から背面側端部にかけて均一

に配設されているところ,乙1特許出願に係る明細書及び図面では,「浮

動くさび部材」の右側面の形状が記載されていない。

そして,「浮動くさび部材」の歯面は,機能上,ギア部と噛合する部分

にのみ配設すれば足りるものであるから,ギア部と噛合しない部分は緩や

かな曲面(歯面のない曲面)とすることもありうるものであることからす

れば,乙1特許出願において,本件意匠1の右側面の形状は明らかにされ

31
ていないというべきである。

イ 本件意匠1の側面視形状における縦横比

本件意匠1の側面視形状の縦横比は約22対21であり,やや縦長であ

るところ,乙1特許出願に係る明細書及び図面では,「浮動くさび部材」

の側面視形状の縦横比が明らかではないし,むしろ横長である。

(2) イ号意匠の登録

イ号意匠は,平成21年6月12日,意匠登録をされた。

【原告の主張】

以下のとおり,本件意匠権1に係る特許出願から意匠登録出願への変更は適

法なものである。

(1) 本件意匠1の右側面の形状

乙1特許出願の明細書には,
「この浮動くさび部材6は,図3(b)に示した

ような鉄鋼材からなる長尺状引抜き材43を,所定の長さに切断して,形成

される。」と記載されており,図3(b)には引抜き材43が図示されており,

切断の態様も示されている。引抜き材とは,引抜き加工(所定の穴形状を有

するダイスに被加工材を通して引き抜くことにより,各種横断面形状を有す

る線,棒,管又は形材などを製造する加工法)によって製造されるため,そ

の断面形状は常に一定である。

これらの記載からすれば,
「浮動くさび部材」の右側面の形状として,歯面

が全幅にわたって均一に配設されていることは自明のことであり,記載され

たものと同視することができる。

(2) 本件意匠1の側面視形状における縦横比

そもそも,乙1特許出願の明細書に記載された【図5】は,本件意匠権1

に係る意匠登録出願への変更後の明細書における【使用状態を示す参考図3】

と同一のものであり,これらの明細書に記載された意匠は同一のものである。

「浮
少なくとも,乙1特許出願の明細書の【図3】及び【図5】によれば,

32
動くさび部材」の側面視形状の縦横比を読み取ることができる。

7 争点7(本件意匠登録2について,特許出願から意匠登録出願への変更は適

法なものであるか等)について

【被告の主張】

(1) 以下のとおり,本件意匠権2に係る特許出願から意匠登録出願への変更は

不適法なものであるから,本件意匠権2の出願日が特許出願の日に遡及する

ことはなく,意匠登録出願への変更がされた日となる。

したがって,新規性を欠くものとして,意匠登録無効審判により無効とさ

れるべきものである(意匠法3条)。

ア 本件意匠登録2に係る出願は,乙1特許出願(特願2005−5005

5)を分割して出願したものを意匠登録出願に変更したものである。

全体意匠から部分意匠を取り出すには,当該部分の重要性,意匠として

のまとまり等がなければならないが,乙1特許出願に係る明細書及び図面

では,本件意匠2の部分につき,特定の機能や一定の重要性を有するとか,

まとまりがある等の説明はない。少なくとも,本件意匠2は,突隆部とし

て看取される部位を分断し,一体的形状を損なうものである。

したがって,乙1特許出願から部分意匠である本件意匠2に係る意匠登

録出願に変更する根拠はなく,乙1特許出願から意匠登録出願への変更は

不適法なものであるから,本件意匠権2の出願日は,意匠登録出願への変

更がされた平成22年2月5日である。

イ 本件意匠2は,乙1特許出願において公開されたから,本件意匠権2に

係る意匠登録出願は,新規性を欠くものとして,無効とされるべきもので

ある。

(2)そもそも,意匠登録を受けようとする部分は,当該物品全体の形態の中で

一定の範囲を占める部分であるというだけでは足りず,他の意匠と対比する

際に対比の対象となり得る意匠の創作の単位が表されていなければならない。

33
前記(1)によれば,本件意匠2は,
「創作の単位」が表されているとはいえ

ないから,「意匠」(意匠法3条1項柱書)を構成するものではなく,無効な

ものである(意匠法48条1項1号3条1項柱書)。

【原告の主張】

本件意匠2は,形状及び機能の点で,一体性のある部分を特定したものであ

り,他の意匠と対比することができるものであるから,創作の単位として十分

なものである。

具体的には,本件意匠2は,ギア板部とその両端に形成されている突隆部か

らなるものであって形状としての一体性があり,浮動くさびと噛合して機能す

るものであるから,機能上の一体性もある。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(イ号意匠は,本件意匠1に類似するか)について

以下の理由から,イ号意匠は,本件意匠1に類似するものと認めることがで

きる。

(1) 意匠に係る物品

前提事実(4)のとおり,イ号意匠と本件意匠1の意匠に係る物品が同一で

あることについては,当事者間に争いがない。

(2) 本件意匠1の構成

本件意匠1の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) 正面視において,縦長であり,上方にいくにしたがって左右幅がわず

かに減少する形状である。

(イ) 右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面がゆるやかな凹状とし

て形成されている。

(ウ) 左側面には,滑らかで,ゆるやかな凸弯曲の当接面が形成されている。

(エ) 左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。

34
(オ) 平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。

イ 具体的構成態様

(ア) 頂部から歯面の上端まで下方に傾斜する,平滑な上傾斜面が形成され

ている。

(イ) ギア歯の数は6個である。

(ウ) 正面視において,歯面の下端から幅方向の略半分まで左下方へ傾斜す

る,平滑な下傾斜面が形成されており,当該下傾斜面の下端は,下方に

凸の略半円形状に形成された膨出部に繋がる。

ウ 要部

登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚

を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。

したがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使

用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需

要者の注意を惹き付ける部分について要部として把握した上で,両意匠が

要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美

感を共通にするか否かを判断すべきである。

以下,このような観点から,本件意匠1の要部について検討する。

(ア) 本件実施品1の性質,用途及び使用態様

甲1の1及び2の1によれば,角度調整金具用浮動くさび(本件実施

品1)は,角度調整金具を構成する部材であること,角度調整金具は,

一方の部材と他方の部材との角度を任意に設定することができる関節

部材であり,座椅子の背部の傾斜角度を調整するために背部と座部との

間等に用いられる部品であること,その使用態様としては,別紙本件意

匠目録1の【使用状態を示す参考図1】ないし【使用状態を示す参考図

3】のような使用態様で用いられることが認められる。

特に,特開2009−254868号公報(甲9)によれば,従来の

35
角度調整金具は,爪片のギアへの噛合によりアームの揺動を抑止する構

成のものであったこと,角度調整金具に作用する力は,人間の体重を支

える非常に大きなものであるため,従来の金具では,爪片,ギアの歯が

大きくなることから,ギアの歯数を少なくせざるをえず,角度切替えの

段数が少なく,微調整もできないという課題があったこと,本件実施品

1及び2を用いた角度調整金具では,浮動くさび部材(本件実施品1)

の外方側の当接面と弾発部材とが当接することによる当接力,浮動くさ

び部材の歯部とギアとの噛合及び浮動くさび部材とギアとの間の圧迫

力により揺動を抑止するため,ギア部の歯が小さくとも,大きな荷重を

受け持つことができ,ギア歯の数を増やすことができるという効果を奏

することが認められる。

これらのことからすると,本件実施品1及び2を用いた角度調整金具

を使用する需要者ないし取引者は,上記作用効果を奏することに関する

ギア部分(本件意匠1の基本的構成態様(イ))と当接面(同(ウ))の各構

成に注意を惹かれると認めることができる。

また,別紙本件意匠目録1の【使用状態を示す参考図3】から明らか

なとおり,本件意匠1は,基本的構成態様(エ)(左右の各側面視におけ

る輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。)及び同(オ)(平面視及

び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。)の形状により,全体

的に扁平な印象を与えるものであると認めることができる。そして,こ

れが意匠全体の美感に及ぼす影響は大きいものであるいうことができ

るから,これらの形状も需要者ないし取引者の注意を惹き付ける部分で

あるということができる。

(イ) 公知意匠

角度調整金具については,ギア板の歯に爪を噛ませる構成(甲9,乙

12ないし14及び18ないし26)及び浮動するローラを用い,ロー

36
ラに対して壁面間隔を徐々に狭くし,ローラを固定させて回動を調整す

る構成(乙15及び16)が公知であったことが認められる。

しかしながら,本件意匠1及び2を用いた角度調整金具のように,浮

動くさびとギア板を用いたものがあったことを認めるに足りる証拠は

ない。

被告は,公知意匠として,乙56ないし59を挙げるが,以下のとお

り,本件実施品1及び2の浮動くさびとギア板を用いた角度調整金具は

公知ではなく,本件意匠1の基本的構成態様(ア)ないし(ウ)の形状を同意

匠の要部であると認定する妨げとなるものではない。

a 実公昭37−29299号公報(乙56)に記載された意匠

上記公報には,考案の名称を「逆動可能の爪車型スパナ」とする以

下の考案が記載されている。

「図面の簡単な説明

第1図は,本考案を具体化したスパナの側面図,第2図は第1図の

2−2の線における部分断面図,第3図は第2図に示したものと異

なった位置においてスパナの各部の位置を示した一部切断平面図」 第


5図は第2図に示したスパナの一部の拡大断面図」である。




37
被告は,上記第3図の「楔形の歯止め19」が本件意匠1の基本的

構成態様を備えていることが読み取れる旨主張するものの,上記第3

図では「楔形の歯止め19」が非常に小さく描かれているのみであり,

その形状は判然としないものである。かえって,上記第5図によれば,

「楔形の空洞部16」との当接面の形状が,本件意匠1の基本的構成

態様である「滑らかな凸湾曲の当接面が形成されている。 ものでない


ことが明らかである。

b 特開平9−314474号公報(乙57)に記載された意匠

上記公報には,発明の名称を「ラチェット歯を有するラチェットレ

ンチ」とする発明が記載されており,以下の図が記載されている。




38
【図1】本考案の一実施例になるラチェットレンチの分解斜視図であ

る。




被告は,上記図の「歯止め50」が本件意匠1の基本的構成態様を

備えていることが読み取れる旨主張するものの,上記図からは「歯止

め50」の歯面の形状を読み取ることはできない上,上記図によると

「歯止め50」は上下対称のものであるから,本件意匠1の基本的構

成態様のうち(ア)及び(イ)の構成を読み取ることはできない。

c 特開平10−15837号公報(乙58)に記載された意匠

上記公報には,発明の名称を「高いトルクを持つラチェットレンチ

の改良構造」とする発明が記載されており,以下の図が記載されてい

る。



39
【図1】本発明による高いトルクを持つラチェットレンチの改良構造

の分解図である。




被告は,上記図の「弧形ギア14」が本件意匠1の基本的構成態様

を備えていることが読み取れる旨主張するものの,弧形ギア14」
「 は,

その底面に「凸柱141」を持つものであることが上記図から明らか

であり,本件意匠1の基本的構成態様(オ)の点で,大きく相違するも

のである。

d 特開2002−254329号公報(乙59)に記載された意匠

上記公報には,発明の名称を「双方向ラチェットレンチの爪のバイ

アス式組合せ構造」とする発明が記載されており,以下の図が記載さ

れている。




40
【図1】本発明の第1実施例のラチェットレンチの分解斜視図である。




被告は,上記図の「爪40」が本件意匠1の基本的構成態様を備え

ていることが読み取れる旨主張するものの,上記図では,ギア歯を有

する面の裏側の形状は必ずしも明らかではない上,【特許請求の範囲】

の記載によれば,上記「爪」のギア歯を有する面の裏側には,ペグを

挿入するための「凹部」が設けられている旨記載されているから,少

なくとも,本件意匠1の基本的構成態様(ウ)の点で大きく相違するも

のというほかない。

(ウ) 要部

前記(ア),(イ)によると,本件意匠1の要部は,ギア歯が列設された右

側面の形状(本件意匠1の基本的構成態様(イ),同具体的構成態様(ア),

(イ)) 当接面である左側面の形状
と, (本件意匠の基本的構成態様(ウ)),

その全体の形状が扁平で,右側面と左側面との間隔が,上方にいくにし

たがって減少する形状(本件意匠の基本的構成態様(ア)。その結果,正

面視では「ハ」の字型となる。)ということができる。

なお,被告は,本件意匠1の底部が耳朶状円形であること(前記アの

41
具体的構成態様(ウ))も要部である旨主張するところ,「正面図」及び

「背面図」のみを見れば,需要者の注意を惹き付ける部分であるように

も見える。しかしながら,前記(ア)からすると,当該部分は,角度調整

金具の部品として本件実施品1の作用効果を奏する部分であるとは認

めることができない上,立体的形状として本件意匠1をみたときにも,

【使用状態を示す参考図3】のとおり意匠全体のうちわずかな部分を占

めるにすぎないこと,使用状態では通常目立たない底面部の形状である

ことからしても,需要者の注意を惹き付ける部分であるとか,全体の美

感を左右するものであるということは困難である。

(3) イ号意匠の構成

イ号意匠の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) 正面視において,縦長であり,上方にいくにしたがって左右幅がわず

かに減少する形状である。

(イ) 右側面には,複数個のギア歯が列設され,歯面が凹状として形成され

ている。

(ウ) 左側面には,滑らかな凸弯曲の当接面が形成されている。なお,下方

から全高3分の1程度までは平面状である。

(エ) 左右の各側面視における輪郭は,縦横比の差が小さな長方形である。

(オ) 平面視及び底面視における輪郭は,縦長の長方形である。

イ 具体的構成態様

(ア) 頂部から歯面の上端まで下方に傾斜する,平滑な上傾斜面が形成され

ている。

(イ) ギア歯の数は5個である。

(ウ) 正面視において,歯面の下端から当接面の下端まで左下方へ傾斜する,

平滑な下傾斜面が形成されている。

42
(エ) 正面及び背面の各面は,周縁に沿って微小高さの段押しがされている。

(4) 類否

ア 共通点

前記(2)及び(3)によれば,イ号意匠は,本件意匠1と基本的構成態様

(ア),(イ),(エ)及び(オ)並びに具体的構成態様(ア)において,共通である。

イ 差違点

前記(2)及び(3)によれば,イ号意匠は,本件意匠1と基本的構成態様

(ウ)及び具体的構成態様(イ)ないし(エ)において,相違する。

類否判断

(ア) 要部における観察について

本件意匠1の要部は,前記(2)ウのとおりである。

前記アのとおり,本件意匠1の基本的構成態様(イ)とイ号意匠の基本

的構成態様(イ)は,共通しており,しかも,いずれも,右側面がゆるや

かな凹状として形成されているため,その凹状の弯曲状態はほぼ同一で

ある。

その具体的構成態様についても,本件意匠1のギア歯が6個であるの

に対し,イ号意匠のギア歯は5個であるが,その違いは一見しただけで

は,判明せず,むしろ,ギア歯の枚数に関する具体的構成態様は,5,

6個というおおよその個数において共通する構成態様を有するといえ

る。

また,前記イのとおり,本件意匠1の基本的構成態様(ウ)とイ号意匠

の基本的構成態様(ウ)は,左側面(当接面)について,本件意匠1は全

体が一定した割合でゆるやかな曲面であるのに対し,イ号意匠は下方か

ら全高3分の1程度までが平面状である点において相違するが,本件意

匠1の左側面の弯曲度が極めてゆるやかであるため(平面に近い),上

記の違いは,一見しただけではわからず,むしろ,左側面全体として,

43
共通した構成態様を有しているといえる。

さらに,本件意匠1の基本的構成態様(ア),(エ),(オ)(前記(2)ア)

とイ号意匠の基本的構成態様(ア),(エ),(オ)(前記(3)ア)が共通して

いることから,いずれの意匠も全体の形状が扁平で,右側面と左側面と

の間隔が,上方にいくにしたがって減少し,正面視で,略「ハ」の字様

となり,共通した構成態様を有している。

したがって,本件意匠1とイ号意匠は,要部において,ほぼ同一の形

状を有しており,その違いは極めて僅かであることが認められる。

(イ) 差違点の与える影響について

左側面(当接面)の下方の形状と右側面のギア歯の数において,本件

意匠1とイ号意匠は異なっているが(前記イ),前記(ア)で指摘したとお

り,その違いは僅かである。

さらに,イ号意匠は,具体的構成態様(ウ)の点(正面視において,歯

面の下端から当接面の下端まで左下方へ傾斜する,平滑な下傾斜面が形

成されている。)において,本件意匠1の具体的構成態様(ウ)(正面視に

おいて,歯面の下端から幅方向の略半分まで左下方へ傾斜する,平滑な

下傾斜面が形成されており,当該下傾斜面の下端は,下方に凸の略半円

形状に形成された膨出部に繋がる。 と相違する。
) しかしながら,前記(2)

ウ(ウ)のとおり,当該部分に係る構成は,全体に占める割合がわずかで

あり,しかも,要部であるギア歯から外れた端部(底面部)の形状であ

ることからすれば,需要者の注意を惹き付ける部分であるとまではいう

ことができない。

イ号意匠は,具体的構成態様(エ)
(正面及び背面の各面は,周縁に沿っ

て微小高さの段押しがされている。)の形状を有する点でも,本件意匠

1と相違する。しかしながら,文献(甲12ないし15)によれば,焼

結機械部品(金属粉末を単軸圧縮成型して作られる部品)において,バ

44
リを減らし,工具の寿命を延ばすために,部品の面と側壁が作る隅が鋭

角にならないように面取り部(段押し)を設けることは公知の意匠であ

ることが認められる上,上記段押しは極小の大きさのものであることか

らすれば,需要者の注意を惹き付ける点であるとはいえないし,全体の

美感を左右するものであるということもできない。

したがって,これらの差異点が前記(ア)の共通点を凌駕するというこ

とはできない。

(ウ) まとめ

以上のとおり,イ号意匠と本件意匠1は,本件意匠1の要部において

構成態様を共通にするものであり,具体的構成態様における差違は,需

要者の注意を惹き付ける点ではなく,両意匠の差異点は,両意匠の共通

点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えないという

ことができる。

したがって,イ号意匠と本件意匠1は,全体として需要者の視覚を通

じて起こさせる美感を共通にしているということができるから,類似す

るというべきである。

2 争点2(ロ−1号意匠は,本件意匠2に類似するか)について

以下の理由から,ロ−1号意匠は,本件意匠2に類似するものと認めること

ができる。

(1) 意匠に係る物品について

前提事実(4)のとおり,ロ−1号意匠と本件意匠2の意匠に係る物品が同

一であることについては,当事者間に争いがない。

(2) 本件意匠2の構成

本件意匠2の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

45
(イ) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。

イ 具体的構成態様

(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,ラジアル外方向にゆくに

したがってギア部から離れる方向へ傾斜する直線状の勾配線が形成され

ている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約104度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,22個である。

(エ) ギア部の下端において,下端のギア歯と下突隆部との間に微少長さの

直線状延長部が存在する。

ウ 要部

(ア) 本件実施品2の性質,用途及び使用態様

甲1の1及び2の1によれば,角度調整金具用揺動アーム(本件実施

品2)は,いわゆる角度調整金具を構成する部材であること,角度調整

金具は,一方の部材と他方の部材との角度を任意に設定することのでき

る関節部材であり,座椅子の背部の傾斜角度を調整するため背部と座部

との間等に用いられる部品であること,その使用態様としては,別紙本

件意匠目録2の【使用状態を示す参考図1】ないし【使用状態を示す参

考図3】のような使用態様で用いられることが認められる。

特に,特開2009−254868号公報(甲9)によれば,本件実

施品1及び2を用いた角度調整金具において,浮動くさび部材(本件実

施品1)の動作は,最大展開状態から最大折り畳み状態までは本件実施

品2のギア部と当接面とに挟まれ,くさび作用によりアームを任意の折

り畳み角度(傾斜角度)に調整可能で,その角度を維持させることがで

46
きること,最大折り畳み状態を越えると,浮動くさび部材(本件実施品

1)は,押し返し突部(本件実施品2の上側の突隆部)により押圧され

て,退避空間部内に収容され,アームが揺動自由状態となること,最大

展開状態に戻されると,浮動くさび部材(本件実施品1)は押し出し突

部(本件実施品2の下側の突隆部)により押圧されて退避空間部から押

し出され,ギア部と再び噛合状態となることが認められる。

そうすると,本件実施品1及び2を用いた角度調整金具を使用する需

要者ないし取引者は,上記作用効果を奏することに関する,2枚のギア

板の配設状況,ギア歯及びその周辺の特徴的な構成である突隆部の形状

(本件意匠2の基本的構成態様(ア) (イ)
, )に注意を惹かれると認め

ることができる。

(イ) 公知意匠

被告は, 歯を有するギア板部を2枚平行に配設する公知意匠
@ (乙1

2,28ないし42),A ギア板部の歯の形状に関する公知意匠(乙1

3,14,17ないし19,22ないし26,29,43ないし46),

B ギア板部に勾配線を配設する公知意匠(乙13,14,17,21,

23,26,29,43ないし45,47ないし51),C ギア板部に

突隆部を配設する公知意匠(乙13,17,20,21,29,43な

いし45,47,50,52)が存することからすれば,これらの公知

意匠を組み合わせることにより本件意匠2の構成態様のうち,上記@な

いしCの部分に係る意匠を創作することは容易であるから,これらの形

態は,本件意匠2の要部とはならない旨主張する。

しかしながら,登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断

は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする

(意匠法24条2項)とされており,公知意匠からの創作が容易である

かどうかの問題ではないから,被告の上記主張は失当なものであるとい

47
うほかない。

もっとも,登録意匠の要部となる部分が,すべて一つの公知意匠に表

れている場合には,それを登録意匠の要部と認定することはできないと

解されるところ,上記公知意匠のうち,本件意匠2の基本的構成態様を

すべて備えていると主張されている実登第3000379号公報(乙2

9)について,以下検討する。

上記公報には,考案の名称を「座椅子用ラチェット金具」とする考案

が記載されており,以下の意匠が記載されている。

【図9】




被告は,上記公報から本件意匠2の基本的構成態様を読み取ることが

できる旨主張する。確かに,上記図からすると,ギア歯が形成された2

枚のギア板部が平行に配置されていること(基本的構成態様(ア))は読

み取れる。しかしながら,上記公知意匠は,ラチェット歯を左にした場

合の正面視において,回動金具の左上方ではなく,左横方(金具の先端

方向)に歯が配設されており,歯の大きさも大きく,歯の数も多数とは

いいがたいものである。したがって,本件意匠2の基本的構成態様(イ)

(正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

48
の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。)のうち,少なくとも「多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されて」いる構成を備えたものということはできない。

したがって,被告が主張する上記公知意匠の存在は,本件意匠2の2

枚のギア板の配設状況,ギア歯及び突隆部の形状を要部と認定すること

の妨げとなるものではない。

(ウ) 要部

前記(ア),(イ)によると,本件意匠2の要部は,2枚のギア板の配設状

況,ギア歯及び突隆部の形状ということができる。

前記(イ)のとおり,被告は,本件意匠2の基本的構成態様が公知であ

ることからすれば,本件意匠2の要部とはなりえない旨主張するものの,

これを採用することはできない。

なお,被告は,本件意匠2と公知意匠との相違点は,ギア歯群の左端

部から突隆部下端部間のみに延長部を配設する形状のみであるから,こ

の点が本件意匠2の要部であるとも主張する。しかしながら,前述のと

おり,本件意匠2と公知意匠との相違点は,上記形状に係る点のみでは

ないから,上記被告の主張は前提を誤っているというほかない。また,

前記(ア)からすると,本件意匠2のうち,ギア歯群の左端部から突隆部

下端部間に延長部を配設する形状は,角度調整金具の部品として本件実

施品2の作用効果を奏する部分であるとは認めることができない上,詳

細に検討して初めて気がつく程度の微小な形状にすぎず,需要者の注意

を惹き付ける部分であるとか,全体の美感を左右するものであるという

ことはできない。

(3) ロ−1号意匠の構成

ロ−1号意匠の構成は,以下のとおりである。

49
ア 基本的構成態様

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。

イ 具体的構成態様

(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,ラジアル外方向にゆくに

したがってギア部から離れる方向へ傾斜する直線状の勾配線が形成され

ている。

(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(4) 類否

ア 共通点

前記(2)及び(3)によれば,ロ−1号意匠は,本件意匠2と基本的構成

態様及び具体的構成態様(ア)において,共通である。

イ 差違点

前記(2)及び(3)によれば,ロ−1号意匠は,本件意匠2と具体的構成

態様(イ)ないし(エ)において,相違する。

類否判断

(ア) 要部における観察について

本件意匠2の要部は,前記(2)ウのとおりである。

前記アのとおり,ロ−1号意匠は,本件意匠2の基本的構成態様(ア)

及び(イ)とにおいて共通である。

その具体的構成態様においても,ギア板部のギア歯の配設されている

範囲(本件意匠2では中心角度約104度の範囲であるのに対し,ロ−

50
1号意匠では中心角度約96度の範囲である。 やギア歯の数
) (本件意匠

2では22個であるのに対し,ロ−1号意匠では17個である。 で相違


しているものの,その違いは一見しただけでは判明せず,むしろ,ギア

板部の平面視で左上に一定の範囲で多数の細かなギアが,凸の円弧状に

配設されているという態様の限度においては,共通しているといえる。

(イ) 差違点の与える影響について

前記イのとおり,本件意匠2とロ−1号意匠とは,ギア板部のギア歯

の数とその配設範囲において相違するが,前記(ア)で指摘したとおり,

その差は僅かであり,一見して認識することができる差違ではないし,

全体の美感を左右するものということもできない。

さらに,本件意匠2は,ギア部の下端において,下端のギア歯と下突

隆部との間に微 少長 さの直線状延長 部が 存在する(具体的 構 成態様

(エ))のに対し,ロ−1号意匠には存在しない点で相違するものの,前

記(2)ウ(ウ)のとおり,直線状延長部は,指摘されなければ気づかない

程度の微小な形状であり,全体の美感を左右するような差違であるとは

いえない。

なお,被告は,ロ−1号意匠のギア板部の表面に円状膨隆部が形成さ

れており,この点においても本件意匠2と相違する旨主張するものの,

ギア板部の表面は,本件意匠2の部分意匠として指定された範囲外の形

状であるから,本件意匠2との差違点とはなりえず,この点に関する被

告の主張は失当なものである。

また,被告は,本件意匠2の上突隆部が下突隆部よりも大きいのに対

し,ロ−1号意匠の上下突隆部の大きさは同じであるとも主張するもの

の,本件意匠2は部分意匠であり,下突隆部全体の大きさを限定したも

のであるとは認めることができないから,この点に関する被告の主張も

失当なものである。

51
(ウ) まとめ

以上のとおり,ロ−1号意匠と本件意匠2は,本件意匠2の要部にお

いて構成態様を共通にするものであり,具体的構成態様における差違は,

需要者の注意を惹き付けるものではなく,両意匠の差異点は,両意匠の

共通点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えないと

いうことができる。

したがって,ロ−1号意匠と本件意匠2は,全体として需要者の視覚

を通じて起こさせる美感を共通にしているものということができるか

ら,類似するというべきである。

3 争点3(ロ−2号意匠は,本件意匠2に類似するか)について

以下の理由から,ロ−2号意匠は,本件意匠2に類似するものと認めること

ができる。

(1) 意匠に係る物品について

前提事実(4)のとおり,ロ−2号意匠と本件意匠2の意匠に係る物品が同

一であることについては,当事者間で争いがない。

(2) 本件意匠2の構成

本件意匠2の構成は,前記2(2)のとおりである。

(3) ロ−2号意匠の構成

ロ−2号意匠の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。

イ 具体的構成態様

52
(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,ラジアル外方向にゆくに

したがってギア部から離れる方向へ傾斜する直線状の勾配線が形成され

ており,上突隆部のギア部反対側には,ギア板中心に向けて段差が設け

られている(下突隆部のギア部反対側も,同様の段差があるが,これは

部分意匠の範囲外である。。


(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(4) 類否

ア 対比(共通点,差異点)

両意匠の共通点,差異点は,上突隆部のギア部反対側の段差の有無を除

き,前記2(4)ア,イのとおりである。

類否判断

ロ−2号意匠は,ロ−1号意匠のうち以下の赤色部分を切除改変したも

のにすぎないから,上記改変部分が前記2(4)ウで述べた類否判断に影響

を与えるかについて検討を加えれば足りる。




まず,上記改変部分のうち下突隆部の下り勾配線を設けた部分は,前記

(3)イ(ア)のとおり,本件意匠2において部分意匠とされた範囲外の部分

であるから,類否判断とは関係がない。また,上突隆部の下り勾配線を設

けた部分も,上端の限られた領域における差違にすぎず,両側面視,平面

視及び底面視ではほとんど目立たないものであることからしても,全体の

美感を左右するものではない。

したがって,上記改変部分が前記2(4)ウで述べた類否判断に影響を与

53
えるものであるということはできない。

なお,被告は,ロ−2号意匠のギア板部には八角形状膨隆部が設けられ

ており,この点において本件意匠2と相違する旨主張するものの,被告も

自認するとおり,本件意匠2において部分意匠とされた範囲に限れば,か

ろうじて三角形状に4個看取することができるかどうかのものであり,全

体の美感を左右するものということはできない。

類否判断

以上によれば,ロ−2号意匠と本件意匠2は,本件意匠2の要部におい

て構成態様を共通にするものであり,具体的構成態様における差違は,需

要者の注意を惹き付けるものではなく,両意匠の差異点は,両意匠の共通

点を凌駕するものではないから,需要者に異なる印象を与えないというこ

とができる。

したがって,ロ−2号意匠と本件意匠2は,全体として需要者の視覚を

通じて起こさせる美感を共通にしているということができるから,類似す

るというべきである。

4 争点4(ロ−3号意匠は,本件意匠2に類似するか)について

以下の理由から,ロ−3号意匠は,本件意匠2に類似するものとは認めるこ

とができない。

(1) 意匠に係る物品について

前提事実(4)のとおり,ロ−3号意匠と本件意匠2の意匠に係る物品が同

一であることについては,当事者間に争いがない。

(2) 本件意匠2の構成

本件意匠2の構成は,前記2(2)のとおりである。

(3) ロ−3号意匠の構成

ロ−3号意匠の構成は,以下のとおりである。

ア 基本的構成態様

54
(ア) ギア歯が形成された2枚のギア板部が,平行に配置されている。

(イ) 正面視において,各ギア板部には,多数の細かなギア歯が左上方に凸

の円弧状に配設されてギア部が形成されており,ギア部の両端には,そ

れぞれ,ギア歯と比してラジアル外方向へ向けて突出する突隆部が形成

されている。

イ 具体的構成態様

(ア) 正面視において,各突隆部のギア部側には,略U字形の小さな窪部が

形成されており,上突隆部のギア部反対側は,ギア板中心に向けて段差

が設けられている(下突隆部のギア部反対側も,同様の段差があるが,

これは部分意匠の範囲外である。。


(イ) ギア板部のギア歯は,中心角度約96度の範囲に配設されている。

(ウ) 各ギア部に形成されたギア歯の数は,17個である。

(4) 類否

ア 対比(共通点,差異点)

両意匠の共通点,差異点は,上下突隆部の形状を除き,前記2(4)ア,

イのとおりである。

類否判断

ロ−3号意匠は,ロ−2号意匠のうち以下の赤色部分を切除改変したも

のにすぎないから,上記改変部分が前記2(4)ウ,3(4)イで述べた類否

判断に影響を与えるかについて検討を加えれば足りる。




そこで検討すると,本件意匠2は,上下突隆部が,ラジアル外方向へ向

けて突出しているため,ギア部の両端から,ギア部全体を,両手を広げて

55
支えるという印象を与えていたところ,ロ−1号意匠,ロ−2号意匠は,

これと同じ印象を与えるものであるが(この点は,本件意匠2と全く同じ

である。,上記改変では,上下突隆部のギア部側を小さく略U字形に切除


した結果,ギア部の両端から,突隆部によって,挟み込むといった異なる

印象を与えている。また,窪部の切欠きの程度も小さいが,要部であるギ

ア歯の両端という,看者の注意が惹かれる箇所でもあり,本件意匠2が部

分意匠であり,上下突隆部はその要部であることからすると,その対比に

おいて,上記窪部の存在が,ロ−3号意匠に占める程度は低いとはいえな

い。

これらのことからすると,上記改変部分は,正面視の左上に,細かいギ

ア歯の一定程度のまとまりという特徴あるその余の構成態様の共通性を

打ち消すものであるとまではいえないものの,上記改変部分に係る差異点

は,本件意匠2とロ−3号意匠の共通点を凌駕するということができる。

以上によれば,ロ−3号意匠と本件意匠2は,本件意匠2の要部におい

て構成態様を共通にするものであるが,両意匠の差異点は,両意匠の共通

点を凌駕するということができる。

したがって,ロ−3号意匠と本件意匠2は,全体として需要者の視覚を

通じて起こさせる美感を異にしているということができるから,類似しな

いというべきである。

5 争点5(本件意匠登録1及び2について,意匠登録出願への変更前の特許出

願に分割要件違反があるか)について

(1) 本件意匠登録1及び2に係る出願経過

ア 本件意匠登録1に係る出願経過は,以下のとおりである。

出願番号 提出日 結果

原特許出願 特願 2005-50055 H17 02 25 特許 4418382

↓ 分割 ← 分割要件違反を主張

56
分割出願 特願 2009-182565 H21 08 05 見なし取下げ

↓ 変更

本件意匠1出願 意願 2009-17992 H21 08 06 登録 1379531

イ 本件意匠登録2に係る出願の経過は,以下のとおりである。

出願番号 提出日 結果

原特許出願 特願 2005-50055 H17 02 25 登録(特許 4418382)

↓ 分割 ← 分割要件違反を主張

分割出願1 特願 2009-182399 H21 08 05 登録(特許 4551478)

↓ 分割

分割出願2 特願 2010-17810 H22 01 29 みなし取下げ

↓ 変更

本件意匠2出願 意願 2010-2751 H22 02 05 登録(登録 1399739)

(2) 本件意匠登録1について

ア 被告は,上記特願2009−182565の特許出願(乙3特許出願)

について,分割要件違反がある旨主張する。

具体的には,当初出願である乙1特許出願(特願2005−50055)

の明細書では,第1アームに存する壁部17にくり抜かれた穴について,

「くさび形窓部」として特定されていたのを,乙3特許出願では,
「くさび

形の空間部」と特定しているが,乙1特許出願では,
「くさび面」が「くさ

び形窓部」を構成する一部位とされており,くさび形窓部を設けずに,く

さび面と外周歯面との間にくさび形の空間部を形成するという技術的思想

は記載されておらず,これは,当初明細書等に記載されていない新規事項

を追加したものであると主張する。

そこで検討すると,乙1特許出願の【特許請求の範囲】【請求項1】は,

「ケース部を備える第1アームと,該ケース部にて該第1アームと第1軸

心廻りに揺動可能に枢結されると共に相互に平行な2枚のギア板部から成

57
るギア部を備える第2アームと,該第1アームの該ケース部に形成される

くさび型窓部と,該くさび型窓部内にて移動可能に配設されかつ一面側が

上記ギア部に噛合可能な歯面とされ他面側が上記くさび形窓部の外方側の

くさび面に当接する当接面とされて該歯面が該ギア部に噛合しかつ該当接

面が該くさび面に当接し上記第2アームが上記第1アームに対して展開方

向へ揺動するのを抑制する浮動くさび部材と,を具備することを特徴とす

る角度調整金具。」というものである。

これによれば,「くさび形窓部」は,@ その内部において,浮動くさび

部材が移動可能に配設されていること, くさび形窓部の外方側のくさび
A

面は,浮動くさび部材の当接面と当接すること, 浮動くさび部材の歯面
B

は,第2アームに形成されたギア部と噛合することが認められる。そうす

ると,
「くさび形窓部」は,外方側のくさび面とギア部との間に形成される

浮動くさび部材を収容する空間として構成されていることが明らかである。

これに対し,乙3特許出願(特願2009−182565)の【請求項

1】 「第1軸心を中心として相互揺動可能に枢結された第1アームと第
は,

2アームとを備えた角度調整金具に於て,/上記第2アームは上記第1軸

心を中心とした円弧線に沿って形成された2枚のギア板部から成るギア部

を備え,/さらに,上記第1アーム側に,上記第1軸心方向から見て,上

記ギア部の外周歯面との間にくさび形の空間部を形成するくさび面を設け,

/しかも,該くさび形の空間部内に移動可能であって,かつ,一面側が上

記ギア部の外周歯面に噛合可能な歯面とされ,他面側が上記くさび面に当

接する当接面とされた浮動くさび部材を,備えたことを特徴とする角度調

整金具。」というものである。

これによれば,「くさび形の空間部」は,@ その内部において,浮動く

さび部材が移動可能に配設されていること, くさび形の空間部を形成す
A

る外方側のくさび面は,浮動くさび部材の当接面と当接すること, 浮動
B

58
くさび部材の歯面は,第2アームに形成されたギア部と噛合することが認

められる。そうすると,
「くさび形の空間部」も,外方側のくさび面とギア

部との間に形成される浮動くさび部材を収容する空間として構成されてい

ることが明らかである。

したがって,
「くさび形窓部」と「くさび形の空間部」は,その意義・構

成において何ら異なるものではないから,
「くさび形窓部」を「くさび形の

空間部」と変更したことが分割要件違反に当たるとはいえない。

イ また,被告は,当初出願に係る特許請求の範囲,明細書又は図面の記載

によれば,
「くさび面」について,第1アームのケース部に形成されたもの

だけが記載されており,他の部位に形成することは全く記載されておらず,

示唆もないのに対し,乙3特許出願では,
「上記第1アーム側に,……くさ

び面を設け」とされ,第1アームのケース部だけではなく,その他の部位

にくさび面が形成されることも包含されており,これが新規事項の追加に

当たると主張する。

しかしながら,前記アのとおり,
「くさび形窓部」 「くさび形の空間部」


は,技術的構成としては何ら異なるものではなく,
「くさび面」は「くさび

形窓部」ないし「くさび形の空間部」の外側(第1アーム側)において,

浮動くさび部材の当接面と当接するものとして形成されるものであり,当

初出願と上記分割後の出願において,
「くさび面」が形成される部位には何

らの変更もない。したがって,この点に関する被告の主張にも理由がない。

(3) 本件意匠登録2について

ア 被告は,乙4特許出願(特願2009−182399)について,分割要

件違反がある旨主張する。

「くさび形窓部」として特定さ
具体的には,乙1特許出願の明細書では,

れていたものを「くさび形の空間部」と変更したことが新規事項の追加に

当たると主張している。

59
そこで検討すると,前記(2)で示したのと同様の理由により,分割要件

違反を認めることはできない上,甲9によれば,乙1特許出願について,

請求項の「くさび形の空間部」を「くさび形窓部」に変更する補正をされ

たことが認められるから,少なくとも被告が主張する新規事項の追加は補

正により解消されたものであり,この点に関する被告の主張には理由がな

い。

イ 被告は,乙1特許出願の明細書では,
「くさび面」について,くさび形窓

部を構成する一部位とされていたところ,乙4特許出願の明細書では,く

さび面と外周歯面との間にくさび形の空間部を形成することにされたこと,

及び乙1特許出願の明細書では「くさび面」が第1アームのケース部に形

成されるものとされていたのを,乙4特許出願の明細書では「くさび面」

が第1アームのケース部以外にも形成されることを包含する記載とされた

ことが,それぞれ新規事項の追加に当たる旨主張している。

そこで検討すると,甲9によれば,乙4特許出願については,請求項の

記載を「上記くさび形窓部の外方側のくさび面」と特定する補正がされて

おり,くさび面は,くさび形窓部を構成する一部位として特定されたこと

が認められる。また,補正後の請求項では「くさび形窓部」が第1アーム

のケース部に形成されるものとされており,この点に関する被告の主張に

も理由がない。

ウ なお,被告は,前記ア及びイの各補正について,乙4特許出願に係る明

細書の段落【0012】において,ケース部はギア部を収容するものとさ

れていたのに対し,補正後の請求項(甲9)ではケース部においてギア部

が収容されるとする限定がなく,これが新規事項の追加に当たるから,上

記補正は不適法である旨主張する。

しかしながら,乙4特許出願に係る明細書の段落【0012】は実施例

の説明に係る記載であり,特許請求の技術的範囲を実施例に限定して解釈

60
する理由はないから,上記被告の主張は失当なものである。

6 争点6(本件意匠登録1について,特許出願から意匠登録出願への変更は適

法なものであるか)について

前記5のとおり,本件意匠登録1に係る出願は,乙1特許出願を分割出願し

たものから意匠登録出願に変更されたものであるところ,被告は,上記乙1特

許出願に係る明細書及び図面に記載された本件意匠1に対応する部材である

「浮動くさび部材」と,本件意匠1とが同一性を欠いており,意匠登録出願へ

の変更は不適法なものである旨主張するので,以下検討する。

(1) 本件意匠1の右側面の形状

ア 被告は,乙1特許出願に係る明細書及び図面において本件意匠1の右側

面の形状が記載されていない旨主張する。

乙1特許出願(特願2005−050055)に係る明細書及び図面に

よれば,以下の記載のあることが認められる。なお,以下の記載のうち「浮

動くさび部材6」が本件意匠1に対応する部材である。

【0025】

「この浮動くさび部材6は,図3(b)に示したような鉄鋼材から成る長

尺状引抜き材 43 を,所定長さに切断して,形成される。」




61
【図3】




イ 機械工学事典(甲8)によれば,「引抜き加工」とは,一般に,「所定の

形状を有するダイスに被加工材を通して引き抜くことにより,各種横断

形状を有する線,棒,管,形材などを製造する加工法」をいうことが認

められる。

ウ 前記ア及びイによれば,前記アの特許出願に係る明細書及び図面におい

て,本件意匠1に対応する「浮動くさび部材6」の右側面の形状として,

歯面を右側面の正面側端部から背面側端部にかけて均一に配設したもの

が記載されているものと認めることができる。

よって,この点に関する被告の主張には理由がない。

(2) 本件意匠1の側面視形状における縦横比

ア 被告は,乙1特許出願に係る明細書及び図面において,本件意匠1に対

62
応する「浮動くさび部材6」の側面視形状の縦横比が明らかではなく,む

しろ横長である旨主張する。

乙1特許出願に係る明細書及び図面において,「浮動くさび部材6」の

側面視に係る図面はなく,前記(1)アの【図3】及び下記【図5】の斜視

図があるのみである。

【図5】




イ 前記アによると,
【図5】は別紙本件意匠目録1【使用状態を示す参考図

3】と同一のものであることが認められる上,いずれの斜視図においても

縦寸法が横寸法よりもやや大きな形状で記載されていることが認められ

るから,この点に関する被告の主張も理由がない。

7 争点7(本件意匠登録2について,特許出願から意匠登録出願への変更は適

法なものであるか等)について

(1) 被告は,本件意匠2について,特定の機能を有するとか,一定の重要性が

あるとか,まとまりがあるとはいえないから,創作の単位としての「物品

部分」に当たらない旨主張する。

当初の出願である乙1特許出願に係る明細書及び図面によると,以下の発

明が記載されている。

【請求項1】

「ケース部を備える第1アームと,該ケース部にて該第1アームと第1軸心

63
廻りに揺動可能に枢結されると共に相互に平行な2枚のギア板部から成るギ

ア部を備える第2アームと,該第1アームの該ケース部に形成されるくさび

形窓部と,該くさび形窓部内にて移動可能に配設されかつ一面側が上記ギア

部に噛合可能な歯面とされ他面側が上記くさび形窓部の外方側のくさび面に

当接する当接面とされて該歯面が該ギア部に噛合しかつ該当接面が該くさび

面に当接し上記第2アームが上記第1アームに対して展開方向へ揺動するの

を抑制する浮動くさび部材と,を具備することを特徴とする角度調整金具。」

【請求項7】

「上記第2アームは,上記第1アームに対して所定折り畳み角度を越えて揺

動すると上記浮動くさび部材を折り畳み方向に押圧する押し返し突部を有し,

上記くさび形窓部は,該押し返し突部にて押し返された該浮動くさび部材を

収容して上記歯面と上記ギア部との噛合状態を解除させる退避空間部を有し,

さらに,上記第2アームは,上記第1アームに対して展開揺動させると該退

避空間部に収容された該浮動くさび部材を押し出して該歯面と該ギア部とを

噛合状態とさせる押し出し突部を有する請求項1,2,3,4,5又は6記

載の角度調整金具。」

(2) 前記(1)によると,本件意匠2は,乙1特許出願に係る部材のうち「押し

返し突部」「ギア部」「押し出し突部」に係る部分を取り出したものであるこ

とが認められるから,本件意匠2は,本件意匠2の意匠に係る物品である「角

度調整金具用揺動アーム」のうち,特定の機能を有する部分を取り出したも

のであり,この点に関する被告の主張は前提を欠いているというべきである。

また,前記2で述べたところからしても,本件意匠2は,それ自体におい

て美感を起こさせるに足りるものであり,本件意匠2の意匠に係る物品につ

いて,他の意匠と対比する際に対比の対称となりうる部分として十分なもの

であるということもできる。

したがって,本件意匠2が「物品の部分」に当たるものではない旨の被告

64
の主張には理由がない。

差止めの必要性

被告は,ロ−1号製品,ロ−2号製品を現在,製造・販売していないと主張

した上,原告の求釈明に応じ,ロ−1号製品については,製造販売の開始日が

平成21年3月4日,終了日が平成22年7月30日で,在庫は存在しない,

ロ−2号製品については,製造販売の開始日が平成22年8月24日,終了日

が平成22年11月2日で,在庫は存在しない,との釈明をしたものの,製造

販売を中止した理由を明らかにしていない。

被告は,現在,ロ−3号製品を製造,販売しており,上述した事情を総合す

ると,前提事実(4)のとおり,被告は,現在,ロ−1号製品,ロ−2号製品を

製造,使用,譲渡,輸出及び輸入していないと認めることができる。

しかし,被告は,ロ−1号意匠に対応する意匠について,平成20年10月

8日,出願登録し,平成23年2月4日,登録され,ロ−2号意匠に対応する

意匠について,平成22年7月22日,出願登録し,平成23年2月4日,登

録されている(乙8,9。本件意匠2が部分意匠であるため,いずれも拒絶さ

れなかったものと推測される。。被告はこれらの事実を理由に,本件意匠権2


の侵害を争っており,今後,ロ−1号製品やロ−2号製品を製造販売するおそ

れを認めざるを得ない。

また,上記各製品の在庫については,これを全て廃棄したというが,その裏

付けはない。

そうすると,原告の請求のうち,ロ−1号製品及びロ−2号製品の製造,販

売,輸出,輸入,使用の禁止を求める部分については,その必要性を認めるこ

とができ,上記各製品の廃棄を求める部分についても,理由がある。

なお,被告は,現在,別紙イ号製品目録及び別紙ロ号製品各目録記載の各製

品のうち,C「ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.6」を製造して

いないものの(前提事実(4)),その製造中止の経緯は不明であり,改めて製造

65
販売するおそれを認めざるを得ない。

9 結論

よって,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部



裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三




裁 判 官 西 田 昌 吾



裁判官達野ゆきは,差し支えのため署名押印することができない。



裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三




66
(別紙)

イ号製品目録

1 製品の名称

角度調整金具用浮動くさび

2 イ号製品を部品として用いる製品

@ ラチェットギア多段シリーズ 14WS 巻き1.2

A ラチェットギア多段シリーズ 14WS 巻き1.6

B ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.2

C ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.6

3 構成

以下の各図に記載のとおりである。

【第1図】正面図




67
【第2図】背面図




【第3図】左側面図




68
【第4図】右側面図




【第5図】平面図




【第6図】底面図




69
(別紙)

ロ−1号製品目録

1 製品の名称

角度調整金具用揺動アーム

2 ロ−1号製品を部品として用いる製品

ロ−1号製品には,ロ−1−1号製品とロ−1―2号製品がある。

(1) ロ−1−1号製品

@ ラチェットギア多段シリーズ 14WS 巻き1.2

A ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.2

(2) ロ−1−2号製品

B ラチェットギア多段シリーズ 14WS 巻き1.6

C ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.6

3 構成

以下の各図に記載のとおりである。なお,ロ−1−1号製品とロ−1−2号製

品とは,円管部の径のみがわずかに異なるものの,図面の表現上は差違がない。

【第1図】正面図




70
【第2図】背面図




【第3図】左側面図




【第4図】右側面図




【第5図】平面図




71
【第6図】底面図




72
(別紙)

ロ−2号製品目録

1 製品の名称

角度調整金具用揺動アーム

2 ロ−2号製品を部品として用いる製品

ロ−2号製品には,ロ−2−1号製品とロ−2−2号製品がある。

(1) ロ−2−1号製品

@ ラチェットギア多段シリーズ 14WS 巻き1.2

A ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.2

(2) ロ−2−2号製品

B ラチェットギア多段シリーズ 14WS 巻き1.6

C ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.6

3 構成

以下の各図に記載のとおりである。なお,ロ−2−1号製品とロ−2−2号製

品とは,円管部の径のみがわずかに異なるものの,図面の表現上は差違がない。

【第1図】正面図




73
【第2図】背面図




【第3図】左側面図




【第4図】右側面図




【第5図】平面図




74
【第6図】底面図




75
(別紙)

ロ−3号製品目録

1 製品の名称

角度調整金具用揺動アーム

2 ロ−3号製品を部品として用いる製品

ロ−3号製品には,ロ−3−1号製品とロ−3−2号製品がある。

(1) ロ−3−1号製品

@ ラチェットギア多段シリーズ 14WS 巻き1.2

A ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.2

(2) ロ−3−2号製品

B ラチェットギア多段シリーズ 14WS 巻き1.6

C ラチェットギア多段シリーズ 14RS 巻き1.6

3 構成

以下の各図に記載のとおりである。なお,ロ−3−1号製品とロ−3−2号製

品とは,円管部の径のみがわずかに異なるものの,図面の表現上は差違がない。

【第1図】正面図




76
【第2図】背面図




【第3図】左側面図




【第4図】右側面図




【第5図】平面図




77
【第6図】底面図




78
(別紙)

本件意匠目録1

意匠の説明

なし

【図面】

【正面図】




【背面図】




【左側面図】




【右側面図】




79
【平面図】




【底面図】




【使用状態を示す参考図1】




80
【使用状態を示す参考図2】




【使用状態を示す参考図3】




81
(別紙)

本件意匠目録2

意匠の説明

実線で表した部分が,部分意匠として登録を受けようとする部分である。一点鎖

線は,部分意匠として意匠登録を受けようとする部分とその他の部分との境界のみ

を示す線である。

【図面】

【正面図】




【背面図】




82
【左側面図】




【右側面図】




【平面図】




【底面図】




83
【使用状態を示す参考図1】




【使用状態を示す参考図2】




84
【使用状態を示す参考図3】




85