関連審決 |
不服2002-9402 |
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関連ワード | 意匠の実施 / 物品 / 形状 / 意匠に係る物品 / 公然知られた(3条1項1号) / 3条1項3号 / 記載された意匠 / 部品 / 意匠の類否 / 願書の記載 / 登録意匠 / 類似性(類否判断) / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
60号
審決取消請求事件
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原告X 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 遠藤京子,藤正明,大橋信彦,井出英一郎 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/09/15 |
権利種別 | 意匠権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-9402号事件について平成15年12月16日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。なお,本件では,パイプの名称や形状については当事者間に争いがないので,本願意匠の「足場パイプ」及び引用意匠の「連結パイプ」はいずれも「丸パイプ」と表記する。また,本願意匠の「真直ぐジョイント」について,審決では「二方継手」と表記しており,本判決でも「二方継手」と統一して表記することとする。 本件は,原告が,意匠の登録出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判を請求したが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願意匠 出願人:原告 意匠に係る物品:「テーブル用脚」 意匠の形態:別紙1(審決書の別紙第1)の図面記載のとおり 出願番号:意願2001-11091号 出願日:平成13年3月12日 (2) 本件手続 拒絶査定日:平成14年3月11日 審判請求日:平成14年4月15日(不服2002-9402号) 審決日:平成15年12月16日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成16年1月17日(原告に対し) 2 審決の理由 審決の理由の要旨は以下のとおりである。 (1) 審決は,本願意匠を,本願意匠の出願前に公然知られたものと認められる昭和50年実用新案出願公開第80567号(甲10)の第1図に示された「テーブル用脚」(符号6の天板を除く。)の意匠(以下「引用意匠」という。なお,審決書の別紙第2を別紙2として本判決に添付する。)と比較し,その共通点について,以下のとおり,認定した。 「(1) 全体は,同径の短丸パイプを直交させてなる三方継手を四隅に用いて,それと同径の長い丸パイプ4本を四角形状に枠組みし,水平に配して上部枠となすとともに,その四隅の各三方継手下方にも上部枠の丸パイプと同径の長い丸パイプを垂設して脚となし,三方継手と丸パイプを面一状に接続した構成態様としている点, (2) 上部枠内側面と脚内側面の三方継手直近部位それぞれに小ねじ頭が突出して現れている点」 (2) 審決は,両意匠の差異点を,以下のとおり,認定した。 「(イ) 各丸パイプの接続態様につき,本願の意匠は,各丸パイプを,それと同径の二方継手を介して三方継手に接続したものであり,面一状の各接続部位外周に二方継手との境界が,近接する2本の平行なリング状の線状に現れており,小ねじ頭突出位置が各二方継手外周上であるのに対して,引用の意匠は,各丸パイプを三方継手に直接接続したものであり,面一状の各接続部位外周に三方継手との境界が1本のリング状の線状に現れており,小ねじ頭突出位置が各丸パイプ外周上である点, (ロ) 上部四隅の角面(三方継手基部角面)の態様につき,本願の意匠は,平面視直角状であり,斜め外方にこぶ状に出っ張っているのに対して,引用の意匠は,平面視円弧状であり,本願の意匠のような出っ張りがなく,球面状としている点, (ハ) 上部枠における天板支持片の有無につき,本願の意匠は,天板支持片を有さず,天板を上部枠上側に直接載置するものとしているのに対して,引用の意匠は,上部枠の各丸パイプ内側面の小ねじ頭突出位置直近部位2か所ずつに,小片状の天板支持片を水平方向に突設したものであり,天板を上部枠内側に天板支持片を介して載置するものとしている点」 (3) その上で,審決は,両意匠の共通点について,以下のとおり,判断した。 「(1)の点は,両意匠の形態の全体にかかわりその骨格をなすところであり,(2)の点ともあいまって形態全体の基調を形成しており,両意匠間に強い類似性をもたらしているものである。」 (4) 審決は,両意匠の差異点について,以下のとおり,判断した。 「(イ)の点については,各丸パイプの接続態様の差異であり,その差異は,丸パイプの接続に二方継手を用いたか否かの差異に帰結するものといえるところ,これに関して,請求人は,本願意匠の接続部位に現れる線は二方継手によりパイプを立体的に連結するという本願の意匠の中心をなすアイディアの最も典型的な特徴であり,テーブル用脚に大きなアクセントを与えている旨主張するが,本願の意匠の接続態様は,単に,従来から構成部材の丸パイプの接続の際に用いられている普通の二方継手を採用したにすぎないものであって,看者の注意を惹くほどの特異なものではなく,しかも,該二方継手の採用に起因して現れるリング状の態様も,面一状の接続部位外周面上に近接して2本現れる単なる線状に止まるものであることから,その視覚上の効果はさしたるものではなく,結局のところ,その差異は,リング状の線状の数が1本か2本かの僅かな数差程度の,視覚的にも微弱なものであって,特に看者の注意を惹くものではなく,小ねじ頭突設位置の差異も,二方継手を用いたか否かに起因するものであるところ,上部枠内側面と脚内側面の三方継手直近部位に小ねじ頭を現した点では両意匠共通する中で,天板を載置した際には比較的観察されにくい位置に付設して現した小さな形状のものに係る僅かな位置差にすぎず,以上によれば,(イ)の差異は,上記のとおりの両意匠間に強い類似性をもたらす共通する態様の中にあって,共通点を圧倒して両意匠を別異のものと看者に印象付けるまでには至っていない。 (ロ)の点については,形態全体を観ると,上部四隅の角面という限られた部位についての部分的な差異にすぎず,しかも,本願の意匠のこぶ状の出っ張りは,さほど大きなものではなく,三方継手を構成する短丸パイプの繋がり方(三方継手の製造方法)に起因して自ずと現れた程度のものであり,特徴といえるほどのものではないことから,その差異は,看者の注意を強く惹くものではなく,共通点を凌いで両意匠の類否判断を左右するまでには至っていない。 (ハ)の点については,天板支持片の有無の差異であるが,引用の意匠の天板支持片は,従来から見られる天板載置方法を単に選択したことによる小さな形状の付加的なものであり,形態全体の基調に影響を及ぼすほどのものではなく,本願の意匠のように天板支持片によらないで天板を上部枠上側に直接載置することも,特に珍しいことではなく,しかも,引用の意匠の天板支持片突設位置は両意匠の小ねじ頭突出位置付近であることから,小ねじ頭の存在により天板支持片の有無の差異が差異として働く効果は希釈化されており,したがって,その差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。」 (5) 審決は,両意匠の共通点と差異点を総合して,以下のとおり,結論付けた。 「そうして,これらの差異点があいまった効果を考慮しても,差異点は,共通点が惹起する両意匠間の強い類似性を圧倒して両意匠別異の感を看者に与えるまでには至っていない。 以上のとおりであって,両意匠は,意匠に係る物品が共通し,その形態について,差異点は共通点を凌駕することができず,両意匠は,全体として類似するものである。 したがって,本願の意匠は,意匠法3条1項3号に該当し,同条同項柱書の規定により,意匠登録を受けることができない。」 |
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当事者の主張
1 原告の主張の要点 審決の本願意匠と引用意匠との共通点に関する認定は認める。両意匠の差異点については,審決の認定する差異点が存在することは認めるが,差異点に関する審決の認定,評価は不十分であり,結果として,審決は,両意匠の類否判断を誤ったものである。 (1) 三方継手と丸パイプとの接続態様(相違点(イ)) ア リング状の線及び面 本願意匠に係るテーブル用脚は,丸パイプを三方から接続できる三方継手を用い,各三方継手に3本の丸パイプを市販の二方継手を介して接続したものである。 本願意匠の三方継手と各丸パイプとの接続部分には,それぞれ2本ずつのリング状の隙間の線が現れ(1つのテーブル用脚で合計24本),これら2本の線の間に幅20ないし25ミリメートル程度のリング状の面が現れる。このリング状の面は,丸パイプとは全く異なる材質及び物品からなる二方継手の一部であるため,質感,色等も丸パイプとは全く異なっている。具体的にいえば,丸パイプは,通常ほとんど亜鉛メッキの表面処理が施され,まれに亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金等の表面処理が施されるため,概ね銀色もしくは白色系(時には鼠色系)の光沢をしているのに対し,市販の二方継手は,通常クロメート処理がなされ,黄色又は金色調の色合いをしており,その色調が全く異なる。また,このリング状の面は1個のテーブル用脚に12か所も存在し,しかも,上記のとおり面の幅がかなり広いので,看者の注意を惹く。 これに対し,引用意匠は,本願意匠で用いる三方継手とは全く構成が異なる三方継手に直接丸パイプを差し込むもので,三方継手と丸パイプとの間には1本ずつのリング状の隙間の線(1つのテーブル用脚で合計12本)が現れるにすぎず,2本の線に挟まれたリング状の面は現れないのであるから,ほとんど目立たない。 一般に,テーブル用脚の需要者はテーブルそのものの需要者とは異なり,卸売業者等の専門家であるところ,かかる専門家の注意が集中するのは,テーブル用脚の水平の天板支持部と垂直の脚部の接続部であるから,この部分が意匠の要部である。上記のとおり,両意匠は,この要部において大きな差異がある。 しかるに,審決は,「該二方継手の採用に起因して現れるリング状の態様も,面一状の接続部位外周面上に近接して2本現れる単なる線状に止まるものであることから,その視覚上の効果はさしたるものではなく,結局のところ,その差異は,リング状の線状の数が1本か2本かの僅かな数差程度の,視覚的にも微弱なものであって,特に看者の注意を惹くものではなく」(2頁27行〜31行)としている。 これは,三方継手と丸パイプとの接続点に現れる隙間の線のみに着目し,線に挟まれたリング状の面の存在を看過したものであり,本願意匠と引用意匠の類否の判断を誤っている。 イ 小ねじ頭突出位置 本願意匠では,二方継手の2個の部品により丸パイプと三方継手を内側から半径方向にねじ具で締め付け,拡大させることにより,丸パイプと三方継手を内部から強固に接続しており,丸パイプ及び三方継手にはねじ穴は不要である。これに対し,引用意匠における三方継手と丸パイプとの接続は,三方継手及び丸パイプにそれぞれねじ穴を形成し,これに小さなねじ具をねじ込んで三方継手と丸パイプを接続しているとの差異がある。 審決は,小ねじ頭突出位置について,「天板を戴置した際には比較的観察されにくい位置に付設して現した小さな形状のものに係る僅かな位置差にすぎず」(2頁34行〜35行)としているが,本願意匠に係る物品はあくまで「テーブル用脚」であって,「テーブル」ではないから,審決が天板を戴置した状態を想定して本願意匠と引用意匠との類否を判断したことは違法である。 (2) 上部四隅の角面の態様(差異点(ロ)) 本願意匠にはその上部四隅の角部にこぶ状の出っ張りがあり,引用意匠にはこれが存在しない。このこぶ状の出っ張りは,かなり看者の目を惹くものであり,引用意匠とは外観上はっきり区別される。また,本願意匠は,上から見てシャープな四角形であり,丸みを帯びた引用意匠とははっきり区別できるものであり,この点でも両意匠は類似していない。審決はこうした差異を十分に考慮していない。 (3) 上部枠における天板支持片の有無(差異点(ハ)) 本願意匠では,天板を丸パイプの上にそのまま戴置するため,天板を戴置するための支持片を設けていないのに対し,引用意匠では,天板を取り付けるため,テーブル用脚を構成する水平の丸パイプに上向きに複数の突起を設け,天板を戴置して取り付けているとの差異があるが,審決はこの点を看過している。 (4) 類否の総合判断 以上のとおりの本願意匠と引用意匠には共通点もあるが,差異の方が大きく,全体として別異の意匠となっているのであり,本願意匠と引用意匠とが類似しているとした審決の判断は誤りである。 2 被告の主張の要点 審決の認定判断には誤りがなく,取り消されるべき理由はない。 (1) 三方継手と丸パイプとの接続態様(相違点(イ)) ア リング状の線及び面 原告は,本願意匠の二方継手は丸パイプとは色調の異なるものであるから,三方継手と丸パイプの間に現れた二方継手の一部であるリング状の面は看者の注意を惹くものであると主張するが,その主張は,両意匠の類否判断における引用意匠との比較対象を本願意匠ではなく原告が作成した本願意匠の実施物としたことによる誤った前提に基づくものである。本願意匠の意匠登録願(甲4,以下「本件願書」という。)には意匠の色彩についての説明はなく,本件願書に添付した図面も色彩が付されたものではないから,意匠登録を受けようとする意匠の色彩は具体的に開示されていない。したがって,本願意匠における二方継手の部分は他の部分とは色調の異なるものとまでは認定し得ず,審決が本願意匠の色彩について認定していない点に誤りはない。 そうすると,本願意匠全体の中で,二方継手の部分は,面一状の面上に現れた他の部分との境界線(近接する2本の平行なリング状の線状)により他の部分と区別して看取されるにすぎないものであり,原告が主張するほど目立つものではなく,また,本願意匠において外観上に現れる二方継手の部分のリング状の態様(原告が主張する「リング状の面」)は,本件願書において市販のものと説明する二方継手の採用に起因して現れるものであり,従来から見られるありふれた態様にすぎず,看者の注意を惹くほどの特異なものではない。 したがって,審決が,「結局のところ,その差異は,リング状の線状の数が1本か2本かの僅かな数差程度の,視覚的にも微弱なものであって,特に看者の注意を惹くものではなく」(2頁29行〜31行)とした点に誤りはなく,原告の主張には理由がない。 イ 小ねじ頭突出位置 原告は,審決には本願意匠に係る物品を「テーブル」として類否判断を行った誤りがあると主張するが,審決が本願意匠に係る物品を「テーブル用脚」と認定し,「テーブル用脚」の意匠について類否判断をしていることは,審決全体から明らかであり,原告の主張は,審決を正しく理解したものではない。意匠の類否判断は,物品の性質,用途,使用態様あるいはありふれた態様であるか否かなどを考慮して,特に看者の注意を強く惹くところを把握しながら,相対比する意匠を全体的に観察してなされるものであるから,審決が意匠の類否判断における差異点の評価判断に際し物品の使用の際の状態についても考慮したことは,正当なことといえる。 (2) 上部四隅の角面の態様(差異点(ロ)) 両意匠には,前記差異点(ロ)記載のとおりの差異はあるものの,その差異は,意匠全体の中では上部四隅の角面という限られた部位のものにすぎず,しかも,本願意匠のこぶ状の出っ張りは,側面視では円弧状のものであって,やや突出した程度のさほど大きなものではなく,三方継手を構成する短丸パイプの繋がり方に起因して自ずと現れた程度のものである。そして,本願意匠における三方継手に見られる,同径の丸パイプ2本を外角が直角状に直交接続した造形手法は,いうまでもなく普通の手法であり,その上,この造形手法を三方継手に採用したもの,すなわち,同径の丸パイプ2本を外角が直角状に直交接続し,さらに同径の丸パイプ1本を加えて直交接続してなる三方継手も従来から見られるところである。そうすると,本願意匠における三方継手基部角面の態様は,特徴といえるほどのものではなく,一方,引用意匠の上部四隅の角面を球面状とした態様も三方継手基部角面の態様としてありふれたものであり,以上を総合すると,差異点(ロ)は看者の注意を強く惹くものではなく,共通点を凌いで両意匠の類否判断を左右するまでには至っていないとするのが相当である。したがって,審決には誤りはない。 (3) 上部枠における天板支持片の有無(差異点(ハ)) 原告の主張は,本願意匠における天板の取付方法を前提とするものであるが,本件願書及び本件願書に添付した図面には,天板の取付方法について具体的に開示されていない。また,テーブル用脚等の意匠の分野において,天板支持片を有していないものは,従来から見られるところであって,本願意匠のように天板支持片によらないで天板を上部枠上側に直接載置することは,特に珍しいことではない。したがって,審決が,本願意匠における天板の載置方法について,「特に珍しいことではなく」(3頁9行〜10行)と判断した点に誤りはない。 (4) 類否の総合判断 以上によれば,本願意匠と引用意匠は「意匠に係る物品が共通し,その形態について,差異点は共通点を凌駕することができず,両意匠は,全体として類似するものである」(3頁17行〜19行)との審決の結論に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 共通点 審決が前記のとおり認定した本願意匠と引用意匠の共通点については,当事者間に争いがない。この認定によれば,両意匠は,テーブル用脚を構成する主要部分である上部四隅,上部枠,脚,三方継手と丸パイプの接続部分のいずれの部分においても,その基本的な形態が共通しており,さらに,両意匠を対比観察すれば,全体としてもよく似た形態であると認めることができる。 2 差異点 次に両意匠の差異点について検討する。 (1) 三方継手と丸パイプとの接続態様(相違点(イ)) ア リング状の線及び面 原告は,本願意匠では,三方継手と各丸パイプとの接続部分にそれぞれ2本ずつのリング状の隙間の線が現れ,これら2本の線の間に幅20ないし25ミリメートル程度のリング状の面が現れるところ,このリング状の面は,丸パイプとは全く異なる材質及び物品からなる二方継手の一部であるため,質感,色等も丸パイプとは全く異なり,看者の注意を惹くと主張する。 しかしながら,本件願書には「本物品は,3本の鋼製の丸パイプを3方向に立体的に接続できるようにした接続金具…と丸パイプを真直ぐに接続できるようにした市販の二方継手と適宜な長さの丸パイプのみを用いて,簡単に組み立てることができるようにしたテーブル用脚であり」(【意匠に係る物品の説明】の項)との記載があるのみで,三方継手と各丸パイプとの接続部分の色彩,光沢,質感についての開示はなされておらず,また,本件願書に添付された図面においても色彩等の開示はなされていない。登録意匠の範囲は,願書の記載及び本件願書に添付された図面に記載された意匠に基づいて定めなければならないのであるから(意匠法24条),引用意匠と対比すべき本願意匠の範囲も本件願書の記載及び本件願書に添付された図面の範囲に基づくことは当然であり,原告が本願意匠の色彩等を本件願書及び本件願書に添付された図面で開示していない以上,審決が本願意匠の色彩等について考慮せずに引用意匠との類否を判断したことに誤りはない。 このように両意匠の色彩等を考慮しないと,本願意匠において三方継手と丸パイプの接続部分に現れる視覚的な特徴は,2本のリング状の線のみとなる。他方,引用意匠の三方継手と丸パイプとの接続部分には,三方継手と丸パイプとの接続部分に1本のリング状の線が現れている。したがって,審決が相違点(イ)において「各丸パイプの接続態様につき,本願の意匠は,各丸パイプを,それと同径の二方継手を介して三方継手に接続したものであり,面一状の各接続部位外周に二方継手との境界が,近接する2本の平行なリング状の線状に現れており,…引用の意匠は,各丸パイプを三方継手に直接接続したものであり,面一状の各接続部位外周に三方継手との境界が1本のリング状の線状に現れており」と認定した点に誤りはない。 そうすると,結局のところ,両意匠の三方継手と丸パイプの接続部分の差異は,リング状の線の数が1本か2本かに帰着することになる。このリング状の線は部材と部材が接続する部分にできる細い線にすぎず,しかも本願意匠の三方継手,二方継手及び丸パイプは同一面を形成しているのであるから,リング状の線が1本か2本かは軽微な差異にすぎないというべきである。審決が「その差異は,リング状の線状の数が1本か2本かの僅かな数差程度の,視覚的にも微弱なものであって,特に看者の注意を惹くものではなく」(2頁30行〜31行)と判断したことに誤りはない。 イ 小ねじ頭突出位置 審決は,前記のとおり,両意匠の小ねじ頭突出位置について,共通点として「上部枠内側面と脚内側面の三方継手直近部位それぞれに小ねじ頭が突出して現れている点」(1頁下から7行〜6行)を挙げ,差異点として,「本願の意匠は,…小ねじ頭突出位置が各二方継手外周上であるのに対して,引用の意匠は,…小ねじ頭突出位置が各丸パイプ外周上である点」(1頁下から4行〜2頁4行)を挙げた上で,この差異は「天板を載置した際には比較的観察されにくい位置に付設して現した小さな形状のものに係る僅かな位置差にすぎず」(2頁34行〜35行)と判断した。 これに対し,原告は,本願意匠に係る物品は「テーブル用脚」であって「テーブル」そのものではないから,審決が天板を戴置したことを前提として両意匠の類否を判断したことは誤りであると主張する。しかしながら,意匠の類否判断は,意匠に係る物品の特性,用途,使用態様等を考慮し,看者の注意を惹く部分を把握して対比した上で,全体として相対比する意匠が類似しているかを判断するものであるから,その判断において意匠に係る物品の特性,用途,使用態様等を考慮したとしても,誤りということはできない。本願意匠に係る物品はテーブル用脚であり,その用途に照らし,天板を戴置して使用することが想定されるのであるから,審決が天板を戴置した状態を想定して本願意匠と引用意匠の類否判断を行ったことに誤りはない。 本願意匠と引用意匠の小ねじ頭突出位置には,審決が認定したとおりの差異があると認められるが,位置の差はごく僅かであり,同ねじの形状も小さいことや天板を戴置した場合にはほとんど見えない位置にあることも考慮すれば,この差異が共通点を凌ぐということはできない。 (2) 上部四隅の角面の態様(差異点(ロ)) 審決は,上部四隅の角面の態様について,前記のとおり,差異点(ロ)として認定した上で,「その差異は,看者の注意を強く惹くものではなく,共通点を凌いで両意匠の類否判断を左右するまでには至っていない」(3頁4行〜5行)と判断する。 これに対し,原告は,本願意匠の上部四隅の角部にこぶ状の出っ張りがあること及びその角部が上から見てシャープな四角形であることは看者の注意を惹くところであり,引用意匠とははっきり区別できると主張する。しかしながら,本願意匠の上部四隅の角部のこぶ状の出っ張りは,三方継手を構成する短丸パイプの繋がり方に起因して自ずと表れた程度のものであり,その形状及び突出の程度も格別の特徴があるとはいえない上,上部四隅の角面という限られた部位のものにすぎないというべきであって,看者の注意を強く惹くものとは認められない。したがって,審決の上記判断に誤りがあるとはいえない。 (3) 上部枠における天板支持片の有無(差異点(ハ)) 審決は,両意匠の上部枠における天板支持片の有無について,前記記載の差異点(ハ)を認定した上で,この差異について「本願意匠のように天板支持片によらないで天板を上部枠上側に直接載置することも,特に珍しいことではなく,・・・その差異が両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である」(3頁8行〜13行)と判断した。 これに対し,原告は,本願意匠では,天板を丸パイプの上にそのまま戴置するため,天板を戴置するための支持片を設けていない点で看者の注意を惹くと主張する。しかしながら,乙5ないし7によれば,テーブル用脚等の意匠の分野において,天板支持片を有していないものは,従来から普通に見られることが認められ,天板支持片の大きさ及び設置位置にも照らすと,天板支持片を有しないことが特に看者の注目を惹く点であるとは認められない。したがって,審決の認定判断に誤りはない。 (4) 類否の総合判断 以上によれば,本願意匠と引用意匠には,差異点(イ)ないし(ハ)の差異はあるものの,これらの差異は部分的で軽微なものにすぎないというべきであり,両意匠の共通点を凌駕するに足るものではないから,「両意匠は,意匠に係る物品が共通し,その形態について,差異点は共通点を凌駕することができず,両意匠は,全体として類似するものである」(3頁17行〜19行)との審決の結論は正当である。 (なお,原告は,両意匠の差異点として,製作費用やリサイクルの可能性等を指摘するが,これらの点は意匠の判断要素ではなく,主張自体失当である。また,原告は,審決が拒絶査定について判断を行うべきであるとか,拒絶査定と審決で引用された意匠が異なるのは違法であるなどと主張するが,いずれも理由がない。) 3 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 田中昌利 |
裁判官 | 佐藤達文 |