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事件 平成 24年 (行ケ) 10105号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/11/26
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年11月26日判決言渡

平成24年(行ケ)第10105号,第10106号,第10107号,第101

08号,第10109号,第10110号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年9月19日

判 決



原 告 株 式 会 社 松 風



訴訟代理人弁理士 西 浦 嗣 晴

出 山 匡

山 田 朋 彦



被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 早 川 治 子

遠 藤 行 久

田 村 正 明


主 文

特許庁が不服2011−3122号事件,不服2011−3125号事

件,不服2011−3126号事件,不服2011−3127号事件及

び不服2011−3129号事件について平成24年2月14日にした

審決並びに不服2011−3123号事件について平成24年2月13

日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。



事実及び理由




第1 原告が求めた判決

主文同旨



第2 事案の概要

本件訴訟は,意匠登録出願拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした

審決の取消訴訟である。争点は,意匠の類否である。なお,平成24年(行ケ)第

10108号事件の本願意匠D(意願2008−016914号)は同第1010

5号事件の本願意匠A(意願2008−016902号)の,同第10109号事

件の本願意匠E(意願2008−016915号)は同第10106号事件の本願

意匠B(意願2008−016903号)の,同第10110号事件の本願意匠F

(意願2008−016918号)は同第10107号事件の本願意匠C(意願2

008−016906号)のそれぞれ部分意匠であり,また本願意匠A,B,D,

Eは上顎前歯の人工歯の,本願意匠C,Fは下顎前歯の人工歯に係る意匠である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成20年6月30日,意匠に係る物品をそれぞれ「人工歯」とする別

紙1「本願意匠A(意願2008−016902)」記載の意匠(以下「本願意匠A」
という),別紙4「本願意匠B(意願2008−016903)」記載の意匠(以下

「本願意匠B」という),別紙7「本願意匠C(意願2008−016906)」記

載の意匠(以下「本願意匠C」という),別紙10「本願意匠D(意願2008−0

16914)」記載の意匠(以下「本願意匠D」という),別紙12「本願意匠E(意

願2008−016915)」記載の意匠(以下「本願意匠E」という)及び別紙1

4「本願意匠F(意願2008−016918)」記載の意匠(以下「本願意匠F」

という)の登録出願をしたが(意願2008−016902号,016903号,

016906号,016914号,016915号,016918号),平成22年

11月9日,特許庁から拒絶査定を受けたので,平成23年2月10日,不服審判

請求をしたところ(不服2011−3122号,3123号,3125号,312




6号,3127号,3129号),本願意匠B(不服2011−3123号)につい

ては平成24年2月13日に,本願意匠A,CないしFについては平成24年2月

14日に,「本件審判の請求は成り立たない。」との各審決(審決A〜F)を受け,

それらの謄本は同月24日に原告に送達された。



2 審決の理由の要点

審決は本件各意匠と各引用意匠の意匠に係る物品を同一と認定し,意匠の類否

次のとおり認定判断した(以下における共通点・相違点は,本判決別紙16,18,20,

22,24,26「審決認定の共通点・相違点一覧表1〜6」を参照。。


(1) 本願意匠Aについて

【引用意匠A】意匠登録第1197533号公報(甲A18)

【本願意匠Aと引用意匠Aの形態上の共通点】

・共通点(1A)

全体が,正面視の形状を,上半分弱が略半円形状で下半分強が略等脚台形状の略

釣鐘形状,側面視の形状を略不等辺三角形状とする略くさび形状である点

・共通点(1B)
上半分弱の部位は,

(1B−1)正面視において略半円形状であり,その唇面を,下方から上方に向

かって次第に縮径する略円弧曲面とし,そのうち最上辺部において曲率をやや小さ

くし,

(1B−2)舌面側は大きく斜めに,ごく緩やかな円弧状凹面に切り欠き(基底

面,別紙3本願意匠A参考図の6.,


(1B−3)この基底面の全周縁部に,広い略等幅の土手部を残し,中央を略す

り鉢状凹陥部とした点(基底面中央凹陥部)

・共通点(1C)

下半分強の部位は,




(1C−1)正面視において略等脚台形状であり,その横幅が,上半分弱の正面

視略半円形部よりやや広く,

(1C−2)唇面は,上方を厚く略円弧状に膨出させ,下方に到るに従い平板状

に薄くし,

(1C−3)舌面は,横幅中央部を縦に浅くシャベル状にえぐり

(1C−4)下半分強の部位は,その上方が略かまぼこ形状の最大口径部を形成

する点

・共通点(1D)

切縁部(別紙3本願意匠A参考図の10.)は,

(1D−1)正面図において,下端辺が,三つのやや山状の部位と二つのやや谷

状の部位とを交互に組み合わせたごく低い略波状形状を呈する点,

(1D−2)側面視では,略弾頭形状を呈するものであり,これを詳細に見ると

唇面上端縁(別紙3本願意匠A参考図の参考右側面図の3.)と切縁先端(同参考右

側面図において下端に位置する切縁先端)を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部

の端面形状が,概ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最下端とする,略放物線

を描くものである点
【本願意匠Aと引用意匠Aの形態上の相違点】

・相違点(1ア)

正面視左端部の形状について,本願意匠Aは,中程やや上部付近において,ごく

わずかな屈曲凹部があるのに対して,引用意匠Aは,途中に凹部のないなだらかな

面である点

・相違点(1イ)

切縁部両下隅の正面形状について,本願意匠Aは,右隅は,右端部が内側に向か

ってわずかに湾曲してすぼまっており,下端辺に向かって角張って屈曲して,前記

下端辺における三つのやや山状の部位のうちの右の山を形成しており,左隅は,左

端部から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲して,前記下端辺における三つ




のやや山状の部位のうちの左の山を形成しているのに対して,引用意匠Aは,両隅

とも左右端部が内側に向かってわずかに湾曲してすぼまり,下端辺に向かって角張

って屈曲し,前記下端辺における三つのやや山状の部位の左右の山を形成している

点。

・相違点(1ウ)

基底面中央凹陥部の形状について,本願意匠Aは,略丸底形状であるのに対して,

引用意匠Aは,略円すい形状である点

【本願意匠Aと引用意匠Aの類否判断
意匠の類否を判断するに当たっては,両意匠の物品特性を踏まえ,共通点及び相違点につ
いて,意匠全体に占める大きさ,各部の機能を検討し,公知意匠を参酌し,美感の観点から看
者の注意を惹く部分か否かを評価して,意匠全体として両意匠の共通点と相違点を総合的に観
察した場合に,需要者に対して共通する美感を起こさせるか否かを判断する。
意匠に係る物品である『人工歯』について見てみると,人工歯は,天然歯の欠如による咀
嚼,嚥下,発音等の口腔機能の低下,欠落,及び形態の異常を整復する目的で装着される代替
物であるから,天然歯の形態と機能を回復させるように,その形状,色調,光沢,大きさなど
をできるだけ天然歯に近い状態とするものであり,その上で,需要者が人工歯の選択をするに
際しては,残存の天然歯の特徴を見て,周囲の残存歯との調和を考慮して,種々の形態が選択
されるものと認められる。
1.共通点の評価
共通点(1A)は,意匠全体にわたる基本的構成として,意匠の骨格を形成するものである
から,類否判断において大きな影響を及ぼす。
共通点(1B−1),同(1C−1)ないし(1D−2)は,意匠全体の中で大きな比率を占
めており,またこれらの部位は,装着されたとき非常に目に付く部位が多く,いずれも天然歯
の特徴を忠実に表現しようとした形態であると言え,看者に,視覚的に強い印象を与えるとこ
ろであるから,類否判断において大きな影響を及ぼす。
共通点(1B−2)(1B−3)は,基底面における共通点であるところ,基底面は,装着

固定具を介して口中の歯茎に直接装着される部位であるため,固定具を装着するための構造を
必要とし,また周囲の歯との調和を優先する必要もないため,天然歯の歯根を模した形態とす
る必要がなく,人工歯が持つ特有の形態が表現されるところであり,共通点(1B−2)(1

B−3)の,とりわけ,基底面中央の略すり鉢状凹陥部全周縁部に,広い略等幅の土手部を残
した形態は,土手上面の広い平坦面が現すしっかりとした土手が環状に中央の略すり鉢状凹陥
部を取り囲んで,中央凹陥部に装着固定具を挿入する際には,この広幅かつ略等幅の土手が,





内部に装着される固定具を強固に保持・固定するという,人工歯の意匠として重要な機能を形
態として端的に表現しており,看者に共通の美感を与えるものであって,類否判断において大
きな影響を与える。
そして,これらの共通点は,共通点全体として,看る者に強い共通の印象を与えており,類
否判断を支配している。
2.相違点の評価
正面視左端部の形状についての相違点(1ア)については,本願意匠Aの中程やや上部にお
いて,ごく僅かな屈曲凹部がある点は,上方半分弱の正面視略半円形部の正面を,下方から上
方に向かって次第に縮径する略円弧曲面とし,そのうち最上辺部においては曲率をやや小さく
したことから,その曲率の違いによって僅かな屈曲凹部として視認されるだけであって,両意
匠の該部の形態は,ともに天然歯の上顎前切歯の該部において見られるありふれた形態であり,
人工歯においては天然歯の形態を模すことはごく普通であり,また,極めて小さな部分におけ
るごく僅かな相違にすぎないから,この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
切縁部両下隅の正面形状の相違点(1イ)については,本願意匠Aの両隅の形態,引用意匠
Aの両隅の形態は,ともに,天然歯の上顎前歯の該部において見られる形態であり,この種人
工歯においては天然歯の形態を模すことはごく普通であり,この相違は人工歯を天然歯の代替
として用いるときに,普通に見られる変更の範囲内でのごく僅かな相違にすぎず,意匠全体と
して見ると,両意匠とも,正面視が,上方半分弱が略半円形,下方半分強が略方形の略釣鐘形
状全体として視認される中に埋没してしまう程度の相違にすぎないから,この相違点が両意匠
類否判断に与える影響は微弱である。
基底面の凹部形状についての相違点(1ウ)については,凹部の内底中心部における僅かな
丸みの有無にすぎず,その内底中心部の形状も,切断してようやくわかるだけであり,両意匠
の共通点の中に埋没してしまう程度の相違にすぎないものであるから,この相違点が両意匠の
類否判断に与える影響は微弱である。
また,相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える強い共
通の印象を覆すほどのものではない。」
「したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一で,形態においても,共通点が両意匠の類
否判断に支配的な影響を及ぼすのに対して,相違点はいずれも微弱であって,相違点の印象は,
共通点の印象を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠Aは,
引用意匠Aに類似する。」
(2) 本願意匠Bについて

【引用意匠B】意匠登録第1197059号公報(甲B16)

【本願意匠Bと引用意匠Bの形態上の共通点】

・共通点(2A)




全体が,正面視の形状を,上半分弱が略半楕円形状で下半分強が略等脚台形状

略釣鐘形状,側面視の形状を略不等辺三角形状とする略くさび形状である点

・共通点(2B)

上半分弱の部位は,

(2B−1)正面視において略半楕円形状であり,その唇面を,下方から上方に

向かって次第に縮径する略円弧曲面とし,そのうち最上辺部において曲率をやや小

さくし,

(2B−2)舌面側は大きく斜めに,ごく緩やかな円弧状凹面に切り欠き(基底

面,別紙6本願意匠B参考図の6.,


(2B−3)この基底面の全周縁部に,広い略等幅の土手部を残し,中央を略す

り鉢状凹陥部とした点(基底面中央凹陥部)

・共通点(2C)

下半分強の部位は,

(2C−1)正面視において略等脚台形状であり,その横幅が,上半分弱の正面

視略半円形部よりやや広く,

(2C−2)唇面は,上方を厚く略円弧状に膨出させ,下方に到るに従い平板状
に薄くし,

(2C−3)舌面は,横幅中央部を縦に浅くシャベル状にえぐり

(2C−4)下半分強の部位は,その上方が略かまぼこ形状の最大口径部を形成

する点

・共通点(2D)

切縁部(別紙6本願意匠B参考図の10)は,

(2D−1)正面図において,右隅は,右端部が内側に向かってわずかに湾曲し

てすぼまっており,下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状部を形成しており,

左隅は,左端部から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲しており,下端辺の

中間にもやや山状部があり




(2D−2)側面視では,略弾頭形状を呈するものであり,これを詳細に見ると

唇面上端縁(別紙6本願意匠B参考図の参考右側面図の3.)と切縁先端(同参考右

側面図において下端に位置する切縁先端)を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部

の端面形状が,概ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最下端とする,略放物線

を描くものである点

【本願意匠Bと引用意匠Bの形態上の相違点】

・相違点(2ア)

正面視右端部の形状について,本願意匠Bは,途中に凹部のないなだらかな面で

あるのに対して,引用意匠Bは,中程やや上部付近においてごくわずかな屈曲凹部

がある点

・相違点(2イ)

側面視上端部の形状について,本願意匠Bは,後傾略小放物線状であるのに対し

て,引用意匠Bは,略小台形状である点

・相違点(2ウ)

切縁部先端の形状について,本願意匠Bは,正面視で下端辺中間のごく低い山状

を呈する位置が中央やや左であり,側面視で先端部がやや丸みを帯びているのに対
して,引用意匠Bは,正面視で下端辺中間のごく低い山状を呈する位置が略中央で

あり,側面視で先端部がややとがっている点

・相違点(2エ)

舌面の凹部の態様について,本願意匠Bは,舌面の浅くえぐれた面の中で,三箇

所,島状に周囲よりわずかに深くえぐった箇所があり,それらは,背面図において,

中央やや左に略米粒形状,中央やや右に細長い略米粒形状,右下隅に略粟粒状のそ

れぞれ凹部として設けているのに対して,引用意匠Bは,舌面中央を略均等に浅い

シャベル状にえぐっている点

【本願意匠Bと引用意匠Bの類否判断
「1.共通点の評価
共通点(2A)は,意匠全体にわたる基本的構成として,意匠の骨格を形成するものである




から,類否判断において大きな影響を及ぼす。
共通点(2B−1),同(2C−1)ないし(2D−2)は,意匠全体の中で大きな比率を占
めており,またこれらの部位は,装着されたとき非常に目に付く部位が多く,いずれも天然歯
の特徴を忠実に表現しようとした形態であると言え,看者に,視覚的に強い印象を与えるとこ
ろであるから,類否判断において大きな影響を及ぼす。
共通点(2B−2)(2B−3)は,基底面における共通点であるところ,基底面は,装着

固定具を介して口中の歯茎に直接装着される部位であるため,固定具を装着するための構造を
必要とし,また周囲の歯との調和を優先する必要もないため,天然歯の歯根を模した形態とす
る必要がなく,人工歯が持つ特有の形態が表現されるところであり,共通点(2B−2)(2

B−3)の,とりわけ,基底面中央の略すり鉢状凹陥部全周縁部に,広い略等幅の土手部を残
した形態は,土手上面の広い平坦面が現すしっかりとした土手が環状に中央の略すり鉢状凹陥
部を取り囲んで,中央凹陥部に装着固定具を挿入する際には,この広幅かつ略等幅の土手が,
内部に装着される固定具を強固に保持・固定するという,人工歯の意匠として重要な機能を形
態として端的に表現しており,看者に共通の美感を与えるものであって,類否判断において大
きな影響を与える。
そして,これらの共通点は,共通点全体として,看る者に強い共通の印象を与えており,類
否判断を支配している。
2.相違点の評価
正面視右端部の形状についての相違点(2ア)については,引用意匠Bの中程やや上部にお
いて,ごく僅かな屈曲凹部がある点は,上方半分弱の正面視略半円形部の正面を,下方から上
方に向かって次第に縮径する略円弧曲面とし,そのうち最上辺部においては曲率をやや小さく
したことから,その曲率の違いによって僅かな屈曲凹部として視認されるだけであって,両意
匠の該部の形態は,ともに天然歯の上顎前切歯の該部において見られるありふれた形態であり,
人工歯においては天然歯の形態を模すことはごく普通であり,また,極めて小さな部分におけ
るごく僅かな相違にすぎないから,この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
側面視上端部形状についての相違点(2イ)については,基底面の上端におけるごく僅かな
平坦部の有無にすぎないし,また,本願意匠Bの該部の形態は,人工歯の上顎側切歯の該部の
形態として本願出願前に公然知られている形態であるから(1987年(昭和62年)3月1
日発行の『歯科技工 第15巻 第3号 別冊 人口歯の前歯列配列をどのように考えるか
〜その基準と要点〜』第376頁,図12参照),この相違点が両意匠の類否判断に与える影響
は微弱である。
切縁部についての相違点(2ウ)については,正面視での極低い山状部自体が,ともすれば
直線と認識してしまいそうな極めて低い山状部にすぎないものであり,また側面視での先端の
尖りの程度にしても,切縁部のみを注視してやっと視認できる程度の極僅かな相違にすぎない
ものであるから,両意匠の切縁部に共通する形態,すなわち,側面視では,略弾頭形状を呈す




るものであり,切縁部の端面形状が,概ね略放物線を描くという共通の形態に埋没してしまう
程度の相違にすぎず,この相違点が類否判断に及ぼす影響も微弱である。
舌面の凹部の態様についての相違点(2エ)については,本願意匠Bの三つの凹部は,中央
左右の略米粒形状凹部はごく浅く,右下隅の略粟粒状部もごく浅くかつ小さなものにすぎず,
また引用意匠Bの該部の態様はありふれており,舌面自体が使用時には目に付きにくい部位で
あるから,この相違点は軽微な相違にすぎず,類否判断に及ぼす影響は微弱である。
また,相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える共通の
印象を覆して,両意匠の類否判断を左右するほどではない。」
「したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一で,形態においても,共通点が両意匠の類
否判断に支配的な影響を及ぼすのに対して,相違点はいずれも微弱であって,相違点の印象は,
共通点の印象を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠Bは,
引用意匠Bに類似する。」
(3) 本願意匠Cについて

【引用意匠C】意匠登録第1197056号公報(甲C16)

【本願意匠Cと引用意匠Cの形態上の共通点】

・共通点(3A)

全体が,正面視の形状を,略上半分が略逆台形状で,略下半分が略逆釣鐘形状

略逆細釣鐘形状,側面視の形状を略三角形状とする略くさび形状である点

・共通点(3B)

略上半分の部位は,

(3B−1)正面視において略逆台形状であり,その横幅が,略下半分の正面視

略逆釣鐘形状部よりやや広く,

(3B−2)唇面は,下方を厚く略円弧状に膨出させ,上方に向かうに従い平板

状に薄くし,

(3B−3)舌面は,ごく緩やかな円弧状凹面であり,

(3B−4)略上半分の部位は,その下方が最大口径部を形成する点

・共通点(3C)

略下半分の部位は,

(3C−1)正面視において略逆釣鐘形状であり,その唇面を,上方から下方に




向かって次第に縮径する略円弧状曲面とし,そのうち最下辺部において曲率をやや

小さくし,

(3C−2)舌面側は大きく斜めに,ごく緩やかな円弧状凹面に切り欠き(基底

面,別紙9本願意匠C参考図の6.,


(3C−3)この基底面の全周縁部に,広い略等幅の土手部を残し,中央を略す

り鉢状凹陥部とした点(基底面中央凹陥部)

・共通点(3D)

切縁部(別紙9本願意匠C参考図の10.)は,

(3D−1)正面図において,上端辺両隅が丸みを帯びており

(3D−2)側面視では略弾頭形状を呈するものであり,これを詳細に見ると唇

面下端縁(別紙9本願意匠C参考図の参考右側面図の3.)と切縁先端(同参考右側

面図において上端に位置する切縁先端)を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部の

端面形状が,概ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最上端とする,略放物線を

描くものである点

【本願意匠Cと引用意匠Cの形態上の相違点】

・相違点(3ア)
正面視の形状について,本願意匠Cは,最下端が幅方向やや左に位置する左右非

対称の形状であるのに対して,引用意匠Cは,最下端が幅方向略中央に位置する左

右略対称の形状である点

・相違点(3イ)

側面視の形状について,本願意匠Cは,略三角形状を呈する舌面側の両辺の長さ

が,略同長であるのに対して,引用意匠Cは,略三角形状を呈する舌面側の両辺の

長さが,上方辺の方が下方辺より長い点

・相違点(3ウ)

切縁部の正面形状について,本願意匠Cは,右隅は,右端部が内側に向かってわ

ずかに湾曲してすぼまり,曲率の大きな小円弧状隅部を経て,横幅中央部まで,左




斜め上に向かってごくわずかに傾斜する上端辺を形成し,左隅は,右隅の曲率より

小さな曲率の大円弧状隅部を経て,横幅中間部まで,右斜め上に向かってわずかに

傾斜する上端辺を形成していて,上端辺中間部がわずかに高い山状を成しているの

に対して,引用意匠Cは,両隅とも左右端部が内側に向かってほぼ同じ曲率の円弧

状に湾曲して上端辺に到り,上端辺は,両隅を除いて水平状である点

・相違点(3エ)

切縁部の側面形状について,本願意匠Cは,仮想中心軸(別紙9本願意匠C参考

図の参考右側面図において3.と上端に位置する切縁先端を結ぶ直線)の前方唇面

側の曲線の曲率と,後方舌面側の曲線の曲率が,略同じであるのに対して,引用意

匠Cは,仮想中心軸の前方唇面側の曲線は,やや曲率が小さく,後方舌面側の曲線

はやや曲率が大きい点

・相違点(3オ)

基底面中央凹陥部の形状について,本願意匠Cは,略丸底形状であるのに対して,

引用意匠Cは,略円すい形状である点

【本願意匠Cと引用意匠Cの類否判断
「1.共通点の評価
共通点(3A)は,意匠全体にわたる基本的構成として,意匠の骨格を形成するものである
から,類否判断において大きな影響を及ぼす。
共通点(3B−1)ないし(3C−1)は,意匠全体の中で大きな比率を占めており,また
これらの部位は,装着されたとき非常に目に付く部位が多く,いずれも天然歯の特徴を表現し
ようとした形態であると言え,看者に,視覚的に強い印象を与えるところであるから,類否判
断において大きな影響を及ぼす。
共通点(3C−2)(3C−3)は,基底面における共通点であるところ,基底面は,装着

固定具を介して口中の歯茎に直接装着される部位であるため,固定具を装着するための構造を
必要とし,また周囲の歯との調和を優先する必要もないため,天然歯の歯根を模した形態とす
る必要がなく,人工歯が持つ特有の形態が表現されるところであり,共通点(3C−2)(3

C−3)の,とりわけ,基底面中央の略すり鉢状凹陥部全周縁部に,広い略等幅の土手部を残
した形態は,土手上面の広い平坦面が現すしっかりとした土手が環状に中央の略すり鉢状凹陥
部を取り囲んで,中央凹陥部に装着固定具を挿入する際には,この広幅かつ略等幅の土手が,
内部に装着される固定具を強固に保持・固定するという,人工歯の意匠として重要な機能を形




態として端的に表現しており,看者に共通の美感を与えるものであって,類否判断において大
きな影響を与える。
共通点(3D−1)(3D−2)は,装着されたとき非常に目に付く部位で,天然歯の特徴

を忠実に表現しようとした形態であると言え,看者に,視覚的に強い印象を与えるところであ
るから,類否判断において大きな影響を及ぼす。
そして,これらの共通点は,共通点全体として,看者に強い共通の印象を与えており,類否
判断を支配している。
2.相違点の評価
正面視の形状の相違点(3ア)については,本願意匠が,下顎側切歯用の人工歯の意匠であ
って,天然歯の下顎前歯のうち,歯列中心の下顎中切歯に隣接する側切歯の形状を表現したの
であり,引用意匠は,下顎前歯のうち歯列中心の下顎中切歯の形状と表現したのであって(2
001年4月1日,株式会社日本教育クリエイト発行の『歯科アシスタントのためのやさしい
基礎医学』第66頁,図1 永久歯の種類と歯番 下顎1及び同2参照)
,その正面形状が左右
対称か,左右非対称かは,模する天然歯の位置による相違にすぎず,どちらも下顎前歯の天然
歯としての形態を表現して,正面視の全体形状を略逆細釣鐘形状とする点では共通しているか
ら,相違点は,この共通点に埋没してしまう程度の軽微な相違にすぎず,この相違点が両意匠
類否判断に与える影響は微弱である。
側面視の形状の相違点(3イ)については,この種物品が天然歯の形態を模するものであり,
天然歯の形態には個人差があることを考慮すると,患者の性別や,骨格に応じた個人差に応じ
た変更の範囲内での,僅かな長さの比率の相違というに止まるものであるから,この相違点が
意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
切縁部の正面形状の相違点(3ウ)については,本願意匠Cの形状が,天然の下顎側切歯の
該部の形状を模したものであり,引用意匠Cの形状は,天然の下顎中切歯の該部の形状を模し
たものであるから・・・,模する天然歯の位置による相違にすぎず,どちらも下顎前歯の天然
歯の切縁部の正面形状を表現しており,本願意匠Cの上端辺中間部が山状を成していても,そ
の山はごく僅かな高さしかないのであるから,この相違は,切縁部上端辺の両隅が丸みを帯び
ているという共通する形態の中に埋没してしまう程度の相違にすぎず,この相違点が両意匠の
類否判断に与える影響は微弱である。
切縁部の側面形状の相違点(3エ)については,曲率のごく僅かな相違にすぎず,両意匠と
も,天然歯の切縁部の略弾頭形状を表現した形状である点では共通しており,この相違点は,
略弾頭形状という共通する形状の中に埋没してしまう程度の微細な相違にすぎないから,この
相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
基底面中央凹陥部の形状の相違点(3オ)については,凹部の内底中心部における僅かな丸
みの有無にすぎず,その内底中心部の形状も,切断してようやくわかるだけであり,両意匠の
共通点の中に埋没してしまう程度の相違にすぎないものであるから,この相違点が両意匠の類




否判断に与える影響は微弱である。
また,相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える強い共
通の印象を覆すほどのものではない。」
「したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一で,形態においても,共通点が両意匠の類
否判断に支配的な影響を及ぼすのに対して,相違点はいずれも微弱であって,相違点の印象は,
共通点の印象を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠Cは,
引用意匠Cに類似する。」
(4) 本願意匠Dについて

【引用意匠】引用意匠A(本願意匠Aの引用意匠)のうち本願意匠Dの意匠登録

を受けようとする部分に相当する部分(引用意匠D)

【本願意匠Dと引用意匠Dの形態上の共通点】

・共通点(4A)

全体は,正面視の形状を略扁平逆台形状,側面視の形状を略逆三角形状とする略

倒三角柱形状である点

・共通点(4B)

唇面は,上方をやや略凸円弧状に膨出させ,下方に到るに従い平板状とした点

・共通点(4C)

舌面は,上方の横幅中央部を浅くえぐった点

・共通点(4D)

下端辺は,正面視三つのやや山状の部分と二つのやや谷状の部分とを交互に組み

合わせたごく低い略波状形状を呈する点

・共通点(4E)

側面視では,略弾頭形状を呈するものであり,これを詳細に見ると唇面上端縁(別

紙11本願意匠D参考図の参考右側面図の3. と切縁先端
) (同参考右側面図におい

て下端に位置する切縁先端)を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部の端面形状が,

概ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最下端とする,略放物線を描くものであ

る点

【本願意匠Dと引用意匠Dの形態上の相違点】




・相違点(4ア)

両下隅の正面形状について,本願意匠Dは,右隅は,右端部が内側に向かってわ

ずかに湾曲してすぼまっており,下端辺に向かって角張って屈曲して,前記下端辺

における三つのやや山状の部位のうちの右の山を形成しており,左隅は,左端部か

ら下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲して,前記下端辺における三つのやや

山状の部位のうちの左の山を形成しているのに対して,引用意匠Dは,両隅とも左

右端部が内側に向かってわずかに湾曲してすぼまり,下端辺に向かって角張って屈

曲し,前記下端辺における三つのやや山状の部位の左右の山を形成している点

【本願意匠Dと引用意匠Dの類否判断
「1.共通点の評価
共通点(4A)は,意匠全体にわたる基本的構成として,意匠の骨格を形成するものである
から,類否判断において大きな影響を及ぼす。
共通点(4B)ないし(4E)は,両意匠に係る部分全域に及ぶ目につきやすい部位の共通
点であり,いずれも天然歯の特徴を忠実に表現しようとした形態であると言え,看者に,視覚
的に強い印象を与えるところであるから,類否判断において大きな影響を及ぼす。
そして,これらの共通点は,共通点全体として,看る者に強い共通の印象を与えており,類
否判断を支配している。
2.相違点の評価
両下隅の正面形状についての相違点(4ア)については,本願意匠Dの両隅の形態,引用意
匠Dの両隅の形態は,ともに,天然歯の上顎前歯の該部において見られる形態であり,この種
人工歯においては天然歯の形態を模すことはごく普通であり,この相違は人工歯を天然歯の代
替として用いるときに,普通に見られる変更の範囲内でのごく僅かな相違にすぎず,意匠全体
として見ると,両意匠とも,正面視の形状を略扁平逆台形状,側面視の形状を略逆三角形状
する略倒三角柱形状として視認される中に埋没してしまう程度の相違にすぎないから,この相
違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。」
「したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一で,両意匠の部分の用途・機能及び位置・
大きさ・範囲が一致し,形態においても,共通点が両意匠の類否判断に支配的影響を及ぼして
いるのに対して,相違点は微弱であって,相違点の印象は,共通点の印象を覆すには至らない
ものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠Dは,引用意匠Dに類似する。

(5) 本願意匠Eについて

【引用意匠】引用意匠B(本願意匠Bの引用意匠)のうち本願意匠Eの意匠登録




を受けようとする部分に相当する部分(引用意匠E)

【本願意匠Eと引用意匠Eの形態上の共通点】

・共通点(5A)

全体は,正面視の形状が,底部左右両隅が隅丸の略横長長方形状で,側面視の形

状が略逆三角形状を呈する略倒三角柱状である点,

具体的構成態様として,

・共通点(5B)

唇面は,上方をやや略凸円弧状に膨出させ,下方に向かうに従い平板状とした点

・共通点(5C)

舌面は,上方の幅方向中央部が浅くえぐれている点

・共通点(5D)

下端部は,

(5D−1)正面図において,右隅は,右端部が内側に向かってわずかに湾曲し

てすぼまっており,下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状部を形成しており,

左隅は,左端部から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲しており,下端辺の

中間にもやや山状部があり
(5D−2)側面視では,略弾頭形状を呈するものであり,これを詳細に見ると

唇面上端縁(別紙13本願意匠E参考図の参考右側面図の3.)と切縁先端(同参考

右側面図において下端に位置する切縁先端)を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁

部の端面形状が,概ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最下端とする,略放物

線を描くものである点

【本願意匠Eと引用意匠Eの形態上の相違点】

・相違点(5ア)

切縁部先端の形状について,本願意匠Eは,正面視で下端辺中間のごく低い山状

を呈する位置が中央やや左であり,側面視で先端部がやや丸みを帯びているのに対

して,引用意匠Eは,正面視で下端辺中間のごく低い山状を呈する位置が略中央で




あり,側面視で先端部がややとがっている点

・相違点(5イ)

舌面の凹部の態様について,本願意匠Eは,舌面の浅くえぐれた面の中で,3箇

所,周囲よりわずかに深くえぐった箇所があり,それらは,背面図において,中央

上部やや左に略半米粒形状,中央やや右に細長い略半米粒形状,右下隅に略粟粒状

のそれぞれ凹部として設けているのに対して,引用意匠Eは,舌面中央上部を略均

等に浅いシャベル状にえぐっている点

【本願意匠Eと引用意匠Eの類否判断
「1.共通点の評価
共通点(5A)は,意匠全体にわたる基本的構成として,意匠の骨格を形成するものである
から,類否判断において大きな影響を及ぼす。
共通点(5B)ないし(5D)は,意匠全体の中で大きな比率を占めており,またこれらの
部位は,装着されたとき非常に目に付く部位が多く,いずれも天然歯の特徴を忠実に表現しよ
うとした形態であると言え,看者に,視覚的に強い印象を与えるところであるから,類否判断
において大きな影響を及ぼす。
そしてこれらの共通点は,共通点全体として看者に強い共通の印象を与えており,類否判断
を支配している。
2.相違点の評価
切縁部先端の形状についての相違点(5ア)は,正面視での極低い山状部自体が,ともすれ
ば直線と認識してしまいそうな極めて低い山状部にすぎないものであり,また側面視での先端
の尖りの程度にしても,切縁部のみを注視してやっと視認できる程度の極僅かな相違にすぎな
いものであるから,両意匠の切縁部に共通する形態,すなわち,側面視では,略弾頭形状を呈
するものであり,切縁部の端面形状が,概ね略放物線を描くという共通の形態に埋没してしま
う程度の相違にすぎず,この相違点が類否判断に及ぼす影響は微弱である。
舌面の凹部の態様についての相違点(5イ)については,本願意匠Eの三つの凹部は,中央
左右の略半米粒形状凹部はごく浅く,右下隅の略粟粒状部もごく浅くかつ小さなものにすぎず,
また引用意匠Eの該部の態様はありふれており,舌面自体が使用時には目に付きにくい部位で
あるから,この相違点は軽微な相違にすぎず,類否判断に及ぼす影響は微弱である。
また,相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える共通の
印象を覆すほどのものではない。」
「したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一で,両意匠の部分の用途・機能及び位置・
大きさ・範囲が一致し,両意匠の部分の形態においても,共通点が両意匠の類否判断に支配的





影響を及ぼしているのに対して,相違点は微弱であって,相違点の印象は,共通点の印象を覆
すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠Eは,引用意匠Eに類似
する。」
(6) 本願意匠Fについて

【引用意匠】引用意匠C(本願意匠Cの引用意匠)のうち本願意匠Fの意匠登録

を受けようとする部分に相当する部分(引用意匠F)

【本願意匠Fと引用意匠Fの形態上の共通点】

・共通点(6A)

全体は,正面視の形状を上端左右両隅が丸みを帯びた略扁平台形状,側面視の形

状を略偏半円形状とする略倒偏半円柱形状である点

・共通点(6B)

唇面は,下方をやや略凸円弧状に膨出させ,上方に到るに従い平板状とした点

・共通点(6C)

側面視では,略弾頭形状を呈するものであり,これを詳細に見ると唇面下端縁(別

紙15本願意匠F参考図の参考右側面図の3. と切縁先端
) (同参考右側面図におい

て上端に位置する切縁先端)を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部の端面形状が,

概ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最上端とする,略放物線を描くものであ

って,仮想中心軸を境として,唇面側扇形状部より,舌面側扇形状部の方が広角で

ある点

【本願意匠Fと引用意匠Fの形態上の相違点】

・相違点(6ア)

正面形状について,本願意匠Fは,右隅は,右端部が内側に向かってわずかに湾

曲してすぼまり,曲率の大きな小円弧状隅部を経て,横幅中央部まで,左斜め上に

向かってごくわずかに傾斜する上端辺を形成し,左隅は,右隅の曲率より小さな曲

率の大円弧状隅部を経て,横幅中間部まで,右斜め上に向かってわずかに傾斜する

上端辺を形成していて,上端辺中間部がわずかに高い山状を成しているのに対して,

引用意匠Fは,両隅とも左右端部が内側に向かってほぼ同じ曲率の円弧状に湾曲し




て上端辺に到り,上端辺は,両隅を除いて水平状である点

・相違点(6イ)

側面形状について,本願意匠Fは,仮想中心軸(別紙15本願意匠F参考図の参

考右側面図において3.と上端に位置する切縁先端を結ぶ直線)の前方唇面側の曲

線の曲率と,後方舌面側の曲線の曲率が,略同じであるのに対して,引用意匠Fは,

仮想中心軸の前方唇面側の曲線は,やや曲率が小さく,後方舌面側の曲線はやや曲

率が大きい点

【本願意匠Fと引用意匠Fの類否判断
「1.共通点の評価
共通点(6A)は,意匠全体にわたる基本的構成として,意匠の骨格を形成するものである
から,類否判断において大きな影響を及ぼす。
共通点(6B),同(6C)は,意匠全体の中で大きな比率を占めており,またこれらの共通
部位は,装着されたとき目に付く部位でもあり,いずれも天然歯の特徴を表現しようとした形
態であると言え,看者に,視覚的に強い印象を与えるところであるから,類否判断において大
きな影響を及ぼす。
そして,これらの共通点は,共通点全体として,看者に強い共通の印象を与えており,類否
判断を支配している。
2.相違点の評価
正面形状についての相違点(6ア)については,本願意匠Fの形状が,天然の下顎側切歯の
該部の形状を模したものであり,引用意匠Fの形状は,天然の下顎中切歯の該部の形状を模し
たものであるから(2001年4月1日,株式会社日本教育クリエイト発行の『歯科アシスタ
ントのためのやさしい基礎医学』第66頁,図1 永久歯の種類と歯番 下顎1及び同2参照),

模する天然歯の位置による相違にすぎず,どちらも下顎前歯の天然歯の切縁部の正面形状を表
現しており,本願意匠Fの上端辺中間部が山状を成していても,その山はごく僅かな高さしか
ないのであるから,この相違は,切縁部上端辺の両隅が丸みを帯びているという共通する形態
の中に埋没してしまう程度の相違にすぎず,この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微
弱である。
側面形状についての相違点(6イ)については,曲率のごく僅かな相違にすぎず,両意匠と
も,仮想中心軸を境として,唇面側扇形状部より,舌面側扇形状部のほうが広角である点では
共通しており,相違点は,この共通する形状の中に埋没してしまう程度の軽微な相違にすぎな
いものであって,この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。
また,相違点が相まって生じる視覚的効果を考慮したとしても,前記共通点が与える共通の





印象を覆すほどのものではない。」
「したがって,両意匠は,意匠に係る物品が同一であり,両意匠の部分の用途・機能及び位
置・大きさ・範囲が一致し,両意匠の部分の形態においても,共通点が両意匠の類否判断に支
配的影響を及ぼしているのに対して,相違点は微弱であって,相違点の印象は,共通点の印象
を覆すには至らないものであるから,意匠全体として見た場合,本願意匠Fは,引用意匠Fに
類似する。」



第3 原告主張の審決取消事由
以下における共通点・相違点については,本判決別紙16,18,20,22,24,26
「審決認定の共通点・相違点一覧表1〜6」のほか,同別紙17,19,21,23,25,
27「原告主張の相違点一覧表1〜6」も参照。
1 取消事由1(本願意匠Aと引用意匠Aの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)

(1) 人工歯においては,他人から見える唇側露出部分の形状は,商品を選択す

る上で最初に確認する重要な部分であって,意匠を区別する上でも重要な要素であ

る。しかるに,次の図のとおり,本願意匠Aの唇側面下半分強の部位の切縁部付近

の側面視形状は,ほぼ直線的な形状を成しているが,引用意匠Aの唇側面の側面視

形状は略円孤状を成している。
【本願意匠A(右側面図)】 【引用意匠A(右側面図)】




そうすると,審決Aがした本願意匠Aと引用意匠Aの共通点の認定のうち,
「唇面





は,上方を厚く略円弧状に膨出させ」ている(共通点(1C−2))との点は誤りで

ある。

より詳細に検討すれば,次の図のとおり,本願意匠Aの歯冠部9の唇側面1は,

歯冠部9と歯頸部2の境から正面側に最も張り出した部分までが緩やかな円弧状を

成し,正面側に最も張り出した部分から切縁部10付近までがほぼ直線状を成して

いるが,引用意匠Aの歯冠部9の唇側面1は,歯冠部9と歯頸部2の境から切縁部

10の先端付近までの全体が略円弧状を成している(相違点(1カ)。


【本願意匠A(右側面図)】 【引用意匠A(右側面図)】

2 2








10
10 10
10



審決Aは,上記相違点を看過して本願意匠Aと引用意匠Aの共通点・相違点を認

定したもので,審決Aの認定には誤りがある。

(2) 次の図のとおり,本願意匠Aの最大口径部に当たる部分(赤色破線部分)

においては,背面側である基底面下端6Aが直線に近い形状であるのに対して,引

用意匠Aの最大口径部に当たる部分(赤色破線部分)においては,対応する部位の

基底面下端の形状が大きな円弧状となっている。





【本願意匠A(底面図)】 【引用意匠A(底面図)】








【本願意匠A(背面図)】 【引用意匠A(背面図)】


6 6



6A 4

【本願意匠A(平面図)】 【引用意匠A(平面図)】

6 6





そうすると,両意匠は基底面下端の形状において相違するのであって,審決Aが

した本願意匠Aと引用意匠Aの共通点の認定のうち「下半分強の部位は,その上方

が略かまぼこ形状の最大口径部を形成する点」(共通点(1C−4))との認定は誤

りである。

また,本願意匠Aにおいても引用意匠Aにおいても基底面のほぼ中央に凹陥部(1

1)が設けられているが,次の図のとおり,本願意匠Aの基底面中央凹陥部11の

輪郭のうちの背面側にも基底面6下端の直線部分(前記6A,後記図では稜8)と

平行な直線部分が形成されている。他方,引用意匠Aの基底面中央凹陥部11の輪




郭には,かような直線部分はなく,その全体で略楕円形状を成している(相違点(1

ク)。


【本願意匠A(背面図)】 【引用意匠A(背面図)】



11
11
11
11






【本願意匠A(平面図)】 【引用意匠A(平面図)】


11 11
11 11





かかる相違点は本願意匠Aと引用意匠Aの相違点であって,審決Aはこの相違点

を看過したものである。

(3) 人工歯の意匠の類否判断においては,細部の相違も考慮することが必要で

ある。しかるに,次の図のとおり,本願意匠Aの切縁部下端辺は審決A認定のとお

り「三つのやや山状の部位と二つの谷状の部位とを交互に組み合わせたごく低い略

波状形状」を成しているが(赤色破線部分),引用意匠Aの切縁部下端辺は下端辺の

中央やや右側を頂点として,単一のごく低い山状形状を成しており(赤色破線部分),

形状が異なっている。すなわち,引用意匠Aにおいては,切縁部下端辺に被告主張

の「直線ではないごく緩やかではあるが谷状を呈する部位」は到底認められないし,

下端辺両隅部も「やや山状部として視認」できるものではない。





【本願意匠A(正面図)】 【引用意匠A(正面図)】




そうすると,審決Aがした本願意匠Aと引用意匠Aの共通点の認定のうち「正面

図において,下端辺が,三つのやや山状の部位と二つのやや谷状の部位とを交互に

組み合わせたごく低い略波状形状を呈する点」(共通点(1D−1))との認定は誤

りである。

(4) 次の図のとおり,本願意匠Aの切縁部は,その先端部が側面視でやや丸み

のある(アールの付いた)形状を成しているのに対して,引用意匠Aの切縁部先端

部は側面視で角のある(エッジのある)形状を成している(相違点(1エ)。また,


本願意匠Aの切縁部先端につながる舌側面4には側面視で直線部分があるが,引用

意匠Aの切縁部先端につながる舌側面は側面視で曲線を成している(相違点(1オ)。


これらの各点は本願意匠Aと引用意匠Aの相違点であって,審決Aには相違点の看

過がある。





【本願意匠A(右側面図)】 【引用意匠A(右側面図)】




【本願意匠A(右側面図)】 【引用意匠A(右側面図)】




そうすると,審決Aは切縁部先端部及びその近傍の側面視での形状につき本願意

匠Aと引用意匠Aの相違点を看過しており,本願意匠Aと引用意匠Aの共通点の認

定のうち「側面視では,略弾頭形状を呈する」(共通点(1D−2))との認定は誤

りである。

また,次の正面図のとおり,本願意匠Aの人工歯を正面視で右寄りの位置(A−

A),中央の位置(B−B),左寄りの位置(C−C)で垂直にそれぞれ切断した端

面図(断面図)から明らかなように,本願意匠Aの端面形状(断面形状)は,切断

する位置によって異なる。





【本願意匠A正面図】




すなわち,右寄りの位置及び左寄りの位置においては,A−A線端面図(断面図)

及びC−C線端面図(断面図)のとおり,切縁部10の先端につながる舌側面側に

ほぼ直線状の部分10A,10Cがあるが,中央の位置においては,切縁部10の

先端とこれにつながる舌側面側とはほぼ曲線状を成している。他方,引用意匠Aの

正面視で右寄りの位置及び左寄りの位置における断面形状(端面形状)は不明であ

って本願意匠Aの端面形状(断面形状)と対比ができないし,引用意匠Aにおいて

は,切縁部の先端につながる舌側面側10bはほぼ直線状を成しており(後記A−

A線断面図),本願意匠Aとは形状が異なる。

【本願意匠A(端面図)】 【引用意匠A(断面図)】




10C
10C 10B
10B
10 10A
10A
10 10b
10b
10


そうすると,審決Aは切縁部先端部及びその近傍の端面形状(断面形状)につき

本願意匠Aと引用意匠Aの相違点を看過しており,本願意匠Aと引用意匠Aの共通




点の認定のうち「唇面上端縁・・・と切縁先端・・・を結ぶ仮想平面を基準とする

と,切縁部の端面形状が,概ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最下端とする,

略放物線を描く」(共通点(1D−2))との認定は誤りである。

ところで,上記の本願意匠AのA−A線,C−C線端面図における切縁部先端部

とつながる側面視直線状の舌側面側部分は,対向する上顎ないし下顎の人工歯との

咬合関係を容易に確立させるために予め形成された部分(ファセット面)である。

原告が本願意匠Aの願書に添付した写真及び図面(左右の側面図,底面図,端面図)

によってもかかるファセット面が設けられていることを明確に見て取ることができ

るし,原告が出願日に提出した特徴記載書にも,歯科医等による咬合調整の効率を

高めるため,切縁部に摩耗した形状(ファセット面)を付与し,この切縁部の形状

が本願意匠Aの要部の中心である旨が記載されている。このとおり,原告は出願当

初から本願意匠Aがファセット面を有することを主張してきた。

したがって,審決Aが,
「原告は,要旨,本願意匠Aと引用意匠Aの相違点として,

切縁部におけるファセット面の有無を挙げ,本願意匠Aには,歯科技工士や歯科医

師が総義歯等を各患者用に調整するに際して,作成効率と調整効率を高めることを

目的として,あらかじめ削合調整をしたファセット面を付与しているが,引用意匠

Aにはファセット面がなく,需要者である歯科医師等からみて,本願意匠Aと引用

意匠Aの二つの人工歯は見誤ることはなく,両意匠は類似しない旨主張する。しか

しながら,本願意匠Aの出願時の願書の記載並びに願書に添付した写真及び断面図

によれば,これらの写真及び断面図は,それぞれ人工歯の実際の大きさより,はる

かに大きな図として添付されているにもかかわらず,周囲の面と比較して凹凸形状

として明確に一定の領域を認識できる部位は認められない。また出願の経過を見て

も,出願当初の願書の記載並びに願書に添付した写真及び断面図においてファセッ

ト面があることを明らかにする記載は無く,平成21年1月7日付け拒絶理由通知

書に対する平成21年3月31日付け意見書において初めて本願意匠がファセット

面を有する旨の主張を行い,ファセット面を着色した参考資料を提出したものであ




る。原告は,審判手続においても,請求の理由として,願書の記載並びに願書に添

付した写真及び断面図に基づく出願意匠を構成しない参考資料を提出して,ファセ

ット面の相違を主張しているが,本願の願書の記載並びに願書に添付した写真及び

断面図に基づく本願意匠Aと引用意匠Aの相違点は前記のとおりであって,原告の

主張に理由は無い。」とした判断は誤りである。

上記のとおり,本願意匠Aはファセット面を有するところ,引用意匠Aの断面図,

側面図からも引用意匠Aの切縁部付近にファセット面が設けられているか不明であ

り,意匠権者(原告)の意見書(甲A11)の記載内容にも照らせば,引用意匠A

においてはファセット面を有していないものというべきである。そうすると,ファ

セット面の有無は本願意匠Aと引用意匠Aの相違点であって,審決Aはかかる相違

点を看過したものである。

(5) 人工歯では,必要な強度を得るために必要な厚みを確保するべく,舌側面

形状が決定され,天然歯の形状とは異なっているが,この舌側面の形状は需要者

が注視する部分である。しかるに,本願意匠A及び引用意匠Aの舌側面4はいずれ

も稜8から正面側下方に傾斜した上の部分4Aと,略垂直な下の部分4Bとに分か

れているところ,次の図のとおり,本願意匠Aでは略垂直部分4Bの上下方向の長

さが傾斜部分4Aの長さの2倍以上あるのに対して,引用意匠Aでは略垂直部分4

Bの上下方向の長さが傾斜部分4Aの長さの2分の1以下である(相違点(1キ)。


【本願意匠A(右側面図)】 【引用意匠A(右側面図)】




4A
4A

4B 4B





また,次の図のとおり,本願意匠Aの唇側面上端縁3は円弧状を成しているのに

対し,引用意匠Aの唇側面上端縁3は鋭角を成しており,両者は相違する(相違点

(1ケ)。


【本願意匠A(右側面図)】 【引用意匠A(右側面図)】




審決Aは,これらの相違点を看過して本願意匠Aと引用意匠Aの共通点・相違点

を認定しており,審決Aの認定には誤りがある。



2 取消事由2(本願意匠Bと引用意匠Bの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)

(1) 本願意匠Aにおけるのと同様に,次の図のとおり,本願意匠Bの唇側面下

半分強の部位の切縁部付近の側面視形状は,ほぼ直線的な形状を成しているが,引

用意匠Bの唇側面の側面視形状は略円弧状を成している。





【本願意匠B(右側面図)】 【引用意匠B(右側面図)】




そうすると,審決Bがした本願意匠Bと引用意匠Bの共通点の認定のうち,
「唇面

は,上方を厚く略円弧状に膨出させ」ている(共通点(2C−2))との点は誤りで

あり,審決Bは上記相違点を看過している。

より詳細に検討すれば,次の図のとおり,本願意匠Bの歯冠部9の唇側面1は,

歯冠部9と歯頸部2の境から正面側に最も張り出した部分までが緩やかな円弧状で

ある一方,この正面側に最も張り出した部分から切縁部10の先端付近まではほぼ

直線状である。他方,引用意匠Bの歯冠部9の唇側面1は,歯冠部9と歯頸部2の

境から切縁部10の先端付近までその全体が略円弧状を成している(相違点(2カ)。


【本願意匠B(左側面図)】 【引用意匠B(左側面図)】




9 9

1 1

10 10
10 10



審決Bは,かかる相違点を看過して本願意匠Bと引用意匠Bの共通点・相違点を




認定したもので,審決Bの認定には誤りがある。なお,願書に添付された図面に基

づいて意匠の共通点・相違点を認定しながら,自らの都合の悪い部分は人工歯の実

際の大きさに即して判断し,当該立体形状はささいなものであるとするのは,不適

切な観察方法である。

(2) 本願意匠Aにおけるのと同様に,次の図のとおり,本願意匠Bの最大口径

部に当たる部分(赤色破線部分)においては,背面側である基底面下端6Aが直線

に近い形状であるのに対して,引用意匠Bの最大口径部に当たる部分(赤色破線部

分)においては,対応する部位の基底面下端の形状が大きな円弧状となっている。

【本願意匠B(底面図)】 【引用意匠B(底面図)】









【本願意匠B(背面図)】 【引用意匠B(背面図)】

6 6




6A

【本願意匠B(平面図)】 【引用意匠B(平面図)】


6 6








そうすると,両意匠は基底面下端の形状において相違し,審決Bがした本願意匠

Bと引用意匠Bの共通点の認定のうち「下半分強の部位は,その上方が略かまぼこ

形状の最大口径部を形成する点」(共通点(2C−4))との認定は誤りである。

また,本願意匠Bにおいても引用意匠Bにおいても基底面のほぼ中央に凹陥部(1

1)が設けられているが,次の図のとおり,本願意匠Aと同様に,本願意匠Bの基

底面中央凹陥部11の輪郭のうちの背面側には基底面6下端の直線部分(前記6A,

後記図では稜8)と平行な直線部分が形成されている一方,引用意匠Aと同様に,

引用意匠Bの基底面中央凹陥部11の輪郭にはかような直線部分はなく,その全体

で略楕円形状を成している(相違点(2ケ)。


【本願意匠B(背面図)】 【引用意匠B(背面図)】



11
11
11
11






【本願意匠B(平面図)】 【引用意匠B(平面図)】


1 1





審決Bはかかる相違点を看過して本願意匠Bと引用意匠Bの共通点・相違点を認

定したものであって,審決Bの認定には誤りがある。

(3) 次の図のとおり,本願意匠Bの切縁部下端辺は,両隅の湾曲部(赤色破線

部分)の間が直線形状となっているが(赤色実線部分),引用意匠Bの切縁部下端辺




は,両隅の湾曲部(赤色破線部分)の間にごく小さな山状部(2つの赤色実線部分

が互いに接する(交わる)部分)が形成されている。

【本願意匠B(正面図)】 【引用意匠B(正面図)】




そうすると,審決Bがした本願意匠Bと引用意匠Bの共通点の認定のうち「正面

図において,右隅は,右端部が内側に向かってわずかに湾曲してすぼまっており,

下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状部を形成しており,左隅は,左端部か

ら下端辺にかけて・・・湾曲しており,下端辺の中間にもやや山状部がある」
(共通

点(2D−1))との認定は誤りである。

(4) 本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Bの切縁部は,その先端部が側

面視でやや丸みのある(アールの付いた)形状を成しているのに対して,引用意匠

Aの切縁部先端部は側面視で角のある(エッジのある)形状を成している(相違点

(2ウ)。また,本願意匠B,引用意匠Bの切縁部先端につながる舌側面にはいず


れも側面視で直線部分があるが,本願意匠Bのかかる直線部分の長さは引用意匠B

のかかる直線部分の長さの約2倍である(相違点(2オ)。これらの各点は本願意


匠Bと引用意匠Bの相違点であって,審決Bには相違点の看過がある。





【本願意匠B(右側面図)】 【引用意匠B(右側面図)】




【本願意匠B(右側面図)】 【引用意匠B(右側面図)】




そうすると,審決Bがした本願意匠Bと引用意匠Bの共通点の認定のうち「側面
視では,略弾頭形状を呈」している(共通点(2D−2))との認定は誤りである。

また,本願意匠Aと同様に,本願意匠Bの人工歯を正面視で右寄りの位置(A−

A),中央の位置(B−B),左寄りの位置(C−C)で垂直にそれぞれ切断したと

きの端面形状(断面形状)は,切断する位置によって異なる(後記の図を参照)。す

なわち,右寄りの位置及び左寄りの位置においては,A−A線端面図(断面図)及

びC−C線端面図(断面図)のとおり,切縁部10の先端につながる舌側面側には

直線状の部分10A,10Cがあるが,中央の位置においては,切縁部10の先端

とこれにつながる舌側面側とはほぼ曲線状を成している。他方,引用意匠Bの正面

視で右寄りの位置及び左寄りの位置における断面形状(端面形状)は不明であって,

本願意匠Bの端面形状(断面形状)と対比ができないし,引用意匠Bにおいては,




切縁部の先端につながる舌側面10bはほぼ直線状を成しており(後記A−A線断

面図),本願意匠Bとは形状が異なる。加えて,引用意匠BのC−C線端面図におけ

る直線部分10Cの中間には小さい谷状の部分が設けられているが,引用意匠Bに

はかかる谷状部が設けられていない。

【本願意匠B(端面図)】 【引用意匠B(断面図)】




10C
10C 10B
10B
10 10A
10A
10 10b
10b
10


そうすると,審決Bは切縁部先端部及びその近傍の端面形状(断面形状)につき

本願意匠Bと引用意匠Bの相違点を看過しており,本願意匠Bと引用意匠Bの共通

点の認定のうち「唇面上端縁と切縁先端を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部の

端面形状が,概ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最下端とする,略放物線を

描くものである点」(共通点(2D−2))は誤りである。

ところで,上記の本願意匠BのA−A線,B−B線端面図における切縁部先端部

とつながる側面視直線状の舌側面側部分は,本願意匠Aと同様に,咬合関係を容易

に確立させるために設けられたファセット面であるが,審決Bは,本願意匠Bの願

書に添付した写真及び図面(左右の側面図,底面図,端面図)からかかるファセッ

ト面が設けられていることを明確に見て取ることができるにもかかわらず,また原

告が出願日に提出した特徴記載書にもファセット面が設けられていること等が記載

されているにもかかわらず,ファセット面の有無を相違点として認定しなかった。

引用意匠Bの切縁部先端部とつながる舌側面側部分にはファセット面が設けられて




いないから,審決Bは本願意匠Bと引用意匠Bの相違点を看過したものである。

(5) 次の図のとおり,本願意匠Bの舌側面4は,稜8から切縁部10までがほ

ぼ直線状(赤色実線部分)となっているのに対し,引用意匠Bの舌側面4は,稜8

から切縁部10までが円弧状(赤色実線部分)となっている(相違点(2キ)。


【本願意匠B(左側面図)】 【引用意匠B(左側面図)】




なお,この舌側面の領域は切縁部の領域よりも明らかに大きく,また,必要な強

度を与えるべく人工歯の厚さを確保するため,設計者が工夫を施し,他方需要者が

注視する部分に係る差異であって,相違点(2キ)は両意匠の明確な相違点である。

また,次の図のとおり,本願意匠Bの背面側(舌側面側)には稜8が設けられて

いるが,稜8を頂点としてその周囲の表面とが成す角は側面視で鈍角である。他方,

引用意匠Bにも同様に稜8が設けられているが,稜8を頂点とする角は側面視で鋭

角である(相違点(2ク)。






【本願意匠B(左側面図)】 【引用意匠B(左側面図)】




審決Bは,これらの相違点を看過して本願意匠Bと引用意匠Bの共通点・相違点

を認定しており,審決Bの認定には誤りがある。



3 取消事由3(本願意匠Cと引用意匠Cの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)

(1) 次の図のとおり,下顎側切歯用の人工歯の意匠である本願意匠Cの唇側面

の略上半分の形状は,ほぼ直線的な形状を成しているが(上側の赤色実線部分),引

用意匠Cの唇側面の略上半分の形状は略円弧状を成している(赤色実線部分)。

【本願意匠C(右側面図)】 【引用意匠C(右側面図)】





しかるに,審決Cはかかる相違点を看過し,本願意匠Cと引用意匠Cの共通点に

つき「唇面は,下方を厚く略円弧状に膨出させ」ていると認定しており(共通点(3

B−2),この審決Cの認定は誤りである。


より詳細に検討すれば,次の図のとおり,本願意匠Cの正面に最も張り出した部

位から切縁部10付近までは,ほぼ直線的な形状を成し,歯冠部9と歯頸部2の境

から正面に最も張り出した部位までは,緩やかな円弧状を成しているが,引用意匠

Cの唇側面の歯冠部9と歯頸部2の境から切縁部10の先端までは,略円弧状を成

している(相違点(3キ)。


【本願意匠C(右側面図)】 【引用意匠C(右側面図)】

10
10 10
10

1 1







審決Cはかかる相違点を看過して本願意匠Cと引用意匠Cの共通点・相違点を認

定しており,審決Cの認定には誤りがある。

(2) 次の図のとおり,本願意匠C及び引用意匠Cの切縁部は,正面視で上端辺

の右隅及び左隅が丸みを帯びているところ,本願意匠Cの切縁部上端辺両隅のアー

ルは非対称で,左隅のアールの方が右隅のアールよりも大きくなっている(赤色実

線部分)。他方,引用意匠Cの切縁部上端辺両隅のアールの大きさは略同様であり,

左右で違いはない(赤色実線部分,相違点(3ウ)。






【本願意匠C(正面図)】 【引用意匠C(正面図)】




切縁部上端辺の両隅のアールの大きさが相違するか否かは,両隅にアールが設け

られていることによる印象に埋没するものではなく,むしろ切縁部上端辺両隅の形

状は本願意匠Cと引用意匠Cの相違点としてのみ認定すべきものであった。そうす

ると,相違点(3ウ)を本願意匠Cと引用意匠Cの相違点として認定しながら,正

面図において上端辺両隅が丸みを帯びている形状を共通点として認定し(共通点(3

D−1),
)この共通点が上記相違点を凌駕するとした審決Cの認定には誤りがある。

(3) 次の図のとおり,本願意匠Cの切縁部10の先端は,側面視でアール(丸

み)が付された形状を成している(赤色実線部分)のに対して,引用意匠Cの切縁

部10の先端は,側面視で角のある(エッジが付いた)形状を成しており(赤色実

線部分),両意匠は異なる(相違点(3カ)。






【本願意匠C(右側面図)】 【引用意匠C(右側面図)】




そうすると,審決Cは本願意匠Cと引用意匠Cの相違点を看過しており,両意匠

の共通点の認定のうち,側面視で「略弾頭形状を呈する」点(共通点(3D−2))

で共通するとした審決Cの認定には誤りがある。

審決Cは,本願意匠Cの切縁部の形状は側面視で前方唇面側の曲率と後方舌面側

の曲率が略同じであるが,引用意匠Cの切縁部の形状は側面視で前方唇面側の曲率

が後方舌面側の曲率よりも小さい点が両意匠の相違点であると認定しているが(相

違点(3エ),両意匠の切縁部の側面視での形状の違いは前記相違点(3カ)のと


おりであるから,審決Cがした相違点(3エ)の認定内容には誤りがある。

また,次の図のとおり,本願意匠Cの切縁部10の端面(断面)形状は,切縁部

10の先端につながる唇側面1側において,右側面視で右上がりのほぼ直線状の部

分を成しているのに対して(なお,A−A線端面図は正面視で右寄りの位置,B−

B線端面図は中央の位置,C−C線端面図は左寄りの位置でそれぞれ切断したとき

の端面図である。,引用意匠Cの切縁部10の断面(端面)形状は,切縁部10の


先端につながる舌側面4側において,右側面視で右下がりのほぼ直線状部分を成し

ている。





【本願意匠C(端面図)】 【引用意匠C(断面図)】




A−A



B−B
C−C



このとおり,本願意匠Cと引用意匠Cとでは,切縁部10付近の側面視で略直線

状部分が設けられている位置(唇側面1側(本願意匠C)か,舌側面4側(引用意

匠C)か)が異なり,また,上記略直線状部分の傾き(右側面視で右上がり(本願

意匠C)か,右下がり(引用意匠C)か)が異なるのであって,審決Cは本願意匠

Cと引用意匠Cの相違点を看過しており,両意匠の共通点の認定のうち,
「唇面下端

縁と切縁先端を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部の端面形状が,概ね上記仮想

平面を中心線とし切縁先端を最上端とする,略放物線を描く」点(共通点(3D−

2))で共通するとした審決Cの認定には誤りがある。

ところで,上記の本願意匠Cの端面図における側面視略直線状の部分は,本願意

匠Aと同様に,咬合関係を容易に確立させるために設けられたファセット面である

が,審決Cは,本願意匠Cの願書に添付した写真及び図面(正面図,斜視図,端面

図)からかかるファセット面が切縁部の唇側面側に設けられていることを容易に見

て取ることができるにもかかわらず,また原告が出願日に提出した特徴記載書にも

ファセット面が設けられていること等が記載されているにもかかわらず,ファセッ

ト面の有無を本願意匠Cと引用意匠Cの相違点として認定しなかった。引用意匠C

の切縁部の唇側面側にはファセット面が設けられていないから,審決Cは本願意匠




Cと引用意匠Cの相違点を看過したものである。

(4) 次の図のとおり,本願意匠Cの稜8は,側面視で鈍角を成し,頂点が丸み

を成しているが(赤色実線部分),引用意匠Cの稜8は,側面視でほぼ直角を成し,

頂点が丸みを成している(赤色実線部分,相違点(3ク)。


【本願意匠C(右側面図)】 【引用意匠C(右側面図)】




また,次の図のとおり,本願意匠Cの唇側面下端縁3は側面視で円弧状を成して

いるが(赤色実線部分) 引用意匠Cの唇側面下端縁3は側面視で最も正面下側を頂


点としてほぼ直角を成している(赤色実線部分,相違点(3ケ)。


【本願意匠C(右側面図)】 【引用意匠C(右側面図)】




審決Cは,これらの相違点を看過して本願意匠Cと引用意匠Cの共通点・相違点




を認定しており,審決Cの認定には誤りがある。

(5) 次の図のとおり,本願意匠Cの基底面6には,稜8の部分に一定の横幅が

あり,基底面6の輪郭が稜8の部分で直線的な形状の部分を成している上,基底面

中央凹陥部11の輪郭も上側(背面側)で上記直線的部分と平行な直線部分を成し

ている(赤色破線部分)。他方,引用意匠Cの基底面6の輪郭には直線的な部分はな

く,全体で略楕円形状を成しているし,基底面中央凹陥部の輪郭も同様である(赤

色破線部分,相違点(3コ)。


【本願意匠C(背面図)】 【引用意匠C(背面図)】







11
11 11
11


【本願意匠C(底面図)】 【引用意匠C(底面図)】




11
11 11




審決Cはかかる相違点を看過して本願意匠Cと引用意匠Cの共通点・相違点を認

定しており,審決Cの認定には誤りがある。



4 取消事由4(本願意匠Dと引用意匠Dの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)

(1) 本願意匠Aと同様に,その部分意匠である本願意匠Dも,切縁部下端辺の




形状が異なっており,審決Dがした本願意匠Dと引用意匠Dの共通点の認定のうち

「下端辺は,正面視三つのやや山状の部分と二つのやや谷状の部分とを交互に組み

合わせたごく低い略波状形状を呈する」との点(共通点(4D))は誤りである。

(2) 本願意匠Aと同様に,本願意匠Dの切縁部先端部及びその近傍の側面視に

おける形状は,引用意匠Dの対応部分の形状と,先端部が丸みの付いた形状か角の

ある形状かが異なるし(相違点(4イ),切縁部先端部につながる舌側面に直線部


分があるか否かで異なる(相違点(4ウ)。そうすると,審決Dには相違点の看過


があり,審決Dの共通点(4E)の認定のうち,
「側面視では,略弾頭形状を呈する」

との点は誤りである。

また,本願意匠Aと同様に,本願意匠Dの切縁部先端部及びその近傍は,正面

視で右寄り,中央,左寄りの位置で切断したときの端面(断面)形状が異なるから,

審決Dには相違点の看過があり,審決Dの共通点(4E)の認定のうち,
「唇面上端

縁と切縁先端を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部の端面形状が,概ね上記仮想

平面を中心線とし切縁先端を最下端とする,略放物線を描くものである」との各点

の認定は誤りである。

また,審決Dは切縁部付近に付されたファセット面の有無に係る相違点を看過し
ている。



5 取消事由5(本願意匠Eと引用意匠Eの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)

(1) 本願意匠Bと同様に,その部分意匠である本願意匠Eも,切縁部下端辺の

形状が異なっており,審決Eがした本願意匠Eと引用意匠Eの共通点の認定のうち

「正面図において,右隅は,右端部が内側に向かってわずかに湾曲してすぼまって

おり,下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状部を形成しており,左隅は,左

端部から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲しており,下端辺の中間にもや

や山状部がある」との点(共通点(5D−1))は誤りである。




(2) 本願意匠Bと同様に,本願意匠Eの切縁部先端部及びその近傍の側面視に

おける形状は,引用意匠Eの対応部分の形状と,先端部が丸み(アール)の付いた

形状か角のある形状かが異なるし(相違点(5ア),先端部につながる舌側面の直


線部分の長さが異なる(原告主張に係る相違点(5ウ)。そうすると,審決Eには


相違点の看過があり,審決Eの共通点(5D−2)の認定のうち「側面視では,略

弾頭形状を呈する」との点は誤りである。

また,本願意匠Bと同様に,本願意匠Eの切縁部先端部及びその近傍の形状は,

正面視で右寄り,中央,左寄りの位置で切断したときの端面(断面)形状が異なる

から,審決Eには相違点の看過があり,審決Eの共通点(5D−2)の認定のうち

「唇面上端縁と切縁先端を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部の端面形状が,概

ね上記仮想平面を中心線とし切縁先端を最下端とする,略放物線を描くものである

点」との点は誤りである。

また,審決Eは切縁部付近に付されたファセット面の有無に係る相違点を看過し

ている。



6 取消事由6(本願意匠Fと引用意匠Fの共通点・相違点の認定の誤り及び相
違点の看過)

(1) 本願意匠Cと同様に,その部分意匠である本願意匠Fも,正面視での切縁

部上端の両隅の形状が異なっており,これについては本願意匠Fと引用意匠Fの相

違点(相違点(6ア))としてのみ認定すべきであった。そうすると,相違点(6ア)

を本願意匠Fと引用意匠Fの相違点として認定しながら,切縁部上端両隅の丸みを

帯びた形状を共通点として認定した審決Fの認定は誤りである。

(2) 本願意匠Cと同様,本願意匠Fと引用意匠Fとは,切縁部先端部の側面視

での形状が異なっている(丸みの有無,相違点(6ウ)。審決Fはかかる相違点を


看過しており,両意匠の共通点(6A)の認定のうち「側面視の形状を略偏半円形

状とする略倒偏半円柱形状である」との審決Fの認定は誤りである。




次の図のとおり,本願意匠Fの切縁部の唇側面側は,側面視で斜めの部分(破線

部分)と垂直部分(実線部分)に分かれているが,引用意匠Fの切縁部唇側面側は

側面視で円弧状を成しているのであって,両意匠は相違する。

【本願意匠F(右側面図)】 【引用意匠F(右側面図)】




審決Fはかかる相違点を看過しており,審決Fの共通点の認定のうち「唇面は,

下方をやや略凸円弧状に膨出させている」
(共通点(6B) との認定は誤りである。


前記のとおり,本願意匠Fと引用意匠Fとは,切縁部先端部の側面視での形状

異なっているから(相違点(6ウ),審決Fがした両意匠の共通点の認定のうち,


「側面視では,略弾頭形状を呈する」との点(共通点(6C))は誤りである。

また,本願意匠Cにおけるのと同様に,本願意匠Fと引用意匠Fとでは,切縁部

付近の側面視で略直線状の部分が設けられている位置が異なり,また上記略直線状

部分の傾きが異なるのであって,審決Fがした共通点の認定のうち,
「唇面下端縁と

切縁先端を結ぶ仮想平面を基準とすると,切縁部の端面形状が,概ね上記仮想平面

を中心線とし切縁先端を最上端とする,略放物線を描くものであって,仮想中心軸

を境として,唇面側扇形状部より,舌面側扇形状部のほうが広角である点」
(共通点

(6C))との認定は誤りである。

加えて,本願意匠Fの切縁部の上記側面視略直線状部分は切縁部にファセット面




が設けられていることを表すものであるが,本願意匠Cにおけるのと同様に,審決

Fは,切縁部付近に付されたファセット面の有無に係る相違点を看過している。



7 取消事由7(本願意匠Aと引用意匠Aの類否判断の誤り)

(1) 人工歯の意匠の類否判断は,天然歯の代替物としての物品の特性を踏まえ,

意匠全体の共通点,相違点及び公知意匠が有する一般的形状とを総合的に観察して,

上記一般的形状に該当する共通点,相違点よりも,公知意匠が有する一般的形状

は異なる相違点が看者の注意を惹くか否か,両意匠が上記一般的形状とは異なる相

違点にもかかわらず共通した美感を起こすか否かという観点から行うべきである。

人工歯は,天然歯の代替品であり,装着時に見える部分の形状(正面視の形状

は天然歯のそれに近付ける必要がある。しかしながら,天然歯の形状は人によって

多種多様であり(加齢に伴う摩耗によっても差異が大きくなる。,一般に模すべき


天然歯が存在するわけではないから,被告が主張するような典型的な天然歯の形状

は存在しない。また,人工歯は需要者である歯科医や歯科技工士が個々の患者に合

わせてその形状を加工,調整することが想定されている。人工歯の製造メーカーは,

単に天然歯を模倣するのではなく,後の調整を予定して汎用性の高い形状を追求す
るとともに,使用される様々な条件を満たし,かつ耐久性等の期待される機能を果

たすために必要な形状を付与するべく,人工歯の形状を決定する。しかるに,審決

Aは,客観的な資料に基づくことなく,また具体的な天然歯の形状を示さずに,近

似する形状の天然歯が存在する可能性のみをもって,本願意匠Aの正面視の形状

ありふれた形状であるなどとの類否判断を行っており,不合理である。

(2) 専門家である歯科医,歯科技工士といった人工歯の需要者は,人工歯が,

天然歯と同じ材質から形成できるものではないこと,人工歯が天然歯よりも硬けれ

ば人工歯によって天然歯が摩耗してしまうため,人工歯は天然歯よりも柔らかい材

料で形成されなければならないこと,人工歯が天然歯よりも柔らかい材料で形成さ

れているからこそ必要な強度を得るために形状上の工夫がなされており,特に前歯




の人工歯においては他人から見えない部分の形状が天然歯とは異なっていること,

他人から見えない部分の人工歯の形状,装着部分(基底面)の形状及び切縁部の表

形状に人工歯の製造者の独自の工夫がなされていることを知っている。そのため

人工歯の需要者は,人工歯の他人から見える部分(唇側露出部分)の形状・大きさ

等が患者の隣接する天然歯と比べて違和感のないものを選択することは当然のこと

として,人工歯の製造者の独自の工夫がなされている形状部分,装着部分(基底面)

形状及び切縁部の表面形状を考慮し,患者に適した人工歯を選定する。その結果,

人工歯の需要者の注意は,人工歯の製造者が独自の工夫を施している形状部分,例

えば装着部分(基底面)の形状や切縁部の表面形状に強く惹かれることとなる。こ

れらのとおり,人工歯とりわけ前歯人工歯の選択にあっては,審美性のみならず機

能性も重要である。しかるに,審決Aは,人工歯の需要者の人工歯に対する認識及

び選択基準を全く考慮しておらず不適切である。

審決Aが認定する本願意匠Aと引用意匠Aの共通点のうち,共通点(1A)のう

ちの正面視に係る構成,人工歯の上半分弱に係る共通点(1B−1),下半分強に係

る共通点(1C),切縁部に係る共通点(1D)は,患者の天然歯と比べて違和感の

ないものにしなければならないという人工歯が当然に備えるべき制約の下で,上顎
前歯の人工歯の一般的な形状に当たる。前記のとおり審決Aの共通点の認定に誤り

があることや相違点を看過していることにもかんがみれば,上記共通点(1B−1)

等が意匠全体に占める割合が大きいとか,目立つ部位にあるとは必ずしもいえない。

共通点(1B−2)(1B−3)も,これが人工歯を固定する上で重要な形状


あるとしても,従来知られた人工歯の基底面の一般的な形状に当たるものにすぎな

い。

また,共通点(1A)のうちの側面視形状に係る構成も,強度を向上させるため

に人工歯の分野で採用される一般的な形状に当たるものにすぎない。

そうすると,審決Aが認定する本願意匠Aと引用意匠Aの共通点は,いずれも看

者の注意を惹くものではなく,類否判断を大きく左右する要素とはなり得ない。し




たがって,これに反して共通点の機能を過大に評価した審決Aの類否判断は誤りで

ある。

(3) 人 工歯の正面視の形状は患者がこれを装着したときに他人から見えるも

のであって,需要者において人工歯を選択する際の第一の条件となり,細部の形状

もよく検討しながら選択するものであるところ,次の図のとおり,本願意匠Aの正

面視左端部の中ほどやや上部にごくわずかな屈曲凹部が設けられていれば(相違点

(1ア),かかる凹部は需要者の注意を惹くことになる。


【本願意匠A(正面図)】 【引用意匠A(正面図)】




そうすると,相違点(1ア)に係る本願意匠Aの形状を「天然歯の上顎前切歯の
該部において見られるありふれた形態であり」 同相違点が
, 「極めて小さな部分にお

けるごくわずかな相違にすぎないから,この相違点が両意匠の類否判断に与える影

響は微弱である」とした審決Aの判断は誤りである。

(4) 需要者である歯科医師等は,患者の下顎運動に合わせて上顎前歯切縁部の

形状を調整するから,上顎前歯切縁部は需要者の注意力が集中する部分であるとこ

ろ,次の図のとおり,切縁部に係る相違点(1イ)も,明瞭に視認できる大きな相

違点である。





【本願意匠A(正面図)】 【引用意匠A(正面図)】




すなわち,引用意匠Aと異なって本願意匠Aの切縁部は左右非対称であって,一

見して判別することができる。食物を切断するという前歯の役割の中心を果たす切

縁部先端の形状に関する原告主張に係る相違点(1エ) 上顎前歯と咬合調整する上


で重要な原告主張に係る相違点(1オ)も考慮すれば,本願意匠Aと引用意匠Aと

は明確に相違するということができる。したがって,
「天然歯の上顎前歯の該部にお

いて見られる形態であり,
・・・この相違は人工歯を天然歯の代替として用いるとき

に,普通に見られる変更の範囲内でのごくわずかな相違にすぎず,意匠全体として

見ると,
・・・正面視が,上方半分弱が略半円形,下方半分強が略方形の略釣鐘形状

全体として視認される中に埋没してしまう程度の相違にすぎない」とした審決Aの

判断は誤りである。

ところで,従来は,歯科医等の需要者が最終調整を行うことを前提として,前歯

切縁部にファセット面(平坦部分)が設けられていなかったが,総義歯の維持・安

定と効果的なそしゃくに必要な接触を確保するべく,本願意匠Aでは,切縁部につ

ながる舌側面部にファセット面が設けられている。ここで,人工歯(同士)では天

然歯とは異なった接触,咬合が起こるし,歯科医等の需要者による最終咬合調整を

考慮する必要があるので,ファセット面は,天然歯切縁部における加齢等による摩

耗面とは全く異なる形状となっている。したがって,ファセット面の存在は,従来

の上顎前歯には見られない,特徴的な美感を生じさせている。このとおり,ファセ




ット面の存在は本願意匠Aの大きな特徴であるが,これが設けられていない従来の

人工歯に比して非常に有効であり(削合調整時間の短縮化,調整作業における人為

的ミスの発生確率の低減,資材損失の低減という経済的メリットや,義歯の完成品

の良,不良の見通しを付けやすくなるメリットがある。なお,ファセット面を設け

た前歯用人工歯が既に存在するとしても,ファセット面の形状,側面視でのファセ

ット面の角度及びその機能が既知のものとは異なる。例えば,顎を側方にずらした

ときでも,上顎が下顎から大きく浮き上がらず,機能的な位置関係が維持されてお

り,需要者がかかる側方運動時の非機能的な位置関係の調整を省略することができ

る。,歯科医等の需要者が人工歯を取り扱う際に大きな影響を与え,需要者から高


く評価されているのであって,引用意匠Aと類似しない要素として強い影響を与え

るものである。そうすると,かかるファセット面を考慮せずに本願意匠Aが引用意

匠Aと類似するとした審決Aの判断は誤りである。

(5) そもそも人工歯基底面中央凹陥部は,内部に樹脂製の人工歯肉が入り込ん

で人工歯を固定するためのもので,固定する効果はその形状に大きく依存するし,

需要者である歯科医等が手作業で繊細な作業を行う箇所であるから,需要者にとっ

て重要で,その注意を惹く箇所であるところ,次の図のとおり,基底面中央凹陥部
に係る相違点(1ウ)は明瞭に視認できる大きな相違点である。
【本願意匠A 【引用意匠A
(B−B線端面図)】 (A−A線断面図)】





【人工歯肉を用いて固定した場合の参考図(左が本願意匠A,
右が引用意匠A,赤色斜線部分が人工歯肉)】




ここで,相違点(1ウ)に係る基底面の形状の相違は,次の図のとおり,人工歯

を人工歯肉に固定した後にも確認できるほど大きなものである(赤色斜線部分が人

工歯肉で覆われた部分)。

【本願意匠A(正面図)】 【引用意匠A(正面図)】




原告主張に係る相違点(1ク)(1ケ)も,人工歯を固定する上で機能を果たす


部分に係るものであって,相違点(1ウ)と合わせて考慮すれば,上顎前歯の人工

歯の一般的形状にすぎない共通点(1B−2)(1B−3)から生じる印象を凌駕


するものであることは明らかである。

そうすると,
「凹部の内底中心部におけるわずかな丸みの有無にすぎず,その内底

中心部の形状も,切断してようやくわかるだけであり,両意匠の共通点の中に埋没

してしまう程度の相違にすぎないものであるから,この相違点が両意匠の類否判断



に与える影響は微弱である。」との審決Aの判断は誤りである。

なお,部分義歯に本願意匠Aの人工歯を固定する場合でも人工歯肉を使用して固

定されるし,インプラント上部構造体に上記人工歯を固定する場合でも,人工歯肉

を使用して装着固定具に人工歯を固定する。したがって,本願意匠Aの人工歯の固

定方法としては,基底面中央凹陥部に人工歯肉を注入して固定する方法が想定され

るのであって,かかる固定方法に限られないとする被告の主張は誤りである。また,

インプラントに用いる上部構造体は治療ごとに各別に製作されるものにすぎず,量

産される人工歯とは取扱いが異なる。

そして,被告が本件訴訟で提出する乙第13号証は,基底面全体が略方形のもの

にすぎず,基底面の輪郭の一部が直線状である本願意匠Aとは大きく形状が異なる

ものである。

(6) 人工歯には食物をそしゃくするために一定の強度が要求される一方,対向

する天然歯が摩耗しないよう,天然歯よりも摩耗しやすい材質でなければならない

から,天然歯を構成する成分と異なる成分の材料で人工歯を形成しなければならず,

他方,材質から来る強度低下を補うためにその形状を工夫する必要がある。正面視

形状は天然歯のそれに近付けなければならないから,工夫の余地があるのは側面

視の形状であって,需要者に印象づけるのも側面視の形状である。しかるに,歯冠

部9の唇側面1に関する原告主張に係る相違点(1カ)及び同歯冠部の舌側面4に

関する原告主張に係る相違点(1キ)により,次の図のとおり,引用意匠Aの歯冠

部は全体に唇面側(正面側)に張り出した印象を与えるのに対し,本願意匠Aの歯

冠部は唇面側に張り出さず,まっすぐな(垂直な)印象を与えるし,この張り出し

部分の有無は,側面視で大きな割合を占めている。





【右側面図対比図】




本願意匠A
本願意匠A
本願意匠
引用意匠A
引用意匠A




本願意匠A
本願意匠A
本願意匠




そうすると,上記相違点も需要者に本願意匠Aが引用意匠Aとは異なると印象付

ける相違点であって,意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。

(7) 以上のとおり,本願意匠Aはその相違点がもたらす印象が,引用意匠Aと

の共通点から生じる美感を大きく凌駕するために,両意匠は類似しないのであって,

これに反する審決Aの判断は誤りである。


8 取消事由8(本願意匠Bと引用意匠Bの類否判断の誤り)

(1) 本願意匠Bについても本願意匠Aと同様の観点(前記7(1),(2))を踏まえ

類否判断を行うべきところ,審決Bが認定する本願意匠Bと引用意匠Bの共通点

は,いずれも上顎前歯の人工歯の一般的な形状にすぎず,看者の注意を惹くもので

はなく,意匠の類否判断を大きく左右する要素にはなり得ないのであって,共通点

の機能を過大に評価した審決Bの類否判断は誤りである。

(2) 審決Bが認定するとおり,本願意匠Bと引用意匠Bとでは正面視右端部の

形状が異なるところ(相違点(2ア),次の図の赤色実線部分),かかる形状の相違

は人工歯の装着時に他人から見える箇所の相違であって,需要者の注意を惹くもの




である。

【本願意匠B(正面図)】 【引用意匠B(正面図)】




なお,本願意匠Bは,前歯用人工歯とはいっても上顎側切歯用の人工歯に係るも

のであるから,被告のように,本願意匠Bの正面視の形態と上顎中切歯の典型的な

正面視の形態を比較するのは無意味である。

そうすると,相違点(2ア)は共通点(2B−1)による美感を凌駕する大きな

相違点であって,
「上方半分弱の正面視略半円形部の正面を,下方から上方に向かっ

て次第に縮径する略円弧曲面とし,そのうち最上辺部においては曲率を小さくした

ことから,その曲率の違いによってわずかな屈曲凹部として視認されるだけであっ

て,両意匠の該部の形態は,ともに天然歯の上顎前切歯の該部において見られるあ

りふれた形態であり,
・・・・極めて小さな部分におけるごくわずかな相違にすぎな

いから,この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。 との審決Bの


判断は誤りである。

(3) 次の図のとおり,側面視上端部の形状に係る相違点(2イ)(赤色実線部

分)は明瞭に視認できる大きな相違点である。





【本願意匠B(右側面図)】 【引用意匠B(右側面図)】




上記相違点(2イ)及び原告主張に係る相違点(2ケ)は人工歯の基底面の形状

に関する相違点であるところ,人工歯の固定の観点から重要な形状で,需要者の注

意を惹く部分である。また,相違点(2ケ)による基底面の輪郭の相違は,基底面

形状全体に及ぶ大きなものであって,人工の歯肉に固定した後も,断面図や人工

歯の埋まり具合等でその相違を視認できるほどのものである。そうすると,相違点

(2イ)(2ケ)を合わせて考慮すれば,上顎前歯の人工歯の一般的形状にすぎな


い共通点(2B−2)(2B−3)から生じる印象を凌駕するものであることは明


らかである。したがって,上記相違点(2イ)が「基底面の上端におけるごくわず

かな平坦部の有無にすぎないし,また,本願意匠Bの該部の形態は,人工歯の上顎

側切歯の該部の形態として本願出願前に公然知られている形態であるから・・・,

この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。との審決Bの判断は誤


りであるし,相違点(2ケ)とともに類否判断に影響を与えるものである。

(4) そもそも,前歯の人工歯を装着する場合には切縁部の形状を顎の運動に

合わせて調整する必要があるから,切縁部の先端及び舌側面は歯科医等の需要者の

注意が集中する部分であるし,食物を切断する機能の観点から切縁部先端の形状

重要である。




しかるに,次の図のとおり,切縁部先端部の形状に係る相違点(2ウ)
(赤色実線

部分)は明瞭に視認できる大きな相違点である。

【本願意匠B(正面図)】 【引用意匠B(正面図)】




【本願意匠B(右側面図)】 【引用意匠B(右側面図)】




また,次の図のとおり,舌面凹部の形状に係る相違点(2エ)も明瞭に視認でき

る大きな相違点である。





【 本願意匠B(背面図, 【引用意匠B(背面図,
赤色破線部分が浅くえぐっ 赤色破線部分が浅くえぐっ
た部分)】 た部分)】




【 本願意匠B(背面図, 【引用意匠B(背面図)】
赤色実線部分が右下隅略
粟粒状凹部)】




【本願意匠B(背面図, 【本願意匠B(端面図)】
赤色破線で示した部分が右下隅
略粟状凹部の上下方向の長さ)】





【本願意匠B(底面図,赤色矢印で示された部分が右下隅略粟状凹部)】




ここで,上記図のとおり,本願意匠Bの舌側面(舌面)の浅くえぐれた面は右下

隅略粟粒状凹部をその範囲中に含んでおらず,上記凹部はファセット面の近傍に設

けられているので,歯の接触関係を意識する需要者は上記凹部に注意を惹きつけら

れるものである。審決Bは,上記右下隅粟状凹部が浅くえぐれた面の中に含まれる

旨認定しているが(相違点(2エ),この認定は誤りである。また,本願意匠Bの


右下隅略粟粒状凹部は,これを設けることで咬合調整を施す範囲が小さくなり,調

整効率が向上するという,ファセット面と同様の機能を果たすもので,天然歯には

先天的に存在しない部分であるし,被告が本件訴訟で提出する乙第1号証にも記載

されていない。

そうすると,相違点(2ウ)(2エ)
, ,原告主張に係る相違点(2オ)(切縁部の

側面視での直線部分の長さに係る相違点)は相まって本願意匠Bと引用意匠Bの類

否判断に強い影響を与えるものである。

審決Bは,相違点(2ウ)につき,
「正面視でのごく低い山状部自体が,ともすれ

ば直線と認識してしまいそうな極めて低い山状部にすぎないものであり,また側面

視での先端のとがりの程度にしても,切縁部のみを注視してやっと視認できる程度

のごくわずかな相違にすぎないものであるから,両意匠の切縁部に共通する形態,

すなわち,側面視では,略弾頭形状を呈するものであり,切縁部の端面形状が,概

ね略放物線を描くという共通の形態に埋没してしまう程度の相違にすぎず,この相




違点が類否判断に及ぼす影響も微弱である。」と判断し,相違点(2エ)につき,
「本

願意匠Bの三つの凹部は,中央左右の略米粒形状凹部はごく浅く,右下隅の略粟粒

状部もごく浅くかつ小さなものにすぎず,また引用意匠Bの該部の態様はありふれ

ており,舌面自体が使用時には目に付きにくい部位であるから,この相違点は軽微

な相違にすぎず,類否判断に及ぼす影響は微弱である。」と判断したが,これらの判

断には誤りがある。

また,前記のとおり,審決Bは本願意匠Bのファセット面に係る相違点を看過し

ているが,本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Bのファセット面の存在は,

特徴的な美感を生じさせるもので,意匠の大きな特徴を成し,意匠の類否判断に強

い影響を与えるものである。そうすると,かかるファセット面を考慮せずに本願意

匠Bと引用意匠Bとが類似するとした審決Bの判断は誤りである。

(5) 本 願意匠Bと引用意匠Bの歯冠部の側面視における相違点である原告主

張の相違点(2カ)(2キ)(2ク)を合わせて考慮すると,次の図のとおり,引
, ,

用意匠Bからは基底面を含む領域部分を舌側面側に膨出させた太い印象を受けるの

に対し,本願意匠Bからはスリムな印象を受けるし,側面視において相違する部分

は大きな比率を占める。

【右側面図対比図】


引用意匠B
引用意匠B
引用意匠




本願意匠B
本願意匠B
本願意匠





これらは人工歯の強度を補強するための形状的工夫であって,需要者に相違を印

象付けるものであるから,上記相違点は意匠の類否判断に強い影響を与えるもので

あって,かかる相違点を考慮せずに本願意匠Bと引用意匠Bとが類似するとした審

決Bの判断は誤りである。

(6) 以上のとおり,本願意匠Bはその相違点がもたらす印象が,引用意匠Bと

の共通点から生じる美感を大きく凌駕するために,両意匠は類似しないのであって,

これに反する審決Bの判断は誤りである。



9 取消事由9(本願意匠Cと引用意匠Cの類否判断の誤り)

(1) 本願意匠Cについても本願意匠Aと同様の観点(前記7(1),(2))を踏まえ

類否判断を行うべきところ,審決Cが認定する本願意匠Cと引用意匠Cの共通点

は,いずれも下顎前歯の人工歯の一般的な形状にすぎず,看者の注意を惹くもので

はなく,意匠の類否判断を大きく左右する要素にはなり得ないのであって,共通点

の機能を過大に評価した審決Cの類否判断は誤りである。

(2) 審決Cが認定するとおり,本願意匠Cと引用意匠Cとでは,正面視で左右

非対称か(本願意匠C) 左右対称か
, (引用意匠C)が異なるところ(相違点(3ア),
次の図を参照),かかる形状の相違は大きな相違点である。

【本願意匠C(正面図)】 【引用意匠C(正面図)】





のみならず,本願意匠Cの人工歯は下顎前歯の側切歯(2番)に対応し,引用意

匠Cの人工歯は下顎前歯の中切歯(1番)に対応するところ,義歯内で装着される

位置が明らかに異なるのであって,歯科医等の需要者が取り違えて装着することは

ありえない。

そうすると,
「その形状が左右対称か,左右非対称かは,模する天然歯の位置によ

る相違にすぎず,どちらも下顎前歯の天然歯としての形態を表現して,正面視の全

形状を略逆細釣鐘形状とする点では共通しているから,相違点は,この共通点に

埋没してしまう程度の軽微な相違にすぎず,この相違点が両意匠の類否判断に与え

る影響は微弱である。」との審決Cの判断は誤りである。

(3) 審決Cが認定するとおり,本願意匠Cと引用意匠Cとでは,側面視で略

三角形状の各辺のうち,舌面側(次の図で右側)の2辺の長さが,上方の辺と下方

の辺とで略同じであるか(本願意匠C),上方の辺の方が下方の辺よりも長いか(引

用意匠C)が異なるところ(相違点(3イ),次の図を参照),これは補強のための

形状的工夫の相違の表れであって,明瞭に視認できる大きな相違点である。

【本願意匠C(正面図)】 【引用意匠C(正面図)】




また,本願意匠Cと引用意匠Cの側面視の形状に関する原告主張に係る相違点(3

キ)(3ク)も合わせて考慮すると,次の図のとおり,引用意匠Cからは基底面を


含む領域部分全体を下側面側に膨出させた太い印象を受けるのに対し,本願意匠C




からはスリムな印象を受けるし,側面視において相違する部分は大きな比率を占め

る。

【右側面図対比図】

本願意匠C
本願意匠C
本願意匠




引用意匠C
引用意匠C




これらはいずれも人工歯の強度を補強するための形状的工夫であって,需要者に

相違を印象付けるものであるから,上記相違点は意匠の類否判断に強い影響を与え

るものである。したがって,
「側面視の形状の相違点(3イ)については,この種物

品が天然歯の形態を模するものであり,天然歯の形態には個人差があることを考慮

すると,患者の性別や,骨格に応じた個人差に応じた変更の範囲内での,わずかな

長さの比率の相違というに止まるものであるから,この相違点が両意匠の類否判断

に与える影響は微弱である。との審決Cの判断は誤りであり,
」 またかかる相違点(3

キ)(3ク)を考慮せずに本願意匠Cと引用意匠Cとが類似するとした審決Cの判


断は誤りである。

(4) 審決Cが認定するとおり,本願意匠Cの切縁部は正面視で上端辺中間部

がわずかに高い山状を成しているのに対して,引用意匠Cの切縁部は正面視で上端

辺が水平状である点で両意匠は異なるし(赤色実線部分,次の上の図を参照),また

本願意匠Cの切縁部上端辺の両隅は正面視で曲率の異なる円弧状を成しているのに




対して,引用意匠Cの切縁部上端辺の両隅は正面視でほぼ同じ曲率の円弧状を成し

ている点で両意匠は異なるところ(赤色実線部分,次の下の図を参照,これらがま

とめて相違点(3ウ)を構成する。,かかる相違点は明瞭に視認できる大きな相違


点である。

【本願意匠C(正面図)】 【引用意匠C(正面図)】




【本願意匠C(正面図)】 【引用意匠C(正面図)】




本願意匠Cと引用意匠Cの側面視での切縁部の形状についての原告主張に係る相

違点(3カ)も,相違点(3ウ)と同様に,咬合調整の観点から需要者の注意が最

も集中し,前歯の役割の中心を果たす切縁部先端の形状に関するものであり,これ

らの相違点は相まって,意匠の類否判断に大きな影響を与えるものである。

そうすると,
「本願意匠Cの形状が,天然の下顎側切歯の該部の形状を模したもの




であり,引用意匠Cの形状は,天然の下顎中切歯の該部の形状を模したものである

から・・・,模する天然歯の位置による相違にすぎず,どちらも下顎前歯の天然歯

の切縁部の正面形状を表現しており,本願意匠Cの上端辺中間部が山状を成してい

ても,その山はごくわずかな高さしかないのであるから,この相違は,切縁部上端

辺の両隅が丸みを帯びているという共通する形態の中に埋没してしまう程度の相違

にすぎず,この相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。 との審決C


の判断は誤りであるし,また上記相違点(3カ)を考慮せずに本願意匠Cと引用意

匠Cが類似するとした審決Cの判断は誤りである。

加えて,前記のとおり,審決Cは本願意匠Cのファセット面に係る相違点を看過

しているが,本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Cのファセット面の存在は,

特徴的な美感を生じさせるもので,意匠の大きな特徴を成し,意匠の類否判断に強

い影響を与えるものである。そうすると,かかるファセット面を考慮せずに本願意

匠Cと引用意匠Cとが類似するとした審決Cの判断は誤りである。

(5) 審決Cが認定するとおり,本願意匠Cの基底面中央凹陥部は略丸底形状

成している一方,引用意匠Cの基底面中央凹陥部は略円すい形状を成している点で

異なるところ(相違点(3オ),
) この相違点は明瞭に視認できる大きなものである。
本願意匠A,Bと同様,人工歯の基底面の形状は人工歯の固定の観点から重要で,

需要者の注意を惹く部分であるから,上記相違点(3オ)及び稜,基底面輪郭及び

中央凹陥部輪郭の形状に関する原告主張に係る相違点(3コ)から生じる影響は大

きい。しかも,相違点(3コ)による基底面の輪郭の相違は,基底面の形状全体に

及ぶ大きなものであって,人工の歯肉に固定した後も,断面図や人工歯の埋まり具

合等でその相違を視認できるほどのものである。

また,原告主張に係る相違点(3ケ)は,基底面と歯頸部によって形成される唇

側面下端縁の形状に関する相違点であるが,基底面も歯頸部も人工歯を固定する役

割を担い,その形状は需要者の注意を惹く部分である。そうすると,相違点(3オ),

(3ケ)(3コ)を合わせて考慮すれば,これらの相違点から生じる印象が共通点





(3C−2)(3C−3)から生じる印象を凌駕することは明らかで,意匠の類否


判断に強い影響を与えるものである。

したがって,相違点(3オ)は「凹部の内底中心部におけるわずかな丸みの有無

にすぎず,その内底中心部の形状も,切断してようやくわかるだけであり,両意匠

の共通点の中に埋没してしまう程度の相違にすぎないものであるから,この相違点

が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。」との審決Cの判断は誤りである。

(6) 以上のとおり,本願意匠Cはその相違点がもたらす印象が,引用意匠Cと

の共通点から生じる美感を大きく凌駕するために,両意匠は類似しないのであって,

これに反する審決Cの判断は誤りである。



10 取消事由10(本願意匠Dと引用意匠Dの類否判断の誤り)

(1) 本願意匠Aにおけるのと同様に,審決Dは人工歯に係る公知意匠の形状

参酌せず,人工歯という商品の特性を看過し,全体形状が一見共通しているという

印象に基づいて本願意匠Dと引用意匠Dの類否判断を行ったもので,また上顎前歯

の人工歯の一般的形状に当たるにすぎない共通点の機能を過大に評価して類否判断

を行っているから,審決Dの判断は誤りである。

(2) 本願意匠Aにおけるのと同様に,正面視で両下隅の形状に係る相違点(4

ア)は,明瞭に視認できる大きな相違点であり,
「本願意匠Dの両隅の形態,引用意

匠Dの両隅の形態は,ともに,天然歯の上顎前歯の該部において見られる形態であ

り,この種人工歯においては天然歯の形態を模することはごく普通であり,この相

違は人工歯を天然歯の代替として用いるときに,普通に見られる変更の範囲内のご

くわずかな相違にすぎず,意匠全体として見ると,両意匠とも,正面視の形状を略

扁平逆台形状,側面視の形状を略逆三角形状とする略倒三角柱形状として視認され

る中に埋没してしまう程度の相違にすぎないから,この相違点が両意匠の類否判断

に与える影響は微弱である。」との審決Dの判断は誤りである。

切縁部先端部及びその近傍の形状についての原告主張に係る相違点(4イ)(4





ウ)も相違点(4ア)同様に明瞭に視認できる大きな相違点である。

本願意匠Dの切縁部につながる舌側面部にはファセット面が設けられているとこ

ろ,このファセット面の存在は特徴的な美感を生じさせており,本願意匠Aにおけ

るのと同様に,意匠の類否判断に強い影響を与えるものである。そうすると,かか

るファセット面を考慮せずに本願意匠Dが本願意匠Dと類似するとした審決Dの判

断は誤りである。

(3) 以上のとおり,本願意匠Dは,その相違点がもたらす印象が,引用意匠D

との共通点から生じる美感を大きく凌駕するために,両意匠は類似しないのであっ

て,これに反する審決Dの判断は誤りである。



11 取消事由11(本願意匠Eと引用意匠Eの類否判断の誤り)

(1) 本願意匠Bにおけるのと同様に,審決Eは人工歯に係る公知意匠の形状

参酌せず,人工歯という商品の特性を看過し,全体形状が一見共通しているという

印象に基づいて本願意匠Eと引用意匠Eの類否判断を行ったもので,また上顎前歯

の人工歯の一般的形状に当たるにすぎない共通点の機能を過大に評価して類否判断

を行っているから,審決Eの判断は誤りである。

(2) 本願意匠Bにおけるのと同様に,切縁部先端部の形状に係る相違点(5ア)

は,明瞭に視認できる大きな相違点であるし,審決Eは原告主張に係る相違点(5

ウ)を看過しているから,
「正面視でのごく低い山状部自体が,ともすれば直線と認

識してしまいそうな極めて低い山状部にすぎないものであり,また側面視での先端

のとがりの程度にしても,切縁部のみを注視してやっと視認できる程度のごくわず

かな相違にすぎないものであるから,両意匠の切縁部に共通する形態,すなわち,

側面視では,略弾頭形状を呈するものであり,切縁部の端面形状が概ね略放物線を

描くという共通の形態に埋没してしまう程度の相違にすぎず,この相違点が類否判

断に及ぼす影響は微弱である。」との審決Eの判断は誤りである。

また,本願意匠Bにおけるのと同様に,本願意匠Eの舌側面右下隅略粟状凹部は




舌側面の浅くえぐれた面に含まれていないし,舌側面の凹部の形状に係る相違点(5

イ)は,明瞭に視認できる大きな相違点である。そうすると,
「本願意匠Eの三つの

凹部は,中央左右の略米粒形状凹部はごく浅く,右下隅の略粟粒状部もごく浅くか

つ小さなものにすぎず,また引用意匠Eの該部の態様はありふれており,舌面自体

が使用時には目に付きにくい部位であるから,この相違点は軽微な相違にすぎず,

類否判断に及ぼす影響は微弱である。」との審決Eの判断は誤りである。

また,切縁部舌側面側に設けられたファセット面の有無という相違点及びかかる

ファセット面が設けられていることを容易に見て取ることもできる切縁部側面視で

の相違点(5ウ)は,本願意匠Bにおけるのと同様に,本願意匠Eと引用意匠Eの

類否判断に強い影響を与えるから,かかるファセット面の存在を考慮せず,両意匠

が類似するとした審決Eの判断は誤りである。

(3) 以上のとおり,本願意匠Eは,その相違点がもたらす印象が,引用意匠E

との共通点から生じる美感を大きく凌駕するために,両意匠は類似しないのであっ

て,これに反する審決Eの判断は誤りである。



12 取消事由12(本願意匠Fと引用意匠Fの類否判断の誤り)

(1) 本願意匠Cにおけるのと同様に,審決Fは人工歯に係る公知意匠の形状

参酌せず,人工歯という商品の特性を看過し,全体形状が一見共通しているという

印象に基づいて本願意匠Fと引用意匠Fの類否判断を行ったもので,また下顎前歯

の人工歯の一般的形状に当たるにすぎない共通点の機能を過大に評価して類否判断

を行っているから,審決Fの判断は誤りである。

(2) 本願意匠Cにおけるのと同様に,本願意匠Fと引用意匠Fの切縁部先端部

の正面視での形状に係る相違点(6ア)は,明瞭に視認できる大きな相違点である

し,本願意匠Fの人工歯と引用意匠Fの人工歯とは用いられる位置が明らかに異な

るから,本願意匠Fの形状が,
「 天然の下顎側切歯の該部の形状を模したものであり,

引用意匠Fの形状は,天然の下顎中切歯の該部の形状を模したものであるから ・ ,
・・




模する天然歯の位置による相違にすぎず,どちらも下顎前歯の天然歯の切縁部の正

形状を表現しており,本願意匠Fの上端辺中間部が山状を成していても,その山

はごくわずかな高さしかないのであるから,この相違は,切縁部上端辺の両隅が丸

みを帯びているという共通する形態の中に埋没してしまう程度の相違にすぎず,こ

の相違点が両意匠の類否判断に与える影響は微弱である。との審決Fの判断は誤り


である。

(3) 審決Fは,本願意匠Fと引用意匠Fの切縁部先端部の側面視での形状に係

る相違点(6ウ)
(丸みが付されているか,角があるか)を看過しているところ,こ

の相違点は明瞭に視認できる大きな相違点である。そうすると,審決Fが両意匠の

切縁部の側面視での形状に係る相違点(6イ)についてした,
「曲率のごくわずかな

相違にすぎず,両意匠とも,仮想中心軸を境として,唇面側扇形状部より,舌面側

形状部のほうが広角である点では共通しており,相違点は,この共通する形状

中に埋没してしまう程度の軽微な相違にすぎないものであって,この相違点が両意

匠の類否判断に与える影響は微弱である。」との判断は誤りである。

また,切縁部唇側面に設けられたファセット面の有無という相違点は,本願意匠

Cにおけるのと同様に,本願意匠Fと引用意匠Fの類否判断に強い影響を与えるか
ら,かかるファセット面の存在を考慮せず,両意匠が類似するとした審決Fの判断

は誤りである。

(4) 以上のとおり,本願意匠Fは,その相違点がもたらす印象が,引用意匠F

との共通点から生じる美感を大きく凌駕するために,両意匠は類似しないのであっ

て,これに反する審決Fの判断は誤りである。



第4 取消事由に対する被告の反論

1 取消事由1に対し

(1) 前歯用人工歯は審美的観点から天然歯を模倣しているので,歯冠部正面視

形状は,天然歯と類似している一方,装着固定部は人工歯であるがゆえに必要な




部位であって,固定方法によって異なる,種々の形態の可能性があるものである。

これらの要請により,前歯用人工歯の形状は複雑なものとなっているが,原告は特

定の方向から見たときの輪郭形状ないし輪郭のごく一部の線を捉えて意匠の対比を

行っており,正確に意匠の形態を捉えていないし,原告が意匠を対比する上で掲げ

る図に引いた補助線も少なからず正確に立体形状を表現していない。また,審美性

を第一の選択基準とし,最も目に付きやすい正面視(唇面視)の認定のレベルと,

そうでない側面視等の認定のレベルを揃える必要はなく,前者の認定レベルをより

詳細にしてしかるべきである。

(2) 審決Aが「上方を厚く略円弧状に」と認定したのは(共通点(1C−2),


唇側面下半分強のうち,上方部分の横断面が前方に膨らむ略円弧状を成し,下方に

至るに従って,前方への膨らみの程度が減少して,下方部分では平板状に薄くなっ

ているという趣旨であって,横方向に略円弧状であることを示したものである。そ

うすると,審決Aは原告が主張するように,縦方向に略円弧状である旨を共通点と

して認定したのではなく,審決Aに原告主張の誤りはない。

また,人工歯の実際の大きさに即して見れば,両意匠の歯冠部の唇側面はともに,

唇側に向かって,緩やかな縦方向略円弧状に膨らんでおり,原告主張に係る相違点
(1カ)の看過はない。

(3) 本願意匠A,引用意匠Aの底面図等の撮影方向が完全に一致しているわけ

ではないし,底面図等を両意匠の比較のために回転することもできない。原告が主

張する基底面輪郭の直線状部分(中央凹陥部の輪郭も同じ)は,特定の方向から見

たときに現れるものにすぎないし,引用意匠Aの基底面の輪郭も直線状部分が全く

ない円弧形状ではない。

そうすると,原告が示した図(写真)から両意匠の形態の相違を直ちに導き出し

得るものではないし,審決Aが基底面の輪郭形状を「略かまぼこ形状」としたのは,

大づかみに形状を認定したものにすぎない。したがって,下半分強の部分の上方で

最大口径部を成しているとした審決Aの認定(共通点(1C−4)に誤りはないし,





相違点の看過も存しない。

(4) 引 用意匠Aの切縁部下端辺の正面視で中央やや右側の山状部の左右(両

側)にごく緩やかな谷状を呈する部分があるため,上記下端辺の両隅部がやや山状

を成していると視認されるのであって,これにより,引用意匠Aの切縁部下端辺は,

正面視で中央やや右側のごく低い山状部及び両隅のやや山状部と,これらの山状部

の間にあるやや谷状部が,その全体でごく低い略波状形状を成している。

そうすると,審決Aがした共通点(1D−1)の認定に誤りはない。

(5) 原告が主張する相違点(1エ)(1オ)は,特定の方向(側面)から見た


ときに現れるごく一部分の直線状部分にすぎず,人工歯の実際の大きさに即して観

察した場合には,これを認定する必要がないごくわずかな立体形状であるから,審

決Aにかかる相違点の看過は存しない。

また,確かに引用意匠Aについては本願意匠AのA−A線端面図,C−C線端面

図のような端面図(断面図)はないが,引用意匠Aの断面図からは,切断面の形状

のみならず切断面の向こう側にある形態も見て取ることができ,左右側面図や参考

斜視図も考慮すれば,引用意匠Aの形態を把握できる。しかるに,人工歯の実際の

大きさに即して観察した場合には,切縁部先端につながる舌側面に側面視で直線状

部分,背面から見た場合には原告のいうファセット面(咬合小面)を認識すること

はできない。なお,特徴記載書を当該意匠の特定に使用してはならないのであって,

特徴記載書中の記載内容に基づいてファセット面を認定しなかった審決Aに誤りが

あるものではない。

したがって,両意匠の切縁部を側面視で略弾頭形状と評価して差し支えなく,審

決Aがした共通点(1D−2)の認定に誤りはない。

(6) 原告が主張する舌側面の形状の相違は,側面図のみに基づいて主張されて

いるにすぎないし,本願意匠Aの人工歯を実際の大きさに照らして観察した場合に

は,下方切縁部が略弾頭形状を呈して舌側に膨らむ一方,上方部はこれとは逆向き

に緩やかな円弧状を成しながら舌側に反り返っており,引用意匠Aと形状が共通し




ていることを見て取れる。また,人工歯の実際の大きさに照らして観察した場合に

は,いずれも上端縁が略小円弧状を成しており,形状が共通する。そうすると,原

告が主張する相違点(1キ)(1ケ)を認定する必要はなく,審決Aには相違点の


看過は存しない。



2 取消事由2に対し

(1) 本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Bについても,原告は,正確に

意匠の形態を捉えていないところ,審決Bが「上方を厚く略円弧状に膨出させ」と

認定したのは(共通点(2C−2),本願意匠Aにおけるのと同様に,横方向に略


円弧状であるとの趣旨である。そうすると,審決Bは原告が主張するように,縦方

向に略円弧状である旨を共通点として認定したのではなく,審決Bに原告主張の誤

りはない。

また,原告が主張する相違点(2カ)も,側面図のみに基づいて主張されている

ものにすぎないし,人工歯の実際の大きさに即して見れば,いずれも歯冠部唇面が

緩やかな略円弧状を成して唇側に膨らんでおり,かかる相違点を認定する必要はな

い。したがって,審決Bにかかる相違点の看過は存しない。
(2) 本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Bの底面図等から引用意匠Bと

形状の相違を直ちに導き出し得るものではないし,審決Bによる最大口径部の形

状の認定は大づかみなものにすぎない。そうすると,審決Bには原告が主張する相

違点(2ケ)の看過はないし,審決Bがした共通点(2C−4)の認定に誤りはな

い。

(3) 本願意匠Bの下端辺は,正面視で中央やや左位置が,下端辺全辺の最下端

を成しており,引用意匠Bと同様,切縁部が「正面図において,右隅は,右端部が

内側に向かってわずかに湾曲してすぼまっており,下端辺に向かって角張って屈曲

してやや山状部を形成しており,左隅は,左端部から下端辺にかけて曲率の大きな

円弧状に湾曲しており,下端辺の中間にもやや山状部があ」る。そうすると,審決




Bがしたかかる共通点(2D−1)の認定に誤りはない。

(4) 本願意匠Aにおけるのと同様に,原告が主張する相違点(2オ)は,人工

歯の実際の大きさに即して観察した場合には,これを認定する必要がないごくわず

かな立体形状にすぎないし,切縁部先端につながる舌側面に側面視で直線状部分,

背面から見た場合には原告のいうファセット面(咬合小面)を認識することはでき

ない。したがって,本願意匠Bと引用意匠Bの切縁部を側面視で略弾頭形状と評価

して差し支えなく,審決Bがした共通点(2D−2)の認定に誤りはない。

(5) 原告が主張する相違点(2キ)は側面図のみに基づいて主張されているも

のにすぎないし,本願意匠Bも引用意匠Bも,その下方切縁部は,略弾頭形状を呈

して舌側に膨らみ,その上方部は,下方とは逆方向の緩やかな円弧状を形成しつつ

舌側に反り返っている。人工歯の実際の大きさに即して観察した場合には,かかる

相違点はこれを認定する必要がないごくわずかな立体形状にすぎず,審決Bに相違

点の看過は存しない。

また,背面側の稜は,人工歯を使用した場合に義歯床に隠れて目に付きにくくな

る部分にすぎないから,審決Bが原告主張に係る相違点(2ク)を認定しなかった

としても,誤りであるとはいえない。


3 取消事由3に対し

(1) 本願意匠Cについても,原告は正確に意匠の形態を捉えていないところ,

審決Cが「下方を厚く略円弧状に膨出させ」と認定したのは(共通点(3B−2),


本願意匠Aにおけるのと同様に,横方向に略円弧状であるとの趣旨である。そうす

ると,審決Cは原告が主張するように,縦方向に略円弧状である旨を共通点として

認定したのではなく,審決Cに原告主張の誤りはない。

また,原告が主張する相違点(3キ)も,側面図のみに基づいて主張されている

ものにすぎないし,人工歯の実際の大きさに即して見れば,いずれも歯冠部唇面が

緩やかな略円弧状を成して唇側に膨らんでおり,かかる相違点を認定する必要はな




いから,審決Cに相違点の看過は存しない。

(2) 原告が主張するとおり,正面視における,本願意匠C,引用意匠Cの切縁

部上端辺両隅の丸み(アール)の程度は異なるが,丸みを帯びていること自体は共

通するのであって,審決Cがした共通点(3D−1)の認定に誤りはない。

(3) 原告が主張する相違点(3カ)は,特定の方向から見たときに現れるごく

一部の直線部分に関するものにすぎないし,人工歯の実際の大きさに即して観察し

た場合には,かかる相違点はこれを認定する必要がないごくわずかな立体形状にす

ぎない。

また,本願意匠Cも引用意匠Cもともに,歯冠部唇面が緩やかな縦方向の略円弧

状を成して唇方向に膨らんでおり,形状が共通する。

そして,本願意匠Cの切縁部先端につながる唇側面に側面視で直線状部分,正面

から見た場合には原告のいうファセット面(咬合小面)を認識することはできない。

そうすると,審決Cに相違点の看過は存しないし,共通点(3D−2)の認定に

誤りはない。

(4) 背面側の稜は,人工歯を使用した場合に義歯床に隠れて目に付きにくくな

る部分にすぎないから,審決Cが原告主張に係る相違点(3ク)を認定しなかった
としても,誤りであるとはいえない。

また,原告が主張する唇側面下端縁の相違点(3ケ)も,側面図のみに基づいて

主張されるものにすぎないし,人工歯の実際の大きさに即して観察した場合には,

かかる相違点はこれを認定する必要がないごくわずかな立体形状にすぎない。しか

も,この相違点に係る形状は,上記と同様に義歯床に隠れて目に付きにくくなる部

分にすぎない。そうすると,審決Cが原告主張に係る相違点(3ケ)を認定しなか

ったとしても,誤りであるとはいえない。

(5) 本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Cの底面図等から引用意匠Bと

形状の相違を直ちに導き出し得るものではないし,引用意匠Cの基底面の輪郭

に直線状部分が全くないわけではない。




そうすると,審決Cには原告が主張する相違点(3コ)の看過は存しない。



4 取消事由4に対し

(1) 引用意匠Dにおいても,切縁部下端辺は,正面視で中央やや右側のごく低

い山状部及び両隅のやや山状部と,三つの山状部の間にある二つのやや谷状部が,

その全体でごく低い略波状形状を成しているのであって,審決Dがした共通点(4

D)の認定に誤りはない。

(2) 引用意匠Dの断面図,左右側面図,左右斜視図をもとに同意匠の形態を把

握して本願意匠Dの形態と対比すれば,本願意匠D,引用意匠Dの切縁部はいずれ

も略弾頭形状と評価して差し支えない。また,原告が主張する相違点(4イ)(4


ウ)はいずれも,人工歯の実際の大きさに即して観察した場合には,相違点として

認定する必要のないごく一部分の形状にすぎない。そうすると,審決Dに上記相違

点の看過はなく,審決Dがした共通点(4E)の認定に誤りはない。そして,人工

歯の実際の大きさに即して観察した場合には,本願意匠Dの切縁部先端につながる

舌側面に側面視で直線状部分,背面から見た場合には原告のいうファセット面(咬

合小面)を認識することはできない。


5 取消事由5に対し

(1) 本願意匠Bにおけるのと同様に,本願意匠Eにおいても,下端辺の正面視

で中央やや左位置が,下端辺全辺の最下端を成しており,引用意匠Eと同様,切縁

部が「正面図において,右隅は,右端部が内側に向かってわずかに湾曲してすぼま

っており,下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状部を形成しており,左隅は,

左端部から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲しており,下端辺の中間にも

やや山状部があ」る。そうすると,審決Eがしたかかる共通点(5D−1)の認定

に誤りはない。

(2) 引用意匠Eの断面図,左右側面図,左右斜視図をもとに同意匠の形態を把




握して本願意匠Eの形態と対比すれば,本願意匠E,引用意匠Eの切縁部はいずれ

も略弾頭形状と評価して差し支えない。また,原告が主張する相違点(5ウ)は,

人工歯の実際の大きさに即して観察した場合には,相違点として認定する必要のな

いごく一部分の形状にすぎない。そうすると,審決Eに上記相違点の看過はなく,

審決Eがした共通点(5D−2)の認定に誤りはない。そして,人工歯の実際の大

きさに即して観察した場合には,本願意匠Eの切縁部先端につながる舌側面に側面

視で直線状部分,背面から見た場合には原告のいうファセット面(咬合小面)を認

識することはできない。



6 取消事由6に対し

(1) 本願意匠Cにおけるのと同様に,正面視における,本願意匠F,引用意匠

Fの切縁部上端辺両隅の丸み(アール)の程度は異なるが,丸みを帯びていること

自体は共通するのであって,審決Fがした共通点(6A)の認定に誤りはない。

(2) 本願意匠Cにおけるのと同様に,原告が主張する相違点(6ウ)は,特定

の方向から見たときに現れるごく一部の直線部分に関するものにすぎないし,人工

歯の実際の大きさに即して観察した場合には,かかる相違点はこれを認定する必要
がないごくわずかな立体形状にすぎない。

また,本願意匠Fも引用意匠Fもともに,切縁部唇面側下方は横断面が緩やかな

横方向の略凸円弧状を成して唇方向に膨らんでおり,形状が共通する。

そして,本願意匠Fの切縁部先端につながる舌側面に側面視で直線状部分,背面

から見た場合には原告のいうファセット面(咬合小面)を認識することはできない。

そうすると,審決Fに相違点の看過は存しないし,共通点(6C)の認定に誤り

はない。



7 取消事由7に対し

(1) そもそも,人工歯を用いて治療を行うのは歯科医であり,人工歯を用いて




義歯等を作製するのは歯科技工士であるから,人工歯の需要者は歯科医,歯科技工

士という専門家であるところ,かかる需要者は患者に適する人工歯を選択してその

まま使用するのではなく,装着固定方法に応じた装着固定部(基底面)の調整をし

たり,上顎,下顎の歯の噛み合せを調整したり(咬合調整),また患者の個性に応じ

た修正・加工等を行う。

ところで,臼歯部(奥歯)の人工歯は咬合及びそしゃくの機能に重点が置かれる

が,前歯の人工歯は審美性を第一の基準として選択される。すなわち,歯科医等の

需要者は,まず前歯の人工歯の歯冠部の形状,色調,大きさに着目し,患者の顔の

形や隣接歯の形状等を参考にして,人工歯を選択する。これに加えて,歯科医等の

需要者は,人工歯の耐久性,加工のしやすさ,施術のしやすさや義歯床への接合方

法等を考慮して,前歯の人工歯を選択する。他方,人工歯の装着固定部には固定方

法に応じて種々の形態の可能性があり得るところ,歯科医等の需要者は,主として

機能性の観点から,固定方法と加工が必要な箇所の形状を,材質等を考慮しながら

検討し,前歯の人工歯を選択する。結局,歯科医等の需要者は,上記の審美性と機

能性からする各検討を総合して,前歯の人工歯を選択する。

したがって,人工歯の需要者が専門家たる歯科医等であるとしても,特定の部分
形状に偏ることなく,その全体の形状を観察し,意匠全体が生み出す美感によっ

て判断するものである。原告は,公知意匠が有する人工歯の一般的な形状に当たる

共通点・相違点よりも,当該意匠が上記一般的形状とは異なる部分が意匠を見る者

の注意を惹くのであって,相違点のうち一般的形状とは異なる点が存在するにもか

かわらず,両意匠が需要者に対して共通の美感を起こさせるか否かで意匠の類否

断を行うべきである旨を主張するが,これは要するに,当該意匠から公知意匠に見

られる形状部分を引き算し,残りの部分を対比して類否判断を行うべきであるとす

る趣旨のものである。意匠の類否判断は,意匠全体を対象として行うべきものであ

るから,かように意匠の一部を抜き出して対比することは許されない。また,当該

意匠の登録出願前に公然知られた形態を含んでいるとしても,当該公知部分が意匠




全体に占める大きさを考慮し,あくまで意匠全体を対比すべきであって,意匠全体

が生み出す美感が共通するか否かで意匠の類否判断を行うべきである。そうすると,

審決AないしFがした類否判断は,天然歯との共通部分や前歯用人工歯の一般的形

状を過大に評価してされたものとはいえない。

(2) 本願意匠A及び引用意匠Aの全体形状に係る共通点(1A)は,両意匠の

全体形状の基本的構成を成すものであるが,前歯用人工歯のすべてがかかる基本的

構成を採用するわけではなく,種々の形状があり得る。したがって,共通点(1A)

は両意匠の類否判断に大きな影響を及ぼす。

上半分弱の部分に係る共通点(1B−1),下半分強の部分に係る共通点(1C−

1)(1C−2)は,いずれも意匠全体に占める割合が大きかったり,目立つ部分


に係ったりするものであるから,前歯の天然歯の形状の模倣を基本とする一般的な

形状に係るものであるとしても,意匠の類否判断に大きな影響を及ぼす。上半分弱

の部分に係る共通点(1B−2)(1B−3)も,必ずしも前歯の人工歯の一般的


形状に当たるものではなく,需要者の注意を惹き付ける部分である。

したがって,審決Aが本願意匠Aと引用意匠Aの共通点を過大に評価したとはい

えない。
(3) 本願意匠Aの正面視での形状は,上顎中切歯の天然歯を模倣した人工歯の

典型的な形状をしており,相違点(1ア)に係る形状も上記天然歯の該当部分にお

いて見られるありふれたものにすぎない。したがって,この旨をいう審決Aの類否

判断に誤りはない。

(4) 相違点(1ア)と同様に,相違点(1イ)に係る形状も上記天然歯の該当

部分において見られるありふれたものにすぎない。

人工歯の実際の大きさに即して観察すれば,原告主張に係る相違点(1エ)(1


オ)から生じる印象は,共通点(1D−2)から生じる印象を凌駕するものではな

い。

したがって,この旨をいう審決Aの類否判断に誤りはない。




また,本願意匠Aの切縁部先端とつながる舌側面にファセット面(咬合小面)を

認めることはできないが,仮にファセット面が存在するとしても,本件出願当時,

人工歯の分野において,咬合小面を形成した前歯用人工歯は公知であった。

他方,かかる咬合小面は境界線を引くなどして該当領域を示さないと,歯科医等

の専門家でもその有無を視覚的に判別することができない。かかるファセット面の

有無に基づいて需要者が本願意匠Aと引用意匠Aを明確に区別することは非常に困

難である。

そうすると,かかるファセット面の有無は本願意匠Aと引用意匠Aの類否判断

何ら影響を及ぼすものではない。

(5) 人工歯の基底面に凹陥部を設けるのは,義歯床や固定具などとの装着を強

固で安定したものとするためであるところ,本願意匠A及び引用意匠Aの人工歯は

共に,人工歯肉と直接接合される場合もあれば(総義歯,部分義歯の場合),アバッ

トメントと呼ばれる連結具を介して,金属製人工歯根に固定される場合もある(イ

ンプラントの上部構造体とする場合)。また,人工歯の材質について着目すると,レ

ジン(合成樹脂)製であれば,柔らかく,同じく合成樹脂製である人工義歯床とは

化学的に結合するため,固定のための特別な構造は必要ないが,人工歯が陶製であ
れば,硬く,割れやすく,合成樹脂製の人工義歯床に装着するにはそのための固定

具が必要となる。そこで,歯科医師や歯科技工士は,人工歯の固定方法あるいは材

質に応じて基底面に切削加工を施すことが必要となるが,その際に,専門家が重視

するのは,切削加工の容易さである。

両意匠に共通する基底面の構成態様,すなわち,基底面の全周囲に等幅の部位を

土手状に残し,中央を,浅からず深からずといった,ほどよい深さの略すり鉢形状

凹陥部とした態様は,機能的には,合成樹脂同士の接合の場合はもとより,人工歯

根に固定する連結具挿入に適した孔へと切削加工を施す場合においても,作業を容

易に行うことができる構成態様であり,形態的には,平坦で幅広の土手とその内側

に穿たれた程よい深さの凹陥部の形態が生み出す共通の美感が,需要者に共通の印




象を与える。

審決Aは,これらを踏まえた上で,基底面中央凹陥部についての相違点(1ウ)

は,人工歯の実際の大きさに即して見れば極めて小さな相違にすぎないから,
「その

相違は,内底中心部におけるわずかな丸みの有無にすぎず,略すり鉢状であるとい

う両意匠の共通点に埋没してしまう程度である」と判断した。

仮に,原告が主張するように,基底面の輪郭形状について,舌面側に直線部分が

あるかどうかという相違点(1ク)があったとしても,基底面の舌面側に直線的な

部位を設けた人工歯は,本願意匠Aの出願前に公然知られているから,審決Aの類

否判断が不当になるものではない。また,相違点(1ケ)はそもそも認定する必要

のない微細なものにすぎない。

したがって,審決Aの上記類否判断に誤りはない。

(6) 前歯用人工歯では,側面視において唇面側に張り出した形状や,比較的真

っ直ぐな形状などが,天然歯の形態を模倣して様々なものが用意されており,原告

が主張する相違点(1カ)(1キ)に係る本願意匠Aの形状も,引用意匠Aの形状


と同じく,人工歯の形状としてありふれたものである。人工歯の実際の大きさに即

して観察すれば,かかる形状の相違から生じる印象の違いはわずかで,共通点(C
−2)から生じる印象を凌駕するものではない。

したがって,この旨をいう審決Aの類否判断に誤りはない。

(7) 結局,本願意匠Aは本件出願前に既に公知の人工歯の形状寄せ集めにす

ぎず,新規な創作部分は皆無であり,需要者の注意を惹いて,引用意匠Bと異なる

美感を生み出していない。したがって,本願意匠Aと引用意匠Aとが類似するとし

た審決Aの判断に誤りはない。



8 取消事由8に対し

(1) 本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Bと引用意匠Bの共通点は,い

ずれも必ずしもすべての前歯用人工歯に共通する形状であるとはいえないか,天然




歯を模倣しているために一般的な形状に属するとしても,意匠全体に占める割合が

大きかったりするなどして,意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。し

たがって,審決Bが本願意匠Bと引用意匠Bの共通点を過大に評価したとはいえな

い。

(2) 本願意匠Bの正面視の形状は,引用意匠Bと同様に,上顎前歯の天然歯の

典型的な形状であって,相違点(2ア)についての審決Bの判断に誤りはない。

(3) 相違点(2イ)に係る本願意匠Bの側面視上端部の形状は,引用意匠Bと

同様に,上顎前歯の人工歯の形状としてありふれたものである。

また,本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Bと引用意匠Bとで共通する基

底面の構成態様,すなわち,基底面の全周囲に等幅の部位を土手状に残し,中央を,

浅からず深からずといった,ほどよい深さの略すり鉢形状凹陥部とした態様は,機

能的には作業を容易に行うことができる構成態様で,形態的には共通の美感を生み

出し,需要者に共通の印象を与えるものである。この観点を踏まえると,上記相違

点(2イ)は共通点(2B−2)(2B−3)から生じる印象に大きな影響を及ぼ


すものではない。

そして,基底面舌面側に背面視で直線状の部分を設ける構成(原告主張に係る相
違点(2ケ))も,本件出願前に公知である。

そうすると,相違点(2イ)が意匠の類否判断に与える影響は微弱であるなどと

した審決Bの判断に誤りはない。

(4) 相違点(2ウ)に係る本願意匠Bの切縁部先端の形状,相違点(2エ)に

係る本願意匠Bの舌面凹部の形状は,いずれも,引用意匠Bと同様に,上顎中切歯

の人工歯の形状としてありふれたものである。

また,原告主張に係る相違点(2オ)
(切縁部の側面視での直線部分の長さに関す

る相違点)は,これを相違点として認定する必要のない立体形状についてのもので

あり,意匠の類否判断に影響を及ぼすものではない。

そして,本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Bの切縁部先端とつながる舌




側面にファセット面(咬合小面)を認めることはできず,仮にファセット面が存在

するとしても,本件出願当時,人工歯の分野において,咬合小面を形成した前歯用

人工歯は公知であったし,かかるファセット面の有無に基づいて需要者が本願意匠

Bと引用意匠Bを明確に区別することは非常に困難である。そうすると,かかるフ

ァセット面の有無は本願意匠Bと引用意匠Bの類否判断に何ら影響を及ぼさない。

結局,相違点(2ウ)(2エ)が意匠の類否判断に与える影響は微弱であるなど


とした審決Bの判断に誤りはない。

(5) 原告主張に係る相違点(2カ)(2キ)(2ク)はいずれも相違点として
, ,

認定する必要がないし,仮に相違点であるとしても天然歯の種々の形態を模倣した

形状にすぎない。上記相違点のうち相違点(2カ)(2キ)に係る本願意匠Bの形


状は,引用意匠Bと同様に,前歯用人工歯の形状としてありふれたものにすぎない。

また,上記相違点(2カ)(2キ)(2ク)から生じる印象は共通点(2C−2)
, ,

から生じる印象を凌駕しないから,意匠の類否判断に影響を及ぼさない。

(6) 結局,本願意匠Bは本件出願前に既に公知の人工歯の形状寄せ集めにす

ぎず,新規な創作部分は皆無であり,引用意匠Bと異なる美感を生み出していない。

したがって,本願意匠Bと引用意匠Bとが類似するとした審決Bの判断に誤りはな
い。



9 取消事由9に対し

(1) 本願意匠Cと引用意匠Cの共通点は,いずれも必ずしもすべての前歯用人

工歯に共通する形状であるとはいえないか,天然歯を模倣しているために一般的な

形状に属するとしても,意匠全体に占める割合が大きかったりするなどして,意匠

類否判断に大きな影響を及ぼすものである。したがって,審決Cが本願意匠Cと

引用意匠Cの共通点を過大に評価したとはいえない。

(2) 本願意匠Cの正面視の形状は,引用意匠Cと同様に,下顎切歯(前歯)の

天然歯の典型的な形状であって,略左右対称形の人工歯も左右非対称形の人工歯も




広く知られたありふれたものである。そうすると,相違点(3ア)についての審決

Cの判断に誤りはない。

(3) 本願意匠Cの側面視の形状(相違点(3イ))は,引用意匠Cと同様に,

下顎前歯の人工歯の形状としてありふれたものにすぎない。

また,上記相違点(3キ)(3ク)から生じる印象は引用意匠Cとの共通点から


生じる印象を凌駕しないから,意匠の類否判断に影響を及ぼさない。

したがって,相違点(3イ)についての審決Cの判断に誤りはない。

(4) 本願意匠Cの切縁部先端の形状(相違点(3ウ))は,引用意匠Cと同様

に,下顎前歯の人工歯の形状としてありふれたものにすぎない。

原告主張に係る相違点(3カ)切縁部先端両隅の正面視での形状に関する相違点)


は,人工歯の実際の大きさに即して観察すれば,これを相違点として認定する必要

のない立体形状についてのものであり,意匠の類否判断に影響を及ぼすものではな

い。

したがって,相違点(3ウ)についての審決Cの判断に誤りはない。

また,切縁部先端の側面視での形状に関する相違点(3エ)も,わずかなものに

すぎないし,原告が主張する切縁部の側面視での直線状部分の位置や向きに関する
相違点も,人工歯の実際の大きさに即して観察すれば,これを相違点として認定す

る必要のない立体形状についてのものであり,意匠の類否判断に影響を及ぼすもの

ではない。

したがって,相違点(3エ)についての審決Cの判断にも誤りはない。

そして,本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Cの切縁部先端とつながる舌

側面にファセット面(咬合小面)を認めることはできず,仮にファセット面が存在

するとしても,本件出願当時,人工歯の分野において,咬合小面を形成した前歯用

人工歯は公知であったし,かかるファセット面の有無に基づいて需要者が本願意匠

Cと引用意匠Cを明確に区別することは非常に困難である。そうすると,かかるフ

ァセット面の有無は本願意匠Cと引用意匠Cの類否判断に何ら影響を及ぼさない。




(5) 本願意匠Cと引用意匠Cとで共通する基底面の構成態様,すなわち,基底

面の全周囲に等幅の部位を土手状に残し,中央を,浅からず深からずといった,ほ

どよい深さの略すり鉢形状凹陥部とした態様は,機能的には作業を容易に行うこと

ができる構成態様で,形態的には共通の美感を生み出し,需要者に共通の印象を与

えるものである。また,人工歯の実際の大きさに即して観察すれば,基底面中央凹

陥部の形状に係る相違点(3オ)はごく小さいものにすぎない。この観点を踏まえ

ると,相違点(3オ)は共通点(3C−3)から生じる印象に大きな影響を及ぼす

ものではない。

そして,基底面舌面側に背面視で直線状の部分を設ける構成(原告主張に係る相

違点(3コ))も,本件出願前に公知であるし,唇側面下端縁の側面視形状に係る構

成(原告主張に係る相違点(3ケ) も,
) 人工歯の実際の大きさに即して観察すれば,

これを相違点として認定する必要のない立体形状についてのものであり,意匠の類

否判断に影響を及ぼすものではない。

そうすると,相違点(3オ)が共通点に埋没してしまう程度であるなどとした審

決Cの判断に誤りはない。

(6) 結局,本願意匠Cは本件出願前に既に公知の人工歯の形状寄せ集めにす
ぎず,新規な創作部分は皆無であり,引用意匠Cと異なる美感を生み出していない。

したがって,本願意匠Cと引用意匠Cとが類似するとした審決Cの判断に誤りはな

い。



10 取消事由10に対し

(1) 本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Dと引用意匠Dの共通点は,い

ずれも必ずしもすべての前歯用人工歯に共通する形状であるとはいえないか,天然

歯を模倣しているために一般的な形状に属するとしても,意匠全体に占める割合が

大きかったりするなどして,意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。し

たがって,審決Dが本願意匠Dと引用意匠Dの共通点を過大に評価したとはいえな




い。

(2) 本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Dの正面視の形状は,引用意匠

Dと同様,上顎中切歯の天然歯の典型的な形状であって,相違点(4ア)について

の審決Dの判断に誤りはない。

(3) 本願意匠Aにおけるのと同様に,切縁部先端部が側面視で丸みが付けられ

ているか角のある形状か(原告主張に係る相違点(4イ),切縁部先端部につなが


る舌側面に側面視で直線部分があるか否か(原告主張に係る相違点(4ウ))は,人

工歯の実際の大きさに即して観察すれば,いずれも,これらを相違点として認定す

る必要のない立体形状に係るものにすぎず,意匠の類否判断に影響を及ぼさない。

したがって,仮にかかる相違点を考慮したとしても,共通点(4E)から生じる

印象を凌駕するものではなく,審決Dの類否判断に誤りはない。

そして,本願意匠Aにおけるのと同様に,本願意匠Dの切縁部先端とつながる舌

面側にファセット面(咬合小面)を認めることはできず,仮にファセット面が存在

するとしても,本件出願当時,人工歯の分野において,咬合小面を形成した前歯用

人工歯は公知であったし,かかるファセット面の有無に基づいて需要者が本願意匠

Dと引用意匠Dを明確に区別することは非常に困難である。そうすると,かかるフ

ァセット面の有無は本願意匠Dと引用意匠Dの類否判断に何ら影響を及ぼさない。

(4) 結局,本願意匠Dは本件出願前に既に公知の人工歯の形状寄せ集めにす

ぎず,新規な創作部分は皆無であり,引用意匠Dと異なる美感を生み出していない。

したがって,本願意匠Dと引用意匠Dとが類似するとした審決Dの判断に誤りはな

い。



11 取消事由11に対し

(1) 本願意匠Bにおけるのと同様に,本願意匠Eと引用意匠Eの共通点は,い

ずれも必ずしもすべての前歯用人工歯に共通する形状であるとはいえないか,天然

歯を模倣しているために一般的な形状に属するとしても,意匠全体に占める割合が




大きかったりするなどして,意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。し

たがって,審決Eが本願意匠Eと引用意匠Eの共通点を過大に評価したとはいえな

い。

(2) 正面視形状における本願意匠Eと引用意匠Eの相違点(5ア)は,人工歯

Eの実際の大きさに即して観察したときに,切縁部のみを注視してやっと視認でき

る,ごくわずかな相違にすぎない。そうすると,上記相違点から生じる印象は共通

点から生じる印象に埋没するというべきである。したがって,この旨をいう審決E

類否判断に誤りはない。

(3) 本願意匠Eの舌側面の右下隅に略粟粒状凹部が存在するからといって,切

縁部先端とつながる舌面側にファセット面が存在することにはならない。審決Eの

相違点(5イ)の評価に誤りはなく,本願意匠Eと引用意匠Eが類似するとした審

決Eの判断に誤りはない。

また,本願意匠Bにおけるのと同様に,本願意匠Eの切縁部先端とつながる舌面

側にファセット面(咬合小面)を認めることはできず,仮にファセット面が存在す

るとしても,本件出願当時,人工歯の分野において,咬合小面を形成した前歯用人

工歯は公知であったし,かかるファセット面の有無に基づいて需要者が本願意匠E
と引用意匠Eを明確に区別することは非常に困難である。そうすると,かかるファ

セット面の有無は本願意匠Eと引用意匠Eの類否判断に何ら影響を及ぼさない。

(4) 結局,本願意匠Eは本件出願前に既に公知の人工歯の形状寄せ集めにす

ぎず,新規な創作部分は皆無であり,引用意匠Eと異なる美感を生み出していない。

したがって,本願意匠Eと引用意匠Eとが類似するとした審決Eの判断に誤りはな

い。



12 取消事由12に対し

(1) 本願意匠Cにおけるのと同様に,本願意匠Fと引用意匠Fの共通点は,い

ずれも必ずしもすべての前歯用人工歯に共通する形状であるとはいえないか,天然




歯を模倣しているために一般的な形状に属するとしても,意匠全体に占める割合が

大きかったりするなどして,意匠の類否判断に大きな影響を及ぼすものである。し

たがって,審決Fが本願意匠Fと引用意匠Fの共通点を過大に評価したとはいえな

い。

(2) 正面視における本願意匠Fの形状は,引用意匠Fと同様に,下顎前歯の人

工歯の典型的な形状にすぎないし,相違点(6ア)に係る本願意匠Fの形状も,か

かる人工歯の形状としてありふれたものにすぎない。したがって,かかる相違点が

意匠の類否判断に与える影響は微弱であるとした審決Fの判断に誤りはない。

(3) 原告主張に係る相違点(6ウ)は,人工歯の実際の大きさに即して観察す

れば,これを認定する必要のない立体形状に関するものにすぎず,意匠の類否判断

に大きな影響を及ぼさない。したがって,仮にかかる相違点を考慮したとしても,

共通点から生じる印象を凌駕するものではなく,審決Fの類否判断に誤りはない。

また,本願意匠Cにおけるのと同様に,本願意匠Fの切縁部先端とつながる唇側

面にファセット面(咬合小面)を認めることはできず,仮にファセット面が存在す

るとしても,本件出願当時,人工歯の分野において,咬合小面を形成した前歯用人

工歯は公知であったし,かかるファセット面の有無に基づいて需要者が本願意匠F
と引用意匠Fを明確に区別することは非常に困難である。そうすると,かかるファ

セット面の有無は本願意匠Fと引用意匠Fの類否判断に何ら影響を及ぼさない。

(4) 結局,本願意匠Fは本件出願前に既に公知の人工歯の形状寄せ集めにす

ぎず,新規な創作部分は皆無であり,引用意匠Fと異なる美感を生み出していない。

したがって,本願意匠Fと引用意匠Fとが類似するとした審決Fの判断に誤りはな

い。



第5 当裁判所の判断

1 人工歯の需要者について

人工歯を用いて義歯等を調整するのは歯科技工士であるから,人工歯の需要者は




まずは歯科技工士であり,歯科技工士に発注する歯科医も間接的な需要者である。

これら人工歯の需要者は,天然歯の形状を出発点として,咬合やそしゃくの機能に

合致するか否かの観点を第一次的に念頭に置き,製造業者や販売業者から供給され

る人工歯を観察するが,第二次的には施術の容易性や義歯床への接合具合,審美性

の観点,そして意匠上の観点ではないが材質も考慮に入れながら,供給される人工

歯を観察する。人工歯の取引についての以上の実態は,当事者双方が当然の前提と

しているところであり,以下の認定判断においては,この実態を念頭に置いて検討

を進めるが,天然歯の持つ形態に由来する基本的特徴部分は,以上の観点からみて,

人工歯に係る意匠の類否判断において,共通点としての位置付けは小さいものとい

うべきである。
(以下に引用する原告主張の相違点については,本判決別紙17,19,21,23,25,
27「原告主張の相違点一覧表1〜6」を参照。)



2 取消事由1(本願意匠Aと引用意匠Aの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)について

(1) 本願意匠Aの願書に添付した写真(甲A12,甲A1は番号を付したもの)

及び引用意匠Aの公報中の写真(甲A18,甲A2は番号を付したもの)のうち各

左右側面図により両意匠を対比すれば,本願意匠Aの唇側面は,側面視で,正面側

に最も張り出した部分から下方の切縁部付近までにかけての部分に相当の長さの直

線状の部分がある一方,引用意匠Aの唇側面は,側面視で,正面側に最も張り出し

た部分から下方の切縁部付近までにかけての部分が緩やかな円弧状を成している点

で異なることが認められる。この形状の相違の結果,唇側面の側面視の形状は,引

用意匠Aでは歯冠部と歯頸部の境界から切縁部までの全体が略円弧状を成している

一方,本願意匠Aでは歯冠部と歯頸部の境界から正面側に最も張り出した部分まで

が略円弧状を成すが,正面側に最も張り出した部分から下方の切縁部付近までの部

分に相当の長さの直線状の部分がある点で異なっている(原告主張の相違点(1カ)。


したがって,上記相違点を看過した審決Aの認定には誤りがある。



(2) 本 願意匠Aの願書に添付した写真及び引用意匠Aの公報中の写真のうち

各背面図,平面図により両意匠を対比すれば,基底面の輪郭に当たる部分及び基底

面中央の凹陥部の輪郭に当たる部分のうち各背面側(舌側面側)に,本願意匠Aで

は相当な長さの直線状部分があるが,引用意匠Aではかかる直線状部分がない点で

異なることが認められる。この形状の相違の結果,本願意匠Aの基底面は,輪郭の

一部が直線状でその余が円弧状の略かまぼこ形状を成すが,引用意匠Aの基底面は,

基底面と鉛直の方向から見たときに略円状(上方から見下ろしたときは略楕円状)

を成すことになって,両意匠はこの点で異なる(原告主張の相違点(1ク)。


したがって,上記相違点を看過した審決Aの認定には誤りがある。

この点,被告は,本願意匠Aの基底面輪郭の直線状部分は特定の方向から見たと

きに現れるものにすぎないとか,引用意匠Aの基底面の輪郭に直線状部分が全くな

いわけではないなどと主張するが,本願意匠Aの基底面輪郭及び中央凹陥部輪郭の

直線状部分は通常の観察において認識できる程度にまで及んでいるのであって,被

告の上記主張を採用することはできない。

(3) 本 願意匠Aの願書に添付した写真のうち左右の側面図及び端面図によれ

ば,本願意匠Aの切縁部近傍の舌側面の一部には側面視で直線状の部分(背面視で
平面状の部分)があることが認められ,したがって舌側面の下端付近に小さな噛み

合せ平面であるファセット面が設けられていることが認められる。

他方,引用意匠Aの公報中の写真のうち左右の側面図及び断面図をみても,舌側

面の切縁部近傍には側面視で直線状の部分がないから,上記ファセット面の有無は

本願意匠Aと引用意匠Aの相違点であると認められ,したがって,かかる相違点を

看過した審決Aの認定には誤りがある。

この点,被告は,舌側面の切縁部近傍の側面視直線状部分は特定の方向から見た

ときに現れるごく一部分にすぎず,人工歯の実際の大きさに即して観察した場合に

はこれを認定する必要がないなどと主張する。確かに,上記ファセット面は人工歯

の舌側面全体の表面積に占める割合は必ずしも大きくないが,歯科医等の需要者が




人工歯を装着する場合には,切縁部近傍を削ってファセット面を設けるなどして必

ず咬合調整を行うものであることからすると(弁論の全趣旨) 切縁部近傍の形状


相違は需要者が注目するポイントの1つであって,ファセット面の有無を認定する

必要がないとはいえない。また,本願意匠Aの左右の側面図や端面図を見れば,上

記ファセット面があることを明確に認識でき,対比の上ではその存在を無視できる

微細な立体形状に止まらない特徴を成しているものということができるから,特定

の方向から見たときにのみ現れる微細な立体形状であるということはできない。

なお,出願された意匠と先行意匠を対比する際に,出願人が提出した特徴記載書

の説明を参考にすることはあり得るし,本願意匠Aの特徴記載書(甲A13)の説

明図やファセット面を着色した図(甲A19)がなくても,上記ファセット面の存

在を認定することができる。

(4) 以上のとおり,審決Aは少なくとも前記(1)ないし(3)の各相違点を看過して

本願意匠Aと引用意匠Aの共通点・相違点を認定しており,この点に認定の誤りが

あるというべきである。

3 取消事由7(本願意匠Aと引用意匠Aの類否判断の誤り)について

(1) そこで進んで,本願意匠Aと引用意匠Aの類否判断の当否について以下検

討する。

(2) 本願意匠Aの形態

ア 本願意匠Aの形態は本判決別紙1「本願意匠A(意願2008−016

902)」のとおりであり,その全体の形状は,正面視で上半分弱が略半円形状,下

半分強が略等脚台形状の略釣鐘形状,側面視で略不等辺三角形状の略くさび形状

ある(基本的構成態様)。

イ 上半分弱の部位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも上の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも上の部位は,正面視で略半円形状で,唇面が下方から上方に向かって

径が次第に小さくなる略円弧曲面形状(ただし,最上辺部付近において曲率がやや




小さくなっている。)を成し,舌面側には,大きく斜めに,ごく緩やかな円弧状凹面

に切り欠くとともに,全周縁部に広い略等幅の土手部を残し,中央部を略すり鉢状

凹陥部とする基底面が設けられている。

より詳細に検討すれば,正面視で左端中ほどやや上部付近にごくわずかな屈曲凹

部が設けられており,かような屈曲凹部が設けられていない右端とは異なって,左

端が中ほど付近でくびれている形状となっている。

また,基底面の輪郭に当たる部分及び基底面中央凹陥部の輪郭に当たる部分のう

ちの各背面側(舌面側)に相当な長さの直線状部分があり,各輪郭のその余の円弧

状部分と相まって略かまぼこ形状を成している。なお,基底面中央凹陥部は略丸底

形状を成している。

ウ 下半分強の部位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも下の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも下の部位は,正面視で略等脚台形を成し,横幅が上半分弱の正面視半

円形部の横幅よりやや大きく,唇面は上端付近が横断面で略円弧状となっているが,

下方に至るに従い薄く(細く)なって平板状になっており,舌面は幅方向で中央の

箇所が浅くえぐられてシャベル状を成し,上方の端で径が最大となるが,この最大
口径部は底面視で大まかに見て,横断面で唇面側が略円弧状,舌面側が略直線状の

略かまぼこ形状を成している。

より詳細に検討すれば,側面視で唇面側(歯冠部)には相当の長さの直線状の部

分があり,したがって正面視で平板状の部分の面積の割合が相当割合を占めている。

エ 切縁部は,正面視で,下端辺が3つのやや山状の部位と2つのやや谷状

の部位とが交互に組み合わせられたごく低い略波状形状を呈しており,側面視では,

先端に向かって次第に先細りになる形状を成している。

より詳細に検討すれば,右端部が内側に向かってわずかに湾曲してすぼまり,右

隅部は下端辺に向かって角ばって屈曲し,上記3つの山状部分のうちの右側の山状

部分を成しており,左隅部は左端付近から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾




曲し,上記3つの山状部分のうちの左側の山状部分を成している。

また,切縁部近傍の舌側面の一部には側面視で直線状,背面視で平面状の小さな

部分があり,原告のいうファセット面が設けられている。

(3) 引用意匠Aの形態

ア 引用意匠Aの形態は本判決別紙2「引用意匠A(意匠登録第11975

33号)」のとおりであり,その全体の形状,すなわち基本的構成態様は,本願意匠

Aのそれと同様である。

イ 上半分弱の部位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも上の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも上の部位は,正面視で略半円形状で,唇面が下方から上方に向かって

径が次第に小さくなる略円弧曲面形状(ただし,最上辺部付近において曲率がやや

小さくなっている。)を成し,舌面側には,大きく斜めに,ごく緩やかな円弧状凹面

に切り欠くとともに,全周縁部に広い略等幅の土手部を残し,中央部を略すり鉢状

凹陥部とする基底面が設けられている。

基底面の輪郭に当たる部分及び基底面中央凹陥部の輪郭に当たる部分はその各全

体において略円状ないし略楕円状を成している。
ウ 下半分強の部位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも下の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも下の部位は,正面視で略等脚台形を成し,横幅が上半分弱の正面視半

円形部の横幅よりやや大きく,唇面は上方が横断面で略円弧状となっている(正面

に向かって厚く略円弧状に膨出している)が,下方に至るに従い薄く(細く)なっ

て平板状になっており,舌面は幅方向で中央の箇所が浅くえぐられてシャベル状を

成し,上方の端で径が最大となるが,この最大口径部は底面視で大まかに見て,横

断面で舌面側が略円弧状,唇面側が略直線状(ないしごく緩やかな曲線状)の略か

まぼこ形状を成している。

より詳細に検討すれば,唇側面の歯冠部と歯頸部の境付近から切縁部付近までの




全体が側面視で略円弧状を成しており,したがって,歯冠部の唇面側は正面視で曲

形状を成している。

エ 切縁部は,正面視で,下端辺が中央付近がやや高い高低差のある形状(審

決Aのいう略波状形状)を呈しており,側面視では,先端に向かって次第に先細り

になる形状を成している。

より詳細に検討すれば,正面視で左右両隅が内側に向かってわずかに湾曲してす

ぼまり,かつ下端辺に向かって角ばって湾曲している。また,側面視の形状は,上

方(唇面及び舌面にそれぞれ接続する部分)から切縁先端に向かうに従って曲率が

大きくなる曲線形状を成している(審決Aのいう略弾頭形状ないし略放物線形状)。

(4) 両意匠の類否

本願意匠Aと引用意匠Aを対比すると,その基本的構成態様は共通であるが,本

願意匠Aは引用意匠Aに比べて前後方向により平たく,側面から見るとほっそりし

た印象を与える点に特徴がある(相違点(1カ)。また,本願意匠Aは,人工歯肉


と接続される部分である基底面及びその付近の形状のうち舌面側(背面側)が扁平

になっている点に特徴がある(相違点(1ク)。さらに,本願意匠Aは,切縁部近


傍の舌側面に,下顎歯との噛み合せを予定した小さな平面部であるファセット面が
設けられている点に特徴がある。

これに対し,引用意匠Aは,本願意匠Aに比べて横断面方向で見たときにより丸

みを帯びており,基底面等は円状ないし楕円状である点に特徴があり,切縁部近傍

にファセット面が設けられているわけではなく,該当する部位は曲面状となってい

る。

そうすると,看者に対し,本願意匠Aは引用意匠Aよりも前後方向に平たい印象

ないしよりほっそりした印象を与えるような美感を生じさせるものであるし,歯科

治療の専門家である歯科医,歯科技工士等の需要者に対し,咬合調整の容易化を目

指した機能的部分が設けられていることに伴う印象,美感を生じさせるものである。

そして,天然歯の形態の模倣を基調とする人工歯の意匠にあっても,かかる印象




は,基本的構成態様を含む,本願意匠Aと引用意匠Aの共通点から生じる印象に埋

没することのないものである。

したがって,審決Aが摘示する相違点(1ア)ないし(1ウ)も合わせて考えれ

ば,本願意匠Aと引用意匠Aは需要者に対して異なる美感を生じさせるというべき

であって,両意匠は類似しないものというべきである。

(5) 被告の主張について

被告は,本願意匠Aの基底面と引用意匠Aの基底面につき,平坦で幅広の土手と

その内側に設けられたほどよい深さの凹陥部の形態が需要者に共通の印象,美感を

生じさせるなどと主張する。確かにこのように大づかみに基底面の形状の特徴を捉

えれば,両意匠の基底面から生じる印象,美感は共通することになるが,前記(2),

(4)のとおり,本願意匠Aの基底面等の輪郭の直線状部分の大きさは小さいものでは

ないし,背面(舌面)上部(歯根側)が扁平にされている一環として上記直線状部

分が現れているのであるから,本願意匠Aの基底面の具体的な形状から生じる印象

が,上記の大づかみに捉えた基底面の形状の特徴から生じる印象や,人工歯全体の

基本的構成態様から生じる印象に埋没するものではない。

また,被告は,原告主張に係る相違点(1カ)は,ありふれたもので,人工歯の
実際の大きさに即して観察すれば,わずかなものにすぎないなどと主張するが,歯

冠部の唇側面(側面視)における直線状部分が占める長さの割合に照らせば,相違

点(1カ)が対比上無視できる微差でないことは明らかであるし,人工歯全体の印

象に与える影響も小さなものとはいえない。

(6) 小括

結局,審決Aがした意匠の類否判断は誤りであり,原告が主張する取消事由7は

理由がある。



4 取消事由2(本願意匠Bと引用意匠Bの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)について




(1) 本願意匠Bの願書に添付した写真(甲B10,甲B1の1は番号を付した

もの)及び引用意匠Bの公報中の写真(甲B16,甲B2は番号を付したもの)の

うち各左右側面図により両意匠を対比すれば,本願意匠Bの唇側面は,側面視で,

正面側に最も張り出した部分から下方の切縁部付近までにかけての部分に相当の長

さの直線状の部分がある一方,引用意匠Bの唇側面は,側面視で,正面側に最も張

り出した部分から下方の切縁部付近までにかけての部分が緩やかな円弧状を成して

いる点で異なることが認められる。この形状の相違の結果,唇側面の側面視の形状

は,引用意匠Bでは歯冠部と歯頸部の境界から切縁部までの全体が略円弧状を成し

ているが,本願意匠Bでは歯冠部と歯頸部の境界から正面側に最も張り出した部分

までが略円弧状を成すものの,正面側に最も張り出した部分から下方の切縁部付近

までの部分に相当の長さの直線状の部分がある点で異なっている(原告主張の相違

点(2カ)。


したがって,上記相違点を看過した審決Bの認定には誤りがある。

(2) 本 願意匠Bの願書に添付した写真及び引用意匠Bの公報中の写真のうち

各背面図,平面図により両意匠を対比すれば,基底面の輪郭に当たる部分及び基底

面中央の凹陥部の輪郭に当たる部分のうち各背面側(舌側面側)に,本願意匠Bで
は相当な長さの直線状部分があるが,引用意匠Bではかかる直線状部分がない点で

異なることが認められる。この形状の相違の結果,本願意匠Bの基底面は,輪郭の

一部が直線状でその余が円弧状の略かまぼこ形状を成すが,引用意匠Bの基底面は,

基底面と鉛直の方向から見たときに略円状(上方から見下ろしたときは略楕円状)

ないし略楕円状を成すことになって,両意匠はこの点で異なる(原告主張の相違点

(2ケ)。


したがって,上記相違点を看過した審決Bの認定には誤りがある。

(3) 本 願意匠Bの願書に添付した写真のうち左右の側面図及び端面図によれ

ば,本願意匠Bの切縁部近傍の舌側面の一部には側面視で直線状の部分(背面視で

平面状の部分)があることが認められ,したがって舌側面の下端付近に小さな噛み




合せ平面であるファセット面が設けられていることが認められる。

他方,引用意匠Bの公報中の写真のうち左右の側面図及び断面図をみても,舌側

面の切縁部近傍には側面視で直線状の部分がないから,上記ファセット面の有無は

本願意匠Bと引用意匠Bの相違点であると認められ,したがって,かかる相違点を

看過した審決Bの認定には誤りがある。

なお,本願意匠Aと同様に,本願意匠Bにおいても,切縁部近傍の形状の相違は

需要者が注目するポイントの1つで,ファセット面の有無を認定する必要がないと

はいえないし,本願意匠Bの左右の側面図や端面図を見れば,上記ファセット面が

あることを明確に認識でき,特定の方向から見たときにのみ現れる微細な立体形状

にすぎないとはいえない。また,本願意匠Bの特徴記載書(甲B11)の説明図や

ファセット面を着色した図(甲B1の2)がなくても,上記ファセット面の存在を

認定することができる。

(4) 本 願意匠Bの願書に添付した写真及び引用意匠Bの公報中の写真のうち

各左右側面図により両意匠を対比すれば,側面視で,基底面の下端に当たる稜の部

分から切縁部付近にかけての部分に,本願意匠Bでは相当な長さの直線状部分があ

るが,引用意匠Bではかかる直線状部分がなく,円弧状となっている点(原告主張
の相違点(2キ))で両意匠が異なることが認められる。また,上記の稜を頂点とし

て側面視で成す角度の大きさが,本願意匠Bでは鈍角(直角より大)であるが,引

用意匠Bでは鋭角(直角より小)である点(原告主張の相違点(2ク))で両意匠が

異なることが認められる。

したがって,これらの相違点を看過した審決Bの認定には誤りがある。

被告は,相違点(2キ)は側面図のみに基づくものにすぎないとか,人工歯の実

際の大きさに即して観察した場合には認定する必要のないごくわずかな立体形状

すぎないなどと主張する。しかしながら,相違点(2キ)は基底面下端が舌側面側

により突き出しているか否かに関わる相違点で,側面視のときに相違が明瞭となる

ものであるし,人工歯全体の大きさや舌側面全体の表面積に比してごく小さな部分




にすぎないとはいえない。また,背面側,舌側面側に位置する稜が装着時に人工歯

肉等に隠れることがあるとしても,歯科医等の需要者は,人工歯を選択する際,固

定のしやすさやできあがりを考慮して,稜がその一部を成す基底面の形状にも着目

するから(弁論の全趣旨),上記相違点(2キ)(2ク)は,その存在を無視し得る


微細な立体形状となるものではない。

(5) 以上のとおり,審決Bは少なくとも前記(1)ないし(4)の各相違点を看過して

本願意匠Bと引用意匠Bの共通点・相違点を認定しており,この点において認定の

誤りがあるというべきである。

5 取消事由8(本願意匠Bと引用意匠Bの類否判断の誤り)について

(1) そこで進んで,本願意匠Bと引用意匠Bの類否判断の当否について以下検

討する。

(2) 本願意匠Bの形態

ア 本願意匠Bの形態は本判決別紙4「本願意匠B(意願2008−016

903)」のとおりで,その全体の形状は,正面視で上半分弱が略半楕円形状,下半

分強が略等脚台形状の略釣鐘形状であり,側面視で略不等辺三角形状の略くさび形

状である(基本的構成態様)。
イ 上半分弱の部位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも上の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも上の部位は,正面視で略半楕円形状であり,唇面が下方から上方に向

かうにつれて径が次第に小さくなる略円弧曲面形状(ただし,最上辺部付近におい

て曲率がやや小さくなっている。)を成し,舌面側には,大きく斜めに,ごく緩やか

な円弧状凹面に切り欠くとともに,全周縁部に広い略等幅の土手部を残し,中央部

を略すり鉢状凹陥部とする基底面が設けられている。

より詳細に検討すれば,最上端部が側面視で小さな略放物線状を成しており,ま

た,基底面の輪郭に当たる部分及び基底面中央凹陥部の輪郭に当たる部分のうち各

背面側(舌面側)に相当な長さの直線状部分があり,各輪郭のその余の円弧状部分




と相まって略かまぼこ形状を成している。

ウ 下半分強の部分,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも下の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも下の部位は,正面視で略等脚台形状を成し,横幅が上半分弱の部分の

正面視略半円形部の横幅よりやや大きく,唇面は上端付近が横断面で略円弧状とな

っているが,下方に至るに従い薄く(細く)なって平板状になっており,舌面は幅

方向で中央の箇所が浅くえぐられてシャベル状を成し,上方の端で径が最大となる

が,この最大口径部は底面視で大まかに見て,横断面で唇面側が略円弧状,舌面側

が略直線状の略かまぼこ形状を成している。

より詳細に検討すれば,唇面側(歯冠部)には側面視で相当の長さの直線状の部

分があり,したがって正面視で平板状の部分の面積の割合が相当割合を占めている。

また,舌面の上記背面視シャベル状部分は,一様にえぐられているのではなく,背

面視で上方中央やや左及び上方中央やや右において,上下方向に細長い略米粒状に

わずかにより深くえぐった部分があるとともに,切縁部近傍の背面視右下隅に略粟

粒状にわずかにより深くえぐった部分がある。

エ 切縁部は,正面視で右隅部が,内側に向かってわずかに湾曲してすぼま
り,かつ下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状の部位を形成するとともに,

左隅部が,左端付近から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲しており,下端

辺中間付近にわずかに下方に突き出した山状部分が形成されている。また,切縁部

は,側面視では,先端に向かって次第に先細りになる形状を成している。

より詳細に検討すれば,正面視で下端辺中間付近の山状部分の位置は,中央やや

左寄りの位置にあり,この山状部分は側面視で先端部がやや丸みを帯びた形状を成

している。また,切縁部近傍の舌側面の一部には側面視で直線状,背面視で平面状

の小さな部分があり,原告のいうファセット面が設けられている。

(3) 引用意匠Bの形態

ア 引用意匠Bの形態は本判決別紙5「引用意匠B(意匠登録第11970




59号)」のとおりで,その全体の形状,すなわち基本的構成態様は,本願意匠Bの

それと同様である。

なお,引用意匠Bでは,正面視で右端の中ほどやや上部付近にごくわずかな屈曲

凹部が設けられており,右端部の輪郭が中ほどで折れ曲がった形状を成している(相

違点(2ア)。


イ 上半分弱の部位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも上の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも上の部位は,正面視で略半楕円形状であり,唇面が下方から上方に向

かうにつれて径が次第に小さくなる略円弧曲面形状(ただし,最上辺部付近におい

て曲率がやや小さくなっている。)を成し,舌面側には,大きく斜めに,ごく緩やか

な円弧状凹面に切り欠くとともに,全周縁部に広い略等幅の土手部を残し,中央部

を略すり鉢状凹陥部とする基底面が設けられている。

なお,基底面の輪郭に当たる部分及び基底面中央凹陥部の輪郭に当たる部分はそ

の各全体において略円状ないし略楕円状を成している。また,より詳細に検討すれ

ば,最上端部が側面視で小さな略台形状を成している。

ウ 下半分強の部分,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張
り出した箇所よりも下の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも下の部位は,正面視で略等脚台形状を成し,横幅が上半分弱の部分の

正面視略半円形部の横幅よりやや大きく,唇面は上端付近が横断面で略円弧状とな

っているが,下方に至るに従い薄く(細く)なって平板状になっており,舌面は幅

方向で中央の箇所が浅くえぐられてシャベル状を成し,上方の端で径が最大となる

が,この最大口径部は底面視で大まかに見て,横断面で舌面側が略円弧状,唇面側

が略直線状(ないしごく緩やかな曲線状)の略かまぼこ形状を成している。

より詳細に検討すれば,唇側面の歯冠部と歯頸部の境付近から切縁部付近までの

全体が側面視で略円弧状を成しており,したがって,歯冠部の唇面側は正面視で曲

形状を成している。




エ 切縁部は,正面視で右隅部が,内側に向かってわずかに湾曲してすぼま

り,かつ下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状の部位を形成するとともに,

左隅部が,左端付近から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲し,また下端辺

中間付近に下方にやや突き出た山状部分がある形状を成している。また,切縁部は,

側面視では,先端に向かって次第に先細りになる形状を成している。

より詳細に検討すれば,正面視で下端辺中間付近の山状部分の位置は,ほぼ中央

にあり,この山状部分は側面視で先端部がややとがった形状を成している。

(4) 両意匠の類否

本願意匠Bと引用意匠Bを対比すると,その基本的構成態様は共通であるが,本

願意匠Bは引用意匠Bに比べて前後方向により平たく,側面から見るとほっそりし

た印象を与える点に特徴がある(相違点(2カ)。また,本願意匠Bは,人工歯肉


と接続される部分である基底面及びその付近の形状のうち舌面側(背面側)が扁平

になっている点に特徴がある(相違点(2ケ)。そして,本願意匠Bの切縁部は,


ほぼ左右対称の引用意匠Bとは異なって,やや山状部が左に寄った左右非対称とな

っている点に特徴があるし(相違点(2ウ),舌面の下方のシャベル状凹部が一様


でなく,2つの略米粒状凹部と1つの略粟粒状凹部が設けられて部分的に深くえぐ
られている点に特徴がある(相違点(2エ)。さらに,本願意匠Bは,切縁部近傍


の舌側面に,下顎歯との噛み合せを予定した小さな平面部であるファセット面が設

けられている点に特徴がある。

これに対し,引用意匠Bは,本願意匠Bに比べて横断面方向で見たときにより丸

みを帯びており,基底面等は円状ないし楕円状である点に特徴があり,切縁部近傍

にファセット面が設けられているわけではなく,該当する部位は曲面状となってい

る。

そうすると,看者に対し,本願意匠Bは引用意匠Bよりも前後方向に平たい印象

ないしよりほっそりした印象を与えるような美感を生じさせるものであるし,また,

切縁部下端辺のやや山状の位置によって左右非対称の印象を与えるような美感を生




じさせるものである。また,歯科治療の専門家である歯科医,歯科技工士等の需要

者に対し,咬合調整の容易化を目指した機能的部分やより天然歯を模した舌面下部

シャベル状部分が設けられていることに伴う印象,美感を生じさせるものである。

そして,天然歯の形態の模倣を基調とする人工歯の意匠にあっても,かかる印象

は,基本的構成態様を含む,本願意匠Bと引用意匠Bの共通点から生じる印象に埋

没することのないものである。

したがって,審決Bが摘示する相違点(2ア)(2イ)も合わせて考えれば,本


願意匠Bと引用意匠Bは需要者に対して異なる美感を生じさせるというべきであっ

て,両意匠は類似しないものというべきである。

(5) 被告の主張について

被告は,本願意匠Aにおけるのと同様に,基底面等の輪郭の形状の相違(相違点

(2ケ)が本願意匠Bと引用意匠Bの類否判断に影響を及ぼすものではないなどと


主張するが,本願意匠Bにあっても本願意匠Aと同様に,基底面等の輪郭の直線状

部分の大きさは小さいものではないし,背面(舌面)上部(歯根側)が扁平にされ

ている一環として上記直線状部分が現れているのであるから,本願意匠Bの基底面

の具体的な形状から生じる印象が,上記の大づかみに捉えた基底面の形状の特徴か
ら生じる印象や,人工歯全体の基本的構成態様から生じる印象に埋没するものでは

ない。

また,被告は,原告主張に係る相違点(2カ)は天然歯の模倣にすぎず,ありふ

れたものにすぎないなどと主張する。しかしながら,歯冠部の唇側面(側面視)に

おける直線状部分が占める長さの割合に照らせば,相違点(2カ)が対比上無視で

きる微差でないことは明らかであるし,人工歯全体の印象に与える影響も小さなも

のとはいえない。

また,被告は,相違点(2ウ)(2エ)はありふれたもので,意匠の類否判断に


影響を及ぼさないなどと主張する。しかしながら,次の永久歯配置図のとおり,本

願意匠Bは上顎の前歯のうち,最も口先側の中切歯に隣接する側切歯の人工歯の形




状であるところ,側切歯は中切歯より相当左右対称性が小さいことは歯科医等の需

要者には明らかで(例えば,歯科の辞典である医歯薬出版株式会社発行「歯科医学

大事典 縮刷版」
(乙1)の347,1307,1308頁では,中切歯は左右対称

的であるが,側切歯は歯軸に対して遠心に傾斜していることが特徴として指摘され

ているし,歯科医であるA作成の鑑定書(甲B7)でも,歯科医が中切歯の人工歯

と側切歯の人工歯を見誤ることはないとされている。,需要者が左右対称性に対す


る認識を曖昧にしたまま人工歯を選択することは考え難い。

【被告提出の永久歯配置図】




そうすると,本願意匠B全体の正面視及び背面視の各形状(右端の辺の傾きと左




端の辺の傾きが大きく異なることは明らかである。 にもかんがみれば,
) 切縁部の左

右対称性に関わる相違点(2ウ)が対比上無視できる微差でないことは明らかであ

るし,人工歯全体の印象に与える影響も小さなものとはいえない。また,舌面下部

シャベル状部分の形状に係る相違点(2エ)も,その形状の相違は良好に視認し得

る程度の明確なもので,対比上無視できる微差でないことは明らかである。

(6) 小括

結局,審決Bがした意匠の類否判断は誤りであり,原告が主張する取消事由8は

理由がある。



6 取消事由3(本願意匠Cと引用意匠Cの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)について

(1) 本願意匠Cの願書に添付した写真(甲C10,甲C1の1は番号を付した

もの)及び引用意匠Cの公報中の写真(甲C16,甲C2は番号を付したもの)の

うち各左右側面図により両意匠を対比すれば,本願意匠Cの唇側面は,側面視で,

正面側に最も張り出した部分から上方の切縁部付近までにかけての部分に相当の長

さの直線状の部分がある一方,引用意匠Cの唇側面は,側面視で,正面側に最も張
り出した部分から上方の切縁部付近までにかけての部分が緩やかな円弧状を成して

いる点で異なることが認められる。この形状の相違の結果,唇側面の側面視の形状

は,引用意匠Cでは歯冠部と歯頸部の境界から切縁部までの全体が略円弧状を成し

ている一方,本願意匠Cでは歯冠部と歯頸部の境界から正面側に最も張り出した部

分までが略円弧状を成すが,正面側に最も張り出した部分から上方の切縁部付近ま

での部分に相当の長さの直線状の部分がある点で異なっている(原告主張の相違点

(3キ)。


したがって,上記相違点を看過した審決Cの認定には誤りがある。

(2) 本 願意匠Cの願書に添付した写真及び引用意匠Cの公報中の写真のうち

各背面図,底面図により両意匠を対比すれば,基底面の輪郭に当たる部分及び基底




面中央の凹陥部の輪郭に当たる部分のうち各背面側(舌側面側)に,本願意匠Cで

は相当な長さの直線状部分があるが,引用意匠Cではかかる直線状部分がない点で

異なることが認められる。この形状の相違の結果,本願意匠Cの基底面は,輪郭の

一部が直線状でその余が円弧状の略かまぼこ形状を成すが,引用意匠Cの基底面は,

基底面と鉛直の方向から見たときに略円状(上方から見下ろしたときは略楕円状)

ないし略楕円状を成すことになって,両意匠はこの点で異なる(原告主張の相違点

(3コ)。


したがって,上記相違点を看過した審決Cの認定には誤りがある。

(3) 本 願意匠Cの願書に添付した写真のうち左右の側面図及び端面図によれ

ば,本願意匠Cの切縁部近傍の唇側面の一部には側面視で直線状の部分(正面視で

平面状の部分)があることが認められ,したがって唇側面の上端付近に小さな噛み

合せ平面であるファセット面が設けられていることが認められる。

他方,引用意匠Cの公報中の写真のうち左右の側面図及び断面図をみても,唇側

面の切縁部近傍には側面視で直線状の部分がないから,上記ファセット面の有無は

本願意匠Cと引用意匠Cの相違点であると認められ,したがって,かかる相違点を

看過した審決Cの認定には誤りがある。
なお,本願意匠Aと同様に,本願意匠Cにおいても,切縁部近傍の形状の相違は

需要者が注目するポイントの1つで,ファセット面の有無を認定する必要がないと

はいえないし,本願意匠Cの左右の側面図や端面図を見れば,上記ファセット面が

あることを明確に認識でき,特定の方向から見たときにのみ現れる微細な立体形状

にすぎないとはいえない。また,本願意匠Cの特徴記載書(甲C11)の説明図や

ファセット面を着色した図(甲C1の2)がなくても,上記ファセット面の存在を

認定することができる。

(4) 本 願意匠Cの願書に添付した写真及び引用意匠Cの公報中の写真のうち

各左右側面図により両意匠を対比すれば,基底面の上端に当たる稜を頂点として側

面視で成す角度の大きさが,本願意匠Cでは鈍角(直角より大)であるが,引用意




匠Cでは鋭角(直角より小)である点(原告主張の相違点(3ク))で両意匠が異な

ることが認められる。

したがって,この相違点を看過した審決Cの認定には誤りがある。

なお,本願意匠Bと同様に,上記相違点(3ク)が人工歯全体の大きさや舌側面

全体の表面積に比してごく小さな部分に係るものにすぎないとはいえないし,稜が

装着時に人工歯肉等に隠れることがあるとしても,上記相違点(3ク)がその存在

を無視し得る微細な立体形状となるものではない。

(5) 以上のとおり,審決Cは少なくとも前記(1)ないし(4)の各相違点を看過して

本願意匠Cと引用意匠Cの共通点・相違点を認定しており,この点において認定の

誤りがあるというべきである。

7 取消事由9(本願意匠Cと引用意匠Cの類否判断の誤り)について

(1) そこで進んで,本願意匠Cと引用意匠Cの類否判断の当否について以下検

討する。

(2) 本願意匠Cの形態

ア 本願意匠Cの形態は本判決別紙7「本願意匠C(意願2008−016

906)」のとおりで,その全体の形状は,正面視で略上半分が略逆台形状,略下半
分が略逆釣鐘形状の略逆細釣鐘形状,側面視で略三角形状である略くさび形状であ

る(基本的構成態様)。

また,本願意匠Cは,最下端(の中央)が正面視で幅方向の中央よりやや左に位

置し,全体が左右非対称の形状を成しており,側面視では略三角形状を呈する舌面

側の両辺の長さがほぼ等しく(略同長),概ね上下対称の形状を成している。

イ 略上半分の部位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも上の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも上の部位は,正面視で略逆台形状であり,その横幅は,略下半分の部

位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張り出した箇所よりも下の

部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出した箇所よりも下の部位の




正面視での横幅よりもやや大きい。この略上半分の部位の唇面は,下端付近が横断

面で略円弧状となっているが,上方に至るに従い薄く(細く)なって平板状になっ

ており,舌面はごく緩やかな円弧状凹面に切り欠いており,下端で径が最大となっ

ている。

より詳細に検討すれば,側面視で唇面側(歯冠部)には相当な長さの直線状の部

分があり,したがって正面視で平板状の部分の面積の割合が相当割合を占めている。

ウ 略下半分の部位は,正面視で略逆釣鐘形状で,唇面が上方から下方に向

かうにつれて径が次第に小さくなる略円弧状曲面形状(ただし,最下辺部付近にお

いて曲率がやや小さくなっている。)を成し,舌面側には,大きく斜めに,ごく緩や

かな円弧状凹面に切り欠くとともに,全周縁部に広い略等幅の土手部を残し,中央

部を略すり鉢状凹陥部とする基底面が設けられている。

基底面の輪郭に当たる部分及び基底面中央凹陥部の輪郭に当たる部分のうちの各

背面側(舌面側)に相当な長さの直線状部分があり,各輪郭のその余の円弧状部分

と相まって略かまぼこ形状を成している。また,基底面中央凹陥部は縦断面で略丸

形状を成している。

エ 切縁部は,ごく大まかに捉えれば,正面視で上端辺両隅部がいずれも丸

みを帯びているともいえるが,より詳細に捉えれば,右隅部が右端が内側に向かっ

てわずかに湾曲してすぼまり,曲率の大きな小円弧状隅部を経て,横幅方向略中央

部まで,左斜め上に向かってごくわずかに傾斜する上端辺を形成している一方,左

隅部は曲率のより小さな大円弧状隅部を経て,横幅方向略中央部まで,右斜め上に

向かってわずかに傾斜する上端辺を形成しており,かつ右隅部から延びる上端辺と

左隅部から延びる上端辺とが,横幅方向略中央部で交わってわずかに高い山状部を

成しているといえる。

側面視では,先端に向かって次第に先細りになる形状を成している。より詳細に

検討すれば,切縁部の側面視での形状を1つの曲線に見立てたときには,唇面下端

縁と切縁部先端とを直線で結ぶ軸(仮想中心軸)を想定した場合に,この仮想中心




軸の前後両側で上記曲線の曲率がほぼ等しい。また,切縁部近傍の唇側面の一部に

は,側面視で直線状,正面視で平面状の小さな部分があり,原告のいうファセット

面が設けられている。

(3) 引用意匠Cの形態

ア 引用意匠Cの形態は本判決別紙8「引用意匠C(意匠登録第11970

56号)」のとおりで,その全体の形状,すなわち基本的構成態様は,本願意匠Cの

それと同様である。

もっとも,引用意匠Cは,最下端(の中央)が正面視で幅方向の略中央に位置し,

全体が略左右対称の形状を成しており,側面視略三角形状を呈する舌面側の両辺の

長さは,上方の辺が下方の辺よりも長く,上下非対称の形状を成している。

イ 略上半分の部位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張

り出した箇所よりも上の部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出し

た箇所よりも上の部位は,正面視で略逆台形状であり,その横幅は,略下半分の部

位,すなわち唇面側については正面側(唇面側)に最も張り出した箇所よりも下の

部位,舌面側については背面側(舌面側)に最も張り出した箇所よりも下の部位の

正面視での横幅よりもやや大きい。この略上半分の部位の唇面は,下端付近が横断
面で略円弧状となっているが,上方に至るに従い薄く(細く)なって平板状になっ

ており,舌面はごく緩やかな円弧状凹面に切り欠いており,下端で径が最大となっ

ている。

より詳細に検討すれば,唇側面の歯冠部と歯頸部の境付近から切縁部付近までの

全体が側面視で略円弧状を成しており,したがって,歯冠部の唇面側は正面視で曲

形状を成している。

ウ 略下半分の部位は,正面視で略逆釣鐘形状で,唇面が上方から下方に向

かうにつれて径が次第に小さくなる略円弧状曲面形状(ただし,最下辺部付近にお

いて曲率がやや小さくなっている。)を成し,舌面側には,大きく斜めに,ごく緩や

かな円弧状凹面に切り欠くとともに,全周縁部に広い略等幅の土手部を残し,中央




部を略すり鉢状凹陥部とする基底面が設けられている。

基底面の輪郭に当たる部分及び基底面中央凹陥部の輪郭に当たる部分はその全体

において略円状ないし略楕円状を成しており,基底面中央凹陥部は略円すい形状

成している。

エ 切縁部は,正面視で上端辺両隅部がいずれも丸みを帯びており,両隅部

の左右端部から内側に向かって湾曲して上端辺に至る各円弧状部分の曲率はほぼ等

しく,両隅部を除くと上端辺はほぼ水平状である。

側面視では,先端に向かって次第に先細りになる形状を成している。より詳細に

検討すれば,切縁部の側面視形状につき本願意匠Cにおけるのと同様に仮想中心軸

を想定した場合,この仮想中心軸の前後で側面視で曲線部分の曲率が異なっており,

前側の曲線の曲率が相対的に小さく,後側の曲線の曲率が相対的に大きい。

(4) 両意匠の類否

本願意匠Cと引用意匠Cを対比すると,その基本的構成態様は共通であるが,本

願意匠Cは特に正面視で右半分程度が歯軸から正面視で右方向に傾いた形状を成し

ており,このため左右非対称となっている点に特徴があり,概ね左右対称な引用意

匠Cと異なる印象を生じさせている(相違点(3ア)。また,本願意匠Cは引用意

匠Cに比べて前後方向により平たく,側面から見るとほっそりした印象を与える点

に特徴がある(相違点(3キ)。また,本願意匠Cは,人工歯肉と接続される部分


である基底面及びその付近の形状のうち舌面側(背面側)が扁平になっている点に

特徴がある(相違点(3コ)。さらに,本願意匠Cは,切縁部近傍の唇面側に,上


顎歯との噛み合せを予定した小さな平面部であるファセット面が設けられている点

に特徴がある。

これに対し,引用意匠Cは,上記のとおり正面視で概ね左右対称であり,本願意

匠Cに比べて横断面方向で見たときにより丸みを帯びており,基底面等は円状ない

し楕円状である点に特徴があり,切縁部近傍にファセット面が設けられているわけ

ではなく,該当する部位は曲面状となっている。




そうすると,看者に対し,本願意匠Cは,引用意匠Cよりも,左右非対称で,前

後方向に平たい印象ないしほっそりした印象を与えるような美感を生じさせるもの

であるし,歯科治療の専門家である歯科医,歯科技工士等の需要者に対し,咬合調

整の容易化を目指した機能的部分が設けられていることに伴う印象,美感を生じさ

せるものである。

そして,天然歯の形態の模倣を基調とする人工歯の意匠にあっても,かかる印象

は,基本的構成態様を含む,本願意匠Cと引用意匠Cの共通点から生じる印象に埋

没することがないものである。

したがって,審決が摘示する相違点(3イ)ないし(3オ)も合わせて考えれば,

本願意匠Cと引用意匠Cは需要者に対して異なる美感を生じさせるものというべき

であって,両意匠は類似しないものというべきである。

(5) 被告の主張について

被告は,正面視形状の左右対称性に関わる相違点(3ア)は,天然歯の典型的な

形状で,ありふれたものであるなどと主張する。しかしながら,前記5と同様に(本

願意匠Cも本願意匠Bと同様に側切歯の人工歯の意匠である。,歯科医等の需要者


が左右対称性に対する認識を曖昧にしたまま人工歯を選択することは考え難いし,
上記相違点(3ア)が意匠の対比上無視できる微差でないことは明らかで,意匠全

体の印象に対する影響も小さなものとはいえない。

また,被告は,本願意匠A,Bにおけるのと同様に,基底面等の輪郭の形状の相

違(相違点(3コ))が本願意匠Cと引用意匠Cの類否判断に影響を及ぼすものでは

ないなどと主張するが,本願意匠Cにあっても本願意匠A,Bと同様に,基底面等

の輪郭の直線状部分の大きさは小さいものではないし,背面(舌面)上部(歯根側)

が扁平にされている一環として上記直線状部分が現れているのであるから,本願意

匠Cの基底面の具体的な形状から生じる印象が,大づかみに捉えた基底面の形状

特徴から生じる印象や,人工歯全体の基本的構成態様から生じる印象に埋没するも

のではない。




また,被告は,原告主張に係る相違点(3キ)は意匠の類否判断に影響を及ぼす

ものではないなどと主張する。しかしながら,歯冠部の唇側面(側面視)における

直線状部分が占める長さの割合に照らせば,相違点(3キ)が対比上無視できる微

差でないことは明らかであるし,人工歯全体の印象に与える影響も小さなものとは

いえない。

(6) 小括

結局,審決Cがした意匠の類否判断は誤りであり,原告が主張する取消事由9は

理由がある。



8 取消事由4(本願意匠Dと引用意匠Dの共通点・相違点の認定の誤り及び相

違点の看過)について

本願意匠Aと同様に,願書に添付した写真(甲D12,甲D1の1は番号を付し

たもの)のうち左右の側面図及び端面図から,本願意匠Dの切縁部近傍の舌側面の

一部には側面視で直線状の部分(背面視で平面状の部分)があり,舌側面の下端付

近に小さな噛み合せ平面であるファセット面が設けられていることが認められる一

方,引用意匠Dにはかかるファセット面(側面視で直線状の部分)は設けられてい
ない。これは本願意匠Dと引用意匠Dの相違点であるが,審決Dの認定にはかかる

相違点を看過した誤りがある。

なお,上記ファセット面の有無に関する被告の主張に理由がないこと,本願意匠

Dの特徴記載書(甲D13)の説明図やファセット面を着色した図(甲D1の2)

がなくても,ファセット面の存在を認定することができることは,本願意匠Aにお

けるのと同様である。

よって,少なくとも上記相違点を看過した点で審決Dの認定には誤りがある。

9 取消事由10(本願意匠Dと引用意匠Dの類否判断の誤り)について

(1) そこで進んで,本願意匠Dと引用意匠Dの類否判断の当否について以下検

討する。




(2) 本願意匠Dの形態

ア 本願意匠Dは本願意匠Aの先端付近の部分の形態に係る部分意匠である

ところ,その形態は本判決別紙10「本願意匠D(意願2008−016914)」

のとおりで,その全体の形状は,正面視で略扁平台形状,側面視で略逆三角形状の,

略三角柱形状である(基本的構成態様)。

イ 唇面は,上方を横断面で略円弧状に膨出させ,下方に至るに従って次第

に平板状となる形状を成している。

ウ 舌面は,上方の横幅方向中央部分が浅くえぐられている形状を成してい

る。

エ 下端辺は,正面視で,3つのやや山状の部位と2つのやや谷状の部位と

が交互に組み合わせられたごく低い略波状形状を呈している。より詳しく見ると,

右隅部は,右端から内側に向かってわずかに湾曲してすぼまり,かつ下端辺に向か

って角張って屈曲して上記山状部位のうちの右の1つを形成している一方,左隅部

は,左端から下端辺にかけて大きな曲率の円弧状に湾曲して上記山状部位のうちの

左の1つを形成している。

オ 側面視では,切縁部先端に向かって次第に先細りになる形状を成してお
り,より詳細に検討すれば,切縁部近傍の舌側面の一部に側面視で直線状,背面視

で平面状の小さな部分があり,原告のいうファセット面が設けられている。

(3) 引用意匠Dの形態

ア 引用意匠Dは引用意匠Aの先端付近の部分であるところ,その全体の形

状,すなわち基本的構成態様及び唇面,舌面の各形状は本願意匠Dのそれと同様で

ある。

イ 下端辺は,正面視で,中央付近がやや高い高低差のある形状(審決Dの

いう略波状形状)を呈している。より詳しく見ると,左右隅部は,それぞれ左右端

から内側に向かってわずかに湾曲してすぼまり,かつ下端辺に向かって角張って屈

曲して左右の角を形成している。




ウ 側面視では,切縁部先端に向かって次第に先細りになる形状を成してお

り,切縁部近傍の舌側面は曲面形状である。

(4) 両意匠の類否

本願意匠Dと引用意匠Dを対比すると,その基本的構成態様は共通であるが,本

願意匠Dには,切縁部近傍の舌側面の一部に,下顎歯との噛み合せを予定した小さ

な平面部であるファセット面が設けられているという,引用意匠Dにはない特徴が

ある。

本願意匠Dからは,歯科治療の専門家である歯科医等の需要者に対し,咬合調整

の容易化を目指した機能的部分が設けられていることに伴う印象,美感を生じさせ

るものであるし,需要者が歯科治療,咬合調整の際に強く着目する部分に関する事

柄であることにかんがみれば,天然歯の模倣を基調とする人工歯の意匠にあっても,

かかる印象は,基本的構成態様を含む,本願意匠Dと引用意匠Dの共通点から生じ

る印象に埋没することがない。

したがって,審決Dが摘示する相違点(4ア)も合わせて考えれば,本願意匠D

と引用意匠Dは,需要者に対して異なる美感を生じさせるというべきであって,両

意匠は類似しないものというべきである。
よって,審決Dがした両意匠の類否判断は上記結論に反し,誤りであるから,原

告が主張する取消事由10は理由がある。



10 取消事由5(本願意匠Eと引用意匠Eの共通点・相違点の認定の誤り及び

相違点の看過)について

本願意匠Bと同様に,願書に添付した写真(甲E10,甲E1の1は番号を付し

たもの)のうち左右の側面図及び端面図から,本願意匠Eの切縁部近傍の舌側面の

一部には側面視で直線状の部分(背面視で平面状の部分)があり,舌側面の下端付

近に小さな噛み合せ平面であるファセット面が設けられていることが認められる一

方,引用意匠Eにはかかるファセット面(側面視で直線状の部分)は設けられてい




ない。これは本願意匠Eと引用意匠Eの相違点であるが,審決Eの認定にはかかる

相違点を看過した誤りがある。

なお,上記ファセット面の有無に関する被告の主張に理由がないこと,本願意匠

Eの特徴記載書(甲E11)の説明図やファセット面を着色した図(甲E1の2)

がなくても,ファセット面の存在を認定することができることは,本願意匠Bにお

けるのと同様である。

よって,少なくとも上記相違点を看過した点で審決Eの認定には誤りがある。

11 取消事由11(本願意匠Eと引用意匠Eの類否判断の誤り)について

(1) そこで進んで,本願意匠Eと引用意匠Eの類否判断の当否について以下検

討する。

(2) 本願意匠Eの形態

ア 本願意匠Eは本願意匠Bの先端付近の部分の形態に係る部分意匠である

ところ,その形態は本判決別紙12「本願意匠E(意願2008−016915)」

のとおりで,その全体の形状は,正面視で底部左右両隅が丸められた(隅丸)略横

長長方形状,側面視で略逆三角形状の,略倒三角柱形状である(基本的構成態様)。

イ 唇面は,上方を横断面でやや略凸円弧状に膨出させ,下方に至るに従っ
て次第に薄くなって平板状となる形状を成している。

ウ 舌面は,上方の幅方向中央部分が浅くえぐられている形状を成している。

より詳細に検討すれば,上記の浅くえぐられた部分は,一様にえぐられているので

はなく,背面視で上方中央やや左及び上方中央やや右において,上下方向に細長い

略半米粒状(米粒を短手方向に半分に切った形状)にわずかにより深くえぐった部

分があるとともに,切縁部近傍の背面視右下隅に略粟粒状にわずかにより深くえぐ

った部分がある。

エ 下端部は,正面視で右隅部が,内側に向かってわずかに湾曲してすぼま

り,かつ下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状の部位を形成するとともに,

左隅部が,左端付近から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲しており,下端




辺中央やや左側にわずかに下方に突き出した山状部分が形成されている。

また,切縁部は,側面視では,先端に向かって次第に先細りになる形状を成して

おり,より詳細に検討すれば,先端部が側面視で丸みを帯びており,切縁部近傍の

舌側面の一部には,側面視で直線状,背面視で平面状の小さな部分があり,原告の

いうファセット面が設けられている。

(3) 引用意匠Eの形態

ア 引用意匠Eは引用意匠Bの先端付近の部分であるところ,その全体の形

状,すなわち基本的構成態様及び唇面の形状は本願意匠Eのそれと同様である。

イ 舌面は,本願意匠Eと同様,上方の幅方向中央部分が浅くえぐられてい

形状を成している。

ウ 下端部は,正面視で右隅部が,内側に向かってわずかに湾曲してすぼま

り,かつ下端辺に向かって角張って屈曲してやや山状の部位を形成するとともに,

左隅部が,左端付近から下端辺にかけて曲率の大きな円弧状に湾曲しており,下端

辺略中央にやや山状部分が形成されている。

また,切縁部は,側面視では,先端に向かって次第に先細りになる形状を成して

おり,先端部は側面視でとがった形状を成しているが,舌側面は曲面形状である。
(4) 両意匠の類否

本願意匠Eと引用意匠Eを対比すると,その基本的構成態様は共通であるが,本

願意匠Eには,切縁部近傍の舌側面の一部に,下顎歯との噛み合せを予定した小さ

な平面部であるファセット面が設けられているという,引用意匠Eにはない特徴が

ある。

したがって,本願意匠Eからは,歯科治療の専門家である歯科医等の需要者に対

し,咬合調整の容易化を目指した機能的部分が設けられていることに伴う印象,美

感を生じさせるものであるし,需要者が歯科治療,咬合調整の際に強く着目する部

分に関する事柄であることにかんがみれば,天然歯の模倣を基調とする人工歯の意

匠にあっても,かかる印象は,基本的構成態様を含む,本願意匠Eと引用意匠Eの




共通点から生じる印象に埋没することがない。

したがって,審決Eが摘示する相違点(5ア)(5イ)も合わせて考えれば,本


願意匠Eと引用意匠Eは,需要者に対して異なる美感を生じさせるというべきであ

って,両意匠は類似しないものというべきである。

よって,審決Eがした両意匠の類否判断は上記結論に反し,誤りであるから,原

告が主張する取消事由11は理由がある。



12 取消事由6(本願意匠Fと引用意匠Fの共通点・相違点の認定の誤り及び

相違点の看過)について

本願意匠Cと同様に,願書に添付した写真(甲F10,甲F1の1は番号を付し

たもの)のうち左右の側面図及び端面図から,本願意匠Fの切縁部近傍の唇側面の

一部には側面視で直線状の部分(正面視で平面状の部分)があり,唇側面の下端付

近に小さな噛み合せ平面であるファセット面が設けられていることが認められる一

方,引用意匠Fにはかかるファセット面(側面視で直線状の部分)は設けられてい

ない。これは本願意匠Fと引用意匠Fの相違点であるが,審決Fの認定にはかかる

相違点を看過した誤りがある。
なお,上記ファセット面の有無に関する被告の主張に理由がないこと,本願意匠

Fの特徴記載書(甲F11)の説明図やファセット面を着色した図(甲F1の2)

がなくても,ファセット面の存在を認定することができることは,本願意匠Cにお

けるのと同様である。

よって,少なくとも上記相違点を看過した点で審決Fの認定には誤りがある。

13 取消事由12(本願意匠Fと引用意匠Fの類否判断の誤り)について

(1) そこで進んで,本願意匠Fと引用意匠Fの類否判断の当否について以下検

討する。

(2) 本願意匠Fの形態

ア 本願意匠Fは本願意匠Fの先端付近の部分の形態に係る部分意匠である




ところ,その形態は本判決別紙14「本願意匠F(意願2008−016918)」

のとおりで,その全体の形状は,大まかに見て,正面視で上端左右両隅が丸められ

た略扁平台形状,側面視で切縁側が次第に先細りとなる形状である(基本的構成態

様)。

イ 唇面は,下端付近を横断面でやや略凸円弧状に膨出させ,上方に至るに

従って次第に薄くなって平板状となる形状を成している。

ウ 切縁部は,ごく大まかに捉えれば,上記アのとおり正面視で上端辺両隅

部がいずれも丸みを帯びているともいえるが,より詳細に捉えれば,右隅部が右端

が内側に向かってわずかに湾曲してすぼまり,曲率の大きな小円弧状隅部を経て,

横幅方向略中央部まで,左斜め上に向かってごくわずかに傾斜する上端辺を形成し

ている一方,左隅部は曲率のより小さな大円弧状隅部を経て,横幅方向略中央部ま

で,右斜め上に向かってわずかに傾斜する上端辺を形成しており,かつ右隅部から

延びる上端辺と左隅部から延びる上端辺とが,横幅方向略中央部で交わってわずか

に高い山状部を成しているといえる。

側面視では,上記のとおり先端に向かって次第に先細りになる形状を成している

が,より詳細に検討すれば,切縁部の側面視での形状を1つの曲線に見立て,唇面
下端縁と切縁部先端とを直線で結ぶ軸(仮想中心軸)を想定した場合に,この仮想

中心軸の前後両側で上記曲線の曲率がほぼ等しい。また,切縁部近傍の唇側面の一

部には,側面視で直線状,正面視で平面状の小さな部分があり,原告のいうファセ

ット面が設けられている。

(3) 引用意匠Fの形態

ア 引用意匠Fは引用意匠Cの先端付近の部分であるところ,その全体の形

状は大まかに見て,正面視で上端左右両隅が丸められた略扁平台形状,側面視で切

縁側が次第に先細りとなる形状であって(基本的構成態様) この限りで本願意匠F


と形態が共通である。

イ 唇面は,本願意匠と同様に,下端付近を横断面でやや略凸円弧状に膨出




させ,上方に至るに従って次第に薄くなって平板状となる形状を成している。

ウ 切縁部は,正面視で左右両隅部の左右端部から内側に向かって湾曲して

上端辺に至る各円弧状部分の曲率はほぼ等しく,両隅部を除くと上端辺はほぼ水平

状である。

側面視では,先端に向かって先細りになる形状を成しているが,より詳細に検討

すれば,前記(2)ウと同様に仮想中心軸を想定した場合,この仮想中心軸の前後で側

面視曲線部分の曲率が異なっており,前側の曲線の曲率が相対的に小さく,後側の

曲線の曲率が相対的に大きい。

(4) 両意匠の類否

本願意匠Fと引用意匠Fを対比すると,その全体形状の大まかな構成は共通であ

るが,本願意匠Fには,切縁部近傍の唇側面の一部に,上顎歯との噛み合せを予定

した小さな平面部であるファセット面が設けられているという,引用意匠Fにはな

い特徴がある。

したがって,本願意匠Fからは,歯科治療の専門家である歯科医等の需要者に対

し,咬合調整の容易化を目指した機能的部分が設けられていることに伴う印象,美

感を生じさせるものであるし,需要者が歯科治療,咬合調整の際に強く着目する部
分に関する事柄であることにかんがみれば,天然歯の模倣を基調とする人工歯の意

匠にあっても,かかる印象は,基本的構成態様を含む,本願意匠Fと引用意匠Fの

共通点から生じる印象に埋没することがない。

したがって,審決Fが摘示する相違点(6ア)(6イ)も合わせて考えれば,本


願意匠Fと引用意匠Fは,需要者に対して異なる美感を生じさせるというべきであ

って,両意匠は類似しないものというべきである。

よって,審決Fがした両意匠の類否判断は上記結論に反し,誤りであるから,原

告が主張する取消事由12は理由がある。



第6 結論




以上の次第で,審決AないしFは相違点を看過し,意匠の類否判断を誤ったもの

であるから,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

真 辺 朋 子




裁判官

田 邉 実






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