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関連審決 無効2008-880001
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  3条1項3号 /  意匠の類否 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10388号 審決取消請求事件
原告ヨークス株式会社
訴訟代理人弁理士山内康伸,中井博,山内章子
被告安達興業株式会社
訴訟代理人弁理士松原美代子,川越弘
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/02/24
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2008-880001号事件について平成20年9月17日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告を意匠権者とする後記本件登録意匠について被告が無効審判請求をしたところ,特許庁から登録を無効とするとの審決がされたので,原告が同審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(争いのない事実)原告は,意匠に係る物品を「健康帯」とし,その構成を別紙第1のとおりとする登録第1108671号意匠(平成12年1月21日出願,平成13年3月9日設定登録,甲3。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
被告は,平成20年2月4日,特許庁に対し,本件登録意匠につき意匠登録無効審判を請求した。
特許庁は,上記請求を無効2008-880001号事件として審理し,平成20年9月17日,「登録第1108671号の登録を無効とする。」との審決をし,その謄本は同月26日,原告に送達された。
2審決の要旨審決は,本件登録意匠は,その意匠登録出願前に発行された「なら・グッドデザイン選定品カタログ(’98〜’99)」(甲1,2。以下「本件カタログ」という。)の2頁に掲載された「ファッション部門優秀賞 Princess bloomers プリンセスブルマー」の意匠(別紙第2の写真のとおりの意匠。以下「引用意匠」という。)に類似し,意匠法3条1項3号に規定する意匠に該当するから,本件意匠登録は同法3条の規定に違反してされたものであり,同法48条1項の規定により無効にすべきものであるとした。
審決が上記結論に至った理由は,以下のとおりである。なお,本訴の書証番号を付記した。
(1)本件登録意匠「本件登録意匠は,平成12年1月21日に意匠登録出願され,平成13年3月9日に登録の設定がされたものであり,その願書及び見本によれば,意匠に係る物品が「健康帯」で,その形態が見本に現されたとおりのものである(別紙第1(特許庁において見本を電子ファイル化した写真)参照。)。」(2)引用意匠「引用意匠は,(財)奈良県広域地場産業振興センターが本件登録意匠出願前(平成10年11月末頃)に発行した「なら・グッドデザイン選定品カタログ(‘98〜’99)」の第2頁に記載されたブルマー「ファッション部門優秀賞Princess bloomersプリンセスブルマー」の意匠であり,意匠に係る物品が「ブルマー」で,その形態が当該カタログ所載の写真に現わされたとおりのものである(別紙第2参照)。また,当該カタログの記載によれば,「【審査講評】このブルマーは,ファッション性を好む女子高生を中心ターゲットにした製品ですが,おしゃれ感覚を意識したデザイン構成,伸縮面などの機能性,天然素材(ウール)と合繊素材(アクリルやナイロン等)の良さをミックスした点など,従来の同製品(判決注:「同類品」の誤記と認める。)に余り見られなかった商品」である。」(3)本件登録意匠と引用意匠との対比「本件登録意匠と引用意匠を対比すると,両意匠の意匠に係る物品は「健康帯」と「ブルマー」であり,いずれも「衣服」のうち「下着」に含まれる「パンツ」等であって,意匠に係る物品が類似するものと認められる(意匠法施行規則別表第1「二衣服」参照)。
そして,両意匠の形態については,以下の共通点と差異点が認められる。(なお,引用意匠を現した写真には,様々な模様と色彩がほどこされた複数の意匠が現されているが,いずれも同一の形状の意匠であり,共通する形状の意匠を引用意匠として対比する。色彩については,本願登録意匠とほぼ一致する赤色のものがある。)」ア共通点「両意匠は,(A)全体が伸縮性を有する素材で形成されたやや厚手のパンツ形状のものであって,着用した場合は体にフィットし,脱いだ場合はやや全体が縮小する点,(B)脱いだ場合の正面視は,全体がやや縦長で,上端腰部にやや太めの帯状に縦縞の網目模様(ゴム編み)を配し,上端腰部がやや縮んで波形状となり,下部の裾部は大きく縮んで大きな襞形状を形成した点,(C)着用した場合は,全体が伸びた状態となり,上端腰部も裾部も緩みのない態様となるが,全体的に伸縮性があり腰部も裾部も形状が固定的なものではない点,(D)上端腰部の帯状の幅は,全体の高さの略10分の1程度であって,下部の裾部は上端腰部よりもやや長い幅に形成された点において共通する。」(判決注:以下,順に「共通点(A)」,「共通点(B)などという。)イ差異点「(a)本件登録意匠は,着用した際に腹部に当たる部分,すなわち全体の略上半分がやや厚みがあり,下半分の厚さの薄い部分との境界に段差が形成され,上下を分ける中央横線模様が現れているのに対し,引用意匠は,全体が同じ厚さであって中央横線模様は現れていない点,(b)本件登録意匠は,正面視で,裾が斜め左右に若干切れ上っているのに対し,引用意匠は裾が略水平である点に差異が認められる。」(判決注:以下,順に「差異点(a)」,「差異点(b)」という。)(4)本件登録意匠と引用意匠との類否判断意匠の類否を判断するに当たっては,両意匠の共通点及び差異点について,意匠全体に占める割合,物品特性,及び公知意匠を参酌し,美感の観点から看者の注意を引く部分か否かを評価して,意匠全体として両意匠の全ての共通点及び差異点を総合的に観察した場合に,需要者に対して共通する美感を起こさせるか否かを判断する。
そこで検討するに,この種パンツ等は着脱して使用するものであるから,脱いだ場合及び着用した場合の全体的態様について注目するとともに,身につけるものであるから,或る程度は具体的構成態様についても注目しつつ意匠全体を観察するものである。
そうすると,本件登録意匠と引用意匠の共通点(A)の全体が伸縮性を有する素材で形成されたやや厚手のパンツ形状のものであって,着用した場合は体にフィットし,脱いだ場合はやや全体が縮小する構成態様は,両意匠の全体的な基本的構成態様であって,両意匠の造形的な骨格を形成し,看者の注意を引くものである。また,このような伸縮性を有する素材で形成されたやや厚手のパンツ形状のものは,本件登録意匠出願前及び引用意匠の以前にはあまりみられないもので,両意匠の特徴的な構成態様であり,格別に看者の注意を引くものと認められる。
さらに,脱いだ場合の共通点(B)の構成態様,及び着用した場合の共通点(C)の構成態様は,いずれも両意匠のほとんど全体を占めており,看者の注意を引くものである。したがって,両意匠は,全体的な基本的構成態様であり,かつ,特徴的な構成態様である(A)において共通し,また,着脱いずれの状態でもほとんどの部分が共通するとともに,具体的なプロポーション(D)においても共通性が顕著であり,両意匠は全体として看者に共通する美感を起こさせるものである。
これに対し,両意匠の差異は微弱であって,両意匠の共通する美感を変更するまでのものではない。
すなわち,差異点(a)は,本件登録意匠の厚みの差は僅かなもので,境界に現れる中央横線模様も顕著に目立つ態様のものではなく,かつ,本件登録意匠のように厚みの差によってパンツ中央部に横線模様を現す構成態様もすでにありふれた態様であることを考慮すると(例えば,別紙第3の公知意匠1ないし4参照。),共通する特徴的な全体的構成態様に比較して,この差異点は格別看者の注意を引くものではなく,類否判断を左右する程のものではない。
(なお,被請求人は,「この特徴は写真では現れにくいが見本では顕著な特徴となって現れており」と主張するが,見本においても顕著なものではない。)また,差異点(b)は,本件登録意匠の斜めの切れ上がりは格別大きな角度ではなく,両意匠の角度の差異は微差であり,また,裾が斜め左右に若干切れ上っている態様も略水平である態様も,この種パンツ等においては例を挙げるまでもなくありふれた態様であり,かつ,材質に伸縮性があるため,着用した場合の裾の状態も固定的なものではなく水平からやや斜め状態まで可動性があることを考慮すると,この差異点は看者の注意を引くものではない。そして,これら差異点を総合して勘案しても,両意匠の全体として共通する美感を変更するまでのものではない。
以上のとおり,両意匠は,意匠に係る物品が類似し,形態においても,共通点が差異点を凌駕し,全体として看者に共通する美感を起こさせるものであるから,両意匠は類似する。」第3審決取消事由の要点審決は,本件登録意匠の特徴の認定を誤り(取消事由1),引用意匠の認定を誤り(取消事由2),さらに,類否判断の手法を誤った(取消事由3)もので,これらの誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(本件登録意匠の認定の誤り)(1)本件登録意匠は,見本により登録されたものであり,見本では,写真等では看取が容易でない嵩高感,厚さの厚い部分と薄い部分の段差,及び糸の性質や編み方からもたらされる柔らかい感じの風合いを容易に看取することができる。
(2)本件登録意匠の健康帯は,次の図1に示すとおり,略上半分(腹部に相当する部分)と略下半分との間に段差があり,上半分には嵩高感があって,このことは顕著に看取できる。
図1すなわち,略上半分は糸を二重に重ねた編み方をしているが,略下半分は糸を一重編みしたものであり,編み糸が上半分(つまり,腹部)において急に二重になっているため,表面からみたとき,厚さの違いが2倍になって現れ,それによって生ずる段差が明瞭に現れる。
人の眼にとって,厚さの違いが,ある部分から急に2倍になることは,非常に目立ちやすいものである。市場でも,この厚さの違い,嵩高感の存在が目立つことから,一般消費者に受け入れられ,販売実績は本件登録意匠に係る製品になって急激に増加した。
(3)本件登録意匠の健康帯は,糸を選び,編み方を工夫したことにより,肌触りが非常に柔らかく仕上がっており,それが見た目にも感じられるという特徴がある。見た目に柔らかいから,思わず手で触ったり,撫でたりするが,これは視覚的に柔らかい感じの風合いを与えているからである。この柔らかい風合いも本件登録意匠の特徴である。
(4)以上のように,本件登録意匠は,見本をもってすれば容易に特徴と判別できる嵩高感や段差の存在,柔らかい風合いを備えている。審決はこれらの特徴を無視した結果,以下のとおり認定を誤ったものである。
?@審決は,「両意匠は,(A)全体が・・・やや厚手のパンツ形状のものであって」(審決書6頁1〜2行),「本件登録意匠と引用意匠の共通点(A)の全体が・・・やや厚手のパンツ形状のものであ(る)・・・構成態様は,両意匠の全体的な基本的構成態様であって」(審決書6頁28〜31行),「両意匠は,全体的な基本的構成態様であり,かつ特徴的な構成態様である(A)において共通し」(審決書6頁37〜39行)と認定するが,いずれも誤りである。本件登録意匠は上半分に嵩高感があり,下半分が薄く仕上げられている特徴があるので,「やや厚手のパンツ形状」と一くくりにすることはできない。審決の上記認定は,本件登録意匠の上記形態上の特徴を看過するものである。
?A審決の「差異点(a)は,本件登録意匠の厚みの差は僅かなもので,境界に現れる中央横断模様も顕著に見立つ態様のものでなく」(審決書7頁5〜6行)との認定も,本件登録意匠は上半分に嵩高感があり,下半分が薄いという形態上の特徴を根本的に看過している点で誤りである。
2取消事由2(引用意匠の認定の誤り)審決の引用意匠の認定は,次の点で誤っている。
(1)まず,引用意匠のうち,マネキンの前に重ねておいた数枚のニット製パンツは,形状の全体が見て取れないので,類否判断に用いることができないことは明らかである。
次に,マネキンに着せた引用意匠は,非常に小さな写真であり,しかもマネキンに着せたことから生地が伸びており,マネキンの形態がそのまま反映した写真となっているので,ニット製パンツの極く基本的な形態しか見て取ることができない。
このように,引用意匠は,パンツ本来の形態の呈示が充分にできていないものである。
(2)それにもかかわらず,審決は,共通点と差異点を認定しているが,これは,前記1のとおり,本件登録意匠の特徴を誤認したことに起因しているのであろうが,引用意匠の把え方を誤ったことにもよるものである。
3取消事由3(類否判断の手法の誤り)二つの意匠の類否判断をするには,比較されるべき二つの意匠の形態が明瞭に把握できることが大前提である。
しかるに,審決は引用意匠の写真がパンツの形態を不充分にしか呈示できていないにも拘らず,無理に類否判断を行っている。すなわち,審決は,両意匠の共通点も相違点も対比判断するには不適切な写真を引用意匠としたが,このことは類否判断の手法を誤るものであり,この誤りは,審決の結論に影響を及ぼす重大な誤りというべきである。
第4被告の反論の要点1取消事由1(本件登録意匠の認定の誤り)に対して(1)原告は,本件登録意匠の腹部に相当する部分は二重に重ねた編み方をしているから「表面から見たとき,厚さの違いが2倍になって現れ,それによって生ずる段差が明瞭に現れる」とし,さらに,「人の眼にとって,厚さの違いがある部分から急に2倍になることは,非常に目立ちやすいものである」と主張する。
しかし,本件登録意匠の腹部が仮に二重に重ねた編み方をしていたとしても,本件登録意匠に係る公報(甲3)における側面図をみると,一重に編んである下半分の厚みと略同等であり,到底2倍の厚みを看取することはできない。本件登録意匠は,二重になった腹部の厚みに支えられ,その境界あたりの下半分の編地部分が引き上げられるため,完全な段落ち状態にはならず,外観上に表われるその厚みの変化は極めて小さなものである。
また,本件登録意匠は,非着用の状態で,上端のゴム編み部分が強く縮み,かつ,その下方の腰部には波状に皺がよって厚みを増しており,この部分が腹部とつながっていることから,腹部の二重編み部分が際立って厚手になっているものとは看取されない。
以上のことから,本件登録意匠の上半分と下半分の厚みに差異があったとしても,それは相対的な問題であって,本件登録意匠は依然としてやや厚手のパンツ形状のものである点に相違はなく,審決の共通点(A)の認定に誤りはない。
また,差異点(a)が類否判断に与える影響について,審決が「本件登録意匠の厚みの差は僅かなもので,境界に現れる中央横線模様も顕著に目立つものでない」とした点についても,本件登録意匠の腹部周辺とその下方部分の厚みの違いを看過したとはいえず,適正な判断である。
(2)また,原告は,本件登録意匠が視覚的に柔らかい風合いをもっていると主張するが,この主張は,肌触りが非常に柔らかく仕上がっているという触覚を中心としたものであって,意匠法2条の意匠の定義等でいう視覚を通じて美感を起こさせるものという範疇を超えている可能性がある。もし,この点があくまで視覚上の主張であるとすれば,引用意匠も,本件カタログにおける審査講評の「伸縮性などの機能性,天然素材(ウール)と合繊素材(アクリルやナイロン等)の良さをミックスした点」などの記載,直接肌につける下着である点,及び引用意匠の写真等から総合的に判断すれば,本件登録意匠と格別の差異を有するものとはいえず,審決がこの点を両意匠の差異点として認定していないことに誤りはない。
(3)さらに,原告は,本件登録意匠の形態上の特徴として,上半分に嵩高感があり,下半分が薄い点を挙げている。しかし,上記のようにその厚みの差異は視覚的に判別しにくく,ファッション的な観点から見れば,むしろこのような腹巻を連想させる段差は目立たせたくない部分であるはずである。
他方,審決の認定した両意匠の共通点(A),(B)のうち,とりわけ,伸縮性のよさから,非着用時においては下部の裾部が大きな襞を形成し,着用時にはその襞が完全に消えて体に密着する態様は,通常の下着にみられるような縁レースの存在とは全く異なるものであり,従来の毛糸パンツにはない外観の愛らしさを与えるものであって,需要者の注意を強く惹くものである。
このように本件登録意匠と引用意匠は,その伸縮性の良さ,従来の毛糸パンツにはみられないファッション性の良さを具体的な形態とした,両意匠の共通点(A)ないし(D)が相俟った態様がその特徴である。
したがって,本件登録意匠と引用意匠は,共通点が差異点を凌駕しており,全体として看者に共通する美感を起こさせるものであって,本件登録意匠を無効にすべきものとした審決に誤りはない。
2取消事由2(引用意匠の認定の誤り)及び3(類否判断の手法の誤り)に対して(1)原告は,引用意匠のうち,マネキンの前に重ねておいた数枚のニット製パンツは,形状の全体が見てとれないので類否判断に用いることができず,また,マネキンに着せた引用意匠は,非常に小さな写真であり,しかもマネキンに着せたことから生地が伸びているから,引用意匠の形態の提示が充分にできていないと主張する。
しかし,その一方で,審決が行った両意匠の共通点のうち(B),(C)及び(D)は認め,差異点(a),(b)についても争わないとしている。また,引用意匠のマネキンの前に置かれた数枚のものは,別紙第2においても鮮明であり,その視点も,通常,需要者がこの種物品を見る視点と格別に隔たったものではなく,両意匠の態様を認定するに不十分なものではない。さらに,マネキンに着用させた態様については,その伸縮性の良さや着用時の態様が明確にされるところから,両意匠の態様の対比を行うに当たって,極めて有用なものである。
(2)以上のように,原告が行った審決の内容に対する認否及び引用意匠が記載された本件カタログの写真からみて,原告の主張するような引用意匠の開示における問題はなく,このような引用意匠に基づいて判断を行った審決に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(本件登録意匠の認定の誤り)について(1)審決が認定した本件登録意匠と引用意匠との共通点及び相違点は,次のとおりである。
ア共通点(A)全体が伸縮性を有する素材で形成されたやや厚手のパンツ形状のものであって,着用した場合は体にフィットし,脱いだ場合はやや全体が縮小する点(B)脱いだ場合の正面視は,全体がやや縦長で,上端腰部にやや太めの帯状に縦縞の網目模様(ゴム編み)を配し,上端腰部がやや縮んで波形状となり,下部の裾部は大きく縮んで大きな襞形状を形成した点(C)着用した場合は,全体が伸びた状態となり,上端腰部も裾部も緩みのない態様となるが,全体的に伸縮性があり腰部も裾部も形状が固定的なものではない点(D)上端腰部の帯状の幅は,全体の高さの略10分の1程度であって,下部の裾部は上端腰部よりもやや長い幅に形成された点イ差異点(a)本件登録意匠は,着用した際に腹部に当たる部分,すなわち全体の略上半分がやや厚みがあり,下半分の厚さの薄い部分との境界に段差が形成され,上下を分ける中央横線模様が現れているのに対し,引用意匠は,全体が同じ厚さであって中央横線模様は現れていない点(b)本件登録意匠は,正面視で,裾が斜め左右に若干切れ上っているのに対し,引用意匠は裾が略水平である点(2)原告は,両意匠の共通点のうち(A)を除く(B)ないし(D)を認め,また,相違点(a)及び(b)を認めている。
そして,原告は,本件登録意匠は上半分に嵩高感があり,下半分が薄いという形態上の特徴があるから,両意匠を共通点(A)の「やや厚手のパンツ形状」というように一括りすることはできないと主張するので,この点を検討する。
ア本件意匠登録は見本により行われたものであるところ,本件登録意匠に係る公報(甲3)には当該見本を撮影した写真(甲4)が掲載されており,これと本件カタログに記載された引用意匠によれば,本件登録意匠も引用意匠も共に「やや厚手のパンツ形状のもの」であることが認められる。そして,本件登録意匠に係る物品が着脱して使用するパンツであることからすれば,審決の認定するとおり,共通点(A)の構成態様が両意匠の造形的な骨格を形成し,看者の注意を惹く基本的な構成態様であると認められ,これに争いのない共通点(B)ないし(D)を勘案して,着用時及び被着用時における全体的な形態の共通性及び物品における各部位のプロポーションの共通性を合わせて観察すれば,審決の認定するとおり,両意匠は全体として看者に対して共通する美感を惹起し,類似するとの印象を与えるものであることが認められる。
イこれに対し,原告は前記のとおり主張するところ,同主張にいう形態上の特徴は,審決が差異点(a)として認定した本件登録意匠の「全体の略上半分がやや厚みがあり,下半分の厚さの薄い部分との境界に段差が形成され,上下を分ける中央横線模様が現れている」構成態様を,表現を変えて述べるものであると解されるので,その趣旨は,差異点(a)における本件登録意匠の上記構成態様が,本件登録意匠において看者の注意を惹く要部であって,その差異がもたらす意匠的効果が,両意匠の共通点(A)ないし(D)が看者に与える類似するとの印象を凌ぐものがあり,看者に対し全体として異なった美感ないし美的印象を与えるものであることを主張するものであると解される。
そこで,この観点から検討するに,本件登録意匠に係る公報(甲3)の写真(甲4)及び検甲第1号証(本件登録意匠の見本と同時に作成され,見本と同一の形態の物であると原告が主張するもの)によると,特に非着用時には正面視において本件登録意匠の略上半分が略下半分よりも厚みがあり,厚みのある上半分と厚さの薄い下半分との境界に段差が形成され,この段差に沿って本件登録意匠に係る物品を上下に分ける中央横線模様が現れていることは比較的よく看取することができるものの,この中央横線模様は素材の性格上,シャープな横線となって現われることは困難であるし,また,本件登録意匠に係る物品の性質上,そのような形態上の特徴が需要者の注意を惹くものであることを認めるに足りる証拠もない。また,非着用の状態では,上記の形態上の特徴は,本件登録意匠の全体が伸縮性のある素材を編んで形成されて全体的にふわりと柔らかく弾性的な印象を与えていることに加え,上部にゴム編みとなって縮んでいる帯状の部分及び下部の裾部に縮んだ大きな襞状の部分が存在し,これらが凹凸感を与えていることから,これらから受ける印象に埋没し,美感として看者に訴えるところが弱くなっており,看者の注意を格別に惹くものとなっているとはいえず,これらのことに照らし,結局,上記の形態上の特徴は本件登録意匠の形態全体を特徴づける要素であるとは認められないし,また,着用した状態では,上記の形態上の特徴は,本件登録意匠の全体が伸張することにより更に印象の弱い目立たないものとなっているものと認められる。
したがって,差異点(a)における本件登録意匠の「全体の略上半分がやや厚みがあり,下半分の厚さの薄い部分との境界に段差が形成され,上下を分ける中央横線模様が現れている」構成態様のもたらす意匠的効果は,両意匠の共通点(A)ないし(D)が看者に与える類似するとの印象を凌駕するものではなく,看者に対し全体として異なった美感ないし美的印象を与えるものとは認められないから,原告の上記主張は,採用することができない。
(3)原告は,視覚的に柔らかい感じの風合いも本件登録意匠の特徴であると主張するところ,これによる審決の具体的な認定判断の誤りを指摘していないので,取消事由としての主張ではないとも解されるが,その点を措くとしても,本件カタログ(甲1,2)によれば,引用意匠は「伸縮性などの機能性,天然素材(ウール)と合繊素材(アクリルやナイロン等)の良さをミックスした」ものであり,これに引用意匠が下着であるという商品の性質及び本件カタログの写真等を総合するならば,「柔らかい感じの風合い」において本件登録意匠と格別の差異を有するものとは認められないから,原告の主張は失当である。
(4)以上のとおりであるから,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(引用意匠の認定の誤り)及び3(類否判断の手法の誤り)について原告は,引用意匠のうち,マネキンの前に重ねておいた数枚のニット製パンツは,形状の全体が見てとれないので類否判断に用いることができず,また,マネキンに着せた引用意匠は,非常に小さな写真であり,しかもマネキンに着せたことから生地が伸びているから,引用意匠の形態の提示が充分にできていないと主張する(取消事由2)。
そこで検討するに,引用意匠は対比判断の出発点となるものであるから,できる限り意匠の形状模様等が明確に把握できるものである必要があるところ,確かに,前掲甲第1,2号証によれば,引用意匠の表示部分は小さく,かつ,引用意匠の配置も正面視が十分できないなど対比判断を厳密に行うのに十分な明瞭性を欠くきらいがあり,引用意匠としての適格性が劣るものといわざるを得ない。しかしながら,審決の認定判断及びこれに対する原告の認否を前提とする限り,本件において,本件登録意匠と引用意匠との類否判断は,前記1に説示したとおり,本件カタログによってもそれなりに可能であるものと認められるから,原告の主張を直ちに採用することはできない。
したがってまた,審決が,両意匠の共通点も相違点も対比判断するには不適切な写真を引用意匠としたことが類否判断の手法を誤るものであるとする原告主張(取消事由3)も採用の限りではない。
よって,取消事由2及び3はいずれも理由がない。
3以上の次第で,審決取消事由はいずれも理由がなく,また,他に審決を違法とするべき事由もないから,本件請求は理由がない。
第6結論よって,本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 榎戸道也
裁判官 杜下弘記
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