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事件 平成 25年 (行ケ) 10305号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2014/03/27
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成26年3月27日判決言渡

平成25年(行ケ)第10305号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成26年2月27日

判 決



原 告 株 式 会 社 ロ ッ テ



訴訟代理人弁理士 稲 岡 耕 作

同 川 崎 実 夫

同 竹 原 懋

同 中 村 友 美



被 告 特 許 庁 長 官



指 定 代 理 人 斉 藤 孝 恵

同 小 林 裕 和

同 大 橋 信 彦

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が不服2012−10847号事件について平成25年9月25日に

した審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯
原告は,平成23年4月15日,意匠に係る物品を「使い捨てカイロ」と

する部分意匠に係る意匠登録出願(意願2011−8751号。以下「本願」

といい,本願に係る部分意匠を「本願意匠」という。)をした。

原告は,平成24年3月9日,拒絶査定を受け,同年6月11日,拒絶査

定不服審判(不服2012−10847号)を請求した。原告は,平成25

年4月19日,本願意匠は意匠法3条2項の規定に該当するとの拒絶理由通

知を受け,同年5月29日付けで意見書を提出した。

特許庁は,平成25年9月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と

の審決をし,同年10月11日,その謄本を原告に送達した。

2 審決の理由

(1) 審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願意匠は,

その出願前に日本国内又は外国において公然知られた形態に基づいて,当業

者であれば容易に創作をすることができたものであるから,意匠法3条2項

の規定に該当し,意匠登録を受けることができない,というものである。

(2) 審決が認定した本願意匠及び公知の形態は,次のとおりである。

ア 本願意匠

本願意匠は,袋体のカイロの裏面全面に設けられた衣類に貼付するた

めの粘着面を覆う剥離紙の部分意匠であり,別紙審決書写しの「別紙第

1」の記載及び図面に記載されたとおりのものである。すなわち,剥離

紙の全体形状は,隅丸長方形状であって,二度貼りを可能とするために,

該剥離紙には,一度目と二度目の粘着面が略同面積となるように長手方向

と平行で,上端から下端までその高さ一杯に波線状の切り込み線を,該剥

離紙全体を約1:2:1の面積比に区画する位置,言い換えると,剥離紙

の左右幅を約1:2:1に分割する位置に,左右対称になるように2本設

けたものである。

イ 公知の形態
審決は,使い捨てカイロにおいて,以下の各形態はいずれも,本願出願

前に公知の形態であると認定した。

(ア) 形態1

剥離紙全体を隅丸長方形状とすること(意匠登録第1237838号

の意匠公報(甲22。以下「甲22公報」という。。別紙審決書写しの


「別紙第2」参照。以下「形態1」という。 。


(イ) 形態2

切り込み線を剥離紙の長手方向と平行で,上端から下端までその高さ

一杯に設けること(甲22公報。別紙審決書写しの「別紙第2」参照。

以下「形態2」という。。


(ウ) 形態3

使い捨てカイロにおいて,二度貼りを可能とするために,剥離紙に複

数区画を形成するような切り込み線を設け,さらに,二度貼りの前後に

おいて粘着面の面積を略同じとなるように,剥離紙全体を約1:2:1

の面積比に区画する位置に切り込み線を設けること(例えば,特開平7

−80018号の公開特許公報(甲23。以下「甲23公報」という。

別紙審決書写しの「別紙第3」参照)の【図1】及び【0011】の記

載並びに【図3】及び【0012】の記載から導き出される態様。具体

的には,本願意匠は,甲23公報の【図1】及び【図3】の2b及び2

cの剥離紙を一体とした態様のものである。そして,実用新案出願公開

平3−63322号の公開実用新案公報(甲24。以下「甲24公報」

という。別紙審決書写しの「別紙第4」参照)の第1図及び第2図の発

熱袋の態様。(以下「形態3」という。。
) )

(エ) 形態4

発熱袋(カイロ)において,切り込み線を直線以外の曲線等とするこ

と(例えば,甲24公報の〔実施例〕の記載。以下「形態4」という。。

(オ) 形態5

剥離紙の切り込み線を波線状とし,当該波線を左右対称に設けること

(例えば,貼付薬の事例ではあるが,実用新案出願公開昭58−124

123号の公開実用新案公報(甲25。以下「甲25公報」という。別

紙審決書写しの「別紙第5」参照)の第3図。以下「形態5」という。。


第3 原告主張の取消事由

審決は,公知の形態の認定を誤り,本願意匠の容易創作性の判断を誤ったも

のであるから,違法であり,取り消されるべきである。

1 公知の形態の認定について

(1) 形態3について

審決は,「使い捨てカイロにおいて,二度貼りを可能とするために,剥離

紙に複数区画を形成するような切り込み線を設け,さらに,二度貼りの前後

において粘着面の面積を略同じとなるように,剥離紙全体を約1:2:1の

面積比に区画する位置に切り込み線を設けること」(形態3)は,公知の形

態であると認定した(審決書4頁)。

しかし,甲23公報には,「二度貼りを可能とするために,剥離紙に複数

区画を形成するような切り込み線を設けること」や,「二度貼りの前後にお

いて粘着面の面積を略同じとなるようにすること」や,「剥離紙全体を約

1:2:1の面積比に区画する位置に切り込み線を設けること」は,全く開

示されておらず,教示されてもいない。また,剥離紙全体を約1:2:1の

面積比に区画する位置に切り込み線を設けることは,甲24公報にも示され

ていない。

したがって,審決が,形態3を公知の形態と認定したのは誤りである。

(2) 形態4について

審決は,「発熱袋(カイロ)において,切り込み線を直線以外の曲線等と

すること」(形態4)は,公知の形態であると認定した(審決書5頁)。
しかし,甲24公報の〔実施例〕には,切り込み線を直線以外の曲線等と

した場合に,具体的に如何なる形態であるかについては示されていない。

したがって,審決が,形態4を公知の形態と認定したのは誤りである。

2 容易創作性の判断について

審決は,甲23公報,甲24公報及び甲25公報に基づき,剥離紙全体を約

1:2:1の面積比に区画する位置(剥離紙の左右幅を約1:2:1に分割す

る位置)に,切り込み線を左右対称に2本設ける程度のことは,当業者であれ

ば容易に創作することができたものであると判断した。

しかし,以下のとおり,上記各公報は,審決の容易創作性判断の根拠となる

ものではない。剥離紙を,左領域,中央領域,右領域の面積比が約1:2:1

となるように3分割した形態は,公然知られた形態に基づいて容易に創作でき

たものではない。

(1) 甲23公報について

審決は,「本願意匠のように,・・・そのような態様とするためには,文

献1(判決注・甲23公報を指す。)の【図1】及び【図3】に表された意

匠において,単に剥離紙2b及び2cを一体とすればよく」とし,【001

1】に「この切り込み3の数は本発明においてとくに限定されず,少なくと

も1本あれば良く,また切り込みの形成箇所も適宜選定すればよい」等の記

載があることを根拠として挙げ,「当業者であれば,剥離紙2b及び2cを

一体として,剥離紙の長手方向に,面積比が約1:2:1となるように切り

込み線を2本入れるという創作が格別困難であったとはいえない。」と判断

した。

しかし,甲23公報の【0011】には,切り込み3によって分割される

剥離紙の面積に大小を形成するように面積を変えるといったことは一切説明

されていない。【0011】には,「切り込みの形成箇所も適宜選定すれば

よい。」との記載はあるが,この記載は,同文献記載の発明が「偏平状袋の
片面の全面または一部に粘着剤層が形成されてなる」使い捨てカイロ(請求

項1,請求項2を参照)であることから,偏平状袋の片面の一部に粘着剤層

が設けられている場合には,粘着剤層を露出させるために必要な位置に切り

込みを設ければよいという程度の意味と解される。実際,甲23公報の実施

例記載の剥離紙に形成される切り込みは,剥離紙の一端から他端までその高

さいっぱいに設けられているものではなく,使い捨てカイロ本体の外枠部分

を除く中央部に露出させるべき粘着層が形成されており,その粘着層に対応

して剥離紙に切り込みが形成されている。これに対し,本願意匠は,使い捨

てカイロの片面全面が剥離紙で覆われ,全面を覆う剥離紙の一端から他端ま

で切り込み線が形成されたものである。したがって,甲23公報の実施例記

載の形態は,本願意匠の形態とは,厳密な意味では異なるものである。

したがって,剥離紙2b及び2cを一体化すればよいということは,甲2

3公報に基づいて当業者が容易に想到し得るものではない。
(2) 甲24公報について

審決は,甲24公報の第2図について,〔実施例〕に「この剥離シート4

には適宜数のカットライン5が形成され,部分剥離が可能となっている」と

の記載があることを根拠として,甲24公報の第2図に表された意匠の剥離

領域の数及びその面積比が本願意匠と異なるからといって,当業者であれば,

剥離紙6を一体として,剥離紙の長手方向に,面積比が約1:2:1となる

ように切り込み線を2本入れるという創作が格別困難であったとはいえない

と判断した。

しかし,甲24公報の〔実施例〕には,上記記載に続けて,「カットライ

ン5の具体的形状は部分剥離可能なものであれば直線,曲線等その如何を問

わないが,平行直線や同心円とし,カットライン5により形成された複数の

分画部片6に,同時に剥離すべき部片毎に共通記号7を付すのが簡便であ

る。」との記載がある。この記載は,剥離紙を分割する際に,平行直線に
よって剥離紙の面積が等しいものを多数形成するか,同心円により中心から

外方に向かって半径が一定寸法ずつ大きくなる複数のドーナツ状の剥離紙を

形成するといったことを意図したものと推察され,剥離紙の面積比が1:

2:1となる形態にすることを示唆するものではない。

したがって,甲24公報に表された公知の形態も,本願意匠が容易に創作

できたものであることの根拠とはなり得ない。

(3) 甲25公報について

審決は,甲25公報に表された意匠について,剥離紙の左領域,中央領域,

右領域の面積比が本願意匠と異なるとしても,本願意匠の波線状で左右対称

に設けられた剥離紙の切り込み線は,本願出願前に上記意匠において既に見

られるとした,先の拒絶理由における審決の判断に誤りはないと判断した。

しかし,甲25公報の第3図は,横長矩形の剥離紙に,その短手方向に2

本の波線状の切り込み線を左右対称に設け,横長矩形の剥離紙を,短手方向

に,面積比が2:1:2に分割する態様を示すものであり,同文献の明細書

1頁最終行〜2頁15行には,次のような記載がある。

「貼付薬の貼付作業では,一般に剥離紙を剥離しやすく,かつ当初一部を

剥離しておき皮膚面に貼付しながら,剥離紙を徐々に剥いでいくことが,特

に薄手の支持体においては,主要なことになる。なぜならば,当初より全部

の剥離紙を剥いで皮膚面への貼付をせんとすれば,支持体が薄いと,よじれ

や,膏体の端部どうしがくっついて充分な皮膚面への貼着ができないと共に,

貼付希望位置に確実に貼付できない欠点があった。この考案では,剥離紙の

所定個所に,波形状或は鋸歯状の切込み線を形成したことによって,剥離紙

の剥離が,皮膚面への貼着を行いながら徐々に行え,しかも剥離時の剥離紙

のつまみ取りも簡易に行える剥離薬の剥離紙構造を提供せんとするものであ

る。」

上記記載によれば,第3図に示される剥離紙では,左右方向中央部に面積
の小さな剥離帯体5を形成することが必須であり,かかる目的達成のために

第3図に示された剥離紙の3分割態様が提案されているのであるから,甲2

5公報に表された公然知られた形態とは,剥離紙をその短手方向に,面積比

を2:1:2に分割する態様である。この公然知られた形態に基づいて,使

い捨てカイロを二度貼りする際に,二度とも良好な粘着が行えるようにする

ための形態として,剥離紙の長手方向に,面積比が約1:2:1となるよう

に波線状の切り込み線を2本入れた本願意匠を創作することは,当業者が容

易に創作し得たものではない。

したがって,甲25公報に表わされた公知の形態も,本願意匠が容易に創

作できたものであることの根拠とはなり得ない。

第4 被告の反論

1 公知の形態の認定について

原告は,審決が形態3及び形態4を公知の形態と認定したのは誤りであると

主張する。

しかし,甲23公報及び甲24公報に表された意匠は,いずれも剥離紙を左

右に均等に4分割したものではあるが,はがす剥離紙の態様によっては,粘着

面が同一の面積となる態様が現出されることは容易に想定できるものである。

甲23公報及び甲24公報において中央の2枚を同時にはがした場合には,面

積比が約1:2:1となるので,粘着面が略同一の面積となるような態様につ

いては,当業者が容易に想到できるものである。

また,面積比が約1:2:1になるように切り込み線を2本入れることにつ

いても,この種使い捨てカイロの分野において,表面部に粘着面を設けた使い

捨てカイロは,広く知られたありふれた態様であり,@粘着面を長手方向の中

央や両端部に設けることは,乙第1号証の第1図にあるように,従来から認め

られる態様であり,A剥離紙の短手方向に,上領域,中央領域,下領域と3分

割し,中央領域の幅を広くするような切り込み線を一端から他端まで上下に2
本設けることは,乙第2号証【図1】にあるように,既に見られる態様であり,

B剥離紙を左領域,中央領域,右領域と3分割し,剥離紙の左右幅を面積比が

約1:2:1になるように分割する位置に切り込み線を左右対称に2本設けた

態様は,乙第3号証の意匠にあるように,既に見られる態様であるから,剥離

紙の分割態様を,左領域,中央領域,右領域の面積比が約1:2:1になるよ

うに3分割することは,甲23公報及び甲24公報に具体的形態として表され

ていなくとも,当業者であれば,明細書の記載を受けて容易に想到し得る範囲

内のものである。

したがって,甲23公報や甲24公報に表された四つに等分された剥離紙の

形状において,切り込み線を3本から2本に減じ,両端の剥離紙をそのままに,

中央部分の2枚の剥離紙を一体とし,面積比が約1:2:1になるように分割

する態様とすることも,当業者においては当然に想到し得る範囲内のものであ

り,審決が,形態3及び形態4を公知の形態と認定した点に誤りはない。

2 容易創作性の判断について

(1) 甲23公報及び甲24公報について

原告は,甲23公報及び甲24公報は,審決の容易創作性判断の根拠とな

るものではないと主張する。

しかし,剥離紙をその粘着効果や貼り替え等を考慮して,複数に分割をす

ることは甲23公報及び甲24公報に表されており,例えば,本願意匠と同

様に切り込み線を2本とする態様とした場合に,本願意匠のように面積比を

約1:2:1に,あるいは,約2:1:2(甲25公報)とする程度の創作

は,当業者であれば十分考え得る範囲内のものである。

また,甲23公報は,本願意匠のように,使い捨てカイロの片面全面が剥

離紙で覆われ,全面を覆う剥離紙の一端から他端まで切り込み線が形成され

た形態とは異なるものであるとしても,剥離紙の一端から他端まで切り込み

線が形成された形態は,甲24公報に表されているのであって,このような
態様とすることも容易に想到し得るものである。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

(2) 甲25公報について

原告は,甲25公報も,審決の容易創作性の判断の根拠となるものではな

いと主張する。

しかし,甲25公報の意匠に係る物品は,貼付薬であるが,本願意匠に係

物品である使い捨てカイロと同様に,人体に貼り付けることを目的として,

粘着層を剥離紙で覆う物品である。したがって,本願意匠の創作性を判断す

る際に,本願意匠と同様に人体に貼り付ける甲25公報の切り込み線の形状

に基づいて容易に意匠の創作をすることができたと判断することに問題はな

い。また,甲25公報に表された切り込み線の機能上の目的が本願意匠とは

相違したとしても,その切り込み線の形状を使い捨てカイロの意匠に転用す

ることは容易であると判断することにも何ら問題はない。

その上で,審決は,甲25公報は中央部分の切り込み線の形状を波線状に

左右対称に設けることが公然知られた手法であることの事例として示したも

のであり,面積比を約1:2:1にすることの事例として提示したものでは

ない。

したがって,原告の上記主張は理由がない。

第5 当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由は理由がないものと判断する。その理由は

以下のとおりである。

1 公知の形態の認定について

(1) 意匠法3条2項は,「意匠登録出願前にその意匠の属する分野における

通常の知識を有する者が日本国内又は外国において公然知られた形状模様

若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意匠の創作をすることがで

きたときは,その意匠・・・については,前項の規定にかかわらず,意匠登
録を受けることができない。」と規定する。

ここでいう「公然知られた」とは,不特定の者に秘密でないものとして現

実にその内容が知られたことをいい,日本国内又は外国において頒布された

刊行物に記載された形状模様若しくは色彩又はこれらの結合は,「公然知

られた」形態ということができる。

(2) 刊行物の記載

ア 甲22公報の記載

甲22公報には,使い捨てカイロにおいて,剥離紙全体を隅丸長方形状

とすること(形態1),及び,切り込み線を剥離紙の長手方向と平行で,

上端から下端までその高さ一杯に設けること(形態2)が記載されている

(甲22)。

イ 甲23公報の記載

甲23公報の【図1】には,使いすてカイロ1の粘着剤層を覆う剥離紙

2の長手方向に3本の切り込み3が略等間隔に平行に形成され,剥離紙2

が4分割されたものが示されており,【実施例】の【0011】には,

「切り込み3の数は本発明においてとくに限定されず,少なくとも1本あ

れば良く,また切り込みの形成箇所も適宜選定すればよい。」との記載が

ある。

また,甲23公報の【図3】には,使いすてカイロ1の使用例として,

4分割された剥離紙2a,2b,2c及び2dのうち,2aと2cを剥が

し,その部分の粘着剤層が現出しているもの(半分の面積の剥離紙が剥が

されているもの)が示されており,【実施例】の【0012】には,「本

発明の使いすてカイロの特徴は,貼り直しをしても粘着力の衰えないとこ

ろにある。したがって,切り込みは,粘着剤層の一部のみを現出させるた

めのものであり,適宜剥離する部分を選択すればよい。たとえば,剥離紙

2a,2cを剥がして所望の部位にカイロを貼着させることができる。そ
ののち他の部位に貼着し直したいときは剥離紙2b,2dを剥がすことに

より確実な接着力で貼着させることができる。さらに貼着するものの材質

によって接着力を調整したいときなども,粘着剤層を現出させる面積を簡

単に調節することができる。」との記載がある(甲23)。

ウ 甲24公報の記載

甲24公報の第1図には,発熱袋(カイロ)の断面図が示されており,

第2図には底面図として,粘着剤層3を覆う剥離シート4の短手方向に3

本のカットライン5が平行に形成され,剥離紙4が4分割されたものが示

されており,〔実施例〕には,「4は剥離シートで,非転着性粘着剤層3

を被覆し,使用時剥離されるものである。この剥離シート4には適宜数の

カットライン5が形成され,部分剥離が可能となっている。カットライン

5の具体的形状は部分剥離可能なものであれば直線,曲線等その如何を問

わないが,平行直線や同心円とし,カットライン5により形成された複数

の分画部片6に,同時に剥離すべき部片毎に共通番号7を付すのが簡便で

ある。」との記載がある(甲24)。

エ 甲25公報の記載

甲25公報には,貼付薬の剥離紙の切り込み線を波線状とし,当該波線

を左右対称に設けること(形態5)が記載されている(甲25)。

(3) 形態3について

前記(2)イのとおり,甲23公報の【図1】には,3本の切り込み線が略

等間隔に平行に形成され,剥離紙2が4分割されたものが示されており,

【実施例】の【0011】には,切り込みの数を増減することや,切り込み

の形成箇所を変更することが示唆されており,【0012】には,二度貼り

を可能とするために,剥離紙を剥がす部位を選択することが示唆されている。

また,前記(2)ウのとおり,甲24公報の第2図には,3本のカットライン

5が平行に形成され,剥離シート4が4分割されたものが示されている。
しかし,甲23公報及び甲24公報には,切り込み線を2本とし,剥離紙

全体を約1:2:1の面積比に区画する位置に切り込み線を設けることは記

載されていない(記載されているに等しいということもできない)。甲23

公報及び甲24公報によって認め得る公知の形態は,「剥離紙全体を約1:

1:1:1の面積比に区画する位置に,3本の切り込み線を平行に設けるこ

と」にとどまり,甲23公報には,これに加えて,「二度貼りの前後におい

て貼着面の面積を略同じとすること」が記載されているにとどまる(以下,

甲23公報記載の上記形態をまとめて「形態3a」という。)。

したがって,審決が,甲23公報等から「剥離紙全体を約1:2:1の面

積比に区画する位置に切り込み線を設けること」も含めた形態3を公知の形

態と認定したことは,誤りである。

(4) 形態4について

甲24公報には,形態4,すなわち,「発熱袋(カイロ)において,切り

込み線を直線以外の曲線等とすること」が記載されている。

すなわち,前記(2)ウのとおり,甲24公報の第2図には,粘着剤層3を

覆う剥離シート4の短手方向に3本のカットライン5が平行に形成されたも

のが示されており,〔実施例〕には,カットライン5の形状を曲線等にする

ことが記載されている(ただし,曲線の形状について,同心円との例は記載

されているが,それ以外の曲線等の例示はない。。


したがって,審決が,形態4を上記の限りで認定し,これを公知の形態と

認定したことに誤りはない。

2 容易創作性の判断について

(1) 審決が,前記1(3)のとおり,甲23公報等から,使い捨てカイロにおい

て,「剥離紙全体を約1:2:1の面積比に区画する位置に切り込み線を設

けること」も含めた形態3を公知の形態と認定したことは誤りであるものの,

審決は,「本願意匠は,袋体のカイロの裏面全体に設けられた,衣類に貼付
するための粘着面を覆う剥離紙を,本願出願前に公然知られた隅丸長方形状

とし,そして,二度貼りを可能とするために,該剥離紙に,一度目と二度目

の粘着面が略同面積となるように該剥離紙の長手方向と平行で,上端から下

端までその高さ一杯に,波線状の切り込み線を,該剥離紙全体を約1:2:

1の面積比に区画する位置,言い換えると,剥離紙の左右幅を約1:2:1

に分割する位置に,左右対称に2本,単に設けた程度にすぎないものであっ

て,当業者であれば容易に創作することができたものと認められる。(審決


書5頁)と判断しており,審決のこの判断に誤りはない。すなわち,甲22

公報から使い捨てカイロの剥離紙としてありふれた形態であると推認される

形態1と形態2について,その切り込み線の形態を使い捨てカイロにおいて

公知の形態である形態3a及び形態4並びに貼付薬の剥離紙における公知の

形態である形態5に基づいて形態3及び形態5とする程度のことは,次に述

べるとおり,当業者であれば容易に創作することができたものと認められる。

ア 形態1と形態2の剥離紙からなる使い捨てカイロを,二度貼りをするた

めの使い捨てカイロとするために,甲23公報の【図3】のように,剥離

紙を3本の切り込み線により4等分し,一度目と二度目の剥離面積が等面

積になるように,4枚の剥離紙から2枚の剥離紙を選択して剥離すること

は公知である(形態3a)。そして,甲23公報の【図3】では,一度目

と二度目の剥離面積を等面積とするための例として,一度目に2aと2c

の剥離紙を剥離している例が示されているけれども,一度目に両側にある

2aと2dの剥離紙を剥離し,中央にある2bと2cの剥離紙を残す方法

や,一度目に中央にある2bと2cの剥離紙を剥離し,両側にある2aと

2dの剥離紙を残す方法も,上記記載例と実質的に同一の方法であるから,

剥離紙の剥離方法としてこれらの方法も記載されているに等しいものとい

うことができる。そして,上記の剥離方法(中央の2bと2cの剥離紙を

同時に剥離するか,残す方法)や,甲23公報において切り込み線の数を
減じたり,切り込みの形成箇所を適宜選定することなどが記載されている

ことを前提として甲23公報の【図3】をみると,中央の2bと2cの剥

離紙の間にある切り込み線をなくし,2bと2cを一体とした形態,すな

わち,2本の切り込み線により剥離紙の面積比を約1:2:1となるよう

にした形態(形態3)を創作することはそれ程困難なことではないという

ことができる。また,剥離紙を2本の切り込み線により3区画に分ける形

態は,貼付薬においては公知の形態である(甲25,乙3。なお,貼付薬

と使い捨てカイロとは,人体に直接貼り付けるものであるか,衣服の上か

ら人体に間接的に貼り付けるものであるかの違いはあるものの,いずれも,

人体にその形状に沿うように直接又は間接的に貼り付けるものであって,

日常的に使用されるものである点において共通する。)。

そうすると,使い捨てカイロの分野における当業者が甲23公報に接す

れば,使い捨てカイロの二度貼りを可能とするために,一度目と二度目の

剥離面積が等面積になるような切り込み線を設けた剥離紙として,【図1】

に示された形態において,切り込み線を2本とし,剥離紙全体を約1:

2:1の面積比に区画する位置に切り込み線を設けること(形態3。具体

的には,甲23公報の【図1】又は【図3】の2bと2cの間に切り込み

を入れず,2bと2cを一体とした態様のものにすること)は,容易に創

作することができたものといえる。

イ また,甲23公報の切り込み線は直線であるが,これを直線とする必然

性はなく,発熱袋(カイロ)において,切り込み線を直線以外の曲線等と

すること(形態4。ただし,曲線の形状について,波線状との例示はな

い。,及び甲25公報の貼付薬のように,剥離紙の切り込み線を波線状と


し,当該波線を左右対称に設けること(形態5)は,いずれも公知の形態

であること,しかもこの波線形状は極めてありふれた形状であることから

すると,甲23公報の切り込み線を,直線ではなく,甲25公報のような
波線形状とすることも,容易に創作することができたものといえる。

ウ 以上によれば,本願意匠は,公知の形態である形態1,形態2,形態3

a,形態4及び形態5に基づいて容易に意匠の創作をすることができたも

のであると認められ,これと概ね同趣旨の審決の判断に誤りはない。

(2) 原告の主張について

ア 原告は,甲23公報の【0011】には,切り込み3によって形成され

る剥離紙の面積に大小を形成するといったことは一切説明されていないと

か,同【0011】に「切り込みの形成箇所も適宜選定すればよい。」と

の記載はあるが,この記載は,同文献記載の発明が「偏平状袋の片面の全

面または一部に粘着剤層が形成されてなる」使い捨てカイロ(請求項1,

請求項2を参照)であることから,偏平状袋の片面の一部に粘着剤層が設

けられている場合には,粘着剤層を露出させるために必要な位置に切り込

みを設ければよいという程度の意味と解され,実際,甲23公報の実施例

記載の剥離紙に形成される切り込みは,剥離紙の一端から他端までその高

さいっぱいに設けられているものではなく,使い捨てカイロ本体の外枠部

分を除く中央部に露出させるべき粘着層が形成されており,その粘着層に

対応して剥離紙に切り込みが形成されているのに対し,本願意匠は,使い

捨てカイロの片面全面が剥離紙で覆われ,全面を覆う剥離紙の一端から他

端まで切り込み線が形成されたものであり,甲23公報の実施例記載の形

態は,本願意匠の形態とは,厳密な意味では異なるものであるとして,甲

23公報は,審決の容易創作性の判断の根拠とはなるものではないと主張

する。

しかし,甲23公報の【0011】における「切り込みの形成箇所も適

宜選定すればよい。」との記載を,原告が主張するように限定して解釈す

べき根拠はない。また,形態1と形態2の剥離紙からなる使い捨てカイロ

は,もともと全面を覆う剥離紙の一端から他端まで切り込み線が形成され
たものであり,これを二度貼りができる使い捨てカイロとするために,同

分野における当業者が甲23公報に接すれば,形態3aを認識すると同時

に,この形態3aと同種のものとして,その中央の切り込み線をなくし,

剥離紙全体を約1:2:1の面積比に区画する位置に切り込み線を設ける

こと(形態3。具体的には,甲23公報の【図1】又は【図3】の2bと

2cの間に切り込みを入れず,2bと2cを一体とした態様のものにする

こと)を,容易に創作することができたものであることは,前記(1)に説

示したとおりである。

したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

イ 原告は,甲24公報における部分剥離に関する記載は,剥離紙を分割す

る際に,平行直線によって剥離紙の面積が等しいものを多数形成するか,

同心円により中心から外方に向かって半径が一定寸法ずつ大きくなる複数

のドーナツ状の剥離紙を形成するといったことを意図したものと推察され,

剥離紙の面積比が1:2:1となる形態にすることを示唆するものではな

いとして,甲24公報は,審決の容易創作性の判断の根拠とはなるもので

はないと主張する。

確かに,甲24公報は,剥離紙の面積比が1:2:1となる形態にする

ことを直ちに示唆するものではない。しかし,使い捨てカイロの分野にお

ける当業者が甲23公報に接すれば,形態3aを認識すると同時に,この

形態3aと同種のものとして,その中央の切り込み線をなくし,剥離紙全

体を約1:2:1の面積比に区画する位置に切り込み線を設けること(形

態3)を,容易に創作することができたものであることは,前記(1)に説

示したとおりであり,上記意味において,審決の容易創作性の判断に誤り

はない。

ウ 原告は,甲25公報の貼付薬においては,貼付作業のために,左右方向

中央部に面積の小さな剥離帯体5を形成することが必須であり,そのため
に同公報の第3図に示された剥離紙の3分割態様が提案されているのであ

るから,甲25公報に表された公然知られた形態とは,剥離紙を剥離紙の

短手方向に切り込み線を2本入れ,面積比を2:1:2に分割する態様で

あるところ,この公然知られた形態に基づいて,使い捨てカイロを二度貼

りする際に,二度とも良好な粘着が行えるようにするための形態として,

剥離紙の長手方向に,面積比が約1:2:1となるように波線状の切り込

み線を2本入れた本願意匠を創作することは,当業者が容易に創作し得た

ものではないと主張する。

しかし,審決が甲25公報を容易創作性の判断の根拠としたのは,形態

5,すなわち,剥離紙の切り込み線を波線状とし,当該波線を左右対称に

設けることが公知であることを示すためであって,切り込み線を,面積比

が1:2:1となるような位置に形成することが公知であることを示すた

めではない。

また,甲25公報は,貼付薬に係る公開実用新案公報であるところ,貼

付薬と使い捨てカイロとは,人体に直接貼り付けるものであるか,衣服の

上から人体に間接的に貼り付けるものであるかの違いはあるものの,いず

れも,人体に,その形状に沿うように直接又は間接的に貼り付けるもので

あって,日常的に使用されるものである点において共通することは前記説

示のとおりである。

したがって,甲25公報は,本願意匠の容易創作性判断の根拠となり得

るものであり,原告の上記主張を採用することはできない。

第6 結論

以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文

のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 設 樂 z 一




裁判官 西 理 香




裁判官 田 中 正 哉