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事件 令和 1年 (ワ) 16017号 意匠権侵害行為差止請求事件
5
原告株式会社寺岡精工
上記訴訟代理人弁護士 三縄隆
同 森本晃生 10 上記訴訟代理人弁理士 福田哲也
上記補佐人弁理士岩ア孝治
被告株式会社バルテック 15 上記訴訟代理人弁護士 櫛田泰彦
上記訴訟代理人弁理士 大塚明博
同 大塚匡
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2020/08/27
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
20 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙被告製品目録記載の券売機を生産し,使用し,譲渡し,貸し渡し, 輸出若しくは輸入し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
25 2 被告は,その占有する別紙被告製品目録記載の券売機を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する令和元年7月3日(訴状 1 送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 事案の概要 本件は,意匠に係る物品を自動精算機とする意匠登録第1556717号の意5 匠権(以下「本件意匠権」といい,本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」といい, その登録を「本件意匠登録」といい,その意匠公報を「本件意匠公報」という。) を有する原告が,被告に対し,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」 といい,被告製品のうち本件意匠に相当する部分の意匠を「被告意匠」という。) の販売等が本件意匠権を侵害すると主張して,意匠法37条1項に基づき被告製10 品の販売等の差止め,同条2項に基づき被告製品の廃棄,民法709条に基づき 損害賠償金(一部請求)並びに遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実 原告は,電子はかり,電子計量値付システム,自動計量包装値付機,POS システム等の製造,販売等を目的とする株式会社であり,その事業の一つとし15 て券売機の販売等を行っている。
被告は,ICT機器ハード,ソフトの製造,販売等を目的とする株式会社で あり,その事業の一つとして券売機の販売等を行っている。
原告は,以下の内容の本件意匠権を有している。
ア 出願日20 平成28年1月26日 イ 登録日 平成28年7月22日 ウ 登録番号 意匠登録第1556717号25 エ 意匠に係る物品 自動精算機 2 オ 本件意匠の内容 別紙意匠公報(本件意匠公報,甲2)の【図面】記載のとおり(部分意匠) 被告製品は,タッチパネル式の券売機であり,カタログにその写真(別紙被 告製品写真)が掲載されている。(甲4)5 被告は,業として,被告のホームページにおいて被告製品を掲載するなどし て,被告製品を販売し,販売の申出をしている。
3 争点 被告意匠は本件意匠と類似するか(争点1) 本件意匠登録は無効審判により無効にされるべきか(争点2)10 原告の損害額(争点3) 4 争点に関する当事者の主張 被告意匠は本件意匠と類似するか(争点1) (原告の主張) ア 本件意匠の構成態様15 本件意匠の基本的構成態様は,略縦長直方体の上部を傾斜面とする筐体の 右側に略縦長長方形状の薄い平板状タッチパネル部が傾斜して形成され,タ ッチパネル部は略縦長直方体の筐体の上端部より大きく突出して形成され, タッチパネル部は筐体より一段高く形成され,略縦長直方体の筐体の上部の 傾斜面に発券部がその下方に紙幣挿入部が形成されたというものである。
20 本件意匠の具体的構成態様は,タッチパネル部の縦と横の比が概ね1.5 対1であり,タッチパネル部が配置された位置については,タッチパネル部 の横幅と筐体の全幅の比が概ね1対1.4であり,また,タッチパネル部上 端の高さ(全高)と筐体上端の高さの比が概ね1.2対1を呈するというも のである。
25 イ 本件意匠の要部 本件意匠は,登録された当時において,略縦長直方体の上部を傾斜面とす 3 る筐体の発券部の側部の位置に略縦長長方形状の薄い平板状タッチパネル 部が傾斜して形成され,タッチパネル部は略縦長直方体の筐体の上端部より 大きく突出して形成され,タッチパネル部は筐体より一段高い位置に形成さ れた点が,従来にはない特徴であるとして高く評価され,部分意匠として登5 録されたと考えるのが自然である。本件意匠の要部は,自動精算機全体との 関係で位置,大きさ,範囲を考慮したタッチパネル部である。
ウ 被告意匠の構成態様 被告製品のうち,本件意匠に相当する部分の被告意匠は,略縦長直方体の 上部を傾斜面とする筐体の左側に略縦長直方形状の薄い平板状タッチパネ10 ル部が傾斜して形成され,タッチパネル部は略縦長直方体の筐体の上端部よ り大きく突出して形成され,タッチパネル部が傾斜面から下方に向かって側 面視「く」字状に形成された基台上に,略縦長直方体の筐体より一段高く形 成され,略縦長直方体の筐体の上部の傾斜面に発券部がその下方に紙幣挿入 部が形成された基本的構成態様からなる。
15 被告意匠は,タッチパネル部の縦と横の比が概ね1.3対1であり,タッ チパネル部が配置された位置については,タッチパネル部の横幅と筐体の全 幅の比が概ね1対1.5であり,また,タッチパネル部上端の高さ(全高) と筐体上端の高さの比が概ね1.2対1を呈する具体的構成態様からなる。
エ 本件意匠と被告意匠の対比20 被告製品は券売機であり,本件意匠に係る物品は自動精算機であるから, これらは少なくとも類似物品である。
本件意匠及び被告意匠は,略縦長直方体の上部を傾斜面とする筐体の発券 部の側部の位置に略縦長直方形状の薄い平板状タッチパネル部が傾斜して 形成され,タッチパネル部は略縦長直方体の筐体の上端部より大きく突出し25 て形成され,タッチパネル部は筐体より一段高い位置に形成された基本的構 成態様において共通する。また,具体的構成態様においても,タッチパネル 4 部上端の高さ(全高)と筐体上端の高さの比が概ね1.2対1である点で共 通する。
他方,本件意匠と被告意匠は,@本件意匠はタッチパネル部が筐体の右側 に形成されているのに対し,被告意匠はタッチパネル部が筐体の左側に形成5 されている点,A本件意匠はタッチパネル部が筐体より一段高く形成されて いるのに対し,被告意匠はタッチパネル部が傾斜面から下方に向かって側面 視「く」字状に形成された基台上に略縦長直方体の筐体より一段高く形成さ れている点,Bタッチパネル部の大きさについて,本件意匠はタッチパネル 部の縦と横の比が概ね1.5対1であるのに対し,被告意匠はタッチパネル10 部の縦と横の比が概ね1.3対1である点,Cタッチパネル部が配置された 位置について,本件意匠はタッチパネル部の横幅と筐体の全幅の比が概ね1 対1.4であるのに対し,被告意匠はタッチパネル部の横幅と筐体の全幅の 比が概ね1対1.5である点で差異がある。
本件意匠と被告意匠の構成態様の共通点は,本件意匠の要部についての共15 通点であり,両意匠の骨格にかかわるものであるし,本件意匠の属する分野 では,縦長のタッチパネルを使用した意匠はほとんどないから,これらは両 意匠の特徴を決定づけるものであるといえる。また,具体的構成態様の共通 点は,タッチパネル部が筐体より突出して形成されていることを示すもので あり,両意匠の共通性を顕著に示す特徴であるといえる。
20 他方,具体的構成態様の差異点については,いずれも両意匠の共通性を凌 駕するものではない。
したがって,被告意匠は,本件意匠と類似する。
(被告の主張) ア 本件意匠の構成態様25 本件意匠の構成態様は,以下のとおり特定されるべきである。
(基本的構成態様) 5 A 上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプレイと,ディスプレイ を収容する縦長略長方形状のケース部分の正面部分とから構成され,自動 精算機の筐体の上部右側に配置されたタッチパネル部である。
(具体的構成態様)5 B タッチパネル部は,縦と横の比が概ね1.5対1となっている。
C ケース部分のディスプレイ周囲部分は,ディスプレイと略相似形の内枠 部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部で構成されている。
D ケース部分の外枠部は,正面視及び斜視において,内枠部の外縁から外 枠部の外縁に向かって傾斜する傾斜面となっている。
10 E 外枠部の下側部分の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅,右側 部分の幅よりも,概ね4倍の幅広に形成されている。
イ 本件意匠の要部 本件意匠の基本的構成態様Aについて,上部を後方に傾斜させた縦長長方 形状のディスプレイの形状は,本件意匠の意匠登録の出願前の平成22年315 月1日発行の意匠登録第1381361号の意匠公報に掲載された意匠(以 下「公知意匠1」という。)により公知であるし,縦長略長方形状のタッチパ ネル部の形状は,本件意匠の意匠登録出願前の平成27年8月10日発行の 意匠登録第1530831号意匠公報に掲載された意匠(以下「公知意匠2」 という。)により公知である。また,本件意匠の具体的構成態様Bは,公知意20 匠1の縦長長方形状のディスプレイの縦と横の比を変更したものにすぎず, 当業者が容易になし得るものであって創作性がない。したがって,これらは, 本件意匠の要部であるとはいえない。他方,本件意匠の具体的構成態様C, D,Eについては創作性が認められるから,これらのディスプレイ周囲の形 状が本件意匠の要部であるといえる。
25 ウ 被告意匠の構成態様 被告意匠の構成態様は,以下のとおり特定されるべきである。
6 (基本的構成態様) a 上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプレイと,ディスプレイ を収容する縦長略直方形状の薄板状に形成されたケース部分から構成さ れ,券売機の筐体の上部左側に配置されたタッチパネル部である。
5 (具体的構成態様) b タッチパネル部は,縦と横の比が概ね1.2対1となっている。
c ケース部分のディスプレイ周囲部分は,ディスプレイと略相似形の扁平 な枠部で構成されている。
d ケース部分は,薄い平板状の直方体となっている。
10 エ 本件意匠と被告意匠の対比 本件意匠に係る物品である自動精算機と,被告製品に係る物品であるタッ チパネル式券売機が,少なくとも類似物品であることは認める。
本件意匠と被告意匠は,上部を後方に傾斜させた縦長長方形状のディスプ レイと,ディスプレイを収容するケース部分とから構成され,タッチパネル15 部が筐体の上部に配置されたものである点が共通する。
他方,本件意匠と被告意匠は,@本件意匠はタッチパネル部の縦と横の比 が概ね1.5対1となっているのに対し,被告意匠はタッチパネル部の縦と 横の比が概ね1.2対1となっている点,A本件意匠はケース部分のディス プレイ周囲部分はディスプレイと略相似形の内枠部と内枠部の外周を囲む20 外枠部とからなる2段の枠部から構成されているのに対し,被告意匠はケー ス部分のディスプレイ周囲部分はディスプレイと略相似形の扁平な枠部で 構成されており,本件意匠のような内枠部と外枠部という構成を有していな い点,B本件意匠はケース部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の 外縁から外輪部の外縁に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被25 告意匠はケース部分が薄い平板状の直方体になっており,本件意匠のような 傾斜面を有していない点,C本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分の幅 7 が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅,右側部分の幅よりも概ね4倍の 幅広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分が薄い平板状の直方 体になっており,上下,左右の壁面の幅がすべて等しくなっている点が相違 する。
5 タッチパネル部を備えた自動精算機においては,看者は,タッチパネル部 に正対して使用するのが一般的であるから,本件意匠と被告意匠の類否判断 においては,正面視の美的印象が最も重要である。本件意匠では,具体的構 成態様C,Dにより,正面視において内枠部の外縁と外枠部の外縁が視認さ れ,その前後方向の位置の差により,ケース部分からディスプレイが前方に10 せり出した立体感を感じさせるという視覚的効果が認められる。また,具体 的構成態様Eにより,タッチパネル部の下端には,前方に突出した段部が形 成されることになり,そのような形状から得られる特異な立体感から,看者 にタッチパネル部の下側が前方へせり出した印象を与える視覚的効果が認 められる。このように,本件意匠の要部であるディスプレイ周囲の形状によ15 り,看者に立体感や重厚感を感じさせる美感が生じているといえる。
これに対し,被告意匠は,ケース部分のディスプレイ周囲部分は,ディス プレイと略相似形の扁平な枠部で構成されているから,本件意匠のような視 覚的効果は認められない。本件意匠と被告意匠は,要部の構成に顕著な相違 があり,その視覚的効果が共通せず,意匠全体から生じる美感が明らかに異20 なる。
したがって,被告意匠は本件意匠に類似しない。
本件意匠登録は無効審判により無効にされるべきか(争点2) (被告の主張) ア 無効理由125 ディスプレイとその周囲が縦長長方形状とされる意匠は,本件意匠の出願 前から公知意匠1及び2により公知である。本件意匠は公知意匠に類似する 8 意匠であるといえ,それにもかかわらず,意匠法3条1項3号に違反して意 匠登録されたものであり,その登録は無効審判により無効とされるべきもの であるから,原告は,被告に対し,本件意匠権を行使することはできない。
イ 無効理由25 ディスプレイ及びそのケース部分の分野では,その形状は長方形状である ことが通常であり,それを用途に応じて縦長にすることは一般的な手法であ るといえる。本件意匠は,公然知られた形状から容易に創作することができ た意匠であるにもかかわらず,意匠法3条2項に違反して意匠登録を受けた ものであり,その登録は無効審判により無効とされるべきものであるから,10 原告は,被告に対し,本件意匠権を行使することはできない。
ウ 無効理由3 本件意匠は正面図と左右の側面図が一致していない。すなわち,正面図に おける実線で表された部分における四角枠状最外実線が左右側面図に表さ れていないので,本件意匠を認識することができない。本件意匠は,工業上15 利用することができない意匠であるにもかかわらず,意匠法3条1項柱書に 違反して意匠登録を受けたものであり,その登録は無効審判により無効とさ れるべきものであるから,原告は,被告に対し,本件意匠権を行使すること ができない。
(原告の主張)20 ア 無効理由1 公知意匠1及び2は,いずれも筐体内にある単なる長方形状の枠線で示さ れた表示部ないしタッチパネル部であり,本件意匠の平板状タッチパネル部 と類似するものではないから,被告の主張は誤りである。
イ 無効理由225 本件意匠は,自動精算機全体の中における実線部分の形状,用途,機能等 を考慮すれば,公知意匠1及び2のとおり筐体の中の単なる長方形状枠線で 9 示された表示部ないしタッチパネルが公知形状であるとしても,容易に創作 できたものであるとはいえない。
本件意匠公報の末尾に掲げられた参考文献には,タッチパネル部の内側に 枠が存在している意匠や,タッチパネル部の内側が二重枠になっている意匠5 が掲げられており,これらによっては本件意匠の登録が拒絶されていないか ら,破線部分を含んだ実線部分の位置等を,新規性や創作性の判断において 加味しているといえる。そして,実線部分の形状がありふれたものであると すれば,破線部分を考慮した実線部分の位置等が当該意匠の特徴として重要 な要素になる。実線部分がありふれたものであることをもって本件意匠登録10 が無効になるとの被告の主張は誤りである。
ウ 無効理由3 意匠登録を受けている部分はタッチパネル部の下辺を含む表面であり,そ の表面は平面であり,その端部の部分が左右側面図に実線として表されてい るのは明らかであるから,被告の主張は誤りである。
15 原告の損害額(争点3) (原告の主張) 原告は,被告による被告製品の販売開始前から,被告製品と市場で競合する 券売機(以下「原告製品」という。)を販売している。被告が被告製品を販売す ることにより,原告は,被告が口頭弁論終結時までに販売する被告製品の販売20 数分の原告製品を販売することができず,上記口頭弁論終結時までの被告製品 の販売による被告の限界利益は1億円を下らないから,被告の行為による原告 の逸失利益は1億円を下らない。
原告は,被告に対して本件訴訟の提起を余儀なくされたことにより,少なく とも訴訟代理人費用及び補佐人費用として400万円を下らない支出が見込25 まれるところ,この費用支出は,被告の行為と相当因果関係がある積極損害で ある。
10 原告は,上記の損害のうち,明示の一部請求として1100万円(逸失利益 の一部として1000万円,訴訟代理人費用及び補佐人費用の一部として10 0万円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)5 否認ないし争う。
争点に対する判断
1 争点1(被告意匠は本件意匠と類似するか) のとおり,本件意匠に係る物品は自動精算機であり,被告 製品はタッチパネル式の券売機である。これらが少なくとも物品として類似す10 ることについては当事者間に争いがない。
本件意匠と被告意匠の構成態様 ア 本件意匠は,物品部分意匠(部分意匠)であり,願書に添附した図面(意 匠法24条1項。以下,単に「本件図面」ということがある。)において意匠 登録を受けようとする部分として実線で示された部分の形状は,以下のとお15 りである。なお,本件図面には自動精算機の筐体の形状が破線で示されてい るところ,実線で示された部分と筐体との関係等については,後記 におい て検討することとする。
(基本的構成態様) 上方を後方に傾斜させたタッチパネル部の正面部分であり,ディスプレイ20 が縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケース部分が縦長略直方形 状である。
(具体的構成態様) A タッチパネル部の縦と横の比が概ね1.5対1となっている。
B ディスプレイ周囲のケース部分は,ディスプレイと略相似形の内枠部と,25 内枠部の外周を囲む外枠部からなる2段の枠部で構成されている。
C ケース部分の外枠部は,正面視及び斜視において,内枠部の外縁から外 11 枠部の外縁に向かって傾斜する傾斜面となっている。
D ケース部分の外枠部の下側部分の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部 分の幅及び右側部分の幅の概ね4倍の幅広に形成されている。
イ 上記に対応する被告意匠の構成態様は以下のとおりであると認められる5 (甲4)。
(基本的構成態様) 上方を後方に傾斜させたタッチパネル部の正面部分であり,ディスプレイ が縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケース部分が縦長略直方形 状である。
10 (具体的構成態様) a タッチパネル部は,縦と横の比が概ね1.2対1となっている。
b ケース部分は,ディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構成されており, ケース部分の上下左右の幅が全て等しくなっている。
ウ 本件意匠と被告意匠の対比15 本件意匠と被告意匠の基本的構成態様は一致する。
本件意匠と被告意匠は,具体的構成態様について,@本件意匠はタッチ パネル部の縦と横の比が概ね1.5対1となっているのに対し,被告意匠 はタッチパネル部の縦と横の比が概ね1.2対1となっている点,A本件 意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと略相似形の内枠20 部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部から構成されてい るのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレイと 略相似形の扁平な枠部で構成されており,本件意匠のような内枠部と外枠 部という構成を有していない点,B本件意匠はディスプレイ周囲のケース 部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の外縁から外輪部の外縁25 に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被告意匠はディスプレ イ周囲のケース部分が扁平となっていて,本件意匠のような傾斜面を全く 12 有していない点,C本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分の幅が,外 枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅よりも概ね4倍の幅 広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分の上下左右の幅がす べて等しくなっている点で差異がある。
5 本件意匠及び被告意匠におけるタッチパネル部と筐体との関係 ア 本件意匠に係る物品は自動精算機であり,本件意匠はその部分の意匠(部 分意匠)であるところ,部分意匠物品全体との関係での位置,大きさ,範 囲(以下, 「位置等」ということがある。)の違いが,当該部分意匠の美感に 影響を及ぼす場合があり得るので,以下,検討する。
10 イ 本件図面において破線部で示された筐体の形状を併せて本件意匠をみる と,意匠登録を受けたタッチパネル部は,筐体の正面視右側前面上部に筐体 より一段高く形成され,薄板状のタッチパネル部の上部約半分程度が筐体の 上端部から突出している。また,タッチパネル部の横幅と筐体の横幅の比は 概ね1対1.4である。
15 被告意匠においては,タッチパネル部は,筐体の正面視左側上部に,傾斜 面から下方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上に筐体より一段 高く形成され,薄板状のタッチパネル部の上部約半分程度が筐体の上端部か ら突出している。また,タッチパネル部の横幅と筐体の横幅の比は概ね1対 1.5である。
20 ウ 本件意匠は,部分意匠であり,破線部の形状そのものが登録意匠の内容と なっているものではない。もっとも,本件意匠の物品である自動精算機等に おいては,筐体の一部にディスプレイが設けられているもの(公知意匠1) が知られるなどしていて,タッチパネル部の全体が筐体の内部にあるかタッ チパネル部が筐体の上端部から一定程度突出しているか否かは,タッチパネ25 ル部の基本的な位置といえるものであり,その位置の違いは,タッチパネル 部の美感にも影響を与える場合もあり得るといえる。もっとも,この点につ 13 いて本件意匠と被告意匠の違いはなく,本件において位置の違いにより美感 の違いがもたらされることはない。
また,上記イに記載した形状のうち,本件意匠ではタッチパネル部の横幅 と破線で記載された筐体の横幅の比は概ね1対1.4であり,被告意匠のタ5 ッチパネル部の横幅と筐体の横幅の比は概ね1対1.5である。タッチパネ ル部が実線で記載され,筐体が破線で記載されている本件において,タッチ パネル部の横幅と筐体の横幅の比の違いは基本的にはタッチパネル部の美 感に影響を及ぼさないと解すべきであり,また,その比が極めて異なる場合 にその比の違いがタッチパネル部の美感に影響を与える場合が仮にあると10 しても,本件では,この比についての本件意匠と被告意匠の違いは小さく, この違いはタッチパネル部の部分意匠の類否に影響を与えるものとはいえ ない。さらに,タッチパネル部が実線で記載され,筐体が破線で記載されて いる本件において,タッチパネル部が筐体の上部右側に設けられるか左側に 設けられるかや,タッチパネル部が基台上に設けられているか否かの差異は,15 タッチパネル部の部分意匠の類否判断に影響を及ぼすものではないとする のが相当である。
以上によれば,本件においては,本件意匠と被告意匠との間において,類 否判断に影響を及ぼす位置等の違いはないと認められる。
本件意匠と被告意匠の類否20 ア 本件意匠と被告意匠は,基本的構成態様で一致し,具体的構成態様におい て,上記 のとおりの差異点がある。
登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を 通じて起こさせる美感に基づいて行われ(意匠法24条2項) 具体的には, , 意匠に係る物品の性質,用途,使用形態,公知意匠にはない新規な創作部分25 の有無等を参酌して,需要者の注意を惹きやすい部分を把握し,そのような 部分において両意匠が共通するか否かを中心としつつ,全体としての美感が 14 共通するか否かを検討すべきである。
イ ここで,以下のような公知意匠があった。
平成23年6月1日に発行された大韓民国意匠商標公報30-0600 546(甲12)には,意匠に係る物品を「クレジットカードのポイント照5 会による商品券販売」とする機器において,傾斜面から下方に向かって側面 視「く」字状に形成された基台上にディスプレイ部が筐体より一段高く形成 され,薄板状のディスプレイ部の相当程度が筐体の上端部から突出している ディスプレイ部について,上方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方 形状であり,ディスプレイを収容するケース部分が縦長略直方形状であり,10 ディスプレイ部の縦と横の比が概ね1.5対1であり,ディスプレイ周囲の ケース部分は,ディスプレイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外 枠部からなる2段の枠部で構成され,その枠部がいずれも扁平である意匠が 記載されている。
平成24年1月6日に発行された大韓民国意匠商標公報30-062715 528(甲13)には,意匠に係る物品を「無人発券機」とする機器におい て,傾斜面から下方に向かって側面視「く」字状に形成された基台上にディ スプレイ部が筐体より一段高く形成され,薄板状のディスプレイ部の相当程 度が筐体の上端部から突出しているディスプレイ部について,上方を後方に 傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを収容するケ20 ース部分が縦長略長方形状であり,ディスプレイ部の縦と横の比が概ね1. 25対1であり,ディスプレイ部のケース部分は,ディスプレイと略相似形 の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部からなる2段の枠部で構成されてい る意匠が記載されている。
平成25年8月22日に発行された大韓民国意匠商標公報30-07025 5951(甲14)には,意匠に係る物品を「金融自動化機器」とする機器 において,筐体上部においてアーム状の部品で接続されて正面視で筐体の上 15 端部から突出しているような外観を呈するディスプレイ部について,上方を 後方に傾斜させたディスプレイが縦長略長方形状であり,ディスプレイを収 容するケース部分が右上に突出部分があるほか縦長略長方形状であり,ディ スプレイ部の縦と横の比が概ね2対1である意匠が記載されている。
5 ウ 上記イによれば,本件登録出願前に,自動精算機又はそれに類似する物品 において,筐体の上端部から一定程度突出するディスプレイ部について,上 方を後方に傾斜させたディスプレイが縦長長方形状であり,ディスプレイを 収容するケース部分が縦長略直方形状である意匠,ディスプレイ部の縦と横 の比が概ね1.5対1である意匠,ディスプレイ部のケース部分がディスプ10 レイと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部からなる2段の枠部 で構成されている意匠は知られていたといえる。
これらによれば,自動精算機を購入する需要者にとり,本件意匠の基本的 構成態様や具体的構成態様A,Bが,特に注意を惹きやすい部分であるとは いえない。そして,このことを考慮すれば,具体的構成態様C,Dは,本件15 意匠においては,本件図面において実線で示されている部分の中では一定の 大きさを占めているといえるものでもあり,注意を惹きやすい部分であると いうべきである。
本件意匠と被告意匠の差異点 B本件意匠はディス プレイ周囲のケース部分の外枠部が正面視及び斜視において内枠部の外縁20 から外輪部の外縁に向かって傾斜する傾斜面になっているのに対し,被告意 匠はディスプレイ周囲のケース部分が扁平となっていて,本件意匠のような 傾斜面を全く有していない点,C本件意匠はケース部分の外枠部の下側部分 の幅が,外枠部の上側部分の幅,左側部分の幅及び右側部分の幅よりも略4 倍の幅広に形成されているのに対し,被告意匠はケース部分の上下左右の幅25 がすべて等しくなっている点は,本件意匠の具体的構成態様C,Dに係る部 分の違いであり,A本件意匠はディスプレイ周囲のケース部分はディスプレ 16 イと略相似形の内枠部と,内枠部の外周を囲む外枠部とからなる2段の枠部 から構成されているのに対し,被告意匠はディスプレイ周囲のケース部分は ディスプレイと略相似形の扁平な枠部で構成されており,本件意匠のような 内枠部と外枠部という構成を有していない点は,具体的構成態様Dの前提と5 なる構成自体が異なるというものである。それらの違いは,特に注意を惹き やすい部分であるとはいえない基本的構成態様が共通することから受ける 印象を凌駕するものであり,本件意匠と被告意匠は,全体として,異なった 美感を有するものであり,類似しないと認められる。
エ 原告は,本件意匠の基本的構成態様と具体的構成態様について,前記第2,10 のとおり主張し,本件意匠の要部は,自動精算機全体との関係で位置, 大きさ,範囲を考慮したタッチパネル部であって,原告が主張する上記構成 態様を前提として,本件意匠と被告意匠の構成態様の共通点は,本件意匠の 要部についての共通点であるのに対し,具体的構成態様の差異点については, いずれも両意匠の共通性を凌駕するものではなく,本件意匠と被告意匠が類15 似する旨主張する。
しかし,原告が本件意匠の基本的構成態様,具体的構成態様であると主張 する構成態様は,本件図面において破線で示された筐体の形状部分意匠で ある本件意匠の形状そのものとして主張しているものである。部分意匠の趣 旨からも,本件において,タッチパネル部の幅と筐体の幅との具体的な比率20 やタッチパネル部の筐体からの突出の具体的な比率そのものなどの原告主 張の上記構成態様が,本件意匠の具体的な形状であるとは解されない。なお, 登録意匠と対象となる意匠の位置等の違いが類否判断に影響を及ぼす場合 があるとしても,本件においては,本件意匠と被告意匠に類否判断に影響を 及ぼすような位置等の差異はない(前記 )。
25 また,原告は,類否判断において本件意匠と被告意匠について,上記の位 置等が共通することを重視すべき旨を主張する。
17 しかし,本件においては,少なくとも,筐体の上端部から突出するディス プレイ部について,前記イで掲載した意匠が知られており,このことを考慮 すると,前記のとおり,本件意匠と被告意匠は類似しないというべきである。
結論5 以上によれば,被告意匠が本件意匠に類似するとはいえない。
2 したがって,その余の争点を判断するまでもなく,原告の請求にはいずれも理 由がない。
結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとお10 り判決する。