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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10079意匠権侵害差止等請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ3051意匠権侵害差止等請求控訴事件 判例 意匠
平成13ネ5158意匠権侵害等に基づく差止請求控訴事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
平成17行ケ10135審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の実施 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  意匠の類否 /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  利用関係 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 14年 (ネ) 4786号 意匠権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 株式会社サーメル
訴訟代理人弁護士 脇田輝次
補佐人弁理士 小野信夫
被控訴人 株式会社萬丸
被控訴人 ナカバヤシ株式会社
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 白波瀬 文夫
補佐人弁理士 濱田俊明
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2003/03/11
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人ナカバヤシ株式会社(以下「被控訴人ナカバヤシ」という。)は,別紙物件目録記載の物件を輸入し,製造し,販売してはならない。
(3) 被控訴人ナカバヤシは,その占有する別紙物件目録記載の物件をその仕掛品も含めて廃棄せよ。
(4) 被控訴人株式会社萬丸(以下「被控訴人萬丸」という。)は,別紙物件目録記載の物件を販売し,リースし,展示してはならない。
(5) 被控訴人萬丸は,その占有する別紙物件目録記載の物件を廃棄せよ。
(6) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら 主文と同旨
事案の概要
控訴人は,意匠に係る物品を座いすとし,登録意匠の範囲を別紙意匠公報記載のとおりとする登録意匠番号1038537号の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その意匠を「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。控訴人は,被控訴人ナカバヤシが輸入,製造,販売し(ただし,同被控訴人が製造をしているかどうかについては争いがある。),被控訴人萬丸が販売する別紙物件目録記載の座いす(以下「被控訴人製品」という。)の意匠(以下「被控訴人意匠」という。)が,本件登録意匠に類似し,本件意匠権を侵害しているとして,被控訴人らに対し,本件意匠権に基づき,被控訴人製品の輸入,製造,販売の中止等を求めた。原判決は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
事実
当事者間に争いのない事実等並びに争点及び当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決7頁13行の「本件登録意匠の構成F」は,「本件登録意匠の構成E」の誤記と認める。)。
1 当審における控訴人の主張の要点 (1) 意匠法26条は,登録意匠が他人の登録意匠等を利用するものである場合に,業としてその登録意匠を実施することを禁止している。同条は,直接には登録意匠について定めることしかしていない。しかし,当然に,非登録意匠が他人の登録意匠を利用する場合にも,業としてその登録意匠を実施することも禁止していると解すべきである。
形式上は,非類似とされる可能性のある意匠であっても,他人の登録意匠を利用する意匠を何の権限もなく実施することは,その登録意匠の意匠権の侵害となる。
原判決は,被控訴人意匠は本件登録意匠を利用したものであるとの控訴人の主張を無視して,両意匠の類否という別の問題について判断して,結論に至っている。全く不当である。
(2) 原判決が本件登録意匠と被控訴人意匠との相違点として挙げた点は,いずれも微細なものにすぎず,問題にならない。
本件登録意匠の特徴的部分は,背もたれ部の「座部の側面の中程から立ち上がり,途中でよりゆるやかな傾斜角となるよう形成された」点にある。
意匠間に利用関係があるかどうかの判断は,利用意匠と目される意匠中に,登録意匠が本質的特徴を損なうことなく,それと認識できる状態で取り入れられているかどうかで判断すべきである。被控訴人意匠中に,本件登録意匠の上記特徴的部分が,本質を損なうことなく,それと認識できる状態で存在することは,明白である。
(3) 上に述べたところによれば,被控訴人意匠は,本件登録意匠を利用するものであるというべきである。被控訴人意匠の実施は,本件意匠権を侵害する。
2 当審における被控訴人の主張の骨子 (1) 本件において利用関係を問題とする余地はない。本件においてすべきは,本件登録意匠と被控訴人意匠の類否の判断に尽きる。
原判決の類否判断に誤りはない。
控訴人は,本件登録意匠では,背もたれ部の「座部の側面の中程から立ち上がり,途中でよりゆるやかな傾斜角となるよう形成された」点のみに意匠の要部があり,この点において両意匠が共通するか否かのみが問題であって,その他の点における相違はいずれも微細なものであって問題にならないと主張するが,誤りである。
控訴人の上記主張は,本件登録意匠に係る特許庁における審査手続及び審判手続において控訴人が行った主張(乙第3号証)と矛盾するものであり,包袋禁反言の原則に反するものである。
(2) 被控訴人らは,被控訴人製品を今後輸入,販売する意思はない。この点からだけでも,控訴人の差止請求は理由がないことが明らかである。
当裁判所の判断
当裁判所も,原判決と同じく,控訴人の請求は,いずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の事実及び理由「第3 当裁判所の判断」記載のとおりであるから,これを引用する。
1 控訴人は,仮に被控訴人意匠と本件登録意匠とが全体としては類似しないとしても,被控訴人意匠は本件登録意匠を利用するものであるから,被控訴人意匠を実施することは,本件意匠権を侵害することになる(意匠法26条参照),と主張する。そして,利用の有無について判断していないとして,原判決を非難する。
被控訴人意匠は本件登録意匠を利用したものである,とするためには,前者が,後者に登録意匠としての資格を与えているその特徴的部分を具備していることを要することは,いうまでもないところである。このように,登録意匠登録意匠たらしめているその特徴的部分において共通しているかどうかが問題となるという点においては,類似しているか否かの判断と利用しているかの判断の間に相違はない。そして,上記特徴的部分において共通していると認められない限り,類似も利用も認める余地はない。上記部分において共通していると認められて初めて,類似しているか否か,類似してはいないけれども利用しているか,を論ずることができることになるのである。原判決は,要するに,被控訴人意匠は本件登録意匠の特徴的部分を具備していないとしているのであるから,これを,利用の有無について判断していないとして非難することはできない,というべきである。
2 控訴人は,被控訴人意匠が本件登録意匠を利用するものであることの理由として,本件登録意匠の特徴的な部分は,背もたれ部の「座部の側面の中程から立ち上がり,途中でよりゆるやかな傾斜角となるように形成された」点にあり,被控訴人意匠中には,上記特徴的部分が本質を損なうことなく,それと認識できる状態で存在する,と主張する。
しかしながら,原告が主張する側面視における背もたれ部の形状は,本件登録意匠と本件公知意匠との共通の構成である,平面視を略T字状とした座部と,この側面の中ほどから立ち上がるアーチ状に形成した背もたれ部からなるという構成に比べると,微弱なものにすぎず,これのみをもって本件登録意匠の特徴的な部分である,ということはできないというべきである。
本件登録意匠の特徴的な部分は,原告主張の背もたれ部の形状に限られるものではないから,背もたれ部の上記形状のみをとらえて,被控訴人意匠が本件登録意匠の特徴的な部分を具備している,ということはできない。
控訴人の主張は採用することができない。
結論
よって,控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は正当であるから,本件控訴をいずれも棄却することとし,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 阿部正幸
裁判官 高瀬順久