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関連審決 無効2001-35238
関連ワード 物品 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  先願 /  一意匠一出願(7条) /  新規性 /  公然知られた(3条1項1号) /  3条1項2号 /  3条1項3号 /  頒布された刊行物 /  類似する意匠 /  関連意匠(10条) /  本意匠 /  先使用(29条) /  模倣盗用 /  登録意匠 /  類似範囲 /  差止請求(差止) /  通常実施権 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 491号 審決取消請求事件
原告 タキゲン製造株式会社
訴訟代理人弁理士 増田守
被告 日本ボデー・パーツ工業株式会社
訴訟代理人弁理士 藤本昇
同 鈴木活人
同 薬丸誠一
同 中谷寛昭
同 大中実
同 岩田徳哉
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2002/04/15
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2001-35238号事件について平成13年10月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「貨物トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金」とし、その形態を別添審決謄本写し別紙第一記載のとおりとする登録第957117号の類似2号意匠(平成7年12月25日出願、平成8年12月18日設定登録、以下「本件類似意匠」という。)の意匠権者である。
被告は、平成13年6月5日、原告を被請求人として、本件類似意匠の登録を無効にすることについて審判を請求した。
特許庁は、同請求を無効2001-35238号事件として審理した上、同年10月3日に「登録第0957117号の類似第2号意匠の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は同月15日、原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件類似意匠は、その意匠登録出願前の平成7年12月10日に日本国内において頒布された刊行物である株式会社シー・エム出版社発行の雑誌「コマーシャルモーター臨時増刊号」(甲第5号証の1〜3、以下「本件刊行物」という。)に掲載された、その形態を別添審決謄本写し別紙第二(上段の写真の左側)のとおりとする「JBハンドルロック(キー付き)」の意匠(以下「甲号意匠」という。)と、意匠に係る物品が一致し、形態においても類似するものであるから、意匠法3条1項3号の規定に違背して登録されたものであって、同法48条1項1号に該当し、その登録は無効とすべきものであるとし、また、本件類似意匠の登録要件の判断の基準日は、その本意匠である登録第957117号意匠(平成3年12月28日出願、平成8年4月8日設定登録、
以下「本件本意匠」という。)の登録出願日であるから、本件本意匠の出願後に公然実施された甲号意匠は、本件類似意匠の登録要件の判断の対象とはなり得ない旨の被請求人(原告)の主張に対し、「類似登録意匠(注、「類似意匠登録」の誤記と認められる。)を受け得る意匠は、『自己の登録意匠にのみ類似する』なる要件に基づく特例(主体の同一、自己の登録意匠による新規性の喪失の特例、自己の登録意匠に係る先願に対する特例)を除き、その登録要件においても、他の一般の意匠と全く同様のものが要求されるべきことが明らかであって、本件類似登録意匠(注、本件類似意匠)の出願日は、平成7年12月25日である(注、「本件類似登録意匠の登録要件の判断の基準日は、その登録出願日である平成7年12月25日である」との趣旨と解される。)」(審決謄本3頁33行目〜37行目)とした。
原告主張の審決取消事由
1 審決の理由中、本件類似意匠が、甲号意匠と、意匠に係る物品が一致し、形態においても類似するものであることは認める。
審決は、本件類似意匠の登録要件の判断(新規性判断)における基準日を誤った(取消事由)結果、甲号意匠が意匠法3条1項2号所定の意匠であるとし、ひいて本件類似意匠が同項3号に違背して登録されたものと誤って判断したものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(登録要件の基準日の判断の誤り) (1) 審決は、本件類似意匠の登録要件の判断(新規性判断)における基準日を本件類似意匠自体の登録出願日である平成7年12月25日と解したが、以下のとおり、同基準日は、本件本意匠の登録出願日である平成3年12月28日と解すべきであるから、平成7年12月10日頒布の本件刊行物に記載された甲号意匠は、
意匠法3条1項2号所定の意匠に当たらない。
(2) 類似意匠登録制度は、意匠権の効力の及ぶ範囲として、観念的には存在し、潜在的認識の下にある登録意匠類似する意匠(意匠法23条)の範囲を、類似意匠の登録をすることにより顕在化させ、少なくとも、類似意匠登録をされた意匠には登録意匠(本意匠)の効力が及ぶことを対世的に明確にし、意匠権の有効な働きを担保することを、その制度趣旨とするものである。
したがって、類似意匠の登録は、新たな権利を発生させるものではなく、
観念的ないし潜在的に存在していた本意匠に係る意匠権の効力範囲にある意匠を、
登録という手段によって顕在化させるだけのものであるから、類似意匠の登録要件を判断する場合の基準日は本意匠の登録出願日とすべきである。
(3) 仮に、一般には、類似意匠の登録要件の判断における基準日をその類似意匠登録出願に係る出願日とすべきであるとしても、すべての類似意匠登録について一律にそのように解することは衡平の法理に照らして誤りである。
すなわち、産業経済の持続的発展のためには、知的財産権の保護と活用の促進が必要であるにもかかわらず、現実には、先行メーカーが多大の努力の成果として創り上げた発明や意匠等の知的所産物が市場に普及浸透して売れ筋製品となると、これにフリーライドするために、コピーしたり、一部改変して互換性製品を作り、先行メーカーよりも大幅に安い価格で先行メーカーが開拓した市場を荒らし回るような風潮が依然として残っている。このような模倣盗用の風潮を放置することは、同業者間の自由な競争を促進、擁護して国全体の経済発展に貢献させようとする自由競争社会の基本的原理に違背するものであり、特許法を始めとする知的財産諸法の解釈運用は、不正な模倣盗用を法的強制によって排除できるようにされるべきである。
意匠法の類似意匠登録制度の運用についていえば、先行メーカーがある製品について意匠登録を受け、その後、当該登録意匠本意匠とする類似意匠登録を受けた場合において、本意匠の登録出願日と類似意匠の登録出願日との間に、追随メーカーが本意匠の模倣製品を製造販売し、その模倣製品の意匠が広告宣伝のため刊行物に掲載されて公知意匠になったときには、先行メーカーにおいて類似意匠登録制度が本来備えている類似範囲の確認機能を利用して、意匠権を早期かつ確実に行使して追随メーカーの不公正な模倣を排除できるよう法的に担保するためには、
類似意匠についての新規性の判断における基準日は本意匠の登録出願日とすべきであり、このように解することが衡平の法理に適合するものである。
そして、甲号意匠に係る製品は、被告らにおいて、本件本意匠に係る原告の製品を不正に模倣して製造販売され、本件刊行物に掲載されたものであるから、
本件類似意匠の登録要件の判断は、例外的に、その判断の基準日を本件本意匠の登録出願日とすべき場合に当たるものである。
なお、被告の主張する東京地方裁判所平成13年(ワ)第5737号意匠権侵害差止等請求事件につき、同裁判所が同年11月30日に言い渡した判決が、本件本意匠と甲号意匠に係る被告製品とが類似しないと判断したことは、明らかな誤りである。
被告の反論
1 審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
2 取消事由(登録要件の基準日の判断の誤り)について (1) 原告は、類似意匠の登録は新たな権利を発生させるものではなく、観念的ないし潜在的に存在していた本意匠に係る意匠権の効力範囲にある意匠を、登録という手段によって顕在化させるだけのものであるから、類似意匠の登録要件を判断する場合の基準日は本意匠の登録出願日とすべきである旨主張する。
しかしながら、類似意匠の登録は、本意匠類似する意匠の範囲を明確にすると共に、その意匠権の保護を強化するため独立の意匠登録の一種として法が特に定めた制度と考えるべきであり、そうとすれば、類似意匠の意匠権は、それに類似する意匠についてまで効力が及ぶものであるから、類似意匠の登録要件の判断における基準日は、当該類似意匠自体の登録出願日であることは明白である。
(2) 原告は、一般には、類似意匠の登録要件の判断における基準日をその類似意匠登録の出願日とすべきであるとしても、一律に解すべきものではなく、先行メーカーによる本意匠の登録出願日と類似意匠の登録出願日との間に、追随メーカーが本意匠の模倣製品を製造販売し、それが刊行物に掲載されて公知意匠になったときには、類似意匠についての新規性の判断の基準日は本意匠の登録出願日とすることが衡平の法理に適合するところ、本件においては、甲号意匠に係る製品は、被告において、本件本意匠に係る原告の製品を不正に模倣して製造販売され、本件刊行物に掲載されたものであり、本件類似意匠の登録要件の判断は、例外的に、その判断の基準日を本件本意匠の登録出願日とすべき場合に当たるものである旨主張する。
しかしながら、甲号意匠は本件本意匠に類似するものではなく、したがって、甲号意匠に係る製品が本件本意匠に係る原告の製品を不正に模倣したとする主張は、それ自体が失当であって、原告の主張はその前提を欠くものである。
このことは、本件原告が本件被告に対し、本件本意匠に係る意匠権に基づき、甲号意匠に係る製品(被告製品(1))を含む本件被告の販売する「貨物トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金」の製造販売の差止めを求めた東京地方裁判所平成13年(ワ)第5737号意匠権侵害差止等請求事件につき、同裁判所が同年11月30日に言い渡した判決(乙第5号証)において、本件本意匠と上記被告製品(1)の意匠(甲号意匠)とが類似していないとして、本件原告の請求が棄却されたことによっても明白である。
当裁判所の判断
1 取消事由(登録要件の基準日の判断の誤り)について (1) 意匠法10条(平成10年法律第51号による改正前の規定、以下同じ。)1項は、「意匠権者は、自己の登録意匠にのみ類似する意匠(以下「類似意匠」という。)について類似意匠の意匠登録を受けることができる。」と規定するところ、同規定は、類似意匠の登録要件に関し、登録出願に係る類似意匠が「自己の登録意匠」、すなわち本意匠に類似することを積極的登録要件としたほか、これに対応して、同法3条及び9条所定の一般的な消極的登録要件の適用については、
登録出願に係る類似意匠が本意匠に類似することを原因とするものにつき排除することを定めたものと解される。同法10条2項の「前項の規定により意匠登録を受けた類似意匠にのみ類似する意匠については、同項の規定は、適用しない。」との規定は、上記積極的登録要件に例外があることを定めるものである。そして、同法が、類似意匠の登録要件に関し、一般の意匠登録要件に対する特例として定めた事項は以上に尽きるものであって、同法3条1項1号及び2号に、それぞれ「意匠登録出願前」とあるのを「類似意匠に係る本意匠の登録出願前」と読み替えるべきことを定めた規定は存在しない。すなわち、意匠法上、一般に、意匠登録出願について登録要件を判断する場合における基準日は当該意匠登録出願の日とされているのであり、類似意匠登録の出願については同基準日を本意匠の登録出願日とすべきである旨の原告の主張は明文の根拠を欠くものであって、類似意匠の登録要件の判断の基準日は類似意匠登録の出願日というべきである(なお、最高裁平成7年2月24日第二小法廷判決・民集49巻2号460頁参照)。
ところで、原告は、上記主張の根拠として、類似意匠登録制度は、意匠権の効力の及ぶ範囲として存在する登録意匠類似する意匠の範囲を顕在化させ、少なくとも類似意匠登録をされた意匠には登録意匠の効力が及ぶことを対世的に明確にして、意匠権の有効な働きを担保することを制度趣旨とするものであって、新たな権利を発生させるものではないことを挙げる。
しかしながら、仮に、類似意匠登録制度の制度趣旨ないし類似意匠の法的性質を原告主張のように解するとしても、類似意匠登録は、本意匠について本来認められるその効力が及ぶ範囲、すなわち、登録意匠(本意匠)に類似する意匠の範囲を、権利行使の便宜ないし迅速化等の目的であらかじめ確認する意味を有するにとどまるものであり、本意匠について本来認められるその効力が及ぶ範囲は、類似意匠が登録されるかどうかによって何ら法律上の影響を受けるものでないことは明らかである。そうであれば、意匠法上、一般に、意匠登録出願について登録要件を判断する場合における基準日は当該意匠登録出願の日とされているにもかかわらず、明文の根拠がないのに、類似意匠登録の出願に限っては同基準日を本意匠の登録出願日と解さなければならない実質的な理由も存在しないというべきである。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 原告は、一般には、類似意匠の登録要件の判断における基準日をその類似意匠登録の出願日とすべきであるとしても、一律に解すべきものではなく、先行メーカーによる本意匠の登録出願日と類似意匠の登録出願日との間に、追随メーカーが本意匠の模倣製品を製造販売し、それが刊行物に掲載されて公知意匠になったときには、先行メーカーにおいて類似意匠登録制度が本来備えている類似範囲の確認機能を利用して、意匠権を早期かつ確実に行使して追随メーカーの不公正な模倣を排除できるよう法的に担保するために、類似意匠についての新規性の判断の基準日は本意匠の登録出願日とすることが衡平の法理に適合するところ、本件においては、甲号意匠に係る製品は、被告において、本件本意匠に係る原告の製品を不正に模倣して製造販売され、本件刊行物に掲載されたものであり、本件類似意匠の登録要件の判断は、例外的に、その判断の基準日を本件本意匠の登録出願日とすべき場合に当たる旨主張する。
確かに、類似意匠登録制度の制度趣旨ないし類似意匠の法的性質を原告主張のように解するとすれば、上記(1)のとおり、類似意匠は、登録意匠(本意匠)に類似する意匠の範囲を、権利行使の便宜ないし迅速化等の目的であらかじめ確認する機能を果たすものということができる。しかしながら、本意匠に係る意匠権に対する侵害があれば、当該意匠権に基づいてその侵害の排除をし得ることはいうまでもないところ、本意匠の効力が及ぶ範囲が、類似意匠が登録されるかどうかによって何ら法律上の影響を受けるものでないことも上記(1)のとおりであるから、登録意匠の違法な模倣を排除するために、類似意匠の登録を経ることが必要であるというわけではなく、そうとすれば、原告主張のように解さなければ、衡平の法理に適合しないということはできない。
また、原告の主張によれば、「本意匠の登録出願日と類似意匠の登録出願日との間に、本意匠の模倣製品が製造販売されて、それが刊行物に掲載されて公知意匠になった」場合と、そうでない場合とにおいて、類似意匠の登録要件の判断における基準日が異なることになるが、そのこと自体、審査手続における整合性を害し、法的安定性を損なうおそれがあるのみならず、本意匠の登録出願日と類似意匠の登録出願日との間に公知となった意匠が、本意匠の「模倣製品」に係るものであるとするためには、当該公知意匠が、本意匠の効力の及ぶ範囲に属するものであることのほか、例えば、先使用による通常実施権(意匠法29条)の成立する要件を備えないこと等を確定する必要があるところ、それらの事項は、本来、裁判所が具体的事案において法を適用して判断すべきものであって、意匠登録出願の審査にはなじまない性質のものといわざるを得ない。
したがって、「本意匠の登録出願日と類似意匠の登録出願日との間に、本意匠の模倣製品が製造販売されて、それが刊行物に掲載されて公知意匠になった」場合であっても、類似意匠の登録要件の判断における基準日を本意匠の登録出願日とすべきであるとは到底解することができず、原告の上記主張は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
(3) 以上のとおりであるから、本件類似意匠の登録要件の判断の基準日を、その登録出願日である平成7年12月25日であるとした審決の判断に原告主張の誤りはない。
2 よって、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらないから、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宮坂昌利
裁判官 石原直樹