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関連審決 無効2004-35122
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10422審決取消請求事件 判例 意匠
平成16行ケ138審決取消請求事件 判例 意匠
平成15行ケ565審決取消請求事件 判例 意匠
平成17行ケ10785審決取消請求事件 判例 意匠
平成14行ケ307審決取消請求事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  模様 /  意匠に係る物品 /  意匠の説明 /  物品の機能 /  願書の記載 /  関連意匠(10条) /  登録意匠 /  取引の実情 /  類似性(類否判断) /  無効審判 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10421号 審決取消請求事件

原告 ニプロ株式会社
訴訟代理人弁理士 小谷悦司
同 川瀬幹夫
同 小谷昌崇
被告 株式会社大塚製薬工場
訴訟代理人弁理士 藤本昇
同 薬丸誠一
同 中谷寛昭
同 岩田徳哉
同 野村慎一
同 稲岡耕作
同 川崎実夫
同 松井宏記
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/09/13
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2004-35122号事件について平成17年3月8日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,被告の有する本件登録意匠について原告が平成16年3月1日付けで意匠登録無効審判を請求したところ,特許庁が平成17年3月8日に審判請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求の原因 (1) 特許庁における手続の経緯 被告は,意匠に係る物品を「輸液バッグ」とする登録第1107140号意匠(平成12年6月20日意匠登録出願,平成13年2月23日設定登録。甲2。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
原告は,平成16年3月1日付けで本件登録意匠につき意匠登録無効審判請求をした。そこで特許庁は,同請求を無効2004-35122号事件として審理した上,平成17年3月8日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成17年3月18日原告に送達された。
(2) 本件登録意匠 本件登録意匠は,意匠に係る物品を「輸液バッグ」とし,その形態を別添審決写し別紙第1記載のとおりとするものである。
(3) 審決の内容 ア 審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。その要旨とするところは,本件登録意匠は,@出願前公知意匠である登録第1016887号(審判甲1・本訴乙1添付の意匠目録2参照。平成8年4月24日意匠登録出願,平成10年5月22日設定登録。審決写し別紙第2。以下「甲号意匠」という。)に類似するとはいえないし,A甲号意匠に,特開平10-15035号公報(審判甲3・本訴甲5)の図1に示す意匠(以下「引用意匠2」という。審決写し別紙第3)を組み合わせることにより当業者が容易に意匠の創作ができたということもできないとしたものである。
イ なお,審決は,本件登録意匠と甲号意匠との対比に当たって,両意匠は意匠に係る物品が共通であるとしたほか,その共通点及び差異点を下記のとおりと認定した。
記 【共通点】(a)同様に下端部中央に抽出口栓を設け,袋部全体を薄いシート状の略縦長長方形状とし,シール部により上半部に薬剤収納室を,下半部に溶解液収納室を区分けして一連に設けた構成の輸液バッグであって,(b)一連の袋部(注出口栓及びアルミラミネートシートを除く)を左右対称の正背面を同形状とし,全体の外周形状を,上辺左右角部を隅丸形状とした基本的な構成態様とした点,具体的には,熱溶着シール部を(c)上半部は,薬剤収納室の周りをシール部としたもので,上部シール部は幅広帯状とし,その中央に吊り下げ用の小円孔を穿ち,左右側部シール部は細幅帯状とした点,(d)下半部溶解液収納室は,薬剤収納室より縦幅の長い(室内容量の大きい)略縦長隅丸長方形の下部を左右両側辺から中央下へ緩やかな傾斜状とし,その上下部をシールしたもので,下部シール部を細幅帯状とし,上部シール部を境部シール部とし,左右側部にシール部を設けず,その境部シール部の内側の細幅シール部を弱シール部とし,それ以外のシール部を強シール部とした点,(e)正面側上部吊り下げ用小円孔下あたりから中央部までを外形状とほぼ同形状のアルミラミネートシートで覆った点。
【差異点】(あ)本件登録意匠は,一連の袋部の左右側辺中央稍下寄り部に同形の稍浅い台形状の切り欠き部を設けたのに対して,甲号意匠にはそのような切り欠き部を設けていない点,(い)本件登録意匠は,袋部下辺形状を中央横幅1/2程の水平部から上方へ左右になだらかな斜辺を描き,角部を隅丸状としたのに対して,甲号意匠は,下辺中央横幅2/3程の水平部の左右角部を斜めに切り落とした形状とした点,(う)薬剤収納室の縦横構成比を,本件登録意匠は約6/5の縦長としたのに対して,甲号意匠は約3/4の横長とし,薬剤収納室形状と上半部シール部を,本件登録意匠は縦長隅丸長方形下方(1/4程)の左右両下隅を内側に,両側辺台形切り欠き部斜辺とほぼ並行に傾斜させた逆台形状としたもので,その傾斜部のシール部をやや幅広帯状とし,下部シール部(上下収納室の境部シール部)はその傾斜部シール幅の半分程の幅の帯状としたのに対して,甲号意匠の薬液収納室形状を,隅丸横長長方形状としており,その下方に左右の傾斜辺を構成していないので,下部シール部(境部シール部)はその左右側部シール幅の倍強の水平帯状とし,その上半部シール部の占める縦幅は,薬剤収納室縦幅の4/9程に対して,それ以上の5/9程を占めるシール部分が上半部の大半の面積を占めている点,(え)溶解液収納室の縦横構成比を,本件登録意匠は約2/1の縦長としたのに対して甲号意匠は約10/9とし,溶解液収納室形状とシール部を,本件登録意匠は略縦長隅丸長方形上方(1/3強程)の左右上隅部を内側に,両側辺台形切り欠き部斜辺と略並行状に傾斜させた台形状とし(薬剤収納袋の下部傾斜角よりやや傾斜角が急),下方左右両側辺から中央下へなだらかな傾斜状とした形状としたもので,上部左右傾斜部シール部幅を下部シール部幅の倍弱幅(薬剤収納室下方傾斜シール部幅より稍幅狭)の帯状形状としたのに対して,甲号意匠は,溶解液収納室形状を略縦長隅丸長方形状とし,下方左右両側辺から中央下へ緩やかな湾曲傾斜状とした形状,上部を上下収納室境部水平帯状シール部形状とした点,(お)本件登録意匠は,アルミラミネートシート形状を縦長長方形状の下端左右両側部を切り欠き,中央部に小さな半円弧状の突出形状を設けたのに対して,甲号意匠は,ほぼ正方形の下端両隅を隅丸形状とし,その下端細幅帯状部を斜めに僅かに浮かし,その上方に額縁状隅丸矩形状線を表した点。
(4) 審決の取消事由 しかしながら,審決は,以下に述べる理由により,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1 (ア) 審決には,本件登録意匠の要部を,参考図に示されているにすぎない形状,模様に基づき認定した違法がある。
審決は,本件登録意匠と甲号意匠の差異点について,「(う)の薬剤収納室の下方両内側への傾斜形状をその左右側辺台形状切り欠き部斜辺とほぼ平行に形成し,下方形状を逆台形状としたもので,その並行傾斜シール部をやや幅広帯状にした部分及び(え)の溶解液収納室の上方両内側への傾斜形状をその台形状切り欠き部斜辺と略平行状(薬剤収納室の下部傾斜角よりやや傾斜角が急)に形成し,その上方形状を台形状としたもので,その略平行状傾斜シール部を薬剤収納室傾斜シール部幅よりもやや幅広帯状にした部分と,境部シール部とが形成する中央部シール部態様,つまり,概略横倒Y字形状2字を相対抗するように繋いで形成したシール部の態様を,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの1/3程を占める部分に表していることからすれば,その態様が全体に与える影響は大きく,特徴を形成しているのに対して,甲号意匠のように薬剤収納室下部幅広シール部及び左右側部の稍細幅シール部で構成する略U字形状と,溶解液収納室上辺両角隅の凹湾曲隅シール部とした態様は,大きく相違し,上記特徴あるシール部形状を有する形態との差異が類否判断に与える影響は大きく別異の態様とせざるを得ない」(審決7頁第1段落)とし,甲号意匠の正面図に表わされた中央部シール部の態様と,本件登録意匠の【アルミラミネートシートをはがした状態の参考正面図】(以下「参考正面図」という。)とを対比して,「概略横倒Y字形状2字を相対抗するように繋いで形成したシール部の態様を,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの1/3程を占める部分に表している点」を本件登録意匠の要部と認定した。
しかし,本件登録意匠の必要図として記載されている正面図には上半部薬剤収納室の全面にはアルミラミネートシートが貼着されており,差異点(う)に記載されたシール部の形状は必要図である正面図には表われておらず,単に参考図として記載されている参考正面図に表われているにすぎないのであり,参考図のみに表われているにすぎない構成は本件登録意匠を構成するものとはいえないから,意匠法3条1項柱書に規定する意匠を構成するものではない。すなわち,本件意匠公報記載の図面には,必要図としては,正面図,背面図,右側面図(「左側面図は右側面図と対称に現れる」と意匠の説明欄に記載がある。),平面図及び底面図の6面図が挙げられているにすぎず,参考正面図は意匠の理解を助けるための参考図として記載されているにすぎない。意匠登録出願人が意匠登録を受けようとする図面を,権利を請求するに当たって,その意匠を十分表現できるものとして自己の自由意思に基づき選択した必要図が,特許出願における特許請求の範囲に相当するものというべきで,参考図はその意匠の理解を助けるために参考として記載されるものにすぎず,特許出願における特許請求の範囲記載発明の理解を助ける機能を有する「発明の詳細な説明」に相当するものと解することができる。したがって,意匠出願における参考図は,特許出願における発明の詳細な説明には記載したが出願人自身が意識的に特許を請求しなかった構成に相当するものということができ,登録意匠における参考図から,その登録意匠の構成要素を抽出することはもちろん,登録意匠の要部を導き出すことも許されない。
被告は,審決は原告が主張するように参考正面図のみに表れているにすぎない構成によって本件登録意匠の構成を認定したものではないと主張するが,本件登録意匠の構成態様(C)(審決3頁第1段落参照)は,必要図としては視認性の低いアルミラミネートシートに対する熱シール用金型の押圧痕にすぎない背面図のみに表わされているにすぎず,願書の「意匠に係る物品の説明」や「意匠の説明」中には,正面側の形状,模様に関する説明としては「バッグ主体となるプラスチック製袋の正面側には,アルミシートが剥離可能に周辺のみが貼着されている」との記載しかなく,アルミシートを剥がした際に表われるシール部や製剤収納室の形状や素材については一切記載されていない。参考正面図における製剤収納室の周囲のシール部に囲まれた部分が透明であれば,意匠法6条7項によりその旨を記載しなければならないにもかかわらず,本件登録意匠の願書(以下「本件願書」という。)には一切記載されていない。透明部分を明示する記載がなされて初めて,構成態様(C)が正面図において単なる押圧痕のみではなく,その押圧痕からなるシール部に囲まれた中央部の薬剤収納状態を確認できる透視窓との関係において,上記シール部が初めて意匠の明確な構成要素として一般需要者の目を惹くこととなるのである。
(イ) 審決には,視認性が低くかつ機能上必然的でありふれた形状,模様部分を要部と認定した違法がある。
審決が本件登録意匠の要部と認定した「概略横倒Y字形状2字を相対抗するように繋いで形成したシール部の態様を,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの1/3程を占める部分に表している点」(審決7頁第1段落)は,本件願書の背面図に一応表われている。
しかし,本件登録意匠の上部袋体の背面は本件意匠公報の中央部分拡大参考断面図で明らかなとおり,プラスチックシートにアルミ箔をラミネートしたアルミラミネートシートからなり,本件登録意匠の上半部袋体の背面図に表われているシール部の形状,模様は背面側のアルミラミネートシートと正面側のプラスチックシートを熱溶着する金型の押圧痕にすぎず,図面に表わせば一応明りょうな線となって形状,模様が表われるものの,実際製品では,客観的に見て意匠法2条1項でいう視覚上美感を起こさせる程の視認性は認められるものでない。東京高裁平成15年(行ケ)第358号・同16年3月31日判決(甲6,以下「甲6判決」という。)は,「この種袋体の製造においてシールを用いるか否かは,当業者が適宜選択し得る事項であると認められるところ,シールを用いるにしろ,シールを用いないにしろ,そのことにより生ずる形態は,この種袋体の製造方法に付随して生ずるありふれたものということができ,本件意匠においてシールが存在しないのは薬液収納部の両側縁に限定されていることをも考慮すれば,両側縁のシールの有無により生ずる意匠的効果の差異は格別のものではない」(21頁第2段落)と判示するように,登録意匠の要部認定に当たっては,単に図面に表わされた線のみに基づき認定されるべきでなく,実際製品をイメージして要部認定が行なわれるべきである。特許庁の審査においては,ダブルバッグタイプの輸液バッグの中央境界部のシール部形状において,特異な形状が表われているものも,そうでないものも,全体的な基本的形状において共通する範囲にある限りすべて一群の類似意匠として登録されており(甲8〜甲11参照),中央境界シール部の形状部分を要部と判断して類似意匠なり関連意匠が登録されているケースは皆無といってよく,ダブルバッグタイプの輸液バッグの中央境界部のシール部の形状を重視しない慣行が存在する。その理由は,ダブルバッグタイプの輸液バッグにおけるこの部分の形態はこの種物品の機能からみて,使用時に下部袋体の溶解液収納室を手で押圧することにより中央の弱シール部を連通状態とするために,溶解液が中央弱シール部に向けて集中させるべく下部袋体の上端部側方を上窄まりに傾斜させることが有利であり,さらに,溶解液(薬液の場合もある)が上部袋体の薬剤(薬液の場合もある)収納室に流入して両者が溶解混合された後は,下端注出口栓に向けて一滴も残ることなく流下せしめるために,上部袋体の下端両側縁を下窄まりに傾斜させておくことが有利であるからであって,このような形態はこの種物品の機能上必然的な形態であり,かつ,ありふれた形態といえるからである(甲12〜甲16参照)。審決は「製造前にシール部の形状,幅を創作,決定することから,そこに意匠の創作があった」(審決8頁第4段落)と判断したが,シール部の形状が視認性が低く,かつ,機能上必然的でありふれた形態の改変にすぎない以上,本件登録意匠におけるシール部の形状,幅をもって創作部分と評価することはできない。
また,ダブルバッグ型輸液バッグには,背面における上部袋体の薬剤収納室の縦方向にはほぼ全面,横方向には80%〜90%を覆うラベルが,容易に剥れることのないよう接着されており,そのラベル面に薬事法50条,51条で求められている「製造販売業者氏名と住所」,「一般的名称」,「製造番号又は製造記号」,「内容量」,「貯法」,「有効期間」,「有効成分の名称,及びその分量」及び「注意事項」等が記載され,さらには,患者の部屋,ベッド番号及び氏名を記載する欄も設けられ,背面に表わされた熱シール用金型の押圧痕であるシール部の形状はほとんどこのラベルによって販売状態から使用状態を通じて隠されてしまっているのであり,本件登録意匠における背面図に表わされたシール部の形状は視認性を欠いた状態で販売され,使用されている厳然たる取引上の実情が存在する。したがって,本件登録意匠の背面図に表わされているシール部の形状,模様は,実際製品にあっては販売状態から使用状態を通じて強行規定である薬事法50条,51条に規定する表示が印刷されたラベルがほとんど全面に接着せざるを得ないこととなり,事実上,取引者,需要者が目視できなくなる取引の実情が存する以上,この背面図に表わされたシール部の形状,模様部分を以って本件登録意匠の要部と認定することは許されない。
イ 取消事由2 審決における本件登録意匠の要部認定が誤りであることは,上記アのとおりである。
そうすると,本件登録意匠と引用意匠2との異なる点として,@くびれ部が台形状か円弧状か,Aくびれ部の位置が中央部か上方部か,の2点が存するものの,@については,本件登録意匠に類似するものとして関連意匠登録されている登録第1108823号意匠及び登録第1108824号意匠のくびれ部がいずれも台形状でなく引用意匠2と同じ円弧状であり,台形状を円弧状に改変する程度のことは微差であることを裏付けている。また,Aについては,収納する薬剤の量によって薬剤収納室と溶解液収納室の長さが必然的に変わるものである以上,両室の連結部分の側方に設けられるくびれ部の位置の改変も微差というほかない。
したがって,本件登録意匠と甲号意匠とが類似し,くびれ部を有しない甲号意匠にくびれ部を有する引用意匠2を組み合わせることにより容易に意匠の創作をすることができたことは疑いがない。
2 請求原因に対する認否 請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認め,同(4)は争う。
3 被告の反論 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 取消事由1に対し ア 審決は,本件登録意匠の構成認定及び甲号意匠との対比,判断において,原告主張が主張するように参考正面図のみに表れているにすぎない構成によって本件登録意匠の構成を認定したものではない。
すなわち,本件登録意匠の構成中,上記(C)の構成,差異点(う)と(え)のシール部の構成態様,特に上半部の薬剤収納室のシール部の形状や中央部シール部態様は,背面図に明確に図示されているものであって,参考正面図のみに表れているものではないことは明らかであり,しかも,この種物品にとって背面図は視覚上重要であるため,背面図によって上記シール部形状は認定できるのである。さらに,本件登録意匠の正面図のアルミシート(カバーシート)は,本件願書(甲2)の「意匠に係る物品の説明」の項に,「バッグ主体となるプラスチック製袋の正面側には,アルミシートが剥離可能に周辺のみ貼着されている」と記載されているほか,審決が「(お)のアルミラミネートシートについては,そのシートそのものが薬剤の変質等を防ぐ薬剤収納室を覆うものであり,輸液バッグの分野においては通常観られるところであって,使用時には剥がしてしまうもの」(審決8頁第2段落)と認定していることからも明らかなように,本件登録意匠の正面図のアルミラミネートシートは,輸液バッグ本体の完成後に正面側上部の薬剤収納室に貼着されるものであり,かつ,使用時には剥がされるものであるため,当該シートの貼着前や剥離後の薬剤収納室の正面視の形状は,背面図と同形状であることが当該輸液バッグの分野の当業者に明らかであり,参考正面図を参酌すればより一層明白である。
イ 原告は,シール部の態様は金型の押圧痕にすぎず実際製品では視認性がないと主張するが,意匠法24条の「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添付した図面に記載され・・・た意匠に基いて定めなければならない」との規定に反する不当な主張である。
審決は,本件登録意匠の特徴を本件願書の記載に基づいてその構成態様を認定するとともに,従来公知の意匠と対比してその特徴を評価,判断したものであって正当であり,本件願書の図面には本件登録意匠のシール部の態様が明確に図示されている。大阪地裁平成14年(ワ)第8765号判決(乙1)が,「(1)ア(ア)本件登録意匠意匠に係る物品は輸液バッグであり,側面視において,全体が薄型の形状をしているから,通常,看者の目に多く触れるのは,正面及び背面であると認められる。そして,製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部は,正面及び背面のほぼ中央にあり,また,輸液バッグの使用時には,同境界部の弱シール部を連通させて使用することから,同境界部付近は,看者の注意を引く位置にあるものと認められる。 (イ)同境界部付近の構成をみると,その基本的構成は,同境界部の中央に帯状の弱シール部が形成されており,その弱シール部の両側に,弱シール部より幅の広い強シール部が形成されている(基本的構成態様D)というものである。そして,その具体的構成は,製剤収納部の下端左右コーナー部の外側のシール部は,弱シール部より幅が広く,弱シール部の左右両側の強シール部の上半分を形成しており(具体的構成態様J),溶解液収納側の袋体の上端左右コーナー部のシール部は,弱シール部より幅が広く,弱シール部の左右両側の強シール部の下半分を形成している(具体的構成態様Q)というものである。このような同境界部付近の構成において,同境界部の中央に帯状の弱シール部が形成されており,その弱シール部の両側に,弱シール部より幅の広い強シール部が形成されているという基本的構成態様Dは,同境界部付近の構成の骨格を特徴づけており,看者の注意を引くものと認められる」(23頁下第2段落〜24頁第2段落),「前記のとおり,基本的構成態様Dの構成が背面の中央部付近に表れており,本件登録意匠全体の中においてより一層目立つことからすると,基本的構成態様Dが要部に当たる」(27頁下第2段落)と判示するとおり,本件登録意匠の要部は,製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央に形成された弱シール部とその両側の強シール部の形状,すなわちシール部の形状にあるというべきである。
(2) 取消事由2に対し 上記のように本件登録意匠と甲号意匠とが類似するものではない以上,本件登録意匠と全く形態の異なる引用意匠2を引用して,甲号意匠と引用意匠2から容易に創作をすることができるものでないことは明らかである。
当裁判所の判断
1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本件登録意匠)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由1について (1) 原告は,本件登録意匠の必要図として記載されている正面図には上半部薬剤収納室の全面にはアルミラミネートシートが貼着されており,差異点(う)に記載されたシール部の形状は必要図である正面図には表われておらず,単に参考図として記載されている参考正面図に表われているにすぎないのであり,参考図のみに表われているにすぎない構成は本件登録意匠を構成するものとはいえないから,意匠法3条1項柱書に規定する意匠を構成するものではないとし,審決が「概略横倒Y字形状2字を相対抗するように繋いで形成したシール部の態様を,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの1/3程を占める部分に表している点」を本件登録意匠の要部と認定したことは誤りであると主張する。
しかし,審決は,本件登録意匠の熱溶着シール部について,「(C)上半部の薬剤収納室を,縦横比6/5程の縦長隅丸長方形下方の左右両隅を内側に,外周台形切り欠き部斜辺とほぼ並行に傾斜させた逆台形状とし,その周りをシール部としたもので,上部シール部は幅広帯状とし,その中央に吊り下げ用の小円孔を穿ち,左右側部シール部は細幅帯状とし,傾斜部シール部はやや幅広帯状とし,下部シール部(上下収納室境部シール部)はその傾斜部シール幅の半分程の幅の帯状としたもので,(D)下半部の溶解液収納室を薬剤収納室より縦幅の長い(内容量の大きい)縦横比約2/1の略縦長隅丸長方形上方の左右両上隅部を内側に,外周台形切り欠き部斜辺と略並行状に傾斜させた台形状(薬剤収納袋の下部傾斜角より稍傾斜角が急)とし,下部を左右両側から中央下へなだらかな傾斜状とした形状とし,その上下部をシールした(左右側部はシール部なし)もので,下部シール部を細幅帯状とし,上部左右傾斜部シール部を下部シール幅の倍弱幅の帯状とし,境部シール部の内側の細幅シールを弱シールとし,それ以外のシール部を強シールとしたもの」(審決3頁第1段落)と認定した上,その中央部シール部の態様について,「概略横倒Y字形状2字を相対抗するように繋いで形成したシール部の態様を,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの1/3程を占める部分に表している点」と表現したものであり,その認定に誤りはない。
意匠法施行規則3条は,「願書に添付すべき図面は,様式第6により作成しなければならない」と規定し,様式第6の備考8は,「立体を示す図面は,正投影図法により各図同一縮尺で作成した正面図,背面図,左側面図,右側面図,平面図及び底面図(判決注;以下「6面図」という。)をもって一組として記載する」と,同備考14は,「8から10までの図面だけでは,その意匠を十分表現することができないときは,展開図,断面図,切断部端面図,拡大図,斜視図その他の必要な図を加え,そのほか意匠の理解を助けるため必要があるときは,使用の状態を示した図その他の参考図を加える」と規定している。そして,本件願書(甲2)の図面には,6面図のほかに,【アルミラミネートシートをはがした状態の参考正面図】(参考正面図)及び【右側面図中央部分拡大参考断面図】が含まれている。参考図と6面図との間に明らかな矛盾があるといった特段の事情がない限り(参考図と6面図との間に矛盾がある場合に参考図に基づいて意匠を認定することは,必須図面である6面図に基づく認定に反した誤った認定となるが,本件においては,両者に矛盾があるとは認められない。),6面図とともに参考図をも参照して意匠を認定すべきことは,上記備考14の趣旨に従い立体的な意匠を的確に把握するために当然のことというべきである。
原告は,参考正面図における製剤収納室の周囲のシール部に囲まれた部分が透明であれば,意匠法6条7項によりその旨を記載しなければならないにもかかわらず,本件願書には一切記載されていないとも主張する。しかし,製剤収納室の周囲のシール部に囲まれた部分が透明でなくても,参考正面図を参照して本件意匠を認定できることは上記のとおりであるところ,本件登録意匠においては,上記部分が透明であることは何ら特定されていないのであるから,原告の上記主張は,本件登録意匠の構成に基づかないものであり,失当というほかない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) 原告は,甲6判決を引用し,本件登録意匠の上半部袋体の背面図に表われているシール部の形状,模様は背面側のアルミラミネートシートと正面側のプラスチックシートを熱溶着する金型の押圧痕にすぎず,図面に表わせば一応明りょうな線となって形状,模様が表われるものの,実際製品では,客観的に見て意匠法2条1項でいう視覚上美感を起こさせる程の視認性は認められるものでないから,審決が「概略横倒Y字形状2字を相対抗するように繋いで形成したシール部の態様を,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの1/3程を占める部分に表している点」を本件登録意匠の要部と認定したことは誤りであると主張する。
「概略横倒Y字形状2字を相対抗するように繋いで形成したシール部の態様を,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの1/3程を占める部分に表している点」は,本件登録意匠の背面図及び参考正面図に表れているところ,本件登録意匠に係る輸液バッグは,側面視において全体が薄型の形状をしているから,正面と背面が,通常看者の目に触れるものと認められる。また,輸液バッグは,アルミラミネートをはがした状態で使用されるものであり,取引者,需要者は,購入時のみならず,使用時における美感をも選択の基準とすると認められる。そして,証拠(甲18の1〜甲19の5)によれば,同シール部は看者に十分視認し得るものと認められるところ,上記態様は,熱溶着されたシール部として表れ,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの約3分の1を占める部分に表れて同境界部付近の骨格を特徴付けており,看者の注意を引く部分であると認められる。原告の引用する甲6判決には,「この種袋体の製造においてシールを用いるか否かは,当業者が適宜選択し得る事項であると認められるところ,シールを用いるにしろ,シールを用いないにしろ,そのことにより生ずる形態は,この種袋体の製造方法に付随して生ずるありふれたものということができ,本件意匠においてシールが存在しないのは薬液収納部の両側縁に限定されていることをも考慮すれば,両側縁のシールの有無により生ずる意匠的効果の差異は格別のものではない」(21頁第2段落)と説示する部分があるが,上記説示は,両側縁のシールの有無により生ずる意匠的効果に係るものであり,輸液バッグのほぼ中央部分に全体の縦長さの約3分の1を占める本件シール部分が有する意匠的効果についても同様にいうことはできない。
原告は,ダブルバッグタイプの輸液バッグにおいては,下部袋体の上端部側方を上窄まりに傾斜させ,上部袋体の下端両側縁を下窄まりに傾斜させてる形態は機能上必然的かつありふれた形態であるから,形態中央境界部のシール部の形状を重視しない慣行が存在すると主張する。しかし,上記形態自体は機能上必然的かつありふれた形態であるとしても,「概略横倒Y字形状2字を相対抗するように繋いで形成したシール部の態様を,輸液バッグのほぼ中央部分に,全体の縦長さの1/3程を占める部分に表している点」が機能上必然的かつありふれたものであるとは認められず,また,本件全証拠によるも,ダブルバッグタイプの輸液バッグにおいて形態中央境界部のシール部の形状を重視しない慣行が存在するとも認められない。
また,原告は,本件登録意匠の背面図に表わされているシール部の形状,模様は,実際製品にあっては販売状態から使用状態を通じて強行規定である薬事法50条,51条に規定する表示が印刷されたラベルがほとんど全面に接着せざるを得ないこととなり,事実上,取引者,需要者が目視できなくなるとも主張する。しかしながら,輸液バッグ上にラベルをほとんど全面に接着させなくても,輸液バッグの表面に印刷する等の方法により薬事法50条,51条に規定する表示をすることは可能であると認められるところ,上記表示を施すことにより輸液バッグのほぼ中央部分に全体の縦長さの約3分の1を占める本件シール部分が視認できなくなるとは認められないから,原告の上記主張も採用することができない。
(3) 以上検討したところによれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2について 原告は,審決における本件登録意匠の要部認定が誤りであるから,本件登録意匠と甲号意匠とが類似し,くびれ部を有しない甲号意匠にくびれ部を有する引用意匠2を組み合わせることにより容易に意匠の創作をすることができたものであると主張する。
しかし,審決における本件登録意匠の要部認定に誤りがないことは上記2のとおりである。そうすると,上記要部の構成を有しない甲号意匠と本件登録意匠が類似するものとはいえず,両者が類似するものではない以上,本件登録意匠が甲号意匠と引用意匠2とから容易に創作をすることができたものということはできない。
したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉