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関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  意匠の説明 /  先願 /  新規性 /  類似する意匠 /  物品の機能 /  部品 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  全体観察 /  本意匠 /  先使用(29条) /  登録意匠 /  類似範囲 /  差止請求(差止) /  損害賠償 /  通常実施権 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 11年 (ワ) 13242号 意匠権物品製造・販売差止等請求事件
原告 株式会社ブレスト工業研究所
訴訟代理人弁護士 元木祐司
訴訟復代理人弁護士 上野保
同補佐人弁理士 中村政美
被告 カナフジ電工株式会社
訴訟代理人弁護士 服部昌明
同 池田和郎
同 柏田芳徳
同 吉田幸宗
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/08/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を,製造し、販売してはならない。
2 被告は,前項の製品及び半製品,その金型及び同製品が掲載されたカタログを廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,155万5635円及びこれに対する平成11年6月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
事案の概要
本件は,後記意匠権を有する原告が,被告の製造・販売する製品は,原告の意匠権を侵害していると主張して,被告の製品の製造等の差止め,製品等の廃棄及び損害賠償を求めている事案である。
1 争いのない事実等 (1) 原告は,次の意匠権を有している(本判決末尾添付の意匠公報参照。以下,下記アの意匠権の意匠を「本件登録意匠1」といい,下記イの意匠権の意匠を「本件登録意匠2」といい,特に区別して用いないときは,これらを「本件登録意匠」と総称する。)。
登録意匠番号 第998342号 意匠 本判決末尾添付の意匠公報のとおり 意匠に係る物品 ラック用カバー 出願年月日 平成5年3月16日 登録年月日 平成9年8月22日 イ 登録意匠番号 第998343号 意匠 本判決末尾添付の意匠公報のとおり 意匠に係る物品 ラック用カバー 出願年月日 平成5年3月16日 登録年月日 平成9年8月22日 (2) 被告は,別紙図面記載の製品(以下「被告製品1-1」のようにいい,被告製品1-1ないし9を併せて「被告製品1」と,被告製品2-1ないし9を併せて「被告製品2」ということがある。また,特に区別して用いないときは,これらを「被告製品」と総称する。)を,業として製造・販売している。
2 争点 (1) 被告製品1-1ないし9が本件登録意匠1に,被告製品2-1ないし9が本件登録意匠2に,それぞれ類似するかどうか(争点1) (2) 被告の先使用の抗弁の成否(争点2) (3) 原告の損害(争点3)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告製品1が本件登録意匠1に,被告製品2が本件登録意匠2に,それぞれ類似するかどうか)について (1) 原告の主張 ア 本件登録意匠の構成 (ア) 本件登録意匠1は, a 一対の直線的なラックが直角に連結されているラックの直角コーナー部において,平面ほぼ正方形状とみなせるラックの隅部を覆う基部と,ラックの隅部に連続するラックの直線部を僅かに覆う一対の平面ほぼ長方形状の突出部とを備えた平面ほぼL字状(ただし,図面は,Lの字と上下逆に記載されている。以下「L字状」と表現する。)を呈するカバー基板を形成し,このカバー基板の突出部先端にほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設し,カバー基板の重継片部分を除く外周縁には,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設し,カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としてあることを特徴とする。
b 具体的な構成態様にあっては, @ カバー基板は,ラックの隅部を覆う基部に対して,隅部に連続する突出部がほぼ1/2弱(面積比)で,カバー基板の頂部高さは,カバー基板における基部の一辺(ラックの幅)のほぼ1/13で,ラック用カバー全体からみてかなり低いこと A 垂下側片は,ラックの親桁外側に配され,その垂下長さが,カバー基板における基部の一辺(ラックの幅)のほぼ1/30で,ラック用カバー全体からみてかなり短いこと B 重継片は,基部及び突出部の上面より僅か上方に位置して,他のラック用カバー端部の上側に重なるようになり,重継片の突出長さは,基部の一辺(ラックの幅)の幅のほぼ1/30で,ラック用カバー全体からみてかなり短いこと などを特徴とする。
(イ) 本件登録意匠2は, a 平面ほぼT字状を呈するカバー基板を形成し,このカバー基板の連結端部先端にほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設し,カバー基板の重継片部分を除く外周縁には,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設し,カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としてあることを特徴とする。
b 具体的な構成態様にあっては, @ カバー基板は,ラックの分岐部を覆う基部に対して,分岐部に連続するラックの直線部を覆う突出部がほぼ1/2弱(面積比)で,カバー基板の頂部高さは,カバー基板における基部の一辺(ラックの幅)のほぼ1/13で,ラック用カバー全体からみてかなり低いこと A 垂下側片は,ラックの親桁外側に配され,その垂下長さが,カバー基板における基部の一辺(ラックの幅)のほぼ1/30で,ラック用カバー全体からみてかなり短いこと B 重継片は,基部及び連結端部の上面より僅か上方に位置して,他のラック用カバー端部の上側に重なるようになり,重継片の突出長さは,基部の一辺(ラックの幅)の幅のほぼ1/30で,ラック用カバー全体からみてかなり短いこと などを特徴とする。
イ 被告製品の構成は,以下のとおりである。
(ア) 被告製品1について 被告製品1-1(製品番号KVRL-200)は,ラックの上部に装着されるラック用カバーで,ラックの幅が約200mmのものに対応し,しかも,一対の直線的なラックが直角に連結されているラックの直角コーナー部において,平面ほぼ正方形状とみなせるラックの隅部を覆う基部と,ラックの隅部に連続するラックの直線部をわずかに覆う一対の平面ほぼ長方形状の突出部とを備えた平面ほぼL字状を呈するカバー基板を形成し,このカバー基板の突出部先端にほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設し,カバー基板の重継片部分を除く外周縁には,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設し,カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としたもので,別紙図面1-1のとおりのものである。
被告製品1-2ないし9(製品番号KVRL-300,400,500,600,700,800,1000,1200)の構成は,それぞれラックの幅が約300,400,500,600,700,800,1000,1200mmのものに対応する点を除き,被告製品1-1と同様である。その図面は,別紙図面1-2ないし9である。
(イ) 被告製品2について 被告製品2-1(製品番号KVRT-200)は,ラックの上部に装着されるラック用カバーで,ラックの幅が約200mmのものに対応し,しかも,平面ほぼT字状を呈するカバー基板を形成し,このカバー基板の連結端部先端にほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設し,カバー基板の重継片部分を除く外周縁には,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設し,カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としたもので,別紙図面2-1のとおりのものである。
被告製品2-2ないし9(製品番号KVRT-300,400,500,600,700,800,1000,1200)の構成は,それぞれラックの幅が約300,400,500,600,700,800,1000,1200mmのものに対応する点を除き,被告製品2-1と同様である。その図面は,別紙図面2-2ないし9である。
ウ 本件登録意匠と被告製品の意匠との形態の要旨の比較 (ア) 本件登録意匠1と被告製品1の意匠との形態の要旨の比較 被告製品1の意匠と,本件登録意匠1とは,本件登録意匠1全体の基調を表出している基本的な構成態様(カバー基板を平面ほぼL字状とし,カバー基板の突出部先端にほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設し,カバー基板の重継片部分を除く外周縁に,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設し,カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としたこと)が共通であり,両意匠の類否の判断に大きな影響を与えている。一方,頂部高さや,垂下側片の垂下長さや,重継片の突出長さなどの差異は,どれもカバー基板全体の寸法からすればかなり小さいものであることから,特段顕著な相違といえず,これが類否の判断に与える影響は微弱である。また,カバー基板において,ラックの隅部を覆う基部に対する突出部の面積比率の差異は,どれもカバー基板全体が平面上ほぼL字状を呈することからすれば,特段顕著な相違といえず,これが類否の判断に与える影響は微弱である。すなわち,被告の前記製品の意匠は,具体的な構成態様において適合するラックの幅に対応させたことによる単なる設計変更的なわずかな差異が存在するだけである。したがって,被告製品1の意匠は,本件登録意匠1及びこれに類似する意匠の範囲に属するものであり,本件登録意匠2の意匠権を侵害する。
(イ) 本件登録意匠2と被告製品2の意匠との形態の要旨の比較 被告製品2の意匠と,本件登録意匠2とは,本件登録意匠2全体の基調を表出している基本的な構成態様(カバー基板を平面ほぼT字状とし,このカバー基板の連結端部先端にほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設し,カバー基板の重継片部分を除く外周縁に,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設し,カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としたこと)が共通であり,両意匠の類否の判断に大きな影響を与えている。一方,頂部高さや,垂下側片の垂下長さや,重継片の突出長さ等の差異は,どれもカバー基板全体の寸法からすればかなり小さいものであることから,特段顕著な相違といえず,これが類否の判断に与える影響は微弱である。
また,カバー基板において,ラックの分岐部を覆う基部に対する連結端部の面積比率の差異は,どれもカバー基板全体が平面ほぼT字状を呈することからすれば,特段顕著な相違といえず,これが類否の判断に与える影響は微弱である。すなわち,被告の前記製品の意匠は,具体的な構成態様において適合するラックの幅に対応させたことによる単なる設計変更的なわずかな差異が存在するだけである。したがって,被告製品2の意匠は,本件登録意匠2及びこれに類似する意匠の範囲に属するものであり,本件登録意匠2の意匠権を侵害する。
(2) 被告の主張 ア 基本的構成態様について 意匠の類否においては,新種物品でない限り基本的構成態様が類似しているだけでは類似でなく,また基本的構成態様に相違点が多い場合には類似でないというべきである。
(ア) 類似点 原告は,本件登録意匠及び被告製品の基本的構成態様として,L字型,T字型とも,@山型屋根状,A垂下側片,B重継片の存在を主張する。しかし,ラックカバーという新規性のないありふれた物品であることからすれば,基本的構成態様が類似しているのは当然で,これらは意匠類否判断の要部とならない。
公知意匠は看者の新たな注意を喚起するものではないから,その他の類似点の存在を要するというべきである。
(イ) 相違点 相違点として,第1に,山型屋根状と原告は主張するが,本件登録意匠1及び2は,頂部稜線が断続している。これに対し,被告製品1は,基部において,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させられた頂部稜線が45度の角度によって斜交接続されているという山型屋根状であるし,被告製品2は,基部において,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させられた三方からの頂部稜線が各45度の角度によって斜交接続されY字型を形成しているという山型屋根状である。
第2に,垂下側片について,被告製品1のそれは内周縁が直角であるのに対し,本件登録意匠1は内周縁において円弧状を形成し,かつ,その部分は断続している。また,被告製品2のそれは一直線になっている2つの連結端部の内側角部(被告製品1と同様にいえば内周縁部分)が直角であるのに対し,本件登録意匠2はこれと対応する内側角部において円弧状を形成し,かつ,その部分は断続しているものである。
第3に,重継片については,本件登録意匠1及び2がいずれもカバー基板と一体をなした連続構造であるのに対し,被告製品1及び2のそれはカバー基板と一体をなさず,別構造物を鋲打ちして連設したもので,「重継部」というべきものである。
以上の点からすれば,美観として混同を生じないことは明らかである。
イ 具体的構成態様について 具体的構成態様のうち,当該意匠を特徴付ける部分が要部となる。被告製品1にあっては,基部と突出部の比率は当該意匠を特徴付ける部分(美観)というべきである。被告製品2においても同様であり,T型で交差する縦と横の比率が,当該意匠を特徴付ける部分というべきである。
原告は,被告製品1-1ないし9,同2-1ないし9の差異が存するのに,それぞれ数値比較を示しつつも,単なる設計変更的なわずかな差異が存在するだけとするが,これではL,T型をした基本的構成態様を有するラックカバーであれば,すべて類似意匠ということになるのであって,道具概念として意味を持たない。
ウ 公知意匠との関係 (ア) 公知先登録意匠として,登録第795698号が存在する。この意匠は直線状で頂部平坦化屋根蓋を備えた「空調機器用配管カバー」である。この公知先登録意匠では,その平坦化区域が広幅で,その区域内を縦方向へ2本の細い突条が走るように形成されている。
同登録意匠の類似意匠として,L字型態様を包含することを示した類似4が存在する。この類似意匠は,L字型態様をも包含することが「コーナー用配管カバーを取り付けたときの参考斜視図」という写真に示されている。
上記の公知先登録意匠は垂下側部を備えるが,重継部は図示されていない。しかし,意匠の説明欄に「この意匠は正面図において左右にのみ連続するものである。」と記載されており,単体では用いられず,連続状態で用いられることから,実際には重継部が付与されている。
これによれば,L字型配管用ダクトは上記登録意匠の類似範囲に属するということができる。
(イ) 先願登録意匠として,登録第988756号が存在する。この意匠は頂部平坦化直線状屋根蓋付き「配管用ダクト」である。
上記登録意匠の類似意匠として,類似2が存在する。この類似意匠は頂部稜線を持つ直線状山型屋根付き「配管用ダクト」である。
登録第988756号の意匠は垂下側部及び重継部を備えることがその図面に示されている。その類似意匠である類似2も同様に垂下側部及び重継部を備える。
これによれば,頂部稜線屋根蓋付き直線状配管用ダクトは頂部平坦化屋根蓋付き直線状配管用ダクトの類似範囲に属するということができる。
上記帰結の根拠となる山型屋根蓋付き直線状配管用ダクトは本件登録意匠よりも後願であるが,本件登録意匠よりも先願先登録である本意匠の類似範囲に山型屋根蓋付き配管用ダクトが属していることに相違はない。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)から,(イ)の山型屋根蓋付き直線状配管用ダクトをL字型に変形した配管用ダクトは(ア)のL字型配管用ダクトに類似しているし,山型屋根については頂部稜線の形状いかんによって独自の保護を与えられるものではないということができる。
つまり,公知意匠に具現されているのと同様の形状は要部でないこと,類似意匠の存在は類否判断の範囲を限定することからすれば,本件登録意匠で実現されたと原告の主張する@山型屋根状,A垂下側片及びB重継片の存在の基本的構成態様については,意匠として保護されるべきものではなく,美観の混同判断の基準となるべき要部に当たらない。
全体観察について 以上の諸点を踏まえた全体観察は,特定部分の対比では不十分であって,需要者がいかなる目的で物品を使用し,それゆえにどの点に美感を生じるのか,という点から行われるべきである。
まず,本件物品はラックのカバーであって,一般消費者が通常購入するものでないので,ここでいう需要者とは,ビル事業者あるいは設備業者等で,技術的機能に着目するものである。かかるラックカバーに意匠としての美観を認めるとしても,技術的要請に基づくものは要部として扱われるべきではない。L型,T型とも,ラックの接続部としての機能から当然導かれる形状であって,それ自体保護される美観ではない。意匠としての保護を与えるのであれば,被告製品1では,基部と突出部の面積比率が当該意匠を特徴付ける部分というべきであり,被告製品2では,交差する縦と横の比率が当該意匠を特徴付ける部分というべきである。
山型屋根は,垂直力(圧迫)に対する強度補正のための技術的要請に基づくもので,また水が上部に溜まることを防ぐ文字どおり「屋根」の意義を有し,旧来様々な分野で用いられているものである。そこに意匠の特徴を見るならば,山型屋根の形状の相違にこそ着目すべきであり,本件登録意匠と被告意匠の相違点についてはア(イ)で述べたとおりである。
また,垂下側片は浸水防止及び内部の目隠しのための技術的要請に基づくもので,旧来あらゆる分野で用いられているものである。そこに意匠の特徴を見るならば,垂下側片の形状の相違にこそ着目すべきであり,被告製品1における内周縁及び被告製品2における基板の2つの内側角部の内周縁の直交性及び連続性(完全密封性を施した美観)に関し,本件意匠との相違としてア(イ)で述べたとおりである。さらに重継片についても,ラックの接続部としての防水及び接続部の目隠しの機能からして当然存在するものであるが,本件意匠がいずれもカバー基板と一体をなした連続構造であるのに対し,被告のそれはカバー基板と一体でなく,別構造物を鋲打ちして連設したもので,美観を異にするのである。
2 争点(2)(先使用の抗弁)について (1) 被告の主張 ア 原告の主張する基本的構成態様L型,T型とも,@山型屋根状,A垂下側片及びB重継片の存在については,原告本件意匠出願時にはすでに被告において使用している(乙2ないし4)。この撮影対象物品は商品化後のものであるが,先使用の基準時は,この時点ではない。すなわち,正式図面を作成した時点において「使用」というべきであるところ,通常,図面作成,加工・作成,取付けの後,配線工事という流れをたどり,乙2ないし4のような写真を撮ることができるのは,図面作成から3ないし4か月後である。したがって,少なくとも乙4の1は,本件登録意匠出願前に「使用」していたということができる。
イ 甲6添付資料1ないし6の製図は,昭和62年8月27日作成(資料1),平成5年2月1日ないし13日作成(資料2ないし6)であるから,原告が本件登録意匠につき意匠登録出願した平成5年3月16日以前の「先使用」に当たる。
原告は,頂部稜線の形状,内縁部の形状,採寸からくる美観の相違を問わないと主張するのであるから,原告の意匠の捉え方からすれば,本件登録意匠は,これら資料の意匠と類似するものである。
ウ なお,原告は,先使用権につき,意匠登録前に使用した意匠と全く同じ意匠しか保護しないと主張するようである。しかし,意匠法29条先使用権を法定実施権と規定するところ,同法28条2項通常実施権は基本意匠及び類似意匠の使用権を内容とする。また,関連周辺特許が別個独立の特許として扱われる特許法と異なり,意匠法においては,基本意匠と類似意匠はいわば一体として扱われるのであって,先使用権=通常実施権においても別異に解されるものでなく,先使用に係る意匠の類似意匠もまた法的保護の対象となるというべきである。
(2) 原告の主張 ア 被告の主張する乙2ないし4については,本件登録意匠出願時に被告がこれを使用していた客観的な証拠は,全くない。また,乙2ないし4は,被告製品1及び2と同一性がない。
イ 甲6添付資料1ないし6の製図についても,本件登録意匠の出願時に被告がこれを使用していたという客観的な証拠は全くない。
ウ 仮に被告が先使用したとしても,善意の実施とは到底いえない。
以上より,先使用の抗弁は認められない。
3 争点(3)(原告の損害)について (1) 原告の主張 原告は,本件登録意匠を訴外ネグロス電工株式会社に実施許諾しており,同社は,平成9年9月から平成11年5月までの21か月間に,本件登録意匠を使用した製品を,材料店価格で1037万0900円に当たる数量,製造販売している。その間の,被告による被告製品の販売額は,少なくともネグロス電工の上記販売額の3割の311万1270円を下回らないものと推定される。
被告は,上記金額分の被告製品の製造販売により,少なくともその5割相当の155万5635円の利益を得ているものであるから,原告は,意匠法39条2項に基づき,155万5635円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成11年6月24日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被告の主張 上記主張は争う。
当裁判所の判断
1 争点1(被告製品1が本件登録意匠1に,被告製品2が本件登録意匠2に,それぞれ類似するかどうか)について (1) 本件登録意匠の構成 ア 本件登録意匠1について 甲1(意匠公報)及び弁論の全趣旨によれば,本件登録意匠1は,屋外に配設した冷媒管等を収納するラックに付するカバーに係るものであり,ラックとその中に収納される冷媒管等が,90度の角度で屈曲する場合に,その角部に設置するカバーであることが認められる。本件登録意匠1は,別紙説明図1記載のとおりの各部分から構成されている。
(ア) その基本的構成は,次のとおりである。
@ 平面上ほぼ正方形状とみなせるラックの隅部を覆う基部と,ラックの隅部に連続するラックの直線部をわずかに覆う一対の平面上ほぼ長方形状の突出部とから,平面上ほぼL字状を呈するカバー基板を形成している。
A このカバー基板の突出部先端に,ほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設している。
B カバー基板の重継片部分を除く外周縁には,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設している。
C カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させており,かなり傾斜の緩い山型屋根状としてある。90度に交わる2つの突出部のそれぞれが山型屋根状となっており,そのそれぞれに頂部稜線が存するが,この2本の頂部稜線は接することなく途切れている。
D 90度に屈曲する部分の,外側角部は角型をしているが,内側角部は丸められて円弧状となっている。そして,直線である内周縁部分とは断続する形状となっている。この内側角部には,垂下側片は設けられていない。
(イ) 具体的な構成は,次のとおりである。
@ カバー基板は,ラックの隅部を覆う基部に対して,隅部に連続する突出部が面積比でほぼ1/2弱で,カバー基板の頂部高さは,カバー基板における基部の一辺(ラックの幅)のほぼ1/13で,ラック用カバー全体からみてかなり低い。
A 垂下側片は,ラックの親桁外側に配され,その垂下長さが,カバー基板における基部の一辺(ラックの幅)のほぼ1/30で,ラック用カバー全体からみてかなり短い。
B 重継片は,基部及び突出部の上面よりわずかに上方に位置して,他のラック用カバー端部の上側に重なるようになり,重継片の突出長さは,基部の一辺(ラックの幅)の幅のほぼ1/30で,ラック用カバー全体からみてかなり短い。
イ 本件登録意匠2について 甲2(意匠公報)及び弁論の全趣旨によれば,本件登録意匠2は,屋外に配設した冷媒管等を収納するラックに付するカバーに係るもので,ラックとその中に収納する冷媒管等が左右に各90度の角度で分岐する場合に,その分岐する箇所に付するT字型のカバーであることが認められる。本件登録意匠2は,別紙説明図2記載のとおりの各部分から構成されている。
(ア) その基本的構成は,次のとおりである。
@ 平面上ほぼT字状を呈するカバー基板を形成している。
A このカバー基板の連結端部先端に,ほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設している。
B カバー基板の重継片部分を除く外周縁には,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設している。
C カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としてある。この山型屋根の頂部稜線は,3つの連結端部のそれぞれの部分に存するが,一直線となっている2つの連結端部は1本の頂部稜線で貫かれているのに対し,これと90度に交わる連結端部の頂部稜線とは接することなく途切れている。
D また,左右に分岐する部分の内側角部(本件登録意匠1同様に表現すれば,内周縁部分)が丸められて円弧状となっており,直線である内周縁部分とは断続する形状となっている。この部分には,垂下側片は設けられていない。
(イ) 具体的な構成としては,以下のとおりである。
@ カバー基板は,ラックの分岐部を覆う基部に対して,分岐部に連続するラックの直線部を覆う連結端部が面積比でほぼ1/2弱で,カバー基板の頂部高さは,カバー基板における基部の一辺(ラックの幅)のほぼ1/13で,ラック用カバー全体からみてかなり低い。
A 垂下側片は,ラックの親桁外側に配され,その垂下長さが,カバー基板における基部の一辺(ラックの幅)のほぼ1/30で,ラック用カバー全体からみてかなり短い。
B 重継片は,基部及び突出部の上面よりわずかに上方に位置して,他のラック用カバー端部の上側に重なるようになり,重継片の突出長さは,基部の一辺(ラックの幅)の幅のほぼ1/30で,ラック用カバー全体からみてかなり短い。
(2) 被告製品の意匠の構成 被告製品の意匠の構成は,以下のとおりである。
ア 被告製品1について 前記争いのない事実に証拠(甲17,18)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
被告製品1は,本件登録意匠1同様に,屋外に配設した冷媒管等を収納するラックに付するカバーに係るもので,ラックとその中に収納される冷媒管等が,90度の角度で屈曲する場合に,その角部に設置するカバーである。被告製品1は,ほぼL字状となっている。
被告製品1にはラックの幅が,200mmのものに対応する被告製品1-1があり(製品番号KVRL-200),別紙図面1-1のとおりのものである。以下,それぞれラックの幅が,約300,400,500,600,700,800,1000,1200mmのものに対応する,被告製品1-2ないし9(製品番号KVRL-300,400,500,600,700,800,1000,1200)があり,それぞれ図面1-2ないし9のとおりである。
被告製品1は,別紙説明図3記載のとおりの各部分から構成されている(説明図は被告製品1-1についてのみ作成したが,被告製品1-2ないし9の構成も,ラックの幅を除き,これと同様である。)。
@ 被告製品1は,平面上ほぼ正方形状とみなせるラックの隅部を覆う基部と,ラックの隅部に連続するラックの直線部をわずかに覆う一対の平面上ほぼ長方形状の突出部とから,平面上ほぼL字状を呈するカバー基板を形成している。
A このカバー基板の突出部先端にほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設している。この重継片は,カバー基板本体とは別の部品を,本体に貼り合わせたものである。
B カバー基板の重継片部分を除く外周縁には,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設している。
C カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としている。90度に交わる2つの突出部のそれぞれが山型屋根状となっており,そのそれぞれに頂部稜線が存し,この2本の頂部稜線は,基部の中央部分において,45度の角度で屈曲し,2つの突出部との関係ではそれぞれ45度の斜線となる稜線により接続している。
D 90度に屈曲する部分の,外側角部と内側角部は,いずれも角型をしている。内側角部にも,垂下側片が設けられている。
イ 被告製品2について 前記争いのない事実に証拠(甲17,18)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
被告製品2は,本件登録意匠2と同様,屋外に配設した冷媒管等を収納するラックに付するカバーに係るもので,ラックとその中に収納する冷媒管等が左右に各90度ずつの角度で分岐する場合に,その分岐する箇所に付するT字型のカバーである。
被告製品2にはラックの幅が,200mmのものに対応する被告製品2-1があり(製品番号KVRT-200),別紙図面2-1のとおりのものである。以下,それぞれラックの幅が,約300,400,500,600,700,800,1000,1200mmのものに対応する,被告製品2-2ないし9(製品番号KVRT-300,400,500,600,700,800,1000,1200)があり,それぞれ図面2-2ないし9のとおりである。
被告製品2は,別紙説明図4記載のとおりの各部分から構成されている(説明図は被告製品2-1についてのみ作成したが,被告製品2-2ないし9の構成も,ラックの幅を除き,これと同様である。)。
@ 被告製品2は,平面上ほぼT字状を呈するカバー基板を形成している。
A このカバー基板の連結端部先端にほぼ細長帯板状の重継片をそれぞれ連設している。この重継片は,カバー基板本体とは別の部品を,本体に貼り合わせたものである。
B カバー基板の重継片部分を除く外周縁には,ほぼ細長帯板状の垂下側片を下方に垂設し,カバー基板及び重継片を,ラックの幅方向中央部分にほぼ沿うように隆起させ,かなり傾斜の緩い山型屋根状としている。この山型屋根の頂部稜線は,3つの連結端部のそれぞれの部分に存するが,基部の中央部分において,T字状の縦棒部分となる連結端部の頂部稜線が左右45度の2本の稜線に分かれ,それぞれがT字状の横棒部分となる連結端部の頂部稜線と接続することにより,この3本の頂部稜線はY字状に接続している。
C また,左右に分岐する部分の内側角部は,角型をしている。内側角部にも,垂下側片が設けられている。
(3) 本件登録意匠の要部 本件登録意匠の要部について検討する。 ア 本件登録意匠のうち,本件登録意匠1においては,L字状の形状は,冷媒管等及びこれを収納するラックが,L字状に90度に屈曲する箇所に付されるカバーであることからなる形状である。同様に,本件登録意匠2においては,T字状の形状は,冷媒管等及びこれを収納するラックが,左右にT字状に各90度の角度で分岐する箇所に付されるカバーであることからなる形状である。冷媒管等を建物等に配管する場合に,これを90度に屈曲させたり,左右に各90度ずつの角度で分岐させることがあるのは,配管工事上当然のことであり,これに伴って,そのような配管箇所に付するカバーが上記のような形状とならざるを得ないことも明らかである。したがって,これらL字状及びT字状の形状は,冷媒管等のラックカバーという物品の機能を果たすためには必然的なものであるから,この形状が本件登録意匠の特徴的部分ということはできず,これを要部ということはできない。
イ また,冷媒管等を収納するラックのカバーという物品の性質上,単体で使用するのでなく,ある程度の長さに連結して使用されることが当然に予定されているものであり,これを連結するために,突出部(本件登録意匠1)又は連結端部(本件登録意匠2)の先端に重継片部分を設置することも機能上要請される必然的なことというべきである。そして,本件登録意匠において,その重継片部分は,その形状,構造とも,美観に何らの特徴を有するものではないから,これらの部分が本件登録意匠の特徴的部分ということはできず,これを要部ということはできない。
ウ さらに,ラックのカバーという物の性質上,屋外においてラック内に雨水等が浸入することのないよう,またラックから外れることのないようにしたり目隠しのために,細長帯板状の垂下側片を下方に垂設することも機能からくる必然的なものというべきである。そして,本件登録意匠において,その垂下側片部分は,その形状,長さとも,美観に何らの特徴を有するものではないから,本件登録意匠の特徴的部分ということはできず,要部ということはできない。
エ(ア) 本件登録意匠は,そのいずれにおいても,傾斜の緩やかな山型屋根状となっているが,山型屋根自体は,雨水等を下方へ流し,また,薄い板状の材料からなる構造物に,垂直力に対する強度を付与する機能を実現するための構造の一種というべきである。そして,山型屋根は,古くから,住宅や物置きその他の屋外設置物の屋根として用いられてきたものであり,それ自体,ありふれたものであって,特段新規なものではない。本件登録意匠においては,山型屋根が用いられているが,屋外に設置されることがあり,また薄い金属板等で構成されるラック用カバーにおいて,雨水を下方へ流すこと及び垂直力に対する一定の強度を付与するためにこのような構造をとることは,当該機能を実現するための通常の構造というべきであるから,この形状も本件登録意匠においても要部ということはできない。
(イ) もっとも,本件登録意匠1においては,90度に交わる2つの突出部がそれぞれ山型屋根状をしているが,この頂部稜線が接することなく途切れている。そして,この稜線が途切れた部分は平らになっている。この部分は,上記のようにそのほとんどが機能必然的な構成からなる本件登録意匠1において,看者の注意を引きやすい部分であるということができる。したがって,この部分が本件登録意匠1の要部というべきである。
同様に,本件登録意匠2において,分岐部を覆う基部につながる3つの連結端部は,それぞれ山型屋根状をしているが,一直線となっている2つの連結端部は1本の頂部稜線で貫かれているのに対し,これと90度に交わる連結端部の頂部稜線とは接することなく途切れている。この部分は,上記のようにそのほとんどが機能必然的な構成からなる本件登録意匠2において,看者の注意を引きやすい部分であるということができる。したがって,この部分が本件登録意匠2の要部というべきである。
(4) 類否の判断 上記認定の本件登録意匠の要部を前提として,本件登録意匠と被告製品との類否について検討する。
ア 本件登録意匠1と被告製品1との類否(別紙比較対照図1参照) 前記のとおり,本件登録意匠1においては,90度に交わる2つの突出部の山型屋根状の頂部稜線は接することなく途切れており,この稜線が途切れた部分は平らになっている。これに対して,被告製品1においては,90度に交わる2つの突出部の山型屋根状の頂部稜線は,基部の中央部分において,45度の角度で屈曲し,45度の斜線となる稜線により接続しているものであって,この点は,看者に大きく異なる印象を与えるというべきである(なお,本件登録意匠1の類似意匠である甲26,29によれば,本件登録意匠1の要部は,2つの突出部の山型屋根状の頂部稜線が屈曲することなく,それぞれ直進している点にあると解することもあるいは可能かもしれないが,本件登録意匠1の要部をそのように解したとしても,被告製品は,2つの頂部稜線が基部の中央部分において45度の角度で屈曲しているものであるから,いずれにしても看者に大きく異なる印象を与えるものというべきである。)。
ラック用カバーという製品が同一であること,L字状の形状をしていること,重継片を備えること(ただし,本件登録意匠1の重継片と,被告製品1のそれとは,カバー基板全体との面積比率,形状,構造等,相当異なっている。),細長帯板状の垂下側片を下方に垂設すること及びその長さなどは,本件登録意匠1と被告製品1とにおいて共通であるが,上記(3)において検討したように,これらは本件登録意匠1の要部ということができないので,類否においては意味を持たない。
さらにいえば,被告製品1は1ないし9からなるところ,基部と突出部の面積比率が,本件登録意匠1とほぼ同様であるものは,せいぜい被告製品1-5ないし9のみであり,少なくとも被告製品1-1ないし4は,全体の形状が相当本件登録意匠1と異なっているということができる。これを設計変更的なわずかな差異であるとする原告の主張は採用できない。したがって,そもそも被告製品1-1ないし4は,本件登録意匠1とは全く異なる意匠というべきである。
以上によれば,被告製品1は,これを見る者にとって,本件意匠1とは,美感上異なる印象を与えるものというべきである。
イ 本件登録意匠2と被告製品2との類否(別紙比較対照図2参照) 同様に,本件登録意匠2の要部と被告製品2との類否について検討する。
前記のとおり,本件登録意匠2においては,3つの連結端部の山型屋根状の頂部稜線は,一直線となっている2つの突出部は1本の頂部稜線で貫かれているが,これと90度に交わる連結端部の頂部稜線とは接することなく途切れている。これに対して,被告製品2においては,3つの連結端部の山型屋根の頂部稜線は,基部の中央部分において,T字状の縦棒部分となる連結端部の頂部稜線が左右45度の2本の稜線に分かれ,それぞれがT字状の横棒部分となる連結端部の頂部稜線と接続することにより,Y字状に接続しているものであって,この点は,看者に大きく異なる印象を与えるというべきである(なお,本件登録意匠2の類似意匠である甲27,28によれば,本件登録意匠1の要部は,3つの連結端部の山型屋根状の頂部稜線が屈曲することなく,それぞれ直進している点にあると解することもあるいは可能かもしれないが,本件登録意匠2の要部をそのように解したとしても,被告製品は,3つの頂部稜線が基部の中央部分において45度の角度で屈曲しY字状に接続しているものであるから,いずれにしても看者に大きく異なる印象を与えるものというべきである。)。
ラック用カバーという製品が同一であること,T字状の形状をしていること,重継片を備えること(ただし,本件登録意匠2の重継片と,被告製品2のそれとは,カバー基板全体との面積比率,形状,構造等,相当異なっている。),細長帯板状の垂下側片を下方に垂設すること及びその長さなどは,本件登録意匠2と被告製品2とにおいて共通であるといえるが,上記(3)において検討したように,これらは本件登録意匠2の要部ということができないので,類否においては意味を持たない。
さらに,被告製品1同様,被告製品2には1ないし9があるところ,基部と連結端部の面積比率が本件登録意匠2とほぼ同様であるものは,せいぜい被告製品2-5ないし9のみであり,少なくとも被告製品2-1ないし4は,全体の形状が本件登録意匠2と相当異なっているということができる。これを設計変更的なわずかな差異であるとする原告の主張は採用できない。したがって,そもそも被告製品2-1ないし4は,全く異なった意匠というべきである。
以上によれば,被告製品2は,これを見る者にとって,本件意匠2とは,美感上異なる印象を与えるものというべきである。
(5) 小括 以上によれば,被告製品1は本件登録意匠1に,被告製品2は本件登録意匠2に,いずれも類似しないものと解するのが相当である。
2 結論 そうすると,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求は,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
物件目録1-1被告が製造するラック用カバーで,別紙図面1-1に記載した物-2同じく別紙図面1-2に記載した物-3同じく別紙図面1-3に記載した物-4同じく別紙図面1-4に記載した物-5同じく別紙図面1-5に記載した物-6同じく別紙図面1-6に記載した物-7同じく別紙図面1-7に記載した物-8同じく別紙図面1-8に記載した物-9同じく別紙図面1-9に記載した物2-1被告が製造するラック用カバーで,別紙図面2-1に記載した物-2同じく別紙図面2-2に記載した物-3同じく別紙図面2-3に記載した物-4同じく別紙図面2-4に記載した物-5同じく別紙図面2-5に記載した物-6同じく別紙図面2-6に記載した物-7同じく別紙図面2-7に記載した物-8同じく別紙図面2-8に記載した物-9同じく別紙図面2-9に記載した物別紙図面1-11-21-31-41-51-61-71-81-9別紙図面2-12-22-32-42-52-62-72-82-9別紙説明図1別紙説明図2別紙説明図3別紙説明図4別紙比較対照図1別紙比較対照図2
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 青木孝之