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関連審決 審判1999-35405
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  組物の意匠(8条) /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  登録意匠 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 425号 審決取消請求事件
原告 安田株式会社
訴訟代理人弁理士 辻本一義、吉田哲
被告 株式会社ベスト
訴訟代理人弁護士 山上和則、西山宏昭
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成11年審判第35405号事件について平成12年9月20日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「建具用戸車レール」とし、その形態を別紙本件意匠のとおりとする登録第954499号意匠(平成6年1月21日出願、平成8年3月12日設定登録、本件意匠)の意匠権者である。被告は、平成11年8月4日原告を被請求人として本件意匠の登録無効の審判を請求し、平成11年審判第35405号事件として審理され、平成12年9月20日、「登録第954499号の登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年10月11日原告に送達された。
2 審決の理由の要点 (1) 被告(請求人)の審判における主張 被告は審判請求の理由として、本件意匠は、その出願前に発行された意匠公報所載の登録第914591号意匠[意匠に係る物品「建具用レール材」、出願平成1年(1989)10月20日、公報発行平成6年(1994)12月8日]に類似するので、意匠法第3条第1項第1号に該当する旨主張し、証拠方法として、審判甲第1〜3号証を提出している。
審判甲第1号証:意匠公報(意匠登録第914591号、別紙引用意匠図面参照) 審判甲第1号証の2:本件意匠と審判甲第1号証意匠(引用意匠)の比較図 審判甲第2号証:意匠公報(意匠登録第952110号) 審判甲第3号証:意匠公報(意匠登録第952110の類似1号) (2) 原告(被請求人)の審判における主張 原告は引用意匠と本件意匠は類似しない旨主張し、証拠方法として、審判乙第1〜7号証を提出している。
審判乙第1号証:意匠公報(意匠登録第952152号) 審判乙第2号証:意匠公報(意匠登録第988294号) 審判乙第3号証:意匠公報(意匠登録第989632号) 審判乙第4号証:意匠公報(意匠登録第954637号) 審判乙第5号証:意匠公報(意匠登録第954353号) 審判乙第6号証:意匠公報(意匠登録第954357号) 審判乙第7号証:意匠公報(意匠登録第954358号) (3) 審決の判断 本件意匠と引用意匠を対比すると、意匠に係る物品については、両者一致し、形態については、次に示す共通点と相違点が認められる。
[共通点] @ 長手方向に連続し、表面板が断面視左右対称形の双翼状に屈曲する面付け型の扁平な戸車レールであって、表面板の中央に戸車転動溝を配置し、転動溝の開口部両縁に一定幅の水平部を設け、水平部の外縁からレール側端に至る部分を緩やかに傾斜させて袴部を形成し、水平部の裏面に長手方向に続く小幅な薄板状の脚片を垂直に設け、さらに転動溝裏面、脚片下端及び袴部下端の各接地個所を面一に揃えて成る全体の基本構成。
A 転動溝の態様について、溝の側壁を断面視尻窄みの略V字形に傾斜させていること。
B 脚片の態様について、転動溝を挟んで片側2条ずつ、合計4条の脚片を略均等に分散配置していること。
[相違点] @ 水平部の態様について、本件意匠においては、水平部中央に長手方向に続く細溝を切り込み、該細溝に沿ってネジ穴を等間隔に形成しているのに対し、引用意匠においては、水平部を一様な平坦面としていること。
A 袴部の態様について、本件意匠においては、接地端から水平部に至る袴部全体を緩やかな丸面としているのに対し、引用意匠においては、袴部の大部分を平面状として水平部に接する角部を鈍角に角張らせ、接地縁部に細幅の垂直面を形成していること。
B 転動溝底部の態様について、本件意匠においては、溝底部中央を断面視略円弧状に窪ませているのに対し、引用意匠においては、溝底部を水平面として底部両隅を鈍角に形成していること。
C 袴部裏面と外側の脚片が接する入隅部及び、転動溝裏面と内側の脚片が接する入隅部の態様について、本件意匠においては、各入隅部が鋭角的であるのに対し、引用意匠においては、各入隅部を円弧状の曲面としていること。
上記の共通点及び相違点について検討すると、共通点@の全体の基本構成は、意匠の骨格を成すものであり、これに共通点Aの転動溝の態様及び共通点Bの脚片の態様が加わることによって意匠の基調が形成されるとともに、両意匠間に強い類似性をもたらしているものと認められる。しかも、これらの共通点が相まって表出する態様は、引用意匠の出願前には例を見ないものである。
これに対し、相違点@に係る本件意匠の水平部における細溝は、ドリル等の位置決め用として、被切削材表面に前もって形成されるありふれた案内溝の域を出ない微細なものであり、細溝に沿って等間隔に形成されたネジ穴の態様もありふれたものであって、いずれも本件意匠を特徴付けるものではなく、その有無の差異も両意匠の類否を左右するものとは成し得ない。
相違点Aに係る本件意匠の袴部の態様については、それが建具や各種金物等の出隅に多用される典型的な丸面であって、本件意匠を特徴付けるものではなく、一方、引用意匠の該部の態様もありふれた面取り手法である猿頬面であるため、共通点@に係る緩やかに傾斜する該部の共通性に希釈されることを考慮すれば、その差異は微弱であり、各共通点からもたらされる類似性をしのぐものではない。
相違点Bに係る溝底部の差異については、それが溝内奥の小幅な領域におけるわずかなものであるとともに、共通点Aの側壁をV字形とした転動溝全体の共通性に希釈されることを考慮すれば、その差異は微弱であり、両意匠の類否を左右するものではない。
相違点Cに係る裏面側の各入り隅部の態様については、本件意匠に特筆すべきものはなく、物品の使用時には当該部位が裏側に隠れてしまうことを考慮すれば、その差異は両意匠の類否を左右するものとは成し得ない。
さらに、これらの相違点が相まって表出する効果を勘案しても、前記各共通点からもたらされる両意匠の類似性をしのぐ視覚的効果を認めることはできない。
すなわち、本件意匠は、引用意匠に類似するものと認められる。
以上のとおりであって、本件意匠は、意匠法9条1項に規定する意匠に該当せず、同条同項の規定に違反して意匠登録を受けたものであるから、同法48条1項1号に該当する。
原告主張の審決取消事由
審決は、共通点@に示すレールの基本構成が「意匠の骨格を成す」ものとし、さらに、共通点A、Bを加えて「意匠の基調が形成される」と判断し、意匠の創作のポイント(要部)がこの基本構成にあるとしたが、誤りである。また、相違点Bの溝底部の差異の判断において、本件意匠の創作において極めて重要な役割を有する転動溝の溝底部の差異をわずかなものと判断しているが、誤りである。
これらは、意匠の創作のポイントを誤って把握し、また、レール意匠の創作のレベルを正しく把握していないものである。
1 本件意匠と引用意匠の断面の下記比較図(審判甲第1号証の2。矢印で示す「丸み」「水平」「垂直面」は、原告が新しく追加した。)に示されるように、中央に転動溝を有し、左右に水平面、袴片、二つの脚片を有するなど、これらレールの基本構成は本件意匠と引用意匠と共通する。本件意匠のポイントを把握するに当たり、上記構成がレールの基本構成であるとすることは認めるが、このレールとしての基本構成がそのまま本件意匠の骨格(意匠の創作のポイント)を成すものではない。
上記の基本構造を有するレールでありながら意匠登録を受けたものとして、審判乙第4号証の意匠がある。この意匠も、本件意匠や引用意匠と同様に、中央に転動溝を有し、左右に水平面、袴片、二つの脚片を有するなどの構成を有する。袴片や底面などの種々の形状は引用意匠と全く同一である。このようなレール意匠でありながら登録が認められた理由は、転動溝の溝底部に設けられた凸部が意匠のポイントとなり、その印象の違いが認められたからといえる。
確かに審判乙第4号証の意匠において、溝底部に設けられた凸部は大きな特徴である。しかし、審決において意匠の骨格を成すとされる基本構成をすべて満たし、
さらに、細部の形状まで全く同一である審判乙第4号証の意匠登録が認められるのは、この転動溝の形状の相違がレールを製造・販売する当業者にとって重要視されることを考慮したからであり、審決のいう前記レールの基本構成がレールの意匠としてあまり重要でないことを示す。
2 転動溝の形状の相違だけ(特に溝底部の相違)が意匠のポイントを成す例として、審判乙第6号証、第7号証の意匠がある。いずれも独立した登録意匠であって、類似しない意匠である。この両意匠は矩形の本体の表面に二つの転動溝を設けたものである。そして、両意匠の相違は右側の転動溝の形状のみである。さらに、
右の転動溝に注目すると、側壁はいずれも垂直壁であり、両意匠の違いは溝底部が、丸みを設けた底なのか平坦な底であるのかの相違にすぎない。
このように溝底部だけが異なる意匠について非類似と判断されるのは、レール意匠の創作、及びレール意匠の類否判断が転動溝を重視して行われるからであり、転動溝の形状だけをもって意匠のポイントを成す場合があることを示す。
3 本件意匠のポイントは、全体としてやさしい、女性的印象を与えるように創作した点である。この点を考慮して本件意匠は、
@)転動溝の溝底部に角を設けず、なめらかな丸みをもった円弧状としたものである。更に、以下の創作のポイントを有している。
A)袴部の表面に角を設けず、なめらかな丸みを設けた。
B)転動溝を均一な肉厚とし、その底面側に丸みを設けた。
C)接地面縁部に垂直面を設けず、なめらかな袴片がそのまま接地するようにした。
これらの創作のポイントは平成6年の出願当時、バリアフリー関連のデザインとして注目されたものである。
以上の創作のポイントは、審決においていずれも微弱であり、両意匠の類比を左右するものでないと判断されている。しかし、引用意匠と審判乙第4号証の意匠、
審判乙第6号証と審判乙第7号証の意匠のように、基本構成が全く同一であっても、レール意匠については、溝底部の相違だけをもって意匠登録が認められている事実が存在すること、また、本件意匠と引用意匠とは、溝底部の形状の相違だけでなく、前記A)〜C)に示すように、その他の相違点が存在し、これら全体がやさしい印象を与えるよう創作された本件意匠のポイントである。特に、前記A)袴部の形状はレール表面に現れるものであり、需要者に与える視覚的効果は大きい。
4 レールの意匠は機能的な制限が大きく、独創的な形状からなる意匠の創作は行われていない。これまでのレール意匠の登録例・業界内のデザイン創作のレベルを考えると、転動溝や袴部などの形状を少しずつ変化させながら、レール全体の意匠の創作が行われるものである。この点は、審判乙第6号証と第7号証に示されるように、溝底部が丸みを有しているものと水平であるものとがそれぞれ独立した意匠として把握され、意匠登録されているとおりである。
よって、このレール意匠の創作レベルを考慮すると、転動溝の形状の相違をわずかなものとする審決の判断は適切ではない。
5 審決が示すように、中央に転動溝を有し、左右に水平面、袴片、二つの脚片を有するなどの基本構成によって、本件意匠のポイントが成立しているのではない。本件意匠のポイントは、全体としてやさしい、女性的印象を与えるように、前記基本構成に、@)溝底部を丸くする、A)袴部を丸くする、B)転動溝の底面に丸みを設ける、C)袴部の接地端に垂直面を設けない、とした点である。
審決は、前記本件意匠と引用意匠が共通する基本構成を「意匠の骨格」とし、さらに、転動溝の側壁の共通点をもって、「意匠の基調が形成」されると判断している。これは、本件意匠の創作のポイントを誤ったものであり、適切な判断といえない。
6 審決は、溝底部の差異をわずかなものと判断している(相違点Bの判断)。
これは、これまでのレール意匠の創作レベルを正しく把握したものとはいえず、転動溝の形状の差異を軽視したものであり、適切な判断といえない。
審決取消事由に対する被告の反論
1 原告は、審決において本件意匠の創作において極めて重要な役割を有する転動溝の溝底部の差異をわずかなものと判断した点が不当である旨主張するが、理由がない。
乙第1号証の1(意匠公報(意匠登録第775528号))は、V字形の転動溝を有する戸車用レールの意匠であり、乙第1号証の2(意匠公報(意匠登録第775528号の類似5))は、V字の底を水平にカットした形の転動溝を有する戸車用レールの意匠である。
また、乙第2号証の1(意匠公報(意匠登録第952110号))は、V字型の転動溝を有する敷居用レール材の意匠であり、乙第2号証の2(意匠公報(意匠登録第952110号の類似1))は、V字の底を水平にカットした形の転動溝を有する敷居用レール材の意匠である。
以上のような類似意匠として登録されているものからみても、V字の底を水平にカットした形の転動溝がV字形の転動溝の範疇に属するものであることは明らかであり、転動溝の溝底部の差異をわずかなものと判断した審決の認定に誤りはない。
2 原告が挙示する審判乙第4号証意匠は、転動溝の中央に凸部があることによって転動溝の形状が本件意匠と全く異なり、全体形状として異なるので、両意匠が非類似であって当然である。
審判乙第6号証意匠と審判乙第7号証意匠においても、転動溝の形状が半円形状と矩形状の極端な違いがあって、全体形状として異なるので、両意匠が非類似であって当然である。
3 原告は、本件意匠のポイントは、全体としてやさしい、女性的印象を与えるように創作した点であり、この点が意匠の類否判断におけるポイントとなり得るかのように主張する。
しかしながら、意匠の類否判断はあくまでも意匠の基本的構成態様に基づいてされなければならないものであって、袴部の表面に角を設けず、滑らかな丸みを設けてある等の要素は両意匠の類否を左右するものではなく、転動溝の形状が引用意匠の転動溝の形状の範疇に属するものである限り両意匠は類似するものであり、相違点は微細な差異にすぎないとした審決の認定、判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件意匠と引用意匠につき審決が認定した共通点@、すなわち、長手方向に連続し、表面板が断面視左右対称形の双翼状に屈曲する面付け型の扁平な戸車レールであって、表面板の中央に戸車転動溝を配置し、転動溝の開口部両縁に一定幅の水平部を設け、水平部の外縁からレール側端に至る部分を緩やかに傾斜させて袴部を形成し、水平部の裏面に長手方向に続く小幅な薄板状の脚片を垂直に設け、さらに転動溝裏面、脚片下端及び袴部下端の各接地個所を面一に揃えて成る全体の基本構成は、両意匠の骨格を成すものであり、審決認定のA、Bの共通点の態様(転動溝及び脚片の態様)が加わることによって意匠の基調が形成されるとともに、両意匠間に強い類似性をもたらしていると認めるものであり、審決認定の相違点@ないしCが相まって表出する効果を勘案しても、上記類似性をしのぐ視覚的効果を認めることができないものと判断する。
2 原告は、引用意匠と審判乙第4号証の意匠、審判乙第6号証と審判乙第7号証の意匠のように、基本構成が全く同一であっても、レール意匠については、溝底部の相違だけをもって意匠登録が認められている事実が存在すること、また、本件意匠と引用意匠とは、溝底部の形状の相違だけでなく、審決取消事由3のA)からC)に示すような相違点が存在し、これら全体がやさしい印象を与えるよう創作された本件意匠のポイントであると主張して、本件意匠と引用意匠との類似性を争っている。
しかしながら、原告主張の本件意匠のポイントであるA)の「袴部の表面に角を設けず、なめらかな丸みを設けた」との点は、審決が相違点Aにおいて「接地端から水平部に至る袴部全体を緩やかな丸面としている」と認定しているのに対応するものであり、B)の「転動溝を均一な肉厚とし、その底面側に丸みを設けた」との点は、審決が相違点Bにおいて「転動溝底部の態様について、本件意匠においては、溝底部中央を断面視略円弧状に窪ませている」と認定しているのに対応している(「原告主張の「転動溝を均一な肉厚とし」との点は引用意匠も同様の態様となっている。)。また、審決は、相違点Aにおいて、「本件意匠においては、接地端から水平部に至る袴部全体を緩やかな丸面としているのに対し、引用意匠においては、袴部の大部分を平面状として水平部に接する角部を鈍角に角張らせ、接地縁部に細幅の垂直面を形成していること」と認定することにより、原告主張のC)の「接地面縁部に垂直面を設けず、なめらかな袴片がそのまま接地するようにした」との点をもって、本件意匠が引用意匠とは異なる態様を有していることを認定している。したがって、審決は、原告主張のA)〜C)の点において本件意匠が引用意匠と態様が異なるものであることも勘案の上、両意匠の類似性を認めたものであり、当裁判所の上記認定も同様である。
また、甲第4号証によれば、審判乙第4号証の意匠が、引用意匠の存在にもかかわらず登録が認められているのは、転動溝の中央に突出した凸部があることで、引用意匠とは印象を大きく異にするものであると推認されるから、審判乙第4号証の意匠が登録されていることをもって、上記判断は左右されない。原告は、審判乙第6号証と審判乙第7号証の意匠が独立のものとして登録されていることも、前記判断に誤りがあることの根拠とするが、この両意匠は、意匠に係る物品を「建具用戸車ガイド付きレール」とするものではあっても、本件意匠及び引用意匠が有する前記共通点@に係る態様を有しないものであり、両意匠の類否判断に参考となるものではない。
3 その他、原告が主張するところを加味してみても、前記1の判断は動かず、
審決の認定、判断に誤りがあるとすることはできないから、原告主張の審決取消事由は理由がない。
結論
よって、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成13年5月18日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 古城春実