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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10165審決取消(意匠)請求事件 判例 意匠
平成21ネ2110損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
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平成17ネ617損害賠償請求控訴事件 判例 意匠
関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  3条1項3号 /  類似する意匠 /  類似の意匠 /  関連意匠(10条) /  先使用(29条) /  先出願(29条の2) /  登録意匠 /  差止請求(差止) /  通常実施権 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 2599号 意匠権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件
控訴人(1審原告) ニプロ株式会社 (以下「原告」という。) 代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁護士 小野昌延
同 滝井朋子
被控訴人(1審被告) 株式会社大塚製薬工場 (以下「被告」という。) 代表者代表取締役 B
訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 西迫文夫
同 井上周一
補佐人弁理士 藤本昇
同 松井宏記
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2005/07/28
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原判決を取り消す。
2 原告が本判決別紙物件目録記載の輸液バッグを製造することについて、被告が原告に対して原判決別紙意匠目録1記載の意匠権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
3 訴訟費用は、1、2審とも被告の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 原告が原判決別紙物件目録原告案記載の輸液バッグを製造することについて、被告が原告に対して原判決別紙意匠目録1記載の意匠権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
3 訴訟費用は1、2審とも被告の負担とする。
事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、原告が原判決別紙物件目録原告案記載の輸液バッグを製造することについて、被告が原告に対して原判決別紙意匠目録1記載の意匠権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めた事案である。
原審は、原告の請求を棄却したので、原告が控訴を提起した。
2 基礎となる事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり訂正等するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」2及び3並びに「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決引用部分中の「別紙」をいずれも「原判決別紙」と読み替える。)。
(1) 3頁3行目の「本件登録意匠」の次に「及びイ号意匠」を加え、同5行目全部を次のとおり改める。
「(5) 先使用等による通常実施権の成否 ア 先使用による通常実施権(意匠法29条) イ 先出願による通常実施権(意匠法29条の2)」 (2) 6頁末行の「本件登録意匠」の次に「及びイ号意匠」を加え、8頁6行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「エ さらに、原告が主張する全体が縦長である点、構成の多くが直線をもって形成されている点は、本件登録意匠の出願前から多くの輸液バッグに共通の形態であり、当該部分は意匠の要部とはなり得ない。また、「背面の窓状の構成が太い枠で力強く囲まれていてその枠が下部の溶解液収納部の上部両肩に連なっている点」において、「背面の窓状の構成が太い枠(強シール部)で囲まれている構成」も公知意匠に多用されている構成である。
オ 原告は、原判決における本件登録意匠の要部に関する説示がどの部分を指しているか不明であると主張している。しかし、本件登録意匠に係る輸液バッグが、2室の境界部の中央部を連通させて、2室の製剤と薬液とを混合するものであることからすれば、どこが弱シール部(連通できる中央部)で、どこが強シール部(弱シール部の横の幅広い部分)であるかは明らかである。また、弱シール部と強シール部との境界が不明であるとも述べているが、中央の弱シール部及び強シール部からなるダンベル形状が要部であり、両シール部の境界を争うこと自体は無用である。さらに、原告は、イ号意匠のダンベル形状は、イ号製品が分離型であるために生じるシール跡であって、意匠の対比の対象にならない旨主張するが、イ号意匠におけるダンベル形状が、原告の主張の立論によって、二つの袋体を中央部でシールすることにより生じる分離型の特徴であるならなおのこと、ダンベル形状はイ号意匠の外形に表れる特徴になり得る外観形状である。」 (3) 9頁5行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「(ウ) さらに、本件登録意匠における、その全体が縦長である点、構成の多くが直線をもって形成されている点、上部の製剤収納側の袋体の背面に大きな窓状の構成があり、これが太い枠で力強く囲まれていてその枠が下部の溶解液収納側の袋体の上部両肩に連なっている等の点は、全体としてスマートで力強い印象を看者に与えるものであるから、これらの点も本件登録意匠の要部であるというべきである。」 (4) 9頁22行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「(ウ) また、そもそも、被告のいうダンベル形状なる部分は、本件登録意匠の意匠公報には、意匠に係る物品の説明の欄に「二室の境界部における中央部は、弱シールにより熱溶着されてあり、境界部の残余は、強シールにより熱溶着されている。」と記載されているのみであって、それが図面のどの部分に該当しているか明らかでなく、弱シール部、強シール部と、そのいうところの「中央部」との境界も明らかではない。加えて、イ号製品におけるダンベル形状の部分についても、イ号製品の製造工程において用いられる金型によってアルミカバーシート上に残されたシール跡にすぎず、本件登録意匠と対比すべき構成とはいえない。」 (5) 15頁25行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
[(エ) 加えて、本件登録意匠では、殊に、その背面視において、上半分に多くの直線をもって形成されている大きな下すぼまりの窓状の明確な構成が施され、
これを取り囲む幅広の枠のような構成が下半分の溶解液収納部の両肩部に連続していて、極めて力強く、直線的であり、男性的な印象を受けるのに対し、イ号意匠では、全体として、女性的、曲線的やわらかさという印象を受けるものであって、両者の印象は全く異なるものというべきである。」 (6) 15頁末行冒頭から18頁19行目末尾までを次のとおり改める。
「5 争点(5)(先使用等による通常実施権の成否)について (1) 原告の主張 ア 原告は、本件意匠権につき、先使用(意匠法29条。上記争点のア)又は先出願(意匠法29条の2。上記争点のイ)による通常実施権を有する。
すなわち、原告(当時「株式会社ニッショー」)は、関連会社である菱山製薬株式会社(以下「菱山」という。後にニプロファーマ株式会社となった。)と共同で、本件登録意匠を知らないで、自ら検乙第1号証に係る意匠を創作し、遅くとも、本件登録意匠の出願日である平成12年6月20日以前である平成11年5月10日までに、現に、日本国内において、イ号意匠と同一又は実質的に同一の意匠からなる輸液バッグ(検乙第1号証はその一つ)を、塩野義製薬株式会社(以下「塩野義」という。)の有用性試験用フルマリンキット静注用1gの容器として441バッグ製造して塩野義に納入、譲渡し、もってイ号意匠の実施である事業又はその準備をし、さらに、本件登録意匠出願日以前である平成11年5月10日から平成12年6月20日までの間に、塩野義その他に販売すべく、イ号製品又はこれと実質的に同一の輸液バッグの試作ないし販売準備などの事業の準備をし、もって意匠法29条に基づき、本件意匠権につき、この事業の目的の範囲内において通常実施権を有するものである(上記争点のア)。
また、原告は、本件登録意匠の出願に係る意匠を知らないで、自ら検乙第1号証に係る意匠を創作し、本件登録意匠の出願日である平成12年6月20日以前の同年3月30日に、自ら乙第2号証の意匠(後記のとおり拒絶査定を受けたことから、以下、「原告登録拒絶意匠」ともいう。)に係る意匠登録出願をし、菱山と共同でイ号製品と実質的に同一の意匠(検乙第1号証)の実施である事業又はその準備をしていた者であって、本件登録意匠の登録日である平成13年2月23日以前に、現に日本国内において、被告が本件登録意匠と類似すると主張するイ号製品の意匠の実施である事業をしていた者であるが、原告による上記意匠登録出願は、平成13年1月30日に意匠法3条1項3号に該当するとして拒絶査定され、これが確定したものであるから、本件意匠権につき、この事業の目的の範囲内において通常実施権を有する(上記争点のイ)。
イ(ア) 先使用等の経緯は次のとおりである。
a 原告は、分離型のダブルバッグタイプの輸液バッグ(原告の社内では、「PLWキット」と呼んでいる。以下、これを「PLW」等ということもある。)について、平成7年に日本、アメリカ、欧州等に特許出願をした(甲第74、第75号証)。
b 原告は、平成8年3月ころ、塩野義に対し、粉末抗生物質の収納部を有する袋体と溶解液の収納部を有する袋体を弱シール部で接続したダブルバッグタイプの輸液バッグの提案を行い、その後、塩野義が製造販売していた抗生剤フルマリン静注用1gと生理食塩水100mlを一体化したフルマリンキット静注用1gを共同開発することとなった。
c 原告は、平成8年4月24日、分離型のダブルバッグタイプの輸液バッグの意匠(原告公知意匠)について意匠登録出願をし、その後(平成10年5月22日)に意匠登録を受けた(乙第1号証、丙第2号証)。
d 平成11年の4月22日及び5月2日に、菱山からPLW溶解液(生理食塩水)及びフルマリンキット静注用1gの試製指図がなされ(乙第26号証の1、2)、これを受けて原告の草津医薬研究所(以下「原告研究所」という。)において、平成11年5月6日から同月8日の間に有用性試験用の輸液バッグが製造され、不良品を含めて441バッグが完成した(丙第20号証、第42号証の8)。
e 原告は、平成11年5月10日、関連会社である菱山を通じて、検乙第1号証と同一のフルマリンキット静注用1gの有用性試験用サンプル441バッグを塩野義に納入した(乙第19号証、丙第59号証)。
f 平成11年6月1日、原告、塩野義及び菱山は、フルマリンキット静注用1gについて共同開発契約を締結した(共同開発契約書は乙第5号証、丙第7号証)。
g 塩野義は、納入された有用性試験用サンプルに包装作業を行い、平成11年6月15日ころ、そのうち250バッグを医薬開発部に入庫した(乙第9号証の1、2、丙第11号証の1、2)。
h 塩野義は、北里大学病院薬剤部のC外1名にフルマリンキット静注用1gの有用性試験の実施を委託し、上記Cらにより、平成11年6月26日から同年7月13日までの間、前記サンプルを用いた有用性試験が行われた(乙第10号証、丙第12号証)。
i 原告からタックラベラーを受注していた株式会社岩田レーベル(以下「岩田レーベル」という。)は、平成12年3月8日と9日の両日にわたって、原告から提供を受けたフルマリンキット静注用1gのサンプル(丙第34号証の7、検丙第34号証はその一つ)を用いてタックラベラー等の検収運転を実施した(丙第33号証の1〜3、第34号証の1〜6)。
j 原告は、平成12年3月30日、検乙第1号証と同一の分離型のダブルバッグタイプの輸液バッグに係る意匠(原告登録拒絶意匠)を出願意匠として意匠登録出願をしたが、原告公知意匠と類似する(意匠法3条1項3号該当)として平成13年1月30日に拒絶され、その後、拒絶査定が確定した(丙第22号証)。
k 平成12年9月の27日と28日の両日にわたって、三重テレビエンタープライズによって、菱山伊勢工場におけるPLW製造ラインの稼働状況等の撮影が行われた(検丙第5、第6号証)。
l 塩野義は、平成13年1月末に、イ号製品であるフルマリンキット静注用1gの販売を開始した。
(イ) 検乙第1号証は、有用性試験に使用するために製造された前記441バッグ(塩野義医薬開発部に入庫されたのは、そのうち250バッグ)のうちの一つである。
ウ(ア) 原告は、前記のとおり、菱山を介して、被告が本件登録意匠に類似すると主張するイ号意匠と実質的に同一の意匠からなる有用性試験用サンプル(検乙第1号証はその一つ)を製造して塩野義に納入し、塩野義が包装を施し、
それが有用性試験に使用されたから、このような原告の行為は、意匠法29条、同条の2にいう「登録意匠又はこれに類似する意匠」の「実施である事業」に該当する。
(イ) 原告は、前記のとおり、即時実施の意図をもって、本件登録意匠に係る意匠登録出願日以前に、被告が本件登録意匠に類似すると主張するイ号意匠の実施のために必要な準備行為を行っていたのであるから、このような原告の行為は、意匠法29条、同条の2の「その事業の準備」に該当する。
(ウ) 原告らが、イ号製品又は有用性試験用サンプルを開発若しくは製造する過程で行った試作品の製造、設計図等の作成、試作金型や本金型の製作、製造承認申請等の行為は、意匠法29条、同条の2の「その事業の準備」に該当する。
エ イ号製品のいわゆるダンベル形状のシール部は、製剤収納部と溶解液収納部の各弱シール部を結合するに当たり、完成後のイ号製品使用の際に両収納部が弱シール部により連通した後にも、溶解液が外部に漏出することを防止するために、両収納部の強シール部において両端を幅広に強溶着する必要があることから採用されているもので、イ号製品が、分離型のダブルバッグタイプの輸液バックであることに由来する。したがって、原告は、分離型のダブルバッグタイプの輸液バックの開発当初から、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の溶着をするために、いわゆるダンベル形状のシール部を用いてきたものである。
なお、原告が作成した分離型のダブルバッグタイプの輸液バックに係る図面中に上記形状を記載したものが存在しないのは、弱シール部や強シール部のシール線は、意匠ないし形状上の本質的な線ではないため、描写するには適当でないためにすぎない。
(2) 被告の主張 以下のとおり、原告がイ号意匠を実施することに関して先使用権等を有していたとはいえない。
ア いわゆるダンベル形状のシール部を図示した図面の不存在 (ア) 三菱重工業株式会社(以下「三菱重工」という。)の押印のある図面(丙第24号証)について 丙第24号証は、平成8年2月8日に作成された製品外形図であって、三菱重工が同日発送した旨の押印があり、同図面中に、いわゆるダンベル形状と思われるシール部が図示されている。
しかし、三菱重工は、その後、金型の製作を始めとする爾後の作業を断った経緯があり(甲第67号証)、また、その後の原告作製の図面にはダンベル形状のシール部が図示されたものが一切存在しないことからすると、上記図面は当時のアイデア図面にすぎず、同図面に基づく実施がなされないまま、直線状のシール部からなるものに形状変更されたものと推測される。
(イ) 印刷見本図面(乙第50号証の3。作成日平成11年4月5日。検乙第1号証の最終形状の図面で印刷見本であると原告が主張するもの)及び金型図面(乙第30号証の1。作成日平成11年4月2日)について 上記印刷見本図面には、金型を当てたシール線が全て記載されている。具体的にいえば、溶解液収納側のポート部の両側のシール部の重なり、溶解液収納部の両肩部のシール線が記載され、製剤収納側においても製剤収納部が点線で記載されているが、ダンベル形状のシール部の記載はない(甲第69号証)。
また、上記印刷見本図面と上記金型図面の作成日が逆転している(甲第68号証「扶桑精工株式会社技術部部長の証明書」)。
(ウ) 原告の意匠登録出願について 原告公知意匠(乙第1号証。平成8年4月24日出願)の製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部は、乙第50号証の2、3と同様に直線であり、原告登録拒絶意匠(乙第2号証。平成12年3月30日出願)の製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部も、同様に直線である。
仮に、イ号製品のように弱シール部の両側に幅広な強シール部を備える輸液バッグが完成していたとするならば、少なくとも平成12年3月30日の原告登録拒絶意匠に係る出願時に上記形状が図面に表現されていたはずである。
(エ) その他、製品形状図面(丙第32、第33号証の各1。いずれも平成11年6月14日図面作成)、フルマリンキット製造承認申請書の添付図面(乙第11号証の1、2、乙第12号証。平成11年8月10日承認申請)、機械等設置届の添付図面(丙第30号証、第35号証。平成11年8月31日又は同年12月16日届出)等のいずれにおいても、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の連結部は全てダンベル形状ではなく、直線状として記載されている。
イ ダンベル形状のシール部を有する現物等の不存在について (ア) 丙第25号証(作成日平成9年5月22日。検乙第1号証のダンベル形状の溶着金型図面であると原告が主張するもの)と丙第28号証(作成日平成11年7月22日。イ号製品のダンベル形状の溶着金型図面であると原告が主張するもの)について 上記いずれの図面も承認印がなく、その状態で有限会社中川製作所に金型製作の依頼がされているが、承認印、検印がない状態で、外部に金型製作の依頼がされることは普通ではあり得ず(甲第70号証)、これらの図面に記載された金型は承認されず、事業に実用化されなかったものと推測される。
また、丙第25号証の金型図面の「型式」欄の名称は「PLW-1」であるが、丙第28号証の「型式」欄の名称は「WKM-1」と食い違っており、原告が主張する検乙第1号証の製作日(平成11年5月10日ころ)の2年も前(平成9年5月22日)にその金型の図面である丙第25号証が作成されたというのも、不自然である。
さらに、丙第25号証中、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の帯状シール部(弱シール部の金型部分)の幅は7oと表示されているが、その両側のアール部を除くと5oの幅となる。しかるに、該図面に基づいて製作されたとされる検乙第1号証の弱シール部の幅は6.0oとなるから、検乙第1号証は、丙第25号証の金型図面によって製作されたものではないことが明らかである。
(イ) コンピュータ内蔵写真及び関連資料(丙第17号証の1、2、
丙第18〜第21号証、第42号証の1〜9、丙第44号証の1〜4、丙第45号証の1〜5)について まず、原告は、「PLW」と原告が命名する分離型は原告が日本で初めて開発したなどと主張しているにもかかわらず、試作に最も関係の深い部署である「医療推進部」の電子ファイルの中から、5年も前のデータが今ごろになって発見されたというのは、あまりにも不自然である。
原審において、原告は、差止請求権不存在確認請求訴訟を自ら提起し、先使用の主張をしていたのであるから、それこそ真っ先に判明するはずのファイルである。
また、コンピュータ内蔵のデジタル形式の写真の作成日は、元来明らかでない(丙第19号証の「改版日時」欄に日付が入っているが、これらの日時が極めて容易に変更修正できるのは技術的常識である。甲第60、第61号証)。
(ウ) 岩田レーベル保管のサンプル等(丙第34号証の1〜7、検丙第34号証)について 丙第34号証の7は、丙第34号証の3、5、6の写真に写っているPLWバッグの見本物の写真として原告が提出したものであり、ダンベル形状のシール部が写っているが、丙第34号証の3、5、6からは、このようなダンベル形状は視認できない。しかも、丙第34号証の7に写されているダンベル形状のシール部は、中央の帯状部が両側の四角形状部の中央から延出して一体形成されてなるが、平成11年7月22日付け作成の丙第28号証のダンベル形状に係る溶着金型図面によると、中央の帯状部は両側の四角形状部の中央より下方の位置から延出していることと一致しない。
また、岩田レーベルのD専務は、丙第34号証の8において、丙第34号証の7、検丙第34号証の受領時点等については不明である旨の記述をしている。
(エ) 丙第56、第57号証の証明書及び検丙第56、第57号証のサンプルについて フルマリンキット静注用1gのサンプルが平成17年2月25日付けで提出されているが、このような重要な証拠が、何故に、検丙第34号証と同様に、原審の当初から提出されなかったのか不可解である。
(オ) 検丙第5号証(PLW製造ラインのビデオテープ)、検丙第6号証(DVD映像)について 上記ビデオテープ(検丙第5号証)の撮影日は、証拠説明書によると平成12年9月の27日と28日であるとのことであるが、丙第40号証(イ号製品である「フルマリンキット静注用1g」の製造に対する三重県知事の許可)によれば、その許可日(平成12年9月28日)は前記撮影日の9月27日の1日後あるいは撮影当日である。薬事法令上、許可を求める医薬品の許可前に当該製品の製造ラインを稼働して本生産を行い、許可前製品が生産されることは考えられない。
ウ 原告の主張エは、いずれも争う。
当裁判所の判断
1 当裁判所は、イ号意匠は本件登録意匠に類似するが、原告は、本件意匠権について先使用による通常実施権(意匠法29条)を有するから、被告には、本件意匠権に基づいて、原告がイ号製品(本判決別紙物件目録記載の輸液バッグ)を製造することを差し止める請求権を有しないと判断する。
その理由は、次のとおり訂正等するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」1ないし8に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 20頁4行目の「下に」の次に「、四周を幅狭のシールに囲まれた」を加え、21頁3行目から4行目にかけての「続いている。」を「、わずかに残っている製剤収納側の袋体の下端部を経て、続いた位置にある。」と改める。
(2) 24頁13行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 なお、原告は、本件登録意匠の意匠公報によっては、被告のいうダンベル形状なる部分(被告は、基本的構成態様Dをもって「ダンベル形状」といっているものと解される。)が図面上のどの部分に該当するのか明らかではないなどと主張しているが、それが製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央の帯状の部分とその両側に連続する溶解液収納側の袋体の上部両側に形成された下すぼまりのシール部分及び製剤収納側の袋体下部両側に形成された上すぼまりのシール部分を指すことは明らかである。
もっとも、後者のシール部分は、製剤収納部の左右両側のシール部分に接続してはいるが、同部分は極めて幅狭に形成されているから、看者には、同部分を除くその余の部分が、一まとまりのダンベル形状として認識されるものと認められる。また、原告は、弱シール部、強シール部等の境界が明らかでないことも問題にしているようであるが、後記(4)でみるとおり、これらの区別は物品としての構造上の区別に係るもので、外観上は、一まとまりの形状として認識されるものであるから、その境界等が不明瞭であったとしても、上記形状をもって要部と認定することの妨げとはならない。」 (3) 24頁24行目の「なお、」から25頁4行目末尾までを削る。
(4) 27頁23行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「エ さらに、原告は、本件登録意匠における、その全体が縦長である点、
構成の多くが直線をもって形成されている点、上部の製剤収納側の袋体の背面に大きな窓状の構成があり、これが太い枠で力強く囲まれていてその枠が下部の溶解液収納側の袋体の上部両肩に連なっている点も、 全体としてスマートで力強い印象を看者に与えるものであるから、本件登録意匠の要部であると主張するが、前2者は、それらの点のみで要部であるということができないことが明らかであるし、原告主張の点を全体として考慮しても、前記(1)のイ、ウ記載の公知意匠及び関連意匠と対比して、これらの点をもって、本件登録意匠の要部であるとまで認めることはできない。」 (5) 28頁2行目末尾の次に改行の上、次のとおり加える。
「 この点に関し、原告は、上記部分は、イ号製品の製造工程において用いられる金型によるシール跡にすぎないから、本件登録意匠と対比すべき構成とはいえない旨主張するが、当該部分が一定の形状として看者に視認され、その注意を引くものと認められる以上、本件登録意匠と対比すべき構成とすることを妨げられる理由はないというべきであるから、この点の原告の主張は採用することができない。
(4) なお、イ号製品における製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央に形成された帯状の「弱シール部」は、当該部分で重ね合わされた製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の表側シートと裏側シートとの間(内側)に弱溶着部を形成するためのEPSシートを挾んだ状態で強溶着された部分であり、その両側の「強シール部」は、当該部分で重ね合わされた製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の表側シートと裏側シートが強溶着された部分であって、外観上は、
「弱シール部」と「強シール部」は一体をなすシール(強シール)部として表れるものである(丙第60号証)。そして、このことは、本件登録意匠の意匠公報の【右側面図中央部分拡大参考断面図】に照らし、本件登録意匠に係る製品においても、おおむね妥当するものと考えられる。」 (6) 31頁1行目の「続いている」を「、わずかに残っている製剤収納側の袋体の下端部を経て、続いた位置にある」と改める。
(7) 35頁5行目冒頭から39頁10行目末尾までを次のとおり改める。
「5 争点(5)(先使用等による通常実施権の成否)について (1) 意匠法29条により、意匠登録出願の際、現に日本国内において、その意匠又はこれに類似する意匠の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者として、意匠登録出願に係る意匠権について通常実施権が認められるためには、意匠登録出願の際に、出願に係る意匠と同一又は類似の意匠を完成し、
又は少なくともそのような意匠が完成に近い状態にあり、それについて意匠の実施である事業をし、又は事業の準備をしている必要があるというべきである。
前記3(1)エ認定のとおり、本件登録意匠の要部は、製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部の中央に、帯状の弱シール部が形成されており、その弱シール部の両側に、弱シール部より幅の広い強シール部が形成されていること(基本的構成態様D。ただし、前記のとおり、外観上は一体の形状として認識されるものである。)にあるから、本件登録意匠類似の意匠であるといえるためには、少なくとも、本件登録意匠の上記要部を備える必要があるというべきである。
そうすると、本件において、意匠法29条に基づく抗弁が認められるためには、本件登録意匠に係る意匠登録出願の際に、本件登録意匠と同一の意匠が完成し、若しくは少なくとも完成に近い状態にあったことが立証されるか、又は本件登録意匠類似の意匠、すなわち、本件登録意匠の上記要部を備える意匠が完成し、又は少なくとも完成に近い状態にあったことが認められなければならないというべきである。
(2) 検乙第1号証に係る意匠は、本判決別紙第1図「意匠変遷図」中のA図(寸法を含め、検乙第1号証に係る形状をおおむね正確に図示したものと認める。)とC図(寸法を含め、イ号製品の形状をおおむね正確に図示したものと認める。)を対比しても、既にみたとおり、本件登録意匠と類似するものと認められるイ号意匠と、アルミカバーシートの左上部の剥離用ツマミ部の形状、右上部のアールの有無や一部の寸法等を多少異にするのみで、前記要部の存在を含めて実質的に同一といって差支えないものであることが認められる。
(3) そして、証拠(甲第74、第75号証、乙第1号証、第5〜第8号証、第9号証の1、2、乙第10号証、第19号証、第26号証の1、2、丙第2号証、第7〜第10号証、第11号証の1、2、丙第12号証、第20号証、第22号証、第33号証の1〜3、丙第34号証の1〜6、丙第42号証の8、丙第59号証、検丙第5、第6号証)及び弁論の全趣旨によれば、検乙第1号証が、原告が菱山を介して塩野義に納入したフルマリンキット静注用1gの有用性試験用サンプル441バッグのうち、塩野義の医薬開発部に入庫された250バッグの一つであるか否かの点を除けば、塩野義によるイ号製品の販売開始までの間に、おおむね原告主張(前記第3の5(1)原告の主張イ(ア)に記載した部分)のとおりの経緯があったことが認められる。
(4) そこで、検乙第1号証が、塩野義に納入されたフルマリンキット静注用1gの有用性試験用サンプル441バッグのうち、塩野義の医薬開発部に入庫された250バッグの一つと認められるか否かについて検討する。
ア 原告が先使用に関連して提出した証拠のうち、本件登録意匠の出願前に作成されたとされる図面で、前記認定判断において示した本件登録意匠の要部を備える意匠に係るものは、丙第24号証(平成8年2月8日付けの三菱重工〔名古屋機器製作所〕の押印のある製品外形図)のみであり、その余の原告の提出書証中には上記要部の記載がないことが認められる(被告は、乙第27号証に言及しているが、裁判所に対する説明書面にすぎない。)。
イ 丙第24号証の図面には、幅5oの弱シール部と思われる帯状の部分とその両側に幅広で略四角形状の強シール部と思われる部分が表現されている。
そして、甲第67号証及び弁論の全趣旨によれば、上記図面は、ダブルバッグタイプの輸液バッグの製造機械に関し、機械メーカーである三菱重工との間の見積もり段階で作成されたものであること、上記図面は、上記押印等からみて、三菱重工によって作成されたものであることがうかがわれるが、原告と三菱重工との取引自体は、価格面等の折り合いが付かなかったために成立せず、したがって、現実に、同図面に基づく製品が製造されることはなかったことが認められる。
被告は、上記図面は当時のアイデア図面にすぎず、同図面に基づく実施がなされないまま、直線状のシール部からなるものに形状変更されたものと推測される旨主張しているが、そのような推認をするに足りる証拠はない。他方、上記図面に基づく輸液バッグは、製造されるに至らなかったとはいえ、少なくとも、
同図面の存在から、平成8年2月の時点で原告においては開発中の輸液バッグの境界部のシールの形状を上記のような形状にすることが検討されていたことが推認されるとともに、他の原告作成の図面とは異なり、この図面には上記シール部の形状が記載されているのは、機械メーカー側で作成された見積もり用の図面であったためであるとも考えられる。
ウ 原告は、検乙第1号証と同一の輸液バッグに係る印刷見本図面として乙第50号証の3(作成日平成11年4月5日。なお、同号証は、同年3月22日作成の乙第50号証の2を修正したものである。)を援用している。
上記印刷見本図面には、意匠の要部となるダンベル形状のシール部は図示されていないが、その余の形状等は、細部の形状を除けば、検乙第1号証ともおおむね符合するといえる。
被告は、乙第50号証の3の印刷見本図面と乙第30号証の1の金型図面の作成日が逆転している(甲第68号証))と主張するが、丙第50号証の記載に照らせば、その点から直ちに上記図面に係る作成日等の信憑性が失われるものではないというべきである。
また、被告も指摘するように(なお、甲第69号証)、上記印刷見本図面においては、製剤収納部付近が極めて微細な点線で囲われていることが認められるが、その位置、形状は検乙第1号証のシール線等と正確に一致するものではないから、上記点線がシール線等を示すものであると断定することはできない。
エ 原告は、検乙第1号証の製作に使用した金型の図面として、丙第25号証(作成日平成9年5月22日。検乙第1号証のダンベル形状のシール部の溶着金型図面であると原告が主張するもの)を提出している。
そして、丙第25号証に図示された金型は、その凸部の形状が検乙第1号証のシール部の形状とほぼ一致すると認められるものであって、現実に金型代金も原告から有限会社中川製作所に支払われ、原告の総合研究所内に設置されたものであることが認められる(丙第25〜第27号証)。
この点についても、被告は、この金型から検乙第1号証の輸液バッグは製作できない旨主張し、これに沿う証拠として甲第71号証を提出しているが、同書証は、丙第54号証の記載に照らして採用することができない。
また、被告は、検乙第1号証が製作されたと原告が主張する2年も前に金型の作図がされたこと自体が不自然であるとも主張しているが、乙第32号証の1、2、乙第51号証によれば、検乙第1号証に係るカバーシート用の溶着金型も平成9年3月に加工依頼がなされていることに照らしても、不自然な時期に製作された金型であるということもできない。
その他、被告は、丙第28号証の「型式」欄の名称の相違とか、承認印の不存在等の点を指摘しているが、これらの点を考慮しても、上記認定判断を左右するに足りない。
オ 原告は、検乙第1号証と同一のサンプルを原告研究所において平成11年5月6日から同月8日にかけて製造した際に、これをデジタルカメラで撮影し、その後、原告のコンピュータ内に保管されていた写真として、丙第17号証の1、2、丙第18号証を提出している。
被告も主張するとおり、デジタルデータは改変することが可能であるから(甲第60、第61号証)、それのみでは、上記写真が原告主張のとおりのものであると認めることはできない。しかし、上記写真との関係で原告の提出した証拠(丙第19〜第21号証、第42号証の1〜9、丙第43号証の1〜5、丙第44号証の1〜3、丙第45号証の1〜5)を総合すれば、特に丙第17号証の1、2、丙第18号証の写真から認められる輸液バッグの形状、色彩等と他の各写真に撮影された輸液バッグのそれとは酷似しているということができるから、被告主張のように上記各証拠が撮影日時等を改変したものと認めることもできない。
カ 原告は、岩田レーベルにおける平成12年3月9日実施のタックラベラーの試運転状況を撮影した丙第34号証の1〜6の写真及びその試運転用にその際提供されたサンプルの写真である同号証の7を提出し、加えて、その実物を検丙第34号証(フルマリンキット静注1g 実生産試運転2000.3.9by岩田レーベル フジキカイ)として提出しているところ、同サンプルの製剤収納側の袋体と溶解液収納側の袋体の境界部には、ダンベル形状のシール部が形成されていることが認められる。
被告は、丙第34号証の3、5、6からは、ダンベル形状は全く視認できず、むしろ一直線状であることがうかがわれると主張しているが、同号証の3及び9の写真には、明瞭でないにせよ、ダンベル状のシール跡がかすかに写っているようにも見えなくはないし、少なくとも、写真からうかがわれる輸液バッグの形状、色彩や当該部分の幅等は、同号証の7のものと矛盾しないと考えられる。
なお、被告は、丙第34号証の7に写されているダンベル形状のシール部は、中央の帯状部が両側の四角状部の中央から延出して一体形成されてなるが、平成11年7月22日付け作成の丙第28号証のダンベル形状作成の溶着金型図面によると、中央の帯状部は両側の四角形状部の中央より下方の位置から延出しているものであるため、当該金型(丙第28号証)によって製作されたものではないことは明らかであると主張しているところ、確かに、丙第34号証の7及び検丙第34号証のシール部の形状は、丙第28号証の金型によっては形成されないものと認められるが、丙第25号証の金型の中央の帯状部は両側の四角形状部からの延出状況とほぼ符合するものと認められるところ、試運転用のサンプル品であることから、同金型が使用されたものとも考えられるから、この点の被告の主張も採用することができない。
キ 原告は、菱山伊勢工場PLW製造ラインのビデオテープ(検丙第5号証)を提出しているが、証拠説明書によると、その撮影年月日は平成12年9月の27日及び28日とされている。そして、上記テープ中でダンベル形状の部分の写っている画像を抽出したとする証拠が検丙第6号証であるが、これによると、製造中の「フルマリンキット静注剤1g」のキットの境界部分にダンベル形状が明瞭に写っていることが認められる。
被告は、三重県知事の製造許可日である平成12年9月28日(丙第40号証)との関係等を問題にしているが、被告指摘の点のみによって、上記証拠の証拠価値が左右されるものではない。
(5) 以上の各証拠及び前記認定の経緯によれば、検乙第1号証は、塩野義に納入されたフルマリンキット静注用1gの有用性試験用サンプル441バッグのうち、塩野義の医薬開発部に入庫された250バッグの一つであると認めるのが相当である。
被告は、原告作成の各図面中に前記要部の記載がないことを強調するが、前掲各証拠や、乙第50号証の3の作成者であるEらを「意匠の創作をした者」としてなされた乙第2号証の意匠(本件登録拒絶意匠)に係る意匠登録出願に係る図面についても、輸液バッグの少なくとも製剤収納側は平板状に図示され、シール線等の図示が全く省略されていることが明らかであることからすると、原告においては、少なくとも製剤収納側については、ダンベル形状からなるシール部を含むシール線等の構成を、輸液バッグの意匠等を構成する重要な要素とは考えていなかった旨の原告の主張を不自然として排斥することはできないものというべきである。
(6) 以上によれば、検乙第1号証に係る意匠は、有用性試験が行われた平成11年7月当時までに創作され、本件登録意匠に係る意匠登録出願当時、完成され若しくは完成に近い状態にあったものと認められる。
そうすると、原告は、本件登録意匠に係る意匠を知らないで、自らこれに類似する検乙第1号証に係る意匠を創作し、本件登録意匠に係る意匠登録出願の際、現に日本国内において、本件登録意匠に類似する検乙第1号証に係る意匠の実施である事業をし、ないしその準備をしていたと認められるから、その実施ないし準備をしている意匠及び事業の目的の範囲内において、本件登録意匠について通常実施権を有するというべきである。
したがって、先使用に関する原告の主張は理由がある。」 (8) 39頁11行目冒頭から同20行目までを削り、同21行目冒頭の「7」を「6」と、同22行目冒頭から40頁4行目末尾までを次のとおり、各改める。
「 以上によれば、イ号意匠は、本件登録意匠に類似するが、被告は、本件意匠権について通常実施権を有するから、被告は、原告がイ号製品を製造することについて、原告に対して本件意匠権に基づく差止請求権を有しないというべきである。」 2 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含め、当審の認定、判断を左右するほどのものはない。
結論
以上によれば、原告の請求は理由があるから認容すべきところ、これと結論を異にする原判決を取り消した上、主文のとおり判決する(なお、控訴の趣旨において、原告は、本件差止請求権不存在確認請求の対象たる輸液バッグを「原判決別紙物件目録原告案」によって特定しているところ、同目録記載のイ号意匠の文言による特定は当裁判所の前記認定判断と異なる点があり、他方、イ号製品の特定としては本判決別紙物件目録記載のとおりの特定で足りるものであるから、本判決主文2項のとおり特定したが、原告の請求を一部棄却したものではない。)。
(平成17年4月21日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 中村心