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関連審決 無効2000-35055
関連ワード 意匠の実施 /  意匠の創作 /  物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  同一物 /  公然知られた(3条1項1号) /  広く知られた /  意匠の属する分野 /  物品の機能 /  同一物品 /  登録意匠 /  取引の実情 /  無効審判 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 357号 審決取消請求事件
原告 株式会社ウチコン代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 小島清路
同 谷口直也
被告 【B】
訴訟代理人弁理士 前田勘次
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/26
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2000−35055号事件について平成12年8月8日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、意匠に係る物品を「側溝用ブロック」とし、その形態を別添審決謄本写し別紙のとおりとする登録第1037733号意匠(平成6年9月5日登録出願、平成11年2月26日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
原告は、平成12年1月19日、被告を被請求人として、本件意匠登録の無効審判の請求をした。
特許庁は、同請求を無効2000-35055号事件として審理した上、平成12年8月8日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月28日原告に送達された。
2 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本件意匠は、@その登録出願前に、実開昭50-62358号公報(審判、本訴とも甲第1号証)、実開昭63-95790号公報(同甲第2号証)、実開昭63-18590号公報(同甲第3号証)及び実開昭58-140286号公報(同甲第4号証)記載の各形状に基づいて、当業者が容易に創作をすることができたから、意匠法3条2項に該当する(審判における無効事由1)、A本件意匠の登録出願前に日本国内において公然知られた意匠である平成6年7月26日付け株式会社丸治コンクリート工業所作成の「R側溝(リボーン側溝)RU-300A」の図面記載の意匠と同一であり又は類似するから、同法3条1項に該当する(審判における無効事由2)との請求人(原告)の主張をいずれも排斥し、請求人の主張及び提出した証拠によっては、本件意匠の登録を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審判における無効事由2についての審決の判断は争わない。
審決は、本件意匠が甲第1〜第4号証記載の各意匠に基づいて当業者が容易に創作をすることができるものであるのに、その容易創作性の判断を誤った(取消事由)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(容易創作性についての判断の誤り) (1) 甲第1号証記載の意匠に基づく容易創作性 審決は、本件意匠の蓋受部の具体的構成態様を「内壁面の上端部分は、略『し』の字状に切り欠いて弧状面を呈する」(審決謄本2頁38行目〜39目)と認定した上、「本件登録意匠(注、本件意匠)・・・の構成態様のうち、全体の基本的な構成態様及び各部の具体的構成態様のうちの蓋受部を除く殆どの態様は、本件登録意匠の出願前よりこの種の物品分野に於いて既に広く知られた態様である」(同3頁26行目〜29行目)と認定し、上記蓋受部の構成に関し、「甲第1号証の意匠に、蓋受部の形状を弧状としたものが開示されているが、これは・・・排水桝の蓋受部に関するもので、排水桝は下水用の屋外配水管の合流点に設け掃除、点検等のためのものであるのに対し、本件登録意匠は雨水等を排水するために道路に沿って長く連接して使用するものであって、全体的にみて、物品の機能、使用目的、使用態様が異なり同一物品分野のものとは云えないから、排水桝の蓋受部に弧状を呈するものがあったからと云って、これに基づいて直ちに側溝用ブロックの蓋受部を弧状面とすることが容易に創作することができたことにはならない」(同3頁36行目〜4頁4行目)とするが、蓋受部の構成の容易創作性についての上記判断は誤りである。
すなわち、意匠法3条2項にいう「その意匠の属する分野」とは、当該意匠に係る物品同一物品であることを定めるものではないところ、一般に、側溝、
排水桝、マンホール等は下水道設備として総称されるものであり、現実にも、上下水道設備具のカタログ等において、これらは一括して掲載されている。また、意匠に係る物品としての「排水桝」と「側溝用ブロック」は、ともに意匠分類上L2-40(上下水用設備具)、国際特許分類E03F 5/04に分類されている。
さらに、側溝を扱う会社の約30パーセントは排水桝も扱い、排水桝を扱う会社の約45パーセントは側溝も扱っており、それぞれの形状について熟知した上で創作がされている。そして、側溝用ブロックも排水桝も、いずれも排水を流すために地面を掘って設置されるものであり、排水桝が側溝用ブロックとともに設置されることもあり、物品の機能、使用目的及び使用態様はほぼ共通している。
このような取引及び創作の実情からすると、本件意匠の意匠に係る物品「側溝用ブロック」と甲第1号証記載の「排水桝」とは、ともに上下水道設備具として、同一物品分野に属するものというべきである。
そして、本件意匠の登録出願前に、特願昭53-145347号公報(甲第6号証)には、地下構造物用蓋構造において、湾曲形状の受枠が記載されており、また、いずれも蓋受部を傾斜形状とした排水桝(実開昭59-183982号公報、甲第23号証)、マンホール(実開昭52-38960号公報、甲第14号証)及びコンクリート側溝(前掲甲第3号証)が創作されていること、さらに、側溝用ブロックにおいて、曲面形状を取り入れること自体は、登録第702006号意匠(昭和61年12月23日設定登録、甲第24号証)や登録第691342号意匠(同年7月16日設定登録、甲第25号証)のとおり、既に周知であったことも考慮すると、甲第1号証記載の排水桝の蓋受部の湾曲形状を側溝用ブロックに転用することにより、本件意匠を創作することは当業者にとって容易であったというべきである。
(2) 甲第2、第3号証記載の各意匠に基づく容易創作性 側溝用ブロックの蓋受部の形状を、側溝蓋の蓋受部と接する部分と同形状にすることが周知の創作であることは、甲第3号証から明らかであるところ、側面下部が湾曲面形状となっている側溝蓋は周知である(甲第2号証参照)から、この側溝蓋に密着させるために側溝用ブロックの蓋受部の形状を湾曲面に創作することは当業者にとって容易にし得ることである。
この点について、審決は、「本件登録意匠の出願当時、側溝用ブロックの蓋受部の形状は・・・蓋受部の下半分を側溝内部に向かって、下向き斜状の面取り様としたものや正背壁側の垂直面を僅かに傾斜面とした程度のものがせいぜいであって、それ以外のものは見受けられない」(審決謄本4頁17行目〜23行目)とし、さらに、甲第3号証記載の意匠は「側溝溝と蓋受部とが必ずしも密着しているとは云えず」(同4頁26行目〜27行目)、「蓋受部の形状を弧状面とすることが当業者にとって容易であったとは直ちには云えない」(同5頁4行目〜5行目)とする。
しかし、甲第3号証記載の意匠の「蓋受部」は、傾斜部のみを意味すると解すべきであり、当該傾斜部において蓋と密着していることは明らかである。さらに、上下水道設備分野の物品において、蓋と蓋受部を密着させるべく、その接触部分を同じ形状に創作することは従来から広く行われていることである(特開昭53-145347号公報(甲第6号証)、実公昭40-4350号公報(甲第7号証)等)から、審決の上記判断は誤りである。
(3) 甲第4号証記載の意匠に基づく容易創作性 審決は、「甲第4号証・・・には、蓋受部に内角を弧状とした小さい集水孔が開示されているが、集水孔の形状として、こう云うものが知られていたことを示すに止まるものであり・・・蓋受部を各種の形状に表すことが普通になされていない限りに於いては、上記の意匠から、容易に創作できたものと云うことはできない」(審決謄本5頁6行目〜13行目)とするが、誤りである。
甲第4号証に示されるとおり、蓋受部に該当する部分の一部を曲面形状としたものは周知であるから、これを蓋受部全体に表して創作することは当業者にとって容易というべきである。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(容易創作性についての判断の誤り)について (1) 甲第1号証記載の意匠に基づく容易創作性 側溝用ブロックと排水桝との用途及び機能の相違から、両者が同一の物品分野に属さないことは明らかである。すなわち、排水桝は周囲が閉ざされた輪状の蓋受部を有するものであり、側溝用ブロックのように道路に沿って長く連接して使用するものとは基本形状が異なる。排水桝等の蓋受部の一部に弧状のものがあったとしても、意匠全体として必ずしも似ているとは限らず、側溝用ブロックの蓋受部を弧状とすることが容易となるものではない。
(2) 甲第2、第3号証記載の各意匠に基づく容易創作性 原告は、甲第3号証記載の意匠の「蓋受部」は、傾斜部を意味する旨主張するが、「蓋受部」とは、内壁面の上端の切り欠いた部分全体を指すというべきであり、原告の主張は失当である。
(3) 甲第4号証記載の意匠に基づく容易創作性 集水孔と蓋受部とでは、機能、目的及び用途が異なり、集水孔の形態を蓋受部全体に表した場合、もはや集水孔としての機能を果たさないこととなるから、
集水孔の形状を蓋受部全体に表すことが当業者の容易にし得ることとはいえない。
(4) 原告の提出した証拠の中には、部分的に本件意匠の蓋受部のような湾曲形状が含まれているものもあるが、それらは、特定の部位の特定の断面におけるものであって、同一部位であっても異なる断面においては本件意匠とは全く異なる形状となっている。原告は、こうした証拠の組合せに基づいて意匠法3条2項の適用を主張するが、意匠は全体の形態を細かく細分化すれば、すべて公知の意匠となってしまう性質を有するのであり、意匠法は、このことを前提として、公知の形状の配置ないし組合せから生ずる新たな美的価値を保護するものである。したがって、意匠の構成態様が単に公知の形状の組合せであるという理由のみで容易に創作をし得たということはできない。
なお、本件意匠の実施に係る側溝用ブロックは、全国の当業者によって広く支持されており、このことは、本件意匠の創作的な価値を裏付けるものというべきである。
当裁判所の判断
1 甲第1号証記載の意匠に基づく容易創作性について (1) 本件意匠は、別添審決謄本写し別紙記載のとおり、全体形状を略倒コ字状の横長なものとし、その横長な正背壁の外壁面を中程から上方にかけて斜状に突出し、その上部を更に垂直に形成した基本的な構成態様とし、各部の具体的構成態様を、正背壁の内壁面は、下端両角を隅丸とし、内壁面の上端部分は、略「し」の字状に切り欠いて弧状面を呈する蓋受部とし、両側面には、開口縁に沿って蓋受部寄りまで略U字状の細い嵌合溝を形成し、全体の高さに対する側面幅及び横幅の比率を約1:1:2とし、正背壁の下端を細帯状に面取りし、両側面の下端もごく細く面取りした態様のものであると認められる。
そして、実開昭48-5550号(甲第9号証)の従来例として挙げられている第2図には、上記のような本件意匠の構成中、蓋受部を弧状面とする具体的構成態様以外の構成を充足するU字溝ブロックが示されていることにも照らすと、
本件意匠の要部は蓋受部を弧状面とした構成であるというべきである。
他方、甲第1号証の第2〜第6図には、蓋受部の形状を本件意匠の蓋受部とほぼ同一の弧状面とする構成を有する「排水桝」が記載されているところ、審決は、「排水桝」と「側溝用ブロック」とは、物品の機能、使用目的、使用態様が異なり、同一物品分野のものとはいえないから、甲第1号証記載の意匠に基づいて側溝用ブロックの蓋受部を弧状面とすることが容易であったとはいえないとし、原告はこの判断を争うので、以下検討する。
(2) 「排水桝」が、排水管や排水路の接合部に設けられた箱状ないし円筒形状の設備であること、「側溝」が、雨水等を排水するために道路等に沿って設けた小排水路であることは、昭和59年5月31日株式会社山海堂発行の「絵でみる下水道工事(第1刷)」(甲第10号証)及び弁論の全趣旨によって認められる。なお、「側溝用ブロック」と「雨水升」、「汚水升」は、意匠法施行規則別表1に定める意匠に係る物品の区分の上で、いずれも「60 土木構造物及び土木用品」の「上下水道用設備用品」に含まれるものである。
そして、上記甲第10号証によれば、側溝は排水桝に連結されて、その排水を排水桝を通じて下水道に流すのが一般的であると認められ、これによれば、側溝も排水桝も下水ないし排水設備に属する設備であり、連結されて一体的に使用され得るものであることが明らかである。取引の実情としても、株式会社サイコン工業ほか発行の上下水道設備の商品カタログ(甲第12号証の1〜4)には、側溝用ブロックとともに排水桝も掲載されており、また、平成12年1月5日財団法人経済調査会発行の「2000建設資材データベース」(甲第11号証)によれば、側溝を取り扱うメーカーの約30パーセントは排水桝を取り扱い、排水桝を取り扱うメーカーの約45パーセントは側溝を取り扱っていることが認められる。なお、上記甲第11号証は本件意匠の登録出願日後の発行に係るもの、甲第12号証の1〜4は発行時期不詳であるが、日進月歩する技術内容にわたる文献ではなく、一般的な業態を示すものであることからすると、本件意匠の登録出願当時(平成6年9月5日)の実情も大差ないものと推認することができる。
そうすると、「側溝用ブロック」と「排水桝」とは、意匠に係る物品分野を同じくするというべきである。
(3) 上記認定を前提にして、排水桝の蓋受部の弧状面の構成を側溝用ブロックに転用することが容易であったかどうかについて更に検討するに、側溝用ブロックと排水桝とは、いずれも本体が地面に埋設され、上面の開口部が蓋で覆われるという基本的な構成を共通にするものであるから、蓋受部の機能及び使用態様もほぼ共通するということができる。また、側溝用ブロックも排水桝も、ともにコンクリートが用いられることが多いことは公知の事実である。加えて、一般に、切り欠き部を直角状にすることなく、弧状面とする構成自体、意匠の構成としてごくありふれたものというべきであり、このことは、地下構造物用蓋構造に関する特願昭53-145347号公報(甲第6号証)の第3図、側溝用ブロックに関する登録第702006号意匠(前掲甲第24号証)及び登録第691342号意匠(前掲甲第25号証)に照らしても明らかである。したがって、この点からも、上記蓋受部の弧状面の構成を転用することを困難とする理由は見いだせない。
なお、被告は、本件意匠の実施に係る側溝用ブロックが全国の当業者に広く支持されている旨主張するが、意匠の容易創作性とは次元を異にするものであって、上記の判断を左右するものではない。
(4) 以上の認定判断を総合すれば、本件意匠の登録出願前に、排水桝の蓋受部を「し」の字状に切り欠いて弧状面を呈する構成は、側溝用ブロックの分野における当業者において広く知られた形状であったというべきであり、かつ、この形状に基づき、側溝用ブロックの蓋受部を弧状面として本件意匠の創作をすることは、当業者にとって容易であったというべきである。したがって、甲第1号証記載の意匠に基づく容易創作性を否定した審決の判断は誤りというべきである。
2 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告主張の審決取消事由は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利