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関連審決 審判1998-35651
関連ワード 物品 /  形状 /  意匠に係る物品 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  広く知られた /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  全体観察 /  登録意匠 /  類似範囲 /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 304号 審決取消請求事件
原告 【A】
訴訟代理人弁理士 亀井弘勝
同 稲岡耕作
同 川崎実夫
被告 ケージーパルテック株式会社代表者代表取締役 【B】
訴訟代理人弁護士 山上和則
同 西山宏昭
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/01/30
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第35651号事件について平成12年5月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする、
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、意匠に係る物品を「戸車用レール」とし、その形状を別紙審決書添付の別紙1(本件登録意匠)記載のとおりとする意匠登録第1015087号の意匠(平成7年8月10日出願、平成10年5月1日設定登録。以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。
被告は、平成10年12月18日、上記意匠登録の無効について審判を請求し、特許庁は、これを平成10年審判第35651号事件として審理した結果、平成12年5月30日、「登録第1015087号の登録を無効とする。」との審決をし、同年7月17日にその謄本を原告に送達した。
2 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本件意匠は、平成7年7月27日に特許庁が発行した意匠公報掲載の登録第930663号意匠(以下「引用意匠」という。その形状は別紙審決書の理由の写し添付の別紙2(引用意匠)のとおりである。)に類似するから、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができない、とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、1(本件意匠)、2(当審の通知した登録無効理由に引用した意匠)、3(当事者の意見)は認める。4(当審の判断)のうち、両意匠が意匠に係る物品において一致するとする部分、両意匠間に共通点(2)ないし同(4)及び差異点(1)ないし同(3)が存在するとする部分は認め、その余は争う。
1 取消事由1(本件意匠と引用意匠との対比に関する認定の誤り) (1) 共通点(1)について 審決は、本件意匠と引用意匠との形態を対比して、「(1)長手方向に連続する溝型鋼状レールの開口部両縁に外側に向かって水平に張り出すウイング状鍔を形成し、溝の両縁部に側壁の肉厚幅程度の傾斜面から成る戸車転動面を断面視左右対称的に形成し、鍔を除いた外側壁面の大部分に上方に向けて広がる断面視鋸歯状の突条を下端部を起点として左右対称的に数本等間隔に形成して成る全体の基本的構成態様。」(審決書2頁12行〜16行)において共通すると認定した。
しかし、審決の上記認定中、本件意匠が「断面視鋸歯状の突条」の形状を有するとした部分は、誤りである。なぜならば、本件意匠の鍔を除いた外側壁面には、突部によって段部が数段等間隔に形成されているとはいうものの、それは、決して、引用意匠におけるように断面視鋸歯状の突条といえるほど鋭いものではなく、「断面視鋸歯状の突条」の形状ということの許されるようなものではないからである。
(2) 差異点(4)について 審決は、本件意匠と引用意匠との形態を対比して、「(4)戸車転動面の傾斜角について、本件意匠の傾斜角は引用意匠に比べてやや緩やかであること。」(審決書2頁36行及び37行)において差異があると認定した。しかし、この認定は誤りである。
両意匠の戸車転動面の傾斜角を測定すると、本件意匠においては、15度であるのに対して、引用意匠においては37度であり、22度の差があり、この差は、本件意匠における上記傾斜角度をも越えている。この傾斜角度の差は、誰が見ても顕著な差として認識できるものであり、その差は、「やや緩やかな」という域をはるかに超えている。
(3) 差異点(5)について 審決は、本件意匠と引用意匠との形態を対比して、「(5)鍔を除く外側壁面の態様について、本件意匠においては、該部位全体に鋸歯状の突条をやや広いピッチで3本形成しているのに対し、引用意匠においては、該部位の下方寄りに鋸歯状の突条をやや狭いピッチで4本形成し、上端部に細幅の垂直面を設け、その中央に水平方向に切れ込む楔状の条溝を1本形成していること。」(審決書2頁38行〜3頁3行)において差異があると認定した。しかし、この認定は誤りである。
本件意匠には、前述のとおり「断面視鋸歯状の突条」の形状はなく、また、外側壁面の上方の形状においても両意匠に差異があるから、上記認定は、正しくは、「鍔を除く外側壁面の態様について、本件意匠においては鋸歯状の突条のように鋭くはない直角に近い3個の突部によって段部が広いピッチで三段に形成されているのに対して、引用意匠においては下方寄りに鋸歯状の鋭角な突条を狭いピッチで4本形成し、その上方部には山形の大きな突部を介して楔状の条溝を1本形成していること。」とすべきである。
(4) 差異点(6)ないし同(9)の看過 両意匠には、審決認定のもの以外にも、次の重要な差異点(差異点(6)ないし同(9))が存するのに、審決は、これらを看過している。
溝の最大幅に対する深さの比率について、本件意匠は約1.1:1であるのに対して、引用意匠においては約0.5:1である点(差異点(6)) 溝の態様について、側壁内側をえぐり取って内側壁面下部に形成した凹部の空間の溝空間全体に対する割合が、本件意匠では1/2を越えるのに対して、
引用意匠では1/10にも満たない点(差異点(7)) 側壁の厚さに対する底壁の厚さの比について、本件意匠では、側壁の下方部厚さと底壁の厚さとはほとんど変わらないのに対して、引用意匠では、側壁の厚さに比べて底壁がその約1/3と薄くなっている点(差異点(8)) ウイング状の鍔について、本件意匠では、先端が尖鋭でなく、丸みをおびているのに対して、引用意匠では、先端が尖鋭である点(差異点(9)) 2 取消事由2(類否判断の誤り) (1) 審決は、両意匠の共通点及び差異点について、「共通点(1)は、意匠全体の骨格を成すものであり、そこに共通点(2)〜(4)が加味されることによって、意匠の基調が形成されるとともに、両意匠間に強い類似性をもたらしているものと認められる。」(審決書3頁4行〜7行)と判断しているが、誤りである。
そもそも、仮に、両意匠が、共通点(1)ないし(4)という基本的構成態様(概要的要件)において共通しているとしても、そこから直ちに、両意匠の強い類似性を認定できるものではない。なぜなら、両意匠が類似するかどうかの認定は、
両意匠の具体的構成態様ともいうべき多くの差異点について、これを評価することによって初めて可能となる事柄であるからである。
(2) 審決は、「差異点(1)のレール本体部の幅に対する高さの比率及び、差異点(2)の溝の最小幅に対する深さの比率については、両意匠ともそれがこの種の物品において普遍化した範囲内の寸法比率であるとともに、共通点(4)の全体的な寸法比率における共通性に希釈されることを考慮すれば、それぞれの差異は両意匠の類否を左右するものとは成し得ない。」(審決書3頁8行〜12行)と判断しているが、誤りである。
まず、差異点(1)についてみると、レール本体部の幅に対する高さの比率が、本件意匠では約1:0.7であるのに対して、引用意匠では約1:1であるから、本件意匠は、引用意匠に比べ、幅広で安定感のある印象を与えている。
差異点(2)についてみると、溝の最小幅に対する深さの比率について、本件意匠においては約1:1.2であるのに対して、引用意匠では約1:2.5であるから、本件意匠は、引用意匠に比べて、非常に溝幅が広く、溝の深さについても非常に浅い印象を与えている。
さらに、差異点(6)についてみても、溝の最大幅に対する深さの比率について対比すると、本件意匠では約1:1.1であるのに対して、引用意匠では約0.5:1であるから、本件意匠は、引用意匠に比べて、溝幅が非常に広くて深さの点で浅い印象が強いものである。
以上によれば、本件意匠は、引用意匠に比べて、全体として幅広でどっしりとした安定感のあるレールの形状を一段と統一化して構成しているものであり、
レールとして一般化した範囲内の寸法比率ではなく、おおまかで漠然とした共通点(4)の寸法比率によって希釈される程度のものではない。
(3) 審決は、「差異点(3)の内側壁面の凹部の態様における差異については、
それが溝の内奥に位置する部位に係るものであるため、外観上は凹部の形態的な違いがさほど目立たず、寸法比率における違いを加味したとしても、その差異は共通点(3)の溝の態様における共通性を凌ぐものではない。」(審決書3頁13行〜16行)と判断しているが、誤りである。
戸車レールにおいて、最もよく形態上の意匠的特徴を視覚できるのは、平面視ではなくて、側面視であるから、レールの外観としての相違は、平面視におけるものより側面視におけるものの方が、ウェイトが大きい。したがって、凹部が溝の内奥に位置するとはいっても、その形態的相違は決して軽視できないものである。
そして、具体的にみて、差異点(3)及び(7)によれば、本件意匠では、凹部が非常に開いていて溝内に非常に大きな空間を形成しているのに対して、引用意匠では、凹部が極めて浅く、ごく小さな空間を溝内に占めているだけであり、この具体的な差異によれば、審決のいう溝の内壁面下部をえぐり取ったというだけの漠然とした認定に基づく判断が誤りであることは明らかである。
(4) 審決は、前述したとおり、両意匠における戸車転動面の傾斜角度の大きな差異を無視して、本件意匠のものが引用意匠のものに比べやや緩やかであるにすぎないとの、誤った認定をし、この誤った認定を前提として、「差異点(4)の戸車転勤面の傾斜角における差異については、その違いが僅かであって、視覚的効果における差異は微弱である。」(審決書3頁17行〜18行)と誤った判断をしている。
本件意匠においては、さほどその傾斜が目立たないのに対して、引用意匠では、明瞭で目立つ傾斜部分としての印象を溝上部において視認することができ、
本件意匠とは印象を明瞭に異なったものにしている。この差異を微弱ということはできない。
(5) 審決は、「差異点(5)の鍔を除く外側壁面の態様については、本件意匠の該部位の形状が典型的な抜け止めの形状であるため、本件意匠を特徴付けるものとは成し得ず、引用意匠の該部位の態様も広く知られたものであるため、技術的効果についてはさておき、視覚的効果における差異は微弱であって、共通点1における該部位の共通性を凌ぐものではない。」(審決書3頁19行〜23行)と判断しているが、誤りである。
本件意匠は、広いピッチによる3個の突部による三段の段部となっているだけの単純な外側壁面となっているのに対し、引用意匠においては、4本の突条と山形の突部及び1本の条溝とが混在したことにより鋭くて複雑化した外側壁面となっているので、外観上の印象に共通性はなく、共通点(1)における外側壁面の共通性をはるかに超えて具体的相違をもたらしている。
(6) 本件意匠の底壁は、差異点(8)に示されるとおり、分厚く頑丈な印象を視覚させるのに対して、引用意匠は底壁が薄くて弱々しい印象を視覚させているものである。しかも、本件意匠では、底壁上部の凹部の空間が下方に広がって大きいことにより、一層、底壁の安定感が視覚上強まるのに対して、引用意匠では、溝が細長いことや凹部が浅くて小さいことなどとも相まって底壁の弱体的印象が一層払拭し難いものになっていて、視覚的効果上、両意匠に顕著な相違をもたらしている。
したがって、両意匠の視覚的効果における差異が微弱であるとする審決の判断は、
誤りである。
また、本件意匠におけるウイング状鍔は、差異点(9)から明らかなように、
先端が尖鋭でなく厚くて丸みをおびたまろやかな印象を与えており、どっしりとした全体の印象を助長しているのに対して、引用意匠の鍔は、先端が尖鋭で非常にシャープな印象を与えており、細くて鋭い全体の印象を助長している点で、鍔について互いに異なった視覚的効果を生じている。
(7) 本件意匠は、全体的に、非常にどっしりとした安定感があるものであり、
これに、外側壁面の三段の段部を形成する3個の突部が直角に近く鋭角的でないことが、シャープではなく、ゆるやかでどっしりとしたレールの印象を一層助長しているものである。これに対して、引用意匠は、全体的に、本件意匠に比べ細高い印象が強く、外側壁面の4本の鋭角な鋸歯状の突条と山形の突部を介した楔状の条溝を有することにより、シャープで、スマートではあるが、華奢なレールの印象を与えているものである。
したがって、全体観察によって総合的に評価しても、本件意匠と引用意匠とは、類似しないことが明らかである。
(8) 被告は、戸車用レール材として、引用意匠のような形状のものは、本件意匠の登録出願前に存在しなかったと主張する。しかし、乙第2号証(1969年(昭和44年)株式会社木利屋発行のカタログ)に記載された、引用意匠に似たガイドレールは、引戸側に取り付けられて使用されるだけでなく、引戸側の転動体や滑動体に対応する下框や上框にガイドレールとして取り付けられもするものである。また、甲第9号証の1及び2(1980年(昭和55年)西ドイツ頒布の「Der Groβe Hfele」1980年版コラム)及び甲第10号証(1980年(昭和55年)西ドイツ頒布カタログ「TROLA technic」)によれば、引用意匠が登録出願される前から、引用意匠に似た戸車用レール材が多数公知になっていたことが明らかである。したがって、引用意匠の類似範囲は、決して、被告のいうように広いものではない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(本件意匠と引用意匠との対比に関する認定の誤り)について (1) 原告は、本件意匠が「断面視鋸歯状の突条」の形状を有するとした点で、
本件意匠と引用意匠の共通点についての審決の認定に誤りがあるという。しかし、
本件意匠には、引用意匠のように鋭くはないにしても、「断面視鋸歯状の突条」があることは事実であり、両意匠はこの点で共通するのであるから、審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は、戸車転動面の傾斜角の点で差異点(4)についての審決の認定を非難している。しかし、両意匠の戸車転動面には、それが緩やかであろうとなかろうと、とにかく傾斜があることに間違いはない。したがって、両者に傾斜を認めたうえ、それら傾斜の程度に差異のあることも認めた審決の認定に、誤りはない。
(3) 原告は、外側壁面の態様に関し差異点(5)についての審決の認定を非難している。しかし、本件意匠の外側壁面は、先端が鋭くなく、また、数が少ないにしても、断面視鋸歯状の突条がある点で引用意匠の外側壁面と共通するものであるから、審決の認定に誤りはない。
(4) 原告は、審決認定の差異点とは別に、新たに差異点(6)ないし同(9)を掲げ、溝の最大幅に対する深さの比率の違い、側壁内側をえぐり取って内側壁面下部に形成した凹部の空間の溝空間全体に対する割合の違い、側壁の厚さに対する底壁の厚さの比の違い、ウイング状の鍔の形状の違いを主張する。しかし、これらの差異点は、引用意匠の出願前に、引用意匠に似た戸車用レール材、すなわち、傾斜した戸車転動面を有する戸車用レール材が公知になっていた場合の論法で、引用意匠のように従来にない斬新な意匠の場合は、あくまでも、意匠全体の基本的構成態様に基づき類否を判断しなければならないものであるから、原告が新たな差異点(6)ないし同(9)として主張する比率の違いや形状の違い等の極めて微細な差異を述べても無意味である。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について (1) 原告は、両意匠の共通点及び差異点に基づく類否判断について、審決の誤りを縷々述べている。しかし、いずれも、前述したような微細な共通点の違いや差異点を指摘するだけであり、これらは審決を誤りとするだけの根拠とはなり得ない。
(2) 原告は、両意匠の全体的な対比について縷々述べている。しかし、これらの主張は、意匠全体の基本的構成態様に基づき類否を判断しなければならないとの原則を忘れ、前述したような微細な共通点の違いや差異点を指摘するだけのものであって、審決の認定を覆すだけの根拠とならない。
(3) 引用意匠のような形状のものは、戸車用レール材として、本件意匠の登録出願前に存在しなかったのであり、このように、傾斜した戸車転動面を有し、かつ、脱輪防止機能を有する形状の引用意匠は、その独創性が極めて高く、斬新な意匠であると評価できるものであるから、その類似範囲は、極めて広いものであるということができる。
乙第2号証に記載されたガイドレールは、引戸側に取り付けられて使用されるだけであり、甲第9号証の1及び甲第10号証に記載されたものは、戸車転動面が溝の底となっている点で、引用意匠とは機能の面で相違するものである。つまり、中央の溝の上に左右対称の傾斜した戸車転勤面を有し、かつ、戸車の中央膨出部が溝に嵌合して脱輸防止機能を奏し得る戸車用レール材は、引用意匠において初めて開示された、極めて独創性の高い戸車用レール材なのである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件意匠と引用意匠との対比に関する認定の誤り)について (1) 本件意匠と引用意匠とが、いずれも、意匠に係る物品を「戸車用レール」とするものであることは、当事者間に争いがない。
また、両意匠が、
鍔の態様について、鍔の基本形を平板状とし、外側端部上隅を丸面に形成している点(共通点(2)) 溝の態様について、溝両縁部の傾斜面(戸車転動面)に続く内側壁面に垂直面を設け、さらに溝底部両隅を水平方向にえぐり取って内側壁面下部に凹部を形成することにより、断面視略リベット頭状の溝空間を形成している点(共通点(3)) レールの全幅を全高の2倍前後としている点(共通点(4)) で共通しており、他方、
鍔を除いたレール本体部の幅に対する高さの比率について、本件意匠においては、約1:0.7であるのに対し、引用意匠においては、約1:1である点(差異点(1)) 溝の最小幅に対する深さ比率について、本件意匠においては、約1:1.2であるのに対し、引用意匠においては、約1:2.5である点(差異点(2)) 溝底部両隅における内側壁面の凹部の態様について、本件意匠においては、該部の高さを溝の深さの約1/2とし、該部の下隅部を断面視1/4円弧状の曲面に、天井部を傾斜面にしているのに対し、引用意匠においては、該部の高さを溝の深さの約1/7とし、該部を断面視1/2円弧状の曲面としている点(差異点(3)) で差異があることも、当事者間に争いがない。
(2) 別紙審決書の理由の写しの別紙1(本件登録意匠)及び別紙2(引用意匠)を検討すると、両意匠が、審決認定の共通点(1)、すなわち、長手方向に連続する溝型鋼状レールの開口部両縁に外側に向かって水平に張り出すウイング状鍔を形成し、溝の両縁部に側壁の肉厚幅程度の傾斜面から成る戸車転動面を断面視左右対称的に形成し、鍔を除いた外側壁面の大部分に上方に向けて広がる断面視鋸歯状の突条を下端部を起点として左右対称に数本等間隔に形成して成る全体の基本的構成態様である点で共通していることを優に認めることができる。
この点について、原告は、本件意匠の鍔を除いた外側壁面にある「突部」が、引用意匠のように鋭くないから、これを、審決が「断面視鋸歯状の突条」と認定したのは誤りであると主張する。
しかしながら、審決書をよく読めば、審決は、原告のいう「突部」が本件意匠においては引用意匠におけるように鋭くないことを認めながら(差異点(5)の認定参照)、しかし、鋭かろうが鋭くなかろうが、いずれにせよ、それは、「断面視鋸歯状の突条」という表現によって示され得る範囲に属するとの前提の下に、本件意匠についても「断面視鋸歯状の突条」の形状と認定したことが明らかである。そして、本件意匠の「突部」が「断面視鋸歯状の突条」の表現によって示すことの許容される範囲に属することは明らかである。したがって、審決の上記認定に誤りはない。原告は、「断面視鋸歯状の突条」の用語によって示され得る範囲を不当に狭く限定して理解し、その結果、審決の認定した内容を誤解し、これに基づき独自の主張をしているものであって、失当である。
(3) 別紙審決書の理由の写しの別紙1(本件登録意匠)及び別紙2(引用意匠)を検討すると、両意匠の差異点(4)及び同(5)、すなわち、戸車転動面の傾斜角について、本件意匠の傾斜角は引用意匠に比べて緩やかである点(差異点(4))、鍔を除く外側壁面の態様について、本件意匠においては、該部位全体に鋸歯状の突条を広いピッチで3本形成しているのに対し、引用意匠においては、該部位の下方寄りに鋸歯状の突条を狭いピッチで4本形成し、上端部に細幅の垂直面を設け、その中央に水平方向に切れ込む楔状の条溝を1本形成している点(差異点(5))を優に認めることができる。
原告は、差異点(4)について、戸車転動面の傾斜角が、本件意匠は15度であるのに対して、引用意匠は37度であり、22度の差があることをとらえ、審決が「やや緩やか」と認定したことを非難する。
しかしながら、審決が、原告主張の差異を把握したうえ、これを「やや緩やか」と認定したことは、審決書の記載自体から明らかである。そして、上記差異が「やや緩やか」の表現によって示すことの許容される範囲に属することは明らかである。
原告は、審決のいう「やや緩やか」によって示され得る範囲を不当に狭く限定して理解し、その結果、審決の認定した内容を誤解し、これに基づき独自の主張をしているものであって、失当である。
また、原告は、本件意匠には「断面視鋸歯状の突条」の形状はなく、また、外側壁面の上方の形状も両意匠に差異があるとして、審決の差異点(5)の認定を非難する。
しかし、本件意匠に「断面視鋸歯状の突条」の語によって示すことが許容される範囲の形状があることは前記のとおりであり、また、上記のとおり、審決は、鍔を除く外側壁面の上端部に「細幅の垂直面を設け、その中央に水平方向に切れ込む楔状の条溝を1本形成している」と認定して、引用意匠と差異があるとしているのである。原告の主張は、失当である。
(4) 原告は、審決は、両意匠の比較上、重要な差異点(原告主張の差異点(6)〜(9))を看過している旨主張する。
しかしながら、原告主張の差異点(6)及び同(7)は、審決認定の差異点(1)ないし(3)を視点を変えて表したにすぎないといい得る範囲内のものであり、これらを、類否判断に当たり、審決認定以外のものに加えるべき新たな差異点として追加する必要までのある事項とすることはできない。
原告主張の差異点(8)及び同(9)は、必ずしも、審決が直接的に認定しているとはいえないものの、後記のとおり、類否判断において検討の対象となり得ない程度の些細な事項にすぎないものと認められるから、差異点として取り上げるまでもない事柄というべきである。
2 取消事由2(類否判断の誤り)について (1) 本件意匠と引用意匠とは、いずれも、その基本的構成態様は、前記のとおり、「(1)長手方向に連続する溝型鋼状レールの開口部両縁に外側に向かって水平に張り出すウイング状鍔を形成し、溝の両縁部に側壁の肉厚幅程度の傾斜面から成る戸車転動面を断面視左右対称的に形成し、鍔を除いた外側壁面の大部分に上方に向けて広がる断面視鋸歯状の突条を下端部を起点として左右対称的に数本等間隔に形成して成る」という形状(共通点(1)の形状)であり、これを有することにより、全体としてまとまった意匠を形成し、見る者に視覚を通じて一つの美感を与えていると認められる。
しかも、両意匠は、具体的構成態様においても、「(2)鍔の態様について、
鍔の基本形を平板状とし、外側端部上隅を丸面に形成していること。(3)溝の態様について、溝両縁部の傾斜面(戸車転動面)に続く内側壁面に垂直面を設け、さらに溝底部両隅を水平方向に抉り取って内側壁面下部に凹部を形成することにより、断面視略リベット頭状の溝空間を形成していること。(4)レールの全幅を全高の2倍前後としていること。」で共通の形状となっていることからすれば、上記共通の形状の範囲内で具体的形状に差異があるとしても、その差異によって見る者に相異なった特別な美感を与える要素が付加されない限り、意匠登録の可否の基準としての類似の範囲内にとどまるものというべきである。
(2) 原告は、共通点(1)ないし(4)から直ちに、強い類似性を認定できるものではなく、具体的構成態様における差異点を評価することによって初めて類否判断は可能になる旨主張する。
しかしながら、審決は、上記と同様の論理により、類否判断をしているのであって、決して、差異点を評価に入れることを怠っているわけではないことは、
審決書の記載自体から明らかである。原告の主張は、審決の論理の誤解に基づくものというべきであり、失当である。
(3) 具体的形状の差異によって見る者に相異なった特別な美感を与える要素が付加されるかどうかについて検討する。
(イ) 本件意匠と引用意匠とを比較すると、差異点(1)及び同(2)が認められること、すなわち、鍔を除いたレール本体部の幅に対する高さの比率及び溝の最小幅に対する深さの比率に差異があることは、前記のとおりである。
しかしながら、引用意匠の形状を前提に、鍔を除いたレール本体部の幅に対する高さの比率及び溝の最小幅に対する深さの比率を適宜変えることは造作もないことというべきであり、そこによほど特異な要素が見出せない限り、これを意匠登録の根拠となるべき新たな意匠的特徴とみる余地はないものというべきである。本件意匠にそのような特異な要素を認めることはできない。本件意匠が、引用意匠に比べて上記の点で差異があったからといって、格別に見る者の注意を引き付け、見る者に特別な美感を与えるものとはいい難い。
(ロ) また、両意匠を比較すると、差異点(5)、すなわち、鍔を除く外側壁面の態様について、鋸歯状の突条のピッチの数及びこの突条の上端部の形状に差異があることも、前記のとおりである。
しかしながら、両意匠の外側壁面は、いずれも、抜け止めのための形状であり、突条が3個か4個か、鍔の近くに原告のいう山形の突部があることによって、見る者の注意を特に引き付けるほどの新たな意匠的な特徴が加わるものとはいえず、そこに格別特異な要素を見出すことはできない。
この点について、原告は、本件意匠は、広いピッチによる3個の突部による三段の段部となっているだけの単純な外側壁面となっているのに対し、引用意匠においては、4本の突条と山形の突部及び1本の条溝とが混在したことにより鋭くて複雑化した外側壁面となっているので、外観上の印象に共通性はない旨主張するが、上述したところに照らし、採用できないことが明らかである。
(ハ) その他、両意匠には、溝の側壁部の高さと溝の深さの比率及び溝の側壁部の高さと凹部の高さの比率に差異があること(差異点(3))、戸車転動面の傾斜角に差異があること(差異点(4))、鋸歯状の突条のピッチの数とこの突条の上端部の形状に差異があること(差異点(5))も、前記のとおりである。しかしながら、これらの差異は、いずれも、引用意匠の形状を前提に適宜変えることが造作もないことであり、そこには、格別特異な要素を見出すことはできない。
(ニ) 原告は、審決の認定とは別に指摘する差異点(8)によって、本件意匠につき、分厚く頑丈な印象を視覚させるとか、底壁の安定感が視覚上強まるので引用意匠と差異があるとか、あるいは、審決の認定とは別に指摘する差異点(9)によって、本件意匠につき、どっしりとした全体の印象を助長しているので引用意匠と差異があるとかといった趣旨の主張をしている。しかし、差異点(8)は、両意匠の側壁に対する底壁の比率に差異があるというにすぎないものであり、差異点(9)は、ウイング状の鍔の先端の形状が尖鋭であるかどうかに差異があるというにすぎないものであって、上記したところに照らせば、到底、上記特異な要素となり得ない事柄というべきである。 上記主張は、採用することができない。
(ホ) 原告は、全体観察において、本件意匠は、引用意匠に比べ、全体として幅広でどっしりとした安定感のあるレール形態を一段と統一化して構成しているものであり、レールとして当然に一般化した範囲内の寸法比率ではなく、おおまかで漠然とした共通点(4)の寸法比率によって希釈される程度のものではない旨主張する。
しかし、たとい、本件意匠の形態が、原告主張のとおり、「全体として幅広でどっしりとした安定感のあるレール形態」であるとしても、これをもって、
前記特異な要素とすることができないことは、上述したところに照らし、明らかというべきである。
(4) 以上によれば、本件意匠は、引用意匠における類似の範囲内にとどまるものである。
3 そうすると、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他、審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵が見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充