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関連審決 審判1998-12564
関連ワード 意匠の創作 /  物品 /  形状 /  機能美 /  意匠に係る物品 /  意匠公報に掲載 /  一意匠一出願(7条) /  3条1項3号 /  意匠の類似 /  意匠の類否 /  全体観察 /  差止請求(差止) /  類似性(類否判断) / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 58号 審決取消請求事件
原告 ピーアイ−デザインアクチェンゲゼルシャフト 代表者 【A】
訴訟代理人弁理士 【B】
被告 特許庁長官【C】
指定代理人 【D】
同 【E】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/10/24
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第12564号事件について平成11年10月4日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成8年8月9日、意匠に係る物品を「ティーポット」とする別紙審決書の理由の写しの別紙第一表示の意匠(以下「本願意匠」という)について意匠登録出願をしたが、拒絶査定(平成10年5月15日付け発送)を受けたので、
同年8月13日に、拒絶査定不服の審判の請求をした。特許庁は、同請求を平成10年審判第12564号事件として審理した結果、平成11年10月4日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月18日に原告に送達された。
2 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本願意匠は、別紙審決書の理由の写しの別紙第二表示の意匠(平成6年4月18日特許庁受入れの米国特許庁発行「OFFICIAL GAZETTE」557頁に所載されているNo.343759のティーポットの意匠(日本国特許庁意匠課公知資料番号第HH07024322号、甲第4号証参照)。以下「引用意匠」という。同意匠は、本願意匠と創作者が同一である。)と対比すると、意匠に係る物品において一致し、形態についても、意匠全体として類似しているから、意匠法3条1項3号に該当し、意匠登録を受けることができない、とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願意匠及び引用意匠の物品及び形態に関する記載、両意匠の意匠に係る物品が一致するとの部分(審決書2頁2行〜18行)は認める。両意匠の一致点について、基本的構成態様のうち、「胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手部を取り付け」(同2頁末行〜3頁2行)た点で共通するとの記載は争い、その余は認める。具体的構成態様のうち、「開口部に小さい「V」状の注ぎ口を設け」(同3頁5行〜6行)た点で共通するとの記載は争い、その余は認める。
両意匠の差異点についての記載は認める。両意匠の類否の判断は争う。
審決は、本願意匠と引用意匠との一致点・差異点の認定を誤り(取消事由1)、両意匠の類否の判断を誤り(取消事由2)、また、意匠保護に関する国際的な調和の観点を軽視し(取消事由3)、その結果、本願意匠は意匠法3条1項3号に該当するとの誤った結論に導いたものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願意匠と引用意匠との一致点・差異点の認定の誤り) (1) 取手部の差異 審決は、本願意匠と引用意匠とを比較して、基本的構成態様において「胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手部を取り付け」(審決書2頁20行〜3頁2行)との点で共通すると認定したが、誤っている。
本願意匠と引用意匠とは、基本的構成態様における取手部につき、前者では、不透明な取手と取手台部とからなるもので、取手台部がポット部の胴部に接着により取り付けられて、胴部と一体の取手部が形成されているのに対し、後者では、透明なポット部の胴部における上下方向に間隔をおいて2点で取り付けられ、
胴部と一体の透明な取手であるという差異を有するから、取手部について、需要者により、基本的構成態様を同一にしているものとして観察されるものではない。
ティーポットにおいては、紅茶をティーカップに注ぎ入れる際の注ぎやすさの点も機能上要求され、この要求に応じるための意匠構成がポット部の形状以上に重要視される要素になり、基本的構成態様の一要素を構成するものである。したがって、本願意匠に係る物品(以下「本件物品」という。)において、取手の意匠の態様は、茶葉と湯を入れるポット部と同様に、全体構成上、重要な要素を占めるものである。
(2) 注ぎ口の差異 審決は、本願意匠と引用意匠とを比較して、基本的構成態様において「開口部に小さい「V」状の注ぎ口を設け、」(審決書3頁5行〜6行)との点で共通すると認定したが、誤っている。
本願意匠の注ぎ口は、左右側面からみて、注ぎ口の上縁がポット部の開口部上縁からわずかな下向き角度をもってほぼ直線に伸び、注ぎ口の先端に達しているものであり、注ぎ口の水切りの点を改良した形状になっている。これに対し、引用意匠にあっては、注ぎ口上縁を湾曲させ、丸いポット部の胴部の曲率に合わせる形態を採用し、注ぎ口先端が下にだれる形状のものである。したがって、引用意匠は、注ぎ口の水切りの点で、本願意匠のような機能を発揮できないものである。要するに、注ぎ口の形状は、本願意匠では、水切りのよさを打ち出した形状であるのに対し、引用意匠では、水切りの善し悪しよりもポット部の形態に調和させることを狙ったものであり、このような差異がある両意匠の注ぎ口の点を差異点に掲げなかったのは、審決の誤りである。
(3) 茶漉し部の差異 審決は、「茶漉し部の差異は、側面から見て感得しうる程度の差異であって、意匠全体からみれば、ポット部本体の特徴ある態様に埋没してしまう程度の差異であり類否判断に影響を与えるほどの差異とはいえない。」(審決書4頁15行〜19行)として、茶漉し部の差異を、差異として認定しなかったが、誤っている。
茶漉し部の差異が、濾過部材の変更という点で意匠的に変化があるにせよ、意匠創作のポイントからはやや外れていることは否定しない。しかし、茶漉し部全体の形状においては、本願意匠は、極めて特異な形態を有しているものである。すなわち、引用意匠の茶漉し部の下部に設けた袴部分が上部と違って不透明であるのに対し、本願意匠の茶漉し部は、茶漉し部の下部に設けた袴部分も透明であり、これによって茶漉し部全体の内部が透視できる形態になっている(正面図を見れば明らかなとおり、茶漉し部越しに取手部が視覚に入る)。
審決は、茶漉し部の下部に設けた袴部分の透明不透明の差異を看過する誤りを犯すものである。
2 取消事由2(類否の判断の誤り) (1) 全体観察 (イ) 審決は、「両意匠において共通するとした態様は、両意匠の形態全体の基調を決定づけ、形態上の特徴を表すものであるので、これらの態様が相俟って意匠的なまとまりと特徴を形成しているので類否判断を左右する要部をなすものである。」(審決書4頁5行〜10行)と判断したが、誤っている。
審決が両意匠に共通するとした取手部の基本的構成態様及び具体的構成態様、注ぎ口、茶漉し部の具体的構成態様は、本願意匠と引用意匠の類否判断を左右する要部をなすものであるから、これらにおける差異は、軽微なものとして排斥されるべきではない。
(ロ) 本件物品は、「ティーポット」であり、特にプランジャーと押し部材を備えた茶漉しで紅茶の茶葉の香りがほどよく醸し出された風味豊かな紅茶が味わえるようにしたティーポットである。この種のティーポットは、通常の陶器、金属製などのティーポットとは異なり、紅茶の香り、風味を楽しむ特別な紅茶愛好者、
紅茶通に愛用されるものであって、紅茶の味を生かすティーポットの機能、ひいては意匠にそれなりの見識の高い人達が多いのである。そうだとすると、本件物品における意匠の審美性、創作性の判断については、本件物品の需要者の審美眼に立脚しての判断が必要となるものであり、この点につき、審決の配慮には足らざるところがあったというべきである。
(ハ) 本願意匠は、国際的に活躍している創作者の手によるものであり、この点をも勘案すれば、本願意匠と引用意匠において、ポット部の態様に共通するところがあったとしても、上述した意匠要部の明確な差異が必ずや視覚上識別されるものである。本願意匠は、引用意匠を凌駕する改良された意匠形態であると認められるべきものである。本願意匠が引用意匠の形態に埋没して創作性を喪失しているとの審決の判断は、本願意匠が引用意匠の創作者とは無縁の者の手によるデッドコピーならいざ知らず、本願意匠に対する創作者の創作アイデア、創作の力点を軽視又は無視した不当な判断というべきである。
(2) 取手部の類否 審決は、「取手部の態様の差異は、取手部分の形状、及び胴部への取付位置が共通している両意匠の特徴ある態様に包摂されてしまう軽微な差異であって類否判断を左右するほどの差異とはなり得ない。」(審決書4頁11行〜15行)と判断したが、誤っている。
(イ) 本願意匠の取手部は、上記のとおりの構成であるから、平面、背面及び斜視方向から見たときは、かなりの幅寸法をもち、一方、左右側面から見たときは、幅寸法に較べれば薄いものと感じられるものであり、このような幅寸法と厚さ寸法との兼ね合いで、握りやすい取手であることが把握できる構成となっている。
(ロ) また、本願意匠の取手部は、ポット部が透明なガラス素材からなるのに対し、不透明(黒色)なプラスチック素材からなり、不透明な蓋部分との調和をも保ってポット全体における取手部の存在感が強調され、ポット部の形態に埋没することなく、ティーポットの実際の使用に当たり重要な持ちやすさ、注ぎやすさを視覚に訴えることができる意匠形状になっているものである。
(ハ) さらに、本願意匠の取手部においては、取手台部を有し、この取手台部が帯状になってポット部の胴部中央から上下方向にわたり接合取付けされているので、ポット部を安定して持つことができ、紅茶をティーカップに注ぎ入れる動作に無理がなく、しかも熱い紅茶が入ったポット部に取手を握った指部分が取手台部に触れることがあっても、熱くなっているポット部の胴部に対しては取手台部の存在で触れるおそれがなく、注ぎ入れ動作時において熱いと感じる不安感をなくすことができる点(取手台部は、ガラス素材よりも断熱性に富む。)を、視覚的に感じることができる。
これに対し、引用意匠の取手は、ポット部の胴部に直付けであり、取手を握る指部分が熱いポット部の胴部に触れるおそれがあるから、注ぎ入れ動作に関する不安感を与えてしまい、取手端部の直付けにより取付構造に脆弱な感じを与え、本願意匠の取手部に見られる安定感、存在感、堅牢性、使い勝手の良さという機能上の要請からの意匠形態を欠如するものである。
その他、引用意匠では、取手自体が直接胴部に取り付けられているから、ポット部との一体性が増し、両者の素材の調和(透明ガラス対透明ガラス)を活かす意匠となるもので、この取手によるポット部との調和一体性の点が、引用意匠における重要な意匠要部の一つとなるものである。
(ニ) 本願意匠の取手部の態様は、ポット部と調和し、ポット部の態様を更に意匠的に洗練されたものとして、全体の意匠態様を機能美溢れるものとした点に特色があり、これがゆえにこそ、本願意匠の取手部の態様は、引用意匠のそれと比較して価値ある独自のものと認められるのである。
この点についての、乙第1号証ないし乙第3号証を根拠とする被告の反論は、当を得ないものである。乙第1号証(昭和59年3月28日発行の登録第621385号の意匠公報)に掲載された意匠は、醤油差しに関するものであるから論外であり、乙第2号証(平成2年9月7日特許庁受入れのカタログ「ラブリー」71頁のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HC02032489号))に掲載された意匠は、陶器の全体が一体物で参考にならず、乙第3号証(平成2年9月7日特許庁受け入れのカタログ「NEW YORK SESSION」19頁掲載のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HC02031248号))に掲載された意匠は、取手台部が存在するにしても、ありふれた形態のものでない点、本願意匠におけるように透明なポット部に対し存在感を強調する意匠的配慮がなされていない点で差異があり、取手部において、本願意匠と類似するとはいえないものである。
(2) 茶漉し部の類否 審決は、「茶漉し部の差異は、側面から見て感得しうる程度の差異であって、意匠全体からみれば、ポット部本体の特徴ある態様に埋没してしまう程度の差異であり類否判断に影響を与えるほどの差異とはいえない。」(審決書4頁15行〜19行)と判断したが、誤っている。
(イ) 本願意匠の茶漉し部は、前記のとおり、茶漉し部の下部に設けた袴部分も透明のものとしたことにより、茶漉し部全体の内部が透視できるので、茶漉し部に入れられた紅茶の茶葉の量、沈降の具合、茶葉の色合いの程度など、紅茶の味わいに関係する要素を茶漉し部全体の内部を透視することによって視認でき、さらに透明なポット部との調和を持つことを視覚に訴えるようになっている。これに対し、引用意匠のものは、従来のものと同じく茶漉し部の下部に高さを持つ不透明な袴部分を設け、茶漉し部全体の内部が茶漉し部分を除いては透視できない形態になっている。
したがって、茶漉し部下部内部が透視できない形態では、本願意匠の茶漉し部のような形態に伴う機能に欠け、透明なポット部との関係で違和感を与える存在になっている。
(ロ) 被告は、乙第4号証(平成2年10月22日特許庁受入れのカタログ「BELLE MAISON 生活館1990 秋号」87頁のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HC02049112号))、乙第5号証(平成5年9月22日特許庁受入れのカタログ「TABLEWARE INTERNATIONAL」8号23巻39頁のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HB05036258号))及び乙第6号証(平成5年3月31日特許庁受入のカタログ「1993年岩城硝子全商品カタログ」第50頁のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HC05014092号))を提出し、本願意匠の茶漉し部のような形態のものは、
本願出願前からみられるとし、本願意匠独自のものとはいえず、格別の特徴とはなりえない旨主張する。
しかし、本願意匠の茶漉し部は、前記のとおり、引用意匠と同じくプランジャーと押し部材を備えた茶漉し部であり、前記乙各号証における茶漉し部とは、機能的にも意匠的にも異なることが一見して明らかであり、被告が提出した前記乙各号証は、本願意匠の茶漉し部に相当するものが本願出願前には存在していなかった証左ともなり、本願意匠の茶漉し部は、本願独自のものとして、引用意匠との類否判断の一つの大きな要素になるものである。
3 取消事由3(意匠保護に関する国際的な調和の観点の軽視) 本願意匠に相当する意匠は、アメリカ合衆国において、引用意匠(アメリカ合衆国意匠特許第343,759号公報)との差異が認められて、既に意匠登録を受けているものである(アメリカ合衆国意匠特許第415,648号、特許日1999年10月26日)。そして、引用意匠に相当する意匠は、意匠登録第871993号(甲第3号証)として日本に登録されているのである。このように、アメリカ合衆国において本願意匠に相当する意匠が意匠特許として成立した事実が我が国の意匠保護になんらの影響をも与えないとすることは、知的財産権の保護についての国際的な調和(ハーモナイゼーション)の見地からみれば、到底首肯できないものである。アメリカ合衆国において手厚く保護されているにもかかわらず、我が国にあって、本願意匠を引用意匠と同一視し、その意匠保護を否定することは、デッドコピーの出現を容認するものであり、意匠の国際的保護の観点からすれば、背筋が寒くなる感が否めないものである。本願意匠は、国際的意匠保護の見地からも、
独自性、創作性が認められ、意匠登録が許されてしかるべきである。
日本とアメリカ合衆国とでは、法律体系等が相違することは事実である。しかし、本件物品のように起源が西欧に求められ、また、同種の輸入製品が日本国内に活発に流通する現状の下では、当該物品についての意匠の創作性の判断は、洋の東西、法律体系のいかんを問わず、感性を同じくし、できる限り同一レベルであるべきであり、本願意匠についても同様の考察がなされてしかるべきである。
被告の反論の要点
審決の認定判断はいずれも正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本願意匠と引用意匠との一致点・差異点の認定の誤り)について (1) 取手部の差異について 原告のいう本願意匠の取手台部は、単に本体の球面そのままをなぞって設けられているにすぎないのであり、審決においても、取手台部について「胴部取付具」と認定し、胴部への取り付け方法の差異点として認定しているところである。
したがって、原告主張の取手の取り付け方法の技術的な意味合いはさておき、両意匠に共通する全体の基本的構成態様として、審決が「胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手部を取り付け」と認定したことに誤りはない。
(2) 注ぎ口の差異について 本願意匠については、平面図から明らかなようにV状を呈しており、引用意匠においても、注ぎ口の側面形状の先端部は下降しており、注ぎ口における水切りという必要不可欠な機能を前提とすれば、当然に上方から下方に徐々にすぼまっていると考えるのが自然であるから、上方からの形状は、本願意匠と同様、V状となる。したがって、審決が「開口部に小さい「V」状の注ぎ口を設け」とした点に格別の違法はない。
原告は、本願意匠は、引用意匠のポット部の形態に調和させることを狙ったものを、注ぎ口の水切りの点を改良した形状とした点に特徴がある旨主張している。しかし、主として注ぎ口上縁が直線状に傾斜しているか湾曲状に傾斜しているかの差異であって、限られた部位における部分的な差異にとどまり、ポット部の特徴ある態様に埋没してしまう程度のもので類否判断を左右するほどのものではないから、差異点として挙げるまでのないものである。
差異点は、両意匠の類否判断に必要な範囲で認定すれば足り、殊更に細部のものや類否判断を左右するに至らないものまで認定する必要のないものである。
本件についてみれば、注ぎ口の角度の差異は、意匠全体を観察する場合は、ごく部分的なものにとどまり、水切りを考慮するという必要不可欠な機能を満たすべく選択されたものであって、他の共通する態様に包摂されてしまう程度の、小さなものであるから、両意匠の類否判断を左右するほどのものとはいえない。
(3) 茶漉し部の差異について 茶漉し部の下方1/3の透明不透明は、外側から透けて見える内部にある略円筒形状の茶漉し部の下方の一部分についての差異にすぎず、透明不透明のいずれであるかにかかわらず形状が共通しているから、両意匠の類否判断を左右するほどの差異とはいえない。
2 取消事由2(類否の判断の誤り)について (1) 全体観察について (イ) 原告は、取手部の基本的構成態様及び具体的構成態様、注ぎ口、茶漉し部の具体的構成態様は、本願意匠と引用意匠の類否判断を左右する要部をなすものであるから、これらにおける差異は、軽微なものとして排斥されるべきではない旨主張する。
しかし、原告の主張する部分のみで本願意匠及び引用意匠の主要部が構成されているとは考えられない。両意匠の大きな部分を占める球体状の胴部、全体の球体感を印象づける円形状の蓋部及び小球状のつまみ等の態様が、看者の目を強く引き、両意匠の基調を形成する要部に係るものであるのに対し、原告の挙げる各点は未だ細部のものにすぎない。原告の主張は失当である。
(ロ) 原告は、本願意匠や引用意匠のようなティーポットは、紅茶の香り、
風味を楽しむ特別な紅茶愛好者、紅茶通に愛用されるものであって、ティーポットの機能ならびに意匠にもそれなりの見識の高い人々が多いなどと主張し、その理由として、風味豊かな紅茶が味わえるようにしたティーポットであること、この種のティーポットは、通常の陶器、金属製などのティーポットとは異なることを挙げている。
しかし、原告主張の事由をもって、本願意匠の需要者に原告主張のような人々が多いことを裏付ける根拠とすることはできないというべきであり、原告の主張は、その前提において誤っている。
(ハ) 原告主張のとおり、本願意匠と引用意匠とが、同一人の創作に係る意匠であるとすれば、両意匠が、その改良した機能はさておき、その形態上の特徴点を共通にしている関係にあることも、ごく自然に理解できることである。
原告は、審決の判断は、本願意匠に対する創作者の創作アイデア、創作の力点を軽視又は無視したものであると非難する。しかし、審決は、本願意匠及び引用意匠が他に類のない創作性の高い意匠であることを否定するものではなく、むしろ、本願意匠が、独自の特徴を共に有するがゆえに、先行する創作性の高い引用意匠の類似の範囲内にあると結論づけたのである。
(2) 取手部の類否について (イ) 取手台部の形状は、格別のものでなく、また、取手と取手台部からなる構成のものは、本願出願前からみられるものであり(例えば乙第1号証ないし乙第3号証)、本願意匠独自のものとはいえず、格別の特徴とはなり得ない。
(ロ) 原告は、本願意匠の取手部は、不透明な(黒色)プラスチック素材からなることにより、持ちやすさ、注ぎやすさを視覚に訴えることができること、存在感が強調されることなどを主張する。しかし、不透明な素材を使用することにより、直ちに、持ちやすさ、注ぎやすさや存在感が強調されるとはいい難く、むしろ不透明な素材を使用することによってその形態がよりくっきりと強調されることになるのであるから、両意匠の形態上の共通感が一層際立つこととなるのである。
また、取手の透明不透明の差異は、この種物品で普通に使用されるガラス、陶器又はプラスチックの中からいずれかの材質を選択したことを意味するだけのものにすぎず、両意匠において全体を球体状に形成したというポット本体の特徴ある態様が圧倒的であることと対比するとき、上記材質の選択が類否判断を左右するほどのものとは認められない。
(ハ) 原告は、取手台部があることによる作用効果を主張している。しかし、原告主張の作用効果は、ひっきょう取手台部の有無に帰着し、取手台部は単に本体の球面そのままをなぞって設けられているにすぎず、また、取手台部を有する態様も本願意匠独自のものとはいえないから、その差異は、格別看者の注意を引くほどのものでない。加えて、上記取手台部は、その存在のみによって、直ちに、熱に対する不安感の解消、安定感、存在感、堅牢性、使い勝手の良さが引用意匠に比べて格段のものとなるといい得るほどのものでもない。
(3) 茶漉し部の類否について 原告は、「茶漉し部の下部に設けた袴部分が透明である」とした点に本願意匠の特徴がある旨主張する。
しかし、茶漉し部の下方が透明な意匠は、本願の出願前からみられるものであり(例えば乙第4号証〜第6号証)、本願意匠独自のものとはいえず、格別の特徴とはなり得ないので、類否判断を左右するほどのものでないから、格別取り上げるまでもないものである。
3 取消事由3(意匠保護に関する国際的な調和の観点の軽視)について 原告は、本願意匠がアメリカ合衆国において、引用意匠とは別々に登録されている旨主張する。しかし、アメリカ合衆国と日本では法律体系等が相違しており、また、引用意匠は日本に出願されてもいないので、同列に論じることはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願意匠と引用意匠の一致点・差異点の認定の誤り)について (1) 本願意匠と引用意匠とが、いずれも、意匠に係る物品を「ティーポット」とするものであることは、当事者間に争いがない。
(2) 別紙審決書の理由の写しの別紙第一(本願意匠)を検討すると、本願意匠の構成態様は、次のとおりであると認められる。
(イ) 基本的構成態様 ポット部の胴部を球体状に、底部を平坦面状に形成し、上部の開口部を底部の径と略同一とし、その上に蓋を置き、注ぎ口と反対側の胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手と取手台から成る取手部を取り付け、ポット部の内側に略円筒形状の茶漉し部を開口部から略底部まで垂下した形態としている。
(ロ) 具体的構成態様 @ ポット部は、透明であり、その直径と高さを略1対1とし、上部の開口部に小さいV状の注ぎ口を設け、注ぎ口を、左右側面からみて、注ぎ口の上縁がポット部の開口部上縁からわずかな下向き角度をもってほぼ直線に伸び、注ぎ口の先端に達する形状としている。
A 取手部は、取手及び取手台ともに不透明(黒色)で、取手を薄板状としている。
B 蓋部は、中央に小球状のつまみを有する凸面状を呈している。
C 茶漉し部は、上方約2/3をパンチングメタル状に形成し、下方約1/3を透明に形成している。
(3) 別紙審決書の理由の写しの別紙第二(引用意匠)を検討すると、引用意匠の構成態様は、次のとおりであると認められる。
(イ) 基本的構成態様 ポット部の胴部を球体状に、底部を平坦面状に形成し、上部の開口部を底部の径と略同一とし、その上に蓋を置き、注ぎ口と反対側の胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手を取り付け、ポット部の内側に略円筒形状の茶漉し部を開口部から略底部まで垂下した形態としている。
(ロ) 具体的構成態様 @ ポット部は、透明であり、その直径と高さを略1対1とし、上部の開口部に小さいV状の注ぎ口を設け、注ぎ口を、注ぎ口上縁で湾曲させ、丸いポット胴部の曲率に合わせ、注ぎ口先端が下にだれる形状としている。
A 取手は、透明で、角丸の扁平角柱状としている。
B 蓋部は、中央に小球状のつまみを有する凸面状を呈している。
C 茶漉し部は、上方約2/3を網目状に形成し、下方約1/3を不透明に形成している。
(4) (2)及び(3)によれば、本願意匠と引用意匠の共通点、差異点は、次のとおりであると認められる。
(共通点) (イ) 基本的構成態様 ポット部の胴部を球体状に、底部を平坦面状に形成し、上部の開口部を底部の径と略同一とし、その上に蓋を置き、注ぎ口と反対側の胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手を取り付け、ポット部の内側に略円筒形状の茶漉し部を開口部から略底部まで垂下した形態となっている。
(ロ) 具体的構成態様 @ ポット部は、その直径と高さを略1対1とし、上部の開口部に小さいV状の注ぎ口を設けている。
A 蓋部は、中央に小球状のつまみを有する凸面状を呈している。
B 茶漉し部は、上方約2/3と下方約1/3で区分されている。
(差異点) (イ) 基本的構成態様 取手部において、本願意匠では、取手と取手台部からなる取手部をポット部の胴部に取り付けているのに対し、引用意匠では、取手を直接にポット部の胴部に取り付けている。
(ロ) 具体的構成態様 @ ポット部は、注ぎ口が、本願意匠では、左右側面からみて、注ぎ口の上縁がポット部の開口部上縁からわずかな下向き角度をもってほぼ直線に伸び、注ぎ口の先端に達する形状としているのに対し、引用意匠では、注ぎ口上縁で湾曲させ、丸いポット胴部の曲率に合わせ、注ぎ口先端が下にだれる形状としている。
A 取手部は、本願意匠では、取手及び取手台ともに不透明(黒色)で、
取手を薄板状としているのに対し、引用意匠では、取手部が透明で、角丸の扁平角柱状としている。
B 茶漉し部は、上方約2/3が、本願意匠では、パンチングメタル状に形成しているのに対し、引用意匠では、網目状に形成しており、下方約1/3が、
本願意匠では、透明に形成しているのに対し、引用意匠では、不透明に形成している。
(5) 審決は、本願意匠と引用意匠とを比較して、基本的構成態様において「胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手部を取り付け」との点で共通するとし、差異点において、「胴部への取付方法を、本願の意匠は、取手と略同一の板体状の胴部取付具を取手の両端に一体状に形成して取り付けているのに対し、引用の意匠は、取手の両端を僅かに直線状に形成し、端部を直接胴部に取り付けている点」で差異があると認定している。
また、この点について、被告は、本願意匠の取手台部は、単に本体の球面そのままをなぞって設けられているにすぎないのであり、審決においても、取手台部について「胴部取付具」と認定し、胴部への取り付け方法の差異点として認定している旨主張している。
しかしながら、本願意匠の取手台部は、引用意匠に全く存在しない新たな構成であるから、たとい本体の球面そのままをなぞって設けられているにすぎないとしても、基本的構成態様における差異から除外したことは、誤りというべきである。
また、審決が、本願意匠と引用意匠との間の、ポット胴部の注ぎ口の形状の差異、ポット胴部と取手部の透明・不透明の差異、茶漉し部の下方約1/3の透明・不透明の差異について認定していないことは、審決書の記載自体から明らかである。
この点について、被告は、差異点は、両意匠の類否判断に必要な範囲で認定すれば足り、殊更に細部のものや類否判断を左右するに至らないものまで認定する必要のないものである旨主張する。
被告主張のとおり、殊更に細部にわたって認定する必要がないことはそのとおりであるとしても、上記の差異は、類否判断において検討の対象となり得ない程度のものではないというべきであるから、これを差異点として取り上げなかったことも、誤りというべきである。
ただし、上記誤りが、いずれも、審決の結論に影響を及ぼすようなものでないことは、後記認定判断のとおりである。
2 取消事由2(類否の判断の誤り)について (1) 全体観察について (イ) 原告は、本件物品や引用意匠に係る物品がプランジャーと押し部材のある茶漉しを備えたティーポットであることを根拠に、本件物品や引用意匠に係る物品の需要者は特別な紅茶愛好者、紅茶通であるとし、このような需要者を観察の主体とすべきであるとの趣旨の主張をする。
しかしながら、本願意匠や引用意匠が、プランジャーと押し部材のある茶漉しを備えたティーポットに係るものであるとしても、このようなティーポットを特別な紅茶愛好者、紅茶通のみが購入するという証拠も、上記ティーポットが、
プランジャーと押し部材のある茶漉しを備えていないティーポットと異なる流通経路で取引されているという証拠も、本件全証拠を精査しても見出すことができない。
そうだとすれば、本願意匠や引用意匠の類否判断の主体となるべき取引者・需要者の、特に需要者は、ごく普通の一般消費者であるとするのが相当であり、原告主張の特別の紅茶愛好者、紅茶通をもって本願意匠や引用意匠の類否判断の主体とすべきものではない。
(ロ) 本願意匠と引用意匠の基本的構成態様は、取手台の有無にかかわらず、両者に共通する、ポット部の胴部を球体状に形成し、底部を平坦面状に、上部の開口部を底部の径と略同一とし、その上に蓋を置き、注ぎ口の反対側の胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手を取り付け、ポット胴部の内側に略円筒形状の茶漉し部を開口部から略底部まで垂下した形態となっていることによって、全体としてまとまった意匠を形成し、看者に視覚を通じて一つの美感を与えていると認められる。
本願意匠や引用意匠に係る物品は、ティーポットであって、これらの物品は、取引される際にも使用の際にも、取引者・需要者が全体的に観察するのが通常であるから、上記のとおり、両意匠が、看者の注意を最も強く引く部分である基本的構成態様のほとんど、より具体的には、取付台部を除いたすべてを共通にして、全体としてまとまった意匠を形成し、看者に視覚を通じて一つの美感を与えていること、しかも、具体的構成態様においても、ポット胴部の径と高さの比率、開口部に設けられたV状の注ぎ口、中央に小球状のつまみを有する凸面状の蓋部、上方約2/3と下方約1/3で区分される茶漉し部において共通していることからすれば、上記基本的構成態様の範囲内で具体的形状に差異があるとしても、その差異によって看者に特別な美感を与える要素が付加されない限り、類似の範囲内にとどまるものというべきである。
(2) 取手部の類否について (イ) 取手部において、本願意匠では、取手と取手台部からなる取手部をポット胴部に取り付けているのに対し、引用意匠では、取手を直接にポット胴部に取り付けている点で差異があることは、前述のとおりである。
本願意匠に取手台部が存することは、引用意匠にない形態的特徴であるから、一応、基本的構成態様に該当するものというべきであるけれども、本願意匠において、上記取手台は、ポット本体の球面をなぞり、その球面からわずかに膨出しているにすぎないものである。そうすると、前記認定のとおり、基本的構成態様において、そのほとんどが共通し、意匠の圧倒的な部分を占めるポット部の胴部や取手に比べ、わずかな差異にすぎないものというべきである。
しかも、乙第1号証(昭和59年3月28日発行の意匠公報に掲載の登録第621385号)、乙第2号証(平成2年9月7日特許庁受け入れのカタログ「ラブリー」第71頁のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HC02032489号))、乙第3号証(平成2年9月7日特許庁受け入れのカタログ「NEWYORKSESSION」第19頁掲載のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HC02031248号))によれば、本願意匠の登録出願前に、ポット部の胴部に取手と取手台部を取り付けた意匠が知られていたことが認められ、これによれば、
取付台は、ありふれた形状というべきであるから、創作性を有する特徴とはいえず、格別の注意を引きつけ、看者に特別な美感を与えるものとはいい難いことは、
この面からも裏付けられるというべきである。
以上によれば、本願意匠において取手台が存在することによって、本願意匠や引用意匠の基本的構成態様(取手台を除く)によって形成される、全体としてまとまった意匠から生ずる美感が格別の影響を与えられることはないということができる。
(ロ) 原告は、取手が、本願意匠では薄板状としているのに対し、引用意匠では角丸の扁平角柱状としている差異点に関し、本願意匠の取手部は、幅寸法と厚さ寸法との兼ね合いで、握りやすい取手であることが把握できる取手の構成となっている旨主張する。
しかし、取手の幅寸法と厚さ寸法の兼ね合いは、「胴部中央に略弧状に形成した板体状の取手を取り付け」るという基本的構成態様に対するバリエーション(変種、変形)の範囲内の事柄にすぎないものというべきであって、格別の注意を引きつけ、看者に特別な美感を与えるものとはいえない。
(ハ) また、原告は、取手部が、本願意匠では不透明(黒色)であるのに対し、引用意匠では透明としている差異点に関し、ポット部が透明なガラス素材からなるのに対し、不透明な(黒色)なプラスチック素材からなり、不透明な蓋部分との調和をも保ってポット全体における取手部の存在感が強調され、ポット部の形態に埋没することなく、ティーポットの実際の使用に当たり重要な持ちやすさ、注ぎやすさを視覚に訴えることができる意匠形状になっている旨主張する。
しかしながら、取手部が透明か不透明かの差異については、材質をポット本体と同じにするか、別のプラスチック材料にするかということとほとんど直結する事項というべきのものであり、乙第3号証を検討するまでもなく、ティーポットにおいてポット本体と取手部との色彩を違えたり、取手部を不透明にしたりすることが、ありふれた事項であることは、当裁判所に顕著である。ポット本体と取手部との色彩を違えることがありふれた事柄である以上、この点についての差異は、
特に看者の注意を強く引く部分とはいえず、看者に特別な美感を与えるものとはいえない。
(ニ) さらに、原告は、取手台部の有無に関し、本願意匠の取手部においては、取手台部を有し、この取手台部が帯状になってポット部の胴部中央から上下方向にわたり接合取付けされているので、ポット部を安定して持つことができ、紅茶をティーカップに注ぎ入れる動作に無理がなく、しかも熱い紅茶が入ったポット部に取手を握った指部分が取手台部に触れることがあっても、熱くなっているポット部の胴部に対しては取手台部の存在で触れるおそれがなく、注ぎ入れ動作時において熱いと感じる不安感をなくすことができる点を、視覚的に感じることができる点で、引用意匠と相違していると主張する。
しかし、前記のとおり、取手台部を有するティーポットの形状は、ごくありふれたものであり、本願意匠の取手部が原告主張のような印象を与えるものとしても、ありふれた形状による当然の印象であって、看者に特別な美感を与えるものとはいうことはできない。
(3) 茶漉し部の差異について (イ) 茶漉し部において、上方約2/3が、本願意匠では、パンチングメタル状に形成されているのに対し、引用意匠では、網目状に形成され、下方約1/3(いわゆる袴部分)が、本願意匠では、透明に形成されているのに対し、引用意匠では、不透明とされている点で差異があることは、前述のとおりである。
茶漉し部の上方約2/3の形態の差異は、パンチングメタル状に形成するか、網目状に形成するかであって、通常の設計変更の範囲内のありふれた変形であり、看者に特別な美感を与えるものとはいい難い。
乙第4号証(平成2年10月22日特許庁受入のカタログ「BELLEMAISON生活館1990秋号」87頁のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HC02049112号))、乙第5号証(平成5年9月22日特許庁受入のカタログ「TABLEWAREINTERNATIONAL」8号23巻39頁のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HB05036258号))、乙第6号証(平成5年3月31日特許庁受入のカタログ「1993年岩城硝子全商品カタログ」第50頁のティーポットの意匠(公知意匠資料番号HC05014092号))によれば、茶漉し部を透明とすることは、従来から行われてきたことであることが認められる。
そうすると、本願意匠において、下方約1/3を透明に形成しているからといって、格別の創作性を見出すことはできず、形態全体としてみた場合に、格別に看者の注意を引き付け、看者に特別な美感を与えるものとはいい難い。
この点について、原告は、本願意匠は、茶漉し部全体の内部が透視できることにより、茶漉し部に入れられた紅茶の茶葉の量、沈降の具合、茶葉の色合いの程度など、紅茶の味合いに関係する要素を茶漉し部全体の内部を透視することによって視認でき、さらに透明なポット部との調和を持つことを視覚に訴えるようになっているとし、引用意匠と類似しない旨主張する。
しかしながら、前述のとおり、本件物品の需要者は、一般消費者であり、特別な紅茶愛好者、紅茶通のみではないこと、茶漉し部下部内部が透視できるかどうかという差異は、意匠を全体的に観察するとき、局部的でわずかなものにすぎないことを考慮すると、茶漉し部下部内部が透視できることが、看者の注意を引き付け、特別な美感を与えるとはいえない。
(4) 以上、認定判断したところによれば、本願意匠と引用意匠との差異点は、
看者に特別な美感を与える要素を付加するものではないから、両意匠は、類似の範囲内にとどまるものということができる。
3 取消事由3(意匠保護に関する国際的な調和の観点の軽視)について 本願意匠に相当する意匠が、アメリカ合衆国において、引用意匠に相当する意匠との差異が認められて、既に意匠登録を受けているからといって、法体系等の異なる我が国において、これと同じ扱いがなされなければならないことになるわけのものではない。原告は、知的財産権の保護についての国際的な調和(ハーモナイゼーション)の観点をいうけれども、この観点が、それのみで上記扱いをすべき根拠となり得るものではないことは、論ずるまでもないところである。
また、原告は、本願意匠を引用意匠と同一視し、その意匠保護を否定することは、デッドコピーの出現を容認するものであるという。しかし、本件では、本願意匠が引用意匠と類似しているかどうかが問題となっているのであり、本願意匠が意匠登録されなかったからといって、そのデッドコピーの出現を容認することになるものでないことは、引用意匠を我が国で権利化しておけば(原告の主張によれば、既に権利化が実現されている。)、これに基づく差止請求の途が開かれること、不正競争防止法上の差止請求の途もあり得ることからも明らかである。原告の主張は失当というほかない。
4 以上によれば、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他、
審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵が見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担、上告及び上告受理の申立てのための付加期間について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸